このページでは,建造物侵入事件の逮捕に関して,刑事弁護士が徹底解説します。逮捕の可能性はどの程度あるか,逮捕を避ける方法はあるか,逮捕された場合に釈放を目指す方法はあるかなど,対応を検討する際の参考にしてみてください。
建造物侵入事件で逮捕される可能性
建造物侵入事件は,逮捕される可能性が十分に考えられる事件類型です。決して全ての建造物侵入事件が逮捕されやすいわけではありませんが,事件の内容や状況を踏まえ,逮捕が優先的に選択されるケースは相当数見られます。
建造物侵入事件で逮捕の可能性が高くなるケースとしては,以下のような場合が挙げられます。
建造物侵入事件で逮捕の可能性が高い場合
1.立入禁止場所への侵入があるケース
2.侵入目的が悪質なケース
3.多数回の侵入があるケース
4.共犯事件
【1.立入禁止場所への侵入があるケース】
建造物侵入事件は,立ち入りをした具体的な場所によって,その法的責任の大きさが変わりやすい傾向にあります。誰でも容易に立ち入ることのできる場所か,限られた人しか立ち入ることのできない場所か,という点は,建造物侵入事件の重大性を図る重要な基準と言えるでしょう。
この点,立入禁止場所のように極めて限られた人しか立ち入りできないことが明らかである場所の場合,事件の重大性が大きく評価されますが,刑事事件では事件が重大であればあるほど逮捕の必要性が高いと考えられるため,逮捕の可能性は高くなることが見込まれます。
【2.侵入目的が悪質なケース】
建造物侵入の目的が,窃盗や強盗,わいせつ行為など,犯罪に当たるような悪質なものである場合には,建造物侵入事件の重大性が重く評価される傾向にあります。そのため,侵入目的が悪質な場合は,同じく事件の重大性を踏まえて逮捕の可能性が高くなることが見込まれます。
侵入目的が悪質である場合は,犯罪目的であるケースが代表例ですが,犯罪目的に限られるわけではありません。犯罪に至らない程度の迷惑行為が目的である場合や,侵入そのものが大きな迷惑になると分かった上での侵入である場合なども,侵入目的が悪質と評価されやすいでしょう。
【3.多数回の侵入があるケース】
建造物侵入事件では,1回限りであった場合よりも多数回行われている場合の方が事件の重大性が大きく評価される傾向にあります。そのため,多数回の侵入行為が明らかである場合には,事件の重大性を踏まえて逮捕が選択される可能性も高くなるでしょう。
特に,多数回の侵入行為が同じ建造物を対象としたものである場合は,被害者を犯罪被害から保護する必要性も高いと理解されやすく,被害者への配慮の目的で逮捕される可能性も高まります。同一建造物への多数回の立入りは逮捕の可能性が顕著に高くなりやすいと言えるでしょう。
【4.共犯事件】
建造物侵入事件の場合,共犯事件であることも一定数見られますが,共犯事件では,共犯者間の口裏合わせや協力しての証拠隠滅が強く懸念されます。そのため,共犯者間のやり取りを封じる目的で逮捕される可能性が高くなるでしょう。
また,共犯事件の場合には,犯罪立証のため必要な証拠も多くなりやすいため,逮捕後の拘束期間も長期化しやすい傾向にあります。
逮捕の流れ
逮捕の種類・方法
法律で定められた逮捕の種類としては,「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」が挙げられます。それぞれに具体的なルールが定められているため,そのルールに反する逮捕は違法ということになります。逮捕という強制的な手続を行うためには,それだけ適切な手順で進めなければなりません。
①現行犯逮捕
現行犯逮捕とは,犯罪が行われている最中,又は犯罪が行われた直後に,犯罪を行った者を逮捕することを言います。現行犯逮捕は,逮捕状がなくてもでき,警察などの捜査機関に限らず一般人も行うことができる,という点に特徴があります。
典型例としては,目撃者が犯人の身柄を取り押さえる場合などが挙げられます。犯罪の目撃者であっても,他人の身柄を強制的に取り押さえることは犯罪行為になりかねませんが,現行犯逮捕であるため,適法な逮捕行為となるのです。
ただし,現行犯逮捕は犯行と逮捕のタイミング,犯行と逮捕の場所のそれぞれに隔たりのないことが必要です。犯罪を目撃した場合でも,長時間が経った後に移動した先の場所で逮捕するのでは,現行犯逮捕とはなりません。
なお,現行犯逮捕の要件を満たさない場合でも,犯罪から間がなく,以下の要件を満たす場合には「準現行犯逮捕」が可能です。
準現行犯逮捕が可能な場合
