会社の財産を不正に処分したと疑われる業務上横領は、発覚すれば逮捕に至る可能性が高い重大な犯罪です。しかし、すべてのケースで必ず逮捕されるわけではなく、被害額や被害者の対応、示談の有無などによって結果は大きく変わります。「業務上横領は必ず逮捕されるのか」「逮捕を避けるにはどうすればよいのか」と不安を抱える方も多いでしょう。本記事では、業務上横領の逮捕について、逮捕されるケースとされないケースの違いや、逮捕を回避するためのポイントを分かりやすく解説します。
この記事の監修者
藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介
全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。
横領罪とは
横領罪とは,他人の物を占有している人が,その物を領得する犯罪です。
典型例は,人から預かっていたお金を自分のために使ってしまう,というケースでしょう。
横領罪の種類
横領罪には,大きく分けて以下の3つの類型があります。
| 単純横領罪(刑法第252条第1項) | 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の拘禁刑に処する。 |
| 業務上横領罪(刑法第253条) | 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の拘禁刑に処する。 |
| 占有離脱物横領罪(刑法第254条) | 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。 |
横領事件として最も問題になりやすいのは,「業務上横領罪」でしょう。
経理担当者が勤務先の金銭を横領した場合などが代表的です。
一方,単純横領罪が成立するのは,業務の伴わない場合であり,友人から預かっていた金銭を使い込むようなケースが該当します。
また,占有離脱物横領罪は,横領罪ではありますが置き引きなどの窃盗類似の事例で問題になりやすいところです。
横領罪と窃盗罪の区別
横領罪は窃盗罪との区別が問題になりやすいですが,両者の違いは,対象物が他人が占有しているものか,自己の占有するものか,という点にあります。
窃盗罪は,他人が占有しているものを,その他人の了承なく自分の占有に移す犯罪です。例えば万引きは,店舗が占有する商品を勝手に自分の持ち物にしてしまう犯罪というわけですね。
一方の横領罪は,もともと自分が占有をしている物を自分の物(所有)にしてしまう,という犯罪類型です。会社のお金を預かっていた(占有していた)としても,あくまでお金は会社の物であるため,そのお金を自分のために使ってしまうと横領罪になる,というわけですね。
ポイント
横領罪とは、他人の物を占有している人がその物を領得する犯罪
勤務先に対する業務上横領事件が問題になりやすい
窃盗と横領の区別は、対象物がどちらの占有していたものか、という点が基準
参照:刑法 e-Gov法令検索
業務上横領で逮捕される可能性
業務上横領事件は,逮捕の可能性が十分に考えられる事件類型です。事件の性質上,多くの証拠収集が必要になりやすく,証拠収集の妨げになるような行為(いわゆる証拠隠滅行為)を防ぐ目的で逮捕されるケースが多く見られます。
個別の事件における逮捕の可能性はケースによりますが,逮捕の可能性が高くなる事情としては,以下の点が挙げられます。
逮捕の可能性が高くなる場合
1.件数が多い場合
2.被害額が高い場合
3.共犯者がいる場合
4.必要な情報提供を拒否している場合
【1.件数が多い場合】
業務上横領事件の場合,横領行為が1回のみではなく,複数回行われているケースが少なくありません。そして,事件の件数が多ければ多いほど,必然的に収集すべき証拠も多くなるため,証拠収集が漏れなくできるよう,逮捕の上で捜査を進める可能性が高くなります。
【2.被害額が高い場合】
被害額が高額である場合,刑事責任が重く,加害者に対する処罰も重大なものになることが見込まれます。そうすると,加害者としては,必要な証拠が収集されてしまう不利益が大きいため,証拠隠滅の動機が強くなるのが一般的です。しかも,業務上横領事件では,加害者自身しか把握していない証拠や情報も多く,秘密裏に証拠隠滅することが難しくないという特徴もあります。
