過失運転致傷の罰金はいくら?相場と処分の目安

交通事故で人にケガをさせてしまった場合、「過失運転致傷」として刑事責任を問われることがあります。その際、多くの方がまず気になるのが、罰金はいくらになるのか、また前科がつくのかといった点ではないでしょうか。

過失運転致傷の罰金は、法律で上限が定められている一方、実際の金額は事故の内容や対応状況によって幅があります。さらに、罰金とは別に、違反点数や免許処分といった行政上の不利益が生じることもあります。

この記事では、過失運転致傷の罰金について、法定刑の考え方や実務上の相場、金額に影響する要素を中心に整理します。あわせて、前科との関係や示談が処分に与える影響など、判断にあたって押さえておきたいポイントを、弁護士の視点から解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

過失運転致傷とは?罰金が科される事故の基本

過失運転致傷とは、自動車を運転する中で注意が十分に行き届かず、その結果として他人にケガをさせてしまった場合に成立する犯罪です。問題となるのは、危険な運転をしようとしたかどうかではなく、運転者として求められる注意を尽くしていたかという点です。

ここでいう「過失」とは、前方への注意が足りなかった、安全確認が不十分だった、状況に見合った速度で走行していなかったなど、日常的な運転場面で起こり得る不注意や判断のずれを指します。特別に乱暴な運転でなくても、結果として人にケガを負わせてしまえば、過失運転致傷に該当することがあります。

また、「致傷」とされるケガの程度についても誤解されがちです。過失運転致傷は、入院を要するような重いケガに限られません。通院が必要となる程度の比較的軽いケガであっても成立する点には注意が必要です。

過失運転致傷が成立した場合には、刑事責任が問題となり、処分として罰金刑が科される可能性があります。法律上は、罰金刑のほかに拘禁刑が定められていますが、実際にどの処分が選択されるかは、事故の内容やその後の対応など、さまざまな事情を踏まえて判断されます。

このように、過失運転致傷に当たるかどうかや、どのような処分が想定されるかは、事故の状況ごとに個別に判断されます。罰金の金額や処分の重さを考える前提として、まずはこの基本的な位置づけを押さえておくことが大切です。

過失運転致傷で罰金になるケースは、刑罰を受ける中では比較的軽微な事件と評価されたものです。弁護活動の際、罰金を目指すことも珍しくはありません。

過失運転致傷の罰金はいくら?法定刑と処分の枠組み

過失運転致傷が成立した場合、刑事処分としてどのような罰が科されるのかは、多くの方が最初に気になる点です。法律では、過失運転致傷に対する処分として、拘禁刑または罰金刑が定められています。

法定刑としては、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が規定されています。ただし、これはあくまで法律上認められている処分の幅を示したものであり、実際にどの処分が選択されるかは、事故の内容や経緯を踏まえて判断されます。

実務上は、すべての事案で拘禁刑が問題になるわけではありません。過失の程度が比較的軽く、被害者のケガが軽傷にとどまる場合や、事故後の対応に大きな問題がない場合には、罰金刑によって処理されるケースが多いのが実情です。この場合、多くは通常の裁判を開かず、略式命令によって罰金の支払いが命じられる形で手続が進みます。

一方で、事故の態様が悪質と評価される事情がある場合には、処分の重さも変わってきます。たとえば、著しい速度超過や信号無視など、事故との因果関係が強い過失が認められる場合や、被害者のケガが重い場合には、罰金では足りないとして、正式な裁判で処分内容が検討されることもあります。

また、事故後の対応も処分判断に影響します。救護措置や警察への連絡が適切に行われているか、被害者への対応が誠実であったかといった点は、罰金で足りるかどうかを判断するうえで考慮される事情の一つです。これらの事情によっては、同じ過失運転致傷であっても、処分の方向性が分かれることがあります。

このように、過失運転致傷の処分は一律に決まるものではなく、法定刑の枠内で、個別の事故状況や対応を踏まえて選択されます。罰金が科されるかどうかを考える際には、金額だけでなく、この処分構造全体を理解しておくことが重要です。

実際の罰金相場はどの程度か

過失運転致傷の罰金については、「結局いくらになるのか」という点が最も気になるところですが、あらかじめ一律に決まった金額はありません。罰金は、事故の内容や経緯、被害の程度などを踏まえて判断されるため、まずは実務上の傾向として相場感を押さえることが重要になります。

一般的には、被害者のケガが軽く、通院期間も比較的短いケースでは、数十万円程度の罰金にとどまることが多いとされています。たとえば、打撲や軽度のむち打ちなどで、日常生活への支障が限定的な場合には、罰金額も比較的抑えられる傾向があります。

一方で、通院期間が長期に及んだ場合や、入院を要するケガが生じた場合には、罰金額が高くなる可能性があります。また、骨折や後遺障害が残るような事案では、罰金では足りないとして、処分全体がより重く検討されることもあります。

もっとも、「軽傷だから必ず低額」「重傷だから必ず高額」と機械的に決まるわけではありません。同じ程度のケガであっても、事故の態様や過失の内容、事故後の対応によって評価は変わります。そのため、相場はあくまで目安であり、個別の事案ごとに金額が決まるという点は押さえておく必要があります。

また、罰金相場を考える際には、略式命令による処理が多いという実務の特徴も踏まえる必要があります。略式命令の場合、裁判所が書面審理を行い、罰金額を定めますが、その判断にあたっては、警察や検察が把握している事故状況や被害の内容が重視されます。このため、事故後の対応や供述内容が、間接的に罰金額に影響することもあります。

このように、過失運転致傷の罰金相場は幅をもって考える必要があります。数十万円程度が一つの目安となることは多いものの、最終的な金額は、事故ごとの事情を総合的に見たうえで判断されるという点を理解しておくことが大切です。

罰金額に影響する判断要素(軽くなる・重くなる事情)

過失運転致傷の罰金額は、ケガの有無だけで決まるものではありません。実務では、事故の結果に加え、事故に至る経緯やその後の対応など、複数の事情を総合して判断されます。ここでは、罰金額に影響しやすい代表的な要素を整理します。

まず重要となるのが、被害者のケガの程度や治療期間です。通院回数が少なく、比較的短期間で回復している場合と、長期の通院や入院を要する場合とでは、評価に差が生じます。後遺障害が残った場合には、結果の重大性が考慮され、罰金額が高くなる、あるいは罰金以外の処分が検討されることもあります。

次に、運転者の過失の内容も重要な判断材料となります。前方不注視や安全確認不足といった過失であっても、その程度や事故との関係性によって評価は異なります。特に、信号無視や著しい速度超過など、事故の発生に直結する過失が認められる場合には、処分が重くなる傾向があります。

また、事故後の対応も罰金額に影響します。事故直後に救護措置を行い、警察への通報を適切に行っているか、被害者に対して誠実な対応をしているかといった点は、処分判断の際に考慮されます。反対に、対応が不十分であったり、不誠実と受け取られる事情がある場合には、不利に評価されることがあります。

さらに、被害者との示談の有無も無視できません。示談が成立している場合には、被害回復が図られている事情として考慮されることがあります。ただし、示談が成立していれば必ず罰金が軽くなるわけではなく、他の事情とあわせて判断されます。

このほか、前科や前歴の有無も影響する要素の一つです。過去に交通事故や交通違反による処分歴がある場合には、同種事案として評価され、処分が重くなる可能性があります。

このように、過失運転致傷の罰金額は、単一の基準で決まるものではなく、個別事情を積み重ねて判断されます。相場や金額だけでなく、どのような点が評価されるのかを理解しておくことが重要です。

罰金でも前科はつく?略式命令と不起訴の違い

過失運転致傷について、「罰金で済んだ場合でも前科が付くのか」という点は、多くの方が不安に感じるポイントです。この点を理解するためには、略式命令と不起訴の違いを正しく押さえておく必要があります。

過失運転致傷で罰金となる場合、実務上は略式命令という手続が用いられることが少なくありません。略式命令は、通常の裁判(公判)を開かず、書面による審理によって、裁判所が罰金の支払いを命じる手続です。
このため、公判による判決ではありませんが、犯罪の成立を前提として裁判所が刑罰を科す処分である点に変わりはありません。

その結果、略式命令によって罰金が科された場合には、刑事処分として前科が付く扱いになります。「裁判をしていないから前科にならない」というわけではない点には注意が必要です。

これに対して、不起訴となった場合は事情が異なります。不起訴とは、検察官が裁判にかけないと判断する処分であり、有罪か無罪かの判断自体が行われません。そのため、不起訴となった場合には前科は付きません

もっとも、どちらの処分になるかは自動的に決まるものではありません。事故の内容や被害の程度、事故後の対応、被害者との示談の有無など、さまざまな事情を踏まえて判断されます。その結果として、略式命令による罰金となる場合もあれば、不起訴とされる場合もあります。

このように、前科が付くかどうかという点では、罰金と不起訴とでは意味合いが大きく異なることになります。処分の重さを考える際には、金額だけでなく、その法的な位置づけにも目を向けることが重要です。

過失運転致傷の罰金と違反点数・免許処分の関係

過失運転致傷では、罰金といった刑事上の処分とは別に、運転免許に関する行政上の処分が行われることがあります。この二つは目的や考え方が異なり、罰金と免許処分はそれぞれ独立して判断されます。そのため、罰金を支払えば免許の問題が解決する、あるいは免許処分を受けたから刑事上の責任が軽くなる、という関係にはありません。

まず、罰金は刑事手続の中で問題となる処分であり、事故について刑事責任を問う観点から、裁判所が科すかどうかを判断します。事故の内容や過失の程度、被害者のケガの状況、事故後の対応などを踏まえ、罰金刑で足りるのかが検討されます。これに対し、違反点数の加算や免許停止・免許取消といった措置は、交通の安全を確保するという行政目的のもと、法令や基準に基づいて行政機関が行う行政処分です。

このため、罰金を支払っても違反点数が消えることはありません。また、行政処分として免許停止や免許取消を受けた場合であっても、刑事手続とは別に、罰金が科されることがあります。刑事処分と行政処分は、同じ事故をきっかけとして行われる場合であっても、判断の枠組みが異なる制度です。

過失運転致傷における違反点数は、被害者のケガの程度や治療期間などを基準として定められます。通院期間が短い軽傷の場合と、長期間の通院や入院を要する場合、後遺障害が残る場合とでは、加算される点数に差が生じます。加算された点数が一定の基準に達すると、免許停止や免許取消といった処分につながる可能性があります。

さらに、過去に交通違反や交通事故による処分歴がある場合には、同じ事故内容であっても、免停期間が長くなるなど、行政処分が重くなることがあります。これは、過去の違反歴を踏まえて再発防止の観点から評価されるためです。行政処分は、一定の通知や手続を経て行われますが、刑事手続とは進行の時期がずれることも多く、先に免許処分の通知が届く場合もあれば、後から行われる場合もあります。

このように、過失運転致傷では、罰金だけで手続がすべて終わるとは限りません。刑事上の処分と行政上の処分は性質が異なるため、罰金の見通しだけでなく、違反点数や免許への影響も含めて全体像を把握しておくことが重要です。

示談は罰金にどのような影響を与えるか

過失運転致傷では、被害者との示談が処分にどのような影響を与えるのかを気にする方が多く見られます。結論から言うと、示談は罰金の判断に影響する重要な要素の一つではありますが、示談さえ成立すれば必ず処分が軽くなる、あるいは罰金が科されなくなる、という関係ではありません。

示談とは、事故によって生じた損害について、当事者間で解決する合意を指します。過失運転致傷の事件では、治療費や慰謝料などについて示談が成立しているかどうかが、被害回復の状況として考慮されることがあります。実務上も、被害者の理解が得られている事情は、処分判断の際に一定の意味を持ちます。

もっとも、示談はあくまで数ある判断要素の一つにすぎません。事故の態様や過失の内容、被害者のケガの程度が重い場合には、示談が成立していても、罰金が科されることがあります。特に、治療期間が長期に及ぶ場合や、後遺障害が残るような事案では、示談の有無だけで処分が左右されるわけではありません。

また、示談の成立時期も重要です。捜査や処分判断が進んだ後に示談が成立した場合と、比較的早い段階で示談が成立している場合とでは、評価のされ方が異なることがあります。早期に示談が成立している場合には、被害回復に向けた姿勢として考慮されやすい一方、処分直前になってからの示談では、影響が限定的にとどまることもあります。

さらに注意したいのは、示談は刑事処分と行政処分の双方に同じ影響を及ぼすわけではないという点です。示談が成立した結果、刑事手続において罰金が軽くなる可能性があるとしても、違反点数や免許処分といった行政上の扱いが自動的に変わるわけではありません。行政処分は、事故の結果や基準に基づいて別途判断されます。このように、示談は過失運転致傷における処分判断の中で重要な位置を占めますが、示談が万能な解決策になるわけではありません。罰金への影響を考える際には、示談の有無だけでなく、事故全体の事情を踏まえて考える必要があります。

過失運転致傷の場合、自動車保険が被害者への支払を行い、金銭面の示談は保険が進めてくれることも多いです。しかし、被害者の許し(宥恕)を獲得してくれるわけではないので、その点は別途示談を取り付ける必要があります。

罰金以外に注意すべき処分と事故後の流れ

過失運転致傷では、罰金の金額だけに目が向きがちですが、実際にはそれ以外にも注意しておきたい点があります。事故後は、刑事手続・行政手続・民事上の対応がそれぞれ並行して進むことが多く、全体像を把握しておかないと、想定外の不利益が生じることがあります。

まず、刑事手続の流れとしては、事故の発生後、警察による捜査が行われ、検察官が処分を判断します。その結果として、略式命令による罰金となる場合もあれば、不起訴となる場合もあります。いずれの場合でも、処分が決まるまでには一定の期間を要するのが一般的です。

一方で、運転免許に関する行政処分は、刑事手続とは別の基準で進められます。そのため、罰金の結論が出る前に、免許停止などの行政処分が先に行われることも珍しくありません。時期が前後することで、「すでに処分は終わった」と誤解してしまうケースもありますが、手続は別々に進行します。

また、事故によって被害者に損害が生じている場合には、治療費や慰謝料などの民事上の問題も発生します。示談が成立するかどうかは、刑事処分や処分の重さに影響することがありますが、民事上の責任そのものが自動的に解消されるわけではありません。保険会社とのやり取りも含め、慎重な対応が必要になります。

このように、過失運転致傷では、罰金だけで問題が完結することは少ないのが実情です。刑事処分、行政処分、民事上の対応がそれぞれどの段階にあるのかを整理し、事故後の流れを把握しておくことが、不要な不安や誤解を避けることにつながります。

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過失運転致死で執行猶予はつく?判断基準と実刑回避のポイント

交通事故によって人を死亡させてしまった場合、「過失運転致死」として刑事責任を問われることがあります。このような事件で多くの方が最も不安に感じるのが、実刑になるのか、それとも執行猶予が付くのかという点ではないでしょうか。

過失運転致死は死亡事故である以上、決して軽い事件ではありません。しかし、すべてのケースで直ちに実刑となるわけではなく、事案の内容や事故後の対応などによっては、執行猶予が付く可能性もあります。一方で、過失の程度や事情によっては、執行猶予が認められず実刑となるケースがあるのも事実です。

この記事では、過失運転致死事件において執行猶予が付くかどうかを判断する際の基準や、裁判で重視されるポイント、実刑となる可能性が高まるケースなどを、弁護士の実務の視点から整理します。現時点で知っておくべき考え方を、できるだけ分かりやすく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

過失運転致死でも執行猶予はつくのか|結論と全体像

過失運転致死は、交通事故によって人を死亡させてしまった場合に成立する犯罪であり、結果の重大性から「必ず実刑になるのではないか」と不安を抱く方は少なくありません。しかし、実務上は、過失運転致死であっても執行猶予が付くケースは一定数存在します。

実際の裁判では、死亡事故であること自体だけを理由に直ちに実刑が選択されるわけではありません。事故の態様や過失の程度、被告人の前歴の有無、事故後の対応など、さまざまな事情を踏まえたうえで刑の内容が判断されます。その結果、刑期が執行猶予の範囲内に収まると判断されれば、執行猶予付きの判決が言い渡されることがあります。

もっとも、過失運転致死であれば必ず執行猶予が付く、というわけではありません。過失の内容が重い場合や、事故後の対応に問題がある場合などには、執行猶予が認められず実刑となる可能性もあります。重要なのは、「死亡事故かどうか」という一点ではなく、裁判でどのような事情が判断基準として重視されるのかという点です。

以下では、過失運転致死がどのような犯罪と位置づけられているのかを確認したうえで、執行猶予が付くかどうかを考える際に、裁判で重視されるポイントを実務の視点から見ていきます。

過失運転致死は、故意犯でなく過失犯(わざとではない犯罪)のため、その意味では決して違法性が重大ではないと評価してもらうことも可能です。もっとも、死亡結果は非常に重大であるため、慎重に対応を尽くすことが望ましい面も同時にあります。

過失運転致死とは何か|罪名と法定刑を分かりやすく整理

過失運転致死とは、自動車の運転中に必要な注意を怠り、その結果として交通事故により人を死亡させてしまった場合に成立する犯罪です。故意に人を傷つけたわけではなく、あくまで過失による事故である点が特徴ですが、結果が死亡に及ぶ以上、刑事責任は重く評価されます。

この罪名は、交通事故に関する刑事事件の中でも比較的多く問題となります。飲酒運転や無免許運転といった悪質な事情がなくても、前方不注視や安全確認不足などの過失が認められれば成立する可能性があり、「通常どおり運転していたつもりだった」というケースでも刑事事件として扱われることがあります。

法定刑は、拘禁刑または罰金と定められています。ただし、法定刑の上限だけを見て処分が決まるわけではありません。実際の裁判では、事故の態様や過失の内容、被告人の前歴や生活状況などを踏まえ、どの程度の刑が相当かが個別に判断されます。

