【交通事故解決事例】股関節人工関節で後遺障害8級,併合7級の認定を受け4600万円超を獲得。紛争処理機構で等級認定が覆り増額実現

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,人工関節の挿入置換に対して,紛争処理機構への申立てにより後遺障害8級,併合7級の獲得に至った事例をご紹介します。

事案の概要

自転車での通勤中,後続自動車に接触され,転倒。大腿骨開放骨折,鎖骨骨折等を受傷しました。
自動車運転者には任意保険がなかったため,被害者自身が加入する自動車保険を利用して入通院費用を賄っていました。また,通勤中の事故であったため,労災保険も並行して利用していました。

弁護士の相談は,通院治療中の段階で行いました。相談時には,股関節の症状が芳しくなく,人工関節を挿入する可能性が見込まれる状況でした。

法的問題点

本件の主な問題点は,股関節部の受傷に対する後遺障害等級でした。具体的には以下のような問題点が想定されました。

①股関節の受傷と事故との因果関係

本件事故の発生直後における主な受傷は,大腿骨の骨折であったため,股関節の受傷は入院先の病院でもあまり意識されていませんでした。そのような経緯もあり,股関節の症状について初めて診断されたのは,事故から期間が経ってからのことでした。

一般的に,事故から期間が経過した後に初めて診断された傷病については,事故との因果関係の有無が問題になりやすい傾向にあります。事故の直後であれば,事故によって生じた傷病であるという可能性以外に考えにくいですが,事故から期間が経過すればするほど,事故以外の原因が混入する可能性が高まるためです。

本件では,大腿骨の骨折に伴う痛みが症状のメインと考えられていたので,これと近い部位にある股関節の症状は大腿骨との区別が困難な状況にありました。しかし,大腿骨の症状が落ち着いても股関節の痛みが取れないため,病院での検査を重ねたところ,「股関節唇損傷」が明らかになりました。「股関節唇」とは,大腿骨頭と骨盤をつなぐ軟骨組織の一部で,衝撃吸収などの役割を果たしています。この部分に損傷が生じると,足を動かす動作に痛みが伴ったり,股関節がぐらついたりすると言われています。
被害者の股関節付近に生じていた痛みの正体は,大腿骨骨折の症状が落ち着いて初めて,股関節唇の損傷によるものだと判明したのでした。

股関節唇

②股関節人工関節挿入の後遺障害等級

被害者に生じた股関節唇損傷に対する治療としては,股関節に人工関節を挿入することが必要と判断される状態でした。人工関節とは,損傷の生じた関節の表面の代わりをするための人工的な関節をいいます。痛みの原因は損傷した関節にあるため,これを損傷のない関節に置き換えることで,痛みを取り除くことができる治療方法です。

この点,人工関節を挿入した場合の後遺障害等級としては,以下の可能性があります。

等級基準
8級7号1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
10級11号1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

具体的な認定基準は,以下の通りです。

等級具体的な認定基準
8級7号人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
10級11号人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2分の1以下に制限されていないもの

もっとも,人工関節を挿入した場合に,それでも可動域が大きく制限されることはあまり想定されていません。人工関節を挿入すれば痛みは取り除かれ,可動域は十分に取り戻せるのが通常であるためです。
しかしながら,本件の被害者の場合は,股関節の神経に一部麻痺が生じていると見られる状況でした。そのため,人工関節を挿入したものの,股関節の関節可動域に大きな制限の生じてしまっていました。

さらに,本件では,可動域制限に関してもう一つ問題点がありました。それは,「他動」であれば股関節は動けてしまう,という点です。
関節可動域の測定には,自分で動かす「自動」と,人に動かしてもらう「他動」があり,可動域制限は基本的に「他動」の値を基準に判断されます。もっとも,被害者は人工関節を挿入の上,神経麻痺で股関節を動かせない状況のため,人が動かそうと思えば股関節は動かせる(痛みを訴えてストップさせることがない)のです。
そのため,被害者の関節可動域制限は,「自動」で判断されるべきであることを示す必要がありました。

ポイント 股関節に関する法的問題点
股関節の受傷と交通事故との因果関係
股関節人工関節の等級が10級か8級か(可動域制限があるか)

③その他の部位の後遺障害等級

被害者は,股関節以外にも複数のケガがあったため,以下のような等級認定が見込まれる状況でした。

被害者に見込まれた主な後遺障害等級
・肩関節の可動域制限 10級~12級
・鎖骨骨折後の変形障害 12級
・大腿骨骨折後の神経症状 12級

弁護士の活動

①自賠責保険への被害者請求

弁護士においては,症状固定後,まずは自賠責保険への被害者請求を実施し,望ましい等級認定の獲得を目指しました。交通事故の後遺障害等級は,基本的に自賠責保険(及び損害保険料率算出機構)の判断が尊重されることになるため,自賠責保険への被害者請求に際しては,万全の手続を取ることが重要です。

被害者請求に当たっては,弁護士の判断で以下の対応を試みました。

【診療録(カルテ)の検討】

交通事故の解決に当たって,弁護士が医療機関から診療録を取り付けることは珍しくありません。もっとも,無計画に,闇雲に取り付けても特に意味はないため,何のために取り付けるのか,という目的意識が非常に重要となります。

本件では,股関節の損傷と事故との因果関係が大きく問題になり得る状況であったため,「股関節の症状は事故が原因である」ことを示すための証拠資料として,診療録を活用することを目指しました。
具体的には,以下のような点の確認を試みました。

診療録の検討事項
1.股関節の症状を早期の段階から訴えていること
2.股関節の症状に関する検査結果が早期に出ていること
3.事故から股関節唇損傷の診断までの間に,股関節を怪我する原因がないこと

検討の結果,弁護士においては,主に股関節の自覚症状に関する指摘を丁寧に拾い,根拠資料として提出することとしました。

【医療照会の実施】

被害者の股関節の治療をご担当された主治医の先生から,因果関係及び可動域制限の原因に関する医学的なご意見をいただくことを目指しました。
被害者の治療をご担当された先生は,大変ありがたいことに非常に協力的な先生であったため,まず面談を実施し,先生の生の意見をお聞きしました。先生からは,積極的なご意見をいただける見込みが立ったため,その内容を医療照会という形で書面化し,先生のご協力をお願いしました。

