ひき逃げは重大な犯罪とされ、発覚すれば逮捕や実刑、社会的信用の失墜といった深刻な結果につながる可能性があります。突然の事態に直面し、「どう対応すればよいのか」と不安に感じる方も少なくありません。こうした場合、ひき逃げに強い弁護士へ早期に相談することで、不起訴の可能性を高めたり示談を有利に進めたりすることができます。本記事では、弁護士に依頼するメリットや無料相談を活用する際のポイントを分かりやすく解説します。
この記事の監修者
藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介
全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。
ひき逃げとは
ひき逃げは,法律で定められた語句ではありませんが,人身事故発生時,自動車運転者が救護義務に違反したことを指すのが一般的です。
つまり,被害者をひいておきながら,その場から逃げることを指して,俗にひき逃げと呼ばれています。
運転者は、交通事故を起こした際には、負傷者の救護や警察への報告など一定の義務を負いますが、救護を怠った場合には「救護義務違反」として処罰の対象となります。
この救護義務違反がいわゆる「ひき逃げ」に当たるものであり、極めて重い非難を受ける行為とされています。
参照:交通事故で救護義務違反(ひき逃げ事件)として処罰されないために
ひき逃げと当て逃げの違い
①当て逃げとは
当て逃げも,ひき逃げと同じく法律で定められた語句ではありませんが,こちらは,物損事故において警察への報告義務を怠った場合を指すのが一般的です。
他の車両や物に当てておきながら,その場から逃げた場合に,当て逃げと呼ばれるものに該当することとなります。
例えば,無人の車両や塀などに衝突した事故では,ケガした人がいないため救護義務は発生しませんが,報告義務は変わらず発生するため,その場から離れてもひき逃げになることはないものの当て逃げにはなってしまうでしょう。
②ひき逃げと当て逃げの差異
ひき逃げ・当て逃げは,いずれも自動車運転中に交通事故加害者となった者が,自らの義務を果たさなかったことを言います。
そこで,ひき逃げと当て逃げの差異を理解するためには,交通事故に際して発生する自動車運転者の義務を把握することが必要です。
救護義務(ひき逃げの法的根拠)
自動車運転中に事故が発生し,被害者がケガを負ったと思われるとき,自動車運転者は,直ちに車を停めて被害者を救護し,道路の危険を防止するなどの措置を取らなければなりません。
この義務を救護義務といいます。
報告義務(当て逃げの法的根拠)
交通事故が発生した場合,事故車両の運転者は,現場の警察官や最寄りの警察署に交通事故の事実を報告しなければなりません。
具体的には,事故発生の日時,場所,死傷者の数や程度,損壊した物や程度等の報告が必要です。
自動車運転者が負うこの義務を報告義務といいます。
危険防止措置義務
交通事故の直後には、他の通行車両や歩行者が新たな事故に巻き込まれるおそれがあります。
そのため、運転者には道路上の危険を除去・軽減するための措置を取る義務があります。
たとえば、ハザードランプを点灯する、発煙筒を使用する、車両を安全な場所に移動するなどが該当します。
これを怠ると、安全運転義務違反(道路交通法第70条)として処罰される可能性があります。
ポイント
ひき逃げ:人身事故における救護義務違反
当て逃げ:物損事故における報告義務違反
ひき逃げは何罪か
ひき逃げは、複数の法律に違反する重大な犯罪行為です。
交通事故を起こした後に現場から立ち去る行為は、単一の罪名ではなく、複数の法的責任を同時に問われることになります。
ひき逃げが重く処罰される理由は、被害者の救護義務を怠る点と、事故の発覚を免れようとする隠ぺいの意図にあります。事故直後の適切な救護措置は被害者の生命を左右する可能性があるため、法律はこれを特に重視し、厳しい刑罰を定めています。
ひき逃げの場合、自動車運転死傷行為処罰法と道路交通法の両方が適用されるのが一般的です。
① 自動車運転死傷行為処罰法違反
運転上の過失や危険な運転によって人を死傷させた場合、以下の罪が成立します。
過失運転致死傷罪(第5条)
→ 7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
危険運転致死傷罪(第2条)
