業務上横領事件で自首を検討するべき場合の特徴や意外な注意点とは?

このページでは,業務上横領事件の自首に関して,自首をすべきかどうか,自首のメリット,自首を試みる際の具体的な方法などを弁護士が解説します。自首を検討する際の参考にしてみてください。

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業務上横領事件で自首をするべき場合

①当事者間の解決が見込まれない場合

業務上横領事件では,当事者間で解決ができれば,強制的な捜査手続や重大な刑事処罰は考えにくいのが通常です。そのため,当事者間で解決できるケースでは,自首を行う実益はあまり大きくなりにくいでしょう。むしろ,被害者側が自首を望んでいない場合,当事者間の解決に悪影響を及ぼす可能性もあり得ます。

一方,当事者間で解決できる見込みがない場合,基本的に解決を目指す手段はなくなってしまい,後はいつ捜査が行われるか,待つほかなくなることも珍しくありません。いつ捜査を受けるか分からず待ち続けるのは,大きな精神的負担が避けられず,耐えられなくなってもおかしくはありません。

このように,当事者間での解決見込みがない場合に有力な手段となるのが自首です。自首を通じて自ら捜査を求める動きを取ることで,いつどのような捜査を受けるのか分からない,という不安を解消することが可能になります。また,捜査の方法そのものも緩やかになりやすいでしょう。

ポイント
当事者間で解決ができれば,自首の実益は大きくない
自首により,いつ捜査されるか分からない不安を解消できる

②事件の規模が大きい場合

自首は,逮捕の回避を大きな目的の一つとするものです。自ら捜査機関に自分の犯罪を明らかにすることで,逮捕をする必要はない,との判断を引き出すのが,自首の最初の目的と言ってよいでしょう。

この点,業務上横領事件では,事件の規模が大きければ大きいほど,捜査に際して逮捕される可能性が高まります。刑事責任が重大であることに加え,必要な証拠が多岐に渡りやすいため,逃亡や証拠隠滅を防ぐ目的で逮捕が選択されやすいのです。
そのため,事件の規模が大きい場合には,「自首しなければ逮捕されていたが,自首したことで逮捕を回避できた」という場合が増加しやすいところです。逮捕リスクが高いケースほど,自首を積極的に検討することをお勧めします。

ポイント
事件規模が大きいほど逮捕の恐れが大きい
自首が逮捕回避の大きなポイントになり得る

③日常生活への支障を防ぎたい場合

刑事事件では,捜査や処罰を受けることで日常生活に支障が生じることが強く懸念されます。逮捕されれば社会生活と引き離されてしまい,捜査されていることが周囲に知られれば不名誉な評価が避け難いでしょう。

自首を行った場合,捜査機関にとっては被疑者の捜査協力が確実に見込まれることになるため,日常生活に支障が生じやすい捜査方法を避けてくれるケースが多くなります。捜査機関からの一種の配慮と言えるでしょう。
捜査の方法について配慮してもらうことで,周囲への悪影響を防ぎたい場合には,自首が非常に有力な手段となります。

ポイント
自首した場合,捜査方法を配慮してもらえるケースが多くなる

自首とは

自首とは,罪を犯した者が,捜査機関に対してその罪を自ら申告し,自身に対する処分を求めることをいいます。自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告することが必要とされます。

また,自首が成立するためには,犯罪事実や犯人が捜査機関に発覚する前でなければなりません。これは,犯罪事実自体が発覚していない場合のほか,犯罪事実は発覚しているものの犯人が特定できていない場合も含まれます。つまり,犯罪事実か犯人のどちらかが発覚していなければ,自首が成立するということになります。

ポイント 自首の意味
自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告し,自分への処分を求めること
犯罪事実又は犯人が特定できていない段階であることが必要

自首のメリット

①刑罰の減軽事由に当たる

自首は,刑法で定められているものですが,その定めは「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは,その刑を減軽することができる。」という内容です。つまり,自首が成立した場合の直接の効果は「刑を減軽できる」ということになります。

刑罰が減軽される場合,基本的には言い渡される刑罰の上限が2分の1になります。そのため,自首によって刑罰が減軽されると,自首がなかった場合に比べて最大でも半分の刑罰までしか科せられません。

なお,「刑を減軽することができる」という定めは,任意的減軽と呼ばれます。これは,減軽することも減軽しないこともできる,というもので,自首したから必ず減軽の対象になるわけではありません。この点の最終的な判断は裁判所に委ねられますが,自首が刑罰の重みに大きく影響することは間違いありません。

ポイント
自首は刑の任意的減軽事由

②逮捕が回避できる可能性が高まる

被疑者が自首をした事件では,その被疑者を逮捕する可能性が非常に低くなることが一般的です。それは,逮捕の必要性が大きく低下するためです。

逮捕の要件には,「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」があるとされています。

逮捕の要件

1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。

2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。

この点,自首をする人物は,自分の犯罪事実を自発的に捜査機関へ告げ,その事件に関する刑事処分を受けるきっかけを自ら作っています。そのため,自分から捜査や処分を求めている人が逃亡や証拠隠滅をすることは考えにくいと言わざるを得ません。
そうすると,自首がなされた事件は,類型的に逃亡や罪証隠滅の恐れ(逮捕の必要性)が低いため,逮捕を回避できる可能性が高くなるのです。

逮捕の回避は,自首を試みる場合の大きな目的の一つと言えます。自分から捜査機関に犯罪を打ち明ける対価として,逮捕を避けてほしいと申し出る試みである,ということもできるでしょう。
ただし,必ず逮捕が防げるというわけではありません。自首をしたとしても逮捕せざるを得ないような重大事件であれば,自首は刑罰の軽減を目指して行うべきことになるでしょう。

ポイント
自首したケースは逮捕の必要性が低いと判断されやすい

③示談の可能性が高まる

被害者のいる事件の場合,自首をした被疑者自身が加害者であることが明らかです。そのため,被疑者ががさらに処分の軽減を図ろうとする場合,示談の試みが非常に大切となります。なぜなら,被疑者の刑事処分は,被害者の意向を可能な限り反映したものになるためです。
示談によって被害者の許しが得られた場合,許したという被害者の意向を反映して刑事処分を軽減することがほとんどでしょう。事件によっては,被害者が加害者の刑罰を希望しない,という意向を表明すれば,事実上不起訴が見込まれると言えるケースも少なくありません。
それだけ,示談の成否は刑事処分を決定的に左右し得るものです。

この点,被害者としては,加害者が自首をしたのか,警察に特定されて捕まったのかによって,示談を受け入れる気持ちが生じるかどうかに大きな違いが生じます。自首した場合の方が,被害者が示談を受け入れる気持ちになりやすいことは明らかです。
そのため,自首という行動は,その後の示談が成立する可能性を高めるという大きなメリットももたらすものと言えます。

ポイント
自首した場合の方が,被害者に示談を受け入れられる可能性が高くなる

④不起訴の可能性が高まる

自首した場合,刑の任意的減軽事由となりますが,これは刑罰を受けることを前提としたお話です。受ける刑罰が半減する可能性がある,というわけですね。

この点,自首が処分を軽減させるのは,決して刑罰が科せられる場合のみではありません。そもそも刑罰を科すかどうか,つまり起訴するか不起訴にするか,という局面でも,自首は処分を軽減させる事情として考慮されます。それは,自首をすることで刑事責任を軽くすべき,という考え方がこの局面にも当てはまるためです。

事件によっては,自首の有無で起訴不起訴が分かれるケースもあり得ます。自首以外に不起訴の判断を促せる事情がなかったとしても,自首を考慮して不起訴になる場合があり得るのは,自首の大きなメリットでしょう。

ポイント
自首を理由に不起訴処分が得られる場合もある

自首の方法と流れ

自首を円滑に,効果的に行うためには,適切な手順を踏んで自首することが望ましいところです。適切な自首ができれば,自首のメリットがより早期に,明確に得られるでしょう。

①自首の方法1.警察への連絡

自首は,警察署に直接出頭して行うこともできますが,事前に警察署に電話連絡をすることがより適切でしょう。事前連絡なく出頭した場合,警察側に自首を受け入れる体制や準備がなく,かえって手続が煩雑になってしまう可能性があります。

連絡先=自首をする先の警察署としては,事件の発生場所を管轄する警察とすることが最も円滑になりやすいです。ただ,自分の生活圏と事件の発生場所が遠く離れている場合は,自分の住居地の最寄りの警察署でもよいでしょう。

自首先の警察署

1.事件の発生場所を管轄する警察署
2.自分の住居地を管轄する警察署

また,連絡先は,自首をする事件分野を取り扱う担当課,担当係に行うことが望ましいです。事件を取り遣う部署は事件類型ごとに異なりますが,一般的には以下のような区別が可能です。

事件を取り扱う部署の例

暴行・傷害
→刑事課 強行犯係

詐欺・横領
→刑事課 知能犯係

窃盗
→刑事課 盗犯係

痴漢・盗撮
→生活安全課

児童買春・児童ポルノ
→生活安全課(少年係)

警察に連絡をした際は,事件を取り扱う係に電話を回してもらい,担当部署の電話応対者に自首を希望する旨とその内容を伝えるとスムーズになりやすいです。

なお,事件の概要や自首を希望するに至った経緯などを伝える可能性が高いため,整理して伝えられるよう,事前にメモを作成するなどして伝えたいことをまとめるのが望ましいでしょう。

②自首の方法2.警察への出頭

予定した日時に警察へ出頭します。
出頭した際にまずどこへ行き,どのようにして担当者に話を通してもらうかは,事前連絡の時点で確認しておくことが望ましいでしょう。

出頭後は,警察所で話を聞かれることが想定されます。どの程度の時間,どのような手続を行うことになるのかは事前の想定が困難であるため,当日の予定は終日空けておくことが適切です。

警察の受付から担当者につないでもらうと,担当課の取調室などへ案内されることが一般的です。

③自首後の流れ1.取り調べの実施

自首後は,まず事件の内容や流れについて取調べを受けることになります。自首をより円滑に進めるため,事前の準備に沿って事件の内容をできるだけ詳細に話すようにしましょう。
取調べの内容としては,以下のような事項が想定されます。

自首後の取調べ内容

1.事件の日時・場所
2.事件の具体的な内容
3.事件が発生した理由
4.自首を試みた経緯・理由
5.身上経歴

自首は,自分の犯罪行為を申告して処分を求めるものであるため,対象となる犯罪の内容については,何かを包み隠していると疑われないよう真摯な供述に努めることが有益です。また,反省・後悔の意思や,被害者に対する謝罪の意思が十分に伝わるような対応が尽くせれば,より望ましい内容になるということができるでしょう。

ポイント
自首を受けた警察で取調べが行われる
真摯な供述を心掛け,反省や謝罪の意思が伝わることを目指す

④自首後の流れ2.自首の受理

警察では,取調べで自首をした人から一通りの話を聞いた後,「自首調書」を作成します。
内容や形式は一般的な供述調書と大きく異なりませんが,自首を受理したことを明らかにするため自首調書を作成するものとされています。

自首調書には,事件の概要,本人の身上経歴,自首をした理由や経緯などが記載されます。

ポイント
自首を受け付けた警察では「自首調書」が作成される

⑤自首後の流れ3.逮捕の判断

自首を受けた警察では,取調べの内容等を踏まえ,その被疑者を逮捕するかどうか判断することになります。自首した事件では,被疑者を逮捕する必要は大きく低下すると理解されるのが通常ですが,それでも逮捕の可能性が否定できるわけではありません。

逮捕をするかどうかは,逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れを主な基準に判断されますが,自首をしているケースでは自首後に逃亡することは想定されづらいと言えます。そのため,罪証隠滅の恐れがどの程度あるか,という基準が重視されやすいでしょう。
そして,自首を通じて罪証隠滅の恐れがないと判断してもらうためには,以下のような対応方法が考えられます。

逮捕を防ぐための自首の方法

1.時系列に沿った詳細な供述に努める
→隠し事なく供述していると評価してもらえれば,その上で証拠隠滅する恐れがあるとは判断されづらい

2.証拠の持参
→事件の内容に応じて想定される物的証拠を積極的に持参することで,罪証隠滅の余地がないと判断してもらいやすい

自首のやり方によって逮捕されるかどうかに差が生じる可能性もあるため,自首に際しては罪証隠滅の恐れがないと理解してもらうことをできる限り目指すようにしましょう。

ポイント
逮捕の有無は,罪証隠滅の恐れの有無によって判断されやすい

業務上横領事件の自首は弁護士に依頼すべきか

業務上横領事件で自首を検討する場合,弁護士に依頼の上,弁護士の専門的な判断を仰ぐことが適切です。自首という大きな決断を行う以上,その検討は可能な限り慎重に進めることをお勧めします。
弁護士に依頼することで,以下のようなメリットが期待できます。

①自首すべき状況か判断してもらえる

業務上横領事件の場合,すべてのケースで自首をすべきとは言えません。それは,自首が被害者側の意向に反してしまったり,自首しなければ不利益が避けられない,という状況でないのに勘違いしてしまったりする恐れがあるためです。自首は,大きなリスクを背負った行動であるため,自首によって不利益を被ることはできる限り避けるべきと言えます。

この点,弁護士に依頼することで,自首をすることのメリットデメリット,自首をしなかった場合の見通しなどを,専門的な見地から判断してもらうことが可能です。そのため,自首すべきでない状況で自首を選択してしまうことや,自首が有益な状況で自首のチャンスを逃すことが防げるでしょう。

②適切な方法で自首できる

自首するとの決断をした場合,次の高いハードルになるのが具体的な方法の判断です。どこの警察に出頭するのか,電話するのか警察署へ行くのか,誰に何を話すのか,どのように取り扱ってもらえるかなど,判断に悩む局面は少なくありません。

この点,弁護士に依頼し,弁護士に進めてもらう形を取れば,自首の具体的方法に悩むことなく,適切な手順で自首を行うことが可能です。また,自分がどのような振る舞いをするべきか,事前にアドバイスを受けられるため,最大限に不安を取り除くこともできるでしょう。

③取調べへの備えができる

自首は,捜査の入口段階の手続です。自首をきっかけに捜査が始まることとなるため,自首をする時点でその後の捜査を想定しておくことは不可欠と言えます。
そして,捜査の中でも中核となるものが取調べです。警察担当者から話を聞かれて回答し,その内容を「供述調書」という書面にすることが,取調べの基本的な手続となります。そのため,取調べに対してどのような回答をするか,供述調書の作成時にはどう対応すべきか,という点は事前に検討しておくのが有益です。

