【交通事故解決事例】併合7級にて3,200万円超の増額を実現。紛争処理センターで請求の合理性を立証し解決した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,交渉を拒む相手保険から,交通事故紛争処理センターの利用を通じて約3,280万円の増額賠償の獲得に至った事例を紹介します。

事案の概要

被害者(女性・当時高校生)は知人運転の単車に同乗していましたが,単車の運転手が信号のない十字路上での四輪車との出会い頭事故に遭い,受傷しました。被害者の乗車していた単車の方に一時停止規制があったものの,単車の運転手が速度を緩めないまま十字路内に進入したところ,事故が発生したという状況でした。

被害者の負った怪我は,頸椎の骨折,股関節の脱臼骨折,足指の骨折などでした。特に頸椎と股関節のケガが重く,後遺障害は避けられない状態でした。

1か月以上の入院及びその後の通院治療を経て,被害者には併合7級の後遺障害等級が認定されました。主な認定内容は以下の通りです。

被害者の後遺障害

脊柱の運動障害 8級
分娩機能障害 11級相当
その他,傷跡や痛みについて14級の認定あり

総合:併合7級

加害者(運転者)の保険会社からは,後遺障害等級認定の結果報告とともに,被害者へ損害賠償額の提案がなされました。
もっとも,提示金額は約2,140万円であり,後遺障害7級の高校生に対する賠償額としては非常に低い水準と思われるものでした

ポイント
併合7級の認定と約2,140万円の金額提示あり
保険会社の提示は非常に低い金額

法的問題点

①過失割合

保険会社が非常に低い金額の提示をしている理由の一つに,過失割合の主張がありました。

本来,被害者は同乗者に過ぎないため,運転者同士が起こした事故について過失を問われる立場にはありません。自動車同士の交通事故における過失割合は,運転行為の落ち度の割合である以上,運転をしていない人に落ち度を指摘することはできないからです。

今回,相手の保険会社が主張していた被害者の過失は,「好意同乗」と呼ばれるものでした。
好意同乗とは,運転者の車両に無償で(好意で)同乗させてもらうことをいいます。運転者が運転行為を誤って事故を起こしたのであっても,自分からその車両に同乗した人物が損害の全てを運転者に請求するのは公平でない,という考え方が,「好意同乗減額」と呼ばれる過失相殺の根本にあると言われます。
加害者の保険会社が金額提示を行うとき,同乗していたという理由のみで好意同乗の主張をすることは一定数見られます。特に,単車の運転や長時間運転など,類型的に事故が起きる可能性の低くない同乗行為に対して,主張されやすい傾向が見られます。

本件でも,相手保険会社は好意同乗による過失相殺を主張しており,提示金額の低さに大きな影響を及ぼしていました。もっとも,被害者は単車に同乗していただけであり,特に危険な行動をとっていたわけではありませんでした。

ポイント
同乗者に「好意同乗」を理由とした過失の生じる場合がある
もっとも,本件の被害者は特に危険な行為はしていない

②後遺障害等級の妥当性

交通事故の解決に際しては,認定された後遺障害等級の妥当性を判断することが必要です。後遺障害等級が一つ異なるだけで,数百~数千万円という単位で賠償金額が変動する可能性も低くないためです。

この点,本件で被害者に認定された等級は併合7級でしたが,主な後遺障害等級は脊柱の運動障害8級,それ以外は8級に至らない類型の後遺障害でした。そのため,脊柱の骨折に対する後遺障害等級が妥当であれば,全体の結果も妥当であると評価することが可能です。

脊柱部の骨折に対しては,一般的に変形障害及び運動障害の認定が考えられます。その具体的な認定基準は以下の通りです。

【変形障害】
圧迫骨折や破裂骨折に伴って脊柱部の変形が生じる後遺障害です。

等級基準
6級脊柱に著しい変形を残すもの
8級脊柱に中程度の変形を残すもの
11級脊柱に変形を残すもの

具体的基準

脊柱に著しい変形を残すもの(6級)
1.複数の椎体の圧迫骨折で前方椎体高の合計が後方椎体高の合計より椎体1個分以上低くなっている場合
2.圧迫骨折で前方椎体高の合計が後方椎体高の合計より椎体2分の1個分以上低くなっており、かつ、コブ法による側彎度が50度以上ある場合

