【交通事故解決事例】後遺障害診断書に記載のなかった脳の障害について検査等を依頼し,高次脳機能障害9級を獲得。2,400万円超の賠償金となった事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

当時小学生であった被害者が,複数人で下校中,横断歩道のない十字路交差点の付近にて,車道を歩いて横断しようとしていましたが,そこに左方から直進してきた四輪自動車が衝突し,事故が発生しました。

被害者を含む2名が受傷しましたが,被害者の被害が最も重く,頭部に強い衝撃を受けた結果,事故後の数日間は意識のはっきりしない状態が続いていました。
その後,幸いにも意識を取り戻し,リハビリなどを通じて改善に努めましたが,1年ほどの通院を経ても脳機能への悪影響が残っている状況でした。具体的には,感情の起伏が激しく制御できない,記憶がうまくできない,簡単な算数の計算に時間がかかってしまう,といった症状が見られました。

弁護士に相談された当時,被害者は別の弁護士に依頼しており,後遺障害に関する手続を予定しているとのことでした。依頼した弁護士の案内で後遺障害診断書の作成を受けたものの,同弁護士からは後遺障害等級認定を受けることは難しいとの案内を受けていました。

被害者の親権者から,後遺障害の見込みや適切な解決方針に関して相談があり,弁護士が対応することとなりました。

法的問題点

①過失割合

本件は,過失割合に大きな争いのある事故でもありました。被害者は,信号のない十字路交差点付近を横断していたとの主張でしたが,相手保険は,交差点上の横断ではなかったことを理由に,直進道路上を被害者が横断したという事故類型であるとの主張をしているようでした。

この点,被害者の主張する事故類型では,基本過失割合が20%となります(【34】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用 以下同じ

また,被害者が「児童」に該当すること,複数人の下校中であって「集団横断」に該当することを主張していたため,「児童」による-5%の修正と「集団横断」による-5%の修正で,合計10%被害者の過失が低下する主張内容でした。そのため,修正後の過失割合は10:90となります。

一方,相手保険の主張する事故類型は,基本過失割合が30%となります(【33】図)。

また,相手保険によると,被害者の「直前横断」が原因で事故が発生したとのことであったため,「直前横断」により+10の修正,被害者「児童」につき-10%の修正がなされ,修正後の過失割合も30:70との内容でした。

以上から,被害者と相手保険の主張する過失割合には,「10:90」と「30:70」という見解の開きが見られる状況でした。

ポイント
被害者は10:90を主張
相手保険は30:70を主張

②高次脳機能障害

被害者は,事故によって頭部を受傷し,事故後の数日は意識がはっきりしない状況であったため,高次脳機能障害を理由とした後遺障害等級認定の可能性が考えられました。

この点,高次脳機能障害は,事故後に一定期間の意識障害があったかどうかが重要な判断要素の一つとなっています。具体的には,以下の基準が用いられています。

要件具体的基準
①6時間以上のこん睡状態JCS3桁又はGCS8点以下
②1週間以上の意識障害JCS1~2桁又はGCS13~14点

【GCS】(E・V・M 3つの合計値が小さいほど重篤)

【E】開眼
4自発的に眼を開けている
3呼びかけにより眼を開ける
2痛みにより眼を開ける
1眼を開けない
【V】最良言語反応
5見当識あり
4会話はできるが混乱
3発語はできるが不適当
2発声はできるが理解不可
1反応なし
【M】最良運動反応
6命令に応じる
5痛みの部位を認識する
4痛みで屈曲反応(逃避)
3痛みで屈曲反応(異常)
2痛みで伸展反応
1反応なし

被害者の場合には,事故直後のGCSが7点,1時間後にはGCS9点と確認されていることが分かりました。これは,意識障害レベルとして高次脳機能障害の認定基準を満たし得るものであり,具体的に高次脳機能障害の有無を検査等する必要があり得ると考えられます。

また,被害者には感情制御能力や記憶能力の低下など,高次脳機能障害の影響と思われる複数の支障が出ており,等級認定のためにも,その後の生活や成長のためにも,脳機能の障害を正しく判断してもらう必要があると見受けられました。

ポイント
事故後の意識障害は,高次脳機能障害の基準を満たし得る
感情制御能力や記憶能力の低下は,高次脳機能障害の影響と思われる

③現在の代理人弁護士との関係

被害者には,既に依頼をしている代理人弁護士がおり,後遺障害の申請手続を具体的に勧めようとしているところでした。そのため,こちらが依頼を受けるか,現在の弁護士に依頼し続けるかは,被害者の親権者に判断してもらうことが必要となります。

被害者にとっては,現在の弁護士から等級認定が困難と案内されている点が大きなネックになっているようでした。脳機能の障害が疑われる中で,後遺障害等級認定が困難と指摘されれば,疑問を抱くのもやむを得ないところでしょう。

この点,当方が状況を確認すると,現在の弁護士との関係では,そもそも高次脳機能障害の等級認定に向けた準備を行っていない可能性が推測されました。というのも,高次脳機能障害の等級認定を受けるためには,必要な検査結果を後遺障害診断書に記載してもらうことに加え,他にも複数の必要書類がありますが,当時は,後遺障害診断書に脳の症状の記載がない上,他の必要書類を一切準備していない状況であったのでした。

そのため,当方からは,当方へ依頼されるかどうかはともかく,高次脳機能障害について等級認定を目指すための必要な動きは取るのが適切であろうことをご案内することとしました。

弁護士の活動

①受任方法

まずは,被害者側が当方に依頼されるかどうかをしっかりと検討してもらうべきであると考えました。そのため,とりあえず脳機能に関する適切な検査を受けていただく目的で,弁護士から通院先の候補をご案内し,検査のための通院を実施していただくこととしました。

検査の結果,やはり被害者には高次脳機能障害特有の症状が見受けられ,適切に後遺障害等級認定を受けるための手段を尽くすべきであるということが判断できました。これを踏まえ,弁護士からは,当方にご依頼された場合の流れや方針を具体的にお伝えし,被害者の親権者に検討を依頼しました。

ご検討された結果,従前の代理人弁護士とは解約の上,当方にご委任される方針を固められました。

ポイント
まずは必要な検査を受けていただき,ご依頼の場合の方針を確定
後遺障害に関する方針を比較の上で弁護士選びをご検討いただいた

②過失割合

過失割合に関しては,そもそも主張している事故態様が異なるところ,その中心的な違いは交差点上(又はその直近)か,交差点上でない場所か,という点でした。
この点,事故に居合わせた他の児童の話や,事故状況に関する両当事者の説明を確認したところ,事故はほぼ交差点上で発生しており,事故発生場所に関する主張は被害者側の言い分が合理的であることが判断できました。おそらく,相手保険は,被害者の感情的な希望を踏まえ,根拠に乏しいながらも過失割合を争ってきたのであろうと推測されました。

そのため,弁護士からは,過失割合は被害者の主張通りにするべきであることを改めて主張するとともに,自社の言い分を維持するのであれば,相応の根拠を添えて主張するよう求めました。
交渉の結果,相手保険が主張を撤回するに至り,過失割合は10:90での解決となりました。

ポイント
過失割合の争いの中心は,事故が起きた場所
交差点上の事故であることの根拠を示し,相手に主張の撤回を促した

③高次脳機能障害

本件では,高次脳機能障害が後遺障害等級認定の対象となるかどうか,という点が結果を決定的に左右する問題と言えました。損害賠償額にすれば千万円単位で変わる可能性も少なくないポイントです。

そのため,弁護士からは後遺障害等級認定のための必要な試みを可能な限り尽くすご案内を実施しました。主な活動内容は,以下の通りです。

後遺障害等級認定のための活動内容

1.対面でのコミュニケーション
→被害者の状態を直に確認し,障害の内容を具体的に把握しました。

2.障害の具体的影響を確認
→障害が具体的な行動に現れたエピソードを可能な限り洗い出しました。

3.専門医への通院・検査
→検査のための通院を改めて行い,診断書の提出に必要な症状の確認を行いました。

4.医師の見解を聴取
→検査結果を確認した医師に見解を聴取し,等級認定を目指す方針を具体的にしました。

5.その他提出書類の内容を検討
→高次脳機能障害の等級認定に必要な他の書類についても,記載内容を詳細に吟味検討しました。

6.後遺障害診断書の再作成
→従前の後遺障害診断書を破棄し,高次脳機能障害の等級認定に適した後遺障害診断書の再作成を依頼しました。

以上を踏まえ,後遺障害の申請に適した書面作成を行い,弁護士にて等級認定手続を進めることとしました。

活動の結果

上記の各活動の結果,後遺障害等級としては高次脳機能障害について9級の認定が獲得できました。高次脳機能障害が等級認定の対象となった点で,被害者にとって非常に有益な認定結果となりました。

また,後遺障害9級を踏まえ,過失割合や各損害額を相手保険と交渉した結果,2,400万円を超える賠償額の獲得が実現されました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,セカンドオピニオンとして相談を受けたことが受任のきっかけとなったケースでした。
一般的に,セカンドオピニオンで直接受任まで至るケースはそれほど多くありません。セカンドオピニオンで現在の方針にお墨付きが得られれば,弁護士を変更する理由がないためです。一方,現在の弁護活動や方針に疑問がある場合,その点を漫然と見過ごしてしまえば,取り返しのつかない不利益につながる可能性もあります。

本件の場合,後遺障害診断書の作成後であったものの,その提出前に弁護士への相談を実施されたことがとても適切でした。作成された後遺障害診断書を提出してしまえば,今回と同じ後遺障害等級の認定は得られずに終わった可能性が高いでしょう。
弁護士への依頼中に他の弁護士へ相談することは,心理的に難しいことも少なくありませんが,特に問題が重大な場合には,手続が進んでしまう前に他の弁護士へ相談し,見解を仰いでみることも選択肢に入れてよいのではないでしょうか。

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【交通事故解決事例】顔面醜状障害による12級で,逸失利益に関する丁寧な主張立証により300万円を超える増額を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が,車道脇を自転車で直進走行し,信号のある十字路交差点を青信号に従って通過しようとしたところ,対向から右折で交差点に進入した単車と衝突する事故が発生しました。互いに渋滞する車列をすり抜けるように走行していたため,相互に相手の発見が遅れた,という事情がありました。

事故の結果,被害者は主に顔面を受傷し,額は数十針も縫うケガとなりました。1年以上に渡る通院治療を尽くしたものの,額に線状痕が残り,顔面の醜状障害として後遺障害12級の認定を受けました。

その後,相手保険から賠償額の提示を受け,金額の合理性や増額余地の有無などを確認するために弁護士への相談を希望されました。

法的問題点

①過失割合

保険会社の提示では,被害者の過失割合が10%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,信号のある交差点で,双方ともに青信号に従っていた場合,直進自転車と対向右折車(四輪車・単車とも含む)の間で発生した交通事故では,基本過失割合が10:90とされています(【249】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,実際の事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正すべき事情がなければ,被害者の過失を10%とする解決が合理的と思われます。
ただし,信号のある交差点での対向車間の事故においては,信号表示が問題になり得ることに注意が必要です。互いが交差点に入った時の信号表示が本当に青信号であったか,進入後に信号が変わっていないか,という事情によって,過失割合が変動する可能性も低くはないためです。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件における被害者の通院期間は,1年を超えるものでした。その期間や後遺障害が残るほどの受傷であったことを踏まえると,慰謝料は決して低く見積もられるべきではないと考えられます。
しかし,相手保険の金額提示では,傷害慰謝料が35万円とされていました。これは,1年を超える通院を要したケースとしては非常に低額と言わざるを得ないものでした。しかも,35万円という提示に特段の理由は見受けられず,漫然と低額の提示をしているようでした。
そのため,傷害慰謝料については,根拠ある金額での解決が適切であり,重要な交渉対象となることが想定されました。

ポイント
傷害慰謝料は,ケガの程度や通院期間を主な基準として計算する
傷害慰謝料の提示額35万円は,受傷内容や治療期間を踏まえると非常に低額

③後遺障害慰謝料

後遺障害等級が認定された場合,傷害慰謝料とは別に,後遺障害慰謝料が発生します。これは,将来に渡って後遺障害が残存することに対する精神的苦痛を対象とする慰謝料です。
後遺障害慰謝料は,後遺障害等級によって金額が定められていますが,12級の場合,自賠責基準の金額が94万円,裁判基準の金額が290万円とされています。

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

本件では,自賠責基準に沿って94万円の提示がなされており,いわば最低額というべき提示内容でした。
保険会社が自賠責基準で提案を行うのは,その金額で合意ができれば自社の負担なく解決ができるためです。一方,被害者としては,自賠責から自分で回収しても同額が受領できる以上,相手保険とその金額で合意するメリットがほとんどありません。
後遺障害慰謝料についても,十分な増額交渉が必要であると判断される状況でした。

ポイント
後遺障害等級が認定されると,等級に応じた後遺障害慰謝料が発生する
相手保険の提示は自賠責基準であったため,増額交渉の余地がある内容

④後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,「労働能力喪失率」がゼロであれば,逸失利益もゼロとなります。労働能力が失われていない以上,収入減少もないのは当然ともいえます。
そして,顔面の醜状障害は,必ずしも労働能力を失わせるものとは考えられていません。顔面に醜状が残ったとしても,直ちに労働ができなくなるわけではないからです。
そうすると,顔面の醜状が全く労働に影響しないと考えるならば,労働能力喪失率はゼロ,逸失利益もゼロ,という計算になってしまうため,逸失利益の有無が争点になり得ます。

本件では,相手保険による逸失利益の提示が130万円という金額でした。一定の逸失利益を認めているようですが,実際はそうではありません。これも,後遺障害慰謝料と同じく,自賠責保険から出る金額をそのまま計上しているというのみです。
後遺障害12級に対しては,自賠責保険から総額224万円の保険金が支払われます。このうち,慰謝料は94万円であるため,残りの130万円を逸失利益として計上している,というわけです。

このような提示を行う保険会社のメッセージとしては,「逸失利益はないと考えている」というものであると想像されます。本件の醜状障害のように,後遺障害の類型として逸失利益が発生しない可能性があるものだと,保険会社がこのようなスタンスを示してくることは決して珍しくありません。

弁護士としては,逸失利益についてどのような解決を目指すべきか,検討が必要な問題でした。

ポイント
顔面の醜状は逸失利益が生じるかどうか明確でない
相手保険の提示は自賠責基準と同額であった

弁護士の活動

①過失割合

過失割合については,まず,基本過失割合の確認を行いました。
この点,被害者から事故状況の聴取をしたところ,相手保険が被害者の過失10%の根拠とした事故態様に間違いがないことが確認できました。そのため,基本過失割合が10%となる点は了承することが適切な内容でした。

また,信号がある場合,信号表示に争いの生じることがあり得ますが,双方の交差点進入時,及び衝突時のそれぞれについて,互いの対面信号が青色表示であったことにも争いがないと確認が取れました。
そのため,過失割合については10%を了承し,争わない方針とすべきである旨が判断できました。