この点,弁護士に依頼することで,取調べの流れを案内してもらうことができ,回答内容のアドバイスも受けられるため,取調べへの十分な備えをすることが可能になります。また,供述調書の作成に関しても,個別の事件に応じた助言をしてもらうことができるでしょう。

④被害者対応を迅速に開始できる

業務上横領の事件では,否認事件の場合を除き,被害者対応が非常に重要なポイントとなります。刑事処分がどのくらいの重さになるか,逮捕されるか,勾留されるかなど,刑事手続の多くの局面で被害者対応やその結果が大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

この点,弁護士に依頼することで,自首とあわせて被害者対応を迅速に開始することが可能です。自首した事件の場合,そうでないケースと比べて被害者側の感情面が緩やかになりやすく,自首が示談に対してプラスの効果を及ぼすことも多いため,示談を試みることは結果にもつながりやすいと言えます。

業務上横領事件で自首をする場合の注意点

①自首より優先すべきことがある場合

業務上横領事件の場合,被害者側の意向や状況を知らない段階での自首は慎重に判断するのが賢明です。それは,被害者にとって自首よりも当事者間の解決の方が望ましいと考えている場合があるためです。

自首によって捜査が始まると,被害者側も捜査協力を求められることになり得ます。当然ながら,捜査協力は被害者にとって負担であるため,捜査を希望しない被害者にとっては単に負担が増すだけの結果になりかねません。しかも,捜査協力をしても金銭的な損害が回復されるわけではないため,被害者が捜査よりも当事者間での金銭的解決を望んでいる場合,自首は被害者の意向に反する可能性があります。

業務上横領事件での自首は,被害者側の意向に反していないことが分かった後に行うことが有力でしょう。

②逮捕が避けられない可能性

業務上横領事件では,加害者に知られないよう慎重に捜査を進め,嫌疑が固まった段階で突然加害者を逮捕する,という流れが取られる場合もあり得ます。これは,加害者による証拠隠滅を防ぎ,業務上横領事件の全容を解明するための手段の一つです。
予告なく突然逮捕することで,加害者側が事前の準備が全くできないため,逃亡や証拠隠滅のリスクを最小限に抑えながら捜査を進める手段として活用されています。

一方で,加害者側の目線では,事前に逮捕を避ける試みを行う余地がない,という可能性が生じることになります。自発的に自首などの手段で名乗り上げる以外には,事前に逮捕回避を図る手段がありません。

逮捕を予期させる事情を確認してから自首する,という動き方では,逮捕が避けられないケースが出てくる可能性に注意しておきましょう。

③不起訴処分が見込まれるとは限らない

自首は,不起訴処分が最も大きな目的の一つになります。不起訴処分となれば,刑事罰を受ける可能性がなくなり,前科が付かない結果となるため,刑事処分として最も有益な結果と言ってよいでしょう。
自首をした場合,深い反省の意思が明確になることから,自首は不起訴処分を実現する大きな原動力の一つです。

もっとも,自首をしたからと言って不起訴処分になるとは限らない,という点には注意が必要です。自首をすれば確かに刑事処分は軽減しやすいですが,軽減した結果不起訴にまで至るかは別の問題です。特に被害規模が大きく,元々の刑事責任が重い事件の場合,自首によって軽減してもなお刑罰は避けられない,という結論も十分にあり得ます。

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業務上横領は必ず逮捕されるか?逮捕されないためのポイントは?

会社の財産を不正に処分したと疑われる業務上横領は、発覚すれば逮捕に至る可能性が高い重大な犯罪です。しかし、すべてのケースで必ず逮捕されるわけではなく、被害額や被害者の対応、示談の有無などによって結果は大きく変わります。「業務上横領は必ず逮捕されるのか」「逮捕を避けるにはどうすればよいのか」と不安を抱える方も多いでしょう。本記事では、業務上横領の逮捕について、逮捕されるケースとされないケースの違いや、逮捕を回避するためのポイントを分かりやすく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

横領罪とは

横領罪とは,他人の物を占有している人が,その物を領得する犯罪です。
典型例は,人から預かっていたお金を自分のために使ってしまう,というケースでしょう。

横領罪の種類

横領罪には,大きく分けて以下の3つの類型があります。

単純横領罪(刑法第252条第1項)自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の拘禁刑に処する。
業務上横領罪(刑法第253条)業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の拘禁刑に処する。
占有離脱物横領罪(刑法第254条)遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

横領事件として最も問題になりやすいのは,「業務上横領罪」でしょう。
経理担当者が勤務先の金銭を横領した場合などが代表的です。
一方,単純横領罪が成立するのは,業務の伴わない場合であり,友人から預かっていた金銭を使い込むようなケースが該当します。

また,占有離脱物横領罪は,横領罪ではありますが置き引きなどの窃盗類似の事例で問題になりやすいところです。

横領罪と窃盗罪の区別

横領罪は窃盗罪との区別が問題になりやすいですが,両者の違いは,対象物が他人が占有しているものか,自己の占有するものか,という点にあります。

窃盗罪は,他人が占有しているものを,その他人の了承なく自分の占有に移す犯罪です。例えば万引きは,店舗が占有する商品を勝手に自分の持ち物にしてしまう犯罪というわけですね。
一方の横領罪は,もともと自分が占有をしている物を自分の物(所有)にしてしまう,という犯罪類型です。会社のお金を預かっていた(占有していた)としても,あくまでお金は会社の物であるため,そのお金を自分のために使ってしまうと横領罪になる,というわけですね。

ポイント
横領罪とは、他人の物を占有している人がその物を領得する犯罪
勤務先に対する業務上横領事件が問題になりやすい
窃盗と横領の区別は、対象物がどちらの占有していたものか、という点が基準

参照:刑法 e-Gov法令検索

業務上横領で逮捕される可能性

業務上横領事件は,逮捕の可能性が十分に考えられる事件類型です。事件の性質上,多くの証拠収集が必要になりやすく,証拠収集の妨げになるような行為(いわゆる証拠隠滅行為)を防ぐ目的で逮捕されるケースが多く見られます。

個別の事件における逮捕の可能性はケースによりますが,逮捕の可能性が高くなる事情としては,以下の点が挙げられます。

逮捕の可能性が高くなる場合

1.件数が多い場合

2.被害額が高い場合

3.共犯者がいる場合

4.必要な情報提供を拒否している場合

【1.件数が多い場合】

業務上横領事件の場合,横領行為が1回のみではなく,複数回行われているケースが少なくありません。そして,事件の件数が多ければ多いほど,必然的に収集すべき証拠も多くなるため,証拠収集が漏れなくできるよう,逮捕の上で捜査を進める可能性が高くなります。

【2.被害額が高い場合】

被害額が高額である場合,刑事責任が重く,加害者に対する処罰も重大なものになることが見込まれます。そうすると,加害者としては,必要な証拠が収集されてしまう不利益が大きいため,証拠隠滅の動機が強くなるのが一般的です。しかも,業務上横領事件では,加害者自身しか把握していない証拠や情報も多く,秘密裏に証拠隠滅することが難しくないという特徴もあります。

そのため,被害額が高い場合には,証拠隠滅の恐れが類型的に大きく,証拠隠滅を防ぐための逮捕もなされやすい傾向にあります。

【3.共犯者がいる場合】

共犯事件では,共犯者間での証拠隠滅が強く懸念されます。共犯者間でやり取りをした記録や物品などの物的証拠はもちろん,口裏合わせによって取調べの妨害がなされる可能性も高くなる,との理解が通常です。

そのため,共犯者のいる事件では,単独犯の場合と比較して,共犯者間での証拠隠滅を防ぐ目的での逮捕が多くなりやすい傾向にあります。

【4.必要な情報提供を拒否している場合】

これまで取調べ等の捜査をしているケースでは,情報提供を求めても拒否が続く場合に逮捕の可能性が高くなる傾向にあります。情報提供を拒否されると,重要な情報に関する証拠隠滅の恐れが大きくなるため,証拠隠滅を防ぐ目的で逮捕する必要性が高くなるのです。

業務上横領で逮捕された場合のリスク

業務上横領で逮捕されると、刑事手続だけでなく、職場・社会生活に重大な不利益が生じます。主なリスクは次のとおりです。

(1)身柄拘束による生活・仕事への支障

  • 逮捕後、検察への送致・勾留が認められると、最大20日間の身柄拘束が続く可能性がある。
  • 出勤できないことで職場に逮捕が事実上伝わり、業務継続が困難になる。

(2)会社からの懲戒処分・退職のリスク

  • 業務に関連した不正行為であるため、懲戒解雇や退職勧奨の対象となりやすい。
  • 自ら弁明する機会がないまま会社内で調査が進み、不利な判断が下されるおそれがある。

(3)社会的信用の失墜と報道リスク

  • 業務上横領は信義違反が強く非難されやすい犯罪で、会社内外で信用が大きく低下する。
  • 場合によっては逮捕報道等で氏名が公表され、家族・取引先との関係にも影響が及ぶ。

(4)転職・再就職への深刻な影響

  • 前職での横領疑惑は再就職において大きなマイナス評価となり、職種によっては就業自体が困難になる。
  • 不起訴や執行猶予で終わった場合でも、企業側の信用判断に影響し続ける。

(5)刑事処分のリスク(起訴・有罪・実刑)

  • 業務上横領は法定刑が重く、被害額が大きい場合や計画性がある場合は起訴される可能性が高まる。
  • 被害弁償や示談が難しいケースでは、実刑判決のリスクも否定できない。

(6)会社側により証拠が固定される不利益

  • 身柄拘束中は説明や反論ができず、会社が単独で調査・証拠収集を進めることが多い。
  • 誤解や争点がある場合でも、自分に不利な状況が先に固まってしまう可能性がある。

業務上横領で逮捕されたときの流れ

業務上横領で逮捕されると、警察・検察・裁判所による手続が順に進みます。ここでは、一般的な流れを段階ごとに整理します。

(1)逮捕・警察による取調べ

  • 逮捕されると、警察署内で身柄を拘束され、犯行状況や被害額、動機などの取調べが行われる。
  • 逮捕から48時間以内に、警察は事件を検察へ送致するかどうか判断する。
  • 所持品検査や連絡方法に制限があり、日常生活は大きく制約される。

(2)検察庁への送致(いわゆる「送検」)

  • 逮捕後48時間以内に検察庁へ送致され、検察官が身柄拘束の必要性を判断する。
  • 検察官は24時間以内に裁判官へ勾留請求するか、釈放するかを決める。

(3)勾留の判断(裁判官による審査)

  • 勾留が認められると、原則10日間の身柄拘束が続く。必要に応じて10日間の延長が認められ、最大20日間の拘束となる。
  • 業務上横領の場合、証拠隠滅や関係者への働きかけが懸念されると勾留が認められやすい。

(4)取調べ・証拠収集が継続

  • 勾留期間中も、被害額の確定、経理資料の確認、会社側関係者の聴取など、多角的な捜査が進む。
  • 本人の供述と会社側の調査結果が異なる場合、不利な内容が先に固まってしまうこともある。
  • 弁護士はこの段階で接見し、供述内容の整理、身柄解放の申立て、示談交渉の準備などを行う。

(5)起訴・不起訴の判断

  • 勾留満了までに、検察官が起訴(正式裁判)・略式起訴(罰金)・不起訴のいずれかを決める。
  • 被害弁償や示談が成立している場合、不起訴の可能性が高まる。

(6)起訴された場合の流れ

  • 起訴されると身柄拘束が続くか、保釈が認められるかが判断される。
  • その後、公開の刑事裁判で事実関係・量刑などが審理される。
ステップ手続名内容期間の目安
逮捕・警察取調べ警察署で取調べ。犯行状況・被害額などを確認〜48時間
検察へ送致(送検)検察官が身柄拘束の必要性を判断送検後24時間以内に勾留請求の判断
勾留決定(裁判官)原則10日間の身柄拘束。必要に応じ10日延長最大20日
捜査継続・取調べ帳簿・資料確認、関係者聴取、供述の精査勾留期間中(最大20日)
起訴・不起訴の判断正式起訴・略式・不起訴を決定勾留満了までに判断
起訴後の手続公判準備、保釈判断、公開裁判で審理起訴後〜判決まで

業務上横領で逮捕されないためのポイント

① 被害者との解決

業務上横領事件で逮捕されるかどうか,又はその前提として業務上横領事件が捜査されるかどうかは,被害者の意向や判断に大きく左右されます。被害者が加害者に対する捜査や逮捕を希望しない場合,基本的には捜査も逮捕もなされないことが見込まれるでしょう。

そのため,逮捕を避ける方法としては,まず被害者との解決を目指すことが非常に有力です。業務上横領事件の場合,被害者と加害者との間に何らかの関係があり,相互に連絡を取り合えることが多いため,解決に向けた協議を試みる手段は見つかりやすいでしょう。

② 自首

被害者との解決が困難な業務上横領事件では,捜査機関に自首をすることで逮捕を避ける試みが有力です。自首は,自ら捜査機関に出頭して事件の捜査を求める動きであるため,逮捕せずとも捜査妨害は考えづらく,逮捕しなくてもよいとの判断を引き出せる可能性が高まります。

ただし,被害者側が捜査機関に相談するなどして捜査が開始された後では,自首を試みても自首が成立しません。自首を行う場合には,できるだけ早期に進めることをお勧めします。

③ 捜査協力

業務上横領事件における逮捕は,証拠収集を円滑に行う目的で行われることがほとんどです。裏を返せば,逮捕せずとも証拠収集が円滑に行える場合,逮捕の必要性は大きく低下することとなります。
そのため,逮捕を避ける方法としては,自ら積極的に証拠を提出するなど,証拠収集を円滑にするための捜査協力が有力な手段の一つです。

提出すべき証拠は,取り調べなどの際に,その内容に応じて特定することが合理的です。取調べの中で捜査に必要と思われる証拠が浮かび上がってきた際には,自発的な提出を申し出ることを検討するのも有益でしょう。

業務上横領の逮捕に関する注意点

① 逮捕時期

大多数の刑事事件では,被疑者が特定されてから間もない段階で逮捕されるのが一般的な流れです。そのため,刑事事件は捜査の比較的初期段階で行われ,その後身柄拘束をしながら捜査を重ねていくことになります。

一方,業務上横領事件の場合には,逮捕せず定期的に出頭を求める方法で捜査を続け,ある程度捜査が進んだ段階で逮捕に踏み切るケースが相当数見られます。このような逮捕時期に関する取り扱いは,業務上横領事件の大きな特徴の一つとも言えるでしょう。

