【交通事故解決事例】後遺障害診断書に記載のなかった脳の障害について検査等を依頼し,高次脳機能障害9級を獲得。2,400万円超の賠償金となった事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

当時小学生であった被害者が,複数人で下校中,横断歩道のない十字路交差点の付近にて,車道を歩いて横断しようとしていましたが,そこに左方から直進してきた四輪自動車が衝突し,事故が発生しました。

被害者を含む2名が受傷しましたが,被害者の被害が最も重く,頭部に強い衝撃を受けた結果,事故後の数日間は意識のはっきりしない状態が続いていました。
その後,幸いにも意識を取り戻し,リハビリなどを通じて改善に努めましたが,1年ほどの通院を経ても脳機能への悪影響が残っている状況でした。具体的には,感情の起伏が激しく制御できない,記憶がうまくできない,簡単な算数の計算に時間がかかってしまう,といった症状が見られました。

弁護士に相談された当時,被害者は別の弁護士に依頼しており,後遺障害に関する手続を予定しているとのことでした。依頼した弁護士の案内で後遺障害診断書の作成を受けたものの,同弁護士からは後遺障害等級認定を受けることは難しいとの案内を受けていました。

被害者の親権者から,後遺障害の見込みや適切な解決方針に関して相談があり,弁護士が対応することとなりました。

法的問題点

①過失割合

本件は,過失割合に大きな争いのある事故でもありました。被害者は,信号のない十字路交差点付近を横断していたとの主張でしたが,相手保険は,交差点上の横断ではなかったことを理由に,直進道路上を被害者が横断したという事故類型であるとの主張をしているようでした。

この点,被害者の主張する事故類型では,基本過失割合が20%となります(【34】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用 以下同じ

また,被害者が「児童」に該当すること,複数人の下校中であって「集団横断」に該当することを主張していたため,「児童」による-5%の修正と「集団横断」による-5%の修正で,合計10%被害者の過失が低下する主張内容でした。そのため,修正後の過失割合は10:90となります。

一方,相手保険の主張する事故類型は,基本過失割合が30%となります(【33】図)。

また,相手保険によると,被害者の「直前横断」が原因で事故が発生したとのことであったため,「直前横断」により+10の修正,被害者「児童」につき-10%の修正がなされ,修正後の過失割合も30:70との内容でした。

以上から,被害者と相手保険の主張する過失割合には,「10:90」と「30:70」という見解の開きが見られる状況でした。

ポイント
被害者は10:90を主張
相手保険は30:70を主張

②高次脳機能障害

被害者は,事故によって頭部を受傷し,事故後の数日は意識がはっきりしない状況であったため,高次脳機能障害を理由とした後遺障害等級認定の可能性が考えられました。

この点,高次脳機能障害は,事故後に一定期間の意識障害があったかどうかが重要な判断要素の一つとなっています。具体的には,以下の基準が用いられています。

要件具体的基準
①6時間以上のこん睡状態JCS3桁又はGCS8点以下
②1週間以上の意識障害JCS1~2桁又はGCS13~14点

【GCS】(E・V・M 3つの合計値が小さいほど重篤)

【E】開眼
4自発的に眼を開けている
3呼びかけにより眼を開ける
2痛みにより眼を開ける
1眼を開けない
【V】最良言語反応
5見当識あり
4会話はできるが混乱
3発語はできるが不適当
2発声はできるが理解不可
1反応なし
【M】最良運動反応
6命令に応じる
5痛みの部位を認識する
4痛みで屈曲反応(逃避)
3痛みで屈曲反応(異常)
2痛みで伸展反応
1反応なし

被害者の場合には,事故直後のGCSが7点,1時間後にはGCS9点と確認されていることが分かりました。これは,意識障害レベルとして高次脳機能障害の認定基準を満たし得るものであり,具体的に高次脳機能障害の有無を検査等する必要があり得ると考えられます。

また,被害者には感情制御能力や記憶能力の低下など,高次脳機能障害の影響と思われる複数の支障が出ており,等級認定のためにも,その後の生活や成長のためにも,脳機能の障害を正しく判断してもらう必要があると見受けられました。

ポイント
事故後の意識障害は,高次脳機能障害の基準を満たし得る
感情制御能力や記憶能力の低下は,高次脳機能障害の影響と思われる

③現在の代理人弁護士との関係

被害者には,既に依頼をしている代理人弁護士がおり,後遺障害の申請手続を具体的に勧めようとしているところでした。そのため,こちらが依頼を受けるか,現在の弁護士に依頼し続けるかは,被害者の親権者に判断してもらうことが必要となります。

被害者にとっては,現在の弁護士から等級認定が困難と案内されている点が大きなネックになっているようでした。脳機能の障害が疑われる中で,後遺障害等級認定が困難と指摘されれば,疑問を抱くのもやむを得ないところでしょう。

この点,当方が状況を確認すると,現在の弁護士との関係では,そもそも高次脳機能障害の等級認定に向けた準備を行っていない可能性が推測されました。というのも,高次脳機能障害の等級認定を受けるためには,必要な検査結果を後遺障害診断書に記載してもらうことに加え,他にも複数の必要書類がありますが,当時は,後遺障害診断書に脳の症状の記載がない上,他の必要書類を一切準備していない状況であったのでした。

そのため,当方からは,当方へ依頼されるかどうかはともかく,高次脳機能障害について等級認定を目指すための必要な動きは取るのが適切であろうことをご案内することとしました。

弁護士の活動

①受任方法

まずは,被害者側が当方に依頼されるかどうかをしっかりと検討してもらうべきであると考えました。そのため,とりあえず脳機能に関する適切な検査を受けていただく目的で,弁護士から通院先の候補をご案内し,検査のための通院を実施していただくこととしました。

検査の結果,やはり被害者には高次脳機能障害特有の症状が見受けられ,適切に後遺障害等級認定を受けるための手段を尽くすべきであるということが判断できました。これを踏まえ,弁護士からは,当方にご依頼された場合の流れや方針を具体的にお伝えし,被害者の親権者に検討を依頼しました。

ご検討された結果,従前の代理人弁護士とは解約の上,当方にご委任される方針を固められました。

ポイント
まずは必要な検査を受けていただき,ご依頼の場合の方針を確定
後遺障害に関する方針を比較の上で弁護士選びをご検討いただいた

②過失割合

過失割合に関しては,そもそも主張している事故態様が異なるところ,その中心的な違いは交差点上(又はその直近)か,交差点上でない場所か,という点でした。
この点,事故に居合わせた他の児童の話や,事故状況に関する両当事者の説明を確認したところ,事故はほぼ交差点上で発生しており,事故発生場所に関する主張は被害者側の言い分が合理的であることが判断できました。おそらく,相手保険は,被害者の感情的な希望を踏まえ,根拠に乏しいながらも過失割合を争ってきたのであろうと推測されました。

そのため,弁護士からは,過失割合は被害者の主張通りにするべきであることを改めて主張するとともに,自社の言い分を維持するのであれば,相応の根拠を添えて主張するよう求めました。
交渉の結果,相手保険が主張を撤回するに至り,過失割合は10:90での解決となりました。

ポイント
過失割合の争いの中心は,事故が起きた場所
交差点上の事故であることの根拠を示し,相手に主張の撤回を促した

③高次脳機能障害

本件では,高次脳機能障害が後遺障害等級認定の対象となるかどうか,という点が結果を決定的に左右する問題と言えました。損害賠償額にすれば千万円単位で変わる可能性も少なくないポイントです。

そのため,弁護士からは後遺障害等級認定のための必要な試みを可能な限り尽くすご案内を実施しました。主な活動内容は,以下の通りです。

後遺障害等級認定のための活動内容

1.対面でのコミュニケーション
→被害者の状態を直に確認し,障害の内容を具体的に把握しました。

2.障害の具体的影響を確認
→障害が具体的な行動に現れたエピソードを可能な限り洗い出しました。

3.専門医への通院・検査
→検査のための通院を改めて行い,診断書の提出に必要な症状の確認を行いました。

4.医師の見解を聴取
→検査結果を確認した医師に見解を聴取し,等級認定を目指す方針を具体的にしました。

5.その他提出書類の内容を検討
→高次脳機能障害の等級認定に必要な他の書類についても,記載内容を詳細に吟味検討しました。

6.後遺障害診断書の再作成
→従前の後遺障害診断書を破棄し,高次脳機能障害の等級認定に適した後遺障害診断書の再作成を依頼しました。

以上を踏まえ,後遺障害の申請に適した書面作成を行い,弁護士にて等級認定手続を進めることとしました。

活動の結果

上記の各活動の結果,後遺障害等級としては高次脳機能障害について9級の認定が獲得できました。高次脳機能障害が等級認定の対象となった点で,被害者にとって非常に有益な認定結果となりました。

また,後遺障害9級を踏まえ,過失割合や各損害額を相手保険と交渉した結果,2,400万円を超える賠償額の獲得が実現されました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,セカンドオピニオンとして相談を受けたことが受任のきっかけとなったケースでした。
一般的に,セカンドオピニオンで直接受任まで至るケースはそれほど多くありません。セカンドオピニオンで現在の方針にお墨付きが得られれば,弁護士を変更する理由がないためです。一方,現在の弁護活動や方針に疑問がある場合,その点を漫然と見過ごしてしまえば,取り返しのつかない不利益につながる可能性もあります。

本件の場合,後遺障害診断書の作成後であったものの,その提出前に弁護士への相談を実施されたことがとても適切でした。作成された後遺障害診断書を提出してしまえば,今回と同じ後遺障害等級の認定は得られずに終わった可能性が高いでしょう。
弁護士への依頼中に他の弁護士へ相談することは,心理的に難しいことも少なくありませんが,特に問題が重大な場合には,手続が進んでしまう前に他の弁護士へ相談し,見解を仰いでみることも選択肢に入れてよいのではないでしょうか。

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【交通事故解決事例】顔面醜状障害による12級で,逸失利益に関する丁寧な主張立証により300万円を超える増額を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が,車道脇を自転車で直進走行し,信号のある十字路交差点を青信号に従って通過しようとしたところ,対向から右折で交差点に進入した単車と衝突する事故が発生しました。互いに渋滞する車列をすり抜けるように走行していたため,相互に相手の発見が遅れた,という事情がありました。

事故の結果,被害者は主に顔面を受傷し,額は数十針も縫うケガとなりました。1年以上に渡る通院治療を尽くしたものの,額に線状痕が残り,顔面の醜状障害として後遺障害12級の認定を受けました。

その後,相手保険から賠償額の提示を受け,金額の合理性や増額余地の有無などを確認するために弁護士への相談を希望されました。

法的問題点

①過失割合

保険会社の提示では,被害者の過失割合が10%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,信号のある交差点で,双方ともに青信号に従っていた場合,直進自転車と対向右折車(四輪車・単車とも含む)の間で発生した交通事故では,基本過失割合が10:90とされています(【249】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,実際の事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正すべき事情がなければ,被害者の過失を10%とする解決が合理的と思われます。
ただし,信号のある交差点での対向車間の事故においては,信号表示が問題になり得ることに注意が必要です。互いが交差点に入った時の信号表示が本当に青信号であったか,進入後に信号が変わっていないか,という事情によって,過失割合が変動する可能性も低くはないためです。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件における被害者の通院期間は,1年を超えるものでした。その期間や後遺障害が残るほどの受傷であったことを踏まえると,慰謝料は決して低く見積もられるべきではないと考えられます。
しかし,相手保険の金額提示では,傷害慰謝料が35万円とされていました。これは,1年を超える通院を要したケースとしては非常に低額と言わざるを得ないものでした。しかも,35万円という提示に特段の理由は見受けられず,漫然と低額の提示をしているようでした。
そのため,傷害慰謝料については,根拠ある金額での解決が適切であり,重要な交渉対象となることが想定されました。

ポイント
傷害慰謝料は,ケガの程度や通院期間を主な基準として計算する
傷害慰謝料の提示額35万円は,受傷内容や治療期間を踏まえると非常に低額

③後遺障害慰謝料

後遺障害等級が認定された場合,傷害慰謝料とは別に,後遺障害慰謝料が発生します。これは,将来に渡って後遺障害が残存することに対する精神的苦痛を対象とする慰謝料です。
後遺障害慰謝料は,後遺障害等級によって金額が定められていますが,12級の場合,自賠責基準の金額が94万円,裁判基準の金額が290万円とされています。

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

本件では,自賠責基準に沿って94万円の提示がなされており,いわば最低額というべき提示内容でした。
保険会社が自賠責基準で提案を行うのは,その金額で合意ができれば自社の負担なく解決ができるためです。一方,被害者としては,自賠責から自分で回収しても同額が受領できる以上,相手保険とその金額で合意するメリットがほとんどありません。
後遺障害慰謝料についても,十分な増額交渉が必要であると判断される状況でした。

ポイント
後遺障害等級が認定されると,等級に応じた後遺障害慰謝料が発生する
相手保険の提示は自賠責基準であったため,増額交渉の余地がある内容

④後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,「労働能力喪失率」がゼロであれば,逸失利益もゼロとなります。労働能力が失われていない以上,収入減少もないのは当然ともいえます。
そして,顔面の醜状障害は,必ずしも労働能力を失わせるものとは考えられていません。顔面に醜状が残ったとしても,直ちに労働ができなくなるわけではないからです。
そうすると,顔面の醜状が全く労働に影響しないと考えるならば,労働能力喪失率はゼロ,逸失利益もゼロ,という計算になってしまうため,逸失利益の有無が争点になり得ます。

本件では,相手保険による逸失利益の提示が130万円という金額でした。一定の逸失利益を認めているようですが,実際はそうではありません。これも,後遺障害慰謝料と同じく,自賠責保険から出る金額をそのまま計上しているというのみです。
後遺障害12級に対しては,自賠責保険から総額224万円の保険金が支払われます。このうち,慰謝料は94万円であるため,残りの130万円を逸失利益として計上している,というわけです。

このような提示を行う保険会社のメッセージとしては,「逸失利益はないと考えている」というものであると想像されます。本件の醜状障害のように,後遺障害の類型として逸失利益が発生しない可能性があるものだと,保険会社がこのようなスタンスを示してくることは決して珍しくありません。

