●どこからが住居侵入罪に該当する行為か?
●住居侵入と建造物侵入はどのように区別されるか?
●泥酔中に住居侵入したと言われた。どうなるか?
●住居侵入・建造物侵入は逮捕されるか?
●住居侵入・建造物侵入事件での早期釈放は可能か?
●住居侵入・建造物侵入はどんな刑罰になるか?
●住居侵入事件で弁護士に依頼するメリットは?
といった悩みはありませんか?

このページでは,住居侵入・建造物侵入の事件でお困りの方に向けて,住居侵入事件や建造物侵入事件の具体例,捜査や処分の流れ,弁護士に依頼するメリットなどを解説します。
住居侵入罪にあたる行為
住居侵入罪とは,正当な理由なく人の住居に侵入する犯罪です。
住居侵入罪として問題になる行為には例として以下のようなものが挙げられます。
①窃盗目的で住宅に侵入する行為
いわゆる空き巣などが該当します。窃盗行為が行われた場合,あわせて窃盗罪又は窃盗未遂罪が成立します。
もっとも,窃盗行為を実行せずに立ち去ったとしても,住居侵入罪は変わらず成立します。
②わいせつ行為目的で帰路の後をつけ,住宅に侵入する行為
路上で目撃した被害者へのわいせつ行為を企図した人が,その場ではわいせつ行為を行わず,自宅に入る被害者の後をつけて住宅に侵入した場合です。
わいせつ行為がなされた場合,内容等に応じて不同意わいせつ罪などの性犯罪が別途成立します。また,わいせつ行為がなされなかった場合でも住居侵入罪は変わらず成立します。
③知人の自宅の合鍵を作り,それを用いて居宅に侵入する行為
加害者と被害者が勤務先の同僚等の関係にある場合に,加害者が被害者の所持品から鍵を持ち出して合鍵を作製し,その合鍵を用いて被害者方に侵入するケースです。
合鍵を持ち出した段階で,その行為について窃盗罪の成立することが一般的です。
④更衣室や浴室を覗く目的で住宅の敷地内に侵入する行為
庭などの敷地から,住宅の更衣室や浴室を覗くことができる状況にある場合,その敷地に入る行為は住居侵入罪に該当するのが通常です。
住居侵入罪は,住居のみでなく,その住居に付属して一体となった場所に侵入する行為も対象とするものと理解されます。そのため,庭や駐車場,塀と玄関の間のスペースなど,住居に付属した私有地への侵入行為は,住居侵入罪に該当するところです。
なお,覗き行為が行われた場合,軽犯罪法違反などの犯罪があわせて成立するでしょう。
⑤下着窃盗のためベランダに侵入する行為
ベランダに洗濯物が干してある場合に,これを盗むためベランダに立ち入ったり手を伸ばしたりする行為にも住居侵入罪が成立します。
ベランダも,居室そのものではありませんが住居の一部に含まれるとの理解が一般的です。そのため,正当な理由なくベランダに侵入すれば,住居侵入罪の対象となります。
ポイント
住居侵入事件の典型例は,窃盗目的やわいせつ目的での居宅への侵入
合鍵を作って侵入する事件は,鍵の窃盗罪も成立しやすい
敷地内やベランダに侵入する行為も該当し得る
住居侵入と建造物侵入の区別
住居侵入罪と類似する犯罪に,建造物侵入罪があります。建造物侵入罪は,文字通り建造物に正当な理由なく侵入する犯罪です。
ここで,建造物とは,人が出入りする構造物のうち,住居以外の建物を指すのが通常です。そのため,住居侵入罪は人が日常的に生活する場所への侵入を,建造物侵入罪は住居でないが人が出入りする建物への侵入を,それぞれ対象としていると言えるでしょう。
建造物の具体例としては,商業施設やオフィスビル,学校,工場,倉庫などが挙げられます。
なお,住居侵入罪と建造物侵入罪は,守ろうとする権利や利益(保護法益)にも相違があるとされます。
具体的には以下の通りです。
住居侵入罪 | 個人の生活の平穏 プライバシーの保護 |
建造物侵入罪 | 建物の安全性 公共の秩序の保護 |
住居侵入・建造物侵入事件の捜査と逮捕
①後日逮捕
住居侵入事件や建造物侵入事件の捜査は,現行犯に限らないことが特徴の一つです。
これは,侵入行為がされた時点では発覚せず,侵入行為が度重なったり,侵入行為による損害が発覚したりしたときに,後から侵入の被害を知ることが多い事件類型であるためです。
また,後日になって捜査が開始された場合,捜査機関としては,被疑者が特定できた段階で後日逮捕をするか,逮捕せず在宅事件として取り扱うかを選択しますが,住居侵入事件では後日逮捕される場合が多く見られます。
これは,住居侵入行為が被害者のプライバシーを非常に大きく侵害する行為であり,被害者側の恐怖や生活の平穏に配慮する必要があるためと思われます。自宅に侵入したであろう被疑者が特定されたにもかかわらず,その居所が分からないとなると,被害者としては多大な精神的負担を強いられることが想像に難くないところです。
②現行犯逮捕
もちろん,侵入行為がなされた現場で,現行犯で問題になることも少なくありません。この場合,逮捕に至るかどうかは,概ね以下のような事情から判断される傾向にあります。
侵入行為の程度・内容
→居宅の中まで立ち入っている場合,敷地や共用部までの立ち入りと比較して逮捕の可能性は高くなります。
侵入目的
→わいせつ行為目的など,侵入目的が悪質な場合には逮捕の可能性が高くなります。
侵入行為の計画性
→思い付きではなく,事前に計画されたことの伺われる侵入行為の場合,逮捕の可能性が高くなります。
再被害の恐れ
→泥酔者が突発的に行ったような場合と,明確な意思で被害者の居宅を狙って侵入した場合とでは,再被害の恐れに大きな差があり,逮捕の可能性も変化します。
住居侵入・建造物侵入で早期釈放は可能か
住居侵入事件や建造物侵入事件で早期釈放の可能性があるかは,侵入行為の程度(犯罪行為の重大さ)によって大きく区別されやすい傾向にあります。
①侵入行為の程度が軽微な場合
敷地やマンション共用部への立ち入り,店舗入り口などへの立ち入りといった,侵入行為が比較的軽度なものである場合,早期釈放されることも少なくありません。
具体的な判断要素としては,以下のようなものが挙げられます。
被疑者の認否 | 認めている場合の方が,否認している場合よりも早期釈放につながりやすくなります。 |
身元が確かであるか | 同居人が身元を引き受けられる場合,早期釈放につながりやすくなります。 |
