痴漢の時効は何年?公訴時効と起算点・後日逮捕の可能性を解説

電車内などで問題となる痴漢事件には、一定期間が経過すると刑事責任を問うことができなくなる「公訴時効」が定められています。もっとも、痴漢として処罰される行為には、迷惑防止条例違反だけでなく、刑法の不同意わいせつ罪などが成立する場合もあり、成立する罪名によって時効の期間は異なります。

また、時効は単に年数が経過すれば成立するものではありません。いつから時効が進行するのか(起算点)や、時効が完成しないケースがあることにも注意が必要です。実際には、防犯カメラや交通系ICカードの利用履歴などの証拠から、事件から時間が経過した後に被疑者が特定され、逮捕に至るケースもあります。

さらに、刑事事件としての時効とは別に、被害者から損害賠償請求を受ける可能性(民事上の時効)も存在します。そのため、痴漢事件における時効を理解する際には、刑事責任と民事責任の双方の仕組みを整理して把握することが重要です。本記事では、痴漢事件の時効は何年なのか、成立する罪名ごとの公訴時効、時効の起算点、何年前の事件でも逮捕される可能性があるのかといったポイントについて解説します。

なお、痴漢事件の刑罰に関する傾向や判断基準については、以下の記事もご参照ください。
痴漢の刑罰とは?罰金・拘禁刑の基準と重くなるケース

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

痴漢事件に時効はある?公訴時効の基本をわかりやすく解説

痴漢事件については、一定の期間が経過すると刑事責任を問うことができなくなる「公訴時効」が定められています。公訴時効とは、犯罪行為が行われてから一定期間が経過した場合、検察官が起訴することができなくなる制度です。時効が完成すると、その事件について刑事裁判で処罰を求めることはできません。

公訴時効は刑事訴訟法に規定されており、犯罪の法定刑の重さに応じて時効期間が定められています。一般に、比較的軽い犯罪は時効期間が短く、重大な犯罪ほど時効期間が長く設定されています。痴漢行為として問題となる事件についても、この仕組みに従って公訴時効が適用されます。

もっとも、痴漢行為といっても、どの犯罪が成立するかによって適用される時効期間は異なります。電車内で体を触るなどの行為は、多くの場合、各都道府県の迷惑防止条例違反として処罰されますが、行為の態様が悪質な場合には、刑法の不同意わいせつ罪などが成立する可能性もあります。このように、痴漢事件の時効は一律ではなく、成立する罪名によって判断される点に注意が必要です。痴漢という呼び方だけで時効期間が決まるわけではなく、具体的な行為内容と適用される法律によって、公訴時効の長さが変わります。

公訴時効が設けられる主な理由は、時間の経過とともに証拠が散逸し捜査が困難になってしまう、という点が挙げられます。証拠が十分に収集できないと、適正な判断も難しくなり、望ましい状況とは言い難くなります。

痴漢の時効は何年?成立する罪名ごとの公訴時効

痴漢事件の公訴時効は、刑事訴訟法250条に基づいて判断されます。痴漢という言葉は一般的な呼び方にすぎず、刑事事件では行為の内容に応じて具体的な犯罪が適用されます。そのため、公訴時効の期間も成立する犯罪の種類によって異なります。

刑事訴訟法250条2項は、一般の犯罪について公訴時効を次のように定めています。

  • 死刑に当たる罪:25年
  • 無期拘禁刑に当たる罪:15年
  • 長期15年以上の拘禁刑に当たる罪:10年
  • 長期15年未満の拘禁刑に当たる罪:7年
  • 長期10年未満の拘禁刑に当たる罪:5年
  • 長期5年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪:3年
  • 拘留又は科料に当たる罪:1年

電車内などで身体に触れる典型的な痴漢行為は、各都道府県の迷惑防止条例違反として処理されるケースが多くあります。このような犯罪は刑事訴訟法250条2項6号の**「長期五年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪」**に該当するため、公訴時効は3年となります。

一方、行為の態様が悪質で、刑法上の性犯罪に該当する場合には扱いが変わります。不同意わいせつ罪や不同意性交等罪については、刑事訴訟法250条3項が公訴時効を個別に定めています。具体的には、次のとおりです。