1.犯人として追いかけられている
2.犯罪で得た物や犯罪の凶器を持っている
3.身体や衣服に犯罪の痕跡がある
4.身元を確認されて逃走しようとした
ポイント
現行犯逮捕は,犯罪直後にその場で行われる逮捕
捜査機関でなくても可能。逮捕状がなくても可能
②通常逮捕(後日逮捕)
通常逮捕は,裁判官が発付する逮捕状に基づいて行われる逮捕です。逮捕には,原則として逮捕状が必要であり,通常逮捕は逮捕の最も原則的な方法ということができます。
裁判官が逮捕状を発付するため,そして逮捕状を用いて通常逮捕するためには,以下の条件を備えていることが必要です。
通常逮捕の要件
1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。
2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。
通常逮捕の要件がある場合,検察官や警察官の請求に応じて裁判官が逮捕状を発付します。裁判官は,逮捕の理由がある場合,明らかに逮捕の必要がないのでない限りは逮捕状を発付しなければならないとされています。
ポイント
通常逮捕は,逮捕状に基づいて行う原則的な逮捕
逮捕の理由と逮捕の必要性が必要
③緊急逮捕
緊急逮捕は,犯罪の疑いが十分にあるものの,逮捕状を待っていられないほど急速を要する場合に,逮捕状がないまま行う逮捕手続を言います。
緊急逮捕は,逮捕状なく行うことのできる例外的な逮捕のため,可能な場合のルールがより厳格に定められています。具体的には以下の通りです。
緊急逮捕の要件
1.死刑・無期・長期3年以上の罪
2.犯罪を疑う充分な理由がある
3.急速を要するため逮捕状を請求できない
4.逮捕後直ちに逮捕状の請求を行う
緊急逮捕と現行犯逮捕は,いずれも無令状で行うことができますが,緊急逮捕は逮捕後に逮捕状を請求しなければなりません。また,現行犯逮捕は一般人にもできますが,緊急逮捕は警察や検察(捜査機関)にしか認められていません。
緊急逮捕と現行犯逮捕の違い
現行犯逮捕 | 緊急逮捕 | |
逮捕状 | 不要 | 逮捕後に請求が必要 |
一般人の逮捕 | 可能 | 不可能 |
逮捕後の流れ
逮捕されると,警察署での取り調べが行われた後,翌日又は翌々日に検察庁へ送致され,検察庁でも取り調べ(弁解録取)を受けます。この間,逮捕から最大72時間の身柄拘束が見込まれます。
その後,「勾留」となれば10日間,さらに「勾留延長」となれば追加で最大10日間の身柄拘束が引き続きます。この逮捕から勾留延長までの期間に,捜査を遂げて起訴不起訴を判断することになります。

ただし,逮捕後に勾留されるか,勾留後に勾留延長されるか,という点はいずれの可能性もあり得るところです。事件の内容や状況の変化によっては,逮捕後に勾留されず釈放されたり,勾留の後に勾留延長されず釈放されたりと,早期の釈放となる場合も考えられます。
逮捕をされてしまった事件では,少しでも速やかな釈放を目指すことが非常に重要になりやすいでしょう。
ポイント
逮捕後は最大72時間の拘束,その後10日間の勾留,最大10日間の勾留延長があり得る
勾留や勾留延長がなされなければ,その段階で釈放される
逮捕による不利益
逮捕をされてしまうと,以下のように多数の不利益が見込まれます。
①社会生活を継続できない
逮捕をされてしまうと,身柄が強制的に留置施設へ収容されてしまうため,日常の社会生活を続けることができません。スマートフォンの所持も許されないので,外部の人と連絡を取ることも不可能です。
そのため,周囲と連絡等ができないことによる様々な問題が生じやすくなります。
また,逮捕後勾留されるまでの間は,原則として弁護士以外の面会ができません。面会によって最低限の連絡を図ろうと思っても,勾留前の逮捕段階では面会すら叶わないことが一般的です。
さらに,勾留後についても,接見禁止決定がなされた場合には弁護士以外の面会ができません。
②仕事への影響
逮捕された場合,仕事は無断欠勤となることが避けられません。その後,身柄拘束が長期化すると,それだけの間欠勤をし続けなければならないことにもなります。こうして仕事ができないでいると,仕事への悪影響を回避することも難しくなります。
また,逮捕によって勤務先に勤め続けることが事実上難しくなる場合も考えられます。
逮捕は罰則ではなく捜査手法の一つに過ぎないため,逮捕だけを理由に懲戒解雇されることは考え難いですが,一方で仕事の関係者に自分の逮捕が知れ渡ると,事実上仕事が続けられなくなるケースも珍しくはありません。