弁護士としては,逸失利益についてどのような解決を目指すべきか,検討が必要な問題でした。

ポイント
顔面の醜状は逸失利益が生じるかどうか明確でない
相手保険の提示は自賠責基準と同額であった

弁護士の活動

①過失割合

過失割合については,まず,基本過失割合の確認を行いました。
この点,被害者から事故状況の聴取をしたところ,相手保険が被害者の過失10%の根拠とした事故態様に間違いがないことが確認できました。そのため,基本過失割合が10%となる点は了承することが適切な内容でした。

また,信号がある場合,信号表示に争いの生じることがあり得ますが,双方の交差点進入時,及び衝突時のそれぞれについて,互いの対面信号が青色表示であったことにも争いがないと確認が取れました。
そのため,過失割合については10%を了承し,争わない方針とすべきである旨が判断できました。

なお,本件は,渋滞中の車列の間をすり抜けるように交差点に進入したという事情があり,被害者が相手の単車を確認するのが遅れたきっかけにもなっているため,この点を過失割合に反映させるかどうかは問題となり得るところです。
しかし,本件の場合,互いに渋滞をすり抜けて走行しているため,相手の確認が遅れた原因は双方にあると考えられる状況でもありました。このような場合に過失割合を争おうとすると,相手からの強い反発が見込まれ,解決が困難となる場合も否定できません。争った場合の結果も不透明であることから,過失割合を争うことにあまり合理性がないと考えられる内容でした。

そのため,本件では渋滞があった点を過失割合の主張に反映させないことを選択し,早期円満な解決を目指しました。

ポイント
基本過失割合の根拠となった事故態様が一致することが確認できた
信号表示は互いに青であったことに争いがないと確認できた

②傷害慰謝料

傷害慰謝料については,被害者の受傷結果や通院期間を踏まえると,100万円を超える増額可能性があり得るものと見受けられました。そして,相手が低額な提示をしていることに特段の根拠がないという特徴も見受けられました。

そこで,弁護士からは,一般的に根拠があるとされる裁判基準を踏まえた金額提示の上で,相手保険の提示が根拠に基づかない低額な水準であることを指摘するとともに,低額な金額提示を維持するのであれば,その具体的な根拠を示すよう求める方針を取ることにしました。
相手の提示額に根拠が見受けられない場合は,まず相手の根拠の指摘を求めるのが端的です。そもそも,低額の提示をするのであれば,相応の根拠を添えて行うべきであって,正しい対応を求めたのみである,という言い方もできるでしょう。相手が交渉に必要なステップをちゃんと踏んでいないのであれば,まずはそのステップを踏んでから,初めてこちらが検討する順番となるべきです。

本件では,上記の方針を取ったところ,保険会社から低額な提示の根拠が示されることはなく,概ね当方の請求に沿った慰謝料額での合意となりました。具体的には,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多いところ,裁判基準の95%に当たる金額での合意となりました。

ポイント
低額な慰謝料の提示は相応の根拠を添えて行われるべき
根拠のない提示に対しては根拠を出すよう求めるのが有力な交渉方法

③後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料についても,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多く見られます。この点,12級の慰謝料の場合,裁判基準が290万円のため,80~90%は232万円~261万円となります。そうすると,提示額の94万円(=自賠責基準)からは概ね150万円前後の増額余地があり,後遺障害慰謝料についても十分な交渉が必要であると想定されました。

この点,後遺障害慰謝料について裁判基準を踏まえた金額で請求できる根拠は,まさにその後遺障害等級が認定されたという事実です。後遺障害慰謝料は,後遺障害等級が認定されるような症状が残ったということを理由に支払われるものであるため,等級認定されれば通常は支払われるべき,ということになります。
裏を返せば,後遺障害慰謝料を減額交渉しようとするのであれば,その等級が認定されたことが不適切である,という内容の主張になるのが通常です。もっとも,これは保険会社の主張としては困難と言わざるを得ません。

そのため,弁護士からは,保険会社の低額な提示を無視する方針とし,端的に裁判基準を踏まえた金額交渉を実施して,相手保険の了承を引き出すことにしました。交渉の結果,傷害慰謝料と同じく,裁判基準の95%に当たる金額での合意となり,一般的な目標額を超える水準での解決に至りました。

ポイント
後遺障害慰謝料は,等級認定されれば他の理由なく支払われるべきもの

④後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益に関しては,まず,後遺障害に伴う労働への影響を確認することとしました。
この点,被害者は介護職に従事していましたが,特に顔面の醜状が仕事への制限をもたらす立場にはありませんでした。顔面の醜状が直ちに労働能力に影響を与えやすい業種としては,モデルや営業職,一部の接客業などが挙げられますが,被害者はそのどれにも当てはまっておらず,醜状障害そのものが労働能力を低下させるとの主張は難しいことが見込まれました。

もっとも,被害者の醜状障害は,額の深い傷を原因とするものであったため,顔面の一部に知覚の低下をもたらすものでもありました。これは,神経症状と呼ばれるもので,局部の神経症状は労働能力に一定の影響があると考える余地がありました。
そこで,弁護士からは,12級相当の労働能力の喪失が,症状固定後5年間低下する可能性があることを主張し,相手保険に逸失利益の増額を求めることとしました。その結果,当方の主張が受け入れられ,症状固定後5年分の逸失利益が支払われる内容での合意となりました。

ポイント
顔面の醜状そのものは労働能力に影響しない業務内容であった
醜状に伴う神経症状を根拠に逸失利益を請求し,合意に至った

活動の結果

各慰謝料と逸失利益の交渉を尽くした結果,従前の提示額約270万円に対して,約580万円での示談成立となり,310万円を超える増額が実現されました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

顔面の醜状障害は,後遺障害逸失利益の金額計算が難解な後遺障害の一つです。顔面に醜状があっても,身体的な機能が低下するとは限らないため,逸失利益はないのではないか,という発想があるためです。
一方,醜状を残すほどの受傷がある場合,醜状以外にも何らかのダメージが残っており,後遺障害等級はそのようなダメージを含めた認定になっていることがあります。この点を踏まえれば,一定の逸失利益は観念することもでき,逸失利益に交渉の余地があり得ます。

本件では,後遺障害等級認定の中で顔面部の知覚低下を含む認定であることが明記されていたため,これを逸失利益の交渉における重要な根拠の一つとしました。醜状障害に伴うダメージの内容は,単に主張するのみでなく,その裏付けを示す形を取ることで,相手保険の合意を引き出しやすくもなります。

具体的な交渉方法・内容は個別のケースによるため,一律の指摘は困難ですが,一度交通事故に強い弁護士に相談を実施の上で,見解を仰いでみるのは重要なことだと考えます。
弁護士の敷居を決して高く感じる必要はありませんので,一度お気軽にご相談されてみることをお勧めいたします。

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【交通事故解決事例】併合11級の金額交渉を代行し,交渉開始から約1か月半で440万円の増額を獲得して解決に至った事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】


・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が単車を乗車中,直進走行していたところ,前方の四輪車が左折を試みたため,被害者は巻き込み事故に遭い,鎖骨骨折などのケガを負いました。
治療終了後,鎖骨の変形及び肩関節の可動域制限が残ったため,後遺障害併合11級が認定されました。

等級認定の後,相手保険から損害賠償額の提示を受けた段階で,金額の合理性や増額の可能性などに関する弁護士へのご相談を希望されました。

法的問題点

①過失割合

相手保険からの提示内容では,過失割合が被害者20%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,直進単車と,先行する左折四輪車の間で発生した巻き込み事故は,基本過失割合が20:80とされています。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正するべき事情がなければ,被害者の過失割合を20%とする解決が合理的となりそうです。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件で,被害者は300日(10か月)を超える治療を要していました。この期間は決して短いものではなく,骨折後の回復に時間を要したことが容易に想像されます。
しかし,保険会社から示された傷害慰謝料は32万円と非常に低額なものでした。この金額は,むち打ちで2か月程度の通院を行った場合に合意されやすい慰謝料と同水準であり,受傷内容や治療を要した期間と比較すると十分な金額とは評価し難いものと思われました。

傷害慰謝料が低額となっている大きな要因は,被害者の実通院日数が少なかったためであると見受けられました。骨折の場合,頻繁にリハビリ通院を行うのでなく,月単位で期間を空けて経過観察の通院をする形となることも少なくありませんが,その場合は実通院日数が少なくなりがちです。実通院日数が少ないケースでは,それを根拠に相手保険が低額な慰謝料の提示を行うことが一定数見られます。

ポイント
傷害慰謝料は,受傷内容や通院期間を基準に計算する
実通院日数が少ないことを理由に低額の提示となっていた

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

具体的な金額交渉においては,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点になる場合が多く見られます。本件でも,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点となることが見込まれる状況でした。

【労働能力喪失率】

被害者の後遺障害は,肩関節の可動域制限12級と鎖骨の変形障害12級で,併合11級でした。この点,可動域制限は労働能力に直接影響を及ぼすものですが,変形障害は必ずしも労働能力に影響を及ぼすものではありません。変形したから労働能力が低下するとは限らないためです。
そのため,このようなケースでは,可動域制限のみが労働能力を低下させているものと評価し,12級相当の労働能力喪失率を採用することが考えられます。

労働能力喪失率

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

もっとも,本件では12級相当の14%でなく,11級相当の20%で計算された逸失利益が提示されていました。そのため,労働能力喪失率に関しては有益な内容になっていると思われました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間は,労働能力の喪失が収入減少をもたらす期間を指します。基本的には,収入を得ている間(=労働ができる間)が労働能力喪失期間となります。
そして,特段の事情がない場合,症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされるのが原則です。一方,67歳までの期間とすることが不適切な事情がある場合には,個別の内容を踏まえて検討することになります。

この点,被害者は症状固定時53歳であったところ,相手保険の提示内容では,60歳までの7年間のみが労働能力喪失期間とされていました。一般的な給与所得者は60歳で定年を迎えることから,保険会社の提示では60歳までを労働能力喪失期間とすることが多く見られます。本件でも,特に個別の事情を考慮することなく機械的に60歳までとの計算をしていることが見受けられました。

しかし,被害者の労働能力喪失期間が本当に60歳までに限定されてよいかどうかは,被害者の労働に関する現状や見込みを踏まえて判断することが必要です。そもそも,原則としては67歳までの期間を採用するべきであって,機械的に60歳までと区切ることが当然に認められるものではありません。

そのため,労働能力喪失期間については具体的な検討や交渉の余地があるものと思われました。

ポイント
労働能力喪失率は有益な内容と思われる
労働能力喪失期間は交渉の余地がありそう

弁護士の活動

①過失割合

過失割合については,本件の事故態様における基本過失割合と整合する20%の提示であったため,弁護士の方では,過失割合の修正要素に当たる事情の有無を確認することとしました。

修正要素とは,基本過失割合をそのまま採用することが不適切な事情を指し,事故類型ごとに修正要素とされるものが定められています。左折四輪車の巻き込み事故であれば,左折車がウインカーを出していない(合図なし),左折前に徐行していない(徐行なし)といった事情が,単車側の過失を減少させる修正要素となり得ます。

もっとも,本件では特段の修正要素が確認されませんでした。そのため,過失割合については20%を了承する前提で金額交渉を実施することとしました。

ポイント
過失割合については修正要素の有無に注意
本件では修正要素がないとの結論に

②傷害慰謝料

傷害慰謝料は,特に理由を示すことなく金額提示がされていたため,相手保険の提示内容に合理的な根拠が見受けられない状況でした。そうすると,被害者側が相手保険の提案を了承する理由もないということになります。

弁護士からは,相手保険の提示金額では了承が不可能である姿勢を毅然と示すとともに,いわゆる裁判基準を念頭に置いた金額以外には合意の余地がないとのスタンスを強く示すことにしました。
また,被害者は,骨折後の治療に際して,鎖骨バンドと呼ばれる固定器具を数か月間使用し続けるなどの負担を余儀なくされ,骨の癒合がなされるか不安定な期間を過ごしたという経緯もあったため,これらの事情を踏まえた主張も行うこととしました。具体的には,実通院日数が少ないことが被害者の精神的苦痛を低下させる事情とは言えず,かえって通院治療では改善しない(=患部を固定し続けるしかない)という状況を強いられた精神的苦痛を考慮すべきとの主張を合わせて行うこととしました。

ポイント
裁判基準を念頭に置いた金額以外では合意が不可であることを毅然と主張
慰謝料の根拠として,長期間骨折部の固定を強いられたことを指摘

③逸失利益

【労働能力喪失率】

労働能力喪失率については,相手保険の提示が11級相当の20%とされており,被害者にとって最も有益な内容であったため,そのまま採用することとしました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間については,相手保険の提示が60歳までという短期間であったため,これを改めることを求める交渉を実施しました。

前提として,被害者の労働状況や後遺障害の影響を確認することとしました。
被害者は,作業療法士の仕事をしており,日常生活の機能改善を図るリハビリテーションの対応を主な業務としていました。そして,リハビリテーションに伴って必要となる補助などの力仕事に,後遺障害の影響が強く生じていることが分かりました。
業務に必ず発生する力仕事への悪影響は,被害者が労働を継続する限り生じし続ける重大なものであり,不用意に労働能力喪失期間を限定するべきではないと判断できました。

また,60歳以降に労働が予定されているか,という点についても具体的な確認を行いました。この点,被害者の場合には,そもそもの定年が60歳ではなく63歳であること,被害者の希望によって67歳までの就業も可能であることが確認できました。
そのため,被害者の労働能力喪失期間を60歳で区切ることには全く根拠がなく,原則である67歳までの期間を採用すべきであると主張する方針を取りました。

活動の結果

慰謝料及び逸失利益について,弁護士より相手保険との交渉を試みたところ,慰謝料についてはいわゆる裁判基準満額,逸失利益は67歳までの期間を採用するという当方の請求通りの解決に至りました。
その結果,従前の提示額約740万円に対して,約1180万円での合意となり,440万円を超える増額に至りました。合意額は,裁判を行った場合の請求額に匹敵する水準でした。

なお,交渉で裁判基準の満額が獲得できることはほとんどないため,本件は特に交渉が奏功した結果であったと言えるでしょう。

また,弁護士への依頼から賠償金の受領に要した期間は約1か月半であり,満額合意と早期解決を両立する結果にもなりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,慰謝料と逸失利益のそれぞれに一定の交渉余地があり,かつ相手保険の主張に明確な根拠が見受けられないというものでした。この場合,根拠のない主張を受け入れる意思はない,という点をまず明確に示すことが有力な進め方になりやすいでしょう。
本件でも,弁護士から毅然とした主張を行うことから開始したことにより,こちらのスタンスが相手保険にはっきりと伝わり,早期の高額解決につながりました。

また,本件の特筆事項として,相手保険の満額回答が挙げられますが,この点にも毅然とした請求方針が影響したと思われます。具体的な根拠を添えて毅然と主張したことで,保険会社はこちらが訴訟を辞さないであろうことを感じ取ったため,満額回答をしてでも早期に交渉で解決しようとした,と考えられます。

金額の主張に根拠があるか,どのような根拠を主張すべきか,といった点は,まさに弁護士が交渉に際して重要視すべき点であり,弁護士以外には検討が困難なことでもあります。金額交渉に際して弁護士依頼をしていただくことの有益さを改めて確認する事件となりました。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

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親族間で事故が起きた場合の補償を完全網羅。弁護士依頼のメリットや注意点も徹底解説

●家族間の事故では保険が利用できないのか?

