【埼玉大宮で業務上横領事件の弁護士選び】弁護士の必要性と判断基準,示談や不起訴を目指す場合の注意点

このページでは,業務上横領事件の弁護士選びについてお悩みの方へ,弁護士が徹底解説します。弁護士への依頼を検討する際の参考にご活用ください。

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目次

横領罪とは

横領罪とは,他人の物を占有している人が,その物を領得する犯罪です。
典型例は,人から預かっていたお金を自分のために使ってしまう,というケースでしょう。

①横領罪と窃盗罪の区別

横領罪は窃盗罪との区別が問題になりやすいですが,両者の違いは,対象物が他人が占有しているものか,自己の占有するものか,という点にあります。

窃盗罪は,他人が占有しているものを,その他人の了承なく自分の占有に移す犯罪です。例えば万引きは,店舗が占有する商品を勝手に自分の持ち物にしてしまう犯罪というわけですね。
一方の横領罪は,もともと自分が占有をしている物を自分の物(所有)にしてしまう,という犯罪類型です。会社のお金を預かっていた(占有していた)としても,あくまでお金は会社の物であるため,そのお金を自分のために使ってしまうと横領罪になる,というわけですね。

②横領罪の類型

横領罪には,大きく分けて以下の3つの類型があります。

単純横領罪(刑法第252条第1項)自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。
業務上横領罪(刑法第253条)業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
占有離脱物横領罪(刑法第254条)遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

横領事件として最も問題になりやすいのは,「業務上横領罪」でしょう。
経理担当者が勤務先の金銭を横領した場合などが代表的です。
一方,単純横領罪が成立するのは,業務の伴わない場合であり,友人から預かっていた金銭を使い込むようなケースが該当します。

また,占有離脱物横領罪は,横領罪ではありますが置き引きなどの窃盗類似の事例で問題になりやすいところです。

ポイント
窃盗と横領の区別は,対象物がどちらの占有していたものか,という点が基準
勤務先に対する業務上横領事件が問題になりやすい

横領事件の刑事処分

横領事件は,窃盗類似の事件である占有離脱物横領罪を除き,罰金の処罰規定がありません。
つまり,懲役刑より軽微な罰金刑が規定されておらず,罰金刑にとどまる余地がないため,起訴されるときにはすべて懲役刑の対象となります。

もっとも,懲役刑の対象になった場合の全てが実刑判決(直ちに刑務所に服役することを命じる判決)となるわけではありません。執行猶予となれば,刑務所に入る必要はなく,円滑に社会生活に復帰することが可能です。

横領事件の場合,実刑判決となるか執行猶予付きの判決となるかは,損害額の大きさをベースに判断されるのが通常です。損害額の大きな事件では,規模により概ね3~5年程度の実刑判決の対象となることも考えられるでしょう。
一方,事件の規模が大きい場合でも,その損害が後から金銭賠償等により補填されている場合には,非常に重要な事情として斟酌されます。損害が大きなケースであっても,その全部又は大部分が賠償されている場合には,損害が補填されたことを踏まえて執行猶予判決となることも数多く見られるところです。

横領事件の刑事処分においては,損害額とその補填の二つが重要な判断要素になりやすいことを把握しておくとよいでしょう。

ポイント
逮捕の可能性は事件の規模や悪質さによる
刑事処分の基準は損害額の大きさと補填の程度

業務上横領事件で弁護士に依頼するときのポイント

弁護士に依頼するべきタイミング

①事件が発覚したとき

業務上横領事件の典型例は,勤務先で職務上管理している財産を自分の懐に入れてしまう,というものですが,このような事件が問題になるきっかけは,ほとんどが何らかの形で勤務先に発覚することです。勤務先に発覚した後,勤務先の代表者などによって,その後の方針(捜査や刑罰を求めるか,返済をどのように求めるか等)が判断される,という流れになりやすいでしょう。

そのため,事件が発覚してしまったタイミングでは,その後の方針が決まっておらず,行動次第で大きな不利益を防げる可能性も残っている場合が少なくありません。事件の発覚を知った際には,できる限り早く弁護士選びを行い,事件の円滑な解決を目指すことが非常に重要となるでしょう。

ポイント
業務上横領事件が問題になるきっかけは,被害者側(勤務先など)への発覚がほとんど
発覚後,速やかな行動ができれば,大きな不利益を防げる可能性もある

②自首をするとき

自首とは,罪を犯した者が,捜査機関に対してその罪を自ら申告し,自身に対する処分を求めることをいいます。犯罪事実や犯人が捜査機関に知られる前に,自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告することが必要とされます。
そのため,自首は,事件の発覚や犯人の特定に時間を要しやすいケースで,特にその時間的な猶予が生じやすいものです。