先生からは,医療照会書の作成にも快くご協力をいただくことができ,事故と股関節唇損傷に因果関係が認められること,被害者の可動域制限は神経麻痺の結果生じたものであることなどについて医学的意見を獲得しました。

ポイント
診療録を詳細に検討し,事故と怪我との因果関係の立証資料とした
医療照会を通じて,争点に関する医学的意見を獲得した

②自賠責保険に対する異議申立て

自賠責保険への被害者請求を実施したところ,その結果は目標とする併合7級ではなく併合9級というものでした。目標の等級に至らなかった原因は,問題視していた「股関節唇損傷と事故との因果関係」でした。自賠責では因果関係が否定され,股関節について後遺障害等級の認定対象とはならなかったため,他に10級及び12級が認定されていたことから,併合9級という結果になったのでした。

この結果は不服であったため,自賠責保険への異議申立てを実施しました。
自賠責保険の後遺障害等級認定結果に不服がある場合,異議申立てという手続で再度の判断を求めることが可能です。もっとも,同じ機関が判断することになるため,ただ異議申立てをするのみでは結果が変わる可能性はほとんどありません。異議申立てに際しては,新たな根拠資料の提出が不可欠となります。

本件では,診療録の検討結果を改めて詳細に整理するとともに,自賠責の判断を主治医の先生と共有し,自賠責の判断内容が主治医の先生の見解と食い違うことを書面化させていただくことができました。

ポイント
自賠責保険の判断に不服がある場合,異議申立てが可能
もっとも,新たな根拠資料を提出しなければ結果は変わらない

③紛争処理機構に対する申立て

異議申立ての結果は,遺憾ながら当初の判断から変わることがありませんでした。この場合,異議申立てに回数制限はないため,もう一度異議申立てを行うことも可能です。もっとも,既に提出できる限りの根拠は提出しており,これ以上異議申立てを繰り返しても結果が好転する見通しは持てませんでした。

そこで,自賠責保険の判断を不服として,「自賠責保険・共済紛争処理機構」に対する申請を行うこととしました。
「自賠責保険・共済紛争処理機構」は,自賠責保険金の適正な支払を図るため,自賠責保険の判断に不服がある者の申請を受けて,その判断の妥当性を審査する機関です。この紛争処理機構への申請は,同一の内容に関して1回しか行うことができず,自賠責保険への異議申立てのように複数回実施することはできません。しかし,本件では,これまでの手続の中でできる限りの根拠は揃えていたため,紛争処理機構を利用して問題ないと判断しました。

念のため,再度主治医の先生と相談の上,異議申立ての結果を踏まえた追加の医学的意見の作成にご協力いただきました。これも医療照会書の形式にし,主治医の先生の意見を添える形で申請を実施しました。

ポイント
自賠責の判断に不服のある場合,紛争処理機構への申請が可能
紛争処理機構への申請は1回きり

活動の結果

①後遺障害等級

紛争処理機構への申請の結果,股関節の症状と交通事故との因果関係について判断が覆り,因果関係があるとする当方の主張が受け入れられました。また,具体的な等級についても,可動域制限が他動運動でなく主に自動運動で生じていたにもかかわらず,10級でなく可動域制限を前提とした8級の認定となりました。

これを踏まえた後遺障害等級は,従前の併合9級から併合7級へと変更され,被害者の救済に結びつく結果となりました。

②金銭賠償の内容

本件では,加害者側に任意保険がなく,また加害者本人は生活保護受給者であったため,経済力のないことが明らかな状況でした。
そのため,被害者自身の加入する人身傷害保険又は無保険車傷害保険での対応を予定することになりましたが,具体的な金額計算の結果,人身傷害保険の方が高額の保険金受領が可能であることが確認できたため,人身傷害保険を通じて金銭の支払を受けることとしました。

最終的には,自賠責保険金1051万円,これを除く人身傷害保険金が3,500万円を超える金額となり,合計で4,600万円超の支払を受けることができました。

ポイント
紛争処理機構を通じて併合7級が認められた
最も支払額の高い手続を選択し,4,600万円超の支払を獲得

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,股関節の受傷に関して,事故との因果関係と人工関節挿入後の可動域制限が同時に問題になるという,同種事例に乏しいケースでした。もっとも,一つ一つの争点を丁寧に分解して具体的に検討することで,いずれの争点についても適正な判断を獲得することが可能であることを示す事例になったと思います。

ただ,これらの争点は必ずしも被害者側に有利な判断がされるわけではなく,判断の難しい性質のものであることは間違いありません。実際,本件では,労働災害であったため労災の後遺障害等級認定も受けましたが,手続を尽くしたものの,結果は併合9級止まりでした。その理由は,因果関係の問題こそクリアできたものの,可動域制限の点について機械的に「他動」の値で判断するとの結論にしかならなかったためでした。

弁護士から,結果が伴うと安易に約束することは決してできませんが,最善を尽くし,ご依頼者の方が少しでも納得して今後の生活に向かっていただけるような活動は,今後も心掛けていきたいと強く感じる機会でもありました。

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【犯罪被害の金銭賠償獲得事例】16倍超の増額事例 自身の不貞行為を秘密にする代わりに性行為を強要された犯罪被害者の賠償請求はなぜ成功したか,弁護士が解説

このページでは,実際に犯罪被害者が加害者からの金銭賠償獲得に成功した解決事例を紹介します。
(プライバシー保護のため,結論に影響しない範囲で一部実際の内容と異なる場合があります)

【このページで分かること】
・実際に犯罪被害者が加害者から賠償を受領した事件の内容
・犯罪被害者への金銭賠償に至るための問題点と対応
・弁護士による金銭賠償獲得のポイント

今回は,結婚相談所の紹介で知り合った加害者との間で,第三者との不貞行為を秘密にする代わりに性行為を強要された事件を紹介します。

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事案の概要

被害者は成人女性,加害者は成人男性。
被害者は,結婚相談所で加害者と知り合った。もっとも,被害者には,当時交際中の男性のほか,勤務先の既婚男性との間に不貞関係があった。