このように、過失運転致死は「死亡事故だから即実刑」と一律に扱われるものではなく、具体的な事情に応じて刑の内容が検討されます。

執行猶予が付くかどうかの判断基準|裁判で重視されるポイント

過失運転致死罪において、裁判所が執行猶予を付すかどうかを判断する際には、主に「事故自体の悪質性」と「事故後の情状」の2点が詳しく審査されます。

死亡事故は結果が極めて重大であるため、原則として刑事裁判が開かれますが、被告人に有利な事情を適切に主張することで実刑を回避できる可能性があります。

判決を左右する「過失の重さ」と事故態様

結論、事故当時の注意義務違反がどの程度大きかったかが重要な判断基準となります。

理由は、過失(不注意)の程度が低いほど、被告人に対する非難の可能性も低くなると考えられるからです。

たとえば、脇見運転や信号無視などの明らかな違反がある場合は過失が重いと判断されます。

一方で、歩行者が急に飛び出してきた場合や視界が極端に悪い状況など、加害者側だけの責任とは言い切れない事情があれば、執行猶予の可能性が高まります。

具体的には、速度超過が制限速度を大幅に超えていたか、あるいは一時停止を怠ったかといった、具体的な「事故態様(事故の形)」が証拠に基づいて精査されます。

失の内容が重いと判断されれば、それだけ刑も重くなり、執行猶予が認められにくくなります。

被告人の「前科・前歴」と日頃の運転状況

被告人が過去に同様の交通違反を繰り返していないかという点も、裁判では厳しくチェックされます。

これは、被告人に「遵法精神(法律を守る気持ち)」が備わっているか、また再犯の恐れがないかを判断するためです。

過去に重い交通違反(酒気帯び運転や無免許運転など)がある場合、日頃から運転態度が不適切であったとみなされ、厳しい判決が出やすくなります。

逆に、長年ゴールド免許を保持していたり、無事故無違反であったりした場合は、今回の事故が「不幸な偶然」であると評価されやすく、執行猶予に有利な事情として働きます。

被害者の救護や警察への通報など「事故直後の対応」

事故が起きた直後、加害者がどのような行動をとったかは、被告人の人間性を測る重要な指標です。

法律上、交通事故の加害者には救護義務と報告義務が課せられています。

事故後に直ちに車を止め、救急車を呼び、被害者の救命活動に全力を尽くした事実は「反省の情」が深いとみなされます。

反対に、動揺して現場を離れたり(ひき逃げ)、証拠を隠滅しようとしたりする行為があれば、執行猶予の余地は少なくなるでしょう。

直後の誠実な対応は、裁判官に更生の可能性を感じさせる大きなポイントです。

被害者遺族への「誠意」と示談交渉の進捗状況

死亡事故の刑事裁判において、被害者遺族との間に示談が成立しているかは判決の決定打となります。

死亡事故では、遺族の処罰感情(加害者を罰してほしいという気持ち)が強いのが一般的です。

しかし、弁護士を通じて誠心誠意の謝罪を行い、賠償金の支払いや供養の意を示すことで、遺族から「宥恕(ゆうじょ:許すこと)」の意思が得られた場合、実刑を回避できる可能性が飛躍的に高まります。

示談交渉は、加害者本人が行うと感情を逆なでし逆効果になることが多いため、経験豊富な弁護士による慎重な対応が必要です。

過失運転致死で処分の軽減を目指す場合、ご遺族に対する配慮は不可欠です。道徳的な意味でも、刑事手続との関係でも、ご遺族への真摯な行動は非常に重要となります。

過失運転致死で執行猶予が認められやすい4つのケース

過失運転致死罪(自動車運転死傷処罰法違反)は、法定刑が「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」と定められています。

死亡事故という重大な結果であっても、以下の4つの条件を満たす場合には、執行猶予(刑の執行を一定期間猶予し、その間に罪を犯さなければ刑の効力がなくなる制度)が付く可能性が高いです。

① 初犯であり過去に交通違反・前科がない

これまで犯罪に手を染めたことがなく、交通違反歴もない場合は、執行猶予が認められる可能性が高いといえます。

裁判所は、被告人が社会の中で更生できるかどうかを重視します。

前科がないということは、これまでの生活が健全であった証であり、一度の過ちで刑務所に収容するよりも、社会内での更生を促すべきだと判断されやすいためです。

とくに、日常的に安全運転に努めていた証拠(無事故無違反証明書など)を提出することで、再犯の可能性が低いことを強くアピールできます。

② 救護措置や警察への通報を適切に行っている

事故直後に適切な法的義務を果たしていることも、執行猶予への重要なステップです。

事故発生後、すぐに119番・110番通報を行い、警察が到着するまで現場で待機した事実は、加害者が自身の罪を認め、逃げ隠れしない姿勢を示していると評価されます。

この「自首」に近い真摯な対応は、刑事責任を軽減させる要因の一つとなります。

実務上も、現場での初期対応が適切であれば、その後の取り調べや裁判においても「誠実な人物」という印象を与えることが可能です。

③ 被害弁償(示談)に向けた真摯な取り組みがある

被害者側に対する経済的な補償と、精神的な謝罪が尽くされているケースです。

死亡事故の場合、任意保険による賠償とは別に、加害者自身の持ち出しによる「お見舞金」の支払いや、葬儀への参列(遺族の許可がある場合)など、形に見える誠意が求められます。

弁護士を通じて示談が成立し、遺族から「刑罰を望まない」旨の書面を取得できれば、執行猶予への強力な追い風となります。

示談は時間がかかるため、起訴される前の早い段階から弁護士に依頼し、粘り強く交渉を続けることが成功の鍵です。

④ 家族による監督など社会内での更生環境が整っている

被告人が釈放された後、二度と事故を起こさないための監視体制があることも重要視されます。

「車を処分した」「二度と運転しないと誓約した」といった対策に加え、同居する家族が「今後は自分が責任を持って被告人を監督する」と法廷で証言するケースです。

これにより、裁判官は「社会に戻しても再犯の恐れはない」と判断しやすくなります。

身元引受人が明確であり、安定した生活基盤があることは、実刑を回避するための重要な「環境要因」として評価されます。

前提として、過失の内容や程度も極めて重要な問題です。被害者側の落ち度が大きく、死亡結果の責任を加害者に負わせるのが酷だと評価できる場合、執行猶予に近づきやすくなります。

執行猶予が付かず、実刑となる可能性が高いケース

過失運転致死事件では執行猶予が認められることもありますが、すべての事案で同じ判断がなされるわけではありません。過失の内容や事故の経緯によっては、実刑が選択される可能性が高まるケースもあります。

まず問題となりやすいのが、過失の程度が重い場合です。著しい速度超過や危険な運転操作が認められるなど、事故発生の危険性が高い運転態様であった場合には、結果の重大性と相まって厳しい評価がなされやすくなります。単なる一瞬の不注意とはいえない事情があると、執行猶予は認められにくくなります。

また、事故後の対応に問題がある場合も注意が必要です。被害者の救護を十分に行っていない、警察への通報が遅れた、事実関係について不誠実な説明をしたと受け取られるような事情があると、反省の程度に疑問が持たれることがあります。このような事情は、量刑判断において不利に考慮される傾向があります。

さらに、過去に交通事故や交通違反を繰り返している場合には、再発のおそれがあるとして厳しい判断がなされることがあります。とくに、過去に同種の事故や重大な違反歴がある場合には、執行猶予による改善効果が期待しにくいと評価される可能性があります。

このほか、事故の態様や被害の状況によっては、社会的影響の大きさが考慮されることもあります。実刑となるかどうかは個別の事情によって左右されますが、有利な事情が乏しく、不利な事情が重なっている場合には、執行猶予が認められない判断がなされることもあります。

過失運転致死で執行猶予を目指すために重要な対応

過失運転致死事件で執行猶予が付くかどうかは、事故の内容だけで決まるものではありません。捜査段階や裁判に向けた過程で、どのような対応を積み重ねているかも、量刑判断に影響します。

まず重要となるのが、事故直後からの一貫した対応です。警察の捜査に対して事実関係を正確に説明し、必要な手続に誠実に協力しているかどうかは、反省の態度を判断する一要素とされます。対応が場当たり的になったり、説明が変遷したりすると、不利に受け取られるおそれがあります。

また、被害者や遺族への対応も慎重さが求められます。被害弁償や示談の可否は事案によって異なりますが、被害回復に向けた姿勢をどのように示しているかは重要なポイントです。形式的な対応にとどまらず、経過を通じて誠実さが伝わるかどうかが評価されます。

さらに、再発防止に向けた取組も考慮されます。運転に関する指導の受講や生活環境の見直し、家族による監督体制の整備など、具体的な行動が示されている場合には、社会内での更生が可能であると判断されやすくなります。過失運転致死事件では、早い段階から状況を整理し、どの点が評価され得るのかを見極めることが重要です。事案ごとに求められる対応は異なるため、一般論だけで判断せず、個別の事情に即した対応が、執行猶予を目指すうえで欠かせません。

事後的な努力で変える余地のあるポイントは、やはりご遺族の感情面です。ご遺族の感情に配慮する姿勢は、反省や後悔の意思を最も端的に示す手段でもあります。

過失運転致死と執行猶予を考える際の注意点

過失運転致死事件において執行猶予が付くかどうかを考える際には、いくつか注意しておくべき点があります。とくに、一般的な情報だけを前提に判断してしまうと、実際の事案とのズレが生じることがあります。

まず注意したいのが、示談が成立すれば必ず執行猶予が付くわけではないという点です。示談や被害弁償は重要な事情の一つではありますが、それだけで結論が決まるものではありません。過失の内容や事故の態様によっては、示談が成立していても厳しい判断がなされることがあります。

また、インターネット上の情報をそのまま当てはめることの危険性にも注意が必要です。過失運転致死と一口にいっても、事故の状況や背景は事案ごとに大きく異なります。他人の事例や一般論が、そのまま自分のケースに当てはまるとは限りません。

さらに、捜査や裁判の過程での対応についても、早い段階での判断がその後に影響することがあります。初期対応が不十分だった場合でも、後から修正できる部分はありますが、状況によっては評価が固定化されてしまうおそれもあります。

このように、過失運転致死と執行猶予の判断は単純ではなく、個別の事情を踏まえた慎重な検討が求められます。一般的な傾向だけにとらわれず、事案全体を冷静に見極めることが重要です。

示談=執行猶予ではありませんが、任意保険などで確実に金銭賠償ができることはもちろん有益な事情の一つです。任意保険の加入状況は、日頃からチェックしておきたいところです。

まとめ|過失運転致死と執行猶予は事案ごとの判断が重要

過失運転致死事件で執行猶予が付くかどうかは、死亡事故であるという結果だけで決まるものではありません。裁判では、過失の程度や事故後の対応、被告人の前歴や生活状況など、さまざまな事情が総合的に考慮されます。

実務上は、初犯であることや事故後の誠実な対応、被害回復に向けた取組などが評価され、執行猶予が認められるケースも少なくありません。一方で、過失の内容が重い場合や、不利な事情が重なっている場合には、実刑が選択される可能性もあります。

重要なのは、「過失運転致死だからこうなる」と一律に考えるのではなく、自分の事案ではどの点がどのように評価され得るのかを冷静に整理することです。一般的な情報だけに頼らず、個別の事情に即して判断する姿勢が求められます。

過失運転致死と執行猶予の可否は、事案ごとの判断が基本となります。早い段階から状況を正確に把握し、適切な対応を重ねていくことが、結果に影響を与える重要な要素となります。

過失運転致死と執行猶予に関するよくある質問

Q1. 過失運転致死でも執行猶予は認められますか?
A. 事案の内容によりますが、死亡事故でも執行猶予が付くケースはあります。裁判では過失の程度、前歴、事故後の対応、被害回復への取組などを総合的に見て判断されます。

Q2. 示談が成立すれば執行猶予になりますか?
A. 示談は重要な事情の一つですが、それだけで結論が決まるわけではありません。過失の内容が重い場合などは、示談が成立していても実刑が選択される可能性があります。

Q3. 実刑になりやすいのはどのような場合ですか?
A. 著しい速度超過など過失の程度が重い場合や、事故後の対応に問題がある場合、重大な違反歴がある場合などは、執行猶予が認められにくくなる傾向があります。

Q4. 捜査段階で気をつけるべき点はありますか?
A. 事実関係を正確に整理したうえで一貫した説明を行い、必要な手続に誠実に対応することが重要です。被害者側への対応や被害回復の進め方は事案によって適切な方法が異なるため、状況に応じた判断が必要になります。

Q5. 初犯なら必ず執行猶予がつきますか?
A.結論、初犯であっても必ず執行猶予がつくわけではありません。過失運転致死は重大な罪であり、過失の程度が著しく重い(大幅な速度超過、居眠り、飲酒運転に近い状況など)場合は、初犯であっても実刑判決が下される可能性があります。また、被害者遺族との示談が全く進んでいない場合や、反省の態度が見られないと判断された場合も、刑務所収容のリスクが高まります。初犯という有利な属性を活かすためには、それ以外の「誠意」や「再犯防止策」をいかに裁判で証明できるかが重要です。

Q6.過失運転致死で執行猶予になる確率はどのくらい?
A.一般的な統計(検察統計など)によると、過失運転致死傷罪全体での執行猶予率は比較的高めですが、死亡事故に限定すると慎重な見極めが必要です。死亡事故の場合、約8割から9割程度の方に執行猶予が付く傾向にありますが、これはあくまで「適切な弁護活動と示談が行われた場合」を含めた数値です。残りの1割から2割は実刑判決を受けており、決して楽観視できる数字ではありません。とくに近年は、交通事故に対する厳罰化が進んでおり、事故態様によっては厳しい判断が下されやすくなっています。

Q7.執行猶予中にまた事故を起こしたら?
A.執行猶予期間中に再び交通事故や他の犯罪を起こした場合、執行猶予が取り消される可能性が高いです。執行猶予が取り消されると、事故で言い渡された刑(例:懲役2年)と新しい事故での刑を合算して刑務所で服役しなければなりません。裁判で「二度と運転しない」と誓ったにもかかわらず事故を起こした場合は、反省がないとみなされ、厳しい結果を招くことになります。

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交通事故では自首が必要か?自首しないとどうなるか?自首すると逮捕されてしまうか?

このページでは,交通事故加害者の自首に関して,自首をすべきかどうか,自首のメリット,自首を試みる際の具体的な方法などを弁護士が解説します。自首を検討する際の参考にしてみてください。

交通事故加害者が自首をするべき場合

①交通事故で自首が必要なケースとは

交通事故の場合,自首が必要なケースはあまり多くありません。なぜなら,交通事故が発生した段階で,自動車運転者には警察への報告義務が発生するためです。
事故発生から間もないタイミングで,報告義務に従って警察に報告がなされ,警察が事故の存在を把握することになるため,自然と自首の機会は生じないこととなります。
そのため,交通事故で自首が必要なケースは,警察への報告義務を怠った場合や,報告後に警察の捜査への対応を怠った場合のいずれかとなるでしょう。

交通事故の処理を適切に行っていれば,自首が必要となることは考えにくいと言えます。

ポイント
交通事故は,発生直後に警察への報告が必要
適切な事故処理をしていれば,自首は必要ない

②口頭で身体に異常がないと確認した場合

自動車での走行中,歩行中又は自転車乗車中の相手と軽く接触した,という場合に,口頭で相手の身体に異常がないことを確認し,その場を離れてしまうケースが散見されます。この場合,後になって相手が怪我を主張し,警察に捜査を求めることになれば,いわゆるひき逃げ事件として捜査の対象となる可能性が否定できません。

もちろん,実際に相手に何も異常がなく,相手が特に警察への連絡等をしなければ,何事もなく終了することになります。しかしながら,相手に全く怪我がなかったか,後になって怪我を主張して警察に捜査を求めたかは,事前に把握する手段がありません。

そのため,口頭での確認のみを取ってその場を去った場合には,後にひき逃げとして扱われることを防ぐために,自首を検討することが有力でしょう。

ポイント
事故直後に身体の異常がないと告げた被害者も,後から怪我を主張する場合がある
後から怪我を主張された場合,ひき逃げ事件として扱われる恐れがある

③事故発生の有無が不安な場合

自動車の運転中に,背後で何か音がした,軽く何かが接触した感覚があったなど,交通事故を想起させる出来事があった場合,実際に交通事故が起きているかどうかは非常に大きな問題です。交通事故が起きてしまっていると,やはりひき逃げ事件として捜査の対象とされる可能性が生じてしまいます。

そのため,運転中に異常を感じ,事故が発生したかどうか不安に感じている場合には,将来的にひき逃げ事件の被疑者とされる危険を避けるため,自首を検討することが一案です。なお,実際には事故が起きていなかった,又は事故が起きたかどうか分からなかったという場合には,特に捜査が行われることなく対応が終了することになるため,不要な捜査を招くことにはなりにくいでしょう。

ポイント
事故が起きたかどうか分からず不安な場合には自首が有力
事故が起きていなければ,特に捜査されないことが通常

自首とは

自首とは,罪を犯した者が,捜査機関に対してその罪を自ら申告し,自身に対する処分を求めることをいいます。自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告することが必要とされます。

また,自首が成立するためには,犯罪事実や犯人が捜査機関に発覚する前でなければなりません。これは,犯罪事実自体が発覚していない場合のほか,犯罪事実は発覚しているものの犯人が特定できていない場合も含まれます。つまり,犯罪事実か犯人のどちらかが発覚していなければ,自首が成立するということになります。

ポイント 自首の意味
自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告し,自分への処分を求めること
犯罪事実又は犯人が特定できていない段階であることが必要

自首のメリット

①刑罰の減軽事由に当たる

自首は,刑法で定められているものですが,その定めは「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは,その刑を減軽することができる。」という内容です。つまり,自首が成立した場合の直接の効果は「刑を減軽できる」ということになります。

刑罰が減軽される場合,基本的には言い渡される刑罰の上限が2分の1になります。そのため,自首によって刑罰が減軽されると,自首がなかった場合に比べて最大でも半分の刑罰までしか科せられません。

