交通事故で「過失割合は9対1です」と提示され、「相手に大きな責任がある事故なのに、なぜ自分にも1割の過失があるのだろう」「10対0にはならないのだろうか」と疑問に感じることも少なくありません。過失割合は、事故の状況や双方の運転状況などを踏まえて判断されるため、相手の過失が大きい事故でも、被害者側に一定の過失が認められる場合があります。また、過失割合は受け取れる損害賠償金に直接影響するため、提示された内容が適切かどうかを確認することが重要です。

この記事では、過失割合が9対1となる代表的な事故パターンや、10対0へ見直せる可能性があるケース、さらに過失割合9対1の場合の損害賠償金の計算方法について、弁護士が分かりやすく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

過失割合「9対1」とは?事故の状況と基本知識

過失割合が9対1になる基本的な意味と責任の重さ

交通事故における過失割合9対1とは、事故の発生について相手方に9割、自分に1割の過失があると評価されたことを意味します。過失割合は、当事者の「どちらが悪いか」を感覚的に示すものではなく、事故発生に対する法的な過失の割合を数値化したものです。

この割合は、受け取れる損害賠償金や相手方へ支払う損害賠償金を計算する際の基準になります。例えば、自分の損害額が1,000万円で過失割合が9対1であれば、自分の1割の過失が考慮されるため、原則として受け取れる損害賠償金は900万円となります。このように、被害者にも一定の過失がある場合に、その割合に応じて賠償額を減額する制度を過失相殺といいます。

もっとも、過失割合は保険会社が自由に決めるものではありません。交通事故実務では、過去の裁判例の蓄積を踏まえて整理された基本過失割合を出発点とし、事故当時の状況に応じて修正を加えながら決定されます。そのため、同じ事故類型であっても、個別事情によって最終的な過失割合が変わることがあります。

なぜ10対0(無過失)にならないのか

過失割合が10対0となるのは、被害者側に事故の発生について法的に評価できる過失が全く認められない場合に限られます。そのため、相手方に明らかな交通違反があったとしても、それだけで直ちに10対0になるわけではありません。

その理由は、交通事故実務では、事故類型ごとに基本となる過失割合が設定されているためです。例えば、優先道路を直進していた車と一時停止規制のある道路から進入した車との事故では、優先道路側が被害者であっても、基本過失割合として9対1が採用される事故類型があります。これは、優先道路を走行している車にも、交差点では周囲の安全を確認しながら走行すべき注意義務があると考えられているためです。

もっとも、基本過失割合はあくまで出発点にすぎません。事故当時の道路状況や見通し、双方の走行状況などの個別事情によっては、基本割合が修正されることがあります。また、被害者側に事故を回避する余地がなく、注意義務違反も認められない事故では、10対0となる場合もあります。

したがって、保険会社から9対1と提示されたからといって、その割合が当然に正しいとは限りません。まずは事故類型ごとの基本過失割合を確認し、その上で個別事情による修正の余地があるかを検討することが重要です。

過失割合がゼロになるのは限られたケースにとどまる、ということを踏まえておくのがよいでしょう。

過失割合が9対1になる代表的な事故パターン3選

交通事故の過失割合は、事故類型ごとに蓄積された裁判例をもとに整理された基本過失割合を出発点として判断されます。そのため、相手方に重大な交通違反がある事故であっても、事故の状況によっては被害者側にも1割程度の過失が認められることがあります。

交通事故実務では、「別冊判例タイムズ38」に整理された事故類型が、保険会社の示談交渉や裁判実務において広く参照されています。ここでは、過失割合9対1となる代表的な事故パターンを紹介します。

パターン①:【車同士の事故】優先道路と非優先道路の交差点事故

優先道路を直進していた車と、非優先道路から交差点へ進入してきた車が衝突した事故では、基本過失割合が優先道路側1割・非優先道路側9割とされています。

非優先道路を走行する車には、優先道路を走行する車の進行を妨げないように交差点へ進入することが求められます。そのため、このような事故では非優先道路側の責任が重く評価されるのが一般的です。

もっとも、優先道路を走行している車であっても、交差点では左右から車が進入してくる可能性を踏まえて走行することが求められます。そのため、交通事故実務では、優先道路側にも1割の過失があることを前提として基本過失割合が定められています。

