痴漢で逮捕・取調べを受けたとき、最も重要なのは早期に痴漢事件に強い弁護士へ相談することです。
痴漢の弁護士は示談交渉や勾留の回避、不起訴処分の獲得などに精通しており、適切な対応を依頼できるかが今後の人生を大きく左右します。
本記事では、痴漢に強い弁護士を選ぶポイントや相談の仕方、依頼後の流れまで徹底解説します。痴漢で不安を抱える方が、安心して弁護士に相談できるよう具体的にご案内します。
痴漢に強い弁護士を選ぶ方法
(1)痴漢に強い弁護士を選ぶポイント・基準
①迅速な対応ができるかどうか
痴漢事件の解決は,とにかく活動のスピードに左右されることが少なくありません。特に身柄事件の場合には,対応が迅速かどうかによって釈放時期が大きく異なることも非常に多く見られます。
一方で,弁護士がいつどのような対応をしてくれるかは,個々の弁護士のやり方により様々です。刑事事件のスピード感に合わせた迅速な対応のできる弁護士であれば問題ありませんが,万一弁護活動がタイミングを逃したものになってしまうと決定的な悪影響につながる可能性も生じてしまいます。
迅速対応を約束してくれるかどうかは,必ず弁護士選びの基準として設けるようにしましょう。
②痴漢事件の手続や特徴に精通しているか
痴漢事件は,取り扱いに特有の傾向があり,その傾向を踏まえて弁護活動を進めることが非常に有力な動き方になります。そのため,弁護士が痴漢事件に特有の傾向に精通しているかどうかは,弁護活動の方針を直接左右する重要なポイントになるでしょう。
弁護士からの案内が一般的・抽象的な事項にとどまるのか,痴漢事件の特徴を踏まえて踏み込んだ内容のものになるのかは,弁護士選びの基準として重視することをお勧めします。
③解決実績があるか
刑事事件は,過去の先例に沿った判断や運用をされることが一般的です。過去の先例に反した取り扱いがあると,公平が損なわれてしまうためです。
そのため,同種事件の解決実績があることは,事件の正確な見通しを持つ上で非常に大切ということができるでしょう。
弁護士選びに際しては,その弁護士が痴漢事件の解決実績を持っているかどうかを判断基準の一つにすると有益でしょう。
④納得できる説明をしてくれるか
弁護士と依頼者との関係は,信頼関係を土台にすることで初めて成り立つものです。なぜなら,弁護士による案内や弁護士が決めた方針,弁護士が実現した結果などが適切かどうかは,依頼者自身が内容を評価して判断できる性質のものではないからです。
弁護活動が法律の専門家しか行えないものである以上,依頼者としては「弁護士が正しいと言ったから正しい」という評価をせざるを得ません。
そうすると,依頼者が弁護士を選ぶ基準として,その弁護士の判断に信頼を置けるかどうか,という点が極めて重要になってきます。弁護士の判断を信頼できるからこそ,「弁護士が正しいと言ったから正しい」という考え方ができるのです。
そのため,弁護士選びの際には,弁護士の判断やその根拠となる説明に心から納得できるか,という点を基準に設けるとよいでしょう。最初の説明に対する納得は,最終的な結果に対する納得にも直接つながるほど重要なものです。
ポイント 弁護士選びの基準
弁護活動のスピード
痴漢事件特有の傾向に対する理解
過去の解決実績・経験
説明の納得感
(2)弁護士に依頼するタイミング
①現場でトラブルになった直後
痴漢事件は,事件の発生した現場でトラブル化し,捜査が開始するきっかけにつながることがほとんどです。そして,事件現場でトラブルになったまさにその時が,弁護士に依頼するメリットの最も大きいタイミングになりやすいでしょう。
痴漢事件が現場でトラブルになった際,まず逮捕されるかという問題が生じます。これは極めて大きな分かれ道ですが,逮捕するかしないかの判断がされるまでにはあまり時間的な猶予がありません。トラブルとなった直後に,速やかに適切な対応を尽くす必要があります。
そのため,痴漢事件が現場でトラブル化した場合には,できるだけ早く弁護士への相談を試みることを強くお勧めします。もっとも,その場で初めて弁護士選びを考える余裕はないので,あらかじめ弁護士選びについて把握しておくことは損のないことだと言えます。