③家族への影響
逮捕されると,通常,同居の家族には捜査機関から逮捕の事実が告げられます。場合によっては,家族が逮捕に伴う各方面への対応を強いられることも考えられます。また,家族にとっては,被疑者が逮捕された,という事実による精神的苦痛も計り知れず,一家の支柱が逮捕された場合には経済的な問題も生じ得ます。
このように,逮捕は本人のみならず家族にも多大な影響を及ぼす出来事となりやすいものです。
④報道の恐れ
刑事事件は,一部報道されるものがありますが,報道されるケースの大半が逮捕された事件の場合です。通常,逮捕された事件の情報が警察から報道機関に通知され,報道機関はその情報を用いて刑事事件の報道を行うことになります。
そのため,逮捕された場合は,そうでない事件と比較して報道の恐れが大きくなるということができます。
万一実名報道の対象となり,氏名や写真とともに逮捕の事実が公になると,その記録が後々にまで残り,生活に重大な支障を及ぼす可能性も否定できません。
一般的には,重大事件や著名人の事件,社会的関心の高い事件など,報道の価値が高い事件が特に報道の対象となりやすいため,逮捕=報道ということはありませんが,逮捕によって報道のリスクを高める結果が回避できるに越したことはありません。
⑤前科が付く可能性
逮捕と前科に直接の関係はありませんが,逮捕されるケースは重大事件と評価されるものであることが多いため,事件の重大性から前科が付きやすいということが言えます。
逮捕をするのは逃亡や証拠隠滅を防ぐためですが,逃亡や証拠隠滅はまさに前科を避ける目的で行われる性質のものです。そのため,逮捕の必要が大きいということは前科が付く可能性の高い事件である,という関係が成り立ちやすいでしょう。
建造物侵入事件で逮捕を避ける方法
①被害者への謝罪や賠償
建造物侵入事件で逮捕される場合,被害者が警察などに捜査を求めることで捜査が始まり,被害者の求めで捜査を行った警察によって逮捕される,という流れが通常です。裏を返せば,被害者が捜査を求めなかった場合,警察が捜査を始めることもなく,逮捕にも至らない,という流れになることが見込まれます。
そのため,被害者への謝罪や金銭賠償によって,被害者が捜査を求めない,との判断をすることがあれば,それは最も端的な逮捕回避の方法と言えます。捜査の開始自体を未然に防ぐこともできるため,刑事罰を受けたり前科が付いたりすることもなくなります。
②自首
建造物侵入事件では,当事者間で直接連絡を取れる状況や関係にない場合も多いため,被害者との解決を事前に図るのが困難な場合も少なくありません。このように被害者へのアプローチが難しい場合に有力な試みが自首です。
自首は,自らの犯罪行為を捜査機関に告げ,自分への捜査を求める動きです。そのため,自首後に捜査妨害が生じるとは考えにくく,逮捕の必要性が低いと判断される大きな材料となり得ます。
なお,自首は犯罪事実又は犯人が捜査機関に知られていない段階で行うことが必要です。時期が遅れると自首が成立しない可能性もあるため,極力速やかな検討と行動が有力と言えます。
③適切な取調べ対応
既に警察の取り調べを受けている事件では,取調べに対して適切な対応を尽くすことによって逮捕の回避を目指す動きも有力です。
取調べは,捜査の中核となるものであり,取調べが円滑に進むかどうかは捜査の進行にとって極めて重要な問題となります。そのため,被疑者の真摯な協力によって取調べが円滑に進行する場合,被疑者を逮捕しなくても捜査に支障はない(=逮捕は必要ない)との判断を得られやすくなるのです。
具体的な取調べ対応としては,質問に対して回答を拒否せずありのまま答える,求められた証拠物の提供などには迅速に応じる,といった動きが有力でしょう。
建造物侵入事件の逮捕は弁護士に依頼すべきか
建造物侵入事件の逮捕については,弁護士に依頼の上,弁護士の専門的な見解を仰ぎながら検討・判断することが適切です。逮捕されるかどうかは非常に重要な問題であるため,取るべき手段は逃さず実行することをお勧めします。
弁護士への依頼によって,具体的には以下のようなメリットが見込まれます。
①事件の重大性を判断してもらえる
建造物侵入事件が逮捕されるかどうかは,事件の重大性が非常に大きな基準となりやすいところです。事件が重大であれば逮捕するが,それほど重大でなければ逮捕しない,と言っても過言ではありません。そのため,事件の重大性を正しく把握することは,対応の第一歩と言えます。
