損害賠償命令制度は犯罪被害を受けたときに有用か?どうすれば利用できるのか?被害者の負担は大きいのか?刑事弁護士による解説

●損害賠償命令制度について知りたい

●自分は損害賠償命令制度を利用できるのか?

●損害賠償命令制度と通常の民事訴訟の違いは?

●損害賠償命令制度に従って支払った加害者は刑が軽くなるのか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,犯罪被害の損害賠償命令制度についてお困りの方に向けて,損害賠償命令制度の内容や特徴損害賠償が支払われた場合の刑罰への影響などを解説します。

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損害賠償命令制度とは

損害賠償命令制度とは,刑事手続において,被害者が加害者に対して損害賠償を求めるための制度です。この制度を利用することで,被害者は,民事訴訟を起こさなくても刑事裁判の結果を利用して損害賠償請求を行うことが可能になります
また,損害賠償命令が申し立てられた場合には,刑事事件の判断を行った裁判所によって扱われるため,より迅速な審理が期待できる制度でもあります。

この損害賠償命令制度は,犯罪被害者が金銭賠償を請求する際の大きな負担に配慮する目的で,2007年に新設されました。
日本の制度上,民事裁判と刑事裁判は別々に行われる必要があり,犯罪被害者は,刑事裁判とは別に民事裁判を自ら提起するのでなければ,金銭賠償を求めることができないのが原則です。また,民事訴訟では,金銭を請求する被害者の方が,加害者の責任を立証しなければならい立場にあるため,訴訟の内容に関する被害者の負担も大きなものです。

このような取り扱いでは,被害者の救済が困難となり,泣き寝入りを強いられる被害者が増えてしまうことを踏まえ,被害者による損害賠償請求を容易にするための手段として損害賠償命令制度が設けられました。

制度が利用できるケースには限りがありますが,制度を利用すれば,比較的軽微な負担で,比較的短期間で,被害者の加害者に対する損害賠償請求が可能になります。

ポイント
損害賠償命令制度は,犯罪被害者が刑事裁判の結果を利用して損害賠償請求する制度
軽微な負担で,比較的短期間での金銭請求が可能

損害賠償命令制度の特徴 ①対象事件

損害賠償命令制度の対象となる事件は,被害者に多大な損害が発生する一部の事件に限定されています。具体的な内容は以下の通りです。

損害賠償命令制度の対象事件

①故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
(例)殺人罪,傷害致死罪,強盗致死罪,不同意性交等致死罪など

②一定の性犯罪
=不同意わいせつ罪,不同意性交罪,監護者わいせつ罪,監護者性交等罪又はその未遂罪

③逮捕罪・監禁罪

④略取・誘拐・人身売買の罪
=未成年者略取及び誘拐,営利目的等略取及び誘拐,身の代金目的略取等,所在国外移送目的略取及び誘拐,人身売買,被略取者等所在国外移送,被略取者引渡し等の罪又はその未遂罪

⑤上記②~④の罪のほか,その犯罪行為に②~④の罪の犯罪行為を含む罪
(例)強盗・不同意性交等罪など

これらの事件は,その被害者に身体的・精神的損害が生じていない可能性が考えにくく,かつその損害から救済する必要性が特に高いことから,損害賠償命令制度の対象とされています。

損害賠償命令制度の特徴 ②申立できる人と申立方法

【申立てができる人】
被害者又はその一般承継人(権利義務を一括承継する人。相続人など)

【申立ての方法】
申立書を提出して行う

申立書の記載事項
①当事者及び法定代理人
②請求の趣旨
③訴因(当該刑事裁判で審判の対象とされた事実)
④その他請求を特定するに足りる事項

要求される記載事項は,一から民事訴訟を行う場合よりも非常に少なくなっています。
特に,刑事裁判の結果を用いることが前提となっているため,対象事件の特定が求められていない点で,被害者の負担が非常に軽くなっています。

逆に,公判を扱う裁判所に予断を持たせないため,記載を求められていない事項を申立書に記載することはできません。

【申立ての時期】
=起訴後から弁論終結までの間

【申立て先】
=事件が係属する地方裁判所

【申立ての費用】
=申立手数料2,000円(一律)