ポイント
痴漢事件が現場でトラブルになった場合,逮捕を回避する必要がある
逮捕の回避は弁護士を通じて行うことが有力
②出頭要請を受けたとき
痴漢事件で捜査の対象となる場合には,後日,警察から出頭要請を受けることが考えられます。この出頭要請は,被疑者に対する取り調べを行うため,警察署への出頭を求める目的であることが通常です。
そのため,出頭要請を受けたときには,その後に行われるであろう取り調べの対応について事前に検討しておく必要があります。想定される質問や質問への回答方法・内容を整理し,取り調べに備えることは非常に重要でしょう。
しかしながら,出頭後の取り調べに対してどのように対応するのが適切かを自分の力で整理するのは容易でありません。取り調べを受けた経験のある人でなければ,取り調べがどのように行われるかを想像することも困難でしょう。
そこで,出頭要請を受けて取り調べの予定が明らかになったタイミングで,弁護士を選ぶことが有力な選択肢になります。適切な弁護士選びができれば,出頭時の対応が万全になるほか,その後の弁護活動も充実したものになるでしょう。
ポイント
出頭要請に応じた場合には取調べが行われる
取り調べ対応やその後の方針については,弁護士との協議が適切
③逮捕されてしまった直後
痴漢事件は,逮捕される可能性が十分にある事件類型です。特に,被害者の身を守るため,現行犯で逮捕されることが多いという特徴も見られるところあり,痴漢事件では逮捕前に弁護士選びをする猶予がないケースも少なくありません。
しかし,逮捕されたとしてもその場で全てが手遅れとなるわけではありません。逮捕後に適切な対応を尽くすことができれば,早期に釈放してもらうことができ,生活への影響を最小限に抑えることが可能です。逮捕されたとしても速やかな釈放の余地が残っている,という点は痴漢事件の大きな特徴の一つとも言えるでしょう。
この点,逮捕直後には弁護士しか被疑者と接見できないことが通常であり,釈放を目指す動きも弁護士を通じて行う必要が生じやすいところです。逮捕直後に適切な弁護士選びができれば,早期釈放の実現できる可能性が大きく高まることは間違いありません。
また,この逮捕直後については,適切な弁護士選びがより重要な局面と考えるのが適切です。逮捕直後に有効な弁護を行うためには,限られた時間の中で速やかに活動方針の選択と具体的な弁護活動を進めなければならないためです。弁護士選びにかけられる時間もまた限られてはしまいますが,弁護士選びを妥協するのは避けるべきでしょう。
ポイント
痴漢事件は逮捕後でも早期釈放されることがある
早期釈放を求める動きは弁護士に依頼して行うのが適切
④示談をしたいとき
痴漢事件は,被害者と示談ができるかどうかによって処分結果が極めて大きく左右されやすい事件類型です。そのため,痴漢事件の解決を目指す場合には示談の検討が必要です。
この点,示談交渉には弁護士が不可欠となります。示談を試みるためには,弁護士を介して捜査機関に連絡し,被害者と弁護士との間での連絡を始めてもらう必要があるためです。

そして,示談の成否やその内容は,担当する弁護士によって様々に変わりやすいものです。示談でどんな合意をするかは自由であるため,無数の選択肢があるのです。
そのため,示談を試みたいときには示談に精通した適任の弁護士を選ぶ必要があります。
ポイント
痴漢事件は,示談で不起訴を目指すことが有力
示談の試みは弁護士を通じて行うのが適切
(3)弁護士に依頼するときの注意点
①弁護士との相性
依頼者も弁護士も人である以上,相性の問題を避けて通ることはできません。依頼者目線では,相性が良くないと感じながら弁護士に依頼するメリットはないと考えるべきでしょう。
この点は,最善の解決に至ればそれほど大きな問題にはなりません。しかしながら,弁護活動は事前に最善の結果になるとお約束することが不可能であり,どうしても結果が伴わない場合があります。示談を試みたものの被害者に拒否された,全部無罪を主張したものの一部の主張が認められなかった,といった場合が代表例でしょう。