この点,弁護士に依頼することで,事件の重大性がどの程度か,それが逮捕の有無にどのような判断を及ぼすか,といった見通しを,正確に理解することができます。また,事件の重大性に応じた対処法についても,弁護士の助言を受けることができるでしょう。
②逮捕を防ぐために必要な動きを判断してもらえる
逮捕を防ぐためにどのような動きが必要か,どのような動きが有益か,という点は,具体的な事件の内容や状況によって大きく異なります。自分の力で一般論だけを収集できても,それが自分の事件に当てはまるのか分からなければ,現実に適切な動きを取ることは困難です。
この点,弁護士に依頼することで,個別の事件を踏まえた逮捕回避策を具体的に検討してもらうことが可能です。また,実際にそれらの行動を起こす際にも,弁護士とともに進めることで適切に行うことができるでしょう。
③被害者との解決を目指すことができる
建造物侵入事件は,具体的な被害者が存在する事件です。そのため,被害者がどのような意向であるか,という点は逮捕の有無に大きな影響を及ぼします。特に,被害者との間で解決済みである場合,その後に逮捕される可能性は現実的になくなるため,被害者との解決は極めて重要なポイントと言えます。
この点,弁護士に依頼することで,被害者との解決を具体的に目指すことが可能になります。通常,弁護士を窓口にしなければ被害者側への接触は難しいため,弁護士の存在は当事者間の解決に不可欠と言えるでしょう。
建造物侵入事件の逮捕に関する注意点
①現行犯逮捕の可能性
建造物侵入事件は,現行犯で発覚した場合,直ちに現行犯逮捕されるケースが多く見られます。事件の性質上,犯人が逃亡しやすく,逃亡後に必要な証拠を隠滅されてしまうと,証拠収集が困難になりやすいためです。
この点,現行犯逮捕となってしまうと,逮捕を回避する余地が事実上存在しないことが考えられる点には注意が必要です。逮捕の回避が困難な場合には,速やかに早期釈放を目指す方針に転換することが有力であるため,逮捕を受けて頭が真っ白になってしまわないよう,ご家族の方などが少しでも早く弁護士に相談することをお勧めします。
②逮捕後の拘束期間
建造物侵入事件の場合,逮捕後の拘束期間に複数の可能性があります。2~3日のうちに釈放され,いわゆる在宅事件に切り替わりやすいケースもあれば,20日間の勾留が避けられないケースも珍しくはありません。
これらのケースの違いは,建造物侵入事件に精通した弁護士であれば区別・判断が可能ですが,そうでないとなかなか見通すことはできないでしょう。
逮捕された場合には,本件が早期釈放の見込まれるケースか,20日勾留が見込まれるケースか,できるだけ正確に把握できるよう注意したいところです。見通しによって対応方針が変わるため,非常に重要なポイントと言えます。
③逮捕と前科の関係
逮捕は非常に重大な出来事ではありますが,逮捕されたからと言って前科が付くわけではありません。前科は,刑罰を受けた経歴を指すもので,事件が起訴され刑罰の対象となったときに付きますが,逮捕は起訴するかどうかを決める捜査手続の一つにとどまります。つまり,逮捕などをして捜査した結果,起訴されるかどうかが決まり,起訴された場合にのみ前科が付くのです。
そのため,逮捕された場合であっても,前科が付くと決めつけることなく,前科を避けるための手段をできる限り講じるよう注意することをお勧めします。具体的な対応は,弁護士に相談し,アドバイスを受けましょう。
建造物侵入事件で警察から呼び出しを受けたときのポイント
建造物侵入事件で呼び出された場合の対応法
①現行犯で取り締まりを受けた事件
現行犯で取り締まりを受けた建造物侵入事件では,現行犯の際に確認した内容を書面にするため,後日呼び出されることが見込まれます。呼び出した後は,事件の内容等を改めて口頭で確認し,「供述調書」という書面にすることが一般的です。
このようなケースでは,多くの場合事件の内容を争うことが難しいため,呼び出された際の質問への回答は,現行犯で確認された内容のとおりとするほかないのが通常です。被害者や目撃者,捜査機関などが現認した内容と矛盾する話はメリットがないため,ありのまま回答し,真摯な姿勢を見せるのが望ましいでしょう。
ただし,自分の記憶と反することまで認める姿勢を取る必要はありません。記憶と異なる話が出てきた場合には,自身の記憶する内容を明確に述べ,事実を明らかにするよう努めましょう。
ポイント
現認されているため,基本的に争う余地に乏しい
現行犯時の内容を確認する取り調べが一般的