(引用:別冊判例タイムズ38)

パターン②:【バイク・自転車と車の事故】左折車と直進自転車の事故

同じ方向へ進行していた自動車が左折し、道路の左側を直進していた自転車と衝突した事故では、基本過失割合が自転車1割・自動車9割とされています。

左折する車は、左後方から直進してくる自転車がいないかを確認した上で左折しなければなりません。そのため、自転車を巻き込む形で事故が発生した場合は、自動車側の責任が重く評価されます。

一方、自転車にも、左折しようとしている車の動きに注意しながら走行することが求められます。そのため、この事故類型では、自転車側にも1割の過失があることを前提として基本過失割合が定められています。

(引用:別冊判例タイムズ38)

パターン③:【歩行者と車の事故】道路の側端以外を通行していた歩行者との事故

歩道がない道路で、道路の端ではなく車道寄りを歩いていた歩行者と車が衝突した事故では、基本過失割合が歩行者1割・車9割とされています。

歩道がない道路では、歩行者はできるだけ道路の端を通行することが求められています。そのため、道路の端から離れた場所を歩いていた場合には、歩行者側にも一定の過失が認められます。

もっとも、車を運転する人には、歩行者を見つけた場合には速度を落としたり進路を変えたりして事故を避けることが求められます。そのため、歩行者が道路の端以外を歩いていた場合でも、車側の責任が大きく評価され、基本過失割合は9対1とされています。

(引用:別冊判例タイムズ38)

ここで紹介した3つの事故類型は、いずれも基本過失割合が9対1となる代表例です。しかし、基本過失割合はあくまで出発点にすぎません。実際には、事故当時の道路状況や見通し、双方の走行状況などを踏まえて最終的な過失割合が決まります。そのため、自分の事故がどの事故類型に当てはまるのかを確認した上で、個別事情によって過失割合が修正される可能性がないかを検討することが重要です。

過失割合9対1での損害賠償金・保険金の計算方法

過失割合が9対1の場合、相手方の責任が大きい事故であっても、自分にも1割の過失が認められる以上、その割合に応じて損害賠償額は減額されます。ここでは、過失相殺の基本的な仕組みと、双方に損害が発生した場合の具体的な計算方法を解説します。

自分の過失1割が相殺される「過失相殺」の仕組み

交通事故の損害賠償額は、一般的に次の流れで計算されます。

  • 事故によって生じた損害額を算定する
  • 双方の過失割合を決める
  • 過失割合に応じて損害賠償額を調整する(過失相殺)
  • 保険会社がその計算結果を基に賠償金や保険金を支払う

このうち、被害者にも過失がある場合に損害賠償額を調整する仕組みを過失相殺といいます。

例えば、治療費、慰謝料、休業損害などを合計した損害額が300万円で、被害者の過失割合が1割であれば、相手方に請求できる金額は原則として270万円です。残り30万円は、自分の過失に対応する部分として自己負担になります。

過失相殺は慰謝料だけではなく、治療費、休業損害、逸失利益、車両修理費など、事故によって生じた損害全体を対象として行われます。そのため、損害額が大きい事故では、過失割合がわずか1割違うだけでも、最終的な賠償額に数十万円から数百万円の差が生じることもあります。

また、人身事故では自賠責保険から保険金が支払われる場合があります。被害者の過失が1割程度であれば、自賠責保険では原則として過失による減額は行われません。しかし、任意保険会社との示談では過失割合を前提として損害賠償額が計算されるため、最終的な賠償額には過失相殺が反映されます。

保険会社から提示された金額も、このような計算過程を経て算出されています。そのため、提示額に納得できない場合は、損害額の算定や過失割合が適切かどうかを確認することが重要です。

【シミュレーション】お互いに損害が出た場合の具体的な清算例

過失割合9対1の事故では、被害者だけでなく相手方にも損害が発生しているケースがあります。この場合は、それぞれが相手に請求できる金額を計算した上で、最終的な支払額が決まります。