加害者は,知り合った当初から被害者に交際相手や不貞相手がいることを知っており(知った経緯は不明),会うなり被害者の不貞行為を秘密にする対価として自分と性行為をするよう求めてきた。被害者が了承しないでいると,不貞関係を被害者の家族や不貞相手の配偶者に伝えるなどと脅迫してきた。
被害者は,渋々加害者の要求に応じることとし,両者の肉体関係は1か月程度に渡った。

その後,被害者は加害者との関係に耐えられなくなり,本件を警察に相談した。警察は,両当事者から事情を聞くなどした結果,加害者の身柄拘束をせずいわゆる在宅捜査を行う方針とした。

警察への相談後,被害者には加害者代理人弁護士を名乗る男性から連絡があった。弁護士からは,示談をしたいとの話であった。
具体的には,同弁護士から,加害者が被害者に30万円を支払うという内容の提案がなされた。また,加害者は翌週に警察での取り調べを控えており,取調べに応じる負担を避けたいため,翌週までに示談を成立させたいとの話があった。

弁護士からの提示を受けた後,被害者が法律相談の上,当職に金銭請求を依頼した。

問題点

①成立する犯罪

加害者は,被害者に対して,脅迫を用いて性行為を強要しているので,本稿執筆時の法律では不同意性交等罪に該当することが見込まれます(なお,当時は刑法改正前のため不同意性交等罪はありませんでした)。

②金銭賠償を獲得する際の問題点

【脅迫行為の客観的証拠に乏しいこと】

本件は,客観的に明らかな出来事だけを並べると,結婚相談所で知り合った男女が継続的に性行為をした,というのみと評価される可能性もありました。つまり,被害者が犯罪被害を受けたと言えるのは,加害者から被害者に対して脅しというべき言動があったからにほかなりませんが,肝心の脅迫行為については客観的な証拠がない状況でした。

しかも,脅迫行為は被害者の弱みを握って行うという悪質なものであり,悪質な脅しによる性行為の継続的な強要であれば,被害者の損害は非常に大きいと考えられます。一方,脅しがなければ単なる男女間の性行為になりかねないため,脅迫行為の存在を前提とできるかどうかは,金銭賠償を獲得するための非常に大きな問題点でした。

【既に在宅捜査が進んでいること】

本件では,既に被害者が警察に事件を相談し,加害者に対する取調べが実施されているという点に特徴がありました。加えて,警察は身柄拘束をしないで在宅捜査で進める方針を表明しており,簡単に言えば警察のやる気があまり感じられない状況でもありました。

このような状況では,加害者が逮捕や刑罰のリスクを低く見積もってしまい,積極的に示談金を支払うモチベーションが低下してしまう可能性が懸念されました。

【非常に低額の金額提示がされていること】

本件においては,被害者が当職に依頼をする前に,加害者の代理人弁護士から30万円の示談金が提示されていましたが,被害者の言い分を前提にするとあまりに低額な金額提示と言わざるを得ないものでした。被害者の弱みを握り,断れない状況に追い込んで何度も性行為を強要した事件であれば,30万円で示談ができると考えることは通常ないと言ってよいでしょう。

また,加害者代理人弁護士は,早期に示談を成立させたいとかなり強気の姿勢を示しています。取調べの負担を免れるために早く示談をしたい,というのは加害者側の都合でしかなく,これを被害者に伝えれば被害者側の感情面には悪影響しかないことが明らかです。加害者代理人がなぜ強気の金額提示や示談を催促する発言をしているのか,図りかねる状況でした。

問題点の解決方法

①【脅迫行為の客観的証拠に乏しいこと】

本件の最大の懸念点は,脅迫行為の有無が争点になった場合に立証が困難である,ということでした。加害者による脅迫行為は口頭でのみ行われており,裏付けになるものがなかったためです。
そのため,加害者が被害者の不貞関係を脅迫の材料にして性行為を求めた,という点は,当事者間で争いのない事実とすることが重要な状況でした。

そこで,こちらが受任した後,加害者代理人弁護士に対して,最初に事実関係の確認を行うことを求めました。具体的には,「被害者の話や客観的証拠からこちらが確認している事実と,加害者の述べる内容が一致すれば,示談を検討する余地がある。一致しないのであれば,被害者は加害者を許すことができないので,刑罰を希望する」という旨の回答を行うことにしました。
加害者側が示談を希望していることは明らかであったため,示談の前提として被害者と言い分が一致する必要があると分かれば,脅迫行為を認める可能性が高いと想定しての動きでした。

その結果,加害者から,代理人弁護士を通じて「被害者の不貞行為を周囲に知らせないことの対価として性行為を求めた」という事実が表明され,その内容を加害者代理人名義の書面に残すことができました。加害者自身が脅迫行為を認めている証拠がある,という点は極めて重要であり,強気な金銭請求が可能な状態を作り出すことに成功したと言えるでしょう。

ポイント
脅迫行為の有無が争点になることを避けるのが適切なケースであった
加害者が脅迫行為を自認するよう促す交渉により,加害者が認めたという証拠を確保した

②【既に在宅捜査が進んでいること】

犯罪被害の示談交渉では,示談すれば捜査を受けなくて済む,という点を加害者の重要なメリットとすることが一般的です。加害者としては,捜査の対象となれば逮捕されるかもしれない,起訴されて刑罰を受けるかもしれない,刑務所に入るかもしれないと考えるからこそ,示談金を積極的に支払って示談で終わらせたいと考えるわけです。

もっとも,本件では警察の消極的な態度が感じられる状況であり,警察は逮捕予定がないことを隠そうともしない対応でした。恐らく,金額交渉の材料として巻き込まれている,と感じていたのだろうと思われます。
そうすると,加害者に高をくくられてしまい,金銭請求の重要な交渉材料が失われる可能性が懸念されました。

ただ,それでも加害者が代理人を通じて示談を申し入れた,という点は注目すべきところでした。つまり,加害者は示談を目指す積極的な必要を感じているということであり,そこには逮捕の可能性を避ける必要も含まれていることが想像されます。

