【交通事故解決事例】首と腰のヘルニアで被害者請求非該当も異議申立てで14級の認定を獲得し,345万円の賠償金を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,追突事故被害によるヘルニアの受傷で,異議申立てにより14級の認定を獲得した解決事例を紹介します。

事案の概要

赤信号にて停止中の被害車両に加害車両が追突する形で事故が発生しました。被害者は主に首と腰の痛みに悩まされており,半年近く通院を継続したものの,症状は残存し続けました。

約半年が経過した段階で,通院先にてMRIを撮影したところ,首と腰にヘルニアの症状があるとの指摘を受け,弁護士への法律相談をご希望されました。

弁護士の相談時には,既に通院先での後遺障害診断書作成の予定も設けられており,通院治療は終了が見込まれている状況でした。被害者の悩みも後遺障害等級の点にあり,申請に際して弁護士のサポートをご希望の状況でした。

法的問題点

①ヘルニアと交通事故との因果関係

ヘルニアとは,体内の臓器や組織が本来あるべき場所から逸脱して飛び出した状態を指し,首や腰で問題になるのは「椎間板ヘルニア」と呼ばれるものであることが通常です。
脊椎の間には椎間板というクッションとなる軟骨がありますが,椎間板が圧迫されて飛び出してしまい,神経を圧迫する状態にあるのが椎間板ヘルニアと呼ばれる状態です。

もっとも,このヘルニアは,一般には外傷のみから生じるとは理解されておらず,交通事故で判明したヘルニアの原因は,交通事故前から存在していたと判断されることが非常に多く見られます。
ヘルニアが生じていても,直ちに痛みなどの自覚症状が現れるわけではなく,事故によってヘルニアの箇所に刺激が生じた結果,自覚症状が現れるに至った,という場合が非常に多くあるのです。

ヘルニアの原因が交通事故の原因でない場合,その問題は後遺障害等級の判断にダイレクトな影響を及ぼします。MRIなどの画像でヘルニアが確認でき,ヘルニアに伴う神経症状が出ていたとしても,ヘルニアが事故によって生じたのでないのであれば,ヘルニアは後遺障害等級の根拠にはならない,という結論になってしまいます。
実際に,このような判断でヘルニアがあっても後遺障害等級が非該当との結論になるケースは枚挙に暇がありません。ヘルニアが生じている事故では,ほとんどの場合で因果関係が大きな問題になります。

②神経症状に対する後遺障害等級

神経症状に対する後遺障害等級としては,以下の内容が挙げられます。

等級認定基準
12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号局部に神経症状を残すもの

また,その具体的な判断基準としては,以下のように整理されています。

12級13号症状が医学的に証明できる場合
(画像所見などの他覚的所見によって客観的に認められる場合)
14級9号症状が医学的に説明できる場合
(他覚的所見はないものの,受傷内容や治療経過を踏まえると症状の存在が医学的に推定できる場合)

つまり,画像所見などの客観的な所見で第三者が判断できる場合には12級の認定可能性があり,そのような客観的な所見がない場合には14級の認定を目指す,ということになります。

この点,ヘルニアの場合,MRIで客観的に確認できれば12級の認定が得られそうにも思えますが,残念ながらそれほど簡単な話ではありません。ヘルニアがあっても,直ちに事故と因果関係があるとは認められないため,客観的な画像所見があることに加え,それが外傷性のヘルニアであることがわかる根拠も指摘できなければ,12級の根拠とすることは困難と理解されます。

ヘルニアが外傷性であると分かる場合というのは,主に新鮮なヘルニアが画像に現れている場合です。しかし,追突事故で早期にMRI撮影を行うケースはあまり多くはなく,本件でも事故から半年ほど経過し,通院治療の終了に差し掛かった段階で初めてMRIが撮影され,ヘルニアが判明しました。
そのため,本件で12級を目指すことは非常に難しく,14級を目指すことが現実的であろうと思われる状況でした。

③損害賠償額

交通事故の主な損害賠償の項目としては,慰謝料が挙げられます。
この慰謝料は,入院及び通院の期間に応じて発生する「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」と,後遺障害等級に応じて発生する「後遺障害慰謝料」の二つに大きく区別されますが,入通院慰謝料は入通院があれば生じるのに対し,後遺障害慰謝料は後遺障害等級が認定されなければ発生しません。
そのため,後遺障害等級が認定されるかどうかは,後遺障害慰謝料がゼロであるかどうか,という大きな分岐点になるところです。

また,慰謝料の金額は,弁護士の有無で保険会社の対応が変わる主なポイントでもあります。弁護士が金額交渉を行うことで増額するのは,基本的に弁護士が付くとこの慰謝料額について保険会社が増額に応じる運用をしているためです。
もっとも,具体的な増額幅は個別の交渉により異なるため,増額交渉をどのように実施するか,どのような増額結果になるかは,弁護活動によって変化する部分となります。

ポイント
ヘルニアは交通事故との因果関係が問題になる
外傷性のヘルニアか判断できない場合は14級を目指す
慰謝料額の交渉は弁護士交渉のメインポイント

弁護士の活動

①被害者請求の実施

交通事故で後遺障害等級認定を目指す場合,自賠責保険に認定を求める手続を行い,調査・判断してもらうことが必要です。そして,認定を求める手続には,以下の二通りがあります。

後遺障害等級認定を目指す手続

1.事前認定
加害者の保険会社が必要な書類等を収集・提出する方法

2.被害者請求
被害者自身が必要な書類等を収集・提出する方法

また,各方法のメリット・デメリットについては以下のように整理されます。

方法メリットデメリット
事前認定後遺障害診断書だけ主治医から取り付けて提出すれば,あとは保険会社がすべて進めてくれる保険会社は,必要な書面以外は何も提出してくれない
被害者請求必要書類以外にも,自分の主張に関わる書類を自由に添えて提出することができる提出書類の取得や作成を自分でしなければならないため,手間が多い

本件では,神経症状という数値で判断できない分野の後遺障害等級認定を目指す試みであったこと,ヘルニアの存在だけがわかっても等級認定には結びつかないであろうことなどを踏まえ,被害者請求の方法で可能な限り丁寧な主張を尽くすことにしました。

被害者請求に際しては,以下のような活動も実施しました。

【医学的意見の獲得】

ヘルニアの原因が交通事故であっても矛盾しないことや,本件事故の内容を踏まえれば自覚症状が重く残存してもおかしくないことなどについて,医師の医学的意見を聴取の上,書面化への協力を依頼しました。
活動の結果,ヘルニアに伴う神経症状の主張を補強する医学的意見の獲得に至りました。

【自覚症状の書面化】

神経症状については,自覚症状の程度・内容が判断の対象とならざるを得ないため,症状そのものをできる限り具体的に示せるよう,被害者の生の声を書面化することとしました。被害者から自覚症状の内容を洗い出してもらい,その内容を踏まえて適宜打ち合わせを重ねながら,現在被害者に残っている症状とその重さを文書にしました。

②異議申立ての実施

以上の準備の上,被害者請求を実施しましたが,結果は非該当(後遺障害に該当しない)というものでした。
本件は必ずしも等級認定が見込めるとまでは言えない内容であったため,非該当の結果は想定内ではありましたが,等級認定の有無ではやはり大きく賠償額が変わることもあり,異議申立てという不服申し立ての手続を試みることにしました。

異議申立ては,同一の内容について再度自賠責保険(及び自賠責損害調査事務所)の調査・判断を求める手続ですが,同じ事柄について同じ場所が判断を行うため,追加の立証資料がなければ結論が変わることはまずありません。
本件では,以下のような追加資料の作成・提出を行いました。

異議申立ての追加資料

1.非該当とした判断の理由と被害者の自覚症状が食い違っていることや,その自覚症状が継続的にあったことについて,根拠を添えて示す書類を作成

2.非該当の判断理由がこちらの提出した医学的意見とも食い違うことについて,医師の意見を獲得し書面化

③異議申立ての結果

このような異議申立ての結果,非該当との判断が覆り,被害者の首及び腰の神経症状についてそれぞれ14級9号が認定されることとなりました。
異議申立てを尽くしたことで,被害者の後遺障害等級は併合14級となりました。

④金額交渉

後遺障害等級認定の結果を踏まえ,相手保険担当者との間で金額交渉を実施しました。
主な項目である慰謝料は,弁護士が交渉を行う場合,裁判で認められ得る最大額(いわゆる裁判基準)の80~90%を見込むものと言われており,90%が一定の目標水準とされやすい傾向にあります。ただ,本件の場合では,他の項目において,被害者側が相手保険に配慮して譲歩していた部分が見受けられたため,これを踏まえて90%を超える水準での合意が獲得できないか,交渉を試みることにしました。

活動の結果

上記の弁護活動の結果,被害者の後遺障害等級は併合14級,被害者に対する損害賠償額は合計345万円(自賠責保険金75万円,任意保険より270万円)となりました。

損害賠償のうち,慰謝料の金額は裁判基準の92~93%ほどの水準という結果でした。弁護士による金額交渉の結果,90%を上回る金額で,端数を切り上げた切りのいい金額での合意となったための増額でした。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

神経症状に関する14級の後遺障害は,後遺障害等級の中でも最も問題になりやすいものです。また,同時に,等級認定の難易度が高い傾向にある類型ということもできるでしょう。
首や腰の神経症状については,他覚的所見を確認することが非常に難しく,ヘルニアのように所見があったとしても事故との因果関係が不明確とされる場合が非常に多く見られます。この場合,等級認定の客観的な根拠に乏しいため,自覚症状の程度を推測させる事情を丁寧に積み上げて,総合考慮の上で14級の認定をしてもらえるよう試みる必要があります。

本件では,追突された車の損傷が相当程度大きく,事故の規模が小さくはなかったと評価できたことや,自覚症状の内容や推移について被害者が詳細な説明を尽くしたことなどが,異議申立ての結果に結びついた可能性が高いと思われます。

なお,むち打ちに関する後遺障害等級認定については,こちらの記事もご参照ください。

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【交通事故解決事例】異議申立ての結果,後遺障害5級→4級と上位等級の認定が獲得でき,約1,050万円の増額に至った事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,後遺障害5級の認定後,異議申立てによってより上位の4級が認定され,増額交渉に成功した事例を紹介します。

事案の概要

被害者は,青信号に従って横断歩道を渡っていたところ,対面から右折してきた自動車から衝突されました。
被害者は,頭部を強く受傷しており,相当な間意識を失うほどの重篤な状況にありましたが,幸いにも一命を取り留めました。ただ,脳に障害を受け,いわゆる高次脳機能障害が残るに至りました

高次脳機能障害とは,頭部の傷害によって脳の高次機能である認知,記憶,思考,判断,言語,行動等を司る部分が損傷を受けた場合に生じる障害です。高次脳機能障害の主な症状としては,記憶障害や言語障害,感情制御機能の障害等が挙げられます。

被害者は,弁護士が相談を実施した段階では既に後遺障害等級の認定を受けており,その内容は高次脳機能障害について5級を認定するというものでした。
また,これを踏まえ,加害者の保険会社から損害賠償額の提示も受けている状況でした。提示額の総額は約3,350万円という内容でした。

ポイント
高次脳機能障害について5級認定済み
保険会社から約3,350万円の賠償額提示あり

法的問題点

①等級認定結果の合理性

【高次脳機能障害】

被害者には,高次脳機能障害について後遺障害5級の認定がなされていましたが,高次脳機能障害には,以下の通り複数の後遺障害等級が定められています。

【高次脳機能障害の後遺障害等級】

等級基準
1級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

そのため,被害者の高次脳機能障害が5級と認定されることの合理性は慎重に検討する必要がありました。
この点,弁護士が被害者と直接対面し,被害者に生じている症状の内容や程度を丁寧に確認した結果,後遺障害5級の結果は決して被害者に不利益なものではないと判断することができました。

