近年、いわゆる「盗撮」と呼ばれる行為について、都道府県の迷惑防止条例とは別に、全国一律で適用される新たな処罰規定が設けられました。それが、いわゆる性的姿態等撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)です。
これまで盗撮行為の多くは各都道府県の条例で処罰されてきましたが、スマートフォンの普及やインターネット上での拡散リスクの高まりを背景に、条例では十分に対応できない場面があることが指摘されてきました。 その結果、令和5年7月に新法が施行され、撮影行為そのものに加え、提供や保管といった行為も処罰対象となる体系が整備されています。
もっとも、「どのような場合に性的姿態等撮影罪が成立するのか」「迷惑防止条例との違いは何か」「偶然写り込んだ場合でも犯罪になるのか」といった点は、条文の文言だけでは分かりにくい部分もあります。実務では、“性的姿態”に当たるかどうかや、故意の有無が重要な争点となることも少なくありません。本記事では、性的姿態等撮影罪の成立要件・関連犯罪との関係・処分の見通しを、条文構造に沿って整理します。あわせて、迷惑防止条例との違いや、成立が争われやすいポイントについても、弁護士の視点から分かりやすく解説します。
この記事の監修者
藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介
全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。
性的姿態等撮影罪とは何か|新設された盗撮処罰規定のポイント
性的姿態等撮影罪は、正式には「性的姿態撮影等処罰法」にもとづく犯罪で、令和5年7月13日に施行されました。いわゆる盗撮行為は、これまで主として都道府県ごとの迷惑防止条例で処罰されてきましたが、条例は地域ごとに規制の対象や要件、法定刑に差が生じやすく、事案によっては「どの規定で評価されるのか」が分かりにくいという課題がありました。新法はこの点を是正し、全国一律の基準で処罰できる枠組みを整えたものと位置づけられます。
もう一つ重要なのは、新法が処罰の対象を「盗撮」という通俗的な言葉に委ねず、条文上の概念として「性的姿態等」を定義し、一定の態様の撮影を明確に犯罪化している点です。たとえば、性的な部位や下着が撮影対象となる場面、同意しない意思を形成・表明することが難しい状態を利用した撮影、誤信を利用した撮影など、複数の類型が条文上整理されています。したがって、成立判断では「何を」「どのような状況で」「どのような方法で」撮影したのかが中核となり、“盗撮っぽい”という印象だけで結論が決まるわけではありません。
さらに、新法の制定背景には、撮影そのものに加えて、撮影データが保存され、第三者に提供され、インターネット上で拡散されることによって被害が回復しにくくなるという現実があります。このため本法では、撮影行為にとどまらず、画像の提供・公然陳列、提供目的での保管、送信(ライブ配信等)といった行為も処罰対象として体系的に規定されています。つまり、撮影の瞬間だけでなく、その後の扱いまで含めて被害の拡大を防ぐ発想が組み込まれているのが特徴です。このように、性的姿態等撮影罪は、迷惑防止条例とは別の枠組みで、撮影行為と周辺行為を含めて整備された新しい犯罪類型です。まずは条文構造に沿って、成立要件と判断のポイントを正確に押さえることが、適切な見通しを立てる第一歩になります。
性的姿態等撮影罪が成立する要件|どのような場合に処罰されるのか
性的姿態等撮影罪は、条文で定められた類型に該当する場合に成立します。判断は、①対象、②撮影態様、③年齢要件、④故意、⑤正当理由の有無という順序で整理できます。「盗撮らしい」という印象ではなく、条文要件に即して検討することが不可欠です。
1.対象となる「性的姿態等」
処罰対象となるのは、
- 性器・肛門・胸部・臀部などの性的部位
- それらを覆う下着部分
- 性交やこれに類するわいせつな行為の態様
です。
ここで重要なのは、単なる露出では足りないという点です。たとえば、水着姿や通常の服装での撮影が直ちに本罪に当たるわけではありません。問題となるのは、性的部位を対象として撮影したと評価できるかどうかです。
実務では、
- 画面の中心がどこにあるか
- 特定部位にズームしているか
- 通常では撮影しない角度から撮られているか
