このページでは,業務上横領事件で警察から呼び出された場合について,適切な対応方法などを弁護士が解説します。
業務上横領事件に関する呼び出しへの対応や今後の見込みを検討するときの参考にご活用ください。
業務上横領事件で警察の呼び出しを受けたときのポイント
警察が呼び出すタイミングや方法
①被害申告がなされた段階
業務上横領事件の場合,被害者からの被害申告が行われた段階で,まず呼び出して話を聞く,という流れになることが一定数あります。このような取り扱いになるのは,比較的証拠に乏しく,関係者の話を捜査の手掛かりにしようとしている場合が多いでしょう。
このような呼び出しは,比較的初期段階で行われやすく,被害申告の内容を確認してからそれほど期間を空けずに行われることが多く見られます。また,複数の関係者を呼び出した後,それぞれの供述を確認した段階で,整合しない点などを確認するため再度呼び出されることもあるでしょう。そのため,呼び出しが何度かなされる可能性にも留意することが望ましいです。
②被害者側から一通りの情報を得た段階
被害者側から被害申告があった場合,被害者側に一定の物的証拠があれば,まずその内容を確認する捜査から始まるのが通常です。そして,被害者側から一通りの証拠提出を受け,疑いの内容を確認した段階で,呼び出しへ移るケースは多数見られます。
これは,既に得た情報と呼び出した後の話の内容を照合する目的であることが一般的でしょう。
このような呼び出しの時期は,物的証拠の量や内容によっても大きく異なるため,目安を設けることが非常に困難です。ただ,あまりすぐに呼ばれることは多くないので,概ね被害申告の数か月後,といったスパンで考えておくとよいかもしれません。
③証拠の提出を求める際
業務上横領事件では,加害者側にのみ提出可能な証拠があるケースも少なくありません。そのため,捜査機関からは,捜査に必要な証拠の提出を求める目的で呼び出されることも一定数あります。
このような呼び出しは,取り調べが一通り行われた後であることが通常です。取調べの内容を踏まえて,必要と判断された証拠の提出を求める,という流れが一般的でしょう。
具体的なタイミングとしては,最後の呼び出しから1週間~1か月程度の時期が目安になり得るでしょう。取調べのタイミングで,証拠を持参する期日をあらかじめ決める場合も考えられます。
④押収物を還付する際
業務上横領事件は物的な証拠が比較的多く,捜査の終了後には還付(返却)しなければならないものも一定数あります。例えば,金銭の流れをたどるために預金通帳やキャッシュカードを押収することは少なくありませんが,これらは捜査の必要がなくなった段階で還付せざるを得ません。
押収物は,それ以上捜査をする必要がなくなった後に還付されるものです。そのため,押収物還付のための呼び出しは,捜査の最終盤であることが一般的です。場合によっては,検察での起訴不起訴の処分がはっきりした段階で還付の呼び出しを受ける可能性もあり得るでしょう。
呼び出された場合の対応法
①既に被害者側と協議を行っている場合
業務上横領事件は,警察の捜査より前に当事者間で協議の機会が持たれている場合も多いのが特徴の一つです。そして,当事者間での協議の経過・結果は,警察の処理に大きな影響を及ぼしやすいため,警察にとっても重要な情報となります。
そのため,既に被害者側と協議を行っているケースで呼び出しを受けた場合には,警察側にも協議の状況や内容などを共有することが望ましいでしょう。警察は被害者とも連絡を取り合っているため,協議の経過を把握している可能性もありますが,特に被害者から情報共有がなければ,警察が何も知らない可能性も否定できません。
被害者側との協議が進んでいる,解決の見込みが立ちそうであるといった場合には,その旨を警察にも伝えてあげることが賢明でしょう。
ポイント
当事者間での協議の経過は,捜査の進行に影響する
協議に進展が見られる場合には,警察にも情報共有するのが有益
②被害者側と協議を行ったことがない場合
被害者と協議を行ったことがなく,突然警察から呼び出しを受けた事件である場合,まずは自分にどのような疑いが生じているのか,具体的な内容をできるだけ正確に把握することが望ましいです。