業務上横領事件の場合,秘密裏に横領行為が行われるため,事件が被害者である勤務先などに発覚するまでには相当の期間が生じやすいものです。また,発覚後も,被害者側が警察に捜査を求めるかどうか,という検討には一定の期間がかかりやすい傾向にあります。被害者としては,警察に捜査を求めても損害が回復できるわけではないため,損害の回復を優先するか,加害者への厳しい対処を優先するかは,判断の難しい点となるのです。
その意味で,業務上横領事件の事件は自首が有力になりやすい事件類型と言えます。

もっとも,本当に自首をすべきかどうか,自首をする場合にどのような手順・方法で行うか,という点は,当事者自身での判断が困難なポイントです。自首を試みようと考えるときには,適切な弁護士選びの上で,弁護士とともに検討・行動をするのが適切でしょう。
そのため,自首を試みたいと考えるときは,弁護士選びのタイミングということができます。

ポイント
業務上横領事件は,犯罪事実や犯人の発覚に時間を要しやすい

③逮捕されたとき

業務上横領事件は,その内容や規模によっては逮捕の可能性も十分に想定される事件類型です。特に,横領の期間が長く,回数が多く,金額が大きいといったケースでは,証拠隠滅を防ぎながら事件の全体像を明らかにする必要性が高いため,逮捕が選択されやすい傾向にあるところです。

そのため,逮捕される業務上横領事件は,重大事件と評価されていることが多く,より適切な対応を尽くすべきケースということができるでしょう。裏を返せば,対応を誤った場合の不利益も大きくなりやすいため,不適切な対応は何としても避けなければなりません。
もっとも,実際にどのような対応をするのが最も適切であるかは,専門家である弁護士の見解を仰ぐ以外には判断が困難でしょう。

逮捕されてしまったケースでは,家族をはじめとする周囲の人ができるだけ早期に弁護士選びを進め,早期に適切な対応を尽くせるような体制を設けることをお勧めします。

ポイント
業務上横領事件は,重大事件と評価される場合に逮捕されやすい
対応を誤った場合の不利益が非常に大きいため,弁護士選びをすべき

④起訴されたとき

業務上横領事件では,起訴されると公開の法廷での裁判(公判)の対象となり,公判の内容を踏まえた裁判所の判決を受けることになります。その判決は,認め事件の場合,直ちに刑務所へ入ることを命じる「実刑」判決か,今回に限り刑務所に入らなくてよいとする「執行猶予」判決かのいずれかです。

刑事罰の種類

実刑判決となるか執行猶予判決となるかは,極めて大きな分岐点となるため,当事者としては何としても執行猶予判決を目指す必要がありますが,執行猶予判決を獲得するための具体的な方法や,執行猶予判決が獲得できる見通しの有無・程度は,高度に専門的な判断が必要なポイントです。
そのため,起訴されたときには,公判への対応に万全を期すため,弁護士選びを行うべきでしょう。

ポイント
起訴後は,刑務所への収容を命じる実刑判決の回避が最重要

業務上横領事件の弁護士を選ぶ基準

①迅速な示談交渉が可能か

業務上横領事件は,被害者との示談交渉が非常に重要なポイントとなります。具体的な被害者が存在する犯罪類型であることから,その被害者が捜査や刑罰を求めなければ,現実に捜査や刑罰の対象となることは考えにくいためです。

そして,その示談交渉は,可能な限り迅速に行うことが非常に重要となります。被害者側が警察に捜査を求めるかどうかを決める前に示談ができ,当事者間での解決となれば,捜査や刑罰を受ける現実的な可能性はなくなるため,極めて利益の大きな結果となるためです。
逆に,捜査が開始された後や事件が起訴された後では,示談が成立してもその効果は早期の示談成立には及びません。既に行われた手続がなかったことにはならないため,進行中の手続に伴う不利益は受け入れる必要が生じます。

