ストーカー行為で逮捕されるケースは?逮捕や呼び出しの流れは?

ストーカー行為は「ストーカー規制法」により厳しく処罰され、状況によっては逮捕に発展することがあります。突然の逮捕や取調べに直面すると、今後の生活や仕事、対人関係に大きな影響が及ぶ可能性があり、不安を抱える方も少なくありません。本記事では、ストーカー行為の逮捕について、どのような場合に逮捕されるのか、逮捕後の流れや適切な対応について分かりやすく解説します。

目次

ストーカー規制法違反に当たる行為

ストーカー規制法で禁じられている行為には,大きく分けて「つきまとい等」と「位置情報無承諾取得等」があります。

①つきまとい等

恋愛感情が満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で,以下の8つのうちいずれかの行為をすることを指します。

つきまとい,待ち伏せ,押しかけ,うろつき
監視していると告げる
面会や交際の要求
粗野又は乱暴な言動
無言電話,連続しての電話・文書・FAX・メール
汚物や動物の死体等の送付
名誉を害する行為
性的羞恥心を害する行為

参照:ストーカー行為等の規制等に関する法律

②位置情報無承諾取得等

同じく,恋愛感情が満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的での行為ですが,こちらは位置情報の取得に関する以下のいずれかの行為をすることを指します。

GPSによる位置情報の取得
GPSの取り付け

参照:ストーカー規制法が改正されました!

③ストーカー行為

そして,この①つきまとい等や②位置情報無承諾取得等を同一人物に対して反復して行うことを,「ストーカー行為」と言います。
「つきまとい等」や「位置情報無承諾取得等」は,それだけでは刑罰の対象ではありませんが,「ストーカー行為」に当たると刑罰の対象(=犯罪)となります。

ポイント
つきまとい等を同一人物へ反復して行うこと
又は
位置情報無承諾取得等を同一人物へ反復して行うこと
を「ストーカー行為」という

ストーカー行為の罰則

ストーカー規制法に定められている刑罰は,以下の3種類です。

①ストーカー行為をした場合
1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金

②禁止命令に反してストーカー行為をした場合
2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金

③禁止命令に違反した場合
6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金

つまり,「ストーカー行為」,「禁止命令」の違反,その二つを同時にした場合,の3種類ということになります。

なお,ストーカー規制法違反の行為は,それ自体が暴行・脅迫・器物損壊等の犯罪行為に該当する場合が多いため,ストーカー規制法違反以外にも複数の犯罪が成立し,あわせて処罰されることが多く見られます。

参照:ストーカー行為等の規制等に関する法律 e-Gov法令検索

ストーカー行為の罰則に関係する手続としては、「警告」と「禁止命令」があります。それぞれの内容や特徴は以下のとおりdす。

警告

警察は,「つきまとい等」や「位置情報無承諾取得等」について警告を求める申し出を受け,実際にその行為が反復される恐れがあると認めたとき,さらに反復してはならないと告げることができます。
これを「警告」と言います。

警告は,ストーカー規制法に定められた手続ですが,これに反した場合の罰則はありません
あくまで止めることを求める,という限りの措置です。

もっとも,警告に反すると,後のより重大な手続に発展する可能性が高いため,警告に違反することはお勧めされません。

禁止命令

公安委員会は,「つきまとい等」や「位置情報無承諾取得等」があり,さらに反復して行われる恐れがあると認めるときは,相手方の申し出又は職権により,以下の内容を命令できます。

一 さらに反復してその行為をしてはならないこと
二 さらに反復してその行為が行われることを防止するために必要な事項

これを「禁止命令」と言います。

禁止命令は,その違反に罰則が伴うほど重大な処分ですが,その期間は1年間に限定されます。
ただし,1年ごとに延長することが可能です。

ポイント
警告に法的拘束力はない
禁止命令は法的拘束力あり。違反は犯罪にも
禁止命令違反かつストーカー行為は刑罰が加重される

ストーカー行為はすぐに逮捕されるか

① ストーカー行為がすぐに逮捕される可能性

ストーカー規制法に違反する行為を行った場合でも、直ちに逮捕されるとは限りません。
警察は、まず被害者からの相談・通報を受けると、行為の内容や頻度、被害の深刻さを確認し、警告や禁止命令(公安委員会による)といった行政的措置をとるのが一般的です。