●家族間の事故で保険が利用できる条件は?

●自賠責保険は利用可能か?人身傷害保険は利用可能か?

●家族間の事故については弁護士に依頼すべきか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,家族間の交通事故についてお困りの方に向けて,家族間の事故で利用できる保険やその条件などを解説します。

家族間の事故で自動車保険に生じる問題

家族間の事故が起きた場合,自動車保険の利用には「免責」という問題が生じます。免責とは,保険金の支払がなされないことを指します。

事故の加害者が被害者に損害賠償を行うことをサポートする保険として,代表的なものがいわゆる対人賠償保険ですが,対人賠償は,被害者が加害者の家族である場合を免責の対象としています。そのため,被害者である家族の損害を,通常通り対人賠償保険で賄ってもらうことはできず,他の手段で損害を補填する必要があります。

ただし,被害者が家族だからといって必ず免責になるわけではありません。例えば,自分の車との事故で家族が被害に遭ったとしても,運転者が自分でなく友人であったならば,対人賠償の免責事由には該当しないため,自分の車の保険で対人賠償を利用し,家族への損害賠償をしてもらうことができます。

もっとも,家族間の事故では免責の問題が生じやすいことに変わりはないため,家族が被害者となる交通事故では,利用できる保険について十分な確認をしたいところです。

ポイント
家族間の事故では免責の問題が生じる
免責の場合,保険金は支払われない

保険が利用できる条件①対人賠償保険

対人賠償保険は,加害者が被害者に損害賠償をする際に利用する保険です。保険が加害者の代わりになって,加害者の支払うべき金銭を被害者に支払うことを内容としています。言うならば,加害者となった場合に生じてしまう金銭的な負担を代わりに背負うことで,加害者の経済的なマイナスを防ぐための保険ということできるでしょう。

そのため,対人賠償保険は他人への賠償責任を対象とすることが大原則です。家族が被害者の場合,加害者と被害者の財布が共通するので,被害者が加害者に賠償を求めることが考えづらく,賠償責任を補償する前提を欠いていると理解されています。
したがって,家族間の事故では,対人賠償保険の免責事由に該当する可能性が非常に高いでしょう。

もっとも,免責事由は具体的に定める必要があるため,免責となる範囲も保険の約款で厳密に定められています。そのため,家族関係があったとしても,対人賠償保険の免責に当たらないケースがあり得ます。

対人賠償保険が免責となる主な家族の範囲

加害者自身
加害者の父母・配偶者・子(※)

※保険によっては,同居されている場合に限定されている場合もあります。

例えば,兄弟姉妹が被害者の場合,免責の対象とされておらず,対人賠償保険が利用できる可能性が考えられます。また,別居の家族が被害者の場合,同じく免責の対象とされていない可能性があり得ます。

対人賠償保険は,補償される範囲が最も広い保険であることが多いため,利用できるかどうかは正確に確認することをお勧めします。

ポイント
対人賠償保険は家族間の事故で利用できないことが多い
免責となる家族の範囲を正しく把握するのが適切

保険が利用できる条件②自賠責保険

自賠責保険は,全ての自動車運転者に加入が強制されている自動車保険で,被害者に対する最低限の補償を内容としたものです。自賠責保険の場合,支払われる金額や計算方法は全て決まっており,交渉の余地がありませんが,早期に確実な保険金の支払いをすることで,被害者に対する一定の補償を実現するための保険と位置付けられています。

この自賠責保険は,家族間の事故でも原則として利用が可能であるとされています。自賠責保険を支払う相手は,加害者にとって「他人」であることが必要ですが,自賠責保険の取り扱い上は,家族でも「他人」と扱われるのが原則です。ここでの他人とは,加害者と同程度に運行を支配していたとは言えない人物,という意味合いと理解されています。

ポイント
自賠責保険は家族間の事故でも原則として利用可能

保険が利用できる条件③人身傷害保険

人身傷害保険は,事故によって身体に損害を受けた場合,その損害に対して保険金が支払われる,という内容の保険です。対人賠償保険が事故相手の人身損害への支払の保険とすれば,人身傷害保険は自分の人身損害への支払を行う保険,という区別ができるでしょう。

この人身傷害保険は,家族間の事故でも利用が可能であることが通常です。家族間の事故では,対人賠償保険が免責になる代わりに,人身傷害保険で損害をカバーしてもらうことによって,損害の補填を図ることが一般的な進め方となりやすいでしょう。

ただし,人身傷害保険にも免責事由はあり,免責に該当すれば保険金が支払われません。代表的な免責事由としては,故意又は重大な過失で事故を起こしてしまった場合が挙げられます。故意に自損事故を起こして同乗した家族にケガを負わせた,という場合だと,自分はもちろん家族に対しても人身傷害保険の支払がなされない可能性が高くなります。

人身傷害保険の主な免責事由としては,以下のものが挙げられます。

人身傷害保険の主な免責事由

1.故意または重大な過失によって事故が生じた場合
2.無免許運転の場合
3.飲酒運転の場合
4.麻薬や覚せい剤など,薬物を使用した状態であった場合
5.自殺行為や犯罪行為によって事故が生じた場合

人身傷害保険は,自賠責保険で賄われない部分も補償するため,非常に重要な役割を発揮することが多いです。また,自賠責保険金の請求に必要な手続も行ってくれるので,自分で自賠責保険金を請求する負担も生じないことが通常です。
家族間の事故では,基本的に人身傷害保険を通じた金銭的補償を得ることが適切になりやすいでしょう。

ポイント
人身傷害保険は家族間の事故でも利用できることが通常
故意や重過失の事故では,免責とされることがあり得る

家族間の事故で弁護士に依頼すべきか

家族間の事故で弁護士に依頼すべきかどうかは,どのような保険が利用できるかによって変わりやすいでしょう。

①対人賠償保険の利用

対人賠償保険が利用できる場合,被害者が得られる賠償金額は弁護士の有無によって変わることが通常です。一般的に,弁護士が交渉等を行うことで対人賠償からの支払金額は増額するため,弁護士への依頼を積極的に検討するのが有益でしょう。

特に,自動車保険の弁護士費用特約が利用可能である場合は,弁護士費用の負担なく弁護士に依頼し,増額を目指すことが可能になりやすいです。そのため,弁護士費用特約の有無をあわせて確認し,利用ができる場合には積極的に利用するようにしましょう。

②自賠責保険の利用

自賠責保険への請求は,弁護士の有無によって金額が変わりません。そのため,自賠責保険金を増額するために弁護士へ依頼する,ということは現実的でないでしょう。

もっとも,自賠責保険金を請求するために必要な手続は,煩雑であることが少なくありません。必要な書類も多岐に渡りやすく,請求を行うことの負担は大きくなりやすい所です。
そのため,請求手続を弁護士に代行してもらう目的で弁護士に依頼することは有力な手段でしょう。

ただし,この場合には負担する弁護士費用と見合っているか,十分に検討することをお勧めします。弁護士が手続を代行しても金額が変わらない以上,請求の手間をお金で買う形にならざるを得ません。弁護士費用の金額が,請求の手間を回避するためのコストとして釣り合っていると思えるかどうかは,重要な判断材料とするべきです。

弁護士費用が見合っていると判断できる場合には,弁護士への依頼が有力な手段になるでしょう。

③人身傷害保険の利用

人身傷害保険金の金額は,その計算方法が保険約款に定められているため,異なる計算方法を求めるような交渉の余地はありません。そのため,慰謝料の金額を交渉する,といったことは不可能であり,弁護士の有無によって慰謝料額が変わることは通常ありません。

もっとも,重大な事故で,後遺障害等級の認定がなされた場合には,逸失利益について交渉の余地があり得ます。そのため,後遺障害等級の認定を目指す場合や,後遺障害等級認定後の逸失利益の増額を目指したい場合には,弁護士への依頼が有力な手段になるでしょう。

なお,人身傷害保険を利用する場合にも,弁護士費用が見合っているかの検討は行うことが適切です。結果的に弁護士の有無で金額が変わらない場合もあり得るため,そのようなときに弁護士費用の負担が大きくなり過ぎないか,といった点は十分に確認するのが望ましいでしょう。

④注意点

家族間の事故では,当然ながら一方の家族が加害者で,他方の家族が被害者となります。そして,被害者の受け取る金額が大きくなれば,被害者は得をする一方で加害者は損をし,逆に被害者の受け取る金額が小さくなれば,被害者が損をする一方で加害者が得をすることになります。
そのため,家族間で互いの利益が相反する「利益相反」という関係に立ちます。

この点,被害者のために弁護士を依頼するときには,利益相反の関係にある家族がどこまで関与するか,慎重な判断が必要です。少なくとも,弁護士への依頼を加害者側の家族が行うのは不適切であるため,弁護士への相談や依頼をどのような形で行うべきかは,事前に弁護士と十分に確認しましょう。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

家族間の事故の場合,利用できる自動車保険の範囲が事故の内容や当事者の関係によって異なってくることがあります。しかし,その内容をご加入保険から正しく案内されていないケースも散見されており,自分でもしっかりと確認することが大切です。
また,特に事故の規模が大きい場合は,弁護士に依頼することで補償額が増額することも考えられますので,弁護士へのご相談も有力でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

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自損事故ではどこからどんな補償が受けられる?慰謝料は交渉できる?弁護士費用特約があれば依頼すべき?自損事故の疑問を全て解決

●自損事故の場合はどのような救済が受けられるか?

●自損事故で慰謝料の増額を図りたい場合はどうすべきか?

●自損事故で弁護士費用特約が使えないと言われたが本当か?

●自損事故の対応は弁護士に依頼すべきか?

というお悩みはありませんか?

このページでは、自損事故の対応でお困りの方に向けて、自損事故の場合に得られる補償の内容や特徴弁護士に依頼するメリットデメリットなどを解説します。

自損事故で受けられる救済

自損事故の場合,経済的な救済を受けるためには,自分の加入する自動車保険を利用するほかないのが通常です。

自損事故では,自分に危害を加えた加害者が存在しないため,加害者への請求というものが観念できません。そのため,他人に請求する余地はない,ということになります。

この点,自動車保険では,自損事故で損害を被ってしまった場合にも一定の補償をする保険が存在するため,その保険に加入している限り,保険金の支払という形で金銭的な救済を受けることが可能です。
自損事故が起きてしまった場合には,自分の保険でどのような補償を受けることができるか,速やかに確認するようにしましょう。

ポイント
自損事故の救済は自分の自動車保険から受けるほかない

自損事故で補償がある保険①人身傷害保険

人身傷害保険は,事故によって身体に損害を受けた場合,その損害に対して保険金が支払われる,という内容の保険です。対人賠償保険が事故相手の人身損害への支払の保険とすれば,人身傷害保険は自分の人身損害への支払を行う保険,という区別ができるでしょう。

主な内容は以下の通りです。

人身傷害保険の主な内容

1.補償範囲
事故による怪我,死亡,後遺障害などに対して保険金が支払われます。保険金の額は契約内容に基づいて決まります。

2.補償内容
医療費
→怪我の治療にかかった医療費が補償されます。

休業損害
→怪我によって仕事を休む場合,その間の収入の一部を補償します。

死亡・後遺障害
→事故によって死亡した場合や後遺障害が残った場合に保険金が支払われます。

なお,人身傷害保険の支払金額は,その計算方法が保険の約款に定められており,約款に従って算出されることになります。

ポイント
人身傷害保険は,自分の人身損害を補償してくれる保険
支払金額の計算方法は約款に定められている

自損事故で補償がある保険②自損事故保険

自損事故保険は,文字通り自損事故の場合に利用可能な保険です。一般的には,人身傷害保険が含まれない保険内容の場合に,自動的に付帯されることが多く見られます。

自損事故保険の内容は,人身傷害保険の補償金額が縮小したもの,とイメージすると分かりやすいことが多いです。人身傷害保険がない場合に自損事故でケガを負ったときには,自損事故保険があることで,人身傷害保険ほどではないものの一定の保険金を受け取ることが可能になります。

自損事故保険の主な内容

1.補償内容

死亡保険金
→事故によって被保険者が死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

介護保険金
→事故によって介護の必要が生じた場合に支払われる保険金です。

入通院保険金
→入院日数又は通院日数に応じて支払われる保険金です。

2.支払方法
→定額払いとされているケースが多く見られます。死亡の場合,後遺障害の場合など,事前にケースごとの保険金額が設定されており,これに沿った支払いとなります。

3.メリット・デメリット
→保険料が安価になりやすい一方,補償の内容に限りがある点がデメリットです。

自損事故で補償がある保険③搭乗者傷害保険

搭乗者傷害保険とは,自動車に搭乗中に交通事故が発生し、その結果として乗車していた人が怪我をしたり死亡したりした場合に、補償金を支払う保険です。この保険は、運転者だけでなく同乗者も対象となることが特徴的です。