なお,本件は,渋滞中の車列の間をすり抜けるように交差点に進入したという事情があり,被害者が相手の単車を確認するのが遅れたきっかけにもなっているため,この点を過失割合に反映させるかどうかは問題となり得るところです。
しかし,本件の場合,互いに渋滞をすり抜けて走行しているため,相手の確認が遅れた原因は双方にあると考えられる状況でもありました。このような場合に過失割合を争おうとすると,相手からの強い反発が見込まれ,解決が困難となる場合も否定できません。争った場合の結果も不透明であることから,過失割合を争うことにあまり合理性がないと考えられる内容でした。

そのため,本件では渋滞があった点を過失割合の主張に反映させないことを選択し,早期円満な解決を目指しました。

ポイント
基本過失割合の根拠となった事故態様が一致することが確認できた
信号表示は互いに青であったことに争いがないと確認できた

②傷害慰謝料

傷害慰謝料については,被害者の受傷結果や通院期間を踏まえると,100万円を超える増額可能性があり得るものと見受けられました。そして,相手が低額な提示をしていることに特段の根拠がないという特徴も見受けられました。

そこで,弁護士からは,一般的に根拠があるとされる裁判基準を踏まえた金額提示の上で,相手保険の提示が根拠に基づかない低額な水準であることを指摘するとともに,低額な金額提示を維持するのであれば,その具体的な根拠を示すよう求める方針を取ることにしました。
相手の提示額に根拠が見受けられない場合は,まず相手の根拠の指摘を求めるのが端的です。そもそも,低額の提示をするのであれば,相応の根拠を添えて行うべきであって,正しい対応を求めたのみである,という言い方もできるでしょう。相手が交渉に必要なステップをちゃんと踏んでいないのであれば,まずはそのステップを踏んでから,初めてこちらが検討する順番となるべきです。

本件では,上記の方針を取ったところ,保険会社から低額な提示の根拠が示されることはなく,概ね当方の請求に沿った慰謝料額での合意となりました。具体的には,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多いところ,裁判基準の95%に当たる金額での合意となりました。

ポイント
低額な慰謝料の提示は相応の根拠を添えて行われるべき
根拠のない提示に対しては根拠を出すよう求めるのが有力な交渉方法

③後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料についても,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多く見られます。この点,12級の慰謝料の場合,裁判基準が290万円のため,80~90%は232万円~261万円となります。そうすると,提示額の94万円(=自賠責基準)からは概ね150万円前後の増額余地があり,後遺障害慰謝料についても十分な交渉が必要であると想定されました。

この点,後遺障害慰謝料について裁判基準を踏まえた金額で請求できる根拠は,まさにその後遺障害等級が認定されたという事実です。後遺障害慰謝料は,後遺障害等級が認定されるような症状が残ったということを理由に支払われるものであるため,等級認定されれば通常は支払われるべき,ということになります。
裏を返せば,後遺障害慰謝料を減額交渉しようとするのであれば,その等級が認定されたことが不適切である,という内容の主張になるのが通常です。もっとも,これは保険会社の主張としては困難と言わざるを得ません。

そのため,弁護士からは,保険会社の低額な提示を無視する方針とし,端的に裁判基準を踏まえた金額交渉を実施して,相手保険の了承を引き出すことにしました。交渉の結果,傷害慰謝料と同じく,裁判基準の95%に当たる金額での合意となり,一般的な目標額を超える水準での解決に至りました。

ポイント
後遺障害慰謝料は,等級認定されれば他の理由なく支払われるべきもの

④後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益に関しては,まず,後遺障害に伴う労働への影響を確認することとしました。
この点,被害者は介護職に従事していましたが,特に顔面の醜状が仕事への制限をもたらす立場にはありませんでした。顔面の醜状が直ちに労働能力に影響を与えやすい業種としては,モデルや営業職,一部の接客業などが挙げられますが,被害者はそのどれにも当てはまっておらず,醜状障害そのものが労働能力を低下させるとの主張は難しいことが見込まれました。

もっとも,被害者の醜状障害は,額の深い傷を原因とするものであったため,顔面の一部に知覚の低下をもたらすものでもありました。これは,神経症状と呼ばれるもので,局部の神経症状は労働能力に一定の影響があると考える余地がありました。
そこで,弁護士からは,12級相当の労働能力の喪失が,症状固定後5年間低下する可能性があることを主張し,相手保険に逸失利益の増額を求めることとしました。その結果,当方の主張が受け入れられ,症状固定後5年分の逸失利益が支払われる内容での合意となりました。

ポイント
顔面の醜状そのものは労働能力に影響しない業務内容であった
醜状に伴う神経症状を根拠に逸失利益を請求し,合意に至った

活動の結果

各慰謝料と逸失利益の交渉を尽くした結果,従前の提示額約270万円に対して,約580万円での示談成立となり,310万円を超える増額が実現されました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

顔面の醜状障害は,後遺障害逸失利益の金額計算が難解な後遺障害の一つです。顔面に醜状があっても,身体的な機能が低下するとは限らないため,逸失利益はないのではないか,という発想があるためです。
一方,醜状を残すほどの受傷がある場合,醜状以外にも何らかのダメージが残っており,後遺障害等級はそのようなダメージを含めた認定になっていることがあります。この点を踏まえれば,一定の逸失利益は観念することもでき,逸失利益に交渉の余地があり得ます。

本件では,後遺障害等級認定の中で顔面部の知覚低下を含む認定であることが明記されていたため,これを逸失利益の交渉における重要な根拠の一つとしました。醜状障害に伴うダメージの内容は,単に主張するのみでなく,その裏付けを示す形を取ることで,相手保険の合意を引き出しやすくもなります。

具体的な交渉方法・内容は個別のケースによるため,一律の指摘は困難ですが,一度交通事故に強い弁護士に相談を実施の上で,見解を仰いでみるのは重要なことだと考えます。
弁護士の敷居を決して高く感じる必要はありませんので,一度お気軽にご相談されてみることをお勧めいたします。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

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【交通事故解決事例】併合11級の金額交渉を代行し,交渉開始から約1か月半で440万円の増額を獲得して解決に至った事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】


・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が単車を乗車中,直進走行していたところ,前方の四輪車が左折を試みたため,被害者は巻き込み事故に遭い,鎖骨骨折などのケガを負いました。
治療終了後,鎖骨の変形及び肩関節の可動域制限が残ったため,後遺障害併合11級が認定されました。

等級認定の後,相手保険から損害賠償額の提示を受けた段階で,金額の合理性や増額の可能性などに関する弁護士へのご相談を希望されました。

法的問題点

①過失割合

相手保険からの提示内容では,過失割合が被害者20%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。

この点,直進単車と,先行する左折四輪車の間で発生した巻き込み事故は,基本過失割合が20:80とされています。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正するべき事情がなければ,被害者の過失割合を20%とする解決が合理的となりそうです。

②傷害慰謝料

交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。

本件で,被害者は300日(10か月)を超える治療を要していました。この期間は決して短いものではなく,骨折後の回復に時間を要したことが容易に想像されます。
しかし,保険会社から示された傷害慰謝料は32万円と非常に低額なものでした。この金額は,むち打ちで2か月程度の通院を行った場合に合意されやすい慰謝料と同水準であり,受傷内容や治療を要した期間と比較すると十分な金額とは評価し難いものと思われました。

傷害慰謝料が低額となっている大きな要因は,被害者の実通院日数が少なかったためであると見受けられました。骨折の場合,頻繁にリハビリ通院を行うのでなく,月単位で期間を空けて経過観察の通院をする形となることも少なくありませんが,その場合は実通院日数が少なくなりがちです。実通院日数が少ないケースでは,それを根拠に相手保険が低額な慰謝料の提示を行うことが一定数見られます。

ポイント
傷害慰謝料は,受傷内容や通院期間を基準に計算する
実通院日数が少ないことを理由に低額の提示となっていた

③後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

具体的な金額交渉においては,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点になる場合が多く見られます。本件でも,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点となることが見込まれる状況でした。

【労働能力喪失率】

被害者の後遺障害は,肩関節の可動域制限12級と鎖骨の変形障害12級で,併合11級でした。この点,可動域制限は労働能力に直接影響を及ぼすものですが,変形障害は必ずしも労働能力に影響を及ぼすものではありません。変形したから労働能力が低下するとは限らないためです。
そのため,このようなケースでは,可動域制限のみが労働能力を低下させているものと評価し,12級相当の労働能力喪失率を採用することが考えられます。

労働能力喪失率

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

もっとも,本件では12級相当の14%でなく,11級相当の20%で計算された逸失利益が提示されていました。そのため,労働能力喪失率に関しては有益な内容になっていると思われました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間は,労働能力の喪失が収入減少をもたらす期間を指します。基本的には,収入を得ている間(=労働ができる間)が労働能力喪失期間となります。
そして,特段の事情がない場合,症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされるのが原則です。一方,67歳までの期間とすることが不適切な事情がある場合には,個別の内容を踏まえて検討することになります。

この点,被害者は症状固定時53歳であったところ,相手保険の提示内容では,60歳までの7年間のみが労働能力喪失期間とされていました。一般的な給与所得者は60歳で定年を迎えることから,保険会社の提示では60歳までを労働能力喪失期間とすることが多く見られます。本件でも,特に個別の事情を考慮することなく機械的に60歳までとの計算をしていることが見受けられました。

しかし,被害者の労働能力喪失期間が本当に60歳までに限定されてよいかどうかは,被害者の労働に関する現状や見込みを踏まえて判断することが必要です。そもそも,原則としては67歳までの期間を採用するべきであって,機械的に60歳までと区切ることが当然に認められるものではありません。

そのため,労働能力喪失期間については具体的な検討や交渉の余地があるものと思われました。

ポイント
労働能力喪失率は有益な内容と思われる
労働能力喪失期間は交渉の余地がありそう

弁護士の活動

①過失割合

過失割合については,本件の事故態様における基本過失割合と整合する20%の提示であったため,弁護士の方では,過失割合の修正要素に当たる事情の有無を確認することとしました。

修正要素とは,基本過失割合をそのまま採用することが不適切な事情を指し,事故類型ごとに修正要素とされるものが定められています。左折四輪車の巻き込み事故であれば,左折車がウインカーを出していない(合図なし),左折前に徐行していない(徐行なし)といった事情が,単車側の過失を減少させる修正要素となり得ます。

もっとも,本件では特段の修正要素が確認されませんでした。そのため,過失割合については20%を了承する前提で金額交渉を実施することとしました。

ポイント
過失割合については修正要素の有無に注意
本件では修正要素がないとの結論に

②傷害慰謝料

傷害慰謝料は,特に理由を示すことなく金額提示がされていたため,相手保険の提示内容に合理的な根拠が見受けられない状況でした。そうすると,被害者側が相手保険の提案を了承する理由もないということになります。

弁護士からは,相手保険の提示金額では了承が不可能である姿勢を毅然と示すとともに,いわゆる裁判基準を念頭に置いた金額以外には合意の余地がないとのスタンスを強く示すことにしました。
また,被害者は,骨折後の治療に際して,鎖骨バンドと呼ばれる固定器具を数か月間使用し続けるなどの負担を余儀なくされ,骨の癒合がなされるか不安定な期間を過ごしたという経緯もあったため,これらの事情を踏まえた主張も行うこととしました。具体的には,実通院日数が少ないことが被害者の精神的苦痛を低下させる事情とは言えず,かえって通院治療では改善しない(=患部を固定し続けるしかない)という状況を強いられた精神的苦痛を考慮すべきとの主張を合わせて行うこととしました。

ポイント
裁判基準を念頭に置いた金額以外では合意が不可であることを毅然と主張
慰謝料の根拠として,長期間骨折部の固定を強いられたことを指摘

③逸失利益

【労働能力喪失率】

労働能力喪失率については,相手保険の提示が11級相当の20%とされており,被害者にとって最も有益な内容であったため,そのまま採用することとしました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間については,相手保険の提示が60歳までという短期間であったため,これを改めることを求める交渉を実施しました。

前提として,被害者の労働状況や後遺障害の影響を確認することとしました。
被害者は,作業療法士の仕事をしており,日常生活の機能改善を図るリハビリテーションの対応を主な業務としていました。そして,リハビリテーションに伴って必要となる補助などの力仕事に,後遺障害の影響が強く生じていることが分かりました。
業務に必ず発生する力仕事への悪影響は,被害者が労働を継続する限り生じし続ける重大なものであり,不用意に労働能力喪失期間を限定するべきではないと判断できました。

また,60歳以降に労働が予定されているか,という点についても具体的な確認を行いました。この点,被害者の場合には,そもそもの定年が60歳ではなく63歳であること,被害者の希望によって67歳までの就業も可能であることが確認できました。
そのため,被害者の労働能力喪失期間を60歳で区切ることには全く根拠がなく,原則である67歳までの期間を採用すべきであると主張する方針を取りました。

活動の結果

慰謝料及び逸失利益について,弁護士より相手保険との交渉を試みたところ,慰謝料についてはいわゆる裁判基準満額,逸失利益は67歳までの期間を採用するという当方の請求通りの解決に至りました。
その結果,従前の提示額約740万円に対して,約1180万円での合意となり,440万円を超える増額に至りました。合意額は,裁判を行った場合の請求額に匹敵する水準でした。

なお,交渉で裁判基準の満額が獲得できることはほとんどないため,本件は特に交渉が奏功した結果であったと言えるでしょう。

また,弁護士への依頼から賠償金の受領に要した期間は約1か月半であり,満額合意と早期解決を両立する結果にもなりました。

弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,慰謝料と逸失利益のそれぞれに一定の交渉余地があり,かつ相手保険の主張に明確な根拠が見受けられないというものでした。この場合,根拠のない主張を受け入れる意思はない,という点をまず明確に示すことが有力な進め方になりやすいでしょう。
本件でも,弁護士から毅然とした主張を行うことから開始したことにより,こちらのスタンスが相手保険にはっきりと伝わり,早期の高額解決につながりました。

また,本件の特筆事項として,相手保険の満額回答が挙げられますが,この点にも毅然とした請求方針が影響したと思われます。具体的な根拠を添えて毅然と主張したことで,保険会社はこちらが訴訟を辞さないであろうことを感じ取ったため,満額回答をしてでも早期に交渉で解決しようとした,と考えられます。

金額の主張に根拠があるか,どのような根拠を主張すべきか,といった点は,まさに弁護士が交渉に際して重要視すべき点であり,弁護士以外には検討が困難なことでもあります。金額交渉に際して弁護士依頼をしていただくことの有益さを改めて確認する事件となりました。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

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親族間で事故が起きた場合の補償を完全網羅。弁護士依頼のメリットや注意点も徹底解説

●家族間の事故では保険が利用できないのか?

●家族間の事故で保険が利用できる条件は?

