検察官から略式起訴の説明を受け、「罰金を払えば終わるのか」「正式な裁判を受けなくても前科がつくのか」と不安を感じている方もいるでしょう。略式裁判は公開の法廷を開かずに進む手続ですが、罰金・科料を科す略式命令が確定すれば、前科がつきます。

略式起訴と前科の関係を考えるには、手続の仕組みに加え、罰金刑が仕事や資格、海外渡航に与える影響を知っておく必要があります。本記事では、略式起訴の対象となるケースや正式裁判との違い、前科がついた場合の影響、前科を回避するための3つの対処法、弁護士に相談するメリットを解説します。

略式手続への同意を拒否するだけで、前科を回避できるわけではありません。また、罰金を納付しても、前科がなくなるわけではありません。前科をつけたくない場合は、略式起訴される前に不起訴を目指した対応を進めることが大切です。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

略式起訴(略式裁判)とは?

略式起訴になるケースとならないケース

略式起訴とは、検察官が簡易裁判所に対し、公開の法廷を開かずに罰金・科料を科すよう求める手続です。正式には「略式命令の請求」といい、その請求を受けて裁判所が書面で審理する手続を略式裁判と呼びます。対象となるのは、100万円以下の罰金または科料を科すことができる事件です。拘禁刑を科すために略式裁判を利用することはできません。

例えば、暴行や傷害、窃盗、道路交通法違反など、罰金刑の定めがある犯罪では、略式起訴が選択肢になります。ただし、罰金刑の定めがあれば必ず略式起訴になるわけではありません。同じ罪名でも、被害の大きさ、行為の悪質性、前科の有無などによって、検察官が拘禁刑を求める場合には正式裁判となります。また、罰金刑の定めがない犯罪は、原則として略式起訴の対象にはなりません。

略式手続を利用するには、被疑者本人が手続に同意していることも必要です。検察官から正式裁判を受けられることや略式手続の仕組みについて説明を受け、異議がなければ書面で意思を示します。同意がない場合には略式手続を利用できず、検察官が起訴するのであれば正式裁判を求めることになります。犯罪の成立や重要な事実関係を争っている場合は、書面だけの審理で処罰を受け入れてよいか、慎重な判断が必要です。

略式起訴と正式裁判との違い

略式裁判と正式裁判の主な違いは、公開の法廷で審理を行うかどうかです。正式裁判では、法廷で証拠調べや被告人質問などを行い、検察官と被告人側の主張を踏まえて裁判所が判決を言い渡します。一方、略式裁判では、検察官が提出した捜査記録などを裁判官が確認し、処罰が相当と判断すれば略式命令を出します。通常、被告人が法廷に出席して説明する機会はありません。

略式裁判は法廷への出席を伴わないため、正式裁判と比べて時間や出廷の負担を抑えられます。ただし、公開の法廷が開かれなくても、罰金・科料という刑罰が科されます。裁判所が罰金・科料を科す点では刑事裁判であり、単なる行政上の支払い手続ではありません。また、正式裁判でも罰金刑が言い渡されることはあるため、「略式裁判は罰金、正式裁判は拘禁刑」と区別するのも正確ではありません。

略式命令の内容に不服がある場合は、告知を受けた日から14日以内に正式裁判を請求することができます。略式手続に同意した後でも、略式命令の内容について正式裁判で争う機会は残されています。ただし、請求期限が設けられているため、届いた命令の内容を確認しないまま放置すると、正式裁判を請求できる期間を過ぎてしまいます。

略式起訴で前科はつく?

略式起訴された後、罰金・科料を科す略式命令が確定すると、前科がつきます。前科とは、犯罪について有罪の裁判が確定した経歴です。公開の法廷で言い渡される有罪判決だけでなく、書面審理による略式命令も含まれるため、「正式裁判を受けていないから前科にはならない」という理解は誤りです。罰金額が少額であっても、前科がつく点は変わりません。

ただし、略式起訴された時点で前科がつくわけではありません。略式起訴は、検察官が裁判所に処罰を求める段階であり、刑を決めるのは裁判所です。略式命令が出され、告知を受けた日から14日以内に正式裁判の請求がなければ、原則として命令が確定します。正式裁判を請求した場合には、その裁判で無罪となれば当該事件について前科はつかず、有罪判決が確定すれば前科がつきます。

また、罰金を全額納付しても、前科はなくなりません。罰金を納付することは、科された刑の執行を受けることであり、有罪の裁判を取り消すことではありません。そのため、罰金を全額納付しても、前科がなかったことにはなりません。反対に、罰金を納付しないままでも、略式命令が確定すれば前科はつきます。

