交通事故の被害に遭い、懸命に治療を続けてきたにもかかわらず、体に痛みが残ってしまうのは非常に辛いことです。
「これだけ苦しいのだから、後遺障害として認められるはず」と信じて申請した結果が「非該当(不認定)」だったとき、目の前が真っ暗になるような絶望感を覚える方は少なくありません。
保険会社から届いた書類を見て、「自分の痛みが否定された」「もう適正な賠償金をもらうことはできないのか」と一人で思い悩んでいませんか。
しかし、一度不認定になったからといって、すべてを諦める必要はありません。適切な手続きを講じることで、結果を覆せる可能性があります。
本記事では、交通事故で後遺障害が認定されない具体的な理由や、結果を覆して逆転認定を勝ち取るための異議申し立ての手続き方法などを詳しく解説します。
この記事の監修者
藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介
全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。
そもそも後遺障害が認定される割合はどのくらい?
交通事故で治療を尽くしても症状が改善しなくなった状態(症状固定)において、これ以上の回復が見込めない身体的・精神的な障害を「後遺障害」と呼びます。
この後遺障害が公的に認められる割合は、多くの被害者が想像しているよりもはるかに低いのが現実です。
後遺障害等級の認定率は4%未満
「損害保険料率算出機構(2024年度|2023年度統計)」の統計データによると、交通事故の損害賠償手続きにおいて、実際に何らかの後遺障害等級(1級〜14級)が認定される割合は、申請全体のわずか4%未満です。
つまり、申請した人のうち96%以上は「非該当」という厳しい判断を下されていることになります。
この数字は、後遺障害の審査が非常に厳格な基準に基づいて行われていることを示しています。
そのため、単に「痛みが残っている」と主張するだけでは等級を獲得することは困難です。
「むち打ち(12級・14級)」の後遺障害認定は難しい
交通事故で最も発生頻度が高い「むち打ち症(頸椎捻挫・腰椎捻挫など)」において、後遺障害等級(一般的には14級9号、重症な場合は12級13号)を認められることは特に難しいとされています。
なぜなら、むち打ち症は骨折などとは異なり、レントゲン写真で明らかな異常が確認できないケースが多いためです。
目に見えない神経の痛みを他人に証明することは難しく、審査を行う自賠責保険側も「他覚的所見(他人が客観的に確認できる医学的異常)」がない場合は慎重に判断を下します。
十分な証拠を積み重ねなければ、高い確率で非該当になってしまいます。
後遺障害が認定されない主な原因
後遺障害の申請が不認定(非該当)に終わるケースには、必ず審査上の理由が存在します。
審査を行う自賠責保険は書面審査が原則であるため、提出された書類から「等級基準を満たしていない」と判断されたことが原因です。主な不認定の原因を把握しましょう。
通院実績(期間・日数)が不足している
治療のために医療機関へ通った期間や日数が不足していると、後遺障害は認定されません。
なぜなら、通院回数が少ないと、審査機関に「その程度の軽い症状であれば、後遺症としては残らない」と判断されてしまうためです。
目安として、むち打ち症の場合は最低でも「治療期間6ヶ月以上」「実際の通院日数100日以上」が、後遺症としての重大性を認められるひとつの指標となります。
仕事が忙しいなどの理由で通院を怠ってしまうと、不認定のリスクが飛躍的に高まります。
交通事故と後遺症状の因果関係が証明されていない
残っている症状が、本当に今回の「交通事故によって生じたもの」であると証明できなければ非該当になります。交通事故と症状の間に連続性や因果関係がないと判断される典型例は、事故直後に病院へ行かず、数週間経ってから初めて痛みを訴えた場合です。
また、事故の規模が極めて小さく、車両の損傷が軽微な場合も、「この程度の衝撃で後遺症が残るはずがない」と判断されることがあります。
事故直後からの早期かつ継続的な受診履歴が、因果関係を証明するためには必要です。
一貫性のない症状や「常時性」の欠如
被害者が訴える症状が、事故直後から症状固定にいたるまで「一貫して継続していること」が必要です。
たとえば、ある時は「首が痛い」と言い、別の時期には「腰だけが痛い」と変化している場合、症状の一貫性が疑われます。
さらに、雨の日だけ痛むといった断続的なものではなく、天候にかかわらず「常に(常時)症状が存在すること」を意味する「常時性」が求められます。
カルテや診断書にこれらの記録が正しく残っていない場合、審査で不利な扱いを受ける可能性が高まるのです。
客観的な医学的所見(画像や検査データ)がない
自賠責保険の審査は書面で行われるため、医師による客観的な検査データがないと判断を覆すことはできません。
具体的には、レントゲン(X線)やMRI、CTなどの「画像所見」や、神経の反射や筋肉の萎縮を調べる「神経学的検査」のデータです。
むち打ち症で14級を目指す場合でも、神経の圧迫を示唆するMRI画像や、腱反射テストなどの結果が有力な証拠となります。
本人の「痛い」という主観的な訴えだけでは、医学的証明としては認められません。
後遺障害診断書の記載内容が不十分である