→ 致傷の場合は15年以下の拘禁刑、致死の場合は1年以上20年以下の拘禁刑
② 道路交通法違反
事故後の対応義務に関する違反として、次の2つの罪が問われます。
救護義務違反(第72条1項前段)
→ 5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
報告義務違反(同条後段)
→ 3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金
ひき逃げ初犯の場合に受ける刑罰
①ひき逃げ(救護義務違反)の場合
救護義務違反は重大な犯罪類型に当たるため,原因となった交通事故の大きさによっては初犯でも実刑判決の対象となる可能性があります。
結果の大きさ以外には,運転行為の危険性,逃走後に証拠隠滅行為に及んだかどうか,事後的に被害者側へ謝罪や賠償を尽くしたか,といった点が,刑罰の重さを判断する材料になりやすいです。
②当て逃げ(報告義務違反)の場合
物損事故に伴う報告義務違反は,救護義務違反ほどの重大な取り扱いの対象とはなりづらいでしょう。罰金刑となり,略式手続で終了することもあります。略式手続で終了すれば,公判(公開の法廷での裁判)を受ける必要はなくなります。
もっとも,被害の規模があまりに大きかったり,他の重大な交通違反が伴っていたりすると,公判請求され,公開の裁判を受けなければならない場合も考えられます。
ポイント
起訴されやすい事件類型。確実ではないが示談すれば不起訴の確率は上昇
ひき逃げは初犯でも実刑判決となり得る事件。当て逃げは罰金となる例も多数
ひき逃げの時効
ひき逃げは、刑事事件としてだけでなく、民事事件としても責任を問われる可能性があります。
それぞれの時効期間は異なり、刑事では「公訴時効」、民事では「不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効」として定められています。
① 刑事事件の時効(公訴時効)
刑事事件における時効は「公訴時効」と呼ばれ、一定の期間が経過すると起訴できなくなり、その結果、逮捕・処罰もされません。
成立し得る犯罪とその公訴時効は、以下のように整理できます。
| 罪名・法令 | 主な内容 | 公訴時効期間 |
|---|---|---|
| 危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法2条) | 飲酒・薬物・著しいスピード超過など、危険な運転により人を死傷させた場合 | 致傷:15年 / 致死:20年 |
| 過失運転致死傷罪(同法5条) | 不注意な運転により人を死傷させた場合 | 致傷:5年 / 致死:10年 |
| 救護義務違反(道路交通法72条1項前段) | 被害者を救護せず現場から立ち去った場合(いわゆる人身ひき逃げ) | 7年 |
| 報告義務違反(同条1項後段) | 事故を警察に報告せずに現場を離れた場合(いわゆる当て逃げ) | 3年 |
※公訴時効は、原則として犯罪行為が終了した時点(逃走が完了した時点など)から進行します。
※複数の罪が成立する場合は、最も重い罪の時効期間が基準となります。
② 民事事件の時効(損害賠償請求権)
ひき逃げによって被害を受けた場合、被害者や遺族は加害者に対して損害賠償請求(不法行為に基づく請求)を行うことができます。
この民事上の請求には、以下のような時効期間が定められています(民法724条)。
| 時効の起算点 | 期間 | 内容 |
|---|---|---|
| 損害および加害者を知った時から | 5年 | 被害者が加害者を特定し、損害の発生を認識したときから進行。 |
| ひき逃げ事故の日から | 20年 | 加害者が不明なままでも、事故発生日から20年で時効が完成。 |
※民事の時効は、刑事事件の進行(捜査・起訴など)とは独立して進みます。
※加害者が特定されていない場合でも、保険会社などを通じた請求(自賠責保険等)が可能な場合もあります。
ひき逃げに強い弁護士へ依頼するメリット
ひき逃げ事件に強い弁護士への依頼には、以下のようなメリットが期待できます。
①逮捕や勾留の回避
ひき逃げ事件や当て逃げ事件では,漫然と対応していると逮捕勾留されるものの,適切な対応を取ることでこれを回避できる場合が考えられます。