脊柱に中程度の変形を残すもの(8級)
1.圧迫骨折で前方椎体高の合計が後方椎体高の合計より椎体2分の1個分以上低くなっている場合
2.側彎度が50度以上となっている場合
3.環椎(第一頚椎)または軸椎(第二頚椎)の変形・固定により次のいずれかに当てはまる場合
a.60度以上の回旋位となっている
b.50度以上の屈曲位となっている
c.60度以上の伸展位になっている
d.側屈位となっており、矯正位(頭部を真っ直ぐにした姿勢)で頭蓋底部と軸椎下面の平行線の交わる角度が30度以上となっている

脊柱に変形を残すもの(11級)
1.圧迫骨折が生じ、そのことがエックス線写真等で確認できる場合
2.脊椎固定術が行われた場合
3.3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けた場合

【運動障害】
圧迫骨折などの結果,脊柱部の運動機能に制限が生じる後遺障害です。

等級基準
6級脊柱に著しい運動障害を残すもの
8級脊柱に運動障害を残すもの

具体的基準

脊柱に著しい運動障害を残すもの(6級)
次のいずれかにより頚部および胸腰部が強直したもの
①頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており,そのことがX線写真等により確認できるもの
②頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

脊柱に運動障害を残すもの(8級)
次のいずれかにより頚部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたもの
①頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており,そのことがX線写真等により確認できるもの
②頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

そして,本件での被害者の状況を踏まえると,「脊椎固定術」をした上で「頸部の可動域が2分の1以下に制限」されており,確かに8級の認定対象になることが確認できました。一方,8級を超える等級認定の基準は満たしておらず,等級認定としては8級が妥当なものであるとの判断ができました。

以上の検討の結果,後遺障害等級は併合7級を前提に解決すべき事故であることが確認できました

なお,脊柱の後遺障害に関しては,こちらの記事もご参照ください。

ポイント
後遺障害等級は最も重い8級(脊柱の運動障害)が妥当かを基準に検討
認定基準と被害者の状態を照らし合わせ,認定等級が妥当であると判断できた

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定される場合,損害賠償額が最も大きくなりやすい項目は「後遺障害逸失利益」です。後遺障害逸失利益とは,後遺障害に伴う労働能力の低下によって収入が減少する分を損害として計算したものをいいます。後遺障害等級が認定される状況では,労働能力がそれ以前より制限されるため,得られたはずの収入が得られなくなったと評価され,逸失利益が発生するということです。

この点,後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

そして,労働能力喪失率は,主に後遺障害等級によって定められますが,仕事の内容によっては労働能力に影響しない後遺障害もあり得るため,仕事への具体的影響を踏まえての検討が必要です。例えば,顔面の醜状障害(傷跡)は,モデルなどの外見を活用した仕事には影響するものの,そうでない仕事には影響しないため,仕事によっては逸失利益の対象とならないことも少なくありません。

被害者の場合は,事故当時に高校生であったため,まだどのような仕事をするかが明らかでないという問題がありました。どんな仕事をするかが分からないため,労働能力への影響が分からない(=立証できていない)という反論を受ける可能性が想定されました。

ポイント
労働能力喪失率は,後遺障害の内容と仕事の内容の関係で検討する必要がある
事故当時学生のため,仕事への具体的影響を指摘することは困難

④相手保険との交渉の可否

本件では,相手保険に交渉の意思がない可能性を想定する必要があると考えられました。その理由は,概ね以下の通りです。

相手保険に交渉の意思がない可能性を想定する理由

1.提示金額が明らかに小さい
2.被害者の過失を不明確な根拠で強気に主張している
3.被害者に対して,金額を改める意思はないと告げていた

金額の低さと過失の主張だけでも,非常に好戦的な態度を感じさせるところですが,被害者に対してあらかじめ増額の意思がないと告げるのは,通常は考えにくい対応と言えます。明らかに被害者の感情面へマイナスの影響を与える発言であって,交渉を目指すには不適切と言わざるを得ないためです。
そうすると,相手保険は何らかの理由で交渉をする意思がないという可能性を強く考慮する必要があり,交渉以外の解決方法を検討することを視野に入れるべきケースでした。

ポイント
相手保険会社に交渉の意思がなければ,交渉での解決は困難
適正な解決を目指すには交渉以外の解決方法を検討する必要がある

弁護士の活動

①請求方法の検討

受任後,弁護士から相手保険に一度交渉での請求を行ってみることとしました。しかし,相手保険の態度は,提案を受け入れないどころか対案を検討する意思もないというもので,明らかに交渉の余地がないと判断せざるを得ませんでした。

