【後遺障害10級】具体的な症状から慰謝料,逸失利益の金額まで

交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。

自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害10級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

後遺障害10級の認定基準

10級の認定基準一覧

1号一眼の視力が0.1以下になつたもの
2号正面を見た場合に複視の症状を残すもの
3号咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
4号十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
5号両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの
6号一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの
7号一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの
8号一下肢を三センチメートル以上短縮したもの
9号一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの
10号一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
11号一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの

【1号】「一眼の視力が0.1以下になつたもの」

後遺障害等級の対象とする視力は,矯正視力を指します。そのため,眼鏡やコンタクトレンズなどを着用した状態の視力を基準に判断されます。

【2号】「正面を見た場合に複視の症状を残すもの」

「複視」は,1つの物体が2つに見えることをいいます。主に眼の周りにある筋肉の一部が麻痺して片方の眼球の動きが悪くなることで,物が上下左右にずれて二重に見える状態を指します。

「複視の症状を残すもの」とは,以下の全てを満たす場合を指します。

1.本人が複視のあることを自覚していること
2.眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
3.ヘススクリーンテストにより患側の像が健側に比して5度以上離れた位置にあること

【3号】「咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの」

そしゃく機能と言語機能のいずれか一方に障害を残す場合が該当します。

①そしゃく機能の障害については,以下の点を基準に総合的に判断します。

上下咬合咬合(こうごう かみ合わせの意)のズレなど
排列状態歯並びのズレや不足など
下顎の開閉運動歯をかみしめることができる程度など

これらの判断に当たっては,以下のような点を考慮します。

そしゃく機能の判断要素
・画像所見(他覚的所見)があること
・他覚的所見と対応するそしゃく状況があること

そしゃく状況に関しては,「そしゃく状況報告書」を踏まえた判断が一般的です。そしゃく状況報告書とは,被害者やその家族が,食べられる食材の内容や程度を記載するものです。

そしゃく状況報告表

「そしゃく機能に障害を残すもの」
=以下のいずれかの場合
①固形食物の中にそしゃくができないものがあること(※)
②そしゃくが十分にできないものがあり,そのことが医学的に確認できる場合(※※)

(※)ごはん,煮魚,ハム等はそしゃくできるが,たくあん,らっきょう,ピーナッツ等の一定の固さの食物中にそしゃくできないものがあるなど
(※※)不正咬合,顎関節の障害,開口障害など,そしゃくできないものがあることの原因が医学的に確認できる場合

②言語機能の障害は,語音(特に子音)の発音にどの程度の制限が生じたかを基準に判断されます。

子音は,以下の4種類に分けることができます。

子音の4種類
①口唇音(ま行音,ぱ行音,ば行音,わ行音,ふ)
②歯舌音(な行音,た行音,だ行音,ら行音,さ行音,しゅ,し,ざ行音,じゅ)
③口蓋音(か行音,が行音,や行音,ひ,にゅ,ぎゅ,ん)
④喉頭音(は行音)

これら4種類の子音それぞれについて,発音不能なものがあるか,何種類あるか,といった点を踏まえ,言語機能の障害の程度を判断します。

「言語の機能に障害を残すもの」
=4種の語音のうち,1種の発音不能のもの

【4号】「十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」

歯牙障害と呼ばれるものです。歯牙障害は,歯科補綴を加えた歯の数によって等級が認定されます。

歯牙障害の認定基準

等級基準
10級4号14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
11級4号10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
12級3号7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
13級4号5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
14級2号3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

「歯科補綴を加えたもの」とは
=現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補綴

「著しく欠損した」とは
歯冠部(歯肉より露出している部分)の体積の4分の3以上を欠損したもの

「補綴」とは
歯が喪失したり欠損したりしたところを,クラウン(歯全体を覆う被せ物)や入れ歯などの人工物で補うこと

【留意事項】
①認定対象になる歯の条件
→認定対象となる歯は,永久歯を指します。乳歯や含まれず,いわゆる親知らずも含まれません。ただし,乳歯が欠損したことで永久歯の萌出が見込めない場合は含まれます。

②喪失した歯の数より補綴した義歯の数が多い場合
→喪失した歯牙が大きい場合や歯間が広かった場合など,喪失した歯の数よりも多くの補綴を要した場合,等級の認定は喪失した歯の数によって判断されます。

(例)4本を喪失したが,5本の補綴をした場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

③ブリッジなどで失った歯以外を切除した場合
→交通事故で失った歯の補綴に際して,ブリッジを設ける目的などで他の歯を切除した場合,歯冠部の4分の3以上切除していれば,歯科補綴を加えた本数に含みます。

(例)交通事故で2本喪失したところ,両側2本の歯にブリッジを施した場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

なお,歯牙障害については,歯科用の後遺障害診断書を用いて主治医の記載を依頼します。

後遺障害診断書(歯科用)

【5号】「両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの」

聴力障害は,「純音聴力レベル」の平均値及び「明瞭度」の最高値を基準に判断されます。

「純音聴力レベル」とは
音波の基本的なもの(=純音)に対する聴こえ方の程度。音が聴こえるかどうか

「明瞭度」とは
言語の音声(語音)に対する聴こえ方の程度。言葉を聞き取れるかどうか

そして,1メートル以上の距離で普通の話し声を聞き取れないと評価される場合に10級5号の認定対象となります。具体的な基準は以下の通りです。

①両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のもの
②両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のもの

一耳の聴力ともう一耳の聴力の関係
両耳聴力と最高明瞭度の関係

【6号】「一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの」

片耳が接するほど近くでなければ大声でも聞き取れない程度に至った場合を指します。

具体的には,片耳の平均純音聴力レベルが80dB以上90dB未満の場合に10級6号の認定対象になります。

【7号】「一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの」

手指の用廃に関する等級です。

「手指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.中手指節関節又は近位指節間関節(親指については指節間関節)の可動域が1/2以下に制限されるもの
3.親指について、橈側外転又は掌側外転のいずれかの可動域が1/2以下に制限されるもの
4.手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚完全に脱失したもの

(「障害認定必携」より引用)

「親指」又は「親指以外の2本の指」について用廃となった場合に,等級認定の対象となります。

【8号】「一下肢を三センチメートル以上短縮したもの」

下肢の短縮は,上前腸骨棘と下腿内果下端の間の長さを健側の下肢と比較して等級認定を行います。

下肢の短縮

【9号】「一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの」

「足指を失ったもの」とは,足指を中足指節関節から失ったことを指します。つまり,足指をすべて失った場合を指すことになります。

(「障害認定必携」より引用)

足の「親指」又は「親指以外の4本の指」について,付け根から先のすべてを失った場合,等級認定の対象となります。

【10号】「一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
2.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2分の1以下に制限されていないもの

関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較します。
上肢の三大関節の主要運動は,以下の通りです。

関節主要運動参考可動域角度
肩関節①屈曲(前方拳上)180度
肩関節②外転(側方拳上)180度
肘関節屈曲・伸展(※)145度・5度(合計150度)
手関節屈曲(掌屈)・伸展(背屈)(※)90度・70度(合計160度)
※肘関節と手関節は,「屈曲+伸展」の合計値を比較

なお,左右いずれも可動域制限が生じている場合,参考可動域との比較を行います。

肩関節の運動

肘関節の運動

関節の運動には,主要運動のほかに参考運動があります。
可動域制限を判断する場合に参考運動を用いるのは,主要運動の可動域が基準をわずかに(=機能障害は5度,著しい機能障害は10度)上回る場合とされます。

関節参考運動参考可動域角度
肩関節①伸展(後方拳上)50度
肩関節②外旋・内旋60度・80度(合計140度)
手関節①橈屈25度
手関節②尺屈55度
橈屈と尺屈

【11号】「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
2.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されていないもの

関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較します。
下肢の三大関節の主要運動は,以下の通りです。

関節主要運動参考可動域角度
股関節①屈曲・伸展125度・15度(合計140度)
股関節②外転・内転145度・20度(合計65度)
ひざ関節屈曲・伸展130度・0度(合計130度)
足関節屈曲(底屈)・伸展(背屈)45度・20度(合計65度)
「屈曲+伸展」「外転+内転」の合計値を比較

なお,左右いずれも可動域制限が生じている場合,参考可動域との比較を行います。

股関節の主要運動

足関節の主要運動

関節の運動には,主要運動のほかに参考運動があります。
可動域制限を判断する場合に参考運動を用いるのは,主要運動の可動域が基準をわずかに(=機能障害は5度,著しい機能障害は10度)上回る場合とされます。

関節参考運動参考可動域角度
股関節外旋・内旋45度・45度(合計90度)

後遺障害10級の慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害10級の場合,自賠責保険からは190万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は550万円となります。

後遺障害10級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害10級の場合は,労働能力喪失率が27%となります。

計算例
年収500万円,40歳,10級認定

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×0.27×18.3270(27年ライプニッツ)
=24,741,450円

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

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【後遺障害11級】認定対象となる症状の一覧から補償される金額まで

交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。

自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害11級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

後遺障害11級の認定基準

11級の認定基準一覧

1号両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
2号両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3号一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
4号十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
5号両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの
6号一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
7号脊柱に変形を残すもの
8号一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失つたもの
9号一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの
10号胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの

【1号】「両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの」

「著しい調節機能障害」とは以下の場合を指します。

著しい調節機能障害
眼の調節力が損傷を受けなかった方の他眼に比して2分の1以下に減じたもの

(注意事項)
①両眼とも損傷を受けた場合,損傷していない眼の調節機能に異常がある場合は,年齢別の調整力と比較する
②以下のいずれかに当たる場合は障害認定されない
・損傷していない眼の調整力が1.5D以下であるとき
・55歳以上であるとき

5歳ごとの年齢別の調整力

年齢(歳)調整力(ジオプトリー(D))
159.7
209.0
257.6
306.3
355.3
404.4
453.1
502.2
551.5
601.35

「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。

「眼球に著しい運動障害を残すもの」
=眼球の注視野が2分の1以下に減じたもの

注視野とは
頭部を固定した状態で眼球を動かして直視できる範囲
平均値は単眼視で各方面50度,両眼視で各方面45度とされています。

【2号】「両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」

【具体的基準】

「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。
①まぶたを開けた時にまぶたが完全に瞳孔(黒目)を覆ってしまうもの
②まぶたを閉じたときに角膜(眼球の色がある部分を覆う膜)を完全に覆えないもの

交通事故の影響でまぶたに麻痺が残るなどした結果,目を開いたときに瞳孔が覆われてしまったり,目を閉じたときに角膜が完全に覆われない状態となった場合,11級2号の認定対象になります。

【3号】「一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの」

「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは
まぶたを閉じた場合に角膜(眼球の色がある部分を覆う膜)を完全に覆えない程度のもの

まぶたが欠損した結果,目を閉じたときに角膜が完全に覆われない状態となった場合,11級3号の認定対象になります。

【4号】「十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」

歯牙障害と呼ばれるものです。歯牙障害は,歯科補綴を加えた歯の数によって等級が認定されます。

歯牙障害の認定基準

等級基準
10級4号14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
11級4号10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
12級3号7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
13級4号5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
14級2号3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

「歯科補綴を加えたもの」とは
=現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補綴

「著しく欠損した」とは
歯冠部(歯肉より露出している部分)の体積の4分の3以上を欠損したもの

「補綴」とは
歯が喪失したり欠損したりしたところを,クラウン(歯全体を覆う被せ物)や入れ歯などの人工物で補うこと

【留意事項】
①認定対象になる歯の条件
→認定対象となる歯は,永久歯を指します。乳歯や含まれず,いわゆる親知らずも含まれません。ただし,乳歯が欠損したことで永久歯の萌出が見込めない場合は含まれます。

②喪失した歯の数より補綴した義歯の数が多い場合
→喪失した歯牙が大きい場合や歯間が広かった場合など,喪失した歯の数よりも多くの補綴を要した場合,等級の認定は喪失した歯の数によって判断されます。

(例)4本を喪失したが,5本の補綴をした場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

③ブリッジなどで失った歯以外を切除した場合
→交通事故で失った歯の補綴に際して,ブリッジを設ける目的などで他の歯を切除した場合,歯冠部の4分の3以上切除していれば,歯科補綴を加えた本数に含みます。

(例)交通事故で2本喪失したところ,両側2本の歯にブリッジを施した場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

なお,歯牙障害については,歯科用の後遺障害診断書を用いて主治医の記載を依頼します。

後遺障害診断書(歯科用)

【5号】「両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの」

交通事故による聴力の低下のため,両耳について1メートル以上離れた距離では小声での話し声を聞き取ることが困難になった状態を指します。
具体的には,検査の結果,両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上の状態をいいます。

「純音聴力レベル」とは,どこまで小さな音を聴き取れるか,という聴こえ方の程度を言い,このレベルが大きいほど,大きい音しか聞こえないことを意味します。
両耳の平均純音聴力レベルと後遺障害等級の関係をまとめると,以下のようになります。

一耳の聴力ともう一耳の聴力の関係

【6号】「一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの」

片耳の聴力が低下した結果,40センチメートル以上の距離では普通の話声を聞き取れないとみなされる状態に至った場合を指します。具体的な基準は以下の通りです。

具体的な認定基準

1.片耳の平均純音聴力レベルが70dB以上80dB未満の場合
2.片耳の平均純音聴力レベルが50dB以上かつ最高明瞭度が50%以下の場合

【7号】「脊柱に変形を残すもの」

圧迫骨折や破裂骨折に伴って脊柱部の変形が生じる後遺障害です。客観的に脊柱の変形が確認できる場合,11級7号の認定がなされます。
具体的基準は以下の通りです。

脊柱に変形を残すものとは

1.圧迫骨折が生じ、そのことがエックス線写真等で確認できる場合
2.脊椎固定術が行われた場合
3.3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けた場合

