【交通事故解決事例】顔面の醜状障害で後遺障害9級の認定獲得。加害者無保険ながらも約750万円の回収を実現した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が単車に乗車し,信号のない十字路交差点を直進走行しようとしたところ,左方から直進してきた四輪車と衝突する事故が発生しました。事故の発生した十字路では,相手の四輪車側に一時停止規制が設けられていました。

事故の結果,被害者は顔面を数十針も縫うケガを負い,顔面部には10センチを超える線状痕が残りました。その他,一部骨折が見られたものの,幸い後遺障害が残存するには至りませんでした。

弁護士には,治療が一段落した後,後遺障害の手続を前にした段階でご相談がありました。その後の手続や解決方法についての相談をご希望されました。

法的問題点

①後遺障害等級

被害者には,顔面に10センチを超える線状痕が残っていましたが,これは「醜状障害」という後遺障害に該当することが見込まれます。

外貌(頭部・顔面部・頸部)の醜状障害については,以下の等級が設けられています。

外貌の醜状障害

等級基準
7級12号外貌に著しい醜状を残すもの
9級16号外貌に相当程度の醜状を残すもの
12級14号外貌に醜状を残すもの

この中では,7級が最も上位の後遺障害等級であり,醜状の程度も最も著しい場合となります。
そして,具体的な認定基準は,等級ごと及び部位ごとに定められており,その内容は以下の通りです。

7級12号「外貌に著しい醜状を残すもの」

部位基準
頭部手のひら大(指の部分を含まず)以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
顔面部鶏卵大面以上の瘢痕、又は10円銅貨代以上の組織陥没
頚部手のひら大以上の瘢痕

9級16号「外貌に相当程度の醜状を残すもの」

部位基準
顔面部5cm以上の線状痕で、人目につく程度のもの

12級14号 外貌に醜状を残すもの

部位基準
頭部鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
顔面部10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
頚部鶏卵大面以上の瘢痕

したがって,顔面の線状痕であれば,9級又は12級の認定可能性があります。そして,被害者の場合は,5センチ以上の線状痕であることから9級の認定を目指すことが有力と思われる状況でした。

ポイント
顔面の線状痕は,長さにより9級又は12級の可能性
被害者の場合は9級の認定を目指すべき長さであった

②相手の自動車保険

本件の加害者は,任意保険に加入していませんでした。この点は,被害者がどのように金銭的補償を獲得するか,という点に大きな影響を及ぼします。

交通事故被害では,加害者の加入する自動車保険の担当者に対応をしてもらい,その保険会社から金銭賠償を受領する,という流れが一般的です。しかし,保険担当者による対応や保険会社による支払が受けられるのは,加害者が任意保険に加入している場合のみです。そのため,加害者が任意保険に加入していないときには,被害者と言えども受け身では金銭賠償が獲得できないため,積極的な請求手続が必要になります。

この点,最も直接的な手段は,加害者本人に請求し,加害者本人に支払ってもらうことです。加害者の代わりに支払う保険会社がない以上,加害者が自分で支払う,というのは非常に自然なところです。
しかし,加害者本人への請求は,現実に回収の困難なことが多く見られます。加害者本人が任意保険に入っていないのは,保険料の負担を避けたいという理由であることが多いところ,そのような加害者は経済的に賠償金を支払う能力がないことが少なくないのです。
本件でも,加害者は定職のない高齢者で,経済的に多額の金銭賠償を行う能力はないことが見受けられる状況でした。

そのため,相手の任意保険がないこと,相手本人への請求が容易でないことを踏まえた解決方法の検討を必要とするケースと言えます。

ポイント
加害者は任意保険に加入していない
加害者本人からの回収は現実的でない

③その他の問題点

【被害者自身の保険】

加害者への請求が奏功しない場合,被害者自身の保険を利用して損害の回復を図る手段が有力になります。

自動車保険には,自分が加害者になってしまった場合に利用できる賠償保険(対人賠償責任保険や対物賠償責任保険)のほかに,交通事故で自分が被った損害を補償してくれるものも含まれています。
被害者自身の保険で賄われるものがある場合には,加害者本人とは異なり確実な支払が期待できるため,保険の活用を検討することが有益でしょう。

本件でも,被害者の加入保険からどのような支払いを受けることができるか,確認が有力な状況でした。

【過失割合】

被害者の過失割合が主に問題になるのは,被害者が加害者側に請求する場合です。加害者への請求額から,自分の過失割合の分を差し引いて請求する必要があるためです。

もっとも,自賠責保険への請求に関しても,過失割合が問題にならないわけではありません。被害者に7割以上の過失がある場合,自賠責保険金は一定の減額となるため,自賠責保険金額にも過失割合が影響する可能性があり得ます。

過失による自賠責保険金の減額

被害者の過失後遺障害部分又は死亡分傷害部分
7割未満減額なし減額なし
7割以上8割未満2割減額2割減額
8割以上9割未満3割減額2割減額
9割以上10割未満5割減額2割減額

なお,被害者の過失が10割の場合には,自賠責保険金の請求はできません。

この点,本件の事故態様を踏まえると,基本過失割合は15%となることが見込まれる状況でした(【169】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

少なくとも,被害者の過失が7割以上となる可能性はないため,自賠責保険の手続に際して過失割合の考慮は必要ないと言えるでしょう。

ポイント
過失が7割以上だと自賠責保険金が減額される

弁護士の活動

①後遺障害等級

本件では,自賠責保険から醜状障害の後遺障害9級に対応する保険金の支払を受けることが最も重要な動きでした。そのため,弁護士を通じて後遺障害の申請手続を実施し,後遺障害9級の認定を獲得することを目指しました。

この点,後遺障害等級認定を目指す手続には,事前認定と被害者請求の二つがあります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

本件では,加害者が対人賠償保険に加入しておらず,事前認定を行う余地がないため,被害者請求を行うことが必要です。そして,被害者請求で適切な等級認定を受けるため,詳細な根拠資料の提出を行うことが望ましい状況でした。

弁護士においては,後遺障害診断書に医師から醜状の存在を記載していただくとともに,被害者の醜状を写真に収め,写真上でその長さが視認できる形を取ることとしました。また,醜状障害の場合に有力な調査機関との面談を申し入れ,面談への同席を合わせて申し出ることとしました。

その結果,被害者に関しては,面談を要することなく後遺障害9級の獲得に至りました。線状痕が5センチを大きく超えるものであったこと,写真上でその大きさが明らかであったことが,円滑な等級認定につながりました。

ポイント
対人賠償保険がないため,被害者請求を実施
適切な写真等の提出により目標の9級認定

②相手無保険時の回収方法

本件では加害者に任意保険がなく,加害者本人からの支払にも期待できないため,任意保険と加害者本人を除く請求先から金銭を回収する必要がありました。
この場合,まずは自賠責保険金の回収が適切です。自賠責保険は,まさにこのような場合に被害者の最低限の補償を目的とする保険であるとも言えます。

その他には,被害者自身が加入する保険の利用が有力です。代表的なものが人身傷害保険で,被害者の人身損害を保険約款に沿った基準で計算し,支払ってくれます。
ただ,単車の任意保険では人身傷害保険を省いたものに加入しているケースが散見されるところ,本件でも人身傷害保険の加入がありませんでした。被害者について利用できるのは,搭乗者傷害保険くらいでした。

搭乗者傷害保険とは,自動車に搭乗中に交通事故が発生し、その結果として乗車していた人が怪我をしたり死亡したりした場合に、補償金を支払う保険です。定額払いになっていることが一般的で,支払われる金額が決まっているため,早期に受領することが可能になりやすく,事故後の損害を早期に補填するための保険として活用されることが多いものです。

搭乗者傷害保険の主な内容

1.補償の対象
→契約車両に搭乗中の全ての乗車人(運転者および同乗者)
→車両の事故による怪我、死亡、後遺障害など

2.補償内容

死亡保険金
→事故によって死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

入院・通院保険金
→事故による怪我で入院や通院が必要となった場合の保険金です。日額で支払われることが一般的です。

手術保険金
→事故による怪我で手術を受けた場合の補償金です。

3.支払方法
→定額払いとされることが通常です。

4.メリット
→定額払いのため,迅速に支払われやすく,経済的負担の軽減につながります。
→同乗者も補償の対象となるため,補償の範囲が広い保険です。

搭乗者傷害保険は,迅速な支払いがなされる有益な保険ですが,一方でその金額には限りがあります。搭乗者傷害保険だけで損害のすべてをカバーするのは現実的でないため,とりあえず一定の支払を受ける,という動きに適した保険ということができます。

ポイント
自賠責保険及び搭乗者傷害保険から回収

③回収金額が十分か

本件では,自賠責保険や搭乗者傷害保険といった最低補償を内容とする保険からの回収が主でした。そのため,多くの場合は被害者の損害額を下回る回収にとどまってしまい,十分な補償とはなりづらいところです。

もっとも,本件では回収できた金額で十分との判断に至りました。具体的な理由は以下の通りです。

補償として十分な回収金額である理由

1.逸失利益が生じづらいこと
→醜状障害であり,労働能力への影響がなかった

2.被害者に一定の過失割合があること
→過失相殺を考慮すると,被害者の損害額と同水準

活動の結果

以上の弁護活動の結果,被害者には醜状障害に対する後遺障害9級が認定され,自賠責保険金を含む約750万円の支払がなされました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,加害者が任意保険未加入という点に難のあるケースでした。加害者が任意保険に加入していない場合,加害者側からの積極的な支払の動きが期待できないため,被害者側でどのような請求方法で,どのような内容の請求を試みるのかを検討する必要が生じます。
また,任意保険未加入の加害者は,往々にして被害者への支払を行う経済力に乏しいケースが多く,被害者に支払能力がないことを念頭に置くことも必要になりやすいところです。本件でも,加害者は完全に白旗を挙げており,賠償の意思も能力も持ち合わせていない状況でした。

このような場合,被害者自身の保険を含む複数の選択肢を確認,検討し,適切な請求方法を決定する必要がありますが,被害者の方が自分で十分な検討を行うことは容易でありません。
そのため,ご加入の保険会社にご相談されるか,弁護士に十分なご相談をされることが有力な手段になりやすいでしょう。

本件の被害者の方の場合,主な請求先が相手の自賠責保険となりましたが,人身傷害保険等にご加入の場合はそちらの活用も考えられたかと想像されます。適切な救済手段はケースによって異なるため,十分なご確認,ご相談をされるのが有益であると考えます。

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【交通事故解決事例】後遺障害手続の認定手続中に弁護士が介入し,適切な修正で併合9級獲得,賠償額2400万円超となった事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者は,単車に乗って走行中,十字路交差点を青信号に沿って直進しようとしたところ,対向の右折四輪車とのいわゆる右直事故に遭いました。なお,被害者の単車は相当程度の高速走行であった可能性が高いとのことでした。

この事故で,被害者は左足に複数の骨折をし,3か月近くの入院を要しました。
その後も長期間の治療を要したものの,足関節に大きな運動制限があって正座が困難であるなどの支障が残りました。また,下肢には大きな傷跡も残った状態でした。

弁護士へのご相談を実施されたのは,事故から約1年半後,後遺障害に関する申請手続中のことでした。後遺障害診断書を相手保険に提出し,いわゆる事前認定の結果を待っている中,今後の対応に関する話を聞きたい,とのご希望でした。

法的問題点

①後遺障害等級(関節可動域)

被害者の場合,足関節の可動域制限が生じているとのことでした。
この点,関節可動域制限に関する後遺障害等級には,以下の基準が設けられています。

等級基準
10級11号1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級7号1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
2.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されていないもの

「関節の機能に障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。

関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されている場合

そして,関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較して確認されます。

下肢の主要運動

関節主要運動参考可動域角度
股関節①屈曲・伸展125度・15度(合計140度)
股関節②外転・内転145度・20度(合計65度)
ひざ関節屈曲・伸展130度・0度(合計130度)
足関節屈曲(底屈)・伸展(背屈)45度・20度(合計65度)
「屈曲+伸展」「外転+内転」の合計値を比較

足関節の主要運動

被害者に関しては,左の足関節と右の足関節を比較し,後遺障害等級の認定基準を満たしているか,という点が問題になるところです。

しかしながら,被害者の後遺障害診断書上,足関節の可動域は,左右を比較しても後遺障害等級の認定基準を満たすものではありませんでした。
そのため,現状では関節可動域制限が後遺障害として認定される可能性はない状況と言わざるを得ませんでした。

ポイント
関節可動域は,3/4以下又は1/2以下の制限が必要
後遺障害診断書上の測定値が基準になる

②後遺障害等級(醜状)

被害者の下肢には,大きな傷跡が残っている状況でした。そうすると,醜状障害の認定対象になる可能性が考えられます。

この点,下肢の醜状障害については,以下の後遺障害等級認定基準が設けられています。

等級基準
12級相当下肢の露出面に手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕を残し,特に著しい醜状であると判断されるもの
14級5号下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの

手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕」とは,手のひらの3倍程度以上の大きさの瘢痕を指すとされています。