そのため,弁護士選びに際しては,迅速な示談交渉を尽くしてくれるか,という点を重要な基準とすることをお勧めします。

②具体的な解決方針を示してくれるか

多くの刑事事件は,典型的な暴行事件や交通事故などに代表されるように,一回きりの事件やトラブルであることが一般的です。この場合,解決方針は比較的シンプルに検討しやすく,見通しも分かりやすいことが多いでしょう。
もっとも,業務上横領事件の場合,当事者間の関係が継続的である上,発生した横領行為も継続的であることが多い,という点に大きな特徴があります。そのため,事件解決を目指すためには,複数の継続的な事柄を同時に解決する必要があり,方針や見通しもその分複雑にならざるを得ません。

弁護士が業務上横領事件を扱う場合,複数の継続的な事件を解決するための方針を具体的に立てることが,最初の大きなポイントとなるところです。逆に,弁護士を選ぶ立場からは,その弁護士の解決方針がどれだけ具体的で適切なものと考えられるか,という点を重要な判断材料とするのが適切でしょう。

③見通しの説明に説得力があるか

業務上横領事件は,ケースによってその見通しが様々に異なります。特に,財産に対する犯罪であることから,横領金額の大きさは処分の大きさをダイレクトに左右しやすい傾向が見られるところです。
また,前提として,被害者(主に勤務先など)との間で当事者間での解決ができ,被害者が加害者を許すとの判断に至れば,その段階で事件が終了するケースもあります。これは最も有益な結果であることが多く,最優先で目指したいところですが,当事者間での解決が実現できる場合には限りがあると言わざるを得ないのも事実です。

弁護士が業務上横領の弁護活動をする際には,数ある可能性から個別事件の内容を踏まえた見通しを立て,これを前提に弁護方針を検討することになります。そのため,見通しが適切であることは,弁護活動が適切であることに直結する非常に重要な問題です。
弁護士選びに際しては,弁護士による見通しの説明に耳を傾け,その内容や説得力に納得することができるか,という点を判断基準とすることが有力でしょう。

④弁護士と円滑に連絡が取れるか

弁護士と連絡を取る方法や連絡の頻度は,弁護士により様々です。特に,「弁護士と連絡したくても連絡が取れない」という問題は,セカンドオピニオンとして相談をお受けする場合に最も多く寄せられるお話の一つです。
電話をしても常に不通となって折り返しがない,メールへの返信も全くない,といったように,弁護士との連絡が滞るという問題は生じてしまいがちです。

そのため,弁護士とはどのような方法で連絡が取れるか,どのような頻度で連絡が取れるか,という点を重要な判断基準の一つとすることは,事件解決のために有力でしょう。

なお,法律事務所によっては,事務職員が窓口になって弁護士が直接には対応しない運用であるケースも考えられます。そのような運用が希望に合わない場合は,依頼後の連絡方法を具体的に確認することも有益でしょう。

業務上横領事件で弁護士を選ぶ必要

①刑事事件化を防ぐため

業務上横領事件の場合,刑事事件化する前に当事者間で解決を図ることにより,刑事事件化を防ぐ試みが有力です。被害者側としても,金銭的な損害を補填してもらうことが最優先事項である場合が多く,それが実現できるのであれば,刑事事件として捜査や処罰までしてもらうメリットは大きくない,と判断する場合が少なくありません。

もっとも,当事者間で解決して刑事事件化を防ぐには,いわゆる示談交渉の上,示談の成立にこぎつける必要があります。この示談交渉は,加害者本人やその関係者が直接行うのは困難であることが通常であるため,専門家である弁護士に依頼し,弁護士を窓口に試みるのが適切です。

②逮捕を防ぐため

業務上横領事件は,逮捕するケース,しないケースいずれも考えられる事件類型ですが,逮捕されてしまうかどうかは,当事者にとっては極めて大きな問題です。逮捕が防げれば,刑事手続全体を通じて生活への影響が最小限に抑えられる可能性が高くなる一方,逮捕されると,最終的な処分が軽微になったとしても,逮捕の悪影響は大きく残り,トータルの不利益は大きい結果になりかねません。

そのため,業務上横領事件においては,逮捕を防ぐための行動が重要なポイントとなりますが,具体的にどのような動きを取るべきかは,個別の状況を踏まえた弁護士の判断を仰ぐことをお勧めします。また,実際に逮捕の回避を試みる場合には,弁護士主導で行うことが適切です。

③起訴を防ぐため

刑事事件では,一通りの捜査を遂げた後,検察官が事件を起訴するか不起訴にするか判断します。起訴された場合は,認め事件である限り刑罰を受けることになりますが,不起訴となれば,刑罰を受けることなく(=前科が付くことなく)刑事手続が終了するため,手続の結果を左右する最も重大な分岐点と言えるでしょう。