【8号】「一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失つたもの」

手指の欠損障害と呼ばれるものです。「手指を失った」と評価される場合,欠損障害が認定されます。

「手指を失ったもの」とは,以下の場合を指します。

1.手指を中手骨又は基節骨で切断したもの
2.親指については指節間関節、それ以外の指については近位指節間関節において、基節骨と中節骨が離断したもの

(「障害認定必携」より引用)

【9号】「一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの」

足指の機能障害と呼ばれるものです。「足指の用を廃したもの」と評価される場合に,機能障害が認定されます。

「足指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.親指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.親指以外の足指について、中節骨又は基節骨で切断したもの
3.親指以外の足指について、遠位指節間関節又は近位指節間関節で離断したもの
4.親指の中足指節間関節又は指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの
5.親指以外の足指の中足指節間関節又は近位指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの

(「障害認定必携」より引用)

【10号】「胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」

「胸腹部臓器の機能障害」と呼ばれるものです。胸腹部の臓器に障害が残った結果,労務自体はできるものの明らかな支障が残った場合に,11級10号の認定対象となります。

具体的な認定基準は,臓器ごとに定められています。

1.呼吸器

a.動脈酸素分圧70Torrを超え,動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37Torr~43Torr)にない場合
b.スパイロメトリーの結果が%1秒量55以下又は%肺活量60以下で,軽度の呼吸困難がある場合
c.スパイロメトリーの結果が%1秒量55~70又は%肺活量60~80で,高度、中等度または軽度の呼吸困難が認められる場合

呼吸困難の程度に関する判断基準

高度呼吸困難のため、連続しておおむね100m以上歩けないもの
中等度呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同じように歩けないが、自分のペースでなら1km程度の歩行ができるもの
軽度呼吸困難のため、健常者と同じようには階段の昇降ができないもの

2.循環器

a.心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度であるもの

「運動耐容能の低下が軽度であるもの」とは(11級)
=おおむね8METs(メッツ)を超える強度の身体活動が制限されるもの
(例)
平地で急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動に支障がないものの、それ以上に激しいか、急激な身体活動が制限されるもの

b.人工弁に置換する手術を行ったが,継続的な抗凝血薬療法の必要はない場合

c.偽腔開存型の解離を残すもの

大動脈に亀裂が入った結果,血管壁の内膜が裂けてしまった状態を大動脈解離と言います。
大動脈解離が起きると,血管が裂けたことで新しい血管の通り道(偽腔)が生まれますが,偽腔の血流が止まっていない状態を「偽腔開存型」と言います。

3.胃の障害

・消化吸収障害、ダンピング症候群、胃切除術後逆流性食道炎のいずれかが認められるもの

「消化吸収障害」とは

以下のいずれかに該当するもの
1.胃の全部を亡失したこと
2.噴門部または幽門部を含む胃の一部を亡失し、低体重等(※)が認められること
(※)①BMI20以下又は②事故前からBMI20以下の場合は体重が10%以上減少

「ダンピング症候群」とは

以下のいずれにも該当するもの
1.胃の全部または幽門部を含む胃の一部を亡失した
2.早期ダンピング症候群に起因する症状(※)または晩期ダンピング症候群に起因する症状(※※)が認められること
(※)食後30分以内に出現するめまい,起立不能等
(※※)食後2時間後から3時間後に出現する全身脱力感,めまい等

「胃切除術後逆流性食道炎」とは

以下のいずれにも該当するもの
1.胃の全部又は噴門部を含む胃の一部を亡失したこと
2.胃切除術後逆流性食道炎に起因する自覚症状(胸焼け,胸痛,嚥下困難等)があること
3.内視鏡検査により食道にの胃切除術後逆流性食道炎に起因する所見(びらん,潰瘍等)が認められること

4.小腸の障害

a.残存する空腸および回腸の長さが100センチメートルを超え300センチメートル未満であり,消化吸収障害(低体重等)が認められるもの

b.「小腸皮膚瘻を残すもの」のうち,瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸内容が漏出する程度のもの

c.小腸に狭さくを残すもの

「小腸に狭さくを残すもの」とは

次のいずれにも該当するもの
1.1か月に1回程度,腹痛,腹部膨満感,嘔気,嘔吐などの症状が認められること
2.単純エックス線像においてケルクリングひだ像が認められること

5.大腸の障害

a.大腸を大量に切除したもの
結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除したものを指します。

b.大腸に狭さくを残すもの

「大腸に狭さくを残すもの」とは

=次のいずれにも該当するもの
1.1か月に1回程度,腹痛,腹部膨満感などの症状が認められること
2.単純エックス線像において貯留した大量のガスにより結腸膨起像が相当区間認められること

c.「便秘を残すもの」のうち,用手摘便を要しないもの

便秘とは

=次のいずれにも該当するもの
1.排便反射を支配する神経の損傷がMRIやCTなどにより確認できること
2.排便回数が週2回以下の頻度であって,恒常的に硬便であると認められること

d.「便失禁を残すもの」のうち,常時おむつの装着が必要ではないもの

6.肝臓の障害

慢性肝炎
(ウイルスの持続感染が認められ,かつ,AST・ALTが持続的に低値であるものに限る)

7.すい臓の障害

外分泌機能の障害と内分泌機能の障害のいずれかが認められるもの

外分泌機能:膵液(消化液)を腸に送り出す機能
「外分泌機能の障害」とは

次のいずれにも該当するもの
1.上腹部痛,脂肪便,頻回の下痢などの外分泌機能の低下による症状が認められること
2.BT-PABA(PFD)試験で異常低値(70%未満)を示すこと
3.ふん便中キモトリプシン活性で異常低値(24U/g未満)を示すこと
4.アミラーゼまたはエラスターゼの異常低値を認めるもの

内分泌機能:ホルモンを血液中に送り出す機能
「内分泌機能の障害」とは

次のいずれにも該当するもの
1.異なる日に行った経口糖負荷試験で境界型または糖尿病型であることが2回以上確認されること
2.空腹時血漿中のC-ペプチド(CPR)が0.5ng/ml以下(インスリン異常低値)であること
3.Ⅱ型糖尿病に該当しないこと

8.腹部臓器周辺のヘルニア

重激な業務に従事した場合など腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの

腹壁瘢痕ヘルニア,腹壁ヘルニア,鼠径ヘルニア又は内ヘルニアを残す場合に認定対象となります。もっとも,手術を行うことが通常であり,通常は多くは手術によりヘルニア内容の脱出は認めなくなることから,手術を試みたものの完治できない場合などが対象となります。

9.腎臓の障害

a.一側の腎臓を失い,GFR値が70ml/分を超え90ml/分以下のもの
b.腎臓を失っておらず,GFR値が50ml/分を超え70ml/分以下のもの

GFR値
→腎臓が血液をろ過して尿を作った量の値

10.尿管,膀胱及び尿道の障害

a.尿路変向術を行ったもの
→外尿道口形成術を行ったもの
→尿道カテーテルを留置したもの

b.排尿障害を残すもの
→膀胱の機能障害により残尿が50ミリリットル以上100ミリリットル未満であるもの
→尿道狭さくのため糸状ブジーを必要とするもの

c.畜尿障害を残すもの
→切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のため,常時パッド等の装着は要しないが、下着が少しぬれるもの
→頻尿を残すもの

「頻尿」とは

次のいずれにも該当するもの
1.器質的病変による膀胱容量の減少または膀胱・尿道の支配神経の損傷が認められること
2.日中8回以上の排尿が認められること
3.多飲などの他の原因が認められないこと

11.生殖機能の障害

狭骨盤または比較的狭骨盤が認められるもの
→産科的真結合線が10.5cm未満または入口部横径が11.5cm未満のものが該当します。

後遺障害11級の慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害11級の場合,自賠責保険からは136万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は420万円となります。

後遺障害11級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害11級の場合は,労働能力喪失率が20%となります。

計算例
年収500万円,40歳,11級認定

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×0.20×18.3270(27年ライプニッツ)
=18,327,000円

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

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後遺障害12級の神経症状とは?認定基準から慰謝料まで弁護士がわかりやすく解説

交通事故のあと、手足のしびれや痛みがなかなか取れない場合、後遺障害12級と診断される可能性があります。

後遺障害12級の神経症状は、「しびれ・痛み・感覚障害」などが医学的に証明された場合に認定される等級です。

適正な慰謝料や逸失利益を受け取るためには、認定基準と異議申立のポイントを正しく理解しておくことが重要です。

そこで本記事では、後遺障害12級の神経症状の具体的な認定基準や該当する代表的な症状例などを詳しく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

後遺障害12級の神経症状とは?

交通事故や労災などで受傷した後、治療を続けても「しびれ」「痛み」「感覚の鈍さ」などの神経症状が残る場合、後遺障害12級に該当することがあります。

12級の中でも「12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)」として扱われるケースが多く、神経の損傷が医学的に確認できるかどうかが認定の重要な判断基準です。

たとえば、MRIやCTなどの画像検査によって神経圧迫や損傷が裏付けられた場合には、単なる自覚症状ではなく「医学的に証明可能な神経障害」として評価されやすくなります。

一方で、症状があるのに検査結果に明確な異常が見られない場合、より軽い14級と判断されることも少なくありません。

そのため、医師に的確な診断書を書いてもらうことが、12級認定のための大きなポイントです。

後遺障害12級に認定される代表的なケース

後遺障害12級に認定される代表的なケースは、主に以下の通りです。

  • むち打ち・頸椎捻挫による神経症状
  • 腰椎ヘルニアや脊髄損傷に伴うしびれ・痛み
  • 末梢神経損傷による知覚障害・運動障害

詳しく解説します。

むち打ち・頸椎捻挫による神経症状

交通事故の後遺症として多いのが、むち打ち症(頸椎捻挫)による神経症状です。

追突事故などで首に強い衝撃が加わると、頸椎やその周囲の神経が損傷し、長期間にわたってしびれや痛み、頭痛、倦怠感などが残る場合があります。

症状の程度が重い場合には、12級13号として後遺障害が認定されることがありますが、医学的な証拠が乏しいと14級止まりになることも少なくありません。

腰椎ヘルニアや脊髄損傷に伴うしびれ・痛み

腰椎ヘルニアや脊髄損傷が原因で手足にしびれや痛みが残る場合も、後遺障害12級に該当することがあります。

とくに交通事故で腰部に強い衝撃を受けた場合、椎間板が突出して神経を圧迫し、下肢の感覚鈍麻や歩行障害などが生じることがあるのです。

こうした症状が治療を続けても改善せず、画像検査などで神経圧迫が確認されれば、12級の認定が期待できます。

末梢神経損傷による知覚障害・運動障害

骨折や外傷により末梢神経が損傷した場合、手足の感覚が鈍くなったり、力が入りづらくなるといった神経症状が残ることがあります。

このような症状が長期にわたり改善しない場合、後遺障害12級に認定されるケースがあります。

とくに、上肢や下肢の神経損傷では、感覚の喪失や細かい動作の困難が残ることが多く、作業能力や生活の質に直接影響を及ぼすでしょう。

後遺障害12級の認定基準

12級の認定基準一覧

1号1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
2号1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3号7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
4号1耳の耳殻の大部分を欠損したもの
5号鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
6号1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
7号1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
8号長管骨に変形を残すもの
9号一手のこ指を失ったもの
10号1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
11号1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの
12号1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
13号局部に頑固な神経症状を残すもの
14号外貌に醜状を残すもの

【1号】「1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの」

「著しい調節機能障害」とは以下の場合を指します。

著しい調節機能障害
眼の調節力が損傷を受けなかった方の他眼に比して2分の1以下に減じたもの

(注意事項)
①両眼とも損傷を受けた場合,損傷していない眼の調節機能に異常がある場合は,年齢別の調整力と比較する
②以下のいずれかに当たる場合は障害認定されない
・損傷していない眼の調整力が1.5D以下であるとき
・55歳以上であるとき

5歳ごとの年齢別の調整力

年齢(歳)調整力(ジオプトリー(D))
159.7
209.0
257.6
306.3
355.3
404.4
453.1
502.2
551.5
601.35

「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。

「眼球に著しい運動障害を残すもの」
=眼球の注視野が2分の1以下に減じたもの

注視野とは
頭部を固定した状態で眼球を動かして直視できる範囲
平均値は単眼視で各方面50度,両眼視で各方面45度とされています。

【2号】「1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」

【具体的基準】

「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。
①まぶたを開けた時にまぶたが完全に瞳孔(黒目)を覆ってしまうもの
②まぶたを閉じたときに角膜(眼球の色がある部分を覆う膜)を完全に覆えないもの

【3号】「7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」

「歯科補綴を加えたもの」とは
=現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補綴

「著しく欠損した」とは
歯冠部(歯肉より露出している部分)の体積の4分の3以上を欠損したもの

「補綴」とは
歯が喪失したり欠損したりしたところを,クラウン(歯全体を覆う被せ物)や入れ歯などの人工物で補うこと

【留意事項】
①認定対象になる歯の条件
→認定対象となる歯は,永久歯を指します。乳歯や含まれず,いわゆる親知らずも含まれません。ただし,乳歯が欠損したことで永久歯の萌出が見込めない場合は含まれます。