【その他の後遺障害】

弁護士が被害者と対面での相談を実施したところ,被害者の頭部に相当程度の大きさをしたへこみが見受けられました。もっとも,従前の等級認定結果では,頭部のへこみに関しては非該当との判断がなされていました

この点,頭部の醜状障害としては,「鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損」がある場合に12級14号「外貌に醜状を残すもの」に該当するという基準があります。ただし,この欠損は人目につく程度のものであることが必要とされます。

被害者の場合には,頭蓋骨に「鶏卵大面以上の欠損」があり,正面から見て頭部の不自然な形状が判別できることから「人目につく程度のもの」であるとも考えられる状況でした。しかし,従前の等級認定では,簡単な顔写真の確認のみで非該当とされていました。

ポイント
高次脳機能障害5級は適正な結果
頭蓋骨の一部欠損について醜状障害12級の認定が考えられる

②損害賠償額の合理性

後遺障害等級が伴う場合,交通事故の損害賠償としては,「慰謝料」「逸失利益」が主な項目となります。

【慰謝料】

保険会社からの金額提示は,後遺障害等級5級に対する慰謝料が800万円という内容になっていました。
この点,後遺障害慰謝料の金額については,以下のような基準が設けられています。

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害5級の場合,いわゆる裁判基準では慰謝料額が1,400万円とされています。弁護士が交渉を行う場合,慰謝料は裁判基準満額の80~90%で合意する場合が多く見られ,90%の実現が一つの目標になりやすいところですが,90%であれば1,260万円と,相手保険の提示から見ると1.5倍以上になります。

後遺障害慰謝料に関しては,弁護士の交渉による増額余地が多分に残されている状況であると判断することができました。

【逸失利益】

後遺障害の逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,逸失利益については,主に「労働能力喪失期間」がどの程度の期間であるか,という点が争点になりやすいところです。もっとも,本件の被害者に関しては,比較的高齢であったこともあり,「労働能力喪失期間」の内容が弁護士から見ても合理的であり,逸失利益の金額は弁護士が目標とする金額と比較しても遜色のない水準であることが確認できました。

今回の事故が大きな規模で,被害者に重大な損害が生じたことを踏まえ,保険会社は逸失利益を全面的に譲歩するスタンスを示しているものと推察されました。

ポイント
後遺障害慰謝料に増額の余地が多く残されている
逸失利益は,保険会社の全面譲歩により適正額であった

③問題点まとめ

以上を踏まえ,問題点は以下の2点に絞られました。

本件の具体的な問題点

1.頭部のへこみが12級に認定されるか
2.後遺障害慰謝料が増額されるか

弁護士の活動

①後遺障害等級に関する異議申立て

最終的な目標は金額交渉等による増額ですが,まずは,金額交渉の前提として後遺障害等級の獲得が必要です。本件では,頭部のへこみが後遺障害等級認定の対象とされていない点を覆すことが必要でした。

この点,醜状障害と呼ばれる後遺障害の判断方法は,面談を行って直接目視してもらうことが適切です。見た目の変化が後遺障害等級の対象となる以上,その見た目の変化を正確に把握してもらうため,面談を実施するべきであるというわけですね。
しかし,本件では,写真での簡単な画像調査のみで安易に非該当の結果になっていることが見受けられました。また,被害者と面談をした弁護士としては,しっかりと面談を実施してもらえれば被害者の頭部のへこみは等級認定の対象になるであろうとの見立てもありました。

そこで,弁護士受任前に行われた後遺障害等級に対して,異議申立てを実施するとともに,後遺障害等級の認定調査を行う「自賠責損害調査事務所」にて被害者の面談を行うよう求めました。
また,面談に際しては,被害者と事前に十分な打ち合わせを行い,面談当日に弁護士も同行することとしました。被害者が自分で等級認定に必要な説明を行うのは容易でないため,説明や案内をサポートするため,弁護士が同席することとしたのでした。

なお,面談を実施する前提としては,「自賠責損害調査事務所」に面談が必要であると判断してもらうことが必要となります。そのため,弁護士が異議申立てを行う際には,頭部のへこみに関する詳細な説明を提出した上,複数の鮮明な写真を添付することで,必要な書面上の説明も尽くしました。

②異議申立ての結果

異議申立て及び面談を行い,調査担当者に被害者の頭部のへこみを把握してもらうことができた結果,頭部の醜状障害について希望通り12級の認定を受けることができました。
被害者の後遺障害等級は,高次脳機能障害の5級と頭部醜状障害の12級をあわせて,併合4級との認定になり,申立て前よりも上位等級の認定に至りました。

③損害賠償額の交渉

後遺障害等級認定を獲得した後,弁護士にて相手保険担当者との金額交渉に着手しました。

この点,主な争点は800万円と提示されていた「後遺障害慰謝料」でした。
異議申立てにより併合4級となったことで,弁護士の目標額は4級の裁判基準1,670万円の90%に当たる1,503万円(約700万円増)と想定できる状況でした。弁護士にて,このような金額水準を踏まえて慰謝料の交渉を実施しました。

また,後遺障害慰謝料以外には,「入通院慰謝料」や「休業損害」,「逸失利益」についても一定の交渉を実施することとしました。保険会社は,弁護士の有無によって金額計算の内容を変える運用をしていることが多く,弁護士の交渉によってはこれらの項目も一定程度の増額がなされ得ると判断しました。

ポイント
頭部のへこみは,異議申立てと面談を通じて12級獲得
併合4級を踏まえた後遺障害慰謝料の交渉を実施(目標約700万円増)
入通院慰謝料,休業損害,逸失利益についても交渉を実施

活動の結果

弁護士による活動の結果,被害者に対する賠償金額は合計で約4,400万円となりました。
弁護士依頼前の提示額約3,350万円と比較すると,約1,050万円の増額が実現されました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件の具体的な弁護活動は,醜状障害に関する異議申立てと慰謝料交渉の2点でした。それぞれの対応は,適切に尽くせば望ましい結果を獲得することは決して難しいわけではありません。実際に,弁護士が活動を行った結果,比較的円滑に上位等級の認定と慰謝料の増額が実現されることとなりました。

しかし,弁護士依頼前にはこれらの問題が解消できていなかったことも事実です。そのため,被害者は得られるはずの賠償額を1,000万円以上逃す可能性があるところでした。これは非常に重大な問題であると思います。

後遺障害等級を認定する自賠責保険も,賠償金額を提案する相手の任意保険も,そのような問題点を積極的に指摘してくれることはありません。被害者が積極的に問題意識をもって弁護士に相談・依頼しなければ,被害者は十分な補償を受けられない可能性がある,という交通事故分野の問題が浮き彫りになった事例と言えるでしょう。

交通事故被害に関しては,やはり弁護士へのご相談が望ましいと考える次第です。

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【交通事故解決事例】股関節人工関節で後遺障害8級,併合7級の認定を受け4600万円超を獲得。紛争処理機構で等級認定が覆り増額実現

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,人工関節の挿入置換に対して,紛争処理機構への申立てにより後遺障害8級,併合7級の獲得に至った事例をご紹介します。

事案の概要

自転車での通勤中,後続自動車に接触され,転倒。大腿骨開放骨折,鎖骨骨折等を受傷しました。
自動車運転者には任意保険がなかったため,被害者自身が加入する自動車保険を利用して入通院費用を賄っていました。また,通勤中の事故であったため,労災保険も並行して利用していました。

弁護士の相談は,通院治療中の段階で行いました。相談時には,股関節の症状が芳しくなく,人工関節を挿入する可能性が見込まれる状況でした。

法的問題点

本件の主な問題点は,股関節部の受傷に対する後遺障害等級でした。具体的には以下のような問題点が想定されました。

①股関節の受傷と事故との因果関係

本件事故の発生直後における主な受傷は,大腿骨の骨折であったため,股関節の受傷は入院先の病院でもあまり意識されていませんでした。そのような経緯もあり,股関節の症状について初めて診断されたのは,事故から期間が経ってからのことでした。

一般的に,事故から期間が経過した後に初めて診断された傷病については,事故との因果関係の有無が問題になりやすい傾向にあります。事故の直後であれば,事故によって生じた傷病であるという可能性以外に考えにくいですが,事故から期間が経過すればするほど,事故以外の原因が混入する可能性が高まるためです。

本件では,大腿骨の骨折に伴う痛みが症状のメインと考えられていたので,これと近い部位にある股関節の症状は大腿骨との区別が困難な状況にありました。しかし,大腿骨の症状が落ち着いても股関節の痛みが取れないため,病院での検査を重ねたところ,「股関節唇損傷」が明らかになりました。「股関節唇」とは,大腿骨頭と骨盤をつなぐ軟骨組織の一部で,衝撃吸収などの役割を果たしています。この部分に損傷が生じると,足を動かす動作に痛みが伴ったり,股関節がぐらついたりすると言われています。
被害者の股関節付近に生じていた痛みの正体は,大腿骨骨折の症状が落ち着いて初めて,股関節唇の損傷によるものだと判明したのでした。

股関節唇

②股関節人工関節挿入の後遺障害等級

被害者に生じた股関節唇損傷に対する治療としては,股関節に人工関節を挿入することが必要と判断される状態でした。人工関節とは,損傷の生じた関節の表面の代わりをするための人工的な関節をいいます。痛みの原因は損傷した関節にあるため,これを損傷のない関節に置き換えることで,痛みを取り除くことができる治療方法です。

この点,人工関節を挿入した場合の後遺障害等級としては,以下の可能性があります。

等級基準
8級7号1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
10級11号1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

具体的な認定基準は,以下の通りです。

等級具体的な認定基準
8級7号人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
10級11号人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2分の1以下に制限されていないもの

もっとも,人工関節を挿入した場合に,それでも可動域が大きく制限されることはあまり想定されていません。人工関節を挿入すれば痛みは取り除かれ,可動域は十分に取り戻せるのが通常であるためです。
しかしながら,本件の被害者の場合は,股関節の神経に一部麻痺が生じていると見られる状況でした。そのため,人工関節を挿入したものの,股関節の関節可動域に大きな制限の生じてしまっていました。

さらに,本件では,可動域制限に関してもう一つ問題点がありました。それは,「他動」であれば股関節は動けてしまう,という点です。
関節可動域の測定には,自分で動かす「自動」と,人に動かしてもらう「他動」があり,可動域制限は基本的に「他動」の値を基準に判断されます。もっとも,被害者は人工関節を挿入の上,神経麻痺で股関節を動かせない状況のため,人が動かそうと思えば股関節は動かせる(痛みを訴えてストップさせることがない)のです。
そのため,被害者の関節可動域制限は,「自動」で判断されるべきであることを示す必要がありました。

ポイント 股関節に関する法的問題点
股関節の受傷と交通事故との因果関係
股関節人工関節の等級が10級か8級か(可動域制限があるか)

③その他の部位の後遺障害等級

被害者は,股関節以外にも複数のケガがあったため,以下のような等級認定が見込まれる状況でした。

被害者に見込まれた主な後遺障害等級
・肩関節の可動域制限 10級~12級
・鎖骨骨折後の変形障害 12級
・大腿骨骨折後の神経症状 12級

弁護士の活動

①自賠責保険への被害者請求

弁護士においては,症状固定後,まずは自賠責保険への被害者請求を実施し,望ましい等級認定の獲得を目指しました。交通事故の後遺障害等級は,基本的に自賠責保険(及び損害保険料率算出機構)の判断が尊重されることになるため,自賠責保険への被害者請求に際しては,万全の手続を取ることが重要です。