ただし、次のような事情がある場合には、警察が早期に逮捕に踏み切る可能性が高くなります。

・被害者が強い恐怖を感じている、または実際に危険が迫っている場合
・警察の警告や禁止命令に従わず、同様の行為を繰り返している場合
・被害者宅や勤務先周辺への押しかけ、待ち伏せなど身体的接触のおそれがある行為をしている場合
・SNSや電話などで執拗に連絡を取り続けており、威迫的・脅迫的なメッセージを送っている場合

このように、ストーカー行為の態様や危険性が高いと判断された場合には、警察が被害拡大防止の観点から身柄を確保する(逮捕する)ことがあります。

また、被害者が複数いる場合や、過去にも同様の行為を行っていた場合は、再犯のおそれがあるとして逮捕・勾留に至るケースもあります。

つまり、ストーカー行為は「一度の行為だから」「直接接触していないから」といって安心できるものではなく、被害者の恐怖感や危険の切迫度によっては即時に逮捕される可能性がある犯罪です。

そのため、警察から警告や呼び出しを受けた段階で、早めに弁護士へ相談し、対応方針を立てることが重要です。

ストーカー行為の逮捕は、ストーカー行為が繰り返される恐れが大きいほど可能性が高くなります。事件の性質上、継続的なストーカー行為による被害の拡大が生じやすいためです。

② ストーカー行為で逮捕の可能性が高いケース

ストーカー規制法違反の事件は,ケースによっては逮捕の可能性が十分に考えられる事件類型です。ストーカー事件の場合,個別の被害者が存在するため,主に被害者への悪影響や被害の拡大を防ぐため必要が大きい場合に,逮捕が選択されやすい傾向にあります。

ストーカー規制法違反で逮捕の可能性が高い場合としては,以下のようなケースが挙げられます。

ストーカー規制法違反で逮捕の可能性が高いケース

1.被害者の身体に危害の加わる恐れがある場合

2.警告や禁止命令を受けた後に継続した場合

3.期間や回数が著しい場合

【1.被害者の身体に危害の加わる恐れがある場合】

事件の内容から,今後被害者の身体に何らかの危害が加わる恐れがあると判断される場合,被害者を保護するため逮捕の可能性が高くなりやすいです。
危害の恐れの大きさは個別の判断とはなりますが,ストーカー行為の一環として身体への被害を示唆する言動があった場合,実際に身体への危害を加えようとした事実がある場合などは,危害の恐れが大きいと判断されやすいでしょう。

【2.警告や禁止命令を受けた後に継続した場合】

ストーカー事件では,いきなり刑事事件として捜査が行われるのではなく,警告又は禁止命令という形で,今後同様の行為をしないように求める告知が行われる流れが多く見られます。そして,警告や禁止命令を行った場合,これにもかかわらずストーカー行為が継続していれば,そこで刑事事件の対象とし,捜査や処分へと進むことになります。

この点,警告や禁止命令を受けたにもかかわらず,それでもストーカー行為が継続されているケースでは,逮捕以外に被害の拡大を防ぐ手段がないと判断されやすいため,捜査に際して逮捕が選択される可能性が高くなります。
特に,警告や禁止命令があってから,期間を空けずにストーカー行為が継続されている場合だと,逮捕の可能性が高まりやすいでしょう。

【3.期間や回数が著しい場合】

ストーカー行為の期間が著しく長い場合や,加害行為の回数が著しく多い場合には,逮捕しなければ大きな被害につながりかねないと判断され,逮捕の可能性が高くなりやすい傾向にあります。期間が長い場合には,その間のどこかで警告や禁止命令を受けているケースも少なくないでしょう。
また,長期間・多数回のストーカー行為の中で,被害者から明確に拒絶され,被害者が接触を望んでいないことが明らかになる場合も多く見られますが,被害者から拒絶されてもなお継続している場合には,特に逮捕の可能性が高くなりやすいところです。

ストーカー行為に対する逮捕は、当事者を強制的に引き離す必要性が高い場合になされやすいです。相手方への接触の恐れがあると判断されるような行動は控える方が賢明でしょう。

