【告訴受理解決事例】SNSで知り合った後,ラブホテルへ同行させられた事件の場合 事件の特徴を踏まえた対応方法を解説

このページでは,実際に告訴の受理に至った解決事例を紹介します。
(プライバシー保護のため,結論に影響しない範囲で一部実際の内容と異なる場合があります)

【このページで分かること】
・実際に告訴受理がなされた事件の内容
・告訴受理に至るための問題点と弁護士の対応
・弁護士による告訴受理のポイント

今回紹介するのは,SNSで知り合い,実際に会うことになった異性から強引に性的関係を求められた事件です。

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事案の概要

SNS上のいわゆるマッチングアプリで知り合った男女の間での事件。被害者は成人女性,加害者は成人男性。

SNSでチャットによるやり取りをした後,一度実際に会うこととなった。被害者の自宅近所に加害者が車で訪れ,近所の飲食店で食事をする予定であった。
当日,予定通りに食事をしたところ,加害者から引き続き一緒にいることを提案され,被害者は了承した。加害者の提案で,加害者の車に同乗し,運転されるがままに移動した。その後,飲食店及び被害者方から相当程度距離のあるラブホテルに駐車され,加害者からラブホテルへの同行を促された。被害者は,自力で帰宅する手段もなく,断ることで加害者に激高されることを防ぐため,応じることにした。

ホテルの客室内では,加害者からキスを迫られたり,乳房を揉まれたりした。被害者は,「まだ早い」「今日はちょっと」などと言ってその場を穏やかにやり過ごそうとしたが,加害者が性的行為をやめることはしなかった。
被害者が加害者から受けた主な行為は,キスされる,乳房を手で触られる,加害者の性器を手で触らされる,といったものであった。被害者は,加害者が性交(性器の挿入行為)を要求するつもりであると理解したため,「(挿入行為は)今回はやめよう」と伝え,挿入に至ることは防いだ

その後,当事者間で若干の会話などをした上で,加害者の車でホテルを出発。被害者方の近所まで移動し,被害者が下車して解散した。

法的問題点

①成立する犯罪

加害者は,被害者の同意なくキスをする,乳房を触る,自分の性器を触らせるといったわいせつ行為に及んでおり,不同意わいせつ罪が成立すると考えられます。

②犯罪の成否に関する問題点

【意思表明が困難な状態にさせられていたか】

不同意わいせつ罪の成立には,一定の事由によって,被害者が「同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあること」が必要とされています。このような状態に乗じてわいせつな行為をした場合に,不同意わいせつ罪が成立します。
本件では,食事の後に両者が合意の上で車での移動をしているため,意思表明が困難な状態にさせていたと言えるのか,問題となり得ます。

【同意の有無】

被害者が加害者と一緒にラブホテルへ入り,客室内では加害者の性的な行為に明確な拒絶を見せなかったため,被害者が加害者との性的行為に同意していたのではないか,との問題が生じる可能性はあります。特に,ラブホテルが性的行為を行うために入る施設である点は,両者合意の上での性的行為であったことの根拠になる,との見解も考えられます。

【加害者の故意の有無】

加害者に不同意わいせつ罪が成立するためには,加害者の故意が必要ですが,その内容は「被害者が同意をしていないと認識しているか,同意していなくても構わないと考えていた場合」と整理することができます。そのため加害者目線では,被害者が同意をしているはずだと認識していた場合,犯罪の故意がないとの判断になる可能性が考えられます。

問題点の解決方法

①【意思表明が困難な状態にさせられていたか】

この問題点については,大きく2つのステップに関する検討を要します。具体的には以下の通りです。

意思表明が困難な状態にさせられていたかを検討するステップ
1.意思表明を困難にする事由があるか
2.意思表明が困難な状態になっていたか

まず,意思表明を困難にする事由は,不同意わいせつ罪を定める刑法に列挙されており,そのいずれかに該当する必要があります。具体的な内容は以下の通りです。

意思表明を困難にする事由
①暴行・脅迫
②心身の障害
③アルコール・薬物の摂取
④睡眠その他意識不明瞭
⑤同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない
⑥予想と異なる事態に直面した恐怖・驚愕
⑦虐待に起因する心理的反応
⑧経済的・社会的影響力による不利益の憂慮