被害者請求に当たっては,弁護士の判断で以下の対応を試みました。

【診療録(カルテ)の検討】

交通事故の解決に当たって,弁護士が医療機関から診療録を取り付けることは珍しくありません。もっとも,無計画に,闇雲に取り付けても特に意味はないため,何のために取り付けるのか,という目的意識が非常に重要となります。

本件では,股関節の損傷と事故との因果関係が大きく問題になり得る状況であったため,「股関節の症状は事故が原因である」ことを示すための証拠資料として,診療録を活用することを目指しました。
具体的には,以下のような点の確認を試みました。

診療録の検討事項
1.股関節の症状を早期の段階から訴えていること
2.股関節の症状に関する検査結果が早期に出ていること
3.事故から股関節唇損傷の診断までの間に,股関節を怪我する原因がないこと

検討の結果,弁護士においては,主に股関節の自覚症状に関する指摘を丁寧に拾い,根拠資料として提出することとしました。

【医療照会の実施】

被害者の股関節の治療をご担当された主治医の先生から,因果関係及び可動域制限の原因に関する医学的なご意見をいただくことを目指しました。
被害者の治療をご担当された先生は,大変ありがたいことに非常に協力的な先生であったため,まず面談を実施し,先生の生の意見をお聞きしました。先生からは,積極的なご意見をいただける見込みが立ったため,その内容を医療照会という形で書面化し,先生のご協力をお願いしました。

先生からは,医療照会書の作成にも快くご協力をいただくことができ,事故と股関節唇損傷に因果関係が認められること,被害者の可動域制限は神経麻痺の結果生じたものであることなどについて医学的意見を獲得しました。

ポイント
診療録を詳細に検討し,事故と怪我との因果関係の立証資料とした
医療照会を通じて,争点に関する医学的意見を獲得した

②自賠責保険に対する異議申立て

自賠責保険への被害者請求を実施したところ,その結果は目標とする併合7級ではなく併合9級というものでした。目標の等級に至らなかった原因は,問題視していた「股関節唇損傷と事故との因果関係」でした。自賠責では因果関係が否定され,股関節について後遺障害等級の認定対象とはならなかったため,他に10級及び12級が認定されていたことから,併合9級という結果になったのでした。

この結果は不服であったため,自賠責保険への異議申立てを実施しました。
自賠責保険の後遺障害等級認定結果に不服がある場合,異議申立てという手続で再度の判断を求めることが可能です。もっとも,同じ機関が判断することになるため,ただ異議申立てをするのみでは結果が変わる可能性はほとんどありません。異議申立てに際しては,新たな根拠資料の提出が不可欠となります。

本件では,診療録の検討結果を改めて詳細に整理するとともに,自賠責の判断を主治医の先生と共有し,自賠責の判断内容が主治医の先生の見解と食い違うことを書面化させていただくことができました。

ポイント
自賠責保険の判断に不服がある場合,異議申立てが可能
もっとも,新たな根拠資料を提出しなければ結果は変わらない

③紛争処理機構に対する申立て

異議申立ての結果は,遺憾ながら当初の判断から変わることがありませんでした。この場合,異議申立てに回数制限はないため,もう一度異議申立てを行うことも可能です。もっとも,既に提出できる限りの根拠は提出しており,これ以上異議申立てを繰り返しても結果が好転する見通しは持てませんでした。

そこで,自賠責保険の判断を不服として,「自賠責保険・共済紛争処理機構」に対する申請を行うこととしました。
「自賠責保険・共済紛争処理機構」は,自賠責保険金の適正な支払を図るため,自賠責保険の判断に不服がある者の申請を受けて,その判断の妥当性を審査する機関です。この紛争処理機構への申請は,同一の内容に関して1回しか行うことができず,自賠責保険への異議申立てのように複数回実施することはできません。しかし,本件では,これまでの手続の中でできる限りの根拠は揃えていたため,紛争処理機構を利用して問題ないと判断しました。

念のため,再度主治医の先生と相談の上,異議申立ての結果を踏まえた追加の医学的意見の作成にご協力いただきました。これも医療照会書の形式にし,主治医の先生の意見を添える形で申請を実施しました。

ポイント
自賠責の判断に不服のある場合,紛争処理機構への申請が可能
紛争処理機構への申請は1回きり

活動の結果

①後遺障害等級

紛争処理機構への申請の結果,股関節の症状と交通事故との因果関係について判断が覆り,因果関係があるとする当方の主張が受け入れられました。また,具体的な等級についても,可動域制限が他動運動でなく主に自動運動で生じていたにもかかわらず,10級でなく可動域制限を前提とした8級の認定となりました。

これを踏まえた後遺障害等級は,従前の併合9級から併合7級へと変更され,被害者の救済に結びつく結果となりました。

②金銭賠償の内容

本件では,加害者側に任意保険がなく,また加害者本人は生活保護受給者であったため,経済力のないことが明らかな状況でした。
そのため,被害者自身の加入する人身傷害保険又は無保険車傷害保険での対応を予定することになりましたが,具体的な金額計算の結果,人身傷害保険の方が高額の保険金受領が可能であることが確認できたため,人身傷害保険を通じて金銭の支払を受けることとしました。

最終的には,自賠責保険金1051万円,これを除く人身傷害保険金が3,500万円を超える金額となり,合計で4,600万円超の支払を受けることができました。

ポイント
紛争処理機構を通じて併合7級が認められた
最も支払額の高い手続を選択し,4,600万円超の支払を獲得

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件は,股関節の受傷に関して,事故との因果関係と人工関節挿入後の可動域制限が同時に問題になるという,同種事例に乏しいケースでした。もっとも,一つ一つの争点を丁寧に分解して具体的に検討することで,いずれの争点についても適正な判断を獲得することが可能であることを示す事例になったと思います。

ただ,これらの争点は必ずしも被害者側に有利な判断がされるわけではなく,判断の難しい性質のものであることは間違いありません。実際,本件では,労働災害であったため労災の後遺障害等級認定も受けましたが,手続を尽くしたものの,結果は併合9級止まりでした。その理由は,因果関係の問題こそクリアできたものの,可動域制限の点について機械的に「他動」の値で判断するとの結論にしかならなかったためでした。

弁護士から,結果が伴うと安易に約束することは決してできませんが,最善を尽くし,ご依頼者の方が少しでも納得して今後の生活に向かっていただけるような活動は,今後も心掛けていきたいと強く感じる機会でもありました。

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相続放棄はどんなときにすべき?相続放棄のメリットや注意点は?弁護士の詳細解説で相続放棄をマスター

●相続放棄をする方法が知りたい

●相続放棄をする際に注意すべきことは?

●相続放棄が失敗してしまう場合はあるか?

●相続放棄の手順が知りたい

●相続放棄は弁護士に依頼すべきか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,相続放棄でお困りの方に向けて,相続放棄の方法や注意点相続放棄を弁護士に依頼するメリットなどを解説します。

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相続放棄とは

相続放棄とは,相続できる立場にある人が相続する権利を自ら放棄することを言います。相続に際して,亡くなった人を「被相続人」,相続できる立場の人を「相続人」と言いますが,相続放棄は,被相続人の相続財産について,相続人がその相続を受ける権利を放棄することを指す,ということができるでしょう。

相続放棄をした場合,放棄した相続人は,最初から相続人の立場にはなかったものと同じ扱いになります。そのため,被相続人の財産は,相続放棄をしていない相続人のみで分配することになります。

相続放棄すべき場合

相続放棄を行うべき場合の例としては,以下のようなケースが挙げられます。

①負債の方が多い

相続は,プラスの財産だけでなくマイナスの財産(負債)も対象になります。そのため,被相続人の財産が全体でマイナスの場合,相続人は借金を相続することになってしまう結果になりかねません。

そこで,被相続人の財産に負債の方が多い場合,相続放棄をして負債の相続を防ぐべきでしょう。負債の相続を防ぐという目的は,相続財産の理由として最も多く見られるものです。

②相続人間のトラブルを回避したい

共同相続人が多かったり,相続人間が不仲であったりする場合,相続の方法や内容についてトラブルになる可能性が高く見込まれます。特に,相続財産が大きかったり複数の財産があったりすると,それぞれの相続人は自己の利益を図るため自身に有利な相続を実現させようとする場合が多いでしょう。

このような相続人間のトラブルに巻き込まれたくない,という気持ちが強く,トラブルを避けられるのであれば相続ができなくても構わないと考える場合,相続放棄を行うべきでしょう。

③財産管理の負担を回避したい

相続財産の中には,管理が容易でない不動産や,財産的価値の不明確な資産が含まれていることも考えられます。また,相続税が多額になるなど,相続に必要な手続の負担が大きくなる場合もあり得ます。

そのため,相続手続や相続財産管理の負担を回避したい,という希望が生じる相続人もいますが,相続手続や相続財産管理の負担を回避するには相続放棄して相続人の地位から退くことが必要になります。

④特定の相続人に財産を集中させたい

相続人が相互に協力して,配偶者や身寄りのない子など,特定の相続人に財産を集中させたいと考えることもあり得ます。この場合,その特定の相続人以外が相続放棄すれば,自動的に財産を集中させることができるため,相続放棄が最も円滑な手段になりやすいでしょう。

⑤感情的に財産を受け継ぎたくない

被相続人との生前の関係が芳しくなかった場合など,感情的な理由で相続財産を受け取りたくないという場合は,相続人の立場から外れるのが最も端的であるため,相続放棄をするべきことになります。

相続放棄の方法

相続放棄は,家庭裁判所に対して必要な手続を講じる方法で行う必要があります。
具体的な流れは以下の通りです。

①家庭裁判所への申述

まずは,相続放棄をしたいという意思を表明するため,家庭裁判所に対して相続放棄の申述という手続を行う必要があります。申述に際しては,「相続放棄申述書」という書面に必要な事項を記載し,他の必要物・必要書類とともに提出することになります。

相続放棄申述書の書式は,裁判所のホームページからダウンロードする方法で入手が可能です。

相続放棄申述書 書式(未成年者)

相続放棄申述書 書式(成人)

また,相続放棄の申述に必要とされる基本的な提出書類は,以下の通りです。

申述時の主な提出書類

1.相続放棄申述書
2.被相続人の住民票(除票)
3.申述人の戸籍謄本
4.収入印紙(800円)
5.郵便切手470円(84円5枚,10円5枚)
6.被相続人の死亡記載がある戸籍謄本
7.前順位の相続人の死亡記載がある戸籍謄本

※申述人の立場により追加提出を要する場合もあるため,個別の必要書類は弁護士や裁判所に相談することをお勧めします。

②相続放棄照会書の受領・返送

相続放棄の申述を行うと,受け取った家庭裁判所から「相続放棄照会書」という書面が到着します。
相続放棄照会書は,相続放棄が適法に行われているかを確認し,相続放棄の申述を受理してよいか判断するために必要な事項を照会する書面です。例えば,相続放棄の期間制限を守っているか,相続放棄の意思は確かか,なぜ相続放棄をするのか,といった内容を問う内容であることが通常です。

③相続放棄申述受理通知書の受領

相続放棄照会書を返送し,必要な確認が終わると,「相続放棄申述受理通知書」という書面が裁判所から送られます。これは,相続放棄の申述を確かに受理した,という意味の通知書面であり,相続放棄が完了したことの裏付けになるものです。
相続放棄申述受理通知書の受領によって,相続放棄の手続は終了します。相続放棄の事実を証したい場合は,この通知書を示す方法で行うことが一般的です。

