このページでは,特殊詐欺事件の逮捕に関して,刑事弁護士が徹底解説します。逮捕の可能性はどの程度あるか,逮捕を避ける方法はあるか,逮捕された場合に釈放を目指す方法はあるかなど,対応を検討する際の参考にしてみてください。
特殊詐欺事件で逮捕される可能性
特殊詐欺事件は、逮捕の可能性が非常に高い事件類型です。刑事事件では、逮捕して捜査を行う(身柄事件とする)か、逮捕しないで捜査を行う(在宅事件とする)か、いずれかの方法を選択できますが、特殊詐欺事件であえて在宅事件を選択することはほとんどありません。基本的にすべての事件で逮捕されると考えてよいでしょう。
特殊詐欺事件で逮捕の可能性が高い理由としては、以下の点が挙げられます。
特殊詐欺事件で逮捕の可能性が高い理由
1.共犯者間での証拠隠滅を防ぐため
→共犯者間での口裏合わせや、隠し持っている証拠の隠滅を防ぐ目的。そのため、逮捕勾留後は、弁護士以外とは面会できない処分(接見禁止決定)がなされやすい。
2.重大な刑罰が見込まれるため
→重大な刑罰が見込まれる場合、処罰から逃れるために逃亡されるリスクが高いと評価される。
3.被害の拡大を食い止めるため
→共犯者に逮捕の事実を知らしめることで、事件の再発を食い止める威嚇的な効果を期待する面もある。
逮捕の方法や流れ
逮捕の種類・方法
法律で定められた逮捕の種類としては,「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」が挙げられます。それぞれに具体的なルールが定められているため,そのルールに反する逮捕は違法ということになります。逮捕という強制的な手続を行うためには,それだけ適切な手順で進めなければなりません。
①現行犯逮捕
現行犯逮捕とは,犯罪が行われている最中,又は犯罪が行われた直後に,犯罪を行った者を逮捕することを言います。現行犯逮捕は,逮捕状がなくてもでき,警察などの捜査機関に限らず一般人も行うことができる,という点に特徴があります。
典型例としては,目撃者が犯人の身柄を取り押さえる場合などが挙げられます。犯罪の目撃者であっても,他人の身柄を強制的に取り押さえることは犯罪行為になりかねませんが,現行犯逮捕であるため,適法な逮捕行為となるのです。
ただし,現行犯逮捕は犯行と逮捕のタイミング,犯行と逮捕の場所のそれぞれに隔たりのないことが必要です。犯罪を目撃した場合でも,長時間が経った後に移動した先の場所で逮捕するのでは,現行犯逮捕とはなりません。
なお,現行犯逮捕の要件を満たさない場合でも,犯罪から間がなく,以下の要件を満たす場合には「準現行犯逮捕」が可能です。
準現行犯逮捕が可能な場合
1.犯人として追いかけられている
2.犯罪で得た物や犯罪の凶器を持っている
3.身体や衣服に犯罪の痕跡がある
4.身元を確認されて逃走しようとした
ポイント
現行犯逮捕は,犯罪直後にその場で行われる逮捕
捜査機関でなくても可能。逮捕状がなくても可能
②通常逮捕(後日逮捕)
通常逮捕は,裁判官が発付する逮捕状に基づいて行われる逮捕です。逮捕には,原則として逮捕状が必要であり,通常逮捕は逮捕の最も原則的な方法ということができます。
裁判官が逮捕状を発付するため,そして逮捕状を用いて通常逮捕するためには,以下の条件を備えていることが必要です。
通常逮捕の要件
1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。
2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。
通常逮捕の要件がある場合,検察官や警察官の請求に応じて裁判官が逮捕状を発付します。裁判官は,逮捕の理由がある場合,明らかに逮捕の必要がないのでない限りは逮捕状を発付しなければならないとされています。
ポイント
通常逮捕は,逮捕状に基づいて行う原則的な逮捕
逮捕の理由と逮捕の必要性が必要
③緊急逮捕
緊急逮捕は,犯罪の疑いが十分にあるものの,逮捕状を待っていられないほど急速を要する場合に,逮捕状がないまま行う逮捕手続を言います。