本件では,食事の後,行先も知らないまま加害者の運転する車に同乗し,予期しないままラブホテルに到着した,という経緯があるため,「⑥予想と異なる事態に直面した恐怖・驚愕」に該当することが見込まれます。この要件の具体的内容は,以下のように説明されます。

「⑥予想と異なる事態に直面した恐怖・驚愕」とは
いわゆるフリーズの状態、つまり、予想外の又は予想を超える事態に直面したことから、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失った状態をいいます。

次に,意思表明が困難な状態になっていたか,という点については,少なくとも告訴受理の段階では,意思表明困難という被害者の供述に一定の合理性があれば足りるでしょう。明らかに犯罪が成立しない場合でない限り,告訴の受理を拒むのは法的に問題があるため,被害者の言い分が明らかにおかしい内容でなければ差し支えないと言えます。

ポイント
予想外の事態で意思表明が困難な状況にあった
実際に意思表明が困難であった,との主張は一定の合理性があれば足りる

②【同意の有無】

同意の有無との関係では,同意があった可能性をうかがわせる事情について,その合理的な理由を一つ一つ指摘していくことが肝要です。

本件では,被害者が自らの意思で加害者の車に乗り,一緒にラブホテルへ向かったという点が,被害者の同意の存在を推測させる事情になる可能性が考えられます。一緒にラブホテルへ行くということは,性行為をするつもりであったのではないか,ということです。
もっとも,被害者は行き先を把握しないまま加害者の車に同乗しただけであって,ラブホテルへの同行に同意したというわけではありませんでした。そのため,一緒にラブホテルへ行ったというのは,被害者の意思でそうなったわけではなく,行先がラブホテルであることを加害者から隠されていたからということになります。この場合,結果的に被害者が加害者とともにラブホテルへ移動したとしても,それによって同意があると断じるわけにはいかないでしょう。

また,両者が実際に会うまでのSNS上でのやり取りに,会った際に性行為をする気持ちがあることが見受けられる事情が全くありませんでした。事前に性行為を予定して会う場合には,SNS上で性行為に関するやり取りをしていることがほとんどですが,それが見られなかったという点は被害者に同意がなかったことの根拠になり得る事情と言えます。

以上を踏まえ,被害者が同意をしていなかった可能性が十分あると理解されたことにより,告訴受理が実現したと考えられます。

ポイント
一緒にラブホテルへ行ったことは,同意があったことの根拠になる場合もある
本件の被害者はラブホテルへ行くとは思っていなかった可能性があるため,同意があったとは判断できない

③【加害者の故意の有無】

加害者の目線では,ラブホテルに行こうと思って車に乗ることを提案したところ被害者が応じ,ラブホテルに到着した後も被害者がその場を去るなどしなかったことから,被害者が同意しているものと誤解した可能性があるか,問題になり得るところです。

この点,以下のような事情が見受けられます。

・移動前
加害者は事前にラブホテルへ行くつもりであることを告げていないため,被害者がラブホテルへの同行を承諾していない可能性は十分に把握できたはずです。

・到着後
被害者方から距離のあるラブホテルへ連れて行ったのは,被害者に断りづらい状況を作る意味があった可能性があり,被害者が断れなかったからといって加害者が誤解するとは限りません。

・客室内
被害者はキスされたり乳房を触られたりすることを嫌がっており,少なくともその時点で被害者に同意がないと分かった可能性があるはずです。

以上を踏まえると,加害者に故意があった可能性も十分にあり得る内容と考えるべきであって,加害者の故意が認めづらいことを理由に告訴受理を拒むことは不合理と言えます。

結果

警察に告訴が受理された結果,加害者に対する捜査が実施されるに至りました。

弁護士によるコメント

マッチングアプリで知り合った男女の場合,性行為を前提に会うケースも少なくないため,被害者の希望する告訴が適切な告訴なのか,犯罪の問題でなく当事者間の感情的なトラブルに過ぎないのか,という点は慎重な判断になりやすいところです。
特に本件では,ラブホテルに同行しているという事情があり,ホテル内でケンカをしただけである場合との区別も必要だったと思われます。

この点,事前に性行為を想定したやり取りがなかったこと,当日も被害者がラブホテルに移動するとは思っていなかった可能性があること,客室内でも嫌がる動きを見せ,結局性交(=性器の挿入行為)に至らなかったことなど,犯罪である可能性を示す根拠を積み上げることによって,告訴の受理に至ったと考えられます。