相続放棄の注意点

相続放棄は,法律でその要件が定められた裁判所の手続であるため,ルールに反したやり方では希望する結果が得られなくなってしまいます。そのため,問題になりやすいルールは事前に踏まえておくことを強くお勧めします。

相続放棄で問題になりやすい注意点としては,以下のようなものが挙げられます。

①撤回ができない

相続放棄は,一度受理された後に撤回することができません。そのため,相続放棄の手続が終了した後に「やはり相続したい」と思い直したとしても,希望通りにはならないのです。これは,相続の放棄や撤回が繰り返されてしまうと,相続をめぐる法律関係が複雑になり,他の相続人や関係者に重大な損害や悪影響が生じかねないためです。

もっとも,相続放棄の申述が受理される前に「取下げ」という方法を取ることは可能です。相続放棄の申述は,概ね1か月程度を目安に受理されますが,その期間中に家庭裁判所へ書面で取下げの意思を表明すれば,相続放棄を事実上撤回することができるでしょう。
ただし,申述の受理後に取下げはできないため,取下げは極力速やかに行う必要があります。

②未成年者の場合

未成年者は,法定代理人の同意なく単独で相続放棄をする権利がないため,未成年者が単独で相続放棄を行っても,後から法定代理人によって取り消される可能性があります。

未成年者の場合,単独で動くのではなく,必ず法定代理人とともに対応することをお勧めいたします。

③期間制限がある

相続放棄は,「相続の開始を知った日から3か月以内」という期間制限を守って行わなければなりません。特段の事情がない限り,この期間制限に反した相続放棄は受理をしてもらうことができなくなります。
この点,「相続の開始を知った日」とは,被相続人の死亡を知った日であることが通常です。例外的に,被相続人に当たる人物が死亡したことは知っていたものの,自分がその人物の相続人に当たる関係であることを知らなかった場合には,関係を知った日からとなり得ますが,かなり例外的なケースに限られるでしょう。

なお,期間制限を遵守できない可能性が高い場合には,家庭裁判所に請求することで期間の伸長をしてもらうことも可能です。
いずれにしても,期間制限を意識した対応は不可欠でしょう。

相続放棄の失敗①却下されると二度とできない

相続放棄の申述を行うと,家庭裁判所から「受理」(=許可)又は「却下」のいずれかの結果が通知されます。法律的に問題のない申述であれば基本的に受理されますが,重大な不備があるなど申述が却下される場合もあり得ます。

この点,一度相続放棄の申述が却下されると,再度相続放棄の申述を行うことはできません。却下の判断を争うためには,「即時抗告」という不服申立ての手続を用いる必要がありますが,即時抗告で判断が覆るケースは非常に少数と理解する必要があるでしょう。

そのため,相続放棄を確実に行いたい場合,いい加減に行うのでなく法律のルールを守って適切な方法で行うことが極めて重要です。

相続放棄の失敗②相続財産を費消してしまった

相続放棄は,放棄より前に相続を「単純承認」してしまっている場合には認められません。
単純承認とは,被相続人の権利義務を全て承継することを言いますが,単純承認するとプラスの財産もマイナスの財産も全てを引き継ぐことになるため,その後に相続放棄ができなくなるのです。

この点,相続放棄を希望する人が自ら単純承認の意思を表明することは考えにくいですが,一定の行動を取ってしまうと「法定単純承認」として単純承認したものとみなされてしまう場合があります。

典型例が,相続財産を費消してしまった場合です。
被相続人の預貯金を引き出して自分のために遣うなど,相続財産を自分のものとして扱う行為は,相続財産を自分の財産とする意思表明があるものと理解されるため,「法定単純承認」の対象となります。したがって,相続財産を費消してしまうと,その後に相続放棄はできません。

なお,法定単純承認事由は,以下の通りです。

法定単純承認事由

1.相続財産の処分(保存行為や一定の賃貸を除く)
2.相続放棄の熟慮期間の経過
3.限定承認や相続放棄後の背信的行為(隠匿・消費・財産目録への不記載)

相続放棄の失敗③放棄後に財産が見つかった

相続放棄は,プラスの財産よりマイナスの財産が上回ることを理由に行う場合が大多数です。つまり,マイナスの財産の方が多いと,相続しても借金を受け取るだけになってしまい損でしかないため,相続放棄によって損を避ける,というわけですね。

しかし,マイナスの財産の方が大きいと考えて相続放棄をしたものの,後になって新たな相続財産が見つかると,損得勘定は逆転してしまいます。この点,後でプラスの方が大きいと分かっても,「やっぱり相続したい」というわけにはいかないため,相続放棄が損になってしまいかねないのです。

損得勘定に基づく相続放棄の判断は,相続財産の内容や範囲を慎重に把握した上で行うのが合理的でしょう。

おすすめの記事:相続放棄の手続きを自分自身で対応する方法の紹介

弁護士依頼のメリット①早期対応が可能

相続放棄は,期間制限内に行う必要があることから,時間との勝負になる場合があります。また,相続放棄の申述に必要な書類には,戸籍や住民票が含まれますが,これらを全て取得するには複数の役場などに請求をかけなければならない場合も多く,相当に骨の折れる作業にもなります。

この点,弁護士に相続放棄を依頼すれば,必要な書面作成・収集の対応が早期に行えるため,安心して相続放棄を行うことができるでしょう。また,資料収集の負担も回避することができ,相続放棄の手続が生活を圧迫することもなくなります。

弁護士依頼のメリット②3か月経過後の放棄

相続放棄は,「相続の開始を知った日から3か月以内」という熟慮期間内に行うことが必要ですが,3か月という期間は決して長くないため,相続放棄を試みる頃にはその期間が経過してしまっていることも考えられます。

このとき,原則として相続放棄は認められませんが,粘り強く事情を説明し,家庭裁判所に認めてもらうことができれば,期間経過後であっても相続放棄ができる可能性もあり得ます。
具体的には,事情を説明するための書面を作成・提出し,裁判所の判断を仰ぐことになりますが,この手続は専門的な知識を持った者が行うべきです。3か月経過後の相続放棄については,可否の見通しも含めて弁護士への相談・依頼を検討するようにしましょう。

弁護士依頼のメリット③債権者対応をしてもらえる

相続放棄を試みる場合,被相続人の債権者から支払などを求められている状況であることも少なくありません。
この点,相続放棄の申述が受理された後であれば,請求を拒むことも容易ですが,相続放棄は申述後にすぐ受理されるわけではありませんし,そもそも申述に必要な書面の収集にも一定の時間がかかるため,その期間中における債権者対応は負担としてのしかかりやすいものです。

このとき,弁護士に依頼することで,自分では厄介な債権者への対応も全て代理人となる弁護士に任せることができます。債権者対応の負担がなくなれば,相続放棄が完了するまでの期間も安心して過ごすことができるでしょう。

相続問題に強い弁護士をお探しの方へ

相続放棄は,期間制限のある手続である上,裁判所に対して行う必要があるため手続のルールをきっちりと守る必要があります。
そのため,相続放棄の時期や方法を誤ると,取り返しのつかない不利益が生じる可能性もあり,相続放棄の検討は慎重に行う必要があるでしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,相続問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。

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寄与分はどんなときに認められる?相続人以外でももらえる?弁護士が具体的に計算しながら詳細解説

●寄与分とは何か?

●寄与分が生じるのはどのような場合か?

●寄与分が生じる場合の計算方法は?

●寄与分が生じた結果,遺留分が侵害されてもいいのか?

●寄与分に関する争いを防ぐ手段はあるか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,相続の寄与分でお困りの方に向けて,寄与分の意味や計算方法遺留分との関係やトラブル予防の手段などを解説します。

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寄与分とは

寄与分とは,相続人の中で被相続人の財産の維持または増加に特別の貢献をした者がいる場合,その貢献分を考慮して相続財産を分割する制度をいいます。
相続財産の増加に貢献した者がいる場合,その貢献を無視して機械的に相続分を計算するのは,かえって不公平な結果になってしまうため,寄与分として考慮することによって各人の公平を図ることとしています。

寄与分が生じる場合①相続人の一部の寄与分

共同相続人の中に,財産の維持や増加について特別の寄与をした者がいる場合,寄与した分だけその者の相続分を法定相続分より有利な金額にすることができます。この相続人の寄与分を指して「寄与分」ということが通常です。

寄与分が生じる場合②相続人以外の特別寄与料

2019年7月の民法改正によって,相続人以外の親族が相続財産の増加や維持に貢献した場合,その者が相続人に寄与分を請求できる制度が創設されました。寄与をした親族のことを「特別寄与者」,特別寄与者が請求できる金銭を「特別寄与料」と言います。

相続人の寄与分は,あくまで相続人のみを対象としたものであるため,相続人でない親族がどれだけ被相続人のために尽くしていたとしても,寄与分を得られないという問題がありました。
例えば,被相続人である高齢の父が,生前に息子の妻から献身的な介護を受けていたとしても,息子の妻は相続人でないため,寄与分を受領できる地位になかったのです。

そこで,特別寄与料の制度が設けられ,相続人でない親族にも貢献度に応じた公平な相続の余地が生まれました。

なお,特別寄与料の対象となる「親族」は,民法上の親族と同様であり,具体的には以下の通りです。

親族の範囲

1.6親等内の血族
2.配偶者
3.3親等内の姻族

(注意点)
a.血族とは「血縁関係にある者(養親子関係を含む)」をいいます。
b.姻族とは「配偶者の血族又は血族の配偶者」をいいます。
c.直系親族の親等は,血族間の世数を数えます。
d.傍系(共通の祖先がいる)親族間の親等は,共通の祖先までの世数と共通の祖先から下る世数を合算します。例えば,兄弟姉妹は「親まで遡る1親等」+「親から下る1親等」=2親等の血族です。
e.姻族の親等は,配偶者の親等と同一です。例えば,配偶者の甥や姪は,配偶者にとって3親等の血族(「親まで遡る1親等」+「親から下る2親等」)であるため,自分にとっては3親等の姻族となります。また,自分の甥や姪は,自分にとって3親等の血族であるため,甥や姪の配偶者は,配偶者である甥や姪を基準に3親等の姻族となります。

寄与分が生じる場合③遺言で分割内容が決定しない

遺言で遺産の配分がすべて決まっている場合,寄与分が生じる余地はありません。寄与分は相続分の問題(遺言で相続割合が決まっていない場合の問題)にとどまるため,仮に寄与分があったとしても遺言の内容に従うほかないということになります。

なお,本当に寄与分が生じており,被相続人が遺言を残しているのであれば,通常は寄与分を考慮した遺言となっているはずでしょう。遺産相続は,被相続人の意思に沿って行うのが大原則です。

寄与分の計算方法

相続人の一部に寄与分がある場合,各相続人の相続分は以下のステップで計算します。

1.みなし相続財産の計算
相続財産から寄与分を控除した金額を「みなし相続財産」と言います。

2.各相続人の法定相続分を計算
みなし相続財産を各相続人の法定相続分に応じて分ける方法で,各相続人の相続分を計算します。

3.寄与分の加算
→寄与分のある相続人についてのみ,計算された相続分に寄与分を加算した金額を相続分とします。

(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ1,000万円の寄与分がある場合

1.みなし相続財産の計算

遺産総額:5,000万円
寄与分:長男の寄与分1,000万円

みなし相続財産
→5,000万円-1,000万円=4,000万円

2.各相続人の法定相続分を計算

配偶者の法定相続分:2,000万円(4,000万円×1/2)
子2人の法定相続分:各1,000万円(4,000万円×1/2×1/2=1,000万円)