請求金額にかかわらず,手数料が一律で安価になっている点も特徴的な被害者保護の制度です。
一般的な民事訴訟の場合,100万円の請求で1万円,300万円の請求で2万円といった手数料が発生します。

損害賠償命令制度の特徴 ③審理の時期・内容・回数

【審理が行われる時期】
=被告人に対して対象犯罪の有罪判決の言い渡しがあった後直ちに開く

【審理の内容】
①当事者(被害者と被告人とも)を呼び出す
②刑事事件の訴訟記録を取り調べる(必要でないものを除く)
③口頭弁論をしないことが可能
④口頭弁論しない場合には,裁判所が当事者を審尋することができる

【審理期間・回数】
=原則として4回以内の審理期日で審理を終結しなければならない

審理の回数が少なく限られている分,審理の期間も非常に短くなります

損害賠償命令の効果

【審理の結果】
審理を終結した後,「決定」という方法で申立てに対する裁判を行う

【結果に対する不服申立て】
①裁判所が決定書を作成し,当事者に送達する(口頭での告知も可能)
②当事者は,送達又は告知から二週間以内異議申立てができる

【不服申立てがなかった場合】
=適法な異議申立てがなかった場合,損害賠償命令についての裁判は,確定判決と同一の効力を有する
(強制執行も可能となる)

民事裁判に移行する場合

【民事裁判に移行するケース】

①決定に対して異議申立てがなされた場合
②4回以内での審理終結が困難である場合
③申立人(=被害者)が民事訴訟手続で行うことを求めた場合
④相手方(=加害者)が民事訴訟手続で行うことを求め,申立人が同意した場合

【民事裁判に移行した場合の特徴】
=裁判記録が引き継がれる。別途訴訟を提起する必要はない。

損害賠償命令制度に従って支払うと加害者の刑は軽くなるのか

損害賠償命令制度を利用した場合,加害者から被害者に損害賠償の支払いがなされることが見込まれます。
この点,加害者の刑事責任の重さを判断する要素として,被害者への損害賠償を行っているかどうか,というのは非常に重要なポイントとなることが少なくありません。特に,損害に見合った水準の高額な賠償がなされていれば,その事実は加害者の刑事責任を小さくする方向で考慮されることが通常です。
そのため,損害賠償命令制度を利用した場合,その決定に従って金銭を支払った加害者の刑罰は軽くなるのか,という点に疑問が生じます。

この点,実刑となった第一審の後に損害賠償命令制度が利用され,その後に約1000万円の賠償を行った被告人に対して,控訴審で執行猶予付きの判決がなされた事例はあります。これは,第一審の判決後に多額の金銭賠償を行った事実が評価された結果であると言えるでしょう。

一方,他の裁判例では,「自分から支払おうと思えば支払えたのに,それをしないまま判決を受けた」というマイナスの評価を明示したものも見られます。加害者が自分から示談交渉を試みるなど,積極的に賠償を行ったケースとは,明確な区別がなされていると理解してよいでしょう。

ポイント
損害賠償命令を受けて支払いをした場合,刑罰を軽減させる効果が生じることはあり得る
もっとも,自分から進んで賠償をした場合よりは明確に低い評価となる

犯罪被害に強い弁護士をお探しの方へ

損害賠償命令制度は,一定の重大な被害を受けた被害者への配慮として,国が比較的簡単な金銭請求の方法を用意したものです。利用が可能な場合は,損害賠償命令制度を利用の上,簡便な手続で適切な賠償を獲得することが非常に有力でしょう。
いわゆる被害者参加の制度も含め,加害者の刑事処分に参加する手続については,制度に精通した弁護士へのご相談・ご依頼をお勧めします。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所は,刑事事件の経験豊富な弁護士が,専門的な知識・経験を踏まえて,犯罪被害にお悩みの方への最善のサポートを提案することができます。
お困りの際はお気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

犯罪被害者は加害者に訴訟すべき?損害賠償請求をする最善の方法が知りたい方へ,訴訟・調停と示談との比較方法を弁護士が解説

●犯罪被害の加害者に損害賠償請求をしたい

●調停と訴訟ではどちらが適切か?