一方、交通違反の反則金を制度に従って納付した場合は、その違反による前科はつきません。罰金は裁判所が科す刑罰ですが、交通反則通告制度に基づく反則金は刑罰ではありません。いわゆる青切符の対象となる違反で、制度に従って反則金を納付して手続が終了した場合、その違反による前科はつきません。一方、交通違反であっても、略式命令による罰金刑が確定した場合には前科がつきます。

前科は、刑罰を受けた経歴のことを指します。略式起訴されると刑罰を受けることになるため、略式起訴=前科との理解が適切です。

略式起訴で前科がついた場合の実生活への影響

就職・転職や勤務先での処分への影響

略式起訴によって罰金刑が確定しても、一般の会社への就職や転職が法律上一律に禁止されるわけではありません。ただし、応募先が犯罪歴の申告を求め、その事実を把握した場合には、採用判断に関わることがあります。例えば、窃盗の前科と現金管理の業務との関係など、犯罪の内容が応募先の仕事にどの程度関わるかによって影響は異なります。罰金刑の確定だけで、すべての会社への就職ができなくなるという意味ではありません。

現在の勤務先でも、罰金刑の確定だけで解雇が当然に正当化されるわけではありません。懲戒処分の可否は、就業規則の定め、行為の内容、業務との関係、会社への影響などを踏まえて判断されます。会社の財産を盗んだ事件と、業務に関係しない私生活上の事件では、雇用関係への影響も異なります。処分に客観的に合理的な理由がなく、社会通念上も相当といえない場合は、懲戒や解雇は無効となります。

会社への報告については、就業規則に報告義務があるか、その対象が何かが判断の出発点です。逮捕、起訴、刑の確定のどれを報告対象としているかによって、対応は変わります。報告を怠った場合も、直ちに懲戒処分が有効になるわけではなく、義務の内容や違反の程度などが問題となります。会社から報告や説明を求められた場合には、就業規則と事件の状況を踏まえて対応を判断する必要があります。

資格の取得や職業上の制限への影響

資格によっては、罰金刑が免許の取得や行政処分に関わる欠格事由に当たります。例えば、医師・歯科医師では、罰金以上の刑に処せられたことが、免許を与えないことや、戒告・業務停止・免許取消しの根拠となります。ただし、これは罰金刑が確定すれば自動的に免許を失うという制度ではありません。犯罪の内容や悪質性、医療業務との関係などを踏まえて、処分の要否や程度が判断されます。

資格ごとに規定が異なるため、罰金刑が制限の対象になるかは、その資格の法律によって決まります。拘禁刑以上の刑を対象とする規定もあれば、特定の犯罪について罰金刑を対象とする規定もあります。また、免許を取得できない条件と、取得済みの免許に対する処分の条件が同じとは限りません。現在の資格や取得予定の資格について、刑の種類、対象犯罪、制限期間を確認することで、罰金刑による具体的な影響を判断できます。

海外渡航やビザの取得への影響

略式命令による罰金刑が確定しても、その事実だけで、すべての国への渡航が禁止されるわけではありません。一方、渡航先の制度によっては、犯罪歴がビザや入国の審査対象となります。申告対象となる犯罪や処分の範囲は国・申請手続ごとに異なるため、日本で罰金刑にとどまったことだけで、申告不要や入国可能と判断することはできません。

就労や永住などの申請では、犯罪経歴証明書の提出を求められる場合があります。また、短期滞在に用いる電子渡航認証でも、犯罪歴に関する質問が設けられている場合があります。ただし、前科があれば必ず渡航認証を利用できない、別途ビザを取得すれば必ず入国できる、といった一律の説明はできません。利用できる手続と許可の可否は、渡航先の基準に従って判断されます。

申告の要否は、申請書が尋ねている犯罪・処分の範囲に沿って判断します。「略式裁判だった」「罰金を納付した」という理由だけで、申告対象から外れるわけではありません。渡航先の大使館・領事館などの案内で必要な手続を確認しても、審査期間や許可の結果まで確定するものではありません。犯罪歴について追加資料や個別審査が必要となる場合は、予定どおりに渡航できるかも、その審査の進行と結果に左右されます。

前科の仕事への影響は、それぞれの職場や職業によって様々に異なります。事前に正確な予測をすることが非常に難しい点の一つです。

略式起訴による前科を回避する対処法

被害者との示談を進めて不起訴を目指す

被害者がいる事件では、起訴前に示談を成立させることが、不起訴を目指すための有力な対応です。検察官は、犯罪の内容だけでなく、被害が回復されているか、被害者が処罰を求めているかといった犯罪後の事情も踏まえて、起訴するかを判断します。示談によって被害弁償が行われ、被害者が処罰を求めない意思を示した場合には、起訴猶予による不起訴を判断するうえで有利な事情となります。

