【交通事故解決事例】下肢の偽関節などで併合6級の認定後,訴訟を選択して8900万円の高額賠償を獲得するに至ったケース

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が単車に乗車中,信号表示のある交差点を赤信号に従って停止していたところ,対面から赤信号を看過して直進走行してきた四輪車がセンターオーバーし,被害者に衝突する事故が発生しました。加害者は,てんかん発作を起こしてしまい自動車の制御が困難な状態に陥っていました。

被害者は,大腿骨骨折及び下腿骨骨折等の被害に遭い,3年近くの治療を要する大けがを負いました。治療を尽くしたものの,下腿骨の骨折部は偽関節化し,硬性補装具や杖がなければ満足に歩行することもできない状態でした。

弁護士には,約三年の治療後,後遺障害等級認定を控えた段階で弁護士に相談されました。主治医から近日中の症状固定を予定している旨を告げられたため,その後の対応に関するご相談・ご依頼を希望されてのご相談でした。

法的問題点

①請求方法の選択

被害者は,非常に重大な怪我を負っており,下腿骨の骨折部には偽関節が残るにも至っていました。そのため,相当程度の後遺障害が想定されることもあり,損害額は大きくなることが見込まれやすい状況でした。
この場合,加害者(及び加害者加入保険会社)に対する金銭請求の方法をどうするか,慎重な検討が必要となり得ます。

具体的な請求方法の選択肢は,主に「交渉」か「訴訟」か,ということになります。それぞれの特徴や比較は,以下のように整理できるでしょう。

【交渉による請求】

交渉の特徴

1.請求金額
→訴訟と比べて請求金額は小さくなる傾向があります。

2.柔軟性
→双方の合意に基づくため,条件や解決策に柔軟性があります。
→迅速に解決することができる場合が多いです。

3.費用
→訴訟に比べて費用が抑えられることが多いです。
→弁護士を介する場合でも,訴訟よりも費用が低いことが一般的です。

4.当事者間の関係
→双方の関係を比較的良好に保つことができるため,将来的な関係性を重視する場合に適しています。

5.結果の見込み
→交渉の結果は双方の合意によるため,予測可能性が高いです。

交渉のデメリット

・相手方が交渉に応じない場合,解決が難しくなることがあります。
・提示された条件に納得がいかない場合,満足のいく解決が得られないことがあります。

【訴訟による請求】

訴訟の特徴

1.請求金額
→交渉に比べて請求金額が大きくなりやすいです。

2.法的拘束力
→裁判所の判決に基づくため,法的な強制力があります。
→相手方が支払いを拒否した場合でも,強制執行が可能です。

3.公平性
→中立的な第三者である裁判所が判断を下すため,公平な結果が期待できます。

4.先例に沿った合理的解決
→過去の判例に基づく判断が行われるため,一定の基準に基づいた損害賠償が期待できます。

訴訟のデメリット

・訴訟にかかる時間が長くなることが多いです。数ヶ月から数年かかる場合もあります。
・訴訟費用(弁護士費用,裁判所の手数料など)が高額になることがあります。
・判決に不満がある場合,控訴などの手続きが必要となり,さらなる時間と費用がかかります。
・双方の関係が悪化する可能性があります。

【比較一覧】

項目交渉による請求訴訟による請求
請求額低い高い
解決の柔軟性高い低い
費用 低い高い
時間短い長い
法的強制力ないある
公平性双方の合意による裁判所の判断
関係の維持良好に保ちやすい悪化する可能性がある

交渉は,費用を抑え,迅速かつ柔軟に解決したい場合に適しており,訴訟は,時間や費用のリスクを負ってでも最大限の金額を請求し,公平な判断を得たい場合に適している,という区別ができるでしょう。

ポイント
交渉は最大額でないが迅速解決可能
訴訟は長期を要するが最大額の請求が可能

②後遺障害等級認定

請求方法を交渉とするか訴訟とするか,という点は,後遺障害等級認定を求める方法にも影響を与えることが考えられます。
後遺障害等級認定を求める方法には,「被害者請求」と「事前認定」があり,個別のケースによっていずれを選択するか検討することになりますが,両者の特徴や比較は以下のように整理できるでしょう。

【被害者請求】

被害者請求の特徴

1.被害者主導
→被害者自身が保険会社に直接請求を行う手続
→自賠責保険会社は,被害者から提出された資料をもと等級認定をする

2.手続の自由度
→被害者が自分で必要な資料を収集・提出するため,手続に柔軟性があります。
→被害者が自身のペースで手続きを進めることができます。

3.費用負担・手続負担
→被害者が自分で資料を集める必要があるため,場合によっては時間や費用がかかることがあります。

【事前認定】

事前認定の特徴

1.加害者主導
→加害者(または加害者の保険会社)が被害者の損害賠償額を認定する手続
→加害者の保険会社が必要な資料を収集・提出する

2.手続の簡便さ
→被害者は後遺障害診断書の提出をすれば足りるため,簡便になりやすいです。

3.負担の軽減
→後遺障害診断書以外の必要資料は,保険会社が取付の上で提出してくれます。
→文書料の負担や取付の手間を回避することができます。

【両者の比較】

項目被害者請求事前認定
手続の主導者被害者加害者(保険会社)
手続の自由度高い低い
手続の簡便さ 労力がかかる簡便
費用負担被害者自身保険会社がサポート
資料収集被害者自身が行う保険会社がサポート

被害者請求は,保険会社に手続を委ねたくない場合や,必要書類以外にも積極的に書類提出したい場合に適しており,事前認定は,保険会社に手続を委ねても差し支えない場合や,手続の簡便さを重視したい場合に適していると言えるでしょう。

ポイント
被害者請求は,自分で自賠責に提出する手続
事前認定は,保険会社に提出してもらう手続

③持病の影響

被害者は,3年ほどに渡る長期の治療を要していましたが,その大きな原因の一つは,被害者の下肢に感染症が生じたことでした。治療の過程で患部に細菌が侵入し,感染症を引き起こしてしまうと,感染症が治まるまでの間は手術等の治療を進めることができず,その分だけ治療が長期間に渡るのです。

そして,被害者の治療が感染症等で長期化しやすかった理由に,被害者が持病としていた糖尿病が影響している可能性も否定できない状況でした。糖尿病患者は,そうでない人と比べて重度の感染症を起こしやすいと言われており,感染症にかかる確率,感染症が重度になる確率は,いずれも糖尿病によって高くなる傾向にあると言われています。

そうすると,被害者の治療が長期に渡ったのは,ただ交通事故の受傷が重かっただけではなく,糖尿病という被害者側の事情が影響してのことでもある,という主張がなされる可能性を考慮する必要がありました。

ポイント
感染症により治療が長期化
持病の糖尿病が感染症の遠因となった可能性も

弁護士の活動

①請求方法の選択

弁護士では,本件における請求方法を訴訟とする方針を取ることとしました。その理由としては,主に以下のような点が挙げられます。

【請求金額の差】

交渉と比較した場合の訴訟の最大のメリットは,請求できる金額が大きくなりやすいことです。そうすると,その金額の差が大きければ大きいほど,交渉より訴訟を選択する方が有益ということになります。

この点,本件の場合,被害者に生じた受傷内容や見込まれる後遺障害の内容からすると,請求金額が数千万円という規模になることが明らかな状況でした。そうすると,仮に金額が一割違うだけでも,数百万円の差ということになります。これは無視できる金額ではありませんでした。

また,交渉では請求できず訴訟でのみ請求できる損害として,「遅延損害金」が挙げられます。これは,事故から賠償までの期間,被害者の損害が補填されなかったことを損害とみなし,請求金額に応じた利息を加算するというものです。
この遅延損害金は,請求金額が大きいほど,そして事故から支払までの期間が長いほど,高額になるところ,本件では高額請求が見込まれる上,事故から3年物通院を要する長期の問題となっていました。そのため,遅延損害金の金額も軽視できない水準であると考えられます。

以上を踏まえると,交渉と訴訟では請求し得る金額の差があまりに大きく,訴訟で請求するメリットが大きいものと考えられました。

【交渉が難航する可能性】

交渉でも,訴訟と遜色のない水準の金額で早期に合意できるのであれば,必ずしも訴訟を行う必要はありません。しかし,本件では,相手保険が被害者の糖尿病の影響を明らかに問題視していた,という状況がありました。
そのため,交渉で解決しようとした場合でも,糖尿病がどの程度損害の拡大に影響を与えたのかを協議する必要があり,その解決は容易でないことが想定されます。

そうすると,交渉をしても難航する可能性が高く,あえて交渉を選択するメリットが大きくないと考えられました。

【長期間を要しても差し支えない事情】

訴訟の大きな問題点は,解決までの期間が長期化しやすい点です。長期に渡る訴訟の間に,経済的に訴訟維持が難しくなってしまえば,訴訟での満足な解決は望むことが困難になります。

しかしながら,本件では,早期に後遺障害等級の認定手続を行うことができる段階にありました。そのため,後遺障害等級認定を受け,等級に応じた自賠責保険金が受領できれば,当面の金銭的問題は解決することが可能です。

そのため,被害者の了承さえ得られれば,解決が長期化しても具体的な問題は生じにくいことが想定されました。

【解決に要する期間の差】

交渉は,確かに訴訟よりは短期間ですが,賠償額が大きくなるとそれほど早期に解決できるわけではありません。具体的には,保険会社内部の意思決定(決裁)に長期を要することが非常に多く見られます。

そうすると,早期解決を目指して交渉を試みても,結局保険会社に待たされる形で長期化することが珍しくありません。本件でもその可能性が大いに見込まれる状況であったため,交渉を選択しても解決に要する期間にそれほど大きな差の生じないことが想定されました。

ポイント
請求額の差の大きさを重視し,訴訟での請求を選択
交渉を選択してもそれほど早期解決につながらない見込みもあった

②後遺障害等級認定

後遺障害等級認定の方法は,被害者請求を選択することとしました。これは,金銭の請求方法を訴訟とした点と大きく関係します。具体的な理由は,以下のように整理できます。

【自賠責保険金を回収する必要】

訴訟での請求を選択する場合,長期に渡る訴訟が被害者の経済的負担につながらないように配慮することが必要となります。その有力な手段の一つが,被害者請求によってあらかじめ自賠責保険金を回収しておくことです。

被害者には,常に硬性補装具を必要とする偽関節で7級,大腿骨骨折後の症状に対して12級の,併合6級が認定され得る状況でした。そして,この内容で併合6級が認定される場合,自賠責保険からは1200万円以上の自賠責保険金が支払われることになります。

この保険金を回収した上で訴訟に臨むことで,訴訟の長期化が被害者の経済的負担となるのを可能な限り防ぎつつ解決を目指すことが可能になります

【訴訟のために必要な手続】

訴訟の中で,後遺障害等級が争点となる場合,適切な等級を明らかにするため,被害者請求を行う必要が生じやすい傾向にあります。なぜなら,裁判所の運用として,被害者請求に対する自賠責調査事務所の等級認定を尊重するのが一般的であるためです。

本件では,重大な後遺障害等級の認定が見込まれる状況であったため,訴訟に発展すると後遺障害等級自体の争いになる可能性が低くありませんでした。そのため,あらかじめ被害者請求で等級認定を獲得する方が円滑であることが見込まれました。

本件では,以上の点を踏まえ,被害者請求の方法で後遺障害等級の認定を獲得することとしました。

ポイント
訴訟中の経済的問題を回避するため,被害者請求で自賠責保険金を回収
訴訟をするといずれにしても被害者請求を必要とする可能性がある

③持病の影響

被害者の持病である糖尿病が感染症の発症や重大化に影響を与えた可能性は,確かに一般論としては否定できないところでした。しかし一方で,本当に糖尿病と感染症に関係があったと言えるかどうかは,決して明確とまでは指摘できませんでした。

そこで,弁護士からは,主治医の見解などを仰いだ上で,糖尿病が感染症に影響を及ぼしたという具体的根拠がないことを主に主張し,持病の影響で損害額が減少することを防ぐ方針としました。
持病によって損害が拡大した場合,その拡大分を賠償額から差し引くことを「素因減額」と言います。もっとも,素因減額を行うには,素因(=持病)の存在のみならず,それが損害の拡大に影響したことを,相手が立証しなければなりません。そのため,弁護士からは素因減額に必要な立証がないことを強く示すこととしました。

ポイント
持病が損害の拡大に影響したとの立証が不十分であると指摘する方針に

活動の結果

以上の活動の結果,被害者には想定通り後遺障害併合6級が認定されました。
また,自賠責保険への請求及び訴訟での請求により,合計で8900万円を超える賠償を獲得し,解決に至りました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,比較的に早期に訴訟の選択をし,賠償金額の最大化を目指したケースでした。

多くの場合,訴訟での解決は数々の負担が重くのしかかるため,交渉で解決する方が被害者側の希望に沿いやすいと思われます。弁護士も,むやみに訴訟を案内するべきではなく,訴訟を行うにあたってはリスク説明を十分に行う必要があるでしょう。

もっとも,本件ではそのリスクを補って余りある増額可能性が訴訟にあり,訴訟での解決を弁護士から案内する方法を取りました。本件の被害者の方は,弁護士の説明にご納得いただき,本心から訴訟をご希望いただくことができましたが,訴訟の負担を踏まえると,迷いながら訴訟に踏み切ることはお勧めできません。

被害者の方におかれては,弁護士から訴訟の案内を受けることがあった場合,想定されるメリットやデメリットについて適切な説明を受けることを強くお勧めします。訴訟の選択は,訴訟での解決が適切であると確信できるかどうかによって判断するのが望ましいでしょう。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

【交通事故解決事例】眼窩骨折後に複視が残った被害者を弁護し,後遺障害13級の認定と約980万円の損害賠償を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】


・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が自転車に乗車し直進走行していたところ,信号のない十字路交差点で右方から同じく直進走行してきた四輪車と衝突する事故に遭いました。
事故により,被害者は眼窩底骨折や鼻骨骨折などのケガを負い,入通院治療を余儀なくされました。

弁護士へのご相談は,入院中に実施されました。今後の治療に際して,健康保険の利用を相手保険から求められており,健康保険利用の是非に悩みをお持ちの状況でした。また,加害者側が自分に過失がない旨の主張しているため,治療費が自己負担の状態になっているとのことでした。