そして,弁護士との相性を軽視することは,最善の結果でなかった場合に大きな問題となります。弁護士が最善の活動をしてくれたのか,結果はやむを得ないものだったのか,という点について疑念が生じやすくなるためです。
弁護士との相性が良く,弁護士の活動を心底信頼できれば,心から「やむを得なかった」と納得しやすいですが,相性が悪いと感じている場合にはそうもいかないことが多くなりがちです。
弁護士との相性を率直にどう感じるか,という点は,弁護士選びに際して軽視しないことが適切でしょう。
②弁護士と事件管轄地の距離
刑事事件は,基本的に事件の発生場所を管轄する捜査機関が担当します。そのため,弁護士が弁護活動を行う場合には,管轄のある警察や検察とやり取りをすることが通常です。
この点,弁護士にとって遠方の事件だと,弁護活動に限界が生じやすいのみならず,弁護士費用が大きくなりやすいというデメリットが避けられません。特に身柄事件の場合,弁護士が定期的に接見を行う必要があることから,デメリットがより大きくなる可能性を想定する必要があるでしょう。
痴漢事件の弁護活動としては、示談交渉や捜査機関に対する意見・協議などが挙げられますが、いずれも当事者本人が直接関与できない場で行われるものです。そのため、対応する弁護士を全面的に信頼できるかどうかは非常に重要なポイントとして意識したいところです。
痴漢に強い弁護士へ相談・依頼しない場合のリスク
① 逮捕・勾留される
痴漢事件で弁護士に依頼しない場合、逮捕・勾留される可能性が大幅に高まるケースも相当数見られます。
痴漢事件で被害者が警察に被害申告した場合、被害者を保護するため被疑者の身柄確保が優先されることも多くあるためです。
弁護士なしで対応した場合の逮捕・勾留に関するリスクとしては、以下の点が挙げられます。
・現行犯逮捕の可能性が高い
駅や電車内での痴漢行為は目撃者も多く、その場で取り押さえられるケースが大半
・後日逮捕のリスクも存在
防犯カメラの映像や被害者の証言により、数日後に自宅や職場で逮捕される場合もある
・勾留期間の長期化
弁護士による適切な弁護活動がなければ、最大20日間の身柄拘束が続く可能性が高い
逮捕されると、家族や職場への連絡が困難になり、社会生活に深刻な影響を与えます。
また、勾留中は外部との接触が制限され、示談交渉などの重要な手続きも進められません。
早期の弁護士依頼により、逮捕回避や勾留阻止の可能性を最大限に高めることが重要といえるでしょう。
痴漢事件は、適切な対応によって早期の釈放が実現される場合も決して珍しくありません。特に、逮捕の判断は速やかに行われる場合が多いため、弁護士への相談・依頼の判断も速やかに行われることが望ましいです。
② 職場への悪影響が生じる
痴漢事件で弁護士に依頼しない場合、職場への深刻な悪影響の原因となるケースもあり得ます。
逮捕や起訴の事実が職場に知られると、懲戒処分や解雇のリスクが高まります。
特に公務員や教職員、金融機関勤務者などは、痴漢事件による処分が厳格に行われる傾向も見られるところです。
また、痴漢事件の報道や噂が広まることで、職場での信頼失墜や同僚からの視線に悩まされるケースも少なくありません。
弁護士に依頼せずに事件が長期化すると、以下のような職場への影響が生じ得ます。
・長期間の欠勤による業務への支障
・同僚や上司からの信頼関係の悪化
・昇進や昇格への悪影響
・転職活動時の不利な条件
また、前科が付いてしまえば、将来的な転職や資格取得にも制約が生まれる可能性があります。
弁護士による早期の示談交渉や適切な弁護活動により、職場への影響を最小限に抑えることが重要です。
痴漢事件の職場への影響は、その処分の重さに比例することが一般的です。刑事処分が回避できれば、職場への悪影響も最小限にとどめやすくなるでしょう。
③ 示談ができない
弁護士に依頼しなかった場合、被害者との示談交渉が困難になる可能性が高いです。
示談は痴漢事件において非常に重要な解決手段であり、これができないことは非常に深刻な問題と言えます。
痴漢事件の示談は、個人での交渉は極めて困難です。被害者側が直接の接触を拒否するケースが多く、連絡先すら分からない状況になるのがほとんどでしょう。