緊急逮捕は,逮捕状なく行うことのできる例外的な逮捕のため,可能な場合のルールがより厳格に定められています。具体的には以下の通りです。
緊急逮捕の要件
1.死刑・無期・長期3年以上の罪
2.犯罪を疑う充分な理由がある
3.急速を要するため逮捕状を請求できない
4.逮捕後直ちに逮捕状の請求を行う
緊急逮捕と現行犯逮捕は,いずれも無令状で行うことができますが,緊急逮捕は逮捕後に逮捕状を請求しなければなりません。また,現行犯逮捕は一般人にもできますが,緊急逮捕は警察や検察(捜査機関)にしか認められていません。
緊急逮捕と現行犯逮捕の違い
現行犯逮捕 | 緊急逮捕 | |
逮捕状 | 不要 | 逮捕後に請求が必要 |
一般人の逮捕 | 可能 | 不可能 |
逮捕後の流れ
逮捕されると,警察署での取り調べが行われた後,翌日又は翌々日に検察庁へ送致され,検察庁でも取り調べ(弁解録取)を受けます。この間,逮捕から最大72時間の身柄拘束が見込まれます。
その後,「勾留」となれば10日間,さらに「勾留延長」となれば追加で最大10日間の身柄拘束が引き続きます。この逮捕から勾留延長までの期間に,捜査を遂げて起訴不起訴を判断することになります。

ただし,逮捕後に勾留されるか,勾留後に勾留延長されるか,という点はいずれの可能性もあり得るところです。事件の内容や状況の変化によっては,逮捕後に勾留されず釈放されたり,勾留の後に勾留延長されず釈放されたりと,早期の釈放となる場合も考えられます。
逮捕をされてしまった事件では,少しでも速やかな釈放を目指すことが非常に重要になりやすいでしょう。
ポイント
逮捕後は最大72時間の拘束,その後10日間の勾留,最大10日間の勾留延長があり得る
勾留や勾留延長がなされなければ,その段階で釈放される
逮捕による不利益
逮捕をされてしまうと,以下のように多数の不利益が見込まれます。
①社会生活を継続できない
逮捕をされてしまうと,身柄が強制的に留置施設へ収容されてしまうため,日常の社会生活を続けることができません。スマートフォンの所持も許されないので,外部の人と連絡を取ることも不可能です。
そのため,周囲と連絡等ができないことによる様々な問題が生じやすくなります。
また,逮捕後勾留されるまでの間は,原則として弁護士以外の面会ができません。面会によって最低限の連絡を図ろうと思っても,勾留前の逮捕段階では面会すら叶わないことが一般的です。
さらに,勾留後についても,接見禁止決定がなされた場合には弁護士以外の面会ができません。
②仕事への影響
逮捕された場合,仕事は無断欠勤となることが避けられません。その後,身柄拘束が長期化すると,それだけの間欠勤をし続けなければならないことにもなります。こうして仕事ができないでいると,仕事への悪影響を回避することも難しくなります。
また,逮捕によって勤務先に勤め続けることが事実上難しくなる場合も考えられます。
逮捕は罰則ではなく捜査手法の一つに過ぎないため,逮捕だけを理由に懲戒解雇されることは考え難いですが,一方で仕事の関係者に自分の逮捕が知れ渡ると,事実上仕事が続けられなくなるケースも珍しくはありません。
③家族への影響
逮捕されると,通常,同居の家族には捜査機関から逮捕の事実が告げられます。場合によっては,家族が逮捕に伴う各方面への対応を強いられることも考えられます。また,家族にとっては,被疑者が逮捕された,という事実による精神的苦痛も計り知れず,一家の支柱が逮捕された場合には経済的な問題も生じ得ます。
このように,逮捕は本人のみならず家族にも多大な影響を及ぼす出来事となりやすいものです。
④報道の恐れ
刑事事件は,一部報道されるものがありますが,報道されるケースの大半が逮捕された事件の場合です。通常,逮捕された事件の情報が警察から報道機関に通知され,報道機関はその情報を用いて刑事事件の報道を行うことになります。
そのため,逮捕された場合は,そうでない事件と比較して報道の恐れが大きくなるということができます。
万一実名報道の対象となり,氏名や写真とともに逮捕の事実が公になると,その記録が後々にまで残り,生活に重大な支障を及ぼす可能性も否定できません。
