商標法違反は弁護士に依頼すべきか?違反行為や刑罰の内容、示談や不起訴を目指す方法など詳細解説

●商標法違反とは何か?

●商標法違反が刑事事件になるのはどのような場合か?

●商標法違反ではどのような捜査が行われるのか?

●商標法違反は逮捕されるか?

●商標法違反は起訴されるか?

●商標法違反は実刑判決になるか?

といった悩みはありませんか?

このページでは,商標法違反の事件でお困りの方に向けて,商標法違反とされる事件類型刑事事件化する場合の取り扱い・刑罰などについて解説します。

目次

商標法違反とは

①商標法違反の意味

商標法違反は、他人の商標権を侵害した場合に成立する犯罪です。

商標というのは、事業者が、自身の取り扱う商品やサービスを他社のものと区別するために用いる目印となるものです。簡単に言うと、企業ロゴのことを指すのがほとんどでしょう。
商標は、その企業の商品が持つブランドイメージの象徴であり、商品を見た人は、商品中の商標を基準に商品への信頼を持つでしょう。ブランド品のバッグや財布などはその代表例です。

商標は、特許庁に申請して商標登録をすることで、排他的に(他人に用いられることなく)使用することができます。商標登録によって、自分たちの築き上げたブランドイメージにタダ乗りされないよう予防しているわけですね。

商標法違反というのは、そのように他人がブランドイメージを作った企業ロゴを、勝手に自分のものとして利用する行為を指します。なお、厳密には、ロゴなどの文字列のみでなく、図形や模様、記号、色彩やパッケージの形状なども商標登録することが可能です。

②商標法違反の具体的行為

商標法違反となる具体的な行為には、以下のようなものが挙げられます。

偽造品の作成・販売企業ロゴを模倣したニセ物を作成・販売する行為
類似商標の使用他の商標に似せて作成した商標を使用する行為
同一商標の無断使用商標権者の許諾を得ることなく、その商標を使用する行為

近年では、ネット上で広く物品の販売ができるようになった影響もあり、商標を無断使用した商品や類似商標を使用した商品をネット上で販売する事件が増加傾向にあります。
また、海外で類似商標を使用した安価な商品を購入し、それを国内で転売する行為が問題になるケースも少なくありません。

ポイント
商標法違反は,他人の商標(ロゴなど)を無断利用する行為

商標法違反で科される刑事処罰

商標法違反の罰則

商標法違反の基本的な罰則は、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はその併科」とされています。
罰金額の上限が非常に高額であること、罰金刑と懲役刑の併科が可能であることが大きな特徴です。

また、商標権行為の準備行為に対しては、「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科」の罰則が科せられます。

加えて、商標法違反が法人の業務として行われた場合には、行為をした個人に科される刑罰のほか、法人にも3億円以下の罰金が科せられる可能性もあります。
なお、個人と法人の両方を処罰することのできる定めを、両罰規定といいます。

商標法違反の刑罰は、罰金刑の高い上限額や両罰規定などによって、大きな金銭的負担を内容とするものになっています。

商標法違反の一般的な刑事処分

商標法違反は、規模の限定的な個人の事件であれば、罰金刑の対象となることが多く見られます。他から購入した偽造品や類似商標の商品を販売した、という一般的な商標法違反事件であれば、30~50万円ほどの罰金刑が一つの目安になるでしょう。

もっとも、余罪が多い場合、共犯者が多く計画性の高い場合、犯罪による収益の規模が大きな場合など、より刑罰が重くなるケースも少なくありません。特に、法人を設立し、事業として行っているような場合だと、代表者や実行した者個人への処罰に加え、法人にも多額の罰金が科せられることにより、トータルの金銭制裁が非常に大きな金額となることも考えられます。

商標法違反が刑事事件化する流れ

商標法違反が刑事事件化するケース

商標法違反が刑事事件となる場合には、以下のようなケースがあります。

①商品の購入者が警察に通報する
購入した商品が商標を模倣した偽造品であった場合、その購入者が警察に通報する方法で捜査が始まるケースです。
このケースでは、販売者が正規品として販売していることが大多数であるため、正規品であるか模倣品であるか、正規品でなかった場合にその認識が販売者にあったかなどが問題になりやすいです。

②侵害行為を知った商標権者が警察に捜査を求める
侵害行為が生じている事実を知った商標権者が、自らの被害を警察に申告した場合です。
権利者地震の被害深刻であるため、犯罪事実が明らかに存在しない場合でない限りは被疑者に対する十分な捜査が行われやすい傾向にあります。、

③サイバーパトロール
警察によるサイバーパトロール中に、商標法違反の事実を発見したケースです。
いわゆるネットフリマ等で偽造品や類似商標が確認された場合、これをきっかけに捜査が開始され、刑事事件化する場合があります。

④内部告発
主に法人として商標法違反の行為がなされている場合に、その内部事情を把握する人が警察等の捜査機関に告発するケースです。

ポイント
商標法違反の刑罰は両罰規定の存在が特徴
捜査の主なきっかけは購入者の通報,商標権者の通報,サイバーパトロール,内部告発

商標法違反の捜査

商標法違反における捜査の方法としては、捜索が先に行われる場合が多く見られます。電話連絡や呼び出しなどされることなく、自宅や事業所などに立ち入り、保管されている商品などを強制的に差し押さえる捜査手法です。