どれほど重い症状が残っていても、主治医が作成する「後遺障害診断書」の記載内容が不十分であれば認定は通りません。
医師は治療の専門家ですが、自賠責保険の「等級認定基準」を熟知しているとは限らないためです。
自覚症状が具体的に漏れなく書かれていなかったり、「今後改善の余地がある」といった復調を示唆するニュアンスが書かれていたりすると、それだけで非該当になります。
審査の要点を捉えた、的確な診断書の作成が求められます。
後遺障害が認定されない状態から逆転するための3つの対策

一度「非該当」の通知を受け取っても、そこで適正な賠償を諦める必要はありません。
不認定の理由を分析し、適切なアプローチを行うことで、結果を覆すための法的・医学的ルートが用意されています。逆転のための具体的な3つの対策を解説します。
自賠責保険に対して「異議申し立て」を行う
不認定の結果に納得がいかない場合、審査機関である自賠責保険に対して「異議申し立て」を行うことができます。
これは、初回の審査で下された判断に対し、「この判断は誤りである」として再審査を求める手続きです。
異議申し立てには回数制限はなく、時効(原則として事故から3年、または症状固定から3年)の範囲内であれば何度でも申請が可能です。
ただし、初回と同じ書類を出すだけでは結果は変わりません。不認定となった理由を覆すための新たな証拠を揃えて臨む必要があります。
追加の検査(MRIなど)や診断書の修正を依頼する
初回の申請で不足していた「医学的証拠」を補強するため、追加の検査や診断書の修正を医師に依頼します。
例えば、初回はレントゲンしか撮影していなかった場合、より詳細に神経や軟部組織の状態を確認できる「高精度MRI検査」を追加で受けることが有効です。
また、後遺障害診断書に記載されていなかった重要な症状や、テスト結果を追記してもらうよう医師と交渉します。
客観的なデータを新しく追加することが、審査官の判断を変える大きな要因となります。
「事前認定」から「被害者請求」に切り替える
異議申し立てを行う際は、手続きの方法を「被害者請求」へ切り替えることを強く推奨します。
初回の申請を相手方の任意保険会社に任せる「事前認定」で行っていた場合、どのような書類がどのように提出されたのか、被害者側で把握できません。
被害者請求であれば、被害者自身(または委任された弁護士)が直接自賠責保険へ書類を提出するため、自社に有利な医師の意見書や検査データを過不足なく確実に追加できます。
透明性と納得度の高い手続きを行うために、被害者請求への切り替えは必須と言えます。
後遺障害の異議申し立てを成功させるための3ステップ

異議申し立てによって「非該当」から「等級認定」への逆転を成功させるためには、行き当たりばったりの手続きではなく、綿密な戦略に基づいた手順を踏むことが必要です。
成功率を極限まで高めるための3つのステップを実践しましょう。
STEP1:非該当になった「理由書」を徹底的に読み解く
まずは、不認定の通知と共に送られてくる「理由書(後遺障害等級認定理由書)」を徹底的に読み解きます。
理由書には、「なぜ今回、等級が認められなかったのか」という自賠責保険側の見解が数行から数十行にわたって記載されています。
例えば、「他覚的所見に乏しい」「通院回数が少ない」といった文言から、何が原因で弾かれたのかを正確に突き止めます。
敵の判断根拠を知ることで、初めて「次にどの証拠を補強すべきか」という的確な戦略を立てることが可能です。
STEP2:医師に協力を仰ぎ「新たな医学的証拠」を用意する
原因を特定したら、主治医のもとを訪れて協力を仰ぎ、不足を埋める「新たな医学的証拠」を用意します。
自賠責保険が「画像所見がない」と言っているのであれば追加のMRI撮影を依頼し、「症状の推移が不明瞭」と言っているのであれば、これまでの治療経過を補足する「意見書(回答書)」を医師に執筆してもらいます。
医師は医療のプロですが、法律のプロではないため、被害者側から「どのような趣旨の書類が必要か」を論理的に説明し、味方になってもらう熱意が必要です。
STEP3:交通事故に強い弁護士に相談・依頼する
異議申し立てで成約(逆転)の可能性を高めるのは、交通事故の専門弁護士に相談・依頼することです。
医療機関との交渉や、理由書の専門的な分析、さらには「弁護士が作成する法的意見書」の添付は、個人で行うには限界があります。
弁護士が介入することで、過去の判例や審査基準に合致した完璧な立証書類を揃えて「被害者請求」による異議申し立てを代行できます。
精神的な負担をなくし、適正な慰謝料(弁護士基準での増額)を勝ち取るための確実なステップです。
まとめ
交通事故による怪我で後遺症に苦しみながらも、後遺障害等級が「非該当」と判定されてしまうケースは決して珍しくありません。
しかし、通院実績の不足や客観的所見の欠如といった「認定されない原因」を的確に補修し、正しい「異議申し立て」の手続きを踏めば、逆転認定の可能性は十分にあります。
自賠責保険を相手に判断を覆すためには、専門的な医学知識と法的根拠に基づく緻密な書類審査への対策が求められます。
事前認定から被害者請求への切り替えや、新たな証拠の収集を個人で進めるには多大な負担がかかるため、初期段階から専門家に頼ることが賢明です。
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