なお,「刑を減軽することができる」という定めは,任意的減軽と呼ばれます。これは,減軽することも減軽しないこともできる,というもので,自首したから必ず減軽の対象になるわけではありません。この点の最終的な判断は裁判所に委ねられますが,自首が刑罰の重みに大きく影響することは間違いありません。

ポイント
自首は刑の任意的減軽事由

②逮捕が回避できる可能性が高まる

被疑者が自首をした事件では,その被疑者を逮捕する可能性が非常に低くなることが一般的です。それは,逮捕の必要性が大きく低下するためです。

逮捕の要件には,「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」があるとされています。

逮捕の要件

1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。

2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。

この点,自首をする人物は,自分の犯罪事実を自発的に捜査機関へ告げ,その事件に関する刑事処分を受けるきっかけを自ら作っています。そのため,自分から捜査や処分を求めている人が逃亡や証拠隠滅をすることは考えにくいと言わざるを得ません。
そうすると,自首がなされた事件は,類型的に逃亡や罪証隠滅の恐れ(逮捕の必要性)が低いため,逮捕を回避できる可能性が高くなるのです。

逮捕の回避は,自首を試みる場合の大きな目的の一つと言えます。自分から捜査機関に犯罪を打ち明ける対価として,逮捕を避けてほしいと申し出る試みである,ということもできるでしょう。
ただし,必ず逮捕が防げるというわけではありません。自首をしたとしても逮捕せざるを得ないような重大事件であれば,自首は刑罰の軽減を目指して行うべきことになるでしょう。

ポイント
自首したケースは逮捕の必要性が低いと判断されやすい

③示談の可能性が高まる

被害者のいる事件の場合,自首をした被疑者自身が加害者であることが明らかです。そのため,被疑者ががさらに処分の軽減を図ろうとする場合,示談の試みが非常に大切となります。なぜなら,被疑者の刑事処分は,被害者の意向を可能な限り反映したものになるためです。
示談によって被害者の許しが得られた場合,許したという被害者の意向を反映して刑事処分を軽減することがほとんどでしょう。事件によっては,被害者が加害者の刑罰を希望しない,という意向を表明すれば,事実上不起訴が見込まれると言えるケースも少なくありません。
それだけ,示談の成否は刑事処分を決定的に左右し得るものです。

この点,被害者としては,加害者が自首をしたのか,警察に特定されて捕まったのかによって,示談を受け入れる気持ちが生じるかどうかに大きな違いが生じます。自首した場合の方が,被害者が示談を受け入れる気持ちになりやすいことは明らかです。
そのため,自首という行動は,その後の示談が成立する可能性を高めるという大きなメリットももたらすものと言えます。

ポイント
自首した場合の方が,被害者に示談を受け入れられる可能性が高くなる

④不起訴の可能性が高まる

自首した場合,刑の任意的減軽事由となりますが,これは刑罰を受けることを前提としたお話です。受ける刑罰が半減する可能性がある,というわけですね。

この点,自首が処分を軽減させるのは,決して刑罰が科せられる場合のみではありません。そもそも刑罰を科すかどうか,つまり起訴するか不起訴にするか,という局面でも,自首は処分を軽減させる事情として考慮されます。それは,自首をすることで刑事責任を軽くすべき,という考え方がこの局面にも当てはまるためです。

事件によっては,自首の有無で起訴不起訴が分かれるケースもあり得ます。自首以外に不起訴の判断を促せる事情がなかったとしても,自首を考慮して不起訴になる場合があり得るのは,自首の大きなメリットでしょう。

ポイント
自首を理由に不起訴処分が得られる場合もある

自首の方法と流れ

自首を円滑に,効果的に行うためには,適切な手順を踏んで自首することが望ましいところです。適切な自首ができれば,自首のメリットがより早期に,明確に得られるでしょう。

①自首の方法1.警察への連絡

自首は,警察署に直接出頭して行うこともできますが,事前に警察署に電話連絡をすることがより適切でしょう。事前連絡なく出頭した場合,警察側に自首を受け入れる体制や準備がなく,かえって手続が煩雑になってしまう可能性があります。

連絡先=自首をする先の警察署としては,事件の発生場所を管轄する警察とすることが最も円滑になりやすいです。ただ,自分の生活圏と事件の発生場所が遠く離れている場合は,自分の住居地の最寄りの警察署でもよいでしょう。

自首先の警察署

1.事件の発生場所を管轄する警察署
2.自分の住居地を管轄する警察署

また,連絡先は,自首をする事件分野を取り扱う担当課,担当係に行うことが望ましいです。事件を取り遣う部署は事件類型ごとに異なりますが,一般的には以下のような区別が可能です。

事件を取り扱う部署の例

暴行・傷害
→刑事課 強行犯係

詐欺・横領
→刑事課 知能犯係

窃盗
→刑事課 盗犯係

痴漢・盗撮
→生活安全課

児童買春・児童ポルノ
→生活安全課(少年係)

警察に連絡をした際は,事件を取り扱う係に電話を回してもらい,担当部署の電話応対者に自首を希望する旨とその内容を伝えるとスムーズになりやすいです。

なお,事件の概要や自首を希望するに至った経緯などを伝える可能性が高いため,整理して伝えられるよう,事前にメモを作成するなどして伝えたいことをまとめるのが望ましいでしょう。

②自首の方法2.警察への出頭

予定した日時に警察へ出頭します。
出頭した際にまずどこへ行き,どのようにして担当者に話を通してもらうかは,事前連絡の時点で確認しておくことが望ましいでしょう。

出頭後は,警察所で話を聞かれることが想定されます。どの程度の時間,どのような手続を行うことになるのかは事前の想定が困難であるため,当日の予定は終日空けておくことが適切です。

警察の受付から担当者につないでもらうと,担当課の取調室などへ案内されることが一般的です。

③自首後の流れ1.取り調べの実施

自首後は,まず事件の内容や流れについて取調べを受けることになります。自首をより円滑に進めるため,事前の準備に沿って事件の内容をできるだけ詳細に話すようにしましょう。
取調べの内容としては,以下のような事項が想定されます。

自首後の取調べ内容

1.事件の日時・場所
2.事件の具体的な内容
3.事件が発生した理由
4.自首を試みた経緯・理由
5.身上経歴

自首は,自分の犯罪行為を申告して処分を求めるものであるため,対象となる犯罪の内容については,何かを包み隠していると疑われないよう真摯な供述に努めることが有益です。また,反省・後悔の意思や,被害者に対する謝罪の意思が十分に伝わるような対応が尽くせれば,より望ましい内容になるということができるでしょう。

ポイント
自首を受けた警察で取調べが行われる
真摯な供述を心掛け,反省や謝罪の意思が伝わることを目指す

④自首後の流れ2.自首の受理

警察では,取調べで自首をした人から一通りの話を聞いた後,「自首調書」を作成します。
内容や形式は一般的な供述調書と大きく異なりませんが,自首を受理したことを明らかにするため自首調書を作成するものとされています。

自首調書には,事件の概要,本人の身上経歴,自首をした理由や経緯などが記載されます。

ポイント
自首を受け付けた警察では「自首調書」が作成される

⑤自首後の流れ3.逮捕の判断

自首を受けた警察では,取調べの内容等を踏まえ,その被疑者を逮捕するかどうか判断することになります。自首した事件では,被疑者を逮捕する必要は大きく低下すると理解されるのが通常ですが,それでも逮捕の可能性が否定できるわけではありません。

逮捕をするかどうかは,逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れを主な基準に判断されますが,自首をしているケースでは自首後に逃亡することは想定されづらいと言えます。そのため,罪証隠滅の恐れがどの程度あるか,という基準が重視されやすいでしょう。
そして,自首を通じて罪証隠滅の恐れがないと判断してもらうためには,以下のような対応方法が考えられます。

逮捕を防ぐための自首の方法

1.時系列に沿った詳細な供述に努める
→隠し事なく供述していると評価してもらえれば,その上で証拠隠滅する恐れがあるとは判断されづらい

2.証拠の持参
→事件の内容に応じて想定される物的証拠を積極的に持参することで,罪証隠滅の余地がないと判断してもらいやすい

自首のやり方によって逮捕されるかどうかに差が生じる可能性もあるため,自首に際しては罪証隠滅の恐れがないと理解してもらうことをできる限り目指すようにしましょう。

ポイント
逮捕の有無は,罪証隠滅の恐れの有無によって判断されやすい

交通事故加害者の自首は弁護士に依頼すべきか

交通事故加害者として自首を検討する場合や,実際に自首を行う場合には,弁護士への依頼が適切です。弁護士に依頼をすることで,法的に適切な検討や対応が可能となります。
弁護士に依頼することの具体的なメリットとしては,以下の点が挙げられます。

①自首すべき状況かが分かる

自首は,自身の行為について逮捕や刑罰が想定される場合に有力な手段となります。裏を返せば,交通事故の内容などを踏まえて逮捕や刑罰が想定されないと判断される場合には,自首すべき状況にはない,と考えるのが適切です。
もっとも,個別の事件について逮捕や刑罰が想定されるかどうか,という点を具体的に検討することは,専門家でなければ困難と言わざるを得ません。もし自分自身で一定の判断をしたとしても,それが本当に適切な判断かを知る手段がなければ,事態はあまり好転していないと言えます。

この点,弁護士に依頼することで,逮捕や刑罰が想定される状況か,言い換えれば自首すべき状況かを弁護士に判断してもらうことが可能です。交通事故の場合,逮捕や刑罰をそれほど懸念しなくてよいケースも少なくはないため,この点が正しく判断できることは非常に重要となるでしょう。

②適切な自首の方法が分かる

自首を行うことに決めたとしても,具体的にどこへ何をしに行けばいいのか,まず最初にはどのようなアクションを起こすべきか,といった点が次の課題となります。せっかく自首を試みたとしても,その方法を誤ってしまうと,手続が滞る上に自首のメリットを最大限に得られないリスクも生じます。
大きなリスクと負担を背負って自首をする以上,適切な方法での自首を行うべきです。

この点,弁護士に依頼をすれば,自首の方法や流れは弁護士に判断してもらい,弁護士から案内してもらうことができるため,手段を誤る恐れなく自首を試みることが可能です。交通事故の場合,交通課が取り扱う関係で,その他の事件類型とは異なる独特の取り扱いも生じ得るため,適切な対応を尽くすため弁護士のサポートを受けることをお勧めします。

③自首に伴う負担が大きく軽減する

自首は,自分から捜査機関に連絡を取って事件の内容を詳細に説明しなければならないなど,行動の負担や動きに伴う心理的な負担が非常に重くなりがちです。それらの負担が,自首を躊躇させやすい要因でもあります。
もっとも,自首をすべき状況であるのに,負担を理由に自首を控えてしまうのは合理的な判断とは言い難く,チャンスを逃すことにもなりかねません。

この点,弁護士に依頼すれば,弁護士が代行できる対応はすべて弁護士に行ってもらうことができます。警察への電話連絡や自首希望であることの意思表明,事件内容の説明,警察とのスケジュール調整など,負担の生じやすい動きを弁護士に委ねることができれば,自首を試みるハードルは大きく下がるでしょう。

④捜査機関の対応が軟化しやすい

捜査機関は,弁護士が入っているケースの方がそうでないケースよりも穏やかで緩やかな取り扱いをしやすい傾向にあります。法律の専門家である弁護士が目を光らせているため,法的な根拠に乏しいことを強引に行うケースはほとんどなくなるのが通常です。

当事者自身が,捜査機関の対応について法的に適切かどうかを判断するのは容易でありません。知識面はもちろんのこと,その場で突然行われたことや言われたことを,直ちに判断するのは非常に難しいと言わざるを得ないでしょう。
そのため,弁護士の存在によって捜査機関の対応が軟化することは,困難な判断が不要になる意味でも非常に価値の高い効果と言えます。

交通事故加害者が自首をする場合の注意点

①事故後の対処の重要性

交通事故は,事故後に適切な対応を尽くすかどうかによってその刑事責任の重さが極めて大きく異なります。なぜなら,事故後に被害者の救護や警察への報告を怠ると,ただの交通事故でなくひき逃げ事件となってしまうためです。
ひき逃げ事件は,法的には救護義務違反を指しますが,被害者の生命や身体に対する危険が非常に強い行為であるため,厳罰の対象となりやすいものです。ひき逃げ事件になってしまうと,後に自首をしても逮捕を防げない場合は珍しくありません。

ひき逃げ事件となって自首の検討に苦慮することのないよう,事故直後に適切な救護や報告を尽くすことがまず何よりです。

②自首しても進展しない可能性

交通事故の場合,基本的に当事者のいずれかから報告がないと,警察はその存在も把握することができません。そのため,交通事故があったかもしれないと思って自首しても,相手が警察に報告をしていなければ,警察にとって事故の有無は分からないままとなります。この場合,警察は具体的な捜査を行うことが困難となりやすく,自首をしても事態は何も変わらない結果となる可能性は否定できないでしょう。

そのため,交通事故について自首をする場合には,必ずしも自首によって警察の処理が進行するとは限らず,特に事態が進展しない可能性をあらかじめ踏まえておくことをお勧めします。
なお,もし事態が進展しなかったとしても,自首が無意味だったというわけではありません。万一その後に被害者が発見され,捜査されるに至った場合には,自首は加害者に有利な材料として考慮されることになります。

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【交通事故加害者の呼び出し】呼び出しに応じると何がある?出頭したときの注意点は?弁護士は必要?

このページでは,交通事故加害者として警察から呼び出された場合について,適切な対応方法などを弁護士が解説します。
交通事故加害者の呼び出しへの対応や今後の見込みを検討するときの参考にご活用ください。

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交通事故加害者で呼び出された場合の対応法

①基本的な考え方

交通事故加害者となった件について,捜査機関から呼び出しを受けた場合,基本的には「呼び出しに適切に応じていれば大きな不利益は生じない」と理解をしておくことが適切です。

交通事故は,不注意で起きてしまった過失犯であるため,特段の事情がなければそれほど加害者の不利益が大きな手続(長期の身柄拘束など)を用いることはありません。特に,事故直後にしっかりと事故処理の対応を尽くしていれば,その後の呼び出しに応じている限り不測の不利益は生じないことが通常でしょう。

このような考え方を持っておくことは,自身の不安な感情を適切にコントロールする意味でも非常に重要です。交通事故は,刑事事件の中でも件数が非常に多い分野のため,手続が進むのを待つ期間が長く,手続全体も長期化しがちです。そのため,手続がなかなか終わらない中で自身をコントロールする必要がありますが,「呼ばれたときに適切に応じればよい」と割り切ることができれば,長期化による精神的負担は最小限に抑えることが可能になります。

ポイント
呼び出しに適切に応じていれば大きな不利益は生じ難い
交通事故の刑事手続は長期化しやすい

②反省内容の表明

交通事故加害者に対する呼び出しの際に確認されやすい点の一つが,反省状況です。その背景には,交通事故は,故意でなく過失(=注意義務違反)によって起きたものである,という点があります。

故意に起こした事件の場合,認め事件であれば反省の意思を表明しないことは稀です。故意に起こした犯罪行為に反省しない余地が考えにくいためです。一方,過失犯の場合,自分の過失をどのように評価しているかによって,反省を深めているケースもあれば,捜査を受けていることが不服であると考えているケースもあり得ます。
そうすると,捜査機関の目線では反省すべき過失があるのに,加害者本人が「自分にそれほどの落ち度はない」とのスタンスだと,捜査機関の理解との間に大きなギャップが生まれ,不利益な刑事処分につながる可能性もあり得ます。

そのため,自身の過失として指摘されている内容を冷静に確認し,反省すべき内容であればその反省を明確に表明していくことが適切な対応となります。

ポイント
反省すべきケースで反省が見られないと,大きな不利益につながる

③保険会社による対応状況の把握

呼び出しを受けた場合,警察署等で取り調べを受けることが見込まれますが,その際には被害者との間での解決状況についても確認されることが一般的です。そのため,自動車保険に加入している場合は,保険会社と被害者との間のやり取りの進捗をある程度把握しておくようにしましょう。

保険会社の対応状況を把握することは,以下のようなメリットにつながります。

保険会社の対応状況を把握するメリット

1.捜査機関に解決見込みありと理解してもらえる
→対応が順調に進んでいれば,当事者間の金銭的解決を前提にしてもらえる

2.十分な被害者対応をしているとの評価が得られる
→被害者対応を積極的に尽くそうとしている態度があるとの評価につながる

3.被害者側の感情面に有益な効果が期待できる
→加害者が状況把握に努めていると被害者に伝われば,被害者側の感情面の緩和につながる

交通事故加害者が呼び出しに応じると逮捕されるか

刑事事件では,呼び出しをした上で,呼び出しに応じたところを逮捕するケースも一定数見られます。もっとも,交通事故加害者として呼び出しを受けた場合,これに応じたところを逮捕されるという可能性は基本的にないでしょう。

その理由としては,以下のような点が挙げられます。

交通事故加害者が呼び出しの際に逮捕されない理由

1.過失犯である
→故意犯より刑事責任が軽いため,類型的に逮捕の必要性が高くない

2.逮捕の必要性が高い状況にない
→事故直後に一定の必要な捜査がされており,証拠隠滅が生じにくい

3.呼び出しを選択している際の捜査方針
→あえて呼び出しを選択しているのは,呼び出しに応じれば逮捕不要との判断であるため

交通事故加害者として呼び出された場合には,円滑にその求めに応じ,端的に求められた捜査協力を尽くすことが適切でしょう。「逮捕されるのではないか」といった不要な警戒心を示すのは,警戒するだけの事情があるのではないか,との疑念を招く恐れがあり,かえって不利益の原因となる可能性もあります。

交通事故加害者を警察が呼び出すタイミングや方法

①実況見分のため

交通事故の場合,事故現場の道路状況や事故の起きた具体的場所等を,現場に行って確認することが一般的です。このような捜査を「実況見分」と言います。
実況見分を行う場合,当事者の双方又は一方の立ち会いを要するため,捜査機関からの呼び出しがこの実況見分への立ち会いを求める目的であるケースは多いでしょう。