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【告訴受理解決事例】職場の飲み会後,車内で性的被害に遭った事件の場合 法的問題点や解決方法を弁護士が解説

このページでは,実際に告訴の受理に至った解決事例を紹介します。
(プライバシー保護のため,結論に影響しない範囲で一部実際の内容と異なる場合があります)

【このページで分かること】
・実際に告訴受理がなされた事件の内容
・告訴受理に至るための問題点と対応
・弁護士による告訴受理のポイント

今回ご紹介するのは,車内で勤務先の異性からわいせつ被害に遭った事件です。

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事案の概要

職場の関係者で行われた飲み会の後,会社の先輩に当たる加害者から性的行為の被害を受けた事件。被害者は成人女性,加害者は成人男性。

被害者及び加害者を含む多数人での飲食後,少人数での二次会に移るなどしながら,被害者と加害者両名が同席しての飲食を継続していた。
最後の飲食の後,被害者と加害者は業務用ワゴン車内で休憩することにし,被害者が後部座席,加害者が前部座席でそれぞれ仮眠を取った。

仮眠中,前部座席にいた加害者が後部座席に移り,被害者にキスを迫る,身体を触るなどの行為をし始めた。被害者は,突然のことに抵抗できず,加害者のなすがままにされていた。
その後,加害者の行為がエスカレートし,抵抗しない被害者の女性器に手指を挿入してきた。被害者は,被害の拡大を避けるため,やむを得ず拒絶しなかった。

法的問題点

①成立する犯罪

被害者の同意なく性的な行為をすることは,不同意わいせつ罪又は不同意性交等罪の対象となる可能性が考えられます。一般的に,不同意わいせつ罪よりも不同意性交等罪の方が重大事件であり,重い刑罰の対象になることが見込まれます。

この点,女性器に手指を挿入する行為は,不同意性交等罪が成立要件である「性交等」に該当するため,本件は不同意性交等罪に該当することが考えられます。

②犯罪の成否に関する問題点

【「性交等」の有無】

加害者が被害者に行ったとされる各行為については,客観的な証拠がなく,被害者の供述のみがほぼ唯一の証拠となることが見込まれる状況であったため,被害者の主張する「性交等」が本当に存在したのか,問題となる可能性が考えられます。

【同意の有無】

被害者が加害者の行為に対して抵抗しなかったため,被害者が性交等について同意していたのではないか,という問題意識が出てくる可能性が考えられます。女性器への手指の挿入にも抵抗することなく応じている点は,被害者が同意していないと起きない出来事ではないか,との見解が生じ得ると考えられます。

【加害者の故意の有無】

加害者に不同意性交罪が成立するためには,加害者の故意が必要ですが,その内容は「被害者が同意をしていないと認識しているか,同意していなくても構わないと考えていた場合」と整理することができます。そのため加害者目線では,被害者が同意をしているはずだと認識していた場合,犯罪の故意がないとの判断になる可能性が考えられます。

特に,加害者に故意があったかどうかは被害者の供述だけでは分からないことも多く,被害者の言い分を根拠に犯罪の成立を認められるかどうかは非常に難しい問題になり得ます。

問題点の解決方法

①【「性交等」の有無】

「性交等」の有無は,どうしても被害者の供述を根拠とせざるを得ません。もっとも,告訴受理のためには,被害者の供述内容が存在したと立証することは必要なく,その存在が疑われる状況にあれば十分と言えます。なぜなら,実際に立証できるかどうかは,まさに告訴を受理した後捜査すべき事柄であるためです。
そのため,被害者側としては,明らかに犯罪事実(=性交等)がないという判断は不適切である,ということができれば足り,そのために対応を尽くすべきということになります。

この点の解決は,事件の内容に関する被害者の供述を,できる限り具体的に,かつ詳細にするのが非常に有効です。その結果,被害者の供述内容が真実であっても全く違和感はないと捜査機関に納得してもらえれば,告訴の受理ができないという判断にはなりづらいでしょう。

本件では,前部座席にいた加害者が後部座席に移動してきてから,一方的にキスを迫り始め,やがて行為がエスカレートし,最終的には手指の挿入まで至った,という一連の経緯について,具体的かつ詳細に説明をすることで,捜査機関の理解を得ることができました。そのような臨場感あふれる供述は,体験をした人物でなければできない可能性が十分にある,と評価された結果であると考えられます。

