酔っ払って喧嘩になり、相手を殴って警察を呼ばれた場合、「逮捕されるのか」「酔っていて記憶がなくても罪に問われるのか」と不安になる方も多いでしょう。喧嘩では、相手にけがを負わせたか、警察官に暴行を加えたか、店の備品などを壊したかによって、問われる罪名や責任の範囲が変わります。

本記事では、酔っぱらいの喧嘩で成立する可能性がある罪名、殴った側が負う刑事・民事上のリスク、謝罪や示談の進め方、不起訴を目指すための対応を解説します。

飲酒していたことや当時の記憶が曖昧であることだけでは、刑事責任を免れません。被害者との示談が成立しているか、取調べでどのように供述したかなどは、その後の処分にも影響します。警察から連絡を受けていない段階であっても、事件を放置せず、事実関係を整理したうえで早期に対応する必要があります。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

酔っぱらいの喧嘩で起こり得る法的責任と罪名

暴行罪

暴行罪は、人の身体に対して不法な有形力を行使し、相手にけがを負わせなかった場合に成立します。酒席で相手を殴る、蹴る、突き飛ばす、胸ぐらをつかむ行為などが典型例です。実際に攻撃が当たらなくても、相手に向かって物を投げ付けるなど、身体に危険を及ぼす行為であれば暴行と評価される場合があります。

暴行罪と傷害罪を分ける基準は、暴力の強さではなく、基本的には相手に傷害結果が生じたかどうかです。相手にけがが確認されなければ暴行罪となり、刑法第208条により、2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料が定められています。酔って力加減が分からなかったという事情だけで、暴行の故意が否定されるわけではありません。

傷害罪

相手を殴ったり蹴ったりした結果、けがを負わせた場合には傷害罪が成立します。出血や骨折だけでなく、打撲、捻挫、歯の破損なども傷害に含まれます。外見上は軽傷に見えても、被害者が医療機関を受診して診断書を提出すれば、暴行罪ではなく傷害罪として捜査される可能性があります。

傷害罪の法定刑は、刑法第204条により、15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。実際の処分を判断する際には、けがの程度や治療期間、暴行の回数、凶器使用の有無、被害者にも攻撃行為があったかなどが考慮されます。喧嘩の相手も殴り返していた場合でも、双方に傷害罪が成立することはあるため、先に手を出されたというだけで責任を免れるとは限りません。

公務執行妨害罪

喧嘩の通報を受けて駆け付けた警察官が職務を行っている際に、警察官へ暴行または脅迫を加えると、公務執行妨害罪が成立します。警察官を殴る行為だけでなく、制止しようとする警察官を突き飛ばす、腕を振り払って転倒させるなど、職務の遂行を妨げる態様の有形力の行使も対象になります。

公務執行妨害罪の法定刑は、刑法第95条により、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。警察官の職務を実際に中止させることまでは必要ありません。一方、警察官の指示に従わなかっただけで直ちに同罪が成立するわけではなく、職務中の警察官に対する暴行または脅迫があったかが判断基準になります。警察官にけがを負わせた場合には、傷害罪についても捜査の対象となります。

器物損壊罪

喧嘩の最中に店のテーブルや食器を壊したり、相手のスマートフォンや眼鏡を投げて破損させたりした場合には、器物損壊罪が成立します。物を完全に壊した場合に限らず、物の本来の用途に使用できない状態にした場合も「損壊」に含まれます。刑法第261条が定める法定刑は、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料です。

器物損壊罪の成立には、物を壊すことについての故意が必要です。酔って転倒し、その拍子に偶然グラスを割っただけであれば、原則として同罪は成立しません。ただし、刑事責任を負わない場合でも、過失によって店や他人の物を壊した以上、修理費や買替費用を賠償する民事上の責任は残ります。また、器物損壊罪は告訴がなければ起訴できない親告罪であるため、所有者への被害弁償と示談が刑事手続に直接影響します。

酔っ払って人を殴ってしまうリスク

飲酒していたことだけでは刑事責任は免れない

刑法上、行為時に心神喪失の状態であれば処罰されず、心神耗弱の状態であれば刑が減軽されます。しかし、酒に酔っていたというだけで、直ちにこれらの状態に該当するわけではありません。責任能力の有無は、行為の善悪を判断する能力や、その判断に従って行動を制御する能力が残っていたかという観点から判断されます。