業務上横領事件の場合,対象事件がどのような内容か,という理解があいまいだと,事件の内容を勘違いしてしまう恐れも小さくありません。例えば,問題とされている行為(事件)の数が一つか複数か,横領の対象となる財産は何か,損害額はいくらか,といった点は,被害者側に十分な情報のない場合もあり,捜査機関が適切に把握しているとは限りません。
そのため,まずは呼び出しの原因となった事件を正しく把握し,その内容を踏まえて対応方針を検討するようにしましょう。
ただし,捜査機関にとっては秘匿性の高い捜査情報でもあり得るため,必ずしも全ての情報が得られるとは限りません。断片的な情報から推測しなければならない可能性もあり得るところです。
ポイント
呼び出された事件の正確な内容を把握する
捜査機関から必要な情報の全てが得られるとは限らない
③心当たりがない場合
心当たりのない業務上横領事件で呼び出された場合,今後の対応方針を検討する前提として,なぜ自分が呼び出されることになったのか,という点を把握できると有益です。
心当たりのない事件である場合,捜査機関が事件内容や犯人を特定する十分な証拠を持っていないことがうかがわれます。そして,不十分な証拠を埋め合わせるために,関係者を呼び出して話を聞こうとしていることが推測されるところです。
証拠が不十分である,という点が呼び出しにどのような影響を及ぼしているかは,ケースにより様々です。代表的な場合としては,人違いで疑われている,加害者の候補が複数いるため広く話を聞いている,といった可能性があり得るでしょう。
呼び出されることに至った経緯・原因は,その後の方針を決めるための重要な手掛かりになり得るため,できるだけ早期に確認できることが望ましいところです。
ポイント
なぜ自分が呼び出されることになったかを把握する
人違いのケース,加害者候補が多いケースなどがあり得る
④被害者との間で言い分に争いがある場合
被害者の言い分に基づいて呼び出しを受けたものの,被害者の主張と自分の記憶との間にズレがあり,言い分に争いのあるケースも考えられます。業務上横領事件の場合,被害者が事件の現場を目撃している可能性が非常に低く,被害者側で事件の全体像を把握することが困難であるため,主張にズレが生じやすい,という特徴が挙げられるでしょう。
言い分に争いがある場合には,それが犯罪の成立に関係する内容かどうか,という点を明確に理解することが第一歩です。犯罪の成否に影響する争点であれば,疑いに対して否認することとなりますし,犯罪の成否とは関係しない争点であれば,犯罪行為への反省と両立する形で主張する必要があるため,対応方針が大きく変わることになります。
言い分があるとしても,その位置付けを把握しないまま闇雲に主張することにメリットはあまりありません。法的な理解が必要になるため,できれば弁護士に相談等行うことをお勧めいたします。
ポイント
争点が犯罪の成立に影響する内容か,理解するのが第一歩
弁護士に相談等して正しく理解するのが望ましい
呼び出しの意味や流れ
警察が呼び出す主な目的
警察から呼び出しを受ける場合,その目的には主に以下のようなケースが考えられます。
①参考人である場合
参考人とは,特定の事件について捜査の参考とすべき情報を持っているであろう人を言います。具体例としては,事件の目撃者や,被疑者の同僚・友人といった近しい人物,会社で犯罪が起きた場合の従業員などが挙げられます。
参考人の呼び出しは,犯罪捜査のために必要な情報を参考人から教えてもらうために行われるものです。参考人は捜査や処罰の対象となることが想定されていないため,逮捕をされたり前科が付いたりすることは通常ありません。
②身元引受人である場合
身元引受人とは,文字通り被疑者の身元を引き受ける人を言います。身柄を拘束しない事件(=在宅事件)の場合,捜査機関は被疑者の任意の出頭を求めることになりますが,出頭をより確かに見込めるように,適任者を警察署に呼び出し,身元引受人となることを求める取り扱いが広く行われています。
身元引受人は,同居家族(配偶者や親など)であることが一般的です。同居家族に適任者がいない場合は,勤務先の上司や被疑者の依頼した弁護士が身元引受人になることもあります。
身元引受人に対する呼び出しは,通常,被疑者の初回の取り調べが終了した後に行われます。捜査機関から身元引受人に電話連絡がなされ,被疑者を連れて帰ることと身元引受人になることが依頼される,という流れが一般的です。