ポイント
性交等の根拠は被害者の供述のみにならざるを得ない
被害者の供述が真実である可能性が一定程度あれば足りる
詳細かつ具体的で,体験しなければ供述できない内容であることにより解決

②【同意の有無】

同意の有無との関係では,同意があった可能性をうかがわせる事情について,その合理的な理由を一つ一つ指摘していくことが肝要です。

本件では,被害者が特に抵抗する様子を見せなかった,という点が,被害者の同意の有無について疑問の生じ得る要素になり得ます。同意をする意思がないのであれば,最初から抵抗しているはずではないか,ということですね。
もっとも,抵抗をしなかった理由は,必ずしも同意していたからというのみではありません。実際,本件の被害者としては,男女の力の差を踏まえると,逃げ場のない車内で無闇に抵抗する方がより大きな被害を受ける可能性があると考えてのことでした。
告訴の受理に際しては,同意していなかったという被害者の主張が明らかに不合理でなければ足りるところです。事件当時の流れや被害者の挙動を踏まえて,確かに大きな被害を避ける目的でやむを得ず抵抗しなかった可能性もある,という理解をしてもらえた点が,告訴の受理につながったと考えられます。

また,密室内での行為については,自らの意思で密室まで同行したという事実が,被害者の同意を裏付ける事情と評価される可能性がありますが,本件では現場となった車内に被害者と加害者以外の人物もおり,決して二人きりの密室に同行したわけではない,という点も評価の対象になったことが考えられます。

ポイント
同意があった可能性をうかがわせる事情について,実際の理由を理解してもらえるかが問題
抵抗をしなかったのは同意していたからではない,と十分に説明することが肝要
密室での行為の場合,密室内に他の人物もいた点は評価の対象になる

③【加害者の故意の有無】

加害者に故意があったかなかったかは,被害者には確実な主張立証が困難なところです。
もっとも,そもそも加害者の故意を被害者が立証する必要はなく,立証できるかどうかは捜査の結果判断されるべき事柄です。最終的に故意が立証できることすらも必要ありません。
告訴は,犯罪の立証を捜査機関に求める手続であるため,犯罪の合理的な疑いが存在すれば足りるでしょう。

本件では,確かに加害者に故意がない(=被害者が同意していると誤解していた)可能性はありますが,故意がある(=被害者が同意していないこと,又はその可能性を認識していた)可能性も十分にあり得ます。犯罪の疑いとしては,その可能性が合理的に認められれば十分です。
したがって,加害者に故意があったかどうかという点は,本来,告訴の受理に影響を及ぼすべきでないと考えるのが適切でしょう。

ただし,被害者が積極的に加害者を誤解させる行動を取った場合など,明らかに加害者が誤解しているであろう場合には,告訴の受理に問題の生じることが考えられます。本件ではそのような事情のないことを確認の上,告訴の受理に至ったものと考えられます。

ポイント
故意があったことが立証できる必要はない
故意があった可能性があれば足りる
被害者が積極的に加害者を誤解させた事実がない,という点は必要

結果

警察に告訴が受理された結果,加害者に対する捜査が実施されるに至りました。

弁護士によるコメント

本件では,職場の関係者という交友関係を持つ間柄での事件であったため,単なる交際関係のトラブルなのか,犯罪に当たる事件なのか,という点は問題になり得るところでした。
この点,被害者と加害者の間には職場の先輩後輩という以上の深い関係はなく,男女関係のもつれに警察を巻き込もうとした事件ではないと理解してもらうに至ったことが,円滑な告訴の受理につながりました。

また,従前から加害者が被害者に一方的な好意を寄せていた可能性をうかがわせる事情も多数あり,その事情を具体的に積み上げることで,加害者が自身の性的欲求を被害者にぶつけた事件であるという全体像を明確にできた点も,非常に有益なポイントであったと言えるでしょう。

密室内での性犯罪は,客観的な証拠に乏しい場合が非常に多いため,告訴受理の上で捜査に踏み切ってもらうことに一定のハードルが生じやすい傾向にありますが,弁護士とともに適切な対応を尽くすことで,被害者の方の負担をできるだけ軽減しながら告訴受理を実現することが容易になるでしょう。

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告訴の意味や方法,告訴と被害届・告発との違い,告訴を選択すべき場合や弁護士依頼すべき場合など,弁護士が徹底解説

●告訴とは何か?被害届とは違うのか?

●告訴と告発は何が違うか?