もっとも,不起訴処分を目指す具体的な方法は,事件の内容に応じた弁護士の判断や対応が不可欠です。認め事件の場合は,示談を試みるのが通常ですが,示談の試み自体が弁護士なしではできません。また,否認事件の場合は,個別事件の争点や証拠構造を踏まえ,弁護士が法的な主張を尽くすことが必要となります。

そのため,不起訴処分の獲得には弁護士選びが必要と考えるべきでしょう。

④適切な取り調べ対応のため

業務上横領事件の捜査は,取り調べが多くなりやすい傾向にあります。横領行為が一回だけではなく,長期間に渡って複数回の横領行為がなされているケースが多いため,その分必要な取調べが増え,取り調べの回数や量が多くなりやすいのです。

そのため,業務上横領事件の対応を十分にするためには,取り調べ対応の検討が不可欠です。被疑者からどのような話が引き出せるかによってその後の捜査が決定づけられる事件も少なくありません。

この点,個別の事件に応じてどのような取調べ対応をすべきかは,弁護士の法的な判断を仰ぐことが適切です。そのため,取調べ対応に万全を期すためには,弁護士選びが重要なポイントとなるでしょう。

業務上横領事件で弁護士を探す方法

弁護士相談の準備

①時系列に沿った説明の準備

弁護士が業務上横領事件の対応を適切に行うためには,事件の全体像の把握が不可欠です。特に,業務上横領事件のように継続的なやり取りがある事件類型では,一部を断片的に把握するだけでは足りず,一通りの内容を理解する必要があります。

そのため,弁護士選びに当たっては,事件の全体像を伝えられるよう説明の準備をしておくことが有益です。具体的には,事実関係を時系列に沿って整理することが望ましいでしょう。

②証拠資料の準備

弁護士選びに当たっては,事件の内容や当事者間でのやり取りの内容をより具体的に弁護士へ伝えられるよう,証拠となり得る資料を準備しておくことも有益です。具体的な証拠としては,横領行為の有無や時期・金額等が分かる記録事件発覚の経緯に関する資料事件発覚後の当事者間でのやり取りの内容が分かる資料などが挙げられるでしょう。

特に,既に当事者間で何らかの交渉や協議が行われている場合,その内容は確実に弁護士と共有することが適切です。現在の経過を弁護士が踏まえられていなかった場合,見通しが大きくズレてしまい,解決を目指すに当たって致命的な影響を及ぼす可能性も低くはありません。

③具体的な返済計画の検討

業務上横領事件を起こしてしまったことが間違いない場合,解決を目指すためには,金銭を支払って被害を補填することが最重要と言えます。もっとも,継続的に横領してしまった金銭を手元に残しているケースはあまりなく,直ちに損害額全部を支払う経済力がある場合も少ないため,現実的には長期的な返済計画を立てなければならない場合も多いところです。

この点,どのようなペースで,どのような金額の返済を行っていくことができるかは,自身の経済状況を踏まえて自ら判断する必要のある問題です。そして,具体的な返済計画がなければ,被害者側に返済を申し出ることは難しいため,被害者との解決を目指す前に,具体的な返済計画(として自分が提案できるもの)を決めておく必要があります。

返済計画については,弁護士からも一定の助言は可能ではありますが,弁護士選びの後に初めて検討するのは不適切な問題であるため,事前の検討を強くお勧めします。

④早期の法律相談

同じ弁護活動であっても,その時期によっては効果が期待できなくなってしまう場合があり得ます。業務上横領事件の場合では,刑事事件化を防ぐために当事者間での解決を目指そうと思っても,既に警察が捜査を開始している状況であれば,刑事事件化を防ぐ余地はありません。

弁護士選びは,早期であるほど活動の余地が多く残っているため,できるだけ早期の検討を行うことが望ましいでしょう。弁護士選びの入り口となる法律相談は,行うことに損はないため,まず法律相談を早期に行うことが有力です。

弁護士を探すときの注意点

①示談交渉の重要性

業務上横領事件では,早期に当事者間で示談が成立すれば,それだけで事件が事実上解決するケースもあります。それだけ,示談は重要なポイントであり,示談交渉を適切に試みることが,最終的な結果を決定的に左右すると言っても過言ではありません。

そのため,弁護士への依頼は,示談交渉をより強く意識して行うことをお勧めします。弁護士選びに当たっては,「本件の示談交渉に適した弁護士と思えるか」という尺度で検討することが重要である,とも言えるでしょう。