侵入行為以外の重大犯罪があるか | 窃盗やわいせつ行為など,侵入行為の上で重大犯罪が行われた場合には,事件の重大性を踏まえて早期釈放はされづらくなります。 |
余罪が想定されるか | 継続的に同じ住居へ侵入していたなど,同種の余罪が想定される場合,余罪に関する証拠隠滅の防止などを理由に早期釈放がされづらくなります。 |
②侵入行為の程度が重大な場合
居室の中に立ち入っているなど,侵入行為の程度が重大な場合には,早期釈放は非常に困難なことが多数見られます。逮捕後も身体拘束が続く場合,手続としては10~20日間の勾留が行われますが,重大な住居侵入事件では20日間の勾留を想定する場合が多いでしょう。
また,類型的に同種の余罪が発覚することも少なくありませんが,余罪がある場合,余罪についての再逮捕・再勾留が続けて行われ,身体拘束期間がより長期化する場合もあります。
余罪での再逮捕・再勾留が行われると,「逮捕+勾留」の身柄拘束期間(概ね22~23日程度)がその件数分繰り返されることになるため,トータルで数か月に及ぶことも珍しくはないところです。
侵入行為が重大な住居侵入事件の場合,早期釈放を求めることは容易でないので,余罪の発覚を防ぐ,身に覚えのない余罪はしっかり否認するなど,余罪での逮捕勾留が繰り返されないことを目指すのが有力な対応になりやすいでしょう。
住居侵入・建造物侵入の刑事処分
住居侵入事件・建造物侵入事件では,起訴されるかどうかの判断に際して,被害者の処罰感情が強く重視されます。
住居の居住者や建造物の管理者が,加害者の刑罰を希望する場合は起訴され,刑罰を科さないことを希望する場合には起訴されない,という運用が数多く見られるところです。
そのため,住居侵入・建造物侵入の事件では,被害者との示談を試み,被害者の宥恕(許し)を獲得することが非常に有益な対応になるでしょう。
起訴前に示談が成立し,被害者の宥恕が得られていれば,不起訴処分となるのが一般的です。
一方,起訴が免れなかった場合の処罰としては,実刑判決の対象となるケースは決して多くありません。
比較的軽微な侵入行為であれば罰金刑も考えられますし,重大な侵入行為であったとしても執行猶予付きの判決になることが代表的です。
もっとも,多数の余罪があるケース,侵入の際に重大事件を犯しているケースなどは,初犯でも実刑判決にならないとは限りません。
この点,起訴後であっても示談の試みは有力であり,示談が成立している住居侵入事件で実刑判決になるのは非常に稀ということができるでしょう。
起訴が免れなかった場合でも,示談の試みにより処分を可能な限り軽減することは重要です。
不起訴を目指すポイント
住居侵入事件(建造物侵入事件)で不起訴を目指す方法
①被害者の宥恕
住居侵入(建造物侵入)事件に対する刑事処分の内容は,被害者の意向を大きく反映したものになることが通常です。住居侵入(建造物侵入)事件は,侵入された個別の被害者が存在し,その被害者が損害を被った事件であることから,その責任の程度を判断する際にも被害者の意向を考慮することが適切であるためです。
裏を返せば,被害者から起訴を望まないとの意向を表明してもらうことができれば,不起訴処分が大きく近づくことになります。
そのため,住居侵入(建造物侵入)事件で不起訴を目指す方法としては,被害者から宥恕(ゆうじょ=許し)を獲得することが非常に有益です。起訴前に被害者の宥恕が獲得できれば,大多数の事件で不起訴処分が期待できるでしょう。
ポイント
住居侵入(建造物侵入)事件の刑事処分は,被害者の意向を反映したものになる
被害者の宥恕(許し)を獲得できれば,不起訴に大きく近づく
②捜査機関への出頭
住居侵入(建造物侵入)事件は,その内容の性質上,被害者に発覚するまでに長い時間のかかりやすい傾向が見られます。被害者に事件が発覚しない限り,捜査自体が始まらないケースも珍しくはありません。
これは,加害者の立場から見れば,事件が発覚する前に自分から警察などに出頭し,住居侵入(建造物侵入)してしまったことを明らかにする余地がある,ということになります。現実に捜査機関が事件を把握していなかった場合,自首が成立する可能性も高いでしょう。
自ら捜査機関に出頭し,自分の住居侵入(建造物侵入)行為を明らかにすることは,深い反省の意思の現れと評価されることが一般的です。事件によっては,深い反省の意思を考慮してもらうことで,不起訴処分が獲得できる場合も考えられます。
なお,自ら出頭した場合には,その後に被害者の宥恕を目指すこともセットで試みるのが有益でしょう。出頭をしておきながら示談を試みない,というのは,不起訴を目指す動きとして合理的とは言えず,非常にもったいないと言っても間違いありません。
ポイント
事件発覚前に捜査機関へ出頭することで,深い反省の意思が表明できる
出頭後に被害者の宥恕を獲得することもセットで試みるべき
③故意がない場合
住居侵入(建造物侵入)事件はいわゆる故意犯であるため,誤って侵入してしまった,という場合には犯罪が成立しません。代表的な例としては,以下のような場合が挙げられます。
故意のない住居侵入(建造物侵入)事件の例
・勘違いした場合
→自分の住居と勘違いして他人の住居に侵入してしまった
・泥酔状態の場合
→泥酔のため住居(建造物)に侵入していることを理解できなかった
・無理矢理侵入させられた場合
→命令・強要行為などによって自分の意思に反して侵入させられた
自分の意思で住居侵入(建造物侵入)事件を起こした認識がない場合には,故意がない旨の主張が有力になりやすいでしょう。ただし,捜査機関から見ると,本当に故意がなかったのか言い逃れを図ろうとしているのか区別が付かないため,粘り強い説明が必要となることは想定しておくことをお勧めいたします。
ポイント
自分の意思以外の理由で侵入した場合,犯罪が成立しない
言い逃れとの区別が付かないため,粘り強い説明を要しやすい
④侵入行為に心当たりがない場合
侵入行為そのものに心当たりがないという言い分は,法的には「犯人性」を争うとの主張になります。自分が犯人かどうか,というポイントが争点だという意味です。