そこで,警察の対応に不満を抱いていた被害者の心情も踏まえ,こちらから警察へ告訴を行うとともに,被害者は加害者の逮捕を希望していることを明確に表明する手段を取ることにしました。
実際に逮捕されるかどうかは警察の判断次第ですが,「被害者は告訴した上で加害者の逮捕まで希望している」と加害者に伝わる形を取ることによって,加害者に高をくくられず,逆に危機感をもって示談交渉に臨ませることを目指しました

ポイント
被害者が本気で加害者の逮捕や刑事処罰を求めているのであれば,それを行動に移すことも有力

③【非常に低額の金額提示がされていること】

本件で加害者の代理人弁護士が被害者に提示した示談金額30万円は,被害者の弱みを握って何度も性行為を求めた事件の示談金としてはあまりに低額でしたが,その理由は大きく分けて以下の3つの可能性が考えられました。

低額な金額提示の理由として考えられるもの

1.事実関係の認識が食い違っており,争いがある
→加害者の主張する事実関係を踏まえれば,30万円という金額も合理的であるという場合

2.示談不成立でも構わないと考えている
→30万円が不合理な金額であることは承知の上だが,その金額で示談できないならば無理に示談は望まない,という場合

3.本件の適正な賠償額だと考えている
→言い分が食い違ってもおらず,示談を希望する意思はあるが,本件の適正な賠償金額が30万円であると考えている(=適正な賠償額が分かっていない)場合

この点,上記の通り,事実関係の認識に相違がないことは早期に確認できたため,「1.事実関係の認識が食い違っており,争いがある」場合でないことが分かりました。また,被害者に代理人弁護士が入って30万円での合意の可能性がないと告げられた後にも,示談交渉を継続する姿勢が見られたため,「2.示談不成立でも構わないと考えている」場合でもないことが分かりました。
そのため,加害者の代理人弁護士は,30万円を「3.本件の適正な賠償額だと考えている」ということになります。これは,3つの可能性の中でも被害者にとって最も有益なケースと言ってよいものでした。なぜなら,加害者が希望する示談を成立させるためには,30万円が適正な賠償額であるという理解を改める以外に方法がないからです。

以上を踏まえ,こちらからは適正額に関する複数の根拠を示し,当方の理解する適正額からは一切譲歩する意思がないことを明確にして,加害者側の再考を促しました。加害者代理人弁護士の理解度が低いことを踏まえ,より強気の姿勢を示すことで,有利な条件を引き出そうとしたのが奏功したと考えられます。

なお,今回の加害者代理人弁護士は,本件のような事件に対する経験値に乏しい弁護士であったようでした。弁護士にも専門分野があるため,弁護士であるからといって,全ての法的問題について適正な判断ができるわけではない,ということには注意が必要です。本件はそのいい例であったかもしれません。

ポイント 低い金額提示の理由
1.事実関係に争いがある(相手の言い分に従えば適正額)
2.示談成立を強く希望していない(高額になるくらいなら不成立でよいと考えている)
3.本心で適正額だと考えている(適正額の判断を誤っている)

結果

加害者代理人弁護士との間で,加害者から被害者へ500万円の金銭賠償を支払う内容にて示談が成立し,無事同額を受領しました。
最初の提示が30万円であったため,比較すると16倍を超える増額となりました。

弁護士によるコメント

本件は,被害者自身の不貞行為がきっかけであったため,被害者から周囲に相談しづらく,継続的な性行為がなされていました。その後,必死の思いで警察に相談したとのことでしたが,そのおかげで示談交渉が開始することになったのは,被害者にとって幸運だったかもしれません。

示談交渉としては,事実関係に争いがないことを早期にはっきりさせられた点が非常に有益であったと考えられます。事実関係に争いがなければ,加害者が金銭を支払うことは明らかであり,後は金額の話のみになるため,優位な金額交渉が約束される状況になります。
事実関係に争いが生じると立証が難しい,というウィークポイントを相手が知らないうちに,交渉によってそのウィークポイントを消すことができた時点で,増額示談はほぼ見通せる事件になっていたと言えるでしょう。

犯罪被害に強い弁護士をお探しの方へ

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【犯罪被害の金銭賠償獲得事例】10日以内に300万円の賠償獲得 多量の飲酒をさせられ,ホテルに同行後性交に至った被害者未成年の事件

このページでは,実際に犯罪被害者が加害者からの金銭賠償獲得に成功した解決事例を紹介します。
(プライバシー保護のため,結論に影響しない範囲で一部実際の内容と異なる場合があります)

【このページで分かること】
・実際に犯罪被害者が加害者から賠償を受領した事件の内容
・犯罪被害者への金銭賠償に至るための問題点と対応
・弁護士による金銭賠償獲得のポイント

今回は,クラブで大量の飲酒を求められ,その後に性行為を強要された未成年女性の事件を紹介します。

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事案の概要

被害者は当時未成年の女性。加害者は芸能活動を行っている成人男性。
被害者は,芸能人である加害者のことを知っていたが,友人から加害者が近所のクラブでイベントを予定していることを知らされ,友人に誘われてイベントに参加しに行った。

現地のクラブでは,加害者らのトークイベント等が行われ,被害者はイベントを見た後,同クラブ内で飲食を楽しんでいた。
その後,友人の一人がクラブ関係者と知り合いであったこともあり,加害者らが飲食をしているVIP席で同席できるとの話を持ち掛けられ,友人とともにVIP席へ向かうことにした。

VIP席では,加害者や芸能関係者と同席の上,飲食や会話をしていたが,加害者は,酒に弱いと口実をつけて,自身が注文した酒を未成年者である被害者に飲ませた。被害者は,加害者の求めに応じてシャンパンなどを飲み,卓全体でボトル2~3本ほどを消費した。
また,被害者は,加害者の翌朝の予定が早いため,起こして欲しいと加害者から依頼されたため,やむを得ず連絡先を交換するとともに,加害者のために目覚まし時計のアラームをセットすることにした。

その後,加害者は被害者に介抱を依頼するため宿泊先への同行を求めてきた。被害者はこれに応じて,ホテルの客室まで加害者を介抱しながら同行し,約束通り目覚まし時計のアラームを設定した後,部屋を去ろうとした。しかしながら,加害者は被害者の退室を阻止した上で,性行為に及んだ。
被害者は,泥酔に近い状態であったため,行為の詳細は記憶できなかったが,避妊具を使用していなかったことと,膣内射精を提案されたことは断片的に記憶していた。結果的に膣内射精はしていないようであった。