先に解説した自首(出頭)をはじめ,逃亡や証拠隠滅の恐れが低いことを明らかにする活動をすることで,逮捕や勾留の回避を目指すのは有力でしょう。
具体的な方法・内容は,個別のケースにおうじて弁護士へご相談されることをお勧めします。
②早期釈放
逮捕勾留されたケースで,できるだけ速やかな釈放を目指す場合にも,弁護士への依頼が有力です。
弁護士から不服の申立てをしたり,担当検察官と協議を試みたりすることで,より速やかな釈放が実現できる場合も考えられます。
また,直ちに釈放が難しい場合にも,個別事件に応じた釈放時期の見込みや,釈放に必要な手段などを把握することも可能です。
③示談交渉
認め事件の場合,処分の軽減のためには被害者との示談交渉が非常に重要です。
被害者が許しており,刑事処罰を希望しない場合には,処分は劇的に軽減することが多いでしょう。
もっとも,ひき逃げや当て逃げの事件では,被害者側の感情的な問題もあり,なかなか簡単にはお話合いができないことも少なくありません。
ひき逃げ・当て逃げの事件で被害者側との示談交渉を目指したい場合には,弁護士への依頼をお勧めいたします。
④不起訴の獲得
ひき逃げ・当て逃げの事件では,弁護士による法律的な主張で不起訴処分を獲得できる場合があります。その代表例が,事故発生の認識がない(又は,認識があったとは断言できない)場合です。
救護義務や報告義務は,自動車運転者が交通事故の発生を認識していないと発生しません。事故の発生に気づいていなければ,救護や報告は行いようがないためです。
この点,事故の程度が非常に小さい場合には,運転者が接触に気づくことのできない場合があります。このケースでは,当然ながら救護や報告はしないため,後日になって救護義務違反や報告義務違反の疑いをかけられることになります。
これに対して,弁護士から,本件では救護義務や報告義務が発生していなかったことを法律的に主張し,検察官を納得させることで,不起訴処分を獲得できる場合も多数あります。
身に覚えのない事故でひき逃げや当て逃げを疑われている場合には,弁護士に依頼して法律的な主張を行ってもらうことを検討しましょう。
ひき逃げに強い弁護士を選ぶ方法
弁護士を選ぶ基準
①迅速な対応ができるか
ひき逃げ事件は,逮捕や勾留といった身柄拘束が伴いやすいこともあり,弁護活動にスピードが要求されやすい傾向にあります。ケースによっては,対応の迅速さによって釈放時期や刑事処分が大きく変わる可能性もあり得るところです。
もっとも,弁護士がどのタイミングでどのような弁護活動を行うかは,基本的に弁護士側の判断に委ねられています。刑事事件のスピード感に合わせた迅速な対応のできる弁護士であれば問題ありませんが,万一弁護活動がタイミングを逃したものになってしまうと決定的な悪影響につながる可能性も生じてしまいます。
迅速対応を約束してくれるかどうかは,必ず弁護士選びの基準として設けるようにしましょう。
②刑事弁護の専門性があるか
ひき逃げ事件の弁護活動には,知識や経験がないと見通すことが困難な特徴的な取り扱いが少なくありません。弁護士は,それらの特徴を踏まえて手続や処分の見通しを立て,その見通しを前提に弁護活動の方針や内容を検討することになります。
そのため,弁護士がひき逃げ事件の特徴を把握しているか,事件分野に関する知識や経験があるか,といった点は,弁護活動の内容や結果を直接左右する重要なポイントとなるでしょう。
弁護士選びに際しては,ひき逃げ事件の対応に必要な知識や経験を持ち合わせていることを重要視したいところです。
もっとも,弁護士にひき逃げ事件の知識や経験があるかをピンポイントで把握することは容易ではありません。そこで,刑事弁護がその弁護士の重点的な取り扱い分野であるか,という点を判断基準の一つとすることは,現実的でもあり有力でしょう。
③弁護方針が具体的か
ひき逃げ事件の場合,個別の内容によって実現可能な結果が大きく異なりやすいところです。例えば,運転者が事故が起きたことを把握することすら困難な内容であれば,犯罪が立証できないことを理由に不起訴処分となる可能性も十分にありますが,明らかな重大事故でひき逃げの事実も明白であれば,不起訴を目指すこと自体に無理があるケースも考えられます。
そのため,ひき逃げ事件の弁護に際しては,個別の内容に応じて目指すべき着地点を明確に定め,その着地点に向けた弁護方針を設けることが重要となります。ひき逃げ事件の弁護活動は,活動内容も目標も具体的であることが要求されます。
