2024年8月9日(金)~13日(火)の間,休業いたします。
大変恐縮ではございますが,何卒よろしくお願い申し上げます。
2024/8/5
藤垣法律事務所
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2024/8/5
藤垣法律事務所
このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,工事現場における労災事故で後遺障害1級となった被害者を弁護した結果,将来介護費を含めて総額約1億9000万円が獲得された事例を紹介します。

被害者は,大型建物の撤去工事に参加していたところ,重機で引き上げていた重量物が落下し,手足に直撃する事故に遭いました。事故の結果,被害者は両足の膝から下を失うとともに,右手も失うという重大な障害を負いました。
下肢の欠損については,以下の後遺障害等級が考えられます。
(なお,便宜上自賠責保険の認定基準を用います)
両下肢を失った場合の後遺障害等級
| 等級 | 基準 |
| 1級5号 | 両下肢をひざ関節以上で失ったもの |
| 2級4号 | 両下肢を足関節以上で失ったもの |
| 4級7号 | 両足をリスフラン関節以上で失ったもの |
本件では,両下肢の膝から下を失っているため,1級の認定が想定されます。
また,上肢の欠損については,以下の後遺障害等級が考えられます。
1上肢を失った場合の後遺障害等級
| 等級 | 基準 |
| 4級4号 | 1上肢をひじ関節以上で失ったもの |
| 5級4号 | 1上肢を手関節以上で失ったもの |
本件では,手関節以上を失っており,5級の認定が想定されます。
以上を踏まえると,本件では後遺障害1級の認定が明らかに見込まれる,と言っても差し支えない状況でした。
なお,これらの後遺障害は,要介護の後遺障害とはされていないため,認定基準を満たせば直ちに介護が必要と判断できるわけではありません。ただ,両下肢を失ってしまえば現実的に介護を要する場合が多いため,将来介護費の対象とすることは多く見られます。
ポイント
両下肢の欠損で後遺障害1級
要介護の後遺障害等級ではないが,現実的には介護を要しやすい
被害者は,建築現場の業務中に事故に遭いましたが,この建築現場には複数の会社が介入していました。このうち,被害者の立場はいわゆる孫請け(二次下請)をする会社の所属でした。
この場合,現場業務には「元請」の会社,「一次下請(子請け)」の会社と,被害者を含む「二次下請(孫請け)」の会社がいることになりますが,損害賠償の関係は元請けから二次下請までの各会社との間で生じます。
建築業務に携わる会社は,万一の事故に備えて各種の傷害保険や賠償保険に加入していることが一般的ですが,被害者の場合,直接の雇用関係にある二次下請の会社のみならず,その上位にある一次下請や元請の会社が加入している保険からの給付も受けられる可能性が高い状況でした。
このような保険給付は,交渉などを要せず比較的速やかに行われるものも多いため,漏れなく請求することが被害者の利益のためには非常に重要です。
ポイント
被害者は二次下請の会社に属していた
元請や一次下請の会社の保険給付も受けられる余地がある
既に解説した通り,下肢の欠損自体は要介護の後遺障害等級とされているわけではありません。しかし,両下肢を欠損した状態では,生活に多大な支障があることは明らかであり,一人で十分な生活を送ることは困難です。
そのため,被害者の十分な救済を図るためには,将来介護費の交渉が不可欠な状況でした。
この点,将来介護費の請求を行うためには,具体的にどのような介護を要したか,という点の主張立証が重要になります。
将来介護の内容には,大きく以下の2種類が挙げられます。
将来介護の種類
1.職業介護
→職業介護人による介護(日額15,000円~20,000円ほど)
2.近親者介護
→家族等による介護(日額8,000円ほど)
一般的な介護の必要性としては,「職業介護を要する場合」「介護を要するが近親者介護で足りる場合」「近親者介護も不要である場合」という区別ができるでしょう。
したがって,近親者介護を要することが立証できなければ,将来介護費の請求は困難ということになります。
ポイント
将来介護には職業介護と近親者介護がある
介護費を請求するには,少なくとも近親者介護は必要と言えることが必要
労災保険は,労働者が勤務中の災害で受傷した場合に損害の補填をする保険ですが,適切に給付を受けるためには必要な手続を行わなければなりません。
本件では,以下の2つの手続が想定されます。
療養の開始後1年6か月を経過しても治療が終わらず,その負傷が1級などの上位の後遺障害に該当するものである場合,傷病補償等年金の請求が可能です。
また,等級に応じた特別支給金や特別年金の支給を受けることも可能となります。この特別支給金及び特別年金は,相手方からの賠償とは別に受領できる(損益相殺の対象にならない)ため,被害者への補償として非常に有益なものです。
| 傷病等級 | 傷病補償等年金 | 傷病特別支給金 | 傷病特別年金 |
| 第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 114万円 | 算定基礎日額の313日分 |
| 第2級 | 給付基礎日額の277日分 | 107万円 | 算定基礎日額の277日分 |
| 第3級 | 給付基礎日額の245日分 | 100万円 | 算定基礎日額の245日分 |
治療の終了後,後遺障害が残った場合,後遺障害1級から7級ではその等級に応じて障害補償年金の請求が可能です(8級から14級は年金でなく一時金のみでの支給となります)。
また,等級に応じた特別支給金や特別年金の支給を受けることも可能となります。この特別支給金及び特別年金は,相手方からの賠償とは別に受領できる(損益相殺の対象にならない)ため,被害者への補償として非常に有益なものです。
| 障害等級 | 障害補償年金 | 障害特別支給金 | 障害特別年金 |
| 第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 342万円 | 算定基礎日額の313日分 |
| 第2級 | 給付基礎日額の277日分 | 320万円 | 算定基礎日額の277日分 |
| 第3級 | 給付基礎日額の245日分 | 300万円 | 算定基礎日額の245日分 |
| 第4級 | 給付基礎日額の213日分 | 264万円 | 算定基礎日額の213日分 |
| 第5級 | 給付基礎日額の184日分 | 225万円 | 算定基礎日額の184日分 |
| 第6級 | 給付基礎日額の156日分 | 192万円 | 算定基礎日額の156日分 |
| 第7級 | 給付基礎日額の131日分 | 159万円 | 算定基礎日額の131日分 |
本件では,生活に介護を要する被害者に代わり,これらの手続を弁護士が対応することとしました。
ポイント
治療が長期化すると傷病補償年金の請求が可能
後遺障害が残ると障害補償年金の請求が可能
まず,弁護士からは各社で利用可能な保険の内容を一通り確認することとしました。その結果,それぞれ後遺障害1級を前提とした保険金の支払が可能であり,その総額は8,000万円あまりに上ることが分かりました。
多大な損害を被った被害者にまず一定額の受領をしてもらうため,これらの保険金の支払手続を急ぐこととしました。
その後は,各社と個別に協議を行うと解決が困難になりかねないため,代表者の選定を依頼するとともに,その代表者の代理人弁護士と協議する方針を取りました。こうすることで,各社から個別に主張を受けることがなくなり,円滑な解決が可能となりました。
ポイント
各保険から合計8,000万円あまりの給付が受けられることを確認
迅速に保険金を回収することで,被害者の損害補填を実現
その後の交渉は,代表者1名との間で行う形を取った
将来介護費については,近親者介護の必要性を具体的に指摘することが必要でした。
そのため,被害者及び同居する母と綿密な打ち合わせを実施し,治療中及び症状固定後の介護状況を具体的に整理することとしました。聴取の結果,生活の各局面で母による献身的な介護が被害者を支えていると確認することができました。
弁護士からは,被害者に対する母親の介護状況を詳細に整理して指摘することで,将来介護費の必要が認められるに至りました。また,その日額は近親者介護を終日要する場合の基準額である8,000円となりました。
ポイント
被害者の母による介護の実績を詳細に整理
将来介護費の有無が大きな争点となることを防止
労災保険の各給付に関しては,弁護士が被害者の代理人として申請手続を行った結果,無事に各給付を受けることができました。
被害者自身が具体的な申請を行うことは容易でないため,被害者にとっては弁護士依頼の大きなメリットが生じた一面であったとも言えるでしょう。
上記の活動の結果,被害者には各会社の加入する保険から所定の保険金が支払われるとともに,労災保険にて後遺障害1級が認定され,労災保険からも必要な給付がすべて行われました。
さらに,会社加入の賠償保険から逸失利益及び将来介護費などの支払を受け,その総額(将来の年金を除く)は約1億9000万円となりました。
被害者の方は,バリアフリーに配慮した自宅への転居や介護体制の完備が得られ,将来の生活に対する憂いを解消するに至りました。


本件は,工事現場における労災事故で,幸いにも一命を取り留めたというものでした。しかし,その受傷は一見して後遺障害1級に該当すると判断できるほど深刻であり,今後の生活保障のためにもできる限りの賠償金を獲得することが重要な状況でした。
特徴的な損害項目としては将来介護費が挙げられますが,どの程度の介護費が生じるかは,必要な介護の具体的内容による面が非常に大きいところです。そのため,請求時にどのような介護を要しているか,その介護は今後も継続的に必要か,といった点を詳細に示すことが解決の近道になります。
本件では,被害者やご家族のご協力をいただけたこともあり,介護の実態を具体的に指摘できたのが円滑な解決につながりました。
藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。
特設サイト:藤垣法律事務所
このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,高次脳機能障害で後遺障害7級の認定を受けた被害者の金額交渉を行い,3,800万円を超える増額を獲得した事例を紹介します。

被害者は自転車で直進走行していたところ,四輪自動車が左折に際して後方確認を怠ったまま交差点に進入したため,左折巻き込みの被害に遭いました。
被害者は,頭を強く打って頭蓋骨骨折等の重大な傷害を負い,2か月以上の入院を余儀なくされました。その後,1年半を超える通院治療を受けたものの,高次脳機能障害が残存し,後遺障害7級の認定を受けるに至りました。
被害者は,加害者の保険会社から過失割合10%,賠償額約3,537万円との提示を受けた後,金額の妥当性や増額余地の有無などの相談を希望され,弁護士の法律相談を行いました。
ポイント
高次脳機能障害にて後遺障害7級認定済み
過失割合10%,賠償額3,537万円の提示済み
同一方向に進行中の直進自転車と左折四輪車による巻き込み事故は,以下の【289】図または【290】図により,自転車の過失は10%または0%となります。