業務上横領事件に際しては,出頭を重ねた後に逮捕される可能性についても注意しておくことが望ましいでしょう。

② 捜査の開始を防げる可能性

業務上横領事件では,捜査の開始前に当事者間で連絡を取り合うことのできるケースが多い点に特徴があります。そして,捜査開始前に当事者間で協議を重ね,解決の合意ができれば,捜査は開始されないことが見込まれるでしょう。

この点で,業務上横領事件の場合,対応によっては捜査の開始が防げる可能性もあるという点には十分注意したいところです。迅速に当事者間での解決が図れれば,捜査が行われないことになり,もちろん逮捕もなされないという有益な結果が期待できます。

③ 逮捕された場合の拘束期間

業務上横領事件では,逮捕された場合の拘束期間が比較的長くなりやすい点に注意が必要です。基本的には早期釈放が期待しづらく,延長を含めて20日間の勾留を受けることが見込まれやすいでしょう。

また,複数回の横領行為が問題になっている場合,20日間の勾留では捜査の時間が足りないと判断されると,更に別の横領行為について逮捕勾留(再逮捕・再勾留)が行われ,長期間の身柄拘束となる可能性も否定できません。特に証拠となるものが多く複雑な場合は,再逮捕を含む長期化の可能性にも注意したいところです。

警察の呼び出しを受けたときに逮捕を防ぐポイント

呼び出しに対する適切な対処法

①既に被害者側と協議を行っている場合

業務上横領事件は,警察の捜査より前に当事者間で協議の機会が持たれている場合も多いのが特徴の一つです。そして,当事者間での協議の経過・結果は,警察の処理に大きな影響を及ぼしやすいため,警察にとっても重要な情報となります。

そのため,既に被害者側と協議を行っているケースで呼び出しを受けた場合には,警察側にも協議の状況や内容などを共有することが望ましいでしょう。警察は被害者とも連絡を取り合っているため,協議の経過を把握している可能性もありますが,特に被害者から情報共有がなければ,警察が何も知らない可能性も否定できません。

被害者側との協議が進んでいる,解決の見込みが立ちそうであるといった場合には,その旨を警察にも伝えてあげることが賢明でしょう。

ポイント
当事者間での協議の経過は,捜査の進行に影響する
協議に進展が見られる場合には,警察にも情報共有するのが有益

②被害者側と協議を行ったことがない場合

被害者と協議を行ったことがなく,突然警察から呼び出しを受けた事件である場合,まずは自分にどのような疑いが生じているのか,具体的な内容をできるだけ正確に把握することが望ましいです。

業務上横領事件の場合,対象事件がどのような内容か,という理解があいまいだと,事件の内容を勘違いしてしまう恐れも小さくありません。例えば,問題とされている行為(事件)の数が一つか複数か,横領の対象となる財産は何か,損害額はいくらか,といった点は,被害者側に十分な情報のない場合もあり,捜査機関が適切に把握しているとは限りません。

そのため,まずは呼び出しの原因となった事件を正しく把握し,その内容を踏まえて対応方針を検討するようにしましょう。
ただし,捜査機関にとっては秘匿性の高い捜査情報でもあり得るため,必ずしも全ての情報が得られるとは限りません。断片的な情報から推測しなければならない可能性もあり得るところです。

ポイント
呼び出された事件の正確な内容を把握する
捜査機関から必要な情報の全てが得られるとは限らない

③心当たりがない場合

心当たりのない業務上横領事件で呼び出された場合,今後の対応方針を検討する前提として,なぜ自分が呼び出されることになったのか,という点を把握できると有益です。

心当たりのない事件である場合,捜査機関が事件内容や犯人を特定する十分な証拠を持っていないことがうかがわれます。そして,不十分な証拠を埋め合わせるために,関係者を呼び出して話を聞こうとしていることが推測されるところです。

証拠が不十分である,という点が呼び出しにどのような影響を及ぼしているかは,ケースにより様々です。代表的な場合としては,人違いで疑われている,加害者の候補が複数いるため広く話を聞いている,といった可能性があり得るでしょう。

呼び出されることに至った経緯・原因は,その後の方針を決めるための重要な手掛かりになり得るため,できるだけ早期に確認できることが望ましいところです。

ポイント
なぜ自分が呼び出されることになったかを把握する
人違いのケース,加害者候補が多いケースなどがあり得る

④被害者との間で言い分に争いがある場合

被害者の言い分に基づいて呼び出しを受けたものの,被害者の主張と自分の記憶との間にズレがあり,言い分に争いのあるケースも考えられます。業務上横領事件の場合,被害者が事件の現場を目撃している可能性が非常に低く,被害者側で事件の全体像を把握することが困難であるため,主張にズレが生じやすい,という特徴が挙げられるでしょう。

言い分に争いがある場合には,それが犯罪の成立に関係する内容かどうか,という点を明確に理解することが第一歩です。犯罪の成否に影響する争点であれば,疑いに対して否認することとなりますし,犯罪の成否とは関係しない争点であれば,犯罪行為への反省と両立する形で主張する必要があるため,対応方針が大きく変わることになります。

言い分があるとしても,その位置付けを把握しないまま闇雲に主張することにメリットはあまりありません。法的な理解が必要になるため,できれば弁護士に相談等行うことをお勧めいたします。

ポイント
争点が犯罪の成立に影響する内容か,理解するのが第一歩
弁護士に相談等して正しく理解するのが望ましい

業務上横領事件の呼び出しに応じたときの注意点

①件数や金額の認識が相違している可能性

捜査機関は,被害者側の主張を念頭に捜査を行うことになります。そのため,被害者側が事件の件数や被害金額を正しく把握できていなかった場合,捜査機関も同様に件数や金額の認識を誤っている可能性がある点に注意が必要です。

この場合,まずは自分の認識している事実関係を正しく捜査機関に伝え,捜査を尽くしてもらうことが適切な対応になるでしょう。自分から裏付けとなるものが提出できれば最善ですが,それができなくても問題はありません。
もし,捜査機関から言い分の根拠がなければ信用できない,と言われても気にする必要はありません。刑事事件の場合,捜査機関側が犯罪の立証をできるか,という点のみが問題であり,呼び出された方が何かを立証する義務を負うことはないためです。

②自発的に話すべき内容の範囲

業務上横領事件の場合,被害者側が把握しておらず,加害者側にしか分からないという情報も少なくありません。そのため,呼び出しに対して自発的に話す内容をどうすべきか,判断の難しいことも多い事件類型と言えます。

この点,自発的に話す内容の範囲を決める場合には,その内容以上に供述が一貫して前後矛盾がないことを重要視することをお勧めします。なぜなら,噓偽りなく話していることは,その話が真実であること,信用できることの重要な根拠とされやすいためです。
自発的に情報提供するのであれば,心から真実を話していていると評価してもらうべきです。そのため,話を一貫したものとすることを強くお勧めします。

具体的に述べる内容については,慎重な判断が必要となるため,弁護士と十分に協議の上,専門的な判断を仰ぐのが適切でしょう。

③返済と呼び出しの関係

業務上横領事件は,被害者に経済的な損失を生じさせるものであるため,その損失を埋め合わせるための返済が重要な動きになります。ただ,返済を行ったから呼び出しがなくなる,という関係にないことは,注意しておくのが適切です。

返済は,とても大きな意味を持つ事後的な努力であることに間違いありません。返済しているのとしていないのとでは,刑事処分が大きく変わることも多く,可能な限り返済を目指すのが望ましいところです。
もっとも,返済したという事実は,最終的な刑事処分に影響するものの,捜査を行うかどうかには直接影響するわけではありません。捜査を行った上で,返済したという事実も踏まえて処分を決める,という流れが一般的であるため,注意しましょう。

業務上横領の逮捕を防ぐための自首のポイント

業務上横領事件で自首をするべき場合

①当事者間の解決が見込まれない場合

業務上横領事件では,当事者間で解決ができれば,強制的な捜査手続や重大な刑事処罰は考えにくいのが通常です。そのため,当事者間で解決できるケースでは,自首を行う実益はあまり大きくなりにくいでしょう。むしろ,被害者側が自首を望んでいない場合,当事者間の解決に悪影響を及ぼす可能性もあり得ます。

一方,当事者間で解決できる見込みがない場合,基本的に解決を目指す手段はなくなってしまい,後はいつ捜査が行われるか,待つほかなくなることも珍しくありません。いつ捜査を受けるか分からず待ち続けるのは,大きな精神的負担が避けられず,耐えられなくなってもおかしくはありません。

このように,当事者間での解決見込みがない場合に有力な手段となるのが自首です。自首を通じて自ら捜査を求める動きを取ることで,いつどのような捜査を受けるのか分からない,という不安を解消することが可能になります。また,捜査の方法そのものも緩やかになりやすいでしょう。

ポイント
当事者間で解決ができれば,自首の実益は大きくない
自首により,いつ捜査されるか分からない不安を解消できる

②事件の規模が大きい場合

自首は,逮捕の回避を大きな目的の一つとするものです。自ら捜査機関に自分の犯罪を明らかにすることで,逮捕をする必要はない,との判断を引き出すのが,自首の最初の目的と言ってよいでしょう。

この点,業務上横領事件では,事件の規模が大きければ大きいほど,捜査に際して逮捕される可能性が高まります。刑事責任が重大であることに加え,必要な証拠が多岐に渡りやすいため,逃亡や証拠隠滅を防ぐ目的で逮捕が選択されやすいのです。
そのため,事件の規模が大きい場合には,「自首しなければ逮捕されていたが,自首したことで逮捕を回避できた」という場合が増加しやすいところです。逮捕リスクが高いケースほど,自首を積極的に検討することをお勧めします。

ポイント
事件規模が大きいほど逮捕の恐れが大きい
自首が逮捕回避の大きなポイントになり得る

③日常生活への支障を防ぎたい場合

刑事事件では,捜査や処罰を受けることで日常生活に支障が生じることが強く懸念されます。逮捕されれば社会生活と引き離されてしまい,捜査されていることが周囲に知られれば不名誉な評価が避け難いでしょう。

自首を行った場合,捜査機関にとっては被疑者の捜査協力が確実に見込まれることになるため,日常生活に支障が生じやすい捜査方法を避けてくれるケースが多くなります。捜査機関からの一種の配慮と言えるでしょう。
捜査の方法について配慮してもらうことで,周囲への悪影響を防ぎたい場合には,自首が非常に有力な手段となります。

ポイント
自首した場合,捜査方法を配慮してもらえるケースが多くなる

業務上横領で自首をする場合の注意点

①自首より優先すべきことがある場合

業務上横領事件の場合,被害者側の意向や状況を知らない段階での自首は慎重に判断するのが賢明です。それは,被害者にとって自首よりも当事者間の解決の方が望ましいと考えている場合があるためです。

自首によって捜査が始まると,被害者側も捜査協力を求められることになり得ます。当然ながら,捜査協力は被害者にとって負担であるため,捜査を希望しない被害者にとっては単に負担が増すだけの結果になりかねません。しかも,捜査協力をしても金銭的な損害が回復されるわけではないため,被害者が捜査よりも当事者間での金銭的解決を望んでいる場合,自首は被害者の意向に反する可能性があります。

業務上横領事件での自首は,被害者側の意向に反していないことが分かった後に行うことが有力でしょう。

②逮捕が避けられない可能性

業務上横領事件では,加害者に知られないよう慎重に捜査を進め,嫌疑が固まった段階で突然加害者を逮捕する,という流れが取られる場合もあり得ます。これは,加害者による証拠隠滅を防ぎ,業務上横領事件の全容を解明するための手段の一つです。
予告なく突然逮捕することで,加害者側が事前の準備が全くできないため,逃亡や証拠隠滅のリスクを最小限に抑えながら捜査を進める手段として活用されています。

一方で,加害者側の目線では,事前に逮捕を避ける試みを行う余地がない,という可能性が生じることになります。自発的に自首などの手段で名乗り上げる以外には,事前に逮捕回避を図る手段がありません。

逮捕を予期させる事情を確認してから自首する,という動き方では,逮捕が避けられないケースが出てくる可能性に注意しておきましょう。

③不起訴処分が見込まれるとは限らない

自首は,不起訴処分が最も大きな目的の一つになります。不起訴処分となれば,刑事罰を受ける可能性がなくなり,前科が付かない結果となるため,刑事処分として最も有益な結果と言ってよいでしょう。
自首をした場合,深い反省の意思が明確になることから,自首は不起訴処分を実現する大きな原動力の一つです。

もっとも,自首をしたからと言って不起訴処分になるとは限らない,という点には注意が必要です。自首をすれば確かに刑事処分は軽減しやすいですが,軽減した結果不起訴にまで至るかは別の問題です。特に被害規模が大きく,元々の刑事責任が重い事件の場合,自首によって軽減してもなお刑罰は避けられない,という結論も十分にあり得ます。

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【業務上横領事件の逮捕】逮捕の可能性,逮捕の流れ,逮捕を防ぐための方法や注意点などを一挙解説

このページでは,業務上横領事件の逮捕に関して,刑事弁護士が徹底解説します。逮捕の可能性はどの程度あるか,逮捕を避ける方法はあるか,逮捕された場合に釈放を目指す方法はあるかなど,対応を検討する際の参考にしてみてください。

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業務上横領事件で逮捕される可能性

業務上横領事件は,逮捕の可能性が十分に考えられる事件類型です。事件の性質上,多くの証拠収集が必要になりやすく,証拠収集の妨げになるような行為(いわゆる証拠隠滅行為)を防ぐ目的で逮捕されるケースが多く見られます。

個別の事件における逮捕の可能性はケースによりますが,逮捕の可能性が高くなる事情としては,以下の点が挙げられます。

逮捕の可能性が高くなる場合

1.件数が多い場合

2.被害額が高い場合

3.共犯者がいる場合

4.必要な情報提供を拒否している場合

【1.件数が多い場合】

業務上横領事件の場合,横領行為が1回のみではなく,複数回行われているケースが少なくありません。そして,事件の件数が多ければ多いほど,必然的に収集すべき証拠も多くなるため,証拠収集が漏れなくできるよう,逮捕の上で捜査を進める可能性が高くなります。

【2.被害額が高い場合】

被害額が高額である場合,刑事責任が重く,加害者に対する処罰も重大なものになることが見込まれます。そうすると,加害者としては,必要な証拠が収集されてしまう不利益が大きいため,証拠隠滅の動機が強くなるのが一般的です。しかも,業務上横領事件では,加害者自身しか把握していない証拠や情報も多く,秘密裏に証拠隠滅することが難しくないという特徴もあります。