実況見分は,交通事故捜査の比較的早期の段階で行われることが一般的です。場合によっては,事故発生当日又は直後に行うこともあり得ます。事故当日に行われた場合,その後に実況見分目的で呼び出されることは通常なくなります。

②取調べのため

交通事故加害者に対する捜査では,基本的に当事者双方から事情を聴き,事故発生状況等の把握を進めることが必要となります。そのため,捜査機関による呼び出しは取調べを実施するためであることも多くあるでしょう。

取調べ目的で呼び出しがなされるタイミングは,警察側のスケジュールによって様々です。交通事故や交通違反は,件数自体が非常に多いため,警察側も迅速な処理が難しく,順番待ちが生じやすい,というのがその大きな理由です。
場合によっては月単位で待機する可能性も否定はできませんが,期間が空いたからと言って不利益な事情というわけではないため,自分だけが一方的に焦ってしまうことはないように注意しましょう。

③車両の持参を求めるため

交通事故では,当事者双方の乗っていた車両が重要な証拠物となります。特に,事故態様や過失の内容が争いになっているケースでは,車両の損傷箇所や損傷状況を根拠に結論が出る場合もあります。
そのため,警察の捜査の一環として,事故車両の持参を求め,写真撮影などの証拠化を行うことは広く行われているところです。

車両の持参を求められるのは,基本的に自走が可能な状況にあるケースです。事故車両に乗って警察に向かい,その場で車両の確認や撮影等が行われる,という流れが多く見られるでしょう。

交通事故加害者が呼び出しに応じたときの注意点

①供述調書の内容

呼び出しに応じて出頭した場合,取調べの上で「供述調書」を作成されることが考えられます。供述調書は,自身の話した内容を捜査機関が書面化したものです。供述調書には,供述した本人の署名押印が求められますが,この署名押印は,「調書の内容は自分の話したことで間違いない」というお墨付きを与える趣旨のものです。

供述調書の作成をされると,その内容が気になるところですが,供述調書の内容に対してどのような考え方でいるべきかは,認め事件か否認事件かによって大きく異なります。

【認め事件の場合】

認め事件では,あまり細部に過敏になる必要はありません。供述調書上での言い回しや細かい内容によって,処分結果が変わる可能性が考え難いためです。
認め事件の場合には,厳密な内容よりも自身の反省状況・内容が反映されていることを重視する方が有益でしょう。反省の内容や程度は,刑事処分の結果に直接影響を及ぼす可能性があります。

【否認事件の場合】

否認事件では,争点となるポイントに関する記載が適切かどうか,厳密に確認することが必要です。争点に対する最終的な判断が,供述調書の内容を根拠に行われる場合もあり得るため,慎重な判断が不可欠となります。
また,記載内容が適切か判断できない場合には,供述調書への署名押印を拒否する手段も有力です。署名押印のない供述調書は,捜査機関の内部資料となるのみで,犯罪の成否を立証するための証拠とすることはできません。

②呼び出しの時期

交通事故は,件数が非常に多い類型でもあるため,呼び出しがなされるまでに順番待ちを要することが少なくありません。呼び出されるまで数週間~数か月待機することは決して珍しくないでしょう。
また,最終的な刑事処分までの期間も長くなりやすい傾向にあります。事故発生から1年近く経って刑事処分が決まる,という例も散見されるところです。

交通事故の場合には,呼び出しまでの待期期間が長くなりやすい可能性にあらかじめ注意しておくことをお勧めします。

警察が呼び出す主な目的

警察から呼び出しを受ける場合,その目的には主に以下のようなケースが考えられます。

①参考人である場合

参考人とは,特定の事件について捜査の参考とすべき情報を持っているであろう人を言います。具体例としては,事件の目撃者や,被疑者の同僚・友人といった近しい人物,会社で犯罪が起きた場合の従業員などが挙げられます。

参考人の呼び出しは,犯罪捜査のために必要な情報を参考人から教えてもらうために行われるものです。参考人は捜査や処罰の対象となることが想定されていないため,逮捕をされたり前科が付いたりすることは通常ありません。

②身元引受人である場合

身元引受人とは,文字通り被疑者の身元を引き受ける人を言います。身柄を拘束しない事件(=在宅事件)の場合,捜査機関は被疑者の任意の出頭を求めることになりますが,出頭をより確かに見込めるように,適任者を警察署に呼び出し,身元引受人となることを求める取り扱いが広く行われています。

身元引受人は,同居家族(配偶者や親など)であることが一般的です。同居家族に適任者がいない場合は,勤務先の上司や被疑者の依頼した弁護士が身元引受人になることもあります。
身元引受人に対する呼び出しは,通常,被疑者の初回の取り調べが終了した後に行われます。捜査機関から身元引受人に電話連絡がなされ,被疑者を連れて帰ることと身元引受人になることが依頼される,という流れが一般的です。

身元引受人は,被疑者の監督者というのみの立場であるため,呼び出しに応じても逮捕されたり前科が付いたりすることはありません。また,呼び出しに応じなかったとしても特に問題が生じることはありません。

③被疑者である場合

被疑者とは,犯罪の嫌疑をかけられている者をいいます。ニュースなどでは「容疑者」と呼ばれますが,法律的には「被疑者」が正しい呼び方となります。

被疑者を呼び出す目的は,犯人候補として取調べを行うことに尽きます。犯罪の疑いを認めるかどうか,認める場合には具体的に何をしたか,などを確認し,記録化するために,被疑者を警察署へ呼び出します。

被疑者として呼び出される場合,事件の内容や状況によっては逮捕される可能性も否定できません。また,犯罪事実が明らかになれば,刑事処罰を受けて前科が付く可能性もあり得ます。

参考人身元引受人被疑者
呼び出しの理由事件の情報獲得被疑者の出頭確保犯人候補の取り調べ
逮捕の可能性通常なしなしあり
前科の可能性通常なしなしあり

警察の呼び出しを拒むことは可能か

警察の呼び出しには強制力がありません。そのため,呼び出しを拒んだとしても法的にペナルティを科せられることはなく,その意味では呼び出しを拒むことはどのような場合でも可能,ということになるでしょう。
もっとも,立場によって呼び出しを拒むことにリスクや問題の生じる可能性はあり得ます。

①参考人の場合

参考人は,捜査への協力を依頼されている立場に過ぎないため,呼び出しに応じなかったとしてもリスクを抱えたり問題が生じたりすることは通常ありません。

ただし,「現在は参考人にとどまる取り扱いだが,犯罪への関与が疑われる可能性がある」という状況の場合には,呼び出しに応じないことのリスクが生じ得ます。呼び出しに対して積極的な協力や情報提供を尽くす場合に比べると,呼び出しを拒んで捜査協力を一切しない場合の方が,より強く犯罪の関与を疑われやすい傾向にあるためです。
そして,具体的な犯罪への関与を疑われた場合,今度は参考人でなく被疑者として,呼び出しを受けるなどの捜査が行われる可能性も否定はできません。

そのため,呼び出しを拒むことで犯罪への関与を疑われかねない場合には,拒むリスクが生じ得ると言えるでしょう。

②身元引受人の場合

身元引受人は,犯罪への関与が想定されていない立場の人物であるため,呼び出しを拒むことで犯罪の疑いをかけられるものではありません。

もっとも,同居している被疑者の身元引受人となるよう求められ,これを拒んだ場合,被疑者に不利益が生じる可能性は考えられます。身元引受人が拒んだから逮捕をする,ということはあまりありませんが,所在確認のために警察が自宅に訪れることは珍しくありません。そうすると,周囲の人々に警察と関わっている事実が分かってしまい,私生活に影響を及ぼす恐れがあり得ます。

被疑者が同居の家族であって今後も同居を予定している,という場合には,可能な限り身元引受人としての呼び出しに応じる方が無難なケースが多いでしょう。

③被疑者の場合

被疑者に対する呼び出しは,取り調べを行うための方法の一つとして行われるものです。この点,捜査機関が被疑者の取り調べを行う方法は,逮捕して強制的に行うか,呼び出しをして任意の出頭を求めるかの二択であることが通常です。

被疑者を取り調べる方法

1.逮捕をして強制的に行う
2.呼び出して任意の出頭を求める

この点,呼び出しても任意に出頭してくれないとなると,取り調べをするためには逮捕をするほかない,という判断になる可能性もあり得ます。二択のうち一方がダメであった以上,もう一方の方法が取られるのは自然なことであるためです。

そのため,被疑者として呼び出しを受けた場合,可能な限り応じることが適切になりやすいでしょう。もちろん,あまりに回数が多かったり,あまりに時間が長かったりという場合には,その点の配慮を求めることは全く問題ありませんが,呼び出しを徹頭徹尾拒む,というスタンスを取って被疑者自身が得をすることはあまりないと考えるのが適切です。

ポイント 呼び出しを拒む行動の注意点
参考人の場合,拒むことで事件への関与を疑われないように注意
身元引受人の場合,同居する被疑者への不利益に注意
被疑者の場合,拒んだことで逮捕を誘発する可能性に注意

呼び出された場合に弁護士へ依頼するメリット

被疑者として警察に呼び出された場合には,弁護士に依頼をすることが有益になりやすいです。具体的には,以下のようなメリットが生じます。

①逮捕を回避できる

呼び出しがなされた場合,そのまま逮捕されるというケースも否定できないところです。呼び出しに応じた流れで逮捕されると,その後に弁護士への相談や依頼をすることは困難となり,一定期間の身柄拘束を強いられてしまいます。

この点,呼び出された段階で弁護士に依頼し,弁護士を通じて適切な対応を取ることで,逮捕を回避できる場合があります。具体的に逮捕を回避するための手段は,ケースによっても異なりやすいため,弁護士と十分に相談するようにしましょう。

②不適切な取り調べを防げる

警察に呼び出された際の取り調べは,捜査担当者のやり方によっては違法・不適切なものになる場合もあり得ます。強く恫喝されたり,侮辱的な発言を受けたりと,取り調べがヒートアップするほど精神的苦痛を伴うケースが珍しくありません。

この点,弁護士に依頼をしている場合,捜査担当者による不適切な取り調べは多くの場合で防ぐことが可能です。これは,捜査担当者が,弁護士の目があることに配慮するためです。
不適切な取り調べを行えば,後から弁護士を通じて問題視される可能性があるため,不用意な取り調べは行えない,というわけです。

弁護士の目を光らせる意味でも,呼び出しに際して弁護士に依頼することは有力な手段でしょう。

③前科を防げる

被疑者として呼び出される場合,その後に起訴されて前科が付く可能性を想定する必要があります。被疑者として呼び出されるということは,自分に対して捜査が行われていることが明らかであるため,その先に控える処分に無関心でいるわけにはいきません。

この点,呼び出しという早期の段階で弁護士に依頼することで,適切な弁護活動を尽くしてもらい,前科を防げる可能性が高くなります。被害者のいる事件であれば被害者との示談を目指す,否認事件であれば自分が犯人でないことを主張するなど,個別のケースに応じた適切な弁護活動を通じて,前科を防ぐ試みができるのは大きなメリットになるでしょう。

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【交通事故加害者の逮捕】逮捕されやすいケース・されにくいケースは?避けるためには?

このページでは,交通事故加害者の逮捕に関して,刑事弁護士が徹底解説します。逮捕の可能性はどの程度あるか,逮捕を避ける方法はあるか,逮捕された場合に釈放を目指す方法はあるかなど,対応を検討する際の参考にしてみてください。

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交通事故加害者が逮捕される可能性

交通事故加害者の場合,逮捕される可能性は否定できません。その背景には,交通事故が発生すると,自動車運転者には警察に報告をする義務が生じるため,基本的に現行犯で事件が発覚する,という点があります。現行犯で取り締まる際には,逃亡や証拠隠滅の可能性を直ちに詳細に確認することが難しいため,確認不足による不利益を避けるため,逮捕に踏み切るという例が散見されます。

もっとも,これは交通事故のケースで逮捕の可能性が高い,という意味ではなく,個別事件における逮捕の可能性はそれぞれの事情によって大きく変わります。それほど重大ではない交通事故であれば,逮捕されない方が通常とも言えるでしょう。
なお,一般的に逮捕の可能性が高くなるケースとしては,以下のような場合が挙げられます。

交通事故で逮捕の可能性が高くなるケース

1.被害結果が重い
→死亡事故など,被害結果が重大である場合

2.重大な交通違反がある
→酒気帯び運転,無免許運転,極端な速度超過など,重大な交通違反を伴う場合

3.現行犯で逃亡が懸念される
→事故直後に当事者間でトラブルが起きた,その場を去ろうとした,という場合

逮捕の種類・方法

法律で定められた逮捕の種類としては,「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」が挙げられます。それぞれに具体的なルールが定められているため,そのルールに反する逮捕は違法ということになります。逮捕という強制的な手続を行うためには,それだけ適切な手順で進めなければなりません。

①現行犯逮捕

現行犯逮捕とは,犯罪が行われている最中,又は犯罪が行われた直後に,犯罪を行った者を逮捕することを言います。現行犯逮捕は,逮捕状がなくてもでき,警察などの捜査機関に限らず一般人も行うことができる,という点に特徴があります。

典型例としては,目撃者が犯人の身柄を取り押さえる場合などが挙げられます。犯罪の目撃者であっても,他人の身柄を強制的に取り押さえることは犯罪行為になりかねませんが,現行犯逮捕であるため,適法な逮捕行為となるのです。

ただし,現行犯逮捕は犯行と逮捕のタイミング,犯行と逮捕の場所それぞれに隔たりのないことが必要です。犯罪を目撃した場合でも,長時間が経った後に移動した先の場所で逮捕するのでは,現行犯逮捕とはなりません。

なお,現行犯逮捕の要件を満たさない場合でも,犯罪から間がなく,以下の要件を満たす場合には「準現行犯逮捕」が可能です。

準現行犯逮捕が可能な場合

1.犯人として追いかけられている

2.犯罪で得た物や犯罪の凶器を持っている

3.身体や衣服に犯罪の痕跡がある

4.身元を確認されて逃走しようとした

ポイント
現行犯逮捕は,犯罪直後にその場で行われる逮捕
捜査機関でなくても可能。逮捕状がなくても可能

②通常逮捕(後日逮捕)

通常逮捕は,裁判官が発付する逮捕状に基づいて行われる逮捕です。逮捕には,原則として逮捕状が必要であり,通常逮捕は逮捕の最も原則的な方法ということができます。

裁判官が逮捕状を発付するため,そして逮捕状を用いて通常逮捕するためには,以下の条件を備えていることが必要です。

通常逮捕の要件

1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。

2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。

通常逮捕の要件がある場合,検察官や警察官の請求に応じて裁判官が逮捕状を発付します。裁判官は,逮捕の理由がある場合,明らかに逮捕の必要がないのでない限りは逮捕状を発付しなければならないとされています。

ポイント
通常逮捕は,逮捕状に基づいて行う原則的な逮捕
逮捕の理由と逮捕の必要性が必要

③緊急逮捕

緊急逮捕は,犯罪の疑いが十分にあるものの,逮捕状を待っていられないほど急速を要する場合に,逮捕状がないまま行う逮捕手続を言います。

緊急逮捕は,逮捕状なく行うことのできる例外的な逮捕のため,可能な場合のルールがより厳格に定められています。具体的には以下の通りです。

緊急逮捕の要件

1.死刑・無期・長期3年以上の罪
2.犯罪を疑う充分な理由がある
3.急速を要するため逮捕状を請求できない
4.逮捕後直ちに逮捕状の請求を行う

緊急逮捕と現行犯逮捕は,いずれも無令状で行うことができますが,緊急逮捕は逮捕後に逮捕状を請求しなければなりません。また,現行犯逮捕は一般人にもできますが,緊急逮捕は警察や検察(捜査機関)にしか認められていません。

緊急逮捕と現行犯逮捕の違い

現行犯逮捕緊急逮捕
逮捕状不要逮捕後に請求が必要
一般人の逮捕可能不可能

逮捕後の流れ

逮捕されると,警察署での取り調べが行われた後,翌日又は翌々日に検察庁へ送致され,検察庁でも取り調べ(弁解録取)を受けます。この間,逮捕から最大72時間の身柄拘束が見込まれます。
その後,「勾留」となれば10日間,さらに「勾留延長」となれば追加で最大10日間の身柄拘束が引き続きます。この逮捕から勾留延長までの期間に,捜査を遂げて起訴不起訴を判断することになります。

逮捕から起訴までの流れ

ただし,逮捕後に勾留されるか,勾留後に勾留延長されるか,という点はいずれの可能性もあり得るところです。事件の内容や状況の変化によっては,逮捕後に勾留されず釈放されたり,勾留の後に勾留延長されず釈放されたりと,早期の釈放となる場合も考えられます。

逮捕をされてしまった事件では,少しでも速やかな釈放を目指すことが非常に重要になりやすいでしょう。

ポイント
逮捕後は最大72時間の拘束,その後10日間の勾留,最大10日間の勾留延長があり得る
勾留や勾留延長がなされなければ,その段階で釈放される

逮捕による不利益

逮捕をされてしまうと,以下のように多数の不利益が見込まれます。

①社会生活を継続できない

逮捕をされてしまうと,身柄が強制的に留置施設へ収容されてしまうため,日常の社会生活を続けることができません。スマートフォンの所持も許されないので,外部の人と連絡を取ることも不可能です。
そのため,周囲と連絡等ができないことによる様々な問題が生じやすくなります

また,逮捕後勾留されるまでの間は,原則として弁護士以外の面会ができません。面会によって最低限の連絡を図ろうと思っても,勾留前の逮捕段階では面会すら叶わないことが一般的です。
さらに,勾留後についても,接見禁止決定がなされた場合には弁護士以外の面会ができません。

②仕事への影響

逮捕された場合,仕事は無断欠勤となることが避けられません。その後,身柄拘束が長期化すると,それだけの間欠勤をし続けなければならないことにもなります。こうして仕事ができないでいると,仕事への悪影響を回避することも難しくなります。