②喪失した歯の数より補綴した義歯の数が多い場合
→喪失した歯牙が大きい場合や歯間が広かった場合など,喪失した歯の数よりも多くの補綴を要した場合,等級の認定は喪失した歯の数によって判断されます。

(例)7本を喪失したが,10本の補綴をした場合,7本の歯科補綴として12級を認定する

③ブリッジなどで失った歯以外を切除した場合
→交通事故で失った歯の補綴に際して,ブリッジを設ける目的などで他の歯を切除した場合,歯冠部の4分の3以上切除していれば,歯科補綴を加えた本数に含みます。

(例)交通事故で5本喪失したところ,両側2本の歯にブリッジを施した場合,7本の歯科補綴として12級を認定する

【4号】「1耳の耳殻の大部分を欠損したもの」

「耳殻の大部分の欠損」とは,以下の場合を指します。

「耳殻の大部分の欠損」
耳殻の軟骨部の2分の1以上を欠損したもの

ここで「耳殻」とは,耳のうち外に張り出て飛び出している部分をいいます。
一般的に「耳」と呼ぶ楕円形の部位全体を指します。

なお,耳殻の欠損障害が醜状障害にも該当する場合,いずれか上位の等級が認定されます。

【5号】「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」

変形障害と呼ばれるものです。
変形の程度としては,裸体になったときに目で見てわかるものであることが必要とされます。そのため,レントゲン等の撮影画像で判断できるというのみでは認定対象とはなりません。

【6号】「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」

「関節の機能に障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。

関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されている場合

関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較します。
上肢の三大関節の主要運動は,以下の通りです。

関節主要運動参考可動域角度
肩関節①屈曲(前方拳上)180度
肩関節②外転(側方拳上)180度
肘関節屈曲・伸展(※)145度・5度(合計150度)
手関節屈曲(掌屈)・伸展(背屈)(※)90度・70度(合計160度)
※肘関節と手関節は,「屈曲+伸展」の合計値を比較

なお,左右いずれも可動域制限が生じている場合,参考可動域との比較を行います。

肩関節の運動

肘関節の運動

関節の運動には,主要運動のほかに参考運動があります。
可動域制限を判断する場合に参考運動を用いるのは,主要運動の可動域が基準をわずかに(=機能障害は5度,著しい機能障害は10度)上回る場合とされます。

関節参考運動参考可動域角度
肩関節①伸展(後方拳上)50度
肩関節②外旋・内旋60度・80度(合計140度)
手関節①橈屈25度
手関節②尺屈55度
橈屈と尺屈

【7号】「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」

「関節の機能に障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。

関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されている場合

関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較します。
下肢の三大関節の主要運動は,以下の通りです。

関節主要運動参考可動域角度
股関節①屈曲・伸展125度・15度(合計140度)
股関節②外転・内転145度・20度(合計65度)
ひざ関節屈曲・伸展130度・0度(合計130度)
足関節屈曲(底屈)・伸展(背屈)45度・20度(合計65度)
「屈曲+伸展」「外転+内転」の合計値を比較

なお,左右いずれも可動域制限が生じている場合,参考可動域との比較を行います。

股関節の主要運動

足関節の主要運動

関節の運動には,主要運動のほかに参考運動があります。
可動域制限を判断する場合に参考運動を用いるのは,主要運動の可動域が基準をわずかに(=機能障害は5度,著しい機能障害は10度)上回る場合とされます。

関節参考運動参考可動域角度
股関節外旋・内旋45度・45度(合計90度)

【8号】「長管骨に変形を残すもの」

上肢又は下肢のいずれかについて,長い骨が骨折後にうまく癒合せず,変形してしまった場合です。

上肢の「長管骨に変形を残すもの」とは,以下のいずれかに該当する場合を指します。

1.上腕骨に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
2.橈骨及び尺骨の両方に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
3.上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部に癒合不全を残すもの
4.橈骨又は尺骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残し、硬性補装具を必要としないもの
5.上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
6.上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
7.橈骨又は尺骨(骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
8.上腕骨が50度以上、外旋又は内旋で変形癒合しているもの

(「障害認定必携」より引用)

下肢の「長管骨に変形を残すもの」とは,以下のいずれかに該当する場合を指します。

1.大腿骨に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
2.脛骨に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
3.大腿骨の骨端部に癒合不全を残すもの
4.脛骨の骨端部に癒合不全を残すもの
5.腓骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもの
6.大腿骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
7.脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
8.大腿骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
9.脛骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
10.大腿骨が外旋45度以上(=股関節の内旋が0度を超えて可動できない)又は、内旋30度以上(=股関節の外旋が15度を超えて可動できない)で変形癒合しているもの

(「障害認定必携」より引用)

【9号】「一手のこ指を失ったもの」

「手指を失ったもの」とは,以下の場合を指します。

1.手指を中手骨又は基節骨で切断したもの
2.親指については指節間関節、それ以外の指については近位指節間関節において、基節骨と中節骨が離断したもの

(「障害認定必携」より引用)

【10号】「1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの」

「手指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.中手指節関節又は近位指節間関節(親指については指節間関節)の可動域が1/2以下に制限されるもの
3.親指について、橈側外転又は掌側外転のいずれかの可動域が1/2以下に制限されるもの
4.手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚完全に脱失したもの

【11号】「1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの」

3つの基準が設けられています。

12級11号に該当する場合

1足の第2の足指を失ったもの
第2の足指を含み2の足指を失ったもの
第3の足指以下の第3の足指を失ったもの

なお,「第2の足指」は人差し指,「第3の足指」は中指を指します。そのため,「第3の足指以下の3の足指」は,中指・薬指・小指の3つを指します。

「足指を失ったもの」とは,足指を中足指節関節から失ったことを指します。つまり,足指をすべて失った場合を指すことになります。

(「障害認定必携」より引用)

【12号】「1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの」

「足指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.親指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.親指以外の足指について、中節骨又は基節骨で切断したもの
3.親指以外の足指について、遠位指節間関節又は近位指節間関節で離断したもの
4.親指の中足指節間関節又は指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの
5.親指以外の足指の中足指節間関節又は近位指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの

【13号】「局部に頑固な神経症状を残すもの」

神経症状と呼ばれるものです。むち打ちの場合に認定を目指す類型の代表例であるため,後遺障害等級の代表格としても知られているでしょう。これは,交通事故の外傷によって神経系統に異常を来した結果,痛みや痺れといった神経への症状が残存する後遺障害を一般的に指すものです。

具体的な等級とその認定基準は,以下の通りです。

等級認定基準
12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号局部に神経症状を残すもの

後遺障害等級は,1級から14級まであり,1級が最も上位の(=重い)後遺障害です。神経症状については,12級の方がより上位の後遺障害等級となります。

また,それぞれの認定基準を満たしているかどうかの具体的な考え方は,以下の通りです。

12級13号症状が医学的に証明できる場合
(画像所見などの他覚的所見によって客観的に認められる場合)
14級9号症状が医学的に説明できる場合
(他覚的所見はないものの,受傷内容や治療経過を踏まえると症状の存在が医学的に推定できる場合)

したがって,画像所見など,第三者が客観的に確認できる所見がある場合は12級の認定される可能性があり,そのような客観的な所見がない場合は14級の認定を目指すことになります。

【14号】「外貌に醜状を残すもの」

醜状障害と呼ばれるものです。
醜状障害は,人の目につく人体の露出面に,目立つ傷跡が残った場合の後遺障害をいいます。醜状の具体的な内容としては,瘢痕や線状痕,組織の陥没,色素沈着による変色などが挙げられます。

12級14号は外貌の醜状障害に関するものですが,外貌とは,頭部・顔面部・頸部の各部位を指します。それぞれの部位について,認定基準は以下のとおり定められています。

12級14号 外貌に醜状を残すもの

部位基準
頭部鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
顔面部10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
頚部鶏卵大面以上の瘢痕

なお,瘢痕の大きさや線状痕の長さを確認する際には,以下の点に注意を要します。

①人目につくことが必要
→眉や髪で隠れる部分は醜状として扱われません。また,アゴの下で正面から見えない部分も対象外となります。これらの部分を除いた長さや面積を計測します。

②2つ以上の傷跡がある場合の判断方法
→複数の傷跡は,それらが一体となっている場合,一体となっている面積や長さを合算した数値で等級が判断されます。

③事故時に生じたものでない醜状の取り扱い
→治療中に生じた手術痕や,やけど等の治療後に生じた色素沈着なども,醜状障害の対象に含まれます。

後遺障害12級の神経症状に対する慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害12級の場合,自賠責保険からは94万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は290万円となります。

後遺障害12級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害12級の場合は,労働能力喪失率が14%となります。

計算例
年収500万円,40歳,12級13号認定(むち打ちの場合)

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×0.14×8.5302(10年ライプニッツ)
=5,971,140円

(※)12級13号のむち打ちについては,労働能力喪失期間を10年以内とする運用が広く用いられています。

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

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【後遺障害13級】具体的な認定基準は?慰謝料や逸失利益の金額は?

交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。

自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害13級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

後遺障害13級の認定基準

13級の認定基準一覧

1号一眼の視力が0.6以下になつたもの
2号正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
3号一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
4号両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
5号五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
6号一手のこ指の用を廃したもの
7号一手のおや指の指骨の一部を失つたもの
8号一下肢を一センチメートル以上短縮したもの
9号一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの
10号一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの
11号胸腹部臓器の機能に障害を残すもの

【1号】「一眼の視力が0.6以下になつたもの」

後遺障害等級の対象とする視力は,矯正視力を指します。そのため,眼鏡やコンタクトレンズなどを着用した状態の視力を基準に判断されます。

【2号】「正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの」

「複視」は,1つの物体が2つに見えることをいいます。主に眼の周りにある筋肉の一部が麻痺して片方の眼球の動きが悪くなることで,物が上下左右にずれて二重に見える状態を指します。

「複視の症状を残すもの」とは,以下の全てを満たす場合を指します。

1.本人が複視のあることを自覚していること
2.眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
3.ヘススクリーンテストにより患側の像が健側に比して5度以上離れた位置にあること

【3号】「一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの」

「半盲症」とは

「半盲症」とは
視野の右半分又は左半分が欠損し,見えなくなってしまう症状をいいます。以下のような種類があります。
同側半盲:両眼の同じ側で半盲が生じる場合
異名半盲:両眼のそれぞれ反対側で半盲が生じる場合

また,視野の上半分または下半分が欠損する場合もあり,「水平半盲」といいます。

「視野狭窄」とは

「視野狭窄」とは
視野が狭くなる症状をいいます。以下のような種類があります。
同心性狭窄:中心部分ははっきり見えるが,周辺部分が見えない
不規則狭窄:視野の一部分が規則性のない形で狭くなる

「視野変状」とは

「視野変状」とは
半盲症や視野狭窄のほか,視野に異常が生じることをいいます。具体的には以下の内容があります。
暗転:視野の中に暗くて見えない部分が生じるもの
視野欠損:視野の一部が見えなくなる状態

【4号】「両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの」

「まぶたの一部に欠損を残すもの」とは
まぶたを閉じた場合に、角膜を完全に覆うことができるものの、球結膜(白目)が露出してしまう場合

「まつげはげを残すもの」とは
まつげの生えている周縁の2分の1以上にわたってまつげはげを残す場合

両目について,目を閉じていても白目が露出してしまった場合,又はまつげが半分以上剥げてしまった場合は,13級4号の認定対象になります。

【5号】「五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」

歯牙障害と呼ばれる後遺障害です。歯牙障害は,歯科補綴を加えた歯の数によって等級が認定されます。

「歯科補綴を加えたもの」とは
=現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補綴

「著しく欠損した」とは
歯冠部(歯肉より露出している部分)の体積の4分の3以上を欠損したもの

「補綴」とは
歯が喪失したり欠損したりしたところを,クラウン(歯全体を覆う被せ物)や入れ歯などの人工物で補うこと

【留意事項】
①認定対象になる歯の条件
→認定対象となる歯は,永久歯を指します。乳歯や含まれず,いわゆる親知らずも含まれません。ただし,乳歯が欠損したことで永久歯の萌出が見込めない場合は含まれます。

②喪失した歯の数より補綴した義歯の数が多い場合
→喪失した歯牙が大きい場合や歯間が広かった場合など,喪失した歯の数よりも多くの補綴を要した場合,等級の認定は喪失した歯の数によって判断されます。

(例)5本を喪失したが,7本の補綴をした場合,5本の歯科補綴として13級を認定する

③ブリッジなどで失った歯以外を切除した場合
→交通事故で失った歯の補綴に際して,ブリッジを設ける目的などで他の歯を切除した場合,歯冠部の4分の3以上切除していれば,歯科補綴を加えた本数に含みます。

(例)交通事故で3本喪失したところ,両側2本の歯にブリッジを施した場合,5本の歯科補綴として13級を認定する

なお,歯牙障害については,歯科用の後遺障害診断書を用いて主治医の記載を依頼します。

後遺障害診断書(歯科用)

【6号】「一手のこ指の用を廃したもの」

手指の用廃に関する等級です。

「手指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.中手指節関節又は近位指節間関節(親指については指節間関節)の可動域が1/2以下に制限されるもの
3.親指について、橈側外転又は掌側外転のいずれかの可動域が1/2以下に制限されるもの
4.手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚完全に脱失したもの

(「障害認定必携」より引用)