3.寄与分の加算

配偶者の相続分:2,000万円

長男の相続分:2,000万円(1,000万円+1,000万円)

次男の相続分:1,000万円

寄与分が遺留分を侵害した場合の解決方法

寄与分が非常に大きい場合,寄与分が生じたために遺留分が侵害されるという可能性もあり得ます。例えば,以下のようなケースです。

(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ3,000万円の寄与分がある場合

1.みなし相続財産の計算

遺産総額:5,000万円
寄与分:長男の寄与分3,000万円

みなし相続財産
→5,000万円-3,000万円=2,000万円

2.各相続人の法定相続分を計算

配偶者の法定相続分:1,000万円(2,000万円×1/2)
子2人の法定相続分:各500万円(2,000万円×1/2×1/2=500万円)

3.寄与分の加算

配偶者の相続分:1,000万円

長男の相続分:3,500万円(500万円+3,000万円)

次男の相続分:500万円

4.各人の遺留分(詳細はこちらの記事を参照)

配偶者の遺留分:1250万円(5,000万円×1/2×1/2)

長男の遺留分:625万円(5,000万円×1/2×1/2×1/2)

次男の遺留分:625万円(5,000万円×1/2×1/2×1/2)

上記の例の場合,配偶者と次男の相続分は遺留分を下回っているため,配偶者の遺留分が250万円,次男の遺留分が125万円侵害されている状況に至っています。

しかしながら,このような結論になることは,少なくとも法律上は特に問題ありません遺留分を侵害する寄与分生じてはならない,というルールが存在しないためです。
もっとも,現実に寄与分の金額を決定する際には,他の相続人の遺留分を考慮に入れて行うべきであり,裁判例でも同様の指摘をしたものがあります。そのため,現実的に遺留分を侵害するほど高額の寄与分が生じることはほとんどないでしょう。

寄与分の争いを防ぐ方法①遺言の作成

相続開始後に寄与分の争いを防ぐための最も端的な対策は,遺言を作成することでしょう。
寄与分は,その金額が明確に定めづらく,寄与分を有するはずの相続人や特別寄与料を請求できるはずの親族にとっても,請求の負担が大きくなりがちです。そこで,被相続人としては,貢献度の高い親族への配慮として,遺言で寄与分を加味した遺産の配分を決定することが適切になるであろうことが想像に難くありません。

もっとも,遺言の作成に際しては,内容面で遺留分等に配慮しなければならないほか,形式を誤れば全体が無効にもなりかねません。そのため,具体的な作成方法,内容については弁護士への十分な相談が望ましいでしょう。

寄与分の争いを防ぐ方法②生前贈与

生前贈与とは,文字通り被相続人が自身の生前に贈与を行うことです。多くの場合,被相続人が生前の感謝を込めて,特定の人物に自己の財産を贈与するときに用いられます。

ただ,生前贈与は贈与税の問題が生じるほか,金額によっては遺留分侵害の問題にもなりかねず,慎重な検討が必要な問題です。具体的な生前贈与の検討に際しては,こちらも弁護士へのご相談をお勧めいたします

相続問題に強い弁護士をお探しの方へ

寄与分は,過去に貢献した相続人や親族のための制度ですが,他の相続人からは分かりづらい場合もあり,争いになることも少なくありません。
金額計算も容易でなく,相続人間の紛争も大きくなりやすいため,寄与分が想定される遺産分割については,相続問題に精通した弁護士へのご相談が適切でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,相続問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。

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特別受益とは何なのか?遺留分との関係は?特別受益の争いを回避するには?弁護士が全面網羅

●特別受益とは何か?

●生前贈与を受けた人だけ得をするのは不公平では?

●何が特別受益に当たるのか?

●特別受益と遺留分はどういう関係にあるのか?

●特別受益がある場合の相続分の計算を知りたい

●遺言に沿って贈与された場合の特別受益はどうなるか?

●特別受益を主張できる期間に制限はあるか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,相続の特別受益についてお困りの方に向けて,特別受益の意味や内容特別受益が生じる際の計算方法トラブルを未然に防ぐ方法などを解説します。

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特別受益とは

特別受益とは,相続人の一人が被相続人からその生前に受けた特別な財産の贈与や利益をいいます。特定の相続人に対する特別受益があった場合,その相続人の受けた利益を相続財産の前渡しとして扱い,その分を相続分から控除することになります。

特別受益を相続財産の前渡しとして取り扱うことによって,相続人間で遺産の分割が不公平になるのを防ぐことができます。

特別受益に当たるもの

特別受益には以下のようなものが含まれます。

1.生前贈与
被相続人が生前に相続人に対して行った贈与。例としては、結婚や生活資金の援助、住宅購入資金の贈与などがあります。

2.遺贈
遺言により特定の相続人に財産を与えること。

3.養育費・学費
他の相続人と比べて特別に多額の養育費や学費を支払っていた場合。

いずれも,被相続人から相続人の一人についてだけ特に経済的な利益が与えられた場合,その利益が特別受益に当たると理解されるものです。

特別受益がある場合の相続分の計算

特別受益がある場合における各相続人の相続分は,以下のステップで計算します。

1.みなし相続財産の計算
相続財産に特別受益分を加えた金額を「みなし相続財産」と言います。

2.各相続人の法定相続分を計算
みなし相続財産を各相続人の法定相続分に応じて分ける方法で,各相続人の相続分を計算します。

3.特別受益分を控除
→特別受益を受けた相続人についてのみ,計算された相続分から特別受益分を控除した金額を相続分とします。

(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ生前に住宅資金1,000万円の特別受益を得ていた場合

1.みなし相続財産の計算

遺産総額:5,000万円
特別受益:長男が生前に受けた住宅資金1,000万円

みなし相続財産
→5,000万円+1,000万円=6,000万円

2.各相続人の法定相続分を計算

配偶者の法定相続分:3,000万円(6,000万円×1/2)
子2人の法定相続分:各1,500万円(6,000万円×1/2×1/2=1,500万円)

3.特別受益分を控除

配偶者の相続分:3,000万円

長男の相続分:500万円(1,500万円-1,000万円)

次男の相続分:1,500万円

遺留分と特別受益の関係

①遺留分と特別受益の区別

遺留分と特別受益は,いずれも被相続人から特別な財産の譲渡が行われた場合に相続人の公平を図るための制度ですが,具体的な内容は大きく異なります。
それぞれの意味は以下の通りです。

遺留分
遺贈や生前贈与によっても侵害されない,相続人の最低限の取り分

特別受益
相続人の一人が被相続人から受けた特別な財産的利益
特別受益があった場合,その分を加味して相続分を計算することにより,他の相続人の相続分が減少することを防ぐ

遺留分は,遺言等によって法定相続分を下回る相続しかできない人でも,最低限受領できる取り分を定めることによって,相続人を保護する制度です。つまり,特別受益が相続分を決定するときの問題であるのに対して,遺留分は相続分通りの遺産分割が行われなかったときの問題である,という整理になるでしょう。

②遺留分と特別受益が関係する場合

特別受益が生じている場合,遺留分も特別受益を加味して計算することになります。そのため,特別受益があれば遺留分の金額にも影響を及ぼすことになります。

(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ生前に住宅資金1,000万円の特別受益を得ていた場合

1.みなし相続財産の計算

遺産総額:5,000万円
特別受益:長男が生前に受けた住宅資金1,000万円

みなし相続財産
→5,000万円+1,000万円=6,000万円

2.遺留分の計算(詳細はこちらの記事を参照)

「直系尊属のみが相続人の場合」に該当しないため,各相続人の遺留分は法定相続分の2分の1となります。

配偶者の遺留分:1,500万円(3,000万円×1/2)
子2人の遺留分:各750万円(1,500万円×1/2)

3.特別受益の控除

特別受益のあった相続人については,特別受益分の遺留分を確保する必要がないため,遺留分から特別受益分を控除します。

配偶者の相続分:1,500万円

長男の相続分:0円(「750万円-1,000万円」がマイナスになるため)

次男の相続分:750万円

問題が生じない場合①遺言で遺産配分を定めている

特別受益が問題になるのは,相続分を計算する局面であるため,相続分に沿った遺産分割の必要がなければ,特別受益の問題自体が生じません。具体的には,遺言で遺産の配分が定められている場合が代表例でしょう。

遺言がある以上は,遺産分割協議や相続分よりも先に遺言に従って遺産を分割する必要がある,というのが原則です。そのため,遺言がある場合には特別受益の問題は生じず,後は遺留分が侵害されているかどうかの話になる,ということですね。

なお,遺留分の算出に当たって特別受益を加味した計算を行う点は,上記の通りです。

問題が生じない場合②被相続人の持戻し免除

特別受益がある場合,特別受益を相続財産からの前払いとみなして,相続財産に組み込んで相続分の計算を行いますが,特別受益を相続財産の計算に加えることを「持戻し」といいます。
この点,被相続人が特別受益について「持戻し免除の意思表示」を行うことで,遺留分を侵害しない範囲で持戻ししないで計算することが可能です。

これまでの例の場合だと,持戻し免除された場合の相続分は以下の通りです。

(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ生前に住宅資金1,000万円の特別受益を得ていた場合

1.みなし相続財産の計算

遺産総額:5,000万円
特別受益:長男が生前に受けた住宅資金1,000万円
持戻し免除:特別受益は持戻しをしない

みなし相続財産
→5,000万円+0万円=5,000万円

2.各相続人の法定相続分を計算

配偶者の法定相続分:2,500万円(5,000万円×1/2)
子2人の法定相続分:各1,250万円(5,000万円×1/2×1/2=1,250万円)

3.特別受益分を控除

配偶者の相続分:2,500万円

長男の相続分:1,250万円(1,250万円-0万円 持戻し免除のため)

次男の相続分:1,250万円

持戻し免除が活用されるのは,特別受益と評価する方がかえって不公平になってしまう場合です。事業の承継に不可欠な財産を譲渡したに過ぎない,という場合などが代表的です。

特別受益を主張する期間の制限

2023年4月の民法改正により,相続開始から10年経過後の遺産分割は具体的相続分(特別受益等を加味した相続分)でなく法定相続分(特別受益等を加味しない相続分)によることとなりました。そのため,相続開始から10年が経過すると,特別受益を主張することができません。

もっとも,以下の場合には例外的に10年経過後も特別受益の主張が可能です。

1.10年の経過前6か月以内に遺産分割を請求できないやむを得ない事由があった相続人が,そのやむを得ない事由の消滅後6か月以内に家庭裁判所へ遺産分割請求したとき

2.相続人全員の合意があるとき

「遺産分割を請求できないやむを得ない事由」に当たる場合としては,被相続人が長期間行方不明になっていたため,死亡の事実が確認できないでいたケースなどが挙げられます。

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特別受益は,相続財産を公平に分割するための制度ですが,特別受益が生じたことにも一定の理由がある場合が多く,特別受益を加味した解決は容易ではありません。
特に,遺言で相続の内容が定められていない場合,特別受益を含む遺産分割の協議は難航しやすく,相続問題に精通した弁護士への依頼が有力になりやすいでしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,相続問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。

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遺留分侵害権請求ってどんな請求?遺留分は誰がいくらもらえるの?遺留分はこれで簡単理解

●遺留分とは何か?

●遺留分が問題になるのはどんな場合か?

●遺留分侵害額請求とはどうすればいいか?

●遺留分の主張をする期間の制限は?

というお悩みはありませんか?

