【後遺障害9級】具体的な認定対象や補償金額の計算方法を徹底解説

交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。

自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害9級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

後遺障害9級の認定基準

9級の認定基準一覧

1号両眼の視力が0.6以下になつたもの
2号一眼の視力が0.06以下になつたもの
3号両眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの
4号両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
5号鼻を欠損し,その機能に著しい障害を残すもの
6号咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
7号両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
8号一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり,他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの
9号一耳の聴力を全く失つたもの
10神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
11胸腹部臓器の機能に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
12号一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失つたもの
13号一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの
14号一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの
15一足の足指の全部の用を廃したもの
16号外貌に相当程度の醜状を残すもの
17号生殖器に著しい障害を残すもの

【1号】両眼の視力が0.6以下になつたもの

後遺障害等級の対象とする視力は,矯正視力を指します。そのため,眼鏡やコンタクトレンズなどを着用した状態の視力を基準に判断されます。

両眼の矯正視力が0.6以下になった場合,認定対象となります。

【2号】一眼の視力が0.06以下になつたもの

同じく矯正視力を基準に判断されます。
一眼の矯正視力が0.06以下になった場合,認定対象となります。

【3号】両眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの

「半盲症」とは

「半盲症」とは
視野の右半分又は左半分が欠損し,見えなくなってしまう症状をいいます。以下のような種類があります。
同側半盲:両眼の同じ側で半盲が生じる場合
異名半盲:両眼のそれぞれ反対側で半盲が生じる場合

また,視野の上半分または下半分が欠損する場合もあり,「水平半盲」といいます。

「視野狭窄」とは

「視野狭窄」とは
視野が狭くなる症状をいいます。以下のような種類があります。
同心性狭窄:中心部分ははっきり見えるが,周辺部分が見えない
不規則狭窄:視野の一部分が規則性のない形で狭くなる

「視野変状」とは

「視野変状」とは
半盲症や視野狭窄のほか,視野に異常が生じることをいいます。具体的には以下の内容があります。
暗転:視野の中に暗くて見えない部分が生じるもの
視野欠損:視野の一部が見えなくなる状態

【4号】両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは
まぶたを閉じた場合に角膜(眼球の色がある部分を覆う膜)を完全に覆えない程度のもの

まぶたが欠損した結果,両目について閉じたときに角膜が完全に覆われない状態となった場合,9級4号の認定対象になります。

【5号】鼻を欠損し,その機能に著しい障害を残すもの

鼻を欠損し」たとは,以下の場合を指します。

鼻を欠損し」たとは
鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損をしたこと

鼻は,上部に鼻骨と呼ばれる骨であり,鼻骨の下に軟骨部があります。軟骨部は,一般的に鼻と呼ぶ三角錐の形に隆起した部位を指すものと理解して差し支えないでしょう。
したがって,鼻の三角錐形の部分が全部又は大部分欠損した場合に,欠損障害に該当し得ることになります。

著しい機能障害とは

鼻呼吸困難,または嗅覚脱失をいいます。

嗅覚の障害については,「嗅覚脱失」と「嗅覚減退」が挙げられますが,これらは「T&Tオルファクトメータ」(嗅覚測定用の基準臭)による検査で認知域値(においを判別・表現できる最低濃度)を測定し,判定されます。具体的な基準は以下の通りです。

嗅覚脱失」認知域値5.6以上
嗅覚減退」認知域値2.6以上5.5以下

鼻呼吸困難,または嗅覚脱失をいいます。

嗅覚の障害については,「嗅覚脱失」と「嗅覚減退」が挙げられますが,これらは「T&Tオルファクトメータ」(嗅覚測定用の基準臭)による検査で認知域値(においを判別・表現できる最低濃度)を測定し,判定されます。具体的な基準は以下の通りです。

嗅覚脱失」認知域値5.6以上
嗅覚減退」認知域値2.6以上5.5以下

このうち,著しい機能障害に位置付けられるのは「嗅覚脱失」となります。

【6号】咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの

そしゃく機能言語機能両方に障害を残す場合が該当します。

そしゃく機能の障害については,以下の点を基準に総合的に判断します。

上下咬合咬合(こうごう かみ合わせの意)のズレなど
排列状態歯並びのズレや不足など
下顎の開閉運動歯をかみしめることができる程度など

これらの判断に当たっては,以下のような点を考慮します。

そしゃく機能の判断要素
画像所見(他覚的所見)があること
・他覚的所見と対応するそしゃく状況があること

そしゃく状況に関しては,「そしゃく状況報告書」を踏まえた判断が一般的です。そしゃく状況報告書とは,被害者やその家族が,食べられる食材の内容や程度を記載するものです。

そしゃく状況報告表

「そしゃく機能に障害を残すもの」
=以下のいずれかの場合
①固形食物の中にそしゃくができないものがあること(※)
②そしゃくが十分にできないものがあり,そのことが医学的に確認できる場合(※※)

(※)ごはん,煮魚,ハム等はそしゃくできるが,たくあん,らっきょう,ピーナッツ等の一定の固さの食物中にそしゃくできないものがあるなど
(※※)不正咬合,顎関節の障害,開口障害など,そしゃくできないものがあることの原因が医学的に確認できる場合

言語機能の障害は,語音(特に子音)の発音にどの程度の制限が生じたかを基準に判断されます。

子音は,以下の4種類に分けることができます。

子音の4種類
口唇音(ま行音,ぱ行音,ば行音,わ行音,ふ)
歯舌音(な行音,た行音,だ行音,ら行音,さ行音,しゅ,し,ざ行音,じゅ)
口蓋音(か行音,が行音,や行音,ひ,にゅ,ぎゅ,ん)
喉頭音(は行音)

これら4種類の子音それぞれについて,発音不能なものがあるか,何種類あるか,といった点を踏まえ,言語機能の障害の程度を判断します。

「言語の機能に障害を残すもの」
=4種の語音のうち,1種の発音不能のもの

【7号】両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの

具体的な認定基準は以下の通りです。

①両耳の平均純音聴力レベルが60dB以上のもの
②両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり,かつ,最高明瞭度が70%以下のもの

【一耳の聴力ともう一耳の聴力の関係】

一耳の聴力ともう一耳の聴力の関係

【両耳聴力と最高明瞭度の関係】

両耳聴力と最高明瞭度の関係

【8号】一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり,他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの

具体的な認定基準は以下の通りです。

1耳の平均純音聴力レベルが80dB以上(=耳に接しなければ大声を解することができない程度)

かつ

他耳の平均純音聴力レベルが50dB以上(一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度)

【9号】一耳の聴力を全く失つたもの

一耳の聴力を全く失つた」とは,片耳の平均純音聴力レベルが90dB以上の状態であることをいいます。
片耳の聴力がこの状態にまで低下した場合,9級9号の認定対象になります。

【10号】神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

通常の労務に服することはできるが,社会通念上,就労可能な職種が相当程度に制約されるものを指します。

神経系統の機能や精神への障害の代表例としては,脳の器質的損傷に伴う高次脳機能障害,脳挫傷や脊髄損傷などによる身体性機能障害,脳の器質的損傷を伴わない非器質性精神障害などが挙げられます。
具体的な認定基準は,傷害の具体的な内容によって個別に定められています。

【1.高次脳機能障害】

脳機能の4能力のいずれか1つが相当程度失われていることを要します。

高次脳機能障害の4能力

①意思疎通能力
→職場などで他人と適切にコミュニケーションできるか

②問題解決能力
→作業課題の指示や要求水準を正しく理解し,適切に判断して円滑に業務遂行できるか

③作業負荷に対する持続力・持久力
→一般的な就労時間に耐えられるか

④社会行動能力
→職場で他人と円滑な共同作業ができるか,社会的行動ができるか

【2.身体性機能障害】

軽度の単麻痺が認められるもの
(単麻痺:片手又は片足のみの麻痺)

【3.非器質性精神障害】

非器質性精神障害の精神症状としては,以下のようなものが挙げられます。

精神症状

①抑うつ状態
②不安の状態
③意欲低下の状態
④慢性化した幻覚・妄想性の状態
⑤記憶又は知的能力の障害

これらの精神症状については,以下の「a」又は「b」のいずれかに該当するときに認定対象となります。

a.就労している者又は就労の意欲のある者であって,以下の判断項目のうち②~⑧のいずれか1つの能力が失われているもの又は判断項目の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断されるもの

判断項目
①身辺日常生活
②仕事・生活に積極性・関心を持つこと
③通勤・勤務時間の遵守
④普通に作業を持続すること
⑤他人との意思疎通
⑥対人関係・協調性
⑦身辺の安全保持,危機の回避
⑧困難・失敗への対応

b.就労意欲の低下又は欠落により就労していない者であって,身辺日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの

【4.外傷性てんかん】

数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等(※)以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの
※転倒する発作:①意識障害の有無を問わず転倒する発作,又は②意識障害を呈し状況にそぐわない行為を示す発作

【5.頭痛】

通常の労務に服することはできるが,激しい頭痛により,時には労働に従事することができなくなる場合があるため,就労可能な職種が相当程度に制約されるもの

【6.失調・めまい・平衡機能障害】

通常の労務に服することはできるが,めまいの自覚症状が強く,かつ,眼振その他平衡機能検査に明らかな異常所見が認められ,就労可能な職種が相当程度に制約されるもの

【7.疼痛性感覚異常(RSD・カウザルギー)】

通常の労務に服することはできるが,疼痛により時には労働に従事することができなくなるため,就労可能な職種が相当程度に制約されるもの

【11号】胸腹部臓器の機能に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

「胸腹部臓器の機能障害」と呼ばれるものです。胸腹部の臓器に障害が残った結果,労務自体はできるもののかなりの制限が生じる場合に,9級11号の認定対象となります。

具体的な認定基準は,臓器ごとに定められています。

1.呼吸器

動脈酸素分圧60Torr~70Torrで,動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲内(37Torr~43Torrの間)の場合

2.循環器

a.心機能の低下による運動耐容能の低下が中程度であるもの

「運動耐容能」とは
運動の負荷に耐えることのできる能力をいい,どの程度の運動強度に耐えられるかによって区別をします。
運動・作業強度の指標には「METs」(メッツ)という単位を用い,この値が大きいほど運動強度が大きいものとなります。

「運動耐容能の低下が中程度であるもの」とは(9級)
=おおむね6METs(メッツ)を超える強度の身体活動が制限されるもの
(例)
平地を健康な人と同じ速度で歩くのは差し支えないものの、平地を急いで歩く、平地を健康な人と同じ程度で階段を上るという身体活動が制限されるもの

b.ペースメーカーを植え込んだもの

c.人工弁に置換する手術を行った場合で,継続的に抗凝血薬療法を行うもの

3.食道の障害

食道の狭さくによる通過障害を残すもの

以下のいずれにも該当する場合を指します。

食道の狭さくによる通過障害を残すもの」とは
1.通過障害の自覚症状があること
2.消化管造影検査により,食道の狭さくによる造影剤のうっ滞が認められること

4.胃の障害

消化吸収障害及びダンピング症候群が認められるもの

消化吸収障害及び胃切除術後逆流性食道炎が認められるもの

「消化吸収障害」とは

以下のいずれかに該当するもの
1.胃の全部を亡失したこと
2.噴門部または幽門部を含む胃の一部を亡失し、低体重等(※)が認められること
(※)①BMI20以下又は②事故前からBMI20以下の場合は体重が10%以上減少

「ダンピング症候群」とは

以下のいずれにも該当するもの
1.胃の全部または幽門部を含む胃の一部を亡失した
2.早期ダンピング症候群に起因する症状(※)または晩期ダンピング症候群に起因する症状(※※)が認められること
(※)食後30分以内に出現するめまい,起立不能等
(※※)食後2時間後から3時間後に出現する全身脱力感,めまい等

「胃切除術後逆流性食道炎」とは

以下のいずれにも該当するもの
1.胃の全部又は噴門部を含む胃の一部を亡失したこと
2.胃切除術後逆流性食道炎に起因する自覚症状(胸焼け,胸痛,嚥下困難等)があること
3.内視鏡検査により食道にの胃切除術後逆流性食道炎に起因する所見(びらん,潰瘍等)が認められること

5.小腸の障害

a.小腸を大量に切除し,残存する空腸および回腸の長さが100センチメートル以下となったもの

b.小腸皮膚瘻を残すもののうち,瘻孔から漏出する小腸内容がおおむね1日100ミリリットル以上であるもの
(パウチなどによる維持管理が困難であるものを除く)

6.大腸の障害

a.大腸皮膚瘻を残すもののうち,瘻孔から漏出する大腸内容がおおむね1日100ミリリットル以上であるもの
(パウチなどによる維持管理が困難であるものを除く)

b.便秘を残し,用手摘便を要すると認められるもの

便秘とは

=次のいずれにも該当するもの
1.排便反射を支配する神経の損傷がMRIやCTなどにより確認できること
2.排便回数が週2回以下の頻度であって,恒常的に硬便であると認められること

c.便失禁を残し,常時おむつの装着が必要であるもの
(完全便失禁を残す場合を除く)

7.肝臓の障害

肝硬変
(ウイルスの持続感染が認められ,かつ,AST・ALTが持続的に低値であるものに限る)

8.すい臓の障害

外分泌機能の障害内分泌機能の障害両方が認められるもの

外分泌機能:膵液(消化液)を腸に送り出す機能
外分泌機能の障害」とは

次のいずれにも該当するもの
1.上腹部痛,脂肪便,頻回の下痢などの外分泌機能の低下による症状が認められること
2.BT-PABA(PFD)試験で異常低値(70%未満)を示すこと
3.ふん便中キモトリプシン活性で異常低値(24U/g未満)を示すこと
4.アミラーゼまたはエラスターゼの異常低値を認めるもの