【7号】「一手のおや指の指骨の一部を失つたもの」

1指骨の一部を失っていること(遊離骨片の状態を含む)がX線写真より確認できるものを指します。

【8号】「一下肢を一センチメートル以上短縮したもの」

下肢の短縮は,上前腸骨棘と下腿内果下端の間の長さを健側の下肢と比較して等級認定を行います。

下肢の短縮

【9号】「一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの」

「足指を失ったもの」とは,足指を中足指節関節から失ったことを指します。つまり,足指をすべて失った場合を指すことになります。

(「障害認定必携」より引用)

【10号】「一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの」

3つの基準が設けられています。

13級10号に該当する場合

1足の第2の足指の用を廃したもの
第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの
第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの

なお,「第2の足指」は人差し指,「第3の足指」は中指を指します。そのため,「第3の足指以下の3の足指」は,中指・薬指・小指の3つを指します。

「足指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.親指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.親指以外の足指について、中節骨又は基節骨で切断したもの
3.親指以外の足指について、遠位指節間関節又は近位指節間関節で離断したもの
4.親指の中足指節間関節又は指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの
5.親指以外の足指の中足指節間関節又は近位指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの

上記のうち「1」及び「4」は親指に関する基準であるため,「2」「3」「5」のいずれかに該当する場合,14級8号の認定対象になります。

【11号】「胸腹部臓器の機能に障害を残すもの」

具体的な認定基準は,各臓器ごとに異なります。具体的には以下のような基準が設けられています。

・胃の障害
噴門部または幽門部を含む胃の一部を亡失したもの

・胆のうの障害
胆のうを失ったもの

・ひ臓の障害
ひ臓を失ったもの

・腎臓の障害
1.一側の腎臓を失い,GFR値が90ml/分を超えるもの
2.腎臓を失っておらず,GFR値が70ml/分を超え90ml/分以下のもの

・生殖機能に軽微な障害を残すもの
【男性】
 一側の睾丸を失ったもの(睾丸の亡失に準ずべき程度の萎縮を含む)
【女性】
 一個の卵巣を失ったもの

後遺障害13級の慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害13級の場合,自賠責保険からは57万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は180万円となります。

後遺障害13級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害13級の場合は,労働能力喪失率が9%となります。

計算例
年収500万円,40歳,13級認定

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×0.09×18.3270(27年ライプニッツ)
=8,247,150円

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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【後遺障害14級】認定対象となる症状や慰謝料額を一挙解説

交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。

自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害14級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

後遺障害14級の認定基準

14級の認定基準一覧

1号一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
2号三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
3号一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの
4号上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
5号下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
6号一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの
7号一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの
8号一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
9号局部に神経症状を残すもの

【1号】「一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの」

具体的には,以下の場合を指します。

1.まぶたを欠損したことで,眼を閉じても眼球の一部(白目)が露出してしまう場合
2.まぶたで眼球全てを覆うことはできるが,まぶたの欠損によってまつげが半分以上無くなって生えてこない場合

【2号】「三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」

歯牙障害と呼ばれる後遺障害です。歯牙障害は,歯科補綴を加えた歯の数によって等級が認定されます。

「歯科補綴を加えたもの」とは
=現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補綴

「著しく欠損した」とは
歯冠部(歯肉より露出している部分)の体積の4分の3以上を欠損したもの

「補綴」とは
歯が喪失したり欠損したりしたところを,クラウン(歯全体を覆う被せ物)や入れ歯などの人工物で補うこと

【留意事項】
①認定対象になる歯の条件
→認定対象となる歯は,永久歯を指します。乳歯や含まれず,いわゆる親知らずも含まれません。ただし,乳歯が欠損したことで永久歯の萌出が見込めない場合は含まれます。

②喪失した歯の数より補綴した義歯の数が多い場合
→喪失した歯牙が大きい場合や歯間が広かった場合など,喪失した歯の数よりも多くの補綴を要した場合,等級の認定は喪失した歯の数によって判断されます。

(例)4本を喪失したが,5本の補綴をした場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

③ブリッジなどで失った歯以外を切除した場合
→交通事故で失った歯の補綴に際して,ブリッジを設ける目的などで他の歯を切除した場合,歯冠部の4分の3以上切除していれば,歯科補綴を加えた本数に含みます。

(例)交通事故で2本喪失したところ,両側2本の歯にブリッジを施した場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

【3号】「一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの」

交通事故による聴力の低下のため,1メートル以上離れた距離では小声での話し声を聞き取ることが困難になった状態を指します。
具体的には,検査の結果,1耳の平均純音聴力レベルが40デシベル以上70デシベル未満の状態のことをいいます。

「純音聴力レベル」とは
音波の基本的なもの(=純音)に対する聴こえ方の程度。音が聴こえるかどうか

【4号】「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」

上肢の露出面とは,肩関節から先(指先まで)を指します。
この範囲に,手のひら大(指を除く)の醜状が残った場合,認定対象になります。

【5号】「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」

下肢の露出面とは,股関節から先(足の背部まで)を指します。
この範囲に,手のひら大(指を除く)の醜状が残った場合,認定対象になります。

【6号】「一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの」

具体的には,以下の場合を指します。

1.指の骨の一部を喪失した場合
2.骨折した骨がうまく癒合しなかった場合

1指骨の一部を失っていること(遊離骨片の状態を含む)がX線写真より確認できる必要があります。

【7号】「一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの」

遠位指節間関節は,最も指先に近い関節(いわゆる第一関節)を指します。

(「障害認定必携」より引用)

交通事故により,親指以外の手指を第一関節で曲げたり伸ばしたりできなくなった場合に該当します。

【8号】「一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの」

第三の足指とは中指のことをいいます。そのため,「第三の足指以下」の足指とは,中指,薬指,小指を指します。

また,「足指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.親指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.親指以外の足指について、中節骨又は基節骨で切断したもの
3.親指以外の足指について、遠位指節間関節又は近位指節間関節で離断したもの
4.親指の中足指節間関節又は指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの
5.親指以外の足指の中足指節間関節又は近位指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの

上記のうち「1」及び「4」は親指に関する基準であるため,「2」「3」「5」のいずれかに該当する場合,14級8号の認定対象になります。

【9号】「局部に神経症状を残すもの」

局部=体の一部に,神経系統の障害による症状が残ることを指します。
一般に,神経症状が医学的に証明できないものの,医学的に説明できる場合をいうものと理解されています。

症状が医学的に証明できる場合
=画像所見などの他覚的所見によって客観的に認められる場合

症状が医学的に説明できる場合
=他覚的所見はないものの,受傷内容や治療経過を踏まえると症状の存在が医学的に推定できる場合

他覚的所見はないものの,総合的判断によって症状の存在が説明可能と評価される場合,14級9号の認定対象になります。

後遺障害14級の慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害14級の場合,自賠責保険からは32万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は110万円となります。

後遺障害14級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害14級の場合は,労働能力喪失率が5%となります。

計算例
年収500万円,40歳,14級9号認定(むち打ちにて)

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×0.05×4.5797(5年ライプニッツ※)
=1,144,925円

(※)14級9号のむち打ちについては,労働能力喪失期間を5年以内とする運用が広く用いられています。

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害14級の場合,神経症状のうち,主に自覚症状に関する認定が問題となるケースが多く見られます。そして,自覚症状の内容や程度が分かる資料を別途作成・提出するためには,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,特に自覚症状が重要な問題となるときには,被害者請求の方法を選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

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痴漢事件は自首すべき?メリットデメリットから自首の具体的方法まで弁護士が解説

このページでは,痴漢事件の自首に関して,自首をすべきかどうか,自首のメリット,自首を試みる際の具体的な方法などを弁護士が解説します。自首を検討する際の参考にしてみてください。

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痴漢事件で自首をするべき場合

①現行犯で問題になったケース

痴漢事件は,被害者に発覚しない可能性の考えにくい事件類型であるため,現行犯のタイミングで当事者間のトラブルになっている場合が少なくありません。そして,その事件直後のトラブルから逃れた後である,という場合は自首を検討する必要性が高いと考えられるでしょう。

痴漢事件で捜査されるのは,被害者から捜査機関に被害申告があった場合というのがほとんどです。現実的には,被害者が捜査を希望してアクションを起こせば捜査が始まり,そうでなければ捜査が始まらない,ということが大多数でしょう。
この点,現行犯のタイミングで当事者間のトラブルになっているケースでは,被害者側に声を上げる意思が見受けられるため,被害者が捜査を希望する可能性が高い傾向にあります。そうすると,やがて捜査が開始され,自分が被疑者として特定されることが強く懸念されます。

そのため,現行犯で問題になった痴漢事件では,自首をすることでより大きな不利益を避ける動きが有益になると言えるでしょう。

ポイント
痴漢事件が捜査されるかは被害者の動きによる
現行犯で当事者間のトラブルになった痴漢事件は捜査されやすい

②自分が犯人と特定される見込みがある

痴漢事件の場合,突発的な出来事でもあることから,犯罪や犯人を立証するための証拠が多数残っているということはあまりありません。一般的に想定される証拠としては,以下のようなものが挙げられるでしょう。

痴漢事件の一般的な証拠

・被害者
・目撃者
・現場付近の映像・画像
・駅の入退場記録
・類似事件(余罪)の証拠

この点,一般的に想定される証拠を踏まえて,自分が犯人と特定されることが見込まれる場合は,自首の検討が適切になりやすいでしょう。
例えば,明らかに防犯映像が記録されている場所で事件や事件直後のトラブルが起きた場合,目撃者に面識のある人物が含まれていた場合などは,犯人=自分と結びつく十分なきっかけがあるため,特定される見込みがあるケースということができます。

自分が犯人と特定され,捜査を受けた後では,もはや自首はできず自首のメリットを得ることもできなくなってしまうため,極力早期に自首の検討を行うことが一案です。

ポイント
犯人の特定に至りやすい証拠があるケースでは,自首の検討が有力

③否認事件で自首すべきか

否認事件ではあるものの,自分が疑われている状況にあるため,捜査を受けるより前に自分から自首をする,という動きは考えられるでしょうか。

結論的には,否認事件で自首をするメリットがない,と考えるのが適切でしょう。自首はあくまで自分の犯罪行為を捜査機関に告げる意味合いの行動であるため,否認事件にはなじみません。

もっとも,否認事件ながら自分が疑われているという場合に,先回りをして警察に問い合わせたり相談したりすることはあってよいでしょう。現実にどのような取り扱いを受けられるかは警察の対応にもよりますが,ケースによってはむしろ被害者として警察に捜査を依頼する余地もあるかもしれません。

ポイント
否認事件での自首は不適切

自首とは

自首とは,罪を犯した者が,捜査機関に対してその罪を自ら申告し,自身に対する処分を求めることをいいます。自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告することが必要とされます。

また,自首が成立するためには,犯罪事実や犯人が捜査機関に発覚する前でなければなりません。これは,犯罪事実自体が発覚していない場合のほか,犯罪事実は発覚しているものの犯人が特定できていない場合も含まれます。つまり,犯罪事実か犯人のどちらかが発覚していなければ,自首が成立するということになります。

ポイント 自首の意味
自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告し,自分への処分を求めること
犯罪事実又は犯人が特定できていない段階であることが必要

自首のメリット

①刑罰の減軽事由に当たる

自首は,刑法で定められているものですが,その定めは「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは,その刑を減軽することができる。」という内容です。つまり,自首が成立した場合の直接の効果は「刑を減軽できる」ということになります。

刑罰が減軽される場合,基本的には言い渡される刑罰の上限が2分の1になります。そのため,自首によって刑罰が減軽されると,自首がなかった場合に比べて最大でも半分の刑罰までしか科せられません。

なお,「刑を減軽することができる」という定めは,任意的減軽と呼ばれます。これは,減軽することも減軽しないこともできる,というもので,自首したから必ず減軽の対象になるわけではありません。この点の最終的な判断は裁判所に委ねられますが,自首が刑罰の重みに大きく影響することは間違いありません。

ポイント
自首は刑の任意的減軽事由

②逮捕が回避できる可能性が高まる

被疑者が自首をした事件では,その被疑者を逮捕する可能性が非常に低くなることが一般的です。それは,逮捕の必要性が大きく低下するためです。

逮捕の要件には,「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」があるとされています。

逮捕の要件

1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。

2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。

この点,自首をする人物は,自分の犯罪事実を自発的に捜査機関へ告げ,その事件に関する刑事処分を受けるきっかけを自ら作っています。そのため,自分から捜査や処分を求めている人が逃亡や証拠隠滅をすることは考えにくいと言わざるを得ません。
そうすると,自首がなされた事件は,類型的に逃亡や罪証隠滅の恐れ(逮捕の必要性)が低いため,逮捕を回避できる可能性が高くなるのです。

逮捕の回避は,自首を試みる場合の大きな目的の一つと言えます。自分から捜査機関に犯罪を打ち明ける対価として,逮捕を避けてほしいと申し出る試みである,ということもできるでしょう。
ただし,必ず逮捕が防げるというわけではありません。自首をしたとしても逮捕せざるを得ないような重大事件であれば,自首は刑罰の軽減を目指して行うべきことになるでしょう。

ポイント
自首したケースは逮捕の必要性が低いと判断されやすい

③示談の可能性が高まる

被害者のいる事件の場合,自首をした被疑者自身が加害者であることが明らかです。そのため,被疑者ががさらに処分の軽減を図ろうとする場合,示談の試みが非常に大切となります。なぜなら,被疑者の刑事処分は,被害者の意向を可能な限り反映したものになるためです。
示談によって被害者の許しが得られた場合,許したという被害者の意向を反映して刑事処分を軽減することがほとんどでしょう。事件によっては,被害者が加害者の刑罰を希望しない,という意向を表明すれば,事実上不起訴が見込まれると言えるケースも少なくありません。
それだけ,示談の成否は刑事処分を決定的に左右し得るものです。