といった事情が総合的に検討されます。構図や撮影態様から性的部位を狙ったといえるかが核心です。
2.基本類型(年齢を問わず成立する場合)
以下のいずれかに当たるときは、被写体の年齢にかかわらず成立し得ます。
(1)ひそかに撮影
被写体の同意なく、気づかれないように撮影する場合です。
ここでは、性的姿態を撮影する認識(故意)があることが必要です。
偶然写り込んだにすぎない場合や、性的部位を撮影する認識がなかった場合には、通常は成立しません。
(2)同意困難状態の利用
泥酔・睡眠・意識混濁など、同意しない意思を形成・表明できない状態を利用した撮影です。
この類型では、「ひそかに」である必要はありません。
問題となるのは、実質的に同意が期待できない状態を認識し、それを利用したかどうかです。
(3)誤信の利用
撮影目的や内容について誤った認識を抱かせ、その誤信を利用して性的姿態を撮影する場合です。
たとえば、通常の写真撮影と説明しながら、実際には特定部位を狙うようなケースが想定されます。ここでは、被写体の理解内容と行為者の認識の食い違いが争点になります。
3.13歳未満の場合
被写体が13歳未満である場合には、同意の有無は成立判断に影響しません。
13歳未満の者は、法律上、性的自己決定に関する十分な判断能力を有するとは扱われていません。そのため、性的姿態等を撮影すれば、形式的に同意があったとしても処罰対象となります。
ここでは年齢差は問題になりません。判断の中心は、
- 被写体が13歳未満であること
- 性的姿態等を撮影していること
です。
4.13歳以上16歳未満の場合
この年齢層については、条文上、行為者が被写体より5歳以上年長である場合に処罰対象となります。
つまり、
- 被写体が13歳以上16歳未満
- 行為者が5歳以上年長
- 性的姿態等を撮影している
という要件を満たすときは、同意があっても処罰対象となり得ます。
もっとも、年齢差が5歳未満であれば直ちに特則に該当するわけではありません。ただし、その場合でも「ひそかに撮影」「同意困難状態の利用」「誤信利用」に該当すれば成立し得るため、年齢差だけで結論が決まるわけではありません。
5.「正当な理由なく」という要件
条文は「正当な理由なく」という要件を置いています。医療行為や正当な業務行為など、社会的に相当と評価される場合には違法性が否定される余地があります。
もっとも、この正当理由は広く認められるものではありません。撮影行為の目的・必要性・態様が客観的に相当といえるかどうかが厳格に検討されます。
以上のとおり、本罪の成立は、
- 対象が性的姿態等に当たるか
- どの類型に該当するか
- 未成年特則の適用があるか
- 故意があるか
- 正当理由がないか
といった観点から判断されます。
迷惑防止条例との違い|どちらが適用されるのか
性的姿態等撮影罪が新設されたことで、「盗撮はすべてこの新法で処罰されるのか」という疑問が生じます。しかし実際には、迷惑防止条例と性的姿態等撮影罪は並存しており、事案に応じてどの規定が適用されるかが判断されます。
従来、盗撮行為の多くは都道府県の迷惑防止条例によって処罰されてきました。条例は、公共の場所や公共交通機関などにおける卑わいな行為を規制することを目的とするもので、主として「ひそかに撮影する行為」を対象としてきました。
これに対し、性的姿態等撮影罪は、場所を限定せず、全国一律の法律として制定された点が大きな違いです。公共の場に限らず、住宅内や宿泊施設内などでの撮影も、条文要件を満たせば処罰対象となります。
また、新法の特徴は、撮影行為そのものだけでなく、画像の提供・保管・送信といった行為も体系的に処罰対象とした点にあります。条例では必ずしも十分にカバーできなかった部分を補完する役割を担っています。
もっとも、事案によっては、同じ撮影行為が迷惑防止条例の構成要件にも、性的姿態等撮影罪の構成要件にも当てはまるように見える場合があります。このような場合、二つの罪が機械的に両方適用されるわけではありません。
実務では、
- どちらの規定がより具体的に当該行為を予定しているか
- 立法趣旨に照らしてどの規定で評価するのが相当か
といった観点から整理され、通常は一つの罪名で評価されます。
同じ撮影行為について、条例違反と撮影罪の双方で重ねて処罰されるということは考えにくいでしょう。
関連する犯罪との関係|提供・保管・送信も処罰対象になるのか