また,認定基準として用いられる「露出面」とは,以下の範囲を指します。

下肢の「露出面」
股関節から先(足の背部まで)

以上の通り,下肢の股関節から先の範囲に手のひら大以上の醜状が残るケースでは,醜状障害の等級認定が考えられます。被害者に関しても,手のひら大以上の醜状が残っているように見受けられました。

しかしながら,被害者の後遺障害診断書には,醜状に関する記載が全く見当たりませんでした。この場合,他の資料等から特に醜状の損害がうかがわれる場合を除き,醜状障害が認定の対象となることは考えにくく,醜状障害は判断の対象にすらならない可能性が見込まれる状況でした。

ポイント
下肢の醜状障害の認定可能性がある状況
しかし,後遺障害診断書に醜状が明記されていなければならない

③過失割合

本件では,被害者の過失割合が20%であることを前提に相手保険の対応が進んでいるようでした。
交通事故では,物損の解決を治療中に済ませることも多数ありますが,本件でも物損は解決済みであり,その解決時にも20:80の過失割合とされていました。

もっとも,本件は単車と四輪車の右直事故であるところ,直進単車と対向右折四輪車との右直事故は,基本過失割合が15:85とされます(【175】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そうすると,被害者の過失割合は,基本過失割合より5%だけ不利な内容となっています。そのため,20%の過失割合を前提に解決するのが適切かどうかは,具体的な検討が必要な問題でした。

ポイント
基本過失割合は15:85
弁護士介入前の解決は20:80とされている

④逸失利益

後遺障害等級が認定される場合,後遺障害逸失利益が問題となります。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

具体的な金額交渉においては,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点になる場合が多く見られます。本件でも,「労働能力喪失率」「労働能力喪失期間」のそれぞれが争点となり得る状況でした。

【労働能力喪失率】

本件で被害者に見込まれた後遺障害等級は,以下の内容でした。

被害者に見込まれる後遺障害等級

・足関節の機能障害(可動域制限)10級
・下肢の醜状障害12級
併合9級

このうち,可動域制限は労働能力に直接影響を及ぼすものですが,醜状障害は必ずしも労働能力に影響を及ぼすものではありません。醜状が残っても労働能力が変化するわけではないためです。裏を返せば,醜状障害は労働能力が下がらなくても認定される後遺障害と理解されています。
そのため,このようなケースでは,可動域制限のみが労働能力を低下させているものと評価し,10級相当の労働能力喪失率を採用することが考えられます。

労働能力喪失率

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

実際の検討に当たっては,醜状障害の影響の有無を個別に確認することが必要です。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間は,労働能力の喪失が収入減少をもたらす期間を指します。基本的には,収入を得ている間(=労働ができる間)が労働能力喪失期間となります。
そして,特段の事情がない場合,症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされるのが原則です。一方,67歳までの期間とすることが不適切な事情がある場合には,個別の内容を踏まえて検討することになります。

この点,被害者はまだ若く,労働できる期間を具体的に特定することが困難な状況でした。そのため,被害者の立場としては,原則的な67歳までの期間を採用するのが有益と思われます。
一方で,一般的な給与所得者(会社員)の場合,60歳が定年となり,60歳で労働を終了する,というケースが多く見られます。これを当てはめると,60歳までの期間を対象とするのが適切そうであり,保険会社も同様の発想を取ることが少なくありませんが,被害者にとっては有益な結論ではありません

そのため,被害者の労働能力喪失期間をどのように主張すべきか,検討を要する問題でした。

ポイント
労働能力喪失率に醜状障害を含められるか
労働能力喪失期間は60歳までか,67歳までか

弁護士の活動

①後遺障害等級(関節可動域)

本件では,まず適切な後遺障害等級の認定が得られるよう修正を行う必要がありました。具体的には,提出された後遺障害診断書を基準に等級認定されるわけにはいかない状況ということができます。
この点,後遺障害診断書に形式的な不備があったことを踏まえ,弁護士から相手保険に,後遺障害診断書の不備を訂正する旨申し入れ,診断書の回収を図りました。不備があれば,結局は訂正しなければならないため,訂正自体は適切な動きでもあります。

その結果,後遺障害診断書が認定手続に回される前に回収することに成功し,今度は適切な可動域の測定値が記載されるよう弁護士が確認しながら,改めて後遺障害診断書の作成を医療機関に依頼しました。

再測定の際の測定値は,患側の可動域が健側の2分の1以下であり,後遺障害10級の基準を満たしていることが確認できました。

ポイント
後遺障害診断書を訂正のため早期に回収
再測定の上,等級認定基準を満たすことを確認

②後遺障害等級(醜状)

醜状障害についても,後遺障害診断書の訂正が必要な状態でした。具体的には,そもそも記載されていない,という状態を改める必要がありました。

基本的に,後遺障害診断書で指摘されていない障害が等級認定されることはありません。後遺障害等級認定に該当するかどうかは,まず後遺障害診断書の内容から検討項目をピックアップすることになるためです。

そのため,後遺障害診断書の回収後,関節可動域の記載とあわせて,下肢の醜状についても大きさの測定と診断書への記載を依頼しました。
訂正の結果,被害者の下肢に手のひら大を大幅に超える大きさの瘢痕が残されている事実と矛盾しない内容の後遺障害診断書となりました。

また,醜状障害の等級認定は,判断する調査事務所での目視を依頼することで,より具体的な調査をしてもらうことが可能です。申請手続に際しては,対面での面談を希望するとともに,面談には弁護士が同席することを予定する運びとしました。

ポイント
醜状の存在を後遺障害診断書に明記
面談の実施を申し入れ,弁護士の同席を予定

③過失割合

本件では,基本過失割合が被害者15%とされるところ,相手保険との物損の解決では被害者20%とされていました。その理由については,被害者側の速度超過があったことや四輪車右折後の事故(=既右折)であることを考慮してのもの,ということでした。

もっとも,被害者に速度違反がある場合は,被害者の過失が+10%,既右折である場合も同じく被害者+10%と,5%を超える修正の対象となるため,過失割合としては中間的な解決を図ったものであることが分かりました。
そして,速度違反や既右折の有無については,被害者にもはっきりした記憶がないものの,修正要素が全く存在しなかったと主張できるかどうかは分からない,という不安定な状況であることも分かりました。

この場合,あくまで15%を主張して争うことも有力な手段ですが,争いが深刻化したときにより不利益な結果(25%以上の過失割合)になる危険も抱えることになります。そのため,いったんは過失割合に関する主張をするか判断を保留し,他の損害項目を含めた全体の金額次第で検討する方針を取ることとしました。

過失割合を争うかどうかということ自体を明らかにしないことで,後からどちらの選択肢を取ることもスムーズにできるという利点を優先しました。

ポイント
過失割合を争うことにはメリットデメリットともにありそう
争うかの判断を保留することに

④逸失利益

【労働能力喪失率】

本件の被害者に関しては,醜状障害が仕事に影響するという事情は特に存在しない状況でした。被害者は成人男性であって,特に顔面の醜状が影響を及ぼす職に就いていなかったことから,醜状障害を逸失利益の対象とすることは難しい可能性が高い状況と思われました。

そのため,醜状障害を除き,可動域制限の10級のみを前提とした労働能力喪失率を採用することとしました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間については,原則通り67歳までの期間を採用するべきという主張を強く行う方針としました。

そもそも,原則として67歳までの期間とするのが労働能力喪失期間の運用である以上,特段の事情がない限りは67歳までの期間で計算をするのが適切です。確かに,60歳で定年を迎える人も少なくありませんが,「60歳で定年になるかもしれない」という一般論は,67歳までの期間を採用するべきという原則に反した例外的な結論とする根拠にはなり得ないはずです。そうなれば,ほとんどすべての会社員について60歳までとするべき,という結論になりかねないためです。

そこで,弁護士からは,60歳以降の仕事を行うことが可能であるという一般論を指摘の上,端的に67歳までの期間を労働能力喪失期間とすることを求める交渉を実施しました。

ポイント
労働能力喪失率は,10級を前提とした数字に
労働能力喪失期間は67歳までとすることを求めた

活動の結果

上記の活動の結果,被害者には足関節の機能障害10級,及び下肢の醜状障害12級で,併合9級の認定がなされました。

また,労働能力喪失率は10級を前提とした27%,労働能力喪失期間は67歳までの期間を前提に逸失利益の計算をすることで合意しました。

最終的には,2,400万円を超える賠償金額を獲得するに至りました。
なお,早期に円満な解決が見込まれたため,過失割合については20%を争わないこととしました。

ポイント
後遺障害は見込み通り併合9級
過失割合は20%にて解決
労働能力喪失率は10級相当,労働能力喪失期間は67歳まで

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,後遺障害等級認定の手続中に弁護士が介入する,という点に特徴のあったケースでした。
後遺障害等級認定に対しては,不服があれば異議申立てなどの手続が取れますが,やはり最初の申請,認定が最終的な結果のベースになることは間違いありません。最初の申請時の内容と整合しない異議申立てをしても,結果が伴う可能性はあまりないため,最初の申請を適切に行うことが極めて重要です。

この点,被害者の方におかれては,後遺障害診断書の提出後,速やかに弁護士に相談を実施され,迅速な案内を受けたことが適切でした。弁護士への相談や依頼が遅ければ,適切な等級認定を得るチャンスが失われていた可能性が高いでしょう。

後遺障害等級が見込まれるケースは,弁護士への依頼でご自身の利益につながる場合が特に多いものです。等級認定が見込まれる場合や,等級認定を目指す場合には,弁護士への相談を活用されて損はないと考えます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

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【交通事故解決事例】脊柱変形障害で11級が認定されたものの,逸失利益の有無が問題となった交渉に対処し,330万円超の増額を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が自動車にて通行していたところ,対向の自動車がセンターオーバーをし,被害者の車両に衝突する事故が発生しました。加害者は,居眠り運転に陥った結果,事故を起こしたようでした。

事故の結果,被害者は腰椎の圧迫骨折となり,通院治療等の努力を尽くしたものの,腰椎部の変形が残ることとなりました。治療終了後,腰椎部の変形障害として後遺障害11級が認定されました。

弁護士には,等級認定後,相手保険から賠償額が提示された段階で,金額の合理性や増額余地の有無をご相談されました。

法的問題点

①後遺障害の労働への影響

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,「労働能力喪失率」がゼロであれば,逸失利益もゼロとなります。労働能力が失われていない以上,収入減少もないのは当然ともいえます。

本件の後遺障害は,腰椎部の変形障害でしたが,変形障害は労働能力を失わせるかどうかが必ずしも明らかではない後遺障害の一つです。変形障害は,変形した事実そのものを後遺障害とするため,身体機能が低下していることを必要としないのです。
そのため,変形障害が認定されたからと言って,直ちに後遺障害逸失利益が発生するわけではなく,労働能力の低下が具体的に生じていなければ逸失利益の請求ができない場合もあり得ます。本件でも,変形と労働能力の喪失にどのような関係があるか,明らかにすることが必要であることが見込まれました。

ポイント
変形障害は必ずしも逸失利益が生じる後遺障害ではない
労働能力の喪失との具体的な関係を指摘することが必要

②基礎収入

後遺障害逸失利益の計算には,「基礎収入」の特定が必要ですが,基礎収入は事故前年の収入を基準とするのが一般的です。事故前年と同程度の収入は事故後も得られ続けた可能性が高いとみなし,逸失利益の計算根拠にすることが通常の運用とされます。

この点,被害者は,今回の交通事故被害に遭う直前に仕事を始めており,事故当時は就業開始から間もない時期でした。そのため,事故前年の収入を基準に基礎収入を定めることが困難な状況でした。また,事故当時の仕事を始めて間もない時期であったため,事故がなければ継続的に仕事を続けていたかも明確とは言い難い状況でした。

このような場合,基礎収入をどのように計算するか,その根拠は何か,といった点が問題になりやすいところです。弁護士においては,少しでも被害者に有益な内容を目指しつつ,相手保険の了承が得られるという,バランスの取れた交渉が求められるケースでした。

ポイント
基礎収入は事故前年の収入を基準とするのが原則
被害者は事故直前に仕事を始めたため,事故前年の収入を採用できない

③労働能力喪失期間

後遺障害逸失利益の計算には,「労働能力喪失期間」の特定が必要です。労働能力喪失期間とは,労働能力の喪失が収入減少に影響を与える期間を言いますが,基本的には労働が継続できる期間を指すと理解されます。
具体的な計算においては,以下のような期間を採用することが一般的です。

一般的な労働能力喪失期間

1.基本的な期間
→症状固定から67歳までの期間

2.67歳以上の場合
平均余命の2分の1

3.67歳までの期間が短い場合
→「症状固定から67歳までの期間」と「平均余命の2分の1」のいずれか長い方

本件の被害者は,「2.67歳以上の場合」に該当するため,平均余命の2分の1を採用することが原則と思われる立場でした。

もっとも,被害者には,元々継続的な勤労が困難な心身の不調があり,その不調から立ち直った直後であった,という事情がありました。本件事故が就業開始直後の事故であったのも,そのためでした。
このような事情を踏まえると,単純に「平均余命の2分の1」という期間を採用していいのか,もっと短い期間と考えるべきではないか,という問題が生じ得ます。弁護士としては,労働能力喪失期間の具体的な主張内容を検討する必要があるケースでした。