  • 不同意わいせつ罪(刑法176条:公訴時効12年
  • 不同意性交等罪(刑法177条:公訴時効15年

さらに、刑事訴訟法250条4項は、これらの性犯罪について被害者が犯罪行為の時点で18歳未満であった場合の特則を定めています。この場合、上記の時効期間に加えて、犯罪行為が終わった時から被害者が18歳に達するまでの期間が加算されます。たとえば、被害者が16歳のときに不同意わいせつ罪の被害に遭った場合には、通常の公訴時効12年に加えて、18歳になるまでの2年間が加算されることになります。

このように、痴漢事件の時効は一律ではありません。迷惑防止条例違反であれば3年、不同意わいせつ罪であれば12年、不同意性交等罪であれば15年というように、成立する犯罪によって公訴時効の期間が異なります。また、性犯罪については被害者が未成年であった場合に時効が延長される特則も設けられています。痴漢という言葉だけで時効の年数が決まるわけではなく、行為の内容と被害者の年齢などを踏まえて公訴時効が判断される点が重要です。

成立する犯罪公訴時効
迷惑防止条例違反(痴漢)3年
不同意わいせつ罪(刑法176条)12年
不同意性交等罪(刑法177条)15年

痴漢事件の時効はいつから始まる?起算点の考え方

公訴時効は、犯罪が成立した時点から直ちに進行するわけではなく、犯罪行為が終了した時から進行するとされています。刑事訴訟法253条は、公訴時効の起算点について次のように定めています。

「時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。」

そのため、痴漢事件の時効を考える場合には、まずどの時点で犯罪行為が終了したと評価されるかを確認する必要があります。

典型的な痴漢事件では、電車内などで身体に触れる行為が問題となります。このような場合には、身体に触れる行為が終了した時点が犯罪行為の終了時とされ、そこから公訴時効が進行します。たとえば、電車内で身体に触れる行為が行われ、その後に行為が終わって電車を降りた場合には、その行為が終わった時点から時効が進行することになります。

もっとも、痴漢行為が一定時間にわたって繰り返される場合もあります。たとえば、同じ車両内で断続的に身体に触れる行為が続いた場合には、一連の行為全体が終了した時点を基準として時効が進行すると考えられます。したがって、行為が継続している間は時効は進行せず、最後の行為が終わった時点が起算点となります。

また、被害者がすぐに被害を申告しなかった場合でも、被害届の提出時期によって時効の起算点が変わることはありません。公訴時効は犯罪行為が終了した時から進行するため、被害届が出されていない期間があったとしても、その間に時効は進行していきます。

このように、痴漢事件の公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行するというのが基本です。いつから時効が始まるのかを判断する際には、行為がいつ終了したと評価されるかが重要なポイントになります。

何年前の痴漢でも逮捕される?時効完成前の捜査と時効停止

痴漢事件では、公訴時効が完成していない限り、過去の行為について捜査や逮捕が行われる可能性があります。そのため、事件から時間が経過していても、時効期間内であれば刑事責任を問われる可能性は残ります。

実際の捜査では、被害申告をきっかけとして、さまざまな証拠から被疑者が特定されることがあります。たとえば、駅や車内の防犯カメラ映像、改札の通過記録、交通系ICカードの利用履歴などから、事件当時の行動が確認される場合があります。また、同じ人物による被害が複数報告され、過去の事件がまとめて捜査対象となるケースもあります。このような場合には、事件から一定期間が経過していても、公訴時効が完成していなければ捜査が進むことになります。

さらに、公訴時効については、一定の場合に時効の進行が停止する制度も設けられています。刑事訴訟法254条は、被疑者が国外にいる場合などには、その期間について時効が進行しないことを定めています。たとえば、犯罪後に長期間海外に滞在していた場合には、その期間は公訴時効の計算に含まれない可能性があります。このように、痴漢事件では「時間がたてば必ず処罰されなくなる」と単純に考えることはできません。公訴時効が完成するまでは、過去の事件について捜査が行われる可能性があり、一定の場合には時効の進行が停止することもあるためです。事件から時間が経過している場合でも、具体的な状況によっては刑事責任を問われる可能性が残る点に注意が必要です。

痴漢の民事責任の時効とは?損害賠償請求の期限

痴漢行為については、刑事責任とは別に、被害者から損害賠償を請求される可能性があります。これは民法上の不法行為責任に基づくものです。

不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、民法724条で定められています。原則として、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年で時効により消滅します。

