商標法違反は知的財産権に関わる重大な犯罪とされ、場合によっては逮捕に発展することがあります。模倣品の販売や商標権を侵害する行為で摘発されると、刑事手続が進み、罰金や懲役といった刑罰を受ける可能性も否定できません。「商標法違反はどんな場合に逮捕されるのか」「逮捕されたらどうなるのか」と不安に感じる方も多いでしょう。本記事では、商標法違反の逮捕について、逮捕されるケースや逮捕後の流れを分かりやすく解説します。
この記事の監修者
藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介
全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。
商標法違反とは
① 商標権の定義
商標法違反とは、登録商標に関する権利を保護する商標法に反する行為の総称です。ここで前提となる商標権とは、商品やサービスの提供者が、自らのブランドを識別してもらうために用いる標識に対して与えられる独占的な権利を指します。
商標は、単なるマークやロゴではなく、「どの商品・サービスを誰が提供しているのかを消費者に明確に伝える」機能を持っています。文字・図形・記号・色彩、さらには立体的形状や音など、多様な形式が商標法上認められており、企業のブランド戦略に直結する重要な知的財産です。
日本では、商標の使用を開始しただけでは権利は発生せず、特許庁に出願し、登録を受けることによって初めて商標権が成立します。登録された商標は、指定商品・指定役務(サービス)の範囲内で、権利者が独占的に使用し、他人の使用を排除できる法的地位を持ちます(商標法25条)。これは、ブランドの信用維持や市場の混乱防止を目的とした制度です。
商標権の保護は、単なるロゴの保護にとどまらず、
- ブランドの信用価値
- 偽造品流通による消費者の混乱防止
- 公正な市場競争の確保
といった広い利益を守る役割を持っています。
このため、商標権に対する侵害行為については民事責任に加え、悪質な場合には刑事責任が問われる仕組みとなっており、状況によっては警察の捜査や逮捕に発展することがあります。
② 商標権の侵害行為
商標権の侵害行為とは、商標権者の許可なく、登録商標または類似商標を使用する行為を指します。商標権は「指定商品・指定役務」の範囲で保護されるため、侵害となるかどうかは、①商標の同一性・類似性と、②商品・役務の同一性・類似性の両面から判断されます。
1 登録商標の無断使用(同一商標の使用)
もっとも典型的な侵害で、権利者の登録商標と同一の商標を、同一または類似の商品・サービスに使用する行為を指します。
例:公式ブランドのロゴと全く同じ標章を付した商品を販売する行為。
2 類似商標の使用
商標が完全に一致していなくても、取引者や需要者が出所を誤認する程度に似ていれば、侵害と判断されます。
外観・称呼(呼び方)・観念(イメージ)の総合判断が行われ、模倣品・コピー品のほか、ブランドを想起させる紛らわしい標章も対象になります。
3 偽造品・模倣品の製造・販売・輸出入
偽ブランド品の製造・販売・保管・輸入・輸出は、商標権侵害の典型であり、悪質性が高いケースとして刑事手続に移行することも少なくありません。ネット販売やフリマアプリ上の取引も含まれます。
4 販売目的での保管・陳列
実際に販売していなくても、販売の意思をもって保管・陳列しているだけで侵害となることがあります。
「まだ売っていないから大丈夫」という認識は誤りで、捜査対象となり得ます。
5 広告・インターネット上の表示行為
商標の「使用」には、商品のタグや包装だけでなく、以下のものも含まれます。
・ホームページ上の表記
・ネットショップの商品説明
・広告・チラシ
・SNSでの販売宣伝
表示の仕方によっては、実際に商品を提供する前でも商標侵害が成立し得ます。
6 輸出入に関わる行為
偽ブランド品を海外から仕入れる行為や、国内で製造した模倣品を国外に出荷する行為も、商標権の侵害となります。税関で差し止められることや、刑事事件化される例も多い領域です。
商標権侵害が疑われやすいケースには、以下のような特徴がみられます。
・商標が同一または紛らわしいほど類似
・商品やサービスが同一または類似
・販売目的での製造・輸入・保管・広告がある
・消費者が正規品と誤認する可能性が高い
商標法違反事件で逮捕されるケース
商標法違反の事件は,逮捕をされるケースも十分に考えられる事件類型です。突然自宅や事業所に警察が訪れ,そのまま逮捕される可能性は否定できません。
一方で,逮捕されず在宅事件として取り扱われることも相当数あるため,逮捕の可能性が高いのはどのような場合か,把握しておくことは有益です。具体的には,以下のような場合に逮捕の可能性が高くなりやすいでしょう。