②示談金を含む経済的負担の大きさ

弁護士への依頼は,弁護士費用の負担が避けられません。具体的な費用の金額は法律事務所にもよりますが,一般的には数十万円の金銭負担は想定が必要になるでしょう。
また,業務上横領事件の場合,否認事件でない限りは示談金等の被害者への支払も想定する必要があります。財産に損害を与える犯罪類型のため,同じ事件であっても,被害者への支払を行っているかどうかで処分結果が大きく変わりやすいです。

そうすると,弁護士に依頼する際には,弁護士費用と被害者への支払の両方を想定し,トータルの経済的負担の大きさを見積もっておく必要があります。弁護士費用を負担したばかりに被害者への支払ができなくなった,となるのは本末転倒と言わざるを得ず,避けるべき状況と言えるでしょう。

③本人が動くこと

業務上横領事件の弁護活動には,当事者本人の協力が不可欠です。被害者との示談を行うに当たっては,必ず当事者本人の意思を踏まえて,その意思に沿った示談交渉を行う必要があります。

また,業務上横領事件の場合,加害者と被害者の間で損害額の主張に開きの生じる場合が非常に多く見られます。業務上横領事件は,加害者にある程度財産の管理権限が委ねられている場合に生じるものであるため,被害者側が財産状況を厳密に把握していない場合が多く,実際の被害よりも大きな被害額を主張されることになりやすいのです。
そうすると,事実関係を正確に把握するためにも,当事者本人との意思疎通が不可欠であり,本人の動きなしには解決が不可能と言ってもよいでしょう。

そのため,弁護士選びに際しては,本人抜きで行うことがないよう,必ず本人が動く形で進めることをお勧めします。
なお,本人が身柄拘束されている場合には,最も身近な家族等の方が,本人の意向に沿うと思われる方針で進めることが適切でしょう。

業務上横領事件での示談に関する重要ポイント

業務上横領事件で示談は必要か

業務上横領事件の場合,認め事件では示談が必要と考えるべきでしょう。

業務上横領は,業務上の立場に基づいて預かった金銭等の財産を自分のものにする(横領する)ことを言います。そのため,業務上横領事件では,被害者に経済的な損害が発生していることになります。
業務上横領事件にこのような性質があるため,業務上横領事件の刑事処分の重さを判断する場合には,被害者に生じた経済的な損害の程度が非常に大きな事情となります。また,同時に,その経済的な損害が加害者によってどの程度回復されたか,という点も非常に重要な判断材料とされています。

例えば,同じ100万円の業務上横領事件でも,損害がそのままにされている場合と,後になって加害者が100万円を全額返金した場合とでは,加害者に対する刑事処分の程度は大きく異なります。当然ながら,100万円が全額返金されているケースの方が刑事処分は軽微なものとなり,内容によっては不起訴処分が獲得できる場合もあり得ます。不起訴処分となれば,刑罰を受ける可能性はなくなり,前科が付くこともありません。

そして,返金の手段として最も有益なものが示談です。示談によって支払う金額の合意ができ,その金額の返済もできていれば,被害者の経済的な損害は加害者によってすべて回復されたと評価できるでしょう。また,示談の中で被害者が加害者を許すという内容が合意されていれば,加害者が刑事処罰を受ける可能性は劇的に低くなるということもできます。

内容に争いのない業務上横領事件では,示談によって被害者の経済的な損害を回復させるとともに,被害者の許しを獲得するのが有益でしょう。

一方,否認事件の場合,示談を行うことには慎重な検討が必要です
示談の試みは,被害者に対する謝罪及び賠償という意味を持つ行動となることが一般的です。そのため,否認事件の場合に示談をするのは,疑いを否認しつつ謝罪や賠償をする,という必ずしも合理的とは言えない動き方になり得るのです。
否認事件でも,紛争の深刻化を防いで早期解決を図るため,示談を行うことが有益な場合も否定はできません。しかし,その内容や方法には適切な配慮が必要となるため,弁護士に相談して方針決定するようにしましょう。