内分泌機能:ホルモンを血液中に送り出す機能
内分泌機能の障害」とは

次のいずれにも該当するもの
1.異なる日に行った経口糖負荷試験で境界型または糖尿病型であることが2回以上確認されること
2.空腹時血漿中のC-ペプチド(CPR)が0.5ng/ml以下(インスリン異常低値)であること
3.Ⅱ型糖尿病に該当しないこと

9.腹部臓器周辺のヘルニア

常時ヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの

立位をしたときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの

腹壁瘢痕ヘルニア,腹壁ヘルニア,鼠径ヘルニア又は内ヘルニアを残す場合に認定対象となります。もっとも,手術を行うことが通常であり,通常は多くは手術によりヘルニア内容の脱出は認めなくなることから,手術を試みたものの完治できない場合などが対象となります。

10.腎臓の障害

a.一側の腎臓を失い,GFR値が50ml/分を超え70ml/分以下のもの
b.腎臓を失っておらず,GFR値が30ml/分を超え50ml/分以下のもの

11.尿管,膀胱及び尿道の障害

a.尿路変向術を行ったもの
→尿禁制型尿路変向術(禁制型尿リザボアおよび外尿道口形成術を除く)を行ったもの

b.排尿障害を残すもの
→膀胱の機能障害により残尿が100ミリリットル以上であるもの

c.畜尿障害を残すもの
→切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のため,常時パッド等を装着しなければならないが、パッドの交換までは要しないもの

【12号】一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失つたもの

「手指を失ったもの」とは,以下の場合を指します。

1.手指を中手骨又は基節骨で切断したもの
2.親指については指節間関節、それ以外の指については近位指節間関節において、基節骨と中節骨が離断したもの

(「障害認定必携」より引用)

【13号】一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの

「手指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.中手指節関節又は近位指節間関節(親指については指節間関節)の可動域が1/2以下に制限されるもの
3.親指について、橈側外転又は掌側外転のいずれかの可動域が1/2以下に制限されるもの
4.手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚完全に脱失したもの

親指を含む2本の指」又は「親指以外の3本の指」について用廃となった場合,9級13号の認定対象となります。

【14号】一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの

「足指を失ったもの」とは,足指を中足指節関節から失ったことを指します。つまり,足指をすべて失った場合を指すことになります。

(「障害認定必携」より引用)

足の「親指を含む2本の指」について,付け根から先のすべてを失った場合,等級認定の対象となります。

【15号】一足の足指の全部の用を廃したもの

「足指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.親指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.親指以外の足指について、中節骨又は基節骨で切断したもの
3.親指以外の足指について、遠位指節間関節又は近位指節間関節で離断したもの
4.親指の中足指節間関節又は指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの
5.親指以外の足指の中足指節間関節又は近位指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの

【16号】外貌に相当程度の醜状を残すもの

醜状障害と呼ばれるものです。
醜状障害は,人の目につく人体の露出面に,目立つ傷跡が残った場合の後遺障害をいいます。醜状の具体的な内容としては,瘢痕や線状痕,組織の陥没,色素沈着による変色などが挙げられます。

9級16号は外貌の醜状障害に関するものですが,外貌とは,頭部・顔面部・頸部の各部位を指します。それぞれの部位について,認定基準は以下のとおり定められています。

9級16号「外貌に相当程度の醜状を残すもの」

部位基準
顔面部5cm以上の線状痕で、人目につく程度のもの

なお,瘢痕の大きさや線状痕の長さを確認する際には,以下の点に注意を要します。

①人目につくことが必要
→眉や髪で隠れる部分は醜状として扱われません。また,アゴの下で正面から見えない部分も対象外となります。これらの部分を除いた長さや面積を計測します。

②2つ以上の傷跡がある場合の判断方法
→複数の傷跡は,それらが一体となっている場合,一体となっている面積や長さを合算した数値で等級が判断されます

③事故時に生じたものでない醜状の取り扱い
→治療中に生じた手術痕や,やけど等の治療後に生じた色素沈着なども,醜状障害の対象に含まれます。

【17号】生殖器に著しい障害を残すもの

具体的な認定基準は以下の通りです。

【男性】
 陰茎の大部分を欠損したもの
 勃起障害を残すもの
 射精障害を残すもの
【女性】
 膣口狭さくを残すもの
 両側の卵巣に閉塞・癒着を残すもの(※)
 頸管に閉塞を残すもの(※)
 子宮を失ったもの(※)

(※)画像所見により認められるものに限る

陰茎の大部分を欠損したもの」とは

陰茎を膣に挿入することができないと認められるもの

勃起障害を残すもの」とは

以下のいずれかに該当するもの
1.夜間睡眠時に十分な勃起が認められないことがリジスキャンによる夜間陰茎勃起検査により証明されること
2.支配神経の損傷など,勃起障害の原因となりうる所見が,神経系検査か血管系検査のいずれかにより認められること

射精障害を残すもの」とは

次のいずれかに該当するもの
1.尿道または射精管が断裂していること
2.両側の下腹神経の断裂により当該神経の機能が失われていること
3.膀胱頚部の機能が失われていること

膣口狭さくを残すもの」とは

陰茎を膣に挿入することができないと認められるもの

後遺障害9級の慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害9級の場合,自賠責保険からは249万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は690万円となります。

後遺障害9級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害9級の場合は,労働能力喪失率が35%となります。

計算例
年収500万円,40歳,9級認定

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×0.35×18.3270(27年ライプニッツ)
32,072,250円

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

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【後遺障害10級】具体的な症状から慰謝料,逸失利益の金額まで

交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。

自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害10級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

後遺障害10級の認定基準

10級の認定基準一覧

1号一眼の視力が0.1以下になつたもの
2号正面を見た場合に複視の症状を残すもの
3号咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
4号十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
5号両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの
6号一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの
7号一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの
8号一下肢を三センチメートル以上短縮したもの
9号一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの
10一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
11号一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの

【1号】「一眼の視力が0.1以下になつたもの」

後遺障害等級の対象とする視力は,矯正視力を指します。そのため,眼鏡やコンタクトレンズなどを着用した状態の視力を基準に判断されます。

【2号】「正面を見た場合に複視の症状を残すもの」

複視」は,1つの物体が2つに見えることをいいます。主に眼の周りにある筋肉の一部が麻痺して片方の眼球の動きが悪くなることで,物が上下左右にずれて二重に見える状態を指します。

「複視の症状を残すもの」とは,以下の全てを満たす場合を指します。

1.本人が複視のあることを自覚していること
2.眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
3.ヘススクリーンテストにより患側の像が健側に比して5度以上離れた位置にあること

【3号】「咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの」

そしゃく機能言語機能いずれか一方に障害を残す場合が該当します。

そしゃく機能の障害については,以下の点を基準に総合的に判断します。

上下咬合咬合(こうごう かみ合わせの意)のズレなど
排列状態歯並びのズレや不足など
下顎の開閉運動歯をかみしめることができる程度など

これらの判断に当たっては,以下のような点を考慮します。

そしゃく機能の判断要素
画像所見(他覚的所見)があること
・他覚的所見と対応するそしゃく状況があること

そしゃく状況に関しては,「そしゃく状況報告書」を踏まえた判断が一般的です。そしゃく状況報告書とは,被害者やその家族が,食べられる食材の内容や程度を記載するものです。

そしゃく状況報告表

「そしゃく機能に障害を残すもの」
=以下のいずれかの場合
①固形食物の中にそしゃくができないものがあること(※)
②そしゃくが十分にできないものがあり,そのことが医学的に確認できる場合(※※)

(※)ごはん,煮魚,ハム等はそしゃくできるが,たくあん,らっきょう,ピーナッツ等の一定の固さの食物中にそしゃくできないものがあるなど
(※※)不正咬合,顎関節の障害,開口障害など,そしゃくできないものがあることの原因が医学的に確認できる場合

言語機能の障害は,語音(特に子音)の発音にどの程度の制限が生じたかを基準に判断されます。

子音は,以下の4種類に分けることができます。

子音の4種類
口唇音(ま行音,ぱ行音,ば行音,わ行音,ふ)
歯舌音(な行音,た行音,だ行音,ら行音,さ行音,しゅ,し,ざ行音,じゅ)
口蓋音(か行音,が行音,や行音,ひ,にゅ,ぎゅ,ん)
喉頭音(は行音)

これら4種類の子音それぞれについて,発音不能なものがあるか,何種類あるか,といった点を踏まえ,言語機能の障害の程度を判断します。

「言語の機能に障害を残すもの」
=4種の語音のうち,1種の発音不能のもの

【4号】「十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」

歯牙障害と呼ばれるものです。歯牙障害は,歯科補綴を加えた歯の数によって等級が認定されます。

歯牙障害の認定基準

等級基準
10級4号14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
11級4号10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
12級3号7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
13級4号5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
14級2号3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

「歯科補綴を加えたもの」とは
=現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補綴

「著しく欠損した」とは
歯冠部(歯肉より露出している部分)の体積の4分の3以上を欠損したもの

「補綴」とは
歯が喪失したり欠損したりしたところを,クラウン(歯全体を覆う被せ物)や入れ歯などの人工物で補うこと

【留意事項】
①認定対象になる歯の条件
→認定対象となる歯は,永久歯を指します。乳歯や含まれず,いわゆる親知らずも含まれません。ただし,乳歯が欠損したことで永久歯の萌出が見込めない場合は含まれます。

②喪失した歯の数より補綴した義歯の数が多い場合
→喪失した歯牙が大きい場合や歯間が広かった場合など,喪失した歯の数よりも多くの補綴を要した場合,等級の認定は喪失した歯の数によって判断されます。

(例)4本を喪失したが,5本の補綴をした場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

③ブリッジなどで失った歯以外を切除した場合
→交通事故で失った歯の補綴に際して,ブリッジを設ける目的などで他の歯を切除した場合,歯冠部の4分の3以上切除していれば,歯科補綴を加えた本数に含みます。

(例)交通事故で2本喪失したところ,両側2本の歯にブリッジを施した場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

なお,歯牙障害については,歯科用の後遺障害診断書を用いて主治医の記載を依頼します。

後遺障害診断書(歯科用)

【5号】「両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの」

聴力障害は,「純音聴力レベル」の平均値及び「明瞭度」の最高値を基準に判断されます。

「純音聴力レベル」とは
音波の基本的なもの(=純音)に対する聴こえ方の程度。音が聴こえるかどうか

「明瞭度」とは
言語の音声(語音)に対する聴こえ方の程度。言葉を聞き取れるかどうか

そして,1メートル以上の距離で普通の話し声を聞き取れないと評価される場合に10級5号の認定対象となります。具体的な基準は以下の通りです。

①両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のもの
②両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のもの

一耳の聴力ともう一耳の聴力の関係
両耳聴力と最高明瞭度の関係

【6号】「一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの」

片耳が接するほど近くでなければ大声でも聞き取れない程度に至った場合を指します。

具体的には,片耳の平均純音聴力レベルが80dB以上90dB未満の場合に10級6号の認定対象になります。

【7号】「一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの」

手指の用廃に関する等級です。

「手指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.中手指節関節又は近位指節間関節(親指については指節間関節)の可動域が1/2以下に制限されるもの
3.親指について、橈側外転又は掌側外転のいずれかの可動域が1/2以下に制限されるもの
4.手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚完全に脱失したもの

(「障害認定必携」より引用)

「親指」又は「親指以外の2本の指」について用廃となった場合に,等級認定の対象となります。

【8号】「一下肢を三センチメートル以上短縮したもの」

下肢の短縮は,上前腸骨棘と下腿内果下端の間の長さを健側の下肢と比較して等級認定を行います。

下肢の短縮

【9号】「一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの」

「足指を失ったもの」とは,足指を中足指節関節から失ったことを指します。つまり,足指をすべて失った場合を指すことになります。

(「障害認定必携」より引用)

足の「親指」又は「親指以外の4本の指」について,付け根から先のすべてを失った場合,等級認定の対象となります。

【10号】「一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
2.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2分の1以下に制限されていないもの

関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較します。
上肢の三大関節の主要運動は,以下の通りです。

関節主要運動参考可動域角度
肩関節①屈曲(前方拳上)180度
肩関節②外転(側方拳上)180度
肘関節屈曲・伸展(※)145度・5度(合計150度)
手関節屈曲(掌屈)・伸展(背屈)(※)90度・70度(合計160度)
※肘関節と手関節は,「屈曲+伸展」の合計値を比較

なお,左右いずれも可動域制限が生じている場合,参考可動域との比較を行います。

肩関節の運動

肘関節の運動

関節の運動には,主要運動のほかに参考運動があります。
可動域制限を判断する場合に参考運動を用いるのは,主要運動の可動域が基準をわずかに(=機能障害は5度,著しい機能障害は10度)上回る場合とされます。

関節参考運動参考可動域角度
肩関節①伸展(後方拳上)50度
肩関節②外旋・内旋60度・80度(合計140度)
手関節①橈屈25度
手関節②尺屈55度
橈屈と尺屈

【11号】「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
2.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されていないもの

関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較します。
下肢の三大関節の主要運動は,以下の通りです。

関節主要運動参考可動域角度
股関節①屈曲・伸展125度・15度(合計140度)
股関節②外転・内転145度・20度(合計65度)
ひざ関節屈曲・伸展130度・0度(合計130度)
足関節屈曲(底屈)・伸展(背屈)45度・20度(合計65度)
「屈曲+伸展」「外転+内転」の合計値を比較

なお,左右いずれも可動域制限が生じている場合,参考可動域との比較を行います。

股関節の主要運動

足関節の主要運動

関節の運動には,主要運動のほかに参考運動があります。
可動域制限を判断する場合に参考運動を用いるのは,主要運動の可動域が基準をわずかに(=機能障害は5度,著しい機能障害は10度)上回る場合とされます。

関節参考運動参考可動域角度
股関節外旋・内旋45度・45度(合計90度)