そのため、痴漢事件では、被害者が加害者を特定し、損害を把握した時から3年が経過すると、原則として損害賠償請求権は時効にかかります。また、加害者を特定できていなかった場合でも、行為の時から20年が経過すると請求はできなくなります。

なお、人の生命又は身体を害する不法行為に当たる場合には、民法724条の2の特則が問題になります。この場合は、知った時からの期間が5年に延長されます。痴漢事案で常にこの特則が直ちに当てはまるとは限らず、事案に応じた検討が必要です。このように、痴漢事件では、刑事の公訴時効と民事の消滅時効は別の制度として整理する必要があります。刑事事件としての時効が問題になる場面でも、民事上の請求期限は別に進行するため、両者を分けて確認することが重要です。

痴漢をしてしまった場合に時効を待つのは危険な理由

痴漢事件では、公訴時効が完成するまでは刑事責任を問われる可能性があります。そのため、単に時間が経過すれば問題にならないと考えることは適切ではありません。実際には、事件から一定期間が経過した後に捜査が進み、被疑者が特定されるケースもあります。

痴漢事件の捜査では、防犯カメラの映像、駅の改札記録、交通系ICカードの利用履歴などが証拠として確認されることがあります。また、被害者や目撃者の証言を手掛かりに、後日になって被疑者が特定される場合もあります。公訴時効が完成していない限り、こうした証拠をもとに捜査が行われる可能性があります。

また、痴漢事件では被害者との示談が成立しているかどうかが、事件の処理に影響することがあります。被害者との間で示談が成立し被害回復が図られているかどうかが、不起訴処分の判断を決定づけることも珍しくありません。裏を返すと、示談が成立していない場合には、被害が回復していないことを考慮して刑事責任を重くされる恐れが大きくなります。

なお、示談が成立した場合でも、それによって公訴時効の進行が止まるわけではありません。公訴時効は犯罪行為が終わった時から進行し、一定期間が経過すると完成します。

このように、痴漢事件では、時効が完成するまで刑事責任を問われる可能性があり、示談の有無が事件の処理に影響することもあるため、状況に応じて対応を検討する必要があります。

確かに、公訴時効が完成してしまえば刑罰を受ける可能性はなくなりますが、ただ時効を待つ動きは、時効完成前に起訴された場合の刑事責任が重くなる、という大きなリスクを背負うことになるでしょう。

痴漢事件の時効に関するよくある質問

痴漢の時効は3年ですか

痴漢事件の公訴時効は、成立する犯罪によって異なります。電車内で身体に触れる典型的な痴漢行為は迷惑防止条例違反として扱われることが多く、この場合の公訴時効は3年です。
一方、行為の態様が悪質で刑法の性犯罪に該当する場合には、不同意わいせつ罪は12年、不同意性交等罪は15年と、より長い公訴時効が適用されます。

痴漢の時効はいつから数えますか

公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行します。痴漢事件では、身体に触れる行為などの犯罪行為が終了した時点が起算点となります。被害届が提出された時や事件が発覚した時から時効が始まるわけではありません。

何年前の痴漢でも逮捕されることはありますか

公訴時効が完成していない場合には、過去の事件について捜査や逮捕が行われる可能性があります。防犯カメラの映像や交通系ICカードの利用履歴などから、後日になって被疑者が特定されることもあります。事件から時間が経過していても、公訴時効が完成していなければ刑事責任を問われる可能性があります。

示談が成立すると時効はどうなりますか

被害者との示談が成立した場合でも公訴時効の進行が止まるわけではありません。公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行します。
もっとも、示談が成立して被害回復が図られている場合には、不起訴処分の判断や量刑判断の事情として考慮されることがあります。

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盗撮の時効は何年?罪名別の公訴時効と起算点を解説

近年、盗撮事件に関する報道や法改正の影響もあり、「何年前の行為でも処罰されるのか」「時効を過ぎれば逮捕されないのか」といった疑問を抱く方が少なくありません。もっとも、盗撮の時効は一律ではなく、どの罪名が適用されるかによって公訴時効の期間は異なります。

