車線変更中に事故を起こすと、「車線変更した側がすべて悪いのか」「保険会社から提示された過失割合は妥当なのか」と疑問を感じる方も多いでしょう。一般道における四輪車同士の典型的な事故では、車線変更車70:後続直進車30が基本ですが、事故状況によって割合は変わります。
本記事では、車線変更事故の基本過失割合をはじめ、ウインカーの有無や速度超過などの修正要素、一般道・高速道路・バイクとの事故・ダブル変更における割合の違い、提示された過失割合に納得できない場合の対処法を解説します。
保険会社の提示を十分に確認せず示談すると、本来より重い過失を負い、受け取れる賠償金が減ったり、相手に支払う賠償額が増えたりするおそれがあります。基本割合と実際の事故状況を照らし合わせ、適切な過失割合を判断することが必要です。

この記事の監修者
藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介
全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。
車線変更の事故における基本過失割合は「70:30」
一般道で四輪車が隣の車線へ移動し、その車線を後方から直進してきた四輪車と衝突した場合、基本過失割合は車線変更車70:後続直進車30です。車線変更車が前方、直進車が後方を走行し、車線変更車の前部や側面と後続直進車の前部が接触した事故が典型例です。

【引用:別冊判例タイムズ38号】
車線変更車の過失が重くなるのは、進路を変えることで後続直進車の通行を妨げる危険を生じさせるためです。運転者は、変更先の車線を走る車の速度や進行方向を急に変えさせるおそれがある場合、進路を変更してはなりません。後続車との距離や速度を十分に確認せず車線へ入った車には、事故発生の主な責任が認められます。
一方、後続直進車も、前方や周囲の状況を確認し、車線変更車の動きに応じて減速や車間距離の確保をする必要があります。適切な時期にウインカーが出され、車線変更の開始を認識して事故を回避する余地があったという前提から、後続直進車にも30%の過失が割り当てられています。
ただし、70:30は法令で一律に定められた割合ではありません。過去の裁判例を類型化した基準に基づき、典型的な車線変更事故について、交渉や裁判で用いられる判断の出発点です。並走中の車が突然横から進入したため回避できなかった場合や、車線変更車がウインカーを出していなかった場合まで、同じ割合になるわけではありません。
実際の過失割合を判断する際は、まず両車の位置関係から基本となる事故類型を特定します。そのうえで、合図の有無、速度、車線変更の時期、接触箇所、回避可能性を確認し、70:30から割合を修正すべき事情があるかを検討します。
車線変更事故の過失割合が変わる要素
ここで示す修正幅は、一般道で四輪車が車線変更し、後続直進車と衝突した典型的な事故を前提とします。基本となる車線変更車70:後続直進車30に個別の事情を反映し、最終的な過失割合を判断します。
車線変更車がウインカーを出していない・合図が遅い
車線変更車がウインカーを出していなかった場合、基本割合から車線変更車の過失を20%加算し、車線変更車90:後続直進車10とするのが基本です。後続直進車が車線変更を予測し、減速や回避をするための手掛かりを与えなかったことが理由です。
車線変更の合図は、進路を変える約3秒前に始める必要があります。ウインカーを出していても、車線変更とほぼ同時であれば、後続直進車に回避する時間がありません。そのため、形式的に合図を出したかだけでなく、合図を出した時期と事故までの時間をドライブレコーダーなどから確認します。
車線変更が禁止されている場所で進路を変更した
黄色の実線で区画されるなど、進路変更が禁止された場所で車線変更した場合も、車線変更車の過失が20%加算され、車線変更車90:後続直進車10となるのが基本です。後続直進車は、禁止場所で前方車両が車線変更することまで通常は強く予測する必要がないため、過失が軽くなります。
もっとも、黄色の線を越えたというだけで修正されるわけではありません。事故現場の規制が進路変更自体を禁止するものか、規制区間内で車線変更が行われたかを確認する必要があります。道路標示、事故地点、車線変更の開始位置は、現場写真やドラレコ映像から特定します。
車線変更車に急な割込みなどの著しい過失・重過失がある
車線変更車に著しい過失があれば、その過失を10%加算し、車線変更車80:後続直進車20とするのが基本です。後続車が目前まで接近しているのに急に割り込んだ場合や、前方・後方を十分に確認せず進路を変えた場合など、通常の車線変更より危険性が高い運転が対象になります。
居眠り運転、酒酔い運転、無免許運転などの重過失が認められる場合は、車線変更車の過失を20%加算し、車線変更車90:後続直進車10とするのが基本です。ただし、急な割込みについては、基本割合が想定する車線変更を超える危険な態様だったかを、両車の距離や車線への進入角度から判断します。
後続直進車が制限速度を超過している
後続直進車が制限速度を超えていた場合は、車線変更車が安全に進路を変えられると判断した後に後続車が急接近するため、後続直進車の過失が重くなります。一般に、時速15キロメートル以上30キロメートル未満の速度超過では、車線変更車60:後続直進車40が基本です。
時速30キロメートル以上の速度超過では、後続直進車の過失が20%加算され、車線変更車50:後続直進車50となるのが基本です。速度超過を主張する場合は、衝突時の速度だけでなく、車線変更が始まった時点の速度を、ドラレコ映像、車両の損傷、制動痕などから明らかにする必要があります。
後続直進車に脇見運転などの著しい過失・重過失がある
後続直進車がスマートフォンを注視していた場合や、著しい前方不注視があった場合は、その過失を10%加算し、車線変更車60:後続直進車40とするのが基本です。車線変更車の動きを確認して回避できたのに、脇見などによって対応が遅れたことが修正の理由になります。
後続直進車に居眠り運転、酒酔い運転、無免許運転などの重過失が認められる場合は、20%の加算により、車線変更車50:後続直進車50となるのが基本です。事故後の推測だけでは修正されないため、ドラレコ映像、目撃証言、本人の供述、刑事記録などから具体的な運転状況を確認します。
修正要素は、当然に考慮されるわけではなく、特に該当する事情があると判断できる場合にのみ過失割合に影響するものです。事故類型から機械的に特定できる基本過失割合とは異なり、根拠を添えて具体的に主張することが必要になります。
【ケース別】車線変更事故の過失割合パターン
一般道で四輪車同士の車線変更事故
一般道で前方の四輪車が隣の車線へ移動し、その車線を後方から直進してきた四輪車と衝突した場合、基本過失割合は車線変更車70:後続直進車30です。車線変更車には後続車の進行を妨げない義務がある一方、後続直進車にも前方を確認して衝突を避ける義務があるため、双方に過失が割り当てられます。
ただし、この割合は車線変更車が前方、直進車が後方を走り、車線変更の開始後に接触した事故を想定しています。並走していた車が突然横から進入した場合や、車線変更が完了した後に追突された場合は、前提となる事故類型が異なります。両車の前後関係、車線変更の開始時期、接触箇所を確認し、70:30を適用できる事故かを判断する必要があります。