後遺障害10級の慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害10級の場合,自賠責保険からは190万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は550万円となります。

後遺障害10級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害10級の場合は,労働能力喪失率が27%となります。

計算例
年収500万円,40歳,10級認定

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×0.27×18.3270(27年ライプニッツ)
24,741,450円

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

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【後遺障害11級】認定対象となる症状の一覧から補償される金額まで

交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。

自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害11級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

後遺障害11級の認定基準

11級の認定基準一覧

1号両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
2号両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3号一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
4号十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
5号両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの
6号一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
7号脊柱に変形を残すもの
8号一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失つたもの
9号一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの
10胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの

【1号】「両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの」

著しい調節機能障害」とは以下の場合を指します。

著しい調節機能障害
眼の調節力が損傷を受けなかった方の他眼に比して2分の1以下に減じたもの

(注意事項)
①両眼とも損傷を受けた場合,損傷していない眼の調節機能に異常がある場合は,年齢別の調整力と比較する
②以下のいずれかに当たる場合は障害認定されない
・損傷していない眼の調整力が1.5D以下であるとき
・55歳以上であるとき

5歳ごとの年齢別の調整力

年齢(歳)調整力(ジオプトリー(D))
159.7
209.0
257.6
306.3
355.3
404.4
453.1
502.2
551.5
601.35

「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。

「眼球に著しい運動障害を残すもの」
=眼球の注視野が2分の1以下に減じたもの

注視野とは
頭部を固定した状態で眼球を動かして直視できる範囲
平均値は単眼視で各方面50度,両眼視で各方面45度とされています。

【2号】「両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」

【具体的基準】

「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。
①まぶたを開けた時にまぶたが完全に瞳孔(黒目)を覆ってしまうもの
②まぶたを閉じたときに角膜(眼球の色がある部分を覆う膜)を完全に覆えないもの

交通事故の影響でまぶたに麻痺が残るなどした結果,目を開いたときに瞳孔が覆われてしまったり,目を閉じたときに角膜が完全に覆われない状態となった場合,11級2号の認定対象になります。

【3号】「一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの」

「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは
まぶたを閉じた場合に角膜(眼球の色がある部分を覆う膜)を完全に覆えない程度のもの

まぶたが欠損した結果,目を閉じたときに角膜が完全に覆われない状態となった場合,11級3号の認定対象になります。

【4号】「十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」

歯牙障害と呼ばれるものです。歯牙障害は,歯科補綴を加えた歯の数によって等級が認定されます。

歯牙障害の認定基準

等級基準
10級4号14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
11級4号10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
12級3号7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
13級4号5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
14級2号3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

「歯科補綴を加えたもの」とは
=現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補綴

「著しく欠損した」とは
歯冠部(歯肉より露出している部分)の体積の4分の3以上を欠損したもの

「補綴」とは
歯が喪失したり欠損したりしたところを,クラウン(歯全体を覆う被せ物)や入れ歯などの人工物で補うこと

【留意事項】
①認定対象になる歯の条件
→認定対象となる歯は,永久歯を指します。乳歯や含まれず,いわゆる親知らずも含まれません。ただし,乳歯が欠損したことで永久歯の萌出が見込めない場合は含まれます。

②喪失した歯の数より補綴した義歯の数が多い場合
→喪失した歯牙が大きい場合や歯間が広かった場合など,喪失した歯の数よりも多くの補綴を要した場合,等級の認定は喪失した歯の数によって判断されます。

(例)4本を喪失したが,5本の補綴をした場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

③ブリッジなどで失った歯以外を切除した場合
→交通事故で失った歯の補綴に際して,ブリッジを設ける目的などで他の歯を切除した場合,歯冠部の4分の3以上切除していれば,歯科補綴を加えた本数に含みます。

(例)交通事故で2本喪失したところ,両側2本の歯にブリッジを施した場合,4本の歯科補綴として14級2号を認定する

なお,歯牙障害については,歯科用の後遺障害診断書を用いて主治医の記載を依頼します。

後遺障害診断書(歯科用)

【5号】「両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの」

交通事故による聴力の低下のため,両耳について1メートル以上離れた距離では小声での話し声を聞き取ることが困難になった状態を指します。
具体的には,検査の結果,両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上の状態をいいます。

純音聴力レベル」とは,どこまで小さな音を聴き取れるか,という聴こえ方の程度を言い,このレベルが大きいほど,大きい音しか聞こえないことを意味します。
両耳の平均純音聴力レベルと後遺障害等級の関係をまとめると,以下のようになります。

一耳の聴力ともう一耳の聴力の関係

【6号】「一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの」

片耳の聴力が低下した結果,40センチメートル以上の距離では普通の話声を聞き取れないとみなされる状態に至った場合を指します。具体的な基準は以下の通りです。

具体的な認定基準

1.片耳の平均純音聴力レベルが70dB以上80dB未満の場合
2.片耳の平均純音聴力レベルが50dB以上かつ最高明瞭度が50%以下の場合

【7号】「脊柱に変形を残すもの」

圧迫骨折や破裂骨折に伴って脊柱部の変形が生じる後遺障害です。客観的に脊柱の変形が確認できる場合,11級7号の認定がなされます。
具体的基準は以下の通りです。

脊柱に変形を残すものとは

1.圧迫骨折が生じ、そのことがエックス線写真等で確認できる場合
2.脊椎固定術が行われた場合
3.3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けた場合

【8号】「一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失つたもの」

手指の欠損障害と呼ばれるものです。「手指を失った」と評価される場合,欠損障害が認定されます。

「手指を失ったもの」とは,以下の場合を指します。

1.手指を中手骨又は基節骨で切断したもの
2.親指については指節間関節、それ以外の指については近位指節間関節において、基節骨と中節骨が離断したもの

(「障害認定必携」より引用)

【9号】「一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの」

足指の機能障害と呼ばれるものです。「足指の用を廃したもの」と評価される場合に,機能障害が認定されます。

「足指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.親指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.親指以外の足指について、中節骨又は基節骨で切断したもの
3.親指以外の足指について、遠位指節間関節又は近位指節間関節で離断したもの
4.親指の中足指節間関節又は指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの
5.親指以外の足指の中足指節間関節又は近位指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの

(「障害認定必携」より引用)

【10号】「胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」

「胸腹部臓器の機能障害」と呼ばれるものです。胸腹部の臓器に障害が残った結果,労務自体はできるものの明らかな支障が残った場合に,11級10号の認定対象となります。

具体的な認定基準は,臓器ごとに定められています。

1.呼吸器

a.動脈酸素分圧70Torrを超え,動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37Torr~43Torr)にない場合
b.スパイロメトリーの結果が%1秒量55以下又は%肺活量60以下で,軽度の呼吸困難がある場合
c.スパイロメトリーの結果が%1秒量55~70又は%肺活量60~80で,高度、中等度または軽度の呼吸困難が認められる場合

呼吸困難の程度に関する判断基準

高度呼吸困難のため、連続しておおむね100m以上歩けないもの
中等度呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同じように歩けないが、自分のペースでなら1km程度の歩行ができるもの
軽度呼吸困難のため、健常者と同じようには階段の昇降ができないもの

2.循環器

a.心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度であるもの

「運動耐容能の低下が軽度であるもの」とは(11級)
=おおむね8METs(メッツ)を超える強度の身体活動が制限されるもの
(例)
平地で急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動に支障がないものの、それ以上に激しいか、急激な身体活動が制限されるもの

b.人工弁に置換する手術を行ったが,継続的な抗凝血薬療法の必要はない場合

c.偽腔開存型の解離を残すもの

大動脈に亀裂が入った結果,血管壁の内膜が裂けてしまった状態大動脈解離と言います。
大動脈解離が起きると,血管が裂けたことで新しい血管の通り道(偽腔)が生まれますが,偽腔の血流が止まっていない状態を「偽腔開存型」と言います。

3.胃の障害

・消化吸収障害、ダンピング症候群、胃切除術後逆流性食道炎のいずれかが認められるもの

「消化吸収障害」とは

以下のいずれかに該当するもの
1.胃の全部を亡失したこと
2.噴門部または幽門部を含む胃の一部を亡失し、低体重等(※)が認められること
(※)①BMI20以下又は②事故前からBMI20以下の場合は体重が10%以上減少

「ダンピング症候群」とは

以下のいずれにも該当するもの
1.胃の全部または幽門部を含む胃の一部を亡失した
2.早期ダンピング症候群に起因する症状(※)または晩期ダンピング症候群に起因する症状(※※)が認められること
(※)食後30分以内に出現するめまい,起立不能等
(※※)食後2時間後から3時間後に出現する全身脱力感,めまい等

「胃切除術後逆流性食道炎」とは

以下のいずれにも該当するもの
1.胃の全部又は噴門部を含む胃の一部を亡失したこと
2.胃切除術後逆流性食道炎に起因する自覚症状(胸焼け,胸痛,嚥下困難等)があること
3.内視鏡検査により食道にの胃切除術後逆流性食道炎に起因する所見(びらん,潰瘍等)が認められること

4.小腸の障害

a.残存する空腸および回腸の長さが100センチメートルを超え300センチメートル未満であり,消化吸収障害(低体重等)が認められるもの

b.「小腸皮膚瘻を残すもの」のうち,瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸内容が漏出する程度のもの

c.小腸に狭さくを残すもの

「小腸に狭さくを残すもの」とは

次のいずれにも該当するもの
1.1か月に1回程度,腹痛,腹部膨満感,嘔気,嘔吐などの症状が認められること
2.単純エックス線像においてケルクリングひだ像が認められること

5.大腸の障害

a.大腸を大量に切除したもの
結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除したものを指します。

b.大腸に狭さくを残すもの

「大腸に狭さくを残すもの」とは

=次のいずれにも該当するもの
1.1か月に1回程度,腹痛,腹部膨満感などの症状が認められること
2.単純エックス線像において貯留した大量のガスにより結腸膨起像が相当区間認められること

c.「便秘を残すもの」のうち,用手摘便を要しないもの

便秘とは

=次のいずれにも該当するもの
1.排便反射を支配する神経の損傷がMRIやCTなどにより確認できること
2.排便回数が週2回以下の頻度であって,恒常的に硬便であると認められること

d.「便失禁を残すもの」のうち,常時おむつの装着が必要ではないもの

6.肝臓の障害

慢性肝炎
(ウイルスの持続感染が認められ,かつ,AST・ALTが持続的に低値であるものに限る)

7.すい臓の障害

外分泌機能の障害と内分泌機能の障害のいずれかが認められるもの

外分泌機能:膵液(消化液)を腸に送り出す機能
外分泌機能の障害」とは

次のいずれにも該当するもの
1.上腹部痛,脂肪便,頻回の下痢などの外分泌機能の低下による症状が認められること
2.BT-PABA(PFD)試験で異常低値(70%未満)を示すこと
3.ふん便中キモトリプシン活性で異常低値(24U/g未満)を示すこと
4.アミラーゼまたはエラスターゼの異常低値を認めるもの

内分泌機能:ホルモンを血液中に送り出す機能
内分泌機能の障害」とは

次のいずれにも該当するもの
1.異なる日に行った経口糖負荷試験で境界型または糖尿病型であることが2回以上確認されること
2.空腹時血漿中のC-ペプチド(CPR)が0.5ng/ml以下(インスリン異常低値)であること
3.Ⅱ型糖尿病に該当しないこと

8.腹部臓器周辺のヘルニア

重激な業務に従事した場合など腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの

腹壁瘢痕ヘルニア,腹壁ヘルニア,鼠径ヘルニア又は内ヘルニアを残す場合に認定対象となります。もっとも,手術を行うことが通常であり,通常は多くは手術によりヘルニア内容の脱出は認めなくなることから,手術を試みたものの完治できない場合などが対象となります。

9.腎臓の障害

a.一側の腎臓を失い,GFR値が70ml/分を超え90ml/分以下のもの
b.腎臓を失っておらず,GFR値が50ml/分を超え70ml/分以下のもの

GFR値
→腎臓が血液をろ過して尿を作った量の値

10.尿管,膀胱及び尿道の障害

a.尿路変向術を行ったもの
→外尿道口形成術を行ったもの
→尿道カテーテルを留置したもの

b.排尿障害を残すもの
→膀胱の機能障害により残尿が50ミリリットル以上100ミリリットル未満であるもの
→尿道狭さくのため糸状ブジーを必要とするもの

c.畜尿障害を残すもの
→切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のため,常時パッド等の装着は要しないが、下着が少しぬれるもの
→頻尿を残すもの

頻尿」とは

次のいずれにも該当するもの
1.器質的病変による膀胱容量の減少または膀胱・尿道の支配神経の損傷が認められること
2.日中8回以上の排尿が認められること
3.多飲などの他の原因が認められないこと

11.生殖機能の障害

狭骨盤または比較的狭骨盤が認められるもの
→産科的真結合線が10.5cm未満または入口部横径が11.5cm未満のものが該当します。

後遺障害11級の慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害11級の場合,自賠責保険からは136万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は420万円となります。

後遺障害11級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害11級の場合は,労働能力喪失率が20%となります。

計算例
年収500万円,40歳,11級認定

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×0.20×18.3270(27年ライプニッツ)
18,327,000円

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

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【交通事故解決事例】高次脳機能障害9級の認定と賠償額1500万円を獲得。高齢主婦の損害における丁寧な交渉が奏功したケース

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が歩行中,信号及び横断歩道のある十字路交差点を,青信号に従って横断歩道上を通る形で直進しようとしたところ,同一方向を走行中の四輪車が左折を試み,巻き込み事故が発生しました。被害者は,左の頭部を強く地面に打ち付け,頭蓋骨骨折と脳内の出血が見られる状況でした。