① 組織的に行っている場合
一人で行った事件より,複数人が組織的に関与して行った事件の方が,逮捕の可能性が高い傾向にあります。その主な理由としては,以下の点が挙げられます。
・規模が大きい
→単独犯のケースと比べ,件数や規模が大きく,事件の重大性を踏まえた逮捕の可能性が高くなりやすいです。
・必要な証拠が多い
→複数人が関わっている場合,関係者間のやり取りが発生するため,事件の全容を把握するのに必要な証拠が多くなりやすいです。そのため,証拠収集を円滑に進める目的で逮捕される可能性が高くなります。
・証拠隠滅されやすい
→組織内・共犯者間の口裏合わせなどによって,証拠隠滅される可能性が高いと判断されやすいため,証拠隠滅を防止する目的で逮捕される可能性が高くなります。
② 件数が非常に多い場合
商標法違反に該当する事件の数があまりに多い場合は,事件の重大性を踏まえ,逮捕される可能性が高くなります。また,事件ごとに証拠収集が必要となることから,事件が多いほど必要な証拠が多くなりやすく,証拠の散逸を防ぐ目的で逮捕される可能性が高くなります。
③ 商品の入手方法が悪質である場合
商品を入手する段階で,商標権侵害を把握していたことが明らかである場合,逮捕の可能性が高くなります。
例えば,明らかに商標を用いる権利のない製造者から直接購入していた,自身や近しい関係者が製造した商品であった,といったケースが挙げられるでしょう。これらの場合,意図的に商標権侵害の行為を助長している点で悪質であり,逮捕の必要性が高いと判断される傾向にあります。
商標法違反の場合、人的な規模の大きさ、件数の多さ、社会的な影響の大きさなどを逮捕の有力な判断基準とするケースが多く見られるところです。
偽物と知らなくても逮捕されるか
商標法違反の事件では、偽物(模倣品)と知らずに扱っていた場合でも、状況次第では逮捕される可能性があります。
もっとも、商標法違反で処罰するためには原則として 「故意」 が必要であり、模倣品であることを認識していたか、少なくともその可能性を認識していたことが求められます。
逮捕の段階では、本人の「知らなかった」という主張よりも、外形的な状況が重視されます。
たとえば、次のような事情があると、警察は「模倣品に関与している疑いが強い」と判断します。
・店舗や倉庫に大量の模倣品が保管されている
・相場とかけ離れた安価な仕入れが繰り返されている
・出所が明らかでない商品を販売している
次のような事情は、本来であれば気づくべき状況だった と評価されやすく、故意を推認されやすいポイントです。
・相場より明らかに安い仕入れルート
・ブランド品なのに箱・タグ・保証書などが不自然
・同じデザインの商品を大量に取引している
・個人輸入を繰り返してブランド品を扱っている
・過去に税関で差し止められた経験がある
こうした事情が積み重なるほど、「知らなかった」という主張が受け入れられにくくなります。
商標法違反の事件では、以下のような点に関する証拠が重要な根拠になりやすいです。
・仕入れルート
・在庫状況
・取引履歴
・広告・ネット掲載の内容
各事情を踏まえ、偽物であるとの認識や疑いを抱いていたと言えるか、という検討を行います。
商標法違反で問われる罪や罰則
① 商標法
商標法違反が成立すると、商標法に定められた刑事罰の対象となります。模倣品の流通はブランド価値の毀損や消費者被害につながるため、法定刑は比較的重く設定されています。
商標権を侵害した者には、以下の刑罰が科される可能性があります(商標法78条)。
- 10年以下の拘禁刑
- 1,000万円以下の罰金
- またはその併科
また、法人が関与した場合には、
3億円以下の罰金
が科されることがあり、企業が模倣品取引に関与しているケースでは特に重い制裁が課される可能性があります。
なお、単に偽ブランド品を販売する行為だけでなく、次の行為も「侵害とみなされる行為」として処罰対象になります。
商標法は、単に偽ブランド品を販売する行為だけでなく、次の行為も「侵害とみなされる行為」として処罰対象に含めています。
・店舗で模倣品を 陳列 する
・模倣品を 輸入 する
・模倣品を 輸出 する
・模倣品を 販売目的で所持 する
② 不正競争防止法
模倣品の取扱いは、商標法だけでなく 不正競争防止法 にも抵触する場合があります。特に、商標が登録されていない場合や、商品の形態や表示全体を模倣したケースでは、不正競争防止法による刑事罰の対象となります。
不正競争防止法では、次のような行為が「不正競争」とされます。
- 他人の商品表示(名称・ロゴ・パッケージ)と混同を生じさせる行為(2条1項1号)