弁護士選びに際しては,弁護士の案内する弁護活動の方針や目標がどれだけ具体的か,という点を重要な判断基準とすることをお勧めします。弁護方針が具体的であることは,依頼後の動きやすさにも直結する点で大切なポイントになるでしょう。
弁護士に依頼するべきタイミング
①自首を試みるとき
自首とは,罪を犯した者が,捜査機関に対してその罪を自ら申告し,自身に対する処分を求めることをいいます。犯罪事実や犯人が捜査機関に知られる前に,自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告することが必要とされます。
ひき逃げ事件の場合,被害者は基本的に捜査機関に捜査を依頼することになりやすいところです。もっとも,直ちに加害者が特定できないケースも少なくないため,加害者の特定前に自首がなされれば,有益な法律上の効果が期待できるでしょう。
もっとも,具体的に自首を試みることは相当にハードルが高いため,当事者自身で自首を決断し実行するのは容易ではありません。そのため,自首を検討する場合には,弁護士に依頼をし弁護士と協同して行うことが非常に有力と言えます。
ひき逃げ事件では,自首がなければ逮捕されていたが自首したために逮捕を免れた,という場合も珍しくはないため,弁護士とともに自首を検討することは極めて重要な行動となるでしょう。
ポイント
ひき逃げ事件でも,加害者特定前であれば自首は可能
自首が逮捕回避につながることもある
②逮捕されたとき
ひき逃げ事件は,逮捕の可能性が十分に考えられる事件類型です。事故現場から逃走してしまった事件であり,類型的に逃亡が懸念されやすい事件類型であることから,逃亡を防ぐため逮捕をする必要性が高いと評価されやすいのです。
もっとも,逮捕によって刑事手続や処分の方向性が決まるわけではありません。逮捕は,あくまで捜査手続の一つに過ぎず,被疑者に対する捜査の初期段階と言うことも可能です。そのため,逮捕後の対応によっては,刑事処分の結果に大きな影響を及ぼす可能性があり,逮捕されたときこそその後の動きを迅速に検討・判断すべきでしょう。
逮捕直後は,弁護士選びが非常に重要な局面と言えます。早期に有効な弁護活動を開始してもらうためにも,速やかに妥協のない弁護士選びを行うことをお勧めします。
ポイント
ひき逃げ事件は逮捕の可能性が十分にある
もっとも,逮捕は捜査の初期段階であり,その後の対応を速やかに決めるのが有益
③起訴されたとき
ひき逃げ事件は,その内容の重大性から,起訴が免れられないケースも珍しくありません。そして,起訴された後は,公開の法廷で裁判を受け,刑事処罰が決定されることになります。
この点,ひき逃げ事件では,起訴後の裁判での対応を誤ってしまうと,実刑判決を含めた重大な刑事処罰の恐れが生じ得ます。実刑判決となってしまった場合,刑務所に入ることを強いられ,日常生活から引き離される結果となることが見込まれます。そのため,実刑判決でなく,刑務所への収監が生じない執行猶予判決を目指し,適切な対応を取るべきケースが少なくないでしょう。

起訴された後は,裁判で万全の対応を尽くすため,公判対応に適した弁護士を探すことが重要となります。
ポイント
ひき逃げ事件で起訴された場合,実刑判決を避ける努力が必要
具体的な対応は弁護士の判断が適切
④示談を試みるとき
ひき逃げ事件は,特定の被害者が存在する事件のため,刑事処分に対する被害者の意見が処分結果を大きく左右する傾向にあります。そのため,処分の軽減を目指すためには被害者側への配慮は不可欠となるでしょう。
この点,被害者へのアプローチとして代表的な示談の試みは,基本的に弁護士を窓口として行うことが必要です。当事者間での直接の協議は適切でないため,弁護士と被害者との間で連絡を取ってもらい,協議を進めることが一般的です。
もっとも,示談の成否やその内容は,担当する弁護士によって様々に変わりやすいものです。示談における合意内容は当事者間の自由であり,無数の選択肢があるため,示談交渉の巧拙が示談の内容に直結することも珍しくありません。
そのため,示談を試みたいときには示談に精通した適任の弁護士を選ぶ必要があるでしょう。
ポイント
示談の協議は弁護士を窓口に行うことが適切
示談の成否や内容は,弁護士によって様々に変わる
ひき逃げ事件で弁護士に依頼する場合の注意点