弁護士にて,適切な対応方針を検討の上,十分な損害賠償をの獲得を目指すため,弁護活動を受任する運びとなりました。

法的問題点

①健康保険の利用

交通事故の場合,健康保険の利用を勧められることが一定数あります。これは,主に治療費の負担軽減を目的に行われるものです。

前提として,交通事故で受傷した場合の治療には,「自由診療」と「保険診療」の二つがあります。簡単に区別すれば,健康保険を利用しない治療が「自由診療」で,健康保険を利用する治療が「保険診療」となります。

自由診療は,公的医療保険の適用がないため,診療費が医療機関ごとの設定となり,一般的に高額です。その一方で,保険診療では受けられない治療法が可能であったり,医療機関によっては自由診療専用の予約枠が設けられていたりと,高額な分だけ融通の利く受診方法ということができるでしょう。

自由診療と保険診療

治療方法医療費自己負担部分治療の選択肢予約の優遇等
自由診療高額全額制限なしあり
保険診療低額一部のみ制限ありなし

もっとも,交通事故の一般的な治療過程で,自由診療でなければ治療が受けられず不都合である,ということはあまり生じません。そうすると,保険診療にするデメリットがあまりないため,医療費を低額にできる分だけ得であるとの考え方になります。
そのため,保険会社からは,特に入院を要するなど治療費が高額になりそうな場合に,被害者へ健康保険の利用を勧めることがあるのです。

これは,被害者にとっても有益なことがあり得ます。具体的には,被害者にも過失割合のあるケースが代表例です。
過失割合がある場合,被害者自身も治療費を一部自己負担する必要があります。負担割合は過失割合によって決まりますが,負担金額は治療費そのものの金額に直接的な影響を受けることとなります。例えば,過失割合10%の被害者の場合,治療費が10万円であれば自己負担1万円,治療費が100万円であれば自己負担10万円,というような差異が生じ得るわけです。
そのため,被害者にも過失割合がある事故では,健康保険の利用が有益な選択肢になり得るでしょう。

また,過失がない事故であったとしても,将来的な金額交渉に際しては健康保険の利用が有益になり得ます。保険診療を選択した場合,治療費が減少し,相手保険の治療費負担が軽減するため,その分だけ慰謝料など他の項目の交渉に際して柔軟な譲歩が得られやすくなる,というケースは一定数見られるところです。

ポイント
健康保険を利用すると,治療費が低額になる
過失割合がある場合は,被害者の負担額に直接の影響がある

②過失割合

過失割合については,相手本人が無過失を主張しているとのことでした。もっとも,その主張には全く根拠がなく,言うならば「ゴネている」状態でした。

この点は,最終的には保険会社と加害者本人との間できちんと解決してもらえば足りるのですが,治療中に相手が無過失を主張していると,一つ問題が生じます。それは,相手保険が治療費などの負担をしてくれない,という点です。
相手本人が無過失を主張する以上,相手の代わりに支払う立場である保険会社は支払をすることができません。しかし,治療をストップするわけにはいかないため,治療費は随時発生しますし,休業があれば休業損害も発生し続けます。そうすると,これらの損害はとりあえず被害者が立て替えるほかなく,被害者が経済的負担を背負い続けなければならないのです。

相手の不合理な主張によって,被害者に重い経済的負担が生じるのは明らかに不適切です。そのため,被害者の負担になっている状態を速やかに取り除くことが必要な状況でした。

なお,本件の事故状況を踏まえた一般的な過失割合は20:80となることが見込まれる状況でした(【240】図)。

20:80の過失割合であれば,加害者の賠償保険でとりあえず全額負担を行う,という運用が一般的であるため,本件で被害者が立て替えを強いられるのはやはり不適切と言えます。

ポイント
加害者が無過失を主張している場合,被害者による立替の必要があり得る
20:80の過失割合であれば,被害者の立替は不適切

③後遺障害等級認定

被害者の主な受傷内容は,眼窩底骨折と呼ばれるものでした。眼窩底骨折とは,眼部や眼の周辺部に外圧が加わった際に,眼窩(眼球が入る骨の窪み)の下部が骨折するものを指します。眼窩下壁は,薄い骨で構成されており,圧力に強くないため,外圧に耐えることができず骨折してしまうことがあります。

眼窩底骨折

そして,眼窩底骨折の影響で多いものが,眼の動きが悪くなってしまうというものです。眼窩の中の脂肪組織や筋肉が損傷してしまうため,それまで通りの眼の動きができなくなってしまうことが多く見られます。

この点,後遺障害との関係では,複視(物が二重に見えてしまうこと)が生じやすいと言われています。
複視に関する後遺障害等級は,複視の内容・程度によって以下のものが定められています。

複視の後遺障害等級

等級基準
10級2号正面を見た場合に複視の症状を残すもの
13級2号正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの

「複視の症状を残すもの」とは

1.本人が複視のあることを自覚していること
2.眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
3.ヘススクリーンテストにより患側の像が健側に比して5度以上離れた位置にあること

なお,10級と13級の差異は以下の通りです。
正面を見た場合に複視の症状を残すもの」(10級)
→正面視で複視が中心の位置にあること
正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの」(13級)
→それ以外の場合

本件においては,被害者にもやはり複視の症状が見られており,複視に関する後遺障害等級認定を想定することが必要でした。

ポイント
眼窩底骨折に伴い複視が生じやすい
複視は正面視かそれ以外かで等級が分かれる

④逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,労働能力喪失期間は,67歳までの期間とするのが原則的な運用です。もっとも,被害者は公務員として仕事をしており,基本的には60歳で定年を迎えることが想定される状況でした。
そうすると,労働能力喪失期間を60歳までの期間とすべきか,原則的な運用に沿って67歳までとすべきか,という点に大きな問題が生じ得ます。

ポイント
労働能力喪失期間は67歳までの期間とするのが原則
もっとも,被害者は60歳を定年とする公務員の立場であった

弁護士の活動

①健康保険の利用

本件の場合,自由診療でなければ治療に窮するという事情は特にないことが確認されました。そのため,弁護士からは健康保険の利用をお勧めし,できるだけ立替の金額が少ない状態で相手保険の早期対応を求める形を取ることとしました。

なお,健康保険の利用は,特に立替が生じる場合に大きなメリットとなることが少なくありません。それは,保険診療の自己負担分が治療費の一部(多くの場合は3割)にとどまるためです。
自由診療の場合には,治療費そのものが高額になる上,全額の負担が必要となるため,現実の負担額は非常に大きくなりやすいものです。その一方,保険診療では,低額の治療費のうち3割を負担することで足りるため,立替時の経済的負担は大きく軽減されることになるでしょう。

ポイント
保険診療で不都合が生じないことを確認し,健康保険の利用をお勧め
健康保険の利用は,立替額が大きく軽減する

②過失割合

本件では,過失割合について加害者が不合理にも無過失を主張していたため,被害者に治療費の立替が生じるという不適切な状態に陥っていました。そのため,弁護士において早期に相手保険と協議を開始し,対応を改めるよう求めました

この場合,保険会社の対応は様々です。最も無責任な対応の場合,「契約者本人が無過失だと言っているから何もしない」と放置を決め込むケースも残念ながら見られます。
そこで,弁護士からは,被害者の立替が続くようであれば,今後交渉には一切応じず,裁判で金銭を請求することになる可能性を強く示す方針を取ることにしました。この方針が有力であるのは,保険会社にとって放置するデメリットが大きくなるためです。

被害者側が訴訟で金銭を請求した場合,当然ながら加害者は保険会社に助けを求めることになります。そして,助けを求められた保険会社は,訴訟への必要な対応や,訴訟で決まった賠償額の支払を行う必要が生じます。
そうすると,訴訟で被害者の主張が認められた場合の賠償額は,交渉で解決する場合の金額よりも高額になることが通常であるため,訴訟をされてしまうと保険会社はより多額の支払を強いられる恐れがあるのです。
そのため,裁判の可能性を強く示すことで,保険会社が積極的に訴訟を回避する動きを取る可能性が高くなります。結果,加害者本人への必要な説得をし,治療費の支払などの対応を自ら行うようになるのです。

本件でも,相手保険会社が加害者本人を積極的に説得し,加害者に過失のあることを認めさせ,保険の対応を自ら開始するに至りました。
なお,過失割合は基本過失割合通り20:80での解決となりました。

ポイント
加害者本人が不合理な主張をする場合,保険会社に正してもらうのが円滑
保険会社に訴訟の方針を示すことで,加害者への説得を催促できる

③後遺障害等級 

後遺障害等級に関しては,複視についての等級認定が問題となりました。この点,正面視以外の場合に複視の症状が出ていることが見込まれたため,後遺障害13級の認定を目指すことが有力と考えられました。

結果的にも,被害者には無事後遺障害13級の認定がなされました。

④逸失利益

本件では,60歳までと60歳以降とで,逸失利益の計算を異にする必要がありました。それは,60歳定年の公務員である被害者にとって,60歳までの収入と60歳以降の収入が同じである可能性がないためです。

この点,60歳までについては,原則通りの計算が可能と思われます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

60歳までの逸失利益
「事故前年の収入額」×9%(13級のため)×「症状固定~60歳までの期間に対応するライプニッツ係数」

一方,60歳以降は,同じ収入額が保たれる可能性こそないものの,一定の労働は可能な状況であるため,いくらかの逸失利益は発生すると考えられます。このような場合,平均賃金を用いて起訴収入を計算することが有力な解決方法です。

60歳以降の逸失利益
「60歳の平均賃金」×9%(13級のため)×「60歳~67歳までの期間に対応するライプニッツ係数」

以上を踏まえ,逸失利益としては,上記の「60歳までの逸失利益」と「60歳以降の逸失利益」の合計額を採用するべきであることを主張し,その通りの金額での合意となりました。

ポイント
定年以降の収入が分からない場合,平均賃金を基礎収入とする手段が有力

活動の結果

以上の活動の結果,被害者には複視に伴う後遺障害13級が認定されました。
また,後遺障害13級を前提に相手保険と金額交渉を尽くした結果,約980万円の賠償を獲得するに至りました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,過失割合について加害者が不合理な主張をしていたことが最初のハードルとなっていました。無責任な加害者は,自分の経済的負担を回避したい一心で,明らかに不合理でも無過失の主張をしてくることがあり得ます。そして,その不合理な主張で不利益を被るのは,残念ながら被害者になりがちです。

しかし,そのような事態を許すべきでないことは明らかであり,加害者の不合理な主張には適切な対応を早期に尽くすことで,被害を最小限に抑えることが有益でしょう。
具体的には,やはり弁護士を窓口にして,弁護士から適切な請求を行ってもらうことが,円滑な解決の近道になりやすいでしょう。

本件の場合は,被害者の方が入院中の早期段階で弁護士にご相談・ご依頼されたため,迅速な活動が可能となり,立替は最小限度に収まったということができるでしょう。
交通事故で重大な被害を被った場合は,まず弁護士に相談してみる,という考え方が肝要だと考えます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

【交通事故解決事例】後遺障害診断書に記載のなかった脳の障害について検査等を依頼し,高次脳機能障害9級を獲得。2,400万円超の賠償金となった事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

当時小学生であった被害者が,複数人で下校中,横断歩道のない十字路交差点の付近にて,車道を歩いて横断しようとしていましたが,そこに左方から直進してきた四輪自動車が衝突し,事故が発生しました。

被害者を含む2名が受傷しましたが,被害者の被害が最も重く,頭部に強い衝撃を受けた結果,事故後の数日間は意識のはっきりしない状態が続いていました。
その後,幸いにも意識を取り戻し,リハビリなどを通じて改善に努めましたが,1年ほどの通院を経ても脳機能への悪影響が残っている状況でした。具体的には,感情の起伏が激しく制御できない,記憶がうまくできない,簡単な算数の計算に時間がかかってしまう,といった症状が見られました。

弁護士に相談された当時,被害者は別の弁護士に依頼しており,後遺障害に関する手続を予定しているとのことでした。依頼した弁護士の案内で後遺障害診断書の作成を受けたものの,同弁護士からは後遺障害等級認定を受けることは難しいとの案内を受けていました。

被害者の親権者から,後遺障害の見込みや適切な解決方針に関して相談があり,弁護士が対応することとなりました。

法的問題点

①過失割合

本件は,過失割合に大きな争いのある事故でもありました。被害者は,信号のない十字路交差点付近を横断していたとの主張でしたが,相手保険は,交差点上の横断ではなかったことを理由に,直進道路上を被害者が横断したという事故類型であるとの主張をしているようでした。

この点,被害者の主張する事故類型では,基本過失割合が20%となります(【34】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用 以下同じ

また,被害者が「児童」に該当すること,複数人の下校中であって「集団横断」に該当することを主張していたため,「児童」による-5%の修正と「集団横断」による-5%の修正で,合計10%被害者の過失が低下する主張内容でした。そのため,修正後の過失割合は10:90となります。

一方,相手保険の主張する事故類型は,基本過失割合が30%となります(【33】図)。

また,相手保険によると,被害者の「直前横断」が原因で事故が発生したとのことであったため,「直前横断」により+10の修正,被害者「児童」につき-10%の修正がなされ,修正後の過失割合も30:70との内容でした。

以上から,被害者と相手保険の主張する過失割合には,「10:90」と「30:70」という見解の開きが見られる状況でした。

ポイント
被害者は10:90を主張
相手保険は30:70を主張

②高次脳機能障害

被害者は,事故によって頭部を受傷し,事故後の数日は意識がはっきりしない状況であったため,高次脳機能障害を理由とした後遺障害等級認定の可能性が考えられました。

この点,高次脳機能障害は,事故後に一定期間の意識障害があったかどうかが重要な判断要素の一つとなっています。具体的には,以下の基準が用いられています。

要件具体的基準
①6時間以上のこん睡状態JCS3桁又はGCS8点以下
②1週間以上の意識障害JCS1~2桁又はGCS13~14点

【GCS】(E・V・M 3つの合計値が小さいほど重篤)

【E】開眼
4自発的に眼を開けている
3呼びかけにより眼を開ける
2痛みにより眼を開ける
1眼を開けない
【V】最良言語反応
5見当識あり
4会話はできるが混乱
3発語はできるが不適当
2発声はできるが理解不可
1反応なし
【M】最良運動反応
6命令に応じる
5痛みの部位を認識する
4痛みで屈曲反応(逃避)
3痛みで屈曲反応(異常)
2痛みで伸展反応
1反応なし