商標法違反の事件は、偽造品や類似商標の用いられた商品などが被疑者の管理下にある場合、捜索によってその存在を証拠かすることが極めて強力な犯罪の証拠となります。また、捜査の当初段階で把握できる違反行為には限りがあり、その全体像を把握することは容易でないため、実際の商品や取引履歴・内容を網羅的に確認することで、証拠隠滅の防止や余罪の発見を可能にする意味もあります。
このような捜索・差し押さえは、事前に被疑者へ通知していたのでは証拠隠滅の機会を与えることになりかねないため、被疑者側への通知を行うことなく、証拠隠滅の猶予を与えない方法で強制的に行うのが一般的です。

商標法違反と逮捕

商標法違反の事件では、逮捕されるケース、されないケースいずれも想定されます。
必ずしも逮捕されるわけではありませんが、内容や捜査状況によって逮捕される可能性も否定できません。

商標法違反の事件で逮捕されやすい場合としては、以下のようなケースが挙げられます。

①共犯者が多数想定される場合
商標法違反の事件は、複数名が協力して行う場合も少なくありません。そのため、共犯者が存在する場合は一定数ありますが、その範囲が広く、人数も多数想定される場合は、逮捕の可能性が高くなります。
多数の共犯者が想定される事件では、隠滅されやすい証拠も多く、口裏合わせもなされやすいため、共犯者間における証拠隠滅行為を防ぐため、被疑者を逮捕して物理的に引き離すことが必要と判断されやすいのです。

②余罪が多数想定される場合
商標法違反の事件は、商品の販売など営利行為の形を取ることが非常に多いですが、営利行為を一回だけ行って終了、ということはあまりありません。一般的には、複数回繰り返された営利行為の一部が捜査の対象となり、捜査の過程で他の行為も明らかになっていくことが多く見られます。
そのため、捜査機関も余罪の存在を前提に捜査するところですが、捜査の初期段階で余罪が多数想定される事件の場合、逮捕をしなければ隠滅されやすい証拠が非常に多いという理解になるため、余罪に関する証拠隠滅を防ぐ目的で逮捕に踏み切られるケースが生じます。

③違反行為で得られた収益の規模が非常に大きい場合
商標法違反事件の刑事処分は、事件の規模に比例して重くなるのが一般的です。
そのため、違反行為で得られた収益の規模が大きな事件は、それだけ見込まれる刑罰も重くなります。
重い刑罰の見込まれる事件は、被疑者の逃亡する動機が生じやすいため、逃亡を防ぐ目的も兼ねて逮捕されるケースが多くなりやすいでしょう。

商標法違反の不起訴を目指すポイント

商標法違反は起訴されるか

商標法違反の事件は、犯罪事実に間違いがなければ起訴されることが多く見込まれます。

この点、商標権者と示談が成立し、商標権者の宥恕(許し)が得られれば、不起訴となる可能性も非常に高くなります。
もっとも、商標法違反の対象となりやすい有名ブランドなどは、違反行為に関する示談を一律して拒否しているケースが大多数です。そのため、被害者の立場にある商標権者との示談は、現実的には想定しづらいでしょう。

一方、商標法違反の事件で不起訴になりやすい場合として挙げられるのは、事件の規模が小さく、かつ購入者との間で示談が成立している場合です。
購入者は、法的には商標法違反の事件の被害者とは言えない立場ですが、購入者の通報で発覚した事件の場合、実質的な被害者と考えられます。そのため、購入者との示談が成立し、購入者の宥恕が得られれば、刑事処分を相当程度軽減させる事情になるところです。
そもそもの事件規模が大きい場合は、購入者と示談をしても不起訴にはなりづらいですが、事件の規模が小さければ、購入者との示談を合わせて考慮し、不起訴処分となる場合も一定数見られるところです。

ポイント
捜査は捜索から入るケースも多い
逮捕するかどうかは事件規模による
犯罪事実が明らかであれば起訴するのが通常

商標法違反で不起訴を目指す方法

①被害者との示談

商標法違反は,他人の商標を無断で利用するなどする事件です。そのため,事件の被害者は商標に関する権利を持っている人や会社(商標権者)であり,起訴不起訴の判断には商標権者の意向が大きく影響します。
そうすると,不起訴を目指す観点では,被害者である商標権者と示談し,その許しを獲得することが不起訴に大きく近づくと言えるでしょう。

なお,商標権者が誰であるか,商標権者が法人である場合には誰に連絡を試みるべきか,といった具体的な点は,事件の当事者には判断が困難な問題です。示談を目指す場合には,弁護士に依頼し,弁護士を通じて捜査機関担当者に相談してもらうことが適切な方法となります。

ポイント
商標権者を被害者とする犯罪
具体的な連絡方法は弁護士から捜査機関に相談してもらう

②商品の購入者との示談

商標法違反の場合,商標を無断利用した商品が流通し,無断利用を知らない購入者の手元に移っているケースが多く見られます。このとき,適正な商標だと信頼して商品を購入した人は,商標の無断利用によっていわば偽物の商品を掴まされており,実質的な被害者と言えます。
そのため,商品が既に購入されているケースでは,実質的な被害者出る購入者との間で示談を試み,購入者からの許しの獲得を目指す方法が有力です。

購入者との示談は,特に購入者が捜査機関に相談したことが捜査開始のきっかけとなった場合に有力となりやすいところです。商標権者は捜査を求めていないものの,購入者が捜査を求めているという場合,購入者との示談はその後の捜査や処分に大きな影響を及ぼすことが期待できるでしょう。