「別冊判例タイムズ38号」より引用
自転車の過失は,先行する四輪車を追い抜く形で交差点に進入した場合に10%となりますが,逆に四輪車が後方から追い越して左折してきた場合には0%になる,ということです。
そして,相手保険は自転車に10%の過失がある旨主張しており,上記【289】図を前提としていました。
ただ,被害者に話を聞いてみると,決して四輪車が前にいたとは限らないことが分かってきました。被害者自身は,事故で頭を強く打っており事故状況の記憶が定かでありませんが,車を追い抜いた記憶は特にないと説明していました。一方,車は前にいたと主張しているようですが,ドライブレコーダーはなく,主張の客観的な証拠は見受けられませんでした。
そうすると,被害者に10%の過失があるとの立証は十分にできていない可能性があり,過失割合に一定の交渉余地があるものと判断できました。
もっとも,被害者が事故態様を説明できる状況にないため,あまり強気に過失ゼロを主張できるわけでない点には注意が必要でした。
ポイント
直進自転車対左折四輪車の巻き込み事故は,自転車の過失0~10%
どちらが前にいたかによって過失割合が異なる
本件ではどちらが前にいたかが不明
本件では,明らかに逸失利益がメインテーマでした。それは,被害者が一級建築士の資格を持って安定した収入を得ていた立場にあったためです。
逸失利益は,将来の収入減少を損害として計算するものであるため,事故前の収入額は逸失利益の金額に直接影響します。本件の被害者は,事故前に1200万円近い年収があり,7級という後遺障害の重さと相まって,逸失利益は相当な金額になる可能性が高い状況でした。
この点,相手保険会社は,後遺障害逸失利益も一定の金額を計上していましたが,その内容は複数の問題点を抱えたものでした。また,弁護士が逸失利益を請求するに際しては,慎重に検討しなければならない点も複数ありました。
相手保険の提示には,以下のような問題点がありました。
提示内容の問題点
1.労働能力喪失率を35%としている
2.労働能力喪失期間を60歳までと定めている
「1.労働能力喪失率を35%としている」点
労働能力喪失率は,後遺障害によって労働能力が低下する割合を数値化したもので,具体的な喪失率は後遺障害等級により定められています。
等級ごとの具体的な労働能力喪失率は,以下の通りです。
| 1級 | 100% |
| 2級 | 100% |
| 3級 | 100% |
| 4級 | 92% |
| 5級 | 79% |
| 6級 | 67% |
| 7級 | 56% |
| 8級 | 45% |
| 9級 | 35% |
| 10級 | 27% |
| 11級 | 20% |
| 12級 | 14% |
| 13級 | 9% |
| 14級 | 5% |
上記の通り,後遺障害7級の逸失利益は56%であり,35%は後遺障害9級の場合の数値です。しかし,相手保険会社は労働能力喪失率35%を主張していました。
その背景には,「被害者の労働能力にそれほど影響していないのではないか」という考え方があったようです。ただ,漠然とした推測で逸失利益を減額されるのは明らかに不適切であり,相手保険会社にはそれ相応の主張立証を要求して差し支えないと判断される内容でした。
「2.労働能力喪失期間を60歳までと定めている」点
労働能力喪失期間は,後遺障害によって労働能力が影響を受ける期間を言います。基本的には,仕事のできなくなる年齢までの期間がこれに該当し,特段の事情がなければ67歳までが目安とされます。
この点,被害者は,症状固定時51歳の会社員であったところ,相手保険の提示は60歳までを労働能力喪失期間としていました。60歳が定年であり,そこで労働も終わりという前提で計算したのでしょう。
ただ,被害者は資格を持って業務をしている立場にあり,定年を迎えた後も意欲次第では仕事を続けることが可能でした。そのため,労働能力喪失期間を60歳までに制限することに必ずしも合理性はない状況と考えられました。
一方で,勤務先の定年が60歳であることは間違いないため,60歳以降にいくらの収入が得られたであろうか,という計算は非常に困難でした。
ポイント
労働能力喪失率を7級の56%でなく9級相当の35%にしている
労働能力喪失期間を67歳まででなく60歳までに限定している
相手保険が労働能力喪失率を35%に制限したのは,事故後に被害者の減収がほとんどなかったことを大きな理由としているようでした。確かに,被害者は,重大な高次脳機能障害を伴う交通事故に遭ったものの,直接の減収は休業に伴う賞与の減額にとどまっていました。被害者の収入には,業務内容の成果に応じて生じる業績給もありましたが,業績給はほとんど減少していませんでした。
逸失利益は,後遺障害による収入減少に対する補償であるため,後遺障害があっても収入減少につながらなければ逸失利益はないとの理解もあり得ます。
そのため,減収がないことと逸失利益の請求がどのように整合するか,という点は重要な検討事項でした。
ポイント
逸失利益は将来の収入減少を補填するための賠償
収入減少がない場合に逸失利益が請求できるかは問題になり得る
被害者の勤務先や業務内容を踏まえると,被害者が60歳で定年を迎えた後の仕事に関しては,以下のいずれかの可能性が考えられました。
被害者の定年後の仕事
1.勤務先で嘱託社員として再雇用を受ける
2.独立開業して建築士の仕事を続ける
3.定年を機に仕事を終了する
この点,いずれの選択肢も,収入額は定年前より低額になることが見込まれます。特に,仕事を終えてしまえば収入はゼロになるところです。
そのため,事故がなければ被害者が60歳以降得たであろう収入に関しては,明確な主張立証が難しいと思われる状況でした。言い換えれば,60歳以降は事故当時のように年収が1000万円を超える可能性がほぼないため,60歳までとは区別して丁寧に逸失利益の交渉を行う必要がありました。
ポイント
60歳以降は収入が減少していたであろうことがほぼ明らか
60歳までとは別に,逸失利益を丁寧に交渉する必要がある
過失割合については,被害者の過失が10%と立証できていない,ということを前提に,交渉を試みる方針を取りました。
もっとも,過失がゼロであることを立証することも困難であるため,互いに訴訟で争うリスクを回避するという趣旨で,中間的な5%の過失で合意することを目指す交渉を実施しました。
交渉の結果,実際に被害者の過失5%で解決する運びになりました。
5%という成果はそれほどでもないように見えますが,本件の金額にすると数百万円規模の成果であり,被害者への経済的補償にとっては非常に重大な意味を持つ交渉となりました。
ポイント
0%と10%の主張はいずれも真偽不明
中間的な5%での解決を目指し,合意
相手保険が低い労働能力喪失率を主張している点については,こちらは一切譲歩すべきでないと判断しました。そもそも,7級が認定されている以上,労働能力喪失率は56%とみなすのが大原則であって,相手保険の主張は安易に例外を認めさせようとしているにすぎないためです。
一方で,被害者には収入減少が生じていないという事実もありました。収入減少がないことは,労働能力が減少していないことの根拠になるケースもあり得るため,収入減少していないことと労働能力が減少したことの関係を説得的に示す必要があります。
この点,被害者の場合は,本人の努力や周囲の協力により,何とか仕事の質と収入を保てている,という事情がありました。
高次脳機能障害の結果,業務遂行能力が下がってしまったため,被害者はその分時間をかけて繰り返し確認をすることで,事故前と遜色のない仕事を続けていたのです。また,被害者の事情を知る同僚や上司などの配慮もあり,被害者の業務は事故前より負担の小さい内容としてもらっていることも分かりました。
以上を踏まえると,被害者の収入減少がないのは,被害者の労働能力が保たれているからではなく,本人や周囲が労働能力の減少を懸命にカバーしているからと理解するのが適切です。そうすると,収入減少のないことは労働能力喪失率を低く見積もる根拠にはできないと判断することができました。
弁護士からは,事故前後における被害者の業務状況や,事故後における勤務先の配慮の数々などを丁寧に指摘することで,労働能力喪失率を譲歩しない内容での解決を実現しました。
ポイント
低い労働能力喪失率を主張する根拠は,減収がないこと
しかし,減収がなかったのは本人の努力や周囲の協力あってのこと
減収がないことは労働能力が減少していないことの根拠にならないと指摘
被害者が60歳で定年を迎えた後の逸失利益は,相手保険の提示通りにゼロで合意するメリットこそないものの,漫然と請求しても合意に至ることは考えにくいため,何らかの合理的な説明が必要でした。
そこで,弁護士においては,被害者の先輩にあたる人の定年後の収入実績を確認することとしました。被害者の先輩の収入実績を,金額計算の参考にするためです。
本件では,被害者と同じく一級建築士として勤務した人の定年後の収入は,それまでの概ね3~7割程度になっている例があると確認できました。そのため,これを踏まえて相手保険と交渉を行うことにしました。
交渉の結果,定年後の逸失利益については,概ね定年前の5割の収入を念頭に計算する方法で合意することができました。
一切の根拠なく大雑把に計算,請求するのでは相手を納得させることは困難でしたが,過去の先例を計算根拠とすることで,説得力ある請求が可能となりました。
ポイント
被害者の先輩にあたる人物の収入実績を参考に交渉を実施
一定の計算根拠があることで,合意に至りやすくなった
上記の活動を尽くした結果,被害者への賠償額7,350万円で合意が成立し,従前の提示額約3,537万円からは3,800万円を超える増額となりました。
なお,賠償額7,350万円の内訳は,被害者の損害合計7,000万円,弁護士費用350万円(損害の5%)というものでした。弁護士が,早期解決の条件として弁護士費用の上乗せを求める交渉を行ったことにより,弁護士費用の支払も含めての合意となりました。
弁護士費用は,訴訟を行わない限り請求できないのが原則であるため,交渉で弁護士費用の支払を引き出した点は特筆事項と言えるでしょう。

本件は,専門的な職業と安定した高額収入がある被害者の逸失利益が最大の争点でした。内容面で最大の争点となるのみでなく,金額面でも後遺障害逸失利益が大部分を占めるため,逸失利益に関する合意の可否は本件の解決の可否と直結する問題であったと言えるでしょう。
この点,相手保険は,逸失利益が多額になることを防ぐためにいくつかのそれらしい主張をした上で,被害者に一定の逸失利益を提示していました。しかし,弁護士目線では了承すべき内容ではなく,交渉は不可欠です。そのため,提示内容と弁護士が目指す水準の差をどのように埋めるのかが重要な問題となりました。
本件では,被害者の実際の業務内容や環境,能力の変化などを詳細に整理し,それを踏まえた請求を行うことで,相手保険の譲歩を引き出す方法を取りました。このような交渉は,特に訴訟を避けたいと考えている相手保険に有力です。なぜなら,個別の事情を詳細に整理した上での主張は,多くは訴訟に至ったときに行うものだからです。
相手保険が訴訟を避けたいと考えていることを見越して,こちらは訴訟を辞さない姿勢を暗に示すことにより,相手保険の譲歩を引き出す交渉を目指しました。
逸失利益は,後遺障害が伴う事故では最も大きな争点になりやすいものです。逸失利益の解決に際しては,弁護士に個別の事情を十分に把握してもらいながら,適切な解決を目指すことをお勧めいたします。
藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,後遺障害11級認定後の金額交渉を受任し,2か月弱の活動期間で500万円の増額解決に至った事例を紹介します。

被害者が軽トラックを運転し,カーブを描く緩やかな上り坂を走行していたところ,対向車がカーブを曲がり切れずセンターオーバーし,衝突する事故が発生しました。現場は山間部の降雪地帯で,当時も積雪及び降雪があったことが影響し,下り坂を走行していた対向車がハンドル操作を誤って事故に至りました。
事故の結果,被害者は頸椎部を脱臼し,約20日間の入院の後,約2年に渡る通院治療を要しました。ただ,後遺障害の残存を避けることはできず,脊柱の変形障害について11級が認定されました。
相手保険会社からは,11級の認定結果とともに損害賠償額の提示が送られてきましたが,その金額はちょうど500万円というものでした。
弁護士は,被害者が相手保険会社から金額提示を受けた段階で,その妥当性や交渉の余地に関して被害者からの相談をお受けしました。依頼者は,増額できるなら希望したいが,長期間を要するやり方は期待しないというご意向でした。本件の治療が長期間に渡ったこともあり,今後の解決は短期間で進めたい,との希望を強くお持ちでした。
ポイント
11級認定済み,500万円の賠償額提示済み
依頼者は早期解決を強く希望
被害者は,60代の兼業主婦で,相手保険からはパート勤務の休業損害として計算された金額を受領している状況でした。しかしながら,パート勤務をしている兼業主婦の場合,パートの休業損害よりも主婦業(家事労働)の休業損害の方が大きな金額となることが多数です。
そのため,被害者に関しては家事労働の休業損害を請求するのが適切と判断される状況でした。
ただ,家事労働の休業損害が具体的にいくらなのか,という点は容易に判断できません。具体的には,休業日数が何日であるかを特定することが非常に困難です。
被害者の2年以上に渡る治療期間の中では,家事が全くできなかった日もあれば,ある程度の家事ができた日も少なくないはずです。そんな被害者の休業日数が何日かは,客観的に示す方法がないため,交渉である程度合理的な水準を見出すほかないところでした。
ポイント
被害者はパート勤務の兼業主婦
主婦業(家事労働)の休業損害を計算するのが適切
もっとも,家事労働の休業日数は不明
相手保険の提示内容のうち,後遺障害部分(「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」)の合計額は,331万円という内容でした。これは,たまたまこの金額になっているのでなく,提示額を331万円とするために計算方法を調整しています。
後遺障害11級が認定された場合,自賠責保険から331万円の保険金が支払われるのが通常です。本件でも,11級に対する自賠責保険金は331万円と計算される状況でした。そのため,相手保険はあえて後遺障害部分の合計額を331万円と算出することによって,自社の負担なく後遺障害部分を解決しようとしているのです。
しかも,相手保険会社の提示は,「本来の計算だと331万円を下回るが331万円まで引き上げる」という内容になっていました。保険会社の意図を把握せずに提示内容を眺めると,金額を引き上げてもらっている分有益と考えてしまいそうです。
しかし,弁護士目線では相手保険の計算は全く適正額ではなく,増額余地が大きく残っている状況でした。弁護士においては,後遺障害部分を331万円とする提案は了承できないことを前提に交渉を行う方針を取るのが適切と判断できました。
なお,この後遺障害部分については,交渉をすることで減額してしまうリスクが全くありません。なぜなら,相手保険が了承しなくても331万円は自賠責保険から支払われるためです。
その意味で,相手保険は後遺障害部分について最低額の提示をしていると評価することもできるでしょう。
ポイント
後遺障害部分の提示額は自賠責保険金額と同額
保険会社が自社の負担を避ける目的で同額に設定している
交渉しても減額リスクはなく,保険会社の提示は最低額と言える
後遺障害等級が認定された場合,「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」という二つの損害が主に発生しますが,このうち「後遺障害逸失利益」がどの程度発生するかは,後遺障害の具体的内容によって大きく異なり得るところです。
本件の場合,被害者の後遺障害は脊柱の変形障害でした。つまり,体の中心を通る脊柱が一部変形しており,これを後遺障害として認定する,というものです。そして,脊柱の変形障害は,逸失利益が発生するのか,という問題が生じる後遺障害の一つでもあります。
後遺障害逸失利益は,後遺障害があると労働能力が減少することで収入減少に至るため,その収入減少を補償する,という性質のものです。そのため,後遺障害によって労働能力が減少することが大前提になっています。
ただ,脊柱が変形すると直ちに労働能力が失われてしまうかは必ずしもはっきりしません。このような後遺障害の場合,等級認定されても逸失利益はない,というケースが生じうるのです。
相手保険の後遺障害部分の提示額は,非常に小さいものであったため,逸失利益を主張すれば反論がなされることを想定する必要があります。そこで,逸失利益の存在を主張する根拠を明確にしておく必要がありました。
ポイント
脊柱の変形障害は逸失利益が生じるか明らかでない後遺障害
被害者に逸失利益が生じる理由は明確にすることが必要
被害者は,できるだけ早期に本件のやり取りから解放されたい,という希望を強く有していました。そのため,最大額の賠償を獲得するよりも,解決のスピードと両立する範囲で可能な限りの賠償額を獲得することが望ましい状況でした。
スピーディーな解決を目指す場合,方法は交渉が明らかに適切です。交渉以外では訴訟やADRが挙げられますが,いずれも数か月~年単位で期間を要する解決方法となってしまいます。
一方で,交渉での早期解決には,相手の同意も不可欠です。つまり,相手にとっても早期解決が有益である,という場合に限り,交渉で早期解決ができるということになります。そのため,弁護士の交渉に際しては相手保険に早期合意のメリットを感じさせる必要がありました。
ポイント
解決方法は交渉であるべき
交渉で早期解決をするには,相手にとっても早期解決が有益であることが必要
休業損害に関しては,互いに胸を張って主張立証することが困難な状況でした。なぜなら,一方で休業がゼロでないことは明らかであり,もう一方で休業が長いと客観的に立証することはできないためです。休業損害が少ないという主張も多いという主張も,根拠が伴わないものにならざるを得ません。
このような場合,一定の合理性ある水準を示し,交渉の叩き台とする方針が有力です。本件では,「入院期間は毎日100%の休業,通院期間は毎日30%の休業」と設定し,休業損害の叩き台とすることにしました。
この数字そのものに根拠はありませんが,一定の合理性がないわけではありません。合理性の根拠は以下の通りです。
休業損害の叩き台(割合的請求)の合理性
1.類似の計算方法を取った裁判例がある
→設定の仕方は裁判所の考え方に近いものである
2.後遺障害11級の労働能力喪失率が20%である
→治療終了時には20%の休業が生じていると理解される
当然ながら,この計算がそのまま合意内容となるとは限りません。むしろ,交渉の基準になる一定の目安を設ける目的が大きいところです。
実際,本件の休業損害は,上記請求を目安にしながら合意額を調整することとなりました。
ポイント
通院期間中の休業損害は,毎日30%の休業が生じたと仮定して請求
一定の合理性ある叩き台を示すことで,交渉の目安を設定した
被害者の後遺障害は脊柱の変形障害ですが,変形そのものが逸失利益を発生させるとの主張は難しいと言わざるを得ません。脊柱が変形しても直ちに主婦業ができなくなるわけではないためです。
しかし,被害者には,変形障害に伴って首や手指の痛み,しびれなどが生じており,それらの症状は変形障害に含まれる障害として認定する,との判断がなされていました。そして,首や手指の痛み,しびれといった症状は,明らかに被害者の家事労働に影響を及ぼす性質の障害です。
そこで,変形障害が痛みやしびれをもたらしたことを根拠に,逸失利益の存在を主張する方針としました。
なお,このような主張の場合には注意すべき点があります。それは,痛みやしびれに11級相当の労働能力喪失率が認められるとは限らない,ということです。
骨折後の痛みやしびれといった神経症状は,以下のような等級認定の対象となることが考えられます。
| 等級 | 認定基準 |
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
つまり,痛みやしびれ自体は,12級または14級の認定対象であって,労働能力への影響も12級または14級相当という理解が合理的とも考えられるわけです。
本件でも,12級相当の逸失利益となる可能性を想定しながら,逸失利益を請求することとしました。
ポイント
変形障害により首や手指の神経症状が生じたため,これを逸失利益の根拠に
ただし,神経症状の逸失利益は12級相当にとどまる可能性を踏まえておく
早期解決のためには,相手保険に交渉での早期解決が有益であると認識させることが必要と思われました。
そこで,弁護士においては,「訴訟で解決すると追加で多くの支払が生じる」と相手保険に認識してもらうことで,早期合意のメリットを感じさせることを目指しました。
一般に,訴訟に至ると,加害者側は「遅延損害金」及び「弁護士費用」を追加で支払うことになるのが現在の運用です。それぞれの内容は以下の通りです。
訴訟における追加の支払
1.遅延損害金
→事故発生から支払い済みまで年3%(本校執筆時)の利息が加算され続ける
2.弁護士費用
→損害額の10%が弁護士費用として加算される
本件では,治療終了時点で事故から2年以上が経過しているため,仮に訴訟をして事故の3年後に解決したとなると,「3%×3+10%」=19%の支払が追加でかかることになります。それ以上に期間を要する可能性も低くないため,訴訟に至ると,相手保険会社は概ね20%程度の金額を上乗せして支払うリスクを背負わなければなりません。
弁護士からは,交渉が奏功しなければ訴訟に移行する可能性を伝えることで,このような追加での支払リスクを相手保険に認識してもらう方法を取りました。
ポイント
訴訟に至ると遅延損害金及び弁護士費用が追加で発生し得る
事故から長期間が経過しているほど,遅延損害金が大きくなる
以上の弁護活動の結果,弁護士の活動前は500万円の提示額であったところ,交渉により1,000万円での解決となりました。
また,弁護活動の開始から賠償金額1,000万円の受領までに要した期間は2か月弱であり,事故の規模や治療期間の長さを踏まえると非常に短期間での決着となりました。
なお,解決内容は,休業損害が弁護士のたたき台を若干下回る水準,逸失利益が12級相当の労働能力喪失率を目安にした金額となりました。