ただし、示談が成立すれば必ず不起訴になるわけではありません。被害が大きい事件や悪質な事件、同種の前科がある事件では、示談が成立しても起訴されることがあります。また、示談金を支払っただけの場合と、被害者が処罰を求めない意思まで確認できた場合とでは、検察官に伝えられる事情が異なります。被害者の意思を無理に引き出すのではなく、合意できた内容を正確に示談書へ記載する必要があります。

示談交渉では、被害者の意向に配慮した連絡方法も大切です。直接の連絡を拒まれている場合に接触を重ねると、被害者の不安や反感を強め、交渉が難しくなります。弁護士を通じて謝罪や被害弁償を申し入れ、成立した示談書や支払いを裏付ける資料を起訴前に検察官へ提出することで、処分の判断に反映させることを目指します。

反省や再発防止策を検察官に伝える

行為を認めている事件では、反省を具体的な行動で示すことが、不起訴を求める際の判断材料になります。「反省しています」と述べるだけでは、事件の原因をどう捉え、今後どのように再犯を防ぐのかが伝わりません。被害者への謝罪や被害弁償に加え、事件を起こした原因に応じた対策を実行し、その内容を検察官に示すことが必要です。

例えば、飲酒が原因の暴行事件であれば、飲酒習慣の見直しや、依存の問題がある場合の医療機関への相談が考えられます。家族による生活面の協力を得られる場合には、どのような協力をするのかを具体化することもできます。検察官が判断するのは、単に対策を掲げたかではなく、その対策が事件の原因に対応し、継続できる内容かという点です。

反省文や家族の書面、治療・相談の実施を裏付ける資料などは、実際に取り組んでいる内容を正確に伝えるために用います。まだ実行していない対策を実施済みと記載したり、事実と異なる説明をしたりしてはいけません。被害者がいない事件や示談が成立しない事件でも、再発防止への取組みを示すことはできますが、それだけで不起訴が保証されるものではありません。

犯罪の成立や証拠に問題がある場合は争う

身に覚えがない場合や、行為の一部を認めていても犯罪の成立を争う理由がある場合には、争点と裏付けとなる証拠を具体的に示すことが必要です。検察官が、犯罪の成立を認められない、または起訴に必要な証拠が十分でないと判断すれば、嫌疑なし・嫌疑不十分による不起訴につながります。事件を認めたうえで処罰を控えるよう求める示談や反省とは、主張の根拠が異なります。

例えば、窃盗を疑われていても、所有者の承諾を得て持ち出したことを示すやり取りがあれば、犯罪の成立に関わる資料になります。犯人と誤認されている場合には、防犯カメラの映像や当時の所在を示す記録などが判断材料です。どの事実を争い、何がその説明を裏付けるのかを整理することで、単なる否定にとどまらない主張ができます。

取調べでは、事実と異なる供述をしないことが基本です。供述調書に自分の説明と異なる記載があれば、訂正を求め、内容に納得できないまま署名・押印をしない対応が必要です。また、犯罪の成立を争うべき事情があるのに、早く終わらせたいという理由だけで略式手続に同意すると、その争点が十分に審理されないまま罰金刑を受けるおそれがあります。同意を求められた段階で、主張と証拠を踏まえた弁護方針を確認することが大切です。

略式起訴について弁護士に相談するメリット

略式手続に同意すべきか判断できる

検察官から略式手続への同意を求められたとき、弁護士に相談すると、犯罪の成立を争う理由があるか、不起訴を目指す余地があるかを踏まえて判断できます。略式裁判は出廷の負担を抑えられる一方、通常は法廷で自分の説明をしたり、証人の供述を争ったりする機会がありません。そのため、手続が早く終わるという理由だけで同意するのではなく、処罰を受け入れてよい事件なのかを判断する必要があります。

弁護士は、本人の説明や確認できる資料をもとに、疑われている行為が犯罪に当たるか、捜査機関の認識と本人の説明に食い違いがないかを整理します。そのうえで、略式手続に同意する場合と正式裁判で争う場合の利点・負担を説明します。罰金刑による資格や仕事への影響も含めて相談できるため、自分の事情に即して同意の可否を判断できます。ただし、起訴前に弁護士が捜査記録のすべてを確認できるわけではなく、その時点で把握できた情報に基づく判断となります。