●告訴を選択するべき場合は?

●告訴を受理してもらえないことがある?

●告訴するとどうなるのか?

●告訴を取り下げることはできるか?

●告訴するときには弁護士に依頼すべきか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,犯罪被害を受けた場合の告訴についてお困りの方へ,告訴の意味や内容告訴を試みる場合の方法や注意点などを解説します。

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告訴とは

告訴とは,以下のように定義されています。

告訴とは
被害者その他一定の者が,捜査機関に対して,犯罪事実を申告し犯人の訴追を求める意思表示

①告訴できる人(主体)
主な告訴権者は,以下の通りです。

主な告訴権者
・被害者
・被害者の法定代理人(親権者・後見人)
・被害者死亡の場合はその親族(配偶者・直系親族・兄弟姉妹)

②告訴の内容

・犯罪事実を申告すること
・犯人の訴追を求めること

告訴と被害届の違い

告訴と被害届は,いずれも捜査機関に犯罪事実を申告する手続ですが,以下のような違いが挙げられます。

①申告する内容

被害届は,捜査機関に犯罪の事実を申告するものですが,それ以上に何かを求める意思表明が含まれた手続ではありません。文字通り,被害を届けるのみの手続となります。

一方,告訴の場合,犯罪事実を申告するとともに犯人の訴追(処罰)を求める意思表示が含まれます。犯人の処罰を求めない告訴はあり得ず,告訴がある以上は被害者が処罰を希望していると理解されます。

②捜査義務の有無

捜査機関が告訴を受理した場合,捜査を開始しなければなりません。警察等に捜査を尽くす義務が発生するとされている点で,告訴により捜査義務が生じると言われます。

一方,被害届にはそのような定めがなく,被害届を受理した後に捜査を行うかどうかは捜査機関の判断となります。少なくとも法的には,被害届の受理後に捜査を開始しなかったとしても問題ないということになります。

③処分結果の通知義務の有無

告訴された事件について,検察官が起訴又は不起訴の処分をした場合,検察官から告訴人にその処分結果が通知されます。検察官がこの通知をしなければならないという点で,告訴には処分結果の通知義務があると言われます。
また,告訴人がその理由の通知を求めた場合には,理由を告げる義務も発生します

一方,被害届については,処分結果の通知に関する定めはありません。現実的には何らかの形で通知する方が通常ではありますが,通知がなかった場合でも法的な問題はないことになります。

④親告罪における処分

親告罪とは,起訴をするために告訴を要する事件をいいます。
代表例は器物損壊罪や名誉棄損罪ですが,被害者が起訴を望まない限り起訴する必要のない事件や,被害者の意向に反して起訴した場合に被害者のプライバシーなどを侵害する可能性がある事件では,告訴がなければ起訴ができないとのルールが定められています。

告訴がなければ親告罪の起訴はできませんが,被害届がなくても親告罪の起訴は可能です。

⑤期間制限

告訴については,期間制限の生じることがあります。
具体的には,親告罪(告訴がなければ起訴できない事件)の場合,原則として「犯人を知った日から六箇月」以内に告訴を行う必要があります
なお,非親告罪については,告訴期間の制限はありません。

一方,被害届には提出期限の定めはありません。被害届というもの自体が法律に定められた書面ではないため,その提出期限も特に決まっていない,ということになります。

ポイント 被害届と告訴の違い
内容:告訴には犯人の訴追を求める意思表示が含まれる
捜査義務:告訴にのみ捜査義務がある
通知義務:告訴にのみ起訴不起訴の通知義務がある
親告罪:起訴するためには告訴が必要。被害届は不要
期間制限:親告罪の告訴に期限がある。被害届にはない

告訴と告発の違い

告発とは,以下のように定義されています。

告発とは
告訴権者や犯人でない第三者が,捜査機関に対して犯罪の事実を申告し,犯人の訴追を求める意思表示

企業による犯罪について,その従業員が公益保護のために行う場合などが代表例です。

告訴と告発には,以下のような共通点と相違点があります。

【共通点】

犯罪事実の申告と犯人の訴追を求める意思表示であること
②捜査機関に捜査義務が発生すること
③起訴不起訴処分の通知義務が発生すること

【相違点】

①行う主体
告訴:被害者や法定代理人,遺族
告発:被害者及び犯人を除く第三者

②親告罪の取り扱い
告訴:なければ起訴不可
告発:なくても起訴可

告訴を選択すべき場合

被害者が捜査機関に犯罪事実を申告する場合,被害届を提出するか告訴を行うか,という選択肢が生じますが,告訴を選択すべき場合としては以下のケースが挙げられます。

①捜査機関に放置されている場合

被害届を提出しても捜査義務は発生しないため,捜査機関に十分な捜査がなされないまま,放置されたような状態が継続する可能性もあります。捜査機関側にも多忙などの事情があり,事件の優先順位を設ける必要がありますが,内部的に優先順位が低くされた結果,被害者目線では事件が放置されているように映ることが多数見られます。