被害者の場合には,事故直後のGCSが7点,1時間後にはGCS9点と確認されていることが分かりました。これは,意識障害レベルとして高次脳機能障害の認定基準を満たし得るものであり,具体的に高次脳機能障害の有無を検査等する必要があり得ると考えられます。

また,被害者には感情制御能力や記憶能力の低下など,高次脳機能障害の影響と思われる複数の支障が出ており,等級認定のためにも,その後の生活や成長のためにも,脳機能の障害を正しく判断してもらう必要があると見受けられました。

ポイント
事故後の意識障害は,高次脳機能障害の基準を満たし得る
感情制御能力や記憶能力の低下は,高次脳機能障害の影響と思われる

③現在の代理人弁護士との関係

被害者には,既に依頼をしている代理人弁護士がおり,後遺障害の申請手続を具体的に勧めようとしているところでした。そのため,こちらが依頼を受けるか,現在の弁護士に依頼し続けるかは,被害者の親権者に判断してもらうことが必要となります。

被害者にとっては,現在の弁護士から等級認定が困難と案内されている点が大きなネックになっているようでした。脳機能の障害が疑われる中で,後遺障害等級認定が困難と指摘されれば,疑問を抱くのもやむを得ないところでしょう。

この点,当方が状況を確認すると,現在の弁護士との関係では,そもそも高次脳機能障害の等級認定に向けた準備を行っていない可能性が推測されました。というのも,高次脳機能障害の等級認定を受けるためには,必要な検査結果を後遺障害診断書に記載してもらうことに加え,他にも複数の必要書類がありますが,当時は,後遺障害診断書に脳の症状の記載がない上,他の必要書類を一切準備していない状況であったのでした。

そのため,当方からは,当方へ依頼されるかどうかはともかく,高次脳機能障害について等級認定を目指すための必要な動きは取るのが適切であろうことをご案内することとしました。

弁護士の活動

①受任方法

まずは,被害者側が当方に依頼されるかどうかをしっかりと検討してもらうべきであると考えました。そのため,とりあえず脳機能に関する適切な検査を受けていただく目的で,弁護士から通院先の候補をご案内し,検査のための通院を実施していただくこととしました。

検査の結果,やはり被害者には高次脳機能障害特有の症状が見受けられ,適切に後遺障害等級認定を受けるための手段を尽くすべきであるということが判断できました。これを踏まえ,弁護士からは,当方にご依頼された場合の流れや方針を具体的にお伝えし,被害者の親権者に検討を依頼しました。

ご検討された結果,従前の代理人弁護士とは解約の上,当方にご委任される方針を固められました。

ポイント
まずは必要な検査を受けていただき,ご依頼の場合の方針を確定
後遺障害に関する方針を比較の上で弁護士選びをご検討いただいた

②過失割合

過失割合に関しては,そもそも主張している事故態様が異なるところ,その中心的な違いは交差点上(又はその直近)か,交差点上でない場所か,という点でした。
この点,事故に居合わせた他の児童の話や,事故状況に関する両当事者の説明を確認したところ,事故はほぼ交差点上で発生しており,事故発生場所に関する主張は被害者側の言い分が合理的であることが判断できました。おそらく,相手保険は,被害者の感情的な希望を踏まえ,根拠に乏しいながらも過失割合を争ってきたのであろうと推測されました。

そのため,弁護士からは,過失割合は被害者の主張通りにするべきであることを改めて主張するとともに,自社の言い分を維持するのであれば,相応の根拠を添えて主張するよう求めました。
交渉の結果,相手保険が主張を撤回するに至り,過失割合は10:90での解決となりました。

ポイント
過失割合の争いの中心は,事故が起きた場所
交差点上の事故であることの根拠を示し,相手に主張の撤回を促した

③高次脳機能障害

本件では,高次脳機能障害が後遺障害等級認定の対象となるかどうか,という点が結果を決定的に左右する問題と言えました。損害賠償額にすれば千万円単位で変わる可能性も少なくないポイントです。

そのため,弁護士からは後遺障害等級認定のための必要な試みを可能な限り尽くすご案内を実施しました。主な活動内容は,以下の通りです。

後遺障害等級認定のための活動内容

1.対面でのコミュニケーション
→被害者の状態を直に確認し,障害の内容を具体的に把握しました。

2.障害の具体的影響を確認
→障害が具体的な行動に現れたエピソードを可能な限り洗い出しました。

3.専門医への通院・検査
→検査のための通院を改めて行い,診断書の提出に必要な症状の確認を行いました。

4.医師の見解を聴取
→検査結果を確認した医師に見解を聴取し,等級認定を目指す方針を具体的にしました。

5.その他提出書類の内容を検討
→高次脳機能障害の等級認定に必要な他の書類についても,記載内容を詳細に吟味検討しました。

6.後遺障害診断書の再作成
→従前の後遺障害診断書を破棄し,高次脳機能障害の等級認定に適した後遺障害診断書の再作成を依頼しました。

以上を踏まえ,後遺障害の申請に適した書面作成を行い,弁護士にて等級認定手続を進めることとしました。

活動の結果

上記の各活動の結果,後遺障害等級としては高次脳機能障害について9級の認定が獲得できました。高次脳機能障害が等級認定の対象となった点で,被害者にとって非常に有益な認定結果となりました。

また,後遺障害9級を踏まえ,過失割合や各損害額を相手保険と交渉した結果,2,400万円を超える賠償額の獲得が実現されました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,セカンドオピニオンとして相談を受けたことが受任のきっかけとなったケースでした。
一般的に,セカンドオピニオンで直接受任まで至るケースはそれほど多くありません。セカンドオピニオンで現在の方針にお墨付きが得られれば,弁護士を変更する理由がないためです。一方,現在の弁護活動や方針に疑問がある場合,その点を漫然と見過ごしてしまえば,取り返しのつかない不利益につながる可能性もあります。

本件の場合,後遺障害診断書の作成後であったものの,その提出前に弁護士への相談を実施されたことがとても適切でした。作成された後遺障害診断書を提出してしまえば,今回と同じ後遺障害等級の認定は得られずに終わった可能性が高いでしょう。
弁護士への依頼中に他の弁護士へ相談することは,心理的に難しいことも少なくありませんが,特に問題が重大な場合には,手続が進んでしまう前に他の弁護士へ相談し,見解を仰いでみることも選択肢に入れてよいのではないでしょうか。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

【交通事故解決事例】顔面醜状障害による12級で,逸失利益に関する丁寧な主張立証により300万円を超える増額を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が,車道脇を自転車で直進走行し,信号のある十字路交差点を青信号に従って通過しようとしたところ,対向から右折で交差点に進入した単車と衝突する事故が発生しました。互いに渋滞する車列をすり抜けるように走行していたため,相互に相手の発見が遅れた,という事情がありました。

事故の結果,被害者は主に顔面を受傷し,額は数十針も縫うケガとなりました。1年以上に渡る通院治療を尽くしたものの,額に線状痕が残り,顔面の醜状障害として後遺障害12級の認定を受けました。

その後,相手保険から賠償額の提示を受け,金額の合理性や増額余地の有無などを確認するために弁護士への相談を希望されました。

法的問題点

①過失割合

保険会社の提示では,被害者の過失割合が10%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,信号のある交差点で,双方ともに青信号に従っていた場合,直進自転車と対向右折車(四輪車・単車とも含む)の間で発生した交通事故では,基本過失割合が10:90とされています(【249】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,実際の事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正すべき事情がなければ,被害者の過失を10%とする解決が合理的と思われます。
ただし,信号のある交差点での対向車間の事故においては,信号表示が問題になり得ることに注意が必要です。互いが交差点に入った時の信号表示が本当に青信号であったか,進入後に信号が変わっていないか,という事情によって,過失割合が変動する可能性も低くはないためです。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件における被害者の通院期間は,1年を超えるものでした。その期間や後遺障害が残るほどの受傷であったことを踏まえると,慰謝料は決して低く見積もられるべきではないと考えられます。
しかし,相手保険の金額提示では,傷害慰謝料が35万円とされていました。これは,1年を超える通院を要したケースとしては非常に低額と言わざるを得ないものでした。しかも,35万円という提示に特段の理由は見受けられず,漫然と低額の提示をしているようでした。
そのため,傷害慰謝料については,根拠ある金額での解決が適切であり,重要な交渉対象となることが想定されました。

ポイント
傷害慰謝料は,ケガの程度や通院期間を主な基準として計算する
傷害慰謝料の提示額35万円は,受傷内容や治療期間を踏まえると非常に低額

③後遺障害慰謝料

後遺障害等級が認定された場合,傷害慰謝料とは別に,後遺障害慰謝料が発生します。これは,将来に渡って後遺障害が残存することに対する精神的苦痛を対象とする慰謝料です。
後遺障害慰謝料は,後遺障害等級によって金額が定められていますが,12級の場合,自賠責基準の金額が94万円,裁判基準の金額が290万円とされています。

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

本件では,自賠責基準に沿って94万円の提示がなされており,いわば最低額というべき提示内容でした。
保険会社が自賠責基準で提案を行うのは,その金額で合意ができれば自社の負担なく解決ができるためです。一方,被害者としては,自賠責から自分で回収しても同額が受領できる以上,相手保険とその金額で合意するメリットがほとんどありません。
後遺障害慰謝料についても,十分な増額交渉が必要であると判断される状況でした。

ポイント
後遺障害等級が認定されると,等級に応じた後遺障害慰謝料が発生する
相手保険の提示は自賠責基準であったため,増額交渉の余地がある内容

④後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,「労働能力喪失率」がゼロであれば,逸失利益もゼロとなります。労働能力が失われていない以上,収入減少もないのは当然ともいえます。
そして,顔面の醜状障害は,必ずしも労働能力を失わせるものとは考えられていません。顔面に醜状が残ったとしても,直ちに労働ができなくなるわけではないからです。
そうすると,顔面の醜状が全く労働に影響しないと考えるならば,労働能力喪失率はゼロ,逸失利益もゼロ,という計算になってしまうため,逸失利益の有無が争点になり得ます。

本件では,相手保険による逸失利益の提示が130万円という金額でした。一定の逸失利益を認めているようですが,実際はそうではありません。これも,後遺障害慰謝料と同じく,自賠責保険から出る金額をそのまま計上しているというのみです。
後遺障害12級に対しては,自賠責保険から総額224万円の保険金が支払われます。このうち,慰謝料は94万円であるため,残りの130万円を逸失利益として計上している,というわけです。

このような提示を行う保険会社のメッセージとしては,「逸失利益はないと考えている」というものであると想像されます。本件の醜状障害のように,後遺障害の類型として逸失利益が発生しない可能性があるものだと,保険会社がこのようなスタンスを示してくることは決して珍しくありません。

弁護士としては,逸失利益についてどのような解決を目指すべきか,検討が必要な問題でした。

ポイント
顔面の醜状は逸失利益が生じるかどうか明確でない
相手保険の提示は自賠責基準と同額であった

弁護士の活動

①過失割合

過失割合については,まず,基本過失割合の確認を行いました。
この点,被害者から事故状況の聴取をしたところ,相手保険が被害者の過失10%の根拠とした事故態様に間違いがないことが確認できました。そのため,基本過失割合が10%となる点は了承することが適切な内容でした。

また,信号がある場合,信号表示に争いの生じることがあり得ますが,双方の交差点進入時,及び衝突時のそれぞれについて,互いの対面信号が青色表示であったことにも争いがないと確認が取れました。
そのため,過失割合については10%を了承し,争わない方針とすべきである旨が判断できました。

なお,本件は,渋滞中の車列の間をすり抜けるように交差点に進入したという事情があり,被害者が相手の単車を確認するのが遅れたきっかけにもなっているため,この点を過失割合に反映させるかどうかは問題となり得るところです。
しかし,本件の場合,互いに渋滞をすり抜けて走行しているため,相手の確認が遅れた原因は双方にあると考えられる状況でもありました。このような場合に過失割合を争おうとすると,相手からの強い反発が見込まれ,解決が困難となる場合も否定できません。争った場合の結果も不透明であることから,過失割合を争うことにあまり合理性がないと考えられる内容でした。

そのため,本件では渋滞があった点を過失割合の主張に反映させないことを選択し,早期円満な解決を目指しました。

ポイント
基本過失割合の根拠となった事故態様が一致することが確認できた
信号表示は互いに青であったことに争いがないと確認できた

②傷害慰謝料

傷害慰謝料については,被害者の受傷結果や通院期間を踏まえると,100万円を超える増額可能性があり得るものと見受けられました。そして,相手が低額な提示をしていることに特段の根拠がないという特徴も見受けられました。

そこで,弁護士からは,一般的に根拠があるとされる裁判基準を踏まえた金額提示の上で,相手保険の提示が根拠に基づかない低額な水準であることを指摘するとともに,低額な金額提示を維持するのであれば,その具体的な根拠を示すよう求める方針を取ることにしました。
相手の提示額に根拠が見受けられない場合は,まず相手の根拠の指摘を求めるのが端的です。そもそも,低額の提示をするのであれば,相応の根拠を添えて行うべきであって,正しい対応を求めたのみである,という言い方もできるでしょう。相手が交渉に必要なステップをちゃんと踏んでいないのであれば,まずはそのステップを踏んでから,初めてこちらが検討する順番となるべきです。

本件では,上記の方針を取ったところ,保険会社から低額な提示の根拠が示されることはなく,概ね当方の請求に沿った慰謝料額での合意となりました。具体的には,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多いところ,裁判基準の95%に当たる金額での合意となりました。

ポイント
低額な慰謝料の提示は相応の根拠を添えて行われるべき
根拠のない提示に対しては根拠を出すよう求めるのが有力な交渉方法

③後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料についても,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多く見られます。この点,12級の慰謝料の場合,裁判基準が290万円のため,80~90%は232万円~261万円となります。そうすると,提示額の94万円(=自賠責基準)からは概ね150万円前後の増額余地があり,後遺障害慰謝料についても十分な交渉が必要であると想定されました。

この点,後遺障害慰謝料について裁判基準を踏まえた金額で請求できる根拠は,まさにその後遺障害等級が認定されたという事実です。後遺障害慰謝料は,後遺障害等級が認定されるような症状が残ったということを理由に支払われるものであるため,等級認定されれば通常は支払われるべき,ということになります。
裏を返せば,後遺障害慰謝料を減額交渉しようとするのであれば,その等級が認定されたことが不適切である,という内容の主張になるのが通常です。もっとも,これは保険会社の主張としては困難と言わざるを得ません。