●調停や訴訟を提起するときの注意点は?

というお悩みはありませんか?

このページでは,犯罪被害の加害者に対する民事調停や民事訴訟についてお困りの方に向けて,訴訟や調停と交渉との違いメリットデメリットや注意点などを解説します。

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犯罪被害者が損害賠償請求する方法

犯罪被害に遭った際,被害者が加害者から金銭を回収する手段は,①任意に支払ってもらうか,②強制的に回収するかのいずれかになります。
そして,①任意に支払ってもらう方法が示談であり,示談をせず②強制的に回収する場合には,裁判所の手続を利用する必要があります。

具体的な裁判手続としては,「民事訴訟」及び「民事調停」の二つが挙げられます。
訴訟と調停は,いずれも民事事件の解決を目指す裁判上の手続ですが,その内容や手続には大きな差異があり,どちらを選択するかはその差異を踏まえた検討が適切です。

ポイント 損害賠償請求の方法
・任意に支払ってもらう=示談
・強制的に回収する=民事調停・民事訴訟

犯罪被害の場合は調停と訴訟どちらが適切か?

民事調停と民事訴訟の違いとしては,以下のような点が挙げられます。

【解決方法】
調停 当事者間での合意を目指します。合意に至らない場合には不成立となります。
訴訟 裁判官の判決により解決します。判決せずとも合意に至れば,合意も可能です。

【手続の進め方】
調停 調停委員が両者の間に入り,双方の意見を聞きながら合意できる内容を模索します。
訴訟 当事者双方が裁判所に主張と証拠を提出し,法的な判断を求めます。

【期間と費用】
調停 比較的短期間であり,費用も安価であることが多いです。
訴訟 調停よりも手続が長期間に渡り,費用も高くなる傾向があります。

上記のような民事調停と民事訴訟の違いのうち,犯罪被害の場合に考慮すべきなのが【解決方法】に関する特徴です。具体的には,加害者が手続に協力しない場合,どのような結果になるかを考える必要があります。

【加害者が協力しない場合の解決】

調停 調停不成立となり何も解決しないまま手続が終了する
訴訟 被害者の請求内容をそのまま裁判所が認め,被害者の請求通りの金額を支払う義務が加害者に発生する

この解決内容の違いは極めて大きなものです。調停であれば,加害者は手続に協力しなくても被害者への支払をする必要はありませんが,訴訟の場合には手続に応じなければ被害者の言う通りの支払を強制させられることになります。そのため,加害者が応じることが見込まれやすいのは,明らかに訴訟の方であると言えるでしょう。

犯罪被害の場合,加害者の誠実な対応が期待できない場合も珍しくありません。加害者の不誠実な対応を許さないためにも,調停ではなく訴訟を選択する方が適切であると理解するべきでしょう。

ポイント 調停と訴訟
調停は合意を目指す手続であり,加害者が協力しなければ解決せず終了
訴訟は判決をもらう手続であり,加害者が協力しなければ請求通りの判決が得られる
加害者の協力が得られない可能性を踏まえると,通常は調停より訴訟の方が適切

以下では,示談でなく民事訴訟を選択する場合のメリットとデメリットについて解説します。

民事訴訟で請求するメリット ①刑事処分が軽減されない

示談の場合,加害者の立場としては刑事処分を軽減させるために行うこととなります。示談書を捜査機関に提出するなどして,示談をした事実を踏まえた刑事処分を求めるのが一般的です。

しかし,民事訴訟で金銭を請求した場合,訴訟の結果,加害者に支払の義務が生じたとしても,刑事処分を軽減させる効果は基本的にありません。そもそも,民事訴訟の結果が出るのは,刑事処分が決まった後であることが大半であるため,民事訴訟の結果を刑事処分に反映させる余地自体のないことがほとんどでしょう。