ポイント
購入者は実質的な被害者
購入者が捜査開始のきっかけとなった場合に有力な手段

③自首

商標法違反の事件は,捜査が開始される前に,積極的な動きで捜査を回避することが非常に難しい事件類型です。捜査開始前の試みとしては,当事者間での解決を目指すことが代表的ですが,商標法違反では誰が相手方当事者であるか分からない,又は誰に対して連絡を試みればいいか分からない,という場合が大半であるためです。
そのため,商標法違反では事前の対処が困難な傾向にあると言えます。

この点,捜査を受ける前にできる数少ない動きの一つが,自首です。捜査が行われる前に,自首によって反省の意思を表明するなどすることで,強い反省の態度を踏まえた不起訴処分の可能性が高くなるでしょう。
また,自首を行うことで,いつ捜査を受けるか分からないという不安を解消することができ,生活への悪影響を最小限に抑える効果も期待できます。

ポイント
商標法違反は,捜査開始前の対処が困難
自首によって強い反省の意思を示すことが可能

④商標法違反の認識がなかった場合

商標法違反の事件では,商標を無断利用した商品の製造者と販売者が異なる場合も数多く見られます。このとき,販売者が商標法違反の事実を知らずに商品を仕入れ,販売をしてしまっていた,というケースも一定数あり得るところです。

商標法違反は故意犯であるため,商標権の侵害を知らずに商品販売した人には成立しません。そのため,商標法違反の事実を知らずに商品を仕入れ,販売してしまったというケースでは,「本物だと信じ込んでおり商標法違反の認識はなかった」との理由で不起訴処分としてもらうことを目指すのが有力です。

なお,商標法違反の認識がなかったかどうかは,客観的な事情を総合して判断されます。判断材料としては,商品の精巧さ,仕入れルートや価格,販売方法や販売価格などが挙げられるでしょう。

ポイント
販売者が商標法違反を知らなかった場合,不起訴になり得る
知らなかったと言えるかどうかは,客観的な事情を総合して判断される

商標法違反で不起訴を目指す場合の注意点

①購入者との示談の効果

商標法違反で不起訴処分を目指す場合,示談の試みが有力ですが,購入者との示談についてはその位置付けや効果について注意が必要です。

商標法違反の被害者は,正確には商標権者であるため,その商品を購入した人は犯罪の直接の被害者ではなく,事実上損害を被った人,という立場にとどまります。そのため,購入者との示談が成立し,購入者から許しが得られたとしても,他の事件で被害者と示談したのと同様に不起訴と直結する効果が期待できるとは限りません。

もっとも,商標権者との示談交渉ができるケースは少ないため,現実的には購入者との示談を試みるほかない場合は多いところです。この場合に,購入者相手の示談以上に有力な手段が考えにくい,というのもまた間違いないところでしょう。

②事業として行っていた場合

商標権を侵害した商品を,事業として仕入れ販売していた場合には,事件の重大性が重く評価され,刑事責任も大きくなりやすい可能性に注意が必要です。

個人がたまたま購入したものを転売したようなケースとは異なり,事業として仕入や販売を繰り返しているケースでは,以下のような理由で刑事責任が重大視されやすい傾向にあります。

・件数や期間が大きくなりやすい
→事件の数が多くなればなるほど,刑事責任は重大になりやすい

・営利目的である
→商標権侵害の行為を営利事業として行うのは,より責任が重く見られやすい

事業として取り扱ってしまっていたケースでは,不起訴を目指すためより慎重な検討・対応をお勧めします。

③余罪の取り扱い

商標法違反の事件は,1件だけという場合はあまりなく,いわゆる余罪が複数あるケースが多く見られます。そのため,余罪が刑事処分にどのような影響を及ぼすのか,という点は大きな心配事になりやすいです。

この点,余罪が具体的に捜査の対象となるのは,被害届などの形で被害者側から被害申告が出されている件に限られるのが通常です。捜査機関は,商標権者や購入者が捜査を求めた事件について,捜査処分するとの取り扱いをすることが一般的でしょう。
そのため,複数の余罪が発覚したときにその全てが刑事処罰の対象になる,というわけではありません。

もっとも,余罪の件数や規模は,刑事処分を決める際の重要な判断要素になることもまた事実です。余罪の数や規模が著しい場合には,それだけ不起訴になりづらくなる可能性に注意が必要でしょう。

④否認事件の注意事項

商標法違反の場合,故意を争う否認事件が相当数見られます。代表的なものは,「商品を仕入れて販売したものの,商標権を侵害した商品であるとは知らなかった」との主張です。

この点,故意を争うケースでは,商標権侵害を知らなかった原因が何か,という点が問題になり得るということに注意しましょう。具体的には,必要な注意を怠ったり,重要な事情を見落としたりしていると,「商標権を侵害していてもよいと思っていた」と判断され,故意ありとみなされてしまう可能性があります。

一例としては,あまりに安価で販売されていた,同じ商品が商標権侵害として問題になっていたなど,商標権侵害の事実が容易に把握できる場合が挙げられます。
なぜ商標権侵害が分からなかったか,という点が追及される可能性を踏まえ,合理的な否認の主張をすることをお勧めします。

商標法違反事件における示談のポイント

商標法違反事件の処分は示談で変わるか

商標法違反の事件は,示談が成立することで処分が大きく変わり得る類型ということができます。

そもそも,商標法違反とされる事件は,他人の「商標」に関する権利を侵害するものです。商標とは,主に企業ロゴを指しますが,ブランドイメージの築かれた企業ロゴを勝手に用いてそのブランド力に便乗するような行為が,商標法違反として禁じられています。具体的には,以下のような行為が挙げられます。