このページでは,相続における遺留分の問題でお困りの方に向けて,遺留分の内容や問題になる場面遺留分の主張をする方法や注意点などを解説します。

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遺留分とは

遺留分とは,一定の相続人に法律上認められた最低限の取り分のことをいいます。

被相続人は,遺言によって相続財産の分割方法を定めることができ,また生前贈与や遺贈という方法で相続財産を他者に渡すこともできますが,このような被相続人の希望によっても,遺留分を侵害することはできず,遺留分を侵害された相続人は取り戻すことが可能です。

もっとも,遺留分は,一定の相続人の生活を保障するための最低限の取り分にとどまるため,遺留分が得られる権利者やその割合は限定されています。

遺留分が問題になる場合

①遺留分の権利者

法律で相続人としての地位が認められているのは,①配偶者,②子,③直系尊属,④兄弟姉妹ですが,そのうち遺留分権利者は①配偶者,②子,③直系尊属のみです。④兄弟姉妹は,法定相続人ではあるものの遺留分を有しません。

もっとも,直系尊属に法定相続分が生じるのは,子がいない場合のみです。そのため,子がいる場合には直系尊属に法定相続分がなく,最低限保障すべき遺留分もありません。
遺留分が問題になるのは,配偶者,子,直系尊属のうち,法定相続分がある者の遺留分が侵害された場合,ということになります。

②遺留分の割合

遺留分の割合は,二段階の計算で特定する必要があります。

遺留分の割合を計算する二つの段階

1.総体的遺留分
2.個別的遺留分

1.総体的遺留分

相続財産全体のうち遺留分の対象となるのはいくらか,という問題です。この総体的遺留分は,誰が相続人になるのかによって変わります。

a.直系尊属のみが相続人の場合
→親や祖父母といった直系尊属のみが相続人の場合,総体的遺留分は相続財産全体の3分の1となります。

b.「直系尊属のみが相続人の場合」以外の場合
→配偶者や子が相続人である場合(配偶者と直系尊属が相続人の場合も含む),総体的遺留分は相続財産全体の2分の1となります。

2.個別的遺留分

個別的遺留分は,それぞれの相続人の遺留分を指します。これは,総体的遺留分のうち,それぞれの相続人がどれだけの割合を遺留分として有するのか,という問題です。
この点,個別的遺留分は,総体的遺留分に各相続人の法定相続分を掛け合わせる方法で算出されます。つまり,総体的遺留分を相続財産全体と見立て,法定相続分に応じて分け合うような形をとっているわけですね。

3.遺留分の簡易な計算方法

各々の遺留分は,基本的に「法定相続分の半分」と理解することが可能です。ただし,相続人が直系尊属のみである場合だけは,「法定相続分の3分の1」ということになります。

4.遺留分一覧

法定相続人総体的遺留分配偶者直系尊属
配偶者のみ1/21/2
配偶者と子1/21/2×1/2=1/41/2×1/2=1/4
配偶者と直系尊属1/21/2×2/3=1/31/2×1/3=1/6
配偶者と兄弟姉妹1/21/2
子のみ1/21/2
直系尊属のみ1/31/3
兄弟姉妹のみなし

なお,子と直系尊属の遺留分は,同じ立場の人が複数人いる場合,上記の割合をさらに均等割りすることになります。例えば,「子のみ」の場合,遺留分は1/2ですが,子が2人いればそれぞれの子の遺留分は1/4ずつとなります。

遺留分侵害額請求とは

遺留分権利者は,自身の遺留分が侵害されている場合に,これを取り戻すことが可能です。遺留分権利者が侵害された自分の遺留分を取り戻す請求を,「遺留分侵害額請求」といいます。

生前贈与や遺贈によって遺留分が侵害されていれば,遺留分侵害額請求によって,遺留分が侵害された限度でその損害額を金銭賠償するよう求めることができます。

(例)
相続財産1,000万円,相続人は子がA,Bの2名のみである場合
遺言でAの相続分900万円,Bの相続分100万円と定められていたとき

A,Bともに遺留分は250万円あるため,遺言によって遺留分が150万円侵害されている
→BがAに対して150万円の支払いを求める遺留分侵害額請求が可能

遺留分侵害額請求の方法 ①協議

遺留分侵害額請求の方法は裁判手続に限定されていません。そのため,まずは当事者間での協議を試み,直接の解決を試みるのが最も円滑です。
相手に遺留分の侵害があることを伝えた上で,支払の意思があるかを確認するのが適切でしょう。

協議で解決ができる場合は,その解決内容を書面に残しておくことが適切です。遺留分侵害額請求は,請求された相手にとってはメリットのない話であるので,解決内容を相手に守らせるためには相手を強制させられるような書面の裏付けがあるべきでしょう。
念を押す場合は,公正証書の形で書面化することも有力です。適切な方法で公正証書を作成すれば,相手が約束を守らなかった場合に公正証書に基づいて強制執行が可能になります。

一方,協議で解決が見込まれない場合は,請求内容を書面化するようにしましょう。具体的には,配達証明付きの内容証明郵便を利用して,相続の開始から1年以内に請求したことが書面に残る形を取るのが適切です。
これは,遺留分侵害額請求権の消滅時効が争点にならないようにするための重要な動きになります。

遺留分侵害額請求の方法 ②調停

協議が奏功しない場合は,裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立て,調停での解決を目指します。この調停は,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる方法で行うことが可能です。
調停では,裁判所を介して当事者間での合意による解決を試みます。自分の主張が適切である場合は,裁判所(裁判官又は調停委員)から相手方への説得を期待することもできるでしょう。

調停で合意に至った場合は,合意内容を書面化した調停調書が作成されます。相手が調停調書の内容に反して支払を拒んだ場合は,調停調書を根拠に強制執行をし,相手の財産から金銭を回収することが可能です。

遺留分侵害額請求の方法 ③訴訟

遺留分侵害額請求調停が不成立となった場合,請求するには遺留分侵害額請求訴訟の提起が必要となります。この訴訟は,請求者の住所地を管轄する地方裁判所や簡易裁判所に提起することが可能です。

訴訟の局面では,証拠によって請求内容が証明されるか,という問題になります。証明を要する具体的な事項はケースによりますが,遺留分計算の前提となる相続財産の範囲の特定が難しい場合は多く見られます。特に,相続人間で相続財産の範囲に争いがある場合には,自分の主張の根拠となる客観的な証拠を収集・提出することが必要になるでしょう。

訴訟において,和解や判決によって支払が認められた場合,これに反して相手が支払を拒んでも,和解や判決を根拠に強制執行が可能です。

遺留分侵害額請求の注意点

遺留分侵害額請求権は,2019年7月の民法改正でルールの変わった部分でもあるため,利用時には以下のような点に注意が必要です。

①相続の発生時期

遺留分侵害額請求の対象となるのは,2019年7月1日以降に発生した相続です。2019年6月30日以前に発生した相続については,民法改正前の「遺留分減殺請求」の対象となります。

②解決(支払)方法

遺留分侵害額請求の場合,侵害方法にかかわらず侵害額を金銭で支払う方法により解決することになります。これは,民法改正前の「遺留分減殺請求」が現物返還を原則としていたこととの極めて大きな違いです。

不動産のような大きな財産を現物返還をすると,結局その後どのように遺産分割するか,遺留分をどのように確保するのかという点が何も解決しないままになってしまい,円滑な解決が困難になってしまいます。そのため,民法改正後の遺留分侵害額請求では,金銭での解決とすることで遺留分問題の端的な解決を可能にしたというわけです。

③対象となる生前贈与の範囲

遺留分侵害額請求の場合,対象となる生前贈与の範囲は相続開始前10年以内のものに含まれます。つまり,15年前や20年前の生存贈与を理由に遺留分侵害額請求をすることはできません。

民法改正前の遺留分減殺請求では,対象となる生前贈与に制限はないとされていましたが,あまりに古い生前贈与が問題になると,いつまでも遺留分問題が解決しないため,法律関係が不安定になりかねないという問題がありました。
そこで,遺留分侵害額請求では対象となる生前贈与を像族開始前10年以内と制限することとしています。

遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権は,以下の消滅時効の対象になります。

遺留分侵害額請求権の消滅時効

1.相続が開始したこと
2.自分の遺留分が侵害されていること

「1」と「2」の両方を知った日から1年以内に請求しない場合

また,相続の開始や遺留分の侵害を知らなかった場合でも,相続開始から10年が経過した段階で遺留分侵害額請求ができなくなります。この期間制限は「除斥期間」と呼ばれます。

さらに,遺留分侵害額請求権を行使すると,請求者は金銭を請求する権利を獲得することになりますが,この金銭債権は,遺留分侵害請求権とは別に消滅時効の対象となります。具体的には,遺留分侵害額請求を行ってから5年が経過すると,遺留分侵害額請求によって得られた金銭債権について消滅時効が完成してしまいます。

時効については,「遺留分侵害額請求権の時効」と,「遺留分侵害額請求権を行使して得られた金銭債権の時効」それぞれに注意することが肝要です。

ポイント 時効
相続の開始と遺留分侵害を知ってから1年
相続の開始から10年
遺留分侵害額請求によって得られた金銭債権は,侵害額請求の日から5年

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遺留分は,遺産分割によって不当に不利益な結果になる人が出ないよう設けられた,セーフティネットというべきものです。
自身の遺留分が侵害されている場合は,この制度を活用して適切な請求を行うべきですが,内容や方法は専門的知識を要するため,弁護士へのご相談が有力でしょう。

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債務整理すると資格はなくなる?解雇される場合はある?資格への影響でお悩みの方へ弁護士が解説

●債務整理は自分の持つ資格に影響するか?

●自己破産は資格への影響を防げるか?

●個人再生は資格への影響を防げるか?

●任意整理は資格への影響を防げるか?

●債務整理で失った資格は取り戻せるか?

●債務整理の資格への影響で注意すべきことは?

というお悩みはありませんか?

このページでは,債務整理の資格への影響についてお困りの方に向けて,債務整理が資格に影響を及ぼすケースや,失った資格を取り戻せる場合などを解説します。

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債務整理が資格に影響する理由

債務整理をすると,一定の資格や免許などを持って行う業務に制限の生じる可能性があります。
例えば,弁護士の場合,「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」について欠格(資格を有しない)としており,破産手続開始決定を受けると資格を失うことになります(弁護士法7条4号)。

このように,債務整理が一定の資格に影響を与えるかどうかは,それぞれの資格について規律した法令によって定められています。特定の資格が影響を受けるかどうかは,その資格について定めた法令の内容を確認することが必要になるでしょう。

影響を受ける資格の類型

債務整理の影響を受ける資格の類型としては,以下のようなものが挙げられます。

資格・職業制限の例

1.一定の士業
→弁護士,公認会計士,司法書士,社会保険労務士など

2.金融機関等の役員
→日本銀行役員,銀行の取締役,協同組合の役員など

3.公的な委員会の委員
→公正取引委員会の委員,教育委員会の委員など

4.登録や免許を要する職業
→宅地建物取引主任者の登録,貸金業の登録,酒類の販売免許など

5.一定の事業の許可
→建設業許可,廃棄物処理業許可,風俗営業許可等

法律関係に携わる士業や,金銭の管理に携わる地位・職業などが広く対象とされています。
一方,医師や看護師,薬剤師,保育士などは,著名な資格ではあるものの債務整理による制限が生じません。

自己破産は資格に影響するか

自己破産の場合,資格に直接影響することが懸念されます。というのも,一般的に債務整理が資格や職業に影響を与えるのは,「破産手続開始決定から免責許可決定までの間」であるためです。

上記で紹介した弁護士法7条4号は,「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」を欠格者としていましたが,弁護士に限らず,資格に影響が生じる場合の具体的な定めは「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」というものです。
破産手続開始の決定を受けると,復権を得ない限りは資格を失った状態になる,ということになります。