示談ができない場合の具体的な問題は以下の通りです。
・起訴される可能性が大幅に増加する
・刑事裁判になり前科が付くリスクが高まる
・職場や家族への影響が長期化する
・民事訴訟を起こされる危険性も残る
弁護士であれば、被害者やその代理人弁護士などを通じて、適切な示談交渉が可能です。
法的知識に基づいた適正な示談金額の提示や、示談書の作成も専門的に行えるため、円滑な解決につながりやすくなります。
④ 前科が付いてしまう
痴漢事件で起訴されて有罪判決を受けると、前科が付いてしまいます。
前科とは、過去に犯罪を犯して有罪判決を受けた記録のことで、一度付くと生涯にわたって消えることはありません。
痴漢事件の前科が付くことで生じる具体的な影響は深刻でしょう。
まず就職活動において、企業によっては採用時に犯罪歴の有無を確認される場合があります。公務員などの一定の職種では、前科が存在することで採用が困難になるケースも少なくありません。
また、一定の国家資格は取得の制限が生じ得ます。法定の欠格事由に該当する場合、資格を前提とした業務に従事することが困難になってしまいます。
国家資格に対する影響には、一定の期間制限が設けられているため、法的には一生涯の制限ではありません。ただ、一時期であっても業務ができなくなることが、深刻な問題であることは間違いないでしょう。
前科と国家資格の関係については、以下の記事もご参照ください。
刑事事件を起こすと国家資格を失う?逮捕されたら?起訴されたら?弁護士に依頼すると回避できる?弁護士がすべて解説
弁護士による痴漢事件の解決方法・流れ
① 弁護士への法律相談・依頼
まずは、弁護士への法律相談を行い、信頼できる弁護士に依頼します。弁護士に法律相談を行う際の準備としては、以下の各点に留意することが有益です。
事件の内容をできる限りまとめる
弁護士選びを適切に行うためには,相談相手の弁護士に事件の内容を正確に把握してもらうことが必要となります。そのため,事件の具体的内容は整理して伝えられるようまとめることが有益でしょう。
弁護士が事件の内容の一部を把握しているかいないかで,アドバイスの内容が大きく変わる場合も否定できません。弁護士に誤解が生じることを防ぐため,起きた出来事を漏れなく伝える用意をしておくとよいでしょう。
弁護士選びの目的を決める
弁護士を選ぶ際,何のために,何を目指して弁護士に依頼するのか,という点を明確にしておくことが必要です。相談の目的に関して弁護士とズレが生じると,弁護士からの案内も目的から外れたものになってしまい,結果として弁護士選びが円滑にできないためです。
もちろん,弁護士側も法律相談の目的を想像することはできるため,理解が大きくズレることは多くありませんが,その目的が自分にとってどれだけ重要なものか,という詳細なニュアンスの面は,どうしても弁護士側の想像では補いきれないものです。
弁護士選びを実のあるものにするためにも,弁護士選びの目的は明確に表現できるようにしましょう。
予算を決める
弁護士への依頼には費用が発生しますが,弁護士費用は法律事務所によって異なり,同じ弁護士への依頼でも依頼内容によって異なります。当然ながら,弁護士への依頼内容が多いほど弁護士費用は高額になりやすく,逆もまた然りです。
また,示談を試みる場合には,弁護士費用に加えて示談金が経済的な負担となります。弁護士費用だけを支払えても,示談金が支払えないと示談はできないため,示談金の負担も事前の想定が必要です。
そのため,弁護士選びに際しては,あらかじめ予算の範囲を明確に決めておくのが有益でしょう。現在は,ホームページ上で詳細に弁護士費用を明示している法律事務所も少なくないため,ご自身なりに費用負担のイメージを持って弁護士選びを行うのも有力です。
また,現実の弁護士費用と予算との開きが限定的であれば,弁護士への依頼内容を一部削るなど,柔軟な依頼方法で開きを埋めることができる場合もあり得ます。個別のケースに関しては弁護士と十分に相談してみましょう。
② 警察による取調べ・逮捕