ストーカー規制法で逮捕された場合の流れ

刑事事件では,逮捕されると,最長72時間以内に「勾留」という身柄拘束の手続に移行するかが判断されます。勾留された場合,10日間の身柄拘束が行われ,更に「勾留延長」となれば,追加で最大10日間の身柄拘束の対象となります。

逮捕から起訴までの流れ

この点,ストーカー規制法違反の事件は,1回きりの出来事ではなく,継続的に何らかのトラブルが起きている場合が大半です。1回だけのトラブルであれば,そもそもストーカー行為と位置付けられるかという疑問も残るため,ストーカー事件は,その性質上複数の出来事が一体になったものと言えるでしょう。
そうすると,事態の全容解明や適切な処分の検討には相応の時間がかかるため,身柄拘束の期間は長くなりがちです。場合によっては,ある1件で逮捕勾留をした後,別の事件で逮捕勾留を行うことで,より長い拘束期間を確保する運用が行われる可能性も考えられます。

ストーカー規制法違反の場合,逮捕されたケースの拘束期間が長期に渡る場合もある,という点はあらかじめ注意することをお勧めします。

ストーカーで逮捕されたときに不起訴を目指す方法

ストーカー規制法違反の事件で不起訴を目指す場合,相手方との間で示談を試みることが非常に有力です。

ストーカー規制法違反が起訴されるのは,ストーカー行為や禁止命令違反によって被害者に損害を与えたためです。損害を与えた犯罪行為に対する責任として,刑事罰を科されることになります。
そのため,被害者に損害を与えた行為の責任が小さくなる場合には,刑事罰を科す必要もまた小さくなると考えられます。
そして,被害者の損害が小さくなり,損害を与えた行為の責任も小さくなるのは,被害者に損害賠償等をし,被害者と示談できた場合というわけです。
ストーカー規制法違反の事件は,示談ができているかできていないかによって,処分結果が大きく変わりやすいということが出来るでしょう。

なお,ストーカー規制法違反で示談を試みる場合の意内容や示談金額は,他の事件類型に比べ,個別のケースによって非常に大きな開きが生じやすい傾向にあります。
というのも,ストーカー規制法違反の事件は,継続的なやり取りや関係を前提としたものであり,その当事者間の関係が十人十色であるからです。
刑事事件の示談は,犯罪行為を対象にした合意となることが通常ですが,ストーカー規制法違反のケースでは,それまでの継続的な関係全てを精算する内容の合意とならざるを得ず,それだけに事件前の事情が大きく影響しやすいでしょう。

また,示談内容とすることの多い項目としては,接触禁止や特定の範囲への出入禁止といったものが挙げられます
いずれも,今後の当事者間の接触を物理的に断つための条項ですが,ストーカー規制法違反の場合,示談の要点は今後の接触がどのように防げるか,という点になることも非常に多いです。

示談を通じて不起訴を獲得することは、逮捕後の早期釈放にも直結しやすい重要な対応です。不起訴処分とされた段階で身柄拘束を続けることはなくなるため、即時に釈放されます。

ストーカーの逮捕は弁護士に相談するべき

① 逮捕後速やかに弁護士へ相談するメリット

ストーカー規制法違反で逮捕された場合、時間との勝負になります。
警察の取り調べや勾留判断は、逮捕後わずか数日のうちに進むため、できるだけ早く弁護士に相談し、適切な弁護活動を受けることが極めて重要です。

弁護士が速やかに介入することで、次のような具体的なメリットが得られます。

・身柄拘束を最短で終わらせられる可能性
 弁護士は、逮捕後の取調べ内容や証拠状況を確認し、逃亡・証拠隠滅のおそれがないことを主張します。
 検察官による勾留請求を防いだり、勾留決定に対して準抗告を行うことで、早期の釈放を目指します。

・取調べに適切に対応できる
 ストーカー事案では、被害者の恐怖感やSNSでのやり取りなど、感情的な要素が強く扱われる傾向にあります。
 弁護士は、供述内容を整理し、誤解を招かないよう助言することで、不利な供述調書の作成を防ぎます。

・被害者との示談交渉を安全に進められる
 本人が直接謝罪や弁償を試みると、新たな接触行為として再び違法とされるおそれがあります。
 弁護士が代理人として交渉することで、被害感情の緩和や示談成立につなげることが可能です。示談が成立すれば、不起訴処分となる可能性も高まります。