また,逮捕によって勤務先に勤め続けることが事実上難しくなる場合も考えられます。
逮捕は罰則ではなく捜査手法の一つに過ぎないため,逮捕だけを理由に懲戒解雇されることは考え難いですが,一方で仕事の関係者に自分の逮捕が知れ渡ると,事実上仕事が続けられなくなるケースも珍しくはありません。

③家族への影響

逮捕されると,通常,同居の家族には捜査機関から逮捕の事実が告げられます。場合によっては,家族が逮捕に伴う各方面への対応を強いられることも考えられます。また,家族にとっては,被疑者が逮捕された,という事実による精神的苦痛も計り知れず,一家の支柱が逮捕された場合には経済的な問題も生じ得ます。

このように,逮捕は本人のみならず家族にも多大な影響を及ぼす出来事となりやすいものです。

④報道の恐れ

刑事事件は,一部報道されるものがありますが,報道されるケースの大半が逮捕された事件の場合です。通常,逮捕された事件の情報が警察から報道機関に通知され,報道機関はその情報を用いて刑事事件の報道を行うことになります。
そのため,逮捕された場合は,そうでない事件と比較して報道の恐れが大きくなるということができます。

万一実名報道の対象となり,氏名や写真とともに逮捕の事実が公になると,その記録が後々にまで残り,生活に重大な支障を及ぼす可能性も否定できません。
一般的には,重大事件や著名人の事件,社会的関心の高い事件など,報道の価値が高い事件が特に報道の対象となりやすいため,逮捕=報道ということはありませんが,逮捕によって報道のリスクを高める結果が回避できるに越したことはありません。

⑤前科が付く可能性

逮捕と前科に直接の関係はありませんが,逮捕されるケースは重大事件と評価されるものであることが多いため,事件の重大性から前科が付きやすいということが言えます。
逮捕をするのは逃亡や証拠隠滅を防ぐためですが,逃亡や証拠隠滅はまさに前科を避ける目的で行われる性質のものです。そのため,逮捕の必要が大きいということは前科が付く可能性の高い事件である,という関係が成り立ちやすいでしょう。

交通事故加害者が逮捕を避ける方法

①事故直後の対応

自動車の運転中に交通事故が発生した場合,自動車運転者には,被害者を救護する義務(救護義務)と警察に事故発生を報告する義務(報告義務)が発生します。まずは被害者の容態を確認し,110番通報をする必要があるということですね。

これらの義務を果たすことで,やむを得ず交通事故の発生が警察に知られることにはなります。場合によっては,そのまま逮捕される可能性も否定できません。しかしながら,救護義務と報告義務をしっかりと果たすことは,逮捕を避けるため非常に重要な対応です。

交通事故加害者が,被害者への救護義務を怠ってその場を去ることを,俗にひき逃げと言います。逮捕は,加害者の逃亡を防ぐために行われる手続であるため,実際に事故現場から逃亡した人物に対しては,逮捕の必要性が非常に高くなってしまうことになるでしょう。
ひき逃げとなることを防ぎ,逮捕が必要との判断を自ら招かないよう,事故直後に救護義務や報告義務を尽くすことは極めて重要と言えます。

②取調べや実況見分への協力

交通事故の捜査では,警察署等での取調べや,事故現場の実況見分(現場の道路状況や事故発生状況の確認)が行われます。捜査機関としては,これらの捜査が円滑に進むのであれば,特に被疑者を逮捕する必要はないとの判断に至ることが多数でしょう。

そのため,加害者側の対応方針としては,捜査機関による取調べや実況見分には積極的に協力し,捜査手続の円滑化に配慮した動きを取ることが適切です。このような対応は,速やかな手続の進行にもつながるため,より早期の事件解決も期待しやすくなるでしょう。

③被害者側への対応

交通事故の場合,被害者側への真摯な対応が尽くされている状況であれば,殊更に逮捕すべきとの判断はなされないことが非常に多く見られます。逮捕勾留によって当事者間の連絡手段を断ってしまうことは,かえって被害者の救済を困難にする結果になりかねず,特段の必要がなければ逮捕を控える要因となりやすいでしょう。

そのため,加害者にとっては,被害者側にできる限りの対応を尽くすことが,逮捕回避にもつながる適切な方法と言えます。被害者への真摯なお詫び等の動きは,道徳的にも望ましい上,被害者側の許しにもつながれば最終的な処分にも有益な効果が期待できるため,行わないメリットはないでしょう。

交通事故加害者の逮捕は弁護士に依頼すべきか

交通事故加害者の立場で逮捕への対応を検討する場合には,弁護士への相談・依頼を行うことが適切です。専門的な弁護士への依頼により,以下のような利点があるでしょう。

①見通しを持つことができる

交通事故の場合,逮捕回避の努力を尽くすべきケースもあれば,特に逮捕を懸念する必要がないケースもあります。実際の事件がどちらのケースに当たるかを事前に理解できていれば,その後の対応が格段に容易なものとなることは間違いありません。

この点,弁護士に依頼し,専門的な判断をしてもらうことができれば,個別の事件内容を踏まえた逮捕リスクの見通しを把握することが可能になります。あわせて,見通しを踏まえた具体的な対策についても案内が得られるため,安心して適切な対応を尽くすことができるでしょう。

②捜査への対応方針が分かる

交通事故の場合,捜査への適切な対応ができれば,それのみで逮捕を回避できる場合も少なくはありません。逆に,捜査への対応が不適切なものだと,逮捕リスクに影響し得るほか,手続の長期化を招く可能性もあり,大きな不利益につながりかねないところです。

この点,弁護士に依頼すれば,個別の事件内容に応じて適切な対応方針を検討・判断してもらうことができます。この点は,当事者自身が判断することの難しい問題であるため,弁護士に依頼することの重要性が非常に大きいポイントと言えます。

③被害者側とのやり取りが円滑になる

多くの交通事故では,当事者間でのやり取りが不可欠ですが,加害者自身が被害者側と連絡や交渉を行うのは現実的に困難と言わざるを得ません。自身の希望を表明しづらい立場である上,そもそも自身の主張は適切な内容なのかを判断することも容易ではないでしょう。

この点,弁護士に依頼した場合には,弁護士が被害者との連絡窓口となるため,直接のやり取りを要することなく円滑な対応が被害者可能になります。また,加害者側の主張を法的に検討し,適切な主張のみを適切な方法で表明していくことも可能です。

交通事故加害者の逮捕に関する注意点

①現行犯逮捕の場合

交通事故加害者に対する逮捕は,現行犯逮捕となることが非常に多く見られます。事故発生の報告を受けた警察が現場に駆け付け,その流れで逮捕に至る,ということが典型例です。

この場合,事故発生から逮捕までの間に時間的な猶予があまりないことが見込まれます。そのため,逮捕を未然に防ぐための対応を取ることが現実的に難しく,逮捕後の対応とならざるを得ない点に注意しておくことが必要です。

なお,事故現場では,現行犯逮捕の必要性が高くないことをできる限り示すため,極力冷静で真摯な対応を心掛けることが有益でしょう。

②後日逮捕の可能性

交通事故で想定される逮捕には,大きく分けて現行犯逮捕と後日逮捕の2種類があります。このうち,後日逮捕とは,事故当日でなく後日の段階で,逮捕状を用いて行われる逮捕手続で,法的には通常逮捕と呼ばれます。

この点,交通事故の場合,一般的には後日逮捕が選択されるケースはあまりないと言えるでしょう。少なくとも,あえて現行犯逮捕でなく後日逮捕を選択することは考えにくいところです。
交通事故の場合,後日の逃亡や証拠隠滅が懸念されることは類型的に少数であるため,捜査に対して適切な対応さえ尽くしていれば,後日逮捕の心配は不要であることが通常でしょう。

③逮捕後の考え方

交通事故加害者として逮捕された場合,そこで止まってしまうのではなく,速やかに早期釈放に向けた動きを進めることが重要です。なぜなら,交通事故の場合,逮捕されたとしても早期の釈放が実現できるケースは少なくないからです。

逮捕をされると,最長72時間以内に,「勾留」という10日間の身柄拘束に移るかどうかが判断されます。勾留された場合には,さらに最長10日間の「勾留延長」がなされる可能性もあるため,逮捕及び勾留はトータルで最長22~23日程度になることがあります。

逮捕から起訴までの流れ

交通事故の場合には,逮捕後に勾留をされるかどうかが非常に大きな分岐点であり,勾留を回避できるケースも相当数見られることに特徴があります。勾留されなければ,身柄拘束は最長でも2~3日にとどまるため,生活への影響は最小限にとどめることが可能です。

逮捕後には,できるだけ速やかに早期釈放を目指すことをお勧めします。

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【交通事故の不起訴処分】交通事故加害者が不起訴となるために必要な対応や注意点を詳細解説

このページでは,交通事故事件の不起訴処分について知りたい方へ,不起訴処分を目指す方法や不起訴処分となった場合のメリットなどを弁護士が徹底解説します。不起訴処分を目指す場合の参考にしてみてください。

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交通事故事件で不起訴を目指す方法

①被害者対応を尽くす

交通事故は,特定の被害者に対する事件であるため,被害者の意向が刑事処分を左右しやすい傾向にあります。過失の程度や被害者の受傷結果があまりに著しいケースでなければ,被害者の意向によって起訴不起訴の処分結果が分かれる場合も決して少なくはありません。

そのため,交通事故の事件で不起訴を目指す手段としては,まずどれだけ被害者へのお詫びの対応を尽くせるか,という点が非常に重要となるでしょう。被害者側の意向は,どうしても感情的な面に大きく影響を受けることになるため,感情面に最大限配慮したお詫びの動きが取れれば,有益な結果につながりやすいと言えます。

ポイント
交通事故の処分は被害者の意向に大きく影響を受ける
被害者の感情面に配慮したお詫びの対応が重要

②適切な法的評価を促す

交通事故によって加害者が刑事処分を受けるのは,加害者の行為に「過失」があるためです。過失とは,注意義務違反(注意すべき義務があったのに必要な注意を怠ったこと)をいい,具体的にどのような注意義務が課せられ,どのような義務違反があったか,という点は,個別のケースによるところです。
そして,刑事処分の程度は,過失の程度に比例して重くなるとの取り扱いが一般的とされます。センターオーバーや追突事故のように一方だけに過失のある事故か,被害者側にも相当程度の過失が認められる事故かによって,刑事処分は大きく異なってきます。

交通事故の場合,加害者とされる人の過失がさほど大きくないケースだと,他の事情も踏まえて不起訴処分の対象となることも相当数見受けられます。そのため,過失の程度が大きくないと主張すべきケースでは,過失の程度に関して適切な評価をするよう求めることで,不起訴処分を促す動きも有力になり得るでしょう。

ポイント
交通事故の刑事処分は過失の重さに比例しやすい
過失が小さい場合,不起訴処分の判断材料となり得る

③再発防止

刑事処罰が科せられる目的の一つに,加害者の再発防止を促す目的が挙げられます。「犯罪を犯すと大きな不利益(=刑罰)を受けなければならない」ということを経験的に理解させ,再発を踏みとどまらせる効果を期待する,ということです。
もっとも,交通事故の場合,そもそもが故意に起こした事件ではないため,再発を踏みとどまらせるために刑罰を科す必要が決して大きいとは言えません。そのため,交通事故では,刑罰以外の方法で再発防止の見込みが立つのであれば,再発防止の意味を込めて刑事処罰を科す積極的な意味はとても小さいと理解されるところです。

したがって,交通事故で不起訴処分を目指す手段としては,具体的な再発防止策を検討し,実行することが非常に有力でしょう。具体的な再発防止策の内容は,事故の原因等によって異なるため,個別に弁護士などと相談し,検討することをお勧めします。

ポイント
刑罰には再発防止の目的がある
刑罰を科さずとも再発防止が見込める場合,不起訴処分が有力になる

④交通違反が伴う場合

交通事故の事件では,事故の発生原因や事故前後の運転行為に,交通違反が伴うケースも少なくありません。そのため,交通違反を伴う交通事故では,交通違反の重大さを踏まえた検討・対応が必要となるでしょう。

この点,それ自体が犯罪として処罰されるような交通違反がある場合,不起訴処分は容易ではなくなるため,不起訴を目指す積極的な試みは不可欠と言えるでしょう。例えば,速度超過をした上で交通事故を起こした場合,速度超過の分だけ刑事責任が重くなることに配慮した努力が必要となります。

また,酒気帯び運転など,交通違反の程度が著しい場合には,そもそも不起訴を目指すことが現実的でない可能性もあります。手段を尽くしてもなお起訴を免れないケースは珍しくないため,弁護士に見通しを判断してもらうなど,事前の検討を十分に行うことが適切です。

ポイント
犯罪として処罰されるような交通違反があると,不起訴は容易でない
程度が著しい交通違反の場合,不起訴が現実的でないことも

交通事故事件で不起訴になる可能性

交通事故の場合,不起訴となる可能性は十分に考えられます。もちろん,ケースによっては不起訴処分の見込みが現実的にない場合もありますが,一般的な交通事故であれば,不起訴処分を目指す努力は十分に結果を左右し得ると考えてよいでしょう。

交通事故で不起訴の可能性が十分に考えられる大きな理由の一つが,過失犯であるという点です。交通事故は,わざと引き起こしているわけではなく,加害者自身も希望しないまま,不注意で起きてしまうものであるため,刑事責任は故意犯に比べて小さく評価されることが一般的です。起訴不起訴の判断は,事件ごとの刑事責任の重さを重要な基準とするため,交通事故が過失犯であることによる責任の小ささは,不起訴処分の可能性を高くする事情と言えます。

一方,過失犯であっても,刑事責任が重く評価されざるを得ない場合には,安易に不起訴を見込むわけにはいきません。交通事故の場合,被害者側に全く落ち度がない場合や,被害者に深刻な損害を与えた場合には,刑事責任が重大であると評価され,不起訴処分の可能性は低下しやすいでしょう。

ポイント
不起訴の可能性は,刑事責任の重さに大きく左右される
過失犯である交通事故は,故意犯よりも刑事責任が小さく評価されやすい

不起訴の意味・種類

不起訴処分とは,検察官が事件を起訴しないとする処分をいいます。不起訴になった事件は,裁判の対象にならず,刑罰が科せられる可能性がなくなるため,前科がつくこともなくなります。

不起訴処分には,以下のような類型があります。

不起訴処分の類型

1.嫌疑なし
捜査の結果,犯罪の疑いがないと明らかになった場合です。真犯人が明らかになった場合などが代表例です。

2.嫌疑不十分
捜査を遂げた結果,犯罪を立証するための証拠が不十分であり,犯罪事実を立証できないと判断された場合です。具体例としては,犯人が特定できない場合などが挙げられます。

3.起訴猶予
犯罪事実は明らかに立証できるものの,犯罪者の年齢や性格,過去の経歴,犯行動機,犯罪後の事情などを踏まえ,検察官があえて起訴をしない場合です。被害者と示談が成立した場合などが代表例とされます。

4.その他の類型

・訴訟条件を欠く場合
→被疑者が死亡した場合,公訴時効が完成した場合など

・罪とならず
→被疑者の行為が犯罪に当たらない場合,被疑者が14歳未満の場合など

なお,犯罪事実が間違いなくある認め事件の場合,不起訴になる手段は基本的に「起訴猶予」を目指す以外にありません。起訴猶予は,検察官から大目に見てもらうという意味合いの処分であるため,認め事件では誠意ある対応を尽くすことが非常に重要となるでしょう。

ポイント
不起訴処分には,嫌疑なし,嫌疑不十分,起訴猶予等の類型がある
認め事件では起訴猶予を目指す必要がある

逮捕と不起訴の関係

逮捕をされてしまった場合でも,不起訴にならないわけではありません。逮捕された事件の最終的な処分が不起訴となって終了することは,数多く見られるところです。一方,逮捕されなかった事件(いわゆる在宅事件)でも不起訴処分になるとは限らず,在宅事件の処分が起訴という場合も珍しくありません。

これは,逮捕が捜査を行う手段の一つであるのに対し,不起訴が捜査の結果なされる処分であることに原因があります。
刑事事件の捜査は,逮捕をするかしないか,いずれかの方法で進行しますが,いずれの捜査手法を取ったとしても,起訴されるか不起訴となるかは同様に判断されることとなるのです。

刑事手続の流れ

なお,起訴されやすい事件が逮捕されやすい,という側面はあります。起訴されやすい事件は,類型的に重大な事件であることが多いところ,重大な事件では,重い処分を免れるために逃亡や証拠隠滅をされる恐れが大きいと判断される傾向にあると考えられます。そのため,被疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぐための逮捕が必要になりやすいのです。
裏を返せば,逮捕された事件では,不起訴を獲得するにはより積極的な努力が必要となりやすいでしょう。弁護士に相談の上,不起訴を目指すために適切な対応を試みるようにしましょう。

ポイント
逮捕は捜査の手段,不起訴は捜査を終えた後の処分
逮捕と不起訴は両立する
起訴されやすい事件は逮捕されやすい傾向にある,という側面も

不起訴になった場合の効果

不起訴処分となった場合には,以下のような効果が生じます。

①前科がつかない

前科とは,刑罰を科せられた経歴を指しますが,不起訴となった場合には刑罰が科せられません。そのため,不起訴となれば刑罰の経歴=前科がつくことなく,刑事手続が終了することになります。

そして,前科がつかないことには,以下のようなメリットがあると考えられます。

前科がつかないことのメリット

1.資格に対する影響を避けられる

国家資格を用いた職業の場合,前科によって資格制限が生じると,仕事の継続ができない可能性が生じてしまいます。
前科がつかなければ,資格制限は生じず,仕事への悪影響もありません

2.就職・転職への影響を避けられる

前科のあることは,就職や転職の差異に不利益な事情として考慮されやすい傾向にあります。
前科がつかなければ,履歴書に前科を記載する必要もなく,就職先に刑事事件のことを知られずに済みます

3.海外渡航の制限を避けられる

前科がある場合,パスポートやビザ,エスタなどの手続に悪影響が生じ,海外渡航が認められない場合があります。
前科がつかなければ,海外渡航の制限が生じる事情もなくなるため,海外渡航を自由に行うことが可能です。