商標法違反となる具体的な行為

偽造品の作成・販売企業ロゴを模倣したニセ物を作成・販売する行為
類似商標の使用他の商標に似せて作成した商標を使用する行為
同一商標の無断使用商標権者の許諾を得ることなく、その商標を使用する行為

これらは,商標が持つブランドイメージやブランド力を,第三者が自分の利益とするために勝手に用いるため,商標権を持つ企業などの利益が侵害されてしまう違法行為として罰則の対象となります。
そうすると,商標権を侵害された企業自身が,示談によって商標法違反となる行為を許す場合には,商標権侵害となる行為を処罰する可能性は大きく低下するため,刑事処分の結果に多大な影響を及ぼすことが通常です。

商標法違反で処分の軽減を目指したい場合は,まず示談の検討をすることをお勧めします。

商標法違反事件における示談相手は

商標法違反の事件では,示談を試みることが重要となりますが,誰を相手に示談を試みるかは個別具体的な検討が必要となる問題です。

①商標権者(企業)を相手とする示談

商標法違反は,商標権を持つ企業の権利(商標への信用や財産的価値)を侵害する行為であるため,その企業を相手に示談をするのが最も直接的です。商標権者が商法法違反となる行為を許した場合には,刑事処分は劇的に軽減することがほとんどでしょう。

もっとも,商標権者である企業との示談には,大きな問題が生じやすいところです。それは,企業側の方針として,示談への対応を一律で断っている場合が非常に多い,という点です。
商標権者の立場からすると,商標権侵害について示談に応じるメリットはあまりありません。強いて言えば示談金の受領による経済的な利益が挙げられますが,個人が支払う程度の若干の金銭がブランド力ある商標の権利者にとって大きな利益となることは考えにくいでしょう。特に,商標権侵害の対象となる企業は,規模の大きい著名な企業であることが多いため,その傾向は更に顕著となります。
そのため,企業にとって一つ一つの示談に対処することは損失が大きく,キリがないため,加害者からの示談の申し出を一律で断り,対応の負担を削減していることが大多数なのです。

そうすると,商標法違反で捜査をされている場合,商標権者との直接の示談は,現実的には困難であると考える方が適切でしょう。もちろん,個別の示談に応じてもらえる場合には,可能な限りの示談交渉を尽くすべきところですが,商標権者との示談ありきで考えるのは合理的とは言い難いところです。

②対象商品の購入者を相手とする示談

商標法違反の場合,対象商品の購入者との間で示談を行うことで,処分の軽減を目指すことが考えられます。購入者は,当然ながら商標権者ではないため,商標法違反行為によって商標に関する権利を侵害されているわけではありませんが,刑事処分を検討するにあたっては無視できない存在となります。なぜなら,商標法違反が刑罰によって守ろうとしているのは,商標権者の利益だけではないからです。

商標法違反が保護している利益としては,以下の各点が挙げられます。

商標法違反が保護する利益

1.商標に対する信用や財産的価値
2.商品流通の秩序や,商品を手にする消費者・事業者の利益

商標権侵害によって利益を損なうのは,直接的には商標権者ですが,それだけではありません。その商品が転々流通してしまうと,正規の商標がある商品と誤解して手にした消費者や事業者も,同様に利益を害されてしまいます。
そのため,偽造品などを購入させられた消費者や事業者も,間接的ながら被害を受けている立場にあると言えます。

そうすると,対象商品の購入者も被害者と位置付けられることから,購入者との示談が有力な方法になるのです。

また,対象商品の購入者は,以下のような理由から,商標権者に比べて示談交渉ができる可能性は高いと考えられます。

購入者と示談交渉できる可能性が高い理由

1.特定できている場合が多い
→警察への通報など,捜査のきっかけに関与していることが多い

2.個人又は個人事業者である場合が多い
→商標権者である企業と比べて一律拒否の可能性が低い

3.経済的損害を回復する必要が大きい
→商品の購入によって金銭を失っているため,具体的損害がある

商標法違反の事件においては,商品の購入者との示談によって,できる限り処分の軽減を目指すことが有力な手段でしょう。

ポイント 示談相手

1.商標権者
→直接の被害者
→ただ,一律拒否していることが多く,現実的でない

2.商品の購入者
→間接的な被害者
→示談の可能性があり,示談に処分軽減の効果もある

商標法違反事件で示談をする方法

商標法違反事件における示談は,捜査機関に対して示談を申し入れる方法により行うことが適切です。いきなり被害者側と直接の連絡を取るのではなく,捜査機関の担当者から被害者側に問い合わせてもらい,示談の意向を確認してもらう,という流れを取ることが一般的です。
事件類型的に,加害者が被害者の個人情報を把握している場合が少ないこともあり,被害者の連絡先を獲得するための試みとしても必要な動きになります。

もっとも,捜査機関は,加害者自身に被害者側の連絡先を伝えることは通常しません。そのため,加害者自身が示談を申し入れてきても,被害者との間を取り持つことはしないのが一般的です。
示談の申し入れを行いたい場合は,自分で直接行うのではなく,弁護士に依頼し,弁護士を窓口にして進めることが適切となります。被害者との連絡先の交換も,弁護士限りという形を取ることを約束すれば,捜査機関に間を取り持ってもらうことが可能です。

示談交渉の流れ

示談交渉の流れ

1.弁護士が捜査機関に示談したい旨を申し入れる
2.捜査機関が被害者に連絡を取り,示談に関する意思確認をする
3.被害者が捜査機関に返答をする
4.被害者が了承すれば,捜査機関を介して連絡先を交換する
5.弁護士が被害者に連絡を取り,交渉を開始する