●自賠責保険は利用可能か?人身傷害保険は利用可能か?

●家族間の事故については弁護士に依頼すべきか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,家族間の交通事故についてお困りの方に向けて,家族間の事故で利用できる保険やその条件などを解説します。

家族間の事故で自動車保険に生じる問題

家族間の事故が起きた場合,自動車保険の利用には「免責」という問題が生じます。免責とは,保険金の支払がなされないことを指します。

事故の加害者が被害者に損害賠償を行うことをサポートする保険として,代表的なものがいわゆる対人賠償保険ですが,対人賠償は,被害者が加害者の家族である場合を免責の対象としています。そのため,被害者である家族の損害を,通常通り対人賠償保険で賄ってもらうことはできず,他の手段で損害を補填する必要があります。

ただし,被害者が家族だからといって必ず免責になるわけではありません。例えば,自分の車との事故で家族が被害に遭ったとしても,運転者が自分でなく友人であったならば,対人賠償の免責事由には該当しないため,自分の車の保険で対人賠償を利用し,家族への損害賠償をしてもらうことができます。

もっとも,家族間の事故では免責の問題が生じやすいことに変わりはないため,家族が被害者となる交通事故では,利用できる保険について十分な確認をしたいところです。

ポイント
家族間の事故では免責の問題が生じる
免責の場合,保険金は支払われない

保険が利用できる条件①対人賠償保険

対人賠償保険は,加害者が被害者に損害賠償をする際に利用する保険です。保険が加害者の代わりになって,加害者の支払うべき金銭を被害者に支払うことを内容としています。言うならば,加害者となった場合に生じてしまう金銭的な負担を代わりに背負うことで,加害者の経済的なマイナスを防ぐための保険ということできるでしょう。

そのため,対人賠償保険は他人への賠償責任を対象とすることが大原則です。家族が被害者の場合,加害者と被害者の財布が共通するので,被害者が加害者に賠償を求めることが考えづらく,賠償責任を補償する前提を欠いていると理解されています。
したがって,家族間の事故では,対人賠償保険の免責事由に該当する可能性が非常に高いでしょう。

もっとも,免責事由は具体的に定める必要があるため,免責となる範囲も保険の約款で厳密に定められています。そのため,家族関係があったとしても,対人賠償保険の免責に当たらないケースがあり得ます。

対人賠償保険が免責となる主な家族の範囲

加害者自身
加害者の父母・配偶者・子(※)

※保険によっては,同居されている場合に限定されている場合もあります。

例えば,兄弟姉妹が被害者の場合,免責の対象とされておらず,対人賠償保険が利用できる可能性が考えられます。また,別居の家族が被害者の場合,同じく免責の対象とされていない可能性があり得ます。

対人賠償保険は,補償される範囲が最も広い保険であることが多いため,利用できるかどうかは正確に確認することをお勧めします。

ポイント
対人賠償保険は家族間の事故で利用できないことが多い
免責となる家族の範囲を正しく把握するのが適切

保険が利用できる条件②自賠責保険

自賠責保険は,全ての自動車運転者に加入が強制されている自動車保険で,被害者に対する最低限の補償を内容としたものです。自賠責保険の場合,支払われる金額や計算方法は全て決まっており,交渉の余地がありませんが,早期に確実な保険金の支払いをすることで,被害者に対する一定の補償を実現するための保険と位置付けられています。

この自賠責保険は,家族間の事故でも原則として利用が可能であるとされています。自賠責保険を支払う相手は,加害者にとって「他人」であることが必要ですが,自賠責保険の取り扱い上は,家族でも「他人」と扱われるのが原則です。ここでの他人とは,加害者と同程度に運行を支配していたとは言えない人物,という意味合いと理解されています。

ポイント
自賠責保険は家族間の事故でも原則として利用可能

保険が利用できる条件③人身傷害保険

人身傷害保険は,事故によって身体に損害を受けた場合,その損害に対して保険金が支払われる,という内容の保険です。対人賠償保険が事故相手の人身損害への支払の保険とすれば,人身傷害保険は自分の人身損害への支払を行う保険,という区別ができるでしょう。

この人身傷害保険は,家族間の事故でも利用が可能であることが通常です。家族間の事故では,対人賠償保険が免責になる代わりに,人身傷害保険で損害をカバーしてもらうことによって,損害の補填を図ることが一般的な進め方となりやすいでしょう。

ただし,人身傷害保険にも免責事由はあり,免責に該当すれば保険金が支払われません。代表的な免責事由としては,故意又は重大な過失で事故を起こしてしまった場合が挙げられます。故意に自損事故を起こして同乗した家族にケガを負わせた,という場合だと,自分はもちろん家族に対しても人身傷害保険の支払がなされない可能性が高くなります。

人身傷害保険の主な免責事由としては,以下のものが挙げられます。

人身傷害保険の主な免責事由

1.故意または重大な過失によって事故が生じた場合
2.無免許運転の場合
3.飲酒運転の場合
4.麻薬や覚せい剤など,薬物を使用した状態であった場合
5.自殺行為や犯罪行為によって事故が生じた場合

人身傷害保険は,自賠責保険で賄われない部分も補償するため,非常に重要な役割を発揮することが多いです。また,自賠責保険金の請求に必要な手続も行ってくれるので,自分で自賠責保険金を請求する負担も生じないことが通常です。
家族間の事故では,基本的に人身傷害保険を通じた金銭的補償を得ることが適切になりやすいでしょう。

ポイント
人身傷害保険は家族間の事故でも利用できることが通常
故意や重過失の事故では,免責とされることがあり得る

家族間の事故で弁護士に依頼すべきか

家族間の事故で弁護士に依頼すべきかどうかは,どのような保険が利用できるかによって変わりやすいでしょう。

①対人賠償保険の利用

対人賠償保険が利用できる場合,被害者が得られる賠償金額は弁護士の有無によって変わることが通常です。一般的に,弁護士が交渉等を行うことで対人賠償からの支払金額は増額するため,弁護士への依頼を積極的に検討するのが有益でしょう。

特に,自動車保険の弁護士費用特約が利用可能である場合は,弁護士費用の負担なく弁護士に依頼し,増額を目指すことが可能になりやすいです。そのため,弁護士費用特約の有無をあわせて確認し,利用ができる場合には積極的に利用するようにしましょう。

②自賠責保険の利用

自賠責保険への請求は,弁護士の有無によって金額が変わりません。そのため,自賠責保険金を増額するために弁護士へ依頼する,ということは現実的でないでしょう。

もっとも,自賠責保険金を請求するために必要な手続は,煩雑であることが少なくありません。必要な書類も多岐に渡りやすく,請求を行うことの負担は大きくなりやすい所です。
そのため,請求手続を弁護士に代行してもらう目的で弁護士に依頼することは有力な手段でしょう。

ただし,この場合には負担する弁護士費用と見合っているか,十分に検討することをお勧めします。弁護士が手続を代行しても金額が変わらない以上,請求の手間をお金で買う形にならざるを得ません。弁護士費用の金額が,請求の手間を回避するためのコストとして釣り合っていると思えるかどうかは,重要な判断材料とするべきです。

弁護士費用が見合っていると判断できる場合には,弁護士への依頼が有力な手段になるでしょう。

③人身傷害保険の利用

人身傷害保険金の金額は,その計算方法が保険約款に定められているため,異なる計算方法を求めるような交渉の余地はありません。そのため,慰謝料の金額を交渉する,といったことは不可能であり,弁護士の有無によって慰謝料額が変わることは通常ありません。

もっとも,重大な事故で,後遺障害等級の認定がなされた場合には,逸失利益について交渉の余地があり得ます。そのため,後遺障害等級の認定を目指す場合や,後遺障害等級認定後の逸失利益の増額を目指したい場合には,弁護士への依頼が有力な手段になるでしょう。

なお,人身傷害保険を利用する場合にも,弁護士費用が見合っているかの検討は行うことが適切です。結果的に弁護士の有無で金額が変わらない場合もあり得るため,そのようなときに弁護士費用の負担が大きくなり過ぎないか,といった点は十分に確認するのが望ましいでしょう。

④注意点

家族間の事故では,当然ながら一方の家族が加害者で,他方の家族が被害者となります。そして,被害者の受け取る金額が大きくなれば,被害者は得をする一方で加害者は損をし,逆に被害者の受け取る金額が小さくなれば,被害者が損をする一方で加害者が得をすることになります。
そのため,家族間で互いの利益が相反する「利益相反」という関係に立ちます。

この点,被害者のために弁護士を依頼するときには,利益相反の関係にある家族がどこまで関与するか,慎重な判断が必要です。少なくとも,弁護士への依頼を加害者側の家族が行うのは不適切であるため,弁護士への相談や依頼をどのような形で行うべきかは,事前に弁護士と十分に確認しましょう。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

家族間の事故の場合,利用できる自動車保険の範囲が事故の内容や当事者の関係によって異なってくることがあります。しかし,その内容をご加入保険から正しく案内されていないケースも散見されており,自分でもしっかりと確認することが大切です。
また,特に事故の規模が大きい場合は,弁護士に依頼することで補償額が増額することも考えられますので,弁護士へのご相談も有力でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

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自損事故ではどこからどんな補償が受けられる?慰謝料は交渉できる?弁護士費用特約があれば依頼すべき?自損事故の疑問を全て解決

●自損事故の場合はどのような救済が受けられるか?

●自損事故で慰謝料の増額を図りたい場合はどうすべきか?

●自損事故で弁護士費用特約が使えないと言われたが本当か?

●自損事故の対応は弁護士に依頼すべきか?

というお悩みはありませんか?

このページでは、自損事故の対応でお困りの方に向けて、自損事故の場合に得られる補償の内容や特徴、弁護士に依頼するメリットデメリットなどを解説します。

自損事故で受けられる救済

自損事故の場合,経済的な救済を受けるためには,自分の加入する自動車保険を利用するほかないのが通常です。

自損事故では,自分に危害を加えた加害者が存在しないため,加害者への請求というものが観念できません。そのため,他人に請求する余地はない,ということになります。

この点,自動車保険では,自損事故で損害を被ってしまった場合にも一定の補償をする保険が存在するため,その保険に加入している限り,保険金の支払という形で金銭的な救済を受けることが可能です。
自損事故が起きてしまった場合には,自分の保険でどのような補償を受けることができるか,速やかに確認するようにしましょう。

ポイント
自損事故の救済は自分の自動車保険から受けるほかない

自損事故で補償がある保険①人身傷害保険

人身傷害保険は,事故によって身体に損害を受けた場合,その損害に対して保険金が支払われる,という内容の保険です。対人賠償保険が事故相手の人身損害への支払の保険とすれば,人身傷害保険は自分の人身損害への支払を行う保険,という区別ができるでしょう。

主な内容は以下の通りです。

人身傷害保険の主な内容

1.補償範囲
事故による怪我,死亡,後遺障害などに対して保険金が支払われます。保険金の額は契約内容に基づいて決まります。

2.補償内容
医療費
→怪我の治療にかかった医療費が補償されます。

休業損害
→怪我によって仕事を休む場合,その間の収入の一部を補償します。

死亡・後遺障害
→事故によって死亡した場合や後遺障害が残った場合に保険金が支払われます。

なお,人身傷害保険の支払金額は,その計算方法が保険の約款に定められており,約款に従って算出されることになります。

ポイント
人身傷害保険は,自分の人身損害を補償してくれる保険
支払金額の計算方法は約款に定められている

自損事故で補償がある保険②自損事故保険

自損事故保険は,文字通り自損事故の場合に利用可能な保険です。一般的には,人身傷害保険が含まれない保険内容の場合に,自動的に付帯されることが多く見られます。

自損事故保険の内容は,人身傷害保険の補償金額が縮小したもの,とイメージすると分かりやすいことが多いです。人身傷害保険がない場合に自損事故でケガを負ったときには,自損事故保険があることで,人身傷害保険ほどではないものの一定の保険金を受け取ることが可能になります。

自損事故保険の主な内容

1.補償内容

死亡保険金
→事故によって被保険者が死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

介護保険金
→事故によって介護の必要が生じた場合に支払われる保険金です。

入通院保険金
→入院日数又は通院日数に応じて支払われる保険金です。

2.支払方法
→定額払いとされているケースが多く見られます。死亡の場合,後遺障害の場合など,事前にケースごとの保険金額が設定されており,これに沿った支払いとなります。

3.メリット・デメリット
→保険料が安価になりやすい一方,補償の内容に限りがある点がデメリットです。

自損事故で補償がある保険③搭乗者傷害保険

搭乗者傷害保険とは,自動車に搭乗中に交通事故が発生し、その結果として乗車していた人が怪我をしたり死亡したりした場合に、補償金を支払う保険です。この保険は、運転者だけでなく同乗者も対象となることが特徴的です。

また,搭乗者傷害保険は,一定の条件を満たした場合に,これに応じた定額の保険金が支払われる,という内容になっていることが一般的であり,大きな特徴でもあります。
支払われる金額が決まっているため,早期に受領することが可能になりやすく,事故後の損害を早期に補填するための保険として活用されることが多いものです。

搭乗者傷害保険の主な内容

1.補償の対象
→契約車両に搭乗中の全ての乗車人(運転者および同乗者)
→車両の事故による怪我、死亡、後遺障害など

2.補償内容

死亡保険金
→事故によって死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

入院・通院保険金
→事故による怪我で入院や通院が必要となった場合の保険金です。日額で支払われることが一般的です。

手術保険金
→事故による怪我で手術を受けた場合の補償金です。

3.支払方法
→定額払いとされることが通常です。

4.メリット
→定額払いのため,迅速に支払われやすく,経済的負担の軽減につながります。
→同乗者も補償の対象となるため,補償の範囲が広い保険です。

搭乗者傷害保険は,迅速な支払いがなされる有益な保険ですが,一方でその金額には限りがあります。搭乗者傷害保険だけで損害のすべてをカバーするのは現実的でないため,とりあえず一定の支払を受ける,という動きに適した保険ということができます。

ポイント
搭乗者傷害保険は,車の搭乗者に定額の支払を行う保険
迅速な支払いが大きなメリットだが,金額には限りがある

自損事故で補償がある保険④車両保険

車両保険は,事故によって損傷した自動車の損害を補償するための保険です。対物賠償保険が事故相手の物損を補償するための保険であるとすれば,車両保険は自分の物損を補償するための保険である特別できるでしょう。

自動車事故が発生した場合,事故車両をどうするのか,という点は必ず生じることになります。特に重大な事故で車両が自走できない場合には,車両をどのように移動させるかという問題も生じかねませんが,車両保険にはレッカー費用の補償も含まれていることが一般的であるため,車両保険を利用することで車両の適切な処理も可能になります。

ただし,車両保険の中には,自損事故の場合を対象外としているものもあります。車両保険の利用に際しては,加入する車両保険が自損事故も対象に含めたものであるかどうか,十分に確認することが必要です。