身元引受人は,被疑者の監督者というのみの立場であるため,呼び出しに応じても逮捕されたり前科が付いたりすることはありません。また,呼び出しに応じなかったとしても特に問題が生じることはありません。
③被疑者である場合
被疑者とは,犯罪の嫌疑をかけられている者をいいます。ニュースなどでは「容疑者」と呼ばれますが,法律的には「被疑者」が正しい呼び方となります。
被疑者を呼び出す目的は,犯人候補として取調べを行うことに尽きます。犯罪の疑いを認めるかどうか,認める場合には具体的に何をしたか,などを確認し,記録化するために,被疑者を警察署へ呼び出します。
被疑者として呼び出される場合,事件の内容や状況によっては逮捕される可能性も否定できません。また,犯罪事実が明らかになれば,刑事処罰を受けて前科が付く可能性もあり得ます。
参考人 | 身元引受人 | 被疑者 | |
呼び出しの理由 | 事件の情報獲得 | 被疑者の出頭確保 | 犯人候補の取り調べ |
逮捕の可能性 | 通常なし | なし | あり |
前科の可能性 | 通常なし | なし | あり |
警察の呼び出しを拒むことは可能か
警察の呼び出しには強制力がありません。そのため,呼び出しを拒んだとしても法的にペナルティを科せられることはなく,その意味では呼び出しを拒むことはどのような場合でも可能,ということになるでしょう。
もっとも,立場によって呼び出しを拒むことにリスクや問題の生じる可能性はあり得ます。
①参考人の場合
参考人は,捜査への協力を依頼されている立場に過ぎないため,呼び出しに応じなかったとしてもリスクを抱えたり問題が生じたりすることは通常ありません。
ただし,「現在は参考人にとどまる取り扱いだが,犯罪への関与が疑われる可能性がある」という状況の場合には,呼び出しに応じないことのリスクが生じ得ます。呼び出しに対して積極的な協力や情報提供を尽くす場合に比べると,呼び出しを拒んで捜査協力を一切しない場合の方が,より強く犯罪の関与を疑われやすい傾向にあるためです。
そして,具体的な犯罪への関与を疑われた場合,今度は参考人でなく被疑者として,呼び出しを受けるなどの捜査が行われる可能性も否定はできません。
そのため,呼び出しを拒むことで犯罪への関与を疑われかねない場合には,拒むリスクが生じ得ると言えるでしょう。
②身元引受人の場合
身元引受人は,犯罪への関与が想定されていない立場の人物であるため,呼び出しを拒むことで犯罪の疑いをかけられるものではありません。
もっとも,同居している被疑者の身元引受人となるよう求められ,これを拒んだ場合,被疑者に不利益が生じる可能性は考えられます。身元引受人が拒んだから逮捕をする,ということはあまりありませんが,所在確認のために警察が自宅に訪れることは珍しくありません。そうすると,周囲の人々に警察と関わっている事実が分かってしまい,私生活に影響を及ぼす恐れがあり得ます。
被疑者が同居の家族であって今後も同居を予定している,という場合には,可能な限り身元引受人としての呼び出しに応じる方が無難なケースが多いでしょう。
③被疑者の場合
被疑者に対する呼び出しは,取り調べを行うための方法の一つとして行われるものです。この点,捜査機関が被疑者の取り調べを行う方法は,逮捕して強制的に行うか,呼び出しをして任意の出頭を求めるかの二択であることが通常です。
被疑者を取り調べる方法
1.逮捕をして強制的に行う
2.呼び出して任意の出頭を求める
この点,呼び出しても任意に出頭してくれないとなると,取り調べをするためには逮捕をするほかない,という判断になる可能性もあり得ます。二択のうち一方がダメであった以上,もう一方の方法が取られるのは自然なことであるためです。
そのため,被疑者として呼び出しを受けた場合,可能な限り応じることが適切になりやすいでしょう。もちろん,あまりに回数が多かったり,あまりに時間が長かったりという場合には,その点の配慮を求めることは全く問題ありませんが,呼び出しを徹頭徹尾拒む,というスタンスを取って被疑者自身が得をすることはあまりないと考えるのが適切です。
ポイント 呼び出しを拒む行動の注意点
参考人の場合,拒むことで事件への関与を疑われないように注意
身元引受人の場合,同居する被疑者への不利益に注意
被疑者の場合,拒んだことで逮捕を誘発する可能性に注意
業務上横領事件の呼び出しに応じたときの注意点
①件数や金額の認識が相違している可能性