その後,入通院治療が継続されましたが,被害者には「てんかん」の症状が確認され,てんかん発作を防ぐための内服薬を要する状況となりました。

弁護士には,治療継続中にご家族からご相談がありました。今後の適切な対応について相談をされたいというご希望でした。

法的問題点

①過失割合

本件の被害者の過失割合はゼロであることが想定されます(【12】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そもそも,横断歩道は「歩道」であるため,歩行者が最優先されるべき場所です。そのため,横断歩道を通行中の歩行者が交通事故に遭った場合,歩行者には原則として過失が生じないと考えるべきことになります。

本件でも,他に被害者の過失の根拠となる事情がない限り,被害者の過失はゼロと判断すべき状況でした。

ポイント
横断歩道上の歩行者は過失ゼロ

②後遺障害等級

被害者には,頭部の強い受傷の結果,「てんかん」の症状がみられる状況でした。てんかんとは,脳の中枢神経が損傷したことにより,神経細胞に異常が生じ,発作が発生する障害です。発作の頻度や程度に応じた後遺障害等級の定めがあります。

てんかんに関する後遺障害等級認定基準

等級基準具体的な要件
5級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの1ヶ月に1回以上の発作があり、かつその発作が転倒する発作等(※)であるもの
7級神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの
9級神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの
12級局部に頑固な神経症状を残すもの発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波(きょくは)を認めるもの
※転倒する発作:①意識障害の有無を問わず転倒する発作,又は②意識障害を呈し状況にそぐわない行為を示す発作

てんかんの場合,てんかんの頻度,てんかん発作の内容(転倒する発作か),てんかん発作を服薬継続により抑制できるか,という点から等級認定基準が設けられ,類型化されています。
被害者の場合,てんかんの発作は内服薬によって抑えることができる状況ではあったため,等級認定基準に照らすと9級の認定可能性が考えられる状況でした。

ポイント
被害者には服薬で抑制可能なてんかん発作が生じていた
てんかんについて後遺障害9級が見込まれる状況

③休業損害

被害者は,高齢の専業主婦で,配偶者と二人暮らしをしている立場でした。そのため,主婦としての家事労働に休業が生じており,休業損害の請求が考えられる状況でした。

この点,休業損害は以下の計算式で計算されます。

休業損害

=「日額」×「休業日数」

休業損害の日額は,主婦の場合,平均賃金を用いる形を取る運用が広くなされています。平均賃金には,全年齢のものと年齢別のものがありますが,高齢者の場合には年齢別の平均賃金を用いることが通常です。高齢者の年齢別平均は,全年齢の平均よりも低額になりますが,高齢者の家事能力の限界を踏まえ,このような取り扱いとされることが一般的と言えます。

一方,休業日数をどのように計算するかは,非常に難しい問題です。会社員のように出勤・欠勤が分かりやすい立場とは異なり,一部だけ家事を行ったり,逆に一部だけ家事ができなかったりと,割合的に休業していることが一般的です。しかも,実際に休業したかどうかを根拠づけるものは客観的に存在せず,自己申告によるほかないことも少なくありません。

そのため,被害者の休業損害に関しては,その休業日数をどのようにすべきかが大きな問題でした。

ポイント
主婦の休業損害は,休業日数の特定が難しい問題になりやすい

④後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,主婦業(家事労働)に関する後遺障害逸失利益の発生が見込まれます。

後遺障害等級が認定される場合,損害賠償額が最も大きくなりやすい項目は「後遺障害逸失利益」です。後遺障害逸失利益とは,後遺障害に伴う労働能力の低下によって収入が減少する分を損害として計算したものをいいます。後遺障害等級が認定される状況では,労働能力がそれ以前より制限されるため,得られたはずの収入が得られなくなったと評価され,逸失利益が発生するということです。

この点,後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

被害者の場合,夫と二人暮らしの専業主婦であったため,事故前にはどの程度の家事をしていたのか,後遺障害によってそれがどのようにできなくなったのか,という点を具体的に主張立証することが望ましいと思われる状況でした。
家事労働には様々な内容や家庭内での分担があるため,一口に主婦と言ってもそれぞれの主婦が行う家事の中身は様々です。特に,子育てをしている状況にないため,被害者が担っていた家事の内容は個別に明らかにすることが適切です。

ポイント
主婦の後遺障害逸失利益は,主婦業の具体的な内容を踏まえての検討が適切

弁護士の活動

①等級認定の獲得

被害者については,てんかんに関する後遺障害等級の獲得を目指すべき状況であったため,てんかん発作の具体的内容や状況を資料化することとしました。

具体的には,被害者の方及びご家族の協力を得て,発作の時期や発作が生じたときの具体的な症状を記録化しました。そして,これを踏まえて主治医の見解を仰ぎ,後遺障害診断書上にてんかんの症状を記載していただく方法を取りました。

被害者のてんかんは,内服薬があれば抑えられるものの,定期的に意思に反した挙動を示すものであることがわかりました。弁護士においては,そのようなてんかん発作の内容を詳細に示すとともに,発作が事故後に特有の出来事であることを明らかにすることを目指しました。

その結果,てんかんについては後遺障害9級の獲得に至りました。

ポイント
てんかん発作の時期や具体的内容を記録化

②休業損害の主張内容

休業損害については,被害者の症状が事故から症状固定にかけて徐々に軽減していくことを踏まえ,休業の程度を段階的に低減させる計算方法を採用しました。
具体的なイメージは,以下の通りです。

本件における休業日数の計算方法

時期休業の程度
入院中100%
その後100日80%
101~200日60%
201~300日40%
301日~症状固定35%

下限を35%としているのは,被害者に後遺障害9級が認定されているためです。後遺障害9級の労働能力喪失率は35%であり,症状固定時以降は労働能力が35%失われているとみなすべき,という点を踏まえると,35%を下回る休業を想定する必要はないと考えられました。

症状固定のイメージ

症状固定

ポイント
休業の程度が割合的に減少することを反映して計算
もっとも,休業の程度は35%を下回らない

③後遺障害逸失利益

被害者のような高齢の主婦の場合,後遺障害逸失利益の一般的な計算式は以下の通りです。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

「年齢別平均賃金」×「労働能力喪失率」×「(平均余命の2分の1)に対応するライプニッツ係数」

被害者についても,事故前に十分な家事労働の実績があり,後遺障害によってそれが制限されていれば,同様の計算をして差し支えないと考えられます。

そのため,弁護士においては,事故前に被害者がどのような家事を担っていたのかを確認しました。すると,被害者の場合,配偶者が糖尿病を患っている影響で,夫婦間の家事はほとんどすべて被害者が行っていた,ということが分かりました。そして,事故後は家事があまりできなくなってしまったため,子が定期的に両親をサポートする方法で家事を負担するようになっていたことが分かりました。
これは,まさに家事労働の後遺障害逸失利益が支払われるべき状況であるということができるでしょう。

これを踏まえ,弁護士からは逸失利益が認められるべき事情を丁寧に主張立証する交渉を実施しました。
交渉の結果,後遺障害逸失利益については,「年齢別平均賃金」×「労働能力喪失率」×「(平均余命の2分の1)に対応するライプニッツ係数」との計算式で算出された金額満額が支払われることになりました

ポイント
事故前は被害者の家事分担がほぼすべてであった
事故後は,子に手伝ってもらう必要が生じた

活動の結果

以上の活動を尽くした結果,被害者にはてんかんによる後遺障害9級が認定され,1500万円の金銭賠償がなされるに至りました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,高次脳機能障害に関する等級認定を受けられるかどうかが最初のハードルでした。
この点,頭部に重大な怪我を負った事実は明らかであったため,高次脳機能障害の等級認定基準に照らして必要な事情を確認し,資料化することに注力した点が結果につながった可能性が高いでしょう。
高次脳機能障害で等級認定を得る場合,ご本人やご家族のご協力,ご負担がやむを得ず生じやすいところ,被害者の方やご家族からは非常に円滑なご協力をいただくことができ,それが結果に大きく影響したことと考えられます。

金額交渉に際しては,夫婦二人暮らしの専業主婦であったことから,家事労働の具体的な内容や分担といった個別の事情を明らかにしながら,休業損害や逸失利益の交渉を実施しました。被害者の方は,家事のほとんどを負担していたという事情が見受けられたため,被害者の家事分担を丁寧に示すことで,スムーズな交渉での解決に至ったものと思われます。
この点でも,被害者の方やご家族のご対応に支えられての弁護活動でした。

交通事故の解決は,弁護士とご依頼者様の共同作業が不可欠になりますが,弁護士との相性によっては,ご依頼者様の負担(又は負担感)が大きくなることも否定できません。弁護士選びに際しては,共同作業の円滑さを考慮に入れるのも一案かと考えます。

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【交通事故解決事例】顔面の醜状障害で後遺障害9級の認定獲得。加害者無保険ながらも約750万円の回収を実現した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が単車に乗車し,信号のない十字路交差点を直進走行しようとしたところ,左方から直進してきた四輪車と衝突する事故が発生しました。事故の発生した十字路では,相手の四輪車側に一時停止規制が設けられていました。

事故の結果,被害者は顔面を数十針も縫うケガを負い,顔面部には10センチを超える線状痕が残りました。その他,一部骨折が見られたものの,幸い後遺障害が残存するには至りませんでした。

弁護士には,治療が一段落した後,後遺障害の手続を前にした段階でご相談がありました。その後の手続や解決方法についての相談をご希望されました。

法的問題点

①後遺障害等級

被害者には,顔面に10センチを超える線状痕が残っていましたが,これは「醜状障害」という後遺障害に該当することが見込まれます。

外貌(頭部・顔面部・頸部)の醜状障害については,以下の等級が設けられています。

外貌の醜状障害

等級基準
7級12号外貌に著しい醜状を残すもの
9級16号外貌に相当程度の醜状を残すもの
12級14号外貌に醜状を残すもの

この中では,7級が最も上位の後遺障害等級であり,醜状の程度も最も著しい場合となります。
そして,具体的な認定基準は,等級ごと及び部位ごとに定められており,その内容は以下の通りです。

7級12号「外貌に著しい醜状を残すもの」

部位基準
頭部手のひら大(指の部分を含まず)以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
顔面部鶏卵大面以上の瘢痕、又は10円銅貨代以上の組織陥没
頚部手のひら大以上の瘢痕

9級16号「外貌に相当程度の醜状を残すもの」

部位基準
顔面部5cm以上の線状痕で、人目につく程度のもの

12級14号 外貌に醜状を残すもの

部位基準
頭部鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
顔面部10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
頚部鶏卵大面以上の瘢痕

したがって,顔面の線状痕であれば,9級又は12級の認定可能性があります。そして,被害者の場合は,5センチ以上の線状痕であることから9級の認定を目指すことが有力と思われる状況でした。

ポイント
顔面の線状痕は,長さにより9級又は12級の可能性
被害者の場合は9級の認定を目指すべき長さであった

②相手の自動車保険

本件の加害者は,任意保険に加入していませんでした。この点は,被害者がどのように金銭的補償を獲得するか,という点に大きな影響を及ぼします。

交通事故被害では,加害者の加入する自動車保険の担当者に対応をしてもらい,その保険会社から金銭賠償を受領する,という流れが一般的です。しかし,保険担当者による対応や保険会社による支払が受けられるのは,加害者が任意保険に加入している場合のみです。そのため,加害者が任意保険に加入していないときには,被害者と言えども受け身では金銭賠償が獲得できないため,積極的な請求手続が必要になります。

この点,最も直接的な手段は,加害者本人に請求し,加害者本人に支払ってもらうことです。加害者の代わりに支払う保険会社がない以上,加害者が自分で支払う,というのは非常に自然なところです。
しかし,加害者本人への請求は,現実に回収の困難なことが多く見られます。加害者本人が任意保険に入っていないのは,保険料の負担を避けたいという理由であることが多いところ,そのような加害者は経済的に賠償金を支払う能力がないことが少なくないのです。
本件でも,加害者は定職のない高齢者で,経済的に多額の金銭賠償を行う能力はないことが見受けられる状況でした。

そのため,相手の任意保険がないこと,相手本人への請求が容易でないことを踏まえた解決方法の検討を必要とするケースと言えます。

ポイント
加害者は任意保険に加入していない
加害者本人からの回収は現実的でない

③その他の問題点

【被害者自身の保険】

加害者への請求が奏功しない場合,被害者自身の保険を利用して損害の回復を図る手段が有力になります。

自動車保険には,自分が加害者になってしまった場合に利用できる賠償保険(対人賠償責任保険や対物賠償責任保険)のほかに,交通事故で自分が被った損害を補償してくれるものも含まれています。
被害者自身の保険で賄われるものがある場合には,加害者本人とは異なり確実な支払が期待できるため,保険の活用を検討することが有益でしょう。

本件でも,被害者の加入保険からどのような支払いを受けることができるか,確認が有力な状況でした。

【過失割合】

被害者の過失割合が主に問題になるのは,被害者が加害者側に請求する場合です。加害者への請求額から,自分の過失割合の分を差し引いて請求する必要があるためです。

もっとも,自賠責保険への請求に関しても,過失割合が問題にならないわけではありません。被害者に7割以上の過失がある場合,自賠責保険金は一定の減額となるため,自賠責保険金額にも過失割合が影響する可能性があり得ます。

過失による自賠責保険金の減額

被害者の過失後遺障害部分又は死亡分傷害部分
7割未満減額なし減額なし
7割以上8割未満2割減額2割減額
8割以上9割未満3割減額2割減額
9割以上10割未満5割減額2割減額

なお,被害者の過失が10割の場合には,自賠責保険金の請求はできません。

この点,本件の事故態様を踏まえると,基本過失割合は15%となることが見込まれる状況でした(【169】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

少なくとも,被害者の過失が7割以上となる可能性はないため,自賠責保険の手続に際して過失割合の考慮は必要ないと言えるでしょう。

ポイント
過失が7割以上だと自賠責保険金が減額される

弁護士の活動

①後遺障害等級

本件では,自賠責保険から醜状障害の後遺障害9級に対応する保険金の支払を受けることが最も重要な動きでした。そのため,弁護士を通じて後遺障害の申請手続を実施し,後遺障害9級の認定を獲得することを目指しました。