そのため,弁護士からは,保険会社の低額な提示を無視する方針とし,端的に裁判基準を踏まえた金額交渉を実施して,相手保険の了承を引き出すことにしました。交渉の結果,傷害慰謝料と同じく,裁判基準の95%に当たる金額での合意となり,一般的な目標額を超える水準での解決に至りました。

ポイント
後遺障害慰謝料は,等級認定されれば他の理由なく支払われるべきもの

④後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益に関しては,まず,後遺障害に伴う労働への影響を確認することとしました。
この点,被害者は介護職に従事していましたが,特に顔面の醜状が仕事への制限をもたらす立場にはありませんでした。顔面の醜状が直ちに労働能力に影響を与えやすい業種としては,モデルや営業職,一部の接客業などが挙げられますが,被害者はそのどれにも当てはまっておらず,醜状障害そのものが労働能力を低下させるとの主張は難しいことが見込まれました。

もっとも,被害者の醜状障害は,額の深い傷を原因とするものであったため,顔面の一部に知覚の低下をもたらすものでもありました。これは,神経症状と呼ばれるもので,局部の神経症状は労働能力に一定の影響があると考える余地がありました。
そこで,弁護士からは,12級相当の労働能力の喪失が,症状固定後5年間低下する可能性があることを主張し,相手保険に逸失利益の増額を求めることとしました。その結果,当方の主張が受け入れられ,症状固定後5年分の逸失利益が支払われる内容での合意となりました。

ポイント
顔面の醜状そのものは労働能力に影響しない業務内容であった
醜状に伴う神経症状を根拠に逸失利益を請求し,合意に至った

活動の結果

各慰謝料と逸失利益の交渉を尽くした結果,従前の提示額約270万円に対して,約580万円での示談成立となり,310万円を超える増額が実現されました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

顔面の醜状障害は,後遺障害逸失利益の金額計算が難解な後遺障害の一つです。顔面に醜状があっても,身体的な機能が低下するとは限らないため,逸失利益はないのではないか,という発想があるためです。
一方,醜状を残すほどの受傷がある場合,醜状以外にも何らかのダメージが残っており,後遺障害等級はそのようなダメージを含めた認定になっていることがあります。この点を踏まえれば,一定の逸失利益は観念することもでき,逸失利益に交渉の余地があり得ます。

本件では,後遺障害等級認定の中で顔面部の知覚低下を含む認定であることが明記されていたため,これを逸失利益の交渉における重要な根拠の一つとしました。醜状障害に伴うダメージの内容は,単に主張するのみでなく,その裏付けを示す形を取ることで,相手保険の合意を引き出しやすくもなります。

具体的な交渉方法・内容は個別のケースによるため,一律の指摘は困難ですが,一度交通事故に強い弁護士に相談を実施の上で,見解を仰いでみるのは重要なことだと考えます。
弁護士の敷居を決して高く感じる必要はありませんので,一度お気軽にご相談されてみることをお勧めいたします。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

【交通事故解決事例】併合11級の金額交渉を代行し,交渉開始から約1か月半で440万円の増額を獲得して解決に至った事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】


・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が単車を乗車中,直進走行していたところ,前方の四輪車が左折を試みたため,被害者は巻き込み事故に遭い,鎖骨骨折などのケガを負いました。
治療終了後,鎖骨の変形及び肩関節の可動域制限が残ったため,後遺障害併合11級が認定されました。

等級認定の後,相手保険から損害賠償額の提示を受けた段階で,金額の合理性や増額の可能性などに関する弁護士へのご相談を希望されました。

法的問題点

①過失割合

相手保険からの提示内容では,過失割合が被害者20%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,直進単車と,先行する左折四輪車の間で発生した巻き込み事故は,基本過失割合が20:80とされています。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正するべき事情がなければ,被害者の過失割合を20%とする解決が合理的となりそうです。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件で,被害者は300日(10か月)を超える治療を要していました。この期間は決して短いものではなく,骨折後の回復に時間を要したことが容易に想像されます。
しかし,保険会社から示された傷害慰謝料は32万円と非常に低額なものでした。この金額は,むち打ちで2か月程度の通院を行った場合に合意されやすい慰謝料と同水準であり,受傷内容や治療を要した期間と比較すると十分な金額とは評価し難いものと思われました。

傷害慰謝料が低額となっている大きな要因は,被害者の実通院日数が少なかったためであると見受けられました。骨折の場合,頻繁にリハビリ通院を行うのでなく,月単位で期間を空けて経過観察の通院をする形となることも少なくありませんが,その場合は実通院日数が少なくなりがちです。実通院日数が少ないケースでは,それを根拠に相手保険が低額な慰謝料の提示を行うことが一定数見られます。

ポイント
傷害慰謝料は,受傷内容や通院期間を基準に計算する
実通院日数が少ないことを理由に低額の提示となっていた

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

具体的な金額交渉においては,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点になる場合が多く見られます。本件でも,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点となることが見込まれる状況でした。

【労働能力喪失率】

被害者の後遺障害は,肩関節の可動域制限12級と鎖骨の変形障害12級で,併合11級でした。この点,可動域制限は労働能力に直接影響を及ぼすものですが,変形障害は必ずしも労働能力に影響を及ぼすものではありません。変形したから労働能力が低下するとは限らないためです。
そのため,このようなケースでは,可動域制限のみが労働能力を低下させているものと評価し,12級相当の労働能力喪失率を採用することが考えられます。

労働能力喪失率

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

もっとも,本件では12級相当の14%でなく,11級相当の20%で計算された逸失利益が提示されていました。そのため,労働能力喪失率に関しては有益な内容になっていると思われました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間は,労働能力の喪失が収入減少をもたらす期間を指します。基本的には,収入を得ている間(=労働ができる間)が労働能力喪失期間となります。
そして,特段の事情がない場合,症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされるのが原則です。一方,67歳までの期間とすることが不適切な事情がある場合には,個別の内容を踏まえて検討することになります。

この点,被害者は症状固定時53歳であったところ,相手保険の提示内容では,60歳までの7年間のみが労働能力喪失期間とされていました。一般的な給与所得者は60歳で定年を迎えることから,保険会社の提示では60歳までを労働能力喪失期間とすることが多く見られます。本件でも,特に個別の事情を考慮することなく機械的に60歳までとの計算をしていることが見受けられました。

しかし,被害者の労働能力喪失期間が本当に60歳までに限定されてよいかどうかは,被害者の労働に関する現状や見込みを踏まえて判断することが必要です。そもそも,原則としては67歳までの期間を採用するべきであって,機械的に60歳までと区切ることが当然に認められるものではありません。

そのため,労働能力喪失期間については具体的な検討や交渉の余地があるものと思われました。

ポイント
労働能力喪失率は有益な内容と思われる
労働能力喪失期間は交渉の余地がありそう

弁護士の活動

①過失割合

過失割合については,本件の事故態様における基本過失割合と整合する20%の提示であったため,弁護士の方では,過失割合の修正要素に当たる事情の有無を確認することとしました。

修正要素とは,基本過失割合をそのまま採用することが不適切な事情を指し,事故類型ごとに修正要素とされるものが定められています。左折四輪車の巻き込み事故であれば,左折車がウインカーを出していない(合図なし),左折前に徐行していない(徐行なし)といった事情が,単車側の過失を減少させる修正要素となり得ます。

もっとも,本件では特段の修正要素が確認されませんでした。そのため,過失割合については20%を了承する前提で金額交渉を実施することとしました。

ポイント
過失割合については修正要素の有無に注意
本件では修正要素がないとの結論に

②傷害慰謝料

傷害慰謝料は,特に理由を示すことなく金額提示がされていたため,相手保険の提示内容に合理的な根拠が見受けられない状況でした。そうすると,被害者側が相手保険の提案を了承する理由もないということになります。

弁護士からは,相手保険の提示金額では了承が不可能である姿勢を毅然と示すとともに,いわゆる裁判基準を念頭に置いた金額以外には合意の余地がないとのスタンスを強く示すことにしました。
また,被害者は,骨折後の治療に際して,鎖骨バンドと呼ばれる固定器具を数か月間使用し続けるなどの負担を余儀なくされ,骨の癒合がなされるか不安定な期間を過ごしたという経緯もあったため,これらの事情を踏まえた主張も行うこととしました。具体的には,実通院日数が少ないことが被害者の精神的苦痛を低下させる事情とは言えず,かえって通院治療では改善しない(=患部を固定し続けるしかない)という状況を強いられた精神的苦痛を考慮すべきとの主張を合わせて行うこととしました。

ポイント
裁判基準を念頭に置いた金額以外では合意が不可であることを毅然と主張
慰謝料の根拠として,長期間骨折部の固定を強いられたことを指摘

③逸失利益

【労働能力喪失率】

労働能力喪失率については,相手保険の提示が11級相当の20%とされており,被害者にとって最も有益な内容であったため,そのまま採用することとしました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間については,相手保険の提示が60歳までという短期間であったため,これを改めることを求める交渉を実施しました。

前提として,被害者の労働状況や後遺障害の影響を確認することとしました。
被害者は,作業療法士の仕事をしており,日常生活の機能改善を図るリハビリテーションの対応を主な業務としていました。そして,リハビリテーションに伴って必要となる補助などの力仕事に,後遺障害の影響が強く生じていることが分かりました。
業務に必ず発生する力仕事への悪影響は,被害者が労働を継続する限り生じし続ける重大なものであり,不用意に労働能力喪失期間を限定するべきではないと判断できました。

また,60歳以降に労働が予定されているか,という点についても具体的な確認を行いました。この点,被害者の場合には,そもそもの定年が60歳ではなく63歳であること,被害者の希望によって67歳までの就業も可能であることが確認できました。
そのため,被害者の労働能力喪失期間を60歳で区切ることには全く根拠がなく,原則である67歳までの期間を採用すべきであると主張する方針を取りました。

活動の結果

慰謝料及び逸失利益について,弁護士より相手保険との交渉を試みたところ,慰謝料についてはいわゆる裁判基準満額,逸失利益は67歳までの期間を採用するという当方の請求通りの解決に至りました。
その結果,従前の提示額約740万円に対して,約1180万円での合意となり,440万円を超える増額に至りました。合意額は,裁判を行った場合の請求額に匹敵する水準でした。

なお,交渉で裁判基準の満額が獲得できることはほとんどないため,本件は特に交渉が奏功した結果であったと言えるでしょう。

また,弁護士への依頼から賠償金の受領に要した期間は約1か月半であり,満額合意と早期解決を両立する結果にもなりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,慰謝料と逸失利益のそれぞれに一定の交渉余地があり,かつ相手保険の主張に明確な根拠が見受けられないというものでした。この場合,根拠のない主張を受け入れる意思はない,という点をまず明確に示すことが有力な進め方になりやすいでしょう。
本件でも,弁護士から毅然とした主張を行うことから開始したことにより,こちらのスタンスが相手保険にはっきりと伝わり,早期の高額解決につながりました。

また,本件の特筆事項として,相手保険の満額回答が挙げられますが,この点にも毅然とした請求方針が影響したと思われます。具体的な根拠を添えて毅然と主張したことで,保険会社はこちらが訴訟を辞さないであろうことを感じ取ったため,満額回答をしてでも早期に交渉で解決しようとした,と考えられます。

金額の主張に根拠があるか,どのような根拠を主張すべきか,といった点は,まさに弁護士が交渉に際して重要視すべき点であり,弁護士以外には検討が困難なことでもあります。金額交渉に際して弁護士依頼をしていただくことの有益さを改めて確認する事件となりました。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

【労災事故解決事例】工事現場で事故被害に遭った後遺障害1級の被害者を弁護し,将来介護費を含め約1億9,000万円の賠償を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,工事現場における労災事故で後遺障害1級となった被害者を弁護した結果,将来介護費を含めて総額約1億9000万円が獲得された事例を紹介します。

事案の概要

被害者は,大型建物の撤去工事に参加していたところ,重機で引き上げていた重量物が落下し,手足に直撃する事故に遭いました。事故の結果,被害者は両足の膝から下を失うとともに,右手も失うという重大な障害を負いました。

法的問題点

①後遺障害等級

下肢の欠損については,以下の後遺障害等級が考えられます。
(なお,便宜上自賠責保険の認定基準を用います)

両下肢を失った場合の後遺障害等級

等級基準
1級5号両下肢をひざ関節以上で失ったもの
2級4号両下肢を足関節以上で失ったもの
4級7号両足をリスフラン関節以上で失ったもの

本件では,両下肢の膝から下を失っているため,1級の認定が想定されます。

また,上肢の欠損については,以下の後遺障害等級が考えられます。

1上肢を失った場合の後遺障害等級

等級基準
4級4号1上肢をひじ関節以上で失ったもの
5級4号1上肢を手関節以上で失ったもの

本件では,手関節以上を失っており,5級の認定が想定されます。

以上を踏まえると,本件では後遺障害1級の認定が明らかに見込まれる,と言っても差し支えない状況でした。
なお,これらの後遺障害は,要介護の後遺障害とはされていないため,認定基準を満たせば直ちに介護が必要と判断できるわけではありません。ただ,両下肢を失ってしまえば現実的に介護を要する場合が多いため,将来介護費の対象とすることは多く見られます。

ポイント
両下肢の欠損で後遺障害1級
要介護の後遺障害等級ではないが,現実的には介護を要しやすい

②請負関係

被害者は,建築現場の業務中に事故に遭いましたが,この建築現場には複数の会社が介入していました。このうち,被害者の立場はいわゆる孫請け(二次下請)をする会社の所属でした。
この場合,現場業務には「元請」の会社,「一次下請(子請け)」の会社と,被害者を含む「二次下請(孫請け)」の会社がいることになりますが,損害賠償の関係は元請けから二次下請までの各会社との間で生じます。

建築業務に携わる会社は,万一の事故に備えて各種の傷害保険や賠償保険に加入していることが一般的ですが,被害者の場合,直接の雇用関係にある二次下請の会社のみならず,その上位にある一次下請や元請の会社が加入している保険からの給付も受けられる可能性が高い状況でした。
このような保険給付は,交渉などを要せず比較的速やかに行われるものも多いため,漏れなく請求することが被害者の利益のためには非常に重要です。

ポイント
被害者は二次下請の会社に属していた
元請や一次下請の会社の保険給付も受けられる余地がある

③将来介護費

既に解説した通り,下肢の欠損自体は要介護の後遺障害等級とされているわけではありません。しかし,両下肢を欠損した状態では,生活に多大な支障があることは明らかであり,一人で十分な生活を送ることは困難です。
そのため,被害者の十分な救済を図るためには,将来介護費の交渉が不可欠な状況でした。