捜査機関は,被害者側の主張を念頭に捜査を行うことになります。そのため,被害者側が事件の件数や被害金額を正しく把握できていなかった場合,捜査機関も同様に件数や金額の認識を誤っている可能性がある点に注意が必要です。
この場合,まずは自分の認識している事実関係を正しく捜査機関に伝え,捜査を尽くしてもらうことが適切な対応になるでしょう。自分から裏付けとなるものが提出できれば最善ですが,それができなくても問題はありません。
もし,捜査機関から言い分の根拠がなければ信用できない,と言われても気にする必要はありません。刑事事件の場合,捜査機関側が犯罪の立証をできるか,という点のみが問題であり,呼び出された方が何かを立証する義務を負うことはないためです。
②自発的に話すべき内容の範囲
業務上横領事件の場合,被害者側が把握しておらず,加害者側にしか分からないという情報も少なくありません。そのため,呼び出しに対して自発的に話す内容をどうすべきか,判断の難しいことも多い事件類型と言えます。
この点,自発的に話す内容の範囲を決める場合には,その内容以上に供述が一貫して前後矛盾がないことを重要視することをお勧めします。なぜなら,噓偽りなく話していることは,その話が真実であること,信用できることの重要な根拠とされやすいためです。
自発的に情報提供するのであれば,心から真実を話していていると評価してもらうべきです。そのため,話を一貫したものとすることを強くお勧めします。
具体的に述べる内容については,慎重な判断が必要となるため,弁護士と十分に協議の上,専門的な判断を仰ぐのが適切でしょう。
③返済と呼び出しの関係
業務上横領事件は,被害者に経済的な損失を生じさせるものであるため,その損失を埋め合わせるための返済が重要な動きになります。ただ,返済を行ったから呼び出しがなくなる,という関係にないことは,注意しておくのが適切です。
返済は,とても大きな意味を持つ事後的な努力であることに間違いありません。返済しているのとしていないのとでは,刑事処分が大きく変わることも多く,可能な限り返済を目指すのが望ましいところです。
もっとも,返済したという事実は,最終的な刑事処分に影響するものの,捜査を行うかどうかには直接影響するわけではありません。捜査を行った上で,返済したという事実も踏まえて処分を決める,という流れが一般的であるため,注意しましょう。
業務上横領事件の逮捕
業務上横領事件の呼び出しに応じると逮捕されるか
業務上横領事件で呼び出しがなされた場合,呼び出しに応じた際に逮捕される,という流れはあまり見られません。逮捕するのであれば,呼び出しを挟む必要はないため,逮捕状が取得でき次第被疑者の自宅や職場に赴く方が通常でしょう。
もっとも,業務上横領事件の場合,一通りの捜査をして嫌疑が固まった段階で逮捕をする運用も一定数見られます。この点は,業務上横領事件の大きな特徴の一つと言えます。
そのため,呼び出されたからといって逮捕されないのだ,と高をくくってしまうことなく,慎重な対応を尽くすことが求められます。
ポイント
呼び出しに応じた際に逮捕される,という流れはあまり見られない
嫌疑が固まった段階で逮捕されることは一定数ある
業務上横領事件で逮捕される可能性
業務上横領事件は,逮捕の可能性が十分に考えられる事件類型です。事件の性質上,多くの証拠収集が必要になりやすく,証拠収集の妨げになるような行為(いわゆる証拠隠滅行為)を防ぐ目的で逮捕されるケースが多く見られます。
個別の事件における逮捕の可能性はケースによりますが,逮捕の可能性が高くなる事情としては,以下の点が挙げられます。
逮捕の可能性が高くなる場合
1.件数が多い場合
2.被害額が高い場合
3.共犯者がいる場合
4.必要な情報提供を拒否している場合
【1.件数が多い場合】
業務上横領事件の場合,横領行為が1回のみではなく,複数回行われているケースが少なくありません。そして,事件の件数が多ければ多いほど,必然的に収集すべき証拠も多くなるため,証拠収集が漏れなくできるよう,逮捕の上で捜査を進める可能性が高くなります。
【2.被害額が高い場合】
被害額が高額である場合,刑事責任が重く,加害者に対する処罰も重大なものになることが見込まれます。そうすると,加害者としては,必要な証拠が収集されてしまう不利益が大きいため,証拠隠滅の動機が強くなるのが一般的です。しかも,業務上横領事件では,加害者自身しか把握していない証拠や情報も多く,秘密裏に証拠隠滅することが難しくないという特徴もあります。