商標法違反事件の示談金相場

①商標権者(企業)との示談

商標権者との間では,示談のできることが基本的にありません。そのため,示談金の金額を話し合う,ということもあまりないことが通常です。

この点,金銭の支払いが生じる場合としては,以下のようなケースが挙げられます。

商標権者に金銭を支払う場合

1.金銭の請求を受けた場合
2.加害者側が一方的に金銭を支払う場合

このうち,「1.金銭の請求を受けた場合」は,商標権者が自身に生じた損害を計算し,賠償するよう求めてきたケースとなります。このような請求は,内容の不合理である場合が少なく,金銭を支払う数少ないチャンスでもあるので,可能な限り請求額に沿って応じるのが適切でしょう。

また,「2.加害者側が一方的に金銭を支払う場合」は,商標権者に対応を拒まれたものの,加害者が商標権者の了承なく支払ったという形を取るケースを指します。具体的には,一定の金額を「供託」という方法で法務局に預けることで,商標権者が受領しようと思えばできる状態を作るものです。
供託する場合の金額は,商標権者に生じたであろう損害となりますが,基本的には商標権侵害によって得られた利益を基準とするのが有効でしょう。

ただし,商標権者の意思とは無関係に行うものであるため,処分に具体的な影響がない場合も否定できません。実際に検討する場合には弁護士との十分な相談が適切でしょう。

ポイント
請求を受けた場合は請求額に沿って支払う
一方的に支払う場合は,得られた利益を基準に供託

②商品の購入者との示談

商標法違反事件について,商品の購入者との間で示談を行う場合,その示談金額は商品の価格を基準とすることが一般的です。購入者には,商品の価格を支払わされたという損害が発生しているため,その損害を埋め合わせることがまず必要になるためです。
ただ,購入者に商品相当額を支払うことは加害者側の義務というべきものでもあるため,示談とするには,迷惑料や慰謝料といった名目の金銭を上乗せして支払うことが現実的でしょう。そして,上乗せする金額の目安としては,10~30万円ほどという場合が多く見られるところです。

個別のケースでは,以下のような事情を考慮することが考えられます。

示談金に関する主な考慮事情

1.商品や商標の具体的内容
2.販売時のやり取りの内容
3.購入者側に生じた損害の内容・程度
4.購入者側の感情面

商標法違反事件の示談内容・条項

①一般的な示談条項

【確認条項】

加害者の被害者に対する支払金額を確認する条項です。

【給付条項】

確認条項に記載した金銭の支払をどのように行うのかを定める条項です。

【清算条項】

示談で定めた条項以外には,当事者間に権利義務の関係がないことを定める条項です。清算条項を取り交わせば,その後に相手から金銭を追加請求される可能性は法的になくなります。
もっとも,商標権者との関係では,清算条項の取り交わしに応じてもらえる場合はあまり多くありません。商標権者の立場からすると,損害のすべてを把握できているとは限らない状況で,「加害者にこれ以上請求しない」という約束をするメリットがないためです。
一方,対象商品が明らかな購入者との間では,確実に清算条項を設けることが適切でしょう。

【宥恕条項】

宥恕(ゆうじょ)条項とは,被害者が加害者を許す,という意味の条項です。
示談が刑事処分に有利な影響を及ぼすのは,基本的にこの宥恕条項があるためです。被害者が加害者を許している,という事実が,刑事処分を劇的に軽減させる要素となります。

ただし,商標権者が宥恕条項に応じることはあまりありません。加害者を許す,という対応は一律拒否していることが多いためです。
一方,購入者との間で示談する場合には,確実に宥恕条項を設けたいところです。購入者への積極的な金銭賠償は,宥恕獲得のためと言っても過言ではないでしょう。

②商標法違反事件で問題となる条項

【販売行為の禁止】

今後の商標権侵害を防ぐため,加害者による販売行為を禁止する条項を設けるかどうか,問題になる場合があります。
今後の販売禁止は,商標権者や商品の購入者にとっては望ましいところですが,加害者にとっては生活に関わる可能性もあるため,個別の検討を要するでしょう。

特に,通常は多数の商品の販売業を営んでおり,今回は一部の商品だけが商標権侵害の問題になった,という場合,他の商品の販売も広く禁止する条項を設けてしまうのは,加害者側の経済活動に対する制限が大きくなり過ぎる危険もあります。

実際の示談交渉で問題となった場合には,経済活動への過大な支障を防ぎながら被害者側とのバランスを保つ交渉が必要になるため,弁護士と十分に方針を協議しましょう。

商標法違反事件の示談で注意すべきこと

①示談が成立しても不起訴とは限らない

商標法違反の示談は,主に商品の購入者との間で行いますが,商品の購入者との間で示談が成立したとしても,直ちに不起訴になるとは限りません。商品の購入者は,商標権者でなくあくまで間接的に損害を受けた立場にとどまるため,購入者の宥恕がすべての解決につながるとは言えないためです。

示談の試みに際しては,不起訴の可能性をできる限り高めるチャレンジの一環として,購入者との示談を試みるという発想が合理的しょう。

②購入者が特定できない場合

捜査のきっかけによっては,購入者が特定できず,現実的に示談が困難な場合も少なくありません

例えば,インターネット上の販売ページを閲覧した第三者が通報したような場合や,捜査機関のサイバーパトロールで発覚したような場合だと,購入者がいるかどうか,購入者がいた場合に誰か,ということは分かりません。そのため,示談を試みようと思っても困難である可能性があり得ます。