一般的には,重大事件や著名人の事件,社会的関心の高い事件など,報道の価値が高い事件が特に報道の対象となりやすいため,逮捕=報道ということはありませんが,逮捕によって報道のリスクを高める結果が回避できるに越したことはありません。
⑤前科が付く可能性
逮捕と前科に直接の関係はありませんが,逮捕されるケースは重大事件と評価されるものであることが多いため,事件の重大性から前科が付きやすいということが言えます。
逮捕をするのは逃亡や証拠隠滅を防ぐためですが,逃亡や証拠隠滅はまさに前科を避ける目的で行われる性質のものです。そのため,逮捕の必要が大きいということは前科が付く可能性の高い事件である,という関係が成り立ちやすいでしょう。
特殊詐欺事件で逮捕を避ける方法
①自首
自首は、自ら捜査機関に対して犯罪事実を申告し、自分に対する刑事処分を求める行動です。自首を行った人物が、その後に証拠隠滅を図ることは考えにくいため、自首後に逮捕をする必要は小さいと評価されることが一般的と言えます。
そのため、逮捕を避ける試みとして、自首は非常に有効な手段と言えるでしょう。
特に、被害者がまだ被害に遭った事実に気づいていないなど、事件の捜査が開始される前である場合、自首による逮捕回避の効果は大きくなるところです。既に被害者の申告で捜査が行われている場合よりも、犯罪捜査に対する貢献が大きいため、捜査機関からの配慮が得られやすい傾向にあります。
②示談
特殊詐欺事件は、具体的な被害者のいる事件類型であり、被害者が捜査を希望することで捜査が開始される、という流れが通常です。そのため、被害者から積極的な行動がなされない場合、捜査開始のきっかけが生じず、捜査の手段である逮捕も行われない、ということが見込まれます。
この点、事前に被害者との間で示談が成立し、被害者が加害者を許す判断に至れば、被害者が捜査機関に対する積極的な行動に移らないため、捜査の開始(及び逮捕)を回避できる可能性が高まります。被害者と示談が成立した後に逮捕をされることは、基本的には考えにくいと言えるでしょう。
③否認事件の場合
特殊詐欺事件の場合、SNSで募集するいわゆる「闇バイト」に手を出してしまったと思われる場合など、後から犯罪に関与した可能性が分かるケースもあり得ます。この点、事件当時に詐欺事件への関与を全く知らなかった場合には、犯罪の故意がないため、否認事件(=自分に犯罪が成立することを認めない事件)と位置付けられることになります。
このような否認事件で逮捕の回避を目指すときには、犯罪に関与した可能性が分かった段階で、できるだけ速やかに自ら警察に名乗り出る手段も有力です。もちろん、「本当はわかっていて詐欺に加担したのではないか」と疑われる可能性は十分に覚悟の上で、粘り強く丁寧に説明をする必要はあるところです。
自ら名乗り出た結果、犯罪の加害者ではなく、むしろ巻き込まれた被害者という立場で取り扱ってもらうことができれば、より有益な結果が期待できるでしょう。
特殊詐欺事件の逮捕は弁護士に依頼すべきか
特殊詐欺事件の逮捕に関して適切な行動をとりたい場合には、弁護士に依頼し、弁護士の専門的な判断を仰ぐことを強くお勧めします。
弁護士への依頼によって、具体的には以下のようなメリットが期待できます。
①手続の見通しが分かる
刑事事件の手続は、事件の類型や内容、状況等によってある程度の流れが類型化できます。刑事事件に精通した弁護士に相談・依頼することで、本件ではどのような手続の流れが見込まれるか、という点について、一定の見通しを持つことができるでしょう。
手続の見通しが分かることは、状況に応じた適切な対応方針を判断するために非常に重要なポイントとなります。全体的な手続の見通しを前提に、現段階では何をすべきか、どのような結果を目指すべきか、ということが判断できるようになるため、逮捕回避を目指すに当たって非常に有益と言えるでしょう。
②逮捕を回避するための具体的な手段が分かる
逮捕の回避を目指す場合、具体的にどのような手段をとるのが適切か、という点は、個別の事件や捜査状況等によって様々に異なります。例えば、既に犯罪捜査が進んでいる段階では、自首による逮捕回避を目指そうとしても、自首が成立しない状態になってしまっている可能性があります。自首が成立しないのであれば、自首を前提に逮捕回避を目指す動きは不適切であり、方針や動き方を改める必要が生じ得るでしょう。