そのため,被害額が高い場合には,証拠隠滅の恐れが類型的に大きく,証拠隠滅を防ぐための逮捕もなされやすい傾向にあります。
【3.共犯者がいる場合】
共犯事件では,共犯者間での証拠隠滅が強く懸念されます。共犯者間でやり取りをした記録や物品などの物的証拠はもちろん,口裏合わせによって取調べの妨害がなされる可能性も高くなる,との理解が通常です。
そのため,共犯者のいる事件では,単独犯の場合と比較して,共犯者間での証拠隠滅を防ぐ目的での逮捕が多くなりやすい傾向にあります。
【4.必要な情報提供を拒否している場合】
これまで取調べ等の捜査をしているケースでは,情報提供を求めても拒否が続く場合に逮捕の可能性が高くなる傾向にあります。情報提供を拒否されると,重要な情報に関する証拠隠滅の恐れが大きくなるため,証拠隠滅を防ぐ目的で逮捕する必要性が高くなるのです。
業務上横領事件で逮捕を避ける方法
①被害者との解決
業務上横領事件で逮捕されるかどうか,又はその前提として業務上横領事件が捜査されるかどうかは,被害者の意向や判断に大きく左右されます。被害者が加害者に対する捜査や逮捕を希望しない場合,基本的には捜査も逮捕もなされないことが見込まれるでしょう。
そのため,逮捕を避ける方法としては,まず被害者との解決を目指すことが非常に有力です。業務上横領事件の場合,被害者と加害者との間に何らかの関係があり,相互に連絡を取り合えることが多いため,解決に向けた協議を試みる手段は見つかりやすいでしょう。
②自首
被害者との解決が困難な業務上横領事件では,捜査機関に自首をすることで逮捕を避ける試みが有力です。自首は,自ら捜査機関に出頭して事件の捜査を求める動きであるため,逮捕せずとも捜査妨害は考えづらく,逮捕しなくてもよいとの判断を引き出せる可能性が高まります。
ただし,被害者側が捜査機関に相談するなどして捜査が開始された後では,自首を試みても自首が成立しません。自首を行う場合には,できるだけ早期に進めることをお勧めします。
③捜査協力
業務上横領事件における逮捕は,証拠収集を円滑に行う目的で行われることがほとんどです。裏を返せば,逮捕せずとも証拠収集が円滑に行える場合,逮捕の必要性は大きく低下することとなります。
そのため,逮捕を避ける方法としては,自ら積極的に証拠を提出するなど,証拠収集を円滑にするための捜査協力が有力な手段の一つです。
提出すべき証拠は,取り調べなどの際に,その内容に応じて特定することが合理的です。取調べの中で捜査に必要と思われる証拠が浮かび上がってきた際には,自発的な提出を申し出ることを検討するのも有益でしょう。
業務上横領事件の逮捕は弁護士に依頼すべきか
業務上横領事件の逮捕については,弁護士に依頼し,弁護士の判断を仰ぎながら検討することが適切でしょう。弁護士に依頼することで,以下のような利点が見込まれます。
①被害者側との協議が円滑になりやすい
業務上横領事件で逮捕を避ける手段としては,被害者との間で解決を図ることが非常に有力ですが,解決のためには被害者側との綿密な協議が必要です。もっとも,加害者の立場にあるご本人が,被害者側との間で十分な協議を尽くし,解決にこぎつけることは容易ではありません。
この点,弁護士に依頼することで,弁護士が窓口となって被害者側との協議を行えるため,当事者が直接協議するよりも円滑に進行することが期待できるでしょう。解決内容に関しても,当事者本人では主張しづらい点を弁護士が代わりに主張するなどし,不当に不利益な条件となることを防ぎやすくなります。
②逮捕を避けるために有効な手段を判断してもらえる
逮捕を避けるためにどのような手段を講じるべきかは,個別の事件内容や状況により異なります。また,逮捕を避けるにはどのくらい積極的な動きが必要か,対策をしなければ逮捕が見込まれてしまうのか,という点も,正しく把握しておくことが有益です。
この点,弁護士に依頼することで,逮捕の可能性がどの程度見込まれるかを踏まえ,事件の内容や状況に応じた適切な逮捕回避策を案内してもらうことができます。また,実際にそれらの策を講じる際にも,弁護士が主導して進めてくれるため,大きな負担なく進めることができるでしょう。
③捜査機関に掛け合ってもらうことができる