本件は,交渉による増額と早期解決のバランスを適切に保つことが求められるケースでした。
交通事故の解決は,金額的な規模が大きくなればなるほど時間を要する傾向にあります。重大な後遺障害等級が認定される事故や死亡事故など,一定のケースでは交渉に年単位の期間を要する可能性もあり得るところです。さらに,訴訟などの法的手続に移行すれば,さらに年単位で争いが続き,決着の見えない期間を過ごすことになることも珍しくはありません。
そのため,弁護士としては日頃から早期解決を目指すスタンスが重要となりますが,本件はさらにスピードを重視することが必要でした。長い時間をかけて最大額を目指すより,短い期間で一定の増額ができる方が望ましい,というご希望は,被害者の立場を考えれば無理のないものです。
今回は,スピード解決と両立し得る増額幅の見込みを正確に立て,その見込みをできる限り迅速に実現することが,弁護士の役割であったと言えるでしょう。
交通事故の金銭的解決には,様々なやり方があります。弁護士相談の際には,目指したい解決の形を弁護士と十分に共有することで,より希望に沿った解決方法の提案が受けられるでしょう。
藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,後遺障害診断書の作成後に弁護士が受任し,診断書の再作成を依頼するなどの活動を尽くした結果,併合11級の後遺障害等級認定につながったケースを紹介します。

被害者は,単車の乗車中,信号表示のある十字路交差点に青信号に従って進入したところ,左方から信号無視して交差点に進入してきた四輪車と衝突する事故に遭いました。
被害者は,左肩の靭帯損傷や左肩鎖関節脱臼等のケガを負い,概ね8か月ほどの通院治療を尽くしたものの,患部の変形が残った上,左肩が満足に振り上げられなくなりました。そのため,後遺障害としては,変形障害及び関節可動域制限(機能障害)が想定される状況でした。
被害者は,保険会社及び病院から通院終了の案内を受け,病院から後遺障害診断書の作成を受けた段階で,診断書の内容を踏まえて弁護士に相談することをご希望されました。
ポイント
後遺障害等級認定手続に入る直前のご相談
考えられる後遺障害は変形と左肩の可動域制限
肩関節の可動域制限に関しては,以下のような等級認定の可能性が考えられます。
| 等級 | 基準 | 可動域制限の程度 |
| 8級 | 関節の用を廃したもの | 患側が健側の10%程度 |
| 10級 | 関節の機能に著しい障害を残すもの | 患側が健側の2分の1以下 |
| 12級 | 関節の機能に障害を残すもの | 患側が健側の4分の3以下 |
そして,肩関節で可動域制限が問題となる運動(主要運動)は以下の通りです。
| 関節 | 主要運動 | 参考可動域角度 |
| 肩関節① | 屈曲(前方拳上) | 180度 |
| 肩関節② | 外転(側方拳上) | 180度 |
肩関節の運動


つまり,肩関節の可動域制限が後遺障害等級に認定されるのは,前方に振り上げる「屈曲」か側方に振り上げる「外転」の可動域が4分の3以下に制限されてしまった場合となります。ここで,4分の3以下に制限されているかどうかは,患側(ケガをした方)と健側(ケガをしていない方)の比較で行われることになります。
本件で可動域制限が等級認定されるための条件
1.左肩の屈曲(前方拳上)の可動域が,右肩の4分の3以下
2.左肩の外転(側方拳上)の可動域が,右肩の4分の3以下
しかしながら,被害者の後遺障害診断書を確認したところ,健側が110~120度程度,患側が100度程度と,それほど大きな差異のない測定結果とされていました。この後遺障害診断書を提出しても,可動域制限が等級認定される可能性はありません。
ただ,この測定結果には違和感が否定できません。というのも,怪我をしていないはずの健側が110~120度の可動域にとどまっていますが,これは参考可動域180度と比較すると4分の3を下回っているためです。怪我のない健側に,後遺障害等級の対象になるほどの可動域制限が生じているというのは,通常は考えにくい状況と言わざるを得ませんでした。
そこで,弁護士が被害者と直接面談の上で打ち合わせを行い,関節可動域を目視で確かめることとしました。そうすると,健側の可動域は,概ね参考可動域180度に近い状態であると確認でき,後遺障害診断書の測定値が何らかの理由で実態を反映できていないことが分かりました。
以上を踏まえ,肩関節可動域については再測定の依頼をすべき状況と判断しました。
ポイント
可動域制限の基準は,患側が健側の4分の3以下
健側の可動域が実態を反映していなかったため,再測定を依頼
肩関節を含む上肢の変形に関しては,以下のような後遺障害等級が考えられます。
| 等級 | 基準 |
| 12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
「長管骨に変形を残すもの」とは,以下のいずれかに該当する場合を指します。
1.上腕骨に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
2.橈骨及び尺骨の両方に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
3.上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部に癒合不全を残すもの
4.橈骨又は尺骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残し、硬性補装具を必要としないもの
5.上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
6.上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
7.橈骨又は尺骨(骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
8.上腕骨が50度以上、外旋又は内旋で変形癒合しているもの

「障害認定必携」より引用
この点,被害者には左肩鎖関節の脱臼に伴い,左肩に突出した部分が現れていました。この点は,適切に判断されれば12級の対象となることが見受けられます。そして,変形に関しては,後遺障害診断書でも十分な指摘がなされており,判断に必要な画像資料も揃っていることが確認できました。
そのため,変形障害に関しては,既に作成された書類で等級認定の獲得が可能であると判断することができました。
ポイント
変形障害については,後遺障害診断書での指摘,必要な画像資料ともにあり
追加の依頼なく等級認定の獲得が可能であると判断できた
後遺障害等級が認定された場合,慰謝料については「傷害慰謝料」及び「後遺障害慰謝料」が発生します。それぞれについて,いわゆる「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判基準」と呼ばれる金額水準があり,一般的に裁判基準が最も高額な水準とされています。
自賠責基準の計算方法
| ①対象日数 | 「総治療期間」と「実通院日数×2」のいずれか小さい日数 |
| ②日額 | 1日4,300円 |
| ③計算方法 | ①対象日数×②日額=自賠責基準の金額 |
もっとも,自賠責保険金には合計120万円の限度額があるところ,本件では治療費だけで120万円を超過しており,自賠責保険から支払われる慰謝料はゼロとなります。
そのため,保険会社は任意保険基準を念頭に計算することが想定されます。
任意保険基準の計算方法
任意保険基準の慰謝料(一例)

本件では,被害者の治療期間が約9か月であったため,任意保険基準の慰謝料は82万円ほどとなることが想定されます。
裁判基準の計算方法
裁判基準では,任意保険基準と同様,入通院期間を基準に計算しますが,その金額は任意保険基準より大きくなるのが通常です。
また,裁判基準の場合,他覚症状のないむち打ち(=軽傷)の場合(別表Ⅱ)とそうでない(=重傷)場合(別表Ⅰ)の二種類があり,重傷に用いられる別表Ⅰの方が金額が大きく定められています。
具体的な金額は以下の通りです。なお,1月=30日とみなして計算します。
裁判基準の慰謝料 別表Ⅰ(重傷)

裁判基準の慰謝料 別表Ⅱ(軽傷)