ポイント
車両保険は,自分の物的損害を補償する保険
自損事故を対象外としていることもある点に注意

自損事故は慰謝料の増額交渉が可能か

交通事故で弁護士に依頼する主な理由に,慰謝料の増額交渉が挙げられます。交通事故被害者が請求できる慰謝料には,自賠責基準,任意保険基準,裁判基準といった複数の基準があり,弁護士が裁判基準を念頭に慰謝料を請求・交渉することで,慰謝料の増額が実現される,というものです。

しかし,自損事故の場合には慰謝料の増額交渉は行う余地がありません。
自損事故における慰謝料は,自分が加入する人身傷害保険から支払われることになりますが,人身傷害保険で支払われる慰謝料の金額は,保険約款によって明確に定められています。そのため,保険約款で定めた方法以外の計算はあり得ず,交渉の余地もないのです。

人身傷害保険は,保険契約上のサービスであるところ,サービス内容は全て約款で決まっています。保険会社は,契約したサービスの範囲内でのみ支払う義務を負うのであって,それ以上の請求や交渉に応じる義務が一切ないため,慰謝料を交渉する余地もないということになります。

ポイント
自損事故は慰謝料を交渉する余地がない

自損事故は弁護士費用特約が利用可能か

交通事故に関して弁護士に依頼をする場合,弁護士費用特約の利用が有益です。弁護士費用特約が利用できれば,弁護士に依頼するための費用を保険が負担してくれるため,基本的に自己負担なく弁護士に依頼することが可能になります。

しかしながら,自損事故では弁護士費用特約の利用ができません。自損事故で弁護士に依頼するという場合には,弁護士費用を自己負担することが必要となります。

弁護士費用特約は,交通事故被害者が加害者へ請求する場合に利用できる保険です。代表例としては,被害者が加害者の保険会社から賠償額の提示を受けた際,といったケースが挙げられるでしょう。被保険者が被害者の立場にあって,第三者である加害者へ損害賠償を請求する,というときの弁護士費用を負担してくれるのが,弁護士費用特約となります。
一方,自損事故の場合,金銭は自分の保険から支払われます。この場合に弁護士費用特約が利用できてしまうと,保険会社としては自社への金銭請求に必要な弁護士費用を自社で負担する,という不合理な関係になってしまうため,自損事故は弁護士費用特約の対象外となるのです。

ポイント
自損事故は弁護士費用特約の利用ができない

自損事故の対応は弁護士に依頼すべきか

自損事故の場合に弁護士へ依頼すべきかは,個別の内容によって判断が異なる問題です。具体的には,弁護士への依頼によって経済的な利益が生じ得るか,という点を基準に検討することが適切でしょう。
以下のような場合には,弁護士に依頼すべき場合と考えられます。

①後遺障害等級が見込まれる場合

事故の規模や受傷の程度が大きく,後遺障害等級の認定が見込まれる場合,どのような等級が認定されるかによって,受領できる金額に大きな差が生じます。

もっとも,自損事故では自賠責保険の等級認定を獲得することができないため,実際に等級を認定するのは自分の加入保険ということになります。人身傷害保険を利用している場合,保険会社が医療機関から取り付けた診断書等を踏まえ,自社で等級認定し,認定された等級に対する保険金の支払を行う流れを取ることが通常です。

この点,漫然と保険会社に手続を委ねるのではなく,等級認定に有用な医学的意見や検査結果などを提出し,積極的に等級認定を目指す動きを取ることは有力な手段となり得ます。
そして,積極的な後遺障害等級認定の獲得を試みる場合は,弁護士に依頼し,具体的な方法・内容を判断してもらうことが適切でしょう。

②逸失利益の交渉が見込まれる場合

自損事故で支払を行う人身傷害保険は,支払われる保険金額の計算方法が全て約款で定められています。そのため,慰謝料を交渉する余地はありません。

もっとも,後遺障害等級が認定された場合の逸失利益については,交渉の余地が残されていることも少なくありません。主な理由は,逸失利益が生じる期間(=労働能力喪失期間)に交渉の余地があり得るためです。
逸失利益は,その金額が大きくなりやすく,交渉が奏功した場合のメリットも大きくなりやすいため,交渉の余地があるかどうか,弁護士の判断を仰ぐことをお勧めします。

ポイント 弁護士依頼すべき場合
上位の後遺障害等級の獲得を目指す場合
後遺障害逸失利益の交渉を試みる場合

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

自損事故の場合、自分の加入する自動車保険からの補償を受けることになるため、その手続や金額、運用などは被害事故の場合とは根本的に異なります。
そのため、弁護士に依頼する実益がないケースも多数ありますが、後遺障害が見込まれるような重傷事故の場合では弁護士委任も有力な選択肢になり得ます。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

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交通事故の加害者側が無保険だった場合のリスクや対処法を徹底解説

交通事故に遭ってしまったとき、加害者が任意保険に入っていなかった現実を知った瞬間、多くの被害者は強い不安を感じるでしょう。

任意保険に加入していれば保険会社が示談交渉を代行し、治療費や慰謝料の支払いもスムーズに進みます。

しかし、加害者が「無保険」だった場合、被害者自身が加害者と直接交渉しなければならず、十分な賠償を受けられないまま時間だけが過ぎてしまうケースも少なくありません。

そこで本記事では、交通事故の加害者側が無保険だった場合のリスクや対処法を詳しく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

交通事故に伴う無保険状態とは

交通事故における「無保険」とは、任意保険に加入していない状態です。

法律で義務付けられている自賠責保険は対人賠償の最低限を保障しますが、物損や高額な慰謝料、後遺障害に対する補償は任意保険が担う部分が大きく、任意未加入だと被害者・加害者双方に大きなリスクが生じます。

無保険の背景には保険料節約の意図や加入手続きの未実施、あるいは保険切れなど複数の理由があり、事故発生時にはまず事実確認と適切な初動対応が重要です。

法律上の責任は加入有無で軽減されるものではなく、最終的な賠償責任は本人に帰属します。

交通事故の加害者が無保険だった場合のリスク

交通事故の加害者側が任意保険に加入していないと、被害を受けた側もいくつかリスクが生じます。

ここからは、交通事故の加害者が無保険だった場合のリスクについて詳しく解説します。

加害者と直接に示談交渉を進める必要がある

任意保険がない場合、保険会社が間に入って示談を調整することができないため、被害者は加害者本人と直接やり取りする必要があります。

直接交渉では、加害者の知識不足や資力不足、あるいは誠意の欠如により話がこじれることが多く、感情的対立や不当な低額提示で示談が決まらないリスクが生じるのです。

被害者は治療費の発生タイミングと金額見込みを説明し、証拠を残しつつ交渉を行う必要があります。

しかし、実務的には加害者の支払能力を確認しておかないと回収見込みが立たず、長期化や未回収の可能性が高まります。

示談書の作成や分割払いの合意といった法的文書の整備も重要です。

十分な賠償金や慰謝料を受けられない可能性がある

自賠責保険の限度額は傷害・後遺障害・死亡それぞれ限界があり、重度の人身事故では実害額が自賠責の範囲を超えることがよくあります。

任意保険に加入していない加害者からは、治療費・逸失利益・慰謝料・将来の介護費用などを満額で回収するのが困難です。

被害者は実際の損害との差額を負担せざるを得ない事態に直面してしまうでしょう。

さらに、加害者の資力が乏しい場合は、裁判で勝訴しても強制執行での回収に時間と費用がかかり、結果的に被害者が経済的・精神的に大きな負担を抱えるリスクが高まります。

自動車の損害額を払ってもらえない可能性がある

物損に関しても任意保険がないと修理費用や買替え費用の補償を加害者本人に請求するしかありません。

加害者に資金がない場合は被害者が自己負担で応急修理をしたり、修理を先延ばしにせざるを得ないでしょう。

特に全損や高額修理が必要なケースでは車両価値の評価や減価償却の交渉が必要になり、査定額を巡る争いも発生しやすいです。

被害者が自動車ローンを抱えている場合は残債と補償の差額問題も生じ、生活再建に与える影響が大きくなります。

早期に見積や証拠写真を確保し、支払不能リスクに備えた対応を検討することが重要です。

相手無保険時の対応策①相手本人への請求

交通事故の被害に遭った場合,多くは加害者が加入する自動車保険の担当者が対応し,その保険会社から金銭を受領する,という流れになります。
しかしながら,保険担当者の取り扱いが受けられるのは,加害者が任意保険に加入している場合のみです。加害者が任意保険に加入していない場合には,自動車保険の担当者が対応することもなければ,保険会社が賠償額を案内したり支払ってきたりすることもありません。
そのため,相手が任意保険に入っていない場合,被害者自身が積極的に金銭を請求し,獲得することが必要となります。

この点,最も直接的な手段は,加害者本人への請求です。
そもそも,任意保険は加害者本人の代わりに金額交渉や支払を行う立場です。そのため,代わりになる任意保険がない以上は,原則通り本人に請求する,という動きが一般的と言えるでしょう。

しかし,相手本人への請求には,回収リスクが付きまとう点に注意が必要となります。
加害者本人が任意保険に入っていないのは,保険料の負担が困難(又は避けたい)など,経済的な理由のある場合がほとんどです。そのため,相手本人に損害賠償を請求しても,支払う能力がないと開き直られてしまい,回収が十分にできない場合も少なくないのです。
また,加害者本人が律儀に対応し続けるとの期待もできないことが多く,なかなか連絡がつかなかったり,急に連絡が取れなくなったりといったトラブルが生じることも多く見られます。

被害者としては,可能な限り加害者本人への請求という手段は避けて解決したいところです。

ポイント
任意保険は相手本人の代わり
無保険の場合は代わりがいないため,本人への請求が原則
もっとも,適切な対応が期待しづらく避けたいところ

相手無保険時の対応策②自賠責保険への請求

相手が任意保険に入っていなくても,自賠責保険に入っていれば,自賠責保険金の請求はできることが通常です。

前提として,自動車保険には自賠責保険と任意保険の2種類があります。そして,自賠責保険は被害者への最低補償を行う強制加入の保険,任意保険は自賠責保険で補償しきれない部分を補償する加入任意の保険という違いがあります。

自動車保険の種類

種類役割加入のルール
自賠責保険被害者への最低限の補償を行う法律上強制加入
任意保険自賠責保険で補償できない範囲を補償加入するかは任意

自賠責保険の場合,支払われる保険金の内容が明確に定められており,交渉の余地はありません。裏を返せば,請求さえすれば特段の交渉をしなくても定められた保険金を受領することが可能であるため,交通事故被害者の被害が全く補填できない,という問題を回避する役割を持つ保険でもあります。
そのため,加害者が任意保険に入っていない場合には,まず加害者の自賠責保険から自賠責保険金を回収することを目指すのが有力です。

ただし,自賠責保険金は,あくまで被害者を救済するための最低補償を内容とするものです。被害者が被った損害の規模とは関係なく,支払の金額は決まっているため,被害者の損害のすべてをカバーできるわけではない点に注意が必要です。
一般的に,自賠責保険金額は被害者の損害総額を下回ることになりやすいため,損害の一部を円滑に回収する手段,という理解が適切でしょう。

ポイント
任意保険がなくても自賠責保険からの回収が可能
自賠責保険金額はあらかじめ明確にルールが定められている
被害者の損害総額をカバーできるわけではない

相手無保険時の対応策③自分の保険の利用

相手やその保険に期待ができない場合,自分が入っている自動車保険のサービスを活用して損害の回復を図る手段が有力です。

自動車保険には,自分が加害者になってしまった場合の賠償保険(対人賠償,対物賠償)のほか,交通事故によって自分が被ってしまった損害に対する補償をしてくれるものも含まれていることが通常です。保険の内容により,定まった金額を給付するものから,加害者が支払うべき金額を代わりに支払ってくれるものまで様々ですが,その支払が確実に期待できる,という点が非常に大きな長所と言えます。

相手が無保険の場合,どうしても相手本人の対応や支払能力に依存してしまうことが多いため,自分の保険を活用して相手に依存してしまうというリスクを回避することは,非常に有益な方法と考えてよいでしょう。

もっとも,具体的にどのような保険がどのような役割を果たしてくれるかは,事故が発生する前にはあまり把握していないという場合が多いと思われます。そこで,以下では活用し得る自分の自動車保険について,代表的なものを解説します。

ポイント
自分の保険で被害を補償してくれるものもある
確実に支払を得られることが大きなメリット

活用し得る自分の保険①人身傷害保険

人身傷害保険は,事故によって身体に損害を受けた場合,その損害に対して保険金が支払われる,という内容の保険です。対人賠償保険が事故相手の人身損害への支払の保険とすれば,人身傷害保険は自分の人身損害への支払を行う保険,という区別ができるでしょう。

主な内容は以下の通りです。

人身傷害保険の主な内容

1.補償範囲
事故による怪我,死亡,後遺障害などに対して保険金が支払われます。保険金の額は契約内容に基づいて決まります。

2.補償内容

医療費
→怪我の治療にかかった医療費が補償されます。

休業損害
→怪我によって仕事を休む場合,その間の収入の一部を補償します。

死亡・後遺障害
→事故によって死亡した場合や後遺障害が残った場合に保険金が支払われます。

なお,人身傷害保険からの支払金額は,被害者の損害額とイコールというわけではありません。これは,人身傷害保険金額の計算方法が保険約款によって定められており,支払金額は約款に従うものとなるためです。
多くの場合,人身傷害保険金額は被害者の損害を裁判基準で計算した金額には及びませんが,例外的に裁判基準を上回る金額となるケースもあります。

ポイント
人身傷害保険は,自分の人身損害を補償してくれる保険
支払金額の計算方法は約款に定められている

活用し得る自分の保険②無保険車傷害保険

無保険車傷害保険は,交通事故の際に相手車両が保険に加入していない場合や、相手の保険金額が不足している場合に、自分の人身損害に対して補償を受けられる保険です。
文字通り,相手が無保険車の場合に効果を発揮する保険で,その支払金額は加害者が支払うべき金額となる,という点に大きな特徴があります。

ただし,無保険車傷害保険が利用できるのは,死亡事故又は後遺障害を伴う事故に限られます。後遺障害等級の認定がなされるような重大な事故のみを対象とする代わりに,補償範囲が非常に充実した保険ということができるでしょう。

無保険車傷害保険の主な内容

1.補償範囲
死亡事故又は後遺障害等級が認定された事故における人身損害が対象となります。後遺障害のない事故は補償範囲に含まれません。

2.補償内容

死亡保険金
→事故によって被保険者が死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

医療費等
→事故による治療費や通院交通費,休業損害等が補償されます。

死亡事故や後遺障害が残る重大な事故の場合には,この無保険車傷害保険の有無を確認することが重要になりやすいでしょう。最も金額が大きくなりやすく,被害者側の救済にとって重大な役割を果たしてくれるためです。