加害者に十分な刑事処分を科してもらいつつ,加害者からの金銭賠償を獲得したいという場合には,示談でなく訴訟での金銭請求が有力です。

民事訴訟で請求するメリット ②裁判所の適正な判断を求められる

示談によって決定する賠償金額は,当事者間で合意ができる限りはいくらでも問題ありません。裏を返せば,合意ができない限り,適正な金額であっても支払ってもらうことはできないということになります。
そのため,加害者側が不当に低い金額でなければ合意しないというスタンスだと,その不当に低い金額を超える賠償を示談で獲得することは困難です。

一方,民事訴訟において,相手が不当に低い金額でなければ支払わないと主張した場合,最終的には裁判所が支払うべき金額を決め,加害者に強制します。そのため,相手が不当に低い金額を主張したとしても,その金額を超える適正な賠償を獲得できる,ということになります。

加害者の主張する金額が了承できない場合には,民事訴訟を通じて裁判所の適正な判断を求める手段が有力でしょう。

民事訴訟で請求するデメリット ①空振りに終わる場合がある

民事訴訟は,裁判所が金額を決めて強制力を与えてくれる一方,その強制力を利用するあてとなる財産がなければ,結果的に金銭を回収することができません。訴訟をし,裁判所に請求を認めてもらったとしても,それが空振りに終わる場合がある,ということになります。

示談の場合は,加害者も示談成立のために金銭を用意し,場合によっては家族の力を借りるなどして必死に支払うのが通常です。そうでなければ,加害者の目的である刑罰の軽減が実現できないためです。
一方,民事訴訟の場合,加害者に金銭をかき集めるメリットが乏しく,家族に支払を求めることもできないため,加害者に目ぼしい財産がなければ金銭を受領できずに終わるリスクが生じます。

民事訴訟で請求するデメリット ②金銭以外は請求できない

民事訴訟で請求することができるのは,法的に請求できる権利のあるものだけです。犯罪被害の場合には,法律の根拠は「不法行為に基づく損害賠償請求権」,つまり金銭を請求する権利であるため,民事訴訟で請求できるのは金銭のみとなります。

示談の場合は,当事者間で合意できる限り,どのような請求を行っても問題ありません。犯罪被害に関する示談では,現場になった駅を利用しない,被害者の住所近辺に立ち入らないなど,金銭以外の義務を負わせることも可能です。
一方,民事訴訟で駅の利用禁止や住所近辺の立入禁止を求めたとしても,その請求は裁判所によって退けられるほかありません。法的に請求する権利がない以上,やむを得ない結論ということになります。

民事訴訟の注意点

民事訴訟を行う場合,以下のような点に注意するのが望ましいでしょう。

①加害者の個人情報が必要であること

民事訴訟を行う場合,加害者を特定するための個人情報を把握する必要があります。訴訟の当事者となる加害者が特定できなければ,訴訟自体が行えないためです。
具体的には,氏名と住所の把握が必要になりやすいでしょう。

もっとも,住所に関しては,分からなかったとしても訴訟の提起が可能です。勤務先が分かっていれば,就業場所送達という方法で勤務先を送り先にできますし,所在が何も分からない場合には,公示送達(裁判所の掲示板に掲示してもらう方法)によって送達したと同様の扱いをしてもらえます。
しかし,現実に金銭を回収しようとした場合,加害者の情報が把握できていないと財産に対する強制執行が困難です。引き当てになる財産もその特定の仕方も把握できず,結果的に訴訟が空振りに終わる可能性が高くなります。

②長期間を要しやすいこと

民事訴訟では,概ね1~2か月に1回程度の頻度で期日が行われ,期日のたびに双方の主張が提出されることになりますが,トータルすると年単位に及ぶ手続になることも決して珍しくありません。金銭の請求を試みてから回収できるまでに長期間を要しやすいという点には,十分な注意が必要になるでしょう。

犯罪被害に強い弁護士をお探しの方へ

犯罪被害を受けたとき,加害者へ金銭賠償を請求する手段として訴訟や調停を行うのが適切かどうかは,非常に難しい問題です。
もっとも,示談をするか訴訟や調停をするかは,示談交渉の局面で検討する必要がある場合も多く,検討する期間にあまり余裕はない可能性もあります。

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犯罪被害者が加害者から示談を持ちかけられたらどうするのが適切か?交渉ポイントや注意点を弁護士が徹底網羅

加害者から示談を持ちかけられたらどうすればいいか?