たとえば、性的姿態等撮影罪が問題となる場合と、各都道府県の迷惑防止条例違反が問題となる場合とでは、前提となる法定刑が異なり、そこから導かれる時効期間も変わります。また、時効は「発覚した時」ではなく、原則として「犯罪行為が終了した時」から進行するという点も重要です。

さらに、刑事事件としての公訴時効が完成しても、民事上の損害賠償請求が別途問題となることがあります。刑事と民事では時効の制度も起算点も異なるため、「刑事が時効=すべて解決」とは限りません。本記事では、盗撮に適用され得る罪名ごとの公訴時効を整理したうえで、起算点、時効の停止・中断、完成後の法的効果、そして民事上の消滅時効との違いまで、体系的に解説します。「盗撮の時効は何年か」という結論だけでなく、どのような場合にどの時効が問題となるのかを理解することが重要です。

なお、盗撮事件が何の罪に当たるのか、判断基準や刑罰の全体像については、以下の記事もご参照ください。
盗撮は何罪?撮影罪・条例の違いと判断基準を解説

この記事の監修者

藤垣圭介

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代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

盗撮の時効は何年?公訴時効のルールと各罪の法定刑

まず、公訴時効は刑事訴訟法250条により、その犯罪の法定刑の上限によって決まります。
したがって、盗撮の時効を判断するには、「盗撮」という行為名から直接年数を導くのではなく、どの罪名が成立するかを特定し、その法定刑の上限を確認することが出発点になります。

刑事訴訟法の基本的な区分は次のとおりです。

法定刑の上限公訴時効
5年未満3年
5年以上10年未満5年
拘留・科料のみ1年

つまり、法定刑の上限が3年や2年といった犯罪であれば、公訴時効は原則3年になります。
一方、法定刑の上限が5年に引き上げられている類型では、公訴時効は5年となります。


盗撮で問題となる主な罪名と法定刑・時効

盗撮行為で実務上問題となる代表的な犯罪を整理すると、次のとおりです。

罪名主な法定刑公訴時効
性的姿態等撮影罪(撮影行為)3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金3年
性的姿態等撮影罪(提供・送信等)5年以下の拘禁刑5年
迷惑防止条例違反(盗撮)1年以下または2年以下の拘禁刑、または罰金(条例により異なる)3年
住居侵入罪・建造物侵入罪3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金3年
軽犯罪法違反拘留または科料1年

ここで重要なのは、同じ「盗撮」でも、行為態様によって成立する犯罪が変わるという点です。

たとえば、

  • その場で撮影しただけなのか
  • 撮影データを第三者に送信したのか
  • インターネット上に公開したのか
  • 盗撮目的で建物に侵入しているのか

といった事情によって、適用される罪名と法定刑が変わります。
その結果、公訴時効も3年になる場合と5年になる場合があり得ます。

また、盗撮行為と住居侵入行為が併せて成立するような場合には、それぞれの罪について別個に公訴時効が進行します。
どの犯罪で起訴される可能性があるのかによって、時効の判断も変わることになります。

さらに、迷惑防止条例は都道府県ごとに定められており、法定刑の上限や処罰範囲に差があります。
そのため、一律に「条例違反だから必ず同じ時効」とは言い切れず、適用条例の確認が必要です。このように、盗撮の時効は一律ではなく、「成立する罪名」と「その法定刑の上限」によって決まります。
「盗撮は3年で時効」と単純化できるものではなく、具体的事案ごとの法的評価を前提に判断することが不可欠です。

盗撮の時効はいつから始まる?発覚していない場合も進むのか

公訴時効の期間が何年かを理解したうえで、次に問題となるのが「その時効はいつから数えるのか」という点です。

刑事訴訟法では、公訴時効は原則として「犯罪行為が終わった時」から進行するとされています。
したがって、盗撮事件においても、時効の起算点は「発覚した時」や「被害者が気づいた時」ではなく、原則として行為が終了した時点になります。

