痴漢事件で弁護士は何をする?捜査段階別の役割を解説

痴漢事件に関して「弁護士は具体的に何をしてくれるのか」という点は、意外と分かりにくいものです。
逮捕や取調べ、示談、不起訴といった言葉は耳にする一方で、弁護士がどの段階で、どのような役割を果たしているのかは、十分に整理されていないケースも少なくありません。

痴漢事件は、供述の内容や証拠の評価が結果に大きく影響する刑事事件です。そのため、弁護士がどのように関与し、何を整理し、どの判断に向けて活動するのかを正しく理解することが重要になります。

この記事では、痴漢事件における弁護士の役割について、捜査の進行段階ごとに整理しながら解説します。
逮捕前後の対応、取調べへの関与、証拠や主張の整理、被害者対応、不起訴・起訴の判断に向けた弁護活動まで、弁護士が担う実務上の役割の全体像を確認する一助になれば幸いです。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

目次

痴漢事件において弁護士が果たす役割とは

痴漢事件における弁護士の役割は、本人の代わりに警察や検察とやり取りをすることにとどまりません。捜査が進む中で、どの事実が問題とされ、どの供述や証拠が判断材料になるのかを明確にしたうえで、対応の方向性を決めることが、弁護活動の出発点になります。

痴漢事件では、被害を訴える側の供述が捜査の中心になりやすく、本人の説明との食い違いがそのまま不利に評価されることも少なくありません。こうした状況では、弁護士が事前に事情を聞き取り、どの点が争点になり得るのか、どの説明が後の手続に影響するのかを整理したうえで、供述のあり方を検討します。

また、捜査段階では、逮捕や勾留が必要か、不起訴とする余地があるかといった判断が、限られた資料をもとに行われます。弁護士は、本人の生活状況や前歴の有無、事件後の対応などを踏まえ、捜査機関が判断材料とする事情を具体的に示す役割を担います。

このように、痴漢事件において弁護士は、事実関係の聞き取り、供述内容の検討、判断に影響する事情の提示といった実務を通じて、刑事手続の中で不利な評価が固定化しないよう対応します。

【捜査初期】弁護士が行う対応(逮捕前・直後)

捜査初期は、警察による事情聴取や逮捕の判断が行われる段階であり、その後の手続の方向性が事実上定まることもあります。この段階で弁護士が行うのは、まず本人から具体的な経緯を聞き取り、捜査機関がどの点を問題視しているのかを把握することです。

逮捕前であっても、警察から任意の呼び出しを受けている場合には、どのような質問が想定されるか、どの点について説明を求められる可能性があるかを踏まえた対応が必要になります。弁護士は、事実関係を確認したうえで、説明すべき点と慎重に対応すべき点を区別し、不要に不利な内容が供述として残らないよう助言します。

逮捕された場合には、弁護士は速やかに接見を行い、取調べの状況や供述内容を確認します。そのうえで、逮捕が継続される必要があるのか、勾留請求が相当かといった点について検討し、必要に応じて意見書の提出などを行います。また、家族や勤務先への連絡方法、身柄拘束が続いた場合の生活面への影響についても、具体的な対応を検討します。

この段階での弁護士の対応は、捜査機関にどのような前提で事件が認識されるかを左右するという点で重要です。初期の供述や対応がそのまま記録として残ることを踏まえ、事実関係と評価が不必要に結び付けられないよう、実務的な対応が求められます。

【取調べ段階】弁護士がサポートするポイント

痴漢事件の取調べでは、供述内容が供述調書として記録され、その後の判断に用いられます。取調べの場に弁護士が立ち会うことは原則として想定されていませんが、弁護士は取調べの前後を通じて、供述がどのように整理され、どの点が評価対象になるのかを具体的に確認します。

弁護士は、これまでに作成された供述調書の内容について、本人から詳細に聞き取りを行い、事実関係と記載内容にずれがないかを検討します。表現の違いや時系列の整理不足によって、意図しない形で行為の内容が重く受け取られるおそれがある場合には、その点を明確にしたうえで、以後の説明の仕方を検討します。

痴漢事件では、行為の有無だけでなく、接触の態様や故意の有無が争点となることがあります。弁護士は、捜査機関がどの点を問題としているのかを踏まえ、事実として説明すべき事項と、推測や評価を含む発言とを区別する必要があることを具体的に伝えます。