- 周知な商品表示を模倣し、混同を生じさせる行為(同2号)
- 著名な商品表示の希釈化(ダイリューション)(同2条1項2号の2)
- 商品形態(デザイン)の模倣(同3号)
商標登録されていなくても、周知性・著名性がある場合や、需要者が混同する可能性が高い場合には不正競争防止法で刑事訴追され得ます。
不正競争行為を行った者には、次の刑罰が科される可能性があります(不正競争防止法21条)。
- 5年以下の拘禁刑
- 500万円以下の罰金
- またはその併科
法人については、
5億円以下の罰金
と、極めて重い法人罰が定められています。
③ 詐欺罪
模倣品(偽物)を販売した場合、商標法違反や不正競争防止法違反だけでなく、取引相手を欺いて代金を得たとして 詐欺罪(刑法246条) が成立する可能性があります。
詐欺罪は「人をだまして財物を交付させる行為」を処罰するもので、模倣品販売は該当する可能性が高いでしょう。
模倣品販売において、詐欺罪が成立しやすいのは次のような場合です。
- 偽物であることを知りながら正規品として販売した
- ブランド品と誤認させる表示・説明を意図的に行った
- 本物の写真を掲載して偽物を発送した
- 正規品と説明しつつ相場より不自然に安い価格で販売した
- 模倣品である可能性を知りながら黙って販売した
これらのケースでは「欺く意思(故意)」が明確であり、詐欺罪として立件されやすくなります。
詐欺罪の法定刑は次のとおりです。
- 10年以下の拘禁刑
罰金刑は規定されておらず、拘禁刑のみが法定刑です。
そのため、模倣品販売で詐欺罪が成立した場合、商標法や不正競争防止法よりも実刑リスクが相対的に高くなることがあります。
個別のケースや内容によっては、これら複数の犯罪が同時に成立することも考えられます。具体的にどのような罪名で取り扱われるかは、捜査機関の裁量的な判断にも影響を受けます。
商標法違反の刑罰
商標法違反は、模倣品の製造・販売・輸入・保管などを通じてブランド価値を損ない、消費者や市場に大きな混乱を生じさせるおそれがあるため、法定刑が比較的重く設定されている点が特徴です。
商標権を侵害した場合、個人には次の刑罰が規定されています。
- 10年以下の拘禁刑
- 1,000万円以下の罰金
- またはその併科
法人(会社)が関与していた場合には、
- 3億円以下の罰金
が科される可能性があります。
模倣品ビジネスに組織的に関与する企業を抑止する目的から、法人罰が非常に重く設定されています。
商標法違反で逮捕を防ぐ方法
① 自首
商標法違反の事件では,事件が発覚する前に自ら自首を行う方法で,逮捕の回避を目指す動きが有力です。事件が捜査される前に自首を行った場合,基本的には逮捕されない方が通常と言えるでしょう。
なお,自首は,捜査機関が犯罪事実と犯人の両方を把握している状態で行っても,法的には自首と認められません。そのため,極力速やかに決断し,行動に移すことが有益でしょう。
② 呼び出しへの対応
商標法違反の事件で呼び出しを受ける場合,呼び出しへの対応を適切に尽くすことで,逮捕を回避する可能性を高くする努力も可能です。具体的には,呼び出しに対して速やかに対応し,出頭を求められた際にはできる限り日程を確保するなどの捜査協力を尽くす,という動きが適切でしょう。
捜査機関が呼び出しを行う場合,呼び出しに応じてくれれば逮捕しなくてもよい,と判断していることが多く見られます。そのような捜査機関の期待に応えるような対応を尽くせれば,逮捕を避けられる可能性は非常に高くなるでしょう。
③ 早期の示談
商標法違反の事件は,商標権者や商品の購入者など,被害に遭った立場の人が警察に被害申告し,捜査を求めることで手続が始まる,というケースが大半です。裏を返せば,商標権者や商品の購入者が被害申告をしない場合,捜査が開始される可能性は低く,逮捕される可能性も低い,と言えます。
そのため,逮捕を防ぐためには,捜査開始前に早期の示談を図る試みが非常に有力です。捜査開始前に当事者間で解決ができれば,最も早期に心配が解消されるでしょう。
例えば,商品の購入者から「偽物でないか」とのクレームが入ったなど,当事者間での協議のきっかけが生じたケースでは,内容を踏まえて早期の示談を目指す動きが有力になります。
商標法違反事件を早期解決する方法
商標法違反の事件について、早期解決による逮捕の回避を試みる際には,弁護士に依頼し,弁護士の専門的な見解を仰ぐことをお勧めします。弁護士への依頼によって,以下のような利点が期待できます。
① 逮捕リスクの高さが分かる