そこで,弁護士としては交渉以外の解決を選択する必要がありますが,具体的には以下の2つが考えられます。

交渉以外の請求方法

1.訴訟(裁判手続による請求)
2.ADR(裁判外の紛争処理手続)

両者の主な違いとしては,以下のような内容が挙げられます。

【項目】【訴訟】【ADR】
手続の形式法律の定めに従う柔軟な取り扱いが可能
関与する人裁判所(裁判官)あっせん担当弁護士
解決のスピード長期間を要しやすい訴訟よりは短期間になりやすい
費用訴訟費用や弁護士費用等が発生申立て無料
公開性公開の法廷における審理非公開の手続
賠償額遅延損害金や弁護士費用を加算遅延損害金や弁護士費用は通常加算しない
強制力法的拘束力があり,履行を強制させられる合意内容の強制力はない

基本的な差異としては,訴訟だと厳格な手続で一定の費用が発生するものの,解決内容に強制力があるADRだと柔軟な手続で費用なく実施できるものの,解決内容に強制力はない,という区別ができるでしょう。

本件の被害者は,できる限り早期の解決を希望する気持ちが強く,訴訟への対応負担を避けたいという要望もあったため,十分な打ち合わせの上でADRの一つである「交通事故紛争処理センター」への和解あっ旋申立てを利用することとしました。
一方で,期間や負担よりも賠償金額を優先したいという場合は,訴訟での解決を目指すことも有力ではあります。訴訟にも賠償額の減額リスクはあるため,訴訟が必ず経済的にプラスとは言えませんが,獲得し得る最大額は訴訟の方が大きい傾向にあります。

ポイント
相手保険には交渉をする意思が全くない状態であると確認
請求方法を比較検討し,「交通事故紛争処理センター」の手続を利用することに

②過失割合に関する主張

相手保険は好意同乗を理由に被害者の過失を主張していましたが,弁護士の方では過失相殺を受け入れる必要は全くないとの判断に至りました。

そもそも,現在の裁判例では,ただ同乗したというだけで好意同乗を理由とした過失相殺が行われることはまずありません。やはり,単に同乗しているだけで過失だというのは不合理であって,妥当性を欠くという判断が定着しています。

現在,同乗者に好意同乗の過失相殺がなされるケースは,以下のような場合に限られています。

好意同乗減額が生じる場合

1.同乗者が事故発生の危険を増大させる行為をした
2.事故発生の危険が極めて高い状況を知りながらあえて同乗した

上記のように,同乗者を非難できる事情がなければ,好意同乗減額は認め難いところ,本件の被害者にそのような事情は全くなかったため,弁護士からは被害者無過失の主張を一貫して行うこととしました。

ポイント
ただ同乗しただけでは好意同乗減額の対象とはならない
被害者はただ同乗しただけであるから,過失を受け入れるべきでない

③逸失利益の主張立証

逸失利益に関しては,労働能力喪失率の問題になりますが,本件の後遺障害等級との関係における一般論は,以下のように整理できます。

後遺障害と労働能力の一般的な関係

1.脊柱の運動障害(8級)
→労働能力を喪失させることに異論は生じにくい

2.分娩機能障害(11級)
→労働能力に影響するかどうか不明確

3.その他(14級)
→労働能力に一定の影響はし得る

本件の場合,脊柱の運動障害8級と分娩機能障害11級が併合され,7級との認定になっていますが,分娩機能障害の方が労働能力に影響しないのであれば,7級の労働能力喪失率でなく8級の労働能力喪失率を用いるべきでないか,という見解が生じ得るところです。

なお,労働能力喪失率は後遺障害等級によって決まりますが,具体的な喪失率は以下の通りです。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

7級は56%,8級は45%のため,金額に11%の違いが生じる問題点となります。この11%の違いは,本件では400万円以上の差異につながるため,非常に大きな問題点です。

この点,分娩機能障害そのものが将来の労働能力に影響を及ぼすと主張するのは容易でありません。ただ,分娩機能障害を引き起こす股関節の障害は労働能力に一定の影響を及ぼす,との主張を念頭に,より大きい労働能力喪失率を目指すこととしました

ポイント
脊柱の運動障害と分娩機能障害がそれぞれ労働能力に影響するか,という問題
分娩機能障害が直接労働能力に影響するとの主張は容易でない

④解決までの流れ

本件では,交通事故紛争処理センターを利用しましたが,その手続の流れは以下の通りです。

【和解あっ旋】

和解あっ旋を担当する弁護士が双方を仲介する形で,和解に向けた話し合いを行います。一般的には,それぞれの当事者が順番にあっ旋担当弁護士と協議する方法で,あっ旋担当弁護士争点の整理や解決内容に関する話し合いを試みます。