そして,「復権」とは,制限された資格(権利)が回復することをいいます。この復権には,2つの種類があります。

復権の種類

1.当然復権
2.申立てによる復権

1.当然復権】

法律上当然に復権が生じる場合をいいます。当然復権となるのは,以下の4つの場合です。

当然復権となる場合

a.免責許可決定が確定したとき
b.債権者全員の同意により破産手続廃止が確定したとき
c.再生計画の認可決定が確定したとき
d.破産手続開始決定から10年経過したとき

a.免責許可決定が確定したとき

自己破産の手続きが無事に終了し,免責決定に至った場合を指します。
最も代表的な当然復権の類型です。

b.債権者全員の同意により破産手続廃止が確定したとき

返済の目途が立ったなどの理由で,債権者全員が「破産しなかったこと」にすることに同意した場合を指します。債権者にメリットがないため通常は考えにくいでしょう。

c.再生計画の認可決定が確定したとき

自己破産で免責許可が得られなかったため,個人再生手続に切り替えた場合の定めです。再生計画とは,債権者に対する返済のプランを指しますが,その再生計画の認可が下りれば復権となります。

d.破産手続開始決定から10年経過したとき

免責許可が得られなくても,破産手続の開始決定から10年が経過すれば復権します。ただし,「詐欺破産罪」で有罪判決を受けていないことが必要となります。
詐欺破産罪は,破産者が所有する財産を隠すなどして虚偽の破産を行う犯罪です。

2.申立てによる復権】

破産手続開始決定後,免責許可決定を得るまでの間に,相続を受けたなどして大金を取得し,借金を完済できる場合もあり得るところです。この場合,免責許可決定を受けることがないため,免責許可決定に伴う当然復権が生じず,復権するためには申立てをする必要があります。

このようなときに用いられるのが,申立てによる復権です。

以上の通り,復権にはいくつかの類型がありますが,最も代表的なものが免責許可決定の確定による当然復権です。そのため,債務整理が資格や職業に影響を与えるのは,「破産手続開始決定から免責許可決定までの間」となりやすいのですね。

なお,復権した場合,破産手続開始決定を理由とする資格制限が消滅するため,それまで通りに資格を用いた業務が可能になります。

ポイント
破産手続開始決定によって資格制限が生じる
復権すれば資格制限が消滅する
復権の代表例は免責許可決定の確定

個人再生は資格に影響するか

債務整理が資格に影響するかは,その資格について規律する法令の定めによりますが,現在,個人再生を理由に制限が生じる資格や職業はありません。そのため,個人再生は資格に影響しない,という結論になります。

そもそも,個人再生は,安定した収入が得られる人を対象にした債務整理手続であり,返済プランである再生計画も,安定収入を前提としたものです。そのため,個人再生によって資格に影響することは制度の性質上ないということになるでしょう。

任意整理は資格に影響するか

任意整理は,つまるところ当事者間の交渉にとどまります。債権者と交渉をすることで資格に影響が生じることはないため,任意整理が資格に影響することはありません。

資格への影響を防ぐために適切な手段は

資格への影響を防ぎたい場合,適切な債務整理の手段は自己破産以外のいずれか(個人再生又は任意整理)ということになるでしょう。特に,資格を活用した仕事をしている立場の場合,安定収入が見込まれやすいため個人再生と相性がいい状況にあることが多いかもしれません。

もっとも,自己破産をしても,復権すれば資格への影響は消滅します。復権までの期間は,一般的には免責許可決定までの期間ということになりますが,ケースにより数か月,といったところでしょう。
免責許可決定までの資格制限が受け入れられる場合は,自己破産も選択肢に入ってくるでしょう。

ポイント
資格に影響を及ぼすのは自己破産のみ
もっとも,その期間は破産手続開始決定から免責許可決定の確定まで

資格への影響と解雇

自己破産によって資格への影響が生じた場合,資格への影響そのものは一定期間で終了するとしても,勤務先を解雇されてしまえば仕方がありません。そこで,自己破産と解雇との関係が問題になるところです。

この点,まず,自己破産を理由とした解雇は違法であるとの理解が通常です。自己破産は解雇の合理的な理由であると考えられていないため,自己破産を理由に解雇をすることは認められないのが一般的でしょう。
ただし,自己破産によって資格に影響を及ぼす場合は事情が変わってくる可能性もあり得ます。特に,制限された資格がなければ仕事ができない場合や,資格があることを前提に雇用した場合など,資格制限が雇用契約に重大な影響を及ぼすときには,自己破産(による資格制限)を理由とした解雇も適法になる可能性があるでしょう。

もっとも,個人再生や任意整理の場合は,資格への影響が生じないため,自己破産のように解雇が適法になるケースはほとんどないと思われます。

ポイント
自己破産そのものは解雇の理由にできない
自己破産に伴う資格制限が解雇の理由になる場合は仕事によりあり得る
個人再生や任意整理を理由にした解雇は基本的に違法

借金問題に強い弁護士をお探しの方へ

債務整理のうち,自己破産は本人の持つ資格を失わせることになる場合があります。
同時廃止で免責許可が見込まれる場合には,比較的影響は小さく済みやすいですが,それでも影響を防ぐことは困難であり,自己破産の前に十分な検討が必要です。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,借金問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決に向けたお力添えをすることが可能です。
お困りごとの際は,ぜひお気軽にご相談ください。

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自宅や車を失わずに債務整理したい人へ,基本的な考え方から詳しい制度まで弁護士が完全網羅

●債務整理で自宅や車を守りたいときはどうすべきか?

●自己破産で自宅や車を守れるか?

●個人再生で自宅や車を守れるか?

●任意整理で自宅や車を守れるか?

●自宅や車を守る場合の注意点は?

というお悩みはありませんか?

このページでは,債務整理で自宅や車を守りたいとお考えの方に向けて,債務整理で自宅や車を守るための方法や注意点などを解説します。

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債務整理で自宅や車を守る必要

債務整理は,債務者の債務と財産を取り扱う手続です。そして,自宅や自動車も重要な債務者の財産であるため,手続によっては自宅や車を手放した上で経済的な再建を目指さなければなりません。

しかし,自宅や車は生活の基盤となる財産であり,その経済的価値は他の財産よりも著しく高額であることが一般的です。そうすると,債権者のためには金銭に換価して配当に回すべきですが,債務者の経済的再建のためには奪ってしまう不利益があまりに大きい財産となり得ます。

そのため,債務整理の手続選択によっては,自宅や車を守ることができるようにしながら,経済的再建を目指すことも可能とされています。

ポイント
自宅や車は高価な財産であるため,債権者のためには金銭に換価して配当に回すべき
もっとも,自宅や車を奪われると債務者の生活が再建できなくなる恐れがある

方法①自宅や車を対象としない手続を使う

債務整理で自宅や車を守るためには,そもそも自宅や車を対象としない債務整理を行うことが一案です。債務整理には,債務の全てを対象としなければならない手続(自己破産,個人再生)と,債務の一部だけを対象とすることのできる手続(任意整理)があります。そのため,任意整理を実施の上,自宅や車と関係のない債務だけを対象とすれば,自宅や車を守りながらの債務整理ができることになります。

方法②自宅や車の処分を免れる制度を活用する

債務整理においては,財産の処分を要する手続(自己破産)と財産の処分を原則として要しない手続(個人再生,任意整理)があります。そのため,財産の処分を要しない手続を用いることで,自宅や車の処分を免れられる可能性があります。

もっとも,自宅や車はローンでの購入も多く,ローンがあるとそう簡単には自宅や車を守れません。ローンは,購入した自宅や車そのものを担保にしていることが多いため,返済ができない場合には担保が実行され,自宅や車を引き揚げられてしまう可能性が高いのです。

この点,個人再生の場合に限り,住宅ローン付きの自宅でも処分を免れる制度があります(いわゆる住宅ローン特則)。自宅の重要性を踏まえ,自宅を守りながら個人再生を実現する手段を法律が用意しているのですね。

ポイント 自宅や車を残す方法
自宅や車と関係のない債務だけを対象にする
財産の処分をしなくてもよい手続を用いる(ただしローンがあると不可)
住宅ローンについては,個人再生の場合に限り特別な制度がある

自己破産は自宅や車を守れるか

自己破産は,必要最低限の財産を除き一切の財産を処分した上で,引き換えに債務も免除することによって,財産も債務もない状態とすることを目指す手続です。そのため,自己破産後に所持していられる財産は,20万円以下のものに限られます。

この点,車に関しては,売却価格の査定を行い,20万円以下であることが示せれば,処分することなく自己破産が可能です。もっとも,自宅に関しては,明らかに売却価値がないような例外的場合を除き処分せざるを得ないため,自宅を守りながら自己破産するのは不可能と考えるべきでしょう。

なお、自宅に関しては、まず売却を検討することも有力な選択肢の一つになり得ます。

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ポイント 自己破産の場合
住宅を守ることは困難
車は売却価格が20万円以下であれば守ることが可能

個人再生は自宅や車を守れるか

①自動車について

個人再生は,基本的に財産の処分を必要としない手続であるため,個人再生をしたからといって自動車を手放す必要はありません。特に,一括払いで購入した場合や,ローンを組んで完済済みの場合など,自動車代金の支払が残っていない状況であれば,全く問題なく自動車を守ることが可能です。
しかし,以下の場合には,個人再生に際して自動車の処分が必要となります

個人再生で自動車の処分が必要な場合

1.自動車ローンが完済前であり,
2.自動車に「所有権留保」がついている場合

自動車をローンで購入するとき,売主が「所有権留保」という担保を設定することがあります。これは,ローンが完済されるまでは自動車の所有権を売主にとどめておく(留保する)というものです。所有権留保があると,ローンの完済前は自動車の所有権が販売者側にあるため,所有権留保を実行することで自動車を引き上げることができます。これにより,代金の支払が滞るケースに備えるというわけですね。

ポイント
基本的に自動車の処分は必要ない
ローン完済前かつ所有権留保がついていると,自動車を失う可能性あり

②自宅について

自宅についても,代金が全額支払済みであれば処分は必要ありませんが,現実的にそのようなケースはほとんどないでしょう。
したがって,住宅ローンの支払が残っていることになりますが,住宅ローンの担保として自宅に抵当権が設定されているのが通常です。そのため,住宅ローンが支払えないとなると抵当権が実行されて住宅が強制的に売却させられ,ローンの支払に充てられてしまいます。
しかし,全てのケースでこのようにするのはあまり経済的に望ましくない上,債務者の経済的再建にとっても著しいマイナスになることが間違いありません。

そこで,個人再生に限り,「住宅資金特別条項」(いわゆる住宅ローン特則)という制度が用意されており,自宅を守りながら個人再生できる場合があります。
住宅資金特別条項」は,住宅ローンを個人再生の対象となる債権から外し,住宅ローンだけはそれまで通り支払い続ける,という個人再生の制度です。この制度を利用するには,以下の要件を満たすことが必要とされます。

住宅資金特別条項の要件

1.対象の債権が住宅資金貸付債権(住宅ローンとしての貸付)である
2.住宅ローンの担保となっている住居が債務者所有の建物である
3.住宅ローンの担保となっている住居が債務者居住用の建物である
4.住宅が住宅ローン以外の担保になっていない
5.保証会社が代位弁済した場合,代位弁済日から6か月以内に申立てている

1.対象の債権が住宅資金貸付債権(住宅ローンとしての貸付)である

住宅資金貸付債権とは,以下の債権をいうと定義されています(民事再生法196条3号)。

住宅資金貸付債権とは
a.住宅の建設,購入,改良に必要な資金を貸付したものである
b.分割払いでの貸付である
c.債権を担保するため,住宅に抵当権が設定されている