本件では,別表Ⅰが用いられるため,治療期間約9か月に対する慰謝料は約139万円となります。
以上を踏まえると,本件では,任意保険基準82万円と裁判基準139万円の間で可能な限りの金額交渉を試みることが見込まれます。
この点,弁護士が交渉で目指す慰謝料額は,裁判基準満額の90%が目安とされやすいところです。そのため,裁判基準139万円の90%に当たる約125万円が目標額の目安と考えられます。
自賠責基準及び裁判基準の後遺障害慰謝料は,以下の通りです。
| 後遺障害等級 | 【自賠責基準】 | 【裁判基準】 |
| 1級 | 1150万円 | 2800万円 |
| 2級 | 998万円 | 2370万円 |
| 3級 | 861万円 | 1990万円 |
| 4級 | 737万円 | 1670万円 |
| 5級 | 618万円 | 1400万円 |
| 6級 | 512万円 | 1180万円 |
| 7級 | 419万円 | 1000万円 |
| 8級 | 331万円 | 830万円 |
| 9級 | 249万円 | 690万円 |
| 10級 | 190万円 | 550万円 |
| 11級 | 136万円 | 420万円 |
| 12級 | 94万円 | 290万円 |
| 13級 | 57万円 | 180万円 |
| 14級 | 32万円 | 110万円 |
11級の場合,自賠責基準136万円,裁判基準420万円となるため,この間で可能な限りの金額交渉を試みることが見込まれます。
この点,弁護士が交渉で目指す慰謝料額は,裁判基準満額の90%が目安とされやすいところです。そのため,裁判基準420万円の90%に当たる378万円が目標額の目安と考えられます。
ポイント
傷害慰謝料は82万円→125万円の増額目標(自賠責基準→裁判基準の90%)
後遺障害慰謝料は136万円→378万円の増額目標(自賠責基準→裁判基準の90%)
被害者は兼業主婦であったため,後遺障害等級が認定された場合,主婦業(家事労働)の逸失利益が問題となります。
この点,肩関節の可動域制限12級と変形障害12級がそれぞれ認定された場合,併合11級とはなりますが,11級を前提とした後遺障害逸失利益を請求することができるかは難しいところです。なぜなら,変形障害は直ちに労働能力の低下をもたらすわけではないからです。
肩関節に変形があっても,変形によって主婦業の制限が生じることは一般的に想定されていません。そのため,併合11級の認定であっても,逸失利益の計算で考慮すべき後遺障害等級は可動域制限の12級のみと考えなければならない状況と言えるでしょう。
この点が具体的に影響するのは,「労働能力喪失率」,つまり後遺障害による労働能力の低下度合いです。労働能力喪失率は,後遺障害等級ごとに定められていますが,具体的な数値は以下の通りです。
| 1級 | 100% |
| 2級 | 100% |
| 3級 | 100% |
| 4級 | 92% |
| 5級 | 79% |
| 6級 | 67% |
| 7級 | 56% |
| 8級 | 45% |
| 9級 | 35% |
| 10級 | 27% |
| 11級 | 20% |
| 12級 | 14% |
| 13級 | 9% |
| 14級 | 5% |
本件では,11級相当の20%ではなく,12級相当の14%にて合意することを想定すべきと考えられます。
ポイント
肩関節の変形は主婦業の労働能力に影響しない
逸失利益に影響する後遺障害は12級と考えることが必要
まず,関節機能障害(可動域制限)が等級認定されなければならないため,後遺障害診断書の再作成を依頼する必要がありました。そこで,弁護士から被害者の方に後遺障害診断書の再作成をお勧めするとともに,主治医の先生とご相談いただきたい内容を書面化してお渡しすることで,被害者と主治医との間で再測定及び診断書訂正(再作成)を進めてもらう方法を選択しました。
この点,診断書の再作成を依頼する場合,弁護士が直接医療機関に依頼する方法と,患者である被害者に主治医の先生とお話していただく方法のいずれかが考えられます。被害者の負担は,弁護士による直接の依頼の方が小さいものの,医師と患者との信頼関係を維持・継続する観点では,直接コミュニケーションを取っていただく方が有益なケースが多く見られます。
本件の場合,従前の信頼関係が強固であった上,後遺障害診断書の再作成には可動域の再測定(医師と患者の直接のやり取り)が必要になるため,被害者を通じてご相談いただく方法が適切であると判断しました。
以上の活動を尽くした結果,肩関節の可動域は,健側が170度程度,患側は100度程度であるとの再測定結果が得られ,後遺障害等級認定の条件を満たす診断書の作成が実現されました。
なお,この再測定は,一度後遺障害診断書を提出してしまってからでは困難です。なぜなら,一度診断書を提出した後に,再測定をして別の診断書を提出した場合,最初に提出した診断書の内容が優先的に評価されるのが通常であるからです。前後の測定結果が明らかに異なる場合,先の測定結果が尊重されやすいため,提出前に診断書の再作成を行う必要がありました。
ポイント
被害者を通じて主治医に再測定を依頼
提出前に診断書を訂正(再作成)する必要がある
金額交渉に際しては,慰謝料は裁判基準満額の90%の金額,逸失利益は後遺障害12級相当の金額がそれぞれ目標額でした。そこで,交渉手法として,逸失利益で11級相当の請求をした後,12級相当の金額に譲歩する形を取ることで,有益な結果を引き出すことにしました。
こうすることで,実際は目標とする逸失利益の金額であるにもかかわらず,相手目線ではこちらが逸失利益を譲歩したと映ることになります。こちらが逸失利益を譲歩した場合,慰謝料は相手が譲歩する,というやり取りになることを期待しました。
上記の交渉の結果,慰謝料については裁判基準満額の95%に相当する金額,逸失利益は後遺障害12級相当の金額を獲得できることとなりました。
ポイント
逸失利益を譲歩したように見せる交渉により,慰謝料の増額を獲得
上記の活動の結果,被害者には肩関節の可動域制限12級及び変形障害12級がそれぞれ認定され,併合11級が獲得できました。
また,損害賠償額は総額1,280万円超となり,本件の内容を踏まえた示談としては一般的な目標額を上回る結果となりました。


本件は,被害者が後遺障害診断書の作成を受けた後,後遺障害等級の認定手続前に弁護士相談をご希望されたケースでした。
弁護士が診断書の内容を確認したところ,そのままでは可動域制限が認定されない測定値であったため,事前に弁護士へご相談しなければ適正な等級認定を獲得するチャンスは失われていた可能性が非常に高かったでしょう。
その意味で,被害者の方が弁護士への相談を実施されたのは,結果に直結する極めて重要な行動であったと言えます。
弁護士の活動開始後は,比較的円滑に,事前想定通りの流れで解決に至ったため,本件は初期対応がほぼ全てであったと言っても過言ではありません。最終的な合意金額は,想定していた目標額を上回る水準になりましたが,被害者の方が適切な初期対応を尽くしたことへのご褒美のようなものだったのかもしれません。
後遺障害診断書の内容に不明点の生じた際は,一度弁護士にご相談されてみることをお勧めします。
藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。
特設サイト:藤垣法律事務所
このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,交渉を拒む相手保険から,交通事故紛争処理センターの利用を通じて約3,280万円の増額賠償の獲得に至った事例を紹介します。

被害者(女性・当時高校生)は知人運転の単車に同乗していましたが,単車の運転手が信号のない十字路上での四輪車との出会い頭事故に遭い,受傷しました。被害者の乗車していた単車の方に一時停止規制があったものの,単車の運転手が速度を緩めないまま十字路内に進入したところ,事故が発生したという状況でした。
被害者の負った怪我は,頸椎の骨折,股関節の脱臼骨折,足指の骨折などでした。特に頸椎と股関節のケガが重く,後遺障害は避けられない状態でした。
1か月以上の入院及びその後の通院治療を経て,被害者には併合7級の後遺障害等級が認定されました。主な認定内容は以下の通りです。
被害者の後遺障害
脊柱の運動障害 8級
分娩機能障害 11級相当
その他,傷跡や痛みについて14級の認定あり
総合:併合7級
加害者(運転者)の保険会社からは,後遺障害等級認定の結果報告とともに,被害者へ損害賠償額の提案がなされました。
もっとも,提示金額は約2,140万円であり,後遺障害7級の高校生に対する賠償額としては非常に低い水準と思われるものでした。
ポイント
併合7級の認定と約2,140万円の金額提示あり
保険会社の提示は非常に低い金額
保険会社が非常に低い金額の提示をしている理由の一つに,過失割合の主張がありました。
本来,被害者は同乗者に過ぎないため,運転者同士が起こした事故について過失を問われる立場にはありません。自動車同士の交通事故における過失割合は,運転行為の落ち度の割合である以上,運転をしていない人に落ち度を指摘することはできないからです。
今回,相手の保険会社が主張していた被害者の過失は,「好意同乗」と呼ばれるものでした。
好意同乗とは,運転者の車両に無償で(好意で)同乗させてもらうことをいいます。運転者が運転行為を誤って事故を起こしたのであっても,自分からその車両に同乗した人物が損害の全てを運転者に請求するのは公平でない,という考え方が,「好意同乗減額」と呼ばれる過失相殺の根本にあると言われます。
加害者の保険会社が金額提示を行うとき,同乗していたという理由のみで好意同乗の主張をすることは一定数見られます。特に,単車の運転や長時間運転など,類型的に事故が起きる可能性の低くない同乗行為に対して,主張されやすい傾向が見られます。
本件でも,相手保険会社は好意同乗による過失相殺を主張しており,提示金額の低さに大きな影響を及ぼしていました。もっとも,被害者は単車に同乗していただけであり,特に危険な行動をとっていたわけではありませんでした。
ポイント
同乗者に「好意同乗」を理由とした過失の生じる場合がある
もっとも,本件の被害者は特に危険な行為はしていない
交通事故の解決に際しては,認定された後遺障害等級の妥当性を判断することが必要です。後遺障害等級が一つ異なるだけで,数百~数千万円という単位で賠償金額が変動する可能性も低くないためです。
この点,本件で被害者に認定された等級は併合7級でしたが,主な後遺障害等級は脊柱の運動障害8級,それ以外は8級に至らない類型の後遺障害でした。そのため,脊柱の骨折に対する後遺障害等級が妥当であれば,全体の結果も妥当であると評価することが可能です。
脊柱部の骨折に対しては,一般的に変形障害及び運動障害の認定が考えられます。その具体的な認定基準は以下の通りです。
【変形障害】
圧迫骨折や破裂骨折に伴って脊柱部の変形が生じる後遺障害です。
| 等級 | 基準 |
| 6級 | 脊柱に著しい変形を残すもの |
| 8級 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
| 11級 | 脊柱に変形を残すもの |
具体的基準
脊柱に著しい変形を残すもの(6級)
1.複数の椎体の圧迫骨折で前方椎体高の合計が後方椎体高の合計より椎体1個分以上低くなっている場合
2.圧迫骨折で前方椎体高の合計が後方椎体高の合計より椎体2分の1個分以上低くなっており、かつ、コブ法による側彎度が50度以上ある場合
脊柱に中程度の変形を残すもの(8級)
1.圧迫骨折で前方椎体高の合計が後方椎体高の合計より椎体2分の1個分以上低くなっている場合
2.側彎度が50度以上となっている場合
3.環椎(第一頚椎)または軸椎(第二頚椎)の変形・固定により次のいずれかに当てはまる場合
a.60度以上の回旋位となっている
b.50度以上の屈曲位となっている
c.60度以上の伸展位になっている
d.側屈位となっており、矯正位(頭部を真っ直ぐにした姿勢)で頭蓋底部と軸椎下面の平行線の交わる角度が30度以上となっている
脊柱に変形を残すもの(11級)
1.圧迫骨折が生じ、そのことがエックス線写真等で確認できる場合
2.脊椎固定術が行われた場合
3.3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けた場合
【運動障害】
圧迫骨折などの結果,脊柱部の運動機能に制限が生じる後遺障害です。
| 等級 | 基準 |
| 6級 | 脊柱に著しい運動障害を残すもの |
| 8級 | 脊柱に運動障害を残すもの |
具体的基準
脊柱に著しい運動障害を残すもの(6級)
次のいずれかにより頚部および胸腰部が強直したもの
①頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており,そのことがX線写真等により確認できるもの
②頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
脊柱に運動障害を残すもの(8級)
次のいずれかにより頚部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたもの
①頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており,そのことがX線写真等により確認できるもの
②頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
そして,本件での被害者の状況を踏まえると,「脊椎固定術」をした上で「頸部の可動域が2分の1以下に制限」されており,確かに8級の認定対象になることが確認できました。一方,8級を超える等級認定の基準は満たしておらず,等級認定としては8級が妥当なものであるとの判断ができました。
以上の検討の結果,後遺障害等級は併合7級を前提に解決すべき事故であることが確認できました。
なお,脊柱の後遺障害に関しては,こちらの記事もご参照ください。
ポイント
後遺障害等級は最も重い8級(脊柱の運動障害)が妥当かを基準に検討
認定基準と被害者の状態を照らし合わせ,認定等級が妥当であると判断できた
後遺障害等級が認定される場合,損害賠償額が最も大きくなりやすい項目は「後遺障害逸失利益」です。後遺障害逸失利益とは,後遺障害に伴う労働能力の低下によって収入が減少する分を損害として計算したものをいいます。後遺障害等級が認定される状況では,労働能力がそれ以前より制限されるため,得られたはずの収入が得られなくなったと評価され,逸失利益が発生するということです。
この点,後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。
後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
そして,労働能力喪失率は,主に後遺障害等級によって定められますが,仕事の内容によっては労働能力に影響しない後遺障害もあり得るため,仕事への具体的影響を踏まえての検討が必要です。例えば,顔面の醜状障害(傷跡)は,モデルなどの外見を活用した仕事には影響するものの,そうでない仕事には影響しないため,仕事によっては逸失利益の対象とならないことも少なくありません。
被害者の場合は,事故当時に高校生であったため,まだどのような仕事をするかが明らかでないという問題がありました。どんな仕事をするかが分からないため,労働能力への影響が分からない(=立証できていない)という反論を受ける可能性が想定されました。
ポイント
労働能力喪失率は,後遺障害の内容と仕事の内容の関係で検討する必要がある
事故当時学生のため,仕事への具体的影響を指摘することは困難
本件では,相手保険に交渉の意思がない可能性を想定する必要があると考えられました。その理由は,概ね以下の通りです。
相手保険に交渉の意思がない可能性を想定する理由
1.提示金額が明らかに小さい
2.被害者の過失を不明確な根拠で強気に主張している
3.被害者に対して,金額を改める意思はないと告げていた
金額の低さと過失の主張だけでも,非常に好戦的な態度を感じさせるところですが,被害者に対してあらかじめ増額の意思がないと告げるのは,通常は考えにくい対応と言えます。明らかに被害者の感情面へマイナスの影響を与える発言であって,交渉を目指すには不適切と言わざるを得ないためです。
そうすると,相手保険は何らかの理由で交渉をする意思がないという可能性を強く考慮する必要があり,交渉以外の解決方法を検討することを視野に入れるべきケースでした。
ポイント
相手保険会社に交渉の意思がなければ,交渉での解決は困難
適正な解決を目指すには交渉以外の解決方法を検討する必要がある
受任後,弁護士から相手保険に一度交渉での請求を行ってみることとしました。しかし,相手保険の態度は,提案を受け入れないどころか対案を検討する意思もないというもので,明らかに交渉の余地がないと判断せざるを得ませんでした。
そこで,弁護士としては交渉以外の解決を選択する必要がありますが,具体的には以下の2つが考えられます。
交渉以外の請求方法
1.訴訟(裁判手続による請求)
2.ADR(裁判外の紛争処理手続)
両者の主な違いとしては,以下のような内容が挙げられます。
| 【項目】 | 【訴訟】 | 【ADR】 |
| 手続の形式 | 法律の定めに従う | 柔軟な取り扱いが可能 |
| 関与する人 | 裁判所(裁判官) | あっせん担当弁護士 |
| 解決のスピード | 長期間を要しやすい | 訴訟よりは短期間になりやすい |
| 費用 | 訴訟費用や弁護士費用等が発生 | 申立て無料 |
| 公開性 | 公開の法廷における審理 | 非公開の手続 |
| 賠償額 | 遅延損害金や弁護士費用を加算 | 遅延損害金や弁護士費用は通常加算しない |
| 強制力 | 法的拘束力があり,履行を強制させられる | 合意内容の強制力はない |
基本的な差異としては,訴訟だと厳格な手続で一定の費用が発生するものの,解決内容に強制力がある,ADRだと柔軟な手続で費用なく実施できるものの,解決内容に強制力はない,という区別ができるでしょう。
本件の被害者は,できる限り早期の解決を希望する気持ちが強く,訴訟への対応負担を避けたいという要望もあったため,十分な打ち合わせの上でADRの一つである「交通事故紛争処理センター」への和解あっ旋申立てを利用することとしました。
一方で,期間や負担よりも賠償金額を優先したいという場合は,訴訟での解決を目指すことも有力ではあります。訴訟にも賠償額の減額リスクはあるため,訴訟が必ず経済的にプラスとは言えませんが,獲得し得る最大額は訴訟の方が大きい傾向にあります。
ポイント
相手保険には交渉をする意思が全くない状態であると確認
請求方法を比較検討し,「交通事故紛争処理センター」の手続を利用することに
相手保険は好意同乗を理由に被害者の過失を主張していましたが,弁護士の方では過失相殺を受け入れる必要は全くないとの判断に至りました。
そもそも,現在の裁判例では,ただ同乗したというだけで好意同乗を理由とした過失相殺が行われることはまずありません。やはり,単に同乗しているだけで過失だというのは不合理であって,妥当性を欠くという判断が定着しています。
現在,同乗者に好意同乗の過失相殺がなされるケースは,以下のような場合に限られています。
好意同乗減額が生じる場合
1.同乗者が事故発生の危険を増大させる行為をした
2.事故発生の危険が極めて高い状況を知りながらあえて同乗した
上記のように,同乗者を非難できる事情がなければ,好意同乗減額は認め難いところ,本件の被害者にそのような事情は全くなかったため,弁護士からは被害者無過失の主張を一貫して行うこととしました。
ポイント
ただ同乗しただけでは好意同乗減額の対象とはならない
被害者はただ同乗しただけであるから,過失を受け入れるべきでない
逸失利益に関しては,労働能力喪失率の問題になりますが,本件の後遺障害等級との関係における一般論は,以下のように整理できます。
後遺障害と労働能力の一般的な関係
1.脊柱の運動障害(8級)
→労働能力を喪失させることに異論は生じにくい
2.分娩機能障害(11級)
→労働能力に影響するかどうか不明確
3.その他(14級)
→労働能力に一定の影響はし得る
本件の場合,脊柱の運動障害8級と分娩機能障害11級が併合され,7級との認定になっていますが,分娩機能障害の方が労働能力に影響しないのであれば,7級の労働能力喪失率でなく8級の労働能力喪失率を用いるべきでないか,という見解が生じ得るところです。
なお,労働能力喪失率は後遺障害等級によって決まりますが,具体的な喪失率は以下の通りです。
| 1級 | 100% |
| 2級 | 100% |
| 3級 | 100% |
| 4級 | 92% |
| 5級 | 79% |
| 6級 | 67% |
| 7級 | 56% |
| 8級 | 45% |
| 9級 | 35% |
| 10級 | 27% |
| 11級 | 20% |
| 12級 | 14% |
| 13級 | 9% |
| 14級 | 5% |
7級は56%,8級は45%のため,金額に11%の違いが生じる問題点となります。この11%の違いは,本件では400万円以上の差異につながるため,非常に大きな問題点です。
この点,分娩機能障害そのものが将来の労働能力に影響を及ぼすと主張するのは容易でありません。ただ,分娩機能障害を引き起こす股関節の障害は労働能力に一定の影響を及ぼす,との主張を念頭に,より大きい労働能力喪失率を目指すこととしました。
ポイント
脊柱の運動障害と分娩機能障害がそれぞれ労働能力に影響するか,という問題
分娩機能障害が直接労働能力に影響するとの主張は容易でない
本件では,交通事故紛争処理センターを利用しましたが,その手続の流れは以下の通りです。
【和解あっ旋】
和解あっ旋を担当する弁護士が双方を仲介する形で,和解に向けた話し合いを行います。一般的には,それぞれの当事者が順番にあっ旋担当弁護士と協議する方法で,あっ旋担当弁護士争点の整理や解決内容に関する話し合いを試みます。
【あっ旋案】
双方の主張が一通り出尽くすと,あっ旋担当弁護士からあっ旋案(和解内容の案)が示されます。双方があっ旋案に同意できれば,その内容で解決となります。
あっ旋案を念頭に,あっ旋案を若干変更した内容で合意に至ることもあります。
【審査】
和解あっ旋手続で解決できなかった場合,当事者の申立てにより審査手続を行ってもらうことが可能です。審査会が当事者双方の主張を踏まえて「裁定」という結論を出します。
申立人である被害者は,この裁定の結果には拘束されませんが,申立人が裁定に同意した場合,相手保険は裁定に従うルールとなっています。そのため,被害者が裁定結果に同意すれば,和解での解決となります。
本件では,交通事故紛争処理センターを利用したところ,相手保険があっ旋案による解決を拒否したため,審査に移行しました。その結果,相手保険の主張する賠償額は約2,140万円でしたが,裁定では約5,420万円という内容になり,約3,280万円の増額となりました。
被害者の過失はゼロを前提とした解決となり,好意同乗による過失相殺はなされませんでした。
また,逸失利益に関する労働能力喪失率は,8級が45%,7級が56%のところ,裁定では労働能力喪失率50%での解決となりました。