この点,将来介護費の請求を行うためには,具体的にどのような介護を要したか,という点の主張立証が重要になります。

将来介護の内容には,大きく以下の2種類が挙げられます。

将来介護の種類

1.職業介護
→職業介護人による介護(日額15,000円~20,000円ほど)

2.近親者介護
→家族等による介護(日額8,000円ほど)

一般的な介護の必要性としては,「職業介護を要する場合」「介護を要するが近親者介護で足りる場合」「近親者介護も不要である場合」という区別ができるでしょう。
したがって,近親者介護を要することが立証できなければ,将来介護費の請求は困難ということになります。

ポイント
将来介護には職業介護と近親者介護がある
介護費を請求するには,少なくとも近親者介護は必要と言えることが必要

④労災保険の手続

労災保険は,労働者が勤務中の災害で受傷した場合に損害の補填をする保険ですが,適切に給付を受けるためには必要な手続を行わなければなりません。

本件では,以下の2つの手続が想定されます。

【傷病補償等年金・特別支給金】

療養の開始後1年6か月を経過しても治療が終わらず,その負傷が1級などの上位の後遺障害に該当するものである場合,傷病補償等年金の請求が可能です。
また,等級に応じた特別支給金や特別年金の支給を受けることも可能となります。この特別支給金及び特別年金は,相手方からの賠償とは別に受領できる(損益相殺の対象にならない)ため,被害者への補償として非常に有益なものです。

傷病等級傷病補償等年金傷病特別支給金傷病特別年金
第1級給付基礎日額の313日分114万円算定基礎日額の313日分
第2級給付基礎日額の277日分107万円算定基礎日額の277日分
第3級給付基礎日額の245日分100万円算定基礎日額の245日分

【障害補償年金・特別支給金】

治療の終了後,後遺障害が残った場合,後遺障害1級から7級ではその等級に応じて障害補償年金の請求が可能です(8級から14級は年金でなく一時金のみでの支給となります)。
また,等級に応じた特別支給金や特別年金の支給を受けることも可能となります。この特別支給金及び特別年金は,相手方からの賠償とは別に受領できる(損益相殺の対象にならない)ため,被害者への補償として非常に有益なものです。

障害等級障害補償年金障害特別支給金障害特別年金
第1級給付基礎日額の313日分342万円算定基礎日額の313日分
第2級給付基礎日額の277日分320万円算定基礎日額の277日分
第3級給付基礎日額の245日分300万円算定基礎日額の245日分
第4級給付基礎日額の213日分264万円算定基礎日額の213日分
第5級給付基礎日額の184日分225万円算定基礎日額の184日分
第6級給付基礎日額の156日分192万円算定基礎日額の156日分
第7級給付基礎日額の131日分159万円算定基礎日額の131日分

本件では,生活に介護を要する被害者に代わり,これらの手続を弁護士が対応することとしました。

ポイント
治療が長期化すると傷病補償年金の請求が可能
後遺障害が残ると障害補償年金の請求が可能

弁護士の活動

①請負関係の処理

まず,弁護士からは各社で利用可能な保険の内容を一通り確認することとしました。その結果,それぞれ後遺障害1級を前提とした保険金の支払が可能であり,その総額は8,000万円あまりに上ることが分かりました
多大な損害を被った被害者にまず一定額の受領をしてもらうため,これらの保険金の支払手続を急ぐこととしました。

その後は,各社と個別に協議を行うと解決が困難になりかねないため,代表者の選定を依頼するとともに,その代表者の代理人弁護士と協議する方針を取りました。こうすることで,各社から個別に主張を受けることがなくなり,円滑な解決が可能となりました。

ポイント
各保険から合計8,000万円あまりの給付が受けられることを確認
迅速に保険金を回収することで,被害者の損害補填を実現
その後の交渉は,代表者1名との間で行う形を取った

②将来介護費の解決

将来介護費については,近親者介護の必要性を具体的に指摘することが必要でした。

そのため,被害者及び同居する母と綿密な打ち合わせを実施し,治療中及び症状固定後の介護状況を具体的に整理することとしました。聴取の結果,生活の各局面で母による献身的な介護が被害者を支えていると確認することができました。
弁護士からは,被害者に対する母親の介護状況を詳細に整理して指摘することで,将来介護費の必要が認められるに至りました。また,その日額は近親者介護を終日要する場合の基準額である8,000円となりました。

ポイント
被害者の母による介護の実績を詳細に整理
将来介護費の有無が大きな争点となることを防止

③労災保険の手続

労災保険の各給付に関しては,弁護士が被害者の代理人として申請手続を行った結果,無事に各給付を受けることができました。
被害者自身が具体的な申請を行うことは容易でないため,被害者にとっては弁護士依頼の大きなメリットが生じた一面であったとも言えるでしょう。

活動の結果

上記の活動の結果,被害者には各会社の加入する保険から所定の保険金が支払われるとともに,労災保険にて後遺障害1級が認定され,労災保険からも必要な給付がすべて行われました。
さらに,会社加入の賠償保険から逸失利益及び将来介護費などの支払を受け,その総額(将来の年金を除く)は約1億9000万円となりました。

被害者の方は,バリアフリーに配慮した自宅への転居や介護体制の完備が得られ,将来の生活に対する憂いを解消するに至りました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,工事現場における労災事故で,幸いにも一命を取り留めたというものでした。しかし,その受傷は一見して後遺障害1級に該当すると判断できるほど深刻であり,今後の生活保障のためにもできる限りの賠償金を獲得することが重要な状況でした。

特徴的な損害項目としては将来介護費が挙げられますが,どの程度の介護費が生じるかは,必要な介護の具体的内容による面が非常に大きいところです。そのため,請求時にどのような介護を要しているか,その介護は今後も継続的に必要か,といった点を詳細に示すことが解決の近道になります。

本件では,被害者やご家族のご協力をいただけたこともあり,介護の実態を具体的に指摘できたのが円滑な解決につながりました。

各種事故に強い弁護士をお探しの方へ

藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

【交通事故解決事例】高次脳機能障害を含む併合7級で増額交渉し,逸失利益の丁寧な主張で3,800万円を超える増額を実現したケース

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,高次脳機能障害で後遺障害7級の認定を受けた被害者の金額交渉を行い,3,800万円を超える増額を獲得した事例を紹介します。

事案の概要

被害者は自転車で直進走行していたところ,四輪自動車が左折に際して後方確認を怠ったまま交差点に進入したため,左折巻き込みの被害に遭いました。
被害者は,頭を強く打って頭蓋骨骨折等の重大な傷害を負い,2か月以上の入院を余儀なくされました。その後,1年半を超える通院治療を受けたものの,高次脳機能障害が残存し,後遺障害7級の認定を受けるに至りました。

被害者は,加害者の保険会社から過失割合10%,賠償額約3,537万円との提示を受けた後,金額の妥当性や増額余地の有無などの相談を希望され,弁護士の法律相談を行いました。

ポイント
高次脳機能障害にて後遺障害7級認定済み
過失割合10%,賠償額3,537万円の提示済み

法的問題点

①過失割合

同一方向に進行中の直進自転車と左折四輪車による巻き込み事故は,以下の【289】図または【290】図により,自転車の過失は10%または0%となります。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

自転車の過失は,先行する四輪車を追い抜く形で交差点に進入した場合に10%となりますが,逆に四輪車が後方から追い越して左折してきた場合には0%になる,ということです。
そして,相手保険は自転車に10%の過失がある旨主張しており,上記【289】図を前提としていました。

ただ,被害者に話を聞いてみると,決して四輪車が前にいたとは限らないことが分かってきました。被害者自身は,事故で頭を強く打っており事故状況の記憶が定かでありませんが,車を追い抜いた記憶は特にないと説明していました。一方,車は前にいたと主張しているようですが,ドライブレコーダーはなく,主張の客観的な証拠は見受けられませんでした。
そうすると,被害者に10%の過失があるとの立証は十分にできていない可能性があり,過失割合に一定の交渉余地があるものと判断できました。

もっとも,被害者が事故態様を説明できる状況にないため,あまり強気に過失ゼロを主張できるわけでない点には注意が必要でした。

ポイント
直進自転車対左折四輪車の巻き込み事故は,自転車の過失0~10%
どちらが前にいたかによって過失割合が異なる
本件ではどちらが前にいたかが不明

②逸失利益

本件では,明らかに逸失利益がメインテーマでした。それは,被害者が一級建築士の資格を持って安定した収入を得ていた立場にあったためです。
逸失利益は,将来の収入減少を損害として計算するものであるため,事故前の収入額は逸失利益の金額に直接影響します。本件の被害者は,事故前に1200万円近い年収があり,7級という後遺障害の重さと相まって,逸失利益は相当な金額になる可能性が高い状況でした。

この点,相手保険会社は,後遺障害逸失利益も一定の金額を計上していましたが,その内容は複数の問題点を抱えたものでした。また,弁護士が逸失利益を請求するに際しては,慎重に検討しなければならない点も複数ありました。

【保険会社の提示内容の問題点】

相手保険の提示には,以下のような問題点がありました。

提示内容の問題点

1.労働能力喪失率35%としている

2.労働能力喪失期間60歳までと定めている

「1.労働能力喪失率を35%としている」点

労働能力喪失率は,後遺障害によって労働能力が低下する割合を数値化したもので,具体的な喪失率は後遺障害等級により定められています。
等級ごとの具体的な労働能力喪失率は,以下の通りです。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

上記の通り,後遺障害7級の逸失利益は56%であり,35%は後遺障害9級の場合の数値です。しかし,相手保険会社は労働能力喪失率35%を主張していました。
その背景には,「被害者の労働能力にそれほど影響していないのではないか」という考え方があったようです。ただ,漠然とした推測で逸失利益を減額されるのは明らかに不適切であり,相手保険会社にはそれ相応の主張立証を要求して差し支えないと判断される内容でした。

「2.労働能力喪失期間を60歳までと定めている」点

労働能力喪失期間は,後遺障害によって労働能力が影響を受ける期間を言います。基本的には,仕事のできなくなる年齢までの期間がこれに該当し,特段の事情がなければ67歳までが目安とされます

この点,被害者は,症状固定時51歳の会社員であったところ,相手保険の提示は60歳までを労働能力喪失期間としていました。60歳が定年であり,そこで労働も終わりという前提で計算したのでしょう。

ただ,被害者は資格を持って業務をしている立場にあり,定年を迎えた後も意欲次第では仕事を続けることが可能でした。そのため,労働能力喪失期間を60歳までに制限することに必ずしも合理性はない状況と考えられました。
一方で,勤務先の定年が60歳であることは間違いないため,60歳以降にいくらの収入が得られたであろうか,という計算は非常に困難でした。

ポイント
労働能力喪失率を7級の56%でなく9級相当の35%にしている
労働能力喪失期間を67歳まででなく60歳までに限定している

【減収がない点の取り扱い】

相手保険が労働能力喪失率を35%に制限したのは,事故後に被害者の減収がほとんどなかったことを大きな理由としているようでした。確かに,被害者は,重大な高次脳機能障害を伴う交通事故に遭ったものの,直接の減収は休業に伴う賞与の減額にとどまっていました。被害者の収入には,業務内容の成果に応じて生じる業績給もありましたが,業績給はほとんど減少していませんでした。

逸失利益は,後遺障害による収入減少に対する補償であるため,後遺障害があっても収入減少につながらなければ逸失利益はないとの理解もあり得ます
そのため,減収がないことと逸失利益の請求がどのように整合するか,という点は重要な検討事項でした。

ポイント
逸失利益は将来の収入減少を補填するための賠償
収入減少がない場合に逸失利益が請求できるかは問題になり得る

【定年後の取り扱い】

被害者の勤務先や業務内容を踏まえると,被害者が60歳で定年を迎えた後の仕事に関しては,以下のいずれかの可能性が考えられました。

被害者の定年後の仕事

1.勤務先で嘱託社員として再雇用を受ける

2.独立開業して建築士の仕事を続ける

3.定年を機に仕事を終了する

この点,いずれの選択肢も,収入額は定年前より低額になることが見込まれます。特に,仕事を終えてしまえば収入はゼロになるところです。

そのため,事故がなければ被害者が60歳以降得たであろう収入に関しては,明確な主張立証が難しいと思われる状況でした。言い換えれば,60歳以降は事故当時のように年収が1000万円を超える可能性がほぼないため,60歳までとは区別して丁寧に逸失利益の交渉を行う必要がありました。

ポイント
60歳以降は収入が減少していたであろうことがほぼ明らか
60歳までとは別に,逸失利益を丁寧に交渉する必要がある

弁護士の活動

①過失割合の交渉

過失割合については,被害者の過失が10%と立証できていない,ということを前提に,交渉を試みる方針を取りました。
もっとも,過失がゼロであることを立証することも困難であるため,互いに訴訟で争うリスクを回避するという趣旨で,中間的な5%の過失で合意することを目指す交渉を実施しました。

交渉の結果,実際に被害者の過失5%で解決する運びになりました。
5%という成果はそれほどでもないように見えますが,本件の金額にすると数百万円規模の成果であり,被害者への経済的補償にとっては非常に重大な意味を持つ交渉となりました。

ポイント
0%と10%の主張はいずれも真偽不明
中間的な5%での解決を目指し,合意

②労働能力喪失率の主張

相手保険が低い労働能力喪失率を主張している点については,こちらは一切譲歩すべきでないと判断しました。そもそも,7級が認定されている以上,労働能力喪失率は56%とみなすのが大原則であって,相手保険の主張は安易に例外を認めさせようとしているにすぎないためです。

一方で,被害者には収入減少が生じていないという事実もありました。収入減少がないことは,労働能力が減少していないことの根拠になるケースもあり得るため,収入減少していないことと労働能力が減少したことの関係を説得的に示す必要があります

この点,被害者の場合は,本人の努力や周囲の協力により,何とか仕事の質と収入を保てている,という事情がありました。
高次脳機能障害の結果,業務遂行能力が下がってしまったため,被害者はその分時間をかけて繰り返し確認をすることで,事故前と遜色のない仕事を続けていたのです。また,被害者の事情を知る同僚や上司などの配慮もあり,被害者の業務は事故前より負担の小さい内容としてもらっていることも分かりました。