ポイント
原則は「症状固定から67歳までの期間」又は「平均余命の2分の1」
本件では,被害者に元々心身の不調があった

弁護士の活動

①後遺障害の労働への影響

変形障害の労働に対する影響に関しては,まず弁護士にて被害者の具体的な状況を確認することとしました。そうすると,被害者が始めた介護施設の清掃業務は,一定の肉体労働が伴うため,腰椎部の変形障害が影響して長時間の継続が困難になってしまった(休憩を取らなければならなくなった)ということが分かりました。
変形障害によって被害者の仕事により多くの休憩が必要になってしまったのであれば,それは変形障害による労働能力の喪失(低下)と考えるのが適切です。

そのため,弁護士からは,被害者の具体的な業務内容や,事故前後の業務の処理方法,休憩の取り方などを具体的に指摘し,変形障害によって逸失利益が発生することを主張立証しました

ポイント
変形によって仕事を長時間続けられなくなった
休憩が多く必要になったのは,労働能力の喪失と評価すべき

②基礎収入

基礎収入については,概ね以下のいずれかの計算方法が候補として想定されました。

基礎収入の候補

1.雇用契約書の内容を踏まえた計算
2.年齢別平均賃金

この点,本件では「2.年齢別平均賃金」を採用することとしました。その理由としては,以下の点が挙げられます。

年齢別平均賃金を採用した理由

1.雇用契約書からの収入計算が容易でない
→パートタイマーであったため,具体的なシフトに大きく左右されてしまう
→仕事の開始から間もない時期だったため,勤務日数の平均も分からない

2.雇用契約書からの計算が低額になる恐れ
→計算方法によっては平均賃金を下回る恐れがあった
→平均賃金を下回る計算が不合理かどうかが判断できない

3.平均賃金であれば金額の幅が生じない
→平均賃金は該当する金額を引用するのみであり,金額が争点にならない

以上を踏まえ,被害者の基礎収入は年齢別平均賃金とする,という内容の合意を目指し交渉することとしました。

ポイント
契約書から試算するか,平均賃金を採用するか
契約書からの試算が有益になりづらく,平均賃金を採用

③労働能力喪失期間

労働能力喪失期間については,原則通り平均余命の半分の期間とするか,それよりも短い期間を採用するか,という問題を検討する必要がありました。

弁護士においては,まず現在の心身の状態を確認し,それまで就業が困難であった事情が再発する可能性があるか,調査することとしました。そうすると,被害者の就業を困難にしていた事情は既に解消されており,医師の見解としても問題なく就業継続が見込まれる状態だったということが分かりました。
そのため,事故前に就業ができずにいた状況を重視して労働能力喪失期間を短く見積もる必要はないと判断することができました。

以上を踏まえ,弁護士からは,被害者の心身の状態が就業の継続に支障のないものであったことを具体的に示し,原則通り「平均余命の2分の1」を労働能力喪失期間とすべきことを主張しました。
結果,労働能力喪失期間については「平均余命の2分の1」を採用する内容での合意となりました。

ポイント
被害者は「平均余命の2分の1」の期間の労働が可能であったことを立証

活動の結果

以上の活動の結果,従前の提示額が約370万円であったのに対し,合意した賠償額は約700万円となり,330万円を超える増額となりました。

逸失利益に関しては,基本的に弁護士の主張が全面的に受け入れられる結果となり,被害者の救済が実現されました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,仕事を開始した直後の事故における後遺障害逸失利益が問題となりました。後遺障害逸失利益は,仕事を続けていれば得られたであろう収入を対象とする損害のため,仕事の継続が見込まれることを前提としており,「事故がなければ本当に仕事を継続していたか」という疑問が生じる場合には争点が生じることも少なくありません。

被害者の場合,自身の心身の都合で長期間仕事ができておらず,やっと仕事が開始できた矢先の事故という事情がありました。被害者の中では,十分に仕事ができるまで回復した状態で仕事を開始したにもかかわらず,「本当に仕事を続けられる状態だったのか」と指摘されるのは心外だったのではないかと思います。

弁護士としては,そのような被害者の立場を可能な限り結果に反映することで,被害者の救済を図ることが最大の目標となります。そのためには,被害者の状況を具体的に把握し,具体的な交渉を行う必要があるところです。

被害者の方におかれては,できる限り詳細な,具体的な内容を含めて弁護士に相談を試み,最適な解決策を検討されることを強くお勧めします。

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【交通事故解決事例】12級認定後の金額交渉を円滑に進め,高齢パートタイマーながら約1か月で150万円超の増額を実現した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が夜間に歩行中,信号のない十字路交差点を横断しようとしたところ,同一方向に走行中の自動車が左折を試み,衝突する事故に遭いました。被害者及び加害者が通っていた道路はセンターラインのない狭路,被害者が横断を試みた道路はセンターラインのある片側一車線の道路でした。

被害者は,右大腿骨を骨折し,主に股関節に支障が生じました。2年近く通院をしたものの,股関節に可動域制限が残り,後遺障害12級が認定されました。

弁護士には,保険会社からの金額提示を受けた段階で,金額の合理性と増額余地の有無をご相談されました。
なお,被害者は単身居住のパートタイマーで,年収が100万円前後の高齢女性でした。

法的問題点

①過失割合

保険会社の提示では,被害者の過失割合が10%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,本件事故現場で,横断歩行者と同一方向進行中に左折した自動車との事故は,基本過失割合が10:90とされます(【34】図(b)).

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そして,修正要素としては,「夜間」の+5%と,「高齢者」の-5%がそれぞれ該当しますが,差し引きゼロのため,修正要素による過失割合の変化は生じないこととなります。

そのため,他の事情がなければ被害者の過失割合は10%とするのが適切な内容と判断される状況でした。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件の場合,被害者の治療期間は2年以上,入院日数も1か月以上と,非常に長期間の治療を要している状況でした。その期間や後遺障害が残るほどの受傷であったことを踏まえると,慰謝料は決して低く見積もられるべきではないと考えられます。

この点,保険会社の提示は一定の金額ではありましたが,治療期間が長期であった分,交渉の余地はあると思われる状況でした。治療長期の交通事故では,基本的に弁護士による慰謝料交渉の余地が生じやすく,本件でも傷害慰謝料の交渉が見込まれる状況でした。

ポイント
傷害慰謝料は入通院期間を主な基準として計算する
治療期間が長期の場合,弁護士による交渉の余地が生じやすい

③後遺障害慰謝料

後遺障害等級が認定された場合,傷害慰謝料とは別に,後遺障害慰謝料が発生します。これは,将来に渡って後遺障害が残存することに対する精神的苦痛を対象とするものです。
後遺障害慰謝料は,後遺障害等級によって金額が定められていますが,12級の場合,自賠責基準の金額が94万円,裁判基準の金額が290万円とされています。

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

本件では,自賠責基準に沿って94万円の提示がなされており,いわば最低額というべき提示内容でした
保険会社が自賠責基準で提案を行うのは,その金額で合意ができれば自社の負担なく解決ができるためです。一方,被害者としては,自賠責から自分で回収しても同額が受領できる以上,相手保険とその金額で合意するメリットがほとんどありません。
後遺障害慰謝料についても,十分な増額交渉が必要であると判断される状況でした。

ポイント
後遺障害等級が認定されると,等級に応じた後遺障害慰謝料が発生する
相手保険の提示は自賠責基準であったため,増額交渉の余地がある内容

④弁護士相談前の交渉経過

被害者と保険会社の間では,弁護士への相談前に一定の交渉が行われていました。当初の保険会社の提示は約250万円であったところ,被害者が納得できないとの意思を表明したところ,保険会社から300万円の支払が可能であるとの再提示を受けている状況でした。

このように,保険会社担当者と交渉を試みると,被害者に対して一定の増額提示を行ってくれることがあります。これ自体は決して不利益ではなく,被害者による対応の成果と言えるでしょう。
しかしながら,保険会社による増額提示が本当に満足すべき金額かどうか,という点は全く別の問題です。そもそも,保険会社担当者がすんなり増額提示をすることができるのは,最初の提示が最低限に近い水準であったためです。そうすると,保険会社担当者が早期に引き上げられる程度の水準が,弁護士による交渉でようやく実現し得る水準と同程度であるか,という点には大きな疑問が残ります。

本件の場合でも,弁護士からは,少なく見積もって400万円ほどの賠償額は期待してよい状況であろうと判断される状況でした。
保険会社は,被害者による弁護士依頼を防止する目的で一定の増額提示をすることがあり得ますが,その提示内容が本当に有益かどうかは慎重に判断することが適切でしょう。

ポイント
保険会社は被害者の弁護士依頼を回避するため増額提示することがある
もっとも,増額結果が満足すべき水準かは慎重に検討すべき

弁護士の活動

①過失割合

弁護士においては,特に主張すべき修正要素の有無を確認することとしました。結果,特に被害者から主張すべき修正要素はないことが確認でき,過失割合は相手保険の提示通り10%とする解決が適切であるとの判断に至りました。

②傷害慰謝料

傷害慰謝料については,相手保険の提示額と弁護士が目標とする水準との差額について,増額交渉を実施することとしました

弁護士が慰謝料を交渉することで増額しやすいのは,保険会社の運用による面が大きいところです。保険会社は,弁護士が交渉を行う場合に限り,いわゆる裁判基準を念頭に置いた慰謝料計算をする傾向にあります。そのため,より低い計算基準で算出された慰謝料との差額が生じるわけです。

具体的な弁護士の慰謝料交渉に際しては,裁判基準とされる最大額の80~90%の金額での合意を目指すことが多く見られます。裁判基準の満額は,裁判で裁判所が全面的に被害者の言い分を認めた場

合のものであるため,裁判なしでの請求が困難ですが,概ね80~90%ほどの水準であれば,保険会社も裁判を回避する利益を踏まえて合意することが多くなります。
特段の事情がなければ,裁判基準とされる最大額の90%で合意ができる場合,有益な交渉結果と言いやすいでしょう。

本件の慰謝料交渉でも,裁判基準の90%を目標の目安に交渉を試みたところ,90%を若干上回る金額での合意となり,傷害慰謝料の増額に至りました。

ポイント
傷害慰謝料は,裁判基準の80~90%を目指す交渉が一般的
90%に至った場合は,有益な結果と評価できる場合が大多数

③後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料についても,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多く見られます。この点,12級の慰謝料の場合,裁判基準が290万円のため,80~90%は232万円~261万円となります。そうすると,提示額の94万円(=自賠責基準)からは概ね150万円前後の増額余地があり,後遺障害慰謝料についても十分な交渉が必要であると想定されました。

この点,後遺障害慰謝料について裁判基準を踏まえた金額で請求できる根拠は,まさにその後遺障害等級が認定されたという事実です。後遺障害慰謝料は,後遺障害等級が認定されるような症状が残ったということを理由に支払われるものであるため,等級認定されれば通常は支払われるべき,ということになります。
裏を返せば,後遺障害慰謝料を減額交渉しようとするのであれば,その等級が認定されたことが不適切である,という内容の主張になるのが通常です。もっとも,これは保険会社の主張としては困難と言わざるを得ません。

そのため,弁護士からは,端的に裁判基準を踏まえた金額交渉を実施して,相手保険の了承を引き出すことにしました。交渉の結果,傷害慰謝料と同じく裁判基準の90%を若干上回る金額での合意に至り,増額が実現されました。

ポイント
後遺障害慰謝料は,等級認定されれば他の理由なく支払われるべきもの

④弁護士依頼前の交渉経過について

弁護士に依頼する前の交渉によって,被害者には一定の増額提示がなされていましたが,その内容はキリのよい300万円という水準への増額をする,というのみであり,具体的な根拠は不明でした。おそらく,具体的な根拠自体存在せず,被害者の早期合意を獲得する目的で増額をした,という形を取ろうとしたものと推測されます。

この点,弁護士による交渉は被害者本人による交渉とは別のものとして行いますが,被害者にとっては,「自分で増額を一部勝ち取った」という事実に間違いはなく,弁護士としてもその点に配慮することが適切です。
そこで,弁護士費用の金額計算に際して,被害者による交渉の成果を反映させることにしました。

交通事故の弁護士費用は,弁護士の活動によって増加した金額(経済的利益)を基準に計算されます。経済的利益が大きいほど,弁護士費用も大きくなります。
本件では,当初提示の約250万円と最終結果との差額でなく,被害者による交渉で引き出された300万円という金額と最終結果の差額を経済的利益とし,弁護士費用を計算する契約としました。