本件は,相手保険が非常に強気に交渉を拒んできた,という特徴のあるケースでした。
相手保険が交渉を拒む対応を取ってくる場合,その対応に合理性があるかないかを判断し,不合理なのであれば毅然とした請求手続を取る必要があります。もっとも,その判断を被害者の方が行うのは容易でないため,速やかな弁護士への相談・依頼が適切なケースだったと言えるでしょう。
実際,相手保険の主張する金額は,最終的な解決金額を遥かに下回るものでしかなく,相手の強気な姿勢に付き合ってしまうと大きな不利益につながってしまうところでした。
法的には,好意同乗減額の主張は根拠に乏しく,一方で労働能力喪失率の主張には一定の合理性があり得る内容でした。そのため,紛争処理センターからどこまでこちらに寄り添った解決案を出してもらえるかは難しいところでもありました。
そんな中,本件の結果は労働能力喪失率を除き全てが当方の請求通りであり,労働能力喪失率も決して不利益ではない数字であったため,バランスの取れた結論に至ったと考えられます。
相手保険の不合理な主張に対して適切な対応を尽くし,適正な結果を引き出せた事例としては,特筆に値するものであったと言えるでしょう。
藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,後遺障害14級の賠償額交渉を弁護士が受任し,1か月に満たない短期間で200万円を超える増額解決に至った事例を紹介します。

被害者は,自転車に乗車中,信号のある十字路を青信号に従って走行していたところ,右方から赤信号を看過して十字路に進入してきた自動車に衝突される事故被害に遭いました。
この事故によって,被害者は頸椎捻挫,腰椎捻挫等を受傷し,約半年間の通院治療を要しました。その後,頸椎捻挫後の神経症状に対して後遺障害14級9号が認定され,加害者の保険会社から賠償額の提案を受けた段階で弁護士への相談をご希望されました。
なお,被害者はパートタイマーの兼業主婦という立場であり,弁護士への相談前には,相手保険との間で仕事や主婦業に関する話をしたことがない,とのことでした。
ちなみに,家事ができずに困ったなど,主婦業への影響を考慮した賠償額を保険会社が提案する場合,前提として被害者の職業や家族構成を確認する必要があります。なぜなら,主婦業をしている立場であるかどうかは,職業や同居家族を確認しなければ判断できないためです。
弁護士への相談時に被害者が保険会社から受けていた賠償額の提示内容は,総額約123万円というものでした。
ポイント
後遺障害14級9号認定済み
保険会社から約123万円の賠償額提示済み
被害者はパートタイマーの兼業主婦
専業主婦またはパートタイマーの兼業主婦が交通事故に遭った場合,収入に対する影響は限定的ですが,その分,主婦業に対する影響が非常に大きく生じます。そのため,主婦が被害者の場合には,主婦業(家事労働)の休業損害が発生すると考えられています。
しかし,保険会社の提示内容は,被害者の家事労働に関する休業損害を一切考慮していないものでした。そもそも,被害者が兼業主婦であることも,被害者の同居家族の有無・内容も,保険会社は確認を取っておらず,家事労働に関する休業損害を検討する意思が見受けられない状況でもありました。
主婦の交通事故被害に関して,休業損害は無視できない規模の金額になることが少なくありません。保険会社としては,あえて休業損害の点に触れないことで損害賠償の負担軽減を目指したのであろうと想像されますが,被害者にとっては休業損害の計上をしないメリットはありません。
被害者に休業損害が発生しないという特別な事情も見受けられなかったため,弁護士からは適正な休業損害を請求すべき状況と理解されました。
主婦業(家事労働)に関する休業損害の金額は,いわゆる自賠責基準の場合だと,以下の金額になります。
家事労働の休業損害(自賠責基準)
【日額】6,100円
【日数】実通院日数
家事労働は,会社員の労働などと異なり,何日の休業を要したかを特定したり,どのような損害があったかを金額換算したりすることが困難な分野です。そのため,休業日数は実通院日数と同じ日数であるとみなし,日額を6,100円と定めることで,機械的な計算をできるようにしたのが自賠責基準の計算方法です。
自賠責基準の金額は,機械的に算出できなければ保険の運用ができないため,実際の休業の程度に関わらず,一律で「6,100円×実通院日数」という形が取られます。
なお,自賠責基準には支払の上限額が定められています。傷害部分は合計の限度額が120万円のため,治療費で120万円が発生していれば休業損害はゼロとなります。自賠責基準の計算式は,自賠責限度額の範囲内でのみ意味を持つものなのです。
一方,裁判基準と呼ばれる計算基準では,以下のような計算を行うことが通例です。
家事労働の休業損害(裁判基準)
【日額】(事故前年の女性平均賃金(年収))÷365
【日数】休業を要した日数
日額は,女性の平均年収を365日で割る方法で算出するのが通常です。具体的な金額は事故発生の年にもよりますが,日額は概ね1万円を超える水準になることが多く,自賠責基準よりも高額になりやすいところです。
一方,日数に関しては,定まった特定方法がなく,個別の内容・状況に応じて検討しなければならないところです。どのような家事分担であったか,事故によってどのような家事がどの程度の期間できなかったか,という点などを総合的に考慮の上,被害者側と加害者保険会社の間で協議することが一般的です。
この点,自賠責基準で「休業日数=実通院日数」としている以上,休業日数を実通院日数とするべきとも思えますが,「休業日数=実通院日数」としなければならない法的な根拠はありません。あくまで,自賠責基準は自賠責が支払う保険金額の計算方法を定めているだけであり,被害者の損害額を定めているわけではないからです。そのため,日額を裁判基準に改めて,日数は自賠責基準と同じ実通院日数にしたいと思っても,それを加害者側が了承する必要はないという結論になるでしょう。
ポイント
保険会社が休業損害を省いて提示していても,適正な休業損害は請求すべき
休業損害の金額計算に際しては,休業日数が問題になりやすい
後遺障害逸失利益は,後遺障害に伴う労働能力の減少が,将来の収入減少をもたらすという内容の損害です。イメージとしては,症状固定後の休業損害と考えてよいでしょう。
休業しなければならない程度は,事故発生の直後が一番大きく,治療や時間経過を経て段階的に減少していくとの理解が一般的です。そして,症状固定(治療終了)の時期になれば,後遺障害等級が認定される場合でない限り休業の必要はゼロとなります。

この点,症状固定時の症状について後遺障害等級が認定された場合,症状固定時にも休業の必要が残り続けているということになります。その具体的な程度は後遺障害等級によりますが,最も重い1級は100%,最も軽いとされる14級では5%とされています。
頸椎捻挫の神経症状で14級9号が認定された場合,5%の休業が症状固定後5年以内の期間に渡って残り続ける,という理解になり,この将来の休業に対する支払が後遺障害逸失利益というものです。
具体的な逸失利益の計算に際しては,休業が将来どのくらいの期間に渡って生じると見込まれるのかを特定する必要があります。後遺障害の影響が大きければ大きいほど影響する期間も長いと理解することになるため,交渉に際しては,後遺障害が家事労働をどのように制限するのか,説得的に示すことが重要になります。
ポイント
後遺障害逸失利益は,症状固定後の休業損害
後遺障害が休業にどの程度の影響を及ぼすのか,という点が重要
被害者は,弁護への依頼に当たって弁護士費用の負担を強く懸念していました。被害者は,自家用車を所持していたものの,自動車保険に入っていない状態だったため,弁護士費用が自己負担になることを想定し,これまで弁護士への依頼を検討できないでいた,との経緯がありました。
弁護士の費用を負担する自動車保険のサービスには,「弁護士費用特約」があります。弁護士費用特約は,一定の対象者が自動車事故に遭った際,加害者に対して金銭を請求するための弁護士費用を負担してくれる,というものです。
ただし,弁護士費用特約から支払われる具体的な費用の金額や上限は決まっており,必ずしも弁護士費用全額を網羅できるとは限りません。弁護士費用特約で必要な弁護士費用をすべて賄えるかは,多くの場合,弁護士側の費用設定によって変わります。
被害者は,自動車保険や弁護士費用特約についてあまり分からないでいる,とのことであったため,弁護士費用特約が利用できる状況にないか,という点も弁護士にて確認を進めることとしました。
ポイント
弁護士費用特約は,被害者が加害者に金銭請求するときの弁護士費用を支払ってくれるサービス
弁護士費用の全額をカバーできるかは,多くの場合弁護士側の費用設定による
自分に利用できる弁護士費用特約の有無が分からなければ,弁護士への相談が可能
休業損害については,特段の事情がない限り請求すれば一定の支払が得られるであろうことが明らかな状況でした。ただ,その金額をどうするかは,難解な問題であると想像されました。
そこで,まず,被害者の家事に生じた具体的な休業の内容と程度を,時系列に沿って指摘していただくことにしました。事故直後はどの程度の家事ができなかったか,それが時間経過に応じてどのように回復していったのか,時間経過しても引き続きできなかった家事はどんなものか,といった点を,可能な限り具体的にするよう努めました。
あわせて,被害者がパートタイマーであったことから,パート勤務の休業状況を確認しました。一般的に,兼業主婦でパート勤務の休業が全くなければ,それだけ家事の休業も少なく済んでいるはずであり,逆にパート勤務が長期間できていなければ,家事の休業も多くなってしまっていると理解されやすいです。
弁護士による確認内容
1.具体的な家事の休業内容・程度を時系列に沿って整理
2.パート勤務の休業状況を確認
以上の確認の結果,被害者には事故直後から一定の休業が生じており,時間経過によって回復は見られるものの,症状固定までの間継続的に支障が生じ続けていると判断することができました。
そこで,休業損害の請求に際しては,時間経過に応じて段階的に休業の程度を減少させていく方法で計算することとしました。