この点,被害者としては,加害者が自首をしたのか,警察に特定されて捕まったのかによって,示談を受け入れる気持ちが生じるかどうかに大きな違いが生じます。自首した場合の方が,被害者が示談を受け入れる気持ちになりやすいことは明らかです。
そのため,自首という行動は,その後の示談が成立する可能性を高めるという大きなメリットももたらすものと言えます。

ポイント
自首した場合の方が,被害者に示談を受け入れられる可能性が高くなる

④不起訴の可能性が高まる

自首した場合,刑の任意的減軽事由となりますが,これは刑罰を受けることを前提としたお話です。受ける刑罰が半減する可能性がある,というわけですね。

この点,自首が処分を軽減させるのは,決して刑罰が科せられる場合のみではありません。そもそも刑罰を科すかどうか,つまり起訴するか不起訴にするか,という局面でも,自首は処分を軽減させる事情として考慮されます。それは,自首をすることで刑事責任を軽くすべき,という考え方がこの局面にも当てはまるためです。

事件によっては,自首の有無で起訴不起訴が分かれるケースもあり得ます。自首以外に不起訴の判断を促せる事情がなかったとしても,自首を考慮して不起訴になる場合があり得るのは,自首の大きなメリットでしょう。

ポイント
自首を理由に不起訴処分が得られる場合もある

自首の方法と流れ

自首を円滑に,効果的に行うためには,適切な手順を踏んで自首することが望ましいところです。適切な自首ができれば,自首のメリットがより早期に,明確に得られるでしょう。

①自首の方法1.警察への連絡

自首は,警察署に直接出頭して行うこともできますが,事前に警察署に電話連絡をすることがより適切でしょう。事前連絡なく出頭した場合,警察側に自首を受け入れる体制や準備がなく,かえって手続が煩雑になってしまう可能性があります。

連絡先=自首をする先の警察署としては,事件の発生場所を管轄する警察とすることが最も円滑になりやすいです。ただ,自分の生活圏と事件の発生場所が遠く離れている場合は,自分の住居地の最寄りの警察署でもよいでしょう。

自首先の警察署

1.事件の発生場所を管轄する警察署
2.自分の住居地を管轄する警察署

また,連絡先は,自首をする事件分野を取り扱う担当課,担当係に行うことが望ましいです。事件を取り遣う部署は事件類型ごとに異なりますが,一般的には以下のような区別が可能です。

事件を取り扱う部署の例

暴行・傷害
→刑事課 強行犯係

詐欺・横領
→刑事課 知能犯係

窃盗
→刑事課 盗犯係

痴漢・盗撮
→生活安全課

児童買春・児童ポルノ
→生活安全課(少年係)

警察に連絡をした際は,事件を取り扱う係に電話を回してもらい,担当部署の電話応対者に自首を希望する旨とその内容を伝えるとスムーズになりやすいです。

なお,事件の概要や自首を希望するに至った経緯などを伝える可能性が高いため,整理して伝えられるよう,事前にメモを作成するなどして伝えたいことをまとめるのが望ましいでしょう。

②自首の方法2.警察への出頭

予定した日時に警察へ出頭します。
出頭した際にまずどこへ行き,どのようにして担当者に話を通してもらうかは,事前連絡の時点で確認しておくことが望ましいでしょう。

出頭後は,警察所で話を聞かれることが想定されます。どの程度の時間,どのような手続を行うことになるのかは事前の想定が困難であるため,当日の予定は終日空けておくことが適切です。

警察の受付から担当者につないでもらうと,担当課の取調室などへ案内されることが一般的です。

③自首後の流れ1.取り調べの実施

自首後は,まず事件の内容や流れについて取調べを受けることになります。自首をより円滑に進めるため,事前の準備に沿って事件の内容をできるだけ詳細に話すようにしましょう。
取調べの内容としては,以下のような事項が想定されます。

自首後の取調べ内容

1.事件の日時・場所
2.事件の具体的な内容
3.事件が発生した理由
4.自首を試みた経緯・理由
5.身上経歴

自首は,自分の犯罪行為を申告して処分を求めるものであるため,対象となる犯罪の内容については,何かを包み隠していると疑われないよう真摯な供述に努めることが有益です。また,反省・後悔の意思や,被害者に対する謝罪の意思が十分に伝わるような対応が尽くせれば,より望ましい内容になるということができるでしょう。

ポイント
自首を受けた警察で取調べが行われる
真摯な供述を心掛け,反省や謝罪の意思が伝わることを目指す

④自首後の流れ2.自首の受理

警察では,取調べで自首をした人から一通りの話を聞いた後,「自首調書」を作成します。
内容や形式は一般的な供述調書と大きく異なりませんが,自首を受理したことを明らかにするため自首調書を作成するものとされています。

自首調書には,事件の概要,本人の身上経歴,自首をした理由や経緯などが記載されます。

ポイント
自首を受け付けた警察では「自首調書」が作成される

⑤自首後の流れ3.逮捕の判断

自首を受けた警察では,取調べの内容等を踏まえ,その被疑者を逮捕するかどうか判断することになります。自首した事件では,被疑者を逮捕する必要は大きく低下すると理解されるのが通常ですが,それでも逮捕の可能性が否定できるわけではありません。

逮捕をするかどうかは,逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れを主な基準に判断されますが,自首をしているケースでは自首後に逃亡することは想定されづらいと言えます。そのため,罪証隠滅の恐れがどの程度あるか,という基準が重視されやすいでしょう。
そして,自首を通じて罪証隠滅の恐れがないと判断してもらうためには,以下のような対応方法が考えられます。

逮捕を防ぐための自首の方法

1.時系列に沿った詳細な供述に努める
→隠し事なく供述していると評価してもらえれば,その上で証拠隠滅する恐れがあるとは判断されづらい

2.証拠の持参
→事件の内容に応じて想定される物的証拠を積極的に持参することで,罪証隠滅の余地がないと判断してもらいやすい

自首のやり方によって逮捕されるかどうかに差が生じる可能性もあるため,自首に際しては罪証隠滅の恐れがないと理解してもらうことをできる限り目指すようにしましょう。

ポイント
逮捕の有無は,罪証隠滅の恐れの有無によって判断されやすい

痴漢事件の自首は弁護士に依頼すべきか

痴漢事件の自首は,弁護士への依頼が有益なケースということができるでしょう。具体的には以下のようなメリットが挙げられます。

①逮捕回避の可能性が高まる

自首の基本的な目的は逮捕の回避ですが,同じ自首を試みたとしても,やり方が異なれば逮捕回避の効果がどれだけ期待できるかも変わってきます。
弁護士に依頼することで,逮捕回避によりつながりやすい適切な方法での自首が可能になり,逮捕を回避できる可能性が高くなるでしょう。

②自首をすべき状況かが分かる

自分の中では自首をするべきだと思っていたとしても,客観的には自首が得策とは言い難いケースがあります。当事者の立場にいると,どうしても偏った見方にならざるを得ない上,専門的な知識や経験に基づく判断は困難であるためです。
特に,痴漢事件では,客観的証拠があまり多くならないため,現行犯以外での捜査は容易でなく,事件を客観的に見ると自首を要する状況とは言えない,という場合が少なくありません。

そのため,痴漢事件の自首を検討する場合は,まず刑事事件の知識や経験ある弁護士に相談することで,自首をすべき状況かどうかを確認するのが有力です。弁護士の見通しを踏まえ,本当に自首すべき状況かどうかを知った上で,自首を検討することが可能になるでしょう。

③自首後の弁護活動が迅速にできる

刑事事件は,自首をして終わりではありません。むしろ,自首は捜査のスタートラインであって,自首の内容を踏まえて捜査が開始されることになります。そうすると,自首を行うときには,自首をした後に始まる捜査や,その後の最終的な処分のことも考えておかなければなりません。

この点,弁護士に依頼をすることで,自首の後迅速に弁護活動を始めてもらうことが可能になります。痴漢事件では,被害者との示談が非常に重要ですが,自首とともに示談の試みを開始することで,示談交渉という大切な弁護活動へとスムーズに移ることができます。
また,自首をすることで被害者の感情が和らげば,示談の成功率も高くなるため,自首のメリットがより大きくなっていくことになるでしょう。

痴漢事件で自首をする場合の注意点

①自首をする余地がない可能性

痴漢事件は現行犯で問題になることが一般的であり,痴漢事件における逮捕の多くは現行犯逮捕です。

この点,自首は犯罪や犯人が特定できていない段階でしか行うことができないため,現行犯で事件が問題になっている場合,犯罪も犯人も明らかであって自首をする余地が残っていない,というケースがあり得ます。

自首は,その性質上,自分に対する捜査が始まる前にしかできない動きであるため,現行犯での取り締まりが多い痴漢事件では行う余地のない可能性があることに注意しておきましょう。

②捜査を誘発してしまう可能性

自首は,自発的に自らの犯罪を申告する行為であるため,捜査機関が全く犯罪事実を知らなかった場合,自首によって捜査を誘発してしまう恐れがあります。自首をしなければ捜査が開始されることはなかったにもかかわらず,自首をしたがために捜査を受けることになってしまう,という場合があるのです。

痴漢事件での自首は,「被害者が捜査機関に被害申告すると思う」という想定で行う場合が多くなりますが,実際に被害者が動いているかを事前に知る手段は基本的にありません。そのため,被害者が動いているという想定が思い込みであった場合の自首は,自分で自分への捜査を引き起こす結果になる可能性に注意が必要でしょう。

刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ

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【痴漢事件での呼び出し】どう対応すべき?出頭したら逮捕される?注意点は?

このページでは,痴漢事件で警察から呼び出された場合について,適切な対応方法などを弁護士が解説します。
痴漢事件に関する呼び出しへの対応や今後の見込みを検討するときの参考にご活用ください。

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痴漢事件で呼び出された場合の対応法

痴漢事件に関して取り調べのために呼び出しを受けた場合,適切な対応が早期解決のきっかけになることもあります。呼び出しを受けたときの状況に応じて,どのような対応をするのが適切か整理しておくと有益でしょう。

①すでに取調べを受けたことのある事件

事件当日に現行犯で問題になって取調べを受けた後,後日呼び出される場合が代表例です。

同一の事件について取り調べを受けたことがある場合,呼び出された後の取調べは前回の内容を踏まえたものになります。そのため,前回と今回とで話の内容が一貫しているかどうか,という点が円滑な手続にとって重要なポイントです。
捜査機関は,当然前回の取調べ内容と整合する話が出てくるものと想定して呼び出し,準備をしています。そこに前回と全く異なる話が出てくると,手続は振り出しに戻り,改めて取調べをやり直す必要が生じかねません。

そのため,対応するときのスタンスとしては,事実ありのままを一貫して述べる,という方針を貫くのが合理的でしょう。

万一,前回の取調べで事実でないことを話してしまった場合には,極力速やかに訂正を申し出るのが適切です。一度供述調書の内容として記録されたものであっても,訂正の申し出は可能であるため,訂正の内容と理由を明確に伝えるようにしましょう。

ポイント
一貫した供述を心掛ける
訂正を要する場合は早めに申し入れ,理由を添えて説明する

②初めて呼び出される場合

事件当日に問題にならなかった痴漢事件でも,後日電話がかかってくるなどして警察に呼び出されることがあり得ます。

この点,初めての呼び出しを受ける場合は,まず予定した日時に確実に出頭するようにしましょう。呼び出しを行う警察の判断は,「逮捕しなくても呼び出せば来てくれるであろう」というものであることが通常です。そのため,呼び出しに応じて自分から出頭するかどうかは,逮捕を要するかどうか,という警察側の判断に大きな影響を与える可能性があります。呼び出して任意の出頭を求めても応じてくれないとなると,「出頭してくれないなら逮捕すべき」という判断に切り替わってしまう可能性も否定できません。

そして,出頭後の取調べでは,警察の疑いに間違いがない場合,真摯に認めて争わない姿勢を早期に示すことが適切です。初めて呼び出した警察は,「認める」か「認めないか」という基準で事件を区別するところから入るため,「認める」事件であるとの分類を早期にしてもらうことにより,手続が円滑になりやすいでしょう。
また,認める場合には,細かい内容や言い回しを気に留めるよりも,反省・後悔・謝罪といった点が十分に伝わるような対応を心掛けることが有益です。細かい内容は後の処分結果にほとんど影響しませんが,反省・後悔・謝罪という情状面は刑事処分の重さを大きく左右しうるためです。

ポイント
予定通りに出頭することが最重要
認め事件では認めるスタンスを早期に示す

③全く心当たりのない事件

疑われている事実に全く心当たりがない場合,まずは毅然とした態度で「認めない」スタンスを示すようにしましょう。

警察などの捜査機関は,認め事件よりも否認事件の方が被疑者に強く当たるものです。その理由としては以下のような点が挙げられます。

否認事件で捜査機関が強く当たってくる理由

1.捜査が面倒になるため認めて欲しい
→否認事件の場合,犯罪を立証するための証拠収集を慎重に行う必要が生じます。

2.言い逃れとの区別がつかない
→言い逃れ目的の可能性があるため,強く当たることで言い逃れを防ごうとします。

3.捜査担当官の感情面
→被害者の心情に配慮するあまり,否認する被疑者に感情を強くぶつける捜査担当者もいます。

合理的な理由かは別として,現実に否認の場合には,取り調べを行う警察官から心無い発言を受けたりウソだと決めつけられたりすることは珍しくありません。この点は事前に踏まえておくのが適切です。
それでも,心当たりがない事件で「認める」供述をするのは不適切と言わざるを得ません。捜査機関が強く当たってくることを想定した上で,一貫して否認のスタンスを示し続けていきましょう。