そのため,被害額が高い場合には,証拠隠滅の恐れが類型的に大きく,証拠隠滅を防ぐための逮捕もなされやすい傾向にあります。
【3.共犯者がいる場合】
共犯事件では,共犯者間での証拠隠滅が強く懸念されます。共犯者間でやり取りをした記録や物品などの物的証拠はもちろん,口裏合わせによって取調べの妨害がなされる可能性も高くなる,との理解が通常です。
そのため,共犯者のいる事件では,単独犯の場合と比較して,共犯者間での証拠隠滅を防ぐ目的での逮捕が多くなりやすい傾向にあります。
【4.必要な情報提供を拒否している場合】
これまで取調べ等の捜査をしているケースでは,情報提供を求めても拒否が続く場合に逮捕の可能性が高くなる傾向にあります。情報提供を拒否されると,重要な情報に関する証拠隠滅の恐れが大きくなるため,証拠隠滅を防ぐ目的で逮捕する必要性が高くなるのです。
業務上横領で逮捕された場合のリスク
業務上横領で逮捕されると、刑事手続だけでなく、職場・社会生活に重大な不利益が生じます。主なリスクは次のとおりです。
(1)身柄拘束による生活・仕事への支障
- 逮捕後、検察への送致・勾留が認められると、最大20日間の身柄拘束が続く可能性がある。
- 出勤できないことで職場に逮捕が事実上伝わり、業務継続が困難になる。
(2)会社からの懲戒処分・退職のリスク
- 業務に関連した不正行為であるため、懲戒解雇や退職勧奨の対象となりやすい。
- 自ら弁明する機会がないまま会社内で調査が進み、不利な判断が下されるおそれがある。
(3)社会的信用の失墜と報道リスク
- 業務上横領は信義違反が強く非難されやすい犯罪で、会社内外で信用が大きく低下する。
- 場合によっては逮捕報道等で氏名が公表され、家族・取引先との関係にも影響が及ぶ。
(4)転職・再就職への深刻な影響
- 前職での横領疑惑は再就職において大きなマイナス評価となり、職種によっては就業自体が困難になる。
- 不起訴や執行猶予で終わった場合でも、企業側の信用判断に影響し続ける。
(5)刑事処分のリスク(起訴・有罪・実刑)
- 業務上横領は法定刑が重く、被害額が大きい場合や計画性がある場合は起訴される可能性が高まる。
- 被害弁償や示談が難しいケースでは、実刑判決のリスクも否定できない。
(6)会社側により証拠が固定される不利益
- 身柄拘束中は説明や反論ができず、会社が単独で調査・証拠収集を進めることが多い。
- 誤解や争点がある場合でも、自分に不利な状況が先に固まってしまう可能性がある。
業務上横領で逮捕されたときの流れ
業務上横領で逮捕されると、警察・検察・裁判所による手続が順に進みます。ここでは、一般的な流れを段階ごとに整理します。
(1)逮捕・警察による取調べ
- 逮捕されると、警察署内で身柄を拘束され、犯行状況や被害額、動機などの取調べが行われる。
- 逮捕から48時間以内に、警察は事件を検察へ送致するかどうか判断する。
- 所持品検査や連絡方法に制限があり、日常生活は大きく制約される。
(2)検察庁への送致(いわゆる「送検」)
- 逮捕後48時間以内に検察庁へ送致され、検察官が身柄拘束の必要性を判断する。
- 検察官は24時間以内に裁判官へ勾留請求するか、釈放するかを決める。
(3)勾留の判断(裁判官による審査)
- 勾留が認められると、原則10日間の身柄拘束が続く。必要に応じて10日間の延長が認められ、最大20日間の拘束となる。
- 業務上横領の場合、証拠隠滅や関係者への働きかけが懸念されると勾留が認められやすい。
(4)取調べ・証拠収集が継続
- 勾留期間中も、被害額の確定、経理資料の確認、会社側関係者の聴取など、多角的な捜査が進む。
- 本人の供述と会社側の調査結果が異なる場合、不利な内容が先に固まってしまうこともある。
- 弁護士はこの段階で接見し、供述内容の整理、身柄解放の申立て、示談交渉の準備などを行う。
(5)起訴・不起訴の判断
- 勾留満了までに、検察官が起訴(正式裁判)・略式起訴(罰金)・不起訴のいずれかを決める。
- 被害弁償や示談が成立している場合、不起訴の可能性が高まる。