●犯罪被害者が示談に応じるメリットとデメリットが知りたい

●示談の内容にはどのようなものがあるか?

●示談書は作成すべきか?

●犯罪被害の示談交渉は弁護士を依頼すべきか?

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このページでは,犯罪被害についての示談交渉でお困りの方に向けて,示談交渉の内容や方法示談のメリットデメリットなどを解説します。

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加害者からの示談交渉に際して考えるべきこと

①基本的な流れ

犯罪被害を受けた場合,加害者側(通常は代理人弁護士)から,示談の話を持ち掛けられることが考えられます。具体的な流れは,概ね以下の通りです。

示談交渉の流れ
①弁護士が捜査機関に示談の申し入れを行う
②捜査機関から被害者に意思確認の連絡がなされる
③被害者から捜査機関に返答を行う
④(被害者が了承した場合のみ)弁護士と被害者の連絡先交換
⑤弁護士から被害者に直接の連絡を行う

そのため,被害者にとって最初のステップは捜査機関からの連絡となり,それを了承すると次に加害者の代理人弁護士から連絡が来る,という流れになります。

被害者の方にとっても,経験のない出来事で突然の検討が求められるため,その判断は容易ではないでしょう。ここでは,被害者が加害者側から示談を持ち掛けられた際の注意点を解説します。

②(注意点①)刑事処罰がなくなる可能性がある

加害者側からの示談の申し入れは,刑事処分の軽減,具体的には刑罰を受けない結果になることを目的に行われるのが通常です。示談が成立し,被害者側が刑罰を望まないという意思を表明することで,ほとんどの事件は刑事処分が軽減されることになります。また,事件があまりに重大でなければ,刑罰を全く受けない結果になることも全く珍しくありません。

示談に応じることは,刑事処罰が全くなくなるという意味になりやすい,との理解を前提に,示談に応じるかどうか,示談に応じる場合の条件をどうするか,検討することが適切でしょう。

③(注意点②)終局的な解決を内容とする

当事者間で示談が成立した場合,被害者と加害者の間の法律関係は,示談の内容以外に存在しないという合意になるのが通常です。つまり,示談の内容を守るという条件で,当事者間では終局的に解決することになります。
したがって,示談の成立後に示談金を超える金額の請求をすることはできませんし,追加で何か約束をしてもらうこともできません。

示談に応じる場合には,合意した内容のみで解決となり,その後に重ねての請求ができないということを踏まえておくのが適切でしょう。

犯罪被害者が示談に応じるメリット

刑事事件における示談は,加害者側が自身の刑事処分を軽減させる目的で行うものですが,被害者側にも確かなメリットがあります。そのため,被害者側としては,そのメリットを理解した上で,刑事処罰を受けて欲しいという思いと比較検討するのが適切です。

犯罪被害者が示談に応じることによって生じるメリットとしては,以下の点が挙げられます。

①手続負担なく金銭賠償が受けられる

【示談しない場合の金銭賠償】

犯罪被害を受けた場合,被害者は加害者に対して金銭賠償を請求する権利を持ちます。加害者の行為は,民法上「不法行為」に該当する違法な行為であり,不法行為の被害者は加害者に対して損害賠償請求権を有する,というのがその根拠です。
もっとも,法律上の権利が認められることと,現実に金銭を獲得できることは別の問題です。具体的には,金銭を獲得するため以下のステップが必要です。