このような場合には,捜査の優先順位を改めてもらい,多忙な捜査機関に放置されないようにするため,捜査義務のある告訴を選択することが有力な選択肢になるでしょう。

②処罰を求める意思をより強く表明したい場合

事件の最終的な処分には,被害者の処罰感情(加害者の処罰を希望するかどうかの気持ち)が強く反映される傾向にあります。被害者が加害者を処罰しないよう希望すれば,加害者は処罰されない可能性が非常に高くなり,逆に処罰を希望する場合には加害者が処罰される可能性が高くなります。

そのため,被害者の立場としては,処罰感情をより明確にするため,加害者の処罰を求める意思を強く表明することが有力な手段となり得ます
告訴は,被害届と異なり犯人の訴追を求める意思表示を内容とするものであり,一般的に被害届よりも強い処罰感情の表明と理解されるものです。より強く処罰感情を示したい場合には,告訴を選択することが有益でしょうお。

③親告罪の場合

親告罪では,告訴をしなければ加害者が起訴される可能性がありません。そのため,被害届では不十分であり,告訴を選択する必要があります。
もっとも,親告罪であれば,捜査機関から告訴に関する案内がなされるのが通常です。捜査機関の案内に沿って対応すれば,問題の生じることは考えにくいところです。

④弁護士に依頼する場合

告訴を選択する場合の問題としては,その手続の煩雑さ,面倒さが挙げられます。被害届と異なり,より積極的に動く必要のある手続のため,比較的負担の大きな手続となることから,これを避けるために被害届を選択する場合があり得るでしょう。
また,警察の立場では,いずれの方法でも捜査を行うつもりである場合,被害届を選択してくれた方が法的な義務や負担がなく動きやすいため,警察は被害者に対して被害届を選択するよう促すことが多いと思われます。

もっとも,弁護士に対応を依頼する場合には,負担のある手続や警察とのやり取りを弁護士に任せられるため,心配なく告訴を選択することができます。捜査機関の対応を求めるという意味では,告訴が被害届に劣る要素はないので,負担なく告訴が選択できるのであればその方が適切でしょう。

ポイント 告訴を選択するメリット
捜査の放置を防げる
処罰感情をより明確に表明できる
親告罪を起訴してもらえる
弁護士に依頼すれば負担がなくなる

告訴を受理してもらえない場合

告訴は,被害届と比べて受理のハードルが高い傾向にあり,特に弁護士に依頼せず自分で行う場合には,受理を拒まれる場合が少なくありません。
告訴の受理が拒まれるケースとしては,以下のものが考えられます。

①犯罪が成立しない場合

明らかに犯罪が成立しない内容であると,告訴が受理されないことが見込まれます

もっとも,内容が軽微である,証拠がないなど,「処罰に至らない可能性ある」というのみでは,告訴を不受理とするのは問題があるでしょう。処罰されるかどうかは,告訴を受理する段階で判断する事柄ではなく,捜査を尽くした結果,検察庁や裁判所で判断されるべきものであるためです。

②金銭問題(民事事件)の交渉道具とする場合

形式は犯罪捜査を求めているように見えても,実際は当事者の金銭問題の交渉道具にするための告訴である場合には,告訴が受理されないことがあり得ます
警察は個人間の紛争には介入しないという,「民事不介入」の原則がその根拠になるところです。

もっとも,金銭問題の交渉道具としての告訴かどうかは,第三者から容易に判断できるものではないため,このような理由での告訴の不受理は不適切である場合も少なくないでしょう。
例えば,金額以外の示談条件は合意したが加害者が金額面で歩み寄ってくれない,という経緯での告訴など,交渉道具であることが明らかな場合には,告訴を受理しない対応も不合理とは言い難いところです。もっとも,そのような事情がないにもかかわらず「個人の争いだから民事不介入」とするのは不当である可能性が高いでしょう。