具体的な計算のイメージは以下の通りです。
本件における休業損害の計算方法
| 事故後の期間 | 休業の程度 |
| 1日~40日 | 80% |
| 41日~80日 | 60% |
| 81日~120日 | 40% |
| 121日~160日 | 20% |
| 161日~180日 | 10% |
被害者の実態を反映する方法として合理的な計算をしつつ,交渉でできる限りの休業損害を獲得するための具体的方法として,本件では上記の計算方法による解決を提案することとしました。
以上の対応の結果,総治療期間約180日,実通院日数約100日のところ,80日を超える日数分の休業損害で合意するに至りました。
ポイント
休業の実態を丁寧に確認
段階的に休業の程度を設定することで,説得的な休業損害の金額計算を行った
後遺障害部分に関する保険会社の提示は,いわゆる自賠責基準の金額とほとんど同額でした。
自賠責保険からは,後遺障害14級に対して75万円が支払われますが,加害者の保険会社としては,後遺障害部分の支払が75万円に収まれば,自社負担がなくなる点で最も利益になるため,自賠責基準での提示を行うことが非常に多く見られます。
弁護士が交渉を行う場合,この自賠責基準の提示に対して,適正な金額の請求を行って増額を図る,ということが非常に重要となります。特に本件では,相手保険が被害者の家事労働を全く考慮していなかった点もあり,「後遺障害逸失利益」の増額交渉が要点となる状況でした。
後遺障害逸失利益は,将来の休業損害というイメージの損害であることを解説しましたが,後遺障害逸失利益と休業損害は似た性質の損害であるため,その損害の大きさを立証するための根拠も類似したものになってきます。
つまり,治療中には休業を多く要しており,症状固定後にも同じような休業の継続が見込まれる,ということが示せれば,逸失利益が決して小さくならないことの裏付けにつながるというわけです。
弁護士からは,症状固定前の休業が症状固定後も継続していること,それが後遺障害の影響によるものであることを具体的に指摘することで,後遺障害逸失利益を可能な限り大きい金額とすることを目指しました。この交渉に際しては,依頼者とも十分な打ち合わせを実施し,後遺障害の家事への影響を具体的に整理しました。
以上の対応の結果,後遺障害部分(後遺障害慰謝料+後遺障害逸失利益)の金額は,弁護士が事前に想定していた目標額に達することができました。
ポイント
後遺障害逸失利益の立証は,休業損害の立証と類似する内容
症状固定前の休業が症状固定後も続いていることを具体的に示す
弁護士においては,依頼者及び家族の弁護士費用特約が利用できないか,確認することにしました。
一般的に,弁護士費用特約が利用できる人は,以下のような立場の人です。
弁護士費用特約が利用できる主な立場
契約者
契約者の同居家族
契約者の別居の子(未婚の場合のみ)
契約自動車の同乗者
また,対象になる事故はいわゆる自動車事故ですが,契約者やその家族が利用する場合,被害者自身がその自動車に乗っている必要はありません。歩行中に自動車と接触した事故であっても,弁護士費用特約の利用は可能です。
本件では,被害者が兼業主婦であることを踏まえ,同居の配偶者の自動車保険を確認することとしました。
配偶者は,本件事故に対してほとんど関与していなかったため,自身の自動車保険を確認する機会がありませんでしたが,弁護士が保険証券等を確認したところ,配偶者の自動車保険に被害者が利用できる弁護士費用特約を発見できました。
そのため,弁護士が配偶者加入の保険会社に問い合わせ,事情や状況を説明の上,弁護士費用特約で対応してもらうよう手続を進めました。
結果,被害者は特に煩雑な対応をすることなく,弁護士費用特約から弁護士費用全額の支払を受けられることになりました。
ポイント
弁護士費用特約は自身が自動車に乗っていなくても利用可能
同居家族の弁護士費用特約は確認をすることが望ましい
以上の活動を尽くした結果,弁護士依頼前の提示額約123万円であったところ,総額約330万円での合意に至り,約207万円の増額が実現されました。
また,この増額交渉に際して発生した弁護士費用は,全額が弁護士費用特約からの支払となり,被害者に弁護士費用の負担が生じなかったため,増額分は全て被害者の利益となりました。
本件では,活動開始から1か月以内で解決に至ることができました。

本件の被害者は,加害者の保険会社からかなり低額の金額提示を受けている状況でした。もっとも,被害者自身にその事実は分からないので,弁護士に相談しなければ低額であることを知らないまま合意していたかもしれません。その意味では,弁護士への相談が極めて重要なアクションであったということができるでしょう。
また,弁護士費用特約は,交通事故被害に遭わないと利用することがほとんどないため,被害者自身が利用できる状態かどうか分からないままである,ということも少なくありません。しかも,自分以外の人が契約した弁護士費用特約が利用できる場合もあり,逆に自分が契約した弁護士費用特約でも使えない局面があるなど,確認も容易でないことがあり得ます。
そのため,弁護士費用特約の利用ができるか不明な場合は,その点も含めて弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
なお,本件は交渉開始から賠償額の獲得までにかかった期間が1か月弱でした。増額幅や要した手続を踏まえると,非常にスピーディーな解決であったと言えます。
もっとも,迅速解決は弁護士だけでは実現できず,ご依頼者の対応あってこそのことです。ご依頼者様自身が,自分の力で迅速解決を勝ち取った事例と言っても差し支えないでしょう。
藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。
特設サイト:藤垣法律事務所
このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,通院日数が決して多くない中で後遺障害14級9号の獲得を実現した頸椎捻挫の事例を紹介します。

被害者は,片側二車線の道路の右側の車線をバイクで直進走行していましたが,左側の路肩に一時停止していたタクシーが乗車扱いを終えて発進し,そのまま右側の車線に進入したため,直進走行中の被害者と接触する事故が発生しました。
加害者のタクシーが,被害者のバイクに気づかず,右ウインカーを出したまま右側の車線に進入してきたため,被害者はクラクションを鳴らしながら回避を試みましたが,タクシーがクラクションを意に介さず走行し続けたため,接触は避けられませんでした。
被害者には,事故直後は目立った受傷が見られませんでしたが,事故翌日になって右手のしびれや首の痛みなどが生じるようになりました。医療機関での診断は「頸椎捻挫」というもので,画像上の異常所見は特に確認されませんでした。
なお,加害者のタクシー運転手及び所属するタクシー会社は,被害者側の速度超過を問題視しているという話をしているようでした。
交通事故の過失割合は,事故類型ごとに設けられている「基本過失割合」と,この基本過失割合に加えて考慮すべき事情がある場合の「修正要素」によって決定されます。
そのため,過失割合を判断するためには,まず該当する基本過失割合の有無及び内容を特定し,その上で修正要素の検討をすることになります。
本件は,自動車進路変更時における後続直進単車との事故であるため,事故類型を踏まえた基本過失割合は,以下の【225】図に従って単車:四輪車=20:80となります。