ポイント
無保険車傷害保険は,加害者の支払うべき金額を支払う被害者の保険
死亡事故又は後遺障害等級の認定される事故でのみ利用可能

活用し得る自分の保険③車両保険

車両保険は,事故によって損傷した自動車の損害を補償するための保険です。対物賠償保険が事故相手の物損を補償するための保険であるとすれば,車両保険は自分の物損を補償するための保険であると区別できるでしょう。

自動車事故が発生した場合,事故車両をどうするのか,という点は必ず生じることになります。特に重大な事故で車両が自走できない場合には,車両をどのように移動させるかという問題も生じかねませんが,車両保険にはレッカー費用の補償も含まれていることが一般的であるため,車両保険を利用することで車両の適切な処理も可能になります。

ポイント
車両保険は,自分の物損を補償する保険

活用し得る自分の保険④搭乗者傷害保険

搭乗者傷害保険とは,自動車に搭乗中に交通事故が発生し、その結果として乗車していた人が怪我をしたり死亡したりした場合に、補償金を支払う保険です。この保険は、運転者だけでなく同乗者も対象となることが特徴的です。

また,搭乗者傷害保険は,一定の条件を満たした場合に,これに応じた定額の保険金が支払われる,という内容になっていることが一般的であり,大きな特徴でもあります。
支払われる金額が決まっているため,早期に受領することが可能になりやすく,事故後の損害を早期に補填するための保険として活用されることが多いものです。

搭乗者傷害保険の主な内容

1.補償の対象
→契約車両に搭乗中の全ての乗車人(運転者および同乗者)
→車両の事故による怪我、死亡、後遺障害など

2.補償内容

死亡保険金
→事故によって死亡した場合に支払われる保険金です。

後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。

入院・通院保険金
→事故による怪我で入院や通院が必要となった場合の保険金です。日額で支払われることが一般的です。

手術保険金
→事故による怪我で手術を受けた場合の補償金です。

3.支払方法
→定額払いとされることが通常です。

4.メリット
→定額払いのため,迅速に支払われやすく,経済的負担の軽減につながります。
→同乗者も補償の対象となるため,補償の範囲が広い保険です。

搭乗者傷害保険は,迅速な支払いがなされる有益な保険ですが,一方でその金額には限りがあります。搭乗者傷害保険だけで損害のすべてをカバーするのは現実的でないため,とりあえず一定の支払を受ける,という動きに適した保険ということができます。

ポイント
搭乗者傷害保険は,車の搭乗者に定額の支払を行う保険
迅速な支払いが大きなメリットだが,金額には限りがある

被害事故で自分の保険を使うことは合理的か

加害者が保険に入っていない事故では,自分の自動車保険から補償を受けることが有力な手段ではありますが,一方で「なぜ被害を受けたのに自分の保険を使わなければならないのか」という疑問が生じることもあるかと思います。
確かに,一方的に被害を受けたのであれば,その損害に対する支払は加害者の責任で行われるべきであり,被害者が積極的に自分の保険を活用しなければならない,というのは不合理なように感じられるかもしれません。

しかし,被害事故で加害者に任意保険がない場合は,まさに自分の保険が役割を発揮するタイミングである,と理解する方がむしろ適切でしょう。保険は,自分が経済的に大きな損失を被ることがないよう,非常時の支えになってくれることを期待してつけるものです。その非常時は,加害者に保険がない場合も含まれています。
実際,自分の保険の中でも特に補償金額の大きい無保険車傷害保険は,文字通り相手が無保険車であることを前提とした保険です。相手に保険がない時こそ,自分の保険を活用することが望ましいともいえるでしょう。

一方で,加害者に請求しないで保険会社に支払ってもらうと,加害者は支払を免れることができてしまうのではないか,との疑問もあり得ます。しかし,自分の保険を利用しても,決して加害者が支払義務を免れるわけではありません。
保険会社が加害者の代わりに支払った場合,今度は保険会社が加害者に請求する権利を持つことになります。自分の代わりに保険会社が,加害者へ請求する負担を背負ってくれるというわけです。

被害者としては,自分でリスクを負って加害者に請求するのではなく,保険から適切な支払いを受けて,加害者との面倒なやり取りは保険会社にお願いしてしまう,という方針が合理的でしょう。

ポイント
被害者が自分の保険を活用することは不合理でない
むしろ,自分の保険が役割を発揮する重要なタイミングの一つ
加害者への請求は保険会社が代わりに行ってくれる

加害者に自賠責保険もない場合

ここまで,加害者に任意保険がない場合の救済方法を見てきましたが,ケースによっては加害者に自賠責保険すらない場合もあり得るところです。
自賠責保険に加入していない車を運行する行為は,事故が発生しなかったとしても犯罪行為であり,許されるものではありません。しかしながら,現実に加害者が自賠責保険未加入であった場合,犯罪だと糾弾しても金銭が受け取れるわけではありません。被害者が自賠責保険金を受領できないという不都合は残ってしまいます。

このような場合に活用するべき制度として,「政府保障事業」が挙げられます。政府保障事業は,被害者が受けた損害を,加害者に代わって国が填補する制度です。この場合,支払の金額はいわゆる自賠責基準に沿って計算されることとなります。
つまり,政府保障事業は,加害者に自賠責保険がない場合に自賠責保険の代わりをしてくれる制度ということができるでしょう。

政府保障事業の制度を活用したい場合は,各保険会社に問い合わせることで必要な書式を取得することも可能です。

ポイント
加害者が自賠責保険未加入の場合,自賠責保険金も受領できない
政府保障事業を利用することで,自賠責保険相当額を受け取ることが可能

加害者無保険の事故で弁護士依頼をすべき場合

無保険事故では支払能力や対応の誠実さが問題になるため、法的手段や交渉力が必要な場面が多くあります。

ここからは、加害者無保険の事故で弁護士依頼をすべき場合を詳しく解説します。

加害者が誠実に対応せず、示談が進まない場合

加害者が連絡を怠る、支払いを先延ばしにする、あるいは示談条件で揺さぶりをかけるなど誠実な対応をしない場合、被害者は時間的・金銭的に大きな損失を被ります。

弁護士は第三者として交渉窓口を統一し、法的根拠に基づいた請求を行うことで交渉の停滞を打破するのが役割です。

具体的には、損害の証拠整理、内容証明郵便による要求、示談書の法的整備、必要に応じて民事訴訟の提起や仮差押え・仮処分の申立てを行います。

これにより被害者は精神的負担を軽減し、現実的な回収計画を立てられるようになるでしょう。

治療費や慰謝料が自賠責保険の限度額を超える場合

重度の傷害や後遺症が残る場合、将来にわたる逸失利益や高額な介護費用が想定され、自賠責の限度額で全額賄えないことが想定されます。

弁護士は適正な損害額の立証を行い、逸失利益や将来の治療・介護費用を盛り込んだ請求を加害者に対して行います。

さらに、加害者の資力に応じた分割支払や保全措置の提案、加害者側の第三者(家族や勤務先)からの債権回収可能性の調査など、実効的な回収策を設計します。

被害者は専門家の介入で、経済的救済の現実的な道筋を作ることが期待できます。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

交通事故被害に遭ったとき,加害者が無保険の場合は加害者本人から賠償金を受領することは現実的に難しい場合が多く見られます。その際には,相手の自賠責保険はもちろん,場合によってはご加入保険から補償を受けることが最も有益な結果になる場合が多いです。
もっとも,保険の確認や方法選択は容易でないため,交通事故に精通した弁護士へのご相談が有力でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

特設サイト:藤垣法律事務所

死亡事故で賠償金を獲得するまでの流れは?ポイントや注意点は?弁護士依頼のメリットも詳細解説

●死亡事故で賠償金を受け取るまでの流れが知りたい

●死亡事故で遺族が対応するべきことは何があるか?

●死亡事故の場合の特徴にはどんな点があるか?

●死亡事故で遺族が損をしないためのポイントを知りたい

●死亡事故の対応は弁護士に依頼すべきか?

という悩みはありませんか?

このページでは,ご家族が死亡事故の被害に遭った場合の対応でお困りの方に向けて,死亡事故の場合の流れや特徴,弁護士に依頼するメリットや注意すべきポイントなどを解説します。

死亡事故の流れと特徴①保険会社の対応時期

死亡事故被害を受けた場合,遺族側は,基本的に加害者の保険会社による案内を受けることで金銭的な話をスタートすることになります。もっとも,加害者の保険会社は,あまり速やかに遺族への連絡を開始しないことが一般的です。
その主な理由は,遺族側への配慮にあるとされています。大きな不幸があった直後に,保険会社が金銭の話をし始める,という流れは適切でないと考え,一定期間を設けた後に案内を開始することが多いのです。

具体的には,四十九日の後を目安に対応を開始する例が多く見られます。一般的に,四十九日をもって「忌明け(きあけ)」とされ,故人の冥福を祈って喪に服す期間が明けると考えられているため,事故日又は死亡の日を基準に四十九日の期間を計算し,その期間後に対応を開始することとなりやすいでしょう。

これは,裏を返せばあまり早期に金銭賠償のやり取りがスタートしない,ということにもなります。しかし,場合によっては迅速な連絡の開始を希望するケースもあり得るでしょう。
迅速なやり取りを希望したい場合には,弁護士に依頼し,弁護士に相手保険との連絡窓口を担ってもらうことが有効です。連絡等に応じる負担なく,早期に金銭賠償に必要な手続を進めてもらうことが可能になります。

ポイント
保険会社の対応開始時期は,四十九日後が多い
早期のやり取りを希望する場合は,弁護士委任が有効

死亡事故の流れと特徴②戸籍の取り付け

死亡事故の場合,他の事故とは異なる対応が必要となりますが,その代表的なものが戸籍の取り付けです。

死亡事故の場合,被害者自身は請求ができないため,被害者から損害賠償請求権を相続した相続人が,加害者側に請求する立場となります。もっとも,相続人が誰か,何人いるか,という点が分からないと,請求額を明確にすることができません。それぞれの相続人が相続する割合が分からないためです。
また,加害者側としても,相続人の範囲や人数を正しく把握できないのは大きなデメリットにつながります。相続人が一人だけだと思って金銭的解決をしたのに,その後にほかの相続人が現れたとなると,トラブル化してしまうことは想像に難くありません。

そのため,死亡事故の場合,被害者の出生から死亡までの戸籍を全て取り付けることが必要とされています。これは,自賠責保険から保険金を受領するためにも必要とされるため,当事者の判断で省略することも困難です。
被害者の出生から死亡までの戸籍を一通り取り付けることで,被害者の家族関係を概ね特定することが可能になります。また,被害者の親が既に他界している場合には,親の死亡記載がある戸籍を別途取り付ける必要が生じやすいところです。

ポイント
被害者の出生から死亡までの戸籍が必要
被害者の親の死亡記載がある戸籍も必要となりやすい

死亡事故の流れと特徴③収入の根拠資料を揃える

死亡事故の場合は,被害者が健在であれば得られたであろう収入(死亡逸失利益)が賠償の対象となります。そのため,被害者が得られたであろう収入を計算する前提として,被害者の直近における収入額を確認することが必要です。

具体的な根拠資料としては,以下のようなものが挙げられます。

主な収入の根拠資料

1.事故前年分の源泉徴収票
→給与所得者(会社員)の場合

2.事故前年分の確定申告書
→事業所得者(自営業者)の場合

3.事故前年分の所得証明書
→複数の収入がある場合

4.事故直近の給与明細
→勤務開始後の期間が短い場合

また,死亡事故における収入の根拠資料としては,年金収入に関する資料も必要です。
年金収入がある被害者の場合,死亡事故によって年金収入が得られなくなってしまうこととなるため,健在であれば得られたであろう年金も逸失利益の対象となります。
この点,年金額の根拠資料としては,「年金額改定通知書」の提出が最も端的でしょう。年金額改定通知書は,1年間の年金額が記載されたもので,年金額が改定された年度の6月頃に受領するのが一般的です。年金額改定通知書が見つからない場合には,管轄の年金事務所で再発行してもらい,取得することも有力です。

ポイント
死亡逸失利益を計算するため,収入額を特定する
死亡事故では,年金の逸失利益も生じる

死亡事故の流れと特徴④金額交渉の方法

死亡事故では,加害者の加入保険と被害者遺族(相続人)との間で必要なやり取りを行うことになります。もっとも,相続人が全員関与するとなると,手続が煩雑になるばかりでなくやり取りも進まなくなりかねないため,一般的には遺族代表者が相続人全員を代表する形で対応することになりやすいでしょう。

誰が遺族代表者として対応するかは個別の家族関係によりますが,相続人のうち,対外的な対応や金銭面のやり取りに最も長けた人とすることが多く見られます。ほかには,被害者と最も近い関係にあった成人を遺族代表者とする場合も多数あるところです。

ただ,遺族の中に十分な金額交渉や手続対応のできる人がいるとは限らず,対応の負担などが大きくなってしまうケースも少なくありません。そのような場合には,弁護士への依頼が非常に有力な選択肢となるでしょう。
弁護士に依頼することで,誰が遺族代表者として対応するかという悩みがなくなるのみならず,肝心の金額面についても適切な解決が可能になります。死亡事故は損害額が大きくなりやすいものでもあるため,判断が難しい場合は積極的に弁護士への相談を検討することが有益でしょう。

ポイント
金額交渉は加害者の保険担当者と遺族代表者との間で行う
遺族代表者に代えて弁護士に依頼することが有力

死亡事故の流れと特徴⑤過失割合の争い

死亡事故においても,過失割合の争いが生じる場合は少なくありません。特に,死亡事故のように損害が大きな事故では,過失が若干違うだけでも金額にすると非常に大きな差異につながるため,双方ともに過失割合の検討は慎重に行うことが多くなります。

この点,死亡事故の特徴として,過失割合の争いを解決することに時間がかかりやすい,という点が挙げられます。それは,加害者の刑事処分を待つことになりやすいためです。

過失割合を検討するための資料として,「実況見分調書」を用いることが広く行われています。実況見分調書とは,刑事手続における捜査資料の一つで,捜査機関による「実況見分」の結果を書面にまとめたものです。そして,死亡事故における実況見分とは,事故発生場所や事故態様などについて,立会人の指示説明をもとに特定し,記録化することを言います。
死亡事故では,被害者が立会人となることができないので,加害者立ち会いでの実況見分調書が作成されます。つまり,実況見分調書によって,加害者が事故状況をどのように説明しているかがわかる,ということです。

加害者の保険会社は,過失割合に争いがある場合,加害者の言い分を確認するために実況見分調書の取り付けを希望することが多く見られます。もっとも,この実況見分調書の取り付けは,基本的に加害者の刑事処分が決まった後にしか行うことができません。
したがって,過失割合に争いがあり,加害者の保険会社が実況見分調書を踏まえての検討を希望するとなると,どうしても刑事処分の後にしか過失割合の交渉が進まない,という事態が生じやすいのです。
死亡事故の刑事処分は,数か月~1年後にようやく行われるという場合も多いため,その間は待機を強いられることもあり得ます。