逮捕を防ぐ際には,捜査機関に安易な逮捕の判断をされないようにすることも重要です。特に,業務上横領事件の場合,単純な事件類型とは異なり事実関係や証拠が複雑になりやすいことから,事件の規模によっては安易な逮捕の判断がされるケースも散見されます。
この点,弁護士に依頼することで,弁護士が捜査機関の対応に目を光らせ,不当な動きを抑止する効果が期待できます。必要性に乏しい逮捕がなされるリスクは,弁護士の存在によって大きく減少するでしょう。
業務上横領事件の逮捕に関する注意点
①逮捕時期
大多数の刑事事件では,被疑者が特定されてから間もない段階で逮捕されるのが一般的な流れです。そのため,刑事事件は捜査の比較的初期段階で行われ,その後身柄拘束をしながら捜査を重ねていくことになります。
一方,業務上横領事件の場合には,逮捕せず定期的に出頭を求める方法で捜査を続け,ある程度捜査が進んだ段階で逮捕に踏み切るケースが相当数見られます。このような逮捕時期に関する取り扱いは,業務上横領事件の大きな特徴の一つとも言えるでしょう。
業務上横領事件に際しては,出頭を重ねた後に逮捕される可能性についても注意しておくことが望ましいでしょう。
②捜査の開始を防げる可能性
業務上横領事件では,捜査の開始前に当事者間で連絡を取り合うことのできるケースが多い点に特徴があります。そして,捜査開始前に当事者間で協議を重ね,解決の合意ができれば,捜査は開始されないことが見込まれるでしょう。
この点で,業務上横領事件の場合,対応によっては捜査の開始が防げる可能性もあるという点には十分注意したいところです。迅速に当事者間での解決が図れれば,捜査が行われないことになり,もちろん逮捕もなされないという有益な結果が期待できます。
③逮捕された場合の拘束期間
業務上横領事件では,逮捕された場合の拘束期間が比較的長くなりやすい点に注意が必要です。基本的には早期釈放が期待しづらく,延長を含めて20日間の勾留を受けることが見込まれやすいでしょう。
また,複数回の横領行為が問題になっている場合,20日間の勾留では捜査の時間が足りないと判断されると,更に別の横領行為について逮捕勾留(再逮捕・再勾留)が行われ,長期間の身柄拘束となる可能性も否定できません。特に証拠となるものが多く複雑な場合は,再逮捕を含む長期化の可能性にも注意したいところです。
業務上横領事件における自首のポイント
業務上横領事件で自首をするべき場合
①当事者間の解決が見込まれない場合
業務上横領事件では,当事者間で解決ができれば,強制的な捜査手続や重大な刑事処罰は考えにくいのが通常です。そのため,当事者間で解決できるケースでは,自首を行う実益はあまり大きくなりにくいでしょう。むしろ,被害者側が自首を望んでいない場合,当事者間の解決に悪影響を及ぼす可能性もあり得ます。
一方,当事者間で解決できる見込みがない場合,基本的に解決を目指す手段はなくなってしまい,後はいつ捜査が行われるか,待つほかなくなることも珍しくありません。いつ捜査を受けるか分からず待ち続けるのは,大きな精神的負担が避けられず,耐えられなくなってもおかしくはありません。
このように,当事者間での解決見込みがない場合に有力な手段となるのが自首です。自首を通じて自ら捜査を求める動きを取ることで,いつどのような捜査を受けるのか分からない,という不安を解消することが可能になります。また,捜査の方法そのものも緩やかになりやすいでしょう。
ポイント
当事者間で解決ができれば,自首の実益は大きくない
自首により,いつ捜査されるか分からない不安を解消できる
②事件の規模が大きい場合
自首は,逮捕の回避を大きな目的の一つとするものです。自ら捜査機関に自分の犯罪を明らかにすることで,逮捕をする必要はない,との判断を引き出すのが,自首の最初の目的と言ってよいでしょう。
この点,業務上横領事件では,事件の規模が大きければ大きいほど,捜査に際して逮捕される可能性が高まります。刑事責任が重大であることに加え,必要な証拠が多岐に渡りやすいため,逃亡や証拠隠滅を防ぐ目的で逮捕が選択されやすいのです。
そのため,事件の規模が大きい場合には,「自首しなければ逮捕されていたが,自首したことで逮捕を回避できた」という場合が増加しやすいところです。逮捕リスクが高いケースほど,自首を積極的に検討することをお勧めします。
ポイント
事件規模が大きいほど逮捕の恐れが大きい