また,搭乗者傷害保険は,一定の条件を満たした場合に,これに応じた定額の保険金が支払われる,という内容になっていることが一般的であり,大きな特徴でもあります。
支払われる金額が決まっているため,早期に受領することが可能になりやすく,事故後の損害を早期に補填するための保険として活用されることが多いものです。

搭乗者傷害保険の主な内容

1.補償の対象
→契約車両に搭乗中の全ての乗車人(運転者および同乗者)
→車両の事故による怪我、死亡、後遺障害など

2.補償内容

死亡保険金
→事故によって死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

入院・通院保険金
→事故による怪我で入院や通院が必要となった場合の保険金です。日額で支払われることが一般的です。

手術保険金
→事故による怪我で手術を受けた場合の補償金です。

3.支払方法
→定額払いとされることが通常です。

4.メリット
→定額払いのため,迅速に支払われやすく,経済的負担の軽減につながります。
→同乗者も補償の対象となるため,補償の範囲が広い保険です。

搭乗者傷害保険は,迅速な支払いがなされる有益な保険ですが,一方でその金額には限りがあります。搭乗者傷害保険だけで損害のすべてをカバーするのは現実的でないため,とりあえず一定の支払を受ける,という動きに適した保険ということができます。

ポイント
搭乗者傷害保険は,車の搭乗者に定額の支払を行う保険
迅速な支払いが大きなメリットだが,金額には限りがある

自損事故で補償がある保険④車両保険

車両保険は,事故によって損傷した自動車の損害を補償するための保険です。対物賠償保険が事故相手の物損を補償するための保険であるとすれば,車両保険は自分の物損を補償するための保険である特別できるでしょう。

自動車事故が発生した場合,事故車両をどうするのか,という点は必ず生じることになります。特に重大な事故で車両が自走できない場合には,車両をどのように移動させるかという問題も生じかねませんが,車両保険にはレッカー費用の補償も含まれていることが一般的であるため,車両保険を利用することで車両の適切な処理も可能になります。

ただし,車両保険の中には,自損事故の場合を対象外としているものもあります。車両保険の利用に際しては,加入する車両保険が自損事故も対象に含めたものであるかどうか,十分に確認することが必要です。

ポイント
車両保険は,自分の物的損害を補償する保険
自損事故を対象外としていることもある点に注意

自損事故は慰謝料の増額交渉が可能か

交通事故で弁護士に依頼する主な理由に,慰謝料の増額交渉が挙げられます。交通事故被害者が請求できる慰謝料には,自賠責基準,任意保険基準,裁判基準といった複数の基準があり,弁護士が裁判基準を念頭に慰謝料を請求・交渉することで,慰謝料の増額が実現される,というものです。

しかし,自損事故の場合には慰謝料の増額交渉は行う余地がありません。
自損事故における慰謝料は,自分が加入する人身傷害保険から支払われることになりますが,人身傷害保険で支払われる慰謝料の金額は,保険約款によって明確に定められています。そのため,保険約款で定めた方法以外の計算はあり得ず,交渉の余地もないのです。

人身傷害保険は,保険契約上のサービスであるところ,サービス内容は全て約款で決まっています。保険会社は,契約したサービスの範囲内でのみ支払う義務を負うのであって,それ以上の請求や交渉に応じる義務が一切ないため,慰謝料を交渉する余地もないということになります。

ポイント
自損事故は慰謝料を交渉する余地がない

自損事故は弁護士費用特約が利用可能か

交通事故に関して弁護士に依頼をする場合,弁護士費用特約の利用が有益です。弁護士費用特約が利用できれば,弁護士に依頼するための費用を保険が負担してくれるため,基本的に自己負担なく弁護士に依頼することが可能になります。

しかしながら,自損事故では弁護士費用特約の利用ができません。自損事故で弁護士に依頼するという場合には,弁護士費用を自己負担することが必要となります。

弁護士費用特約は,交通事故被害者が加害者へ請求する場合に利用できる保険です。代表例としては,被害者が加害者の保険会社から賠償額の提示を受けた際,といったケースが挙げられるでしょう。被保険者が被害者の立場にあって,第三者である加害者へ損害賠償を請求する,というときの弁護士費用を負担してくれるのが,弁護士費用特約となります。
一方,自損事故の場合,金銭は自分の保険から支払われます。この場合に弁護士費用特約が利用できてしまうと,保険会社としては自社への金銭請求に必要な弁護士費用を自社で負担する,という不合理な関係になってしまうため,自損事故は弁護士費用特約の対象外となるのです。

ポイント
自損事故は弁護士費用特約の利用ができない

自損事故の対応は弁護士に依頼すべきか

自損事故の場合に弁護士へ依頼すべきかは,個別の内容によって判断が異なる問題です。具体的には,弁護士への依頼によって経済的な利益が生じ得るか,という点を基準に検討することが適切でしょう。
以下のような場合には,弁護士に依頼すべき場合と考えられます。

①後遺障害等級が見込まれる場合

事故の規模や受傷の程度が大きく,後遺障害等級の認定が見込まれる場合,どのような等級が認定されるかによって,受領できる金額に大きな差が生じます。

もっとも,自損事故では自賠責保険の等級認定を獲得することができないため,実際に等級を認定するのは自分の加入保険ということになります。人身傷害保険を利用している場合,保険会社が医療機関から取り付けた診断書等を踏まえ,自社で等級認定し,認定された等級に対する保険金の支払を行う流れを取ることが通常です。

この点,漫然と保険会社に手続を委ねるのではなく,等級認定に有用な医学的意見や検査結果などを提出し,積極的に等級認定を目指す動きを取ることは有力な手段となり得ます。
そして,積極的な後遺障害等級認定の獲得を試みる場合は,弁護士に依頼し,具体的な方法・内容を判断してもらうことが適切でしょう。

②逸失利益の交渉が見込まれる場合

自損事故で支払を行う人身傷害保険は,支払われる保険金額の計算方法が全て約款で定められています。そのため,慰謝料を交渉する余地はありません。

もっとも,後遺障害等級が認定された場合の逸失利益については,交渉の余地が残されていることも少なくありません。主な理由は,逸失利益が生じる期間(=労働能力喪失期間)に交渉の余地があり得るためです。
逸失利益は,その金額が大きくなりやすく,交渉が奏功した場合のメリットも大きくなりやすいため,交渉の余地があるかどうか,弁護士の判断を仰ぐことをお勧めします。

ポイント 弁護士依頼すべき場合
上位の後遺障害等級の獲得を目指す場合
後遺障害逸失利益の交渉を試みる場合

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

自損事故の場合、自分の加入する自動車保険からの補償を受けることになるため、その手続や金額、運用などは被害事故の場合とは根本的に異なります。
そのため、弁護士に依頼する実益がないケースも多数ありますが、後遺障害が見込まれるような重傷事故の場合では弁護士委任も有力な選択肢になり得ます。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

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交通事故の加害者側が無保険だった場合のリスクや対処法を徹底解説

交通事故に遭ってしまったとき、加害者が任意保険に入っていなかった現実を知った瞬間、多くの被害者は強い不安を感じるでしょう。

任意保険に加入していれば保険会社が示談交渉を代行し、治療費や慰謝料の支払いもスムーズに進みます。

しかし、加害者が「無保険」だった場合、被害者自身が加害者と直接交渉しなければならず、十分な賠償を受けられないまま時間だけが過ぎてしまうケースも少なくありません。

そこで本記事では、交通事故の加害者側が無保険だった場合のリスクや対処法を詳しく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

交通事故に伴う無保険状態とは

交通事故における「無保険」とは、任意保険に加入していない状態です。

法律で義務付けられている自賠責保険は対人賠償の最低限を保障しますが、物損や高額な慰謝料、後遺障害に対する補償は任意保険が担う部分が大きく、任意未加入だと被害者・加害者双方に大きなリスクが生じます。

無保険の背景には保険料節約の意図や加入手続きの未実施、あるいは保険切れなど複数の理由があり、事故発生時にはまず事実確認と適切な初動対応が重要です。

法律上の責任は加入有無で軽減されるものではなく、最終的な賠償責任は本人に帰属します。

交通事故の加害者が無保険だった場合のリスク

交通事故の加害者側が任意保険に加入していないと、被害を受けた側もいくつかリスクが生じます。

ここからは、交通事故の加害者が無保険だった場合のリスクについて詳しく解説します。

加害者と直接に示談交渉を進める必要がある

任意保険がない場合、保険会社が間に入って示談を調整することができないため、被害者は加害者本人と直接やり取りする必要があります。

直接交渉では、加害者の知識不足や資力不足、あるいは誠意の欠如により話がこじれることが多く、感情的対立や不当な低額提示で示談が決まらないリスクが生じるのです。

被害者は治療費の発生タイミングと金額見込みを説明し、証拠を残しつつ交渉を行う必要があります。

しかし、実務的には加害者の支払能力を確認しておかないと回収見込みが立たず、長期化や未回収の可能性が高まります。

示談書の作成や分割払いの合意といった法的文書の整備も重要です。

十分な賠償金や慰謝料を受けられない可能性がある

自賠責保険の限度額は傷害・後遺障害・死亡それぞれ限界があり、重度の人身事故では実害額が自賠責の範囲を超えることがよくあります。

任意保険に加入していない加害者からは、治療費・逸失利益・慰謝料・将来の介護費用などを満額で回収するのが困難です。

被害者は実際の損害との差額を負担せざるを得ない事態に直面してしまうでしょう。

さらに、加害者の資力が乏しい場合は、裁判で勝訴しても強制執行での回収に時間と費用がかかり、結果的に被害者が経済的・精神的に大きな負担を抱えるリスクが高まります。

自動車の損害額を払ってもらえない可能性がある

物損に関しても任意保険がないと修理費用や買替え費用の補償を加害者本人に請求するしかありません。

加害者に資金がない場合は被害者が自己負担で応急修理をしたり、修理を先延ばしにせざるを得ないでしょう。

特に全損や高額修理が必要なケースでは車両価値の評価や減価償却の交渉が必要になり、査定額を巡る争いも発生しやすいです。

被害者が自動車ローンを抱えている場合は残債と補償の差額問題も生じ、生活再建に与える影響が大きくなります。

早期に見積や証拠写真を確保し、支払不能リスクに備えた対応を検討することが重要です。

相手無保険時の対応策①相手本人への請求

交通事故の被害に遭った場合,多くは加害者が加入する自動車保険の担当者が対応し,その保険会社から金銭を受領する,という流れになります。
しかしながら,保険担当者の取り扱いが受けられるのは,加害者が任意保険に加入している場合のみです。加害者が任意保険に加入していない場合には,自動車保険の担当者が対応することもなければ,保険会社が賠償額を案内したり支払ってきたりすることもありません。
そのため,相手が任意保険に入っていない場合,被害者自身が積極的に金銭を請求し,獲得することが必要となります。

この点,最も直接的な手段は,加害者本人への請求です。
そもそも,任意保険は加害者本人の代わりに金額交渉や支払を行う立場です。そのため,代わりになる任意保険がない以上は,原則通り本人に請求する,という動きが一般的と言えるでしょう。

しかし,相手本人への請求には,回収リスクが付きまとう点に注意が必要となります。
加害者本人が任意保険に入っていないのは,保険料の負担が困難(又は避けたい)など,経済的な理由のある場合がほとんどです。そのため,相手本人に損害賠償を請求しても,支払う能力がないと開き直られてしまい,回収が十分にできない場合も少なくないのです。
また,加害者本人が律儀に対応し続けるとの期待もできないことが多く,なかなか連絡がつかなかったり,急に連絡が取れなくなったりといったトラブルが生じることも多く見られます。

被害者としては,可能な限り加害者本人への請求という手段は避けて解決したいところです。

ポイント
任意保険は相手本人の代わり
無保険の場合は代わりがいないため,本人への請求が原則
もっとも,適切な対応が期待しづらく避けたいところ

相手無保険時の対応策②自賠責保険への請求

相手が任意保険に入っていなくても,自賠責保険に入っていれば,自賠責保険金の請求はできることが通常です。

前提として,自動車保険には自賠責保険と任意保険の2種類があります。そして,自賠責保険は被害者への最低補償を行う強制加入の保険,任意保険は自賠責保険で補償しきれない部分を補償する加入任意の保険という違いがあります。

自動車保険の種類

種類役割加入のルール
自賠責保険被害者への最低限の補償を行う法律上強制加入
任意保険自賠責保険で補償できない範囲を補償加入するかは任意

自賠責保険の場合,支払われる保険金の内容が明確に定められており,交渉の余地はありません。裏を返せば,請求さえすれば特段の交渉をしなくても定められた保険金を受領することが可能であるため,交通事故被害者の被害が全く補填できない,という問題を回避する役割を持つ保険でもあります。
そのため,加害者が任意保険に入っていない場合には,まず加害者の自賠責保険から自賠責保険金を回収することを目指すのが有力です。

ただし,自賠責保険金は,あくまで被害者を救済するための最低補償を内容とするものです。被害者が被った損害の規模とは関係なく,支払の金額は決まっているため,被害者の損害のすべてをカバーできるわけではない点に注意が必要です。
一般的に,自賠責保険金額は被害者の損害総額を下回ることになりやすいため,損害の一部を円滑に回収する手段,という理解が適切でしょう。

ポイント
任意保険がなくても自賠責保険からの回収が可能
自賠責保険金額はあらかじめ明確にルールが定められている
被害者の損害総額をカバーできるわけではない

相手無保険時の対応策③自分の保険の利用

相手やその保険に期待ができない場合,自分が入っている自動車保険のサービスを活用して損害の回復を図る手段が有力です。

自動車保険には,自分が加害者になってしまった場合の賠償保険(対人賠償,対物賠償)のほか,交通事故によって自分が被ってしまった損害に対する補償をしてくれるものも含まれていることが通常です。保険の内容により,定まった金額を給付するものから,加害者が支払うべき金額を代わりに支払ってくれるものまで様々ですが,その支払が確実に期待できる,という点が非常に大きな長所と言えます。

相手が無保険の場合,どうしても相手本人の対応や支払能力に依存してしまうことが多いため,自分の保険を活用して相手に依存してしまうというリスクを回避することは,非常に有益な方法と考えてよいでしょう。