②釈放される

不起訴処分となった場合,身柄拘束されている状況であれば速やかに釈放されます。不起訴処分が出た以上,捜査のために身柄拘束を継続する必要がなくなるためです。

③逮捕されない

不起訴処分とされた事件では,その後に逮捕されることがありません。逮捕は,捜査を行う場合の選択肢の一つであるところ,不起訴処分によって捜査が終了するため,逮捕を行う余地もなくなるからです。
ただし,余罪がある場合には,余罪での逮捕が行われる可能性が残ります。

④取り調べを受けない

不起訴処分によって捜査が終了するため,警察や検察から取り調べを受けることがなくなります。もっとも,不起訴処分は今後の捜査を禁じるものではないため,新しい証拠が発見された場合には捜査が再開され,改めて取調べを受ける場合もあり得るところです。

交通事故事件で不起訴を目指す場合の注意点

①被害者の意向の重大性

交通事故の刑事処分を左右する事情は複数ありますが,その中でも非常に重要であるのは被害者の意向です。刑事処分を直接決定づけることができるのは,被害者の意向以外にないと言っても過言ではありません。
また,刑事処分の判断材料のうち,事後的に内容が変わり得る唯一の点としても,被害者の意向は重要な位置づけにあります。過失や怪我の程度は,事故が発生した後に結果が変わるものではありませんが,被害者の意向だけは事故後の心境の変化などによって内容が大きく変わり得るため,不起訴を目指すのであれば最大限の努力を注ぐべきポイントと言えるでしょう。

交通事故加害者が被害者の心情に配慮するということは,道義的にも適切な動きであるため,加害者としては積極的に努力をしていきたいところです。

②保険会社に委ねられる内容・範囲

交通事故の場合,自動車保険会社が加害者に代わって被害者側とやり取りをしてくれるのが通常です。任意保険に加入している場合,当事者間で連絡を取り合うのではなく,保険会社担当者と被害者との間で連絡を取り合うことが一般的でしょう。

もっとも,保険会社に被害者への対応を委ねることによって不起訴処分が目指せるか,というと,そうではありません。なぜなら,保険会社は刑事処罰に関する被害者の意向に配慮する立場にはないからです。
保険会社は,加害者がすべき金銭賠償を代わりに行う役割を担います。逆に,金銭賠償と関係のない事柄については,保険会社が介入することは許されていません。

保険会社に被害者とのやり取りを委ねても,不起訴を目指す動きとしては不十分である,という点に注意することをお勧めします。

③過失やケガの程度を争うことの問題点

交通事故の場合,加害者の過失や被害者の怪我の程度は様々です。そして,過失の程度や怪我の程度によって,刑事処分は異なってくることになります。
そのため,加害者の立場としては,実際よりも過失や怪我の程度を大きく見積もられていると考える場合,この点を争う方針もあり得るところです。

もっとも,過失や怪我の程度がさほど大きくない,との主張は,犯罪が成立するかどうかとは無関係な主張であるということに注意が必要です。この主張は,「過失や怪我の程度が大きくないから処分を軽くしてほしい」という意味合いのものであり,いわゆる情状の一内容にとどまるのです。

そのため,過失や怪我の程度を主張する場合には,「温情的な判断を期待する動きだ」ということを十分に理解し,主張する際のスタンスや主張の仕方を誤らないように注意することが適切でしょう。

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【交通事故加害者の弁護士選び】要否や判断基準,弁護士選びの注意点などを網羅

このページでは,交通事故加害者の弁護士選びについてお悩みの方へ,弁護士が徹底解説します。弁護士への依頼を検討する際の参考にご活用ください。

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交通事故加害者が弁護士を選ぶタイミング

①事故直後

交通事故の場合,事故直後に加害者自身が警察を呼ぶなどし,必要な手続を尽くす必要があります。これは,交通事故が発生した際に,自動車運転者には警察へ報告する義務が生じるためです。
そうすると,交通事故では,基本的にすべての事件が発生直後から警察による取り扱いの対象となります。つまり,事故直後の段階から,既に将来的な刑事処分を見据えた対応の必要が生じているというわけです。

しかも,事故直後の手続では,現場の実況見分を合わせて行うケースもありますが,実況見分は加害者の責任の程度に関する重要な証拠となるものです。実況見分に際しては,個別のケースに応じて生じ得る争点を整理した上で,不要な不利益を招かない対応が必要となります。

そのため,交通事故加害者の場合には,事故直後の時点で弁護士を選び,順次進む手続に対して適切な対処を取っていくことが不可欠です。事故直後は,弁護士に依頼をするべき重要なタイミングと言えるでしょう。

ポイント
交通事故の場合,事故直後に警察を呼ぶことになる
早期に実況見分が行われ,重要な証拠となり得る

②被害者側と連絡を取るとき

交通事故の場合,金銭賠償が必要となるため,継続的に被害者側と連絡を取り合うことになる,という点に特徴があります。自動車保険に加入している場合は,保険会社にやり取りの多くを委ねることができますが,保険会社への引継ぎまでは,どうしても当事者間で連絡を取ることになります。
また,保険会社が対応を始めた後でも,保険会社が対応できない点については当事者間で解決する必要があります。保険会社は,当事者の代わりに被害者への金銭賠償を行ってくれますが,金銭面の問題以外には介入することができないため,この点はやはり当事者間での直接の連絡を要します。

被害者側との連絡は,その心情に配慮するため,細心の注意を払って行う必要がありますが,加害者という立場で適切な応対を判断し,続けるのは,非常に大きな負担を伴うものです。
そのため,被害者側との連絡に際しては,適切な弁護士を選び,専門性ある弁護士から指示や助言を受ける形で進めることを強くお勧めします。被害者側との連絡が円滑にできれば,最終的な事件解決にとっても非常に有益な効果が期待できるでしょう。

ポイント
交通事故は,当事者間での連絡を要する点に特徴がある
被害者側への連絡に細心の注意を払うため,事前に弁護士選びを行いたい

③取調べを受ける前

交通事故では,当日に事故の処理をした後,後日に改めて取調べを受ける流れが非常に多く見られます。そして,最終的な刑事処分の検討は,その取調べの内容を踏まえて行われるため,取調べでの応答がどのようなものであったかは,刑事処分に直結するケースもあります。

もっとも,どのような取調べ対応が適切であるかは,個別具体的な内容によって異なってくるため,加害者自身が正確に把握することの困難なものです。刑事事件の専門家に判断を仰ぎ,刑事処分のために有益な対応を尽くすことを強くお勧めします。
取調べを受ける前のタイミングは,万全の回答を準備するために弁護士を選ぶべき時期と言えるでしょう。

ポイント
取調べ内容が最終的な刑事処分の結果に直結するケースもある
適切な取調べ対応の具体的内容は,個別の事件によって異なる

④起訴された後

交通事故では,過失の程度や被害結果の程度が大きい場合,起訴されて公開の裁判(公判)を受ける流れになる場合も否定できません。特に,以下のような場合には起訴の上で公開裁判の対象となりやすいでしょう。

公開裁判の対象となりやすい交通事故

1.被害者に過失のない事故
→横断歩道歩行中,加害者のセンターオーバー・追突など

2.被害者が死亡した事故
→被害結果が最も大きい類型

この点,公開裁判の対象となる場合には,公開の法廷でどのように対応すべきか,事前に準備をする必要があります。適切な準備を怠ってしまうと,裁判所の判決に重大な悪影響が生じる可能性も十分に考えられるところです。
そのため,起訴された後,公開裁判を控える時期には,必ず弁護士選びを行い,適切な弁護士のサポートを受けるようにしましょう。

交通事故加害者の弁護士を選ぶ基準

①交通事故加害者の弁護に精通しているか

交通事故加害者の刑事事件は,特に被害者側とのやり取りに特徴があります。そのため,他の事件類型と同じように被害者側への対応を行おうとすると,被害者側の悪感情を招くなど,当事者間の解決にとって不利益な状況となりかねません。

そのため,交通事故加害者の弁護士を選ぶ場合には,特に被害者側への対応方法に関して,交通事故の刑事弁護に精通しているかどうか,という点を重要な基準としましょう。判断方法としては,実際に被害者側への対応方針を質問し,どれだけ具体的な回答・案内が出てくるかを判断材料とすることが一案です。

②見通しの説明が具体的か

交通事故の刑事処分に関する見通しは,対応に精通した弁護士であればある程度の確度を持って想定できるケースも少なくありません。事故態様や被害結果,被害者側の意向など,様々な事情を考慮し,先例や経験に当てはめることで,一定の見通しを設けることも十分に可能であることが多いでしょう。

逆に,処分見通しが持てない場合,必要な前提知識や経験値に不足のある可能性が考えられます。もちろん,ピンポイントで見通しを立てることは困難ですが,処分が変わる条件ごとに場合分けをするなどして,あり得る処分の幅を具体的に案内してくれるかは,重要な判断基準とすることをお勧めします。

③弁護士と滞りなく連絡する手段があるか

交通事故の場合,被害者,加害者,保険会社,弁護士と複数の人物が関わり,そのそれぞれが連絡を取り合う可能性があります。この点,弁護士と加害者側の連絡が滞ってしまうと,やり取り全体に滞りが生じ,結果として事件解決が遠のいてしまいかねません。
また,加害者側との連絡が滞ってしまう弁護士は,多くの場合それ以外の相手との連絡も滞ってしまいがちです。万一,被害者との連絡がうまくできず,被害者側の感情面に悪影響が生じてしまうと,刑事処分にも大きなマイナスとなることが見込まれます。

そのため,弁護士選びに際しては,弁護士と滞りなく連絡を取る手段があるか,弁護士が円滑な連絡を取ってくれる人か,という点を判断基準の一つにするとよいでしょう。れらくの取り方や頻度は,完全に各弁護士の判断にかかっているため,この点は弁護士の個性や性格による面も少なくありません。

④事務所所在地

交通事故の場合,事故発生場所で捜査が行われ,事故発生場所を管轄する警察署で取り調べが実施され,被害者の居住地は事故発生場所と近いケースが多いなど,事故発生場所を起点とした動きが不可欠になります。そのため,弁護士が事故発生場所や近辺に出向く必要のある場合,法律事務所があまりに遠方であるのはデメリットと言えます。

そのため,弁護士選びに際しては,弁護士の所属する事務所所在地のアクセスを基準の一つとするのが有力です。ただし,事件や弁護活動の内容によっては,事務所所在地が問題にならないこともあります。弁護士と相談の上,アクセスの問題が解消できる場合には,それほど気にする必要はないでしょう。

交通事故加害者が弁護士を選ぶ必要

①被害者対応

交通事故の被害者対応は,少なくとも一部は加害者側が直接行わざるを得ません。一般的な刑事事件では,捜査機関が当事者同士の連絡先交換を許すことはありませんが,交通事故の場合には,金銭問題の解決を促すため,むしろ積極的に連絡先交換を促す方が通常です。
もっとも,加害者の立場で被害者対応を十分に行うのは容易でないため,やり取りを代理してくれる弁護士を選ぶことは,当事者間の解決にとって極めて重要と言えます。

②取り調べ対応

交通事故は,故意に起きる事件ではないため,犯罪の成立には「過失」が必要となります。過失とは,注意不足のことであり,加害者に法律上必要な注意不足がない場合,交通事故を犯罪として処罰することはできません。
ただ,何が過失に当たるのか,過失がないというべき場合はどのようなケースか,という点は,専門家でなければ判断の困難な問題です。しかし,過失がないと主張する否認事件では,どうして過失がないと言えるのか,という点を十分に整理し,根拠を持って主張することが不可欠です。

そのため,特に否認事件の場合には,取調べ対応を適切にするため弁護士を選ぶ必要性が高いと言えます。

③逮捕後の釈放

交通事故加害者となってしまった場合,事件が現行犯で発覚しやすいこともあり,捜査の開始段階で逮捕される場合も一定数見られます。特に,死亡事故のように重大な結果が生じてしまった交通事故の場合,逮捕の上で実名報道の対象となる運用も相当数見られるところです。

もっとも,交通事故はあくまで過失犯であり,故意に行った事件のように積極的な証拠隠滅が懸念されるわけではありません。そのため,逮捕後に身柄拘束を継続してまで証拠隠滅を防ぐ必要性は決した高くはなく,逮捕後の速やかな段階で釈放される事例も数多くあります。

そのため,交通事故加害者として逮捕された場合には,まず早期の釈放を目指すため,弁護士に依頼することが非常に有力です。早期釈放に至れば,生活への支障が最小限にとどまるため,その利益は極めて大きいものと言えるでしょう。

交通事故加害における弁護士選びの準備

①事故前後の状況をまとめる

交通事故加害者として捜査を受けることになる場合,その前後の状況によって刑事責任の重さや処分の見通しが大きく変わってくる場合があります。そのため,事故の直前直後の状況に関しては,できる限り漏れなく弁護士に共有することが適切です。
弁護士に共有すべき事故前後の状況としては,以下の点が挙げられます。

まとめるべき事故前後の状況

1.事故前の交通違反の有無
→飲酒運転,無免許運転,速度超過など

2.被害者の視認状況に関する事情
→どの時点で被害者を視認できたか,ライトやウインカーの有無はどうだったか等

3.当事者間の優先関係に関する事情
→信号表示など

4.事故後の対応
→その場を離れた事実があるか,誰が警察に通報したか等

②弁護士への要望をまとめる

弁護士選びに際しては,弁護士に依頼した場合に何を実現したいか,弁護士にどのような弁護活動を求めたいか,という要望を整理しておくことをお勧めします。

交通事故の場合,幸いにも過失犯であることから,それほど重大な刑罰の対象となることは決して多くありません。初犯で実刑判決の対象となってしまうのは,飲酒運転やひき逃げが伴ったケース,死亡事故で落ち度があまりに大きいケース,被害者が多数のケースなど,限定的ということができます。
そうすると,実刑判決さえ避けられれば足りる,という場合,その実現のためにどれほどのコストを費やすべきかは慎重な判断が望ましいでしょう。

一方,交通事故は機械的な処分も少なくありません。そのため,ケースによっては起訴を防ぐ手段がないという場合もあり得るところです。起訴を前提に,公開の裁判で適切な対応をすることを弁護活動の主な目的とする場合も考えられるでしょう。
ただ,この場合,不起訴という要望は実現が困難ということになります。不起訴を唯一の目的に弁護士選びをしているのであれば,起訴を防ぐ手段に乏しいと後から分かった場合,深刻なミスマッチの原因となりかねません。

弁護士への要望を整理することは,適切な弁護士選びをするため非常に重要な準備と言えるでしょう。

③迷いや悩みを言語化する

交通事故加害者となった場合に,弁護士に解決してほしい悩みは,個別のケースや当事者の希望によって様々に異なりやすいものです。取調べ対応に苦慮しているケース,被害者対応が円滑に進んでいないケース,保険未加入のため金銭賠償の方法に悩んでいるケースなど,他の事件類型よりも悩みに幅が生じやすいのも交通事故の特徴の一つでしょう。

そのため,弁護士から希望する案内をしてもらうための前提として,自分が抱えている迷いや悩みを,できるだけ具体的に言語化しておくことをお勧めします。弁護士は,自分から全て網羅的に案内するのでなく,相談者側の疑問に回答する形を取る場合が多いため,準備を怠ってしまうと希望する案内が得られない恐れもあり得るところです。

④予算を決める

弁護士への依頼には,やむを得ず弁護士費用の負担が必要となります。もっとも,具体的な弁護士費用の金額は,それぞれの法律事務所により異なるため,同じ弁護活動に対する弁護士費用が事務所ごとに違う可能性もあり得ます。

そのため,弁護士選びに際しては,その法律事務所の費用を支払うことが可能かを判断するため,予め予算を決めておくことが適切です。予算のイメージを弁護士側と共有することで,予算内で弁護活動ができるかどうかを案内してもらえるほか,弁護士によっては予算内で可能な弁護活動の内容や契約内容を柔軟に案内してもらえる可能性もあります。

交通事故加害で弁護士に依頼する場合の注意点

①保険会社の対応との関係

「被害者との示談は保険会社に任せていいのか」というご質問は,交通事故加害者の立場になった方からのご相談として非常に多く寄せられるものです。この点を正しく把握するためには,まず保険会社の役割を理解することが必要になります。

保険会社の役割は,加害者の代わりに被害者へ支払をするという点にあります。裏を返すと,その支払の限りでのみ,保険会社は加害者の代わりになることができる,という立場にあります。
もっとも,交通事故には金銭の支払の面(=民事事件)のみでなく,刑罰の面(=刑事事件)も同時にあります。保険会社は,民事事件に関する示談は代わりに行ってくれますが,刑事事件に関する対応には介入することができません。

そのため,「被害者との示談は保険会社に任せていいのか」という点への回答としては,「民事事件の面については任せてよい」となるでしょう。保険会社の行う示談が,刑事事件に対する十分なサポートではないというポイントは,十分に注意することをお勧めします。

②被害者への支払が生じる可能性

自動車保険(特に任意保険)に加入している場合,被害者の損害に対する支払は基本的に保険会社が行ってくれます。そのため,加害者自身が被害者に支払を行う必要は基本的にありません。
ただ,刑事処分をより軽微にすることを目指すため,被害者の許しを獲得しようとする場合,双方の希望によっては別途金銭を支払うケースもあり得ます。被害者としては,加害者を許しても特段のメリットはないため,加害者側が許しの獲得を強く希望する場合,対価を支払うことを合意する場合があるのです。

この点,当事者間で許しの対価として支払いを行う場合には,その支払が「金銭賠償(=保険会社が行うべき支払)とは別のものである」ということを明確にする必要があります。金銭賠償の一部と評価されてしまうと,保険会社からは支払ができなくなってしまう場合もあり得るため,十分な注意をお勧めします。

③被害者側への接触方法

多くの刑事事件では,当事者が直接連絡を取ったり接触したりすることは望ましくありません。加害者側が被害者側への接触を図る際には,弁護士を窓口にし,弁護士限りで被害者側への連絡を試みるのが適切とされています。