ポイント
否認事件では毅然とした態度を示し続ける
捜査機関の担当者から心無い発言を受ける可能性は事前に想定しておく

痴漢事件の呼び出しに応じると逮捕されるか

刑事事件の手続では,呼び出しに応じて警察に出頭した際に,そのまま逮捕となる場合があります。これは,呼び出しの段階で逮捕を予定しており,言うならば逮捕のために呼び出した,ということになります。

もっとも,痴漢事件は,逮捕のために呼び出すということがあまり見られない事件類型です。痴漢事件で逮捕をするのであれば,現行犯逮捕をするか,呼び出しせずに直接自宅などへ行って逮捕をする方が合理的と判断することが一般的です。
そのため,痴漢事件で呼び出しを受けた場合には,そのまま逮捕される可能性をあまり強く警戒するのでなく,呼び出しに応じてできるだけ速やかに出頭することを心掛けるのが適切でしょう。呼び出しに対して円滑に対応する方が,結果的に逮捕の可能性を低下させることにつながります。

ポイント
痴漢事件では,呼び出しに応じて出頭した際の逮捕はあまり見られない

痴漢事件で警察が呼び出すタイミングや方法

①呼び出しの時期

【供述調書の作成を要するとき】

痴漢事件で警察が呼び出しをするのは,取調べを行って供述調書を作成する,という目的であることが通常です。そのため,供述調書の作成を要すると判断されたときに呼び出しを受けることが考えられます。

現行犯で警察が対応した後の呼び出しである場合,事件当日の1週間~数週間後頃であることが多く見られます。身柄事件と異なり,呼び出しを行う在宅事件では捜査の時間制限が厳しくないため,いつ頃呼び出しを受けるかは警察のスケジュールにも大きく影響を受けやすいでしょう。

【聴き取りの不足があったとき】

一通り供述調書を作成し,警察から検察庁へ事件を送致する準備の段階に入ったとき,聴き取り不足が判明して呼び出されることもあります。その場合は,不足分の取調べと供述調書の作成を行うことになります。

警察では,必要な取り調べが終わればその旨を告げられることが一般的ですが,聴き取りに不足があった場合には最後の取調べから1週間~1か月後頃に呼び出しを受けることが多く見られるところです。聴き取りに不足があったことによる呼び出しの場合,呼び出しの理由が聴き取り不足であることを事前に教えてもらえるケースが多いです。

【押収物を還付するとき】

痴漢事件では,携帯電話などの所持品を押収される場合があります。所持品の中に犯罪の証拠や余罪を知るきっかけが含まれている可能性があるためです。
そして,押収物は捜査の必要がなくなった段階で還付(=返却)されますが,この還付は警察署に呼び出す形で行われることが一般的であるため,還付目的で呼び出しを受けることがあります。

押収物の還付は,警察での捜査が一段落する段階で行われることが通常であるため,最後の取調べから1週間~1か月ほどの時期に呼び出されることが多く見られます。
また,最後の取調べの際に押収物の還付を合わせて行うこともあります。この場合には,別途押収物の還付のために呼び出されることはありません。

②呼び出しの方法

呼び出しの方法は電話連絡となることが通常です。被疑者自身の所持する携帯電話があれば,その携帯電話番号への連絡となりやすいでしょう。
被疑者の携帯電話が押収中であるなど,被疑者自身への連絡が困難な場合は,身元引受人の連絡先など,代替となる電話番号への連絡となることが多く見られます。

痴漢事件の呼び出しに応じるときの注意点

①捜査情報を聞き出すことは困難

捜査機関は,捜査情報を一部でも被疑者に伝えることに極めて慎重な姿勢を示します。特に,初めて電話で呼び出した段階では,どんな事件に関して呼び出そうとしているのか,という点すらまともに話そうとしないことも珍しくありません。

呼び出しに応じて出頭したときも,事件に関する証拠などの捜査情報を被疑者の立場の人物に漏らすことはほとんどありません。取り調べのために必要な情報を共有してくれる場合を除き,捜査情報を把握しながら対応することは難しいと考えた方がよいでしょう。

②捜査機関の理解を期待しない

否認事件の場合,「自分の言い分を分かってもらおう」という思いで取調べに応じる人が少なくありません。しかし,このように捜査機関の理解を期待することはお勧めできません。
捜査機関の理解を期待する発想の土台には,「話せばわかってもらえるはず」という考えがあると思われますが,捜査機関はそもそも被疑者の話を受け入れたり理解してあげたりという立場にはありません。捜査機関は中立の第三者ではなく,被害者の求めに応じて犯罪捜査を行う者であって,被害者側の言い分に肩入れしやすい立場なのです。
捜査機関側に被疑者の言い分を理解する意思がない以上,捜査機関の理解に期待することは不合理と言わざるを得ないでしょう。

否認事件の場合,「疑う捜査機関」と「否認する被疑者」の平行線をたどるほかありません。この点を事前に踏まえておくかどうかで,否認事件の対応は大きく変わるはずです。

警察が呼び出す主な目的

警察から呼び出しを受ける場合,その目的には主に以下のようなケースが考えられます。

①参考人である場合

参考人とは,特定の事件について捜査の参考とすべき情報を持っているであろう人を言います。具体例としては,事件の目撃者や,被疑者の同僚・友人といった近しい人物,会社で犯罪が起きた場合の従業員などが挙げられます。

参考人の呼び出しは,犯罪捜査のために必要な情報を参考人から教えてもらうために行われるものです。参考人は捜査や処罰の対象となることが想定されていないため,逮捕をされたり前科が付いたりすることは通常ありません。

②身元引受人である場合

身元引受人とは,文字通り被疑者の身元を引き受ける人を言います。身柄を拘束しない事件(=在宅事件)の場合,捜査機関は被疑者の任意の出頭を求めることになりますが,出頭をより確かに見込めるように,適任者を警察署に呼び出し,身元引受人となることを求める取り扱いが広く行われています。

身元引受人は,同居家族(配偶者や親など)であることが一般的です。同居家族に適任者がいない場合は,勤務先の上司や被疑者の依頼した弁護士が身元引受人になることもあります。
身元引受人に対する呼び出しは,通常,被疑者の初回の取り調べが終了した後に行われます。捜査機関から身元引受人に電話連絡がなされ,被疑者を連れて帰ることと身元引受人になることが依頼される,という流れが一般的です。

身元引受人は,被疑者の監督者というのみの立場であるため,呼び出しに応じても逮捕されたり前科が付いたりすることはありません。また,呼び出しに応じなかったとしても特に問題が生じることはありません。

③被疑者である場合

被疑者とは,犯罪の嫌疑をかけられている者をいいます。ニュースなどでは「容疑者」と呼ばれますが,法律的には「被疑者」が正しい呼び方となります。

被疑者を呼び出す目的は,犯人候補として取調べを行うことに尽きます。犯罪の疑いを認めるかどうか,認める場合には具体的に何をしたか,などを確認し,記録化するために,被疑者を警察署へ呼び出します。

被疑者として呼び出される場合,事件の内容や状況によっては逮捕される可能性も否定できません。また,犯罪事実が明らかになれば,刑事処罰を受けて前科が付く可能性もあり得ます。

参考人身元引受人被疑者
呼び出しの理由事件の情報獲得被疑者の出頭確保犯人候補の取り調べ
逮捕の可能性通常なしなしあり
前科の可能性通常なしなしあり

警察の呼び出しを拒むことは可能か

警察の呼び出しには強制力がありません。そのため,呼び出しを拒んだとしても法的にペナルティを科せられることはなく,その意味では呼び出しを拒むことはどのような場合でも可能,ということになるでしょう。
もっとも,立場によって呼び出しを拒むことにリスクや問題の生じる可能性はあり得ます。

①参考人の場合

参考人は,捜査への協力を依頼されている立場に過ぎないため,呼び出しに応じなかったとしてもリスクを抱えたり問題が生じたりすることは通常ありません。

ただし,「現在は参考人にとどまる取り扱いだが,犯罪への関与が疑われる可能性がある」という状況の場合には,呼び出しに応じないことのリスクが生じ得ます。呼び出しに対して積極的な協力や情報提供を尽くす場合に比べると,呼び出しを拒んで捜査協力を一切しない場合の方が,より強く犯罪の関与を疑われやすい傾向にあるためです。
そして,具体的な犯罪への関与を疑われた場合,今度は参考人でなく被疑者として,呼び出しを受けるなどの捜査が行われる可能性も否定はできません。

そのため,呼び出しを拒むことで犯罪への関与を疑われかねない場合には,拒むリスクが生じ得ると言えるでしょう。

②身元引受人の場合

身元引受人は,犯罪への関与が想定されていない立場の人物であるため,呼び出しを拒むことで犯罪の疑いをかけられるものではありません。

もっとも,同居している被疑者の身元引受人となるよう求められ,これを拒んだ場合,被疑者に不利益が生じる可能性は考えられます。身元引受人が拒んだから逮捕をする,ということはあまりありませんが,所在確認のために警察が自宅に訪れることは珍しくありません。そうすると,周囲の人々に警察と関わっている事実が分かってしまい,私生活に影響を及ぼす恐れがあり得ます。

被疑者が同居の家族であって今後も同居を予定している,という場合には,可能な限り身元引受人としての呼び出しに応じる方が無難なケースが多いでしょう。

③被疑者の場合

被疑者に対する呼び出しは,取り調べを行うための方法の一つとして行われるものです。この点,捜査機関が被疑者の取り調べを行う方法は,逮捕して強制的に行うか,呼び出しをして任意の出頭を求めるかの二択であることが通常です。

被疑者を取り調べる方法

1.逮捕をして強制的に行う
2.呼び出して任意の出頭を求める

この点,呼び出しても任意に出頭してくれないとなると,取り調べをするためには逮捕をするほかない,という判断になる可能性もあり得ます。二択のうち一方がダメであった以上,もう一方の方法が取られるのは自然なことであるためです。

そのため,被疑者として呼び出しを受けた場合,可能な限り応じることが適切になりやすいでしょう。もちろん,あまりに回数が多かったり,あまりに時間が長かったりという場合には,その点の配慮を求めることは全く問題ありませんが,呼び出しを徹頭徹尾拒む,というスタンスを取って被疑者自身が得をすることはあまりないと考えるのが適切です。

ポイント 呼び出しを拒む行動の注意点
参考人の場合,拒むことで事件への関与を疑われないように注意
身元引受人の場合,同居する被疑者への不利益に注意
被疑者の場合,拒んだことで逮捕を誘発する可能性に注意

呼び出された場合に弁護士へ依頼するメリット

被疑者として警察に呼び出された場合には,弁護士に依頼をすることが有益になりやすいです。具体的には,以下のようなメリットが生じます。

①逮捕を回避できる

呼び出しがなされた場合,そのまま逮捕されるというケースも否定できないところです。呼び出しに応じた流れで逮捕されると,その後に弁護士への相談や依頼をすることは困難となり,一定期間の身柄拘束を強いられてしまいます。

この点,呼び出された段階で弁護士に依頼し,弁護士を通じて適切な対応を取ることで,逮捕を回避できる場合があります。具体的に逮捕を回避するための手段は,ケースによっても異なりやすいため,弁護士と十分に相談するようにしましょう。

②不適切な取り調べを防げる

警察に呼び出された際の取り調べは,捜査担当者のやり方によっては違法・不適切なものになる場合もあり得ます。強く恫喝されたり,侮辱的な発言を受けたりと,取り調べがヒートアップするほど精神的苦痛を伴うケースが珍しくありません。

この点,弁護士に依頼をしている場合,捜査担当者による不適切な取り調べは多くの場合で防ぐことが可能です。これは,捜査担当者が,弁護士の目があることに配慮するためです。
不適切な取り調べを行えば,後から弁護士を通じて問題視される可能性があるため,不用意な取り調べは行えない,というわけです。

弁護士の目を光らせる意味でも,呼び出しに際して弁護士に依頼することは有力な手段でしょう。

③前科を防げる

被疑者として呼び出される場合,その後に起訴されて前科が付く可能性を想定する必要があります。被疑者として呼び出されるということは,自分に対して捜査が行われていることが明らかであるため,その先に控える処分に無関心でいるわけにはいきません。

この点,呼び出しという早期の段階で弁護士に依頼することで,適切な弁護活動を尽くしてもらい,前科を防げる可能性が高くなります。被害者のいる事件であれば被害者との示談を目指す,否認事件であれば自分が犯人でないことを主張するなど,個別のケースに応じた適切な弁護活動を通じて,前科を防ぐ試みができるのは大きなメリットになるでしょう。

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痴漢で逮捕されるケースとは|流れ・勾留・不起訴の判断基準

痴漢事件で逮捕されるかどうかは、行為の内容だけで一律に決まるものではありません。現行犯か後日逮捕か、任意の呼び出しや出頭があったかなど、状況によって判断は大きく分かれます。逮捕された場合も、72時間以内に勾留されるのか、不起訴となるのか、示談が影響するのかなど、いくつもの分岐があります。本記事では、痴漢で逮捕に至る場面と、その後の流れや判断のポイントを解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