そのため,被害額が高い場合には,証拠隠滅の恐れが類型的に大きく,証拠隠滅を防ぐための逮捕もなされやすい傾向にあります。

【3.共犯者がいる場合】

共犯事件では,共犯者間での証拠隠滅が強く懸念されます。共犯者間でやり取りをした記録や物品などの物的証拠はもちろん,口裏合わせによって取調べの妨害がなされる可能性も高くなる,との理解が通常です。

そのため,共犯者のいる事件では,単独犯の場合と比較して,共犯者間での証拠隠滅を防ぐ目的での逮捕が多くなりやすい傾向にあります。

【4.必要な情報提供を拒否している場合】

これまで取調べ等の捜査をしているケースでは,情報提供を求めても拒否が続く場合に逮捕の可能性が高くなる傾向にあります。情報提供を拒否されると,重要な情報に関する証拠隠滅の恐れが大きくなるため,証拠隠滅を防ぐ目的で逮捕する必要性が高くなるのです。

逮捕の種類・方法

法律で定められた逮捕の種類としては,「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」が挙げられます。それぞれに具体的なルールが定められているため,そのルールに反する逮捕は違法ということになります。逮捕という強制的な手続を行うためには,それだけ適切な手順で進めなければなりません。

①現行犯逮捕

現行犯逮捕とは,犯罪が行われている最中,又は犯罪が行われた直後に,犯罪を行った者を逮捕することを言います。現行犯逮捕は,逮捕状がなくてもでき,警察などの捜査機関に限らず一般人も行うことができる,という点に特徴があります。

典型例としては,目撃者が犯人の身柄を取り押さえる場合などが挙げられます。犯罪の目撃者であっても,他人の身柄を強制的に取り押さえることは犯罪行為になりかねませんが,現行犯逮捕であるため,適法な逮捕行為となるのです。

ただし,現行犯逮捕は犯行と逮捕のタイミング,犯行と逮捕の場所それぞれに隔たりのないことが必要です。犯罪を目撃した場合でも,長時間が経った後に移動した先の場所で逮捕するのでは,現行犯逮捕とはなりません。

なお,現行犯逮捕の要件を満たさない場合でも,犯罪から間がなく,以下の要件を満たす場合には「準現行犯逮捕」が可能です。

準現行犯逮捕が可能な場合

1.犯人として追いかけられている

2.犯罪で得た物や犯罪の凶器を持っている

3.身体や衣服に犯罪の痕跡がある

4.身元を確認されて逃走しようとした

ポイント
現行犯逮捕は,犯罪直後にその場で行われる逮捕
捜査機関でなくても可能。逮捕状がなくても可能

②通常逮捕(後日逮捕)

通常逮捕は,裁判官が発付する逮捕状に基づいて行われる逮捕です。逮捕には,原則として逮捕状が必要であり,通常逮捕は逮捕の最も原則的な方法ということができます。

裁判官が逮捕状を発付するため,そして逮捕状を用いて通常逮捕するためには,以下の条件を備えていることが必要です。

通常逮捕の要件

1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。

2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。

通常逮捕の要件がある場合,検察官や警察官の請求に応じて裁判官が逮捕状を発付します。裁判官は,逮捕の理由がある場合,明らかに逮捕の必要がないのでない限りは逮捕状を発付しなければならないとされています。

ポイント
通常逮捕は,逮捕状に基づいて行う原則的な逮捕
逮捕の理由と逮捕の必要性が必要

③緊急逮捕

緊急逮捕は,犯罪の疑いが十分にあるものの,逮捕状を待っていられないほど急速を要する場合に,逮捕状がないまま行う逮捕手続を言います。

緊急逮捕は,逮捕状なく行うことのできる例外的な逮捕のため,可能な場合のルールがより厳格に定められています。具体的には以下の通りです。

緊急逮捕の要件

1.死刑・無期・長期3年以上の罪
2.犯罪を疑う充分な理由がある
3.急速を要するため逮捕状を請求できない
4.逮捕後直ちに逮捕状の請求を行う

緊急逮捕と現行犯逮捕は,いずれも無令状で行うことができますが,緊急逮捕は逮捕後に逮捕状を請求しなければなりません。また,現行犯逮捕は一般人にもできますが,緊急逮捕は警察や検察(捜査機関)にしか認められていません。

緊急逮捕と現行犯逮捕の違い

現行犯逮捕緊急逮捕
逮捕状不要逮捕後に請求が必要
一般人の逮捕可能不可能

逮捕後の流れ

逮捕されると,警察署での取り調べが行われた後,翌日又は翌々日に検察庁へ送致され,検察庁でも取り調べ(弁解録取)を受けます。この間,逮捕から最大72時間の身柄拘束が見込まれます。
その後,「勾留」となれば10日間,さらに「勾留延長」となれば追加で最大10日間の身柄拘束が引き続きます。この逮捕から勾留延長までの期間に,捜査を遂げて起訴不起訴を判断することになります。

逮捕から起訴までの流れ

ただし,逮捕後に勾留されるか,勾留後に勾留延長されるか,という点はいずれの可能性もあり得るところです。事件の内容や状況の変化によっては,逮捕後に勾留されず釈放されたり,勾留の後に勾留延長されず釈放されたりと,早期の釈放となる場合も考えられます。

逮捕をされてしまった事件では,少しでも速やかな釈放を目指すことが非常に重要になりやすいでしょう。

ポイント
逮捕後は最大72時間の拘束,その後10日間の勾留,最大10日間の勾留延長があり得る
勾留や勾留延長がなされなければ,その段階で釈放される

逮捕による不利益

逮捕をされてしまうと,以下のように多数の不利益が見込まれます。

①社会生活を継続できない

逮捕をされてしまうと,身柄が強制的に留置施設へ収容されてしまうため,日常の社会生活を続けることができません。スマートフォンの所持も許されないので,外部の人と連絡を取ることも不可能です。
そのため,周囲と連絡等ができないことによる様々な問題が生じやすくなります

また,逮捕後勾留されるまでの間は,原則として弁護士以外の面会ができません。面会によって最低限の連絡を図ろうと思っても,勾留前の逮捕段階では面会すら叶わないことが一般的です。
さらに,勾留後についても,接見禁止決定がなされた場合には弁護士以外の面会ができません。

②仕事への影響

逮捕された場合,仕事は無断欠勤となることが避けられません。その後,身柄拘束が長期化すると,それだけの間欠勤をし続けなければならないことにもなります。こうして仕事ができないでいると,仕事への悪影響を回避することも難しくなります。

また,逮捕によって勤務先に勤め続けることが事実上難しくなる場合も考えられます。
逮捕は罰則ではなく捜査手法の一つに過ぎないため,逮捕だけを理由に懲戒解雇されることは考え難いですが,一方で仕事の関係者に自分の逮捕が知れ渡ると,事実上仕事が続けられなくなるケースも珍しくはありません。

③家族への影響

逮捕されると,通常,同居の家族には捜査機関から逮捕の事実が告げられます。場合によっては,家族が逮捕に伴う各方面への対応を強いられることも考えられます。また,家族にとっては,被疑者が逮捕された,という事実による精神的苦痛も計り知れず,一家の支柱が逮捕された場合には経済的な問題も生じ得ます。

このように,逮捕は本人のみならず家族にも多大な影響を及ぼす出来事となりやすいものです。

④報道の恐れ

刑事事件は,一部報道されるものがありますが,報道されるケースの大半が逮捕された事件の場合です。通常,逮捕された事件の情報が警察から報道機関に通知され,報道機関はその情報を用いて刑事事件の報道を行うことになります。
そのため,逮捕された場合は,そうでない事件と比較して報道の恐れが大きくなるということができます。

万一実名報道の対象となり,氏名や写真とともに逮捕の事実が公になると,その記録が後々にまで残り,生活に重大な支障を及ぼす可能性も否定できません。
一般的には,重大事件や著名人の事件,社会的関心の高い事件など,報道の価値が高い事件が特に報道の対象となりやすいため,逮捕=報道ということはありませんが,逮捕によって報道のリスクを高める結果が回避できるに越したことはありません。

⑤前科が付く可能性

逮捕と前科に直接の関係はありませんが,逮捕されるケースは重大事件と評価されるものであることが多いため,事件の重大性から前科が付きやすいということが言えます。
逮捕をするのは逃亡や証拠隠滅を防ぐためですが,逃亡や証拠隠滅はまさに前科を避ける目的で行われる性質のものです。そのため,逮捕の必要が大きいということは前科が付く可能性の高い事件である,という関係が成り立ちやすいでしょう。

業務上横領事件で逮捕を避ける方法

①被害者との解決

業務上横領事件で逮捕されるかどうか,又はその前提として業務上横領事件が捜査されるかどうかは,被害者の意向や判断に大きく左右されます。被害者が加害者に対する捜査や逮捕を希望しない場合,基本的には捜査も逮捕もなされないことが見込まれるでしょう。

そのため,逮捕を避ける方法としては,まず被害者との解決を目指すことが非常に有力です。業務上横領事件の場合,被害者と加害者との間に何らかの関係があり,相互に連絡を取り合えることが多いため,解決に向けた協議を試みる手段は見つかりやすいでしょう。

②自首

被害者との解決が困難な業務上横領事件では,捜査機関に自首をすることで逮捕を避ける試みが有力です。自首は,自ら捜査機関に出頭して事件の捜査を求める動きであるため,逮捕せずとも捜査妨害は考えづらく,逮捕しなくてもよいとの判断を引き出せる可能性が高まります。

ただし,被害者側が捜査機関に相談するなどして捜査が開始された後では,自首を試みても自首が成立しません。自首を行う場合には,できるだけ早期に進めることをお勧めします。

③捜査協力

業務上横領事件における逮捕は,証拠収集を円滑に行う目的で行われることがほとんどです。裏を返せば,逮捕せずとも証拠収集が円滑に行える場合,逮捕の必要性は大きく低下することとなります。
そのため,逮捕を避ける方法としては,自ら積極的に証拠を提出するなど,証拠収集を円滑にするための捜査協力が有力な手段の一つです。

提出すべき証拠は,取り調べなどの際に,その内容に応じて特定することが合理的です。取調べの中で捜査に必要と思われる証拠が浮かび上がってきた際には,自発的な提出を申し出ることを検討するのも有益でしょう。

業務上横領事件の逮捕は弁護士に依頼すべきか

業務上横領事件の逮捕については,弁護士に依頼し,弁護士の判断を仰ぎながら検討することが適切でしょう。弁護士に依頼することで,以下のような利点が見込まれます。

①被害者側との協議が円滑になりやすい

業務上横領事件で逮捕を避ける手段としては,被害者との間で解決を図ることが非常に有力ですが,解決のためには被害者側との綿密な協議が必要です。もっとも,加害者の立場にあるご本人が,被害者側との間で十分な協議を尽くし,解決にこぎつけることは容易ではありません。

この点,弁護士に依頼することで,弁護士が窓口となって被害者側との協議を行えるため,当事者が直接協議するよりも円滑に進行することが期待できるでしょう。解決内容に関しても,当事者本人では主張しづらい点を弁護士が代わりに主張するなどし,不当に不利益な条件となることを防ぎやすくなります。

②逮捕を避けるために有効な手段を判断してもらえる

逮捕を避けるためにどのような手段を講じるべきかは,個別の事件内容や状況により異なります。また,逮捕を避けるにはどのくらい積極的な動きが必要か,対策をしなければ逮捕が見込まれてしまうのか,という点も,正しく把握しておくことが有益です。

この点,弁護士に依頼することで,逮捕の可能性がどの程度見込まれるかを踏まえ,事件の内容や状況に応じた適切な逮捕回避策を案内してもらうことができます。また,実際にそれらの策を講じる際にも,弁護士が主導して進めてくれるため,大きな負担なく進めることができるでしょう。

③捜査機関に掛け合ってもらうことができる

逮捕を防ぐ際には,捜査機関に安易な逮捕の判断をされないようにすることも重要です。特に,業務上横領事件の場合,単純な事件類型とは異なり事実関係や証拠が複雑になりやすいことから,事件の規模によっては安易な逮捕の判断がされるケースも散見されます。

この点,弁護士に依頼することで,弁護士が捜査機関の対応に目を光らせ,不当な動きを抑止する効果が期待できます。必要性に乏しい逮捕がなされるリスクは,弁護士の存在によって大きく減少するでしょう。

業務上横領事件の逮捕に関する注意点

①逮捕時期

大多数の刑事事件では,被疑者が特定されてから間もない段階で逮捕されるのが一般的な流れです。そのため,刑事事件は捜査の比較的初期段階で行われ,その後身柄拘束をしながら捜査を重ねていくことになります。

一方,業務上横領事件の場合には,逮捕せず定期的に出頭を求める方法で捜査を続け,ある程度捜査が進んだ段階で逮捕に踏み切るケースが相当数見られます。このような逮捕時期に関する取り扱いは,業務上横領事件の大きな特徴の一つとも言えるでしょう。

業務上横領事件に際しては,出頭を重ねた後に逮捕される可能性についても注意しておくことが望ましいでしょう。

②捜査の開始を防げる可能性

業務上横領事件では,捜査の開始前に当事者間で連絡を取り合うことのできるケースが多い点に特徴があります。そして,捜査開始前に当事者間で協議を重ね,解決の合意ができれば,捜査は開始されないことが見込まれるでしょう。

この点で,業務上横領事件の場合,対応によっては捜査の開始が防げる可能性もあるという点には十分注意したいところです。迅速に当事者間での解決が図れれば,捜査が行われないことになり,もちろん逮捕もなされないという有益な結果が期待できます。

③逮捕された場合の拘束期間

業務上横領事件では,逮捕された場合の拘束期間が比較的長くなりやすい点に注意が必要です。基本的には早期釈放が期待しづらく,延長を含めて20日間の勾留を受けることが見込まれやすいでしょう。

また,複数回の横領行為が問題になっている場合,20日間の勾留では捜査の時間が足りないと判断されると,更に別の横領行為について逮捕勾留(再逮捕・再勾留)が行われ,長期間の身柄拘束となる可能性も否定できません。特に証拠となるものが多く複雑な場合は,再逮捕を含む長期化の可能性にも注意したいところです。

刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ

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【業務上横領事件の不起訴処分】不起訴になる可能性はある?逮捕されてしまった場合は?