【あっ旋案】

双方の主張が一通り出尽くすと,あっ旋担当弁護士からあっ旋案(和解内容の案)が示されます。双方があっ旋案に同意できれば,その内容で解決となります。
あっ旋案を念頭に,あっ旋案を若干変更した内容で合意に至ることもあります。

【審査】

和解あっ旋手続で解決できなかった場合,当事者の申立てにより審査手続を行ってもらうことが可能です。審査会が当事者双方の主張を踏まえて「裁定」という結論を出します。
申立人である被害者は,この裁定の結果には拘束されませんが,申立人が裁定に同意した場合,相手保険は裁定に従うルールとなっています。そのため,被害者が裁定結果に同意すれば,和解での解決となります。

活動の結果

本件では,交通事故紛争処理センターを利用したところ,相手保険があっ旋案による解決を拒否したため,審査に移行しました。その結果,相手保険の主張する賠償額は約2,140万円でしたが,裁定では約5,420万円という内容になり,約3,280万円の増額となりました。

被害者の過失はゼロを前提とした解決となり,好意同乗による過失相殺はなされませんでした。
また,逸失利益に関する労働能力喪失率は,8級が45%,7級が56%のところ,裁定では労働能力喪失率50%での解決となりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,相手保険が非常に強気に交渉を拒んできた,という特徴のあるケースでした。
相手保険が交渉を拒む対応を取ってくる場合,その対応に合理性があるかないかを判断し,不合理なのであれば毅然とした請求手続を取る必要があります。もっとも,その判断を被害者の方が行うのは容易でないため,速やかな弁護士への相談・依頼が適切なケースだったと言えるでしょう。

実際,相手保険の主張する金額は,最終的な解決金額を遥かに下回るものでしかなく,相手の強気な姿勢に付き合ってしまうと大きな不利益につながってしまうところでした。

法的には,好意同乗減額の主張は根拠に乏しく,一方で労働能力喪失率の主張には一定の合理性があり得る内容でした。そのため,紛争処理センターからどこまでこちらに寄り添った解決案を出してもらえるかは難しいところでもありました。
そんな中,本件の結果は労働能力喪失率を除き全てが当方の請求通りであり,労働能力喪失率も決して不利益ではない数字であったため,バランスの取れた結論に至ったと考えられます。

相手保険の不合理な主張に対して適切な対応を尽くし,適正な結果を引き出せた事例としては,特筆に値するものであったと言えるでしょう。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

交通事故の訴訟・ADRとは何をする?時間かかるって本当?訴訟やADRを行うのはどんなリスクがある?事故の解決でお悩みの方へ

●交通事故で訴訟をすべき場合について知りたい

●ADRとは何か?訴訟と何が違うか?

●訴訟やADRはどのくらいの期間がかかるか?

●訴訟のリスクやデメリットを知りたい

●交通事故の訴訟は弁護士に依頼すべきか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,交通事故の訴訟やADRについてお困りの方に向けて,交通事故で訴訟をすべき場合ADRの手続訴訟やADRのメリット・デメリットなどを解説します。

交通事故で訴訟に至る場合

交通事故の損害賠償に関する問題が訴訟に至る場合は,簡単に言えば交渉不成立との結論になった場合です。そして,交渉不成立と判断するのが被害者側であるか加害者側であるかによって,訴訟の内容に若干の差異が生じます。

示談不成立と判断した側訴訟の内容
被害者損害賠償の請求
加害者債務(一部)不存在の確認

被害者側が交渉を断念して訴訟を行う場合,その希望する請求額を裁判所に認めてもらうことを目指して訴訟提起します。これは,損害賠償請求の訴訟となります。
一方,加害者側が交渉を断念して訴訟を行う場合,加害者側が認める以上の支払は必要ないはずである,という主張を内容とする訴訟になります。これは,債務の不存在確認の訴訟となります。

もっとも,これらは同じ紛争を当事者それぞれの目線で訴訟にしているという違いしかないため,訴訟における争点や解決方法はほとんど同様になるでしょう。

ADRとは

ADR(Alternative Dispute Resolution 代替的紛争解決)とは,裁判外の紛争解決手続を言い,裁判を通じずに交通事故事件を解決するための制度です。
ADRは,示談交渉は難しいものの,訴訟までは希望しないという場合の中間的な解決方法,というべき位置付けの手続です。訴訟とは異なり,担当者が間に入って和解のための仲介を行う制度であるため,ADRを用いた場合には基本的に話し合いによる合意を目指すことになります。