この点,後遺障害等級認定を目指す手続には,事前認定と被害者請求の二つがあります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

本件では,加害者が対人賠償保険に加入しておらず,事前認定を行う余地がないため,被害者請求を行うことが必要です。そして,被害者請求で適切な等級認定を受けるため,詳細な根拠資料の提出を行うことが望ましい状況でした。

弁護士においては,後遺障害診断書に医師から醜状の存在を記載していただくとともに,被害者の醜状を写真に収め,写真上でその長さが視認できる形を取ることとしました。また,醜状障害の場合に有力な調査機関との面談を申し入れ,面談への同席を合わせて申し出ることとしました。

その結果,被害者に関しては,面談を要することなく後遺障害9級の獲得に至りました。線状痕が5センチを大きく超えるものであったこと,写真上でその大きさが明らかであったことが,円滑な等級認定につながりました。

ポイント
対人賠償保険がないため,被害者請求を実施
適切な写真等の提出により目標の9級認定

②相手無保険時の回収方法

本件では加害者に任意保険がなく,加害者本人からの支払にも期待できないため,任意保険と加害者本人を除く請求先から金銭を回収する必要がありました。
この場合,まずは自賠責保険金の回収が適切です。自賠責保険は,まさにこのような場合に被害者の最低限の補償を目的とする保険であるとも言えます。

その他には,被害者自身が加入する保険の利用が有力です。代表的なものが人身傷害保険で,被害者の人身損害を保険約款に沿った基準で計算し,支払ってくれます。
ただ,単車の任意保険では人身傷害保険を省いたものに加入しているケースが散見されるところ,本件でも人身傷害保険の加入がありませんでした。被害者について利用できるのは,搭乗者傷害保険くらいでした。

搭乗者傷害保険とは,自動車に搭乗中に交通事故が発生し、その結果として乗車していた人が怪我をしたり死亡したりした場合に、補償金を支払う保険です。定額払いになっていることが一般的で,支払われる金額が決まっているため,早期に受領することが可能になりやすく,事故後の損害を早期に補填するための保険として活用されることが多いものです。

搭乗者傷害保険の主な内容

1.補償の対象
→契約車両に搭乗中の全ての乗車人(運転者および同乗者)
→車両の事故による怪我、死亡、後遺障害など

2.補償内容

死亡保険金
→事故によって死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

入院・通院保険金
→事故による怪我で入院や通院が必要となった場合の保険金です。日額で支払われることが一般的です。

手術保険金
→事故による怪我で手術を受けた場合の補償金です。

3.支払方法
→定額払いとされることが通常です。

4.メリット
→定額払いのため,迅速に支払われやすく,経済的負担の軽減につながります。
→同乗者も補償の対象となるため,補償の範囲が広い保険です。

搭乗者傷害保険は,迅速な支払いがなされる有益な保険ですが,一方でその金額には限りがあります。搭乗者傷害保険だけで損害のすべてをカバーするのは現実的でないため,とりあえず一定の支払を受ける,という動きに適した保険ということができます。

ポイント
自賠責保険及び搭乗者傷害保険から回収

③回収金額が十分か

本件では,自賠責保険や搭乗者傷害保険といった最低補償を内容とする保険からの回収が主でした。そのため,多くの場合は被害者の損害額を下回る回収にとどまってしまい,十分な補償とはなりづらいところです。

もっとも,本件では回収できた金額で十分との判断に至りました。具体的な理由は以下の通りです。

補償として十分な回収金額である理由

1.逸失利益が生じづらいこと
→醜状障害であり,労働能力への影響がなかった

2.被害者に一定の過失割合があること
→過失相殺を考慮すると,被害者の損害額と同水準

活動の結果

以上の弁護活動の結果,被害者には醜状障害に対する後遺障害9級が認定され,自賠責保険金を含む約750万円の支払がなされました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,加害者が任意保険未加入という点に難のあるケースでした。加害者が任意保険に加入していない場合,加害者側からの積極的な支払の動きが期待できないため,被害者側でどのような請求方法で,どのような内容の請求を試みるのかを検討する必要が生じます。
また,任意保険未加入の加害者は,往々にして被害者への支払を行う経済力に乏しいケースが多く,被害者に支払能力がないことを念頭に置くことも必要になりやすいところです。本件でも,加害者は完全に白旗を挙げており,賠償の意思も能力も持ち合わせていない状況でした。

このような場合,被害者自身の保険を含む複数の選択肢を確認,検討し,適切な請求方法を決定する必要がありますが,被害者の方が自分で十分な検討を行うことは容易でありません。
そのため,ご加入の保険会社にご相談されるか,弁護士に十分なご相談をされることが有力な手段になりやすいでしょう。

本件の被害者の方の場合,主な請求先が相手の自賠責保険となりましたが,人身傷害保険等にご加入の場合はそちらの活用も考えられたかと想像されます。適切な救済手段はケースによって異なるため,十分なご確認,ご相談をされるのが有益であると考えます。

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【交通事故解決事例】後遺障害手続の認定手続中に弁護士が介入し,適切な修正で併合9級獲得,賠償額2400万円超となった事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者は,単車に乗って走行中,十字路交差点を青信号に沿って直進しようとしたところ,対向の右折四輪車とのいわゆる右直事故に遭いました。なお,被害者の単車は相当程度の高速走行であった可能性が高いとのことでした。

この事故で,被害者は左足に複数の骨折をし,3か月近くの入院を要しました。
その後も長期間の治療を要したものの,足関節に大きな運動制限があって正座が困難であるなどの支障が残りました。また,下肢には大きな傷跡も残った状態でした。

弁護士へのご相談を実施されたのは,事故から約1年半後,後遺障害に関する申請手続中のことでした。後遺障害診断書を相手保険に提出し,いわゆる事前認定の結果を待っている中,今後の対応に関する話を聞きたい,とのご希望でした。

法的問題点

①後遺障害等級(関節可動域)

被害者の場合,足関節の可動域制限が生じているとのことでした。
この点,関節可動域制限に関する後遺障害等級には,以下の基準が設けられています。

等級基準
10級11号1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級7号1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
2.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されていないもの

「関節の機能に障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。

関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されている場合

そして,関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較して確認されます。

下肢の主要運動

関節主要運動参考可動域角度
股関節①屈曲・伸展125度・15度(合計140度)
股関節②外転・内転145度・20度(合計65度)
ひざ関節屈曲・伸展130度・0度(合計130度)
足関節屈曲(底屈)・伸展(背屈)45度・20度(合計65度)
「屈曲+伸展」「外転+内転」の合計値を比較

足関節の主要運動

被害者に関しては,左の足関節と右の足関節を比較し,後遺障害等級の認定基準を満たしているか,という点が問題になるところです。

しかしながら,被害者の後遺障害診断書上,足関節の可動域は,左右を比較しても後遺障害等級の認定基準を満たすものではありませんでした。
そのため,現状では関節可動域制限が後遺障害として認定される可能性はない状況と言わざるを得ませんでした。

ポイント
関節可動域は,3/4以下又は1/2以下の制限が必要
後遺障害診断書上の測定値が基準になる

②後遺障害等級(醜状)

被害者の下肢には,大きな傷跡が残っている状況でした。そうすると,醜状障害の認定対象になる可能性が考えられます。

この点,下肢の醜状障害については,以下の後遺障害等級認定基準が設けられています。

等級基準
12級相当下肢の露出面に手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕を残し,特に著しい醜状であると判断されるもの
14級5号下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの

手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕」とは,手のひらの3倍程度以上の大きさの瘢痕を指すとされています。

また,認定基準として用いられる「露出面」とは,以下の範囲を指します。

下肢の「露出面」
股関節から先(足の背部まで)

以上の通り,下肢の股関節から先の範囲に手のひら大以上の醜状が残るケースでは,醜状障害の等級認定が考えられます。被害者に関しても,手のひら大以上の醜状が残っているように見受けられました。

しかしながら,被害者の後遺障害診断書には,醜状に関する記載が全く見当たりませんでした。この場合,他の資料等から特に醜状の損害がうかがわれる場合を除き,醜状障害が認定の対象となることは考えにくく,醜状障害は判断の対象にすらならない可能性が見込まれる状況でした。

ポイント
下肢の醜状障害の認定可能性がある状況
しかし,後遺障害診断書に醜状が明記されていなければならない

③過失割合

本件では,被害者の過失割合が20%であることを前提に相手保険の対応が進んでいるようでした。
交通事故では,物損の解決を治療中に済ませることも多数ありますが,本件でも物損は解決済みであり,その解決時にも20:80の過失割合とされていました。

もっとも,本件は単車と四輪車の右直事故であるところ,直進単車と対向右折四輪車との右直事故は,基本過失割合が15:85とされます(【175】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そうすると,被害者の過失割合は,基本過失割合より5%だけ不利な内容となっています。そのため,20%の過失割合を前提に解決するのが適切かどうかは,具体的な検討が必要な問題でした。

ポイント
基本過失割合は15:85
弁護士介入前の解決は20:80とされている

④逸失利益

後遺障害等級が認定される場合,後遺障害逸失利益が問題となります。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

具体的な金額交渉においては,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点になる場合が多く見られます。本件でも,「労働能力喪失率」「労働能力喪失期間」のそれぞれが争点となり得る状況でした。

【労働能力喪失率】

本件で被害者に見込まれた後遺障害等級は,以下の内容でした。

被害者に見込まれる後遺障害等級

・足関節の機能障害(可動域制限)10級
・下肢の醜状障害12級
併合9級

このうち,可動域制限は労働能力に直接影響を及ぼすものですが,醜状障害は必ずしも労働能力に影響を及ぼすものではありません。醜状が残っても労働能力が変化するわけではないためです。裏を返せば,醜状障害は労働能力が下がらなくても認定される後遺障害と理解されています。
そのため,このようなケースでは,可動域制限のみが労働能力を低下させているものと評価し,10級相当の労働能力喪失率を採用することが考えられます。

労働能力喪失率

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

実際の検討に当たっては,醜状障害の影響の有無を個別に確認することが必要です。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間は,労働能力の喪失が収入減少をもたらす期間を指します。基本的には,収入を得ている間(=労働ができる間)が労働能力喪失期間となります。
そして,特段の事情がない場合,症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされるのが原則です。一方,67歳までの期間とすることが不適切な事情がある場合には,個別の内容を踏まえて検討することになります。

この点,被害者はまだ若く,労働できる期間を具体的に特定することが困難な状況でした。そのため,被害者の立場としては,原則的な67歳までの期間を採用するのが有益と思われます。
一方で,一般的な給与所得者(会社員)の場合,60歳が定年となり,60歳で労働を終了する,というケースが多く見られます。これを当てはめると,60歳までの期間を対象とするのが適切そうであり,保険会社も同様の発想を取ることが少なくありませんが,被害者にとっては有益な結論ではありません

そのため,被害者の労働能力喪失期間をどのように主張すべきか,検討を要する問題でした。

ポイント
労働能力喪失率に醜状障害を含められるか
労働能力喪失期間は60歳までか,67歳までか

弁護士の活動

①後遺障害等級(関節可動域)

本件では,まず適切な後遺障害等級の認定が得られるよう修正を行う必要がありました。具体的には,提出された後遺障害診断書を基準に等級認定されるわけにはいかない状況ということができます。
この点,後遺障害診断書に形式的な不備があったことを踏まえ,弁護士から相手保険に,後遺障害診断書の不備を訂正する旨申し入れ,診断書の回収を図りました。不備があれば,結局は訂正しなければならないため,訂正自体は適切な動きでもあります。

その結果,後遺障害診断書が認定手続に回される前に回収することに成功し,今度は適切な可動域の測定値が記載されるよう弁護士が確認しながら,改めて後遺障害診断書の作成を医療機関に依頼しました。

再測定の際の測定値は,患側の可動域が健側の2分の1以下であり,後遺障害10級の基準を満たしていることが確認できました。

ポイント
後遺障害診断書を訂正のため早期に回収
再測定の上,等級認定基準を満たすことを確認

②後遺障害等級(醜状)

醜状障害についても,後遺障害診断書の訂正が必要な状態でした。具体的には,そもそも記載されていない,という状態を改める必要がありました。

基本的に,後遺障害診断書で指摘されていない障害が等級認定されることはありません。後遺障害等級認定に該当するかどうかは,まず後遺障害診断書の内容から検討項目をピックアップすることになるためです。

そのため,後遺障害診断書の回収後,関節可動域の記載とあわせて,下肢の醜状についても大きさの測定と診断書への記載を依頼しました。
訂正の結果,被害者の下肢に手のひら大を大幅に超える大きさの瘢痕が残されている事実と矛盾しない内容の後遺障害診断書となりました。

また,醜状障害の等級認定は,判断する調査事務所での目視を依頼することで,より具体的な調査をしてもらうことが可能です。申請手続に際しては,対面での面談を希望するとともに,面談には弁護士が同席することを予定する運びとしました。

ポイント
醜状の存在を後遺障害診断書に明記
面談の実施を申し入れ,弁護士の同席を予定

③過失割合

本件では,基本過失割合が被害者15%とされるところ,相手保険との物損の解決では被害者20%とされていました。その理由については,被害者側の速度超過があったことや四輪車右折後の事故(=既右折)であることを考慮してのもの,ということでした。

もっとも,被害者に速度違反がある場合は,被害者の過失が+10%,既右折である場合も同じく被害者+10%と,5%を超える修正の対象となるため,過失割合としては中間的な解決を図ったものであることが分かりました。
そして,速度違反や既右折の有無については,被害者にもはっきりした記憶がないものの,修正要素が全く存在しなかったと主張できるかどうかは分からない,という不安定な状況であることも分かりました。