①土日祝日の対応
身柄拘束を伴うひき逃げ事件の場合,手続の期限は土日祝日であっても関係ありません。そのため,手続上の分岐点となるタイミングが土日祝日に当たる可能性もあります。このとき,弁護士が一切対応できない状態となると,必要な弁護活動が行われず,重大な不利益につながる恐れもあるため,注意することをお勧めします。
当然ながら,すべての土日祝日に弁護士の対応を求めることは現実的ではありません。もっとも,手続上重要なタイミングが土日祝日に当たった場合に,一律対応できないとの取り扱いなのか,ある程度柔軟な対応が可能なのか,という点は,弁護士やそのスケジュールによっても様々であるため,事前に確認することが有益です。
②弁護士との相性を重視する必要
ひき逃げ事件の場合,当初の目的がやむを得ず達成できないことも珍しくありません。不起訴を目指したい,早期に釈放して欲しい,被害者との間で円滑に解決したいなど,ひき逃げ事件で実現したい事柄は多数考えられますが,事件によっては実現の余地がない場合も考えられます。
もっとも,目的が達成できなかった場合,依頼者目線ではその原因が明確には分かりません。そのため,弁護活動に問題があったせいなのか,弁護士が何をしても達成できない状況だったのかは,分からずじまいとなりやすいところです。
このとき,弁護士との相性や弁護士への信頼という点が非常に重要な問題となります。なぜなら,依頼者としては弁護士への信頼を前提とし,「弁護士に対応してもらってもダメだった以上はしょうがない」と判断するほかないためです。弁護士との相性に疑問を感じていたり,信頼が不十分だったりすると,弁護士への不満や弁護士とのトラブルの原因となってしまいます。
納得できる結果を得るためにも,弁護士との相性は重視することをお勧めします。
③トータルの弁護士費用額
弁護士への依頼には弁護士費用が必要となりますが,その金額は弁護士や法律事務所によって大きく異なる可能性があります。そのため,弁護士費用の見込みについては,十分な確認が望ましいところです。
この点,ひき逃げ事件の場合には,身柄拘束が長期間生じた場合に想定を大きく超えないか把握するため,費用の支払基準を正しく理解することが望ましいでしょう。一見すると安価そうに見える場合でも,手続の各段階で加算される費用が多いと,結果的に高額の弁護士費用となる可能性もあり得ます。
刑事事件の弁護士費用は,事前にゆっくりと検討することが難しい性質のものであるため,できるだけ支払の基準や金額が分かりやすい法律事務所を選択するのが適切でしょう。
ひき逃げで不起訴になるケース
ひき逃げや当て逃げの事件は,その犯罪事実が明らかであれば,起訴される方が一般的でしょう。
特に人身事故を伴うひき逃げ事件は,重大な事件であるため,起訴を想定する必要が生じやすいです。
そこで,不起訴を目指すためには積極的な試みが必要になりやすいですが,不起訴と判断され得るための活動や判断材料としては,以下のものが挙げられます。
① 示談による被害者の宥恕
ひき逃げ・当て逃げともに,違反行為そのものに被害者はいませんが,その原因となった交通事故には被害者が存在します。
そのため,被害者との間で解決を試み,被害者の宥恕(刑罰を求めないという意思)をいただくことができれば,不起訴処分の可能性は高くなるでしょう。
もっとも,ここでの示談は,被害者が刑事処罰を求めるかどうか,という問題であって,保険会社が対応してくれる金銭面の問題ではありません。被害者の宥恕が獲得したい場合には,保険会社の対応とは別に自分から被害者にアプローチをかける必要があります。
② 事件の規模が小さい
ひき逃げや当て逃げの原因となった交通事故が非常に小規模であれば,それに応じてひき逃げや当て逃げの刑事処分も小さなものになるのが一般的な取り扱いです。
そのため,加害車両の速度が低かった,被害者の受傷や被害物の損傷が小さかった,被害者側の過失がなければより結果は小さかったはずであるといった場合には,不起訴処分の可能性が高くなり得ます。
ひき逃げで弁護士に依頼して不起訴になる方法
① 金銭賠償
ひき逃げ事件では,怪我をした被害者に具体的な損害が生じています。そのため,生じた損害を補填することは,処分の軽減を目指す上で非常に重要な動きとなるところです。
損害を補填する具体的な方法は,金銭の支払であることが通常です。精神的苦痛などを金銭換算し,適切な金額を支払うことで損害の補填とする,ということになります。