(6)起訴された場合の流れ
- 起訴されると身柄拘束が続くか、保釈が認められるかが判断される。
- その後、公開の刑事裁判で事実関係・量刑などが審理される。
| ステップ | 手続名 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| ① | 逮捕・警察取調べ | 警察署で取調べ。犯行状況・被害額などを確認 | 〜48時間 |
| ② | 検察へ送致(送検) | 検察官が身柄拘束の必要性を判断 | 送検後24時間以内に勾留請求の判断 |
| ③ | 勾留決定(裁判官) | 原則10日間の身柄拘束。必要に応じ10日延長 | 最大20日 |
| ④ | 捜査継続・取調べ | 帳簿・資料確認、関係者聴取、供述の精査 | 勾留期間中(最大20日) |
| ⑤ | 起訴・不起訴の判断 | 正式起訴・略式・不起訴を決定 | 勾留満了までに判断 |
| ⑥ | 起訴後の手続 | 公判準備、保釈判断、公開裁判で審理 | 起訴後〜判決まで |
業務上横領で逮捕されないためのポイント
① 被害者との解決
業務上横領事件で逮捕されるかどうか,又はその前提として業務上横領事件が捜査されるかどうかは,被害者の意向や判断に大きく左右されます。被害者が加害者に対する捜査や逮捕を希望しない場合,基本的には捜査も逮捕もなされないことが見込まれるでしょう。
そのため,逮捕を避ける方法としては,まず被害者との解決を目指すことが非常に有力です。業務上横領事件の場合,被害者と加害者との間に何らかの関係があり,相互に連絡を取り合えることが多いため,解決に向けた協議を試みる手段は見つかりやすいでしょう。
② 自首
被害者との解決が困難な業務上横領事件では,捜査機関に自首をすることで逮捕を避ける試みが有力です。自首は,自ら捜査機関に出頭して事件の捜査を求める動きであるため,逮捕せずとも捜査妨害は考えづらく,逮捕しなくてもよいとの判断を引き出せる可能性が高まります。
ただし,被害者側が捜査機関に相談するなどして捜査が開始された後では,自首を試みても自首が成立しません。自首を行う場合には,できるだけ早期に進めることをお勧めします。
③ 捜査協力
業務上横領事件における逮捕は,証拠収集を円滑に行う目的で行われることがほとんどです。裏を返せば,逮捕せずとも証拠収集が円滑に行える場合,逮捕の必要性は大きく低下することとなります。
そのため,逮捕を避ける方法としては,自ら積極的に証拠を提出するなど,証拠収集を円滑にするための捜査協力が有力な手段の一つです。
提出すべき証拠は,取り調べなどの際に,その内容に応じて特定することが合理的です。取調べの中で捜査に必要と思われる証拠が浮かび上がってきた際には,自発的な提出を申し出ることを検討するのも有益でしょう。
業務上横領の逮捕に関する注意点
① 逮捕時期
大多数の刑事事件では,被疑者が特定されてから間もない段階で逮捕されるのが一般的な流れです。そのため,刑事事件は捜査の比較的初期段階で行われ,その後身柄拘束をしながら捜査を重ねていくことになります。
一方,業務上横領事件の場合には,逮捕せず定期的に出頭を求める方法で捜査を続け,ある程度捜査が進んだ段階で逮捕に踏み切るケースが相当数見られます。このような逮捕時期に関する取り扱いは,業務上横領事件の大きな特徴の一つとも言えるでしょう。
業務上横領事件に際しては,出頭を重ねた後に逮捕される可能性についても注意しておくことが望ましいでしょう。
② 捜査の開始を防げる可能性
業務上横領事件では,捜査の開始前に当事者間で連絡を取り合うことのできるケースが多い点に特徴があります。そして,捜査開始前に当事者間で協議を重ね,解決の合意ができれば,捜査は開始されないことが見込まれるでしょう。
この点で,業務上横領事件の場合,対応によっては捜査の開始が防げる可能性もあるという点には十分注意したいところです。迅速に当事者間での解決が図れれば,捜査が行われないことになり,もちろん逮捕もなされないという有益な結果が期待できます。
③ 逮捕された場合の拘束期間