金銭賠償を獲得するためのステップ
1.賠償金額を決定する
2.決定した賠償金額を獲得する

そして,被害者が示談しないで金銭賠償を獲得するためには,以下の手続が必要になります。

金銭賠償を獲得する手続
1.金銭賠償を決定するため,(民事)訴訟を提起する
2.決定した金額を獲得するため,強制執行する

つまり,被害者が示談以外の方法で金銭を獲得するためには,自ら積極的に裁判を試み,裁判所に金額を決定してもらった後,相手の財産から強制的に取り立てることが必要になるのです。
しかし,訴訟を行うのは負担が大きく期間もかかり,容易ではありません。また,そのような訴訟を行って金額が決まったとしても,加害者に財産がなければ強制執行ができず,金銭を回収できないリスクも生じます。
特に加害者の財産状況が分からない場合,このような方法で被害者が金銭の獲得を試みるのはあまり現実的でないことも多く見られます。

【示談の場合の金銭賠償】

示談を行う場合,金銭賠償を獲得するための具体的な手続は,以下のように整理されます。

金銭賠償を獲得する手続
1.金銭賠償を決定するため,示談交渉を行う
2.決定した金額を獲得するため,加害者側から支払ってもらう

つまり,加害者側から持ち掛けられた示談に応じて交渉を行い,合意ができれば加害者側から支払ってもらう,というのみで,金銭賠償が獲得できることになります。
また,この一連の流れの中で,被害者から積極的に行うべきことは特になく,被害者は加害者側からの話に応じて対応すれば足ります。被害者に生じる負担は,示談を行わない場合とは比較にならないほど軽いものということができるでしょう。

また,示談による金銭賠償の獲得には,基本的に金銭回収ができないというリスクがありません。加害者側は,金銭を支払わなければ刑罰の軽減ができないため,処分軽減という目的のためには金銭を支払うことが必須です。
むしろ,加害者側が進んで金銭を支払う状況になるため,回収リスクを恐れる必要がなくなるでしょう。

ポイント 金銭賠償の手続負担
示談以外:訴訟+強制執行が必要
示談:交渉に応じるのみで足りる

②賠償金額に制限がない

示談を行わず,裁判手続で金銭賠償を受領する場合,その金額は,最終的には裁判所が過去の先例を踏まえて決定することになります。そのため,賠償金額は裁判所の判断によって制限され,それ以上の金額を獲得する権利は得られません。

一方,示談の場合,賠償金額は当事者間での交渉により決められるため,特に制限がありません。当事者間で合意さえできれば,裁判所が認める金額より大きな水準であっても問題はありません。
刑事事件で示談を行う場合,被害者が加害者を許す(=刑事処罰を希望しない)という意思表明が含まれる関係で,その対価の意味を含めて金額を大きくするケースが少なくありません。この点を強調する場合には,当事者間で高額の合意を行い,より大きな金額を獲得することもあり得るでしょう。

ただ,逆に当事者間で合意ができない場合,その金額を受領することはできません。加害者に経済力がないなどの理由で,どうしても支払える金額に限りが生じる場合には,低い金額で示談をするか,示談をしないで処罰を希望するか選択しなければならないケースもあり得るところです。

③金銭以外の条件を付けられる

犯罪被害者が加害者に対して有する権利は,不法行為に基づく損害賠償請求権であり,つまり金銭の支払いを求める権利ということになります。そのため,法的には,被害者は加害者に対して金銭を請求することこそできるものの,それ以外の要求をすることはできません。
したがって,裁判手続での請求で得られるのは金銭のみです

一方,示談の場合,当事者間で合意ができれば金銭以外の条件を設けることも可能です。示談で合意する内容は,法律的に権利や義務のある内容には限られないため,法的には権利も義務もないような要求であっても,示談の条件とすることで相手に約束させられるわけです。
一般的に,犯罪の加害者が負う責任は,刑罰を受ける責任と被害者への金銭賠償の責任という2点ですが,それにとどまらない責任を負わせる手段としても,示談は有力な選択肢になることがあります。

犯罪被害者が示談に応じるデメリット

被害者が加害者の示談に応じる場合のデメリットとしては,以下の点が挙げられます。

①重い処罰を科してもらうことが困難になる

示談に応じた場合,示談を行ったという事実は加害者の刑事処分を軽減させます。どの程度軽減するか,軽減した結果どのような処分になるかは,個別の事件や示談の内容によりますが,処分結果に対して最も影響の強い事情になる可能性が非常に高いでしょう。