この点,自動車保険(任意保険)に加入している場合は,基本的な金銭賠償の対応は保険会社で行うことが通常です。損害の金銭換算にも一定のルールがあるため,そのルールに沿った適切な支払を期待することができるでしょう。
もっとも,保険による金銭賠償はいわば加害者の義務であり,当然の対応ではあるため,保険から賠償をしたのみで不起訴が目指せるわけではありません。金銭賠償は,不起訴を目指す場合の前提であるとの理解が適切でしょう。
ポイント
被害者の損害を金銭で補填することが適切
もっとも,金銭賠償はあくまで不起訴を目指す前提にとどまる
② 示談
ひき逃げ事件の場合,具体的な被害者が存在するため,被害者の意向が刑事処分を大きく左右しやすい傾向にあります。被害者の許し(=宥恕(ゆうじょ))が得られているかどうかが,起訴不起訴の判断に決定的な影響を及ぼすことも珍しくはありません。
そのため,加害者の立場としては,被害者との間で示談を行い,被害者の宥恕を獲得することが非常に重要な試みと言えます。
ちなみに,ここでの示談は,保険会社が行う金銭の支払とは別のものであり,被害者の宥恕を内容とする合意を指します。保険会社は,金銭賠償のみを加害者の代わりに行う立場であるため,被害者が宥恕するかどうか,という点に関与することはできません。そのため,被害者の宥恕を獲得したい場合には,保険会社とは別に,積極的に被害者側との示談を試みることが必要となります。
ポイント
被害者側の許しの有無が起訴不起訴を左右しやすい
保険会社の対応とは別に,被害者との間で示談を目指すことが適切
③ 自首
ひき逃げ事件がまだ捜査されていない,あるいは捜査されているものの被疑者が特定できていない,という段階では,不起訴を目指す手段として自首が有力となります。
自首は,自ら捜査機関に犯罪事実を告げる行動であるため,深い反省の意思が表明されているとの評価につながりやすい傾向にあります。起訴不起訴の判断は,被疑者の反省状況を踏まえて行われるものであるので,自首を通じて深い反省が示されていることは,不起訴処分を目指すための重要な材料となることが見込まれるでしょう。
もっとも,ひき逃げ事件の場合,事件自体の重大性があるため,自首によって確実に不起訴が実現するというわけではありません。特に被害結果が重大なケースでは,自首を試みても結果的に起訴されてしまう可能性も踏まえておくことをお勧めします。
ポイント
捜査前の段階であれば,自首が有力
もっとも,重大事故では不起訴が期待できない可能性も
④ 否認事件の場合
否認事件では,犯罪の成立することが証明できない,という形での不起訴を目指すことが有力です。法的には,「嫌疑なし」(犯罪の疑いがないと分かること)または「嫌疑不十分」(犯罪事実を立証する証拠が不十分であること)と呼ばれます。
この点,ひき逃げ事件の否認事件で最も多いのが,自動車運転者に「交通事故が発生したことの認識がなかった」というケースです。
ひき逃げ事件は,交通事故が起きた際の自動車運転者が負う救護義務に違反するものであるため,自動車運転者に「救護義務が発生している」との認識が必要となります。そして,「救護義務が発生している」との認識があると言えるためには,事故発生の認識が必要です。交通事故の発生を認識できている場合にのみ,救護義務の発生が認識できるためです。
ひき逃げ事件の前提となる交通事故には,大小様々なものがあります。そのため,特に事故の規模が小さく,自動車運転者からは事故が起きたかどうかも不明確であるという場合には,事故発生の認識を欠き,不起訴となる可能性があり得るところです。
ポイント
否認事件では,犯罪の立証ができないとの結論を目指す
事故発生の認識がない場合には不起訴が見込まれる
⑤ ひき逃げ事件で不起訴を目指す場合の注意点
自動車保険の利用は不起訴の根拠にならない
交通事故の場合,被害者への金銭賠償のために自動車保険を利用することが一般的です。任意保険に加入していれば,被害者の経済的な損害は自動車保険が全て賠償してくれることになりやすいでしょう。
そして,自動車保険と被害者との間では,金銭面の解決内容が合意できた場合,示談を取り交わすことが見込まれます。示談により,加害者と被害者の間では一定の解決となります。