このページでは,業務上横領事件の不起訴処分について知りたい方へ,不起訴処分を目指す方法や不起訴処分となった場合のメリットなどを弁護士が徹底解説します。不起訴処分を目指す場合の参考にしてみてください。

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業務上横領事件で不起訴を目指す方法

①被害者の宥恕

業務上横領事件は,被害者の所有する財産を預かっていた人が,その財産を自身の物にしてしまう(横領してしまう)という事件類型です。そのため,事件には個別具体的な被害者がおり,その被害者の財産に損害を与える犯罪となります。
そうすると,業務上横領事件で不起訴になるかどうかは,被害者が不起訴を希望するかどうか,という点に大きく左右されることになります。被害者が起訴を望むのであれば,それに沿って起訴し,被害者が不起訴を希望する場合には,その意思に反して無理矢理起訴するケースはあまり見られません。

そのため,不起訴を目指す最も端的な手段は,被害者の宥恕(ゆうじょ=許し)を獲得することと言えます。被害者が加害者を許し,加害者に対する刑罰を望まない意向となれば,不起訴の可能性は大きく上がることになるでしょう。

ポイント
起訴不起訴の判断は被害者の意向に左右されやすい
被害者の宥恕=許しがある場合,不起訴になりやすい

②損害の弁償

業務上横領事件は,被害者の財産に損害を与える事件であり,法的には「財産犯」と呼ばれます。そして,この財産犯の処分を決めるに当たっては,財産への損害がそのまま(マイナスが残ったまま)になっているか,埋め合わせされたか,という点が大きく影響します。財産をマイナスにさせたことが刑事責任の根拠となるため,そのマイナスがなくなれば刑事責任が大きく軽減すると理解されるのです。

そのため,業務上横領事件で不起訴を目指すためには,被害者に損害の弁償を行い,その損害を埋め合わせる試みが有効です。損害を補填した上で,これ以上の支払義務が加害者にないという合意(清算条項)の取り付けに至ることができれば,刑事責任はより大きく軽減することが見込まれます。

ポイント
財産への損害が補填されているかどうかは重要な判断基準

③否認事件の場合

否認事件のケースでは,否認の要点(争点)がどこにあるかを踏まえ,争点について犯罪の立証が困難である,との判断を促すことが適切です。

業務上横領事件の場合に生じやすい争点としては,財産がなくなっていることは事実だが自分が横領したものではない(犯人でない),というポイントが挙げられます。業務上横領事件が生じやすい環境では,財産の管理を正確にできていないことが多く,「財産は確実になくなっているものの誰が横領したか分からない」という事態が生じがちです。その場合,財産の管理をしていた人から順に疑いが生じやすく,犯人であるかどうかが大きな争点になりやすいところです。

なお,犯人性が争点である場合には,「犯人でないと合理的に説明できないことがあるか」という点が重要な判断基準となる場合が多いです。裏を返すと,「犯人でなくても矛盾しない(合理的に説明できる)」場合には,犯罪の立証が難しく,不起訴とせざるを得ない場合が多くなるでしょう。

ポイント
争点とその判断基準を踏まえた対応をする
業務上横領事件は犯人かどうかが争点となるケースも多い

業務上横領事件で不起訴になる可能性

①認め事件の場合

認め事件では,起訴されるかどうかが被害者の意向に大きく左右されます。その意味では,被害者次第と言っても過言ではないでしょう。
ただし,事件の悪質性が非常に小さいと判断される場合には,反省状況などの諸事情を踏まえて不起訴となることがないわけではありません。不起訴の可能性に影響し得る事件の悪質性は,以下のような事情を踏まえて判断されやすいでしょう。

不起訴の可能性に影響する事情

1.損害額
→損害の金額的な規模は,事件の悪質さに直結する事情です。当然ながら,金額が小さければ小さいほど,悪質性も小さいとの判断がなされます。

2.業務の内容や立場
→被害者の財産を管理するに当たって,どれだけ重要な立場にいたか,という点です。自分の判断一つで簡単に多くの財産を横領できるような立場なのか,財産管理のごく一部にしか関与していないのか,という事情は,事件の悪質さを左右することになります。
権限が大きく,責任の重い立場であるほど,悪質との評価になりやすいです。

3.横領行為の態様
→横領行為の方法が単純なものか複雑なものか,という点です。「魔が差した」と言ってもよいような単純な方法であれば,悪質さは限定的と理解されやすいでしょう。一方,計画的である,多くの隠ぺい工作がなされているなど,簡単にはできない複雑な態様である場合には,悪質であるとの評価につながりやすいです。

②否認事件の場合

否認事件で不起訴になるかどうかは,基本的に犯罪の立証ができるかどうかにかかっています。犯罪の立証ができるならば起訴され,できないならば起訴されない,という区別をしても概ね間違いないでしょう。

なお,否認事件の場合にも,被害者が起訴を希望しなければ起訴されづらいという点は同様です。そのため,否認事件であることを前提に,当事者間での解決を目指すという選択肢も考えられます。

不起訴の意味・種類

不起訴処分とは,検察官が事件を起訴しないとする処分をいいます。不起訴になった事件は,裁判の対象にならず,刑罰が科せられる可能性がなくなるため,前科がつくこともなくなります。

不起訴処分には,以下のような類型があります。

不起訴処分の類型

1.嫌疑なし
捜査の結果,犯罪の疑いがないと明らかになった場合です。真犯人が明らかになった場合などが代表例です。

2.嫌疑不十分
捜査を遂げた結果,犯罪を立証するための証拠が不十分であり,犯罪事実を立証できないと判断された場合です。具体例としては,犯人が特定できない場合などが挙げられます。

3.起訴猶予
犯罪事実は明らかに立証できるものの,犯罪者の年齢や性格,過去の経歴,犯行動機,犯罪後の事情などを踏まえ,検察官があえて起訴をしない場合です。被害者と示談が成立した場合などが代表例とされます。

4.その他の類型

・訴訟条件を欠く場合
→被疑者が死亡した場合,公訴時効が完成した場合など

・罪とならず
→被疑者の行為が犯罪に当たらない場合,被疑者が14歳未満の場合など

なお,犯罪事実が間違いなくある認め事件の場合,不起訴になる手段は基本的に「起訴猶予」を目指す以外にありません。起訴猶予は,検察官から大目に見てもらうという意味合いの処分であるため,認め事件では誠意ある対応を尽くすことが非常に重要となるでしょう。

ポイント
不起訴処分には,嫌疑なし,嫌疑不十分,起訴猶予等の類型がある
認め事件では起訴猶予を目指す必要がある

逮捕と不起訴の関係

逮捕をされてしまった場合でも,不起訴にならないわけではありません。逮捕された事件の最終的な処分が不起訴となって終了することは,数多く見られるところです。一方,逮捕されなかった事件(いわゆる在宅事件)でも不起訴処分になるとは限らず,在宅事件の処分が起訴という場合も珍しくありません。

これは,逮捕が捜査を行う手段の一つであるのに対し,不起訴が捜査の結果なされる処分であることに原因があります。
刑事事件の捜査は,逮捕をするかしないか,いずれかの方法で進行しますが,いずれの捜査手法を取ったとしても,起訴されるか不起訴となるかは同様に判断されることとなるのです。

刑事手続の流れ

なお,起訴されやすい事件が逮捕されやすい,という側面はあります。起訴されやすい事件は,類型的に重大な事件であることが多いところ,重大な事件では,重い処分を免れるために逃亡や証拠隠滅をされる恐れが大きいと判断される傾向にあると考えられます。そのため,被疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぐための逮捕が必要になりやすいのです。
裏を返せば,逮捕された事件では,不起訴を獲得するにはより積極的な努力が必要となりやすいでしょう。弁護士に相談の上,不起訴を目指すために適切な対応を試みるようにしましょう。

ポイント
逮捕は捜査の手段,不起訴は捜査を終えた後の処分
逮捕と不起訴は両立する
起訴されやすい事件は逮捕されやすい傾向にある,という側面も

不起訴になった場合の効果

不起訴処分となった場合には,以下のような効果が生じます。

①前科がつかない

前科とは,刑罰を科せられた経歴を指しますが,不起訴となった場合には刑罰が科せられません。そのため,不起訴となれば刑罰の経歴=前科がつくことなく,刑事手続が終了することになります。

そして,前科がつかないことには,以下のようなメリットがあると考えられます。

前科がつかないことのメリット

1.資格に対する影響を避けられる

国家資格を用いた職業の場合,前科によって資格制限が生じると,仕事の継続ができない可能性が生じてしまいます。
前科がつかなければ,資格制限は生じず,仕事への悪影響もありません

2.就職・転職への影響を避けられる

前科のあることは,就職や転職の差異に不利益な事情として考慮されやすい傾向にあります。
前科がつかなければ,履歴書に前科を記載する必要もなく,就職先に刑事事件のことを知られずに済みます

3.海外渡航の制限を避けられる

前科がある場合,パスポートやビザ,エスタなどの手続に悪影響が生じ,海外渡航が認められない場合があります。
前科がつかなければ,海外渡航の制限が生じる事情もなくなるため,海外渡航を自由に行うことが可能です。

②釈放される

不起訴処分となった場合,身柄拘束されている状況であれば速やかに釈放されます。不起訴処分が出た以上,捜査のために身柄拘束を継続する必要がなくなるためです。

③逮捕されない

不起訴処分とされた事件では,その後に逮捕されることがありません。逮捕は,捜査を行う場合の選択肢の一つであるところ,不起訴処分によって捜査が終了するため,逮捕を行う余地もなくなるからです。
ただし,余罪がある場合には,余罪での逮捕が行われる可能性が残ります。

④取り調べを受けない

不起訴処分によって捜査が終了するため,警察や検察から取り調べを受けることがなくなります。もっとも,不起訴処分は今後の捜査を禁じるものではないため,新しい証拠が発見された場合には捜査が再開され,改めて取調べを受ける場合もあり得るところです。

業務上横領事件で不起訴を目指す場合の注意点

①全額の被害弁償が困難である場合

業務上横領事件では,被害総額が非常に大きくなっていて,その全額の被害弁償が困難であるケースも少なくありません。特に,長期間・複数回の横領行為があったケースで問題になりやすいポイントと言えます。

この点,認め事件である場合,基本的には被害全額の弁償が解決の前提になりやすく,全額の弁償ができない状態で示談などできるケースは例外的である,ということには十分な注意が必要です。被害全額が補填されていない段階で,被害者が加害者を許すとの判断をすることは難しいのが一般的でしょう。

被害全額の弁償が難しい場合の示談交渉は,被害者に例外的な判断を求めていることになります。その点を踏まえ,具体的な返済計画を示すなど可能な限りの誠意を見せる動きが望ましいところです。

②被害者の許しが得られない可能性

業務上横領事件の場合,被害者の許しが非常に得られにくいケースもあり得ます。代表例は,被害者(会社)が非常に規模の大きい企業である場合です。企業規模が大きいほど,一つ一つの横領事件に対して柔軟な判断をするのではなく,一律の取り扱いをする運用が多くなるため,「横領事件は一律許していない」という判断を受けやすいのです。

被害会社側のコンプライアンス意識次第で,許しが得られないことは十分に考えられます。加害者側としては,この点をあらかじめ留意した上で解決を目指すのが適切でしょう。

③被害額に争いが生じる場合

業務上横領事件で示談を試みる際に,最も言い分が食い違いやすいのが損害額です。これは,被害者側が損害を正確に判断するだけの情報を持ち合わせていないために生じやすいトラブルでもあります。
業務上横領事件が起きる間柄では,加害者側に財産の管理が広く委ねられており,その内容を加害者以外は十分に把握していない,という状況になりがちです。そうすると,被害者側が後から損害額を確認しようとしても,その全容を正しく把握するための情報や証拠がそもそもない,というケースが増えてしまうのです。

示談交渉時に被害額に争いが生じた際には,まず金額を特定する根拠があればそれを示し,最終的には被害者側が納得する解決内容を協議していくほかないところです。被害者の納得を得るために,ある程度金額面の譲歩をする判断も必要になり得ます。

④起訴不起訴が判断されるまでの期間

業務上横領事件は,その内容の性質上,捜査に長期間を要しやすい傾向にあります。特に,長期に渡って多数の横領行為があると疑われている事件では,それだけ証拠や資料の数も膨大になるため,円滑に捜査が進むことは期待しづらいでしょう。

捜査を受ける立場からすると,起訴不起訴の判断までには長期間が要しやすい,という点をあらかじめ踏まえておき,待機期間が長いことを悲観的に捉え過ぎないのが重要です。数か月の待機が生じることは決して珍しくないため,なかなか進展しないからといって一人で思い悩んでしまうことは避けたいところです。

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業務上横領に強い弁護士へ依頼するポイントや費用相場を弁護士が解説

会社の財産を不正に処分したと疑われる業務上横領は、発覚すれば逮捕や起訴、さらには実刑に至る可能性もある重大な犯罪です。発生直後から適切に対応しなければ、社会的信用の失墜や将来への影響は避けられません。こうしたリスクを最小限に抑えるには、業務上横領に精通した弁護士へ早期に相談することが不可欠です。本記事では、業務上横領に強い弁護士へ依頼する際のポイントや費用相場を、弁護士が分かりやすく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

横領罪とは

横領罪とは,他人の物を占有している人が,その物を領得する犯罪です。
典型例は,人から預かっていたお金を自分のために使ってしまう,というケースでしょう。

①横領罪と窃盗罪の区別

横領罪は窃盗罪との区別が問題になりやすいですが,両者の違いは,対象物が他人が占有しているものか,自己の占有するものか,という点にあります。

窃盗罪は,他人が占有しているものを,その他人の了承なく自分の占有に移す犯罪です。例えば万引きは,店舗が占有する商品を勝手に自分の持ち物にしてしまう犯罪というわけですね。
一方の横領罪は,もともと自分が占有をしている物を自分の物(所有)にしてしまう,という犯罪類型です。会社のお金を預かっていた(占有していた)としても,あくまでお金は会社の物であるため,そのお金を自分のために使ってしまうと横領罪になる,というわけですね。

②横領罪の類型

横領罪には,大きく分けて以下の3つの類型があります。

単純横領罪(刑法第252条第1項)自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の拘禁刑に処する。
業務上横領罪(刑法第253条)業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の拘禁刑に処する。
占有離脱物横領罪(刑法第254条)遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

横領事件として最も問題になりやすいのは,「業務上横領罪」でしょう。
経理担当者が勤務先の金銭を横領した場合などが代表的です。
一方,単純横領罪が成立するのは,業務の伴わない場合であり,友人から預かっていた金銭を使い込むようなケースが該当します。