もっとも,具体的にどのような保険がどのような役割を果たしてくれるかは,事故が発生する前にはあまり把握していないという場合が多いと思われます。そこで,以下では活用し得る自分の自動車保険について,代表的なものを解説します。

ポイント
自分の保険で被害を補償してくれるものもある
確実に支払を得られることが大きなメリット

活用し得る自分の保険①人身傷害保険

人身傷害保険は,事故によって身体に損害を受けた場合,その損害に対して保険金が支払われる,という内容の保険です。対人賠償保険が事故相手の人身損害への支払の保険とすれば,人身傷害保険は自分の人身損害への支払を行う保険,という区別ができるでしょう。

主な内容は以下の通りです。

人身傷害保険の主な内容

1.補償範囲
事故による怪我,死亡,後遺障害などに対して保険金が支払われます。保険金の額は契約内容に基づいて決まります。

2.補償内容

医療費
→怪我の治療にかかった医療費が補償されます。

休業損害
→怪我によって仕事を休む場合,その間の収入の一部を補償します。

死亡・後遺障害
→事故によって死亡した場合や後遺障害が残った場合に保険金が支払われます。

なお,人身傷害保険からの支払金額は,被害者の損害額とイコールというわけではありません。これは,人身傷害保険金額の計算方法が保険約款によって定められており,支払金額は約款に従うものとなるためです。
多くの場合,人身傷害保険金額は被害者の損害を裁判基準で計算した金額には及びませんが,例外的に裁判基準を上回る金額となるケースもあります。

ポイント
人身傷害保険は,自分の人身損害を補償してくれる保険
支払金額の計算方法は約款に定められている

活用し得る自分の保険②無保険車傷害保険

無保険車傷害保険は,交通事故の際に相手車両が保険に加入していない場合や、相手の保険金額が不足している場合に、自分の人身損害に対して補償を受けられる保険です。
文字通り,相手が無保険車の場合に効果を発揮する保険で,その支払金額は加害者が支払うべき金額となる,という点に大きな特徴があります。

ただし,無保険車傷害保険が利用できるのは,死亡事故又は後遺障害を伴う事故に限られます。後遺障害等級の認定がなされるような重大な事故のみを対象とする代わりに,補償範囲が非常に充実した保険ということができるでしょう。

無保険車傷害保険の主な内容

1.補償範囲
死亡事故又は後遺障害等級が認定された事故における人身損害が対象となります。後遺障害のない事故は補償範囲に含まれません。

2.補償内容

死亡保険金
→事故によって被保険者が死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

医療費等
→事故による治療費や通院交通費,休業損害等が補償されます。

死亡事故や後遺障害が残る重大な事故の場合には,この無保険車傷害保険の有無を確認することが重要になりやすいでしょう。最も金額が大きくなりやすく,被害者側の救済にとって重大な役割を果たしてくれるためです。

ポイント
無保険車傷害保険は,加害者の支払うべき金額を支払う被害者の保険
死亡事故又は後遺障害等級の認定される事故でのみ利用可能

活用し得る自分の保険③車両保険

車両保険は,事故によって損傷した自動車の損害を補償するための保険です。対物賠償保険が事故相手の物損を補償するための保険であるとすれば,車両保険は自分の物損を補償するための保険であると区別できるでしょう。

自動車事故が発生した場合,事故車両をどうするのか,という点は必ず生じることになります。特に重大な事故で車両が自走できない場合には,車両をどのように移動させるかという問題も生じかねませんが,車両保険にはレッカー費用の補償も含まれていることが一般的であるため,車両保険を利用することで車両の適切な処理も可能になります。

ポイント
車両保険は,自分の物損を補償する保険

活用し得る自分の保険④搭乗者傷害保険

搭乗者傷害保険とは,自動車に搭乗中に交通事故が発生し、その結果として乗車していた人が怪我をしたり死亡したりした場合に、補償金を支払う保険です。この保険は、運転者だけでなく同乗者も対象となることが特徴的です。

また,搭乗者傷害保険は,一定の条件を満たした場合に,これに応じた定額の保険金が支払われる,という内容になっていることが一般的であり,大きな特徴でもあります。
支払われる金額が決まっているため,早期に受領することが可能になりやすく,事故後の損害を早期に補填するための保険として活用されることが多いものです。

搭乗者傷害保険の主な内容

1.補償の対象
→契約車両に搭乗中の全ての乗車人(運転者および同乗者)
→車両の事故による怪我、死亡、後遺障害など

2.補償内容

死亡保険金
→事故によって死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

入院・通院保険金
→事故による怪我で入院や通院が必要となった場合の保険金です。日額で支払われることが一般的です。

手術保険金
→事故による怪我で手術を受けた場合の補償金です。

3.支払方法
→定額払いとされることが通常です。

4.メリット
→定額払いのため,迅速に支払われやすく,経済的負担の軽減につながります。
→同乗者も補償の対象となるため,補償の範囲が広い保険です。

搭乗者傷害保険は,迅速な支払いがなされる有益な保険ですが,一方でその金額には限りがあります。搭乗者傷害保険だけで損害のすべてをカバーするのは現実的でないため,とりあえず一定の支払を受ける,という動きに適した保険ということができます

ポイント
搭乗者傷害保険は,車の搭乗者に定額の支払を行う保険
迅速な支払いが大きなメリットだが,金額には限りがある

被害事故で自分の保険を使うことは合理的か

加害者が保険に入っていない事故では,自分の自動車保険から補償を受けることが有力な手段ではありますが,一方で「なぜ被害を受けたのに自分の保険を使わなければならないのか」という疑問が生じることもあるかと思います。
確かに,一方的に被害を受けたのであれば,その損害に対する支払は加害者の責任で行われるべきであり,被害者が積極的に自分の保険を活用しなければならない,というのは不合理なように感じられるかもしれません

しかし,被害事故で加害者に任意保険がない場合は,まさに自分の保険が役割を発揮するタイミングである,と理解する方がむしろ適切でしょう。保険は,自分が経済的に大きな損失を被ることがないよう,非常時の支えになってくれることを期待してつけるものです。その非常時は,加害者に保険がない場合も含まれています。
実際,自分の保険の中でも特に補償金額の大きい無保険車傷害保険は,文字通り相手が無保険車であることを前提とした保険です。相手に保険がない時こそ,自分の保険を活用することが望ましいともいえるでしょう。

一方で,加害者に請求しないで保険会社に支払ってもらうと,加害者は支払を免れることができてしまうのではないか,との疑問もあり得ます。しかし,自分の保険を利用しても,決して加害者が支払義務を免れるわけではありません。
保険会社が加害者の代わりに支払った場合,今度は保険会社が加害者に請求する権利を持つことになります。自分の代わりに保険会社が,加害者へ請求する負担を背負ってくれるというわけです。

被害者としては,自分でリスクを負って加害者に請求するのではなく,保険から適切な支払いを受けて,加害者との面倒なやり取りは保険会社にお願いしてしまう,という方針が合理的でしょう。

ポイント
被害者が自分の保険を活用することは不合理でない
むしろ,自分の保険が役割を発揮する重要なタイミングの一つ
加害者への請求は保険会社が代わりに行ってくれる

加害者に自賠責保険もない場合

ここまで,加害者に任意保険がない場合の救済方法を見てきましたが,ケースによっては加害者に自賠責保険すらない場合もあり得るところです。
自賠責保険に加入していない車を運行する行為は,事故が発生しなかったとしても犯罪行為であり,許されるものではありません。しかしながら,現実に加害者が自賠責保険未加入であった場合,犯罪だと糾弾しても金銭が受け取れるわけではありません。被害者が自賠責保険金を受領できないという不都合は残ってしまいます。

このような場合に活用するべき制度として,「政府保障事業」が挙げられます。政府保障事業は,被害者が受けた損害を,加害者に代わって国が填補する制度です。この場合,支払の金額はいわゆる自賠責基準に沿って計算されることとなります。
つまり,政府保障事業は,加害者に自賠責保険がない場合に自賠責保険の代わりをしてくれる制度ということができるでしょう。

政府保障事業の制度を活用したい場合は,各保険会社に問い合わせることで必要な書式を取得することも可能です。

ポイント
加害者が自賠責保険未加入の場合,自賠責保険金も受領できない
政府保障事業を利用することで,自賠責保険相当額を受け取ることが可能

加害者無保険の事故で弁護士依頼をすべき場合

無保険事故では支払能力や対応の誠実さが問題になるため、法的手段や交渉力が必要な場面が多くあります。

ここからは、加害者無保険の事故で弁護士依頼をすべき場合を詳しく解説します。

加害者が誠実に対応せず、示談が進まない場合

加害者が連絡を怠る、支払いを先延ばしにする、あるいは示談条件で揺さぶりをかけるなど誠実な対応をしない場合、被害者は時間的・金銭的に大きな損失を被ります。

弁護士は第三者として交渉窓口を統一し、法的根拠に基づいた請求を行うことで交渉の停滞を打破するのが役割です。

具体的には、損害の証拠整理、内容証明郵便による要求、示談書の法的整備、必要に応じて民事訴訟の提起や仮差押え・仮処分の申立てを行います。

これにより被害者は精神的負担を軽減し、現実的な回収計画を立てられるようになるでしょう。

治療費や慰謝料が自賠責保険の限度額を超える場合

重度の傷害や後遺症が残る場合、将来にわたる逸失利益や高額な介護費用が想定され、自賠責の限度額で全額賄えないことが想定されます。

弁護士は適正な損害額の立証を行い、逸失利益や将来の治療・介護費用を盛り込んだ請求を加害者に対して行います。

さらに、加害者の資力に応じた分割支払や保全措置の提案、加害者側の第三者(家族や勤務先)からの債権回収可能性の調査など、実効的な回収策を設計します。

被害者は専門家の介入で、経済的救済の現実的な道筋を作ることが期待できます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

交通事故被害に遭ったとき,加害者が無保険の場合は加害者本人から賠償金を受領することは現実的に難しい場合が多く見られます。その際には,相手の自賠責保険はもちろん,場合によってはご加入保険から補償を受けることが最も有益な結果になる場合が多いです。
もっとも,保険の確認や方法選択は容易でないため,交通事故に精通した弁護士へのご相談が有力でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

死亡事故で賠償金を獲得するまでの流れは?ポイントや注意点は?弁護士依頼のメリットも詳細解説

●死亡事故で賠償金を受け取るまでの流れが知りたい

●死亡事故で遺族が対応するべきことは何があるか?

●死亡事故の場合の特徴にはどんな点があるか?

●死亡事故で遺族が損をしないためのポイントを知りたい

●死亡事故の対応は弁護士に依頼すべきか?

という悩みはありませんか?

このページでは,ご家族が死亡事故の被害に遭った場合の対応でお困りの方に向けて,死亡事故の場合の流れや特徴弁護士に依頼するメリットや注意すべきポイントなどを解説します。

死亡事故の流れと特徴①保険会社の対応時期

死亡事故被害を受けた場合,遺族側は,基本的に加害者の保険会社による案内を受けることで金銭的な話をスタートすることになります。もっとも,加害者の保険会社は,あまり速やかに遺族への連絡を開始しないことが一般的です。
その主な理由は,遺族側への配慮にあるとされています。大きな不幸があった直後に,保険会社が金銭の話をし始める,という流れは適切でないと考え,一定期間を設けた後に案内を開始することが多いのです。

具体的には,四十九日の後を目安に対応を開始する例が多く見られます。一般的に,四十九日をもって「忌明け(きあけ)」とされ,故人の冥福を祈って喪に服す期間が明けると考えられているため,事故日又は死亡の日を基準に四十九日の期間を計算し,その期間後に対応を開始することとなりやすいでしょう。

これは,裏を返せばあまり早期に金銭賠償のやり取りがスタートしない,ということにもなります。しかし,場合によっては迅速な連絡の開始を希望するケースもあり得るでしょう。
迅速なやり取りを希望したい場合には,弁護士に依頼し,弁護士に相手保険との連絡窓口を担ってもらうことが有効です。連絡等に応じる負担なく,早期に金銭賠償に必要な手続を進めてもらうことが可能になります。

ポイント
保険会社の対応開始時期は,四十九日後が多い
早期のやり取りを希望する場合は,弁護士委任が有効

死亡事故の流れと特徴②戸籍の取り付け

死亡事故の場合,他の事故とは異なる対応が必要となりますが,その代表的なものが戸籍の取り付けです。

死亡事故の場合,被害者自身は請求ができないため,被害者から損害賠償請求権を相続した相続人が,加害者側に請求する立場となります。もっとも,相続人が誰か,何人いるか,という点が分からないと,請求額を明確にすることができません。それぞれの相続人が相続する割合が分からないためです。
また,加害者側としても,相続人の範囲や人数を正しく把握できないのは大きなデメリットにつながります。相続人が一人だけだと思って金銭的解決をしたのに,その後にほかの相続人が現れたとなると,トラブル化してしまうことは想像に難くありません。

そのため,死亡事故の場合,被害者の出生から死亡までの戸籍を全て取り付けることが必要とされています。これは,自賠責保険から保険金を受領するためにも必要とされるため,当事者の判断で省略することも困難です。
被害者の出生から死亡までの戸籍を一通り取り付けることで,被害者の家族関係を概ね特定することが可能になります。また,被害者の親が既に他界している場合には,親の死亡記載がある戸籍を別途取り付ける必要が生じやすいところです。

ポイント
被害者の出生から死亡までの戸籍が必要
被害者の親の死亡記載がある戸籍も必要となりやすい

死亡事故の流れと特徴③収入の根拠資料を揃える

死亡事故の場合は,被害者が健在であれば得られたであろう収入(死亡逸失利益)が賠償の対象となります。そのため,被害者が得られたであろう収入を計算する前提として,被害者の直近における収入額を確認することが必要です