痴漢事件の流れ(全体像)

① 痴漢行為の発覚
現行犯で取り押さえられる場合と、防犯カメラや被害申告により後日発覚する場合があります。

② 逮捕されるかどうかの判断
警察は、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるかを重視して、逮捕の要否を判断します。

③ 逮捕後72時間以内の手続
逮捕された場合、送致を経て、勾留するかどうかが判断されます。

④ 身柄拘束が続くかどうか
勾留が認められない場合は釈放され、認められた場合でも保釈により解放されることがあります。

⑤ 処分の分かれ道
事件の内容や対応状況によって、不起訴で終了する場合と、裁判に進む場合に分かれます。

⑥ 社会生活への影響
会社や家族への影響は、逮捕の有無だけでなく、その後の手続や対応によって左右されます。

痴漢事件で「逮捕」が選択される法的な考え方

痴漢事件で逮捕されるかどうかは、行為の内容そのものだけで決まるものではありません。刑事手続において逮捕が認められるのは、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがある場合に限られています。そのため、同じような痴漢行為であっても、逮捕に至るケースと、逮捕されずに捜査が進むケースに分かれることがあります。

警察が重視するのは、「このまま任意の状態にしておいて問題がないか」という点です。住居や職業が安定しているか、呼び出しに応じる姿勢があるかといった事情は、逃亡のおそれの有無を判断する材料になります。一方で、身元が不明確であったり、連絡が取れなくなる可能性がある場合には、逮捕が選択されやすくなります。
一例として、痴漢の現場から逃げてしまったケースでは逮捕の可能性が高まる傾向が見られます。痴漢事件で疑われ逃げた場合に関する重要ポイントについては、以下の記事もご参照ください。
→痴漢を疑われて逃げたらどうなる?成立する罪と逮捕リスク

また、証拠の状況も重要です。痴漢事件では、被害者の供述、防犯カメラの映像、周囲の目撃状況などが証拠として問題になります。これらの証拠が今後失われたり、影響を受ける可能性があると判断されると、証拠隠滅のおそれがあるとして、逮捕が検討されることがあります。
痴漢事件では、事実を否認した場合に、証拠関係や供述内容がどのように評価されるかが重要になります。痴漢冤罪として否認を続ける場合の対応や初動の注意点については、別記事で詳しく整理しています。

注意したいのは、「痴漢=必ず逮捕される」という理解は正確ではないという点です。現行犯で取り押さえられた場合であっても、状況によっては逮捕に至らないケースもありますし、逆に、その場では帰宅できたとしても、後日の捜査によって逮捕されることもあります。逮捕の有無は、事件の発覚方法やその後の対応を含めた総合的な事情から判断されます。

このように、痴漢事件における逮捕は、刑罰の重さや社会的評価とは別に、手続上の必要性という観点から判断されるものです。逮捕されるかどうかを考える際には、「何をしたか」だけでなく、「どのような状況に置かれているか」という点を整理することが重要になります。

防犯カメラなどの証拠が、逮捕の判断に影響することがあります。
→ 痴漢は防犯カメラで特定される?後日捜査と証拠評価を弁護士が解説

痴漢事件では、自首によって逮捕の回避を目指すことが有益な場合もあります。具体的な内容については以下の記事をご参照ください。
→痴漢で自首すると逮捕されない?自首の効果と判断ポイント

痴漢で逮捕される主なパターン

痴漢事件における逮捕は、必ずしも一つの形に限られるものではありません。実務上は、現行犯での逮捕、後日の逮捕、そして任意の呼び出しや出頭を経て逮捕に至るケースといった、いくつかの典型的なパターンに分かれます。それぞれで判断のポイントや注意点は異なります。

まず、現行犯で取り押さえられた場合には、その場で警察に引き渡され、逮捕手続が取られる可能性があります。ただし、現行犯であっても、すべてのケースで直ちに逮捕されるわけではありません。逃亡や証拠隠滅のおそれが低いと判断されれば、逮捕されずに任意の捜査として進むこともあります。

次に、後日逮捕のパターンです。痴漢行為がその場で問題にならなかった場合でも、被害者の申告や防犯カメラの映像などをもとに捜査が進み、後日、逮捕に至ることがあります。この場合、「その場で帰宅できた」という事実だけで安心できるわけではなく、捜査の進展によって状況が変わることがあります。

また、警察からの電話連絡や呼び出しに応じて出頭した結果、逮捕されるケースもあります。任意の呼び出しや出頭は、あくまで「任意」である点が前提ですが、事情聴取の中で逮捕の要件が満たされていると判断されれば、出頭後に身柄を拘束されることもあります。出頭したからといって、必ず逮捕されないとは限らない点には注意が必要です。

このように、痴漢事件での逮捕は、発覚の経緯や捜査の進み方によって形が異なります。どのパターンに該当するかによって、その後の流れや対応の考え方も変わってくるため、自身の状況がどこに位置づけられるのかを冷静に整理することが重要になります。

痴漢事件では、現行犯で取り押さえられた場合に、逮捕手続が取られるケースもあります。
→ 痴漢の現行犯逮捕とは?要件・流れと弁護士対応を解説

痴漢で逮捕された直後に起こること

痴漢事件で逮捕された場合、その後はすぐに自由が制限され、刑事手続が進みます。この段階で重要なのは、「どのような処分が下されるか」ではなく、身柄を引き続き拘束する必要があるかどうかが判断される点です。逮捕直後は、その後の流れを左右する初期段階にあたります。

逮捕されると、警察署などでの取り調べが行われ、事件は検察に送致されます。この送致までの間も含めて、逮捕後には最大で72時間という時間枠が設けられており、その中で勾留を求めるかどうかが判断されます。ここで勾留が認められなければ、釈放され、在宅のまま捜査が続くことになります。

一方で、勾留が認められた場合には、引き続き身柄が拘束され、日常生活への影響が大きくなります。この判断では、事件の内容だけでなく、住居や仕事の状況、家族関係なども考慮されます。逮捕されたという事実だけで、勾留が当然に決まるわけではありません。

また、逮捕された場合には、家族や周囲への連絡が問題になることもあります。警察から家族に連絡が入るケースもあれば、本人の状況によって連絡が遅れることもあります。逮捕直後は、本人だけでなく、家族にとっても先の見通しが立ちにくい段階といえます。このように、痴漢で逮捕された直後は、限られた時間の中で複数の判断が重なります。まずは、勾留されるかどうかという一点が、その後の生活や手続に大きく影響するため、自分が今どの段階に置かれているのかを把握することが重要になります。

痴漢で捕まったらどうなるのかを詳細に把握されたい場合は、以下の記事もご参考ください。
痴漢で捕まったらどうなる?刑罰の内容や与える4つの影響を弁護士が徹底解説

痴漢事件で勾留されるかどうかの分岐点

痴漢事件で逮捕された場合でも、必ず勾留されるわけではありません。勾留が認められるかどうかは、裁判所が身柄拘束を続ける必要性があるかという観点から判断します。この判断は、逮捕後の手続の中でも、特に生活への影響が大きい分岐点となります。

勾留が認められるためには、主に逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあると判断される必要があります。たとえば、住居が不安定であったり、呼び出しに応じない可能性がある場合には、逃亡のおそれがあると評価されやすくなります。一方、定まった住所や職業があり、捜査に協力する姿勢が明確な場合には、そのおそれが低いと判断されることもあります。

また、証拠の状況も重要です。痴漢事件では、被害者の供述や映像資料などが中心となることが多く、今後の捜査や裁判に影響を与える可能性があると見られる場合には、証拠隠滅のおそれが指摘されることがあります。ただし、証拠がすでに確保されている場合には、その点が考慮されることもあります。

勾留が認められなかった場合には、釈放され、在宅のまま捜査が続きます。また、勾留が決定された場合でも、状況によっては保釈によって身柄が解放される可能性があります。勾留か釈放かという判断は固定的なものではなく、その後の事情によって変わる余地があります。
なお、痴漢事件の釈放に関する重要なポイントについては、以下の記事もご参照ください。
→痴漢で逮捕されたらいつ釈放?身柄解放の流れと早期対応

このように、痴漢事件における勾留の判断は、事件の内容だけでなく、本人の生活状況や対応姿勢など、さまざまな要素を踏まえて行われます。逮捕後は、勾留が当然に続くものと考えるのではなく、どの点が判断材料になっているのかを整理して捉えることが重要になります。

勾留が認められるかどうかは、逮捕後の手続の中でも重要な分岐点となります。
→ 痴漢で勾留される?要件・期間・回避の判断基準

痴漢で逮捕された場合の処分の分かれ道

痴漢事件で逮捕された場合、その後の手続は一つの結果に直線的に進むわけではありません。捜査の進展や証拠の状況などを踏まえ、不起訴となるか、起訴されて裁判に進むかという判断が行われます。この判断は、逮捕の有無とは別の段階で行われるものです。
初めての事件であるかどうかも、処分の判断材料の一つとされます。
→痴漢は初犯でも罰金?前科・示談・逮捕の判断基準を解説

不起訴となるかどうかは、検察官が事件を裁判にかける必要があるかを判断した結果によります。証拠が十分でない場合や、事案の内容が比較的軽いと評価される場合には、不起訴となることがあります。また、初めての事件であるかどうかや、事件後の対応状況が考慮されることもあります。逮捕されたという事実だけで、起訴が決まるわけではありません。

一方で、証拠関係が明確で、裁判による事実認定が必要と判断された場合には、起訴され、裁判手続に進みます。裁判では、事実関係そのものが争われる場合もあれば、事実は争わず、量刑が問題となる場合もあります。どのような形で裁判が行われるかは、事件の性質や争点によって異なります。この段階で重要なのは、結果を先取りして考えることではなく、どのような要素が処分の判断に影響しているのかを理解することです。不起訴か裁判かという分岐は、単一の事情で決まるものではなく、これまでの経過を踏まえた総合的な判断によって決まります。

起訴された場合には、刑事裁判の手続を通じて事実関係や処分が判断されます。
→ 痴漢事件の裁判とは?流れ・略式と公判・回避策を解説
捜査の結果によっては、不起訴として事件が終了することもあります。
→ 痴漢で逮捕された場合に不起訴となる条件と判断基準|弁護士解説

示談が逮捕・処分に与える影響

痴漢事件において、示談は処分の判断に影響を与える要素の一つですが、示談が成立すれば必ず有利になる、あるいは不利にならないといった単純な関係ではありません。示談がどの段階で、どのように評価されるかは、事件の状況によって異なります。

まず、示談は主に、被害者との間で民事的な解決が図られたかどうかを示す事情として考慮されます。そのため、捜査や処分の判断においては、被害回復が図られているか、当事者間で一定の整理がなされているかといった点が評価の対象になります。ただし、示談そのものが、逮捕や勾留の要否を直接左右するとは限りません。

処分の段階では、示談が成立していることが、不起訴とするかどうかを判断する際の一要素として考慮されることがあります。特に、事件の内容が比較的軽微である場合には、示談の有無が判断に影響することもあります。一方で、証拠関係や事案の性質によっては、示談が成立していても、起訴に進むケースもあります。重要なのは、示談の有無だけで処分が決まるわけではないという点です。示談は、あくまで複数ある判断材料の一つにすぎず、事件の経過や対応状況とあわせて総合的に評価されます。そのため、示談については、効果を過度に期待するのではなく、どの段階で、どのような意味を持つのかを整理して理解することが重要になります。

示談が成立しているかどうかは、処分の判断に影響することがあります。
→ 痴漢で逮捕された場合の示談|不起訴・勾留回避の判断基準

会社・社会生活への影響

痴漢事件で逮捕された場合、会社や家族など、社会生活への影響がどの程度及ぶのかを不安に感じる方は少なくありません。ただし、その影響は逮捕されたかどうかだけで一律に決まるものではありません。事件の経過や、その後の手続、周囲の関与の有無によって状況は大きく変わります。

会社に知られるかどうかは、警察から直接連絡が入るか、報道がなされるか、本人や家族がどのように対応するかといった複数の要素が関係します。逮捕されたからといって、必ず勤務先に通知されるわけではありませんが、勾留が長引いた場合や、出勤できない状態が続く場合には、説明が必要になることもあります。
なお、痴漢事件と解雇の関係については、以下の記事もご参照ください。
→痴漢で解雇される?会社をクビになるケースと回避のポイント

また、報道の有無も影響を左右する要素の一つです。痴漢事件であっても、すべてが実名で報道されるわけではなく、事件の性質や社会的関心の度合いなどによって扱いは異なります。実名報道の有無は、本人がコントロールできるものではないため、過度に一般化して考えることは避ける必要があります。

家族への影響についても、連絡のタイミングや内容によって受け止め方は変わります。逮捕直後は情報が限られ、家族が状況を把握しにくいことも多いため、周囲の不安が大きくなりやすい段階といえます。社会生活への影響は、事件そのものよりも、その後の対応や情報の伝わり方によって拡大する場合があります。

このように、痴漢事件による社会的影響は一様ではありません。重要なのは、起こり得る影響を過度に恐れるのではなく、どのような場面で影響が生じやすいのかを冷静に整理して捉えることです。