しかし,交通事故の場合には,当事者間で直接連絡先を交換する運用が広く行われています。その理由としては,過失犯であって当事者間のトラブルが生じにくいという点や,金銭賠償のために連絡を取り合うことが不可欠であるという点が挙げられます。

そのため,交通事故で加害者側が被害者側へ接触する場合,当事者自身も動く必要が生じやすいことに注意することが望ましいでしょう。保険会社や弁護士に依頼したからあとは任せてよい,という発想にならないよう気を付けたいところです。

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交通事故の慰謝料は整骨院で最大化できる?適切な通院方法を弁護士が解説

交通事故後の通院において、整骨院(接骨院)の利用は重要な手段の一つです。
特に、整形外科が遠方である、仕事などで時間内に通えない、問診しか取り扱っていないといった問題がある場合には、症状の回復を図るために整骨院(接骨院)を利用することはとても有益と言えます。

また、整骨院への適切な通院ができれば、交通事故の慰謝料がより大きな金額獲得できる可能性もあり得ます。適切な通院期間や通院方法を知ることは、金銭的解決にとっても重要な正当な慰謝料を受け取れる可能性が高まります。

この記事では、交通事故の被害に遭い、整骨院の利用を検討している方に向けて、
整骨院の利用方法や慰謝料との関係などについて、弁護士が解説します。
交通事故の適切な解決のため、参考にしていただければ幸いです。

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整骨院での通院慰謝料の基礎知識

①整骨院への通院でも慰謝料請求は可能か

交通事故の治療で整骨院への通院を選択した場合でも、慰謝料請求は可能です。ただし、整形外科での診察と治療指示を受けることが前提となります。整形外科に通院の上、主治医から整骨院の利用に関する指示又は許可が得られれば、必要な整骨院への通院であると評価でき、慰謝料請求の対象となるのが一般的です。

整骨院での施術部位や施術内容は、医師の診断や治療方針と矛盾しない範囲で行われることが重要です。例えば、整形外科で首に関する診断しかなされていない状況では、肩や背中への施術は必要なものとは評価されづらく、慰謝料の対象とはなりにくいでしょう。その点では、整形外科への通院時に自覚症状をもれなく伝えるなどして、主治医から適切な診断書を出してもらうことは大切な備えと言えます。

交通事故に伴う通院先は、基本的には被害者が自由に選択できる性質のものです。ただし、後日のトラブルを避けるためにも、整形外科医との連携を取りながら整骨院での治療を進めることが賢明でしょう。

自己判断で整骨院を利用した後、主治医から整骨院への通院を認めないと言われた場合、整骨院通院が慰謝料請求の対象にならないのみでなく、整骨院の施術費用が自己負担になりかねません。
通常、保険会社も対応してくれない整骨院通院となってしまうため、必要なステップを踏んでから整骨院を利用することが重要です。

②整骨院における施術の必要性が前提

交通事故に伴う整骨院での施術は、その必要性が明確に認められる場合に限り、慰謝料請求の対象となります。施術の必要性を判断する際は、整形外科医による診断や治療方針が重要な根拠となるでしょう。
具体的には、むち打ちや筋肉の損傷、関節の違和感といった症状に対して、整形外科医が整骨院での施術を指示又は許可した場合が該当します。保険会社も、このような医師の判断があれば、整骨院での治療を認めるのが通常です。
一方で、整形外科から整骨院での施術を認めてもらえなかった場合、治療として必要な整骨院の施術ということが難しいため、整骨院に通院しても慰謝料の対象外とされることが見込まれます。

整骨院での施術は厳密には医療行為ではないため、医療行為との関係で必要であることを裏付けるためには、医師の判断が必要ということになるのです。

整骨院での施術を受けた場合、症状が和らぐ効果が期待できますが、施術によって症状が和らぐことは施術の必要性とは関係しないことに注意しましょう。あくまで、医学的な意見として施術の必要性が肯定されなければ慰謝料の請求根拠にすることは困難です。

③整骨院通院時の慰謝料の相場

整骨院通院時の慰謝料は、通院機関や実通院日数を基準に計算されます。
計算の方法(基準)としては、自賠責基準、任意保険基準、裁判基準の3種類が設けられており、一般的に自賠責基準が最も低額、裁判基準が最も高額となる傾向にあります。

具体的な金額は、以下のように計算されます。

【自賠責基準の計算方法】

①対象日数「総治療期間」と「実通院日数×2」のいずれか小さい日数
②日額1日4,300円
③計算方法①対象日数×②日額=自賠責基準の金額

【任意保険基準の計算方法】

任意保険基準は,入通院期間を基準に,保険会社の内部で採用されている計算方法を用いて計算されます。
任意保険基準の代表的な金額は,以下の通りです。なお,1月=30日とみなして計算します。

任意保険基準の慰謝料(一例)

【裁判基準の計算方法】


裁判基準では,任意保険基準と同様,入通院期間を基準に計算しますが,その金額は任意保険基準より大きくなるのが通常です。
また,裁判基準の場合,他覚症状のないむち打ち(=軽傷)の場合(別表Ⅱ)とそうでない(=重傷)場合(別表Ⅰ)の二種類があり,重傷に用いられる別表Ⅰの方が金額が大きく定められています。

具体的な金額は以下の通りです。なお,1月=30日とみなして計算します。

裁判基準の慰謝料 別表Ⅰ(重傷)

裁判基準の慰謝料 別表Ⅱ(軽傷)

計算方法の詳細については、以下の記事でも紹介しています。
「交通事故の慰謝料とは?具体的な計算方法は?弁護士はなぜ増額させられる?弁護士に慰謝料交渉を依頼すべき場合も解説」

整骨院での施術を受ける実際の事例では、画像所見などのない受傷が多いため、裁判基準のうち別表Ⅱを用いた計算を想定することが一般的でしょう。

④整骨院と病院の慰謝料の違い

整骨院での施術の必要性が存在する限り、基本的に整骨院と病院の通院の間で慰謝料の違いは生じません。
自賠責基準、任意保険基準、裁判基準のいずれにおいても、慰謝料の計算上、整骨院の通院1日と整形外科の通院1日は同じ1日です。

ただ、相手保険会社のスタンスや個別事件の争点によっては、相手保険会社から整骨院通院分の慰謝料を小さく見積もった提示が行われるケースも否定はできません。
このような紛争を避ける趣旨では、整骨院の通院方法や期間、施術内容などについて、事前に相手保険会社と十分な情報共有や協議を行っておくことが有益です。

相手保険会社が裁判手続での決着を希望する(裁判を辞さない)ような場合でない限り、あからさまに整骨院通院分の慰謝料を小さく見積もることはあまり見られません。
少なくとも、明確な根拠なく「整骨院だから」という理由で慰謝料の減額が強いられることは考えにくいです。

整骨院通院で請求可能なその他の費用

①施術費用

交通事故の治療費は、事故の相手方が加入している自賠責保険や任意保険から支払われます。整骨院での施術費用は、医師の指示などによって施術の必要性が明らかである限り、原則として全額が補償の対象になります。
整骨院での施術内容は、電気治療やマッサージ、温熱療法などが多く見られますが、具体的な金額は施術内容や部位数などによって異なります。自分で施術費用を立て替えた場合には、必ず施術費用の領収書を保管しておきましょう。

事前に相手保険会社と十分な連絡を取っている場合には、保険会社が整骨院から直接施術費用の請求を受け、保険会社が整骨院に対して直接支払をしてくれることも多いです。立替えの手間が省ける点で有益なので、できる限り保険会社に直接支払ってもらうよう調整したいところです。

②通院交通費

交通事故の通院に伴う交通費は、実費として請求可能な損害項目です。通院1回あたりの交通費は、基本的に自宅から整骨院までの往復分が認められ、電車やバスなどの公共交通機関を利用した場合はその運賃が、自家用車を利用した場合には1㎞あたり15円で換算されたガソリン代が、それぞれ通院交通費の金額となります。

その他、交通費に関連して請求し得る費用としては、以下のものが考えられます。

・駐車料金
→駐車場の料金が発生する場合、交通費の一部として請求可能であることが通常です。

・タクシー代
→通院のためタクシー移動した場合です。しかし、タクシー利用の必要性が前提になります。

・代車費用
→車での交通事故で代車を要した場合の費用です。もっとも、一般的には修理期間中の代車費用を物損の一部として支払うため、交通費として支払われることは通常ありません。

タクシー料金は、医師の指示などで必要性を示せる場合以外、支払を受けることは難しいです。
明らかに歩けないなど、車も公共交通機関も利用できないことが明らかなケースを除き、保険会社は消極的になりやすい傾向にあります。
ただ、公共交通機関の運賃相当額を受領する前提で、差額を自己負担してタクシー利用することは可能な場合も多いでしょう。

③休業損害

整骨院への通院に伴って休業が発生した場合、休業損害を請求できる可能性があります。
日額の具体的な計算方法は以下のとおりです。

【会社員(給与所得者)の場合】

事故前3か月分の給与を90で割る方法で算出するのが原則です。
交通事故の時点で3か月以上の就業継続がない場合は,上記の方法で計算ができないため,別途収入額の根拠を用いて計算します。具体的には,雇用契約書や事故直前の賃金台帳,給与明細などを用いて,事故当時の給与額を特定することがあります。

【自営業(事業所得者)の場合】

事故前年分の確定申告書における申告所得を基準に,365で割る方法で日額を算出するのが原則です。
開業後間もない場合など,事故前年分の確定申告書が存在しない場合には,事故直前の収入額に関する根拠資料を用いて個別に計算します。各種契約書,入出金が分かる帳簿や預金通帳の履歴など,収入減少を相手保険が理解できるよう,可能な限り詳細に説明することが適切です。

【主婦(家事従事者)の場合】

女性の平均年収を基準に,365で割る方法にて日額を算出するのが原則です。
平均年収は,いわゆる賃金センサス(「賃金構造基本統計調査」の結果)を基に計算するのが一般的です。

休業損害の計算については、以下の記事でも詳しく紹介しています。
「交通事故の休業損害はいくらもらえる?正しい計算方法を知りたい,問題点や対処法を知りたい人に弁護士が分かりやすく解説」

整骨院の通院日に休業すれば全て休業損害が支払われる、というわけでない点には注意が必要です。
実際の保険会社対応でも、本当に休業しなければならなかったのか、という問題が生じることは少なくありません。

交通事故で整骨院に通院する際の注意点

①整形外科医師の許可を事前に得る

交通事故の治療で整骨院に通院する際は、必ず事前に整形外科医師の許可を得ることが重要です。保険会社は整骨院での治療に対して厳しい姿勢を示すこともあるため、整形外科医師の許可があることで、施術の必要性を裏付けることが肝要となりやすいでしょう。

整形外科医師の許可を得るためには、まず整形外科で診察を受け、医師に整骨院での施術の必要性を相談します。医師から「整骨院での治療が効果的」との判断を得られれば、その旨診断書に明記してもらったり、相手保険会社に伝えたりすることが適切です。整形外科医師の許可なく整骨院での治療を開始してしまうと、後々の慰謝料請求時に問題となる可能性が高まるため控えましょう。

整形外科医師の許可を得た上で整骨院に通院することで、治療費や通院慰謝料の支払いがスムーズになり、適切な補償を受けられやすくなります。医師の許可は、交通事故による怪我の治療に整骨院での施術が必要だという医学的根拠となるからです。

例外的に、通院が非常に少ない期間、回数で終了する場合には、医師の許可なくとも保険会社が整骨院の利用を認めることもあり得ます。
ただ、少なくとも、相手保険会社の了承を獲得することは事前に行った方が望ましいでしょう。

②整形外科と整骨院の併用が必要

整骨院での施術を受ける場合でも、整形外科への通院を一切しないことは控えるのが賢明です。整骨院では医療行為や医学的な診断ができないため、後に通院期間や通院の終了時期が問題になった場合などに不利益を被る恐れがあります。
整形外科への通院は、一般的には月に1回以上のペースでは行うことが望ましいでしょう。あまりに長期間空いてしまうと、治療の必要性を疑問視される恐れがあるため、一定のペースで整形外科を受診することをお勧めします。

実際のケースでは、「整形外科の最終通院日まで整骨院利用を認める」という結論になったこともあります。
その場合、整形外科の通院を怠ると不利益が大きくなってしまいますね。

③通院頻度

通院頻度は、基本的には症状の程度などによって個別に異なって問題ないところです。慰謝料請求との兼ね合いでは、概ね3日に1回以上のペースであると、金額面で不利益を被ることが防ぎやすいでしょう。

なお、通院頻度は、事故直後であるほど高く、治療終了が近づくほど徐々に低くなることが一般的です。逆に、ある時期から急に通院が多くなったり、ある日から全く通院しなくなったりしてしまうと、慰謝料の交渉に際してトラブルになる恐れもあるので注意しましょう。

慰謝料の増額目的で不自然な通院頻度になると、かえって慰謝料の金額が争いになりかねないため、控えることをお勧めします。

④後遺障害等級認定に必要な診断はできない

交通事故の後遺障害等級認定において、整骨院での診察や施術は認定の基準として認められていません。後遺障害の診断や等級認定には、医師による診察が必須となるためです。整骨院の柔道整復師は、骨折や脱臼、打撲、捻挫などの施術は可能ですが、後遺障害の診断書を作成する資格は持っていません。
保険会社との交渉においても、後遺障害の主張には医師の診断書が必要不可欠です。整骨院のカルテや施術記録だけでは、後遺障害の認定申請はできないことに注意が必要です。

後遺障害等級認定を視野に入れる場合は、定期的な整形外科通院がより重要になりやすいです。

整骨院への通院と慰謝料の問題は弁護士に相談するべき

交通事故で適切な整骨院利用を進めるためには、事前に弁護士への十分な相談やご依頼をお勧めします。弁護士のへの相談や依頼によって、以下のようなメリットが期待できます。

①適切な整骨院通院の方法を助言してもらえる

交通事故の対応に精通した弁護士であれば、どの程度の通院期間、通院日数でどの程度の慰謝料が発生するか、精度高く推測することが可能です。症状や忙しさとの兼ね合いも含めて、どの様な通院をすることで慰謝料の受領額が最大化できるか、という点についても、適切な助言をしてもらうことができるでしょう。
また、整骨院の通院が認められない、といった悩みを持つ場合にも、適切な対処法をアドバイスしてもらうことが可能です。後のトラブル防止のため、極力早期に弁護士へ相談されることをお勧めします。

②慰謝料の増額が期待できる

保険会社の運用上、交通事故の慰謝料は、弁護士の有無で金額が異なるのが一般的です。保険会社は、弁護士がいない場合には自賠責基準を念頭に慰謝料額を計算しますが、弁護士がいる場合には裁判基準を念頭に慰謝料額を計算するため、金額に差が生じやすいのです。裏を返せば、その差額が弁護士に依頼することのメリットとも言えます。

交通事故における慰謝料額の最大化は、適切な通院と弁護士の存在という両輪によってはじめて実現します。適切な通院を無駄にしないためにも、弁護士に依頼して慰謝料の増額交渉を行ってもらいましょう。

③弁護士費用特約が利用できる場合

弁護士費用特約を利用できれば、弁護士への相談や依頼にかかる費用を保険でカバーできます。一般的な弁護士費用特約では、着手金や報酬金など、交渉の依頼に必要な費用を一通り賄うことが可能です。
自分の加入している保険に弁護士費用特約が付いているか確認するためには、保険証券を確認するか、保険会社に直接問い合わせることが適切です。

弁護士費用特約を活用することで、経済的な負担を抑えながら、専門家による適切な法的サポートを受けられるため、特約の有無を正確に確認し、積極的に活用することをお勧めします。

弁護士費用特約の有無が分からない場合には、弁護士から保険会社に確認を取るなどすることも可能です。

交通事故での整骨院通院に関するよくある質問

①整骨院だけの通院は可能か?

交通事故の治療で整骨院のみに通院することは、基本的に推奨されません。整形外科などの医療機関での診察を受けずに整骨院だけに通院した場合、症状の重症度や治療の必要性を客観的に証明することが困難になってしまうためです。
基本的には、少なくとも整骨院の通院前に一度整形外科での受診を行われることをお勧めします。整形外科で診察を受けた後、医師から整骨院での施術を勧めてもらうことができれば、その後の通院が整骨院だけであっても相手保険会社とのトラブルにならない可能性が高くなります。

もっとも、個別のケースで慰謝料交渉に問題が生じないかは、具体的な検討・判断が必要です。弁護士に相談の上、適切な通院方法や慰謝料請求の進め方についてアドバイスを受けることをお勧めします。

②整形外科に許可してもらえなかった場合は?