業務上横領事件では,逮捕された場合の拘束期間が比較的長くなりやすい点に注意が必要です。基本的には早期釈放が期待しづらく,延長を含めて20日間の勾留を受けることが見込まれやすいでしょう。
また,複数回の横領行為が問題になっている場合,20日間の勾留では捜査の時間が足りないと判断されると,更に別の横領行為について逮捕勾留(再逮捕・再勾留)が行われ,長期間の身柄拘束となる可能性も否定できません。特に証拠となるものが多く複雑な場合は,再逮捕を含む長期化の可能性にも注意したいところです。
警察の呼び出しを受けたときに逮捕を防ぐポイント
呼び出しに対する適切な対処法
①既に被害者側と協議を行っている場合
業務上横領事件は,警察の捜査より前に当事者間で協議の機会が持たれている場合も多いのが特徴の一つです。そして,当事者間での協議の経過・結果は,警察の処理に大きな影響を及ぼしやすいため,警察にとっても重要な情報となります。
そのため,既に被害者側と協議を行っているケースで呼び出しを受けた場合には,警察側にも協議の状況や内容などを共有することが望ましいでしょう。警察は被害者とも連絡を取り合っているため,協議の経過を把握している可能性もありますが,特に被害者から情報共有がなければ,警察が何も知らない可能性も否定できません。
被害者側との協議が進んでいる,解決の見込みが立ちそうであるといった場合には,その旨を警察にも伝えてあげることが賢明でしょう。
ポイント
当事者間での協議の経過は,捜査の進行に影響する
協議に進展が見られる場合には,警察にも情報共有するのが有益
②被害者側と協議を行ったことがない場合
被害者と協議を行ったことがなく,突然警察から呼び出しを受けた事件である場合,まずは自分にどのような疑いが生じているのか,具体的な内容をできるだけ正確に把握することが望ましいです。
業務上横領事件の場合,対象事件がどのような内容か,という理解があいまいだと,事件の内容を勘違いしてしまう恐れも小さくありません。例えば,問題とされている行為(事件)の数が一つか複数か,横領の対象となる財産は何か,損害額はいくらか,といった点は,被害者側に十分な情報のない場合もあり,捜査機関が適切に把握しているとは限りません。
そのため,まずは呼び出しの原因となった事件を正しく把握し,その内容を踏まえて対応方針を検討するようにしましょう。
ただし,捜査機関にとっては秘匿性の高い捜査情報でもあり得るため,必ずしも全ての情報が得られるとは限りません。断片的な情報から推測しなければならない可能性もあり得るところです。
ポイント
呼び出された事件の正確な内容を把握する
捜査機関から必要な情報の全てが得られるとは限らない
③心当たりがない場合
心当たりのない業務上横領事件で呼び出された場合,今後の対応方針を検討する前提として,なぜ自分が呼び出されることになったのか,という点を把握できると有益です。
心当たりのない事件である場合,捜査機関が事件内容や犯人を特定する十分な証拠を持っていないことがうかがわれます。そして,不十分な証拠を埋め合わせるために,関係者を呼び出して話を聞こうとしていることが推測されるところです。
証拠が不十分である,という点が呼び出しにどのような影響を及ぼしているかは,ケースにより様々です。代表的な場合としては,人違いで疑われている,加害者の候補が複数いるため広く話を聞いている,といった可能性があり得るでしょう。
呼び出されることに至った経緯・原因は,その後の方針を決めるための重要な手掛かりになり得るため,できるだけ早期に確認できることが望ましいところです。
ポイント
なぜ自分が呼び出されることになったかを把握する
人違いのケース,加害者候補が多いケースなどがあり得る
④被害者との間で言い分に争いがある場合
被害者の言い分に基づいて呼び出しを受けたものの,被害者の主張と自分の記憶との間にズレがあり,言い分に争いのあるケースも考えられます。業務上横領事件の場合,被害者が事件の現場を目撃している可能性が非常に低く,被害者側で事件の全体像を把握することが困難であるため,主張にズレが生じやすい,という特徴が挙げられるでしょう。