痴漢事件の報道に関しては、以下の記事もご参照ください。
痴漢は報道される?実名報道の可能性とニュースになるケース

少年が痴漢で逮捕された場合の注意点

少年が痴漢事件を起こした場合、手続は成人事件とは異なる枠組みで進められます。年齢や立場を踏まえ、処罰よりも保護や更生を重視する考え方が取られる点が大きな特徴です。そのため、同じ痴漢事件であっても、進行の仕方や判断の基準は異なります。

少年事件では、逮捕や身柄拘束が行われた場合でも、最終的には家庭裁判所に送致されるかどうかが重要な分岐点となります。家庭裁判所では、事件そのものだけでなく、少年の生活環境や成育歴、再非行のおそれなどを含めて、総合的に判断が行われます。刑事裁判とは目的や視点が異なる点に注意が必要です。

また、少年本人だけでなく、保護者の関与が重要になる点も特徴です。手続の中では、保護者の監督状況や今後の対応についても確認されることがあります。事件への向き合い方や、その後の生活環境の整え方が、判断に影響することもあります。

少年事件の場合、「大人と同じように処理されるのではないか」と不安を抱かれることがありますが、実際には手続や考え方に明確な違いがあります。そのため、成人事件の基準をそのまま当てはめて考えるのではなく、少年事件としての枠組みを理解することが重要になります。

少年が関与する痴漢事件では、成人事件とは異なる手続が取られます。
→ 痴漢の少年事件とは?逮捕・前科・学校への影響を解説
また、学生の場合における痴漢事件の注意点などについては、以下の記事もご参照ください。
→痴漢で逮捕された学生はどうなる?退学・学校処分と対処

痴漢で逮捕された場合に整理すべきポイント

痴漢事件で逮捕された場合、不安や混乱から、先の結果だけを考えてしまいがちです。しかし、重要なのは結論を急ぐことではなく、今どの段階にあり、どの判断が行われているのかを整理することです。段階ごとに意味合いは異なり、求められる対応も変わります。

まず確認すべきなのは、逮捕が行われた理由と、その後の手続の位置づけです。現行犯なのか、後日の逮捕なのか、任意の呼び出しや出頭を経たものなのかによって、状況の見え方は変わります。また、逮捕後には、勾留されるかどうかという重要な判断が行われ、その結果によって生活への影響も大きく異なります。

次に、処分の見通しについても整理が必要です。不起訴となる可能性があるのか、裁判に進む可能性があるのかは、証拠の状況や事件後の経過など、複数の要素を踏まえて判断されます。逮捕されたという事実だけで、最終的な処分が決まるわけではありません。

さらに、示談の有無や、会社・家族への影響、少年事件に該当するかどうかといった点も、それぞれ異なる判断軸を持っています。これらを一つ一つ切り分けて考えることで、過度に不安を広げることを避けることができます。

痴漢事件で逮捕された場合は、個別の状況によって考えるべき点が異なります。まずは、現在の段階と、今後想定される分岐を整理することが、その後の対応を考える上での出発点になります。

なお、痴漢事件の逮捕後に重要となる取り調べへの対応については、以下の記事をご参照ください。
痴漢の取り調べとは?聞かれる内容・黙秘権と対応を解説

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【痴漢事件の不起訴処分】不起訴処分となるための方法や不起訴処分の効果などを弁護士が解説

このページでは,痴漢事件の不起訴処分について知りたい方へ,不起訴処分を目指す方法や不起訴処分となった場合のメリットなどを弁護士が徹底解説します。不起訴処分を目指す場合の参考にしてみてください。

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痴漢事件で不起訴を目指す方法

①認め事件の場合

認め事件とは,犯罪の疑いを認めて争わない事件を言います。自分が犯人であり,自分が疑われている通りの犯罪行為をした,という場合です。

痴漢事件は,認めであれば起訴することが通常です。漫然と対応しているだけでは,「初犯だから」という理由で不起訴になることはないと考えるべきでしょう。

この点,痴漢事件に関しては,被害者の宥恕(許し)があることで不起訴となる可能性が飛躍的に上がります。事実上,「宥恕=不起訴」と考えることのできる場合も少なくありません。
そのため,被害者の宥恕を得られるかどうかが非常に重要ですが,宥恕を獲得するための具体的な手段は示談に尽きます。示談交渉を試み,被害者に応じてもらうことができた場合に,示談の内容として宥恕が獲得できるのです。

そのため,認め事件で不起訴を目指す場合にはとにかく示談を目指すのが有益でしょう。

②否認事件の場合

否認事件とは,犯罪の疑いを認めず,自分に犯罪が成立するかどうかを争う事件を言います。自分は無関係である,自分がした行為は疑われているような内容ではない,などと主張する場合が代表例です。

痴漢事件で否認の場合,示談による解決はあまり望ましくないのが通常です。示談が成立して被害者の宥恕が得られれば,認め事件と同じく不起訴になりやすいことに間違いはありませんが,犯罪行為をしていないにもかかわらず被害者への謝罪や示談金の支払を行うのは,解決方法として有益とは言い難いためです。

否認事件の場合は,起訴不起訴の判断を行う検察官に,犯罪事実が立証できないから不起訴にする,との判断をしてもらうことが適切な方法になります。検察官は,犯罪が立証できれば起訴する(できる),犯罪が立証できなければ起訴しない(できない)という基準で判断することになるため,検察官が犯罪事実を立証できないと判断すれば,不起訴処分に直結します。

痴漢事件の場合には,犯罪立証のための客観的な証拠に乏しいことが多いため,被害者や目撃者の供述が最重要な証拠となるのが一般的です。そのため,否認事件で不起訴を目指す場合には,「被害者や目撃者の供述では犯罪の立証ができない」と検察に判断してもらうことを目指すべきでしょう。

ポイント
認め事件では示談を目指す
否認事件では,被害者や目撃者の供述では犯罪立証できないとの判断を目指す

痴漢事件で不起訴になる可能性

痴漢事件は,不起訴処分となる可能性が大いにある事件類型ということができるでしょう。認め事件,否認事件のいずれについても,現実に不起訴で解決する例は多数見られます。

痴漢事件が捜査・処分の対象となるのは主に現行犯で,現行犯では犯罪事実の明らかな場合が多いため,痴漢事件の大多数は認め事件になりやすいところです。そのため,痴漢事件における不起訴の可能性は,被害者との示談の可能性と大きな関係があります。

この点,痴漢事件では,被害者にとっても示談が少なからず有益な場合が多く,被害者の感情面を理由に拒絶されるのでなければ,示談での解決を見込むべきケースが少なくありません。
痴漢事件は,示談で不起訴になる可能性が十分にある事件と言えるでしょう。

ポイント
痴漢事件は,示談で不起訴になる可能性が大いにある

不起訴の意味・種類

不起訴処分とは,検察官が事件を起訴しないとする処分をいいます。不起訴になった事件は,裁判の対象にならず,刑罰が科せられる可能性がなくなるため,前科がつくこともなくなります。

不起訴処分には,以下のような類型があります。

不起訴処分の類型

1.嫌疑なし
捜査の結果,犯罪の疑いがないと明らかになった場合です。真犯人が明らかになった場合などが代表例です。

2.嫌疑不十分
捜査を遂げた結果,犯罪を立証するための証拠が不十分であり,犯罪事実を立証できないと判断された場合です。具体例としては,犯人が特定できない場合などが挙げられます。

3.起訴猶予
犯罪事実は明らかに立証できるものの,犯罪者の年齢や性格,過去の経歴,犯行動機,犯罪後の事情などを踏まえ,検察官があえて起訴をしない場合です。被害者と示談が成立した場合などが代表例とされます。

4.その他の類型

・訴訟条件を欠く場合
→被疑者が死亡した場合,公訴時効が完成した場合など

・罪とならず
→被疑者の行為が犯罪に当たらない場合,被疑者が14歳未満の場合など

なお,犯罪事実が間違いなくある認め事件の場合,不起訴になる手段は基本的に「起訴猶予」を目指す以外にありません。起訴猶予は,検察官から大目に見てもらうという意味合いの処分であるため,認め事件では誠意ある対応を尽くすことが非常に重要となるでしょう。

ポイント
不起訴処分には,嫌疑なし,嫌疑不十分,起訴猶予等の類型がある
認め事件では起訴猶予を目指す必要がある

逮捕と不起訴の関係

逮捕をされてしまった場合でも,不起訴にならないわけではありません。逮捕された事件の最終的な処分が不起訴となって終了することは,数多く見られるところです。一方,逮捕されなかった事件(いわゆる在宅事件)でも不起訴処分になるとは限らず,在宅事件の処分が起訴という場合も珍しくありません。

これは,逮捕が捜査を行う手段の一つであるのに対し,不起訴が捜査の結果なされる処分であることに原因があります。
刑事事件の捜査は,逮捕をするかしないか,いずれかの方法で進行しますが,いずれの捜査手法を取ったとしても,起訴されるか不起訴となるかは同様に判断されることとなるのです。

刑事手続の流れ

なお,起訴されやすい事件が逮捕されやすい,という側面はあります。起訴されやすい事件は,類型的に重大な事件であることが多いところ,重大な事件では,重い処分を免れるために逃亡や証拠隠滅をされる恐れが大きいと判断される傾向にあると考えられます。そのため,被疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぐための逮捕が必要になりやすいのです。
裏を返せば,逮捕された事件では,不起訴を獲得するにはより積極的な努力が必要となりやすいでしょう。弁護士に相談の上,不起訴を目指すために適切な対応を試みるようにしましょう。

ポイント
逮捕は捜査の手段,不起訴は捜査を終えた後の処分
逮捕と不起訴は両立する
起訴されやすい事件は逮捕されやすい傾向にある,という側面も

不起訴になった場合の効果

不起訴処分となった場合には,以下のような効果が生じます。

①前科がつかない

前科とは,刑罰を科せられた経歴を指しますが,不起訴となった場合には刑罰が科せられません。そのため,不起訴となれば刑罰の経歴=前科がつくことなく,刑事手続が終了することになります。

そして,前科がつかないことには,以下のようなメリットがあると考えられます。

前科がつかないことのメリット

1.資格に対する影響を避けられる

国家資格を用いた職業の場合,前科によって資格制限が生じると,仕事の継続ができない可能性が生じてしまいます。
前科がつかなければ,資格制限は生じず,仕事への悪影響もありません。

2.就職・転職への影響を避けられる

前科のあることは,就職や転職の差異に不利益な事情として考慮されやすい傾向にあります。
前科がつかなければ,履歴書に前科を記載する必要もなく,就職先に刑事事件のことを知られずに済みます。

3.海外渡航の制限を避けられる

前科がある場合,パスポートやビザ,エスタなどの手続に悪影響が生じ,海外渡航が認められない場合があります。
前科がつかなければ,海外渡航の制限が生じる事情もなくなるため,海外渡航を自由に行うことが可能です。

②釈放される

不起訴処分となった場合,身柄拘束されている状況であれば速やかに釈放されます。不起訴処分が出た以上,捜査のために身柄拘束を継続する必要がなくなるためです。

③逮捕されない

不起訴処分とされた事件では,その後に逮捕されることがありません。逮捕は,捜査を行う場合の選択肢の一つであるところ,不起訴処分によって捜査が終了するため,逮捕を行う余地もなくなるからです。
ただし,余罪がある場合には,余罪での逮捕が行われる可能性が残ります。

④取り調べを受けない

不起訴処分によって捜査が終了するため,警察や検察から取り調べを受けることがなくなります。もっとも,不起訴処分は今後の捜査を禁じるものではないため,新しい証拠が発見された場合には捜査が再開され,改めて取調べを受ける場合もあり得るところです。

痴漢事件で不起訴を目指す場合の注意点

①示談の試みには弁護士が必要

痴漢事件で不起訴を目指す場合は,示談が最も有力な手段になりやすいですが,実際に示談を試みるためには弁護士に依頼することが必要です。自分の代理人となる弁護士を通じて,弁護士と被害者との間で連絡を取ってもらうのが,示談の具体的な流れになります。

依頼を受けた弁護士は,捜査機関に示談希望の旨を伝え,捜査機関から被害者へ,示談交渉を受けるかどうかの意思確認をしてもらいます。被害者が了承した場合には,弁護士と被害者との間で連絡先交換となり,示談交渉が始まる,という流れになります。

示談交渉の流れ

②余罪があると不起訴が困難になり得る

起訴不起訴の判断結果は,複数の事件があれば事件ごとに行われます。そのため,一つの事件で示談ができても,不起訴になるのはその1件のみであり,余罪があれば別途不起訴を目指す必要があります。
事件が複数あれば,それだけ示談を拒否される可能性も高くならざるを得ない上,経済的に全件で示談を行うことが難しい場合も生じ得ます。そうすると,余罪があって捜査処分の対象となる事件が多い場合,不起訴が困難になる可能性に注意が必要でしょう。

③被害者や目撃者の供述内容は確認できない

否認事件では,被害者や目撃者の供述によって犯罪が立証できるか,という点が非常に重要なポイントとなりますが,肝心の供述内容を事前に確認する手段は法的にはありません。
事件が起訴され,裁判所への証拠として提出されることになれば,供述内容を供述調書の形で確認することができますが,あくまで起訴された後の話にとどまります。被害者や目撃者の供述は重要な捜査情報のため,起訴前の段階で捜査機関から提供してもらうことは極めて困難と言わざるを得ないでしょう。

そのため,否認事件で不起訴を目指す場合,被害者や目撃者の供述内容はこちらで想定する形を取るほかありません。「想定される供述内容がすべて信用できない=供述内容が信用できる可能性はない」という主張が代表的な方法になるでしょう。

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2024/12/6
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