具体的な根拠資料としては,以下のようなものが挙げられます。

主な収入の根拠資料

1.事故前年分の源泉徴収票
→給与所得者(会社員)の場合

2.事故前年分の確定申告書
→事業所得者(自営業者)の場合

3.事故前年分の所得証明書
→複数の収入がある場合

4.事故直近の給与明細
→勤務開始後の期間が短い場合

また,死亡事故における収入の根拠資料としては,年金収入に関する資料も必要です。
年金収入がある被害者の場合,死亡事故によって年金収入が得られなくなってしまうこととなるため,健在であれば得られたであろう年金も逸失利益の対象となります。
この点,年金額の根拠資料としては,「年金額改定通知書」の提出が最も端的でしょう。年金額改定通知書は,1年間の年金額が記載されたもので,年金額が改定された年度の6月頃に受領するのが一般的です。年金額改定通知書が見つからない場合には,管轄の年金事務所で再発行してもらい,取得することも有力です。

ポイント
死亡逸失利益を計算するため,収入額を特定する
死亡事故では,年金の逸失利益も生じる

死亡事故の流れと特徴④金額交渉の方法

死亡事故では,加害者の加入保険と被害者遺族(相続人)との間で必要なやり取りを行うことになります。もっとも,相続人が全員関与するとなると,手続が煩雑になるばかりでなくやり取りも進まなくなりかねないため,一般的には遺族代表者が相続人全員を代表する形で対応することになりやすいでしょう。

誰が遺族代表者として対応するかは個別の家族関係によりますが,相続人のうち,対外的な対応や金銭面のやり取りに最も長けた人とすることが多く見られます。ほかには,被害者と最も近い関係にあった成人を遺族代表者とする場合も多数あるところです。

ただ,遺族の中に十分な金額交渉や手続対応のできる人がいるとは限らず,対応の負担などが大きくなってしまうケースも少なくありません。そのような場合には,弁護士への依頼が非常に有力な選択肢となるでしょう。
弁護士に依頼することで,誰が遺族代表者として対応するかという悩みがなくなるのみならず,肝心の金額面についても適切な解決が可能になります。死亡事故は損害額が大きくなりやすいものでもあるため,判断が難しい場合は積極的に弁護士への相談を検討することが有益でしょう。

ポイント
金額交渉は加害者の保険担当者と遺族代表者との間で行う
遺族代表者に代えて弁護士に依頼することが有力

死亡事故の流れと特徴⑤過失割合の争い

死亡事故においても,過失割合の争いが生じる場合は少なくありません。特に,死亡事故のように損害が大きな事故では,過失が若干違うだけでも金額にすると非常に大きな差異につながるため,双方ともに過失割合の検討は慎重に行うことが多くなります。

この点,死亡事故の特徴として,過失割合の争いを解決することに時間がかかりやすい,という点が挙げられます。それは,加害者の刑事処分を待つことになりやすいためです。

過失割合を検討するための資料として,「実況見分調書」を用いることが広く行われています。実況見分調書とは,刑事手続における捜査資料の一つで,捜査機関による「実況見分」の結果を書面にまとめたものです。そして,死亡事故における実況見分とは,事故発生場所や事故態様などについて,立会人の指示説明をもとに特定し,記録化することを言います。
死亡事故では,被害者が立会人となることができないので,加害者立ち会いでの実況見分調書が作成されます。つまり,実況見分調書によって,加害者が事故状況をどのように説明しているかがわかる,ということです。

加害者の保険会社は,過失割合に争いがある場合,加害者の言い分を確認するために実況見分調書の取り付けを希望することが多く見られます。もっとも,この実況見分調書の取り付けは,基本的に加害者の刑事処分が決まった後にしか行うことができません。
したがって,過失割合に争いがあり,加害者の保険会社が実況見分調書を踏まえての検討を希望するとなると,どうしても刑事処分の後にしか過失割合の交渉が進まない,という事態が生じやすいのです。
死亡事故の刑事処分は,数か月~1年後にようやく行われるという場合も多いため,その間は待機を強いられることもあり得ます。

死亡事故は,損害額が大きいため交渉に時間を要する傾向にありますが,過失割合の争いがある場合には特に長期化の可能性がある,という特徴が指摘できるでしょう。
なお,被害者側であれば,捜査中の検察庁から実況見分調書を取得できる場合もないわけではありません。そのようなルートで取得ができれば,幾分早まることも考えられます。

ポイント
過失割合に争いがある場合,実況見分調書を取り付けることが多い
実況見分調書の取り付けは刑事処分の後になるため,時間がかかりやすい

確認ポイント①親族固有の慰謝料

交通事故に際しては,慰謝料(=精神的苦痛に対する賠償)が生じますが,死亡事故の場合,被害者本人のみでなく親族に対する慰謝料も発生し得ることに大きな特徴があります。親族の慰謝料は,被害者本人に対する慰謝料とは別途生じるもので,「親族固有の慰謝料」と呼ばれます。
被害者の死亡によって,親族にも多大な精神的苦痛が生じることは避けられません。そのため,被害者の死亡に伴う親族の苦痛を金銭換算したものが,親族固有の慰謝料と位置付けられる慰謝料です。

親族固有の慰謝料は,基本的に被害者と同居していた家族を対象としたものです。具体的な対象者や金額は個別のケースに寄りますが,被害者と関係が近く深いほど,金額が大きくなる傾向にあります。

裁判例における親族固有の慰謝料額の目安

配偶者概ね100~300万円
概ね100~200万円
概ね100~200万円
その他家族概ね50~100万円

また,親族固有の慰謝料は,自賠責保険においても,遺族の慰謝料という形で支払の対象とされています。

親族固有の慰謝料 自賠責基準

遺族1人の場合550万円
遺族2人の場合650万円
遺族3人以上の場合750万円
被害者に被扶養者がいる場合200万円加算

確認ポイント②逸失利益の計算

①生活費控除

死亡事故における逸失利益(死亡逸失利益)の計算に際しては,後遺障害逸失利益とは大きく異なる点があります。それは,生活費が必要なくなった分を考慮して計算する必要がある,ということです。

後遺障害の逸失利益は,以下の計算式で計算されるのが通常です。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

一方,死亡事故では,逸失利益が生じたという経済的なマイナスがある一方,今後の被害者の生活費が発生しなくなったという経済的なプラスもあると考えられています。そのため,逸失利益の計算においては,この両方を踏まえて計算を行うことになるのです。

具体的な死亡逸失利益の計算においては,「生活費控除」という形で行われます。生活費控除は,基礎収入のうち一定の割合は生活費として費消されていたはずであるとみなし,基礎収入から一定額を割り引く方法で計算されます。

例えば,独身男性の場合だと生活費控除率は50%とされます。基礎収入の50%は生活費で消えていたはずであるから,逸失利益としては支払わない,という考え方になるのですね。
したがって,40歳で年収500万円の独身男性が死亡した場合の死亡逸失利益は,以下の通り算出されます。

死亡逸失利益(40歳年収500万円の独身男性)
=500万円×50%×(労働能力喪失率=100%)×27年ライプニッツ※

※67-40=27年のため

なお,主な生活費控除率は以下の通りです。

①一家の支柱 被扶養者1人:40%
②一家の支柱 被扶養者2人以上:30%
③女性(主婦・独身・幼児等):30%
④男性(独身・幼児等):50%

②年金収入

年金収入に関する逸失利益は,事故がなければ得られていたであろう年金収入を対象とするものです。そのため,逸失利益の対象期間は,「事故がなければ健在であったであろう期間」ということになります。
具体的には,死亡時の年齢を基準とした平均余命を用いて計算することが一般的です。平均余命までは健在であったであろう,とみなし,その期間を対象に年金収入の逸失利益を計算します。

なお,生活費控除を行うことは,年金の場合でも同様です。

具体的な計算式は,以下の通りです。

死亡逸失利益(年金)
=「基礎収入=年金収入額」×(1-生活費控除率)×「平均余命に対応するライプニッツ係数」

確認ポイント③自賠責保険金と比較すべき場合

死亡事故の場合,自賠責保険金の金額と加害者から受領できるであろう金額を比較し,加害者側への請求を試みるかどうか検討,判断することがあります。なぜなら,自賠責保険金の方が大きな金額となる場合,加害者側に請求してもコストだけが発生してしまい,メリットがないためです。

自賠責保険金額との比較が適切な場合としては,以下のようなケースが挙げられます。

自賠責保険金額と比較すべきケース

1.被害者の過失割合が大きい
→過失割合を差し引くと,自賠責保険金より小さい可能性がある

2.被害者の収入がない又は少ない
→逸失利益がない場合,自賠責保険金より小さい可能性がある

個別の対応方針は,具体的な内容を踏まえての判断が必要になるため,一度弁護士への相談を試みられることをお勧めします。

死亡事故の注意点

死亡事故の場合,加害者側への請求権を持つのはそれぞれの相続人です。そして,各相続人が相続する範囲は,その相続分によって決定することになります。
そのため,各相続人は,自分が相続する範囲について独自に加害者側へ請求できます。裏を返せば,他の相続人が相続した範囲については,勝手に交渉をしたり請求したりすることはできません。

加害者の保険会社と交渉する場合や,弁護士に依頼する場合は,全ての相続人が一緒になって行うのか,一部の相続人だけが行うのか,という点を必ず明確にしましょう。

死亡事故で弁護士に依頼するメリット

交通事故の中でも,死亡事故では弁護士依頼するメリットの大きい場合が多く見られます。具体的には,以下のような事情が挙げられるでしょう。

①増額幅の大きさ

交通事故は,弁護士がいる場合にはいない場合と比べて賠償額が大きくなる傾向にありますが,死亡事故だと,元々の損害額が大きい関係で,弁護士の有無による金額の差も大きくなりやすいです。特に,一家の支柱として家計を支えてきた人物や,若くして被害に遭った人物などの場合には,その傾向がより強く現れやすいでしょう。

死亡事故による被害は極めて大きく,それだけに適切な金銭賠償の獲得は不可欠です。弁護士への依頼は,適切な金銭的解決のため非常に重要なものということができるでしょう。

②手続の煩雑さ

死亡事故では,戸籍をはじめとした資料の収集・提出や,金額計算に必要な確認など,解決のための手続が煩雑になりやすく,遺族側の対応負担も多くなりやすいものです。しかし,死亡事故による精神的負担に加えて,それらの手続負担に耐えることは決して容易ではありません。

この点,弁護士に依頼することで,煩雑な手続を弁護士に任せることができ,対応の負担を非常に大きく軽減することが可能になるでしょう。

③早期着手

一般的な死亡事故の取り扱いとして,加害者の保険会社は四十九日後の対応開始となることが多く見られます。ただ,これでは概ね2か月程度の間,何も解決の動きが進まないまま時間だけが流れることになり,早期解決は図りづらいと言わざるを得ません。

この点,弁護士へ早期に依頼することで,加害者の保険会社に対して四十九日の前から動き出してもらい,弁護士との間で必要な手続を進めてもらうことが可能になります。対応の負担を軽減しつつ,早期の処理を求めることもできるというのは,弁護士に依頼した場合だけの大きなメリットと言えるでしょう。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

死亡事故は,その被害の大きさでは交通事故の中でも最大のものです。まず,身近にご不幸があった方には心よりお悔やみ申し上げます。
金銭賠償との関係では,その被害の大きさに見合った金額を確実に受領される必要がありますが,相手保険会社に任せていてはそれは困難です。ぜひ,今後の生活のためにも交通事故に精通した弁護士への依頼を検討されてみてください。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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交通事故で加害者に処罰を望まない場合の対応方法|弁護士の役割まで徹底解説

交通事故の被害に遭われた方は、怪我の治療や示談交渉、加害者の刑事処分など、さまざまな問題に直面します。

とくに、加害者が深く反省している場合、「重い処罰までは望まないが、適正な賠償は受けたい」という複雑な思いを抱えることは少なくありません。

適切な対応を誤れば、処罰意思の表明が賠償に不利に働くのではないかと不安を感じる方もいらっしゃいます。

本記事では、交通事故の被害者が加害者の処罰を望まない場合に、その意思を法的に正確に伝える方法や、被害者自身の賠償問題への影響について詳しく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

被害者が処罰を望まない意思を伝える具体的な方法と注意点

交通事故の被害者の方が「加害者に重い処罰は望まない」と考える場合、加害者の刑事手続きに影響を与える「宥恕(ゆうじょ)」の意思として法的に扱われます。

この意思を伝える方法は、口頭ではなく、後から証拠となる書面によって行う必要があります。

示談書に「処罰を望まない」旨を記載する

交通事故の損害賠償問題(民事)と加害者の刑事処分(刑事)を同時に解決する最も一般的な方法は、示談書に宥恕の意思を明記することです。

結論、この方法が推奨されるのは、賠償問題が解決したことと、処罰を求めない意思表明が一体となるため、法的な関係性が明確になるからです。

示談書には、「被害者は、本示談をもって加害者による損害の賠償を受け入れたものとし、加害者に対する刑事処罰を求めないことを表明する」といった文言を盛り込めます。

この示談書は、後に検察官が加害者を起訴するかどうかを判断する際、被害者の処罰感情が和らいでいることを示す決定的な証拠として扱われます。

ポイントとして、被害者の方がこの意思を伝えるのは、必ず賠償額(示談金)に納得し、受け取りを確約した後に限定してください。

賠償額が確定する前に意思を伝えてしまうと、後の交渉で不利になる可能性があります。

(参考文献:民法 第709条、刑事訴訟法 第248条)

検察官宛てに「嘆願書(加害者有利)」を提出する

示談書とは別に、被害者の方が個別に加害者の処罰軽減を求める嘆願書を、事件を担当している検察官宛てに提出することも可能です。

嘆願書は、示談の成立とは独立して、被害者の純粋な処罰感情の緩和を直接的に検察官に訴えるための手段となります。

嘆願書には、加害者が事故後に真摯に謝罪や反省をしている点、示談が成立している点などを記載し、「よって、検察官におかれては、加害者に対して寛大な処分(不起訴処分など)を下していただきたい」という旨を明記します。