・前科回避・社会的影響の軽減
 弁護士は、反省や更生の意欲を示すための資料(謝罪文、カウンセリング受講報告など)を整え、検察官に提出します。
 これにより、起訴猶予(不起訴)処分や罰金での早期解決を促すことができます。
 また、家族や勤務先への対応についても助言し、社会的ダメージを最小限に抑えます。

逮捕後は、本人が外部と自由に連絡を取れない状況に置かれます。
その間、弁護士だけが面会(接見)を通じて本人の意思を伝え、行動を支えることができる唯一の存在です。
一刻も早く弁護士に相談することが、今後の手続と結果を大きく左右します。

② 逮捕を予防するために弁護士へ依頼するメリット

ストーカー規制法違反の事件で逮捕の回避を目指す場合には,弁護士への依頼が有力です。できる限り弁護士への依頼を行うことが適切でしょう。
弁護士への依頼により,以下のようなメリットが見込まれます。

1.逮捕が懸念される状況か分かる

ストーカー規制法違反の場合,警告など刑事手続以前の段階にとどまっている状況であれば,逮捕の心配をする必要がない場合も少なくありません。そのようなときは,何か積極的な動きを試みるのではなく,端的に被害者と主張する相手への接触を止める方が効果的な対応にもなりやすいでしょう。
逆に,ただ相手への接触を止めるだけでは逮捕の心配が残ってしまう場合であれば,相手への接触を試みないことに加え,逮捕回避のための積極的な行動に出る必要があります。

弁護士に依頼することで,現状ではどのくらい逮捕が懸念されるか,判断してもらうことができるでしょう。加えて,逮捕が懸念される程度に応じて,どのような対応をするべきか,具体的な行動方針についても指示や案内を受け,一緒に進めてもらうことが可能になります。

2.適切な被害者対応が分かる

ストーカー規制法違反の事件は,多くの場合,当事者間の意向にズレのあることが見受けられます。例えば,一方はしっかり話し合いたいと希望しているが,もう一方は接触自体したくない,といったように,解決方法に関する温度差が生じていることは珍しくありません。
そのため,被害者への対応方法を自分で考えていると,往々にして判断を誤りやすく,最悪の場合には自ら逮捕を招く結果になりかねません。

この点,弁護士へ依頼すれば,相手の希望を踏まえた適切な対応方法を弁護士から案内してもらうことが可能です。また,必要に応じて弁護士が窓口となって対応してもらうこともでき,被害者対応を誤ってしまうリスクは防ぐことができるでしょう。

3.不適切な逮捕を抑止できる

ストーカー規制法違反のように,具体的な被害者がいる事件類型では,特に被害者側の主張が強い場合,被害者保護を重視するあまり本来不要な逮捕に踏み切られるケースも散見されます。しかし,逮捕は,逮捕される側に極めて大きな不利益を負わせる手続であるため,安易に行われるべきものではありません。

この点,弁護士に依頼し,弁護士が法的な検討や指摘ができる状況であれば,法的に不適切な逮捕を抑止する効果が期待できます。弁護士が入っている場合,捜査機関もあまりいい加減な捜査手続を取ることはできないため,弁護士が目を光らせることで慎重な捜査を求める結果につながりやすいでしょう。

逮捕を防ぐためストーカー規制法違反を争うべき場合

ストーカー規制法違反と疑われたものの,その犯罪の成否を争うべき場合もあります。
この事件類型で代表的なのは,ストーカー目的で行った行為ではない,と主張するケースです。

ストーカー規制法違反は,目的犯と言われる犯罪類型です。
つまり,「つきまとい等」や「位置情報無承諾取得等」は,恋愛感情が満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で行われるもののみを指し,その目的で行われない行為は「つきまとい等」や「位置情報無承諾取得等」に該当せず,ストーカー行為にも当たらないのです。
この目的が存在しないと主張するべき場合は,ストーカー規制法違反を争うべき場合ということになるでしょう。

例えば,GPSを設置したものの浮気調査の目的だった,後をつけたがそれは恋愛感情とは関係ない逆恨みであった,といった場合が挙げられます。
もちろん,GPSの設置や後をつける行為は褒められるものではありませんが,ストーカー規制法違反かというのは全く別の話であり,犯罪の成否を争うことは大いにあってしかるべきでしょう。