また、取調べが繰り返される中で、同じ質問に対して異なる表現を用いてしまうと、供述の一貫性が疑われることがあります。弁護士は、取調べ後に内容を確認し、供述調書として残った表現がどのように理解され得るかを説明することで、不利な評価が固定化することを防ぐ役割を担います。このように、取調べ段階における弁護士のサポートは、供述調書の内容を具体的に確認し、評価に直結する表現や構成について実務的に対応することにあります。

取調べの流れや内容を事前に把握できることは、思いのほか大きなポイントです。何が起きるかある程度想像できていれば、適切な対応がしやすくなります。

【証拠・主張整理】弁護士が行う弁護活動

痴漢事件では、供述内容だけでなく、当日の行動を裏付ける客観的な資料が判断材料になります。弁護士は、捜査機関がどの証拠を把握しているのかを確認したうえで、事件当時の状況を示す資料を一つずつ検討します。

具体的には、現場や車内の防犯カメラ映像、駅の改札の入退場記録、移動経路が分かる交通系ICカードの履歴、事件前後の行動を示す記録などが対象になります。弁護士は、これらの資料から、本人がどこにいたのか、どの時間帯にどのように行動していたのかを時系列で整理します。

そのうえで、供述内容と客観的資料との間に食い違いがないかを確認します。たとえば、接触があったとされる位置関係や時間帯について、防犯カメラや移動記録と矛盾が生じていないか、供述の表現が事実以上に広く受け取られる形になっていないかといった点を具体的に検討します。

また、証拠が一部しか存在しない場合でも、その資料がどの範囲の事実を示しているのかを明確にします。映像が一部の時間帯しか撮影されていない場合や、記録が断片的な場合には、その限界を踏まえた説明を行い、証拠の内容が過度に拡大して解釈されないよう対応します。

このように、弁護士は、どの資料がどの事実を示しているのかを具体的に示し、供述と証拠が結び付けられる範囲を明確にする作業を通じて、処分判断の前提となる事実関係を整えます。

【被害者対応】示談交渉における弁護士の役割

痴漢事件では、被害者とされる側への対応が処分判断に影響することがあります。弁護士が示談交渉を行う役割は、本人に代わって連絡窓口となり、交渉を事実関係と法的前提に沿って進めることです。

具体的には、まず被害者側の連絡先や代理人の有無を確認し、直接の接触が不要となる体制を整えます。本人が被害者に直接連絡を取ることは、感情的な対立や新たなトラブルにつながるおそれがあるため、弁護士が間に入ってやり取りを行います。

交渉の場面では、謝罪の意思表示の方法、補償の範囲、金銭の支払条件、示談書に記載する内容などを一つずつ詰めていきます。弁護士は、どの点について合意が必要か、どの条件が処分判断に影響し得るかを踏まえ、条件案を整理します。また、示談書に記載する文言についても、事実関係を超えた内容や不利な表現が含まれないよう確認します。

示談が成立しない場合でも、交渉の経過や被害者側の意向は、その後の判断材料として扱われることがあります。弁護士は、どのような点で合意に至らなかったのかを明確にし、交渉の過程が適切に説明できる状態を整えます。このように、示談交渉における弁護士の役割は、連絡・条件調整・書面作成を具体的に担い、交渉内容がその後の手続で適切に位置づけられるようにすることにあります。

痴漢事件の場合、捜査機関が当事者同士の直接の連絡を許すことは考えにくいため、示談交渉のために弁護士は必須の存在となりやすいです。

【処分判断】不起訴・起訴に向けた弁護活動

痴漢事件では、捜査が一定程度進んだ段階で、検察官が不起訴とするか、起訴するかを判断します。この判断は、供述内容や証拠のほか、事件後の対応状況なども踏まえて行われます。弁護士は、検察官が判断材料として確認する事項を具体的に把握したうえで、提出すべき事情を整理します。

具体的には、事実関係に争いがある場合には、これまでに確認された証拠や供述内容を基に、どの点に疑問が残るのかを明確にします。また、示談が成立している場合には、その内容や経過が正確に伝わるよう資料を整えます。示談に至っていない場合でも、被害者対応の経過や本人の対応状況を示す資料を準備します。