②初めて呼び出しを受ける事件
建造物侵入事件で初めて呼び出しを受ける場合には,まず疑われている内容を把握し,認めるべき内容か認めるべきでない内容かを区別することが第一歩です。認めるべきか認めるべきでないかは,方針が180度変わるため極めて重要な判断になります。
もっとも,呼び出しの電話や出頭した後の会話において,警察官が疑いの内容をはっきりと告げてくれるケースはそれほど多くありません。疑いの内容は重要な捜査情報であって,安易には告げない警察官が多い傾向にあります。特に,疑いを認めない態度である場合には顕著に見られるところです。
そのため,疑いの内容として聴き取れる情報は断片的で限りあるものになりやすいことを念頭に,数少ない情報を聞き漏らさないよう努めることが有益でしょう。
ポイント
疑いの内容を把握し,認めるべきか認めないべきかを判断する
捜査機関からは断片的な情報しか得られにくい
③内容が記憶と異なる事件
事件の内容が一部記憶と異なる場合には,その相違点が犯罪の成否に影響するかどうか,という点が非常に重要となります。つまり,疑いの内容通りであれば犯罪が成立するものの,自分の記憶通りであれば犯罪が成立しない,という場合には,どちらが事実であるか,ということが極めて大きな問題となります。
そのため,まずは内容が記憶と異なる点を整理し,その相違がどのような争点に影響する問題なのかを把握したいところです。もし,犯罪の成否に影響しない内容であれば,その点を強調するあまり対応を誤ることは避ける必要がありますし,犯罪の成否に影響する内容であれば,争点であることをできるだけ早く明らかにし,慎重な犯罪捜査を求めることが適切です。
ポイント
犯罪の成否に影響する内容かを区別する
④全く心当たりのない事件
建造物侵入事件を疑われているものの,その内容に全く心当たりがないという場合,心当たりのない理由を明確にするとともに,疑いに対する認否の方針を明確にすることが重要です。
心当たりのない理由は,以下のいずれかであることが大多数です。
心当たりのない主な理由
・疑いと矛盾する記憶がある
・覚えていない
この点,疑いと矛盾する記憶がある場合には,その旨を毅然と述べ,否認の方針を取るべきです。自分の行っていない犯罪の責任を背負う必要は全くありません。
一方,覚えていないという場合には注意が必要です。例えば,「泥酔状態で全く覚えていないものの,自分が行ったと思われる」という場合に,ただ「覚えていない」と告げるのは,認めていないという態度となってしまい,考えと行動が整合しない結果となってしまいます。
記憶がないケースでは,そこで終わるのではなく,認めるかどうかの判断まで具体的に検討することが望ましいでしょう。
ポイント
心当たりのない理由を明確にする
認めるか否認するかを明確にする
建造物侵入事件の呼び出しに応じると逮捕されるか
建造物侵入事件では,呼び出しに応じた際に逮捕されるという流れを辿ることは基本的に考えにくいです。逮捕を予定する事件であれば,呼び出すことなく不意打ち的に逮捕する方が証拠隠滅を予防できる点で有効であるため,あえて呼び出す方法は取られにくいでしょう。
もっとも,呼び出しに対する対応を誤ってしまうと,逮捕を招く結果となる場合は少なくありません。具体的には,以下のような場合に逮捕のリスクが高くなるでしょう。
呼び出し後に逮捕され得るケース
1.十分な応答が期待できない場合
2.捜査に対する妨害行為があった場合
3.被疑者遠方の場合
【1.十分な応答が期待できない場合】
呼び出しを行ったものの,満足に応答が得られず出頭の予定もまともに立てられない場合,呼び出しの方法では捜査協力が期待できないため,強制的に捜査する目的で逮捕される可能性が高くなります。
また,呼び出しの連絡を受けて出頭日時を決めたものの,その日時に出頭しなかった(予定をすっぽかした)という場合にも,同様に任意の捜査協力が期待できないとの判断につながりやすく,逮捕リスクが上昇しやすいでしょう。
【2.捜査に対する妨害行為があった場合】
捜査に対する妨害行為が確認された場合,逮捕しなければ更に捜査が妨害され,犯罪の立証に支障を来たす可能性があるため,逮捕の可能性が高くなりやすいところです。例えば,呼び出しの内容や捜査状況を知った後,それらを踏まえて必要になるであろう証拠を処分したような場合が挙げられます。
証拠隠滅行為自体は,他の人を巻き込まず個人で行う限りは犯罪ではありません。しかしながら,証拠隠滅行為が逮捕の原因になるかどうかは別の話であるため,注意が必要です。