注意点は、嘆願書に一度署名をしてしまうと、後からその内容を撤回することは困難です。

必ず内容を吟味し、ご自身の処罰感情と賠償額に納得した上で、提出するかどうかを決定するようにしてください。

処罰を望まない意思が加害者の刑事手続きに与える影響

被害者が加害者に処罰を望まないという「宥恕の意思」は、加害者の刑事処分に対して大きな影響を受けます。

宥恕の意思があることは、加害者の刑事処罰が最も軽い処分、すなわち不起訴処分となる可能性を高めます。

不起訴処分となれば、加害者には前科はつきません。万が一、検察官が加害者を起訴したとしても、裁判官は被害者の宥恕の意思を情状として最大限考慮します。

これにより、懲役刑や禁錮刑などの重い実刑ではなく、執行猶予付きの判決や、罰金で済む略式命令となる可能性が高まるのです。

交通事故の処罰を望まない場合の弁護士の役割

加害者に処罰を望まない被害者の方にとって、弁護士に依頼することは、単に賠償金を獲得する以上の大きなメリットがあります。

ここからは、交通事故の処罰を望まない場合の弁護士の役割について詳しく解説します。

適正な賠償額の算定と獲得

被害者側の弁護士の重要な役割は、被害者が受けた損害に見合った、最も高額な弁護士基準(裁判基準)による賠償金を獲得することです。

処罰を望まないという意思とは関係なく、弁護士は保険会社が提示する低額な基準ではなく、裁判実務に基づいた適正な慰謝料額を算定し、交渉によって確実に被害者の利益を守ります。

保険会社は、自社の基準で低い賠償額を提示することが多いため、弁護士が介入し、法的な根拠に基づいた請求を行うことで、賠償額を大幅に増額できるでしょう。

加害者への間接的な意思伝達

加害者側から嘆願書の提出や示談交渉を求められた際、被害者の方が直接対応するのは精神的な負担が大きいものです。

弁護士が被害者の代理人となることで、加害者やその弁護人との交渉窓口を一本化できます。

これにより、被害者の方は煩雑な交渉から解放され、治療に専念できるようになるでしょう。

処罰を望まない意思表明のタイミングや形式についても、弁護士が被害者の方の意思を確認した上で、法的に最も適切な方法で加害者側に伝達します。

感情と実利の切り分け

被害者の方は、加害者の反省の度合いを見て「重い処罰は不要」と考える一方で、「怪我や生活の被害に対しては十分な賠償を受けたい」という複雑な思いを抱えます。

弁護士は、処罰感情という感情的な側面と、適正な賠償金獲得という実利的な側面を明確に切り分け、交渉を進められます。

被害者の感情に寄り添いつつも、示談交渉においては法的な基準に基づいて冷静に判断するよう助言し、被害者の方が感情に流されて不利益な示談をすることを防げるでしょう。

交通事故の被害者が適切な解決を目指すための行動ステップ

加害者の処罰を望まない場合でも、被害者の方が適切な賠償を獲得し、事件を円満に終結させるために、以下のステップで行動することが重要です。

ステップ1:まずはご自身の治療と賠償問題の解決を優先する

加害者の刑事処分を心配する前に、何よりも優先すべきは被害者ご自身の怪我の治療と、損害の確定です。

示談交渉は、治療が終了し、将来的な後遺障害の有無が確定した後に行うのが原則です。

損害額が確定していない段階で安易に示談や処罰意思の表明をしてしまうと、将来発生する可能性のある損害について賠償を受けられなくなるおそれがあります。

ステップ2:示談交渉に入る前に弁護士基準の賠償額を把握する

保険会社から示談の提案があったとしても、その金額に安易に合意してはいけません。

示談交渉を始める前に、必ず弁護士に相談し、ご自身の損害が最も高額な弁護士基準(裁判基準)でいくらになるのかを正確に把握しておくべきです。

保険会社は、自社の基準(任意保険基準)や自賠責保険の基準など、低額な基準で慰謝料を提示します。

弁護士が介入し、弁護士基準を適用することで、提示額が2倍~3倍に増額するケースも珍しくありません。適正額を把握することで、交渉で不利になることを防げます。

ステップ3:処罰を望まない意思は「示談書」の署名時に伝える

処罰を望まないという意思(宥恕の意思)は、加害者に対する被害者の方の大きな譲歩の一つです。

この重要な意思表示は、適正な賠償額で示談が成立し、示談書に署名捺印する際に、書面に明記する形で伝えるのが安全で、効果的な行動となります。

先に宥恕の意思だけを伝えてしまうと、加害者側が「処罰回避の目的は達した」として、後の賠償交渉で非協力的になるリスクがあります。

示談書の締結をもって初めて意思を伝えることで、被害者の方の利益を最後まで守ることができるのです。

まとめ

交通事故の加害者に処罰を望まないというお気持ちは、加害者の真摯な反省を受け入れた結果であり、事件の円満な解決を目指す上で重要なことです。

この「宥恕(ゆうじょ)の意思」は、加害者の不起訴処分の可能性を高める、法的に極めて重要な要素となります。

しかし、その意思が被害者ご自身の賠償額を減らすことは原則としてありません。

感情的な面と実利的な面を切り分け、「治療の完了」「弁護士基準の適正な賠償金獲得」を確実に実現した上で、示談書を通じて宥恕の意思を伝えることが、被害者の方にとって最も賢明で、後悔のない解決方法です。

【交通事故解決事例】高次脳機能障害を含む併合7級で増額交渉し,逸失利益の丁寧な主張で3,800万円を超える増額を実現したケース

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,高次脳機能障害で後遺障害7級の認定を受けた被害者の金額交渉を行い,3,800万円を超える増額を獲得した事例を紹介します。

事案の概要

被害者は自転車で直進走行していたところ,四輪自動車が左折に際して後方確認を怠ったまま交差点に進入したため,左折巻き込みの被害に遭いました。
被害者は,頭を強く打って頭蓋骨骨折等の重大な傷害を負い,2か月以上の入院を余儀なくされました。その後,1年半を超える通院治療を受けたものの,高次脳機能障害が残存し,後遺障害7級の認定を受けるに至りました。

被害者は,加害者の保険会社から過失割合10%,賠償額約3,537万円との提示を受けた後,金額の妥当性や増額余地の有無などの相談を希望され,弁護士の法律相談を行いました。

ポイント
高次脳機能障害にて後遺障害7級認定済み
過失割合10%,賠償額3,537万円の提示済み

法的問題点

①過失割合

同一方向に進行中の直進自転車と左折四輪車による巻き込み事故は,以下の【289】図または【290】図により,自転車の過失は10%または0%となります。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

自転車の過失は,先行する四輪車を追い抜く形で交差点に進入した場合に10%となりますが,逆に四輪車が後方から追い越して左折してきた場合には0%になる,ということです。
そして,相手保険は自転車に10%の過失がある旨主張しており,上記【289】図を前提としていました。

ただ,被害者に話を聞いてみると,決して四輪車が前にいたとは限らないことが分かってきました。被害者自身は,事故で頭を強く打っており事故状況の記憶が定かでありませんが,車を追い抜いた記憶は特にないと説明していました。一方,車は前にいたと主張しているようですが,ドライブレコーダーはなく,主張の客観的な証拠は見受けられませんでした。
そうすると,被害者に10%の過失があるとの立証は十分にできていない可能性があり,過失割合に一定の交渉余地があるものと判断できました。

もっとも,被害者が事故態様を説明できる状況にないため,あまり強気に過失ゼロを主張できるわけでない点には注意が必要でした。

ポイント
直進自転車対左折四輪車の巻き込み事故は,自転車の過失0~10%
どちらが前にいたかによって過失割合が異なる
本件ではどちらが前にいたかが不明

②逸失利益

本件では,明らかに逸失利益がメインテーマでした。それは,被害者が一級建築士の資格を持って安定した収入を得ていた立場にあったためです。
逸失利益は,将来の収入減少を損害として計算するものであるため,事故前の収入額は逸失利益の金額に直接影響します。本件の被害者は,事故前に1200万円近い年収があり,7級という後遺障害の重さと相まって,逸失利益は相当な金額になる可能性が高い状況でした。

この点,相手保険会社は,後遺障害逸失利益も一定の金額を計上していましたが,その内容は複数の問題点を抱えたものでした。また,弁護士が逸失利益を請求するに際しては,慎重に検討しなければならない点も複数ありました。

【保険会社の提示内容の問題点】

相手保険の提示には,以下のような問題点がありました。

提示内容の問題点

1.労働能力喪失率35%としている

2.労働能力喪失期間60歳までと定めている

「1.労働能力喪失率を35%としている」点

労働能力喪失率は,後遺障害によって労働能力が低下する割合を数値化したもので,具体的な喪失率は後遺障害等級により定められています。
等級ごとの具体的な労働能力喪失率は,以下の通りです。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

上記の通り,後遺障害7級の逸失利益は56%であり,35%は後遺障害9級の場合の数値です。しかし,相手保険会社は労働能力喪失率35%を主張していました。
その背景には,「被害者の労働能力にそれほど影響していないのではないか」という考え方があったようです。ただ,漠然とした推測で逸失利益を減額されるのは明らかに不適切であり,相手保険会社にはそれ相応の主張立証を要求して差し支えないと判断される内容でした。

「2.労働能力喪失期間を60歳までと定めている」点

労働能力喪失期間は,後遺障害によって労働能力が影響を受ける期間を言います。基本的には,仕事のできなくなる年齢までの期間がこれに該当し,特段の事情がなければ67歳までが目安とされます

この点,被害者は,症状固定時51歳の会社員であったところ,相手保険の提示は60歳までを労働能力喪失期間としていました。60歳が定年であり,そこで労働も終わりという前提で計算したのでしょう。

ただ,被害者は資格を持って業務をしている立場にあり,定年を迎えた後も意欲次第では仕事を続けることが可能でした。そのため,労働能力喪失期間を60歳までに制限することに必ずしも合理性はない状況と考えられました。
一方で,勤務先の定年が60歳であることは間違いないため,60歳以降にいくらの収入が得られたであろうか,という計算は非常に困難でした。

ポイント
労働能力喪失率を7級の56%でなく9級相当の35%にしている
労働能力喪失期間を67歳まででなく60歳までに限定している

【減収がない点の取り扱い】

相手保険が労働能力喪失率を35%に制限したのは,事故後に被害者の減収がほとんどなかったことを大きな理由としているようでした。確かに,被害者は,重大な高次脳機能障害を伴う交通事故に遭ったものの,直接の減収は休業に伴う賞与の減額にとどまっていました。被害者の収入には,業務内容の成果に応じて生じる業績給もありましたが,業績給はほとんど減少していませんでした。

逸失利益は,後遺障害による収入減少に対する補償であるため,後遺障害があっても収入減少につながらなければ逸失利益はないとの理解もあり得ます
そのため,減収がないことと逸失利益の請求がどのように整合するか,という点は重要な検討事項でした。

ポイント
逸失利益は将来の収入減少を補填するための賠償
収入減少がない場合に逸失利益が請求できるかは問題になり得る

【定年後の取り扱い】

被害者の勤務先や業務内容を踏まえると,被害者が60歳で定年を迎えた後の仕事に関しては,以下のいずれかの可能性が考えられました。

被害者の定年後の仕事

1.勤務先で嘱託社員として再雇用を受ける

2.独立開業して建築士の仕事を続ける

3.定年を機に仕事を終了する

この点,いずれの選択肢も,収入額は定年前より低額になることが見込まれます。特に,仕事を終えてしまえば収入はゼロになるところです。

そのため,事故がなければ被害者が60歳以降得たであろう収入に関しては,明確な主張立証が難しいと思われる状況でした。言い換えれば,60歳以降は事故当時のように年収が1000万円を超える可能性がほぼないため,60歳までとは区別して丁寧に逸失利益の交渉を行う必要がありました。

ポイント
60歳以降は収入が減少していたであろうことがほぼ明らか
60歳までとは別に,逸失利益を丁寧に交渉する必要がある

弁護士の活動

①過失割合の交渉

過失割合については,被害者の過失が10%と立証できていない,ということを前提に,交渉を試みる方針を取りました。
もっとも,過失がゼロであることを立証することも困難であるため,互いに訴訟で争うリスクを回避するという趣旨で,中間的な5%の過失で合意することを目指す交渉を実施しました。

交渉の結果,実際に被害者の過失5%で解決する運びになりました。
5%という成果はそれほどでもないように見えますが,本件の金額にすると数百万円規模の成果であり,被害者への経済的補償にとっては非常に重大な意味を持つ交渉となりました。

ポイント
0%と10%の主張はいずれも真偽不明
中間的な5%での解決を目指し,合意

②労働能力喪失率の主張

相手保険が低い労働能力喪失率を主張している点については,こちらは一切譲歩すべきでないと判断しました。そもそも,7級が認定されている以上,労働能力喪失率は56%とみなすのが大原則であって,相手保険の主張は安易に例外を認めさせようとしているにすぎないためです。

一方で,被害者には収入減少が生じていないという事実もありました。収入減少がないことは,労働能力が減少していないことの根拠になるケースもあり得るため,収入減少していないことと労働能力が減少したことの関係を説得的に示す必要があります

この点,被害者の場合は,本人の努力や周囲の協力により,何とか仕事の質と収入を保てている,という事情がありました。
高次脳機能障害の結果,業務遂行能力が下がってしまったため,被害者はその分時間をかけて繰り返し確認をすることで,事故前と遜色のない仕事を続けていたのです。また,被害者の事情を知る同僚や上司などの配慮もあり,被害者の業務は事故前より負担の小さい内容としてもらっていることも分かりました。

以上を踏まえると,被害者の収入減少がないのは,被害者の労働能力が保たれているからではなく,本人や周囲が労働能力の減少を懸命にカバーしているからと理解するのが適切です。そうすると,収入減少のないことは労働能力喪失率を低く見積もる根拠にはできないと判断することができました。

弁護士からは,事故前後における被害者の業務状況や,事故後における勤務先の配慮の数々などを丁寧に指摘することで,労働能力喪失率を譲歩しない内容での解決を実現しました

ポイント
低い労働能力喪失率を主張する根拠は,減収がないこと
しかし,減収がなかったのは本人の努力や周囲の協力あってのこと
減収がないことは労働能力が減少していないことの根拠にならないと指摘

④定年後の逸失利益

被害者が60歳で定年を迎えた後の逸失利益は,相手保険の提示通りにゼロで合意するメリットこそないものの,漫然と請求しても合意に至ることは考えにくいため,何らかの合理的な説明が必要でした。