犯人性が問題になる場合には,捜査機関に対して,「自分が犯人でない可能性が十分に考えられる」との判断を促すことが適切な対応と言えます。捜査機関は,被疑者が犯人であることについて「合理的な疑い」がある場合,起訴すべきでないとの判断をすることになるため,「自分が犯人であることに合理的疑いがある」=「自分が犯人でない可能性が十分にある」との判断をしてもらうことが目標になるのです。
基本的な対応としては,自分の記憶する事実をありのまま話すことが適切です。適切な情報提供を行うことで,犯人性に関する捜査を促す効果も期待できます。
ポイント
犯人性が争点になる
犯人であるかどうか合理的な疑いが残る,との判断を促す
住居侵入(建造物侵入)事件で不起訴になる可能性
住居侵入(建造物侵入)事件は,不起訴処分になる可能性が十分に考えられる事件類型です。事件の具体的内容や程度,認否や証拠関係などによって見通しは様々に異なりますが,決して不起訴を見込むことができない事件ではありません。
特に,被害者との間で解決を図ることができていれば,不起訴の可能性は極めて大きく上がります。また,被害者との解決が困難な場合でも,ケースにより不起訴の可能性が高まることはあり得るでしょう。
具体的には,以下のような場合に不起訴の可能性が高くなりやすいところです。
不起訴の可能性が高くなる住居侵入(建造物侵入)事件の特徴
1.侵入した場所
→住居の出入口近辺までの侵入にとどまるか,さらに奥の居室等まで侵入しているか,という点。プライバシー侵害の程度が小さい場所への侵入にとどまっているほど,不起訴の可能性が高くなる。
2.侵入の方法
→合鍵の作成やピッキング行為など,特に手段を尽くさなければ侵入できない場所に敢えて侵入した場合,不起訴の可能性は低くなる。一方,扉が開かれていた等,容易に侵入できる状況だった場合,不起訴の可能性が高くなる。
3.侵入の目的
→わいせつ行為や窃盗行為のためであるなど,目的が悪質な場合には不起訴の可能性が低くなる。一方,悪質な目的がない場合や,同情すべき理由がある場合には,不起訴の可能性が高くなる。
4.侵入後の行動
→侵入後に何らかの加害行為や別の犯罪行為に及んでいる場合,不起訴の可能性が低くなる。逆に,特に何の行動も取らず速やかに立ち去っている場合,不起訴の可能性が高くなる。
住居侵入(建造物侵入)事件で不起訴を目指す場合の注意点
①被害者の意向の重要性
住居侵入(建造物侵入)事件の場合,不起訴処分となるかどうかには被害者の意向が非常に大きく影響します。極論すれば,被害者が不起訴を希望したから不起訴,そうでなければ起訴であったというケースも決して珍しくありません。
そのため,住居侵入(建造物侵入)事件で不起訴を目指す場合には,まず被害者から不起訴を希望するとの意向が獲得できないか,という点を検討することが適切になりやすいでしょう。被害者の意向と他の事情とでは,不起訴処分に与える影響が大きく異なる点に注意が必要です。
②被害者は誰か
住居侵入(建造物侵入)事件の被害者は,住居(建造物侵入)の管理権者と言われています。これは,多くの場合は所有者ですが,必ずしも所有者には限られず,個別のケースにより判断も異なり得ます。
例えば,賃貸マンションへの侵入行為であった場合,マンションの所有者(オーナー)と,実際にその住居を管理し居住している人(賃借人)は別です。このとき,現実に侵入行為でダメージを受けたのは賃借人の方であるため,オーナー側でなく賃借人を被害者と考えることが一般的でしょう。
被害者に関する理解は,不起訴処分のため誰の宥恕を獲得すべきか,という点で重要な問題となります。不起訴処分の獲得に適した動きが取れるよう,謝罪などを試みるべき相手を正しく特定することに注意しましょう。
③現行犯逮捕と不起訴の関係
住居侵入(建造物侵入)事件の場合,事件がその場で発覚すれば,現行犯逮捕とされることも少なくありません。被害者のプライバシーが大きく侵害されており,身体生命の危険が生じかねないことを踏まえ,被害者保護の目的から速やかな現行犯逮捕がなされやすいのです。
もっとも,現行犯逮捕されることと,その後不起訴になるかどうかということは別の問題です。現行犯逮捕されたから不起訴にならない,という性質のものではないため,変わらず不起訴を目指す努力は行うことが適切と言えます。
裏を返せば,現行犯逮捕されず,ひいては逮捕自体されていない,という事件であっても,不起訴が見込まれると判断できるわけではありません。適切な対応を逃して起訴されることのないよう,十分に注意したいところです。
建造物侵入事件で不起訴になる可能性
建造物侵入事件は,不起訴処分となる可能性も十分に考えられる事件類型です。刑事事件の中では,決して重大な事件というわけではないため,比較的軽微と評価される事件では,より不起訴の余地が大きいと言えるでしょう。
不起訴になるかどうかは,事件そのものの内容と,事件後の対応の両面を踏まえて判断されますが,事件そのものの内容として不起訴の可能性が高くなりやすい場合としては,以下のケースが挙げられます。
建造物侵入事件で不起訴の可能性が高くなるケース
1.不特定多数者が出入りできる場所への侵入
2.侵入後に別の犯罪行為がない
3.侵入の動機が悪質でない
4.1回きりの事件
【1.不特定多数者が出入りできる場所への侵入】
侵入場所が不特定多数者の出入りできるところであった場合,侵入行為の重大性は比較的軽微と判断されるのが通常です。立ち入ることのできる人が少ない場所であればあるほど,侵入行為による被害者の損害が大きいと評価されるためです。
【2.侵入後に別の犯罪行為がない】
建造物への侵入後,窃盗やわいせつ行為といった別の犯罪行為を行っている場合,事件の重大性は飛躍的に大きくなるため,不起訴の可能性は低くなりやすいです。逆に,侵入行為はあったもののその後に別の犯罪行為を何もしていない,という場合は,比較的軽微な事件と理解されやすく,不起訴の可能性が高くなり得ます。
【3.侵入の動機が悪質でない】
侵入行為に至った動機が,同情の余地のない身勝手なものなのか,当事者の判断としてはやむを得ない面のあるものか,という点は,刑事責任の重さに大きく影響することが通常です。