事件から約1年間,被害者は家族や交際相手に打ち明けられずにいた。弁護士への依頼直前に,加害者から再度一緒に飲みたいという趣旨の連絡があった。

問題点

①成立する犯罪

被害者を泥酔状態にさせた上で,被害者が拒絶できない状態を利用して性行為に及んだことが見込まれるため,当時の強姦罪または準強姦罪(現在の不同意性交等罪)に該当することが考えられます。

②金銭賠償を獲得する際の問題点

【加害者は合意の上での性交だと考えている可能性】

加害者は,イベント地のクラブで意気投合した女性と合意の上で性行為に至った,と考えている可能性が高い状況でした。
被害者が弁護士への問い合わせをしてから依頼をするまでの間に,たまたま加害者から被害者に連絡がありましたが,その内容は再度一緒に飲みたいと飲食に誘うものでした。加害者の連絡は,いわゆるセックスフレンドに会おうとしているように思われる内容でしたが,友好な関係を保っていると確信していなければ送るはずのないものでしょう。
良好な間柄であるはずの相手から,代理人弁護士を通じて金銭賠償を請求された場合,加害者からの反発,反論は容易に想像されるため,あらかじめ想定する必要がありました。

【事件から1年以上が経過している点】

被害者が弁護士に相談をした段階で,すでに事件から1年以上が経過していたため,事件の内容を裏付ける客観的な証拠を獲得する手段は全くない状態でした。幸い,イベントが行われた事実や,被害者と加害者が一緒に飲食していた事実は,当時の撮影画像から分かるという程度でした。

そのため,そもそもホテルへ同行した事実があるか,ホテルの客室内で性行為がなされた事実はあるか,という点が問題になると,立証に窮することが想像されました。

【被害者が未成年である点】

被害者は未成年でしたが,被害者が法律行為をするためには原則として親権者の同意が必要となります。そのため,本来的には親権者の方に事情を打ち明け,加害者への金銭請求をご了承いただくことが適切です。
しかしながら,被害者は本件が周囲の人に発覚するのを希望していませんでした。事件当時から交際を継続している異性もおり,その存在は親権者も把握しているため,本件の内容が伝わることで関係に亀裂が生じることを懸念していました。

問題点の解決方法

①【加害者は合意の上での性交だと考えている可能性】

被害者は,自分の意思で加害者と性交をした事実は決してないと断言しており,その意思を尊重した方針を取ることが適切と判断しました。具体的には,加害者がどんな反論をしようと,こちらは被害者であるというスタンスを改める意思が全くないと一貫して述べ続けることにしました。

合意があったかなかったかという点は,当事者間で言い分の異なる争点ですが,被害者が加害者に金銭請求する際,争点について加害者と意見を交わす必要はありません。相手を説き伏せることも,相手の言い分が適切か判断することも,金銭請求や金額交渉には必要のないことです。
「言い分が違っても構わない。言い分を理由に応じないのであればこちらは公の場で争うのみである」という態度を明確にすることで,加害者に争うリスクを理解させる方針を選択しました。

もちろん,争点について譲歩する姿勢を見せない方針は,相手が納得しない場合に示談不成立となるリスクを背負うものではあります。しかしながら,本件では,相手が芸能活動を行う人物であることを踏まえ,争うリスクは相手の方が高い状況であると理解し,上記の方針としました。

ポイント
加害者は合意があったと考えている場合,金銭請求に応じてこないことはあり得る
合意の有無が争点化するリスクを加害者に理解させることで,争点化を防ぐ方針を取った
加害者が芸能活動をしている点は,争うリスクを感じやすい要素であった

②【事件から1年以上が経過している点】

合意の有無よりも,争点化した場合により問題が大きくなるのは,そもそも性行為があったのか,という点でした。事件から1年以上が経過している状況では,性行為があったことを裏付ける客観的な証拠を提示することは不可能と言わざるを得ません。そのため,性行為があったかどうかを争点とすることは防ぐ必要がありました

そこで,弁護士の方では,加害者から被害者への連絡に乗じる形で迅速に加害者へ連絡を取り,その言質を得る方針を取ることにしました。加害者からの連絡に弁護士を名乗って返答し,速やかな電話連絡の機会を求めました。そして,電話連絡の際には,あえて合意の有無が唯一の争点であることを前提にすることで,性行為があったかどうかを争点とする余地を与えないやり取りを目指しました。

その結果,加害者は,合意があったと主張する目的で,性行為の存在を前提とした発言を繰り返したため,通話内容を録音することで,性行為の事実を争わない加害者の発言を記録化することに成功しました。

ポイント
性行為の有無自体が争点になると立証に窮する
加害者の言質を取ることが有効な解決策
合意の有無だけを争点とすることで,性行為の有無を争わない発言を引き出した

③【被害者が未成年である点】

被害者が未成年であることは,弁護士にとっては依頼者が未成年者であることを意味します。未成年者との契約は,後から反故にされてしまうリスクがあるため,弁護士目線では慎重な判断を要する問題です。

この点,弁護士の方では,まず徹底した聴き取りや打ち合わせを通じて依頼者との間で互いに信頼できる関係の構築を目指しました。弁護士側はもちろん,依頼者側も弁護士を信頼できると考えることによって,契約リスクは最小限にとどまると判断しました。
また,弁護士の採用する方針をできる限り詳細に説明することで,被害者が希望する結果を獲得するためには弁護士の助力が不可欠であると考えてもらうことを目指しました。

ポイント
弁護士と被害者の契約は,相互の十分な信頼関係の上で取り交わす

結果

加害者との間で,加害者から被害者へ300万円の金銭賠償を支払う内容にて示談が成立。無事同額を受領するに至りました。
活動開始から金銭の受領まで数日というスピード解決でした。

弁護士によるコメント

本件は,加害者の立場が芸能活動を行っているという点で特徴的であり,一方で事件発生から長期間が経過しているという難点もありました。また,依頼者が未成年者であったため,その点への法的な配慮も必要になり得るケースでした。