しかしながら,自動車保険を通じて金銭賠償の合意ができた(示談ができた)としても,それだけで不起訴処分となるわけではない,という点に十分な注意が必要です。なぜなら,自動車保険ができる解決は,あくまで金銭面のみであるため,不起訴のために重要な被害者の意向(起訴を望むか不起訴を望むか)という面に対しては何も手当てがなされていないためです。
不起訴を目指すためには,自動車保険の対応とは別に,被害者に不起訴を望む意向を表明してもらうことが重要となります。「示談」という言葉に惑わされることのないようにしましょう。
示談をしても不起訴にならない可能性
ひき逃げ事件で不起訴を目指すためには,被害者との示談が非常に重要となります。ただ,示談ができたからといって必ずしも不起訴にはならないという点には注意が必要です。
ひき逃げ事件は,特定の被害者に対する犯罪であると同時に,公共の利益に悪影響を及ぼす犯罪であると理解されています。自動車運転者が被害者を救護しないでひき逃げをしてしまうと,社会の秩序が大きく乱れてしまうため,ひき逃げ事件は社会にも損害を及ぼす事件類型とされているのです。
被害者との示談は,被害者に生じた損害に対する許しではありますが,社会に生じた損害を許すものにはなりません。そのため,社会における公共の利益を害した,という面が重視された場合,示談が成立していてもなお不起訴は獲得できない可能性があり得るのです。
身柄事件の期間制限
ひき逃げ事件は,逮捕勾留といった身柄拘束を伴う捜査が行われやすいですが,身柄拘束には厳密な期間制限があります。
逮捕されると,最大72時間以内に「勾留」されるかどうかの判断が行われます。勾留された場合には10日間の身柄拘束が引き続き,その後に「勾留延長」となれば更に最大10日間の拘束を受けることとなります。

もっとも,裏を返せば,逮捕後に捜査が行われるのはこの最大23日程度の期間に限られます。不起訴を目指すのであれば,この限定された期間の中で必要な弁護活動を尽くし,不起訴の判断に必要な結果を獲得することが求められますが,これは容易なことではありません。
身柄事件では,期間制限が厳格であるため,獲得できる結果に限りが生じ得ることを注意しておくようにしましょう。
ひき逃げで示談をするためのポイント
① 示談を試みる方法
当て逃げ事件で示談を試みる場合,大きく分けて「捜査機関を通じて申し入れる」か「被害者に直接申し入れる」か,という二つの方法が考えられます。
【捜査機関を通じて申し入れる場合】
特に当事者間で連絡を取る手段がない場合,弁護士に依頼して弁護士から捜査機関に連絡を入れてもらうことが必要です。弁護士から連絡を受けた捜査担当者は,被害者に意向を確認し,被害者が示談交渉に応じる場合には連絡先の交換を仲介します。
連絡先の交換ができた場合,弁護士から被害者に連絡を行い,示談交渉を開始します。

示談交渉の流れ
1.弁護士が捜査機関に示談したい旨を申し入れる
2.捜査機関が被害者に連絡を取り,示談に関する意思確認をする
3.被害者が捜査機関に返答をする
4.被害者が了承すれば,捜査機関を介して連絡先を交換する
5.弁護士が被害者に連絡を取り,交渉を開始する
【被害者に直接申し入れる場合】
当て逃げ事件では,警察を通じて当事者間の連絡先交換を行う場合があります。これは,主に加害者から被害者への金銭賠償をするのに必要であるためです。加害者が自分の保険会社に事故を報告し,被害者の連絡先を伝えることで,保険会社と被害者のやり取りが開始する,という流れが一般的です。
当事者間で連絡を取ることができる場合,被害者側が了承するのであれば直接示談交渉を申し入れることも可能です。ただ,示談交渉には丁寧な説明と交渉が必要になるため,弁護士に依頼して弁護士に行ってもらうようにしましょう。
具体的な方法としては,以下のいずれかが考えられます。
示談を試みる方法
1.依頼した弁護士から直接被害者に連絡する
2.加入保険の担当者から被害者に連絡してもらう

② ひき逃げ事件の示談金相場
ひき逃げ事件の場合,被害者は何らかのケガを負っていることになるため,治療費や慰謝料といった損害が発生しています。そのため,示談に際しては被害者に生じた損害を考慮することが不可欠であり,示談金額にも大きく影響します。
もっとも,被害者に生じた損害については,加入する自動車保険からの支払を行ってもらうのが適切でしょう。その主な理由は以下の通りです。