一般的な経済的利益
「最終結果」-「保険会社の提示(約250万円)」

本件の経済的利益
「最終結果」-「被害者の交渉結果(300万円)」

なお,被害者が300万円の増額提示を受けたのは口頭でのことで,その根拠はありませんでしたが,弁護士判断で300万円を経済的利益の計算に用いることとしました。

ポイント
弁護士費用は経済的利益を基準に計算される
被害者が交渉で引き出した増額分は,経済的利益に含まない契約に

活動の結果

以上の活動の結果,約450万円での合意となり,150万円を超える増額に至りました。
また,交渉の開始から被害者による賠償金の受領までは約1か月の期間と,早期円満な解決になりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,被害者が保険会社から一定の増額提示を受けていた点に特徴がありました。もっとも,その増額提示が被害者にとって真に有益かは明確でありません。実際,弁護士目線では,最低額に若干色を付けた,という程度に映る内容でした。

また,本件の被害者は高齢のパートタイマーの方であったため,その立場上,後遺障害逸失利益が大きくはなりづらく,慰謝料の交渉がメインになるという特徴もありました。この場合,逸失利益が限定的になる以上,総額は控えめな水準になる場合もありますが,慰謝料に十分な交渉余地があることに変わりはありません。
むしろ,慰謝料の交渉を十分に尽くさなければ,適切な被害者の救済は図ることができないため,慰謝料の適切な交渉がより重要な事故類型ということができるでしょう。

本件では,保険会社からの増額提示にしっかりと疑問を持って弁護士に相談されたこと,慰謝料が中心の交渉となることを踏まえてしっかりと慰謝料の増額を目指す動きを取られたことが,適切な賠償につながったと言えます。

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【交通事故解決事例】下肢の偽関節などで併合6級の認定後,訴訟を選択して8900万円の高額賠償を獲得するに至ったケース

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が単車に乗車中,信号表示のある交差点を赤信号に従って停止していたところ,対面から赤信号を看過して直進走行してきた四輪車がセンターオーバーし,被害者に衝突する事故が発生しました。加害者は,てんかん発作を起こしてしまい自動車の制御が困難な状態に陥っていました。

被害者は,大腿骨骨折及び下腿骨骨折等の被害に遭い,3年近くの治療を要する大けがを負いました。治療を尽くしたものの,下腿骨の骨折部は偽関節化し,硬性補装具や杖がなければ満足に歩行することもできない状態でした。

弁護士には,約三年の治療後,後遺障害等級認定を控えた段階で弁護士に相談されました。主治医から近日中の症状固定を予定している旨を告げられたため,その後の対応に関するご相談・ご依頼を希望されてのご相談でした。

法的問題点

①請求方法の選択

被害者は,非常に重大な怪我を負っており,下腿骨の骨折部には偽関節が残るにも至っていました。そのため,相当程度の後遺障害が想定されることもあり,損害額は大きくなることが見込まれやすい状況でした。
この場合,加害者(及び加害者加入保険会社)に対する金銭請求の方法をどうするか,慎重な検討が必要となり得ます。

具体的な請求方法の選択肢は,主に「交渉」か「訴訟」か,ということになります。それぞれの特徴や比較は,以下のように整理できるでしょう。

【交渉による請求】

交渉の特徴

1.請求金額
→訴訟と比べて請求金額は小さくなる傾向があります。

2.柔軟性
→双方の合意に基づくため,条件や解決策に柔軟性があります。
→迅速に解決することができる場合が多いです。

3.費用
→訴訟に比べて費用が抑えられることが多いです。
→弁護士を介する場合でも,訴訟よりも費用が低いことが一般的です。

4.当事者間の関係
→双方の関係を比較的良好に保つことができるため,将来的な関係性を重視する場合に適しています。

5.結果の見込み
→交渉の結果は双方の合意によるため,予測可能性が高いです。

交渉のデメリット

・相手方が交渉に応じない場合,解決が難しくなることがあります。
・提示された条件に納得がいかない場合,満足のいく解決が得られないことがあります。

【訴訟による請求】

訴訟の特徴

1.請求金額
→交渉に比べて請求金額が大きくなりやすいです。

2.法的拘束力
→裁判所の判決に基づくため,法的な強制力があります。
→相手方が支払いを拒否した場合でも,強制執行が可能です。

3.公平性
→中立的な第三者である裁判所が判断を下すため,公平な結果が期待できます。

4.先例に沿った合理的解決
→過去の判例に基づく判断が行われるため,一定の基準に基づいた損害賠償が期待できます。

訴訟のデメリット

・訴訟にかかる時間が長くなることが多いです。数ヶ月から数年かかる場合もあります。
・訴訟費用(弁護士費用,裁判所の手数料など)が高額になることがあります。
・判決に不満がある場合,控訴などの手続きが必要となり,さらなる時間と費用がかかります。
・双方の関係が悪化する可能性があります。

【比較一覧】

項目交渉による請求訴訟による請求
請求額低い高い
解決の柔軟性高い低い
費用 低い高い
時間短い長い
法的強制力ないある
公平性双方の合意による裁判所の判断
関係の維持良好に保ちやすい悪化する可能性がある

交渉は,費用を抑え,迅速かつ柔軟に解決したい場合に適しており,訴訟は,時間や費用のリスクを負ってでも最大限の金額を請求し,公平な判断を得たい場合に適している,という区別ができるでしょう。

ポイント
交渉は最大額でないが迅速解決可能
訴訟は長期を要するが最大額の請求が可能

②後遺障害等級認定

請求方法を交渉とするか訴訟とするか,という点は,後遺障害等級認定を求める方法にも影響を与えることが考えられます。
後遺障害等級認定を求める方法には,「被害者請求」と「事前認定」があり,個別のケースによっていずれを選択するか検討することになりますが,両者の特徴や比較は以下のように整理できるでしょう。

【被害者請求】

被害者請求の特徴

1.被害者主導
→被害者自身が保険会社に直接請求を行う手続
→自賠責保険会社は,被害者から提出された資料をもと等級認定をする

2.手続の自由度
→被害者が自分で必要な資料を収集・提出するため,手続に柔軟性があります。
→被害者が自身のペースで手続きを進めることができます。

3.費用負担・手続負担
→被害者が自分で資料を集める必要があるため,場合によっては時間や費用がかかることがあります。

【事前認定】

事前認定の特徴

1.加害者主導
→加害者(または加害者の保険会社)が被害者の損害賠償額を認定する手続
→加害者の保険会社が必要な資料を収集・提出する

2.手続の簡便さ
→被害者は後遺障害診断書の提出をすれば足りるため,簡便になりやすいです。

3.負担の軽減
→後遺障害診断書以外の必要資料は,保険会社が取付の上で提出してくれます。
→文書料の負担や取付の手間を回避することができます。

【両者の比較】

項目被害者請求事前認定
手続の主導者被害者加害者(保険会社)
手続の自由度高い低い
手続の簡便さ 労力がかかる簡便
費用負担被害者自身保険会社がサポート
資料収集被害者自身が行う保険会社がサポート

被害者請求は,保険会社に手続を委ねたくない場合や,必要書類以外にも積極的に書類提出したい場合に適しており,事前認定は,保険会社に手続を委ねても差し支えない場合や,手続の簡便さを重視したい場合に適していると言えるでしょう。

ポイント
被害者請求は,自分で自賠責に提出する手続
事前認定は,保険会社に提出してもらう手続

③持病の影響

被害者は,3年ほどに渡る長期の治療を要していましたが,その大きな原因の一つは,被害者の下肢に感染症が生じたことでした。治療の過程で患部に細菌が侵入し,感染症を引き起こしてしまうと,感染症が治まるまでの間は手術等の治療を進めることができず,その分だけ治療が長期間に渡るのです。

そして,被害者の治療が感染症等で長期化しやすかった理由に,被害者が持病としていた糖尿病が影響している可能性も否定できない状況でした。糖尿病患者は,そうでない人と比べて重度の感染症を起こしやすいと言われており,感染症にかかる確率,感染症が重度になる確率は,いずれも糖尿病によって高くなる傾向にあると言われています。

そうすると,被害者の治療が長期に渡ったのは,ただ交通事故の受傷が重かっただけではなく,糖尿病という被害者側の事情が影響してのことでもある,という主張がなされる可能性を考慮する必要がありました。

ポイント
感染症により治療が長期化
持病の糖尿病が感染症の遠因となった可能性も

弁護士の活動

①請求方法の選択

弁護士では,本件における請求方法を訴訟とする方針を取ることとしました。その理由としては,主に以下のような点が挙げられます。

【請求金額の差】

交渉と比較した場合の訴訟の最大のメリットは,請求できる金額が大きくなりやすいことです。そうすると,その金額の差が大きければ大きいほど,交渉より訴訟を選択する方が有益ということになります。

この点,本件の場合,被害者に生じた受傷内容や見込まれる後遺障害の内容からすると,請求金額が数千万円という規模になることが明らかな状況でした。そうすると,仮に金額が一割違うだけでも,数百万円の差ということになります。これは無視できる金額ではありませんでした。

また,交渉では請求できず訴訟でのみ請求できる損害として,「遅延損害金」が挙げられます。これは,事故から賠償までの期間,被害者の損害が補填されなかったことを損害とみなし,請求金額に応じた利息を加算するというものです。
この遅延損害金は,請求金額が大きいほど,そして事故から支払までの期間が長いほど,高額になるところ,本件では高額請求が見込まれる上,事故から3年物通院を要する長期の問題となっていました。そのため,遅延損害金の金額も軽視できない水準であると考えられます。

以上を踏まえると,交渉と訴訟では請求し得る金額の差があまりに大きく,訴訟で請求するメリットが大きいものと考えられました。

【交渉が難航する可能性】

交渉でも,訴訟と遜色のない水準の金額で早期に合意できるのであれば,必ずしも訴訟を行う必要はありません。しかし,本件では,相手保険が被害者の糖尿病の影響を明らかに問題視していた,という状況がありました。
そのため,交渉で解決しようとした場合でも,糖尿病がどの程度損害の拡大に影響を与えたのかを協議する必要があり,その解決は容易でないことが想定されます。

そうすると,交渉をしても難航する可能性が高く,あえて交渉を選択するメリットが大きくないと考えられました。

【長期間を要しても差し支えない事情】

訴訟の大きな問題点は,解決までの期間が長期化しやすい点です。長期に渡る訴訟の間に,経済的に訴訟維持が難しくなってしまえば,訴訟での満足な解決は望むことが困難になります。

しかしながら,本件では,早期に後遺障害等級の認定手続を行うことができる段階にありました。そのため,後遺障害等級認定を受け,等級に応じた自賠責保険金が受領できれば,当面の金銭的問題は解決することが可能です。

そのため,被害者の了承さえ得られれば,解決が長期化しても具体的な問題は生じにくいことが想定されました。

【解決に要する期間の差】

交渉は,確かに訴訟よりは短期間ですが,賠償額が大きくなるとそれほど早期に解決できるわけではありません。具体的には,保険会社内部の意思決定(決裁)に長期を要することが非常に多く見られます。

そうすると,早期解決を目指して交渉を試みても,結局保険会社に待たされる形で長期化することが珍しくありません。本件でもその可能性が大いに見込まれる状況であったため,交渉を選択しても解決に要する期間にそれほど大きな差の生じないことが想定されました。

ポイント
請求額の差の大きさを重視し,訴訟での請求を選択
交渉を選択してもそれほど早期解決につながらない見込みもあった

②後遺障害等級認定

後遺障害等級認定の方法は,被害者請求を選択することとしました。これは,金銭の請求方法を訴訟とした点と大きく関係します。具体的な理由は,以下のように整理できます。

【自賠責保険金を回収する必要】

訴訟での請求を選択する場合,長期に渡る訴訟が被害者の経済的負担につながらないように配慮することが必要となります。その有力な手段の一つが,被害者請求によってあらかじめ自賠責保険金を回収しておくことです。

被害者には,常に硬性補装具を必要とする偽関節で7級,大腿骨骨折後の症状に対して12級の,併合6級が認定され得る状況でした。そして,この内容で併合6級が認定される場合,自賠責保険からは1200万円以上の自賠責保険金が支払われることになります。

この保険金を回収した上で訴訟に臨むことで,訴訟の長期化が被害者の経済的負担となるのを可能な限り防ぎつつ解決を目指すことが可能になります

【訴訟のために必要な手続】

訴訟の中で,後遺障害等級が争点となる場合,適切な等級を明らかにするため,被害者請求を行う必要が生じやすい傾向にあります。なぜなら,裁判所の運用として,被害者請求に対する自賠責調査事務所の等級認定を尊重するのが一般的であるためです。

本件では,重大な後遺障害等級の認定が見込まれる状況であったため,訴訟に発展すると後遺障害等級自体の争いになる可能性が低くありませんでした。そのため,あらかじめ被害者請求で等級認定を獲得する方が円滑であることが見込まれました。

本件では,以上の点を踏まえ,被害者請求の方法で後遺障害等級の認定を獲得することとしました。

ポイント
訴訟中の経済的問題を回避するため,被害者請求で自賠責保険金を回収
訴訟をするといずれにしても被害者請求を必要とする可能性がある

③持病の影響

被害者の持病である糖尿病が感染症の発症や重大化に影響を与えた可能性は,確かに一般論としては否定できないところでした。しかし一方で,本当に糖尿病と感染症に関係があったと言えるかどうかは,決して明確とまでは指摘できませんでした。