以上を踏まえると,被害者の収入減少がないのは,被害者の労働能力が保たれているからではなく,本人や周囲が労働能力の減少を懸命にカバーしているからと理解するのが適切です。そうすると,収入減少のないことは労働能力喪失率を低く見積もる根拠にはできないと判断することができました。

弁護士からは,事故前後における被害者の業務状況や,事故後における勤務先の配慮の数々などを丁寧に指摘することで,労働能力喪失率を譲歩しない内容での解決を実現しました

ポイント
低い労働能力喪失率を主張する根拠は,減収がないこと
しかし,減収がなかったのは本人の努力や周囲の協力あってのこと
減収がないことは労働能力が減少していないことの根拠にならないと指摘

④定年後の逸失利益

被害者が60歳で定年を迎えた後の逸失利益は,相手保険の提示通りにゼロで合意するメリットこそないものの,漫然と請求しても合意に至ることは考えにくいため,何らかの合理的な説明が必要でした。

そこで,弁護士においては,被害者の先輩にあたる人の定年後の収入実績を確認することとしました。被害者の先輩の収入実績を,金額計算の参考にするためです。
本件では,被害者と同じく一級建築士として勤務した人の定年後の収入は,それまでの概ね3~7割程度になっている例があると確認できました。そのため,これを踏まえて相手保険と交渉を行うことにしました。

交渉の結果,定年後の逸失利益については,概ね定年前の5割の収入を念頭に計算する方法で合意することができました。
一切の根拠なく大雑把に計算,請求するのでは相手を納得させることは困難でしたが,過去の先例を計算根拠とすることで,説得力ある請求が可能となりました。

ポイント
被害者の先輩にあたる人物の収入実績を参考に交渉を実施
一定の計算根拠があることで,合意に至りやすくなった

活動の結果

上記の活動を尽くした結果,被害者への賠償額7,350万円で合意が成立し,従前の提示額約3,537万円からは3,800万円を超える増額となりました。

なお,賠償額7,350万円の内訳は,被害者の損害合計7,000万円,弁護士費用350万円(損害の5%)というものでした。弁護士が,早期解決の条件として弁護士費用の上乗せを求める交渉を行ったことにより,弁護士費用の支払も含めての合意となりました。
弁護士費用は,訴訟を行わない限り請求できないのが原則であるため,交渉で弁護士費用の支払を引き出した点は特筆事項と言えるでしょう。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,専門的な職業と安定した高額収入がある被害者の逸失利益が最大の争点でした。内容面で最大の争点となるのみでなく,金額面でも後遺障害逸失利益が大部分を占めるため,逸失利益に関する合意の可否は本件の解決の可否と直結する問題であったと言えるでしょう。

この点,相手保険は,逸失利益が多額になることを防ぐためにいくつかのそれらしい主張をした上で,被害者に一定の逸失利益を提示していました。しかし,弁護士目線では了承すべき内容ではなく,交渉は不可欠です。そのため,提示内容と弁護士が目指す水準の差をどのように埋めるのかが重要な問題となりました。

本件では,被害者の実際の業務内容や環境,能力の変化などを詳細に整理し,それを踏まえた請求を行うことで,相手保険の譲歩を引き出す方法を取りました。このような交渉は,特に訴訟を避けたいと考えている相手保険に有力です。なぜなら,個別の事情を詳細に整理した上での主張は,多くは訴訟に至ったときに行うものだからです。
相手保険が訴訟を避けたいと考えていることを見越して,こちらは訴訟を辞さない姿勢を暗に示すことにより,相手保険の譲歩を引き出す交渉を目指しました。

逸失利益は,後遺障害が伴う事故では最も大きな争点になりやすいものです。逸失利益の解決に際しては,弁護士に個別の事情を十分に把握してもらいながら,適切な解決を目指すことをお勧めいたします。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ

法律相談のご希望はお気軽にお問い合わせください
※お電話はタップで発信できます。メールは問い合わせフォームにアクセスできます。

【交通事故解決事例】11級認定後の金額交渉を受任し,2か月弱で500万円の増額を実現。スピード解決希望の依頼を受け迅速交渉

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,後遺障害11級認定後の金額交渉を受任し,2か月弱の活動期間で500万円の増額解決に至った事例を紹介します。

事案の概要

被害者が軽トラックを運転し,カーブを描く緩やかな上り坂を走行していたところ,対向車がカーブを曲がり切れずセンターオーバーし,衝突する事故が発生しました。現場は山間部の降雪地帯で,当時も積雪及び降雪があったことが影響し,下り坂を走行していた対向車がハンドル操作を誤って事故に至りました。

事故の結果,被害者は頸椎部を脱臼し,約20日間の入院の後,約2年に渡る通院治療を要しました。ただ,後遺障害の残存を避けることはできず,脊柱の変形障害について11級が認定されました。

相手保険会社からは,11級の認定結果とともに損害賠償額の提示が送られてきましたが,その金額はちょうど500万円というものでした。

弁護士は,被害者が相手保険会社から金額提示を受けた段階で,その妥当性や交渉の余地に関して被害者からの相談をお受けしました。依頼者は,増額できるなら希望したいが,長期間を要するやり方は期待しないというご意向でした。本件の治療が長期間に渡ったこともあり,今後の解決は短期間で進めたい,との希望を強くお持ちでした。

ポイント
11級認定済み,500万円の賠償額提示済み
依頼者は早期解決を強く希望

法的問題点

①休業損害

被害者は,60代の兼業主婦で,相手保険からはパート勤務の休業損害として計算された金額を受領している状況でした。しかしながら,パート勤務をしている兼業主婦の場合,パートの休業損害よりも主婦業(家事労働)の休業損害の方が大きな金額となることが多数です。
そのため,被害者に関しては家事労働の休業損害を請求するのが適切と判断される状況でした。

ただ,家事労働の休業損害が具体的にいくらなのか,という点は容易に判断できません。具体的には,休業日数が何日であるかを特定することが非常に困難です。
被害者の2年以上に渡る治療期間の中では,家事が全くできなかった日もあれば,ある程度の家事ができた日も少なくないはずです。そんな被害者の休業日数が何日かは,客観的に示す方法がないため,交渉である程度合理的な水準を見出すほかないところでした。

ポイント
被害者はパート勤務の兼業主婦
主婦業(家事労働)の休業損害を計算するのが適切
もっとも,家事労働の休業日数は不明

②後遺障害部分の提示額

相手保険の提示内容のうち,後遺障害部分(「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」)の合計額は,331万円という内容でした。これは,たまたまこの金額になっているのでなく,提示額を331万円とするために計算方法を調整しています。
後遺障害11級が認定された場合,自賠責保険から331万円の保険金が支払われるのが通常です。本件でも,11級に対する自賠責保険金は331万円と計算される状況でした。そのため,相手保険はあえて後遺障害部分の合計額を331万円と算出することによって,自社の負担なく後遺障害部分を解決しようとしているのです。

しかも,相手保険会社の提示は,「本来の計算だと331万円を下回るが331万円まで引き上げる」という内容になっていました。保険会社の意図を把握せずに提示内容を眺めると,金額を引き上げてもらっている分有益と考えてしまいそうです。
しかし,弁護士目線では相手保険の計算は全く適正額ではなく,増額余地が大きく残っている状況でした。弁護士においては,後遺障害部分を331万円とする提案は了承できないことを前提に交渉を行う方針を取るのが適切と判断できました。

なお,この後遺障害部分については,交渉をすることで減額してしまうリスクが全くありません。なぜなら,相手保険が了承しなくても331万円は自賠責保険から支払われるためです。
その意味で,相手保険は後遺障害部分について最低額の提示をしていると評価することもできるでしょう。

ポイント
後遺障害部分の提示額は自賠責保険金額と同額
保険会社が自社の負担を避ける目的で同額に設定している
交渉しても減額リスクはなく,保険会社の提示は最低額と言える

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」という二つの損害が主に発生しますが,このうち「後遺障害逸失利益」がどの程度発生するかは,後遺障害の具体的内容によって大きく異なり得るところです。
本件の場合,被害者の後遺障害は脊柱の変形障害でした。つまり,体の中心を通る脊柱が一部変形しており,これを後遺障害として認定する,というものです。そして,脊柱の変形障害は,逸失利益が発生するのか,という問題が生じる後遺障害の一つでもあります。

後遺障害逸失利益は,後遺障害があると労働能力が減少することで収入減少に至るため,その収入減少を補償する,という性質のものです。そのため,後遺障害によって労働能力が減少することが大前提になっています。
ただ,脊柱が変形すると直ちに労働能力が失われてしまうかは必ずしもはっきりしません。このような後遺障害の場合,等級認定されても逸失利益はない,というケースが生じうるのです。

相手保険の後遺障害部分の提示額は,非常に小さいものであったため,逸失利益を主張すれば反論がなされることを想定する必要があります。そこで,逸失利益の存在を主張する根拠を明確にしておく必要がありました。

ポイント
脊柱の変形障害は逸失利益が生じるか明らかでない後遺障害
被害者に逸失利益が生じる理由は明確にすることが必要

④早期解決の方法

被害者は,できるだけ早期に本件のやり取りから解放されたい,という希望を強く有していました。そのため,最大額の賠償を獲得するよりも,解決のスピードと両立する範囲で可能な限りの賠償額を獲得することが望ましい状況でした。

スピーディーな解決を目指す場合,方法は交渉が明らかに適切です。交渉以外では訴訟やADRが挙げられますが,いずれも数か月~年単位で期間を要する解決方法となってしまいます。
一方で,交渉での早期解決には,相手の同意も不可欠です。つまり,相手にとっても早期解決が有益である,という場合に限り,交渉で早期解決ができるということになります。そのため,弁護士の交渉に際しては相手保険に早期合意のメリットを感じさせる必要がありました。

ポイント
解決方法は交渉であるべき
交渉で早期解決をするには,相手にとっても早期解決が有益であることが必要

弁護士の活動

①休業損害の請求内容

休業損害に関しては,互いに胸を張って主張立証することが困難な状況でした。なぜなら,一方で休業がゼロでないことは明らかであり,もう一方で休業が長いと客観的に立証することはできないためです。休業損害が少ないという主張も多いという主張も,根拠が伴わないものにならざるを得ません。

このような場合,一定の合理性ある水準を示し,交渉の叩き台とする方針が有力です。本件では,「入院期間は毎日100%の休業,通院期間は毎日30%の休業」と設定し,休業損害の叩き台とすることにしました。
この数字そのものに根拠はありませんが,一定の合理性がないわけではありません。合理性の根拠は以下の通りです。

休業損害の叩き台(割合的請求)の合理性

1.類似の計算方法を取った裁判例がある
→設定の仕方は裁判所の考え方に近いものである

2.後遺障害11級の労働能力喪失率が20%である
→治療終了時には20%の休業が生じていると理解される

当然ながら,この計算がそのまま合意内容となるとは限りません。むしろ,交渉の基準になる一定の目安を設ける目的が大きいところです。
実際,本件の休業損害は,上記請求を目安にしながら合意額を調整することとなりました。

ポイント
通院期間中の休業損害は,毎日30%の休業が生じたと仮定して請求
一定の合理性ある叩き台を示すことで,交渉の目安を設定した

②後遺障害に関する請求

被害者の後遺障害は脊柱の変形障害ですが,変形そのものが逸失利益を発生させるとの主張は難しいと言わざるを得ません。脊柱が変形しても直ちに主婦業ができなくなるわけではないためです。

しかし,被害者には,変形障害に伴って首や手指の痛み,しびれなどが生じており,それらの症状は変形障害に含まれる障害として認定する,との判断がなされていました。そして,首や手指の痛み,しびれといった症状は,明らかに被害者の家事労働に影響を及ぼす性質の障害です。

そこで,変形障害が痛みやしびれをもたらしたことを根拠に,逸失利益の存在を主張する方針としました。

なお,このような主張の場合には注意すべき点があります。それは,痛みやしびれに11級相当の労働能力喪失率が認められるとは限らない,ということです。

骨折後の痛みやしびれといった神経症状は,以下のような等級認定の対象となることが考えられます。

等級認定基準
12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号局部に神経症状を残すもの

つまり,痛みやしびれ自体は,12級または14級の認定対象であって,労働能力への影響も12級または14級相当という理解が合理的とも考えられるわけです。
本件でも,12級相当の逸失利益となる可能性を想定しながら,逸失利益を請求することとしました。

ポイント
変形障害により首や手指の神経症状が生じたため,これを逸失利益の根拠に
ただし,神経症状の逸失利益は12級相当にとどまる可能性を踏まえておく

③早期解決のための方策

早期解決のためには,相手保険に交渉での早期解決が有益であると認識させることが必要と思われました。
そこで,弁護士においては,「訴訟で解決すると追加で多くの支払が生じる」と相手保険に認識してもらうことで,早期合意のメリットを感じさせることを目指しました。

一般に,訴訟に至ると,加害者側は「遅延損害金」及び「弁護士費用」を追加で支払うことになるのが現在の運用です。それぞれの内容は以下の通りです。

訴訟における追加の支払

1.遅延損害金
→事故発生から支払い済みまで年3%(本校執筆時)の利息が加算され続ける

2.弁護士費用
→損害額の10%が弁護士費用として加算される

本件では,治療終了時点で事故から2年以上が経過しているため,仮に訴訟をして事故の3年後に解決したとなると,「3%×3+10%」=19%の支払が追加でかかることになります。それ以上に期間を要する可能性も低くないため,訴訟に至ると,相手保険会社は概ね20%程度の金額を上乗せして支払うリスクを背負わなければなりません。

弁護士からは,交渉が奏功しなければ訴訟に移行する可能性を伝えることで,このような追加での支払リスクを相手保険に認識してもらう方法を取りました。

ポイント
訴訟に至ると遅延損害金及び弁護士費用が追加で発生し得る
事故から長期間が経過しているほど,遅延損害金が大きくなる

活動の結果

以上の弁護活動の結果,弁護士の活動前は500万円の提示額であったところ,交渉により1,000万円での解決となりました。
また,弁護活動の開始から賠償金額1,000万円の受領までに要した期間は2か月弱であり,事故の規模や治療期間の長さを踏まえると非常に短期間での決着となりました。