1.撮影行為が単発の場合

たとえば、特定の日に盗撮行為を行い、その場で終了している場合、
その撮影行為が終わった時点から公訴時効が進行します。

被害者がその場では気づかず、数年後に発覚したとしても、
発覚の時期にかかわらず、時効は行為終了時から進み続けます。

2.継続的な行為の場合

一定期間にわたり、繰り返し盗撮を行っていた場合はどうでしょうか。

この場合、それぞれの行為が個別の犯罪として評価されるのが原則です。
そのため、各行為ごとに公訴時効が進行することになります。

たとえば、

  • 3年前の行為は時効が完成している
  • 2年前の行為はまだ時効が完成していない

といったことも起こり得ます。

3.撮影データの保存・提供がある場合

撮影後に、データを第三者に送信したり、インターネット上に公開したりした場合は、その提供・公開行為自体が別の犯罪として評価されることがあります。

その場合、撮影行為の時効とは別に、提供・公開行為の終了時から新たに時効が進行します。

つまり、
「撮影自体は3年以上前だが、最近になってデータを送信した」
という事案では、送信行為についてはまだ時効が完成していない可能性があります。

4.発覚していない場合でも時効は進む

しばしば誤解されるのが、
「警察に知られていなければ時効は進まないのではないか」という点です。

しかし、公訴時効は捜査機関の認識や被害者の申告とは無関係に進行します。
犯罪が成立し、行為が終了した時点から、法律上は時効が進み始めます。

もっとも、どの時点で「行為が終了した」と評価されるかは、事案によって判断が分かれることがあります。
撮影方法やデータ管理の状況によっては、終了時期の評価が問題になることもあるため、慎重な検討が必要です。このように、盗撮の時効は原則として「行為終了時」から進行し、発覚の有無とは関係ありません。
時効期間だけでなく、起算点を正確に理解することが重要です。

盗撮の時効は止まることがある?停止・中断のポイント

公訴時効は原則として行為終了時から進行し続けますが、一定の場合には時効の進行が止まる、あるいはリセットされることがあります。
その典型が「時効の停止」と呼ばれる制度です。

1.起訴による時効の停止

刑事訴訟法上、検察官が公訴を提起した場合、その事件については時効の進行が停止します。
つまり、起訴されると、それ以降は時効が完成することはありません。

起訴後に審理が長期化しても、「その間に時効が完成する」ということはないということです。

2.共犯者がいる場合の扱い

盗撮が複数人で行われた場合など、共犯関係があるケースでは、他の共犯者に対する手続が問題となることがあります。

もっとも、原則として公訴時効は各被疑者ごとに個別に進行します。
ある共犯者に対して起訴がなされたとしても、それが直ちに他の者の時効を停止させるわけではありません。

したがって、「他の人が捕まっていないから自分も大丈夫」といった単純な推測は危険です。

3.国外にいる場合

被疑者が国外にいる場合には、時効の進行が停止することがあります。
刑事訴訟法は、国外にいる期間について時効が進行しない場合があると定めています。

もっとも、具体的にどの期間が停止の対象となるかは、事案の事情によって異なります。

4.「時効が近い」という状況の誤解

実務上、「あと数か月で時効だから安心」という判断は必ずしも安全とはいえません。

  • どの罪名で評価されるか確定していない
  • 提供・送信など別の行為が問題になる可能性がある
  • 起算点の認定が想定と異なる

といった事情により、想定より長い時効期間が適用されることもあり得ます。

このように、盗撮の公訴時効は単純に年数だけで判断できるものではなく、停止事由や罪名評価も含めて検討する必要があります。
「止まることはない」と思い込まず、制度の全体像を理解することが重要です。

盗撮の時効が完成するとどうなる?逮捕・前科への影響

公訴時効が完成すると、その事件については起訴されることはありません。
その結果、有罪判決が言い渡されることもなく、刑罰が科されることもありません。

もっとも、重要なのは「本当に時効が完成しているか」という点です。
時効の完成は、単に年数が経過したというだけで自動的に確定するものではなく、どの罪名が成立するか、いつを起算点とするかという法的評価を前提に判断されます。

1.逮捕や勾留はどうなるのか

原則として、公訴時効が完成していることが客観的に明らかな場合には、逮捕や勾留は行われません。

しかし、実務上は次のような事情が問題になります。

  • 撮影行為とは別に、提供・送信行為があったと評価される
  • 住居侵入罪など別の犯罪が成立すると判断される
  • 行為終了時の認定が当事者の認識と異なる

このような場合、本人が「3年以上経っている」と考えていても、より重い罪名が適用され、公訴時効が5年と判断される可能性もあります。

したがって、「年数だけで安全かどうかを判断することは危険」です。

2.前科はつくのか

公訴時効が完成して起訴されない場合、有罪判決は出ません。
そのため、有罪判決に基づく前科はつきません。

ただし、捜査の対象となった事実が記録として残ることや、報道の有無によって社会的影響が生じる可能性は否定できません。
刑事責任が問われないことと、社会的評価が全く影響を受けないこととは別問題です。