確かに侵入行為はあったものの,その動機が悪質でなく,同情すべき事情も認められる場合には,刑事責任は比較的軽微と評価され,不起訴の可能性が高くなります。
【4.1回きりの事件】
建造物侵入事件は,複数件発生しているケースが比較的多い事件類型です。特に,同一の建造物に複数回侵入するケースが散見されるため,侵入が1回のみか複数回かという点は,事件の重大さに大きく影響し得るところです。
1回きりの建造物侵入事件である場合,事件の重大さが限定的であるとの理解がされやすく,不起訴の可能性が高くなる傾向にあると言えます。
建造物侵入事件で不起訴を目指す場合の注意点
①形式的な被害者と実質的な被害者
建造物侵入事件の場合,法律上の被害者は建造物の管理権限を持つ人です。ビルであればオーナー,店舗であれば運営会社などが代表的でしょう。
もっとも,事件の内容によっては,法律上の形式的な被害者と実質的な被害者が異なるケースも多く見られます。例えば,建造物のお手洗いに入った後,窃盗事件や盗撮事件などを起こした,という場合,窃盗や盗撮目的での立入は建造物侵入罪に該当する可能性が高いものの,事件全体を見ると実質的な被害者は窃盗や盗撮の被害に遭った人物です。この場合,形式的な被害者である建造物の管理権者とのみ解決を目指してもあまり有益ではなく,実質的な被害者との解決を目指すことが望ましいと言えます。
形式的な被害者としても,実質的な被害者の方と解決してくれればそれでよい,と考えている場合が多いため,実質的な被害者へのアプローチを優先することを強くお勧めします。
②余罪と不起訴の関係
建造物侵入事件では,余罪のあることも一定数見られます。そして,余罪の存在は,以下のような形で起訴不起訴の判断に影響し得ます。
・余罪自体が起訴される
→本罪が不起訴となっても,それとは別に余罪が起訴され,全体として不起訴が実現できない
・余罪があることを踏まえて本罪が起訴される
→本罪の刑事責任の重さを考慮する材料として,余罪のあることが加味され,本罪が起訴される
余罪自体が処分の対象になるのか,余罪を踏まえて本罪の処分が変わるのか,という違いと言えます。
どちらであるかによって,不起訴を目指す具体的な方法は大きく変わる可能性があるため,余罪がある場合には弁護士の法的な判断を仰ぐのが賢明です。
③共犯事件の場合
建造物侵入事件の場合,単独犯でなくいわゆる共犯の事件も一定数見られますが,共犯事件のケースでは,個々の役割が刑事処分に大きな影響を及ぼす,という点に注意することが重要です。
共犯事件では,共犯者間の役割の違いによって,起訴不起訴の判断が分かれやすい傾向にあります。主導的な役割を担っている方が起訴されやすく,周辺,末端の位置づけにある方が不起訴とされやすい,というのが基本的な考え方です。
そのため,共犯事件で不起訴を目指す場合には,実際の役割以上に中心的存在だったと評価されることのないよう,自身の立ち位置を正確に把握してもらうことが重要になるでしょう。
住居侵入・建造物侵入事件の示談
住居侵入(建造物侵入)事件で示談すべき場合
住居侵入(建造物侵入)事件は,認め事件である場合,基本的に示談をすべきということができるでしょう。特に,以下のような場合に示談をする必要性が高くなります。
①逮捕を防ぎたい場合
住居侵入(建造物侵入)事件では,捜査に際して逮捕されることが少なくありません。それは,類型的に被害者を保護すべき必要性が高いと理解されやすいためです。
住居侵入事件の場合,加害者は被害者の住居というプライバシーで保護されるべき場所に立ち入っており,被害者は大きな危険に晒されてしまっています。しかも,加害者にとって被害者の住居地が明らかであるため,加害者を放置していると被害者への接触が懸念されます。特に,被害者が警察に相談したと分かれば,加害者が逆上などして被害者への暴力的行為に及ぶ危険も否定できません。
そのため,住居侵入(建造物侵入)事件は,類型的に逮捕されやすいのです。
しかし,被害者との示談が成立していれば,その後に加害者から被害者に危害の加わる可能性がないと判断できるため,逮捕の必要がなくなることが一般的です。逮捕の恐れをここまで劇的に下げられる動きは示談以外にないため,示談は逮捕を防ぐために最も有力な行動と言えるでしょう。
ポイント
住居侵入事件は逮捕されやすい
しかし,示談後に逮捕されることはほぼなくなる
②刑罰を防ぎたい場合
住居侵入(建造物侵入)事件は,捜査の結果犯罪事実の立証ができると判断されれば,検察官によって起訴されるのが通常です。初犯であっても,それだけを理由に不起訴とできるほど軽微な事件類型ではありません。
しかし,犯罪事実の立証ができる場合であっても,被害者が起訴しないでほしいとの意思であれば,検察官がこれに反してまで起訴することはほとんどありません。住居侵入(建造物侵入)事件は,特定の被害者に被害を与える犯罪であることから,その被害者の意向を処分結果に大きく反映される運用となっています。
そのため,犯罪事実の存在が明らかに立証できる場合には,示談によって被害者に起訴を望まない意思を表明してもらうことによって,不起訴処分を獲得し,刑罰を防ぐことが非常に有力となります。このように,被害者に起訴を望まない意思を表明してもらうことができる手段は,基本的に示談以外にはないため,刑罰を防ぐという面でも示談が最も有力な行動と言えます。
ポイント
住居侵入(建造物侵入)事件は,犯罪事実が明らかであれば刑罰を受けるのが通常
示談によって被害者が起訴を望まなくなれば,刑罰の回避が可能
③早期釈放を図りたい場合
住居侵入(建造物侵入)事件で逮捕された場合でも,示談が有力な手段になります。
逮捕をされると,まず最大72時間の身柄拘束を受けた後,10日間の「勾留」,さらに最大10日間の「勾留延長」を受ける可能性があります。勾留延長までなされる場合,23日前後の身柄拘束となってしまうため,日常生活への影響は避けられません。

この点,早期の段階で示談が成立すれば,その後の身柄拘束がなされず早期釈放に至る可能性が高くなります。逮捕段階で示談できれば勾留はされづらく,勾留の段階で示談できれば勾留延長には至りづらい,ということです。
住居侵入(建造物侵入)事件の場合,早期示談は早期釈放と直接結びついていると言っても過言ではないでしょう。