そこで,弁護士からは,主治医の見解などを仰いだ上で,糖尿病が感染症に影響を及ぼしたという具体的根拠がないことを主に主張し,持病の影響で損害額が減少することを防ぐ方針としました。
持病によって損害が拡大した場合,その拡大分を賠償額から差し引くことを「素因減額」と言います。もっとも,素因減額を行うには,素因(=持病)の存在のみならず,それが損害の拡大に影響したことを,相手が立証しなければなりません。そのため,弁護士からは素因減額に必要な立証がないことを強く示すこととしました。

ポイント
持病が損害の拡大に影響したとの立証が不十分であると指摘する方針に

活動の結果

以上の活動の結果,被害者には想定通り後遺障害併合6級が認定されました。
また,自賠責保険への請求及び訴訟での請求により,合計で8900万円を超える賠償を獲得し,解決に至りました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,比較的に早期に訴訟の選択をし,賠償金額の最大化を目指したケースでした。

多くの場合,訴訟での解決は数々の負担が重くのしかかるため,交渉で解決する方が被害者側の希望に沿いやすいと思われます。弁護士も,むやみに訴訟を案内するべきではなく,訴訟を行うにあたってはリスク説明を十分に行う必要があるでしょう。

もっとも,本件ではそのリスクを補って余りある増額可能性が訴訟にあり,訴訟での解決を弁護士から案内する方法を取りました。本件の被害者の方は,弁護士の説明にご納得いただき,本心から訴訟をご希望いただくことができましたが,訴訟の負担を踏まえると,迷いながら訴訟に踏み切ることはお勧めできません。

被害者の方におかれては,弁護士から訴訟の案内を受けることがあった場合,想定されるメリットやデメリットについて適切な説明を受けることを強くお勧めします。訴訟の選択は,訴訟での解決が適切であると確信できるかどうかによって判断するのが望ましいでしょう。

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【交通事故解決事例】眼窩骨折後に複視が残った被害者を弁護し,後遺障害13級の認定と約980万円の損害賠償を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】


・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が自転車に乗車し直進走行していたところ,信号のない十字路交差点で右方から同じく直進走行してきた四輪車と衝突する事故に遭いました。
事故により,被害者は眼窩底骨折や鼻骨骨折などのケガを負い,入通院治療を余儀なくされました。

弁護士へのご相談は,入院中に実施されました。今後の治療に際して,健康保険の利用を相手保険から求められており,健康保険利用の是非に悩みをお持ちの状況でした。また,加害者側が自分に過失がない旨の主張しているため,治療費が自己負担の状態になっているとのことでした。

弁護士にて,適切な対応方針を検討の上,十分な損害賠償をの獲得を目指すため,弁護活動を受任する運びとなりました。

法的問題点

①健康保険の利用

交通事故の場合,健康保険の利用を勧められることが一定数あります。これは,主に治療費の負担軽減を目的に行われるものです。

前提として,交通事故で受傷した場合の治療には,「自由診療」と「保険診療」の二つがあります。簡単に区別すれば,健康保険を利用しない治療が「自由診療」で,健康保険を利用する治療が「保険診療」となります。

自由診療は,公的医療保険の適用がないため,診療費が医療機関ごとの設定となり,一般的に高額です。その一方で,保険診療では受けられない治療法が可能であったり,医療機関によっては自由診療専用の予約枠が設けられていたりと,高額な分だけ融通の利く受診方法ということができるでしょう。

自由診療と保険診療

治療方法医療費自己負担部分治療の選択肢予約の優遇等
自由診療高額全額制限なしあり
保険診療低額一部のみ制限ありなし

もっとも,交通事故の一般的な治療過程で,自由診療でなければ治療が受けられず不都合である,ということはあまり生じません。そうすると,保険診療にするデメリットがあまりないため,医療費を低額にできる分だけ得であるとの考え方になります。
そのため,保険会社からは,特に入院を要するなど治療費が高額になりそうな場合に,被害者へ健康保険の利用を勧めることがあるのです。

これは,被害者にとっても有益なことがあり得ます。具体的には,被害者にも過失割合のあるケースが代表例です。
過失割合がある場合,被害者自身も治療費を一部自己負担する必要があります。負担割合は過失割合によって決まりますが,負担金額は治療費そのものの金額に直接的な影響を受けることとなります。例えば,過失割合10%の被害者の場合,治療費が10万円であれば自己負担1万円,治療費が100万円であれば自己負担10万円,というような差異が生じ得るわけです。
そのため,被害者にも過失割合がある事故では,健康保険の利用が有益な選択肢になり得るでしょう。

また,過失がない事故であったとしても,将来的な金額交渉に際しては健康保険の利用が有益になり得ます。保険診療を選択した場合,治療費が減少し,相手保険の治療費負担が軽減するため,その分だけ慰謝料など他の項目の交渉に際して柔軟な譲歩が得られやすくなる,というケースは一定数見られるところです。

ポイント
健康保険を利用すると,治療費が低額になる
過失割合がある場合は,被害者の負担額に直接の影響がある

②過失割合

過失割合については,相手本人が無過失を主張しているとのことでした。もっとも,その主張には全く根拠がなく,言うならば「ゴネている」状態でした。

この点は,最終的には保険会社と加害者本人との間できちんと解決してもらえば足りるのですが,治療中に相手が無過失を主張していると,一つ問題が生じます。それは,相手保険が治療費などの負担をしてくれない,という点です。
相手本人が無過失を主張する以上,相手の代わりに支払う立場である保険会社は支払をすることができません。しかし,治療をストップするわけにはいかないため,治療費は随時発生しますし,休業があれば休業損害も発生し続けます。そうすると,これらの損害はとりあえず被害者が立て替えるほかなく,被害者が経済的負担を背負い続けなければならないのです。

相手の不合理な主張によって,被害者に重い経済的負担が生じるのは明らかに不適切です。そのため,被害者の負担になっている状態を速やかに取り除くことが必要な状況でした。

なお,本件の事故状況を踏まえた一般的な過失割合は20:80となることが見込まれる状況でした(【240】図)。

20:80の過失割合であれば,加害者の賠償保険でとりあえず全額負担を行う,という運用が一般的であるため,本件で被害者が立て替えを強いられるのはやはり不適切と言えます。

ポイント
加害者が無過失を主張している場合,被害者による立替の必要があり得る
20:80の過失割合であれば,被害者の立替は不適切

③後遺障害等級認定

被害者の主な受傷内容は,眼窩底骨折と呼ばれるものでした。眼窩底骨折とは,眼部や眼の周辺部に外圧が加わった際に,眼窩(眼球が入る骨の窪み)の下部が骨折するものを指します。眼窩下壁は,薄い骨で構成されており,圧力に強くないため,外圧に耐えることができず骨折してしまうことがあります。

眼窩底骨折

そして,眼窩底骨折の影響で多いものが,眼の動きが悪くなってしまうというものです。眼窩の中の脂肪組織や筋肉が損傷してしまうため,それまで通りの眼の動きができなくなってしまうことが多く見られます。

この点,後遺障害との関係では,複視(物が二重に見えてしまうこと)が生じやすいと言われています。
複視に関する後遺障害等級は,複視の内容・程度によって以下のものが定められています。

複視の後遺障害等級

等級基準
10級2号正面を見た場合に複視の症状を残すもの
13級2号正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの

「複視の症状を残すもの」とは

1.本人が複視のあることを自覚していること
2.眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
3.ヘススクリーンテストにより患側の像が健側に比して5度以上離れた位置にあること

なお,10級と13級の差異は以下の通りです。
正面を見た場合に複視の症状を残すもの」(10級)
→正面視で複視が中心の位置にあること
正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの」(13級)
→それ以外の場合

本件においては,被害者にもやはり複視の症状が見られており,複視に関する後遺障害等級認定を想定することが必要でした。

ポイント
眼窩底骨折に伴い複視が生じやすい
複視は正面視かそれ以外かで等級が分かれる

④逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,労働能力喪失期間は,67歳までの期間とするのが原則的な運用です。もっとも,被害者は公務員として仕事をしており,基本的には60歳で定年を迎えることが想定される状況でした。
そうすると,労働能力喪失期間を60歳までの期間とすべきか,原則的な運用に沿って67歳までとすべきか,という点に大きな問題が生じ得ます。

ポイント
労働能力喪失期間は67歳までの期間とするのが原則
もっとも,被害者は60歳を定年とする公務員の立場であった

弁護士の活動

①健康保険の利用

本件の場合,自由診療でなければ治療に窮するという事情は特にないことが確認されました。そのため,弁護士からは健康保険の利用をお勧めし,できるだけ立替の金額が少ない状態で相手保険の早期対応を求める形を取ることとしました。

なお,健康保険の利用は,特に立替が生じる場合に大きなメリットとなることが少なくありません。それは,保険診療の自己負担分が治療費の一部(多くの場合は3割)にとどまるためです。
自由診療の場合には,治療費そのものが高額になる上,全額の負担が必要となるため,現実の負担額は非常に大きくなりやすいものです。その一方,保険診療では,低額の治療費のうち3割を負担することで足りるため,立替時の経済的負担は大きく軽減されることになるでしょう。

ポイント
保険診療で不都合が生じないことを確認し,健康保険の利用をお勧め
健康保険の利用は,立替額が大きく軽減する

②過失割合

本件では,過失割合について加害者が不合理にも無過失を主張していたため,被害者に治療費の立替が生じるという不適切な状態に陥っていました。そのため,弁護士において早期に相手保険と協議を開始し,対応を改めるよう求めました

この場合,保険会社の対応は様々です。最も無責任な対応の場合,「契約者本人が無過失だと言っているから何もしない」と放置を決め込むケースも残念ながら見られます。
そこで,弁護士からは,被害者の立替が続くようであれば,今後交渉には一切応じず,裁判で金銭を請求することになる可能性を強く示す方針を取ることにしました。この方針が有力であるのは,保険会社にとって放置するデメリットが大きくなるためです。

被害者側が訴訟で金銭を請求した場合,当然ながら加害者は保険会社に助けを求めることになります。そして,助けを求められた保険会社は,訴訟への必要な対応や,訴訟で決まった賠償額の支払を行う必要が生じます。
そうすると,訴訟で被害者の主張が認められた場合の賠償額は,交渉で解決する場合の金額よりも高額になることが通常であるため,訴訟をされてしまうと保険会社はより多額の支払を強いられる恐れがあるのです。
そのため,裁判の可能性を強く示すことで,保険会社が積極的に訴訟を回避する動きを取る可能性が高くなります。結果,加害者本人への必要な説得をし,治療費の支払などの対応を自ら行うようになるのです。

本件でも,相手保険会社が加害者本人を積極的に説得し,加害者に過失のあることを認めさせ,保険の対応を自ら開始するに至りました。
なお,過失割合は基本過失割合通り20:80での解決となりました。

ポイント
加害者本人が不合理な主張をする場合,保険会社に正してもらうのが円滑
保険会社に訴訟の方針を示すことで,加害者への説得を催促できる

③後遺障害等級 

後遺障害等級に関しては,複視についての等級認定が問題となりました。この点,正面視以外の場合に複視の症状が出ていることが見込まれたため,後遺障害13級の認定を目指すことが有力と考えられました。

結果的にも,被害者には無事後遺障害13級の認定がなされました。

④逸失利益

本件では,60歳までと60歳以降とで,逸失利益の計算を異にする必要がありました。それは,60歳定年の公務員である被害者にとって,60歳までの収入と60歳以降の収入が同じである可能性がないためです。

この点,60歳までについては,原則通りの計算が可能と思われます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

60歳までの逸失利益
「事故前年の収入額」×9%(13級のため)×「症状固定~60歳までの期間に対応するライプニッツ係数」

一方,60歳以降は,同じ収入額が保たれる可能性こそないものの,一定の労働は可能な状況であるため,いくらかの逸失利益は発生すると考えられます。このような場合,平均賃金を用いて起訴収入を計算することが有力な解決方法です。

60歳以降の逸失利益
「60歳の平均賃金」×9%(13級のため)×「60歳~67歳までの期間に対応するライプニッツ係数」

以上を踏まえ,逸失利益としては,上記の「60歳までの逸失利益」と「60歳以降の逸失利益」の合計額を採用するべきであることを主張し,その通りの金額での合意となりました。

ポイント
定年以降の収入が分からない場合,平均賃金を基礎収入とする手段が有力

活動の結果

以上の活動の結果,被害者には複視に伴う後遺障害13級が認定されました。
また,後遺障害13級を前提に相手保険と金額交渉を尽くした結果,約980万円の賠償を獲得するに至りました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,過失割合について加害者が不合理な主張をしていたことが最初のハードルとなっていました。無責任な加害者は,自分の経済的負担を回避したい一心で,明らかに不合理でも無過失の主張をしてくることがあり得ます。そして,その不合理な主張で不利益を被るのは,残念ながら被害者になりがちです。