つまり,一般的な住宅ローンを指していると理解してよいでしょう。

2.住宅ローンの担保となっている住居が債務者所有の建物である

住宅資金特別条項の対象となるのは,「住宅」に対するローンに限られますが,「住宅」とは債務者自身が所有する建物をいいます(民事再生法196条1号)。

3.住宅ローンの担保となっている住居が債務者居住用の建物である

住宅」に該当するためには,債務者が所有するのみならず,債務者が自己の居住の用に供する建物でなければなりません(民事再生法196条1号)。
また,床面積の2分の1以上が専ら自己の居住の用に供されるものであることも必要です。自宅兼店舗といった形態の場合,「自宅」に当たらない可能性が生じ得るでしょう。

4.住宅が他のローンの担保になっていない

住宅が住宅ローン以外の債権の担保にもなっている場合,住宅資金特別条項を利用することができません(民事再生法198条1項)。これは,住宅が他の債権の担保にもなっていると,その債権者が担保を行使してしまい,結果的に住宅を守る手段がなくなってしまうためです。

この点,夫婦でペアローンを組んでいるときには注意が必要です。ペアローンの場合,住宅は夫の住宅ローンの担保であると同時に妻の住宅ローンの担保でもあるため,夫婦どちらの立場から見ても「住宅が他のローンの担保になっていない」場合に当たらないのです。
このときは,夫婦がそれぞれ個人再生を申し立てることで,住宅資金特別条項の利用を認められる可能性があります

5.保証会社が代位弁済した場合,代位弁済日から6か月以内に申立てている

保証会社を付けている場合,金融機関は保証会社に対して支払を求め,保証会社が代わりに返済することがあります。これを「代位弁済」と言います。保証会社が代位弁済をした場合には,その弁済の日から6か月以内に再生手続開始の申立てをしなければ,住宅資金特別条項は利用できません(民事再生法198条2項)。

以上の通り,要件は複数に渡りますが,一般的な住宅ローンであって,住宅を住宅ローン以外の担保にしていなければ,条件を満たす可能性は非常に高いと思われます。

ポイント
自宅は住宅ローンが残っている限り抵当権が実行され競売されるのが原則
住宅資金特別条項を利用できれば,自宅を守りながら個人再生できる

任意整理は自宅や車を守れるか

任意整理は,債務者自身が債務を選択し,選択した債務について債権者と返済の交渉をする方法です。そのため,任意整理に当たって住宅ローンや自動車ローンを扱わなければならないわけではありません。

この点,債務整理で自宅や車を守れない場合があるのは,住宅ローンや自動車ローンの返済ができないと債権者に発覚し,債権者がローンの担保を実行するからです。そうすると,ローンの返済ができないと債権者に発覚しなければ,自宅や自動車を守りながらの債務整理が可能ということになります。

任意整理の場合には,住宅ローンや自動車ローンには手を付けず,ほかの債務だけ任意整理を試みることによって,自宅や車を守ることができるでしょう。

自宅や車を守るにはどの方法が適切か

自宅や車を守る方法としては,自己破産では不適切であり,個人再生か任意整理であれば守る余地がある,ということが分かりました。では,個人再生と任意整理のいずれが適切か,という問題になるところです。

この点,まず住宅がある場合には個人再生が適切でしょう。個人再生であれば,住宅資金特別条項を利用することで,住宅ローン以外の借金が大きく圧縮され,住宅ローンの返済が現実的になりやすいです。住宅ローンを避けて任意整理をしても自宅は守れますが,借金の減額幅には大きな限界があるため,任意整理をしたところで返済できるか不透明である,ということになりかねません。

一方,自動車ローンが残っており,自動車だけが問題であれば,任意整理を行うほかないでしょう。ローンの残った自動車は,所有権留保がついていない場合を除き個人再生で守ることができないので,自動車ローン以外の任意整理を試みる以外の手段がありません。

ポイント
住宅ローンがあるときは個人再生
自動車ローンだけが問題であれば任意整理

借金問題に強い弁護士をお探しの方へ

債務整理には,債務とともに財産を整理する手続となるものもあるため,自宅や車を守りたい場合には適切な手段を取る必要があります。
具体的な方法にはいくつかの選択肢があり,どの方法を選択するのが有益かはケースによりますので,ご検討の際は弁護士へのご相談をお勧めいたします。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,借金問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決に向けたお力添えをすることが可能です。
お困りごとの際は,ぜひお気軽にご相談ください。

特設サイト:藤垣法律事務所

支払能力が全くない場合にはどんな債務整理の方法を取るべき?支払できない人の方法選択を解説

●支払能力が全くない場合はどうすべきか?

●支払能力が全くないときは自己破産が適切か?

●支払能力が全くないときは個人再生が適切か?

●支払能力が全くないときは任意整理が適切か?

●支払能力が全くない場合の注意点は?

というお悩みはありませんか?

このページでは,支払能力が全くない場合の債務整理についてお困りの方へ向けて,支払能力が全くない場合はどの手段を選択すべきか注意点は何かなどを解説します。

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支払能力が全くない場合に必要な対処

債務整理は,自分の経済力では借金の返済が完了できない場合の救済手段ですが,そもそも借金を返済するための支払能力が全くない場合も考えられます。典型例は,仕事を失ったなど,収入獲得の手段が閉ざされてしまった場合です。

このような場合の債務整理の目的は,「債務整理の結果,債務の支払を免れる」ことに他なりません。仮に債務が大幅に圧縮されて減額しても,支払を必要としてしまうのでは,支払能力が全くない人にとって解決できたとは言えません。

これを法的に整理すると,支払能力が全くない場合の対処としては,債務について「免責」となることを目指す必要がある,ということになるでしょう。

ポイント 支払能力が全くない場合の対処
手続後に支払を要するのでは解決になっていない
債務の免責を得ることが必要

自己破産は支払能力が全くない場合に適切か

自己破産は,借金を返済する能力が不足する場合に,必要最低限の財産以外を手放す代わりに借金を免除してもらうことを目指す手続です。

自己破産とは
必要最低限の財産以外は手放す
引き換えに,借金を免除してもらう

つまり,自己破産は,財産も借金も基本的にゼロとした状態で債務者を再スタートさせる手続ということになります。これは,手続の結果として債務の免責を見込むものであるため,支払能力が全くない場合の手続としてまさに最適ということができるでしょう。

ポイント
自己破産は,債務者の財産も借金もゼロにした状態での再出発を目指す手続
債務について免責を見込む制度であるため,支払能力が全くない場合に最適

個人再生は支払能力が全くない場合に適切か

個人再生手続は,借金の減額を認めてもらった上で継続的な返済計画を立てる制度です。つまり,個人再生手続の場合,手続の終了後には返済計画に沿った返済が速やかにスタートすることを前提としており,支払能力が全くない場合に適していません。

そもそも,個人再生手続を行うためには,安定した収入が継続する見込みが必要となるため,仮に希望したとしても個人再生はできないという結論になりにくいでしょう。

ポイント
個人再生は,借金の減額と継続的な返済計画を内容とする制度
返済能力がないと利用できず,支払能力が全くない場合には不適切

任意整理は支払能力が全くない場合に適切か

任意整理は,債務整理を行う方法の一つで,金融機関などの債権者に対して直接交渉を試み,支払金額の軽減と完済を目指す手続を言います。債務者から委任を受けた弁護士が債権者と交渉し,多くの場合は将来分の利息をカットしてもらった上で,残債務額を3~5年の期間で支払う内容の合意を目指します。
つまり,任意整理は現在残っている借金の元金を返済する前提でなければ利用できず,支払能力が全くない場合には不適切です。

ポイント
任意整理は,将来の利息をカットして残元金の計画返済をするもの
元金の返済が必要になるため,支払能力が全くない場合には不適切

支払能力が全くない場合に適切な手段は

支払能力が全くない場合の債務整理の手段としては,個人再生及び任意整理では不適切であって,自己破産をしなければならない,ということになります。
自己破産によって債務の免責許可を受けることが唯一の解決策となるため,目指す手続を誤らないようにしましょう。

支払能力が全くない場合の注意点

①免責不許可事由がある場合

支払能力が全くないときに自己破産を試みるのは,債務について免責許可決定を受けるためです。そのため,自己破産をしても免責許可決定が受けられない場合,自己破産をするメリットがなくなってしまいます。そうすると,支払能力が全くない場合は,免責されるかという点について慎重な検討を重ねるべきでしょう。

この点,免責不許可事由としては,以下のようなものが定められています。

免責不許可事由

1.財産を不当に減少させる行為
→財産の隠匿,損壊,不当な処分などの行為が挙げられます。

2.不当な債務負担
→著しく不利益な条件で債務を負う行為などが挙げられます。

3.特定の債権者に利益を与える行為
→債権者のうち一人だけに全額返済する行為などが挙げられます。

4.浪費や賭博による債務負担
→収入に見合わない出費や賭博行為を理由に破産する場合が挙げられます。

5.詐術による信用取引
→借金を隠して新しいクレジットカードを作り,使用した場合などが挙げられます。

6.帳簿の隠滅
→業務や財産状況に関する書類を隠したり偽造したりする行為が挙げられます。

7.虚偽の債権者名簿提出
→自己破産の申立て時に特定の債権者だけを債権者から除く行為などが挙げられます。

8.説明拒否・虚偽説明
→裁判所の調査に対してウソや隠し事をする行為が挙げられます。
裁判所の信用を直接損なうため,免責不許可となる可能性が非常に高くなります。

9.管財業務の妨害
→破産管財人の指示に反したり,管財人を脅したりする行為が挙げられます。

10.過去7年以内の免責許可決定
→免責や同種の法的保護を受けている場合,7年間は免責が許可されません。

11.破産法上の義務違反
→破産手続における破産者の義務(説明義務,重要財産開示義務,免責調査協力義務等)に反した場合が挙げられます。

これらの免責不許可事由に当たる場合,裁判所が特に免責を認めるケースを除き,免責許可決定が得られません。ここで,免責不許可事由がありながらも裁判所が特に免責を認めることを,「裁量免責」と言います。

免責不許可事由がある場合,裁量免責を認めてもらえるように可能な限りを尽くすのが適切でしょう。具体的には,反省や更生の意欲を積極的に表明する借金に至った経緯があまりに不適切ではないことを詳細に説明する,といった方法が考えられます。
裁量免責は,文字通り裁判所の裁量で免責にするというものであるため,裁判所の恩情を求めるものである,という理解を十分にした上で,対応を尽くすことをお勧めします。

ポイント
免責不許可事由がある場合,原則として免責許可が得られない
裁量免責が認められた場合に限り,例外的に免責される
反省や更生の意欲などを積極的に表明することで,裁判所の恩情的判断を求める

②弁護士費用が支出できない場合

自己破産を弁護士に依頼する場合,弁護士費用の支払が必要です。一般的に,弁護士は必要な弁護士費用が受領できた段階で初めて裁判所への申立てを行います。
そのため,親族と相談するなど,弁護士費用を支出する試みが必要となるところです。

どうしても弁護士費用が支出できない場合には,自分で可能な限り自己破産を試みることも一案かもしれません。

借金問題に強い弁護士をお探しの方へ

支払能力が全くない場合の債務整理は,支払を免れる結果を獲得する必要があり,支払の継続を前提とするのでは解決にならないのが通常です。
そのため,基本的には自己破産の選択が必要になりやすいですが,自己破産によって本当に問題解決につながるかは,弁護士への十分なご相談が適切でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,借金問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決に向けたお力添えをすることが可能です。
お困りごとの際は,ぜひお気軽にご相談ください。

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