性的姿態等撮影罪は、「撮影した瞬間」だけを処罰対象とする法律ではありません。新法では、撮影後の行為についても複数の犯罪類型が設けられており、画像の取扱いそのものが処罰対象となり得る点が大きな特徴です。
1.性的影像記録提供等罪(提供・公然陳列)
撮影した性的姿態等の画像や動画を、第三者に提供したり、インターネット上に公開したりする行為は、別の犯罪類型として処罰されます。
たとえば、
- SNSや掲示板への投稿
- 友人へのデータ送信
- 不特定多数が閲覧できる状態に置く行為
などが典型例です。
ここで重要なのは、撮影者本人でなくても成立し得るという点です。違法に撮影された画像であることを認識しながら拡散すれば、提供罪が問題となる可能性があります。
2.提供目的での保管(性的影像記録保管罪)
撮影した画像を、将来提供する目的で保管する行為も処罰対象とされています。
単なる保存との違いは、「提供する目的」があるかどうかです。実務では、保存状況やデータの管理方法、過去の送信履歴などから、目的の有無が推認されることがあります。
3.送信行為(ライブ配信等)
撮影と同時にインターネット上へ配信する、いわゆるライブ配信行為も処罰対象となる類型があります。
この場合、撮影と送信が一体となった行為として評価されます。単に端末内に保存するのではなく、外部に送信する点で被害拡大の危険が高いと考えられています。
4.撮影罪との関係
一連の行為の中で、
- まず撮影が行われ
- その後に提供や送信がなされる
という場合、撮影罪と提供罪等が問題となることがあります。
もっとも、常に複数の罪で重く処罰されるわけではなく、行為の態様や経過に応じて法的に整理されます。
重要なのは、撮影した後の行為も独立して刑事責任を問われ得るという点です。撮影さえしなければよいという問題ではなく、データの扱い方次第で法的評価が変わることになります。
このように、性的姿態等撮影罪は、撮影行為にとどまらず、提供・保管・送信といった周辺行為まで含めて体系的に規制しています。事案を検討する際には、どの段階の行為が問題となっているのかを切り分けて考えることが重要です。
具体的に取り締まりを受けるケースの大多数は撮影罪ですが、犯罪に該当する行為が撮影のみにとどまらないことは踏まえておくことが適切です。
成立が争われやすいポイント|“盗撮”と評価されない場合はあるか
性的姿態等撮影罪は、撮影行為があれば直ちに成立する犯罪ではありません。実務では、構成要件該当性や故意の有無、未遂の成否などが争点となることがあります。 ここでは、成立が問題となりやすい論点を整理します。
1.「性的姿態等」に当たるかどうか
まず争点となるのは、撮影対象が条文上の「性的姿態等」に該当するかです。
たとえば、
- 着衣の上から身体を撮影した場合
- 通常の写真の一部に身体の一部が写り込んだ場合
- 水着姿を撮影した場合
これらが直ちに本罪に当たるとは限りません。
判断では、
- どの部位が画面の中心か
- ズームや角度が特定部位を狙ったものか
- 撮影態様が通常の写真撮影と異なるか
といった事情を総合して、性的部位を対象とした撮影と評価できるかどうかが検討されます。
2.故意の有無
本罪は故意犯です。したがって、性的姿態を撮影する認識があったかどうかが重要になります。
偶然写り込んだにすぎない場合や、誤操作による撮影である場合には、通常は故意が否定されます。実務では、画像の保存状況、同種画像の有無、撮影履歴などから故意が推認されることがあります。
3.同意の評価
16歳以上の被写体については、同意の有無が成立判断に影響します。ただし、同意困難状態の利用や誤信利用に当たる場合には、有効な同意とは評価されません。
形式的な同意書があっても、その取得過程が問題となる場合があります。
4.未遂はどの段階から成立するか
性的姿態等撮影罪には、未遂を処罰する規定があります。
したがって、撮影が完成していなくても、
- シャッターを押したが保存されなかった場合
- 撮影直前で制止された場合
などでは、未遂が成立する可能性があります。
もっとも、未遂が成立するためには、単なる準備では足りません。
性的姿態を撮影する実行に着手したといえる段階に至っていることが必要です。
たとえば、
- まだカメラを構えただけの段階
- 具体的な被写体を狙っていない段階
であれば、通常は未遂には当たりません。
問題となるのは、どの時点で撮影行為の実行に着手したと評価できるかという点です。