例えば、次のようなケースを考えてみましょう。

  • 被害者(過失1割)の損害額:300万円
  • 相手方(過失9割)の損害額:100万円
  • 過失割合:相手方9割・被害者1割

まず、被害者は300万円の損害について、相手方の過失割合である9割に相当する270万円を請求できます。

一方、相手方も100万円の損害について、被害者の過失割合である1割に相当する10万円を請求できます。

その結果、双方が請求できる金額を反映すると、被害者が最終的に受け取る金額は260万円(270万円-10万円)となります。

このように、過失割合9対1だからといって、単純に「損害額の9割だけ受け取る」というわけではありません。双方に損害が発生している場合は、それぞれの請求額を計算した上で最終的な支払額が決まります。

また、過失割合が8対2になれば受け取れる金額はさらに減少し、反対に10対0と認められれば、自分に過失相殺は適用されません。過失割合がわずか1割変わるだけでも賠償額が大きく変動するため、過失割合の判断は示談交渉において非常に重要なポイントといえます。

過失割合9対1に納得いかず10対0へ覆すためのポイント

保険会社から過失割合9対1を提示されても、その割合が確定したわけではありません。保険会社の提示は、過去の裁判例を基にした事故類型に、個別の事情を加味して算定した交渉上の見解です。

裁判所も、過失割合を機械的に決めるのではなく、過去の裁判例を参考にしながら、事故ごとの具体的な事情を考慮して認定します。したがって、基本となる事故類型が誤っている場合や、過失割合を変更する事情が見落とされている場合には、9対1から10対0へ修正できる可能性があります。

ただし、「自分は悪くないと思う」「相手が謝っていた」という主張だけでは、過失割合を覆すことは困難です。事故状況を具体的に整理し、それを裏付ける客観的な証拠を提示する必要があります。

ポイント①:過失割合を修正する「修正要素」がないか確認する

過失割合を見直す際は、まず、保険会社がどの事故類型を前提として9対1を提示したのかを確認します。その上で、基準となる過失割合を変更する修正要素がないかを検討します。

修正要素とは、事故当事者の具体的な運転状況や道路状況などを踏まえ、基本となる過失割合を加算または減算する事情です。代表的なものとして、次のような事情があります。

  • 相手方が速度違反をしていた
  • 相手方が赤信号や一時停止規制を無視した
  • 相手方が合図を出さず、急な右左折や進路変更をした
  • 相手方が著しい前方不注意や脇見運転をしていた
  • 相手方が酒気帯び運転や無免許運転をしていた
  • 夜間や見通しの悪い場所など、事故発生時の道路状況に特殊性があった

例えば、自分が直進中に相手方の車が急に進路変更して衝突した事故では、保険会社から「直進車にも周囲を確認する義務がある」として1割の過失を提示される場合があります。しかし、相手方が方向指示器を出さず、避ける時間がない距離で突然進路を変えたのであれば、自分に事故を回避できる可能性があったのかを改めて検討する必要があります。

もっとも、相手方に交通違反があったからといって、当然に10対0になるわけではありません。重要なのは、その違反が事故の発生にどの程度影響したか、自分に予見や回避の余地があったかという点です。

また、修正要素を検討する前提として、事故類型そのものが正しいかも確認しなければなりません。交差点の形状、信号の有無、優先道路の指定、衝突した位置、双方の進行方向などが異なれば、適用すべき基本過失割合も変わる可能性があります。

保険会社に対しては、単に「9対1には納得できない」と伝えるのではなく、次の内容を確認することが重要です。

  • どの事故類型を基準としているのか
  • 基本過失割合を何対何としているのか
  • どの修正要素を考慮したのか
  • 自分に1割の過失があると判断した具体的な理由は何か

提示の根拠を明らかにすることで、争うべき点が事故類型なのか、修正要素なのか、それとも事実認定なのかを整理できます。

ポイント②:警察の「実況見分調書」や客観的証拠を確保する

過失割合を9対1から10対0へ覆すには、事故状況を裏付ける客観的証拠が重要です。当事者双方の説明が食い違う場合、保険会社や裁判所は、証拠と整合する供述を重視して事故状況を判断します。

特に重要となるのが、ドライブレコーダーの映像です。事故直前の速度、信号の色、相手方の進路変更、方向指示器の有無、自分がブレーキをかけた時期などを確認できれば、事故を回避できなかったことを具体的に示せます。