しかし,そのような事態を許すべきでないことは明らかであり,加害者の不合理な主張には適切な対応を早期に尽くすことで,被害を最小限に抑えることが有益でしょう。
具体的には,やはり弁護士を窓口にして,弁護士から適切な請求を行ってもらうことが,円滑な解決の近道になりやすいでしょう。

本件の場合は,被害者の方が入院中の早期段階で弁護士にご相談・ご依頼されたため,迅速な活動が可能となり,立替は最小限度に収まったということができるでしょう。
交通事故で重大な被害を被った場合は,まず弁護士に相談してみる,という考え方が肝要だと考えます。

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【交通事故解決事例】後遺障害診断書に記載のなかった脳の障害について検査等を依頼し,高次脳機能障害9級を獲得。2,400万円超の賠償金となった事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

当時小学生であった被害者が,複数人で下校中,横断歩道のない十字路交差点の付近にて,車道を歩いて横断しようとしていましたが,そこに左方から直進してきた四輪自動車が衝突し,事故が発生しました。

被害者を含む2名が受傷しましたが,被害者の被害が最も重く,頭部に強い衝撃を受けた結果,事故後の数日間は意識のはっきりしない状態が続いていました。
その後,幸いにも意識を取り戻し,リハビリなどを通じて改善に努めましたが,1年ほどの通院を経ても脳機能への悪影響が残っている状況でした。具体的には,感情の起伏が激しく制御できない,記憶がうまくできない,簡単な算数の計算に時間がかかってしまう,といった症状が見られました。

弁護士に相談された当時,被害者は別の弁護士に依頼しており,後遺障害に関する手続を予定しているとのことでした。依頼した弁護士の案内で後遺障害診断書の作成を受けたものの,同弁護士からは後遺障害等級認定を受けることは難しいとの案内を受けていました。

被害者の親権者から,後遺障害の見込みや適切な解決方針に関して相談があり,弁護士が対応することとなりました。

法的問題点

①過失割合

本件は,過失割合に大きな争いのある事故でもありました。被害者は,信号のない十字路交差点付近を横断していたとの主張でしたが,相手保険は,交差点上の横断ではなかったことを理由に,直進道路上を被害者が横断したという事故類型であるとの主張をしているようでした。

この点,被害者の主張する事故類型では,基本過失割合が20%となります(【34】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用 以下同じ

また,被害者が「児童」に該当すること,複数人の下校中であって「集団横断」に該当することを主張していたため,「児童」による-5%の修正と「集団横断」による-5%の修正で,合計10%被害者の過失が低下する主張内容でした。そのため,修正後の過失割合は10:90となります。

一方,相手保険の主張する事故類型は,基本過失割合が30%となります(【33】図)。

また,相手保険によると,被害者の「直前横断」が原因で事故が発生したとのことであったため,「直前横断」により+10の修正,被害者「児童」につき-10%の修正がなされ,修正後の過失割合も30:70との内容でした。

以上から,被害者と相手保険の主張する過失割合には,「10:90」と「30:70」という見解の開きが見られる状況でした。

ポイント
被害者は10:90を主張
相手保険は30:70を主張

②高次脳機能障害

被害者は,事故によって頭部を受傷し,事故後の数日は意識がはっきりしない状況であったため,高次脳機能障害を理由とした後遺障害等級認定の可能性が考えられました。

この点,高次脳機能障害は,事故後に一定期間の意識障害があったかどうかが重要な判断要素の一つとなっています。具体的には,以下の基準が用いられています。

要件具体的基準
①6時間以上のこん睡状態JCS3桁又はGCS8点以下
②1週間以上の意識障害JCS1~2桁又はGCS13~14点

【GCS】(E・V・M 3つの合計値が小さいほど重篤)

【E】開眼
4自発的に眼を開けている
3呼びかけにより眼を開ける
2痛みにより眼を開ける
1眼を開けない
【V】最良言語反応
5見当識あり
4会話はできるが混乱
3発語はできるが不適当
2発声はできるが理解不可
1反応なし
【M】最良運動反応
6命令に応じる
5痛みの部位を認識する
4痛みで屈曲反応(逃避)
3痛みで屈曲反応(異常)
2痛みで伸展反応
1反応なし

被害者の場合には,事故直後のGCSが7点,1時間後にはGCS9点と確認されていることが分かりました。これは,意識障害レベルとして高次脳機能障害の認定基準を満たし得るものであり,具体的に高次脳機能障害の有無を検査等する必要があり得ると考えられます。

また,被害者には感情制御能力や記憶能力の低下など,高次脳機能障害の影響と思われる複数の支障が出ており,等級認定のためにも,その後の生活や成長のためにも,脳機能の障害を正しく判断してもらう必要があると見受けられました。

ポイント
事故後の意識障害は,高次脳機能障害の基準を満たし得る
感情制御能力や記憶能力の低下は,高次脳機能障害の影響と思われる

③現在の代理人弁護士との関係

被害者には,既に依頼をしている代理人弁護士がおり,後遺障害の申請手続を具体的に勧めようとしているところでした。そのため,こちらが依頼を受けるか,現在の弁護士に依頼し続けるかは,被害者の親権者に判断してもらうことが必要となります。

被害者にとっては,現在の弁護士から等級認定が困難と案内されている点が大きなネックになっているようでした。脳機能の障害が疑われる中で,後遺障害等級認定が困難と指摘されれば,疑問を抱くのもやむを得ないところでしょう。

この点,当方が状況を確認すると,現在の弁護士との関係では,そもそも高次脳機能障害の等級認定に向けた準備を行っていない可能性が推測されました。というのも,高次脳機能障害の等級認定を受けるためには,必要な検査結果を後遺障害診断書に記載してもらうことに加え,他にも複数の必要書類がありますが,当時は,後遺障害診断書に脳の症状の記載がない上,他の必要書類を一切準備していない状況であったのでした。

そのため,当方からは,当方へ依頼されるかどうかはともかく,高次脳機能障害について等級認定を目指すための必要な動きは取るのが適切であろうことをご案内することとしました。

弁護士の活動

①受任方法

まずは,被害者側が当方に依頼されるかどうかをしっかりと検討してもらうべきであると考えました。そのため,とりあえず脳機能に関する適切な検査を受けていただく目的で,弁護士から通院先の候補をご案内し,検査のための通院を実施していただくこととしました。

検査の結果,やはり被害者には高次脳機能障害特有の症状が見受けられ,適切に後遺障害等級認定を受けるための手段を尽くすべきであるということが判断できました。これを踏まえ,弁護士からは,当方にご依頼された場合の流れや方針を具体的にお伝えし,被害者の親権者に検討を依頼しました。

ご検討された結果,従前の代理人弁護士とは解約の上,当方にご委任される方針を固められました。

ポイント
まずは必要な検査を受けていただき,ご依頼の場合の方針を確定
後遺障害に関する方針を比較の上で弁護士選びをご検討いただいた

②過失割合

過失割合に関しては,そもそも主張している事故態様が異なるところ,その中心的な違いは交差点上(又はその直近)か,交差点上でない場所か,という点でした。
この点,事故に居合わせた他の児童の話や,事故状況に関する両当事者の説明を確認したところ,事故はほぼ交差点上で発生しており,事故発生場所に関する主張は被害者側の言い分が合理的であることが判断できました。おそらく,相手保険は,被害者の感情的な希望を踏まえ,根拠に乏しいながらも過失割合を争ってきたのであろうと推測されました。

そのため,弁護士からは,過失割合は被害者の主張通りにするべきであることを改めて主張するとともに,自社の言い分を維持するのであれば,相応の根拠を添えて主張するよう求めました。
交渉の結果,相手保険が主張を撤回するに至り,過失割合は10:90での解決となりました。

ポイント
過失割合の争いの中心は,事故が起きた場所
交差点上の事故であることの根拠を示し,相手に主張の撤回を促した

③高次脳機能障害

本件では,高次脳機能障害が後遺障害等級認定の対象となるかどうか,という点が結果を決定的に左右する問題と言えました。損害賠償額にすれば千万円単位で変わる可能性も少なくないポイントです。

そのため,弁護士からは後遺障害等級認定のための必要な試みを可能な限り尽くすご案内を実施しました。主な活動内容は,以下の通りです。

後遺障害等級認定のための活動内容

1.対面でのコミュニケーション
→被害者の状態を直に確認し,障害の内容を具体的に把握しました。

2.障害の具体的影響を確認
→障害が具体的な行動に現れたエピソードを可能な限り洗い出しました。

3.専門医への通院・検査
→検査のための通院を改めて行い,診断書の提出に必要な症状の確認を行いました。

4.医師の見解を聴取
→検査結果を確認した医師に見解を聴取し,等級認定を目指す方針を具体的にしました。

5.その他提出書類の内容を検討
→高次脳機能障害の等級認定に必要な他の書類についても,記載内容を詳細に吟味検討しました。

6.後遺障害診断書の再作成
→従前の後遺障害診断書を破棄し,高次脳機能障害の等級認定に適した後遺障害診断書の再作成を依頼しました。

以上を踏まえ,後遺障害の申請に適した書面作成を行い,弁護士にて等級認定手続を進めることとしました。

活動の結果

上記の各活動の結果,後遺障害等級としては高次脳機能障害について9級の認定が獲得できました。高次脳機能障害が等級認定の対象となった点で,被害者にとって非常に有益な認定結果となりました。

また,後遺障害9級を踏まえ,過失割合や各損害額を相手保険と交渉した結果,2,400万円を超える賠償額の獲得が実現されました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,セカンドオピニオンとして相談を受けたことが受任のきっかけとなったケースでした。
一般的に,セカンドオピニオンで直接受任まで至るケースはそれほど多くありません。セカンドオピニオンで現在の方針にお墨付きが得られれば,弁護士を変更する理由がないためです。一方,現在の弁護活動や方針に疑問がある場合,その点を漫然と見過ごしてしまえば,取り返しのつかない不利益につながる可能性もあります。

本件の場合,後遺障害診断書の作成後であったものの,その提出前に弁護士への相談を実施されたことがとても適切でした。作成された後遺障害診断書を提出してしまえば,今回と同じ後遺障害等級の認定は得られずに終わった可能性が高いでしょう。
弁護士への依頼中に他の弁護士へ相談することは,心理的に難しいことも少なくありませんが,特に問題が重大な場合には,手続が進んでしまう前に他の弁護士へ相談し,見解を仰いでみることも選択肢に入れてよいのではないでしょうか。

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【交通事故解決事例】顔面醜状障害による12級で,逸失利益に関する丁寧な主張立証により300万円を超える増額を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が,車道脇を自転車で直進走行し,信号のある十字路交差点を青信号に従って通過しようとしたところ,対向から右折で交差点に進入した単車と衝突する事故が発生しました。互いに渋滞する車列をすり抜けるように走行していたため,相互に相手の発見が遅れた,という事情がありました。

事故の結果,被害者は主に顔面を受傷し,額は数十針も縫うケガとなりました。1年以上に渡る通院治療を尽くしたものの,額に線状痕が残り,顔面の醜状障害として後遺障害12級の認定を受けました。

その後,相手保険から賠償額の提示を受け,金額の合理性や増額余地の有無などを確認するために弁護士への相談を希望されました。

法的問題点

①過失割合

保険会社の提示では,被害者の過失割合が10%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,信号のある交差点で,双方ともに青信号に従っていた場合,直進自転車と対向右折車(四輪車・単車とも含む)の間で発生した交通事故では,基本過失割合が10:90とされています(【249】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,実際の事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正すべき事情がなければ,被害者の過失を10%とする解決が合理的と思われます。
ただし,信号のある交差点での対向車間の事故においては,信号表示が問題になり得ることに注意が必要です。互いが交差点に入った時の信号表示が本当に青信号であったか,進入後に信号が変わっていないか,という事情によって,過失割合が変動する可能性も低くはないためです。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件における被害者の通院期間は,1年を超えるものでした。その期間や後遺障害が残るほどの受傷であったことを踏まえると,慰謝料は決して低く見積もられるべきではないと考えられます。
しかし,相手保険の金額提示では,傷害慰謝料が35万円とされていました。これは,1年を超える通院を要したケースとしては非常に低額と言わざるを得ないものでした。しかも,35万円という提示に特段の理由は見受けられず,漫然と低額の提示をしているようでした。
そのため,傷害慰謝料については,根拠ある金額での解決が適切であり,重要な交渉対象となることが想定されました。

ポイント
傷害慰謝料は,ケガの程度や通院期間を主な基準として計算する
傷害慰謝料の提示額35万円は,受傷内容や治療期間を踏まえると非常に低額

③後遺障害慰謝料

後遺障害等級が認定された場合,傷害慰謝料とは別に,後遺障害慰謝料が発生します。これは,将来に渡って後遺障害が残存することに対する精神的苦痛を対象とする慰謝料です。
後遺障害慰謝料は,後遺障害等級によって金額が定められていますが,12級の場合,自賠責基準の金額が94万円,裁判基準の金額が290万円とされています。