商標法違反の事件は,逮捕リスクの高さがケースによって様々に異なります。事件によっては逮捕を全く想定しない捜査手続が進むこともあれば,突然逮捕されることが強く懸念される場合もあります。
そして,逮捕がどれくらい懸念されるかは,その後の動き方や方針に大きな影響を及ぼすため,事前に把握しておくことが肝要なポイントでもあります。
この点,弁護士に依頼することで,弁護士の専門的な知識・経験を通じて個別の逮捕リスクを判断してもらうことが可能です。また,逮捕リスクの高さを踏まえ,どのような弁護活動の方針を取るべきか,という点についても適切な案内を受けることができるでしょう。
② 手続や処分の見込みが分かる
商標法違反事件で想定される捜査手続の流れや最終的な処分には,数多くの選択肢があります。捜査手続としては,逮捕するかしないか,家宅や事業所の捜索差押えをするかしないか,取り調べはどの程度の期間,どの程度の回数行われるかなど,多くの局面で捜査機関の判断が生じるでしょう。また,最終的な刑事処分としては,どのような条件が整えば不起訴処分なのか,罰金になるのは,公判請求(公開の裁判)になるのはどのような場合か,といった点は,個別の事情によって細かく変わり得ます。
この点,弁護士に依頼することで,逮捕の有無はもちろん,その後の捜査や処分の見通しについて,ある程度のイメージを持つことが可能になるでしょう。また,現状で分かることと分からないことの区別ができれば,「何が分からないかが分からない」という不安が払拭でき,逮捕に関して必要な対応に注力することも容易になります。
③ 具体的な動きを主導してもらえる
逮捕を防ぐために,また逮捕された後にどんな対応を取るのか,という方針が立てられたとしても,それを実行することはまた別の困難な作業になりやすいところです。特に,刑事手続は法律でルールが厳格に定められている面が多いため,そのルールの中で,適切なタイミングに適切な動きを取る必要があります。
この点,弁護士に依頼することで,具体的な動きをするに際して弁護士が主導してくれるため,安心して進めることが可能です。また,弁護士が可能な限りの対応を代行してくれるため,肉体的・精神的な負担は大きく軽減されやすいでしょう。
商標法違反の逮捕に関する注意点
① 逮捕前の動きが困難である可能性
商標法違反の事件では,予告なく逮捕や捜索といった強制的な捜査に踏み切られる場合も少なくありません。事件の性質上,物的な証拠が複数存在しており,事前に予告してしまうと簡単に処分されてしまう恐れがあるため,証拠収集の観点から突然の強制捜査を受ける可能性が高い傾向にあります。
この点,突然逮捕されてしまうケースだと,逮捕前に逮捕を防ぐ動きを取ることが現実的に難しい可能性も低くないため,注意が必要です。逮捕が防げない場合には,逮捕を前提に早期釈放や処分軽減を目指す動きに手早くシフトすることが有益でしょう。
② 余罪がある場合の対応
商標法違反の場合,余罪が一定数あるケースも少なくありません。むしろ,余罪が全くない事件の方が少ないと言ってもよいでしょう。そのため,余罪に関する対応をどうするか,という点は悩ましいポイントの一つです。
この点,認め事件の場合であれば,捜査機関が特定し捜査することとした余罪に一つ一つ対応する,という方針を取るべきことが大多数です。どの事件を捜査・処分の対象とするかは捜査機関の判断となり,判断に必要な証拠も捜査機関の手中にあることから,証拠の精査や方針判断を待つことが必要になりやすいです。
例えば,複数の商品を複数の購入者に売却した,というケースであれば,捜査対象となった商品ごとに,それぞれの購入者と示談を目指す,という方針が有力な動き方の一例になるでしょう。
③ 捜査開始前に示談を試みる方法
商標法違反の事件は,捜査開始前に購入者と示談による解決ができていれば,少なくとも購入者がきっかけで捜査が始まる可能性はなくなるため,事実上の解決となるケースが多くなりやすいところです。そのため,捜査開始前に購入者との間で解決できるかは,重要な問題となるでしょう。
もっとも,捜査開始前の段階では,購入者が捜査機関への被害申告などに動いているかどうか,そもそも商標法違反の問題意識を持っているかどうか,などの点が,自分からは分からないことが通常です。そのため,購入者との解決を試みに行く際は,ある程度リスクを負って自発的に動く必要がある点に注意するのが望ましいでしょう。
なお,既に購入者からクレームなどが寄せられており,購入者が商標法違反について問題意識を持っていることが明らかであれば,捜査開始前の示談に可能な限り注力するのが合理的な行動になりやすいと言えます。
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