④否認事件で示談すべき場合
住居侵入(建造物侵入)事件は,否認事件の場合に示談を試みることはあまりありません。それは,示談の基本的な内容が謝罪と賠償であるためです。
否認事件は,「住居侵入(建造物侵入)をしていない」という主張であるため,本来は被害者とされる人物への謝罪や賠償をする筋合いがないはずです。そのため,否認事件で示談を試みるのは,やり方を間違えると否認の主張が信用できないという悪影響につながりかねません。
この点,否認事件でも,犯罪の有無について記憶がない場合には,示談が有力な手段になりやすいでしょう。代表例は飲酒の影響で酩酊状態だった場合です。
「酩酊していたため,住居侵入(建造物侵入)をした記憶がない」という言い分は,住居侵入(建造物侵入)を認めてはいないので否認事件に分類するのが通常です。ただ一方で,はっきりと否認をできるほどの根拠もないため,示談によって早期終結できる方がメリットの大きい状況でもあります。
このような場合には,認めてはいないものの示談をする,という動き方が有力になり得るでしょう。ただし,具体的な方針や示談の行い方は容易に判断できるものでないため,このような複雑な動き方を取る場合は必ず弁護士の判断を仰ぐようにしましょう。
ポイント
否認事件では,示談による謝罪や賠償が適さない
記憶がないなど,強く否認しづらいケースでは示談が有力になりやすい
住居侵入(建造物侵入)事件で示談をする方法
住居侵入(建造物侵入)事件で示談を試みる場合は,まず弁護士に依頼し,弁護士を窓口とすることが必要です。住居侵入(建造物侵入)事件の場合,当事者間が直接示談交渉を行うことは不適切であり,二次的なトラブルに発展する危険が大きいため,必ず弁護士に依頼するようにしましょう。
また,住居侵入事件で捜査を受けている場合には,被害者の住居地を把握していたとしても,直接被害者に接触するのでなく,まず捜査機関の担当者に連絡を取るのが適切です。
被害者が直接接触されることを希望している可能性はほとんどないため,示談が円滑に進むとは考えにくい上,最悪の場合には被害者に危害を加える目的であったと疑われかねません。
弁護士が依頼を受けた場合,捜査機関の担当者に問い合わせ,加害者が示談希望である旨を伝えます。あわせて,捜査機関から被害者に連絡を入れるよう依頼し,被害者の意向を確認してもらうことが通常です。確認の結果,被害者が示談交渉を了承する意向であれば,連絡先の交換ができ,弁護士と被害者との連絡が開始できます。

示談交渉の流れ
1.弁護士が捜査機関に示談したい旨を申し入れる
2.捜査機関が被害者に連絡を取り,示談に関する意思確認をする
3.被害者が捜査機関に返答をする
4.被害者が了承すれば,捜査機関を介して連絡先を交換する
5.弁護士が被害者に連絡を取り,交渉を開始する
住居侵入(建造物侵入)事件の示談金相場
住居侵入(建造物侵入)事件の示談金は,被害者が受けた損害の程度や内容によって異なりますが,加害者が単純に被害者の住居地内に立ち入った,というのみの事件であれば,示談金は10~20万円ほどが目安になりやすいでしょう。
加害者の行為が住居侵入(建造物侵入)のみであれば,経済的な損害が具体的に生じているわけではなく,被害者の生命身体に危険が生じたわけでもないため,それほど高額の示談金とはならないケースが多く見られます。
もっとも,ケースによっては示談金がより高額になる場合もあり得ます。住居侵入(建造物侵入)事件の示談金額に影響し得る具体的な事情としては,以下のようなものが挙げられます。
住居侵入(建造物侵入)事件の示談金額に影響する事情
1.侵入の程度
→庭に入ったか,玄関に入ったか,寝室まで入ったかなど。よりプライベートな場所まで立ち入っているほど増額要因になる
2.侵入の態様
→被害者により大きな恐怖を与える方法で侵入すると,増額要因になる
3.侵入時における物品の損壊
→窓ガラスや鍵など,物品を損壊しながら侵入している場合,経済的損害の分だけ増額要因になる
4.常習性の有無
→同一の被害者を対象に繰り返し行っている場合,増額要因になる
住居侵入(建造物侵入)事件の示談内容・条項
①一般的な示談条項
【確認条項】
加害者の被害者に対する支払金額を確認する条項です。
【給付条項】
確認条項に記載した金銭の支払をどのように行うのかを定める条項です。
【清算条項】
示談で定めた条項以外には,当事者間に権利義務の関係がないことを定める条項です。清算条項を取り交わせば,その後に相手から金銭を追加請求される可能性は法的になくなります。
示談を行う場合には,当事者間の金銭的解決を終了させるためにも清算条項の取り交わしを欠かさないようにすることが重要です。
【宥恕条項】
宥恕(ゆうじょ)条項とは,被害者が加害者を許す,という意味の条項です。
示談が刑事処分に有利な影響を及ぼすのは,基本的にこの宥恕条項があるためです。被害者が加害者を許している,という事実が,刑事処分を劇的に軽減させる要素となります。
住居侵入(建造物侵入)事件で被害者との示談を行うのは,主に宥恕条項を取り交わすためです。加害者にとっては必須の条項と理解するのが適切でしょう。
②住居侵入(建造物侵入)事件で特に定めやすい条項
【立入禁止】
加害者が被害者方(マンション等の共用部を含む)に立ち入らないことを約束する条項です。住居侵入事件では,被害者の安心を確保するため,加害者がその後に立ち入らないことを明示する内容の示談とすることが多く見られます。
なお,立入禁止を条項に加えるかどうかにかかわらず,示談後に被害者方へ立ち入らないべきであることは間違いありません。
【接近禁止】
加害者の立入禁止をより確実にするため,被害者の住居近辺への接近を禁止する旨の条項を設けることもあります。具体的な取り決め方は当事者次第ですが,具体的な図を添付するなどして,両当事者にとって接近禁止範囲が明確となるようにする必要があるでしょう。
【転居及び転居報告】
加害者と被害者が同じ建物や隣接する建物に居住している場合,生活圏が近すぎるため加害者の転居を示談条項に含めることがあります。