言い分に争いがある場合には,それが犯罪の成立に関係する内容かどうか,という点を明確に理解することが第一歩です。犯罪の成否に影響する争点であれば,疑いに対して否認することとなりますし,犯罪の成否とは関係しない争点であれば,犯罪行為への反省と両立する形で主張する必要があるため,対応方針が大きく変わることになります。
言い分があるとしても,その位置付けを把握しないまま闇雲に主張することにメリットはあまりありません。法的な理解が必要になるため,できれば弁護士に相談等行うことをお勧めいたします。
ポイント
争点が犯罪の成立に影響する内容か,理解するのが第一歩
弁護士に相談等して正しく理解するのが望ましい
業務上横領事件の呼び出しに応じたときの注意点
①件数や金額の認識が相違している可能性
捜査機関は,被害者側の主張を念頭に捜査を行うことになります。そのため,被害者側が事件の件数や被害金額を正しく把握できていなかった場合,捜査機関も同様に件数や金額の認識を誤っている可能性がある点に注意が必要です。
この場合,まずは自分の認識している事実関係を正しく捜査機関に伝え,捜査を尽くしてもらうことが適切な対応になるでしょう。自分から裏付けとなるものが提出できれば最善ですが,それができなくても問題はありません。
もし,捜査機関から言い分の根拠がなければ信用できない,と言われても気にする必要はありません。刑事事件の場合,捜査機関側が犯罪の立証をできるか,という点のみが問題であり,呼び出された方が何かを立証する義務を負うことはないためです。
②自発的に話すべき内容の範囲
業務上横領事件の場合,被害者側が把握しておらず,加害者側にしか分からないという情報も少なくありません。そのため,呼び出しに対して自発的に話す内容をどうすべきか,判断の難しいことも多い事件類型と言えます。
この点,自発的に話す内容の範囲を決める場合には,その内容以上に供述が一貫して前後矛盾がないことを重要視することをお勧めします。なぜなら,噓偽りなく話していることは,その話が真実であること,信用できることの重要な根拠とされやすいためです。
自発的に情報提供するのであれば,心から真実を話していていると評価してもらうべきです。そのため,話を一貫したものとすることを強くお勧めします。
具体的に述べる内容については,慎重な判断が必要となるため,弁護士と十分に協議の上,専門的な判断を仰ぐのが適切でしょう。
③返済と呼び出しの関係
業務上横領事件は,被害者に経済的な損失を生じさせるものであるため,その損失を埋め合わせるための返済が重要な動きになります。ただ,返済を行ったから呼び出しがなくなる,という関係にないことは,注意しておくのが適切です。
返済は,とても大きな意味を持つ事後的な努力であることに間違いありません。返済しているのとしていないのとでは,刑事処分が大きく変わることも多く,可能な限り返済を目指すのが望ましいところです。
もっとも,返済したという事実は,最終的な刑事処分に影響するものの,捜査を行うかどうかには直接影響するわけではありません。捜査を行った上で,返済したという事実も踏まえて処分を決める,という流れが一般的であるため,注意しましょう。
業務上横領の逮捕を防ぐための自首のポイント
業務上横領事件で自首をするべき場合
①当事者間の解決が見込まれない場合
業務上横領事件では,当事者間で解決ができれば,強制的な捜査手続や重大な刑事処罰は考えにくいのが通常です。そのため,当事者間で解決できるケースでは,自首を行う実益はあまり大きくなりにくいでしょう。むしろ,被害者側が自首を望んでいない場合,当事者間の解決に悪影響を及ぼす可能性もあり得ます。
一方,当事者間で解決できる見込みがない場合,基本的に解決を目指す手段はなくなってしまい,後はいつ捜査が行われるか,待つほかなくなることも珍しくありません。いつ捜査を受けるか分からず待ち続けるのは,大きな精神的負担が避けられず,耐えられなくなってもおかしくはありません。
このように,当事者間での解決見込みがない場合に有力な手段となるのが自首です。自首を通じて自ら捜査を求める動きを取ることで,いつどのような捜査を受けるのか分からない,という不安を解消することが可能になります。また,捜査の方法そのものも緩やかになりやすいでしょう。
ポイント
当事者間で解決ができれば,自首の実益は大きくない