この点、弁護士に依頼することで、限られた情報からできる限り状況を把握し、個別の状況に応じた逮捕回避の具体的方法を案内してもらうことが可能です。また、その方法を実行するに当たっても、弁護士とともに行うことで、負担を軽減しながら適切なやり方で進めることができるでしょう。
③逮捕後の弁護活動が迅速に開始できる
特殊詐欺事件の場合、逮捕の回避が困難なケースも珍しくありません。事前に逮捕を回避できるケースの方が少数と言っても間違いではないでしょう。そのため、特殊詐欺事件の場合には、逮捕を想定した上で、逮捕後にどのような方針を取ることが最も有益か、という発想で検討するべき場合は非常に多くなるところです。
この点、弁護士に依頼することで、逮捕後の対応方針が事前にわかるほか、実際に逮捕された場合でもその後の弁護活動を迅速に開始してもらうことが可能です。逮捕されるケースでは、弁護活動がスピード勝負になることも少なくないため、迅速に弁護活動が開始できることのメリットはとても大きくなるでしょう。
特殊詐欺事件の逮捕に関する注意点
①逮捕回避が困難な場合
刑事事件の場合、事前に逮捕回避ができれば、最も大きな不利益の一つが避けられると言っても過言ではありません。そのため、逮捕回避の手段を講じることは、逮捕前の行動として非常に重要なポイントと言えます。
もっとも、特殊詐欺事件では、その重大性や悪質性から、逮捕回避の手段を尽くしてもなお逮捕が避けられない、という場合が珍しくありません。特殊詐欺事件で逮捕の回避を試みることは、チャレンジの意味合いが強いため、結果が伴わない可能性も十分に考慮して進めることが適切です。
②逮捕前に示談することの可否
特殊詐欺事件の場合、逮捕前に示談ができ、被害者との間で解決することができれば、その後に逮捕されることは考えにくくなります。そのため、逮捕前に示談ができるかどうかは大きな関心事と言えるでしょう。
しかしながら、特殊詐欺事件では、逮捕前に被害者に接触し、示談を目指すことは困難であるケースが多いです。通常、被害者側との交友関係がないため、被害者の情報として把握できるのは自宅住所程度にとどまるでしょう。また、自宅住所が分かっていたとしても、直接示談交渉を試みて円滑に応じてもらえる可能性は低いと言わざるを得ず、示談の試みが現実的でない場合はとても多いところです。
特殊詐欺事件では、当事者間の示談で早期に事件解決する手段が取りづらい、という点には十分な注意が望ましいでしょう。
③逮捕後の拘束期間
特殊詐欺事件の場合、逮捕後には勾留されることが見込まれます。逮捕されたものの勾留されず釈放されるケースは、非常に例外的な場合に限られるでしょう。
そして、特殊詐欺事件で勾留された場合、基本的には20日間の勾留を覚悟する必要があります。そのため、逮捕から勾留にかけて、法律で認められた最長期間の身柄拘束になりやすいところです。
しかも、余罪の捜査がある場合には、この最長期間の逮捕勾留が事件の数だけ繰り返されることも珍しくありません。
以上のとおり、特殊詐欺事件では逮捕後の拘束期間が長くなりやすく、早期釈放を期待することが困難である場合が非常に多いところです。見通しを誤らないよう十分に注意することをお勧めします。
④接見禁止
特殊詐欺事件で逮捕された場合、その後の勾留に際して「接見禁止」という処分が行われやすい傾向にあります。接見禁止とは、弁護士以外の人との面会や文書の授受などを禁じる処分のことを言います。
特殊詐欺事件では、共犯者の存在が想定されること、余罪の存在が見込まれることなどから、詐欺組織関係者との接触を防ぐ目的で接見禁止とされることが一般的です。しかも、接見禁止の対象は弁護士以外の全員に及ぶため、家族や友人の面会も禁止されてしまいます。
特殊詐欺事件の対応に当たっては、接見禁止の可能性を十分に想定しておくことをお勧めします。
警察から呼び出しを受けた場合の重要ポイント
特殊詐欺事件で呼び出された場合の対応法
①基本姿勢