【3.被疑者遠方の場合】
被疑者が遠方のため,呼び出しに応じて出頭してもらうことが期待できない場合には,逮捕の可能性が高くなり得ます。もっとも,遠方であるというのみの理由で逮捕に至るケースはそれほど多くありません。一般的には,遠方であることに加え,遠方であることを理由に捜査協力をしてくれないとの事情が見受けられる場合に限られやすいでしょう。
建造物侵入事件で警察が呼び出すタイミングや方法
①取調べのため
建造物侵入事件の捜査では,取調べが非常に重要な位置づけとなります。犯罪の性質上,加害者しか知り得ない事項が非常に多いため,取調べを通じてそれらを把握することが,犯罪捜査の上で大きなポイントとなりやすいのです。
そのため,警察が呼び出す際には取調べ目的であることが最も多いでしょう。
取調べ目的での呼び出しは,捜査の比較的初期段階であることが通例です。まず呼び出しを行い,取調べをしてから,取調べの内容を踏まえて捜査方針を検討する,という流れが多く見られます。
初めて警察から電話があった,という場合には取調べ目的である可能性が高いと思われます。
②現場の実況見分を行うため
建造物侵入事件では,捜査の手段として事件現場の実況見分を行うことが多く見られます。実況見分とは,現場の状況や位置関係などを確認するための捜査で,多くの場合写真撮影をして「実況見分調書」又は「写真撮影報告書」といった捜査資料の作成を目的に行われます。
実況見分を行うための呼び出しは,取調べをある程度行った後であることが多く見られます。取調べの内容を,実況見分を通じて再度確認し,事件の明確化を図る動きが取られやすいでしょう。
③押収物を還付するため
建造物侵入事件の場合,犯罪事実の特定に必要な物的証拠が押収されることも少なくありません。当日の着衣,侵入に用いた道具,共犯者との連絡に用いた携帯端末など,事件の内容によって具体的な押収物は様々です。
そして,押収物に関する捜査が終了すると,押収物は還付(返還)されますが,還付のため呼び出しを受けることもあり得るところです。
還付目的の呼び出しは,捜査の終盤であることが通常です。押収物が捜査に必要なくなった,と判断できなければならないので,捜査はおおむね終了した段階である場合が多いでしょう。
④写真撮影・指紋採取等のため
刑事事件の運用上,被疑者として取り扱った人物の写真撮影や指紋採取,DNA型の採取などを行い,情報として保管することが広くなされています。そのため,写真撮影や指紋採取などのために呼び出される場合もあり得るでしょう。
このような呼び出しは,捜査の終了段階であることが通常です。捜査が一通り終了した後に,これらの個人情報の収集を行う流れが一般的です。
建造物侵入事件の呼び出しに応じたときの注意点
①建造物侵入罪に当たる行為を理解する
建造物侵入罪は,その対象となる範囲が必ずしも明確ではありません。同じ場所への出入りでも,状況や目的が異なれば建造物侵入罪に当たったり当たらなかったりすることは珍しくないところです。
そのため,どのような行為が建造物侵入罪に該当するのか,自分の行為は建造物侵入罪に該当するのか,という点は,法律の問題として正確に理解することをお勧めします。
具体的な判断は,弁護士の専門的な見解を仰ぐことが最も合理的です。自身で安易な判断をしないよう注意しましょう。
②対応方針の判断基準
呼び出しへの対応方針を決める基本的な基準は,認めるか認めないか,という点です。認める場合と認めない場合とでは,方針が真逆になることも多いため,認否を最初にはっきりさせることを強くお勧めします。
また,認める場合にも,求める結果や避けたいこと,主張したい内容の有無などによって,対応方針は枝分かれしていきます。この点の判断基準も,基本的には「全面的に認める」のか「一部だけ認めない」のか,といった点になりやすいため,認否を詳細に,具体的に検討することは非常に重要となります。
③身元引受人の要否
建造物侵入事件で呼び出された後,逮捕されずにいわゆる在宅事件として捜査を受ける際,身元引受人を求められる運用が広く用いられています。そのため,呼び出しを受けた段階で,今後身元引受人が必要となる可能性に注意することが望ましいでしょう。
身元引受人として適任なのは,基本的に同居家族です。呼び出しに応じた日の帰りに,警察から同居家族に電話連絡がなされ,身元引受の依頼が行われる,という流れが多いでしょう。