警察では、被疑者に対する取調べを行い、必要に応じて逮捕するかどうかの判断を行います。
取調べの内容や対応によって、逮捕の可能性や最終的な処分の見込みが変わる可能性も低くはないため、取調べへの対応方針はしっかりと決めておくことが望ましいでしょう。
取調べでは以下の点に注意が必要です。
・供述調書への署名・押印は慎重に行う
・事実と異なる内容は明確に否定する
・黙秘権の行使も選択肢として考慮する
・弁護士との接見を活用する
警察の取調べは心理的圧迫が大きく、必要以上に不利益を招く対応をしてしまうケースも少なくありません。
特に、痴漢事件は当事者の供述内容がその後の進行を大きく左右するため、できるだけ早期に弁護士の案内を受け、適切な対応方針を決定していくことが有益です。
③ 弁護士による示談交渉
痴漢事件において弁護士による示談交渉は、事件の早期解決と処罰回避のための最も重要な手続きです。
示談交渉では、弁護士が被害者やその代理人と直接話し合いを行い、金銭的な解決を図ります。
被害者の多くは「加害者と直接会いたくない…」と感じているため、弁護士が間に入ることで冷静な交渉が可能になるでしょう。
弁護士による示談交渉の具体的な流れは以下の通りです。
・被害者の連絡先確認と交渉開始の申し入れ
・示談金額の提示と条件の調整
・被害者の精神的苦痛への配慮と謝罪の表明
・示談書の条項に関する詳細な協議
刑事事件で示談を行う場合,加害者(被疑者)から被害者へ示談金の支払を行うのが通常です。具体的な示談金の金額は当事者間の協議で定められることになりますが,事件類型ごとに大まかな目安はあります。
この点,痴漢事件における示談金の目安は,概ね30~50万円とされる例が多く見られます。
事件によってはこの目安を下回るケース,上回るケースいずれもありますが,示談金額とされやすい水準として把握しておいて損はないでしょう。
なお,示談金額が変動する要因としては,以下のような点が挙げられます。
示談金額の変動要因
1.痴漢行為がなされた部位
→衣服の外側より内側の方が大きくなりやすい
→性的な部位に近い方が大きくなりやすい
2.痴漢行為の態様
→軽く触れるよりも強くつかむなどする方が大きくなりやすい
3.痴漢行為がなされた時間の長さ
→長時間に渡るほど大きくなりやすい
4.被害者の心身への支障
→精神疾患などの原因になっている場合,大きくなりやすい
5.従前の関係
→継続的な被害者・加害者の関係があると大きくなりやすい
6.加害者の経済力
→経済力に限界のある場合,金額は小さくなりやすい
④ 示談成立・示談書の作成
示談内容の合意ができた場合、弁護士にて示談書の作成を行います。
この点、痴漢事件で示談を行う場合,以下のような内容を盛り込むことが考えられます。
確実に盛り込む内容
【確認条項】
加害者が被害者へいくらの支払を行う必要(義務)があるかを,当事者間で確認する条項です。
当事者間で合意した示談金の金額を,支払う義務のある金額と定めることになります。
【給付条項】
確認された支払の義務をどのように果たす(給付する)のか,という点を定める条項です。
金銭の支払を内容とするのが通常ですが,支払方法が手渡しか振り込みか,手渡しであればいつどこで行うか,振り込みの場合はどの口座か,振込手数料は誰が負担するか(通常は加害者が負担),支払の期限はいつまでか,といった点を定めます。
【清算条項】
示談で定めた内容以外に,当事者間に債権債務関係(法律関係)がないことを確認する条項です。この条項を設けることで,加害者と被害者との法律関係は示談金の支払をもって終了することになります。
【宥恕条項】
宥恕(ゆうじょ)とは「許し」を意味します。宥恕条項は,被害者が加害者を許すことを内容とする条項です。
加害者が示談金の支払を負担して示談を目指すのは,基本的にこの宥恕条項を獲得するためです。宥恕条項があることによって,捜査機関は被害者に処罰感情がないことを把握でき,不起訴処分の根拠とすることが可能になります。
当事者の希望で盛り込む条項
【行動の制約】