死亡事故は,損害額が大きいため交渉に時間を要する傾向にありますが,過失割合の争いがある場合には特に長期化の可能性がある,という特徴が指摘できるでしょう。
なお,被害者側であれば,捜査中の検察庁から実況見分調書を取得できる場合もないわけではありません。そのようなルートで取得ができれば,幾分早まることも考えられます。

ポイント
過失割合に争いがある場合,実況見分調書を取り付けることが多い
実況見分調書の取り付けは刑事処分の後になるため,時間がかかりやすい

確認ポイント①親族固有の慰謝料

交通事故に際しては,慰謝料(=精神的苦痛に対する賠償)が生じますが,死亡事故の場合,被害者本人のみでなく親族に対する慰謝料も発生し得ることに大きな特徴があります。親族の慰謝料は,被害者本人に対する慰謝料とは別途生じるもので,「親族固有の慰謝料」と呼ばれます。
被害者の死亡によって,親族にも多大な精神的苦痛が生じることは避けられません。そのため,被害者の死亡に伴う親族の苦痛を金銭換算したものが,親族固有の慰謝料と位置付けられる慰謝料です。

親族固有の慰謝料は,基本的に被害者と同居していた家族を対象としたものです。具体的な対象者や金額は個別のケースに寄りますが,被害者と関係が近く深いほど,金額が大きくなる傾向にあります。

裁判例における親族固有の慰謝料額の目安

配偶者概ね100~300万円
親概ね100~200万円
子概ね100~200万円
その他家族概ね50~100万円

また,親族固有の慰謝料は,自賠責保険においても,遺族の慰謝料という形で支払の対象とされています。

親族固有の慰謝料 自賠責基準

遺族1人の場合550万円
遺族2人の場合650万円
遺族3人以上の場合750万円
被害者に被扶養者がいる場合200万円加算

確認ポイント②逸失利益の計算

①生活費控除

死亡事故における逸失利益(死亡逸失利益)の計算に際しては,後遺障害逸失利益とは大きく異なる点があります。それは,生活費が必要なくなった分を考慮して計算する必要がある,ということです。

後遺障害の逸失利益は,以下の計算式で計算されるのが通常です。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

一方,死亡事故では,逸失利益が生じたという経済的なマイナスがある一方,今後の被害者の生活費が発生しなくなったという経済的なプラスもあると考えられています。そのため,逸失利益の計算においては,この両方を踏まえて計算を行うことになるのです。

具体的な死亡逸失利益の計算においては,「生活費控除」という形で行われます。生活費控除は,基礎収入のうち一定の割合は生活費として費消されていたはずであるとみなし,基礎収入から一定額を割り引く方法で計算されます。

例えば,独身男性の場合だと生活費控除率は50%とされます。基礎収入の50%は生活費で消えていたはずであるから,逸失利益としては支払わない,という考え方になるのですね。
したがって,40歳で年収500万円の独身男性が死亡した場合の死亡逸失利益は,以下の通り算出されます。

死亡逸失利益(40歳年収500万円の独身男性)
=500万円×50%×(労働能力喪失率=100%)×27年ライプニッツ※

※67-40=27年のため

なお,主な生活費控除率は以下の通りです。

①一家の支柱 被扶養者1人:40%
②一家の支柱 被扶養者2人以上:30%
③女性(主婦・独身・幼児等):30%
④男性(独身・幼児等):50%

②年金収入

年金収入に関する逸失利益は,事故がなければ得られていたであろう年金収入を対象とするものです。そのため,逸失利益の対象期間は,「事故がなければ健在であったであろう期間」ということになります。
具体的には,死亡時の年齢を基準とした平均余命を用いて計算することが一般的です。平均余命までは健在であったであろう,とみなし,その期間を対象に年金収入の逸失利益を計算します。

なお,生活費控除を行うことは,年金の場合でも同様です。

具体的な計算式は,以下の通りです。

死亡逸失利益(年金)
=「基礎収入=年金収入額」×(1-生活費控除率)×「平均余命に対応するライプニッツ係数」

確認ポイント③自賠責保険金と比較すべき場合

死亡事故の場合,自賠責保険金の金額と加害者から受領できるであろう金額を比較し,加害者側への請求を試みるかどうか検討,判断することがあります。なぜなら,自賠責保険金の方が大きな金額となる場合,加害者側に請求してもコストだけが発生してしまい,メリットがないためです。

自賠責保険金額との比較が適切な場合としては,以下のようなケースが挙げられます。

自賠責保険金額と比較すべきケース

1.被害者の過失割合が大きい
→過失割合を差し引くと,自賠責保険金より小さい可能性がある

2.被害者の収入がない又は少ない
→逸失利益がない場合,自賠責保険金より小さい可能性がある

個別の対応方針は,具体的な内容を踏まえての判断が必要になるため,一度弁護士への相談を試みられることをお勧めします。

死亡事故の注意点

死亡事故の場合,加害者側への請求権を持つのはそれぞれの相続人です。そして,各相続人が相続する範囲は,その相続分によって決定することになります。
そのため,各相続人は,自分が相続する範囲について独自に加害者側へ請求できます。裏を返せば,他の相続人が相続した範囲については,勝手に交渉をしたり請求したりすることはできません。

加害者の保険会社と交渉する場合や,弁護士に依頼する場合は,全ての相続人が一緒になって行うのか,一部の相続人だけが行うのか,という点を必ず明確にしましょう。

死亡事故で弁護士に依頼するメリット

交通事故の中でも,死亡事故では弁護士依頼するメリットの大きい場合が多く見られます。具体的には,以下のような事情が挙げられるでしょう。

①増額幅の大きさ

交通事故は,弁護士がいる場合にはいない場合と比べて賠償額が大きくなる傾向にありますが,死亡事故だと,元々の損害額が大きい関係で,弁護士の有無による金額の差も大きくなりやすいです。特に,一家の支柱として家計を支えてきた人物や,若くして被害に遭った人物などの場合には,その傾向がより強く現れやすいでしょう。

死亡事故による被害は極めて大きく,それだけに適切な金銭賠償の獲得は不可欠です。弁護士への依頼は,適切な金銭的解決のため非常に重要なものということができるでしょう。

②手続の煩雑さ

死亡事故では,戸籍をはじめとした資料の収集・提出や,金額計算に必要な確認など,解決のための手続が煩雑になりやすく,遺族側の対応負担も多くなりやすいものです。しかし,死亡事故による精神的負担に加えて,それらの手続負担に耐えることは決して容易ではありません。

この点,弁護士に依頼することで,煩雑な手続を弁護士に任せることができ,対応の負担を非常に大きく軽減することが可能になるでしょう。

③早期着手

一般的な死亡事故の取り扱いとして,加害者の保険会社は四十九日後の対応開始となることが多く見られます。ただ,これでは概ね2か月程度の間,何も解決の動きが進まないまま時間だけが流れることになり,早期解決は図りづらいと言わざるを得ません。

この点,弁護士へ早期に依頼することで,加害者の保険会社に対して四十九日の前から動き出してもらい,弁護士との間で必要な手続を進めてもらうことが可能になります。対応の負担を軽減しつつ,早期の処理を求めることもできるというのは,弁護士に依頼した場合だけの大きなメリットと言えるでしょう。

交通事故に強い弁護士をお探しの方へ

死亡事故は,その被害の大きさでは交通事故の中でも最大のものです。まず,身近にご不幸があった方には心よりお悔やみ申し上げます。
金銭賠償との関係では,その被害の大きさに見合った金額を確実に受領される必要がありますが,相手保険会社に任せていてはそれは困難です。ぜひ,今後の生活のためにも交通事故に精通した弁護士への依頼を検討されてみてください。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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【特殊詐欺事件の示談を知りたい人のために】他の事件にはない特殊詐欺の示談の進め方を,刑事弁護士が詳細に解説

このページでは,特殊詐欺事件の示談についてお悩みの方へ,弁護士が徹底解説します。
示談の方法,内容に加え,当事務所で弁護活動を行う場合の費用も紹介していますので,示談を弁護士に依頼するときの参考にしてみてください。

【このページで分かること】

特殊詐欺事件における示談の重要性
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特殊詐欺事件の示談内容・条項
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特殊詐欺事件における示談の重要性

特殊詐欺事件とは,親族や公共機関の職員を名乗るなどして被害者を信じ込ませ,現金やキャッシュカードといった金銭的価値のあるものを詐取するものを言います。いわゆる「オレオレ詐欺」が代表例ですが,その手口は非常に種類が増えており,総称して「特殊詐欺」と呼ばれます。

特殊詐欺事件は,詐欺事件の一種であり,被害者の財産に損害与える事件です。そのため,示談によって被害者の損害を回復させることは刑事処分との関係で非常に重要となります。

特殊詐欺事件は悪質性が高いため,初犯でも実刑判決を受けて刑務所に入ることも珍しくはありません。特に,被害者の損害が大きいと,これを踏まえて長期間の実刑判決を受ける恐れもあります。
執行猶予判決であれば社会生活が継続できますが,実刑判決では刑務所に収容されてしまい,生活は一変せざるを得ません。

刑事罰の種類

この点,示談によって被害者の損害を回復させることができれば,刑事処分の結果に直接大きな影響を及ぼすことが通常です。刑事処分は,ほかならぬ被害者の損害を踏まえて決定するものであるため,加害者自身がその損害を軽くしているのであれば,これも踏まえて処分を軽くするよう配慮するのが一般的な取り扱いとされています。

特殊詐欺事件は,示談を行わずに漫然と処分を受けると,実刑判決の可能性も高く非常に不利益が大きくなってしまう事件類型です。そのため,少しでも処分を軽減し,実刑判決を避けるために,示談は非常に重要な行動と言えるでしょう。

ポイント
特殊詐欺事件は重大犯罪であるため,実刑判決の可能性も高い
示談によって実刑判決を避ける試みが重要

特殊詐欺事件で示談するタイミング

一般的に,刑事事件で示談を試みるタイミングは早ければ早いほど望ましいと考えられます。早く示談ができれば,それだけ示談による処分軽減の効果が早く生じることになり,場合によっては早期釈放にも至る可能性があるためです。
特殊詐欺事件でも,自分の関与した事件が1件だけであれば,速やかに示談を試み,少しでも早期の合意を目指すことが望ましいでしょう。

しかし,特殊詐欺事件は余罪のあることが非常に多いところ,余罪のあるケースで示談を速やかに行うのは,大きなリスクが付きまといます。それは,余罪を含めた全額の賠償が経済的に困難な場合です。

特殊詐欺事件の場合,1件ごとの損害額が大きくなりやすいという特徴があります。1件あたり100万円単位の損害額となることも全く珍しくありません。そうすると,余罪も含めて示談の必要な件数が多くなると,必要な示談金額が飛躍的に大きくなってしまう可能性があるのです。
この場合,1件目の示談を全力投球をして早期に終了させると,2件目以降の示談を試みる余力がなくなってしまい,全体として不利益が大きくなってしまうことになりかねません。

一方で,組織詐欺事件で余罪があったとしても,どの事件が捜査や処分の対象になるのかは事前にはわかりません。示談が可能なのは捜査を受けている事件(=被害者が判明している事件)ですが,被害者の判明した事件が何件あって被害総額がいくらかは,処分が終わらないと分からないのです。
そのため,自分が心当たりのある事件で示談を早期に行ったとしても,その事件は捜査の対象ではなく,実際にはほかの事件のために示談金を支払うべきであった,という可能性があり得ます。特殊詐欺事件は,類型的に早期示談のリスクが大きくなりやすい傾向にあると言えます。

そのため,特殊詐欺事件の示談は,検察による起訴がされ尽くした後に行うことが非常に多く見られます。
事前に全件の示談ができる場合を除き,示談で起訴を防ぐことは困難であるため,起訴される件数と損害額を見定めた後に,起訴された事件に対して可能な限りの示談を試みる,ということです。
起訴が防げない以上,実刑判決の回避に全力を尽くす動き方ということもできるでしょう。

ポイント 示談のタイミング
余罪がなければできる限り早期に試みる
全件の支払ができない場合,起訴がすべて終わった後に試みる

特殊詐欺事件で示談をする方法

特殊詐欺事件における示談は,捜査機関に対して示談を申し入れる方法により行うことが適切です。いきなり被害者側と直接の連絡を取るのではなく,捜査機関の担当者から被害者側に問い合わせてもらい,示談の意向を確認してもらう,という流れを取ることが一般的です。
事件類型的に,加害者が被害者の個人情報を把握している場合が少ないこともあり,被害者の連絡先を獲得するための試みとしても必要な動きになります。

もっとも,捜査機関は,加害者自身に被害者側の連絡先を伝えることは通常しません。そのため,加害者自身が示談を申し入れてきても,被害者との間を取り持つことはしないのが一般的です。
示談の申し入れを行いたい場合は,自分で直接行うのではなく,弁護士に依頼し,弁護士を窓口にして進めることが適切となります。被害者との連絡先の交換も,弁護士限りという形を取ることを約束すれば,捜査機関に間を取り持ってもらうことが可能です。

示談交渉の流れ

示談交渉の流れ

1.弁護士が捜査機関に示談したい旨を申し入れる
2.捜査機関が被害者に連絡を取り,示談に関する意思確認をする
3.被害者が捜査機関に返答をする
4.被害者が了承すれば,捜査機関を介して連絡先を交換する
5.弁護士が被害者に連絡を取り,交渉を開始する

特殊詐欺事件の示談金相場

①支払うべき金額

複数人で行われる特殊詐欺事件では,加害者全員が被害者に対して被害額の全額を返済する義務を負います。被害者の損害額が100万円であれば,被害者は加害者全員に100万円を請求する権利を持ち,そのうち誰かから100万円を受領することができれば,他の加害者に対する請求権を失うことになります。
加害者の一部が全額を賠償した場合,後は加害者間の負担割合の問題になるのが通常です。

そのため,特殊詐欺事件の示談金としては,被害者の被った被害の全額が基準になるでしょう。

②加害者の得た利益との関係

特殊詐欺事件の場合,詐欺組織の中心的な立場でない限り,アルバイトのような役割にとどまり,回収した金銭の一部を報酬として受領しているに過ぎないことがほとんどです。そうすると,被害額は非常に大きくても,加害者が詐欺事件で得た利益はごく一部にとどまることが多数に上ることとなります。
そのため,加害者自身がごく一部の利益しか得られていない場合,被害者にはいくらの示談金を支払うべきか,という問題が生じ得ます。

この点,加害者自身の得た利益が一部にとどまるのであっても,被害者に対しては被害全額の支払を行うことが適切です。
例えば,特殊詐欺事件で150万円の被害が生じ,加害者はその1割である15万円の分け前を受け取ったとすると,加害者が詐欺事件で得た利益は15万円にとどまりますが,被害者に対しては150万円全額を支払うべきということになります。15万円を超える部分は自己負担になりますが,支払う義務がある以上はやむを得ないところです。