また,占有離脱物横領罪は,横領罪ではありますが置き引きなどの窃盗類似の事例で問題になりやすいところです。

ポイント
窃盗と横領の区別は,対象物がどちらの占有していたものか,という点が基準
勤務先に対する業務上横領事件が問題になりやすい

参照:刑法 e-Gov法令検索

横領事件の刑事処分

横領事件は,窃盗類似の事件である占有離脱物横領罪を除き,罰金の処罰規定がありません。
つまり,拘禁刑より軽微な罰金刑が規定されておらず,罰金刑にとどまる余地がないため,起訴されるときにはすべて拘禁刑の対象となります。

もっとも,拘禁刑の対象になった場合の全てが実刑判決(直ちに刑務所に服役することを命じる判決)となるわけではありません。執行猶予となれば,刑務所に入る必要はなく,円滑に社会生活に復帰することが可能です。

横領事件の場合,実刑判決となるか執行猶予付きの判決となるかは,損害額の大きさをベースに判断されるのが通常です。損害額の大きな事件では,規模により概ね3~5年程度の実刑判決の対象となることも考えられるでしょう。
一方,事件の規模が大きい場合でも,その損害が後から金銭賠償等により補填されている場合には,非常に重要な事情として斟酌されます。損害が大きなケースであっても,その全部又は大部分が賠償されている場合には,損害が補填されたことを踏まえて執行猶予判決となることも数多く見られるところです。

横領事件の刑事処分においては,損害額とその補填の二つが重要な判断要素になりやすいことを把握しておくとよいでしょう。

ポイント
逮捕の可能性は事件の規模や悪質さによる
刑事処分の基準は損害額の大きさと補填の程度

業務上横領で弁護士に依頼するメリット

業務上横領の疑いを受けると、会社や警察への対応をどう進めるべきか判断が難しく、誤った行動が状況を悪化させるおそれがあります。早期に刑事事件に精通した弁護士へ相談することで、手続の見通しや最善の対応策を把握し、リスクを最小化できます。主なメリットは次のとおりです。

① 事前の相談ができる

業務上横領の疑いを受けたとき、会社からの呼び出しや任意の事情聴取にどのように対応すべきかは非常に悩ましい問題です。弁護士に早い段階で相談すれば、事実関係の整理、説明すべき範囲、警察や会社への対応方針などを事前に具体的に検討できます。
不適切な発言や曖昧な説明は後の手続で不利に扱われる可能性があるため、初動で専門家に助言を受けることは、結果に大きく影響します。弁護士のサポートを受けながら対応方針を固めることで、事件化リスクや身柄拘束のリスクを最小化できる点が大きなメリットです。

② 事件化する前に解決を目指すことができる

会社からの調査段階や、まだ警察に被害届が提出されていない段階で弁護士に依頼すると、事件化を防ぐための働きかけが可能になります。会社側は事実確認や損害の回収を優先している場合も多く、適切なコミュニケーションと誠実な対応方針を示すことで、刑事手続に進まずに内部処理で収めてもらえる可能性があります。

弁護士は、被害額の精査、返還方法の調整、謝罪の手順などを整理し、会社との交渉窓口を一本化します。本人だけで対応すると感情的な行き違いが生じやすく、誤解が事件化につながることもあるため、第三者である弁護士が関与することには大きな意味があります。早期に適切な対応を整えれば、被害届提出や告訴の回避につながり、逮捕や前科のリスクを大幅に減らすことができます。

業務上横領の事件の大きな特徴の一つが、捜査の前に当事者間で解決し得るケースが多くなりやすいという点です。事件化前の解決の余地があれば、可能な限り目指したいところです。

③ 事件化した場合は会社との示談交渉で不起訴を目指せる

被害届が提出され、業務上横領が事件化した場合でも、弁護士が介入することで示談成立による不起訴処分を目指すことが可能です。業務上横領は、被害者(多くは勤務先)の処罰感情が処分に大きく影響するため、適切な示談交渉は極めて重要です。

弁護士は、被害額の把握、返還方法や分割の可否、謝罪の伝え方、再発防止策の提示など、示談に必要な要素を丁寧に整理し、会社側と冷静な協議を進めます。本人が直接交渉すると、感情的対立や誤解が生じてしまい、かえって「厳罰を望む」という方向に傾くこともあるため、第三者である弁護士が交渉窓口となる意義は大きいといえます。

示談が成立し、被害回復が十分に図られたと判断されれば、検察官が不起訴処分とする可能性が高まり、前科を避けられるという重大なメリットがあります。

刑事事件として捜査が開始された後でも、当事者間での解決を目指すことは同様に極めて重要です。会社側に示談に応じる余地がある場合は、可能な限り示談を目指すことをお勧めします。

④ 逮捕された場合は接見が可能

業務上横領で逮捕されると、本人は家族とも連絡が取れず、孤立した状態で取調べを受けることになります。しかし、弁護士だけは面会(接見)が認められ、直接本人に状況を説明し、今後の方針を助言できる唯一の存在となります。

接見では、取調べでの回答姿勢、不利な供述を避けるための注意点、黙秘権の使い方、今後の身柄の見通しなど、刑事手続で重要となるポイントについて具体的なアドバイスが可能です。また、家族への連絡や生活面の調整など、精神的な負担を軽減する役割も果たします。

弁護士の迅速な接見により、本人の不安を和らげつつ、不利な自白の強要や誤った供述によるリスクを最小化できるのは大きなメリットです。初動段階での適切なサポートが、その後の処分や量刑にも影響し得るため、早期に弁護士へ依頼する意義は非常に大きいといえます。

⑤ 起訴された場合は執行猶予判決を目指す

業務上横領で起訴された場合でも、弁護士の弁護活動によって執行猶予付き判決を獲得できる可能性があります。量刑は、被害額や犯行態様、被害弁償の有無、反省状況、再発防止策など多くの事情を総合的に考慮して判断されるため、適切な主張・立証を行うことが極めて重要です。

弁護士は、示談成立の状況、家族の監督体制、職場環境の改善、再発防止策の具体性など、被告人に有利となる事情を整理し、裁判所に丁寧に伝える役割を担います。また、社会内での更生可能性を裏付ける資料(誓約書、監督書、就労証明など)の準備もサポートします。

これらの弁護活動によって、たとえ起訴されたとしても、実刑を回避し社会での生活を維持できる可能性が大きく高まります。刑事手続の中でも量刑判断は専門的要素が多いため、早期から弁護士に依頼して体制を整えておくことが重要です。

刑罰が防げない場合、実刑となるか執行猶予となるかは、今後の生活を決定づけるほど極めて大きな分岐点です。執行猶予判決の獲得は、損失を最小限に抑えるために最も重要な目標と言ってよいでしょう。

業務上横領に強い弁護士に依頼するポイント

① 迅速な示談交渉が可能か

業務上横領事件は,被害者との示談交渉が非常に重要なポイントとなります。具体的な被害者が存在する犯罪類型であることから,その被害者が捜査や刑罰を求めなければ,現実に捜査や刑罰の対象となることは考えにくいためです。

そして,その示談交渉は,可能な限り迅速に行うことが非常に重要となります。被害者側が警察に捜査を求めるかどうかを決める前に示談ができ,当事者間での解決となれば,捜査や刑罰を受ける現実的な可能性はなくなるため,極めて利益の大きな結果となるためです。
逆に,捜査が開始された後や事件が起訴された後では,示談が成立してもその効果は早期の示談成立には及びません。既に行われた手続がなかったことにはならないため,進行中の手続に伴う不利益は受け入れる必要が生じます。

そのため,弁護士選びに際しては,迅速な示談交渉を尽くしてくれるか,という点を重要な基準とすることをお勧めします。

② 具体的な解決方針を示してくれるか

多くの刑事事件は,典型的な暴行事件や交通事故などに代表されるように,一回きりの事件やトラブルであることが一般的です。この場合,解決方針は比較的シンプルに検討しやすく,見通しも分かりやすいことが多いでしょう。
もっとも,業務上横領事件の場合,当事者間の関係が継続的である上,発生した横領行為も継続的であることが多い,という点に大きな特徴があります。そのため,事件解決を目指すためには,複数の継続的な事柄を同時に解決する必要があり,方針や見通しもその分複雑にならざるを得ません。

弁護士が業務上横領事件を扱う場合,複数の継続的な事件を解決するための方針を具体的に立てることが,最初の大きなポイントとなるところです。逆に,弁護士を選ぶ立場からは,その弁護士の解決方針がどれだけ具体的で適切なものと考えられるか,という点を重要な判断材料とするのが適切でしょう。

継続的に複数回発生した業務上横領事件では、「個別事件の解決」と「全体の解決」をそれぞれ目指す必要があることも少なくありません。適切な整理と解決方針の検討は、対応に精通した弁護士に依頼することが望ましいでしょう。

③ 見通しの説明に説得力があるか

業務上横領事件は,ケースによってその見通しが様々に異なります。特に,財産に対する犯罪であることから,横領金額の大きさは処分の大きさをダイレクトに左右しやすい傾向が見られるところです。
また,前提として,被害者(主に勤務先など)との間で当事者間での解決ができ,被害者が加害者を許すとの判断に至れば,その段階で事件が終了するケースもあります。これは最も有益な結果であることが多く,最優先で目指したいところですが,当事者間での解決が実現できる場合には限りがあると言わざるを得ないのも事実です。

弁護士が業務上横領の弁護活動をする際には,数ある可能性から個別事件の内容を踏まえた見通しを立て,これを前提に弁護方針を検討することになります。そのため,見通しが適切であることは,弁護活動が適切であることに直結する非常に重要な問題です。
弁護士選びに際しては,弁護士による見通しの説明に耳を傾け,その内容や説得力に納得することができるか,という点を判断基準とすることが有力でしょう。

④ 弁護士と円滑に連絡が取れるか

弁護士と連絡を取る方法や連絡の頻度は,弁護士により様々です。特に,「弁護士と連絡したくても連絡が取れない」という問題は,セカンドオピニオンとして相談をお受けする場合に最も多く寄せられるお話の一つです。
電話をしても常に不通となって折り返しがない,メールへの返信も全くない,といったように,弁護士との連絡が滞るという問題は生じてしまいがちです。

そのため,弁護士とはどのような方法で連絡が取れるか,どのような頻度で連絡が取れるか,という点を重要な判断基準の一つとすることは,事件解決のために有力でしょう。

なお,法律事務所によっては,事務職員が窓口になって弁護士が直接には対応しない運用であるケースも考えられます。そのような運用が希望に合わない場合は,依頼後の連絡方法を具体的に確認することも有益でしょう。

弁護士との連絡が取れるペースや連絡方法は、個々の弁護士によって様々に異なります。連絡の円滑さに不安が生じてしまうと、状況確認がうまくできないのみでなく、解決に重大な影響を及ぼす可能性も高いでしょう。

業務上横領で示談を弁護士に依頼する重要性

業務上横領事件で示談は必要か

業務上横領事件の場合,認め事件では示談が必要と考えるべきでしょう。

業務上横領は,業務上の立場に基づいて預かった金銭等の財産を自分のものにする(横領する)ことを言います。そのため,業務上横領事件では,被害者に経済的な損害が発生していることになります。
業務上横領事件にこのような性質があるため,業務上横領事件の刑事処分の重さを判断する場合には,被害者に生じた経済的な損害の程度が非常に大きな事情となります。また,同時に,その経済的な損害が加害者によってどの程度回復されたか,という点も非常に重要な判断材料とされています。

例えば,同じ100万円の業務上横領事件でも,損害がそのままにされている場合と,後になって加害者が100万円を全額返金した場合とでは,加害者に対する刑事処分の程度は大きく異なります。当然ながら,100万円が全額返金されているケースの方が刑事処分は軽微なものとなり,内容によっては不起訴処分が獲得できる場合もあり得ます。不起訴処分となれば,刑罰を受ける可能性はなくなり,前科が付くこともありません。

そして,返金の手段として最も有益なものが示談です。示談によって支払う金額の合意ができ,その金額の返済もできていれば,被害者の経済的な損害は加害者によってすべて回復されたと評価できるでしょう。また,示談の中で被害者が加害者を許すという内容が合意されていれば,加害者が刑事処罰を受ける可能性は劇的に低くなるということもできます。

内容に争いのない業務上横領事件では,示談によって被害者の経済的な損害を回復させるとともに,被害者の許しを獲得するのが有益でしょう。

一方,否認事件の場合,示談を行うことには慎重な検討が必要です
示談の試みは,被害者に対する謝罪及び賠償という意味を持つ行動となることが一般的です。そのため,否認事件の場合に示談をするのは,疑いを否認しつつ謝罪や賠償をする,という必ずしも合理的とは言えない動き方になり得るのです。
否認事件でも,紛争の深刻化を防いで早期解決を図るため,示談を行うことが有益な場合も否定はできません。しかし,その内容や方法には適切な配慮が必要となるため,弁護士に相談して方針決定するようにしましょう。

ポイント

認め事件では示談が必要
→経済的損害の回復,許しの獲得のため

否認事件の示談は慎重に検討するべき
→否認の方針と矛盾しないための適切な配慮が必要

業務上横領事件の示談時期

業務上横領事件の場合,警察などの捜査機関から捜査を受けるより前に,当事者間で問題になり,協議の場などが設けられることも少なくありません。

業務上横領事件の代表例は,仕事上管理していた勤務先の金銭を横領してしまう,というケースですが,その横領が発覚した場合,いきなり警察などを巻き込むよりも,会社内部で問題視され,話し合いなどの機会が設けられる場合も多く見られます。
そして,捜査機関の介入前に当事者間で話し合うことになった場合は,可能な限り速やかに示談の試みを行い,当事者間での解決を目指すべきでしょう。

もし,当事者間で金銭的な解決ができ,勤務先が刑事処分を希望しないという判断に至った場合,警察などが捜査を行うきっかけが生じないため,刑事手続が始まることなく,当事者間のみでの解決で事件が終了することになります。刑事手続への対応自体が必要なくなる点で,当事者間で解決できた場合の利益は非常に大きなものであり,その可能性があるならば可能な限り目指すのが得策です。

また,被害に遭った勤務先としても,経済的な損害がすべて回復できるのであれば,それ以上に加害者が処罰を受けるなどの不利益を被ることまでは希望しない,という発想であることが少なくありません。
警察などに捜査をしてもらっても勤務先に利益が生じるわけではなく,かえって対応の負担が増すという面は否めないため,勤務先の方も当事者間での解決を優先的に検討してくれる場合はあり得ます。