なお,解決内容は,休業損害が弁護士のたたき台を若干下回る水準,逸失利益が12級相当の労働能力喪失率を目安にした金額となりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,交渉による増額と早期解決のバランスを適切に保つことが求められるケースでした。
交通事故の解決は,金額的な規模が大きくなればなるほど時間を要する傾向にあります。重大な後遺障害等級が認定される事故や死亡事故など,一定のケースでは交渉に年単位の期間を要する可能性もあり得るところです。さらに,訴訟などの法的手続に移行すれば,さらに年単位で争いが続き,決着の見えない期間を過ごすことになることも珍しくはありません。

そのため,弁護士としては日頃から早期解決を目指すスタンスが重要となりますが,本件はさらにスピードを重視することが必要でした。長い時間をかけて最大額を目指すより,短い期間で一定の増額ができる方が望ましい,というご希望は,被害者の立場を考えれば無理のないものです。
今回は,スピード解決と両立し得る増額幅の見込みを正確に立て,その見込みをできる限り迅速に実現することが,弁護士の役割であったと言えるでしょう。

交通事故の金銭的解決には,様々なやり方があります。弁護士相談の際には,目指したい解決の形を弁護士と十分に共有することで,より希望に沿った解決方法の提案が受けられるでしょう。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

【交通事故解決事例】弁護士が診断書の再作成を依頼し後遺障害11級を獲得,賠償額1,280万円超の高額示談に至ったケース

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,後遺障害診断書の作成後に弁護士が受任し,診断書の再作成を依頼するなどの活動を尽くした結果,併合11級の後遺障害等級認定につながったケースを紹介します。

事案の概要

被害者は,単車の乗車中,信号表示のある十字路交差点に青信号に従って進入したところ,左方から信号無視して交差点に進入してきた四輪車と衝突する事故に遭いました。
被害者は,左肩の靭帯損傷や左肩鎖関節脱臼等のケガを負い,概ね8か月ほどの通院治療を尽くしたものの,患部の変形が残った上,左肩が満足に振り上げられなくなりました。そのため,後遺障害としては,変形障害及び関節可動域制限(機能障害)が想定される状況でした。

被害者は,保険会社及び病院から通院終了の案内を受け,病院から後遺障害診断書の作成を受けた段階で,診断書の内容を踏まえて弁護士に相談することをご希望されました。

ポイント
後遺障害等級認定手続に入る直前のご相談
考えられる後遺障害は変形と左肩の可動域制限

法的問題点

①後遺障害等級

【可動域制限】

肩関節の可動域制限に関しては,以下のような等級認定の可能性が考えられます。

等級基準可動域制限の程度
8級関節の用を廃したもの患側が健側の10%程度
10級関節の機能に著しい障害を残すもの患側が健側の2分の1以下
12級関節の機能に障害を残すもの患側が健側の4分の3以下

そして,肩関節で可動域制限が問題となる運動(主要運動)は以下の通りです。

関節主要運動参考可動域角度
肩関節①屈曲(前方拳上)180度
肩関節②外転(側方拳上)180度

肩関節の運動

つまり,肩関節の可動域制限が後遺障害等級に認定されるのは,前方に振り上げる「屈曲」か側方に振り上げる「外転」の可動域が4分の3以下に制限されてしまった場合となります。ここで,4分の3以下に制限されているかどうかは,患側(ケガをした方)と健側(ケガをしていない方)の比較で行われることになります。

本件で可動域制限が等級認定されるための条件

1.左肩の屈曲(前方拳上)の可動域が,右肩の4分の3以下
2.左肩の外転(側方拳上)の可動域が,右肩の4分の3以下

しかしながら,被害者の後遺障害診断書を確認したところ,健側が110~120度程度,患側が100度程度と,それほど大きな差異のない測定結果とされていました。この後遺障害診断書を提出しても,可動域制限が等級認定される可能性はありません。
ただ,この測定結果には違和感が否定できません。というのも,怪我をしていないはずの健側が110~120度の可動域にとどまっていますが,これは参考可動域180度と比較すると4分の3を下回っているためです。怪我のない健側に,後遺障害等級の対象になるほどの可動域制限が生じているというのは,通常は考えにくい状況と言わざるを得ませんでした。

そこで,弁護士が被害者と直接面談の上で打ち合わせを行い,関節可動域を目視で確かめることとしました。そうすると,健側の可動域は,概ね参考可動域180度に近い状態であると確認でき,後遺障害診断書の測定値が何らかの理由で実態を反映できていないことが分かりました。

以上を踏まえ,肩関節可動域については再測定の依頼をすべき状況と判断しました。

ポイント
可動域制限の基準は,患側が健側の4分の3以下
健側の可動域が実態を反映していなかったため,再測定を依頼

【変形障害】

肩関節を含む上肢の変形に関しては,以下のような後遺障害等級が考えられます。

等級基準
12級8号長管骨に変形を残すもの

「長管骨に変形を残すもの」とは,以下のいずれかに該当する場合を指します。

1.上腕骨に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
2.橈骨及び尺骨の両方に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
3.上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部に癒合不全を残すもの
4.橈骨又は尺骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残し、硬性補装具を必要としないもの
5.上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
6.上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
7.橈骨又は尺骨(骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
8.上腕骨が50度以上、外旋又は内旋で変形癒合しているもの

「障害認定必携」より引用

この点,被害者には左肩鎖関節の脱臼に伴い,左肩に突出した部分が現れていました。この点は,適切に判断されれば12級の対象となることが見受けられます。そして,変形に関しては,後遺障害診断書でも十分な指摘がなされており,判断に必要な画像資料も揃っていることが確認できました。

そのため,変形障害に関しては,既に作成された書類で等級認定の獲得が可能であると判断することができました。

ポイント
変形障害については,後遺障害診断書での指摘,必要な画像資料ともにあり
追加の依頼なく等級認定の獲得が可能であると判断できた

②慰謝料

後遺障害等級が認定された場合,慰謝料については「傷害慰謝料」及び「後遺障害慰謝料」が発生します。それぞれについて,いわゆる「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判基準」と呼ばれる金額水準があり,一般的に裁判基準が最も高額な水準とされています。

【傷害慰謝料】

自賠責基準の計算方法

①対象日数「総治療期間」と「実通院日数×2」のいずれか小さい日数
②日額1日4,300円
③計算方法①対象日数×②日額=自賠責基準の金額

もっとも,自賠責保険金には合計120万円の限度額があるところ,本件では治療費だけで120万円を超過しており,自賠責保険から支払われる慰謝料はゼロとなります。
そのため,保険会社は任意保険基準を念頭に計算することが想定されます。

任意保険基準の計算方法

任意保険基準の慰謝料(一例)

任意保険基準の慰謝料

本件では,被害者の治療期間が約9か月であったため,任意保険基準の慰謝料は82万円ほどとなることが想定されます。

裁判基準の計算方法

裁判基準では,任意保険基準と同様,入通院期間を基準に計算しますが,その金額は任意保険基準より大きくなるのが通常です。
また,裁判基準の場合,他覚症状のないむち打ち(=軽傷)の場合(別表Ⅱ)とそうでない(=重傷)場合(別表Ⅰ)の二種類があり,重傷に用いられる別表Ⅰの方が金額が大きく定められています。

具体的な金額は以下の通りです。なお,1月=30日とみなして計算します。

裁判基準の慰謝料 別表Ⅰ(重傷)

裁判基準の慰謝料

裁判基準の慰謝料 別表Ⅱ(軽傷)

裁判基準の慰謝料

本件では,別表Ⅰが用いられるため,治療期間約9か月に対する慰謝料は約139万円となります。

以上を踏まえると,本件では,任意保険基準82万円と裁判基準139万円の間で可能な限りの金額交渉を試みることが見込まれます。
この点,弁護士が交渉で目指す慰謝料額は,裁判基準満額の90%が目安とされやすいところです。そのため,裁判基準139万円の90%に当たる約125万円が目標額の目安と考えられます。

【後遺障害慰謝料】

自賠責基準及び裁判基準の後遺障害慰謝料は,以下の通りです。

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

11級の場合,自賠責基準136万円,裁判基準420万円となるため,この間で可能な限りの金額交渉を試みることが見込まれます。
この点,弁護士が交渉で目指す慰謝料額は,裁判基準満額の90%が目安とされやすいところです。そのため,裁判基準420万円の90%に当たる378万円が目標額の目安と考えられます。

ポイント
傷害慰謝料は82万円→125万円の増額目標(自賠責基準→裁判基準の90%)
後遺障害慰謝料は136万円→378万円の増額目標(自賠責基準→裁判基準の90%)

③後遺障害逸失利益

被害者は兼業主婦であったため,後遺障害等級が認定された場合,主婦業(家事労働)の逸失利益が問題となります。
この点,肩関節の可動域制限12級と変形障害12級がそれぞれ認定された場合,併合11級とはなりますが,11級を前提とした後遺障害逸失利益を請求することができるかは難しいところです。なぜなら,変形障害は直ちに労働能力の低下をもたらすわけではないからです。

肩関節に変形があっても,変形によって主婦業の制限が生じることは一般的に想定されていません。そのため,併合11級の認定であっても,逸失利益の計算で考慮すべき後遺障害等級は可動域制限の12級のみと考えなければならない状況と言えるでしょう。

この点が具体的に影響するのは,「労働能力喪失率」,つまり後遺障害による労働能力の低下度合いです。労働能力喪失率は,後遺障害等級ごとに定められていますが,具体的な数値は以下の通りです。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

本件では,11級相当の20%ではなく,12級相当の14%にて合意することを想定すべきと考えられます。

ポイント
肩関節の変形は主婦業の労働能力に影響しない
逸失利益に影響する後遺障害は12級と考えることが必要

弁護士の活動

①後遺障害診断書の再作成依頼

まず,関節機能障害(可動域制限)が等級認定されなければならないため,後遺障害診断書の再作成を依頼する必要がありました。そこで,弁護士から被害者の方に後遺障害診断書の再作成をお勧めするとともに,主治医の先生とご相談いただきたい内容を書面化してお渡しすることで,被害者と主治医との間で再測定及び診断書訂正(再作成)を進めてもらう方法を選択しました。

この点,診断書の再作成を依頼する場合,弁護士が直接医療機関に依頼する方法と,患者である被害者に主治医の先生とお話していただく方法のいずれかが考えられます。被害者の負担は,弁護士による直接の依頼の方が小さいものの,医師と患者との信頼関係を維持・継続する観点では,直接コミュニケーションを取っていただく方が有益なケースが多く見られます。
本件の場合,従前の信頼関係が強固であった上,後遺障害診断書の再作成には可動域の再測定(医師と患者の直接のやり取り)が必要になるため,被害者を通じてご相談いただく方法が適切であると判断しました。

以上の活動を尽くした結果,肩関節の可動域は,健側が170度程度,患側は100度程度であるとの再測定結果が得られ,後遺障害等級認定の条件を満たす診断書の作成が実現されました。

なお,この再測定は,一度後遺障害診断書を提出してしまってからでは困難です。なぜなら,一度診断書を提出した後に,再測定をして別の診断書を提出した場合,最初に提出した診断書の内容が優先的に評価されるのが通常であるからです。前後の測定結果が明らかに異なる場合,先の測定結果が尊重されやすいため,提出前に診断書の再作成を行う必要がありました。

ポイント
被害者を通じて主治医に再測定を依頼
提出前に診断書を訂正(再作成)する必要がある

②金額交渉

金額交渉に際しては,慰謝料は裁判基準満額の90%の金額,逸失利益は後遺障害12級相当の金額がそれぞれ目標額でした。そこで,交渉手法として,逸失利益で11級相当の請求をした後,12級相当の金額に譲歩する形を取ることで,有益な結果を引き出すことにしました。
こうすることで,実際は目標とする逸失利益の金額であるにもかかわらず,相手目線ではこちらが逸失利益を譲歩したと映ることになります。こちらが逸失利益を譲歩した場合,慰謝料は相手が譲歩する,というやり取りになることを期待しました。

上記の交渉の結果,慰謝料については裁判基準満額の95%に相当する金額,逸失利益は後遺障害12級相当の金額を獲得できることとなりました。

ポイント
逸失利益を譲歩したように見せる交渉により,慰謝料の増額を獲得

活動の結果

上記の活動の結果,被害者には肩関節の可動域制限12級及び変形障害12級がそれぞれ認定され,併合11級が獲得できました。
また,損害賠償額は総額1,280万円超となり,本件の内容を踏まえた示談としては一般的な目標額を上回る結果となりました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,被害者が後遺障害診断書の作成を受けた後,後遺障害等級の認定手続前に弁護士相談をご希望されたケースでした。
弁護士が診断書の内容を確認したところ,そのままでは可動域制限が認定されない測定値であったため,事前に弁護士へご相談しなければ適正な等級認定を獲得するチャンスは失われていた可能性が非常に高かったでしょう。
その意味で,被害者の方が弁護士への相談を実施されたのは,結果に直結する極めて重要な行動であったと言えます。

弁護士の活動開始後は,比較的円滑に,事前想定通りの流れで解決に至ったため,本件は初期対応がほぼ全てであったと言っても過言ではありません。最終的な合意金額は,想定していた目標額を上回る水準になりましたが,被害者の方が適切な初期対応を尽くしたことへのご褒美のようなものだったのかもしれません。

後遺障害診断書の内容に不明点の生じた際は,一度弁護士にご相談されてみることをお勧めします。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

【交通事故解決事例】併合7級にて3,200万円超の増額を実現。紛争処理センターで請求の合理性を立証し解決した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,交渉を拒む相手保険から,交通事故紛争処理センターの利用を通じて約3,280万円の増額賠償の獲得に至った事例を紹介します。

事案の概要

被害者(女性・当時高校生)は知人運転の単車に同乗していましたが,単車の運転手が信号のない十字路上での四輪車との出会い頭事故に遭い,受傷しました。被害者の乗車していた単車の方に一時停止規制があったものの,単車の運転手が速度を緩めないまま十字路内に進入したところ,事故が発生したという状況でした。

被害者の負った怪我は,頸椎の骨折,股関節の脱臼骨折,足指の骨折などでした。特に頸椎と股関節のケガが重く,後遺障害は避けられない状態でした。

1か月以上の入院及びその後の通院治療を経て,被害者には併合7級の後遺障害等級が認定されました。主な認定内容は以下の通りです。

被害者の後遺障害

脊柱の運動障害 8級
分娩機能障害 11級相当
その他,傷跡や痛みについて14級の認定あり

総合:併合7級

加害者(運転者)の保険会社からは,後遺障害等級認定の結果報告とともに,被害者へ損害賠償額の提案がなされました。
もっとも,提示金額は約2,140万円であり,後遺障害7級の高校生に対する賠償額としては非常に低い水準と思われるものでした