そこで,弁護士においては,被害者の先輩にあたる人の定年後の収入実績を確認することとしました。被害者の先輩の収入実績を,金額計算の参考にするためです。
本件では,被害者と同じく一級建築士として勤務した人の定年後の収入は,それまでの概ね3~7割程度になっている例があると確認できました。そのため,これを踏まえて相手保険と交渉を行うことにしました。

交渉の結果,定年後の逸失利益については,概ね定年前の5割の収入を念頭に計算する方法で合意することができました。
一切の根拠なく大雑把に計算,請求するのでは相手を納得させることは困難でしたが,過去の先例を計算根拠とすることで,説得力ある請求が可能となりました。

ポイント
被害者の先輩にあたる人物の収入実績を参考に交渉を実施
一定の計算根拠があることで,合意に至りやすくなった

活動の結果

上記の活動を尽くした結果,被害者への賠償額7,350万円で合意が成立し,従前の提示額約3,537万円からは3,800万円を超える増額となりました。

なお,賠償額7,350万円の内訳は,被害者の損害合計7,000万円,弁護士費用350万円(損害の5%)というものでした。弁護士が,早期解決の条件として弁護士費用の上乗せを求める交渉を行ったことにより,弁護士費用の支払も含めての合意となりました。
弁護士費用は,訴訟を行わない限り請求できないのが原則であるため,交渉で弁護士費用の支払を引き出した点は特筆事項と言えるでしょう。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,専門的な職業と安定した高額収入がある被害者の逸失利益が最大の争点でした。内容面で最大の争点となるのみでなく,金額面でも後遺障害逸失利益が大部分を占めるため,逸失利益に関する合意の可否は本件の解決の可否と直結する問題であったと言えるでしょう。

この点,相手保険は,逸失利益が多額になることを防ぐためにいくつかのそれらしい主張をした上で,被害者に一定の逸失利益を提示していました。しかし,弁護士目線では了承すべき内容ではなく,交渉は不可欠です。そのため,提示内容と弁護士が目指す水準の差をどのように埋めるのかが重要な問題となりました。

本件では,被害者の実際の業務内容や環境,能力の変化などを詳細に整理し,それを踏まえた請求を行うことで,相手保険の譲歩を引き出す方法を取りました。このような交渉は,特に訴訟を避けたいと考えている相手保険に有力です。なぜなら,個別の事情を詳細に整理した上での主張は,多くは訴訟に至ったときに行うものだからです。
相手保険が訴訟を避けたいと考えていることを見越して,こちらは訴訟を辞さない姿勢を暗に示すことにより,相手保険の譲歩を引き出す交渉を目指しました。

逸失利益は,後遺障害が伴う事故では最も大きな争点になりやすいものです。逸失利益の解決に際しては,弁護士に個別の事情を十分に把握してもらいながら,適切な解決を目指すことをお勧めいたします。

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【交通事故解決事例】11級認定後の金額交渉を受任し,2か月弱で500万円の増額を実現。スピード解決希望の依頼を受け迅速交渉

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,後遺障害11級認定後の金額交渉を受任し,2か月弱の活動期間で500万円の増額解決に至った事例を紹介します。

事案の概要

被害者が軽トラックを運転し,カーブを描く緩やかな上り坂を走行していたところ,対向車がカーブを曲がり切れずセンターオーバーし,衝突する事故が発生しました。現場は山間部の降雪地帯で,当時も積雪及び降雪があったことが影響し,下り坂を走行していた対向車がハンドル操作を誤って事故に至りました。

事故の結果,被害者は頸椎部を脱臼し,約20日間の入院の後,約2年に渡る通院治療を要しました。ただ,後遺障害の残存を避けることはできず,脊柱の変形障害について11級が認定されました。

相手保険会社からは,11級の認定結果とともに損害賠償額の提示が送られてきましたが,その金額はちょうど500万円というものでした。

弁護士は,被害者が相手保険会社から金額提示を受けた段階で,その妥当性や交渉の余地に関して被害者からの相談をお受けしました。依頼者は,増額できるなら希望したいが,長期間を要するやり方は期待しないというご意向でした。本件の治療が長期間に渡ったこともあり,今後の解決は短期間で進めたい,との希望を強くお持ちでした。

ポイント
11級認定済み,500万円の賠償額提示済み
依頼者は早期解決を強く希望

法的問題点

①休業損害

被害者は,60代の兼業主婦で,相手保険からはパート勤務の休業損害として計算された金額を受領している状況でした。しかしながら,パート勤務をしている兼業主婦の場合,パートの休業損害よりも主婦業(家事労働)の休業損害の方が大きな金額となることが多数です。
そのため,被害者に関しては家事労働の休業損害を請求するのが適切と判断される状況でした。

ただ,家事労働の休業損害が具体的にいくらなのか,という点は容易に判断できません。具体的には,休業日数が何日であるかを特定することが非常に困難です。
被害者の2年以上に渡る治療期間の中では,家事が全くできなかった日もあれば,ある程度の家事ができた日も少なくないはずです。そんな被害者の休業日数が何日かは,客観的に示す方法がないため,交渉である程度合理的な水準を見出すほかないところでした。

ポイント
被害者はパート勤務の兼業主婦
主婦業(家事労働)の休業損害を計算するのが適切
もっとも,家事労働の休業日数は不明

②後遺障害部分の提示額

相手保険の提示内容のうち,後遺障害部分(「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」)の合計額は,331万円という内容でした。これは,たまたまこの金額になっているのでなく,提示額を331万円とするために計算方法を調整しています。
後遺障害11級が認定された場合,自賠責保険から331万円の保険金が支払われるのが通常です。本件でも,11級に対する自賠責保険金は331万円と計算される状況でした。そのため,相手保険はあえて後遺障害部分の合計額を331万円と算出することによって,自社の負担なく後遺障害部分を解決しようとしているのです。

しかも,相手保険会社の提示は,「本来の計算だと331万円を下回るが331万円まで引き上げる」という内容になっていました。保険会社の意図を把握せずに提示内容を眺めると,金額を引き上げてもらっている分有益と考えてしまいそうです。
しかし,弁護士目線では相手保険の計算は全く適正額ではなく,増額余地が大きく残っている状況でした。弁護士においては,後遺障害部分を331万円とする提案は了承できないことを前提に交渉を行う方針を取るのが適切と判断できました。

なお,この後遺障害部分については,交渉をすることで減額してしまうリスクが全くありません。なぜなら,相手保険が了承しなくても331万円は自賠責保険から支払われるためです。
その意味で,相手保険は後遺障害部分について最低額の提示をしていると評価することもできるでしょう。

ポイント
後遺障害部分の提示額は自賠責保険金額と同額
保険会社が自社の負担を避ける目的で同額に設定している
交渉しても減額リスクはなく,保険会社の提示は最低額と言える

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」という二つの損害が主に発生しますが,このうち「後遺障害逸失利益」がどの程度発生するかは,後遺障害の具体的内容によって大きく異なり得るところです。
本件の場合,被害者の後遺障害は脊柱の変形障害でした。つまり,体の中心を通る脊柱が一部変形しており,これを後遺障害として認定する,というものです。そして,脊柱の変形障害は,逸失利益が発生するのか,という問題が生じる後遺障害の一つでもあります。

後遺障害逸失利益は,後遺障害があると労働能力が減少することで収入減少に至るため,その収入減少を補償する,という性質のものです。そのため,後遺障害によって労働能力が減少することが大前提になっています。
ただ,脊柱が変形すると直ちに労働能力が失われてしまうかは必ずしもはっきりしません。このような後遺障害の場合,等級認定されても逸失利益はない,というケースが生じうるのです。

相手保険の後遺障害部分の提示額は,非常に小さいものであったため,逸失利益を主張すれば反論がなされることを想定する必要があります。そこで,逸失利益の存在を主張する根拠を明確にしておく必要がありました。

ポイント
脊柱の変形障害は逸失利益が生じるか明らかでない後遺障害
被害者に逸失利益が生じる理由は明確にすることが必要

④早期解決の方法

被害者は,できるだけ早期に本件のやり取りから解放されたい,という希望を強く有していました。そのため,最大額の賠償を獲得するよりも,解決のスピードと両立する範囲で可能な限りの賠償額を獲得することが望ましい状況でした。

スピーディーな解決を目指す場合,方法は交渉が明らかに適切です。交渉以外では訴訟やADRが挙げられますが,いずれも数か月~年単位で期間を要する解決方法となってしまいます。
一方で,交渉での早期解決には,相手の同意も不可欠です。つまり,相手にとっても早期解決が有益である,という場合に限り,交渉で早期解決ができるということになります。そのため,弁護士の交渉に際しては相手保険に早期合意のメリットを感じさせる必要がありました。

ポイント
解決方法は交渉であるべき
交渉で早期解決をするには,相手にとっても早期解決が有益であることが必要

弁護士の活動

①休業損害の請求内容

休業損害に関しては,互いに胸を張って主張立証することが困難な状況でした。なぜなら,一方で休業がゼロでないことは明らかであり,もう一方で休業が長いと客観的に立証することはできないためです。休業損害が少ないという主張も多いという主張も,根拠が伴わないものにならざるを得ません。

このような場合,一定の合理性ある水準を示し,交渉の叩き台とする方針が有力です。本件では,「入院期間は毎日100%の休業,通院期間は毎日30%の休業」と設定し,休業損害の叩き台とすることにしました。
この数字そのものに根拠はありませんが,一定の合理性がないわけではありません。合理性の根拠は以下の通りです。

休業損害の叩き台(割合的請求)の合理性

1.類似の計算方法を取った裁判例がある
→設定の仕方は裁判所の考え方に近いものである

2.後遺障害11級の労働能力喪失率が20%である
→治療終了時には20%の休業が生じていると理解される

当然ながら,この計算がそのまま合意内容となるとは限りません。むしろ,交渉の基準になる一定の目安を設ける目的が大きいところです。
実際,本件の休業損害は,上記請求を目安にしながら合意額を調整することとなりました。

ポイント
通院期間中の休業損害は,毎日30%の休業が生じたと仮定して請求
一定の合理性ある叩き台を示すことで,交渉の目安を設定した

②後遺障害に関する請求

被害者の後遺障害は脊柱の変形障害ですが,変形そのものが逸失利益を発生させるとの主張は難しいと言わざるを得ません。脊柱が変形しても直ちに主婦業ができなくなるわけではないためです。

しかし,被害者には,変形障害に伴って首や手指の痛み,しびれなどが生じており,それらの症状は変形障害に含まれる障害として認定する,との判断がなされていました。そして,首や手指の痛み,しびれといった症状は,明らかに被害者の家事労働に影響を及ぼす性質の障害です。

そこで,変形障害が痛みやしびれをもたらしたことを根拠に,逸失利益の存在を主張する方針としました。

なお,このような主張の場合には注意すべき点があります。それは,痛みやしびれに11級相当の労働能力喪失率が認められるとは限らない,ということです。

骨折後の痛みやしびれといった神経症状は,以下のような等級認定の対象となることが考えられます。

等級認定基準
12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号局部に神経症状を残すもの

つまり,痛みやしびれ自体は,12級または14級の認定対象であって,労働能力への影響も12級または14級相当という理解が合理的とも考えられるわけです。
本件でも,12級相当の逸失利益となる可能性を想定しながら,逸失利益を請求することとしました。

ポイント
変形障害により首や手指の神経症状が生じたため,これを逸失利益の根拠に
ただし,神経症状の逸失利益は12級相当にとどまる可能性を踏まえておく

③早期解決のための方策

早期解決のためには,相手保険に交渉での早期解決が有益であると認識させることが必要と思われました。
そこで,弁護士においては,「訴訟で解決すると追加で多くの支払が生じる」と相手保険に認識してもらうことで,早期合意のメリットを感じさせることを目指しました。

一般に,訴訟に至ると,加害者側は「遅延損害金」及び「弁護士費用」を追加で支払うことになるのが現在の運用です。それぞれの内容は以下の通りです。

訴訟における追加の支払

1.遅延損害金
→事故発生から支払い済みまで年3%(本校執筆時)の利息が加算され続ける

2.弁護士費用
→損害額の10%が弁護士費用として加算される

本件では,治療終了時点で事故から2年以上が経過しているため,仮に訴訟をして事故の3年後に解決したとなると,「3%×3+10%」=19%の支払が追加でかかることになります。それ以上に期間を要する可能性も低くないため,訴訟に至ると,相手保険会社は概ね20%程度の金額を上乗せして支払うリスクを背負わなければなりません。

弁護士からは,交渉が奏功しなければ訴訟に移行する可能性を伝えることで,このような追加での支払リスクを相手保険に認識してもらう方法を取りました。

ポイント
訴訟に至ると遅延損害金及び弁護士費用が追加で発生し得る
事故から長期間が経過しているほど,遅延損害金が大きくなる

活動の結果

以上の弁護活動の結果,弁護士の活動前は500万円の提示額であったところ,交渉により1,000万円での解決となりました。
また,弁護活動の開始から賠償金額1,000万円の受領までに要した期間は2か月弱であり,事故の規模や治療期間の長さを踏まえると非常に短期間での決着となりました。

なお,解決内容は,休業損害が弁護士のたたき台を若干下回る水準,逸失利益が12級相当の労働能力喪失率を目安にした金額となりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,交渉による増額と早期解決のバランスを適切に保つことが求められるケースでした。
交通事故の解決は,金額的な規模が大きくなればなるほど時間を要する傾向にあります。重大な後遺障害等級が認定される事故や死亡事故など,一定のケースでは交渉に年単位の期間を要する可能性もあり得るところです。さらに,訴訟などの法的手続に移行すれば,さらに年単位で争いが続き,決着の見えない期間を過ごすことになることも珍しくはありません。

そのため,弁護士としては日頃から早期解決を目指すスタンスが重要となりますが,本件はさらにスピードを重視することが必要でした。長い時間をかけて最大額を目指すより,短い期間で一定の増額ができる方が望ましい,というご希望は,被害者の立場を考えれば無理のないものです。
今回は,スピード解決と両立し得る増額幅の見込みを正確に立て,その見込みをできる限り迅速に実現することが,弁護士の役割であったと言えるでしょう。

交通事故の金銭的解決には,様々なやり方があります。弁護士相談の際には,目指したい解決の形を弁護士と十分に共有することで,より希望に沿った解決方法の提案が受けられるでしょう。

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