「別冊判例タイムズ38号」より引用
本件では,加害者側から,被害者の速度超過が主張されているという状況でした。この点,後続直進車の速度超過は,時速15㎞以上の場合に「+5」,時速30㎞以上の場合に「+15」の修正要素に該当します。
そうすると,被害者の速度超過を前提とした場合,被害者の過失は5~15%修正されることになり,25~35%となる可能性があります。
ポイント
基本過失割合は被害者20%
被害者に速度超過があると,被害者の過失は25~35%になり得る
本件の被害者の受傷内容は「頸椎捻挫」であり,画像等の他覚的所見がないものでした。この場合,後遺障害等級としては14級9号の獲得を目指すことになります。
前提として,頸椎捻挫等に代表される神経症状に関し,後遺障害等級としては以下のものがあります。
| 等級 | 認定基準 |
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
また,それぞれの認定基準を満たしているかどうかの具体的な考え方は,以下の通りです。
| 12級13号 | 症状が医学的に証明できる場合 (画像所見などの他覚的所見によって客観的に認められる場合) |
| 14級9号 | 症状が医学的に説明できる場合 (他覚的所見はないものの,受傷内容や治療経過を踏まえると症状の存在が医学的に推定できる場合) |
本件では,他覚的所見が認められないため,12級13号の認定が見込めません。そのため,受傷内容や治療経過などを踏まえ,14級9号の基準である「症状が医学的に説明できる」場合と認められるかどうかが問題になります。
なお,むち打ちの後遺障害等級認定については,こちらの記事もご参照ください。
ポイント
神経症状の後遺障害等級としては,12級13号又は14級9号が挙げられる
本件は他覚的所見がないため,14級9号を目指すべき場合に当たる
過失割合に関しては,基本過失割合の20:80は了承できるものの,速度超過による過失割合の修正は了承できないと判断しました。なぜなら,過失割合の修正要素は,それを主張する方が具体的な主張立証をできるか,修正要素の存在について当事者間で争いのないことが必要ですが,本件ではいずれも見受けられなかったためです。
本件で相手方が被害者の速度超過の根拠として主張するのは,主に加害者(タクシー運転手)の記憶とドライブレコーダー映像でした。なお,タクシーが相手の場合,その加入している保険はタクシー共済になるのが一般的ですが,タクシー共済を利用するタクシー会社では,自社の担当者が対応する(タクシー共済には自動車保険会社のように連絡窓口となる人がいない)ことが通常です。本件でも,加害者の勤務先であるタクシー会社の担当者が,弁護士との連絡窓口に入っていました。
弁護士がタクシー会社担当者と連絡を取ったところ,タクシーのドライブレコーダー映像が確認できるとのことであったため,タクシー会社に訪問し,直接ドライブレコーダー映像の確認を行いました。タクシー会社としては,映像から被害者の速度超過が推測できるとの主張でしたが,弁護士が直接確認すると,その主張は非常に抽象的であるという判断ができました。
というのも,速度超過を理由とする過失割合の修正は,速度が時速何キロ超過していたか,というレベルで特定できなければなりません。時速15㎞以上の超過がなければ修正自体が生じませんし,時速30㎞を境に修正の程度も変わるためです。
しかし,本件のタクシー会社の主張は,「いくらか制限速度より速いスピードであると推測される」という程度にとどまる内容でした。走行距離と走行時間から速度を割り出せるわけでもなく,映像に残るバイクの動きが速そうに映る,という趣旨の指摘しかなされておらず,修正要素の立証とは到底考え難いものと判断されました。
そのため,弁護士からは,以下の指摘を行いました。
過失割合に対する指摘の内容
1.タクシーは片側二車線の道路上を路肩から右車線まで一気に進路変更しており,強引な運転行為が見受けられる
2.タクシーの強引な運転行為はあるが,交渉の限りであれば基本過失割合である20%の過失を了承する
3.訴訟に移行した場合は,20%より被害者に有利な過失割合を主張することになる
4.被害者の速度超過に関する主張は一切受け入れない
以上の指摘を踏まえた協議の結果,タクシー会社との間で過失割合20:80の合意に至り,過失割合の問題は解決しました。
ポイント
速度超過の修正は,具体的な速度も含めて主張立証が必要
相手が根拠とするドライブレコーダーを直接確認し,主張の誤りを指摘
基本過失割合に沿った解決を提案し,早期に合意
後遺障害等級については,14級9号の認定を受けることが目標であったところ,14級9号に関する判断要素としては,以下のようなものが挙げられます。
受傷内容の重大さに関する事情
【事故態様】
→歩行者と大きな車が衝突した,車の速度が速かったなど,被害者の受ける衝撃の程度が大きいと思われる事故態様である場合,事故直後の症状が重いと評価されやすいです。
【事故による物的損害の程度】
→車両の損傷が激しい,多くの部品交換を要するような多額の修理費が発生しているなど,車両への衝撃が大きい内容である場合,事故直後の症状が重いと評価されやすいです。
【事故直後の診断内容】
→事故直後に症状の重大さをうかがわせる診断内容がある場合,症状が重いと評価されやすいです。
【事故直後の画像所見】
→事故直後に神経症状の原因となる画像所見が残っている場合,症状が重いと評価されやすいです。
症状改善のため十分な治療を尽くしたという事情
【治療期間及び実通院日数】
→治療期間が長く,実通院日数が多い方が,等級認定に近づきやすい傾向にあります。一般的には,通院期間6月以上,実通院日数100日以上を要することが目安とされるケースが散見されるところです。
もっとも,長ければ長いほど,多ければ多いほどいいというものではありません。明らかに過剰な診療と評価される治療経過だと,逆に症状とは関係のない理由で(=打算的に)通院したものと評価され,等級認定が得られづらい事情になりかねません。
【治療内容】
→神経ブロック注射など,より症状に対する影響の強い治療を受けている場合,十分な治療を尽くしたものと評価されやすい傾向にあります。具体的な治療方法は主治医とのご相談が適切ですが,可能であれば症状が重いことを把握してもらい,その症状に適した強度の治療を受けるのが望ましいです。
【治療中の症状経過】
→治療期間中にどんな症状が出ていたか,という点が具体的に明らかであれば,それに対する治療も尽くされ,結果的に十分な治療を行ったと評価されやすいところです。例えば,首だけでなく上肢や下肢にも症状が出ているほど深刻な症状だったため,これを踏まえた治療内容に移行した,といった場合が挙げられます。
症状固定時における症状の重さに関する事情
【症状の一貫性】
→診断書やカルテの記載上,事故直後と類似した症状が一貫して残存している場合,その症状は重い物と評価されやすいです。
【症状の常時性】
→症状が残存しているとき,それが動作をしたときに生じるのか,動作しなくても常時生じるのかは大きな違いになります。症状に常時性がある場合,その症状は重いと評価されやすいです。
【神経学的検査の結果】
→神経症状に関する後遺障害等級認定の判断に当たっては,その神経症状の程度を推し量るための「神経学的検査」の結果が参照されやすいです。具体的な検査としては,ジャクソンテストやスパーリングテストといった「神経根症状誘発テスト」が挙げられます。
ジャクソンテスト
頭部を後ろに倒しながら圧迫したとき,肩や上腕,前腕などに痛みや痺れが生じるかを確認する検査
スパーリングテスト
頭を後ろに反らせた状態で左右に傾けたとき,肩や腕,手などに痛みや痺れが生じるかを確認する検査
【画像所見】
→14級を目指す場合には画像所見の指摘は困難ですが,何らかの画像所見が医師の先生から指摘される状況であれば,非常に有力な材料になります。
この点,非常に簡易な判断材料として,通院期間及び実通院日数を基準とする検討が広く用いられています。具体的には,通院期間180日以上,実通院日数100日以上を要した場合,そのような神経症状は14級9号の対象になる可能性が生じる,というものです。
ただし,通院期間180日以上,実通院日数100日以上であったとしても,直ちに14級が認定されるわけではなく,イメージとしては認定対象となるためのスタートラインに近いイメージでしょう。
しかし,本件の被害者の場合,通院期間は180日強あったものの,諸事情があり実通院日数が60日程度にとどまっていました。そのため,実通院日数は,後遺障害等級認定に対して消極的な材料となっている状況でした。
そのため,弁護士の方では,以下のような事情を強調することにより,実通院日数が多くなくても14級が認定されるべきであることを主張立証することを目指しました。
14級認定を目指すための主張内容
1.事故態様
a.被害者はバイク乗車中であり,四輪車と違って事故の衝撃が直接身体に及ぶ状況であった
b.四輪車進路変更時の後続直進バイクとの事故は,決して受傷が軽くなりやすい事故類型ではない
2.症状の推移
a.被害者の実通院日数が60日程度にとどまっていたのは,やむを得ない事情があったためで,通院が不要だったからではない
b.被害者は治療開始直後から一貫して痛みを訴え続けており,治療をしても改善されない頑固な症状がある
以上の試みをした結果,後遺障害等級は目標としていた14級9号の認定に至りました。
ポイント
頸椎捻挫での14級9号は,総治療期間と実通院日数が重要な判断要素
実通院日数が一般的基準より少なかったものの,14級9号の認定を実現
14級の認定を前提とした場合,主な損害項目は「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」,「後遺障害慰謝料」,「後遺障害逸失利益」の3点となるのが通常です。本件の場合も同様でした。
この点,「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」及び「後遺障害慰謝料」は,弁護士の交渉による増額が生じやすい主な項目でもあります。弁護士がいない場合はいわゆる自賠責基準が採用されやすいものの,弁護士に依頼し,弁護士が交渉を尽くすことで,裁判基準と呼ばれるより高額な金額水準を踏まえた合意が可能となります。
一例として,14級の後遺障害慰謝料の場合,以下のような差異が考えられます。
14級の後遺障害慰謝料
自賠責基準=32万円
裁判基準=110万円
差額=78万円
なお,弁護士が交渉で解決する場合,裁判基準の80~90%が一つの目安になりやすいところですが,90%の99万円であっても自賠責基準とは67万円もの差があります。
後遺障害逸失利益(労働能力の喪失による収入減少)については,労働能力喪失期間が主な問題になりやすいところです。
具体的な労働能力喪失期間は,個別の後遺障害や症状の内容によっても異なりますが,14級9号に該当する頸椎捻挫の場合,5年以内の期間を念頭に置く運用が一般的です。加害者保険会社としては,労働能力喪失期間が短ければ短いほど賠償額も小さくなるため,特に弁護士がいなければより短い期間を主張することが広く見られます。
この点,交通事故と縁のなかった人が,突然「労働能力喪失期間2年」と言われても判断基準を持ち合わせていないため,十分に検討しないまま合意してしまう被害者も相当数いるようです。
しかし,弁護士が交渉をする場合にそのような被害者の損失を見過ごすわけにはいきません。労働能力喪失期間は5年間とすることを念頭に交渉を実施する方針としました。
ポイント
慰謝料は弁護士の有無で最も金額が変わりやすい項目
頸椎捻挫による14級9号の逸失利益は,労働能力喪失期間の問題が生じやすい
上記の各活動を尽くした結果,以下の結果が実現されました。
本件の主な結果
1.過失割合20%(加害者の主張を退ける)
2.後遺障害14級認定(目標等級の実現)
3.賠償額合計245万円(労働能力喪失期間5年)
なお,20%の過失割合があることを踏まえると,賠償額は交渉で実現し得る最大限に近い水準であったと考えられます。


本件は,過失割合について加害者側の中途半端な主張があった,という点に最初の関門がありました。この点については,弁護士が実際の根拠資料を具体的に確認し,加害者側の言い分は法的に認められる余地のない程度の内容であることをはっきり指摘することで,早期解決に至りました。
具体的金額に関しては,後遺障害等級が認定されるかどうか,という点が損害賠償額の大きさを決定づけました。実際には,後遺障害14級を前提に245万円を超える賠償に至りましたが,後遺障害が非該当(等級なし)であれば,賠償額は3分の1にも満たなかったことが見込まれます。
後遺障害等級認定を得るためには,実通院日数の少なさが懸念事項でしたが,バイクの運転中で事故の衝撃が大きかったことや,実際に頑固な症状が残り続けていたことなどを丁寧に示すことで,被害者の後遺障害に対する理解を得られたのが大きな要因だったと考えられます。
頸椎捻挫について後遺障害14級の認定を獲得することは容易でなく,残念ながら非該当を覚悟して行う必要がある,というのが現実ですが,実際に結果が伴うケースも確かに存在するということを伝えてくれる事例だと言えるでしょう。
藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,バイク乗車中に自動車との事故に遭い,二か所に人工関節の挿入置換を要した結果,後遺障害9級,賠償額合計2,800万円超を獲得した事例を紹介します。

信号機のある十字路交差点で,バイクに乗車した被害者が直進走行していたところ,対向の右折四輪車と接触するいわゆる右直事故が発生しました。被害者は,自分の右前方から右折してきた車と自車の間に右足を挟まれる形になってしまったため,主に右足の受傷が大きい状態でした。
被害者の受傷内容は,右骨盤の脱臼骨折,右膝靭帯の断裂,右足甲の骨折等,多岐に渡りました。受傷部に対する手術は複数回に及び,その間に感染症にかかるなどもしたため,被害者は合計で300日を超える入院を要することになりました。
弁護士が法律相談を受けたのは,入通院治療継続中のことで,治療中の対応から最終的な解決までをご一緒するため依頼をお受けすることになりました。
直進二輪車と右折四輪車との間における右直事故は,以下の【175】図の通り,二輪車:四輪車=15:85が一般的な過失割合となります。

「別冊判例タイムズ38号」より引用
そのため,本件の過失割合は被害者15%であれば適正であると考えられ,相手から被害者15%を超える主張が出ないか,という点が問題になると想定できました。
結果,加害者保険会社も被害者15%の過失割合を想定しており,過失割合に問題のないことが確認できました。
ポイント
直進バイク:右折自動車の右直事故の場合,基本的な過失はバイク15%
本件の場合,治療期間が約2年半,うち入院期間が300日以上と,非常に長期の入通院を要することになりました。そのため,事故前に勤めていた勤務先との雇用関係は終了せざるを得ない状況に至りました。
この点,雇用が継続しており,その勤務先の仕事を休業している,という状態であれば,適切な手続を踏めば相手保険から休業損害の受領が可能です。もっとも,勤務先を退職した後については,勤務先の休業が観念できないため,休業損害の支払が受けられないのではないか,という問題意識が生じます。
休業損害に関する事情
| 雇用契約中 | 勤務先を欠勤しているため,現実の欠勤に対応する休業損害が発生 |
| 退職(雇用契約終了)後 | 退職している以上欠勤もないため,休業損害は不発生? |
この点,被害者が自分の意思で勤務先を辞めたり,そもそも事故前から退職するつもりだったりすれば,退職後の収入まで加害者側に保障してもらうのは困難でしょう。しかしながら,被害者の退職原因が交通事故にしかない場合,退職をしたからといってその後の休業損害を加害者側が負担しないというのは不公平と言わざるを得ません。
本件の被害者については,交通事故とこれに伴う入通院のため,出勤の見込みが長期間立たず,今後も継続的な出勤が見通せないために雇用契約を終了する,という状況でした。つまり,被害者が退職をするのは専ら交通事故が原因であって,退職後も休業損害の支払を継続してもらうべき(加害者側に生活保障を求めるべき)内容であると判断できる内容でした。
ポイント
休業損害は,退職後には生じないのが原則
ただし,退職原因が専ら交通事故であれば,退職後も休業損害の支払はなされるべき
本件における被害者の後遺障害等級は,9級相当となることがほぼ明らかに見通せる状況でした。
被害者の後遺障害等級
10級:右股関節の人工関節挿入置換
10級:右膝関節の人工関節挿入置換
結論:9級相当
人工関節の挿入置換は,その内容が明白であるため,不必要な処置であったような例外的な場合を除き,後遺障害10級の認定が想定されます。今回は,股関節と膝関節の2か所に人工関節の挿入置換があったため,最終的な結論も9級であることが見通しやすい内容でした。
そうすると,その後遺障害等級を獲得する手段については,柔軟な検討が可能となります。
そもそも,後遺障害等級を獲得するには,自賠責保険会社に所定の請求手続を行うことが必要ですが,具体的な手続の方法は以下の二通りです。
後遺障害等級認定を目指す手続
1.事前認定
→加害者の保険会社が必要な書類等を収集・提出する方法
2.被害者請求
→被害者自身が必要な書類等を収集・提出する方法
また,各方法のメリット・デメリットについては以下のように整理されます。
| 方法 | メリット | デメリット |
| 事前認定 | 後遺障害診断書だけ主治医から取り付けて提出すれば,あとは保険会社がすべて進めてくれる | 保険会社は,必要な書面以外は何も提出してくれない |
| 被害者請求 | 必要書類以外にも,自分の主張に関わる書類を自由に添えて提出することができる | 提出書類の取得や作成を自分でしなければならないため,手間が多い |
本件では,被害者請求に際して発生する手間や弁護士費用を考慮した場合に,これを避けて事前認定を行う方が被害者にとって有益であると判断しました。そのため,手続選択について弁護士から必要な説明を行い,弁護士費用を含む各種負担の軽減を目的に事前認定を選択することとしました。
ポイント
本件は9級相当となることがほぼ明らかな状況
弁護士費用や手続負担を回避するため,あえて事前認定を選択
被害者は,症状固定時55歳という年齢でした。そして,事故当時は会社員として勤務しており,治療中にその会社を退職した,という経緯がありました。
この場合,後遺障害等級が認定された場合の逸失利益について,計算方法に争いの生じることが想定されます。それは,一般的に定年とされる60歳を近年のうちに迎えるためです。
後遺障害逸失利益は,後遺障害による労働能力の喪失が収入減少を引き起こすことを踏まえ,その収入減少に対する補償をするものです。そうすると,そもそも収入がない状態であれば,逸失利益はゼロとなるべきです。
そして,定年後は仕事がなく,収入もないことが一般的であるため,定年以降に後遺障害逸失利益は発生しないのではないか,という問題が生じるというわけです。
法律的な運用では,後遺障害逸失利益が生じる一般的な期間は67歳までとされるため,被害者目線では67歳までの逸失利益を請求したいところです。一方,実際に67歳まで労働をして収入を獲得し続ける立場ではなければ,67歳までとするのは不適切だ,という反論を受けることは避けられません。
そこで,被害者の後遺障害逸失利益は,何歳までを対象期間として計算すべきであるか,という点について慎重な検討を要する状況でした。
ポイント
後遺障害逸失利益は,後遺障害による収入減少への補償
もともと収入がなければ,後遺障害逸失利益はゼロになる
一般的な定年とされる60歳以降は,逸失利益の有無が問題になりやすい
休業損害については,退職後も加害者保険会社に支払いを継続してもらうため,弁護士にて必要な対応と交渉を尽くしました。
具体的には,以下のような対応を行うこととしました。
休業損害に関する対応
1.退職理由が専ら交通事故にあることを勤務先に書面化してもらう
2.退職がなければ見込まれていた収入額とその根拠を書面化する
3.医師の所見としても速やかな業務復帰が不可能であることを示す
以上の対応を通じて,「勤務先を退職したのは,交通事故のために勤務できない状況が長期間続いている点が唯一の原因である」という事実を説得的に示し,退職後も休業損害の支払いを続けるよう保険会社に求めました。
その結果,休業損害は継続的に支払われることとなり,入通院中の被害者の生活保障は約束される結果に至りました。
後遺障害等級については,事前認定の結果,想定通り9級の認定となりました。認定された等級,内容ともに事前の予定と相違ないものであったため,速やかに金額交渉へ移行することとしました。
ポイント
後遺障害等級は,事前認定により負担を避けつつ希望する9級認定
後遺障害逸失利益に関しては,まず,被害者の勤務先で予定されていた定年や再雇用のルールを確認することとしました。そうすると,被害者の勤務先は,60歳定年となるものの,65歳まで再雇用が可能とされており,実際にも65歳までの再雇用を選択する例が大多数であることが分かりました。
そのため,65歳まで期間を後遺障害逸失利益の対象とする解決を目指し,相手保険との交渉を実施することとしました。
もっとも,根拠なく主張するのでは解決が難しいため,以下のような根拠資料の作成・提出も並行して行いました。
後遺障害逸失利益に関する根拠
1.勤務先の定年・再雇用に関するルール(就業規則)を示す
2.被害者の勤務先では65歳までの再雇用が常態化していることを示す
3.就業規則を踏まえ,定年後の具体的な想定収入額を算定
以上の対応を通じて,65歳までの期間は収入の継続が見込まれていたことを説得的に示し,相手保険会社の理解を得る試みを行いました。
上記の活動の結果,治療期間中の休業損害1,000万円超,治療終了後の賠償額1,800万円超,合計2,800万円超の賠償を獲得するに至りました。
なお,休業損害は治療期間中の全日について支払が得られ,後遺障害逸失利益については65歳までの期間を対象とする当方の主張がそのまま採用されました。