示談成立後に一定の行動をしないこと(又はすること)を約束するものです。多くの場合,被害者と加害者が接触しないことを確かにするため,両者を物理的に引き離す目的で盛り込むことが考えられます。
痴漢事件で設けられやすい行動制約の内容としては,以下のものが挙げられます。
痴漢事件における行動制約の例
1.事件が起きた電車の利用をしない・制限する
2.事件が起きた駅の利用をしない・制限する
3.事件発生場所の近辺に立ち入らない
4.一定期間内に転居をする
5.勤務先を退職する(職場内での事件など)
なお,示談の内容は「今後一切接触しない」ことを前提にすることが通常であるため,一切接触しないとの約束を補強する意味合いの条項と理解されます。
【違約金】
加害者が示談で定めた約束に違反した場合,約束違反のペナルティとして被害者に金銭(違約金)を支払うという条項です。
主に,行動制約を取り決めた場合に,これを遵守してくれるか被害者が不安である,というケースで設けることが考えられます。
違約金の金額は,特段のルールはありませんが,示談金額をベースに定めることが多く見られます。
この違約金条項は,実際に違約があり金銭を支払う,という形で活用されることはほとんどありません。現実的には,「違約金の約束をできるほど示談条件を守る気持ちが強い」という意思を表明する手段として用いられるものです。
【口外禁止】
事件の内容や示談の内容を,第三者に口外しないと約束する条項です。両当事者のプライバシーを守るために設けることが考えられます。
痴漢事件の場合,口外されてよいと考える加害者はほとんどいないため,弁護士からはほぼすべてのケースで被害者へ口外禁止条項の設定を依頼することになるでしょう。
その他,被害者が複数いて被害者間に交友関係がある場合,示談の内容が共有さ
⑤ 痴漢事件の不起訴処分
多くの場合、痴漢事件で最終的に目指すゴールは不起訴処分です。被害者との示談も、不起訴処分を獲得するための手段として行うものです。
この点、不起訴処分を目指す具体的な方法は、認め事件と否認事件とで以下のように異なります。
認め事件の場合
認め事件とは,犯罪の疑いを認めて争わない事件を言います。自分が犯人であり,自分が疑われている通りの犯罪行為をした,という場合です。
痴漢事件は,認めであれば起訴することが通常です。漫然と対応しているだけでは,「初犯だから」という理由で不起訴になることはないと考えるべきでしょう。
この点,痴漢事件に関しては,被害者の宥恕(許し)があることで不起訴となる可能性が飛躍的に上がります。事実上,「宥恕=不起訴」と考えることのできる場合も少なくありません。
そのため,被害者の宥恕を得られるかどうかが非常に重要ですが,宥恕を獲得するための具体的な手段は示談に尽きます。示談交渉を試み,被害者に応じてもらうことができた場合に,示談の内容として宥恕が獲得できるのです。
そのため,認め事件で不起訴を目指す場合にはとにかく示談を目指すのが有益でしょう。
否認事件の場合
否認事件とは,犯罪の疑いを認めず,自分に犯罪が成立するかどうかを争う事件を言います。自分は無関係である,自分がした行為は疑われているような内容ではない,などと主張する場合が代表例です。
痴漢事件で否認の場合,示談による解決はあまり望ましくないのが通常です。示談が成立して被害者の宥恕が得られれば,認め事件と同じく不起訴になりやすいことに間違いはありませんが,犯罪行為をしていないにもかかわらず被害者への謝罪や示談金の支払を行うのは,解決方法として有益とは言い難いためです。
否認事件の場合は,起訴不起訴の判断を行う検察官に,犯罪事実が立証できないから不起訴にする,との判断をしてもらうことが適切な方法になります。検察官は,犯罪が立証できれば起訴する(できる),犯罪が立証できなければ起訴しない(できない)という基準で判断することになるため,検察官が犯罪事実を立証できないと判断すれば,不起訴処分に直結します。
痴漢事件の場合には,犯罪立証のための客観的な証拠に乏しいことが多いため,被害者や目撃者の供述が最重要な証拠となるのが一般的です。そのため,否認事件で不起訴を目指す場合には,「被害者や目撃者の供述では犯罪の立証ができない」と検察に判断してもらうことを目指すべきでしょう。