この場合,あくまで15%を主張して争うことも有力な手段ですが,争いが深刻化したときにより不利益な結果(25%以上の過失割合)になる危険も抱えることになります。そのため,いったんは過失割合に関する主張をするか判断を保留し,他の損害項目を含めた全体の金額次第で検討する方針を取ることとしました。

過失割合を争うかどうかということ自体を明らかにしないことで,後からどちらの選択肢を取ることもスムーズにできるという利点を優先しました。

ポイント
過失割合を争うことにはメリットデメリットともにありそう
争うかの判断を保留することに

④逸失利益

【労働能力喪失率】

本件の被害者に関しては,醜状障害が仕事に影響するという事情は特に存在しない状況でした。被害者は成人男性であって,特に顔面の醜状が影響を及ぼす職に就いていなかったことから,醜状障害を逸失利益の対象とすることは難しい可能性が高い状況と思われました。

そのため,醜状障害を除き,可動域制限の10級のみを前提とした労働能力喪失率を採用することとしました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間については,原則通り67歳までの期間を採用するべきという主張を強く行う方針としました。

そもそも,原則として67歳までの期間とするのが労働能力喪失期間の運用である以上,特段の事情がない限りは67歳までの期間で計算をするのが適切です。確かに,60歳で定年を迎える人も少なくありませんが,「60歳で定年になるかもしれない」という一般論は,67歳までの期間を採用するべきという原則に反した例外的な結論とする根拠にはなり得ないはずです。そうなれば,ほとんどすべての会社員について60歳までとするべき,という結論になりかねないためです。

そこで,弁護士からは,60歳以降の仕事を行うことが可能であるという一般論を指摘の上,端的に67歳までの期間を労働能力喪失期間とすることを求める交渉を実施しました。

ポイント
労働能力喪失率は,10級を前提とした数字に
労働能力喪失期間は67歳までとすることを求めた

活動の結果

上記の活動の結果,被害者には足関節の機能障害10級,及び下肢の醜状障害12級で,併合9級の認定がなされました。

また,労働能力喪失率は10級を前提とした27%,労働能力喪失期間は67歳までの期間を前提に逸失利益の計算をすることで合意しました。

最終的には,2,400万円を超える賠償金額を獲得するに至りました。
なお,早期に円満な解決が見込まれたため,過失割合については20%を争わないこととしました。

ポイント
後遺障害は見込み通り併合9級
過失割合は20%にて解決
労働能力喪失率は10級相当,労働能力喪失期間は67歳まで

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,後遺障害等級認定の手続中に弁護士が介入する,という点に特徴のあったケースでした。
後遺障害等級認定に対しては,不服があれば異議申立てなどの手続が取れますが,やはり最初の申請,認定が最終的な結果のベースになることは間違いありません。最初の申請時の内容と整合しない異議申立てをしても,結果が伴う可能性はあまりないため,最初の申請を適切に行うことが極めて重要です。

この点,被害者の方におかれては,後遺障害診断書の提出後,速やかに弁護士に相談を実施され,迅速な案内を受けたことが適切でした。弁護士への相談や依頼が遅ければ,適切な等級認定を得るチャンスが失われていた可能性が高いでしょう。

後遺障害等級が見込まれるケースは,弁護士への依頼でご自身の利益につながる場合が特に多いものです。等級認定が見込まれる場合や,等級認定を目指す場合には,弁護士への相談を活用されて損はないと考えます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

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【交通事故解決事例】脊柱変形障害で11級が認定されたものの,逸失利益の有無が問題となった交渉に対処し,330万円超の増額を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が自動車にて通行していたところ,対向の自動車がセンターオーバーをし,被害者の車両に衝突する事故が発生しました。加害者は,居眠り運転に陥った結果,事故を起こしたようでした。

事故の結果,被害者は腰椎の圧迫骨折となり,通院治療等の努力を尽くしたものの,腰椎部の変形が残ることとなりました。治療終了後,腰椎部の変形障害として後遺障害11級が認定されました。

弁護士には,等級認定後,相手保険から賠償額が提示された段階で,金額の合理性や増額余地の有無をご相談されました。

法的問題点

①後遺障害の労働への影響

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,「労働能力喪失率」がゼロであれば,逸失利益もゼロとなります。労働能力が失われていない以上,収入減少もないのは当然ともいえます。

本件の後遺障害は,腰椎部の変形障害でしたが,変形障害は労働能力を失わせるかどうかが必ずしも明らかではない後遺障害の一つです。変形障害は,変形した事実そのものを後遺障害とするため,身体機能が低下していることを必要としないのです。
そのため,変形障害が認定されたからと言って,直ちに後遺障害逸失利益が発生するわけではなく,労働能力の低下が具体的に生じていなければ逸失利益の請求ができない場合もあり得ます。本件でも,変形と労働能力の喪失にどのような関係があるか,明らかにすることが必要であることが見込まれました。

ポイント
変形障害は必ずしも逸失利益が生じる後遺障害ではない
労働能力の喪失との具体的な関係を指摘することが必要

②基礎収入

後遺障害逸失利益の計算には,「基礎収入」の特定が必要ですが,基礎収入は事故前年の収入を基準とするのが一般的です。事故前年と同程度の収入は事故後も得られ続けた可能性が高いとみなし,逸失利益の計算根拠にすることが通常の運用とされます。

この点,被害者は,今回の交通事故被害に遭う直前に仕事を始めており,事故当時は就業開始から間もない時期でした。そのため,事故前年の収入を基準に基礎収入を定めることが困難な状況でした。また,事故当時の仕事を始めて間もない時期であったため,事故がなければ継続的に仕事を続けていたかも明確とは言い難い状況でした。

このような場合,基礎収入をどのように計算するか,その根拠は何か,といった点が問題になりやすいところです。弁護士においては,少しでも被害者に有益な内容を目指しつつ,相手保険の了承が得られるという,バランスの取れた交渉が求められるケースでした。

ポイント
基礎収入は事故前年の収入を基準とするのが原則
被害者は事故直前に仕事を始めたため,事故前年の収入を採用できない

③労働能力喪失期間

後遺障害逸失利益の計算には,「労働能力喪失期間」の特定が必要です。労働能力喪失期間とは,労働能力の喪失が収入減少に影響を与える期間を言いますが,基本的には労働が継続できる期間を指すと理解されます。
具体的な計算においては,以下のような期間を採用することが一般的です。

一般的な労働能力喪失期間

1.基本的な期間
→症状固定から67歳までの期間

2.67歳以上の場合
平均余命の2分の1

3.67歳までの期間が短い場合
→「症状固定から67歳までの期間」と「平均余命の2分の1」のいずれか長い方

本件の被害者は,「2.67歳以上の場合」に該当するため,平均余命の2分の1を採用することが原則と思われる立場でした。

もっとも,被害者には,元々継続的な勤労が困難な心身の不調があり,その不調から立ち直った直後であった,という事情がありました。本件事故が就業開始直後の事故であったのも,そのためでした。
このような事情を踏まえると,単純に「平均余命の2分の1」という期間を採用していいのか,もっと短い期間と考えるべきではないか,という問題が生じ得ます。弁護士としては,労働能力喪失期間の具体的な主張内容を検討する必要があるケースでした。

ポイント
原則は「症状固定から67歳までの期間」又は「平均余命の2分の1」
本件では,被害者に元々心身の不調があった

弁護士の活動

①後遺障害の労働への影響

変形障害の労働に対する影響に関しては,まず弁護士にて被害者の具体的な状況を確認することとしました。そうすると,被害者が始めた介護施設の清掃業務は,一定の肉体労働が伴うため,腰椎部の変形障害が影響して長時間の継続が困難になってしまった(休憩を取らなければならなくなった)ということが分かりました。
変形障害によって被害者の仕事により多くの休憩が必要になってしまったのであれば,それは変形障害による労働能力の喪失(低下)と考えるのが適切です。

そのため,弁護士からは,被害者の具体的な業務内容や,事故前後の業務の処理方法,休憩の取り方などを具体的に指摘し,変形障害によって逸失利益が発生することを主張立証しました

ポイント
変形によって仕事を長時間続けられなくなった
休憩が多く必要になったのは,労働能力の喪失と評価すべき

②基礎収入

基礎収入については,概ね以下のいずれかの計算方法が候補として想定されました。

基礎収入の候補

1.雇用契約書の内容を踏まえた計算
2.年齢別平均賃金

この点,本件では「2.年齢別平均賃金」を採用することとしました。その理由としては,以下の点が挙げられます。

年齢別平均賃金を採用した理由

1.雇用契約書からの収入計算が容易でない
→パートタイマーであったため,具体的なシフトに大きく左右されてしまう
→仕事の開始から間もない時期だったため,勤務日数の平均も分からない

2.雇用契約書からの計算が低額になる恐れ
→計算方法によっては平均賃金を下回る恐れがあった
→平均賃金を下回る計算が不合理かどうかが判断できない

3.平均賃金であれば金額の幅が生じない
→平均賃金は該当する金額を引用するのみであり,金額が争点にならない

以上を踏まえ,被害者の基礎収入は年齢別平均賃金とする,という内容の合意を目指し交渉することとしました。

ポイント
契約書から試算するか,平均賃金を採用するか
契約書からの試算が有益になりづらく,平均賃金を採用

③労働能力喪失期間

労働能力喪失期間については,原則通り平均余命の半分の期間とするか,それよりも短い期間を採用するか,という問題を検討する必要がありました。

弁護士においては,まず現在の心身の状態を確認し,それまで就業が困難であった事情が再発する可能性があるか,調査することとしました。そうすると,被害者の就業を困難にしていた事情は既に解消されており,医師の見解としても問題なく就業継続が見込まれる状態だったということが分かりました。
そのため,事故前に就業ができずにいた状況を重視して労働能力喪失期間を短く見積もる必要はないと判断することができました。

以上を踏まえ,弁護士からは,被害者の心身の状態が就業の継続に支障のないものであったことを具体的に示し,原則通り「平均余命の2分の1」を労働能力喪失期間とすべきことを主張しました。
結果,労働能力喪失期間については「平均余命の2分の1」を採用する内容での合意となりました。

ポイント
被害者は「平均余命の2分の1」の期間の労働が可能であったことを立証

活動の結果

以上の活動の結果,従前の提示額が約370万円であったのに対し,合意した賠償額は約700万円となり,330万円を超える増額となりました。

逸失利益に関しては,基本的に弁護士の主張が全面的に受け入れられる結果となり,被害者の救済が実現されました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,仕事を開始した直後の事故における後遺障害逸失利益が問題となりました。後遺障害逸失利益は,仕事を続けていれば得られたであろう収入を対象とする損害のため,仕事の継続が見込まれることを前提としており,「事故がなければ本当に仕事を継続していたか」という疑問が生じる場合には争点が生じることも少なくありません。

被害者の場合,自身の心身の都合で長期間仕事ができておらず,やっと仕事が開始できた矢先の事故という事情がありました。被害者の中では,十分に仕事ができるまで回復した状態で仕事を開始したにもかかわらず,「本当に仕事を続けられる状態だったのか」と指摘されるのは心外だったのではないかと思います。

弁護士としては,そのような被害者の立場を可能な限り結果に反映することで,被害者の救済を図ることが最大の目標となります。そのためには,被害者の状況を具体的に把握し,具体的な交渉を行う必要があるところです。

被害者の方におかれては,できる限り詳細な,具体的な内容を含めて弁護士に相談を試み,最適な解決策を検討されることを強くお勧めします。

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【交通事故解決事例】後遺障害診断書に記載のなかった脳の障害について検査等を依頼し,高次脳機能障害9級を獲得。2,400万円超の賠償金となった事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

当時小学生であった被害者が,複数人で下校中,横断歩道のない十字路交差点の付近にて,車道を歩いて横断しようとしていましたが,そこに左方から直進してきた四輪自動車が衝突し,事故が発生しました。

被害者を含む2名が受傷しましたが,被害者の被害が最も重く,頭部に強い衝撃を受けた結果,事故後の数日間は意識のはっきりしない状態が続いていました。
その後,幸いにも意識を取り戻し,リハビリなどを通じて改善に努めましたが,1年ほどの通院を経ても脳機能への悪影響が残っている状況でした。具体的には,感情の起伏が激しく制御できない,記憶がうまくできない,簡単な算数の計算に時間がかかってしまう,といった症状が見られました。

弁護士に相談された当時,被害者は別の弁護士に依頼しており,後遺障害に関する手続を予定しているとのことでした。依頼した弁護士の案内で後遺障害診断書の作成を受けたものの,同弁護士からは後遺障害等級認定を受けることは難しいとの案内を受けていました。

被害者の親権者から,後遺障害の見込みや適切な解決方針に関して相談があり,弁護士が対応することとなりました。

法的問題点

①過失割合

本件は,過失割合に大きな争いのある事故でもありました。被害者は,信号のない十字路交差点付近を横断していたとの主張でしたが,相手保険は,交差点上の横断ではなかったことを理由に,直進道路上を被害者が横断したという事故類型であるとの主張をしているようでした。

この点,被害者の主張する事故類型では,基本過失割合が20%となります(【34】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用 以下同じ

また,被害者が「児童」に該当すること,複数人の下校中であって「集団横断」に該当することを主張していたため,「児童」による-5%の修正と「集団横断」による-5%の修正で,合計10%被害者の過失が低下する主張内容でした。そのため,修正後の過失割合は10:90となります。

一方,相手保険の主張する事故類型は,基本過失割合が30%となります(【33】図)。

また,相手保険によると,被害者の「直前横断」が原因で事故が発生したとのことであったため,「直前横断」により+10の修正,被害者「児童」につき-10%の修正がなされ,修正後の過失割合も30:70との内容でした。