特殊詐欺事件で呼び出しを受けた場合には、まず「本罪」と「余罪」を区別して検討することが適切です。本罪とは、実際に呼出しを受けた対象事件のことをいい、余罪とは、本罪以外の事件のことを言います。
本罪と余罪の区別が重要であるのは、本罪と余罪とで対応方針を変えるべき場合が少なくないためです。例えば、捜査機関には本罪だけ証拠がそろっているが余罪は発覚していない、という場合、本罪と余罪の両方を全部認めて話すことも、本罪と余罪の両方を否認して認めない態度を取ることも、ともに不適切になりやすいでしょう。本罪だけ証拠がそろっている状況であれば、本罪は認める姿勢が適切ですが、発覚していない余罪の情報提供をするメリットはあまりありません。
特殊詐欺事件の捜査は、取調べでどのような発言がなされるか、という点が大きな影響を及ぼしやすい傾向にあります。そのため、対応方針を誤らないための整理として、本罪と余罪の区別を明確にすることをお勧めします。
ポイント
本罪と余罪の区別を明確にする
本罪と余罪とで対応方針を変えるべき場合が少なくない
②認め事件
認め事件の場合、基本的には事実をありのまま告げることが適切です。特に、共犯者に関する情報を分かる限りで提供し、事件の全容解明に向けた協力姿勢を取ることができれば、刑事処分の軽減に向けた有益な事情となり得るでしょう。
また、自分の役割が比較的小さなものであれば、自分の具体的な役割の内容を正しく把握してもらうことも目指すべきです。例えば、詐欺事件そのものの計画に関与しているかどうか、詐欺事件の具体的な内容をどのように理解していたか、という点は、共犯者間の役割や立場に大きく影響しやすいため、整理して伝えられることが適切です。
ポイント
事件の全容解明に向けた協力姿勢を取る
自分の役割が小さいことを正しく把握してもらう
③否認事件
否認事件の場合、まずは具体的な争点を明らかにすることが適切です。なぜ否認をするのか、犯罪が立証できるかどうかのポイントはどこか、という点を、捜査機関に理解してもらうことが、否認事件で適切な結果を目指す第一歩になります。
特殊詐欺事件の場合、否認事件では以下のような争点が見られます。
否認の特殊詐欺事件における争点の例
1.故意
→アルバイト名目などで、詐欺事件と知らずに関与させられた、という主張。
2.犯人性
→自分が犯人であるかどうか、という問題。人違いであると主張するケース。
3.責任の有無
→脅迫され、強制的に関与させられていたという主張。
ポイント
争点を明らかにすることが対応の第一歩
特殊詐欺事件の呼び出しに応じると逮捕されるか
特殊詐欺事件の場合、呼び出しに応じて出頭した際に逮捕される、というケースも一定数見られます。これは、元々逮捕する目的であった場合に、警察から逮捕に向かうのではなく、被疑者の方から警察に来てもらって逮捕する、という動きを選択した場合です。
通常、逮捕する場合には、証拠隠滅のきっかけを与えないよう、警察が被疑者の自宅などに突然訪れ、そのまま逮捕する運用が多く見られます。ただ、特殊詐欺事件では、共犯者との捜査の前後といった捜査上の状況や、遠方である場合などを踏まえ、被疑者に自ら出頭してもらった上で逮捕に踏み切るケースも少数ながら見られるところです。
一方、逮捕するかどうか判断未了の状態で呼び出しを行い、呼び出しへの応答を踏まえて逮捕する、というケースはあまり見られません。裏を返せば、呼び出しへの応対を誤ったから逮捕される、ということにはなりにくいため、呼び出しへの対応を過度に不安視することはお勧めしません。
ポイント
元々逮捕目的である場合、呼び出した上で逮捕を執行するケースはある
呼び出しへの対応が原因で逮捕されるケースは生じにくい
特殊詐欺事件で警察が呼び出すタイミングや方法
①事情を知っている可能性があると考えたとき
特殊詐欺事件は、組織的な事件であることから、いきなり全容を掴むことは困難になりやすいです。そのため、用いられた口座の名義人やスマートフォンの契約者など、事件に関わった可能性のある人物から事情を聴くことで、捜査の進展を目指す動きは少なくありません。