【引用:別冊判例タイムズ38号】(再掲)
高速道路の本線合流・車線変更での事故
高速道路では、本線への合流と本線上の車線変更で基本割合が異なります。加速車線から本線へ合流する車と本線車が衝突した場合は、合流車70:本線車30が基本です。合流車は本線車の進行を妨げてはならない一方、本線車も合流地点では車両の進入を予測し、速度調整などによって衝突を避けることが求められます。
走行車線から追越車線へ変更した車と、追越車線を後方から直進してきた車が衝突した場合は、車線変更車80:後続直進車20が基本です。追越車線では一般道よりも高い速度で車両が接近するため、進路を変更する車に重い注意が求められます。高速道路の事故を一律に70:30とせず、本線への合流なのか、本線上での車線変更なのかを区別しなければなりません。


【引用:別冊判例タイムズ38号】
四輪車とバイク(二輪車)の車線変更事故
四輪車が車線変更し、後方から直進してきたバイクと衝突した場合は、四輪車80:バイク20が基本です。バイクは四輪車よりも車体が小さく、接触によって転倒しやすいため、四輪車側にはその存在を確認し、安全な間隔を確保して車線変更することが求められます。
これに対し、バイクが車線変更し、後方を直進する四輪車と衝突した場合は、バイク60:四輪車40が基本です。車線変更をしたバイクの過失が重くなりますが、直進四輪車にもバイクの動きを確認して事故を避ける義務があります。四輪車とバイクの事故では、単に車種だけを見るのではなく、どちらが車線変更したのかを確認して基本割合を選択します。