さらに、前歴の有無、生活状況、再発防止に向けた取り組みなど、処分判断に影響し得る事情についても、具体的な事実として示します。弁護士は、これらの事情を口頭説明や書面提出の形でまとめ、検察官が判断を行う際の前提資料とします。この段階での弁護活動は、処分結果を約束するものではありませんが、判断に用いられる情報が限定的なまま決定されることを避けるという点で意味があります。弁護士は、検察官が確認すべき事情が漏れなく伝わる状態を整える役割を担います。

処分の軽減や回避にとって有益な事情であっても、その使いどころや示し方が適切でないと希望する結果に至らないこともあります。逆に、手続の進行に適した形式や方法で活用できれば、最大限の効果につながりやすくなります。

弁護士が関与することで何が変わるのか

痴漢事件で弁護士が関与するかどうかによって変わるのは、警察や検察が判断に使う材料の中身です。

弁護士が関与していない場合、捜査機関が判断に用いるのは、主に本人の供述調書と、警察が収集した限られた証拠です。供述調書には、取調べの中で話した内容が文章としてまとめられますが、その表現や言い回しは、必ずしも本人の意図どおりになっているとは限りません。それでも、一度作成された供述調書は、その後の捜査や検察判断の前提として扱われます。

これに対し、弁護士が関与している場合には、供述調書以外の資料が判断材料として追加されます。たとえば、防犯カメラ映像や改札の入退場記録などから、事件当時の位置関係や行動の流れを示す資料が提出されることがあります。また、示談交渉を行った場合には、交渉を開始した時期、提示した条件、合意の有無とその内容が書面として残ります。

さらに、事件後の対応についても違いが出ます。弁護士が関与している場合には、出頭の状況、取調べへの対応状況、再発防止に向けた具体的な行動などが資料としてまとめられ、検察官が確認できる形で示されます。これらは、本人が口頭で説明するだけでは、十分に伝わらないことが多い事情です。このように、弁護士が関与することで、判断が「供述調書だけ」で行われる状態から、「複数の資料を確認したうえで行われる状態」に変わります。
その結果、処分を決める側が確認できる情報の量と内容が増え、事実関係や事件後の対応が、より具体的な形で判断材料に含まれることになります。

弁護活動は、目指す結果から逆算する形で行うのが基本的な弁護士の考え方です。前提として、目指す結果に至るケースや法律的な要件を十分に整理しておくことが不可欠です。

どの段階で弁護士に相談すべきか

痴漢事件では、弁護士に相談する時期によって、対応できる内容や範囲が異なります。刑事手続の進行段階に応じて、弁護士が関与できる場面が変わるためです。

まず、警察から任意で呼び出しを受けた段階では、事情聴取においてどのような点が確認される可能性があるのかを把握したうえで、供述の内容や説明の仕方について助言を受けることができます。この段階で相談していれば、供述調書に記載される内容について、事前に注意点を確認することが可能です。

次に、逮捕された直後は、取調べが本格化し、勾留の要否が短期間で判断されます。この段階では、弁護士が接見を行い、取調べの状況や供述内容を確認したうえで、勾留請求に対して考慮すべき事情があるかを検討します。

その後、捜査が継続している段階でも、弁護士に相談する意義はあります。これまでに作成された供述調書や証拠関係を確認し、示談交渉の状況や事件後の対応を踏まえて、検察官の処分判断に向けた資料を整えることができます。

一方、起訴後や処分が確定した後になると、捜査段階で作成された記録や判断が前提となるため、新たに対応できる事項は限られます。そのため、弁護士への相談は、任意の呼び出しを受けた時点や、遅くとも捜査段階の早期に行うことが、実務上は望ましいといえます。痴漢事件では、供述調書や証拠がどの段階で作成されるかが、その後の手続に影響します。早い段階で弁護士に相談することで、捜査段階における対応の幅を確保しやすくなります。

どの段階であっても、弁護士にしかできないことを希望する場合、弁護士への相談が有益になります。現段階で具体的に何ができるか、すべきかという点は、専門家の案内を受けながら把握することをお勧めします。

刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ

ここで挙げた対応は一例であり、実際には事案ごとに重視される点が異なります。痴漢事件全体の流れの中で、弁護士が果たす役割を俯瞰的に整理した内容は、痴漢事件と弁護士対応の全体像としてまとめています。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内することができます。
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