警察が呼び出す場合も、事件について事情を知っている可能性がある人物の存在が浮上した際、その人物を呼び出して話を聞く、という流れは一定数見られるところです。
このような呼び出しは、捜査の比較的初期段階であることが多く見られます。捜査の糸口を掴むために広く情報を収集している段階であるケースが多いでしょう。捜査担当者から電話連絡を行う方法で呼び出しを試みることが一般的です。
②事件への具体的な関与が特定されたとき
具体的な事件への関与が特定され、果たした役割が分かった段階で、事実関係を取り調べるために呼び出されるケースもあり得ます。この段階では、客観的な証拠がある程度捜査機関の手元にあり、少なくとも個別の被害がどのようにして起きたか、ということは明らかであることが多いでしょう。
このような呼び出しは、呼び出される側にとっては初回の呼び出しであることが見込まれますが、捜査としてはある程度進行した段階であることが考えられます。特殊詐欺事件の場合、呼び出しより前にできる限りの捜査を行って証拠を固める流れになりやすいためです。
③証拠品の提出を求めるとき
特殊詐欺事件の場合、共犯者間でのやり取りや、各人の行動を裏付ける記録など、犯罪立証のため収集するべき証拠が非常に多くなりやすいです。そのため、証拠品を獲得する手段として、関係者を呼び出して証拠品の提出を求めることも行われます。
このような呼び出しは、ほかの証拠収集がある程度尽くされた後の段階であることが多く見られます。物的証拠の収集や関係者への事情聴取が行われた後、その内容に関する証拠を獲得する目的で行われることになりやすいでしょう。
特殊詐欺事件の呼び出しに応じたときの注意点
①共犯者の取調べを先行している可能性
特殊詐欺事件は、組織的・計画的に行われる事件であることから、複数の人物から事情を聴取することが通常です。そのため、自分が呼び出しを受けた段階で、既に他の関係者からも事情を聴いており、供述内容が合致するか確認する目的で呼び出されている可能性がある点には注意することが適切です。
特に、共犯者の取調べが先行して行われている場合には、自分の供述と共犯者の供述とが食い違っており、足の引っ張り合いになるケースも少なくありません。共犯者間で誰がより大きな役割を果たした立場であるのか、という点に関する責任のなすりつけ合いに巻き込まれる可能性は十分に想定しておくことが望ましいでしょう。
②供述調書作成時の留意事項
取調べを行う場合、自分の話した内容が供述調書という書面にされ、供述調書に署名押印を求められる、という流れが想定されます。供述調書の作成が、取調べの基本的なゴールと考えても間違いはないでしょう。
この点、供述調書への署名押印について正しい理解を持っておくことは非常に重要です。署名押印は、供述調書の内容が自分の発言と間違いないという意味のお墨付きとなります。そのため、供述調書の文面について、自分の発言が捻じ曲げられていたり、ニュアンスの異なる表現にされていたりしないか、十分に確認した上で署名押印をしましょう。
また、署名押印は拒否することも可能です。お墨付きを与えられない場合には、毅然と署名押印を拒否することも視野に入れるのが適切です。
③故意を否認する主張の仕方
特殊詐欺事件の場合、自分が詐欺事件に関与しているとは思っていなかった、と故意を否認する主張をするケースもあり得ます。この場合には、「故意」が認められる条件を正しく理解しておくことが非常に重要です。
故意は、犯罪行為をしていたことの認識・認容を言いますが、この認識・認容は、犯罪行為を確信している場合に限られません。自分が犯罪行為をしている可能性を分かっていながら、それでも構わないと思っている場合には、犯罪の故意ありと判断されてしまいます。
特殊詐欺事件では、特にアルバイトのような立場だと、詐欺であることをはっきり知らされてはおらず、詐欺だと確信していなかった場合は少なくありません。しかし、詐欺である可能性が容易に分かる状況で、それでも構わないと思っていたのであれば、故意はあるとの結論になるため注意しましょう。
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