そのため,同居家族への発覚を避けたい場合には,事前に予防する対策が必要となります。一例として,事前に弁護士に依頼し,弁護士に身元引受人となってもらうことは有力な方法です。
建造物侵入事件における自首のコツ
建造物侵入事件で自首をするべき場合
①現場で姿を見られている場合
建造物侵入事件で自首が有力になるのは,事件の捜査が行われ,自身が加害者(犯人)として特定されることが見込まれる場合です。そして,建造物侵入事件で加害者が特定されやすいケースの代表例が,事件現場で他人に姿を見られている場合と言えます。
特に,被害者に目撃されている場合,被害者が警察等の捜査を求めない可能性は非常に低いため,捜査が開始され,犯人の特定に至りやすい状況と考えられるでしょう。
そのため,事件の現場で姿を見られている場合には,後の捜査を想定し,自首を行うことが非常に有力です。
また,現場から離れたところで姿を見られた,事件が発覚した後に人とすれ違った,といった場合も,類似の捜査リスクがあり得る状況と言えます。自身が犯人と特定される可能性がうかがわれる場合には,自首を検討することをお勧めします。
ポイント
加害者が特定されやすいため自首が有力
特に被害者に目撃された場合,捜査されない可能性が低い
②侵入行為が被害者側に知られている場合
建造物が商業施設であるなど,不特定多数者の出入りを想定した場所である場合,侵入被害があったことを広く告知している場合があります。そのように,侵入行為が被害者側に知られていることが明らかであるときには,自首が有力です。
被害者側が事件の発生を告知している場合,既に警察等に相談の上,刑事事件の捜査が開始されている可能性が高く見込まれます。そのため,事件が発覚しないまま,捜査されないまま終了することが考えにくく,後の捜査に備えた自首の検討が望ましい状況と言えるでしょう。
ポイント
商業施設などは,被害を広く告知している場合がある
被害を告知している段階では,捜査が始まっている可能性が高い
③反省の意思を積極的に示したい場合
建造物侵入事件は,最終的な刑事処分に対して反省の意思が影響するケースも多く見られます。特に,事件の内容・程度があまりに重大とは言えない場合であれば,深い反省を理由に不起訴処分とされることも考えられるところです。
この点,反省の意思を積極的に示したい場合の有力な方法が,自首です。自首は,深い反省のない人が行うことの考えにくい行動であるため,自首したという事実を深い反省の根拠と理解してもらえることが見込まれるでしょう。
また,反省の意思を示したい場合には,自首後の捜査対応にも気を配ることが適切です。真摯な捜査協力の姿勢があることで,反省の意思はより強く伝わることが期待できます。
ポイント
建造物侵入事件は,深い反省を理由に不起訴処分とされることもある
自首やその後の捜査協力を通じて,反省の意思を表明することが有力
④被害者側への接触が困難な場合
建造物侵入事件の場合,被害者と連絡を取り合うなどでき,当事者間の合意で事件解決できるのであれば,それが最も端的な解決策です。当事者間で解決した後に自首をする必要は基本的にないと言えます。
逆に,被害者と連絡を取り合う関係にないなど,当事者間の接触が困難な場合には,事件解決を目指す手段が事実上ないと言わざるを得ないケースも多数あります。そして,このような場合に有力な手段が自首です。
被害者側と接触ができないケースでは,自首以外に刑事処分の軽減を目指す積極的な選択肢がない,ということも珍しくありません。そのため,まずは自分にできる唯一の行動として,自首を検討することが望ましいでしょう。
また,自首をすれば,その後に被害者との解決を目指せる可能性が生じることもあり得ます。自首をきっかけに当事者間の解決へと至れば,同じく最も端的な解決につながりやすいでしょう。
ポイント
当事者間の解決が難しい場合,自首が唯一の手段である場合も
自首をきっかけに当事者間の解決ができるケースもあり得る
建造物侵入事件の自首は弁護士に依頼すべきか
建造物侵入事件で自首を検討する際には,弁護士への依頼を強くお勧めします。弁護士の専門的な判断を踏まえるかどうかによって,結果は大きく変わりやすいところです。
弁護士への依頼によって,具体的には以下のようなメリットが見込まれます。
①個別の内容を踏まえた自首のメリットが分かる