業務上横領事件は,示談によって刑事手続そのものを防げる可能性がある点で,早期示談のメリットが非常に大きい類型と言えるでしょう。

ポイント
示談の試みは可能な限り早く
刑事手続前に示談できれば,示談ですべて解決できる場合も

業務上横領事件で示談をする方法

一般的な刑事事件では,弁護士が警察や検察といった捜査機関に問い合わせ,加害者が示談を希望する旨を申し入れるとともに,被害者側の意向を確認してもらう,という手順が多く取られます。
被害者が示談交渉を了承する場合には,弁護士に被害者の連絡先等が伝えられ,弁護士を窓口に直接のやり取りをスタートすることになりやすいでしょう。

示談交渉の流れ

もっとも,業務上横領事件の場合,代表的な勤務先での横領事件などであれば,加害者側と被害者側は直接の連絡を容易に取ることのできる関係であることが通常です。被害者である勤務先としても,わざわざ警察を通じて間接的に連絡をよこすのでなく,直接の連絡を行う方が望ましいと考える場合が多く見られます。

そのため,業務上横領事件のように直接の連絡が不適切でない場合は,弁護士から被害者側に直接連絡を入れ,示談交渉を試みることも珍しくありません。

業務上横領事件における示談交渉の流れ

いずれの方法を取るかは,個別のケースや被害者側の意向によっても異なるため,刑事事件に強い弁護士に相談の上,具体的に検討するようにしましょう。

業務上横領の示談金相場

具体的な金額の目安

業務上横領事件の示談金は,損害額を基準にすることとなります。
示談金は,業務上横領によって被害者に生じた損害を埋め合わせるものでなければならないため,まずは損害総額を確認し,その金額を踏まえて示談金を決定することが必要です。

一般的には,横領の対象となった金額にいくらかを上乗せして示談金とすることが多く見受けられます。どの程度上乗せをするかは双方の意向にもよりますが,上乗せされる要素としては以下のような点が挙げられます。

示談金に含む損害

1.横領行為による業務全体の損失
2.損害調査のために生じたコスト・負担
3.示談交渉のために生じた負担(弁護士費用等)

業務上横領の示談内容・条項

①一般的な示談条項

【確認条項】

加害者の被害者に対する支払金額を確認する条項です。

【給付条項】

確認条項に記載した金銭の支払をどのように行うのかを定める条項です。

【清算条項】

示談で定めた条項以外には,当事者間に権利義務の関係がないことを定める条項です。清算条項を取り交わせば,その後に相手から金銭を追加請求される可能性は法的になくなります。
業務上横領事件の場合,被害者の経済的な損害を全て回復させられたか,という点が重要となりやすいため,清算条項の価値がより高くなりやすい事件類型と言えます。清算条項があるということは,加害者が被害者に支払うべきものを全て支払った,という理解になるためです。

【宥恕条項】

宥恕(ゆうじょ)条項とは,被害者が加害者を許す,という意味の条項です。
示談が刑事処分に有利な影響を及ぼすのは,基本的にこの宥恕条項があるためです。被害者が加害者を許している,という事実が,刑事処分を劇的に軽減させる要素となります。
業務上横領事件は被害者のいる事件であり,被害者の意向が処分に反映されやすい類型であるため,宥恕条項の獲得は非常に重要となります。

②業務上横領事件で特に設けやすい条項

【退職・解雇】

業務上横領事件の示談では,示談後の雇用関係に関する取り決めを設けることが多く見られます。一般的には,勤務先側が加害者との関係の継続を希望することはあまりないため,加害者の自主退職又は勤務先による解雇を行うことが多いでしょう。

加害者の立場としては,基本的に退職しない選択肢が考えにくいため,勤務先の求めに応じる形で合意するのが最も合理的なことがほとんどです。

業務上横領の弁護士費用

法律相談

業務上横領の疑いを受けた場合、最も重要なのは初動の判断を誤らないことです。会社からの呼び出しへの対応、任意の事情聴取で何を話すか、被害額の整理など、序盤での対応がその後の処分に大きく影響します。
このため、事件化する前でも早めに弁護士へ法律相談することが有効です。

法律相談料は事務所によって異なりますが、多くの場合は「30分あたり5,000円〜1万円程度」とされる例が多く見られます。また、初回相談は無料としている法律事務所も少なくあありません。

弁護活動の依頼

業務上横領の弁護活動を正式に依頼する場合、費用は着手金報酬金に分かれます。
費用は事案の規模、身柄拘束の有無、示談の難易度によって変動しますが、業界全体を見ると以下が標準的な範囲といえます。

■ 在宅事件の場合の相場

身柄拘束がない分、費用は比較的抑えられる傾向があります。

  • 着手金:30万〜50万円程度
  • 報酬金:30万〜50万円程度
    (不起訴獲得、示談成立、執行猶予獲得などで変動)

在宅であっても、会社との交渉や被害額の調整が必要となるケースが多いため、一定の費用は見込まれます。

■ 身柄事件(逮捕・勾留)の場合の相場

逮捕・勾留が伴う場合は、接見や勾留阻止の対応など緊急性の高い業務が増えるため、在宅よりも高くなります。

  • 着手金:50万〜80万円前後
  • 報酬金:50万〜80万円前後

身柄事件では、接見対応、準抗告、保釈請求、家族との連絡調整など、短期間で多数の対応が必要となることが費用に反映されます。

■ 示談交渉費用

業務上横領では、示談の可否が処分の大きな分岐点となるため、多くの事務所が示談費用を独立した項目として定めています。

  • 示談交渉費用:20万〜40万円程度
    (被害額が大きい場合や複数の調整が必要な場合は増額することもある)

示談は業務の難度が高く、会社の処罰感情の調整、返還方法の協議、謝罪文の作成、再発防止策の提示など、多面的な対応が必要です。

◆ 業務上横領の弁護士費用:項目ごとの相場費用目安

項目内容費用相場(目安)
法律相談初回の事実整理・会社対応・事件化リスクの判断など30分:5,000円〜1万円(無料の事務所もあり)
在宅事件:着手金事件化後の弁護活動。警察・検察対応、示談、見通し整理など30万〜50万円
在宅事件:報酬金不起訴獲得、示談成立、執行猶予など結果に応じて発生30万〜50万円
身柄事件:着手金逮捕・勾留後の弁護活動。接見、勾留阻止など緊急対応が中心50万〜80万円前後
身柄事件:報酬金勾留阻止、不起訴、保釈、執行猶予獲得などの成果に応じて発生50万〜80万円前後
示談交渉費用会社との被害弁償・処罰感情の調整、謝罪文・再発防止策の作成など20万〜40万円(難易度により増額あり)

◆ 業務上横領の弁護士費用:総額の目安表

ケース総額の目安主な対応内容
在宅・示談なし60万〜100万円取調べ対応、検察折衝
在宅・示談あり80万〜140万円示談成立による不起訴を目指す対応
身柄・示談なし100万〜150万円接見、勾留阻止、保釈対応など
身柄・示談あり120万〜180万円示談+早期釈放の総合弁護
被害額が高額(数百万円〜数千万円)150万〜250万円超もあり得る複雑な示談交渉・分割弁済案の調整

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【業務上横領事件の示談を知りたい人のために】示談のメリットからタイミング・方法・金額・注意点まで徹底解説

このページでは,業務上横領事件の示談についてお悩みの方へ,弁護士が徹底解説します。
示談の方法,内容に加え,当事務所で弁護活動を行う場合の費用も紹介していますので,示談を弁護士に依頼するときの参考にしてみてください。

【このページで分かること】

業務上横領事件で示談は必要か
業務上横領事件の示談時期
業務上横領事件で示談をする方法
業務上横領事件の示談金相場
業務上横領事件の示談内容・条項
業務上横領事件の示談で注意すべきこと
業務上横領事件の示談に必要な費用

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業務上横領事件で示談は必要か

業務上横領事件の場合,認め事件では示談が必要と考えるべきでしょう。

業務上横領は,業務上の立場に基づいて預かった金銭等の財産を自分のものにする(横領する)ことを言います。そのため,業務上横領事件では,被害者に経済的な損害が発生していることになります。
業務上横領事件にこのような性質があるため,業務上横領事件の刑事処分の重さを判断する場合には,被害者に生じた経済的な損害の程度が非常に大きな事情となります。また,同時に,その経済的な損害が加害者によってどの程度回復されたか,という点も非常に重要な判断材料とされています。

例えば,同じ100万円の業務上横領事件でも,損害がそのままにされている場合と,後になって加害者が100万円を全額返金した場合とでは,加害者に対する刑事処分の程度は大きく異なります。当然ながら,100万円が全額返金されているケースの方が刑事処分は軽微なものとなり,内容によっては不起訴処分が獲得できる場合もあり得ます。不起訴処分となれば,刑罰を受ける可能性はなくなり,前科が付くこともありません。

そして,返金の手段として最も有益なものが示談です。示談によって支払う金額の合意ができ,その金額の返済もできていれば,被害者の経済的な損害は加害者によってすべて回復されたと評価できるでしょう。また,示談の中で被害者が加害者を許すという内容が合意されていれば,加害者が刑事処罰を受ける可能性は劇的に低くなるということもできます。

内容に争いのない業務上横領事件では,示談によって被害者の経済的な損害を回復させるとともに,被害者の許しを獲得するのが有益でしょう。

一方,否認事件の場合,示談を行うことには慎重な検討が必要です
示談の試みは,被害者に対する謝罪及び賠償という意味を持つ行動となることが一般的です。そのため,否認事件の場合に示談をするのは,疑いを否認しつつ謝罪や賠償をする,という必ずしも合理的とは言えない動き方になり得るのです。
否認事件でも,紛争の深刻化を防いで早期解決を図るため,示談を行うことが有益な場合も否定はできません。しかし,その内容や方法には適切な配慮が必要となるため,弁護士に相談して方針決定するようにしましょう。

ポイント

認め事件では示談が必要
→経済的損害の回復,許しの獲得のため

否認事件の示談は慎重に検討するべき
→否認の方針と矛盾しないための適切な配慮が必要

業務上横領事件の示談時期

業務上横領事件の場合,警察などの捜査機関から捜査を受けるより前に,当事者間で問題になり,協議の場などが設けられることも少なくありません。

業務上横領事件の代表例は,仕事上管理していた勤務先の金銭を横領してしまう,というケースですが,その横領が発覚した場合,いきなり警察などを巻き込むよりも,会社内部で問題視され,話し合いなどの機会が設けられる場合も多く見られます。
そして,捜査機関の介入前に当事者間で話し合うことになった場合は,可能な限り速やかに示談の試みを行い,当事者間での解決を目指すべきでしょう。

もし,当事者間で金銭的な解決ができ,勤務先が刑事処分を希望しないという判断に至った場合,警察などが捜査を行うきっかけが生じないため,刑事手続が始まることなく,当事者間のみでの解決で事件が終了することになります。刑事手続への対応自体が必要なくなる点で,当事者間で解決できた場合の利益は非常に大きなものであり,その可能性があるならば可能な限り目指すのが得策です。

また,被害に遭った勤務先としても,経済的な損害がすべて回復できるのであれば,それ以上に加害者が処罰を受けるなどの不利益を被ることまでは希望しない,という発想であることが少なくありません。
警察などに捜査をしてもらっても勤務先に利益が生じるわけではなく,かえって対応の負担が増すという面は否めないため,勤務先の方も当事者間での解決を優先的に検討してくれる場合はあり得ます。

業務上横領事件は,示談によって刑事手続そのものを防げる可能性がある点で,早期示談のメリットが非常に大きい類型と言えるでしょう。

ポイント
示談の試みは可能な限り早く
刑事手続前に示談できれば,示談ですべて解決できる場合も

業務上横領事件で示談をする方法

一般的な刑事事件では,弁護士が警察や検察といった捜査機関に問い合わせ,加害者が示談を希望する旨を申し入れるとともに,被害者側の意向を確認してもらう,という手順が多く取られます。
被害者が示談交渉を了承する場合には,弁護士に被害者の連絡先等が伝えられ,弁護士を窓口に直接のやり取りをスタートすることになりやすいでしょう。

示談交渉の流れ

もっとも,業務上横領事件の場合,代表的な勤務先での横領事件などであれば,加害者側と被害者側は直接の連絡を容易に取ることのできる関係であることが通常です。被害者である勤務先としても,わざわざ警察を通じて間接的に連絡をよこすのでなく,直接の連絡を行う方が望ましいと考える場合が多く見られます。

そのため,業務上横領事件のように直接の連絡が不適切でない場合は,弁護士から被害者側に直接連絡を入れ,示談交渉を試みることも珍しくありません。

業務上横領事件における示談交渉の流れ

いずれの方法を取るかは,個別のケースや被害者側の意向によっても異なるため,刑事事件に強い弁護士に相談の上,具体的に検討するようにしましょう。

業務上横領事件の示談金相場

業務上横領事件の示談金は,損害額を基準にすることとなります。
示談金は,業務上横領によって被害者に生じた損害を埋め合わせるものでなければならないため,まずは損害総額を確認し,その金額を踏まえて示談金を決定することが必要です。

一般的には,横領の対象となった金額にいくらかを上乗せして示談金とすることが多く見受けられます。どの程度上乗せをするかは双方の意向にもよりますが,上乗せされる要素としては以下のような点が挙げられます。

示談金に含む損害

1.横領行為による業務全体の損失
2.損害調査のために生じたコスト・負担
3.示談交渉のために生じた負担(弁護士費用等)

業務上横領事件の示談内容・条項

①一般的な示談条項

【確認条項】

加害者の被害者に対する支払金額を確認する条項です。

【給付条項】

確認条項に記載した金銭の支払をどのように行うのかを定める条項です。

【清算条項】

示談で定めた条項以外には,当事者間に権利義務の関係がないことを定める条項です。清算条項を取り交わせば,その後に相手から金銭を追加請求される可能性は法的になくなります。
業務上横領事件の場合,被害者の経済的な損害を全て回復させられたか,という点が重要となりやすいため,清算条項の価値がより高くなりやすい事件類型と言えます。清算条項があるということは,加害者が被害者に支払うべきものを全て支払った,という理解になるためです。

【宥恕条項】

宥恕(ゆうじょ)条項とは,被害者が加害者を許す,という意味の条項です。
示談が刑事処分に有利な影響を及ぼすのは,基本的にこの宥恕条項があるためです。被害者が加害者を許している,という事実が,刑事処分を劇的に軽減させる要素となります。
業務上横領事件は被害者のいる事件であり,被害者の意向が処分に反映されやすい類型であるため,宥恕条項の獲得は非常に重要となります。

②業務上横領事件で特に設けやすい条項

【退職・解雇】

業務上横領事件の示談では,示談後の雇用関係に関する取り決めを設けることが多く見られます。一般的には,勤務先側が加害者との関係の継続を希望することはあまりないため,加害者の自主退職又は勤務先による解雇を行うことが多いでしょう。