なお,被害者が加害者に金銭を請求したいと考えていたとしても,それによって告訴が受理されなくなるわけではありません。捜査や処罰を求める意思と,金銭賠償を求める意思は十分に両立し得るためです。

③当事者間で示談見込みの場合

犯罪事実の存在する可能性のあるものの,当事者間で示談が見込まれる状況にある場合,加害者の訴追を求める意思があるか不明確であるとの理由で告訴の受理を控えられることがあり得ます。

この場合,実際に示談が見込まれる状況なのか,示談でなく捜査や処罰を求めたいのか,という点を事前に明確にすることが望ましいでしょう。また,示談という言葉は一人歩きしやすいため,あまり安易に「示談予定」「示談中」などという言葉を捜査機関に告げない方が望ましいでしょう。

④犯罪事実の特定が困難な場合

犯人や犯罪の内容が特定できず,犯罪事実の特定に至らない場合です。犯罪であるかどうかわからない内容については,告訴の受理が困難であると判断されることがあり得ます。

このような問題は,事件が法的に整理できていないことに原因のある場合が多く,被害者本人が行う場合に特有のものです。つまり,被害者は事件内容をありったけ伝えたものの,捜査機関との間で話が整理できず,どの部分がどんな犯罪に当たるのか分からない,という場合に生じやすいところです。

事件の内容や経緯が複雑で,簡潔な説明が困難な場合には,事件を法的に整理して伝えることが適切です。具体的な対応は弁護士に依頼するのが円滑でしょう。

ポイント 告訴不受理の主なケース
犯罪に当たらない
金銭交渉の道具に過ぎない
既に示談が見込まれている
犯罪に当たる事実が特定できない

告訴を取り下げられるか

一度行った告訴は,告訴の取消という手続で取り下げることが可能です。

告訴を取り消した場合,告訴がなかったのと同じ状況になるため,親告罪では起訴される可能性がなくなり,非親告罪でも犯人の処罰を求める意思がなかったという扱いになります

この点,告訴の取消について注意すべき点としては,以下の事項が挙げられます。

①取消の時期

告訴の取消は公訴提起(起訴)前に限られます。告訴の取消は,処罰を求める意思が後から消滅した,ということをその後の手続に反映するための処理ですが,起訴されてしまうと,告訴の取消を反映して不起訴にすることができなくなるためです。

②取消の回数

刑事訴訟法上,告訴の取消がされた場合,同一の事件でさらに告訴することができません。そのため,告訴の取消は,再度の告訴ができないことを前提に判断するのが適切です。

なお,再度の告訴ができないという刑事訴訟法の定めは,親告罪に対するものと理解されています。そのため,非親告罪であれば再度の告訴も不可能ではないと考えられます。もっとも,現実的には困難であることがほとんどなので,やはり再度の告訴はできないとの前提で検討すべきでしょう。

告訴は弁護士に依頼すべきか

告訴は,捜査機関に法律上の義務を負わせる手続でもあるため,被害者の方自身が容易に行えるものではありません。警察から求められて行う場合は別ですが,自ら積極的に告訴を試みる場合,必要な説明やできる限りの証拠の提出は,被害者側の負担と判断で行う必要があり,適切な対応には専門的な判断が必要になるでしょう。

また,告訴は行うことがゴールでなく,行ってからがむしろスタートであるとも言えます。告訴はあくまで犯罪被害からの救済を受けるための最初の動きであって,最終的に希望の結果に至るためには,その後も継続的な対応を要します加害者の刑事処罰や加害者からの金銭賠償など,個別の対応も含めて弁護士への依頼が適切でしょう

犯罪被害に強い弁護士をお探しの方へ

告訴は,被害届と並んで犯罪被害者が警察の捜査を求めるときに取り得る手段ですが,捜査機関に法的な義務が生じる手続のため,警察側も安易には受け付けられないという事情があります。
そのため,告訴を行う場合には,警察をしっかり味方に付けられるよう,適切な方法・内容で行うべきであり,必要に応じて弁護士と一緒に行うことをお勧めいたします。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所は,刑事事件の経験豊富な弁護士が,専門的な知識・経験を踏まえて,犯罪被害にお悩みの方への最善のサポートを提案することができます。
お困りの際はお気軽にお問い合わせください。

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