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

本件では,自賠責基準に沿って94万円の提示がなされており,いわば最低額というべき提示内容でした。
保険会社が自賠責基準で提案を行うのは,その金額で合意ができれば自社の負担なく解決ができるためです。一方,被害者としては,自賠責から自分で回収しても同額が受領できる以上,相手保険とその金額で合意するメリットがほとんどありません。
後遺障害慰謝料についても,十分な増額交渉が必要であると判断される状況でした。

ポイント
後遺障害等級が認定されると,等級に応じた後遺障害慰謝料が発生する
相手保険の提示は自賠責基準であったため,増額交渉の余地がある内容

④後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,「労働能力喪失率」がゼロであれば,逸失利益もゼロとなります。労働能力が失われていない以上,収入減少もないのは当然ともいえます。
そして,顔面の醜状障害は,必ずしも労働能力を失わせるものとは考えられていません。顔面に醜状が残ったとしても,直ちに労働ができなくなるわけではないからです。
そうすると,顔面の醜状が全く労働に影響しないと考えるならば,労働能力喪失率はゼロ,逸失利益もゼロ,という計算になってしまうため,逸失利益の有無が争点になり得ます。

本件では,相手保険による逸失利益の提示が130万円という金額でした。一定の逸失利益を認めているようですが,実際はそうではありません。これも,後遺障害慰謝料と同じく,自賠責保険から出る金額をそのまま計上しているというのみです。
後遺障害12級に対しては,自賠責保険から総額224万円の保険金が支払われます。このうち,慰謝料は94万円であるため,残りの130万円を逸失利益として計上している,というわけです。

このような提示を行う保険会社のメッセージとしては,「逸失利益はないと考えている」というものであると想像されます。本件の醜状障害のように,後遺障害の類型として逸失利益が発生しない可能性があるものだと,保険会社がこのようなスタンスを示してくることは決して珍しくありません。

弁護士としては,逸失利益についてどのような解決を目指すべきか,検討が必要な問題でした。

ポイント
顔面の醜状は逸失利益が生じるかどうか明確でない
相手保険の提示は自賠責基準と同額であった

弁護士の活動

①過失割合

過失割合については,まず,基本過失割合の確認を行いました。
この点,被害者から事故状況の聴取をしたところ,相手保険が被害者の過失10%の根拠とした事故態様に間違いがないことが確認できました。そのため,基本過失割合が10%となる点は了承することが適切な内容でした。

また,信号がある場合,信号表示に争いの生じることがあり得ますが,双方の交差点進入時,及び衝突時のそれぞれについて,互いの対面信号が青色表示であったことにも争いがないと確認が取れました。
そのため,過失割合については10%を了承し,争わない方針とすべきである旨が判断できました。

なお,本件は,渋滞中の車列の間をすり抜けるように交差点に進入したという事情があり,被害者が相手の単車を確認するのが遅れたきっかけにもなっているため,この点を過失割合に反映させるかどうかは問題となり得るところです。
しかし,本件の場合,互いに渋滞をすり抜けて走行しているため,相手の確認が遅れた原因は双方にあると考えられる状況でもありました。このような場合に過失割合を争おうとすると,相手からの強い反発が見込まれ,解決が困難となる場合も否定できません。争った場合の結果も不透明であることから,過失割合を争うことにあまり合理性がないと考えられる内容でした。

そのため,本件では渋滞があった点を過失割合の主張に反映させないことを選択し,早期円満な解決を目指しました。

ポイント
基本過失割合の根拠となった事故態様が一致することが確認できた
信号表示は互いに青であったことに争いがないと確認できた

②傷害慰謝料

傷害慰謝料については,被害者の受傷結果や通院期間を踏まえると,100万円を超える増額可能性があり得るものと見受けられました。そして,相手が低額な提示をしていることに特段の根拠がないという特徴も見受けられました。

そこで,弁護士からは,一般的に根拠があるとされる裁判基準を踏まえた金額提示の上で,相手保険の提示が根拠に基づかない低額な水準であることを指摘するとともに,低額な金額提示を維持するのであれば,その具体的な根拠を示すよう求める方針を取ることにしました。
相手の提示額に根拠が見受けられない場合は,まず相手の根拠の指摘を求めるのが端的です。そもそも,低額の提示をするのであれば,相応の根拠を添えて行うべきであって,正しい対応を求めたのみである,という言い方もできるでしょう。相手が交渉に必要なステップをちゃんと踏んでいないのであれば,まずはそのステップを踏んでから,初めてこちらが検討する順番となるべきです。

本件では,上記の方針を取ったところ,保険会社から低額な提示の根拠が示されることはなく,概ね当方の請求に沿った慰謝料額での合意となりました。具体的には,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多いところ,裁判基準の95%に当たる金額での合意となりました。

ポイント
低額な慰謝料の提示は相応の根拠を添えて行われるべき
根拠のない提示に対しては根拠を出すよう求めるのが有力な交渉方法

③後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料についても,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多く見られます。この点,12級の慰謝料の場合,裁判基準が290万円のため,80~90%は232万円~261万円となります。そうすると,提示額の94万円(=自賠責基準)からは概ね150万円前後の増額余地があり,後遺障害慰謝料についても十分な交渉が必要であると想定されました。

この点,後遺障害慰謝料について裁判基準を踏まえた金額で請求できる根拠は,まさにその後遺障害等級が認定されたという事実です。後遺障害慰謝料は,後遺障害等級が認定されるような症状が残ったということを理由に支払われるものであるため,等級認定されれば通常は支払われるべき,ということになります。
裏を返せば,後遺障害慰謝料を減額交渉しようとするのであれば,その等級が認定されたことが不適切である,という内容の主張になるのが通常です。もっとも,これは保険会社の主張としては困難と言わざるを得ません。

そのため,弁護士からは,保険会社の低額な提示を無視する方針とし,端的に裁判基準を踏まえた金額交渉を実施して,相手保険の了承を引き出すことにしました。交渉の結果,傷害慰謝料と同じく,裁判基準の95%に当たる金額での合意となり,一般的な目標額を超える水準での解決に至りました。

ポイント
後遺障害慰謝料は,等級認定されれば他の理由なく支払われるべきもの

④後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益に関しては,まず,後遺障害に伴う労働への影響を確認することとしました。
この点,被害者は介護職に従事していましたが,特に顔面の醜状が仕事への制限をもたらす立場にはありませんでした。顔面の醜状が直ちに労働能力に影響を与えやすい業種としては,モデルや営業職,一部の接客業などが挙げられますが,被害者はそのどれにも当てはまっておらず,醜状障害そのものが労働能力を低下させるとの主張は難しいことが見込まれました。

もっとも,被害者の醜状障害は,額の深い傷を原因とするものであったため,顔面の一部に知覚の低下をもたらすものでもありました。これは,神経症状と呼ばれるもので,局部の神経症状は労働能力に一定の影響があると考える余地がありました。
そこで,弁護士からは,12級相当の労働能力の喪失が,症状固定後5年間低下する可能性があることを主張し,相手保険に逸失利益の増額を求めることとしました。その結果,当方の主張が受け入れられ,症状固定後5年分の逸失利益が支払われる内容での合意となりました。

ポイント
顔面の醜状そのものは労働能力に影響しない業務内容であった
醜状に伴う神経症状を根拠に逸失利益を請求し,合意に至った

活動の結果

各慰謝料と逸失利益の交渉を尽くした結果,従前の提示額約270万円に対して,約580万円での示談成立となり,310万円を超える増額が実現されました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

顔面の醜状障害は,後遺障害逸失利益の金額計算が難解な後遺障害の一つです。顔面に醜状があっても,身体的な機能が低下するとは限らないため,逸失利益はないのではないか,という発想があるためです。
一方,醜状を残すほどの受傷がある場合,醜状以外にも何らかのダメージが残っており,後遺障害等級はそのようなダメージを含めた認定になっていることがあります。この点を踏まえれば,一定の逸失利益は観念することもでき,逸失利益に交渉の余地があり得ます。

本件では,後遺障害等級認定の中で顔面部の知覚低下を含む認定であることが明記されていたため,これを逸失利益の交渉における重要な根拠の一つとしました。醜状障害に伴うダメージの内容は,単に主張するのみでなく,その裏付けを示す形を取ることで,相手保険の合意を引き出しやすくもなります。

具体的な交渉方法・内容は個別のケースによるため,一律の指摘は困難ですが,一度交通事故に強い弁護士に相談を実施の上で,見解を仰いでみるのは重要なことだと考えます。
弁護士の敷居を決して高く感じる必要はありませんので,一度お気軽にご相談されてみることをお勧めいたします。

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【交通事故解決事例】併合11級の金額交渉を代行し,交渉開始から約1か月半で440万円の増額を獲得して解決に至った事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】


・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が単車を乗車中,直進走行していたところ,前方の四輪車が左折を試みたため,被害者は巻き込み事故に遭い,鎖骨骨折などのケガを負いました。
治療終了後,鎖骨の変形及び肩関節の可動域制限が残ったため,後遺障害併合11級が認定されました。

等級認定の後,相手保険から損害賠償額の提示を受けた段階で,金額の合理性や増額の可能性などに関する弁護士へのご相談を希望されました。

法的問題点

①過失割合

相手保険からの提示内容では,過失割合が被害者20%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,直進単車と,先行する左折四輪車の間で発生した巻き込み事故は,基本過失割合が20:80とされています。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正するべき事情がなければ,被害者の過失割合を20%とする解決が合理的となりそうです。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件で,被害者は300日(10か月)を超える治療を要していました。この期間は決して短いものではなく,骨折後の回復に時間を要したことが容易に想像されます。
しかし,保険会社から示された傷害慰謝料は32万円と非常に低額なものでした。この金額は,むち打ちで2か月程度の通院を行った場合に合意されやすい慰謝料と同水準であり,受傷内容や治療を要した期間と比較すると十分な金額とは評価し難いものと思われました。

傷害慰謝料が低額となっている大きな要因は,被害者の実通院日数が少なかったためであると見受けられました。骨折の場合,頻繁にリハビリ通院を行うのでなく,月単位で期間を空けて経過観察の通院をする形となることも少なくありませんが,その場合は実通院日数が少なくなりがちです。実通院日数が少ないケースでは,それを根拠に相手保険が低額な慰謝料の提示を行うことが一定数見られます。

ポイント
傷害慰謝料は,受傷内容や通院期間を基準に計算する
実通院日数が少ないことを理由に低額の提示となっていた

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

具体的な金額交渉においては,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点になる場合が多く見られます。本件でも,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点となることが見込まれる状況でした。

【労働能力喪失率】

被害者の後遺障害は,肩関節の可動域制限12級と鎖骨の変形障害12級で,併合11級でした。この点,可動域制限は労働能力に直接影響を及ぼすものですが,変形障害は必ずしも労働能力に影響を及ぼすものではありません。変形したから労働能力が低下するとは限らないためです。
そのため,このようなケースでは,可動域制限のみが労働能力を低下させているものと評価し,12級相当の労働能力喪失率を採用することが考えられます。

労働能力喪失率

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

もっとも,本件では12級相当の14%でなく,11級相当の20%で計算された逸失利益が提示されていました。そのため,労働能力喪失率に関しては有益な内容になっていると思われました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間は,労働能力の喪失が収入減少をもたらす期間を指します。基本的には,収入を得ている間(=労働ができる間)が労働能力喪失期間となります。
そして,特段の事情がない場合,症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされるのが原則です。一方,67歳までの期間とすることが不適切な事情がある場合には,個別の内容を踏まえて検討することになります。

この点,被害者は症状固定時53歳であったところ,相手保険の提示内容では,60歳までの7年間のみが労働能力喪失期間とされていました。一般的な給与所得者は60歳で定年を迎えることから,保険会社の提示では60歳までを労働能力喪失期間とすることが多く見られます。本件でも,特に個別の事情を考慮することなく機械的に60歳までとの計算をしていることが見受けられました。

しかし,被害者の労働能力喪失期間が本当に60歳までに限定されてよいかどうかは,被害者の労働に関する現状や見込みを踏まえて判断することが必要です。そもそも,原則としては67歳までの期間を採用するべきであって,機械的に60歳までと区切ることが当然に認められるものではありません。

そのため,労働能力喪失期間については具体的な検討や交渉の余地があるものと思われました。

ポイント
労働能力喪失率は有益な内容と思われる
労働能力喪失期間は交渉の余地がありそう

弁護士の活動

①過失割合

過失割合については,本件の事故態様における基本過失割合と整合する20%の提示であったため,弁護士の方では,過失割合の修正要素に当たる事情の有無を確認することとしました。

修正要素とは,基本過失割合をそのまま採用することが不適切な事情を指し,事故類型ごとに修正要素とされるものが定められています。左折四輪車の巻き込み事故であれば,左折車がウインカーを出していない(合図なし),左折前に徐行していない(徐行なし)といった事情が,単車側の過失を減少させる修正要素となり得ます。