購入者との示談が可能であるのは,購入者が商品を確認して犯罪が発覚した,という場合に限られることに注意が必要でしょう。裏を返せば,購入者との示談が可能であるという状況は,商標法違反の事件の中でも対応手段のある恵まれた状況ということができるかもしれません。

③余罪が多数ある場合

特に事業として多数の販売行為をしている場合,商標法違反の余罪が多数あるケースもあり得ます。そのようなケースでは,特定の事件で購入者と示談が成立しても,他の事件との関係では処分の軽減につながらない点に注意が必要です。

示談相手が商品の購入者である場合,示談が処分に影響するのは,その商品に関してのみであるため,全体として不起訴になるためには,すべての商品の購入者と示談を行う必要があります。もっとも,そのような示談は現実的でない場合も少なくないため,実際の対応方針は弁護士との綿密なご相談を強くお勧めします。

商標法違反事件で弁護士に依頼するメリット

なぜ弁護士に依頼すべきか

①適切な取り調べ対応のため

刑事事件の捜査では取調べが不可欠です。特に,被疑者への取調べは捜査の中核であって,被疑者からどのような話が引き出せるかによってその後の捜査が決定づけられる事件も少なくありません。

逆に,被疑者の立場にある場合,取調べにどのような対応を取るのが最も有益であるのかを把握していることは非常に重要です。自分が何を話すか,どのように話すかによって,その後の捜査や処分が決定づけられる可能性もあるため,取調べ対応の方法・内容は十分に検討する必要があるでしょう。
特に,商標法違反の場合には,犯罪の故意の有無が問題になるケース,余罪の捜査が生じるケースなど,取り調べへの対応が結果を左右する局面は類型的に多くなりやすいところです。

商標法違反事件に対応する場合には,取調べ対応への重要性を踏まえ,弁護士から適切なサポートを受けるようにしましょう。

②早期釈放のため

商標法違反の事件で逮捕された場合,早期釈放を目指すことは有力な選択肢です。短い拘束期間のみで釈放されることができれば,日常生活への悪影響は最小限に抑えることが可能になります。

もっとも,その具体的な動きは,弁護士以外には困難なものです。接見で必要な話し合いを行ったり,ご家族と連絡を取り合ったり,捜査機関や裁判所に必要なアクションを尽くしたりと,早期釈放に向けて弁護士でしかできないことは多岐に渡ります。
また,商標法違反の事件では,そもそも早期釈放が困難な事件も少なくないため,弁護士に判断を仰ぐなどして,釈放に関する見通しを正しく持つことも不可欠です。

③刑事処分の軽減のため

商標法違反の場合,認め事件であれば,刑事処分を少しでも軽減するための試みを行うことが適切です。漫然と対応していては刑罰を防ぐことが難しい事件類型であり,場合によっては重大な刑罰の対象ともなりかねないため,処分の軽減に向けた弁護活動を依頼することは非常に重要となるでしょう。

この点,刑事処分の軽減のため,具体的にどのような試みを行うのかは,個別の事件を踏まえた専門的な判断が必要となります。また,弁護活動によってどのような刑事処分が見込まれるのか,という見通しを持つことも不可欠です。
これらの判断や見通しは,弁護士に委ねることが最も適切であるため,処分軽減を目指す場合には弁護士選びが必要と言えます。

④家族や周囲との連携のため

身柄事件の場合,逮捕勾留されたご本人は,自分で外部と連絡を取ることができません。電話を携帯することも認められないため,連絡を取るための手段は以下のような方法に限られます。

逮捕勾留中に外部と連絡を取る手段

1.手紙の送受
→数日~1週間ほどのタイムラグが避けられない

2.(一般)面会
→時間制限が厳しい。接見禁止の場合は面会自体ができない

3.弁護士の接見
→時間的制限なくコミュニケーションが可能

手紙の送受は現実的でなく,面会の時間制限の中で必要な連絡をすべて取ることも難しいため,ご本人と周囲との連絡には弁護士の接見を活用することが不可欠になりやすいでしょう。
身柄事件で必要な連絡を取り合うためには,弁護士への依頼が適切です。

弁護士に依頼するタイミング

①自首を試みるとき

自首とは,罪を犯した者が,捜査機関に対してその罪を自ら申告し,自身に対する処分を求めることをいいます。犯罪事実や犯人が捜査機関に知られる前に,自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告することが必要とされます。
そのため,自首は,事件の発覚や犯人の特定に時間を要しやすいケースで,特にその時間的な猶予が生じやすいものです。

この点,商標法違反の事件は,違反行為が発覚するまでに時間がかかりやすい,という点に大きな特徴があります。多くの場合,商標法違反に当たる商品の販売などがきっかけになりやすいですが,商品が販売されたからと言って,直ちに違反行為が発覚するわけではないためです。
その意味では,商標法違反の事件は自首の検討が有力になりやすい事件類型と言えます。

もっとも,本当に自首をすべきかどうか,自首をする場合にどのような手順・方法で行うか,という点は,当事者自身での判断が困難なポイントです。自首を試みようと考えるときには,適切な弁護士選びの上で,弁護士とともに検討・行動をするのが適切でしょう。
そのため,自首を試みたいと考えるときは,弁護士選びのタイミングということができます。

ポイント
商標法違反の事件は,自首が有力になりやすい
自首すべきかの判断,自首する場合の方法は,弁護士に委ねることが適切

②捜索を受けたとき

商標法違反の場合,被疑者に対する捜査は捜索から始まることが非常に多く見られます。商標法違反の証拠となる商品が保管されている可能性が高いため,家宅や事業所の捜索を行い,商品の差押えを行うことが優先されやすいのです。
そして,捜索を受けて商品の差し押さえがなされた後,取り調べなどの本格的な捜査が始まることとなります。