【引用:別冊判例タイムズ38号】
同時に両車が車線変更した「ダブル変更」事故
片側3車線の道路で、左側と右側を走る車が同時に中央車線へ移動して衝突した場合、どちらか一方が直進していた通常の車線変更事故とは異なります。双方が進路を変えており、変更先の安全を確認する義務を負うため、両車の優劣を決める事情がなければ、50:50を出発点として検討します。
もっとも、ダブル変更事故について一律に適用できる割合が定められているわけではありません。先に中央車線へ入っていた車がある場合は、後から進入した車の過失が重くなる可能性があります。ウインカーを出した時期だけで優先関係が決まるものでもないため、車線変更を始めた時期、中央車線への進入状況、車体の先後関係、接触箇所、回避可能性を映像などから比較して判断します。
車線変更事故で過失割合に納得がいかない場合の対処法
ドライブレコーダーや事故現場・車両損傷の証拠を集める
過失割合を争うには、まず車線変更を開始した時期、両車の位置関係、ウインカーの有無、速度、回避可能性を裏付ける証拠を確保します。ドライブレコーダーの映像は上書きされる可能性があるため、事故後すぐに別の媒体へ保存し、相手車両や周辺車両に映像が残っていないかも確認します。
事故現場では、車線の数や道路標示、黄色線の位置、接触地点、見通しなどを写真に残します。双方の車両についても、傷の位置や向き、へこみ方を撮影しておけば、どちらが先に車線へ入ったかを検討する材料になります。警察への届出を済ませ、必要に応じて実況見分調書などの刑事記録も確認し、客観的な証拠から事故状況を確定することが必要です。
保険会社の算定根拠を確認して適切な過失割合を主張する
保険会社から過失割合を提示されたら、割合だけでなく、どの事故類型を基準にしたのか、どの修正要素を反映したのかを確認します。車線変更事故という理由だけで70:30が示されていても、実際には並走中の接触、高速道路での進路変更、バイクとの事故など、別の基準を用いるべき場合があります。
事故類型が一致していても、ウインカーなし、進路変更禁止場所、速度超過などが考慮されていなければ、証拠を示して修正を求めます。保険会社の提示は確定した判断ではないため、納得できない段階で同意する必要はありません。基本割合の変更を求めるときは、単に「避けられなかった」と伝えるのではなく、事故状況、適用すべき基準、修正要素、求める割合を具体的に整理して主張します。
示談成立前に交通事故に詳しい弁護士へ相談する
当事者だけで事故類型や修正要素を判断することが難しい場合は、示談が成立する前に弁護士へ相談します。弁護士は、ドラレコ映像や車両の損傷状況から事故態様を整理し、裁判例を基礎とした基準と照らし合わせて、保険会社の提示した過失割合が妥当かを検討できます。
示談書に署名するなどして合意が成立すると、原則として後から過失割合を変更できません。過失割合は、受け取れる賠償額だけでなく、相手に支払う金額にも直接影響するため、合意前の確認が必要です。自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、一定の限度まで弁護士費用を保険で賄えるため、加入している保険の補償内容を確認したうえで相談することが有効です。
検討の順序は、まず基本過失割合、次に修正要素の有無、となります。それぞれの結論と根拠を整理しながら検討することで、適切な解決が可能になりやすいでしょう。
車線変更の事故過失割合まとめ
一般道における典型的な四輪車同士の事故では、車線変更車70:後続直進車30が基本です。ただし、高速道路での進路変更、バイクとの事故、両車が同時に車線を変えた事故では、異なる割合が判断の出発点になります。
最終的な過失割合は、事故類型を特定したうえで、ウインカーの有無、進路変更禁止場所、速度超過、双方の運転状況などを反映して決めます。保険会社から70:30を提示されても、実際の事故状況に合った割合とは限りません。
提示された割合に納得できない場合は、ドラレコ映像や事故現場・車両損傷の写真を確保し、算定根拠を確認してから交渉しましょう。示談成立後は原則として割合を変更できないため、判断が難しい場合は、合意する前に交通事故に詳しい弁護士へ相談することが適切です。
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