加害者の転居を条件とする場合には,転居期限を定めた上で,転居した後には弁護士を通じて転居報告を行う形を取ることが多く見られます。
住居侵入(建造物侵入)事件の示談で注意すべきこと
①被害者の転居費用が問題になり得る
住居侵入事件では,加害者に被害者の住居地が分かってしまっているため,被害者が転居を希望することが少なくありません。そして,示談を行うとなると,被害者の転居費用を加害者負担とすることが条件とされる場合も多く見られます。
この点,法的には被害者の転居費用を加害者が負担する必要があるかは非常に不明確です。裁判などで争われれば,支払義務がないとの結論になる可能性もあり得るところでしょう。
しかし,刑事事件の示談で問題になる場合には,基本的に被害者側の要求に応じるのが合理的でしょう。被害者の要求としては決して不合理なものでない上,その点の対応を拒みつつ示談の成立にこぎつけるのは現実的に困難と言わざるを得ないためです。
ただし,転居費用が伴う場合,示談金が大きく増額することが見込まれます。経済的な問題があるときには,弁護士と十分に相談の上で交渉方針を決めるようにしましょう。
②余罪がある場合
住居侵入事件では,余罪のある場合が相当数見られます。特に,同一の住居への繰り返しの侵入行為が生じやすい傾向にあります。
この点,余罪がある場合にどのような示談の方針を取るかは容易に判断できるものではありません。特に,住居侵入事件の場合,被害者がすべての余罪を把握しているわけではない可能性が高いため,方針決定はより困難になりやすいところです。
余罪がある場合には,まず依頼した弁護士に余罪も含めてありのままの出来事を全て伝えるようにしましょう。被害者にどこまで話すかはケースにもよりますが,少なくとも弁護士が把握していないという状況は避けるべきです。
弁護士が把握しないまま示談を試み,後で余罪が発覚したという場合は,示談が困難になりやすく最悪の事態になりかねません。
ポイント
転居費用の請求にはできる限り応じるのが合理的
余罪がある場合には弁護士に全てを伝える
住居侵入・建造物侵入事件で弁護士に依頼するメリット
依頼を検討するべきケース
弁護士への依頼を検討すべき場合には,以下のようなケースが挙げられます。
①逮捕の回避を目指す場合
まだ捜査されていないが,今後の逮捕が懸念されるという場合,弁護士に依頼の上で自首を行うことが非常に有力です。
自首を行うと,自ら犯罪捜査のきっかけを作ることにはなりますが,自分から出頭している以上,逮捕が必要だと判断される可能性は大きく低下するのが通常です。
放置していては逮捕が危ぶまれるという状況では,自首による逮捕回避を検討するのが適切でしょう。
もっとも,その手順や方法を誤ると,せっかく自首をしても望んだ効果が得られない可能性も高くなってしまいます。自首を検討する場合は,弁護士との同行など,弁護士への依頼をお勧めいたします。
②早期釈放を目指す場合
逮捕されたケースで早期釈放を目指す場合も,弁護士への依頼が適切と言えます。
住居侵入(建造物侵入)事件では,内容により早期釈放が実現できるかどうかの見込みが大きく異なりやすく,正確な見込みに沿った弁護活動が必要です。現実的に成功する可能性がない方法を取った場合,かえって捜査の長期化を招き,釈放時期を遅らせることにもなりかねません。
釈放を目指す場合,弁護士へ依頼の上,具体的な見込みと釈放に向けた弁護活動の案内を受けることをお勧めいたします。
③刑罰の軽減を目指す場合
刑罰の軽減を目指すためには,被害者との示談が必要不可欠です。
もっとも,当事者間での示談交渉は困難であるため,示談を試みる場合には弁護士への委任が必須となります。
示談に強い弁護士に依頼の上,弁護士を通じて示談交渉を試みることで,刑罰の軽減が実現しやすくなるでしょう。
④接見禁止処分のある場合
証拠隠滅などを防ぐため,弁護士以外との面会を禁じられることがあります。これを「接見禁止」処分と言います。
接見禁止の場合,弁護士しか被疑者の方と会えず,捜査への適切な対応は困難になります。弁護士に委任の上,弁護士とご本人との接見を実施し,早期に適切な対応方針を立てるのが適切でしょう。
⑤否認事件の場合
否認事件では,犯罪事実の立証ができるか,という点が最大の問題になりますが,その判断は非常に専門的な内容となり,弁護士への依頼なく検察と協議をすることは困難です。
事件の内容や否認のポイント,争点の判断基準などについて,弁護士に相談・依頼の上,法的に適切な主張を行うことで,不起訴処分を引き出すことが可能になり得るでしょう。
住居侵入事件(建造物侵入事件)で弁護士を選ぶタイミング
①逮捕直後
住居侵入(建造物侵入)事件は,逮捕の可能性が十分に考えられる事件類型です。特に,現行犯で発覚して問題になった場合には,逃亡などを防ぐ必要性が高く,迅速に逮捕されやすい傾向にあります。
しかし,逮捕されたとしてもその場で全てが手遅れとなるわけではありません。逮捕後に適切な対応を尽くすことができれば,早期に釈放してもらうことができ,生活への影響を最小限に抑えることが可能です。
全ての住居侵入(建造物侵入)事件に当てはまるわけではありませんが,逮捕されたとしても速やかな釈放の余地は残っている,という点は知っておいて損のないところでしょう。
この点,逮捕直後には弁護士しか被疑者と接見できないことが通常であり,釈放を目指す動きも弁護士を通じて行う必要が生じやすいです。逮捕直後に適切な弁護士選びができれば,早期釈放の実現できる可能性が大きく高まることは間違いありません。
ポイント
住居侵入(建造物侵入)事件は,現行犯逮捕の可能性が高い傾向あり
逮捕直後に適切な動きが取れれば,早期釈放の余地がある
②示談交渉時
住居侵入(建造物侵入)事件に対する刑事処分は,被害者と示談ができるかどうかによって大きく左右されやすいものです。実際に住居を管理している被害者がいる事件のため,その被害者が刑罰を望むかどうかは,処分を決定する際の重要な判断材料になります。
この点,示談交渉には弁護士が不可欠となります。示談を試みるためには,弁護士を介して捜査機関に連絡し,被害者と弁護士との間での連絡を始めてもらう必要があるためです。