ADRの基本的な流れは以下の通りです。

①法律相談電話又は面談で相談を受け付ける
②和解あっせんADR機関が間に入って和解の協議を行う
③審査和解が成立しない場合,ADR機関が結論を出す

交通事故のADRには,主に「交通事故紛争処理センター」と「日弁連交通事故相談センター」の二つがあります。いずれも和解あっせん及び審査の対応が可能です。
なお,審査の結果結論をだすことを「裁定」と言いますが,裁定案を拒否すると訴訟に移行することになります。

訴訟とADRの違い

訴訟とADRは,いずれも交渉が奏功しない場合に紛争解決を目指す手続ですが,以下のような違いが挙げられます。

【項目】【訴訟】【ADR】
手続の形式法律の定めに従う柔軟な取り扱いが可能
関与する人裁判所(裁判官)あっせん担当弁護士
解決のスピード長期間を要しやすい訴訟よりは短期間になりやすい
費用訴訟費用や弁護士費用等が発生申立て無料
公開性公開の法廷における審理非公開の手続
賠償額遅延損害金や弁護士費用を加算遅延損害金や弁護士費用は通常加算しない
強制力法的拘束力があり,履行を強制させられる合意内容の強制力はない

基本的な差異としては,訴訟だと厳格な手続で一定の費用が発生するものの,解決内容に強制力があるADRだと柔軟な手続で費用なく実施できるものの,解決内容に強制力はない,という区別ができるでしょう。

一部例外はありますが,裁判所の判断を求めるときには訴訟,協議の場を求めるときにはADRを利用するのが有力な選択になりやすいです。

訴訟やADRにかかる期間

訴訟もADRも,第三者を交えた紛争解決手続のため,手続に期間を要するものとなります。ただし,一般的には訴訟の方がより長期間を要することになりやすいでしょう。

一般的な解決期間の目安には,以下のような違いがあります。

訴訟ケースによって1年を超えることも多数
ADR3~6か月程度が多い

手続の選択に際しては,長期間の手続を許容できるか,という点も踏まえての検討が望ましいです。

ポイント
ADRは第三者の弁護士が間に入って和解の仲介をする手続
ADRは訴訟より短期間・柔軟・安価な手続だが,賠償額に限りがあり強制力がない
訴訟はケースにより年単位,ADRは3~6か月ほどの期間がかかりやすい

訴訟やADRのメリット

訴訟やADRの最も大きなメリットは,交渉が奏功しなかった場合にも適正な賠償額を受領することが可能である,という点です。

交渉の場合,合意のできる金額や条件は相手方の判断によって左右されます。相手方の主張が明らかに不合理であっても,相手方にその主張を撤回して対応を改める意思がなければ,適正な内容での解決はできません。
この点,訴訟やADRでは,客観的で公正な判断のできる第三者が介入するため,相手方の不合理な主張が原因で適正な結果が獲得できない,ということが生じません。訴訟やADRを利用した場合の結論は,少なくとも客観的に見て不合理でない内容となることがみこまれます。

また,訴訟やADRを用いるメリットとしては,示談交渉よりも賠償金額が大きくなる可能性がある,という点が挙げられます。

交渉では,訴訟などの手続を行っていないことを理由に,訴訟で認められ得る最大額での合意を行うことは通常ありません。これは,訴訟での最大額(いわゆる裁判基準)の金額は裁判で必要な立証を尽くし,裁判所が被害者の主張を全面的に認めた場合に初めて認められる金額であるため,と説明されます。訴訟の負担なく,訴訟での必要な立証を尽くしていない状況下では,裁判で全て立証されたのと同等の金額は支払われない,というわけです。
しかし一方で,現実に訴訟などで必要な立証を尽くせば,裁判基準の全額を支払ってもらうべきということになります。訴訟やADRを行い,賠償金を減額すべき事情がないとの判断に至った場合,示談交渉で獲得できるよりも賠償金額が大きくなるでしょう。

加えて,訴訟に限るメリットですが,賠償金額として遅延損害金と弁護士費用の請求を追加で行うことが可能です。

遅延損害金は,利息に該当するものです。交通事故の損害賠償は,民法上の「不法行為」を根拠にするものですが,不法行為に基づく損害賠償は,不法行為時に賠償義務が生じるため,時間を経るごとに利息が加わり,加害者は利息を加えた金額の賠償を要します。
本稿の執筆時では,法定利率が年3%のため,例えば100万円の損害を1年後に賠償する場合だと,103万円の支払が必要になります。