示談に応じるか応じないかという判断は,示談金を受領するか重い刑罰を求めるか,という判断であると考えてもよいかもしれません。

②分割払いの場合に回収リスクが生じる

裁判で決定された賠償金は,加害者が支払わない場合に強制執行が可能です。具体的には,銀行口座の預金を差し押さえたり,給料の一部を差し押さえたり,所有する家や車を金銭に換価したりという方法で,強制的に金銭の回収が可能となります。

しかしながら,示談で合意をした金銭は,支払いが滞ったとしても直ちに強制執行することができません。強制執行をするためには,改めて裁判を提起して裁判所に強制執行を認めてもらう必要が生じます。
示談金が一括払いであれば,示談をした段階で全ての金銭が受領済みのため問題は生じませんが,示談成立後も継続的に支払いが生じる分割払いの場合には問題となることがあります。具体的には,以下の経過をたどる場合です。

回収リスクが生じる場合の流れ
①分割払いで示談成立
②示談を前提とした軽い刑事処分が決まる
③刑事処分後,分割払いが滞る

加害者の立場としては,刑事処分を軽くするために示談を試みたのみであるため,刑事処分が軽くさえなってしまえばそれ以降の支払を行う意欲が低下する可能性がある,ということですね。決して許されることではありませんが,被害者目線では重大な回収リスクとして考慮する必要があります。

そして,被害者がこの回収リスクを避けるための対策としては,以下のような手段が考えられます。

回収リスクの対策
①示談成立時の一括払いを条件とする(最も簡単)
②分割の場合には公正証書を作成する
連帯保証人を用意させる
物的担保になるものを用意させる

加害者にとっては,支払以上の負担が生じることになりますが,そもそも分割払い自体が加害者のみに利益のあるお話である以上,分割払いに条件を付けることは大いにあってしかるべきでしょう。

示談するときの主な合意内容

示談する際には,以下のような内容を盛り込むことが考えられます。

①通常設ける合意内容

【確認条項】

示談金額がいくらであるかを確認する条項です。加害者が被害者に対していくらの損害賠償義務があるのかを明確にするため,金銭の支払を伴う示談では必ず明記します。

【給付条項】

示談金の支払(給付)を行う方法に関する条項です。日付,金額,支払方法を特定します。加害者は,給付条項の内容に沿った支払を行うことを約束します。

【清算条項】

示談で定めた内容以外に,当事者間の法律関係(債権債務関係)がないことを明らかにする条項です。示談を取り交わす場合,示談の条件を守ればそれ以上には互いに請求をしないことが前提になるため,清算条項という形で明らかにします。

【宥恕条項】

宥恕(ゆうじょ)とは,被害者の加害者に対する許しを指します。被害者が加害者の刑事処罰を望まないことを明らかにするため,宥恕の旨を明記した条項を設けることが通常です。
刑事事件の示談は,加害者にとって宥恕の獲得が最大の目標になります。

②希望により設けることのある主な合意内容

【接触禁止】

示談成立後に加害者が被害者に接触することを禁止する条項です。示談の内容とすることは必須ではありませんが,被害者が加害者との接触を希望することはほぼないため,基本的にはほとんどの示談で設けることになります。

【行動制限(制約)】

日常生活における行動の制限を設ける条項です。具体的には,以下のようなものが挙げられます。

行動制限の例
・特定の電車利用を制限する
・特定の場所への立ち入りを制限する
・特定の人物への接触を制限する

行動制限は,接触禁止をさらに確実なものとするために設けることが多く見られます。電車内での事件であればその電車を利用しない,施設内の事件であればその施設に出入りしない,といった内容が代表的です。

【口外禁止】

事件や示談に関する内容を周囲に口外しないよう約束する条項です。当事者のプライバシーを守るために設けることが考えられます。
刑事事件の場合,加害者の方が周囲への発覚を恐れる場合も多く,加害者の求めに応じる形で盛り込むことも少なくありません。