加害者が芸能活動をしている事実は,多くの場合,事件が公になるデメリットの大きさを推測させます。本件のような立場の加害者は,示談成立の意欲を強く持つケースが多いでしょう。それだけに,被害者代理人としては強気な金銭請求を検討したいところです。

一方,本件の場合,加害者は明らかに被害者側も同意していたものと誤解している状況でした。合意していない可能性があれば,1年越しに被害者を飲みに誘うことは考えにくいためです。また,飲みに誘っていることを踏まえると,被害者が未成年者であることも把握していないことが容易に想像されました(被害者は,未成年者であることを隠してクラブに入店しているようでした)。

以上を踏まえると,被害者の立場として強気の金銭請求が有力であるのと同時に,加害者にも争う要素があり得るため,バランスを保ちながらの交渉が重要な事件でした。また,スピーディーな進行により加害者側に熟慮の機会を与えず,合理的な水準での示談を実現することによって,被害者には早期に十分な賠償がなされるに至りました。

ポイント
加害者の芸能活動は強気に金銭請求をしたい要素
事件発生から期間が経過しているため,証拠に乏しい点は不利な要素
加害者は被害者の同意があったものと明らかに誤解していた
素早く合理的な金額水準で合意することにより,双方のバランスを保った解決に至った

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【告訴受理解決事例】SNSで知り合った後,ラブホテルへ同行させられた事件の場合 事件の特徴を踏まえた対応方法を解説

このページでは,実際に告訴の受理に至った解決事例を紹介します。
(プライバシー保護のため,結論に影響しない範囲で一部実際の内容と異なる場合があります)

【このページで分かること】
・実際に告訴受理がなされた事件の内容
・告訴受理に至るための問題点と弁護士の対応
・弁護士による告訴受理のポイント

今回紹介するのは,SNSで知り合い,実際に会うことになった異性から強引に性的関係を求められた事件です。

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事案の概要

SNS上のいわゆるマッチングアプリで知り合った男女の間での事件。被害者は成人女性,加害者は成人男性。

SNSでチャットによるやり取りをした後,一度実際に会うこととなった。被害者の自宅近所に加害者が車で訪れ,近所の飲食店で食事をする予定であった。
当日,予定通りに食事をしたところ,加害者から引き続き一緒にいることを提案され,被害者は了承した。加害者の提案で,加害者の車に同乗し,運転されるがままに移動した。その後,飲食店及び被害者方から相当程度距離のあるラブホテルに駐車され,加害者からラブホテルへの同行を促された。被害者は,自力で帰宅する手段もなく,断ることで加害者に激高されることを防ぐため,応じることにした。

ホテルの客室内では,加害者からキスを迫られたり,乳房を揉まれたりした。被害者は,「まだ早い」「今日はちょっと」などと言ってその場を穏やかにやり過ごそうとしたが,加害者が性的行為をやめることはしなかった。
被害者が加害者から受けた主な行為は,キスされる,乳房を手で触られる,加害者の性器を手で触らされる,といったものであった。被害者は,加害者が性交(性器の挿入行為)を要求するつもりであると理解したため,「(挿入行為は)今回はやめよう」と伝え,挿入に至ることは防いだ

その後,当事者間で若干の会話などをした上で,加害者の車でホテルを出発。被害者方の近所まで移動し,被害者が下車して解散した。

法的問題点

①成立する犯罪

加害者は,被害者の同意なくキスをする,乳房を触る,自分の性器を触らせるといったわいせつ行為に及んでおり,不同意わいせつ罪が成立すると考えられます。

②犯罪の成否に関する問題点

【意思表明が困難な状態にさせられていたか】

不同意わいせつ罪の成立には,一定の事由によって,被害者が「同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあること」が必要とされています。このような状態に乗じてわいせつな行為をした場合に,不同意わいせつ罪が成立します。
本件では,食事の後に両者が合意の上で車での移動をしているため,意思表明が困難な状態にさせていたと言えるのか,問題となり得ます。

【同意の有無】

被害者が加害者と一緒にラブホテルへ入り,客室内では加害者の性的な行為に明確な拒絶を見せなかったため,被害者が加害者との性的行為に同意していたのではないか,との問題が生じる可能性はあります。特に,ラブホテルが性的行為を行うために入る施設である点は,両者合意の上での性的行為であったことの根拠になる,との見解も考えられます。

【加害者の故意の有無】

加害者に不同意わいせつ罪が成立するためには,加害者の故意が必要ですが,その内容は「被害者が同意をしていないと認識しているか,同意していなくても構わないと考えていた場合」と整理することができます。そのため加害者目線では,被害者が同意をしているはずだと認識していた場合,犯罪の故意がないとの判断になる可能性が考えられます。

問題点の解決方法

①【意思表明が困難な状態にさせられていたか】

この問題点については,大きく2つのステップに関する検討を要します。具体的には以下の通りです。

意思表明が困難な状態にさせられていたかを検討するステップ
1.意思表明を困難にする事由があるか
2.意思表明が困難な状態になっていたか

まず,意思表明を困難にする事由は,不同意わいせつ罪を定める刑法に列挙されており,そのいずれかに該当する必要があります。具体的な内容は以下の通りです。

意思表明を困難にする事由
①暴行・脅迫
②心身の障害
③アルコール・薬物の摂取
④睡眠その他意識不明瞭
⑤同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない
⑥予想と異なる事態に直面した恐怖・驚愕
⑦虐待に起因する心理的反応
⑧経済的・社会的影響力による不利益の憂慮

本件では,食事の後,行先も知らないまま加害者の運転する車に同乗し,予期しないままラブホテルに到着した,という経緯があるため,「⑥予想と異なる事態に直面した恐怖・驚愕」に該当することが見込まれます。この要件の具体的内容は,以下のように説明されます。

「⑥予想と異なる事態に直面した恐怖・驚愕」とは
いわゆるフリーズの状態、つまり、予想外の又は予想を超える事態に直面したことから、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失った状態をいいます。