あわせて,不法行為の損害賠償を訴訟で請求する場合,請求額の10%を弁護士費用として上乗せし請求するのが訴訟手続の一般的な運用とされています。100万円の請求を行う場合だと,10万円を弁護士費用として別途請求することが可能です。

遅延損害金と弁護士費用の請求は,訴訟をした場合にのみ発生するものであるため,訴訟のメリットということができるでしょう。

訴訟やADRのリスク・デメリット

訴訟やADRのリスクとしては,まず,交渉よりも賠償金額が小さくなる可能性が挙げられます。

交渉の際に争点があった場合,その争点に対する見解の違いをどのように金額に反映させるかは,当事者それぞれの判断となります。そのため,被害者に不利益な相手方の主張を金銭換算するといくらになるのかは,相手方が自己判断しているに過ぎません。そして,裁判所は,交渉で相手方が主張した金額に拘束されるわけではありません。

そうすると,訴訟で相手方の主張が裁判所に採用されたとき,それを金額に反映した結果は,相手方が交渉で主張していたよりも更に被害者に不利な金額である可能性があります。例えば,交渉で相手が自分の主張を前提とした提案を100万円としていたとしても,訴訟で相手の主張がそのまま認められた結果の金額が50万円になってしまう,ということは十分に考えられるのです。

また,他のリスクとしては,交渉のときにはなかった新たな争点が生じ得る,という点があります。

示談交渉の際には,円満解決を目指す目的で,言い分の全部又は一部を相手には示さないのが一般的です。言い分をあれもこれも突き付けてしまうと,お話合いでの解決に支障が生じやすいためです。全体の金額が合意できるのであれば,あえて言い分の全てをぶつけ合わない方が早期に穏やかに解決できるのが通常でしょう。

しかし,訴訟に至った後は,互いにそのような配慮はしません。そのため,交渉段階では控えていた言い分でも,訴訟では主張するということが多く見られます。
その結果,訴訟段階で初めて相手がぶつけてきた主張を裁判所が認め,交渉段階では予期しなかった理由で不利益な結果になる可能性も否定できません。

さらに,現実的な問題としては,主張立証の負担が重くのしかかるデメリットもあります。

訴訟やADRは,主張した内容が客観的に認められるか,つまり主張した内容が立証できるか,という問題になります。そのため,交渉段階でそれほど厳密に立証を求められなかった内容であっても,訴訟等では根拠に乏しい曖昧な主張では認められません。
厳密な主張立証の負担が生じた結果,立証を尽くすことができなかった場合には,やはり交渉よりも不利益な結論になってしまう可能性があるでしょう。

ポイント

訴訟やADRのメリット
交渉が奏功しなくても適正な賠償を受け取れる
示談よりも賠償金額が大きくなる可能性がある
訴訟では遅延損害金と弁護士費用を追加請求できる

訴訟やADRのデメリット
交渉よりも賠償金額が小さくなる危険がある
交渉のときに生じなかった争点が生じ得る
主張立証の負担が重い

交通事故の訴訟やADRは弁護士に依頼すべきか

交通事故の訴訟やADRについては,可能であれば弁護士に依頼をしたいところです。それだけ,訴訟やADRは交渉よりも手続負担の重いものであり,ご自身での対応に限界が生じやすいでしょう。
もっとも,訴訟やADRが金銭を請求する手続である以上,弁護士に依頼することで金銭的に利益があるのか,逆に損失が見込まれるのかは,非常に重要な問題です。

そのため,弁護士依頼に関しては,個別の具体的な事情を踏まえて利益が見込まれるか損失が見込まれるか,交通事故に精通した弁護士へ十分に相談することをお勧めいたします。弁護士にご相談いただくことで,あり得る可能性やリスク,具体的な流れなどをご案内することが可能です。

ポイント 訴訟やADRの弁護士依頼
依頼することで利益が見込まれるか損失が見込まれるか,弁護士に相談して確認すべき

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

交通事故の訴訟やADRは,どのような対応をするかで結果が劇的に変わる場合が非常に多いものです。
もっとも,個別の事件でどのような対応をすべきかは,内容や争点により様々であるため,交通事故に精通した弁護士へのご相談が肝要です。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所