自動車保険から支払を行ってもらうべき理由
1.金額が大きくなりやすい
2.金額計算に専門的な知識が必要となる
3.当事者間では感情的なトラブルの恐れが大きい
適切な手順で,適切な金額の支払を行うためには,自動車保険の利用が合理的と考えるのがよいでしょう。
そして,損害賠償に自動車保険を用いた場合,当事者間の示談金は,治療費や慰謝料といった損害を除いた金額ということになります。具体的には,「処罰を望まないという意思を表明してもらうことの対価」となるでしょう。
ひき逃げ事件の被害者にとって,加害者の刑事処罰を希望しないメリットは基本的にありません。そのため,加害者側からただ許しを求められたとしても,直ちに応じようと思う被害者はあまりいないでしょう。
そのため,加害者側としては,許しを獲得するための対価を被害者に提供することで,被害者にとって示談が有益なものとなるよう提案することが有力です。対価は基本的に金銭となりますが,このような金銭を支払う場合の相場は,概ね10~50万円ほどという水準が目安になるでしょう。
具体的な示談金額は,事故の内容や被害の程度,加害者の経済力といった事情によって左右されることが考えられます。
示談金額を左右する事情
1.事故の内容
→加害者の落ち度が大きな事故であるほど増額要因になる
2.被害の程度
→被害者の受傷が重いほど増額要因になる
3.加害者の経済力
→経済力に限りがある場合,増額が困難となり得る
③ ひき逃げ事件の示談で注意すべきこと
示談が処分の軽減に影響する範囲
ひき逃げ事件は,厳密には複数の犯罪に該当する行為です。
ひき逃げ事件で該当する犯罪
1.過失運転致傷(致死)
→自動車事故で他人を死傷させたこと
2.救護義務違反(ひき逃げ)
→被害者の救護を怠ってその場を離れたこと
(※ひき逃げ事件の処分が重くなる主な要因)
3.報告義務違反
→事故の発生を警察に報告する義務に反したこと
(※ただし,刑罰の重みは救護義務違反に大きく劣る)
ひき逃げ事件は,単に過失運転致傷(致死)があったのみでなく,救護義務の違反があるために重大な犯罪行為とみなされる,ということになります。
しかし,示談が直接処分の軽減に影響するのは,「1.過失運転致傷(致死)」の部分と理解されています。最も重大な救護義務違反との関係では,示談の意味は十分にあるものの,かといって示談すれば救護義務違反を起訴しなくてよくなる,というわけではないのです。
これは,救護義務違反が被害者を守るためのものというのみでなく,広く道路交通に関わる人の安全という公共の利益を守るための犯罪類型であるためです。被害者と示談したとしても,公共の利益を害した点について責任を負わせる必要がなくなるわけではない,ということになるのです。
ひき逃げ事件については,示談=不起訴という単純な関係にはならないことに注意が必要でしょう。
被害者の感情面
ひき逃げ事件は,被害者にとって非常に理不尽な内容であるケースが多く,被害者の加害者に対する感情が強くなることが珍しくありません。これは,加害者が示談を申し入れたときにも大きく影響するポイントとなります。
ひき逃げ事件の場合,被害者目線では,加害者を許すという判断に大きな抵抗のあることが大多数です。いきなり許してほしいという趣旨のお願いをしても,拒否される方が普通でしょう。
そのため,まずは被害者の感情面に配慮の上,謝罪の試みを行う,という方針が適切になりやすいところです。許してもらえるかどうかは,謝罪を受け取ってもらった後の問題である,と考える方が合理的でしょう。
示談を急ぐのではなく,まずは粘り強く謝罪の意思を伝える,ということを大切にするのが,結果的に示談の近道になると言っても過言ではありません。
ポイント
示談=不起訴ではない
まずは謝罪を試みることから始める
ひき逃げに強い弁護士をお探しの方へ
ひき逃げは,その場を離れてしまっているため,単純な交通事故よりも身柄拘束(逮捕・勾留)の必要が大きいと判断される可能性があります。
もっとも,事故の規模が限定的である場合など,ケースによっては必ずしも逮捕や勾留が必要というわけではなく,適切な対応によって最悪の事態を回避できる類型でもあります。
事件に応じた適切な対応は,刑事弁護に精通した弁護士への相談・依頼が適切です。
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