次に,意思表明が困難な状態になっていたか,という点については,少なくとも告訴受理の段階では,意思表明困難という被害者の供述に一定の合理性があれば足りるでしょう。明らかに犯罪が成立しない場合でない限り,告訴の受理を拒むのは法的に問題があるため,被害者の言い分が明らかにおかしい内容でなければ差し支えないと言えます。

ポイント
予想外の事態で意思表明が困難な状況にあった
実際に意思表明が困難であった,との主張は一定の合理性があれば足りる

②【同意の有無】

同意の有無との関係では,同意があった可能性をうかがわせる事情について,その合理的な理由を一つ一つ指摘していくことが肝要です。

本件では,被害者が自らの意思で加害者の車に乗り,一緒にラブホテルへ向かったという点が,被害者の同意の存在を推測させる事情になる可能性が考えられます。一緒にラブホテルへ行くということは,性行為をするつもりであったのではないか,ということです。
もっとも,被害者は行き先を把握しないまま加害者の車に同乗しただけであって,ラブホテルへの同行に同意したというわけではありませんでした。そのため,一緒にラブホテルへ行ったというのは,被害者の意思でそうなったわけではなく,行先がラブホテルであることを加害者から隠されていたからということになります。この場合,結果的に被害者が加害者とともにラブホテルへ移動したとしても,それによって同意があると断じるわけにはいかないでしょう。

また,両者が実際に会うまでのSNS上でのやり取りに,会った際に性行為をする気持ちがあることが見受けられる事情が全くありませんでした。事前に性行為を予定して会う場合には,SNS上で性行為に関するやり取りをしていることがほとんどですが,それが見られなかったという点は被害者に同意がなかったことの根拠になり得る事情と言えます。

以上を踏まえ,被害者が同意をしていなかった可能性が十分あると理解されたことにより,告訴受理が実現したと考えられます。

ポイント
一緒にラブホテルへ行ったことは,同意があったことの根拠になる場合もある
本件の被害者はラブホテルへ行くとは思っていなかった可能性があるため,同意があったとは判断できない

③【加害者の故意の有無】

加害者の目線では,ラブホテルに行こうと思って車に乗ることを提案したところ被害者が応じ,ラブホテルに到着した後も被害者がその場を去るなどしなかったことから,被害者が同意しているものと誤解した可能性があるか,問題になり得るところです。

この点,以下のような事情が見受けられます。

・移動前
加害者は事前にラブホテルへ行くつもりであることを告げていないため,被害者がラブホテルへの同行を承諾していない可能性は十分に把握できたはずです。

・到着後
被害者方から距離のあるラブホテルへ連れて行ったのは,被害者に断りづらい状況を作る意味があった可能性があり,被害者が断れなかったからといって加害者が誤解するとは限りません。

・客室内
被害者はキスされたり乳房を触られたりすることを嫌がっており,少なくともその時点で被害者に同意がないと分かった可能性があるはずです。

以上を踏まえると,加害者に故意があった可能性も十分にあり得る内容と考えるべきであって,加害者の故意が認めづらいことを理由に告訴受理を拒むことは不合理と言えます。

結果

警察に告訴が受理された結果,加害者に対する捜査が実施されるに至りました。

弁護士によるコメント

マッチングアプリで知り合った男女の場合,性行為を前提に会うケースも少なくないため,被害者の希望する告訴が適切な告訴なのか,犯罪の問題でなく当事者間の感情的なトラブルに過ぎないのか,という点は慎重な判断になりやすいところです。
特に本件では,ラブホテルに同行しているという事情があり,ホテル内でケンカをしただけである場合との区別も必要だったと思われます。

この点,事前に性行為を想定したやり取りがなかったこと,当日も被害者がラブホテルに移動するとは思っていなかった可能性があること,客室内でも嫌がる動きを見せ,結局性交(=性器の挿入行為)に至らなかったことなど,犯罪である可能性を示す根拠を積み上げることによって,告訴の受理に至ったと考えられます。

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【告訴受理解決事例】職場の飲み会後,車内で性的被害に遭った事件の場合 法的問題点や解決方法を弁護士が解説

このページでは,実際に告訴の受理に至った解決事例を紹介します。
(プライバシー保護のため,結論に影響しない範囲で一部実際の内容と異なる場合があります)

【このページで分かること】
・実際に告訴受理がなされた事件の内容
・告訴受理に至るための問題点と対応
・弁護士による告訴受理のポイント

今回ご紹介するのは,車内で勤務先の異性からわいせつ被害に遭った事件です。

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事案の概要

職場の関係者で行われた飲み会の後,会社の先輩に当たる加害者から性的行為の被害を受けた事件。被害者は成人女性,加害者は成人男性。

被害者及び加害者を含む多数人での飲食後,少人数での二次会に移るなどしながら,被害者と加害者両名が同席しての飲食を継続していた。
最後の飲食の後,被害者と加害者は業務用ワゴン車内で休憩することにし,被害者が後部座席,加害者が前部座席でそれぞれ仮眠を取った。

仮眠中,前部座席にいた加害者が後部座席に移り,被害者にキスを迫る,身体を触るなどの行為をし始めた。被害者は,突然のことに抵抗できず,加害者のなすがままにされていた。
その後,加害者の行為がエスカレートし,抵抗しない被害者の女性器に手指を挿入してきた。被害者は,被害の拡大を避けるため,やむを得ず拒絶しなかった。

法的問題点

①成立する犯罪

被害者の同意なく性的な行為をすることは,不同意わいせつ罪又は不同意性交等罪の対象となる可能性が考えられます。一般的に,不同意わいせつ罪よりも不同意性交等罪の方が重大事件であり,重い刑罰の対象になることが見込まれます。

この点,女性器に手指を挿入する行為は,不同意性交等罪が成立要件である「性交等」に該当するため,本件は不同意性交等罪に該当することが考えられます。

②犯罪の成否に関する問題点

【「性交等」の有無】

加害者が被害者に行ったとされる各行為については,客観的な証拠がなく,被害者の供述のみがほぼ唯一の証拠となることが見込まれる状況であったため,被害者の主張する「性交等」が本当に存在したのか,問題となる可能性が考えられます。