ストーカー規制法違反として問題になるトラブルは,当事者間の認識に開きのある場合が多く,相手方がストーカー行為の目的と勘違いしているということもあり得るところです。
意図せずストーカー行為の疑いをかけられた場合には,目的がないとの争い方を検討されるとよいでしょう。

ポイント
ストーカー目的がない場合には犯罪の成立を争う方針も有力

ストーカー事件で呼び出しを受けた場合

呼び出された際の対応法

①行為に心当たりがある場合

ストーカーとされる行為をしたという心当たりがある場合は,まず何より逮捕を回避することを目指すのが適切です。犯罪事実の存在することが明らかである以上,捜査のために必要があると判断されれば,逮捕の危険が付きまといます。呼び出しに際しては,自らの対応で逮捕が必要との判断を招いてしまわないよう,対応方針を立てることが最優先です。

具体的には,まず自身がしてしまった行為を認め,真摯な反省の意思を表明することが望ましいでしょう。刑事事件の場合,認め事件よりも否認事件の方が逮捕の必要性が大きいと理解されるためです。
加えて,できる限り捜査機関の求めに応じて出頭する,提出を求められた証拠物は自発的に提出する,といった捜査協力の姿勢を示すことで,逮捕せずとも十分な捜査が可能であると理解してもらえるような対応を尽くす方針が有力です。

ストーカー規制法違反の場合,逮捕するかしないか,という捜査方針は呼び出しへの対応によって大きく左右されることも少なくはありません。適切な初期対応を尽くすことは,非常に大切な意味を持つと言えるでしょう。

ポイント
まずは逮捕の回避を目指す
行ったことを端的に認め,真摯な反省の意思と捜査協力の姿勢を示す

②行為に心当たりがない場合

ストーカー行為とされる内容に心当たりがない場合,捜査機関に「行為の有無をしっかり捜査しなければならない」との認識を持ってもらうことが必要です。捜査機関は,被害者と主張する人物の言い分を聞き,その内容が真実であるとの前提で呼び出していることが非常に多いため,その前提を改めてもらう必要があるのです。

そのため,呼び出しを受けた際には,まずストーカー行為に心当たりがないという点を明確に表明し,自身のスタンスを明確にしましょう。この場合,「ストーカー行為がない」という事実の裏付けとなる証拠は必要ありません。刑事事件の場合,証拠を収集する義務を負うのは捜査機関のみであって,被疑者側が証拠を集めたり提出したりするべき立場にはないためです。

そして,言い分を述べる場合には,できる限り具体的であること,一貫していることを重視するのが適切です。当事者間の言い分に相違がある場合,「どちらの言い分が信用できるか」という判断になることが見込まれますが,内容が具体的であること,一貫していることは,その言い分の信用性に大きな影響を与えます。

ポイント
相手方の言い分が真実でない可能性があるとの認識を持ってもらう
具体的な内容で,一貫して否認のスタンスを表明する

③経緯に言い分がある場合

ストーカー行為とされる行動を取ったことは間違いないが,そのような行動に至った経緯や理由について言い分がある,という場合も考えられます。
経緯に言い分がある場合の具体的な例としては,以下のようなものが挙げられます。

経緯に関する言い分の例

・突然連絡が取れなくなってしまい,やむを得なかった
・相手の一方的な態度に納得できなかった
・金銭的解決ができていない状態であった

経緯に言い分がある場合,確かに酌むべき事情もあると言えます。しかしながら,その言い分を捜査機関にぶつけて自身が正しいと主張することは控える方が賢明でしょう。

捜査機関は,犯罪事実の有無を捜査するだけの立場です。そのため,犯罪事実が存在する以上は,経緯に事情があるかどうかは捜査機関にとって関心事ではありません。経緯を捜査機関に伝えようとしても,呼び出しをする捜査機関の方に聞く意思がないため,伝えるメリットに乏しいと言わざるを得ないでしょう。
かえって,言い分を強く主張すればするほど,反省の意思がないとの評価につながり,大きな不利益につながりかねないことに注意が必要です。