3.民事責任は残る可能性がある

公訴時効が完成しても、被害者から損害賠償請求を受ける可能性があります。
刑事の時効と民事の時効は別制度であり、刑事責任が消滅しても民事責任が残ることがあります。

とくに、被害者が後に行為を知った場合には、民事の時効がまだ完成していないケースもあります。


このように、盗撮の公訴時効が完成すれば刑事処罰は行われませんが、「本当に完成しているか」「他の責任が残らないか」という点を慎重に検討する必要があります。
単純に「年数が経ったから安心」と判断できる問題ではありません。

公訴時効の完成後は、その事件が捜査されること自体もなくなることが通常です。ただし、公訴時効が完成しているかどうかが不明確である場合は捜査が継続され得るでしょう。

盗撮の民事責任に時効はある?慰謝料請求との違い

盗撮行為は、刑事責任とは別に不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任が問題となります。
この損害賠償請求には、民法724条に基づく消滅時効が適用されます。

1.民事の時効期間

不法行為による損害賠償請求権は、原則として次のいずれかで消滅します。

  • 被害者が「損害および加害者を知った時」から3年
  • 不法行為の時から20年

これが民法724条の基本構造です。

したがって、たとえば盗撮行為から5年以上経過していても、
被害者が最近になって初めて行為を知った場合には、そこから3年以内であれば民事請求が可能な場合があります。

2.刑事の時効との違い

刑事の公訴時効は「行為終了時」から進行します。
これに対し、民事の3年の期間は「被害者が知った時」から進行します。

そのため、

  • 刑事は時効完成
  • しかし民事はまだ3年経過していない

という状況が生じ得ます。

刑事と民事は起算点も制度趣旨も異なるため、必ずしも同時に消滅するわけではありません。

3.盗撮特有の問題

盗撮は、被害者が直ちに行為を認識しないケースが少なくありません。
データが後日発見された場合や、インターネット上で拡散して初めて判明した場合などでは、民事の時効の起算点が後ろにずれる可能性があります。

その結果、刑事手続が終わった後でも、慰謝料請求がなされることがあります。


このように、盗撮の時効を検討する際には、公訴時効だけでなく、民法724条に基づく民事の消滅時効も併せて理解する必要があります。
刑事が時効だからといって、民事責任まで当然に消滅するわけではありません。

民事の時効は、被害者が加害者を知っていなければ基本的に進行しませんが、盗撮事件は被害者に発覚していないケースが多いため、民事の時効がなかなか進行しない可能性が高くなります。

盗撮に余罪がある場合、時効はどう計算される?

盗撮事件では、「1回だけの行為」ではなく、複数回にわたって撮影していた、あるいは複数の被害者がいるというケースも少なくありません。
このような場合、公訴時効は一括で計算されるのではなく、原則として各行為ごとに個別に進行します。

1.行為ごとに時効は進行する

たとえば、次のようなケースを考えます。

  • 3年前の撮影行為
  • 2年前の撮影行為
  • 1年前の撮影行為

この場合、それぞれの行為について別個に公訴時効が進行します。
したがって、3年前の行為は時効が完成していても、1年前の行為についてはまだ時効が完成していない、という状況が生じ得ます。

「最後の行為からまとめて計算される」と誤解されることがありますが、原則は個別計算です。

2.提供・送信行為がある場合

撮影後にデータを第三者に送信したり、インターネット上に公開した場合、その提供・公開行為自体が別の犯罪として評価されることがあります。

この場合、撮影行為の時効とは別に、提供・公開行為の終了時から新たに時効が進行します。

したがって、「撮影は数年前だが、最近になってデータを送信した」という事案では、送信行為については時効が完成していない可能性があります。

3.より重い罪名が成立する場合

盗撮行為に加えて、住居侵入罪などが成立する場合、それぞれについて独立して公訴時効が進行します。
また、提供行為などにより法定刑の上限が高い類型が適用されると、公訴時効自体が3年ではなく5年になる可能性もあります。