以上から,被害者と相手保険の主張する過失割合には,「10:90」と「30:70」という見解の開きが見られる状況でした。

ポイント
被害者は10:90を主張
相手保険は30:70を主張

②高次脳機能障害

被害者は,事故によって頭部を受傷し,事故後の数日は意識がはっきりしない状況であったため,高次脳機能障害を理由とした後遺障害等級認定の可能性が考えられました。

この点,高次脳機能障害は,事故後に一定期間の意識障害があったかどうかが重要な判断要素の一つとなっています。具体的には,以下の基準が用いられています。

要件具体的基準
①6時間以上のこん睡状態JCS3桁又はGCS8点以下
②1週間以上の意識障害JCS1~2桁又はGCS13~14点

【GCS】(E・V・M 3つの合計値が小さいほど重篤)

【E】開眼
4自発的に眼を開けている
3呼びかけにより眼を開ける
2痛みにより眼を開ける
1眼を開けない
【V】最良言語反応
5見当識あり
4会話はできるが混乱
3発語はできるが不適当
2発声はできるが理解不可
1反応なし
【M】最良運動反応
6命令に応じる
5痛みの部位を認識する
4痛みで屈曲反応(逃避)
3痛みで屈曲反応(異常)
2痛みで伸展反応
1反応なし

被害者の場合には,事故直後のGCSが7点,1時間後にはGCS9点と確認されていることが分かりました。これは,意識障害レベルとして高次脳機能障害の認定基準を満たし得るものであり,具体的に高次脳機能障害の有無を検査等する必要があり得ると考えられます。

また,被害者には感情制御能力や記憶能力の低下など,高次脳機能障害の影響と思われる複数の支障が出ており,等級認定のためにも,その後の生活や成長のためにも,脳機能の障害を正しく判断してもらう必要があると見受けられました。

ポイント
事故後の意識障害は,高次脳機能障害の基準を満たし得る
感情制御能力や記憶能力の低下は,高次脳機能障害の影響と思われる

③現在の代理人弁護士との関係

被害者には,既に依頼をしている代理人弁護士がおり,後遺障害の申請手続を具体的に勧めようとしているところでした。そのため,こちらが依頼を受けるか,現在の弁護士に依頼し続けるかは,被害者の親権者に判断してもらうことが必要となります。

被害者にとっては,現在の弁護士から等級認定が困難と案内されている点が大きなネックになっているようでした。脳機能の障害が疑われる中で,後遺障害等級認定が困難と指摘されれば,疑問を抱くのもやむを得ないところでしょう。

この点,当方が状況を確認すると,現在の弁護士との関係では,そもそも高次脳機能障害の等級認定に向けた準備を行っていない可能性が推測されました。というのも,高次脳機能障害の等級認定を受けるためには,必要な検査結果を後遺障害診断書に記載してもらうことに加え,他にも複数の必要書類がありますが,当時は,後遺障害診断書に脳の症状の記載がない上,他の必要書類を一切準備していない状況であったのでした。

そのため,当方からは,当方へ依頼されるかどうかはともかく,高次脳機能障害について等級認定を目指すための必要な動きは取るのが適切であろうことをご案内することとしました。

弁護士の活動

①受任方法

まずは,被害者側が当方に依頼されるかどうかをしっかりと検討してもらうべきであると考えました。そのため,とりあえず脳機能に関する適切な検査を受けていただく目的で,弁護士から通院先の候補をご案内し,検査のための通院を実施していただくこととしました。

検査の結果,やはり被害者には高次脳機能障害特有の症状が見受けられ,適切に後遺障害等級認定を受けるための手段を尽くすべきであるということが判断できました。これを踏まえ,弁護士からは,当方にご依頼された場合の流れや方針を具体的にお伝えし,被害者の親権者に検討を依頼しました。

ご検討された結果,従前の代理人弁護士とは解約の上,当方にご委任される方針を固められました。

ポイント
まずは必要な検査を受けていただき,ご依頼の場合の方針を確定
後遺障害に関する方針を比較の上で弁護士選びをご検討いただいた

②過失割合

過失割合に関しては,そもそも主張している事故態様が異なるところ,その中心的な違いは交差点上(又はその直近)か,交差点上でない場所か,という点でした。
この点,事故に居合わせた他の児童の話や,事故状況に関する両当事者の説明を確認したところ,事故はほぼ交差点上で発生しており,事故発生場所に関する主張は被害者側の言い分が合理的であることが判断できました。おそらく,相手保険は,被害者の感情的な希望を踏まえ,根拠に乏しいながらも過失割合を争ってきたのであろうと推測されました。

そのため,弁護士からは,過失割合は被害者の主張通りにするべきであることを改めて主張するとともに,自社の言い分を維持するのであれば,相応の根拠を添えて主張するよう求めました。
交渉の結果,相手保険が主張を撤回するに至り,過失割合は10:90での解決となりました。

ポイント
過失割合の争いの中心は,事故が起きた場所
交差点上の事故であることの根拠を示し,相手に主張の撤回を促した

③高次脳機能障害

本件では,高次脳機能障害が後遺障害等級認定の対象となるかどうか,という点が結果を決定的に左右する問題と言えました。損害賠償額にすれば千万円単位で変わる可能性も少なくないポイントです。

そのため,弁護士からは後遺障害等級認定のための必要な試みを可能な限り尽くすご案内を実施しました。主な活動内容は,以下の通りです。

後遺障害等級認定のための活動内容

1.対面でのコミュニケーション
→被害者の状態を直に確認し,障害の内容を具体的に把握しました。

2.障害の具体的影響を確認
→障害が具体的な行動に現れたエピソードを可能な限り洗い出しました。

3.専門医への通院・検査
→検査のための通院を改めて行い,診断書の提出に必要な症状の確認を行いました。

4.医師の見解を聴取
→検査結果を確認した医師に見解を聴取し,等級認定を目指す方針を具体的にしました。

5.その他提出書類の内容を検討
→高次脳機能障害の等級認定に必要な他の書類についても,記載内容を詳細に吟味検討しました。

6.後遺障害診断書の再作成
→従前の後遺障害診断書を破棄し,高次脳機能障害の等級認定に適した後遺障害診断書の再作成を依頼しました。

以上を踏まえ,後遺障害の申請に適した書面作成を行い,弁護士にて等級認定手続を進めることとしました。

活動の結果

上記の各活動の結果,後遺障害等級としては高次脳機能障害について9級の認定が獲得できました。高次脳機能障害が等級認定の対象となった点で,被害者にとって非常に有益な認定結果となりました。

また,後遺障害9級を踏まえ,過失割合や各損害額を相手保険と交渉した結果,2,400万円を超える賠償額の獲得が実現されました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,セカンドオピニオンとして相談を受けたことが受任のきっかけとなったケースでした。
一般的に,セカンドオピニオンで直接受任まで至るケースはそれほど多くありません。セカンドオピニオンで現在の方針にお墨付きが得られれば,弁護士を変更する理由がないためです。一方,現在の弁護活動や方針に疑問がある場合,その点を漫然と見過ごしてしまえば,取り返しのつかない不利益につながる可能性もあります。

本件の場合,後遺障害診断書の作成後であったものの,その提出前に弁護士への相談を実施されたことがとても適切でした。作成された後遺障害診断書を提出してしまえば,今回と同じ後遺障害等級の認定は得られずに終わった可能性が高いでしょう。
弁護士への依頼中に他の弁護士へ相談することは,心理的に難しいことも少なくありませんが,特に問題が重大な場合には,手続が進んでしまう前に他の弁護士へ相談し,見解を仰いでみることも選択肢に入れてよいのではないでしょうか。

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【交通事故解決事例】併合11級の金額交渉を代行し,交渉開始から約1か月半で440万円の増額を獲得して解決に至った事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】


・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が単車を乗車中,直進走行していたところ,前方の四輪車が左折を試みたため,被害者は巻き込み事故に遭い,鎖骨骨折などのケガを負いました。
治療終了後,鎖骨の変形及び肩関節の可動域制限が残ったため,後遺障害併合11級が認定されました。

等級認定の後,相手保険から損害賠償額の提示を受けた段階で,金額の合理性や増額の可能性などに関する弁護士へのご相談を希望されました。

法的問題点

①過失割合

相手保険からの提示内容では,過失割合が被害者20%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,直進単車と,先行する左折四輪車の間で発生した巻き込み事故は,基本過失割合が20:80とされています。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正するべき事情がなければ,被害者の過失割合を20%とする解決が合理的となりそうです。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件で,被害者は300日(10か月)を超える治療を要していました。この期間は決して短いものではなく,骨折後の回復に時間を要したことが容易に想像されます。
しかし,保険会社から示された傷害慰謝料は32万円と非常に低額なものでした。この金額は,むち打ちで2か月程度の通院を行った場合に合意されやすい慰謝料と同水準であり,受傷内容や治療を要した期間と比較すると十分な金額とは評価し難いものと思われました。

傷害慰謝料が低額となっている大きな要因は,被害者の実通院日数が少なかったためであると見受けられました。骨折の場合,頻繁にリハビリ通院を行うのでなく,月単位で期間を空けて経過観察の通院をする形となることも少なくありませんが,その場合は実通院日数が少なくなりがちです。実通院日数が少ないケースでは,それを根拠に相手保険が低額な慰謝料の提示を行うことが一定数見られます。

ポイント
傷害慰謝料は,受傷内容や通院期間を基準に計算する
実通院日数が少ないことを理由に低額の提示となっていた

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

具体的な金額交渉においては,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点になる場合が多く見られます。本件でも,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点となることが見込まれる状況でした。

【労働能力喪失率】

被害者の後遺障害は,肩関節の可動域制限12級と鎖骨の変形障害12級で,併合11級でした。この点,可動域制限は労働能力に直接影響を及ぼすものですが,変形障害は必ずしも労働能力に影響を及ぼすものではありません。変形したから労働能力が低下するとは限らないためです。
そのため,このようなケースでは,可動域制限のみが労働能力を低下させているものと評価し,12級相当の労働能力喪失率を採用することが考えられます。

労働能力喪失率

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

もっとも,本件では12級相当の14%でなく,11級相当の20%で計算された逸失利益が提示されていました。そのため,労働能力喪失率に関しては有益な内容になっていると思われました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間は,労働能力の喪失が収入減少をもたらす期間を指します。基本的には,収入を得ている間(=労働ができる間)が労働能力喪失期間となります。
そして,特段の事情がない場合,症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされるのが原則です。一方,67歳までの期間とすることが不適切な事情がある場合には,個別の内容を踏まえて検討することになります。

この点,被害者は症状固定時53歳であったところ,相手保険の提示内容では,60歳までの7年間のみが労働能力喪失期間とされていました。一般的な給与所得者は60歳で定年を迎えることから,保険会社の提示では60歳までを労働能力喪失期間とすることが多く見られます。本件でも,特に個別の事情を考慮することなく機械的に60歳までとの計算をしていることが見受けられました。

しかし,被害者の労働能力喪失期間が本当に60歳までに限定されてよいかどうかは,被害者の労働に関する現状や見込みを踏まえて判断することが必要です。そもそも,原則としては67歳までの期間を採用するべきであって,機械的に60歳までと区切ることが当然に認められるものではありません。

そのため,労働能力喪失期間については具体的な検討や交渉の余地があるものと思われました。

ポイント
労働能力喪失率は有益な内容と思われる
労働能力喪失期間は交渉の余地がありそう

弁護士の活動

①過失割合

過失割合については,本件の事故態様における基本過失割合と整合する20%の提示であったため,弁護士の方では,過失割合の修正要素に当たる事情の有無を確認することとしました。

修正要素とは,基本過失割合をそのまま採用することが不適切な事情を指し,事故類型ごとに修正要素とされるものが定められています。左折四輪車の巻き込み事故であれば,左折車がウインカーを出していない(合図なし),左折前に徐行していない(徐行なし)といった事情が,単車側の過失を減少させる修正要素となり得ます。

もっとも,本件では特段の修正要素が確認されませんでした。そのため,過失割合については20%を了承する前提で金額交渉を実施することとしました。

ポイント
過失割合については修正要素の有無に注意
本件では修正要素がないとの結論に

②傷害慰謝料

傷害慰謝料は,特に理由を示すことなく金額提示がされていたため,相手保険の提示内容に合理的な根拠が見受けられない状況でした。そうすると,被害者側が相手保険の提案を了承する理由もないということになります。

弁護士からは,相手保険の提示金額では了承が不可能である姿勢を毅然と示すとともに,いわゆる裁判基準を念頭に置いた金額以外には合意の余地がないとのスタンスを強く示すことにしました。
また,被害者は,骨折後の治療に際して,鎖骨バンドと呼ばれる固定器具を数か月間使用し続けるなどの負担を余儀なくされ,骨の癒合がなされるか不安定な期間を過ごしたという経緯もあったため,これらの事情を踏まえた主張も行うこととしました。具体的には,実通院日数が少ないことが被害者の精神的苦痛を低下させる事情とは言えず,かえって通院治療では改善しない(=患部を固定し続けるしかない)という状況を強いられた精神的苦痛を考慮すべきとの主張を合わせて行うこととしました。

ポイント
裁判基準を念頭に置いた金額以外では合意が不可であることを毅然と主張
慰謝料の根拠として,長期間骨折部の固定を強いられたことを指摘

③逸失利益

【労働能力喪失率】

労働能力喪失率については,相手保険の提示が11級相当の20%とされており,被害者にとって最も有益な内容であったため,そのまま採用することとしました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間については,相手保険の提示が60歳までという短期間であったため,これを改めることを求める交渉を実施しました。

前提として,被害者の労働状況や後遺障害の影響を確認することとしました。
被害者は,作業療法士の仕事をしており,日常生活の機能改善を図るリハビリテーションの対応を主な業務としていました。そして,リハビリテーションに伴って必要となる補助などの力仕事に,後遺障害の影響が強く生じていることが分かりました。
業務に必ず発生する力仕事への悪影響は,被害者が労働を継続する限り生じし続ける重大なものであり,不用意に労働能力喪失期間を限定するべきではないと判断できました。