整形外科医から整骨院への通院許可が得られなかった場合、保険会社は施術費用や慰謝料の支払いを拒否する可能性が高まります。このような状況では、まず別の整形外科を受診してセカンドオピニオンを求めることを検討するのも有力です。医師によって見解や対応が異なることは少なくありません。

他の整形外科で整骨院利用の指示や許可が得られそうであれば、整形外科を転院する選択もあってよいでしょう。ただし、転院の判断はできるだけ早期に行うことが肝要です。事故から長期間経過後に転院を試みようとしても、事故当時の症状を知らない医師の意見であるとして相手保険会社が争う姿勢を見せてくるケースがあるためです。

整形外科への初回通院時に、整骨院の併用を許可してもらえるかどうかは判断できることが通常です。医師の先生の許可が得られないと分かった段階で、速やかに転院を検討することが望ましいと考えます。

交通事故の慰謝料に強い弁護士をお探しの方へ

交通事故における整骨院への通院は、被害者の回復にとって非常に重要な意味を持つ場合が多いものです。適切な整骨院利用を通じて、身体的な回復と金銭面の補償を両立することをお勧めいたします。


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【後遺障害1級】主な症状や認定基準,賠償金額の具体的計算などを弁護士が解説

交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。

自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害1級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

後遺障害1級の認定基準

1級の認定基準一覧

要介護(別表第1)

要介護1級1号神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
要介護1級2号胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

その他の後遺障害(別表第2)

1号両眼が失明したもの
2号咀嚼及び言語の機能を廃したもの
3号両上肢をひじ関節以上で失つたもの
4号両上肢の用を全廃したもの
5両下肢をひざ関節以上で失つたもの
6号両下肢の用を全廃したもの

【要介護1号】神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

脳や神経に重大な障害が残った結果,生命維持に必要な身の回りの処理の動作が行えず,常に介護を要する場合を指します。

要介護1級1号に該当する神経系統の機能や精神への障害としては,脳の器質的損傷に伴う高次脳機能障害,脳挫傷や脊髄損傷などによる身体性機能障害などが挙げられます。
具体的な認定基準は,障害の具体的な内容によって個別に定められています。

【1.高次脳機能障害】

a.重篤な高次脳機能障害のため,食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの

b.高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため,常時監視を要するもの

【2.身体性機能障害】

a.高度の四肢麻痺が認められるもの

b.中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

c.高度の片麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

(四肢麻痺:四肢すべての麻痺)
(片麻痺:左右どちらか半身の麻痺)

中等度の麻痺とは

障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われ,その基本動作にかなりの制限があるもの
(例)
・概ね500グラムのものを持ち上げられない
・文字を書くことができない
・障害のある片足の影響で,杖や硬性装具なしには階段を上ることができない
・杖や硬性装具なしには歩行が困難

高度の麻痺とは

障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われ基本動作(物を持ち上げて動かす・立つ・歩行するなど)ができないもの
(例)
・完全強直又はこれに近い状態(動かない)
・上肢の三大関節(肩・肘・手)及び5つの手指すべてが自分では動かせない
・下肢の三大関節(股・膝・足)すべてが自分では動かせない
・障害を残した片腕ではものを持ち上げて移動させることができない
・障害を残した片足では,支える力や思うように動かす力がほとんどない

【3.脊髄損傷】

a.高度の四肢麻痺が認められるもの

b.高度の対麻痺が認められるもの

c.中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

d.中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

(対麻痺:両上肢又は両下肢の麻痺)

【要介護2号】胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

「胸腹部臓器の機能障害」と呼ばれるものです。胸腹部の臓器に障害が残った結果,生命維持に必要な身の回りの処理の動作が行えず,常に介護を要する場合に,要介護1級2号の認定対象となります。

具体的な認定基準は,臓器ごとに定められていますが,要介護1級の対象として定められているのは呼吸器の障害のみです。
呼吸器に関する要介護1級2号の認定基準は,以下の通りです。

呼吸器

a.動脈酸素分圧50Torr以下のもので,呼吸器機能の低下により常時介護が必要なもの

b.動脈酸素分圧50Torr~60Torrで,動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外(37Torr~43Torrの間にない)であり,
かつ,呼吸器機能の低下により常時介護が必要なもの

c.スパイロメトリーの結果が%1秒量35以下又は%肺活量40以下で,高度の呼吸困難があり,
かつ,呼吸器機能の低下により常時介護が必要なもの


→3級4号の基準を満たし,かつ常時介護が必要な場合に該当する

呼吸困難の程度に関する判断基準

高度呼吸困難のため、連続しておおむね100m以上歩けないもの
中等度呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同じように歩けないが、自分のペースでなら1km程度の歩行ができるもの
軽度呼吸困難のため、健常者と同じようには階段の昇降ができないもの

【1号】両眼が失明したもの

失明とは以下のいずれかの場合をいいます。

「失明」とは
①眼球を失ったもの
②明暗が分からないもの
③明暗がようやく分かる程度のもの

明暗が分かるかどうかは,以下の2つの能力を基準に判断します。

光覚弁
→暗室にて,面前でペンライト等の照明を点滅させたとき,明暗が弁別できる能力
手動弁
→面前で手の平を上下左右にゆっくり動かしたとき,動きの方向を弁別できる能力

【2号】咀嚼及び言語の機能を廃したもの

そしゃく機能と言語機能の両方を「廃した」と評価される場合が該当します。

そしゃく機能の障害については,以下の点を基準に総合的に判断します。

上下咬合咬合(こうごう かみ合わせの意)のズレなど
排列状態歯並びのズレや不足など
下顎の開閉運動歯をかみしめることができる程度など

これらの判断に当たっては,以下のような点を考慮します。

そしゃく機能の判断要素
画像所見(他覚的所見)があること
・他覚的所見と対応するそしゃく状況があること

そしゃく状況に関しては,「そしゃく状況報告書」を踏まえた判断が一般的です。そしゃく状況報告書とは,被害者やその家族が,食べられる食材の内容や程度を記載するものです。

そしゃく状況報告表

「そしゃく機能を廃したもの」
=流動食以外は摂取できないもの

言語機能の障害は,語音(特に子音)の発音にどの程度の制限が生じたかを基準に判断されます。

子音は,以下の4種類に分けることができます。

子音の4種類
口唇音(ま行音,ぱ行音,ば行音,わ行音,ふ)
歯舌音(な行音,た行音,だ行音,ら行音,さ行音,しゅ,し,ざ行音,じゅ)
口蓋音(か行音,が行音,や行音,ひ,にゅ,ぎゅ,ん)
喉頭音(は行音)

これら4種類の子音それぞれについて,発音不能なものがあるか,何種類あるか,といった点を踏まえ,言語機能の障害の程度を判断します。

「言語の機能を廃したもの」
=4種の語音(口唇音,歯舌音,口蓋音,喉頭音)のうち,3種以上の発音不能のもの

【3号】両上肢をひじ関節以上で失つたもの

「上肢をひじ関節以上で失ったもの」とは

以下のいずれかの場合
1.肩関節において、肩甲骨と上腕骨とを離断したもの
2.肩関節とひじ関節との間において上肢を切断したもの
3.ひじ関節において、上腕骨と橈骨及び尺骨とを離断したもの

(「障害認定必携」より引用)

【4号】両上肢の用を全廃したもの

「上肢の用を全廃したもの」とは,以下の場合を指します。

三大関節(肩関節・肘関節・手関節)の全てが強直(※)している
かつ
手指の全部の用を廃している

※関節が可動性を失い,動かなくなった状態

【5号】両下肢をひざ関節以上で失つたもの

「下肢をひざ関節以上で失ったもの」とは

以下のいずれかの場合
1.股関節おいて、寛骨と大腿骨とを離断したもの
2.股関節とひざ関節との間において切断したもの
3.ひざ関節において、大腿骨と脛骨及び腓骨とを離断したもの

(「障害認定必携」より引用)

【6号】両下肢の用を全廃したもの

「下肢の用を全廃したもの」とは,以下の場合を指します。

3大関節(股関節、ひざ関節、及び足関節)の全てが強直(※)した場合
(3大関節が強直したことに加え、足指全部が強直した場合も含まれる)

※「強直」:関節が全く可動しない場合,又はこれに近い状態(※※)である場合
※※「これに近い状態」:自動の可動域が10%以下になった場合

後遺障害1級の慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害1級の場合,自賠責保険からは1,150万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は2,800万円となります。

後遺障害1級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害1級の場合は,労働能力喪失率が100%となります。

計算例
年収500万円,40歳,1級認定

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×1.0×18.3270(27年ライプニッツ)
91,635,000円

後遺障害1級の将来介護費

①将来介護費とは

後遺障害が残ったことにより,被害者が介護を要する状況となった場合,その介護のために発生する費用将来介護費といいます。将来介護費の金額は,親族が行う近親者介護の場合と,業務として行う職業介護の場合とで変わります。職業介護の方が介護費用の日額が高くなるため,将来介護費の全体額も大きくなってきます。

②計算方法

【基本的な考え方】

将来介護費は,以下の計算式で算出されます。

将来介護費
=「介護費の日額」×365日×「平均余命に対応するライプニッツ係数」

基本的な考え方は,1年分の介護費を日額×365で出し,これに生涯を遂げるまでの年数を掛け合わせる,というものです。もっとも,単純に「日額×365×平均余命の年数」としてしまうと,利息の分だけ金額が大きくなりすぎてしまうという問題があります。

法律上,金銭は利息を生むものと理解されています。本稿執筆時の法定利率は年3%であるため,100万円は1年後に利息3%を含む103万円の価値になっている,というのが法律の理解です。
そのため,将来受け取るはずだったものを今受け取る場合,受け取った時点から本来受け取るはずだった時点までの利息の分だけ,早く受け取った方が得をしているという考え方になるのです。

そのため,一括で支払う場合,この期間の利息(中間利息)を差し引いた金額を支払うのが適切ということになりますが,この中間利息を差し引くために用いられる数字が「ライプニッツ係数」です。

将来介護費の計算に当たっては,「日額×365×平均余命の年数」の金額から,利息分を差し引いた金額になる,との理解をすると適切でしょう。

【介護費の日額】

職業付添人による介護が必要か,近親者付添人の介護が可能か,という点の区別によって,日額が異なります。
職業介護の場合はその実費(概ね15,000円~20,000円ほど)が日額となり,近親者介護の場合は1日8,000円ほどを日額とみなす場合が多く見られます。近親者介護よりも職業介護の方が日額は大きくなるのが通常です。

計算例
令和4年症状固定,症状固定時40歳,要介護1級認定,職業介護(15,000円)

計算式
=「介護費の日額」×365日×「平均余命に対応するライプニッツ係数」

=15,000円×365日×23.7014(42年ライプニッツ)
129,765,165円

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

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【後遺障害2級】認定されるケースの症状は?認定された場合の補償金額は?

交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。

自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害2級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

後遺障害2級の認定基準

2級の認定基準一覧

要介護(別表第1)

要介護2級1号神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
要介護2級2号胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

その他の後遺障害(別表第2)

1号一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になつたもの
2号両眼の視力が0.02以下になつたもの
3号両上肢を手関節以上で失つたもの
4号両下肢を足関節以上で失つたもの

【要介護1号】神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

脳や神経に重大な障害が残った結果,生命維持に必要な身の回りの処理の動作に随時介護を要する場合を指します。

要介護2級1号に該当する神経系統の機能や精神への障害としては,脳の器質的損傷に伴う高次脳機能障害,脳挫傷や脊髄損傷などによる身体性機能障害などが挙げられます。
具体的な認定基準は,障害の具体的な内容によって個別に定められています。

【1.高次脳機能障害】

a.重篤な高次脳機能障害のため,食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの

b.高次脳機能障害による認知症,情意の障害,幻覚,妄想,頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの

c.重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが,1人で外出することなどが困難であり,外出の際には他人の介護を必要とするため,随時他人の介護を必要とするもの

【2.身体性機能障害】

a.高度の片麻痺が認められるもの

b.中等度の四肢麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を必要とするもの

(片麻痺:左右どちらか半身の麻痺)
(四肢麻痺:四肢すべての麻痺)

中等度の麻痺とは

障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われ,その基本動作にかなりの制限があるもの
(例)
・概ね500グラムのものを持ち上げられない
・文字を書くことができない
・障害のある片足の影響で,杖や硬性装具なしには階段を上ることができない
・杖や硬性装具なしには歩行が困難

高度の麻痺とは

障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われ基本動作(物を持ち上げて動かす・立つ・歩行するなど)ができないもの
(例)
・完全強直又はこれに近い状態(動かない)
・上肢の三大関節(肩・肘・手)及び5つの手指すべてが自分では動かせない
・下肢の三大関節(股・膝・足)すべてが自分では動かせない
・障害を残した片腕ではものを持ち上げて移動させることができない
・障害を残した片足では,支える力や思うように動かす力がほとんどない

【3.脊髄損傷】

a.中等度の四肢麻痺が認められるもの

b.軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

c.中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

(対麻痺:両上肢又は両下肢の麻痺)

軽度の麻痺とは

障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が多少失われ,その基本動作における巧緻性や速度が相当程度損なわれているもの
(例)
・文字を書くことに困難が伴う
・概ね独歩だが,不安定で転倒しやすく,速度も遅い
・障害のある両足の影響で,杖や硬性装具なしには階段を上ることができない

【要介護2号】胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

「胸腹部臓器の機能障害」と呼ばれるものです。胸腹部の臓器に障害が残った結果,生命維持に欠かせない身の回りの処理に随時介護を要する場合に,要介護2級2号の認定対象となります。

具体的な認定基準は,臓器ごとに定められていますが,要介護2級の対象として定められているのは呼吸器の障害のみです。
呼吸器に関する要介護2級2号の認定基準は,以下の通りです。

呼吸器

a.動脈酸素分圧50Torr以下のもので,呼吸器機能の低下により随時介護が必要なもの

b.動脈酸素分圧50Torr~60Torrで,動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外(37Torr~43Torrの間にない)であり,
かつ,呼吸器機能の低下により随時介護が必要なもの

c.スパイロメトリーの結果が%1秒量35以下又は%肺活量40以下で,高度の呼吸困難があり,
かつ,呼吸器機能の低下により随時介護が必要なもの


→3級4号の基準を満たし,かつ随時介護が必要な場合に該当する

呼吸困難の程度に関する判断基準

高度呼吸困難のため、連続しておおむね100m以上歩けないもの
中等度呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同じように歩けないが、自分のペースでなら1km程度の歩行ができるもの
軽度呼吸困難のため、健常者と同じようには階段の昇降ができないもの

【1号】一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になつたもの

失明とは以下のいずれかの場合をいいます。

「失明」とは
①眼球を失ったもの
②明暗が分からないもの
③明暗がようやく分かる程度のもの

明暗が分かるかどうかは,以下の2つの能力を基準に判断します。

光覚弁
→暗室にて,面前でペンライト等の照明を点滅させたとき,明暗が弁別できる能力
手動弁
→面前で手の平を上下左右にゆっくり動かしたとき,動きの方向を弁別できる能力

また,後遺障害等級の対象とする視力は,矯正視力を指します。そのため,眼鏡やコンタクトレンズなどを着用した状態の視力を基準に判断されます。

【2号】両眼の視力が0.02以下になつたもの

同様に,矯正視力を基準に判断します。
矯正視力が両眼について0.02以下になった場合,認定対象になります。

【3号】両上肢を手関節以上で失つたもの

「上肢を手関節以上失ったもの」とは

以下のいずれかの場合
1.ひじ関節と手関節との間で切断したもの
2.手関節において、橈骨及び尺骨と手根骨とを離断したもの

(「障害認定必携」より引用)

【4号】両下肢を足関節以上で失つたもの

「下肢を足関節以上で失ったもの」とは

以下のいずれかの場合
1.ひざ関節と足関節との間で切断したもの
2.足関節において、脛骨及び腓骨と距骨とを離断したもの

後遺障害2級の慰謝料

等級ごとの後遺障害慰謝料

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害2級の場合,自賠責保険からは998万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は2370万円となります。

後遺障害2級の逸失利益

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害2級の場合は,労働能力喪失率が100%となります。

計算例
年収500万円,40歳,2級認定

計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

=500万円×1.0×18.3270(27年ライプニッツ)
91,635,000円

後遺障害2級の将来介護費

①将来介護費とは

後遺障害が残ったことにより,被害者が介護を要する状況となった場合,その介護のために発生する費用将来介護費といいます。将来介護費の金額は,親族が行う近親者介護の場合と,業務として行う職業介護の場合とで変わります。職業介護の方が介護費用の日額が高くなるため,将来介護費の全体額も大きくなってきます。

②計算方法

【基本的な考え方】

将来介護費は,以下の計算式で算出されます。

将来介護費
=「介護費の日額」×365日×「平均余命に対応するライプニッツ係数」

基本的な考え方は,1年分の介護費を日額×365で出し,これに生涯を遂げるまでの年数を掛け合わせる,というものです。もっとも,単純に「日額×365×平均余命の年数」としてしまうと,利息の分だけ金額が大きくなりすぎてしまうという問題があります。

法律上,金銭は利息を生むものと理解されています。本稿執筆時の法定利率は年3%であるため,100万円は1年後に利息3%を含む103万円の価値になっている,というのが法律の理解です。
そのため,将来受け取るはずだったものを今受け取る場合,受け取った時点から本来受け取るはずだった時点までの利息の分だけ,早く受け取った方が得をしているという考え方になるのです。

そのため,一括で支払う場合,この期間の利息(中間利息)を差し引いた金額を支払うのが適切ということになりますが,この中間利息を差し引くために用いられる数字が「ライプニッツ係数」です。

将来介護費の計算に当たっては,「日額×365×平均余命の年数」の金額から,利息分を差し引いた金額になる,との理解をすると適切でしょう。

【介護費の日額】

職業付添人による介護が必要か,近親者付添人の介護が可能か,という点の区別によって,日額が異なります。
職業介護の場合はその実費(概ね15,000円~20,000円ほど)が日額となり,近親者介護の場合は1日8,000円ほどを日額とみなす場合が多く見られます。近親者介護よりも職業介護の方が日額は大きくなるのが通常です。

計算例
令和4年症状固定,症状固定時40歳,要介護2級認定,近親者介護

計算式
=「介護費の日額」×365日×「平均余命に対応するライプニッツ係数」

=8,000円×365日×23.7014(42年ライプニッツ)
69,208,088円

後遺障害等級の認定を受ける方法

①手続の方法

認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。

1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。

2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。

3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。

項目【事前認定】【被害者請求】
提出する人対人賠償保険被害者自身
提出書面必要書類一式必要書類以外も提出可
提出物の収集保険会社が行う被害者自身が行う

②手続の流れ

後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。

【事前認定の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③後遺障害診断書の提出相手保険に後遺障害診断書を提出します。
④事前認定の実施相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。
⑤後遺障害等級の結果通知相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。


【被害者請求の場合】

①症状固定の判断医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。
②後遺障害診断書の作成主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。
③申請書類の準備治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。
④被害者請求の実施必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。
⑤後遺障害等級の結果通知申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。

事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。

後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。

弁護士依頼のメリット

①必要な対応を弁護士に任せることができる

交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。

②後遺障害等級認定に必要なことが分かる

後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。

この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。

③慰謝料などの増額が期待できる

交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

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