処分の見通しと量刑判断|逮捕・不起訴はどう判断されるか
性的姿態等撮影罪に該当し得る場合であっても、直ちに逮捕や起訴、有罪が決まるわけではありません。 刑事手続では、事案の内容や証拠状況、被害者対応などを踏まえて処分が判断されます。
1.逮捕される場合と在宅で進む場合
盗撮事案では、現行犯で取り押さえられるケースも少なくありません。その場合、証拠隠滅や逃亡のおそれがあると判断されれば、逮捕・勾留に至ることがあります。
一方で、
- 身元が明らかである
- 証拠が既に確保されている
- 前科前歴がない
といった事情がある場合には、在宅のまま捜査が進むこともあります。
2.不起訴となる可能性
検察官は、証拠関係や情状を踏まえ、起訴するかどうかを判断します。
たとえば、
- 構成要件該当性に疑問がある
- 故意の立証が困難である
- 被害者との間で示談が成立している
- 反省状況が認められる
といった事情がある場合には、不起訴処分となる可能性があります。
もっとも、不起訴になるかどうかは事案ごとの事情に大きく左右されます。
3.量刑判断の考え方
起訴された場合、裁判では量刑が問題となります。量刑判断では、
- 撮影の態様や悪質性
- 画像の枚数や内容
- 提供・拡散の有無
- 前科前歴の有無
- 被害回復の状況
などが総合的に考慮されます。
初犯であり、示談が成立している場合には、罰金刑や執行猶予付き判決となる事例も見られます。他方で、常習的・悪質な事案では、より重い処分が科される可能性があります。
このように、性的姿態等撮影罪では、成立の有無だけでなく、その後の手続や処分の見通しも重要な検討事項となります。事案の具体的事情を踏まえた対応が求められます。
在宅捜査が選択されるか逮捕されるか、という観点では、認め事件か否認事件かという点も影響を及ぼしやすいところです。認め事件の方が、在宅捜査が選択されやすい傾向にあります。
性的姿態等撮影罪に関するよくある質問
ここでは、性的姿態等撮影罪について実務上よく問題となる点を、簡潔に整理します。
Q1.同意があれば処罰されませんか?
16歳以上の者については、自由な意思に基づく有効な同意がある場合には、原則として処罰対象にはなりません。
もっとも、泥酔や睡眠などの同意困難状態を利用した場合や、撮影内容について誤信させた場合には、有効な同意とは評価されません。また、13歳未満の場合や、13歳以上16歳未満で5歳以上の年齢差がある場合には、同意があっても処罰対象となり得ます。
Q2.交際相手であれば問題になりませんか?
交際関係にあることだけで、直ちに適法になるわけではありません。
重要なのは、当該撮影について具体的な同意があったかどうかです。
交際関係があっても、無断で性的姿態を撮影すれば本罪が成立する可能性があります。
Q3.画像を削除すれば罪に問われませんか?
撮影時点で構成要件に該当すれば、その後に画像を削除しても犯罪の成立が否定されるわけではありません。
もっとも、削除や反省の状況は、処分や量刑の判断に影響する可能性があります。
Q4.風景写真に偶然写り込んだ場合も処罰されますか?
偶然写り込んだにすぎず、性的部位を対象とする認識(故意)がなかった場合には、通常は成立しません。
問題となるのは、構図や撮影態様から、特定の性的部位を狙ったといえるかどうかです。
まとめ|性的姿態等撮影罪の判断は条文構造に沿って行われる
性的姿態等撮影罪は、いわゆる「盗撮」という通俗的な言葉ではなく、条文で定められた構成要件に該当するかどうかによって判断される犯罪です。
成立を検討する際には、
- 撮影対象が性的姿態等に当たるか
- ひそかに撮影したか、同意困難状態や誤信を利用したか
- 未成年特則に該当するか
- 故意が認められるか
- 正当な理由がないか
といった要素を順に確認する必要があります。
また、撮影後の提供・保管・送信といった行為も別個に処罰対象となり得る点にも注意が必要です。撮影の有無だけでなく、その後の取扱いまで含めて法的評価が行われます。迷惑防止条例との関係や未成年特則など、条文構造を正確に理解しないまま判断すると、見通しを誤るおそれがあります。
性的姿態等撮影罪の成否は、事案ごとの具体的事情を踏まえ、条文に即して慎重に検討することが重要です。
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