【違約金】

示談に定めた条件が守られなかった場合,約束に反したことの責任を金銭で取らせるための条項です。現実に金銭を受領するためというよりは,約束を守らせるための枷の一つとして設けることが一般的でしょう。
また,違約金額に特段のルールはなく,当事者が合意できればどのような金額でも差し支えありません。一般的には,示談金の金額に近い水準や示談金額を踏まえた水準(倍額など)を設けることが多く見られます。

【権利留保】

将来不測の損害が生じた場合には,別途請求をする権利があることを確認する条項です。後遺障害を伴う重大な怪我が生じた事件で,治療が終わる前に示談する場合に設けられる場合が考えられます。
もっとも,刑事事件の示談は,その示談によって当事者間の関係が終了しなければあまり実益がないため,現実に権利留保の条項が設けられることはほとんどないと思われます。

示談書の作成は必要か

示談が成立する際,示談書の作成を行うのが一般的です。示談書を作成する場合は,合意した内容を文面にした上で,相互に署名押印し,各自保管するという流れが通常です。

示談書は,示談の際に法律上必要な書面というわけではありません。示談書がなくても,示談は有効に成立します。
示談書を作成する基本的な目的は,後から紛争の蒸し返しになることを防止する点にあります。書面化してないと,「約束した」「約束してない」という争いが生じる可能性を残しますが,書面化していれば,書面の内容に反するような紛争の蒸し返しは生じる余地がなくなるわけです。
そのため,示談書を作成するケースは,示談に関する紛争の蒸し返しを防止したい場合,ということになるでしょう。

もっとも,刑事事件の示談は,加害者に弁護士が入っている上,加害者側は示談の成立を検察などに示さなければならないため,加害者(弁護士)が示談書の作成を希望するケースがほとんどです
その場合,加害者の弁護士が示談書の内容を作成し,被害者に示してくることになります。被害者としては,基本的にその内容を確認するのみで足りるでしょう。

なお,被害者目線で書面作成を求めるべき場合としては,加害者側に金銭の支払以上の約束をさせる場合が挙げられます。
法律上,被害者が加害者に請求できるのは金銭のみであるため,金銭以外の約束(電車利用禁止,特定場所の立入禁止等)をさせられるのは,合意がある場合に限られます。この点,加害者側が「約束してない」と言い出すと,約束を守らせることが困難になりかねないため,合意したことについて蒸し返しを防止するため,示談書の作成が有益になるでしょう。

ポイント 示談書の作成
蒸し返し防止したいときには作成すべき
通常は加害者の弁護士が作成を希望する
被害者が示談書作成を求めるべき場合は,金銭以外の約束をさせるとき

犯罪被害の示談交渉は弁護士に依頼すべきか

犯罪被害に遭った場合の加害者の示談交渉は,弁護士への依頼も有益でしょう。弁護士に依頼することによって,示談金額を適切な水準に増額させたり,適切な示談条件を設けたりすることが可能になります。
示談交渉の方法や示談交渉で目指すべき方針が分からない,という場合には,弁護士への依頼をご検討されることをお勧めします。

ただし,一点注意すべき点があります。
それは,経済的にプラスかマイナスかは不明確である,という点です。
弁護士に依頼して示談金の増額した場合,それが弁護士費用よりも大きな金額であれば,弁護士費用を負担してもプラスになりますが,弁護士費用を超える利益が得られるとは限りません。特に,想定される示談金額があまり大きくならない事件では,慎重な検討が必要になりやすいところです。
具体的な判断は,一度弁護士にご相談されてみるとよいでしょう。

犯罪被害に強い弁護士をお探しの方へ

犯罪被害を受けた場合,加害者が刑事処罰の軽減を目指すときには示談の申し入れを受けることが考えられます。
この場合,示談を受けることにも大きなメリットがありますので,示談の検討は有力でしょう。
もっとも,具体的にどのような内容で示談するのがより有益かは,専門的な知識や経験が必要な判断となりますので,犯罪被害の示談に強い弁護士への依頼をお勧めします。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所は,刑事事件の経験豊富な弁護士が,専門的な知識・経験を踏まえて,犯罪被害にお悩みの方への最善のサポートを提案することができます。
お困りの際はお気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所