そのため,商標法違反の事件で捜索を受けた際には,その後の捜査に対する備えを検討したり,刑事処分を少しでも軽減するための行動に着手したりすることが望ましいと言えます。これらの動きは,弁護士なしでは現実的に困難であるため,弁護士選びを行うべきタイミングということができるでしょう。

ポイント
商標法違反に対する捜査は,捜索から始まるケースが多い
捜索後の捜査に対応するため,弁護士選びを行うべきタイミング

③呼び出しを受けたとき

商標法違反の事件で取り調べを行う場合には,逮捕せず呼び出す方法が用いられるケースも多数見られます。特に,あらかじめ捜索差押えをしている,証拠となる商品が確保できているなど,今後に証拠隠滅される可能性が低いと言える状況であれば,逮捕せず呼び出す形になりやすいでしょう。
そのため,呼び出しを受けたときには,その後に行われる取調べへの対応を事前に検討しておく必要があります。商標法違反の場合には,対象となる行為や証拠が一つしかないというケースはほとんどないため,複数の出来事について,それぞれどのような対応をすべきかを想定することが非常に重要です。

しかしながら,出頭後の取り調べに対してどのように対応するのが適切かを自分の力で整理するのは容易でありません。取り調べを受けた経験のある人でなければ,取り調べがどのように行われるかを想像することも困難でしょう。
そこで,呼び出しを受けて取り調べの予定が明らかになったタイミングで,弁護士を選ぶことが有力な選択肢になります。適切な弁護士選びができれば,出頭時の対応が万全になるほか,その後の弁護活動も充実したものになるでしょう。

ポイント
逮捕せず取調べ目的で呼び出す方法が用いられる場合も多数ある
取り調べに備えるためには,取調べに精通した弁護士選びが適切

④逮捕されたとき

商標法違反事件は,逮捕をされる可能性も十分に考えられる事件類型です。特に,違反行為の数や期間が際立っている場合,違反行為による損害が非常に大きい場合,組織的,計画的な事件である場合など,捜査に慎重を期す必要が大きい事情があるケースでは,被疑者を逮捕勾留の上で捜査することが多くなります。

そのため,逮捕された商標法違反事件では,その後に捜査される内容が多くなりやすく,対応を要するポイントも多くなるのが通常です。そのすべてに適切な判断をすることは非常に難しく,弁護士の助言やサポートを受けながら対応することが望ましいでしょう。
逮捕されてしまったケースでは,家族をはじめとする周囲の人ができるだけ早期に弁護士選びを進め,その後の不利益を最小限に抑えることを目指すのが適切です。

ポイント
逮捕された場合は,特に対応を要する点が多くなりやすい
適切な対応を判断するため,弁護士選びが望ましいタイミング

商標法違反事件の弁護士を選ぶ基準

①商標法違反の弁護に精通しているか

商標法違反の事件は,弁護活動に他の事件類型とは異なる特徴が複数あります。刑事事件の代表的な弁護活動である示談一つを取っても,示談の相手は誰なのか,誰との間であれば示談が可能か,誰と示談をすると処分結果にどのような影響があるか,といった点を検討しなければなりませんが,これは商標法違反の特徴と言えるでしょう。

商標法違反の弁護士を選ぶ際には,商標法違反事件の弁護活動について十分な知識を持っているか,事件類型の特色に精通しているか,といった点を重要な判断基準とすることをお勧めします。

②詳細な聴き取りを円滑に行ってくれるか

商標法違反とされる具体的な事件としては,商標権を侵害した商品を入手し,販売したというケースが非常に多く見られますが,商品の入手方法,販売方法は人により様々です。また,商品の数や取引の回数,得られた利益の大きさなど,事件の全体像を把握しなければ,適切な見通しを持つことも困難です。
そのため,商標法違反事件の弁護活動を行う場合には,事件の詳細な内容をはじめ,経緯などの周辺事情を適切に聴き取ることが不可欠です。

弁護士選びに際しては,弁護士が事件の把握に必要な情報を,円滑に聴き取ってくれるかという点を基準の一つとするのが適切でしょう。聴き取りの円滑さは,商標法違反の事件への経験値を推し量る判断材料にもなります。

③具体的な対応方針を説明してくれるか

商標法違反の場合,弁護活動の方針にいくつかの選択肢があるケースも少なくありません。特に,余罪を含めた複数の事件が問題になりやすいことから,一つの事件だけでなく複数の事件それぞれについて方針を検討する必要があり,それだけに選択肢も多くなりやすい傾向にあります。
もっとも,どの選択肢が客観的に正しいかは不明確であって,結果が出た後でも正しい選択だったかは分からない,というケースは多く見られます。その中で,どのような理由でどのような方針を取っていくのか,という判断が,商標法違反の事件を弁護する弁護士の大きな役割と言えるでしょう。

そのため,商標法違反の弁護士選びに際しては,弁護士が今後の対応方針を詳細に判断してくれるか,その方針を取る理由やメリットは何か,といった点について,十分な説明を受けるようにしましょう。その説明内容を踏まえて,弁護士選びを行うことが有力です。

④弁護士費用の見通しは明確か

商標法違反の事件は,逮捕などの身柄拘束を受けるかどうか,捜査にどの程度の期間を要するか,どのような動きを要するか,といった点を事前に判断することが容易でありません。そして,期間が長く,必要な活動が多くなれば,事前の想定よりも弁護士費用が高くなる可能性はあり得ます。