特殊詐欺事件の示談金

特殊詐欺事件では,自分の得た経済的利益よりも非常に大きい金額を支払う必要が生じやすい点に注意が必要です。

③全額の支払ができない場合

複数の特殊詐欺事件に関与している場合,1件ごとの被害額が大きくなりやすい関係で,被害の全額を支払うことができない場合も少なくありません。その場合には,全件が起訴された後,その被害金額の割合に応じて案分し,各被害者に公平な支払いを行うことが適切でしょう。

例えば,4件の特殊詐欺事件に関与し,被害金額がそれぞれ100万円,200万円,300万円,400万円となる場合,総額で1000万円の支払が必要です。しかし,加害者が100万円しか持っていないケースでは全額の支払ができないため,100万円を1:2:3:4に案分し,それぞれ10万円,20万円,30万円,40万円の支払とする,という手段が有力になります。

特殊詐欺事件の示談方法

もちろん,全額の賠償に至っていないため,支払ったことの効果は限定的にならざるを得ません。しかし,一部の被害者のみに偏った支払を行うのはその有効性に法的問題が生じかねないため,支払える限りの金銭を公平に支払うのが最も合理的でしょう。

ポイント
支払うべき金額は被害全額
自分の得た分け前が一部であっても被害全額の支払義務を負う
全額の支払ができない場合は,被害額に応じて案分する

特殊詐欺事件の示談内容・条項

【確認条項】

加害者の被害者に対する支払金額を確認する条項です。

【給付条項】

確認条項に記載した金銭の支払をどのように行うのかを定める条項です。

【清算条項】

示談で定めた条項以外には,当事者間に権利義務の関係がないことを定める条項です。清算条項を取り交わせば,その後に相手から金銭を追加請求される可能性は法的になくなります。

【宥恕条項】

宥恕(ゆうじょ)条項とは,被害者が加害者を許す,という意味の条項です。
示談が刑事処分に有利な影響を及ぼすのは,基本的にこの宥恕条項があるためです。被害者が加害者を許している,という事実が,刑事処分を劇的に軽減させる要素となります。

特殊詐欺事件の示談で注意すべきこと

①清算合意や宥恕の獲得が容易でない場合

特殊詐欺事件の場合,複数の事件に対応しなければならないことが多く,1件ごとの損害額も大きいため,被害の全額を返済しきれないことが少なくありません。そして,被害全額を返済しきれない場合,示談条項として非常に重要な「清算条項」及び「宥恕条項」の取り決めができないケースが増えやすいところです。

被害者の立場としては,被害の一部しか回復できていないのに,それ以上加害者に請求をしないという合意は非常にしづらい上,そのような状態で加害者を許すという判断をすることはなおさら困難と言えます。被害の全額を回復させられない場合には,特に清算条項や宥恕条項の獲得が難しくなりやすいと踏まえておきましょう。

また,もし被害全額の支払ができたとしても,宥恕条項が獲得できるとは限りません。被害全額の支払は加害者の義務であり,いわば当然すべきことをした,というのみですから,その支払の対価として宥恕条項を取り交わす必要はないのです。「全額支払うのは当たり前のことなのに,どうして支払を受けるために加害者を許さなければならないのか」という反論を受ける可能性が大いにあり得ます。

この点,清算や宥恕の獲得が容易でない場合であったとしても,被害を可能な限り回復させるのが有益である,ということには変わりないと考えて差し支えありません。もちろん,清算条項があれば金銭問題は解決しますし,宥恕条項があれば刑事処分は大きく軽減しますが,それらがなければ効果がない,ということでは決してありません。
被害者の経済的な損害を少しでも多く回復させることは,特殊詐欺事件の刑事責任を軽減させる効果を確かに持つ行動だと理解し,できるだけの支払に努めましょう。

ポイント
一部しか支払えない場合,清算条項の取り交わしは難しくなりやすい
全部支払えても,宥恕条項が獲得できるとは限らない
もっとも,できる限り支払うべきであることは同様

②全財産を費やしても実刑判決になる場合

特殊詐欺事件は非常に重大な事件類型のため,初犯でも実刑判決を受け,刑務所に収容されることを強いられる場合は珍しくありません。そして,それは全財産を費やして被害弁償を行ったケースでも生じ得ます。

実刑判決になる可能性が高いケースとしては,以下のような事情のある場合が挙げられます。

実刑判決の可能性が高くなる事情

1.特殊詐欺における役割
→組織の中心的な立場にあるほど実刑判決の可能性が高くなる

2.関与した事件の数
→多いほど実刑判決の可能性が高くなる

3.被害金額
→総額が大きいほど実刑判決の可能性が高くなる

4.被害弁償の程度
→弁償できた割合が小さいほど実刑判決の可能性が高くなる

5.前科前歴
→近い時期に同種事件の前科前歴があると実刑判決の可能性が高くなる

特殊詐欺事件の示談に必要な費用

藤垣法律事務所で特殊詐欺事件の弁護活動を行う場合,必要な費用のモデルケースとしては以下の内容が挙げられます。
(身柄事件の場合)

①活動開始時

着手金33万円
着手金(身柄対応)22万円
実費相当額1万円
合計56万円

身柄事件の場合,56万円のお預かりにて活動の開始が可能です。

②弁護活動の成果発生時

不起訴処分33万円
示談成立22万円(※)
出張日当・実費実額
※金銭賠償で5.5万円,清算条項締結で5.5万円,宥恕の獲得で11万円

活動の成果が生じた場合に限り,55万円(実費日当を除く)の費用が発生します。

③示談金

特殊詐欺事件の場合,被害金額に応じた示談金が想定されます。

④合計額

上記①~③の合計額が必要な費用負担となります。

目安となる費用総額(身柄事件にて100万円で示談成立+不起訴の場合)

弁護士費用:56万円+55万円=111万円(※)
示談金:100万円

計:211万円

※身柄事件では,接見を要する場合の出張日当が別途発生し得ます。

弁護士費用の例

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【住居侵入事件の示談を知りたい人のために】住居侵入事件ではどんな場合にどんな内容の示談をするべきか,弁護士が解説

このページでは,住居侵入事件の示談についてお悩みの方へ,弁護士が徹底解説します。
示談の方法,内容に加え,当事務所で弁護活動を行う場合の費用も紹介していますので,示談を弁護士に依頼するときの参考にしてみてください。

【このページで分かること】

住居侵入事件で示談すべき場合
住居侵入事件で示談をする方法
住居侵入事件の示談金相場
住居侵入事件の示談内容・条項
住居侵入事件の示談で注意すべきこと
住居侵入事件の示談に必要な費用

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住居侵入事件で示談すべき場合

住居侵入事件は,認め事件である場合,基本的に示談をすべきということができるでしょう。特に,以下のような場合に示談をする必要性が高くなります。

①逮捕を防ぎたい場合

住居侵入事件では,捜査に際して逮捕されることが少なくありません。それは,類型的に被害者を保護すべき必要性が高いと理解されやすいためです。
住居侵入事件の場合,加害者は被害者の住居というプライバシーで保護されるべき場所に立ち入っており,被害者は大きな危険に晒されてしまっています。しかも,加害者にとって被害者の住居地が明らかであるため,加害者を放置していると被害者への接触が懸念されます。特に,被害者が警察に相談したと分かれば,加害者が逆上などして被害者への暴力的行為に及ぶ危険も否定できません。
そのため,住居侵入事件は,類型的に逮捕されやすいのです。

しかし,被害者との示談が成立していれば,その後に加害者から被害者に危害の加わる可能性がないと判断できるため,逮捕の必要がなくなることが一般的です。逮捕の恐れをここまで劇的に下げられる動きは示談以外にないため,示談は逮捕を防ぐために最も有力な行動と言えるでしょう。

ポイント
住居侵入事件は逮捕されやすい
しかし,示談後に逮捕されることはほぼなくなる

②刑罰を防ぎたい場合

住居侵入事件は,捜査の結果犯罪事実の立証ができると判断されれば,検察官によって起訴されるのが通常です。初犯であっても,それだけを理由に不起訴とできるほど軽微な事件類型ではありません。

しかし,犯罪事実の立証ができる場合であっても,被害者が起訴しないでほしいとの意思であれば,検察官がこれに反してまで起訴することはほとんどありません。住居侵入事件は,特定の被害者に被害を与える犯罪であることから,その被害者の意向を処分結果に大きく反映される運用となっています。

そのため,犯罪事実の存在が明らかに立証できる場合には,示談によって被害者に起訴を望まない意思を表明してもらうことによって,不起訴処分を獲得し,刑罰を防ぐことが非常に有力となります。このように,被害者に起訴を望まない意思を表明してもらうことができる手段は,基本的に示談以外にはないため,刑罰を防ぐという面でも示談が最も有力な行動と言えます。

ポイント
住居侵入事件は,犯罪事実が明らかであれば刑罰を受けるのが通常
示談によって被害者が起訴を望まなくなれば,刑罰の回避が可能

③早期釈放を図りたい場合

住居侵入事件で逮捕された場合でも,示談が有力な手段になります。

逮捕をされると,まず最大72時間の身柄拘束を受けた後,10日間の「勾留」,さらに最大10日間の「勾留延長」を受ける可能性があります。勾留延長までなされる場合,23日前後の身柄拘束となってしまうため,日常生活への影響は避けられません。

逮捕から起訴までの流れ

この点,早期の段階で示談が成立すれば,その後の身柄拘束がなされず早期釈放に至る可能性が高くなります。逮捕段階で示談できれば勾留はされづらく,勾留の段階で示談できれば勾留延長には至りづらい,ということです。

住居侵入事件の場合,早期示談は早期釈放と直接結びついていると言っても過言ではないでしょう。

④否認事件で示談すべき場合

住居侵入事件は,否認事件の場合に示談を試みることはあまりありません。それは,示談の基本的な内容が謝罪と賠償であるためです。
否認事件は,「住居侵入をしていない」という主張であるため,本来は被害者とされる人物への謝罪や賠償をする筋合いがないはずです。そのため,否認事件で示談を試みるのは,やり方を間違えると否認の主張が信用できないという悪影響につながりかねません。

この点,否認事件でも,犯罪の有無について記憶がない場合には,示談が有力な手段になりやすいでしょう。代表例は飲酒の影響で酩酊状態だった場合です。
「酩酊していたため,住居侵入をした記憶がない」という言い分は,住居侵入を認めてはいないので否認事件に分類するのが通常です。ただ一方で,はっきりと否認をできるほどの根拠もないため,示談によって早期終結できる方がメリットの大きい状況でもあります。

このような場合には,認めてはいないものの示談をする,という動き方が有力になり得るでしょう。ただし,具体的な方針や示談の行い方は容易に判断できるものでないため,このような複雑な動き方を取る場合は必ず弁護士の判断を仰ぐようにしましょう。

ポイント
否認事件では,示談による謝罪や賠償が適さない
記憶がないなど,強く否認しづらいケースでは示談が有力になりやすい

住居侵入事件で示談をする方法

住居侵入事件で示談を試みる場合は,まず弁護士に依頼し,弁護士を窓口とすることが必要です。住居侵入事件の場合,当事者間が直接示談交渉を行うことは不適切であり,二次的なトラブルに発展する危険が大きいため,必ず弁護士に依頼するようにしましょう。

また,住居侵入事件で捜査を受けている場合には,被害者の住居地を把握していたとしても,直接被害者に接触するのでなく,まず捜査機関の担当者に連絡を取るのが適切です。
被害者が直接接触されることを希望している可能性はほとんどないため,示談が円滑に進むとは考えにくい上,最悪の場合には被害者に危害を加える目的であったと疑われかねません。

弁護士が依頼を受けた場合,捜査機関の担当者に問い合わせ,加害者が示談希望である旨を伝えます。あわせて,捜査機関から被害者に連絡を入れるよう依頼し,被害者の意向を確認してもらうことが通常です。確認の結果,被害者が示談交渉を了承する意向であれば,連絡先の交換ができ,弁護士と被害者との連絡が開始できます。

示談交渉の流れ

示談交渉の流れ

1.弁護士が捜査機関に示談したい旨を申し入れる
2.捜査機関が被害者に連絡を取り,示談に関する意思確認をする
3.被害者が捜査機関に返答をする
4.被害者が了承すれば,捜査機関を介して連絡先を交換する
5.弁護士が被害者に連絡を取り,交渉を開始する

住居侵入事件の示談金相場

住居侵入事件の示談金は,被害者が受けた損害の程度や内容によって異なりますが,加害者が単純に被害者の住居地内に立ち入った,というのみの事件であれば,示談金は10~20万円ほどが目安になりやすいでしょう。
加害者の行為が住居侵入のみであれば,経済的な損害が具体的に生じているわけではなく,被害者の生命身体に危険が生じたわけでもないため,それほど高額の示談金とはならないケースが多く見られます。

もっとも,ケースによっては示談金がより高額になる場合もあり得ます。住居侵入事件の示談金額に影響し得る具体的な事情としては,以下のようなものが挙げられます。

住居侵入事件の示談金額に影響する事情

1.侵入の程度
→庭に入ったか,玄関に入ったか,寝室まで入ったかなど。よりプライベートな場所まで立ち入っているほど増額要因になる

2.侵入の態様
→被害者により大きな恐怖を与える方法で侵入すると,増額要因になる

3.侵入時における物品の損壊
→窓ガラスや鍵など,物品を損壊しながら侵入している場合,経済的損害の分だけ増額要因になる

4.常習性の有無
→同一の被害者を対象に繰り返し行っている場合,増額要因になる

住居侵入事件の示談内容・条項

①一般的な示談条項

【確認条項】

加害者の被害者に対する支払金額を確認する条項です。

【給付条項】

確認条項に記載した金銭の支払をどのように行うのかを定める条項です。

【清算条項】

示談で定めた条項以外には,当事者間に権利義務の関係がないことを定める条項です。清算条項を取り交わせば,その後に相手から金銭を追加請求される可能性は法的になくなります。
示談を行う場合には,当事者間の金銭的解決を終了させるためにも清算条項の取り交わしを欠かさないようにすることが重要です。

【宥恕条項】

宥恕(ゆうじょ)条項とは,被害者が加害者を許す,という意味の条項です。
示談が刑事処分に有利な影響を及ぼすのは,基本的にこの宥恕条項があるためです。被害者が加害者を許している,という事実が,刑事処分を劇的に軽減させる要素となります。
住居侵入事件で被害者との示談を行うのは,主に宥恕条項を取り交わすためです。加害者にとっては必須の条項と理解するのが適切でしょう。

②住居侵入事件で特に定めやすい条項

【立入禁止】

加害者が被害者方(マンション等の共用部を含む)に立ち入らないことを約束する条項です。住居侵入事件では,被害者の安心を確保するため,加害者がその後に立ち入らないことを明示する内容の示談とすることが多く見られます。
なお,立入禁止を条項に加えるかどうかにかかわらず,示談後に被害者方へ立ち入らないべきであることは間違いありません。