不起訴に向けた交渉や弁護活動を任せられる

弁護士に依頼すると、被害者との示談交渉と検察官への意見提出を任せられます。被害者が本人との接触を望んでいない場合でも、弁護士を窓口とする交渉であれば応じてもらえることがあります。弁護士は被害者の意向を確認しながら、謝罪や被害弁償の申入れ、示談条件の調整、合意内容を記載した示談書の作成を進めます。ただし、弁護士が依頼を受けても、被害者に交渉や示談を強制することはできません。

検察官に対しては、示談の結果だけでなく、再発防止への取組みや、犯罪の成立を争う根拠などを整理し、不起訴とすべき理由を資料とともに伝えます。本人だけでは何を説明すべきか判断しにくい場合でも、事件に関係する事情を選び、処分の判断に結び付けて主張できます。また、検察官に処分予定を確認しながら活動することで、起訴前に提出すべき資料や交渉の優先順位を定めやすくなります。ただし、処分時期を必ず把握できるわけではないため、同意を求められてから対応を始めるより、早い段階で相談する方が弁護活動に使える時間を確保できます。

略式命令に不服がある場合の正式裁判の請求を任せられる

略式命令を受けた後でも、弁護士に依頼すれば、正式裁判を請求すべきかの判断と請求手続を任せられます。請求期限は略式命令の告知を受けた日から14日以内です。弁護士は、命令に記載された犯罪事実や罰金額を確認し、本人が争いたい内容を整理したうえで、期限内の請求に対応します。相談時には、略式命令の書類に加え、いつ告知を受けたかを伝えることが必要です。

正式裁判では、犯罪の成立や罰金額を争うための弁護活動も任せられます。弁護士は、開示された証拠を検討し、必要に応じて反証を提出したり、証人への尋問を行ったりして、本人の主張を裁判所に伝えます。ただし、正式裁判を請求すれば無罪になる、罰金が減額されるというものではありません。単に前科を避けたいという理由だけではなく、略式命令のどの部分を、どの根拠で争うのかを踏まえて、請求の方針を判断します。

検察官が略式起訴の方針であるということは、少なくとも不起訴にする意向でない、と理解できます。その意向が変わる余地があるか、慎重に検討するべき場合も少なくありません。

略式起訴と前科に関するよくある質問

Q.略式手続への同意を拒否すれば前科を回避できますか?

A.同意を拒否するだけでは、前科を回避できません。同意がなければ略式手続は利用できませんが、検察官が正式裁判を求めて起訴し、有罪判決が確定すれば前科がつきます。同意の可否は、犯罪の成立を争う理由や証拠の内容、不起訴を目指す余地などを踏まえて判断する必要があります。「同意しなければ不起訴になる」という理解は誤りです。

Q.略式起訴による前科は家族や勤務先に知られますか?

A.前科がついたことが、家族や勤務先へ一律に通知されるわけではありません。ただし、自宅に届いた裁判所の書類を家族が目にしたり、報道や職場での捜査対応を通じて勤務先が事件を知ったりすることはあります。また、勤務先への報告が必要かは、就業規則などの定めによります。略式裁判は公開の法廷を開かない手続ですが、周囲に知られないことまで保証する制度ではありません。

Q.交通違反の反則金を支払った場合も前科がつきますか?

A.交通反則通告制度に従って反則金を納付し、手続が終了した場合は、その違反による前科はつきません。反則金は刑罰ではなく、裁判所が科す罰金とは異なるためです。一方、交通違反でも、略式命令による罰金刑が確定すれば前科がつきます。「交通違反に対する支払い」という点が共通していても、反則金と罰金では前科の扱いが異なります。

まとめ|前科をつけないためには略式起訴される前の早期相談が重要

略式起訴は、公開の法廷を開かずに進む手続ですが、罰金・科料を科す略式命令が確定すれば前科がつきます。罰金を納付しても、その経歴がなくなるわけではありません。仕事や資格、海外渡航への影響は、それぞれの規定や事件の内容によって異なるため、罰金額だけで処分の重さを判断しないことが大切です。

前科を回避するには、起訴される前に不起訴を目指した対応を進めることが基本です。被害者がいる事件では示談交渉を進め、行為を認める場合には反省や再発防止への取組みを示します。一方、犯罪の成立を争う理由がある場合は、主張と証拠を整理する必要があります。弁護士への早期相談により、事件に合った方針を定め、検察官が処分を決める前に弁護活動を進める時間を確保できます。

すでに略式手続への同意を求められている場合も、同意する前に、処罰を受け入れてよいかを相談できます。略式命令を受けた後は、正式裁判の請求に14日以内という期限があります。現在の手続の段階と受け取った書類を弁護士に伝え、残された選択肢を確認することが必要です。

刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内することができます。
早期対応が重要となりますので,お困りごとがある方はお早めにお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所