自首が逮捕回避の大きなポイントになり得る
③日常生活への支障を防ぎたい場合
刑事事件では,捜査や処罰を受けることで日常生活に支障が生じることが強く懸念されます。逮捕されれば社会生活と引き離されてしまい,捜査されていることが周囲に知られれば不名誉な評価が避け難いでしょう。
自首を行った場合,捜査機関にとっては被疑者の捜査協力が確実に見込まれることになるため,日常生活に支障が生じやすい捜査方法を避けてくれるケースが多くなります。捜査機関からの一種の配慮と言えるでしょう。
捜査の方法について配慮してもらうことで,周囲への悪影響を防ぎたい場合には,自首が非常に有力な手段となります。
ポイント
自首した場合,捜査方法を配慮してもらえるケースが多くなる
業務上横領事件の自首は弁護士に依頼すべきか
業務上横領事件で自首を検討する場合,弁護士に依頼の上,弁護士の専門的な判断を仰ぐことが適切です。自首という大きな決断を行う以上,その検討は可能な限り慎重に進めることをお勧めします。
弁護士に依頼することで,以下のようなメリットが期待できます。
①自首すべき状況か判断してもらえる
業務上横領事件の場合,すべてのケースで自首をすべきとは言えません。それは,自首が被害者側の意向に反してしまったり,自首しなければ不利益が避けられない,という状況でないのに勘違いしてしまったりする恐れがあるためです。自首は,大きなリスクを背負った行動であるため,自首によって不利益を被ることはできる限り避けるべきと言えます。
この点,弁護士に依頼することで,自首をすることのメリットデメリット,自首をしなかった場合の見通しなどを,専門的な見地から判断してもらうことが可能です。そのため,自首すべきでない状況で自首を選択してしまうことや,自首が有益な状況で自首のチャンスを逃すことが防げるでしょう。
②適切な方法で自首できる
自首するとの決断をした場合,次の高いハードルになるのが具体的な方法の判断です。どこの警察に出頭するのか,電話するのか警察署へ行くのか,誰に何を話すのか,どのように取り扱ってもらえるかなど,判断に悩む局面は少なくありません。
この点,弁護士に依頼し,弁護士に進めてもらう形を取れば,自首の具体的方法に悩むことなく,適切な手順で自首を行うことが可能です。また,自分がどのような振る舞いをするべきか,事前にアドバイスを受けられるため,最大限に不安を取り除くこともできるでしょう。
③取調べへの備えができる
自首は,捜査の入口段階の手続です。自首をきっかけに捜査が始まることとなるため,自首をする時点でその後の捜査を想定しておくことは不可欠と言えます。
そして,捜査の中でも中核となるものが取調べです。警察担当者から話を聞かれて回答し,その内容を「供述調書」という書面にすることが,取調べの基本的な手続となります。そのため,取調べに対してどのような回答をするか,供述調書の作成時にはどう対応すべきか,という点は事前に検討しておくのが有益です。
この点,弁護士に依頼することで,取調べの流れを案内してもらうことができ,回答内容のアドバイスも受けられるため,取調べへの十分な備えをすることが可能になります。また,供述調書の作成に関しても,個別の事件に応じた助言をしてもらうことができるでしょう。
④被害者対応を迅速に開始できる
業務上横領の事件では,否認事件の場合を除き,被害者対応が非常に重要なポイントとなります。刑事処分がどのくらいの重さになるか,逮捕されるか,勾留されるかなど,刑事手続の多くの局面で被害者対応やその結果が大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
この点,弁護士に依頼することで,自首とあわせて被害者対応を迅速に開始することが可能です。自首した事件の場合,そうでないケースと比べて被害者側の感情面が緩やかになりやすく,自首が示談に対してプラスの効果を及ぼすことも多いため,示談を試みることは結果にもつながりやすいと言えます。
業務上横領事件で自首をする場合の注意点
①自首より優先すべきことがある場合
業務上横領事件の場合,被害者側の意向や状況を知らない段階での自首は慎重に判断するのが賢明です。それは,被害者にとって自首よりも当事者間の解決の方が望ましいと考えている場合があるためです。