事件当時の記憶がないという「ブラックアウト」と、責任能力を失っていたことも同じではありません。飲食店まで移動している、相手と言葉を交わしている、喧嘩の後にその場を離れているなど、前後の行動に一定のまとまりがあれば、通常は責任能力があったと判断されます。したがって、取調べで単に「酔っていて覚えていない」と述べても、刑事責任を免れる理由にはなりません。

暴行罪・傷害罪に問われる

酔っ払って相手を殴ると、相手にけががなければ暴行罪、けがを負わせれば傷害罪に問われます。どちらの罪として捜査されるかは、本人の認識だけでなく、被害者の診断書、負傷箇所の写真、防犯カメラ映像、目撃者の供述などから判断されます。事件直後には暴行事件として扱われていても、後から診断書が提出されて傷害事件に切り替わる場合があります。

警察が現場へ駆け付けたからといって、必ず逮捕されるわけではありません。逮捕の必要性は、暴行の態様やけがの程度に加え、逃亡や証拠隠滅のおそれ、被害者への再接触のおそれなどを踏まえて判断されます。逮捕されずに帰宅を認められた場合でも、後日警察から呼出しを受け、捜査を経て検察官へ事件が送られることがあります。在宅事件になっても不起訴が決まったわけではなく、起訴されて罰金を含む有罪の裁判が確定すれば前科が付きます。

損害賠償責任を負う

相手を殴ってけがを負わせた場合には、刑事責任とは別に、不法行為に基づく損害賠償責任を負います。賠償の対象には、治療費、通院交通費、仕事を休んだことによる休業損害、精神的苦痛に対する慰謝料などが含まれます。後遺障害が残れば、将来得られたはずの収入に相当する逸失利益や後遺障害慰謝料も問題となり、けがが重いほど賠償額は大きくなります。精神的損害についても、財産以外の損害として賠償対象になります。

相手から先に暴行を受けていた場合や、双方が積極的に殴り合っていた場合には、その経緯が賠償額の判断に反映されることがあります。ただし、相手にも落ち度があるというだけで、自分の賠償責任がなくなるわけではありません。被害者に生じた損害を確認し、適切な金額を支払って示談を成立させれば、民事上の解決だけでなく、被害回復を実現した事情として刑事処分でも考慮されます。刑事手続と損害賠償は別の問題ですが、示談によって両方をまとめて解決できる場合があります。

仮に酔っぱらって責任能力を失った状態での喧嘩だったとしても、刑事責任を免れるとは限りません。基本的には、酔っぱらっていた場合でも暴行を正当化できるわけではない、と考えるべきでしょう。

殴ってしまった側が早期解決・不起訴を獲得するための対処法

被害者への謝罪と示談を進める

暴行・傷害事件では、被害者に謝罪し、生じた損害を賠償することが早期解決の中心になります。示談金の額は一律ではなく、けがの程度、治療期間、休業の有無、暴行の態様などを踏まえて決めます。治療が続いている場合には、すでに発生した治療費などを先に支払い、今後発生する損害の扱いを協議する方法も考えられます。

示談書には、謝罪と示談金の支払いだけでなく、民事上の請求関係を解決することや、被害者が処罰を求めない場合にはその意思を記載します。暴行罪や傷害罪は親告罪ではないため、示談が成立しても必ず事件が終了するわけではありません。しかし、被害が回復され、被害者の許しを得ていることは、検察官が起訴・不起訴を判断する際の重要な事情になります。感情的な接触によって被害者の不安を強めないよう、示談交渉は弁護士を通じて進めることが適切です。

事件の経緯を整理して取調べで正確に供述する

酔っていて記憶が曖昧な場合でも、覚えていることと覚えていないことを区別して整理する必要があります。飲酒した場所と量、喧嘩が始まった原因、どちらが先に手を出したか、暴行の回数や方法、事件後の行動などを時系列に沿って確認します。同行者とのやり取り、店の領収書、通話履歴、位置情報なども、当時の状況を思い出す手掛かりになります。

取調べでは、記憶にないことを推測で認めたり、反対に客観的証拠と矛盾する否認を続けたりしないことが大切です。相手から先に攻撃を受けた場合や、身を守るために行動した場合には、その具体的な状況も説明しなければなりません。供述調書は後の刑事処分でも用いられるため、内容を十分に確認し、事実と異なる部分があれば訂正を求めます。署名や押印をする前に、供述した内容が正確に記載されているか確認することが必要です。