【同意の有無】

被害者が加害者の行為に対して抵抗しなかったため,被害者が性交等について同意していたのではないか,という問題意識が出てくる可能性が考えられます。女性器への手指の挿入にも抵抗することなく応じている点は,被害者が同意していないと起きない出来事ではないか,との見解が生じ得ると考えられます。

【加害者の故意の有無】

加害者に不同意性交罪が成立するためには,加害者の故意が必要ですが,その内容は「被害者が同意をしていないと認識しているか,同意していなくても構わないと考えていた場合」と整理することができます。そのため加害者目線では,被害者が同意をしているはずだと認識していた場合,犯罪の故意がないとの判断になる可能性が考えられます。

特に,加害者に故意があったかどうかは被害者の供述だけでは分からないことも多く,被害者の言い分を根拠に犯罪の成立を認められるかどうかは非常に難しい問題になり得ます。

問題点の解決方法

①【「性交等」の有無】

「性交等」の有無は,どうしても被害者の供述を根拠とせざるを得ません。もっとも,告訴受理のためには,被害者の供述内容が存在したと立証することは必要なく,その存在が疑われる状況にあれば十分と言えます。なぜなら,実際に立証できるかどうかは,まさに告訴を受理した後捜査すべき事柄であるためです。
そのため,被害者側としては,明らかに犯罪事実(=性交等)がないという判断は不適切である,ということができれば足り,そのために対応を尽くすべきということになります。

この点の解決は,事件の内容に関する被害者の供述を,できる限り具体的に,かつ詳細にするのが非常に有効です。その結果,被害者の供述内容が真実であっても全く違和感はないと捜査機関に納得してもらえれば,告訴の受理ができないという判断にはなりづらいでしょう。

本件では,前部座席にいた加害者が後部座席に移動してきてから,一方的にキスを迫り始め,やがて行為がエスカレートし,最終的には手指の挿入まで至った,という一連の経緯について,具体的かつ詳細に説明をすることで,捜査機関の理解を得ることができました。そのような臨場感あふれる供述は,体験をした人物でなければできない可能性が十分にある,と評価された結果であると考えられます。

ポイント
性交等の根拠は被害者の供述のみにならざるを得ない
被害者の供述が真実である可能性が一定程度あれば足りる
詳細かつ具体的で,体験しなければ供述できない内容であることにより解決

②【同意の有無】

同意の有無との関係では,同意があった可能性をうかがわせる事情について,その合理的な理由を一つ一つ指摘していくことが肝要です。

本件では,被害者が特に抵抗する様子を見せなかった,という点が,被害者の同意の有無について疑問の生じ得る要素になり得ます。同意をする意思がないのであれば,最初から抵抗しているはずではないか,ということですね。
もっとも,抵抗をしなかった理由は,必ずしも同意していたからというのみではありません。実際,本件の被害者としては,男女の力の差を踏まえると,逃げ場のない車内で無闇に抵抗する方がより大きな被害を受ける可能性があると考えてのことでした。
告訴の受理に際しては,同意していなかったという被害者の主張が明らかに不合理でなければ足りるところです。事件当時の流れや被害者の挙動を踏まえて,確かに大きな被害を避ける目的でやむを得ず抵抗しなかった可能性もある,という理解をしてもらえた点が,告訴の受理につながったと考えられます。

また,密室内での行為については,自らの意思で密室まで同行したという事実が,被害者の同意を裏付ける事情と評価される可能性がありますが,本件では現場となった車内に被害者と加害者以外の人物もおり,決して二人きりの密室に同行したわけではない,という点も評価の対象になったことが考えられます。

ポイント
同意があった可能性をうかがわせる事情について,実際の理由を理解してもらえるかが問題
抵抗をしなかったのは同意していたからではない,と十分に説明することが肝要
密室での行為の場合,密室内に他の人物もいた点は評価の対象になる

③【加害者の故意の有無】

加害者に故意があったかなかったかは,被害者には確実な主張立証が困難なところです。
もっとも,そもそも加害者の故意を被害者が立証する必要はなく,立証できるかどうかは捜査の結果判断されるべき事柄です。最終的に故意が立証できることすらも必要ありません。
告訴は,犯罪の立証を捜査機関に求める手続であるため,犯罪の合理的な疑いが存在すれば足りるでしょう。

本件では,確かに加害者に故意がない(=被害者が同意していると誤解していた)可能性はありますが,故意がある(=被害者が同意していないこと,又はその可能性を認識していた)可能性も十分にあり得ます。犯罪の疑いとしては,その可能性が合理的に認められれば十分です。
したがって,加害者に故意があったかどうかという点は,本来,告訴の受理に影響を及ぼすべきでないと考えるのが適切でしょう。

ただし,被害者が積極的に加害者を誤解させる行動を取った場合など,明らかに加害者が誤解しているであろう場合には,告訴の受理に問題の生じることが考えられます。本件ではそのような事情のないことを確認の上,告訴の受理に至ったものと考えられます。

ポイント
故意があったことが立証できる必要はない
故意があった可能性があれば足りる
被害者が積極的に加害者を誤解させた事実がない,という点は必要

結果

警察に告訴が受理された結果,加害者に対する捜査が実施されるに至りました。

弁護士によるコメント

本件では,職場の関係者という交友関係を持つ間柄での事件であったため,単なる交際関係のトラブルなのか,犯罪に当たる事件なのか,という点は問題になり得るところでした。
この点,被害者と加害者の間には職場の先輩後輩という以上の深い関係はなく,男女関係のもつれに警察を巻き込もうとした事件ではないと理解してもらうに至ったことが,円滑な告訴の受理につながりました。

また,従前から加害者が被害者に一方的な好意を寄せていた可能性をうかがわせる事情も多数あり,その事情を具体的に積み上げることで,加害者が自身の性的欲求を被害者にぶつけた事件であるという全体像を明確にできた点も,非常に有益なポイントであったと言えるでしょう。

密室内での性犯罪は,客観的な証拠に乏しい場合が非常に多いため,告訴受理の上で捜査に踏み切ってもらうことに一定のハードルが生じやすい傾向にありますが,弁護士とともに適切な対応を尽くすことで,被害者の方の負担をできるだけ軽減しながら告訴受理を実現することが容易になるでしょう。

犯罪被害に強い弁護士をお探しの方へ

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