自首により,いつ捜査されるか分からない不安を解消できる
②事件の規模が大きい場合
自首は,逮捕の回避を大きな目的の一つとするものです。自ら捜査機関に自分の犯罪を明らかにすることで,逮捕をする必要はない,との判断を引き出すのが,自首の最初の目的と言ってよいでしょう。
この点,業務上横領事件では,事件の規模が大きければ大きいほど,捜査に際して逮捕される可能性が高まります。刑事責任が重大であることに加え,必要な証拠が多岐に渡りやすいため,逃亡や証拠隠滅を防ぐ目的で逮捕が選択されやすいのです。
そのため,事件の規模が大きい場合には,「自首しなければ逮捕されていたが,自首したことで逮捕を回避できた」という場合が増加しやすいところです。逮捕リスクが高いケースほど,自首を積極的に検討することをお勧めします。
ポイント
事件規模が大きいほど逮捕の恐れが大きい
自首が逮捕回避の大きなポイントになり得る
③日常生活への支障を防ぎたい場合
刑事事件では,捜査や処罰を受けることで日常生活に支障が生じることが強く懸念されます。逮捕されれば社会生活と引き離されてしまい,捜査されていることが周囲に知られれば不名誉な評価が避け難いでしょう。
自首を行った場合,捜査機関にとっては被疑者の捜査協力が確実に見込まれることになるため,日常生活に支障が生じやすい捜査方法を避けてくれるケースが多くなります。捜査機関からの一種の配慮と言えるでしょう。
捜査の方法について配慮してもらうことで,周囲への悪影響を防ぎたい場合には,自首が非常に有力な手段となります。
ポイント
自首した場合,捜査方法を配慮してもらえるケースが多くなる
業務上横領で自首をする場合の注意点
①自首より優先すべきことがある場合
業務上横領事件の場合,被害者側の意向や状況を知らない段階での自首は慎重に判断するのが賢明です。それは,被害者にとって自首よりも当事者間の解決の方が望ましいと考えている場合があるためです。
自首によって捜査が始まると,被害者側も捜査協力を求められることになり得ます。当然ながら,捜査協力は被害者にとって負担であるため,捜査を希望しない被害者にとっては単に負担が増すだけの結果になりかねません。しかも,捜査協力をしても金銭的な損害が回復されるわけではないため,被害者が捜査よりも当事者間での金銭的解決を望んでいる場合,自首は被害者の意向に反する可能性があります。
業務上横領事件での自首は,被害者側の意向に反していないことが分かった後に行うことが有力でしょう。
②逮捕が避けられない可能性
業務上横領事件では,加害者に知られないよう慎重に捜査を進め,嫌疑が固まった段階で突然加害者を逮捕する,という流れが取られる場合もあり得ます。これは,加害者による証拠隠滅を防ぎ,業務上横領事件の全容を解明するための手段の一つです。
予告なく突然逮捕することで,加害者側が事前の準備が全くできないため,逃亡や証拠隠滅のリスクを最小限に抑えながら捜査を進める手段として活用されています。
一方で,加害者側の目線では,事前に逮捕を避ける試みを行う余地がない,という可能性が生じることになります。自発的に自首などの手段で名乗り上げる以外には,事前に逮捕回避を図る手段がありません。
逮捕を予期させる事情を確認してから自首する,という動き方では,逮捕が避けられないケースが出てくる可能性に注意しておきましょう。
③不起訴処分が見込まれるとは限らない
自首は,不起訴処分が最も大きな目的の一つになります。不起訴処分となれば,刑事罰を受ける可能性がなくなり,前科が付かない結果となるため,刑事処分として最も有益な結果と言ってよいでしょう。
自首をした場合,深い反省の意思が明確になることから,自首は不起訴処分を実現する大きな原動力の一つです。
もっとも,自首をしたからと言って不起訴処分になるとは限らない,という点には注意が必要です。自首をすれば確かに刑事処分は軽減しやすいですが,軽減した結果不起訴にまで至るかは別の問題です。特に被害規模が大きく,元々の刑事責任が重い事件の場合,自首によって軽減してもなお刑罰は避けられない,という結論も十分にあり得ます。
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