事故後は、次の証拠を早めに確保しましょう。

  • 自分や相手方のドライブレコーダー映像
  • 周辺店舗、住宅、駐車場などの防犯カメラ映像
  • 事故現場、車両の損傷箇所、タイヤ痕などの写真
  • 事故を目撃した第三者の氏名と連絡先
  • 信号の周期、道路標識、車線や道路幅を確認できる資料
  • カーナビ、車載システム、スマートフォンなどに残る走行記録

映像データは、一定期間が経過すると上書きされたり削除されたりするおそれがあります。防犯カメラについても、保存期間が数日から数週間に限られている場合があるため、事故後できるだけ早く管理者へ保存を依頼する必要があります。

人身事故について警察が捜査した場合には、事故現場の状況や当事者の説明などを記録した実況見分調書が作成されることがあります。

実況見分調書には、道路の形状、車両の位置、衝突地点、見通し、当事者が危険を認識した地点などが記載されることがあります。その内容は、過失割合を判断する上で有力な資料になり得ます。

ただし、実況見分調書は、交通事故証明書のように警察へ申請すれば直ちに交付される書類ではありません。刑事事件の処分状況や記録の保管先などに応じて、検察庁での閲覧・謄写、裁判手続における送付嘱託など、取得方法を検討する必要があります。

また、物損事故として処理された場合には、実況見分調書が作成されていないこともあります。その場合は、ドライブレコーダーや現場写真、防犯カメラなど、ほかの資料によって事故状況を立証しなければなりません。

客観的証拠を集めた後は、「その証拠から何が分かるのか」まで整理することが大切です。映像や写真を提出するだけでなく、相手方の動き、自分との距離、回避に使えた時間などを具体的に指摘することで、10対0を主張する根拠が明確になります。

ポイント③:弁護士に依頼して相手方保険会社と再交渉する

相手方保険会社が9対1の提示を変えない場合は、交通事故に詳しい弁護士へ相談する方法があります。

過失割合の争いでは、事故状況に近い裁判例を選び、基本過失割合と修正要素を正確に当てはめなければなりません。同じ「交差点での事故」でも、信号の有無、優先道路の指定、進入方向、衝突地点などによって、基準となる事故類型は異なります。

弁護士へ依頼した場合は、主に次の対応を任せられます。

  • 保険会社が採用した事故類型と計算根拠の確認
  • ドライブレコーダーや現場資料の分析
  • 実況見分調書などの刑事記録の取得方法の検討
  • 過去の裁判例を踏まえた修正要素の整理
  • 相手方保険会社に対する反論書面の作成と再交渉
  • 交渉がまとまらない場合の調停や訴訟への対応

弁護士が交渉する場合も、証拠がない事故状況を前提に10対0を主張できるわけではありません。しかし、保険会社の提示した類型が事故の実態と異なる場合や、重要な修正要素が考慮されていない場合には、その問題点を法的・客観的に指摘できます。

また、過失割合が1割変われば、治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益、車両修理費など、過失相殺の対象となる金額も変わります。損害額が大きい事故では、弁護士費用を考慮しても、過失割合を争う経済的な意味が大きい場合があります。

自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、一定の限度額まで弁護士費用を保険で賄えることがあります。自分が加入している自動車保険だけでなく、同居する家族の保険などに付帯している特約を利用できる場合もあるため、契約内容を確認しましょう。

もっとも、証拠を検討した結果、1割の過失を否定することが難しいケースもあります。重要なのは、感覚的に10対0を求めることではなく、事故類型、修正要素、客観的証拠の三つを踏まえて、9対1の提示が妥当かを検証することです。

まとめ

過失割合9対1は、交通事故で比較的多く見られる割合ですが、保険会社から提示された時点で確定するものではありません。事故類型の選定や修正要素の有無によっては、過失割合が見直される可能性があります。

9対1に納得できない場合は、まず保険会社がどの事故類型を前提に判断したのかを確認し、修正要素が適切に反映されているかを検討しましょう。また、ドライブレコーダーや防犯カメラ映像、現場写真などの客観的証拠を早期に確保することが重要です。

過失割合が1割変わるだけでも、受け取れる損害賠償金や保険金は大きく変わることがあります。保険会社の説明に疑問がある場合や、証拠の評価・裁判例の当てはめに不安がある場合は、交通事故に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。適切な事故類型と修正要素を踏まえて検討することで、より妥当な過失割合となる可能性があります。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所