本件では,右足に大きなケガを負った被害者が,入院中に度重なる感染症の被害にも遭うという状況下で,入院期間が非常に長期に渡ったという特徴がありました。
入院期間が長期に渡ったことで,勤務先への復帰が困難になってしまい,治療の終わりが見えない中で仕事だけを失った,という不安定な状況を強いられてしまいました。
そこで,まずは治療期間中の生活を支えるための休業損害の交渉が急務だったと言えますが,休業損害の問題が速やかに解決できたのはとても有益なことでした。
また,後遺障害逸失利益に関しては,必要な根拠を提出の上,根拠に沿った請求を行うことで,比較的円滑な合意・解決に至ることができました。この点については,退職後でありながら協力的な対応をしていただいた勤務先の存在も非常に大きく,被害者と勤務先との信頼関係が解決に導いてくれたと指摘することもできそうです。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,事故後意識を失った状態であった高齢者に関し,迅速な弁護活動によって最大額の受領を実現した事例を紹介します。

90歳の被害者は,自転車の乗車中に自動車と衝突する事故に遭い,脳挫傷,肩や肋骨の骨折,全身の打撲等,極めて重大なケガを負いました。被害者は,事故発生から意識のない状態が続いていたため,被害者から事故状況を聞き出すことはできませんでした。
事故態様に関しては,被害者が片側一車線の道路の路肩を走行していたところ,後続の自動車と接触した事故のようである,との情報が得られましたが,その正確さは不十分なものにとどまりました。被害者が歩道を走行していたのか路肩を走行していたのか,どのような経緯で車道に進入したのか,なぜ接触が回避できなかったのか,という点について,明確な情報は得られないままでした。
また,自動車側の保険会社は,意識を失って入院中である被害者の入院費用の支払を拒んでいました。このような対応は,通常,被害者側に大きな過失があると考える場合に取られるものであり,相手方やその保険会社が,被害者の過失を相当程度大きく見積もっていることが推測される状況でした。
被害者自身が弁護士に依頼することは困難であるため,被害者の唯一の子である男性が,弁護士への相談・依頼を希望されました。
交通事故の損害額は,過失割合によって大きく異なります。それは,損害額を被害者と加害者の過失割合に応じて負担し合うことになるためです。
例えば,被害者に総額1,000万円の損害が生じているとして,被害者の過失がゼロであれば,1,000万円の損害は全て加害者が負担すべきということになります。全ての損害が加害者の落ち度によって生じているためです。
一方,被害者と加害者の過失がともに50%であれば,加害者に全ての損害を負担させるのは公平ではありません。被害者にも50%の過失がある以上,被害者に生じた損害の50%に当たる500万円は被害者が負担すべきであって,加害者に請求ができるのは1,000万円のうち500万円のみという結論になります。
本件では,被害者自身から事故状況が聴取できず,事故を撮影した映像もなかった上,加害者の主張する内容も明確には把握できなかったため,過失割合を特定しづらいという難点がありました。ただ,加害者の保険会社が被害者の入院費用の支払を拒んでいることは,保険会社が被害者の過失を相当程度見積もっていることの十分な裏付けになる事情ではありました。
被害者の家族を通じて収集できた情報を踏まえると,過失割合にはいくつかの仮説を立てることは不可能ではありませんでした。
【仮説1.進路変更の場合】
自転車と車が同一方向に走行していたところ,自転車が何らかの事情で進路変更を試み,その際に車と接触した,という場合です。過失割合は,前方に障害物があったかどうかによって区別されますが,障害物はなかったという前提で仮説を立てます。
この場合,以下の【307】図に従い,基本過失割合は自転車:自動車=20:80,自転車が高齢者のため「-10」の修正がなされ,自転車:自動車=10:90という過失割合が想定されます。

「別冊判例タイムズ38号」より引用 以下同じ
【仮説2.路外からの侵入の場合】
自転車が路肩を走行していたという点が不正確であり,実際は路外の駐車場などから自転車が車道へ進入した,という場合です。
この場合,以下の【300】図に従い,基本過失割合は自転車:自動車=40:60,自転車高齢者のため「-10」の修正がなされ,自転車:自動車=30:70という過失割合が想定されます。

【仮説3.横断自転車の場合】
路肩を走行中の自転車が,何らかの理由で車道を横断して対向車線側に移ろうとした場合です。また,自転車が路肩でなくさらに外側の歩道を走行しており,その後車道を横断しようと試みた,という場合も含まれます。
この場合,以下の【310】図に従い,基本過失割合は自転車:自動車=30:70,自転車高齢者のため「-10」の修正がなされますが,この場合には自動車側から「直前横断」の主張がなされるのが多数であるため,直前横断によりさらに「+10」の修正がなされ,結果的には自転車:自動車=30:70という過失割合が想定されます。

過失割合の検討を行う場合,刑事記録として作成されている「実況見分調書」の取り付けが広く行われています。実況見分調書は,当事者が立ち会いの上,当事者が指示説明した事故態様を書面に記録したもので,当事者の主張する事故態様を把握するための根拠資料とされます。
ただ,実況見分調書を含む刑事記録の取り付けができるのは,基本的に刑事処分がなされた後です。そして,交通事故に関して刑事処分がなされるのは,早くても数か月後,ケースによっては1年以上経ってからのことにもなりかねません。時間をかけて調査するのであれば,実況見分調書を通じて相手の主張を確認するのも有力ですが,本件では以下で解説するようにあまり時間が残されていませんでした。
ポイント
被害者側の情報を踏まえると,被害者の過失は10~30%になりやすいか
実況見分調書の取り付けは有力だが,取得に時間がかかる
本件の被害者の後遺障害等級は,1級となることがほぼ明らかな状況でした。事故発生から一貫して意識のない状態が続いており,意識の回復する見通しがなかったためです。そのため,被害者の損害としては,入院に対する慰謝料と,後遺障害1級に対する慰謝料が見込まれやすいところです。
もっとも,被害者は90歳と高齢であり,収入を得る仕事をしている立場にはなかったため,後遺障害に伴う逸失利益(労働能力の喪失による収入減少)は存在しない状況でした。後遺障害等級が認定される場合,金額的にはこの逸失利益が全項目中最も大きな金額になることが通常ですが,収入のない立場の高齢者は例外で,本件でも後遺障害の逸失利益は存在しないことを前提に考慮する必要がありました。
ポイント
後遺障害は1級であることがほぼ明らか。「入院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」が生じる
しかし,被害者の立場上「後遺障害逸失利益」は存在しない
被害者は,事故当時90歳と非常に高齢で,事故がなくても生涯を遂げる時期が遠くはないと見られていました。そこに交通事故で意識不明の重体となり,その生命維持は非常に不安定な状態を強いられ続けていました。
この場合,弁護士としては,死亡前後の損害額の変化を考慮する必要があります。つまり,死亡後では得られる賠償額が小さくなってしまう場合,死亡より前に金銭を回収しなければ,被害者の不利益につながってしまうということです。
しかも,本件では被害者側に一定程度の過失が見込まれるため,死亡前後の比較はいわゆる裁判基準のみでなく,自賠責基準についても行う必要があります。なぜなら,自賠責基準は被害者側にあまりに大きな過失がない限りは過失による金額減少が生じないため,後遺障害逸失利益のない本件のようなケースでは,過失相殺を要する裁判基準よりも過失相殺しなくて済む自賠責基準の方が高額になる可能性も大いにあるからです。
実際に,本件では自賠責保険金の方が高額になりやすいケースと考えられる状況でした。そして,自賠責保険金は,死亡後になると,それ以前の半分に満たない金額しか受領できなくなることが試算できました。
したがって,過失割合の問題は存在するものの,過失割合の検討に時間をかけている場合ではなかったのです。
ポイント
被害者死亡の可能性がある場合,死亡前後で損害額が大きく減少しないか注意が必要
死亡前後での金額変化は,自賠責基準についても検討する必要がある
本件では,死亡後になると自賠責保険金が半分以下になってしまう
被害者自身が弁護士に依頼できないため,現実的には子が被害者の代わりに動いている状況でした。
もっとも,法律上は,本人の代わりに動くのは成年被後見人と呼ばれる立場の人物でなければならず,子であっても法的には第三者に過ぎません。そのため,法律を厳密に守るのであれば,子を成年被後見人と認めてもらった後に,改めて子から依頼を受けて弁護活動を行うべき,ということになります。
しかし,被害者死亡後に回収できる金額が大きく減少してしまうため,ゆっくりと成年被後見人の手続をしているわけにはいきませんでした。
この点,自賠責保険は,被害者の成年被後見人見込みとして適切な人物であれば,請求者が被害者自身でなくても自賠責保険金の請求を受け付ける運用をしています。この取り扱いを踏まえ,とりあえず自賠責保険金の受領に限り,子の委任を受けて弁護士が活動を行うことに決めました。
ポイント
法的には,成年被後見人が被害者のために弁護士依頼することが必要
自賠責保険は,成年被後見人でなくてもその見込みがあれば請求者として取り扱う
自賠責保険金の請求に限り,速やかに子の委任を受けて活動することにした
弁護士の方では,まず何より速やかな自賠責保険金の請求を試みました。そのため,具体的には以下のような活動を尽くしました。
被害者請求迅速化のための活動
1.症状固定の判断と後遺障害診断書作成を直ちに行うことを,医療機関に丁寧に相談
2.成年被後見人見込みの子が請求者として被害者請求する予定であることを,自賠責保険会社と事前に打ち合わせ
3.自賠責に作成・提出を要する資料は前倒しで順次取り付け
これらの活動の結果,被害者の存命中に被害者請求が実施でき,自賠責保険から3,129万円の保険金を受領することができました。
自賠責保険金を受領した後は,それ以前のような時間の切迫はないため,通常通り実況見分調書の取り付けを試みるとともに,被害者の成年被後見人を選任する手続を進めるなどしながら,加害者側への請求内容を検討していました。
しかし,ほどなくして被害者の方が生涯を遂げられたため,自賠責保険金を超える請求の余地がなくなり,活動は終了することとなりました。
なお,加害者立ち会いの実況見分調書が後に取得できたため,内容を確認してみたところ,加害者側の主張は【仮説3.横断自転車の場合】に該当するものでした。加害者によれば,路肩よりさらに外側の歩道を走行していたはずの自転車が,突然歩道に飛び出して目の前を横断しようとした,という事故態様であったようです。
加害者の主張を踏まえた過失割合は,自転車:自動車=30:70をベースにすると思われますが,加害者保険会社の姿勢を考慮すると,それ以上の被害者の過失を主張するつもりであった可能性も考えられます。
ポイント
迅速な被害者請求により,自賠責保険金3,129万円を獲得
その後の請求を実施せず弁護活動終了
加害者の主張は,被害者の過失30%以上
上記の弁護活動の結果,被害者の後遺障害1級に対する自賠責保険金として3,129万円が支払われ,被害者の死亡後,遺族に相続されることとなりました。
なお,この後遺障害に対する自賠責保険金を受領する以上に金銭を獲得する方法は,本件では結果的に存在しませんでした。被害者の死亡まで手をこまねいていると,回収金額は半分以下に減少してしまうため,スピード弁護が最大額の補償を引き出すに至りました。


本件は,過失割合の不明確さ,逸失利益がないことによる方法選択の困難さ,被害者本人に意識がないことによる弁護士依頼の難しさなど,複数の異なる問題点に頭を悩ませやすい内容でした。しかし,本件の最も大きな問題は,死亡を待っていられない点にあり,その問題にどれだけ早く気づき,迅速な対応ができるかが極めて重要なポイントになっていました。
一般的な進め方では,まず可能な限り十分な治療を尽くして,過失割合については加害者の刑事処分を待って…と長い期間を費やした後に初めて方針の検討をすることも珍しくありませんが,本件ではそれが許されないという点に,杓子定規では解決できない弁護活動の難解さがあったのではないかと考えます。
また,最大限の金銭回収に至った原動力が,活動のスピードであったという点は,日頃から私が大切にしている活動の迅速さが結果に結びついたものでもあります。そのため,自分の考え方やスタンスが間違っていなかったとの確信を深める大切な機会にもなりました。
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