そして,示談の成否やその内容は,担当する弁護士によって様々に変わりやすいものです。示談における合意内容は当事者間の自由であり,無数の選択肢があるため,示談交渉の巧拙が示談の内容に直結することも珍しくありません。
そのため,示談を試みたいときには示談に精通した適任の弁護士を選ぶ必要があるでしょう。
ポイント
住居侵入(建造物侵入)事件の処分結果は,示談の成否に左右されやすい
示談の成否や内容は,弁護士の動きによって変わる
③起訴直後
住居侵入(建造物侵入)事件の中には,起訴が避けられないものもあります。特に,窃盗目的やわいせつ目的での侵入,継続的な複数回の侵入,プライバシー侵害の程度があまりに大きい内容の侵入など,事件の悪質さが際立っている場合には,特に被害者の許しがない限り,起訴が防げないことも少なくないでしょう。
もっとも,起訴されてしまった後でも,手段を尽くすべき場合は数多くあります。起訴後の対応としてまず行うべきことが,保釈の請求です。
保釈とは,勾留されている被告人(起訴された人)の身柄を,裁判の間だけ釈放する手続を言います。保釈が認められた場合,保釈保証金(いわゆる保釈金)を納めることで,留置施設から釈放してもらい,帰宅することが許されます。
起訴前には釈放が認められなかったケースでも,起訴後の保釈は広く認められることが珍しくないため,特に認め事件では速やかな保釈が肝要と言えます。
もっとも,保釈を求める手続や,保釈が認められた後の手続は,弁護士なしでは困難です。現実的には,弁護士に保釈を請求してもらい,保釈が認められた後の対応も行ってもらうことが必要になるでしょう。
ポイント
悪質と評価される住居侵入(建造物侵入)事件では,起訴が避けられない場合もある
速やかな保釈のため,弁護士選びを迅速に行うことが適切
④自首の際
自首とは,罪を犯した者が,捜査機関に対してその罪を自ら申告し,自身に対する処分を求めることをいいます。犯罪事実や犯人が捜査機関に知られる前に,自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告することが必要とされます。
住居侵入(建造物侵入)事件は,現行犯で発覚する場合を除き,事件の発生がすぐに被害者や捜査機関へ発覚することは多くありません。そのため,住居侵入(建造物侵入)事件を起こしてしまったという認識がある場合は,事件発覚前の自首が有力な選択肢の一つと言えます。
もっとも,本当に自首をすべきかどうか,自首をする場合にどのような手順・方法で行うか,という点は,当事者自身での判断が困難なポイントです。自首を試みようと考えるときには,適切な弁護士選びの上で,弁護士とともに検討・行動をするのが適切でしょう。
ポイント
住居侵入(建造物侵入)事件は,事件発覚前の自首が有力な選択肢の一つ
自首すべきか,どのように自首するかは,弁護士の判断を仰ぐのが適切
住居侵入事件(建造物侵入事件)の弁護士を選ぶ基準
①迅速に対応してくれるか
特に身柄拘束をされている住居侵入(建造物侵入)事件の場合,弁護士の対応の迅速さがその後の流れを大きく左右します。いつ釈放されるか,最終的な刑事処分がどのような内容になるか,といった点が,弁護活動のスピードによって変わってくることは珍しくありません。
一方で,弁護士がいつどのような対応をしてくれるかは,個々の弁護士のやり方により様々です。刑事事件のスピード感に合わせた迅速な対応のできる弁護士であれば問題ありませんが,万一弁護活動がタイミングを逃したものになってしまうと決定的な悪影響につながる可能性も生じてしまいます。
迅速対応を約束してくれるかどうかは,必ず弁護士選びの基準として設けるようにしましょう。
②的確な聴き取りをしてくれるか
聴き取りに関する弁護士の技量は,弁護活動の質に直結するポイントです。的確な聴き取りは,弁護活動の第一歩と言っても過言ではないでしょう。
住居侵入(建造物侵入)事件の場合には,以下のような点を特に聴き取ることが望ましいでしょう。
住居侵入(建造物侵入)事件における主な聴き取り事項
・侵入方法・態様
→どのように侵入したか,どこまで侵入したか,侵入の手段はどのように確保したか等
・侵入の経緯
→侵入を試みたきっかけは何か,なぜ侵入しようと考えたか,侵入後に何をするつもりだったか等
・余罪関係
→侵入の回数・期間,余罪の侵入場所・方法,余罪の発覚の有無等
聴取事項は以上の限りではありませんが,基本的に聴き取るべき事項を的確に聴き取ってくれるかは,弁護士選びの基準とすることが有益です。
一例としては,あまり取り扱いに長けていない場合,余罪に関する聴取が漏れやすい傾向が見られやすく,意識すれば弁護士選びの判断材料とすることも難しくはないでしょう。
③弁護士と円滑に連絡が取れるか
住居侵入(建造物侵入)事件の解決は,依頼者と弁護士との円滑な連絡が不可欠です。弁護活動を進める中で,改めて確認すべき事実関係が生じることも少なくない上,示談を試みる場合には,提案できる条件や合意内容を,随時連絡を取り合ってすり合わせる必要があります。
もっとも,連絡の方法や頻度は,個々の弁護士によって様々です,「弁護士となかなか連絡が取れない」という問題は,刑事事件のトラブルとして多く耳にするケースの代表例でもあります。
そのため,弁護士とはどのような方法で連絡が取れるか,どのような頻度で連絡が取れるか,という点を重要な判断基準の一つとすることは,事件解決のために有力でしょう。
なお,法律事務所によっては,事務職員が窓口になって弁護士が直接には対応しない運用であるケースも考えられます。そのような運用が希望に合わない場合は,依頼後の連絡方法を具体的に確認することも有益でしょう。
④事務所所在地
住居侵入事件は,基本的にその住居地を管轄する警察が捜査を行い,同じくその地域を管轄する検察庁や裁判所が取り扱うことになります。また,被害者の住居は事件現場と同一であるため,被害者との接触を試みる際には,やはり住居地を基準とした動きになるところです。
そのため,弁護士の事務所所在地が事件現場となった被害者の住居地から遠い場合,可能な弁護活動の内容に限界が生じる可能性がある,という点には留意しておくことが望ましいでしょう。