加害者の立場としては,基本的に退職しない選択肢が考えにくいため,勤務先の求めに応じる形で合意するのが最も合理的なことがほとんどです。

業務上横領事件の示談で注意すべきこと

①被害者側の方針に大きく左右される

業務上横領事件は,被害者側と早期に示談をすることが非常に有益ですが,実際に早期の示談ができるかどうかは,被害者側の対応方針に大きく影響を受けます。

具体的には,警察への通報などを全くしないで当事者間で解決することが犯罪を不問にするという意味合いの行動にもなるため,コンプライアンス(=法令遵守)の観点から不適切と被害者側が考えた場合,早期合意は困難なことがあり得ます。
コンプライアンスを優先するか,早期解決による負担の軽減を優先するかは,完全に被害者側の方針の問題であるため,加害者側には致し方ないところです。

この点,被害者が示談だけで終了させることに難色を示せば,やむを得ず刑事手続の対象になりますが,その後でも示談が有益であることに変わりはありません。捜査を受けたとしても,その後に示談が成立すれば,逮捕や起訴の可能性が大きく低下することは間違いなく,一般的には不起訴処分で終了することになりやすいでしょう。

示談ができるか,できるとしてどのタイミングになるかは被害者側の方針によりますが,加害者としては,被害者がどのような方針であっても示談を目指すべきことに変わりはないと考えて差し支えありません。

②金額の争いが生じやすい

業務上横領事件では,被害額の正確な特定が困難であるため,支払うべき金額がいくらかという点に争いの生じることが少なくありません。
特に,勤務先で事業用の金銭を管理している立場で横領行為をしてしまった,という場合,他に収支を管理している人がいなければ,正確な金額計算をできる人は基本的に存在しないこととなります。また,加害者の横領行為とは別に会計上の不明な部分が存在することも珍しくないため,加害者と関係のない点も加害者のせいにされてしまう場合が一定数見られます。

この点,金額の争いがあった場合に具体的な対応をどうするかは,個別の内容によるところですが,金額の差があまり大きくない場合には,被害者側の言い分にできる限り沿った対応を行うのが望ましくなりやすいでしょう。若干の金額を調整できれば示談に至る,というのであれば,示談の成立を優先する方が加害者の利益も大きいためです。それだけ,業務上横領事件で被害者と示談できることの価値は高いものです。

ポイント
被害者側のコンプライアンスに対する方針に左右されやすい
横領行為と関係のない金額のズレも被害額と主張されやすい

業務上横領事件の示談に必要な費用

藤垣法律事務所で業務上横領事件の弁護活動を行う場合,必要な費用のモデルケースとしては以下の内容が挙げられます。

①活動開始時

着手金33万円
実費相当額1万円
合計34万円

一般的な在宅事件では,34万円のお預かりにて活動の開始が可能です。

②弁護活動の成果発生時

不起訴処分33万円
示談成立22万円(※)
出張日当・実費実額
※金銭賠償で5.5万円,清算条項締結で5.5万円,宥恕の獲得で11万円

活動の成果が生じた場合に限り,55万円(実費日当を除く)の費用が発生します。

③示談金

業務上横領事件の場合,横領額を基準とした示談金の支払いが想定されます。

④合計額

上記①~③の合計額が必要な費用負担となります。

目安となる費用総額(50万円で示談成立+不起訴の場合)

弁護士費用:34万円+55万円=89万円
示談金:50万円

計:139万円

弁護士費用の例

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横領罪で早く会社と解決するためには?横領事件の悩みとケース別の対応方法を解説

●横領罪はどのような場合に成立するか?

●横領が職場に発覚した場合にはどうすべきか?

●横領事件は逮捕されるか?

●横領事件では実刑判決になるか?

●横領事件は弁護士に依頼すべきか?

●横領事件ではどんな弁護活動が可能か?

●横領事件の示談での注意点は?

といった悩みはありませんか?

このページでは,横領事件の対応に関してお困りの方に向けて,横領事件の流れ横領事件の捜査,刑罰,弁護活動等について詳細に解説します。

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横領罪とは

横領罪とは,他人の物を占有している人が,その物を領得する犯罪です。
典型例は,人から預かっていたお金を自分のために使ってしまう,というケースでしょう。

①横領罪と窃盗罪の区別

横領罪は窃盗罪との区別が問題になりやすいですが,両者の違いは,対象物が他人が占有しているものか,自己の占有するものか,という点にあります。

窃盗罪は,他人が占有しているものを,その他人の了承なく自分の占有に移す犯罪です。例えば万引きは,店舗が占有する商品を勝手に自分の持ち物にしてしまう犯罪というわけですね。
一方の横領罪は,もともと自分が占有をしている物を自分の物(所有)にしてしまう,という犯罪類型です。会社のお金を預かっていた(占有していた)としても,あくまでお金は会社の物であるため,そのお金を自分のために使ってしまうと横領罪になる,というわけですね。

②横領罪の類型

横領罪には,大きく分けて以下の3つの類型があります。

単純横領罪(刑法第252条第1項)自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。
業務上横領罪(刑法第253条)業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
占有離脱物横領罪(刑法第254条)遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

横領事件として最も問題になりやすいのは,「業務上横領罪」でしょう。
経理担当者が勤務先の金銭を横領した場合などが代表的です。
一方,単純横領罪が成立するのは,業務の伴わない場合であり,友人から預かっていた金銭を使い込むようなケースが該当します。

また,占有離脱物横領罪は,横領罪ではありますが置き引きなどの窃盗類似の事例で問題になりやすいところです。

ポイント
窃盗と横領の区別は,対象物がどちらの占有していたものか,という点が基準
勤務先に対する業務上横領事件が問題になりやすい

横領事件が職場に発覚した場合の対応

職場での業務上横領事件では,職場に発覚する形で問題が明らかになる場合が大多数です。
そして,それが刑事事件化するのは,職場が警察等の捜査機関に捜査を求めた場合,ということになります。
そのため,横領事件が職場に発覚した場合,職場に対してどのような対応を取るのかは,極めて重要な事項になってきます。

①金銭賠償

横領事件が職場に発覚した場合,横領をしてしまった従業員のすべき対応は,何よりも金銭賠償に尽きます。

会社としては,横領行為によって財産が失われてしまったわけですから,その財産的損害がどのように補填できるのか,又はできないのか,という点が最大の懸案事項ということになります。
例えば,預貯金から一定の支払がなされた上で,何らかの仕事を続けるなどして継続的な返済を行うことにより,損害額全体の補填が見込まれるのであれば,会社にとってはそれが最も有益な結論であると理解されることがほとんどです。逆に,刑事事件としたために得られたはずの返済が得られなくなってしまうとなると,会社には不利益が残ってしまいます。
そのため,まずは具体的な返済方法や計画を具体的に示すよう努め,会社にとって刑事事件化が不合理な選択肢であると理解してもらうことが非常に重要になるでしょう。

②事実関係の確認への協力

金銭賠償を行う前提として,横領行為によって会社にはどれだけの損害が生じたのか,という事実関係の確認が不可欠です。

この点,業務上横領事件が生じてしまっている状況では,横領をした従業員のみが把握している財産の流れも多く,全体像を明らかにするためには従業員側の協力が必要となるところです。
会社としても,事件の詳細を確認することは非常に煩雑な作業を要するため,従業員の協力によって円滑化すれば,その後の話し合いに対してもプラスの材料として考慮することが多くなるでしょう。

逆に,自分の行為とは関係なく生じている被害についてまで横領を疑われる可能性もあります。業務上横領事件の起きる会社の財産管理は十分でないことも多く,事件の発覚後になって様々な金銭の不足が明らかになることも少なくありませんが,その全てが一人の従業員の行為によるものと誤認される場合もあるのです。
そのような疑いをかけられたときには,自身の行為によるものとそうでないものを区別の上,自身の行為による損害について可能な限り具体的かつ詳細な説明を尽くすなど,事実確認への協力に努めるのが適切でしょう

③適切な対応をしても刑事事件化が避けられないケース

金銭賠償や調査協力など,できる限りの対応を尽くしても,なお刑事事件化が避けられない場合はあり得ます。

例えば,損害の規模があまりに大きい場合,従業員に全額の賠償ができないことが明らかであるため,最初から刑事事件として処分してもらうことを会社が求める場合が考えられます。
また,会社がコンプライアンス(法令順守)に厳しく,法令違反については厳格な対応を取る方針である場合には,事件の大小にかかわらず刑事事件化を求めることもあり得ます。

刑事事件とすることを求めるかどうかは,専ら被害者である会社側の判断になり,刑事事件化されたことに何らかの不服を申し立てる余地はありません。それだけに,できる限り会社の温情的な判断を引き出すような真摯な対応が望ましいことは間違いないでしょう。

ポイント
職場に発覚した場合は,可能な限りの賠償と調査協力を
コンプライアンスに厳しい勤務先の場合は,それでも厳格な方針となる場合あり

横領事件で逮捕される場合

横領事件では,逮捕されるケース,されないケースいずれも考えられるところです。
逮捕されやすい場合としては,以下のようなものが挙げられます。

①事件の規模が大きい

横領事件は金額的な規模が様々ですが,被害金額の規模が大きければ大きいほど,逮捕の可能性は高くなる傾向にあります。
金額の規模が大きいケースは,最終的な処罰も実刑判決などの重大な刑罰になりやすいため,逃亡や証拠隠滅の可能性が類型的に高く,逮捕の必要性も高いと判断されやすいためです。

②組織的事件である

複数の共犯者が関与する組織的事件では,共犯者間のやり取りが秘密裏に行われている場合が多く,それらの証拠は容易に隠滅される可能性が高いため,逮捕の可能性も比例して高くなりやすいです。
また,共犯者間での口裏合わせを防ぐため,逮捕に引き続く勾留の段階では「接見禁止」という処分がなされるケースも多く見られます。接見禁止の場合,弁護士以外との面会ができず,共犯者との面会を通じた証拠隠滅が防止されます。

③否認事件である

否認事件は,認め事件に比べて証拠隠滅の恐れが大きく,逮捕の可能性が高くなる傾向にあります。
特に,客観的証拠を踏まえれば犯罪事実の存在が明らかである等,否認の内容が不合理であると判断される場合には,より逮捕の可能性は上昇しやすいでしょう。

横領事件の刑事処分

横領事件は,窃盗類似の事件である占有離脱物横領罪を除き,罰金の処罰規定がありません。
つまり,懲役刑より軽微な罰金刑が規定されておらず,罰金刑にとどまる余地がないため,起訴されるときにはすべて懲役刑の対象となります。

もっとも,懲役刑の対象になった場合の全てが実刑判決(直ちに刑務所に服役することを命じる判決)となるわけではありません。執行猶予となれば,刑務所に入る必要はなく,円滑に社会生活に復帰することが可能です。

横領事件の場合,実刑判決となるか執行猶予付きの判決となるかは,損害額の大きさをベースに判断されるのが通常です。損害額の大きな事件では,規模により概ね3~5年程度の実刑判決の対象となることも考えられるでしょう。
一方,事件の規模が大きい場合でも,その損害が後から金銭賠償等により補填されている場合には,非常に重要な事情として斟酌されます。損害が大きなケースであっても,その全部又は大部分が賠償されている場合には,損害が補填されたことを踏まえて執行猶予判決となることも数多く見られるところです。

横領事件の刑事処分においては,損害額とその補填の二つが重要な判断要素になりやすいことを把握しておくとよいでしょう。

ポイント
逮捕の可能性は事件の規模や悪質さによる
刑事処分の基準は損害額の大きさと補填の程度

横領事件の弁護活動

①認め事件の場合

認めの横領事件については,少しでも早く金銭賠償(示談)の試みを行うのが極めて重要になるでしょう。
もっとも,例えば会社での業務上横領事件において,従業員本人が会社と直接金銭賠償の協議を行うのは,現実的には困難なことが非常に多いです。立場に大きな違いがある上,直ちに全額の賠償ができない限り,詳細な交渉にならざるを得ないことから,示談交渉は弁護士への委任が適切でしょう。
弁護士に委任すれば,有力な交渉方法・内容について案内を受けられるとともに,会社との間で理性的な,前向きな交渉を行うことが可能になります。

②否認事件の場合

否認事件では,犯罪事実の有無が極めて重要なポイントになります。犯罪事実の立証ができなければ不起訴となり,犯罪事実の立証が可能と判断されれば起訴される可能性が高まります。
この点横領事件における否認のケースとしては,本当に犯人であるかという点や,何らかの犯人であったとしてもその特定の事件を犯した犯人だと立証できているか,という点が問題になりやすいです。特に,幅のある期間の中で何らかの横領行為がなされたはずである,という疑いの場合には,その個別の横領行為が立証できているのか問題になることが少なくありません。

横領事件で示談を試みる場合の注意点

横領事件で生じやすい示談交渉時の問題として,被害金額の認識に相違が生じやすい,ということが挙げられます。
横領事件の生じる状況下では,被害者が自身の財産を詳細に把握していない場合が多く,どれだけの被害があったかを裏付ける証拠に乏しいことが少なくありません。その場合,被害者としては,本来あったはずの財産額と現実に残っている財産額の差額を被害額とみなすことが見込まれますが,その差額の全てが加害者側の横領行為によって生じたとは限りません。実際,別の原因(財産管理の不十分さなど)で使途不明金などが生じている場合も多く見られます。
そのため,心当たりのない金額も含めて被害者側から請求されることは少なくないでしょう。

もっとも,示談交渉の局面においては,被害金額の認識に相違が生じやすいことを事前に想定した上で,実際に相違があった場合にはできる限り被害者側の認識に寄り添った形での解決を目指すのが現実的と思われます。被害者の立場からすれば,損害額を争っている加害者との間で示談しようとは考えにくいためですね。
このときは,「実際の被害金額は異なるが,示談の限りであればご主張の金額を支払う」というスタンスである旨を表明することで,被害者側にとっても,「示談の方がより大きな損害の回復が見込める」という示談のメリットが生まれます。示談交渉を円滑に進めるためには非常に大切な発想になりやすいでしょう。

刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ

横領事件は,被害者側への対応が極めて重要になりやすい事件類型です。
特に,被害者側との間でどのような金銭面の事後対応を尽くしたのか,という点は,処分の重さに直接影響することが非常に多いと言うことができます。
もっとも,その対応をご自身で行うのは,立場上も容易ではないため,対応に精通した弁護士への委任が有力でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内することができます。
早期対応が重要となりますので,お困りごとがある方はお早めにお問い合わせください。

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