自首によって捜査が始まると,被害者側も捜査協力を求められることになり得ます。当然ながら,捜査協力は被害者にとって負担であるため,捜査を希望しない被害者にとっては単に負担が増すだけの結果になりかねません。しかも,捜査協力をしても金銭的な損害が回復されるわけではないため,被害者が捜査よりも当事者間での金銭的解決を望んでいる場合,自首は被害者の意向に反する可能性があります。
業務上横領事件での自首は,被害者側の意向に反していないことが分かった後に行うことが有力でしょう。
②逮捕が避けられない可能性
業務上横領事件では,加害者に知られないよう慎重に捜査を進め,嫌疑が固まった段階で突然加害者を逮捕する,という流れが取られる場合もあり得ます。これは,加害者による証拠隠滅を防ぎ,業務上横領事件の全容を解明するための手段の一つです。
予告なく突然逮捕することで,加害者側が事前の準備が全くできないため,逃亡や証拠隠滅のリスクを最小限に抑えながら捜査を進める手段として活用されています。
一方で,加害者側の目線では,事前に逮捕を避ける試みを行う余地がない,という可能性が生じることになります。自発的に自首などの手段で名乗り上げる以外には,事前に逮捕回避を図る手段がありません。
逮捕を予期させる事情を確認してから自首する,という動き方では,逮捕が避けられないケースが出てくる可能性に注意しておきましょう。
③不起訴処分が見込まれるとは限らない
自首は,不起訴処分が最も大きな目的の一つになります。不起訴処分となれば,刑事罰を受ける可能性がなくなり,前科が付かない結果となるため,刑事処分として最も有益な結果と言ってよいでしょう。
自首をした場合,深い反省の意思が明確になることから,自首は不起訴処分を実現する大きな原動力の一つです。
もっとも,自首をしたからと言って不起訴処分になるとは限らない,という点には注意が必要です。自首をすれば確かに刑事処分は軽減しやすいですが,軽減した結果不起訴にまで至るかは別の問題です。特に被害規模が大きく,元々の刑事責任が重い事件の場合,自首によって軽減してもなお刑罰は避けられない,という結論も十分にあり得ます。
呼び出された場合に弁護士へ依頼するメリット
被疑者として警察に呼び出された場合には,弁護士に依頼をすることが有益になりやすいです。具体的には,以下のようなメリットが生じます。
①逮捕を回避できる
呼び出しがなされた場合,そのまま逮捕されるというケースも否定できないところです。呼び出しに応じた流れで逮捕されると,その後に弁護士への相談や依頼をすることは困難となり,一定期間の身柄拘束を強いられてしまいます。
この点,呼び出された段階で弁護士に依頼し,弁護士を通じて適切な対応を取ることで,逮捕を回避できる場合があります。具体的に逮捕を回避するための手段は,ケースによっても異なりやすいため,弁護士と十分に相談するようにしましょう。
②不適切な取り調べを防げる
警察に呼び出された際の取り調べは,捜査担当者のやり方によっては違法・不適切なものになる場合もあり得ます。強く恫喝されたり,侮辱的な発言を受けたりと,取り調べがヒートアップするほど精神的苦痛を伴うケースが珍しくありません。
この点,弁護士に依頼をしている場合,捜査担当者による不適切な取り調べは多くの場合で防ぐことが可能です。これは,捜査担当者が,弁護士の目があることに配慮するためです。
不適切な取り調べを行えば,後から弁護士を通じて問題視される可能性があるため,不用意な取り調べは行えない,というわけです。
弁護士の目を光らせる意味でも,呼び出しに際して弁護士に依頼することは有力な手段でしょう。
③前科を防げる
被疑者として呼び出される場合,その後に起訴されて前科が付く可能性を想定する必要があります。被疑者として呼び出されるということは,自分に対して捜査が行われていることが明らかであるため,その先に控える処分に無関心でいるわけにはいきません。
この点,呼び出しという早期の段階で弁護士に依頼することで,適切な弁護活動を尽くしてもらい,前科を防げる可能性が高くなります。被害者のいる事件であれば被害者との示談を目指す,否認事件であれば自分が犯人でないことを主張するなど,個別のケースに応じた適切な弁護活動を通じて,前科を防ぐ試みができるのは大きなメリットになるでしょう。
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