なお,相手方との対面や現場の調査は,必ず要するというわけではないため,遠方であることのみを理由に弁護士への依頼を断念する必要まではありません。遠方であることに不安を感じる場合は,その点を直接弁護士に相談してみるようにしましょう。
住居侵入事件(建造物侵入事件)で弁護士を選ぶ必要
①早期釈放のため
早期釈放の可能性がある住居侵入(建造物侵入)事件でも,釈放を目指すための具体的な活動は弁護士に委ねざるを得ません。接見で必要な話し合いを行ったり,ご家族と連絡を取り合ったり,捜査機関や裁判所に必要なアクションを尽くしたりと,早期釈放に向けて弁護士でしかできないことは多岐に渡ります。
早期釈放ができるかどうかは,その後の生活に極めて重大な影響を与えやすいものです。そのため,特に事件内容等を踏まえて早期釈放が十分に期待できるケースでは,弁護士選びが非常に重要な動きと言えるでしょう。
②不起訴処分のため
住居侵入(建造物侵入)の事実を争わない認め事件の場合,不起訴を目指す主な選択肢は示談であることが通常です。もっとも,被害者と親密な交友関係にある場合を除き,弁護士なしでは示談を試みることも困難であるのが一般的でしょう。
弁護士に依頼して初めて,示談ができるかどうかのスタートラインに立つことができ,不起訴処分を獲得できる可能性が生じる,という言っても決して誤りではありません。
また,住居侵入(建造物侵入)の事実を争う否認事件の場合,法的な争点を明らかにした上で,その争点に関する主張を示すことが重要ですが,これは法的な知識,経験を持つ弁護士なしでは検討が難しい問題です。否認の主張を説得的に行うためにも,弁護士の存在は非常に重要と言えます。
そのため,住居侵入(建造物侵入)事件で不起訴処分を獲得するためには,弁護士選びが必要不可欠と言えるでしょう。
③家族や関係者との連携のため
身柄事件の場合,逮捕勾留されたご本人は,自分で外部と連絡を取ることができません。電話を携帯することも認められないため,連絡を取るための手段は以下のような方法に限られます。
逮捕勾留中に外部と連絡を取る手段
1.手紙の送受
→数日~1週間ほどのタイムラグが避けられない
2.(一般)面会
→時間制限が厳しい。接見禁止の場合は面会自体ができない
3.弁護士の接見
→時間的制限なくコミュニケーションが可能
手紙の送受は現実的でなく,面会の時間制限の中で必要な連絡をすべて取ることも難しいため,ご本人と周囲との連絡には弁護士の接見を活用することが不可欠になりやすいでしょう。
身柄事件で必要な連絡を取り合うためには,弁護士への依頼が適切です。
④適切な取り調べ対応のため
刑事事件の捜査では取調べが不可欠です。特に,被疑者への取調べは捜査の中核であって,被疑者からどのような話が引き出せるかによってその後の捜査が決定づけられる事件も少なくありません。
逆に,被疑者の立場にある場合,取調べにどのような対応を取るのが最も有益であるのかを把握していることは非常に重要です。自分が何を話すか,どのように話すかによって,その後の捜査や処分が決定づけられる可能性もあるため,取調べ対応の方法・内容は十分に検討する必要があるでしょう。
この点,個別の事件に応じてどのような取調べ対応をすべきかは,弁護士の法的な判断を仰ぐことが適切です。そのため,取調べ対応に万全を期すためには,弁護士選びが重要なポイントとなるでしょう。
弁護士に依頼する場合の注意点
①弁護士への信頼感の重要さ
弁護士への依頼に際して軽視すべきでない点に,弁護士への信頼感が挙げられます。弁護士に依頼した場合,弁護活動の内容やその成果は,弁護士から報告を受ける方法で把握するほかありません。つまり,弁護士の動きを弁護士自身から教えてもらうしかなく,その真偽をチェックする手段もないため,依頼者には弁護士を全面的に信頼する以外の方法が存在しないことになります。
弁護活動の内容や結果がよく分からなくても,良い結果が出ていれば現実的な問題はあまりないかもしれません。しかし,住居侵入(建造物侵入)事件の場合,示談が奏功しなかったり,早期釈放のできない事件であることが後で分かったりと,事前の想定や目標よりも不利益な状況になる可能性は十分にあります。そして,良くない結果となったとき,それでも弁護士の動きに納得できるか,という点は非常に大きな問題です。
そのため,弁護士に依頼する際には,弁護士への全幅の信頼が必要であることを踏まえ,依頼する弁護士を心から信頼することは可能か,という点を慎重に検討することをお勧めします。
②早期釈放の困難さ
逮捕勾留された住居侵入(建造物侵入)事件の中には,その内容上,早期釈放の余地が現実的にないものも多くあります。その場合は,釈放のためには被害者との示談が成立する以外に方法がありませんが,事件の悪質性などを背景に,被害者が示談に応じてくれないケースが多いため,どうしても早期釈放を断念することになりやすいでしょう。
早期釈放の困難なケースに該当する場合,弁護士の活動や方針に関わらず,何をしても早期釈放には至らないことが通常です。早期釈放が十分に可能な住居侵入(建造物侵入)事件も確かにありますが,一方で早期釈放が困難な住居侵入(建造物侵入)事件も存在することは,十分に留意しておくことをお勧めします。
住居侵入・建造物侵入の刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ
住居侵入・建造物侵入の事件は,個別の内容によってその後の流れや処分の見通しに幅の生じやすい事件類型です。正しい見通しを持つことができれば,できる限り有益な結果に向けて最善の対応を尽くすことが可能になります。
一方で,見通しを誤り,有効とは言えない対応に終始した場合,取り返しのつかない不利益が生じる可能性も否定できません。
そのため,個別の内容を踏まえて刑事事件に強い弁護士の意見をお聞きになることをお勧めします。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内することができます。
早期対応が重要となりますので,お困りごとがある方はお早めにお問い合わせください。
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