もっとも,本件では特段の修正要素が確認されませんでした。そのため,過失割合については20%を了承する前提で金額交渉を実施することとしました。

ポイント
過失割合については修正要素の有無に注意
本件では修正要素がないとの結論に

②傷害慰謝料

傷害慰謝料は,特に理由を示すことなく金額提示がされていたため,相手保険の提示内容に合理的な根拠が見受けられない状況でした。そうすると,被害者側が相手保険の提案を了承する理由もないということになります。

弁護士からは,相手保険の提示金額では了承が不可能である姿勢を毅然と示すとともに,いわゆる裁判基準を念頭に置いた金額以外には合意の余地がないとのスタンスを強く示すことにしました。
また,被害者は,骨折後の治療に際して,鎖骨バンドと呼ばれる固定器具を数か月間使用し続けるなどの負担を余儀なくされ,骨の癒合がなされるか不安定な期間を過ごしたという経緯もあったため,これらの事情を踏まえた主張も行うこととしました。具体的には,実通院日数が少ないことが被害者の精神的苦痛を低下させる事情とは言えず,かえって通院治療では改善しない(=患部を固定し続けるしかない)という状況を強いられた精神的苦痛を考慮すべきとの主張を合わせて行うこととしました。

ポイント
裁判基準を念頭に置いた金額以外では合意が不可であることを毅然と主張
慰謝料の根拠として,長期間骨折部の固定を強いられたことを指摘

③逸失利益

【労働能力喪失率】

労働能力喪失率については,相手保険の提示が11級相当の20%とされており,被害者にとって最も有益な内容であったため,そのまま採用することとしました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間については,相手保険の提示が60歳までという短期間であったため,これを改めることを求める交渉を実施しました。

前提として,被害者の労働状況や後遺障害の影響を確認することとしました。
被害者は,作業療法士の仕事をしており,日常生活の機能改善を図るリハビリテーションの対応を主な業務としていました。そして,リハビリテーションに伴って必要となる補助などの力仕事に,後遺障害の影響が強く生じていることが分かりました。
業務に必ず発生する力仕事への悪影響は,被害者が労働を継続する限り生じし続ける重大なものであり,不用意に労働能力喪失期間を限定するべきではないと判断できました。

また,60歳以降に労働が予定されているか,という点についても具体的な確認を行いました。この点,被害者の場合には,そもそもの定年が60歳ではなく63歳であること,被害者の希望によって67歳までの就業も可能であることが確認できました。
そのため,被害者の労働能力喪失期間を60歳で区切ることには全く根拠がなく,原則である67歳までの期間を採用すべきであると主張する方針を取りました。

活動の結果

慰謝料及び逸失利益について,弁護士より相手保険との交渉を試みたところ,慰謝料についてはいわゆる裁判基準満額,逸失利益は67歳までの期間を採用するという当方の請求通りの解決に至りました。
その結果,従前の提示額約740万円に対して,約1180万円での合意となり,440万円を超える増額に至りました。合意額は,裁判を行った場合の請求額に匹敵する水準でした。

なお,交渉で裁判基準の満額が獲得できることはほとんどないため,本件は特に交渉が奏功した結果であったと言えるでしょう。

また,弁護士への依頼から賠償金の受領に要した期間は約1か月半であり,満額合意と早期解決を両立する結果にもなりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,慰謝料と逸失利益のそれぞれに一定の交渉余地があり,かつ相手保険の主張に明確な根拠が見受けられないというものでした。この場合,根拠のない主張を受け入れる意思はない,という点をまず明確に示すことが有力な進め方になりやすいでしょう。
本件でも,弁護士から毅然とした主張を行うことから開始したことにより,こちらのスタンスが相手保険にはっきりと伝わり,早期の高額解決につながりました。

また,本件の特筆事項として,相手保険の満額回答が挙げられますが,この点にも毅然とした請求方針が影響したと思われます。具体的な根拠を添えて毅然と主張したことで,保険会社はこちらが訴訟を辞さないであろうことを感じ取ったため,満額回答をしてでも早期に交渉で解決しようとした,と考えられます。

金額の主張に根拠があるか,どのような根拠を主張すべきか,といった点は,まさに弁護士が交渉に際して重要視すべき点であり,弁護士以外には検討が困難なことでもあります。金額交渉に際して弁護士依頼をしていただくことの有益さを改めて確認する事件となりました。

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【労災事故解決事例】工事現場で事故被害に遭った後遺障害1級の被害者を弁護し,将来介護費を含め約1億9,000万円の賠償を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,工事現場における労災事故で後遺障害1級となった被害者を弁護した結果,将来介護費を含めて総額約1億9000万円が獲得された事例を紹介します。

事案の概要

被害者は,大型建物の撤去工事に参加していたところ,重機で引き上げていた重量物が落下し,手足に直撃する事故に遭いました。事故の結果,被害者は両足の膝から下を失うとともに,右手も失うという重大な障害を負いました。

法的問題点

①後遺障害等級

下肢の欠損については,以下の後遺障害等級が考えられます。
(なお,便宜上自賠責保険の認定基準を用います)

両下肢を失った場合の後遺障害等級

等級基準
1級5号両下肢をひざ関節以上で失ったもの
2級4号両下肢を足関節以上で失ったもの
4級7号両足をリスフラン関節以上で失ったもの

本件では,両下肢の膝から下を失っているため,1級の認定が想定されます。

また,上肢の欠損については,以下の後遺障害等級が考えられます。

1上肢を失った場合の後遺障害等級

等級基準
4級4号1上肢をひじ関節以上で失ったもの
5級4号1上肢を手関節以上で失ったもの

本件では,手関節以上を失っており,5級の認定が想定されます。

以上を踏まえると,本件では後遺障害1級の認定が明らかに見込まれる,と言っても差し支えない状況でした。
なお,これらの後遺障害は,要介護の後遺障害とはされていないため,認定基準を満たせば直ちに介護が必要と判断できるわけではありません。ただ,両下肢を失ってしまえば現実的に介護を要する場合が多いため,将来介護費の対象とすることは多く見られます。

ポイント
両下肢の欠損で後遺障害1級
要介護の後遺障害等級ではないが,現実的には介護を要しやすい

②請負関係

被害者は,建築現場の業務中に事故に遭いましたが,この建築現場には複数の会社が介入していました。このうち,被害者の立場はいわゆる孫請け(二次下請)をする会社の所属でした。
この場合,現場業務には「元請」の会社,「一次下請(子請け)」の会社と,被害者を含む「二次下請(孫請け)」の会社がいることになりますが,損害賠償の関係は元請けから二次下請までの各会社との間で生じます。

建築業務に携わる会社は,万一の事故に備えて各種の傷害保険や賠償保険に加入していることが一般的ですが,被害者の場合,直接の雇用関係にある二次下請の会社のみならず,その上位にある一次下請や元請の会社が加入している保険からの給付も受けられる可能性が高い状況でした。
このような保険給付は,交渉などを要せず比較的速やかに行われるものも多いため,漏れなく請求することが被害者の利益のためには非常に重要です。

ポイント
被害者は二次下請の会社に属していた
元請や一次下請の会社の保険給付も受けられる余地がある

③将来介護費

既に解説した通り,下肢の欠損自体は要介護の後遺障害等級とされているわけではありません。しかし,両下肢を欠損した状態では,生活に多大な支障があることは明らかであり,一人で十分な生活を送ることは困難です。
そのため,被害者の十分な救済を図るためには,将来介護費の交渉が不可欠な状況でした。

この点,将来介護費の請求を行うためには,具体的にどのような介護を要したか,という点の主張立証が重要になります。

将来介護の内容には,大きく以下の2種類が挙げられます。

将来介護の種類

1.職業介護
→職業介護人による介護(日額15,000円~20,000円ほど)

2.近親者介護
→家族等による介護(日額8,000円ほど)

一般的な介護の必要性としては,「職業介護を要する場合」「介護を要するが近親者介護で足りる場合」「近親者介護も不要である場合」という区別ができるでしょう。
したがって,近親者介護を要することが立証できなければ,将来介護費の請求は困難ということになります。

ポイント
将来介護には職業介護と近親者介護がある
介護費を請求するには,少なくとも近親者介護は必要と言えることが必要

④労災保険の手続

労災保険は,労働者が勤務中の災害で受傷した場合に損害の補填をする保険ですが,適切に給付を受けるためには必要な手続を行わなければなりません。

本件では,以下の2つの手続が想定されます。

【傷病補償等年金・特別支給金】

療養の開始後1年6か月を経過しても治療が終わらず,その負傷が1級などの上位の後遺障害に該当するものである場合,傷病補償等年金の請求が可能です。
また,等級に応じた特別支給金や特別年金の支給を受けることも可能となります。この特別支給金及び特別年金は,相手方からの賠償とは別に受領できる(損益相殺の対象にならない)ため,被害者への補償として非常に有益なものです。

傷病等級傷病補償等年金傷病特別支給金傷病特別年金
第1級給付基礎日額の313日分114万円算定基礎日額の313日分
第2級給付基礎日額の277日分107万円算定基礎日額の277日分
第3級給付基礎日額の245日分100万円算定基礎日額の245日分

【障害補償年金・特別支給金】

治療の終了後,後遺障害が残った場合,後遺障害1級から7級ではその等級に応じて障害補償年金の請求が可能です(8級から14級は年金でなく一時金のみでの支給となります)。
また,等級に応じた特別支給金や特別年金の支給を受けることも可能となります。この特別支給金及び特別年金は,相手方からの賠償とは別に受領できる(損益相殺の対象にならない)ため,被害者への補償として非常に有益なものです。

障害等級障害補償年金障害特別支給金障害特別年金
第1級給付基礎日額の313日分342万円算定基礎日額の313日分
第2級給付基礎日額の277日分320万円算定基礎日額の277日分
第3級給付基礎日額の245日分300万円算定基礎日額の245日分
第4級給付基礎日額の213日分264万円算定基礎日額の213日分
第5級給付基礎日額の184日分225万円算定基礎日額の184日分
第6級給付基礎日額の156日分192万円算定基礎日額の156日分
第7級給付基礎日額の131日分159万円算定基礎日額の131日分

本件では,生活に介護を要する被害者に代わり,これらの手続を弁護士が対応することとしました。

ポイント
治療が長期化すると傷病補償年金の請求が可能
後遺障害が残ると障害補償年金の請求が可能

弁護士の活動

①請負関係の処理

まず,弁護士からは各社で利用可能な保険の内容を一通り確認することとしました。その結果,それぞれ後遺障害1級を前提とした保険金の支払が可能であり,その総額は8,000万円あまりに上ることが分かりました
多大な損害を被った被害者にまず一定額の受領をしてもらうため,これらの保険金の支払手続を急ぐこととしました。

その後は,各社と個別に協議を行うと解決が困難になりかねないため,代表者の選定を依頼するとともに,その代表者の代理人弁護士と協議する方針を取りました。こうすることで,各社から個別に主張を受けることがなくなり,円滑な解決が可能となりました。

ポイント
各保険から合計8,000万円あまりの給付が受けられることを確認
迅速に保険金を回収することで,被害者の損害補填を実現
その後の交渉は,代表者1名との間で行う形を取った

②将来介護費の解決

将来介護費については,近親者介護の必要性を具体的に指摘することが必要でした。

そのため,被害者及び同居する母と綿密な打ち合わせを実施し,治療中及び症状固定後の介護状況を具体的に整理することとしました。聴取の結果,生活の各局面で母による献身的な介護が被害者を支えていると確認することができました。
弁護士からは,被害者に対する母親の介護状況を詳細に整理して指摘することで,将来介護費の必要が認められるに至りました。また,その日額は近親者介護を終日要する場合の基準額である8,000円となりました。

ポイント
被害者の母による介護の実績を詳細に整理
将来介護費の有無が大きな争点となることを防止

③労災保険の手続

労災保険の各給付に関しては,弁護士が被害者の代理人として申請手続を行った結果,無事に各給付を受けることができました。
被害者自身が具体的な申請を行うことは容易でないため,被害者にとっては弁護士依頼の大きなメリットが生じた一面であったとも言えるでしょう。

活動の結果

上記の活動の結果,被害者には各会社の加入する保険から所定の保険金が支払われるとともに,労災保険にて後遺障害1級が認定され,労災保険からも必要な給付がすべて行われました。
さらに,会社加入の賠償保険から逸失利益及び将来介護費などの支払を受け,その総額(将来の年金を除く)は約1億9000万円となりました。

被害者の方は,バリアフリーに配慮した自宅への転居や介護体制の完備が得られ,将来の生活に対する憂いを解消するに至りました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,工事現場における労災事故で,幸いにも一命を取り留めたというものでした。しかし,その受傷は一見して後遺障害1級に該当すると判断できるほど深刻であり,今後の生活保障のためにもできる限りの賠償金を獲得することが重要な状況でした。

特徴的な損害項目としては将来介護費が挙げられますが,どの程度の介護費が生じるかは,必要な介護の具体的内容による面が非常に大きいところです。そのため,請求時にどのような介護を要しているか,その介護は今後も継続的に必要か,といった点を詳細に示すことが解決の近道になります。

本件では,被害者やご家族のご協力をいただけたこともあり,介護の実態を具体的に指摘できたのが円滑な解決につながりました。

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