ポイント
認め事件では示談を目指す
否認事件では,被害者や目撃者の供述では犯罪立証できないとの判断を目指す
痴漢事件の弁護のポイント
(1)痴漢事件で示談を目指す意味・メリット
痴漢事件で示談は必要か
痴漢事件の場合,何もせずに刑罰を受け入れるのでない限り,示談は必要であると考えるのが適切です。それは,痴漢事件に対する刑事処分は,示談の有無で決定的に変わるためです。
示談が成立しなければ起訴される事件でも,示談が成立することでほぼ確実に不起訴が見込まれるという場合は珍しくありません。痴漢事件の処分は示談に左右されると言っても過言ではなく,痴漢事件で処分の軽減を試みるのであれば示談以外にないと考えてよいでしょう。
事件によっては,効果のある弁護活動の内容が示談のみであるというケースも非常に多く見られます。
ポイント
痴漢事件では示談が決定的に重要
示談が唯一の弁護活動となる場合も多い
痴漢事件における示談のメリット
痴漢事件は,示談を行う利益が非常に大きい事件類型と言えます。その具体的な理由としては,以下の点が挙げられます。
① 前科を防げる
刑事事件では,警察から事件の送致を受けた検察官が,被疑者を起訴するかどうか決めます。そして,検察官に起訴されると,刑罰を受けて前科が残ることになります。
この点,検察官が起訴するか不起訴どうかは,様々な事情を総合的に考慮の上で判断されますが,被害者がいる事件の場合,被害者の意向を反映させることが非常に多く見られます。
痴漢事件は被害者のいる事件類型のため,被害者が起訴を望むか不起訴を望むかという点が,検察官の判断を左右しやすい傾向にあります。そのため,不起訴を目指す場合の最も効果的な手段は,被害者に不起訴を希望してもらうことになるのです。
示談を行うことによって,被害者に不起訴を希望する意思を表明してもらうことができ,検察官の不起訴処分を獲得できる可能性が飛躍的に高くなります。不起訴処分となれば前科はつかないため,前科を防ぐための最も有力な手段は示談ということになるでしょう。
②早期釈放につながる
痴漢事件で逮捕・勾留されている場合,被害者との示談が成立すれば,その身柄拘束は早期に解かれる可能性が非常に高くなります。
そもそも,痴漢事件で逮捕・勾留といった身柄拘束をするのは,事件の捜査や処分(起訴・不起訴の判断)のために逮捕・勾留が必要であるからです。裏を返せば,捜査や処分を検討する必要がなくなれば,逮捕・勾留をしておく必要もなくなるため,早期に釈放されるということになります。
示談が成立した場合,被害者はそれ以上の捜査や加害者(被疑者)の刑事処罰を希望しなくなるため,捜査機関が捜査を続けたり刑事処罰を科すか検討したりする必要は基本的になくなります。捜査機関の捜査は,被害者の協力がなければ困難なことも多いため,被害者が捜査を希望しないのに無理矢理捜査を続けることは難しい,という面もあります。
そうすると,示談が成立し,被害者が捜査や処罰を希望しないという希望を示せば,事件の捜査や処分の検討は不要となるため,逮捕・勾留しておく必要もなくなります。その結果,不要な逮捕・勾留は終了し,早期釈放してもらうことが可能になりやすいでしょう。
③刑罰が軽減する
痴漢事件で刑罰を受けることが防げない場合でも,示談は重要な効果を発揮します。
刑罰の重さを最終的に判断するのは裁判所ですが,裁判所が刑罰を判断する際に極めて重要視する事情に,被害者の処罰感情や被害者に対する被害の補填が挙げられます。
処罰感情とは,処罰を希望するかどうかという気持ちを言います。被害者の処罰感情が強いほど,刑罰は重くなる傾向にあります。
また,被害者に対する被害の補填は,被害者に生じた損害がどれだけ回復されているか,という意味で重要な判断要素になります。被害の補填は主に金銭で行われることが一般的ですが,事後的に被害が回復されていれば,その結果重い刑罰を科す必要はなくなる,という理解になるのが通常です。
被害者との間で示談が成立すれば,被害者に処罰感情がないことや,被害の補填がなされたことが明らかになります。そのため,示談は刑罰の軽減に直結する効果を持つということができます。