経緯に関する言い分は,述べるべきタイミングや方法があります。対応を誤らないためには,弁護士への依頼を検討することが有力でしょう。

ポイント
呼び出しを行う捜査機関には,経緯を聞き入れる意思がない
経緯に関する主張は,適切な時期に適切な方法で行うべき

ストーカー規制法違反の呼び出しに応じると逮捕されるか

ストーカー規制法違反で呼び出しを受けた場合,これに応じて出頭した時点で逮捕されることは考えにくいのが通常です。逮捕をするつもりであれば,呼び出しによって予告してしまうのは証拠隠滅を招く点で不合理だからです。
もっとも,呼び出しへの対応によっては,その後の逮捕の可能性に影響を及ぼすことが考えられます。呼び出しに応じる際は,自身の対応で逮捕の可能性を高めないよう対応方針を立てることが望ましいでしょう。

この点,呼び出しへの対応によって逮捕の可能性が高くなるケースとしては,以下のような例が挙げられます。

呼び出しへの対応によって逮捕可能性が上がるケース

1.相手に接触する意思があると判断された場合

2.相手に主な落ち度がある,というスタンスであった場合

3.十分な応対がなかった場合

【1.相手に接触する意思があると判断された場合】

ストーカー事件の場合,当事者間の接触を防ぐことが捜査機関にとって非常に重要なポイントとなります。なぜなら,捜査機関に助けを求めた被害者は,今後の当事者間の接触を最も強く恐れていることが通常であるためです。
そのため,加害者側に接触の意思があると考える場合には,逮捕という強制的な手段でこれを防がなければならない,との判断に至る可能性が高くなります。

相手と会いたい,話をしたいという意思を執拗に示し続けるなど,相手に接触する意思が見受けられる場合には,逮捕可能性が高くなるでしょう。

【2.相手に主な落ち度がある,というスタンスであった場合】

ストーカー事件として問題になる場合,当事者間の関係は多かれ少なかれこじれてしまっており,修復の難しい状態になっていることが通常です。当事者間の関係が悪化した原因は様々で,どちらに落ち度があるか,当事者間でその言い分の異なる場合も少なくありませんが,関係悪化に対する落ち度への理解やスタンスが逮捕可能性を高めてしまう可能性もあります。

最も問題が大きいのは,「自分がストーカー行為をしたのは間違いないが,それは相手がに関係悪化の落ち度があるからだ」というスタンスを見せている場合です。捜査機関の目線では,自身の行為の重大性を理解できておらず,被害者側に不満をぶつける行動に出る可能性が高い,と評価されるため,逮捕の可能性を特に高くしてしまう対応方針と言えるでしょう。

【3.十分な応対がなかった場合】

呼び出しに応じて十分な応対がなく,非協力的な態度が見られる場合には,「取調べ等の捜査を行うために逮捕する必要性が大きい」との評価につながりやすいでしょう。

捜査機関が呼び出しを行うのは,呼び出せば応じてくれるということが当然の前提になっています。「呼び出しに応じてくれれば逮捕まではしなくてもよい」と考えており,適切に応じている限りは逮捕しない予定であることが多いと言えます。裏を返せば,呼び出しても応じてくれない場合,「呼び出せば応じてくれる」との期待はできないことが明らかになるため,「呼び出しても応じてくれない」可能性を踏まえた捜査手法,つまり逮捕が選択されやすくなるのです。

ストーカー規制法違反で警察が呼び出すタイミングや方法

①警告

警告は,被害者からの被害申告を受けた警察が,加害者とされる人物に対して,今後ストーカー行為をしてはならない旨を告げることをいいます。この警告は,文書が送られる形で行われることもありますが,警察署に呼び出された際に口頭で行われるケースもあり得ます。

ストーカー規制法違反の事件に関する取り扱いの中で,警告は比較的初期段階の動きとなります。そのため,被害申告があり,ストーカー行為の事実や今後反復される可能性があることなどが分かれば,それほど期間を空けずに警告のための呼び出しがなされ得るでしょう。

②禁止命令

禁止命令は,ストーカー行為をやめるよう命じる法律上の措置をいいます。禁止命令に反してストーカー行為が行われると,より重い刑罰の対象になり得るため,禁止命令は警告よりも強いストーカー抑止のメッセージと言えます。