【接近禁止】

加害者の立入禁止をより確実にするため,被害者の住居近辺への接近を禁止する旨の条項を設けることもあります。具体的な取り決め方は当事者次第ですが,具体的な図を添付するなどして,両当事者にとって接近禁止範囲が明確となるようにする必要があるでしょう。

【転居及び転居報告】

加害者と被害者が同じ建物や隣接する建物に居住している場合,生活圏が近すぎるため加害者の転居を示談条項に含めることがあります。
加害者の転居を条件とする場合には,転居期限を定めた上で,転居した後には弁護士を通じて転居報告を行う形を取ることが多く見られます。

住居侵入事件の示談で注意すべきこと

①被害者の転居費用が問題になり得る

住居侵入事件では,加害者に被害者の住居地が分かってしまっているため,被害者が転居を希望することが少なくありません。そして,示談を行うとなると,被害者の転居費用を加害者負担とすることが条件とされる場合も多く見られます。

この点,法的には被害者の転居費用を加害者が負担する必要があるかは非常に不明確です。裁判などで争われれば,支払義務がないとの結論になる可能性もあり得るところでしょう。
しかし,刑事事件の示談で問題になる場合には,基本的に被害者側の要求に応じるのが合理的でしょう。被害者の要求としては決して不合理なものでない上,その点の対応を拒みつつ示談の成立にこぎつけるのは現実的に困難と言わざるを得ないためです。

ただし,転居費用が伴う場合,示談金が大きく増額することが見込まれます。経済的な問題があるときには,弁護士と十分に相談の上で交渉方針を決めるようにしましょう。

②余罪がある場合

住居侵入事件では,余罪のある場合が相当数見られます。特に,同一の住居への繰り返しの侵入行為が生じやすい傾向にあります。
この点,余罪がある場合にどのような示談の方針を取るかは容易に判断できるものではありません。特に,住居侵入事件の場合,被害者がすべての余罪を把握しているわけではない可能性が高いため,方針決定はより困難になりやすいところです。

余罪がある場合には,まず依頼した弁護士に余罪も含めてありのままの出来事を全て伝えるようにしましょう。被害者にどこまで話すかはケースにもよりますが,少なくとも弁護士が把握していないという状況は避けるべきです。
弁護士が把握しないまま示談を試み,後で余罪が発覚したという場合は,示談が困難になりやすく最悪の事態になりかねません。

ポイント
転居費用の請求にはできる限り応じるのが合理的
余罪がある場合には弁護士に全てを伝える

住居侵入事件の示談に必要な費用

藤垣法律事務所で住居侵入事件の弁護活動を行う場合,必要な費用のモデルケースとしては以下の内容が挙げられます。

①活動開始時

着手金33万円
実費相当額1万円
合計34万円

一般的な在宅事件では,34万円のお預かりにて活動の開始が可能です。

②弁護活動の成果発生時

不起訴処分33万円
示談成立22万円(※)
出張日当・実費実額
※金銭賠償で5.5万円,清算条項締結で5.5万円,宥恕の獲得で11万円

活動の成果が生じた場合に限り,55万円(実費日当を除く)の費用が発生します。

③示談金

住居侵入事件の場合,単純な侵入行為であれば10~20万円の示談金が目安として想定されます。

④合計額

上記①~③の合計額が必要な費用負担となります。

目安となる費用総額(10万円で示談成立+不起訴の場合)

弁護士費用:34万円+55万円=89万円
示談金:10万円

計:99万円

弁護士費用の例

刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内することができます。
早期対応が重要となりますので,お困りごとがある方はお早めにお問い合わせください。

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【業務上横領事件の示談を知りたい人のために】示談のメリットからタイミング・方法・金額・注意点まで徹底解説

このページでは,業務上横領事件の示談についてお悩みの方へ,弁護士が徹底解説します。
示談の方法,内容に加え,当事務所で弁護活動を行う場合の費用も紹介していますので,示談を弁護士に依頼するときの参考にしてみてください。

【このページで分かること】

業務上横領事件で示談は必要か
業務上横領事件の示談時期
業務上横領事件で示談をする方法
業務上横領事件の示談金相場
業務上横領事件の示談内容・条項
業務上横領事件の示談で注意すべきこと
業務上横領事件の示談に必要な費用

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業務上横領事件で示談は必要か

業務上横領事件の場合,認め事件では示談が必要と考えるべきでしょう。

業務上横領は,業務上の立場に基づいて預かった金銭等の財産を自分のものにする(横領する)ことを言います。そのため,業務上横領事件では,被害者に経済的な損害が発生していることになります。
業務上横領事件にこのような性質があるため,業務上横領事件の刑事処分の重さを判断する場合には,被害者に生じた経済的な損害の程度が非常に大きな事情となります。また,同時に,その経済的な損害が加害者によってどの程度回復されたか,という点も非常に重要な判断材料とされています。

例えば,同じ100万円の業務上横領事件でも,損害がそのままにされている場合と,後になって加害者が100万円を全額返金した場合とでは,加害者に対する刑事処分の程度は大きく異なります。当然ながら,100万円が全額返金されているケースの方が刑事処分は軽微なものとなり,内容によっては不起訴処分が獲得できる場合もあり得ます。不起訴処分となれば,刑罰を受ける可能性はなくなり,前科が付くこともありません。

そして,返金の手段として最も有益なものが示談です。示談によって支払う金額の合意ができ,その金額の返済もできていれば,被害者の経済的な損害は加害者によってすべて回復されたと評価できるでしょう。また,示談の中で被害者が加害者を許すという内容が合意されていれば,加害者が刑事処罰を受ける可能性は劇的に低くなるということもできます。

内容に争いのない業務上横領事件では,示談によって被害者の経済的な損害を回復させるとともに,被害者の許しを獲得するのが有益でしょう。

一方,否認事件の場合,示談を行うことには慎重な検討が必要です。
示談の試みは,被害者に対する謝罪及び賠償という意味を持つ行動となることが一般的です。そのため,否認事件の場合に示談をするのは,疑いを否認しつつ謝罪や賠償をする,という必ずしも合理的とは言えない動き方になり得るのです。
否認事件でも,紛争の深刻化を防いで早期解決を図るため,示談を行うことが有益な場合も否定はできません。しかし,その内容や方法には適切な配慮が必要となるため,弁護士に相談して方針決定するようにしましょう。

ポイント

認め事件では示談が必要
→経済的損害の回復,許しの獲得のため

否認事件の示談は慎重に検討するべき
→否認の方針と矛盾しないための適切な配慮が必要

業務上横領事件の示談時期

業務上横領事件の場合,警察などの捜査機関から捜査を受けるより前に,当事者間で問題になり,協議の場などが設けられることも少なくありません。

業務上横領事件の代表例は,仕事上管理していた勤務先の金銭を横領してしまう,というケースですが,その横領が発覚した場合,いきなり警察などを巻き込むよりも,会社内部で問題視され,話し合いなどの機会が設けられる場合も多く見られます。
そして,捜査機関の介入前に当事者間で話し合うことになった場合は,可能な限り速やかに示談の試みを行い,当事者間での解決を目指すべきでしょう。

もし,当事者間で金銭的な解決ができ,勤務先が刑事処分を希望しないという判断に至った場合,警察などが捜査を行うきっかけが生じないため,刑事手続が始まることなく,当事者間のみでの解決で事件が終了することになります。刑事手続への対応自体が必要なくなる点で,当事者間で解決できた場合の利益は非常に大きなものであり,その可能性があるならば可能な限り目指すのが得策です。

また,被害に遭った勤務先としても,経済的な損害がすべて回復できるのであれば,それ以上に加害者が処罰を受けるなどの不利益を被ることまでは希望しない,という発想であることが少なくありません。
警察などに捜査をしてもらっても勤務先に利益が生じるわけではなく,かえって対応の負担が増すという面は否めないため,勤務先の方も当事者間での解決を優先的に検討してくれる場合はあり得ます。

業務上横領事件は,示談によって刑事手続そのものを防げる可能性がある点で,早期示談のメリットが非常に大きい類型と言えるでしょう。

ポイント
示談の試みは可能な限り早く
刑事手続前に示談できれば,示談ですべて解決できる場合も

業務上横領事件で示談をする方法

一般的な刑事事件では,弁護士が警察や検察といった捜査機関に問い合わせ,加害者が示談を希望する旨を申し入れるとともに,被害者側の意向を確認してもらう,という手順が多く取られます。
被害者が示談交渉を了承する場合には,弁護士に被害者の連絡先等が伝えられ,弁護士を窓口に直接のやり取りをスタートすることになりやすいでしょう。

示談交渉の流れ

もっとも,業務上横領事件の場合,代表的な勤務先での横領事件などであれば,加害者側と被害者側は直接の連絡を容易に取ることのできる関係であることが通常です。被害者である勤務先としても,わざわざ警察を通じて間接的に連絡をよこすのでなく,直接の連絡を行う方が望ましいと考える場合が多く見られます。

そのため,業務上横領事件のように直接の連絡が不適切でない場合は,弁護士から被害者側に直接連絡を入れ,示談交渉を試みることも珍しくありません。

業務上横領事件における示談交渉の流れ

いずれの方法を取るかは,個別のケースや被害者側の意向によっても異なるため,刑事事件に強い弁護士に相談の上,具体的に検討するようにしましょう。

業務上横領事件の示談金相場

業務上横領事件の示談金は,損害額を基準にすることとなります。
示談金は,業務上横領によって被害者に生じた損害を埋め合わせるものでなければならないため,まずは損害総額を確認し,その金額を踏まえて示談金を決定することが必要です。

一般的には,横領の対象となった金額にいくらかを上乗せして示談金とすることが多く見受けられます。どの程度上乗せをするかは双方の意向にもよりますが,上乗せされる要素としては以下のような点が挙げられます。

示談金に含む損害

1.横領行為による業務全体の損失
2.損害調査のために生じたコスト・負担
3.示談交渉のために生じた負担(弁護士費用等)

業務上横領事件の示談内容・条項

①一般的な示談条項

【確認条項】

加害者の被害者に対する支払金額を確認する条項です。

【給付条項】

確認条項に記載した金銭の支払をどのように行うのかを定める条項です。

【清算条項】

示談で定めた条項以外には,当事者間に権利義務の関係がないことを定める条項です。清算条項を取り交わせば,その後に相手から金銭を追加請求される可能性は法的になくなります。
業務上横領事件の場合,被害者の経済的な損害を全て回復させられたか,という点が重要となりやすいため,清算条項の価値がより高くなりやすい事件類型と言えます。清算条項があるということは,加害者が被害者に支払うべきものを全て支払った,という理解になるためです。

【宥恕条項】

宥恕(ゆうじょ)条項とは,被害者が加害者を許す,という意味の条項です。
示談が刑事処分に有利な影響を及ぼすのは,基本的にこの宥恕条項があるためです。被害者が加害者を許している,という事実が,刑事処分を劇的に軽減させる要素となります。
業務上横領事件は被害者のいる事件であり,被害者の意向が処分に反映されやすい類型であるため,宥恕条項の獲得は非常に重要となります。

②業務上横領事件で特に設けやすい条項

【退職・解雇】

業務上横領事件の示談では,示談後の雇用関係に関する取り決めを設けることが多く見られます。一般的には,勤務先側が加害者との関係の継続を希望することはあまりないため,加害者の自主退職又は勤務先による解雇を行うことが多いでしょう。

加害者の立場としては,基本的に退職しない選択肢が考えにくいため,勤務先の求めに応じる形で合意するのが最も合理的なことがほとんどです。

業務上横領事件の示談で注意すべきこと

①被害者側の方針に大きく左右される

業務上横領事件は,被害者側と早期に示談をすることが非常に有益ですが,実際に早期の示談ができるかどうかは,被害者側の対応方針に大きく影響を受けます。

具体的には,警察への通報などを全くしないで当事者間で解決することが犯罪を不問にするという意味合いの行動にもなるため,コンプライアンス(=法令遵守)の観点から不適切と被害者側が考えた場合,早期合意は困難なことがあり得ます。
コンプライアンスを優先するか,早期解決による負担の軽減を優先するかは,完全に被害者側の方針の問題であるため,加害者側には致し方ないところです。

この点,被害者が示談だけで終了させることに難色を示せば,やむを得ず刑事手続の対象になりますが,その後でも示談が有益であることに変わりはありません。捜査を受けたとしても,その後に示談が成立すれば,逮捕や起訴の可能性が大きく低下することは間違いなく,一般的には不起訴処分で終了することになりやすいでしょう。

示談ができるか,できるとしてどのタイミングになるかは被害者側の方針によりますが,加害者としては,被害者がどのような方針であっても示談を目指すべきことに変わりはないと考えて差し支えありません。

②金額の争いが生じやすい

業務上横領事件では,被害額の正確な特定が困難であるため,支払うべき金額がいくらかという点に争いの生じることが少なくありません。
特に,勤務先で事業用の金銭を管理している立場で横領行為をしてしまった,という場合,他に収支を管理している人がいなければ,正確な金額計算をできる人は基本的に存在しないこととなります。また,加害者の横領行為とは別に会計上の不明な部分が存在することも珍しくないため,加害者と関係のない点も加害者のせいにされてしまう場合が一定数見られます。

この点,金額の争いがあった場合に具体的な対応をどうするかは,個別の内容によるところですが,金額の差があまり大きくない場合には,被害者側の言い分にできる限り沿った対応を行うのが望ましくなりやすいでしょう。若干の金額を調整できれば示談に至る,というのであれば,示談の成立を優先する方が加害者の利益も大きいためです。それだけ,業務上横領事件で被害者と示談できることの価値は高いものです。

ポイント
被害者側のコンプライアンスに対する方針に左右されやすい
横領行為と関係のない金額のズレも被害額と主張されやすい

業務上横領事件の示談に必要な費用

藤垣法律事務所で業務上横領事件の弁護活動を行う場合,必要な費用のモデルケースとしては以下の内容が挙げられます。

①活動開始時

着手金33万円
実費相当額1万円
合計34万円

一般的な在宅事件では,34万円のお預かりにて活動の開始が可能です。

②弁護活動の成果発生時

不起訴処分33万円
示談成立22万円(※)
出張日当・実費実額
※金銭賠償で5.5万円,清算条項締結で5.5万円,宥恕の獲得で11万円

活動の成果が生じた場合に限り,55万円(実費日当を除く)の費用が発生します。

③示談金

業務上横領事件の場合,横領額を基準とした示談金の支払いが想定されます。

④合計額

上記①~③の合計額が必要な費用負担となります。

目安となる費用総額(50万円で示談成立+不起訴の場合)

弁護士費用:34万円+55万円=89万円
示談金:50万円

計:139万円

弁護士費用の例

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