建造物侵入事件では,自首が必要か不要か,自首にどのくらいのメリットがあるか,という点が個別のケースによって大きく異なる傾向にあります。特に,事件が発覚しているか不明である,犯人を特定する証拠の有無があるか不明である,といった場合には,自首に踏み切るか慎重な判断が望ましいです。また,自首の有無によってあまり結果が変わらない場合には,自首のデメリットも十分に理解した上で検討することが適切でしょう。
この点,弁護士に依頼することで,個別の事件内容や状況を踏まえた本件での自首のメリットを,正確に理解することが可能です。自首の判断に必要な材料を円滑に得られるため,適切な検討が容易になるでしょう。
②自首を行う際の負担が小さくなる
自首の試みは,当事者にとって大きな精神的負担を伴うものです。自らの犯罪行為を,捜査する警察などに自発的に申告するものである以上,一定の負担からは避けられません。もっとも,そのような精神的負担を理由に自首の判断を躊躇してしまうと,自首の機会を逃し,不利益な結果を招く原因になり得ます。
この点,弁護士に依頼することで,弁護士が主な対応を代わりに行ってくれるため,自首に伴う負担は大きく軽減することが見込まれます。また,自首の際に自分でするべき内容や範囲が明確になるため,適切な方法で自首を進めることも可能になります。
③逮捕の回避につながりやすくなる
自首を行う際の最初の目的は,逮捕の回避であることが大多数です。建造物侵入事件を起こしてしまい,放置していると逮捕のリスクが高いと考えられる場合に,自首することで積極的に逮捕の回避を目指す,という流れが一般的でしょう。
そのため,自首を行うに当たっては,自首により逮捕の回避が実現できるか,という点が非常に重要なポイントとなります。
この点,弁護士に依頼して自首を行うことで,逮捕の回避に適したやり方での自首が進められるため,自首による逮捕回避の効果がより高くなることが期待できます。また,弁護士が捜査機関と協議を試みながら,逮捕しないとの判断をより積極的に促すことも可能です。
④自首後の流れが事前に分かる
自首は,重要な分岐点であることは間違いないものの,捜査手続全体との関係ではあくまで出発点にとどまります。そのため,自首を行うに際しては,自首後に捜査が継続することを念頭に,その後の流れにも対応できるよう備えておくことが必要です。自首後の手続への対応が不適切だと,結果的に自首の効果が不十分なものとなってしまう恐れがあります。
この点,弁護士に依頼すれば,刑事手続の全体像や自首後の流れを具体的に把握することが可能です。また,手続の各局面において適切な対応方法について助言を受けることができ,対応を誤る心配もなくなるでしょう。
建造物侵入事件で自首をする場合の注意点
①動き出しが遅い場合のリスク
自首は,捜査機関に対して犯罪事実又は犯人が発覚していない段階で行うことが必要です。捜査が進行し,犯罪事実と犯人が特定されてしまうと,自首をする余地がなくなってしまいます。
建造物侵入事件の場合,現行犯で発覚したケースを除いて,事件が現に捜査されているかどうかを把握することは容易ではありません。そのため,当事者目線では捜査されていないと思っていたとしても,現実には捜査が大きく進んでおり,自首のできるタイムリミットが近づいている可能性は十分に考えられます。
自首の動き出しが遅れると,自首のタイミングを逃してしまうという可能性には十分に注意したいところです。
②捜査を誘発する可能性
建造物侵入事件は,被害者に知られないように行われる事件であるため,結果的に被害者が知らない状態であるという可能性もあります。この場合,被害者が捜査機関に相談することもないため,捜査が始まらないまま時間が経過している,ということになるでしょう。
このような場合に自首をするのは,自首が捜査のきっかけとなってしまい,自ら捜査を誘発することになってしまうため,あらかじめ注意することをお勧めします。自首を行う以上は,ある程度捜査を誘発するリスクも受け入れた上で試みる必要があるでしょうか。
③不起訴が約束されるわけではない
自首は,その事件が不起訴処分となる可能性を大きく高める行動です。そのため,実際に自首を行う場合にも,不起訴を最終的な目標としていることが少なくないでしょう。
もっとも,建造物侵入事件の場合,自首をしても不起訴が約束されるわけではなく,自首してもなお起訴される可能性が残る点には十分な注意が必要です。特に,事件の内容が悪質と評価されるケースでは,元々の刑事責任が重いため,自首によってそれが軽減されても不起訴には至らない,という可能性が大いに考えられます。
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