示談がなければ実刑判決が見込まれるケースでも,示談によって実刑判決を回避できる場合は珍しくありません。示談は,被害者がいる事件で刑罰を軽減するための最も有益な試みと理解してよいでしょう。
④被害者との法律関係が解決する
痴漢事件が起きた場合,被害者と加害者の間には,「被害者が加害者に損害賠償を請求できる」という法律関係が発生します。痴漢行為は,被害者に対する「不法行為」に該当するため,痴漢行為(=不法行為)の被害者は,加害者に対して金銭賠償を請求できる,という関係に立つのです。
しかも,この法律関係は,加害者が刑事処罰を受けたとしてもなくなったり負担が軽くなったりするものではありません。当事者間の法律関係と刑事処罰とは無関係であるためです。
この点,被害者との間で示談が成立した場合,被害者と加害者の間には示談の内容以外に法律関係がない(法律関係が解決した)という約束をすることになります。そのため,示談が成立すれば,その後に加えて被害者から金銭賠償を請求されることはなくなり,法律関係の面でも安心することができます。
なお,当事者間の法律関係が解決したことを約束する示談の条項を,「清算条項」と言います。示談に際して清算条項を盛り込んで解決することで,当事者間の法律関係は示談をもって終了することになります。
ポイント 示談のメリット
前科の回避につながる
身柄拘束からの釈放につながる
刑罰の軽減につながる
当事者間の法律関係が清算できる
(2)痴漢事件で不起訴を目指すときのポイント
痴漢事件で不起訴になる可能性
痴漢事件は,不起訴処分となる可能性が大いにある事件類型ということができるでしょう。認め事件,否認事件のいずれについても,現実に不起訴で解決する例は多数見られます。
痴漢事件が捜査・処分の対象となるのは主に現行犯で,現行犯では犯罪事実の明らかな場合が多いため,痴漢事件の大多数は認め事件になりやすいところです。そのため,痴漢事件における不起訴の可能性は,被害者との示談の可能性と大きな関係があります。
この点,痴漢事件では,被害者にとっても示談が少なからず有益な場合が多く,被害者の感情面を理由に拒絶されるのでなければ,示談での解決を見込むべきケースが少なくありません。
痴漢事件は,示談で不起訴になる可能性が十分にある事件と言えるでしょう。
ポイント
痴漢事件は,示談で不起訴になる可能性が大いにある
痴漢事件で不起訴を目指すときのポイント
①余罪があると不起訴が困難になり得る
起訴不起訴の判断結果は,複数の事件があれば事件ごとに行われます。そのため,一つの事件で示談ができても,不起訴になるのはその1件のみであり,余罪があれば別途不起訴を目指す必要があります。
事件が複数あれば,それだけ示談を拒否される可能性も高くならざるを得ない上,経済的に全件で示談を行うことが難しい場合も生じ得ます。そうすると,余罪があって捜査処分の対象となる事件が多い場合,不起訴が困難になる可能性に注意が必要でしょう。
②被害者や目撃者の供述内容は確認できない
否認事件では,被害者や目撃者の供述によって犯罪が立証できるか,という点が非常に重要なポイントとなりますが,肝心の供述内容を事前に確認する手段は法的にはありません。
事件が起訴され,裁判所への証拠として提出されることになれば,供述内容を供述調書の形で確認することができますが,あくまで起訴された後の話にとどまります。被害者や目撃者の供述は重要な捜査情報のため,起訴前の段階で捜査機関から提供してもらうことは極めて困難と言わざるを得ないでしょう。
そのため,否認事件で不起訴を目指す場合,被害者や目撃者の供述内容はこちらで想定する形を取るほかありません。「想定される供述内容がすべて信用できない=供述内容が信用できる可能性はない」という主張が代表的な方法になるでしょう。
士が定期的に接見を行う必要があることから,デメリットがより大きくなる可能性を想定する必要があるでしょう。
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