その結果、本人が「3年経っている」と考えていても、
実際にはより長い時効期間が適用されることもあり得ます。


このように、盗撮に余罪がある場合、公訴時効は一律に判断できず、行為ごと・罪名ごとに個別に検討する必要があります。

盗撮で時効を待つのは危険?実務上のリスク

「あと少しで時効だから、そのまま何もしなければよいのではないか」と考える方もいます。しかし、時効を前提に対応を先延ばしにすることには実務上のリスクがあります。

1.罪名の評価が想定と異なる可能性

本人は「迷惑防止条例違反だから時効は3年」と考えていても、
実際には

  • 性的姿態等撮影罪が成立すると評価される
  • 提供・送信行為が独立して成立すると判断される
  • 住居侵入罪が併せて成立すると評価される

といった事情により、より長い公訴時効が適用される可能性があります。

時効の前提となる「罪名の特定」が誤っていれば、年数の計算も前提から崩れます。

2.起算点が争われるリスク

公訴時効は「行為終了時」から進行しますが、
いつを終了時と評価するかは事案によって判断が分かれることがあります。

  • 撮影後もデータを保管し続けている
  • 後日になって提供・公開している
  • 一連の行為と評価される可能性がある

といった事情がある場合、想定よりも後の時点が起算点と判断されることもあり得ます。

3.民事責任が残る可能性

刑事の公訴時効が完成しても、被害者から損害賠償請求を受ける可能性は残ります。
刑事が終わればすべて解決するわけではないという点は重要です。

4.示談機会を失う可能性

早期に弁護士を通じて示談を試みれば、不起訴処分となる可能性がある事案でも、
対応を放置することで被害者との関係が悪化し、解決の機会を失うことがあります。


このように、盗撮事件において時効だけを前提に行動することは、法的評価の誤りや別の責任の発生というリスクを伴います。
年数の経過だけで安全かどうかを判断するのではなく、事案全体を踏まえた検討が必要です。

確かに、公訴時効の完成を期待することが合理的なケースもあり得ますが、独断で時効の完成を目指すことはリスクも高いです。専門家の意見を仰ぐことをお勧めします。

盗撮の時効に関するよくある質問

ここでは、盗撮の時効に関して実際によく寄せられる疑問を整理します。


Q1.何年前の盗撮でも逮捕される可能性はありますか?

公訴時効が完成していない限り、逮捕される可能性はあります。

ただし、何年前まで対象となるかは、成立する罪名とその法定刑によって異なります。
3年の公訴時効が適用される場合もあれば、5年となる場合もあります。

まずは、どの犯罪が成立し得るのかを特定することが前提です。


Q2.被害者が名乗り出ていなければ時効になりますか?

いいえ。

公訴時効は、被害者が被害を申告したかどうかとは無関係に進行します。
行為が終了した時点から進行するのが原則です。

ただし、どの時点を「行為終了時」と評価するかは、事案ごとに判断されます。


Q3.動画を削除すれば時効に影響しますか?

削除したこと自体が、過去の行為の時効を早めることはありません。

また、撮影後に提供や送信を行っていた場合、その行為については別に時効が進行します。
単にデータを消しただけで、すべての法的責任が消えるわけではありません。


Q4.時効が近い場合に自首するとどうなりますか?

自首は量刑判断に影響を与える可能性がありますが、
時効そのものの進行が止まるわけではありません。

もっとも、どの段階でどのような対応を取るべきかは、事案の内容によって異なります。

盗撮事件の時効判断はなぜ難しい?弁護士に相談すべき理由

盗撮の時効は、単に「何年経ったか」だけで決まるものではありません。
成立する罪名、法定刑の上限、起算点の評価によって、3年にも5年にもなり得ます。

さらに、

  • 提供・送信行為があるか
  • 住居侵入など別の犯罪が成立しないか
  • 余罪が存在しないか

といった事情によって、時効の計算は変わります。

また、刑事の公訴時効が完成していても、民事上の損害賠償請求が残る可能性があります。
刑事と民事は別制度であり、両方を切り分けて検討する必要があります。

このように、盗撮の時効は年数だけで判断できる問題ではありません。
前提となる法的評価を誤れば、時効の判断も誤ります。

時効の成否は、事案の具体的事情に即して慎重に整理することが重要です。

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