早期に弁護士へ相談して不起訴に向けた弁護活動を始める

警察から連絡を受ける前でも、事件を起こした事実があれば弁護士へ相談できます。弁護士は、本人から事情を聴き、防犯カメラ映像や関係者の供述などから予想される捜査内容を検討したうえで、警察への出頭や取調べへの対応方針を整理します。自ら警察へ出頭すべきかについても、事件の重大性や逃亡・証拠隠滅のおそれを踏まえて判断する必要があります。

暴行や傷害の事実を認める事件では、被害者との示談、反省状況、再発防止策、家族による監督などを具体的に示し、起訴猶予による不起訴を求めることが中心になります。事実関係に争いがある場合には、防犯カメラ映像や目撃者などの証拠を収集し、正当防衛の成否や暴行と負傷との因果関係を検討します。不起訴に向けた活動は、検察官が処分を決める前に行う必要があるため、被害者との示談を含めて早期に着手することが重要です。

喧嘩で暴行してしまった場合、相手の処罰感情が刑事処分の結論を大きく左右しやすいです。示談の重要度が非常に高いと言えるでしょう。

酔って人を殴ってしまった方のよくある質問

自分で被害者を探して直接示談交渉しに行ってもいいですか?

A. 被害者の自宅や勤務先を探し、予告なく会いに行くことは避けるべきです。謝罪する目的であっても、被害者からは報復や口止めを目的とした接触と受け取られるおそれがあります。繰り返し連絡した場合には、被害者の処罰感情が強くなり、逮捕や勾留の必要性を判断する際にも不利な事情となります。

示談を希望する場合は、弁護士から警察や検察官へ連絡し、被害者が交渉に応じる意向を持っているか確認する方法が適切です。被害者が了承した場合に限り、捜査機関から弁護士へ連絡先が提供され、謝罪や示談金について交渉します。被害者の連絡先をすでに知っている場合でも、本人から直接連絡せず、弁護士を窓口にすることが安全です。

相手も酔っていて喧嘩を売ってきたのですが「正当防衛」になりますか?

A. 相手から悪口を言われたり、喧嘩を挑発されたりしただけでは、殴り返しても正当防衛にはなりません。正当防衛が成立するには、相手による差し迫った違法な攻撃があり、その攻撃から自分や第三者を守るために、必要な範囲で行動したことが必要です。単なる挑発や口論は、殴ることを正当化する理由にはなりません。

相手が先に殴りかかってきた場合でも、直ちにすべての反撃が正当防衛になるわけではありません。攻撃を止めるために相手を押し返した場合と、相手が攻撃をやめた後に仕返しとして何度も殴った場合とでは評価が異なります。双方が合意のうえで積極的に殴り合ったと判断されると、正当防衛は認められにくくなります。攻撃の継続状況、反撃の目的、回数や強さを具体的に検討する必要があります。

示談が成立すれば会社や家族にバレずに解決できますか?

A. 示談が成立しても、会社や家族に知られないことまでは保証できません。暴行罪や傷害罪は親告罪ではないため、被害者が許しても捜査は継続できます。逮捕・勾留によって長期間出勤できなくなれば、勤務先への説明が必要となり、家族にも身柄拘束の事実を知られる可能性が高くなります。

一方、逮捕されずに在宅事件として捜査され、勤務時間外の取調べで対応できれば、会社へ自動的に事件が通知されるわけではありません。示談が早期に成立して不起訴となれば、刑事裁判への出廷も不要となるため、周囲に知られる可能性を抑えられます。ただし、警察から自宅へ連絡が入る場合や、報道される場合もあります。示談は発覚を完全に防ぐ手段ではなく、早期解決によって発覚の可能性を下げるための対応と位置付ける必要があります。

まとめ:酒席で人を殴ってしまったら放置せずすぐにプロ(弁護士)へ相談

酔っ払って人を殴った場合、飲酒していたことや記憶がないことだけでは刑事責任を免れません。相手のけがの有無によって暴行罪または傷害罪に問われるほか、警察官への暴行や店の備品の破損によって、別の犯罪が成立する可能性もあります。刑事責任とは別に、治療費や慰謝料などを支払う損害賠償責任にも対応しなければなりません。

事件後は、記憶に残っている事実や客観的な資料を整理し、取調べで正確に供述する必要があります。被害者への直接接触は避け、弁護士を通じて謝罪、被害弁償、示談交渉を進めることが適切です。不起訴を目指すための活動は、検察官が処分を決める前に行う必要があるため、警察から呼出しを受ける前であっても、できる限り早く弁護士へ相談しましょう。

刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内することができます。
早期対応が重要となりますので,お困りごとがある方はお早めにお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所