また,60歳以降に労働が予定されているか,という点についても具体的な確認を行いました。この点,被害者の場合には,そもそもの定年が60歳ではなく63歳であること,被害者の希望によって67歳までの就業も可能であることが確認できました。
そのため,被害者の労働能力喪失期間を60歳で区切ることには全く根拠がなく,原則である67歳までの期間を採用すべきであると主張する方針を取りました。

活動の結果

慰謝料及び逸失利益について,弁護士より相手保険との交渉を試みたところ,慰謝料についてはいわゆる裁判基準満額,逸失利益は67歳までの期間を採用するという当方の請求通りの解決に至りました。
その結果,従前の提示額約740万円に対して,約1180万円での合意となり,440万円を超える増額に至りました。合意額は,裁判を行った場合の請求額に匹敵する水準でした。

なお,交渉で裁判基準の満額が獲得できることはほとんどないため,本件は特に交渉が奏功した結果であったと言えるでしょう。

また,弁護士への依頼から賠償金の受領に要した期間は約1か月半であり,満額合意と早期解決を両立する結果にもなりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,慰謝料と逸失利益のそれぞれに一定の交渉余地があり,かつ相手保険の主張に明確な根拠が見受けられないというものでした。この場合,根拠のない主張を受け入れる意思はない,という点をまず明確に示すことが有力な進め方になりやすいでしょう。
本件でも,弁護士から毅然とした主張を行うことから開始したことにより,こちらのスタンスが相手保険にはっきりと伝わり,早期の高額解決につながりました。

また,本件の特筆事項として,相手保険の満額回答が挙げられますが,この点にも毅然とした請求方針が影響したと思われます。具体的な根拠を添えて毅然と主張したことで,保険会社はこちらが訴訟を辞さないであろうことを感じ取ったため,満額回答をしてでも早期に交渉で解決しようとした,と考えられます。

金額の主張に根拠があるか,どのような根拠を主張すべきか,といった点は,まさに弁護士が交渉に際して重要視すべき点であり,弁護士以外には検討が困難なことでもあります。金額交渉に際して弁護士依頼をしていただくことの有益さを改めて確認する事件となりました。

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さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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【交通事故解決事例】11級認定後の金額交渉を受任し,2か月弱で500万円の増額を実現。スピード解決希望の依頼を受け迅速交渉

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,後遺障害11級認定後の金額交渉を受任し,2か月弱の活動期間で500万円の増額解決に至った事例を紹介します。

事案の概要

被害者が軽トラックを運転し,カーブを描く緩やかな上り坂を走行していたところ,対向車がカーブを曲がり切れずセンターオーバーし,衝突する事故が発生しました。現場は山間部の降雪地帯で,当時も積雪及び降雪があったことが影響し,下り坂を走行していた対向車がハンドル操作を誤って事故に至りました。

事故の結果,被害者は頸椎部を脱臼し,約20日間の入院の後,約2年に渡る通院治療を要しました。ただ,後遺障害の残存を避けることはできず,脊柱の変形障害について11級が認定されました。

相手保険会社からは,11級の認定結果とともに損害賠償額の提示が送られてきましたが,その金額はちょうど500万円というものでした。

弁護士は,被害者が相手保険会社から金額提示を受けた段階で,その妥当性や交渉の余地に関して被害者からの相談をお受けしました。依頼者は,増額できるなら希望したいが,長期間を要するやり方は期待しないというご意向でした。本件の治療が長期間に渡ったこともあり,今後の解決は短期間で進めたい,との希望を強くお持ちでした。

ポイント
11級認定済み,500万円の賠償額提示済み
依頼者は早期解決を強く希望

法的問題点

①休業損害

被害者は,60代の兼業主婦で,相手保険からはパート勤務の休業損害として計算された金額を受領している状況でした。しかしながら,パート勤務をしている兼業主婦の場合,パートの休業損害よりも主婦業(家事労働)の休業損害の方が大きな金額となることが多数です。
そのため,被害者に関しては家事労働の休業損害を請求するのが適切と判断される状況でした。

ただ,家事労働の休業損害が具体的にいくらなのか,という点は容易に判断できません。具体的には,休業日数が何日であるかを特定することが非常に困難です。
被害者の2年以上に渡る治療期間の中では,家事が全くできなかった日もあれば,ある程度の家事ができた日も少なくないはずです。そんな被害者の休業日数が何日かは,客観的に示す方法がないため,交渉である程度合理的な水準を見出すほかないところでした。

ポイント
被害者はパート勤務の兼業主婦
主婦業(家事労働)の休業損害を計算するのが適切
もっとも,家事労働の休業日数は不明

②後遺障害部分の提示額

相手保険の提示内容のうち,後遺障害部分(「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」)の合計額は,331万円という内容でした。これは,たまたまこの金額になっているのでなく,提示額を331万円とするために計算方法を調整しています。
後遺障害11級が認定された場合,自賠責保険から331万円の保険金が支払われるのが通常です。本件でも,11級に対する自賠責保険金は331万円と計算される状況でした。そのため,相手保険はあえて後遺障害部分の合計額を331万円と算出することによって,自社の負担なく後遺障害部分を解決しようとしているのです。

しかも,相手保険会社の提示は,「本来の計算だと331万円を下回るが331万円まで引き上げる」という内容になっていました。保険会社の意図を把握せずに提示内容を眺めると,金額を引き上げてもらっている分有益と考えてしまいそうです。
しかし,弁護士目線では相手保険の計算は全く適正額ではなく,増額余地が大きく残っている状況でした。弁護士においては,後遺障害部分を331万円とする提案は了承できないことを前提に交渉を行う方針を取るのが適切と判断できました。

なお,この後遺障害部分については,交渉をすることで減額してしまうリスクが全くありません。なぜなら,相手保険が了承しなくても331万円は自賠責保険から支払われるためです。
その意味で,相手保険は後遺障害部分について最低額の提示をしていると評価することもできるでしょう。

ポイント
後遺障害部分の提示額は自賠責保険金額と同額
保険会社が自社の負担を避ける目的で同額に設定している
交渉しても減額リスクはなく,保険会社の提示は最低額と言える

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」という二つの損害が主に発生しますが,このうち「後遺障害逸失利益」がどの程度発生するかは,後遺障害の具体的内容によって大きく異なり得るところです。
本件の場合,被害者の後遺障害は脊柱の変形障害でした。つまり,体の中心を通る脊柱が一部変形しており,これを後遺障害として認定する,というものです。そして,脊柱の変形障害は,逸失利益が発生するのか,という問題が生じる後遺障害の一つでもあります。

後遺障害逸失利益は,後遺障害があると労働能力が減少することで収入減少に至るため,その収入減少を補償する,という性質のものです。そのため,後遺障害によって労働能力が減少することが大前提になっています。
ただ,脊柱が変形すると直ちに労働能力が失われてしまうかは必ずしもはっきりしません。このような後遺障害の場合,等級認定されても逸失利益はない,というケースが生じうるのです。

相手保険の後遺障害部分の提示額は,非常に小さいものであったため,逸失利益を主張すれば反論がなされることを想定する必要があります。そこで,逸失利益の存在を主張する根拠を明確にしておく必要がありました。

ポイント
脊柱の変形障害は逸失利益が生じるか明らかでない後遺障害
被害者に逸失利益が生じる理由は明確にすることが必要

④早期解決の方法

被害者は,できるだけ早期に本件のやり取りから解放されたい,という希望を強く有していました。そのため,最大額の賠償を獲得するよりも,解決のスピードと両立する範囲で可能な限りの賠償額を獲得することが望ましい状況でした。

スピーディーな解決を目指す場合,方法は交渉が明らかに適切です。交渉以外では訴訟やADRが挙げられますが,いずれも数か月~年単位で期間を要する解決方法となってしまいます。
一方で,交渉での早期解決には,相手の同意も不可欠です。つまり,相手にとっても早期解決が有益である,という場合に限り,交渉で早期解決ができるということになります。そのため,弁護士の交渉に際しては相手保険に早期合意のメリットを感じさせる必要がありました。

ポイント
解決方法は交渉であるべき
交渉で早期解決をするには,相手にとっても早期解決が有益であることが必要

弁護士の活動

①休業損害の請求内容

休業損害に関しては,互いに胸を張って主張立証することが困難な状況でした。なぜなら,一方で休業がゼロでないことは明らかであり,もう一方で休業が長いと客観的に立証することはできないためです。休業損害が少ないという主張も多いという主張も,根拠が伴わないものにならざるを得ません。

このような場合,一定の合理性ある水準を示し,交渉の叩き台とする方針が有力です。本件では,「入院期間は毎日100%の休業,通院期間は毎日30%の休業」と設定し,休業損害の叩き台とすることにしました。
この数字そのものに根拠はありませんが,一定の合理性がないわけではありません。合理性の根拠は以下の通りです。

休業損害の叩き台(割合的請求)の合理性

1.類似の計算方法を取った裁判例がある
→設定の仕方は裁判所の考え方に近いものである

2.後遺障害11級の労働能力喪失率が20%である
→治療終了時には20%の休業が生じていると理解される

当然ながら,この計算がそのまま合意内容となるとは限りません。むしろ,交渉の基準になる一定の目安を設ける目的が大きいところです。
実際,本件の休業損害は,上記請求を目安にしながら合意額を調整することとなりました。

ポイント
通院期間中の休業損害は,毎日30%の休業が生じたと仮定して請求
一定の合理性ある叩き台を示すことで,交渉の目安を設定した

②後遺障害に関する請求

被害者の後遺障害は脊柱の変形障害ですが,変形そのものが逸失利益を発生させるとの主張は難しいと言わざるを得ません。脊柱が変形しても直ちに主婦業ができなくなるわけではないためです。

しかし,被害者には,変形障害に伴って首や手指の痛み,しびれなどが生じており,それらの症状は変形障害に含まれる障害として認定する,との判断がなされていました。そして,首や手指の痛み,しびれといった症状は,明らかに被害者の家事労働に影響を及ぼす性質の障害です。

そこで,変形障害が痛みやしびれをもたらしたことを根拠に,逸失利益の存在を主張する方針としました。

なお,このような主張の場合には注意すべき点があります。それは,痛みやしびれに11級相当の労働能力喪失率が認められるとは限らない,ということです。

骨折後の痛みやしびれといった神経症状は,以下のような等級認定の対象となることが考えられます。

等級認定基準
12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号局部に神経症状を残すもの

つまり,痛みやしびれ自体は,12級または14級の認定対象であって,労働能力への影響も12級または14級相当という理解が合理的とも考えられるわけです。
本件でも,12級相当の逸失利益となる可能性を想定しながら,逸失利益を請求することとしました。

ポイント
変形障害により首や手指の神経症状が生じたため,これを逸失利益の根拠に
ただし,神経症状の逸失利益は12級相当にとどまる可能性を踏まえておく

③早期解決のための方策

早期解決のためには,相手保険に交渉での早期解決が有益であると認識させることが必要と思われました。
そこで,弁護士においては,「訴訟で解決すると追加で多くの支払が生じる」と相手保険に認識してもらうことで,早期合意のメリットを感じさせることを目指しました。

一般に,訴訟に至ると,加害者側は「遅延損害金」及び「弁護士費用」を追加で支払うことになるのが現在の運用です。それぞれの内容は以下の通りです。

訴訟における追加の支払

1.遅延損害金
→事故発生から支払い済みまで年3%(本校執筆時)の利息が加算され続ける

2.弁護士費用
→損害額の10%が弁護士費用として加算される

本件では,治療終了時点で事故から2年以上が経過しているため,仮に訴訟をして事故の3年後に解決したとなると,「3%×3+10%」=19%の支払が追加でかかることになります。それ以上に期間を要する可能性も低くないため,訴訟に至ると,相手保険会社は概ね20%程度の金額を上乗せして支払うリスクを背負わなければなりません。

弁護士からは,交渉が奏功しなければ訴訟に移行する可能性を伝えることで,このような追加での支払リスクを相手保険に認識してもらう方法を取りました。

ポイント
訴訟に至ると遅延損害金及び弁護士費用が追加で発生し得る
事故から長期間が経過しているほど,遅延損害金が大きくなる

活動の結果

以上の弁護活動の結果,弁護士の活動前は500万円の提示額であったところ,交渉により1,000万円での解決となりました。
また,弁護活動の開始から賠償金額1,000万円の受領までに要した期間は2か月弱であり,事故の規模や治療期間の長さを踏まえると非常に短期間での決着となりました。

なお,解決内容は,休業損害が弁護士のたたき台を若干下回る水準,逸失利益が12級相当の労働能力喪失率を目安にした金額となりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,交渉による増額と早期解決のバランスを適切に保つことが求められるケースでした。
交通事故の解決は,金額的な規模が大きくなればなるほど時間を要する傾向にあります。重大な後遺障害等級が認定される事故や死亡事故など,一定のケースでは交渉に年単位の期間を要する可能性もあり得るところです。さらに,訴訟などの法的手続に移行すれば,さらに年単位で争いが続き,決着の見えない期間を過ごすことになることも珍しくはありません。

そのため,弁護士としては日頃から早期解決を目指すスタンスが重要となりますが,本件はさらにスピードを重視することが必要でした。長い時間をかけて最大額を目指すより,短い期間で一定の増額ができる方が望ましい,というご希望は,被害者の立場を考えれば無理のないものです。
今回は,スピード解決と両立し得る増額幅の見込みを正確に立て,その見込みをできる限り迅速に実現することが,弁護士の役割であったと言えるでしょう。

交通事故の金銭的解決には,様々なやり方があります。弁護士相談の際には,目指したい解決の形を弁護士と十分に共有することで,より希望に沿った解決方法の提案が受けられるでしょう。

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