もっとも,想定される弁護士費用が分からない,という状態で弁護士選びをするわけにはいきません。そのため,弁護士費用については,どのような場合にどの程度の費用となりやすいか,といった形で見通しを把握できることが望ましいでしょう。
裏を返せば,依頼者目線を踏まえてできる限り費用の見通しを明確にしてくれるかどうか,という点は,弁護士選びの重要な判断基準の一つと言えます。

弁護士に相談する際のポイント

商標法違反事件における弁護士選びの準備

①事件内容や経緯をまとめる

弁護士から適切な案内を受けるためには,弁護士に事件の内容を正確に把握してもらうことが不可欠です。弁護士から十分な案内が受けられないと,弁護士選びも適切にはできないため,弁護士に正しい情報を伝えることは弁護士選びの第一歩と言えるでしょう。

この点,商標法違反の事件では,具体的にどのような行動を取ったのか,ということに加え,その行動を取った際にはどのような認識だったか,という内心の問題も重要になります。そして,行動した際の内心(特に,商標法違反の認識があったかどうか)を裏付けるための事情として,事前の経緯も大きな問題になりやすいところです。
そのため,弁護士選びに際しては,事件の内容や経緯をできる限りまとめ,どの時点でどのような認識であったか,という点が明らかにできるようにしておくことをお勧めします。

②証拠になる物をまとめる

事件の証拠となり得る物が手元にある場合,弁護士への相談に際して弁護士に示せるよう準備しておくことが有益です。

商標法違反の事件は,主に企業ロゴなどを不正に用いた商品の入手・販売が問題になりやすいところですが,実際にどのような商品が問題となっているのか,という点を把握するには,関連する証拠を共有することが最も端的であり確実です。
想定される証拠としては,商品の現物のほか,その商品を入手した時の情報商品を販売した時の情報(インターネット上に掲載した情報など)が挙げられるでしょう。

③弁護士に求めたいことをまとめる

弁護士を選ぶ際,何のために,何を目指して弁護士に依頼するのか,という点を明確にしておくことが必要です。相談の目的に関して弁護士とズレが生じると,弁護士からの案内も目的から外れたものになってしまい,結果として弁護士選びが円滑にできないためです。

もちろん,弁護士側も法律相談の目的を想像することはできるため,理解が大きくズレることは多くありませんが,その目的が自分にとってどれだけ重要なものか,という詳細なニュアンスの面は,どうしても弁護士側の想像では補いきれないものです。
弁護士選びを実のあるものにするためにも,弁護士選びの目的は明確に表現できるようにしましょう。

商標法違反事件で弁護士に依頼する場合の注意点

①弁護士との相性の重要性

商標法違反の事件では,依頼する弁護士との相性は非常に重要なポイントとなることが多く,この点を軽視しないよう注意することが適切です。

商標法違反の場合,事件の性質上,どのような動きを取ればどのような成果が得られるか(刑事処分がどの程度軽減するか等)という点を明確に見通すことが困難です。そもそも,活動方針が最も有益な結果につながるかどうか,つまり方針の判断が適切なのかどうかという点も,分からないまま進めざるを得ないことが多いでしょう。

そうすると,最善の結果が得られなかった場合に,どうしても「事前の判断や方針が誤っていたのではないか」との発想になりがちですが,そのような思いになる原因の多くが,弁護士への不信感です。
弁護士への信頼が確かであれば,結果が伴わなかった場合にやむを得ないと考えやすいですが,弁護士と相性が悪く,今一つ信頼できないと感じている場合には,弁護士の判断に原因があるのではないか,とのトラブルに発展しやすい傾向にあります。

このようなトラブルに至っても,依頼者自身が得をする可能性はないため,事前に弁護士との相性を重要なポイントと理解し,弁護士に全幅の信頼を寄せられるか慎重に検討することが適切でしょう。

②示談を試みる場合の経済的負担

商標法違反のケースでは,商品の購入者または商標権者(多くの場合は企業)との間で示談を試みることが有力な活動方針になります。示談が成立した場合には,刑事処分が多かれ少なかれ軽減することが見込まれるでしょう。

そのため,弁護士に依頼する際には,示談を試みる可能性を想定の上,示談のための経済的負担を背負うことができるか,という点に注意することが望ましいでしょう。
また,示談のためにどの程度の経済的負担が可能か,という水準をあらかじめ見積もっておけば,思わぬ金銭負担に悩むことも事前に回避できます。

③法律相談の時間制限

弁護士への法律相談は,30分以内,又は1時間以内といった形で時間を区切って行われるのが通常です。その時間内で,必要な情報を伝え,弁護士から案内を受け,弁護士選びの検討を行う必要があります。
もっとも,その時間は決して長くはありません。無意識に相談時間を浪費してしまうと,肝心の弁護士選びに必要な話が聞けないまま相談が終了してしまう可能性もあるでしょう。

そのため,弁護士選びに際しては,弁護士への法律相談に時間的な制限があることを踏まえ,弁護士選びの基準や聞きたいことなどを可能な限り整理して法律相談に臨むことをお勧めします。そのようなスタンスは,法律相談をより有益な内容とする結果にもつながるでしょう。

刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ

商標法違反の事件は,その内容や捜査に至った経緯などによって,有効な対応策が変わってくることのある事件類型です。
そのため,商標法違反に精通した弁護士への相談や依頼ができなかった場合,有益な対処をする機会を逃してしまう可能性も高いと言えます。
商標法違反の事件でお困りの場合は,弁護士へのご相談をお勧めします。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内することができます。
早期対応が重要となりますので,お困りごとがある方はお早めにお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

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