禁止命令を行う場合には,加害者とされる側から話を聞く機会(聴聞又は意見の聴取)を設けることになるため,事前又は事後に呼び出しを受けることがあります。
禁止命令は,警告では抑止策として足りないと判断された場合の措置であるため,タイミングは警告よりも後となることが通常です。

参照:警察に相談した後の手続き

③取調べ

ストーカー規制法違反が刑事事件として具体的に捜査される場合には,被疑者となる加害者側を呼び出し,取調べを行うことが考えられます。そのため,取調べ目的で呼び出しを受けるケースもあり得るところです。

取り調べが行われるのは,警告や禁止命令といった方法では事件が解決できないと判断した後であることが通常です。裏を返せば,警告や禁止命令で解決できたと判断する場合,取調べのための呼び出しは行われません。
そのため,取調べ目的での呼び出しは,警告や禁止命令では解決できなかった,との判断がなされた後のタイミングになります。警告や禁止命令の後にストーカー行為があった場合,再発を防止するためにもできるだけ早く呼び出す方針が取られやすいでしょう。

ストーカー規制法違反の呼び出しに応じたときの注意点

①手続の段階を把握する

ストーカー事件の場合,警告や禁止命令といった予防的な措置がある点で,他の事件類型とは異なる特徴的な手続の流れが見られます。もっとも,基本的にはどの手続であっても主に警察が対応することになるため,警察に呼び出されるということには変わりがなく,専門家以外が手続の現状を正しく把握することはそれほど容易なことではありません。
とはいえ,手続の段階に応じて見通しも違えば取るべき方針も変わり得るため,現状が手続のどの段階か,正しく把握することは非常に重要となります。

ストーカー規制法違反の手続に適切な対応を尽くしたい場合は,弁護士などの専門家に相談・依頼の上,現在位置を正しく把握しながら進めることをお勧めします。

②述べるべき主張と述べるべきでない主張の区別

ストーカー規制法違反の事件では,加害者とされる側にも一定の主張が存在しており,当事者間で主張がぶつかり合っていることは少なくありません。その中で,加害者として警察に呼び出されたとなれば,自分の主張を捜査機関にぶつけたくもなるでしょう。
しかしながら,呼び出された際に述べるべき主張とそうでない主張は,適切に区別することが肝要です。この区別があいまいなまま感情に任せて主張することは,自分に不利益をもたらしかねません。

述べるべき主張は,「疑われているストーカー行為が存在しない」というものです。まさに犯罪事実の有無に関する問題であるため,この点に主張がある場合には確実に述べることが望ましいと言えます。
一方で,述べるべきでない主張は,ストーカー行為に至った経緯や自分の気持ちという点です。これらの主張は,犯罪事実の有無に関係しないため捜査機関が参考にするものではありません。そればかりか,強く述べれば述べるほど,ストーカー行為の反復が不安視されてしまうことにもなりかねないでしょう。

③弁護士依頼の時期

ストーカー事件の場合,弁護士依頼をいつすべきか,という判断が難しい場合も少なくありません。それは,ケースによってはストーカー行為をやめるという消極的な対応以外にできることがない,という状況であるためです。
例えば,警告を受けたのみの段階であって,それ以上の手続が予定されていない状況である場合,基本的な方針は「今後相手方に接触しない」というのみです。警察としては,警告によって取り扱いを終了しているため,それ以上の積極的な動きをする機会がありません。

一方で,手をこまねいていては逮捕や刑罰を受けてしまう状況である場合も考えられるため,弁護士依頼をすべき時期にあるかは正しく理解することが非常に重要となります。
具体的な判断に際しては,弁護士に相談の上,専門的な見解を仰ぐことをお勧めします。

ストーカー規制法違反の刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ

ストーカー規制法違反の事件は,早期に適切な対応を尽くせば深刻化しない場合も珍しくありません。
一方で,事態が深刻化した場合には逮捕勾留につながる場合もあり,また,意図せずストーカー行為を疑われた場合には法的な争点を踏まえた対処が必要です。
ストーカー規制法違反事件の解決には,刑事事件に精通した弁護士へのご相談やご依頼が有力でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内することができます。
早期対応が重要となりますので,お困りごとがある方はお早めにお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

目次