ポイント
併合7級の認定と約2,140万円の金額提示あり
保険会社の提示は非常に低い金額

法的問題点

①過失割合

保険会社が非常に低い金額の提示をしている理由の一つに,過失割合の主張がありました。

本来,被害者は同乗者に過ぎないため,運転者同士が起こした事故について過失を問われる立場にはありません。自動車同士の交通事故における過失割合は,運転行為の落ち度の割合である以上,運転をしていない人に落ち度を指摘することはできないからです。

今回,相手の保険会社が主張していた被害者の過失は,「好意同乗」と呼ばれるものでした。
好意同乗とは,運転者の車両に無償で(好意で)同乗させてもらうことをいいます。運転者が運転行為を誤って事故を起こしたのであっても,自分からその車両に同乗した人物が損害の全てを運転者に請求するのは公平でない,という考え方が,「好意同乗減額」と呼ばれる過失相殺の根本にあると言われます。
加害者の保険会社が金額提示を行うとき,同乗していたという理由のみで好意同乗の主張をすることは一定数見られます。特に,単車の運転や長時間運転など,類型的に事故が起きる可能性の低くない同乗行為に対して,主張されやすい傾向が見られます。

本件でも,相手保険会社は好意同乗による過失相殺を主張しており,提示金額の低さに大きな影響を及ぼしていました。もっとも,被害者は単車に同乗していただけであり,特に危険な行動をとっていたわけではありませんでした。

ポイント
同乗者に「好意同乗」を理由とした過失の生じる場合がある
もっとも,本件の被害者は特に危険な行為はしていない

②後遺障害等級の妥当性

交通事故の解決に際しては,認定された後遺障害等級の妥当性を判断することが必要です。後遺障害等級が一つ異なるだけで,数百~数千万円という単位で賠償金額が変動する可能性も低くないためです。

この点,本件で被害者に認定された等級は併合7級でしたが,主な後遺障害等級は脊柱の運動障害8級,それ以外は8級に至らない類型の後遺障害でした。そのため,脊柱の骨折に対する後遺障害等級が妥当であれば,全体の結果も妥当であると評価することが可能です。

脊柱部の骨折に対しては,一般的に変形障害及び運動障害の認定が考えられます。その具体的な認定基準は以下の通りです。

【変形障害】
圧迫骨折や破裂骨折に伴って脊柱部の変形が生じる後遺障害です。

等級基準
6級脊柱に著しい変形を残すもの
8級脊柱に中程度の変形を残すもの
11級脊柱に変形を残すもの

具体的基準

脊柱に著しい変形を残すもの(6級)
1.複数の椎体の圧迫骨折で前方椎体高の合計が後方椎体高の合計より椎体1個分以上低くなっている場合
2.圧迫骨折で前方椎体高の合計が後方椎体高の合計より椎体2分の1個分以上低くなっており、かつ、コブ法による側彎度が50度以上ある場合

脊柱に中程度の変形を残すもの(8級)
1.圧迫骨折で前方椎体高の合計が後方椎体高の合計より椎体2分の1個分以上低くなっている場合
2.側彎度が50度以上となっている場合
3.環椎(第一頚椎)または軸椎(第二頚椎)の変形・固定により次のいずれかに当てはまる場合
a.60度以上の回旋位となっている
b.50度以上の屈曲位となっている
c.60度以上の伸展位になっている
d.側屈位となっており、矯正位(頭部を真っ直ぐにした姿勢)で頭蓋底部と軸椎下面の平行線の交わる角度が30度以上となっている

脊柱に変形を残すもの(11級)
1.圧迫骨折が生じ、そのことがエックス線写真等で確認できる場合
2.脊椎固定術が行われた場合
3.3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けた場合

【運動障害】
圧迫骨折などの結果,脊柱部の運動機能に制限が生じる後遺障害です。

等級基準
6級脊柱に著しい運動障害を残すもの
8級脊柱に運動障害を残すもの

具体的基準

脊柱に著しい運動障害を残すもの(6級)
次のいずれかにより頚部および胸腰部が強直したもの
①頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており,そのことがX線写真等により確認できるもの
②頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

脊柱に運動障害を残すもの(8級)
次のいずれかにより頚部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたもの
①頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており,そのことがX線写真等により確認できるもの
②頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

そして,本件での被害者の状況を踏まえると,「脊椎固定術」をした上で「頸部の可動域が2分の1以下に制限」されており,確かに8級の認定対象になることが確認できました。一方,8級を超える等級認定の基準は満たしておらず,等級認定としては8級が妥当なものであるとの判断ができました。

以上の検討の結果,後遺障害等級は併合7級を前提に解決すべき事故であることが確認できました

なお,脊柱の後遺障害に関しては,こちらの記事もご参照ください。

ポイント
後遺障害等級は最も重い8級(脊柱の運動障害)が妥当かを基準に検討
認定基準と被害者の状態を照らし合わせ,認定等級が妥当であると判断できた

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定される場合,損害賠償額が最も大きくなりやすい項目は「後遺障害逸失利益」です。後遺障害逸失利益とは,後遺障害に伴う労働能力の低下によって収入が減少する分を損害として計算したものをいいます。後遺障害等級が認定される状況では,労働能力がそれ以前より制限されるため,得られたはずの収入が得られなくなったと評価され,逸失利益が発生するということです。

この点,後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

そして,労働能力喪失率は,主に後遺障害等級によって定められますが,仕事の内容によっては労働能力に影響しない後遺障害もあり得るため,仕事への具体的影響を踏まえての検討が必要です。例えば,顔面の醜状障害(傷跡)は,モデルなどの外見を活用した仕事には影響するものの,そうでない仕事には影響しないため,仕事によっては逸失利益の対象とならないことも少なくありません。

被害者の場合は,事故当時に高校生であったため,まだどのような仕事をするかが明らかでないという問題がありました。どんな仕事をするかが分からないため,労働能力への影響が分からない(=立証できていない)という反論を受ける可能性が想定されました。

ポイント
労働能力喪失率は,後遺障害の内容と仕事の内容の関係で検討する必要がある
事故当時学生のため,仕事への具体的影響を指摘することは困難

④相手保険との交渉の可否

本件では,相手保険に交渉の意思がない可能性を想定する必要があると考えられました。その理由は,概ね以下の通りです。

相手保険に交渉の意思がない可能性を想定する理由

1.提示金額が明らかに小さい
2.被害者の過失を不明確な根拠で強気に主張している
3.被害者に対して,金額を改める意思はないと告げていた

金額の低さと過失の主張だけでも,非常に好戦的な態度を感じさせるところですが,被害者に対してあらかじめ増額の意思がないと告げるのは,通常は考えにくい対応と言えます。明らかに被害者の感情面へマイナスの影響を与える発言であって,交渉を目指すには不適切と言わざるを得ないためです。
そうすると,相手保険は何らかの理由で交渉をする意思がないという可能性を強く考慮する必要があり,交渉以外の解決方法を検討することを視野に入れるべきケースでした。

ポイント
相手保険会社に交渉の意思がなければ,交渉での解決は困難
適正な解決を目指すには交渉以外の解決方法を検討する必要がある

弁護士の活動

①請求方法の検討

受任後,弁護士から相手保険に一度交渉での請求を行ってみることとしました。しかし,相手保険の態度は,提案を受け入れないどころか対案を検討する意思もないというもので,明らかに交渉の余地がないと判断せざるを得ませんでした。

そこで,弁護士としては交渉以外の解決を選択する必要がありますが,具体的には以下の2つが考えられます。

交渉以外の請求方法

1.訴訟(裁判手続による請求)
2.ADR(裁判外の紛争処理手続)

両者の主な違いとしては,以下のような内容が挙げられます。

【項目】【訴訟】【ADR】
手続の形式法律の定めに従う柔軟な取り扱いが可能
関与する人裁判所(裁判官)あっせん担当弁護士
解決のスピード長期間を要しやすい訴訟よりは短期間になりやすい
費用訴訟費用や弁護士費用等が発生申立て無料
公開性公開の法廷における審理非公開の手続
賠償額遅延損害金や弁護士費用を加算遅延損害金や弁護士費用は通常加算しない
強制力法的拘束力があり,履行を強制させられる合意内容の強制力はない

基本的な差異としては,訴訟だと厳格な手続で一定の費用が発生するものの,解決内容に強制力があるADRだと柔軟な手続で費用なく実施できるものの,解決内容に強制力はない,という区別ができるでしょう。

本件の被害者は,できる限り早期の解決を希望する気持ちが強く,訴訟への対応負担を避けたいという要望もあったため,十分な打ち合わせの上でADRの一つである「交通事故紛争処理センター」への和解あっ旋申立てを利用することとしました。
一方で,期間や負担よりも賠償金額を優先したいという場合は,訴訟での解決を目指すことも有力ではあります。訴訟にも賠償額の減額リスクはあるため,訴訟が必ず経済的にプラスとは言えませんが,獲得し得る最大額は訴訟の方が大きい傾向にあります。

ポイント
相手保険には交渉をする意思が全くない状態であると確認
請求方法を比較検討し,「交通事故紛争処理センター」の手続を利用することに

②過失割合に関する主張

相手保険は好意同乗を理由に被害者の過失を主張していましたが,弁護士の方では過失相殺を受け入れる必要は全くないとの判断に至りました。

そもそも,現在の裁判例では,ただ同乗したというだけで好意同乗を理由とした過失相殺が行われることはまずありません。やはり,単に同乗しているだけで過失だというのは不合理であって,妥当性を欠くという判断が定着しています。

現在,同乗者に好意同乗の過失相殺がなされるケースは,以下のような場合に限られています。

好意同乗減額が生じる場合

1.同乗者が事故発生の危険を増大させる行為をした
2.事故発生の危険が極めて高い状況を知りながらあえて同乗した

上記のように,同乗者を非難できる事情がなければ,好意同乗減額は認め難いところ,本件の被害者にそのような事情は全くなかったため,弁護士からは被害者無過失の主張を一貫して行うこととしました。

ポイント
ただ同乗しただけでは好意同乗減額の対象とはならない
被害者はただ同乗しただけであるから,過失を受け入れるべきでない

③逸失利益の主張立証

逸失利益に関しては,労働能力喪失率の問題になりますが,本件の後遺障害等級との関係における一般論は,以下のように整理できます。

後遺障害と労働能力の一般的な関係

1.脊柱の運動障害(8級)
→労働能力を喪失させることに異論は生じにくい

2.分娩機能障害(11級)
→労働能力に影響するかどうか不明確

3.その他(14級)
→労働能力に一定の影響はし得る

本件の場合,脊柱の運動障害8級と分娩機能障害11級が併合され,7級との認定になっていますが,分娩機能障害の方が労働能力に影響しないのであれば,7級の労働能力喪失率でなく8級の労働能力喪失率を用いるべきでないか,という見解が生じ得るところです。

なお,労働能力喪失率は後遺障害等級によって決まりますが,具体的な喪失率は以下の通りです。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

7級は56%,8級は45%のため,金額に11%の違いが生じる問題点となります。この11%の違いは,本件では400万円以上の差異につながるため,非常に大きな問題点です。

この点,分娩機能障害そのものが将来の労働能力に影響を及ぼすと主張するのは容易でありません。ただ,分娩機能障害を引き起こす股関節の障害は労働能力に一定の影響を及ぼす,との主張を念頭に,より大きい労働能力喪失率を目指すこととしました

ポイント
脊柱の運動障害と分娩機能障害がそれぞれ労働能力に影響するか,という問題
分娩機能障害が直接労働能力に影響するとの主張は容易でない

④解決までの流れ

本件では,交通事故紛争処理センターを利用しましたが,その手続の流れは以下の通りです。

【和解あっ旋】

和解あっ旋を担当する弁護士が双方を仲介する形で,和解に向けた話し合いを行います。一般的には,それぞれの当事者が順番にあっ旋担当弁護士と協議する方法で,あっ旋担当弁護士争点の整理や解決内容に関する話し合いを試みます。

【あっ旋案】

双方の主張が一通り出尽くすと,あっ旋担当弁護士からあっ旋案(和解内容の案)が示されます。双方があっ旋案に同意できれば,その内容で解決となります。
あっ旋案を念頭に,あっ旋案を若干変更した内容で合意に至ることもあります。

【審査】

和解あっ旋手続で解決できなかった場合,当事者の申立てにより審査手続を行ってもらうことが可能です。審査会が当事者双方の主張を踏まえて「裁定」という結論を出します。
申立人である被害者は,この裁定の結果には拘束されませんが,申立人が裁定に同意した場合,相手保険は裁定に従うルールとなっています。そのため,被害者が裁定結果に同意すれば,和解での解決となります。

活動の結果

本件では,交通事故紛争処理センターを利用したところ,相手保険があっ旋案による解決を拒否したため,審査に移行しました。その結果,相手保険の主張する賠償額は約2,140万円でしたが,裁定では約5,420万円という内容になり,約3,280万円の増額となりました。

被害者の過失はゼロを前提とした解決となり,好意同乗による過失相殺はなされませんでした。
また,逸失利益に関する労働能力喪失率は,8級が45%,7級が56%のところ,裁定では労働能力喪失率50%での解決となりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,相手保険が非常に強気に交渉を拒んできた,という特徴のあるケースでした。
相手保険が交渉を拒む対応を取ってくる場合,その対応に合理性があるかないかを判断し,不合理なのであれば毅然とした請求手続を取る必要があります。もっとも,その判断を被害者の方が行うのは容易でないため,速やかな弁護士への相談・依頼が適切なケースだったと言えるでしょう。

実際,相手保険の主張する金額は,最終的な解決金額を遥かに下回るものでしかなく,相手の強気な姿勢に付き合ってしまうと大きな不利益につながってしまうところでした。

法的には,好意同乗減額の主張は根拠に乏しく,一方で労働能力喪失率の主張には一定の合理性があり得る内容でした。そのため,紛争処理センターからどこまでこちらに寄り添った解決案を出してもらえるかは難しいところでもありました。
そんな中,本件の結果は労働能力喪失率を除き全てが当方の請求通りであり,労働能力喪失率も決して不利益ではない数字であったため,バランスの取れた結論に至ったと考えられます。

相手保険の不合理な主張に対して適切な対応を尽くし,適正な結果を引き出せた事例としては,特筆に値するものであったと言えるでしょう。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所