ポイント

認め事件では示談が必要
→経済的損害の回復,許しの獲得のため

否認事件の示談は慎重に検討するべき
→否認の方針と矛盾しないための適切な配慮が必要

業務上横領事件の示談時期

業務上横領事件の場合,警察などの捜査機関から捜査を受けるより前に,当事者間で問題になり,協議の場などが設けられることも少なくありません。

業務上横領事件の代表例は,仕事上管理していた勤務先の金銭を横領してしまう,というケースですが,その横領が発覚した場合,いきなり警察などを巻き込むよりも,会社内部で問題視され,話し合いなどの機会が設けられる場合も多く見られます。
そして,捜査機関の介入前に当事者間で話し合うことになった場合は,可能な限り速やかに示談の試みを行い,当事者間での解決を目指すべきでしょう。

もし,当事者間で金銭的な解決ができ,勤務先が刑事処分を希望しないという判断に至った場合,警察などが捜査を行うきっかけが生じないため,刑事手続が始まることなく,当事者間のみでの解決で事件が終了することになります。刑事手続への対応自体が必要なくなる点で,当事者間で解決できた場合の利益は非常に大きなものであり,その可能性があるならば可能な限り目指すのが得策です。

また,被害に遭った勤務先としても,経済的な損害がすべて回復できるのであれば,それ以上に加害者が処罰を受けるなどの不利益を被ることまでは希望しない,という発想であることが少なくありません。
警察などに捜査をしてもらっても勤務先に利益が生じるわけではなく,かえって対応の負担が増すという面は否めないため,勤務先の方も当事者間での解決を優先的に検討してくれる場合はあり得ます。

業務上横領事件は,示談によって刑事手続そのものを防げる可能性がある点で,早期示談のメリットが非常に大きい類型と言えるでしょう。

ポイント
示談の試みは可能な限り早く
刑事手続前に示談できれば,示談ですべて解決できる場合も

業務上横領事件で示談をする方法

一般的な刑事事件では,弁護士が警察や検察といった捜査機関に問い合わせ,加害者が示談を希望する旨を申し入れるとともに,被害者側の意向を確認してもらう,という手順が多く取られます。
被害者が示談交渉を了承する場合には,弁護士に被害者の連絡先等が伝えられ,弁護士を窓口に直接のやり取りをスタートすることになりやすいでしょう。

示談交渉の流れ

もっとも,業務上横領事件の場合,代表的な勤務先での横領事件などであれば,加害者側と被害者側は直接の連絡を容易に取ることのできる関係であることが通常です。被害者である勤務先としても,わざわざ警察を通じて間接的に連絡をよこすのでなく,直接の連絡を行う方が望ましいと考える場合が多く見られます。

そのため,業務上横領事件のように直接の連絡が不適切でない場合は,弁護士から被害者側に直接連絡を入れ,示談交渉を試みることも珍しくありません。

業務上横領事件における示談交渉の流れ

いずれの方法を取るかは,個別のケースや被害者側の意向によっても異なるため,刑事事件に強い弁護士に相談の上,具体的に検討するようにしましょう。

業務上横領事件の示談金相場

業務上横領事件の示談金は,損害額を基準にすることとなります。
示談金は,業務上横領によって被害者に生じた損害を埋め合わせるものでなければならないため,まずは損害総額を確認し,その金額を踏まえて示談金を決定することが必要です。

一般的には,横領の対象となった金額にいくらかを上乗せして示談金とすることが多く見受けられます。どの程度上乗せをするかは双方の意向にもよりますが,上乗せされる要素としては以下のような点が挙げられます。

示談金に含む損害

1.横領行為による業務全体の損失
2.損害調査のために生じたコスト・負担
3.示談交渉のために生じた負担(弁護士費用等)

業務上横領事件の示談内容・条項

①一般的な示談条項

【確認条項】

加害者の被害者に対する支払金額を確認する条項です。

【給付条項】

確認条項に記載した金銭の支払をどのように行うのかを定める条項です。

【清算条項】

示談で定めた条項以外には,当事者間に権利義務の関係がないことを定める条項です。清算条項を取り交わせば,その後に相手から金銭を追加請求される可能性は法的になくなります。
業務上横領事件の場合,被害者の経済的な損害を全て回復させられたか,という点が重要となりやすいため,清算条項の価値がより高くなりやすい事件類型と言えます。清算条項があるということは,加害者が被害者に支払うべきものを全て支払った,という理解になるためです。

【宥恕条項】

宥恕(ゆうじょ)条項とは,被害者が加害者を許す,という意味の条項です。
示談が刑事処分に有利な影響を及ぼすのは,基本的にこの宥恕条項があるためです。被害者が加害者を許している,という事実が,刑事処分を劇的に軽減させる要素となります。
業務上横領事件は被害者のいる事件であり,被害者の意向が処分に反映されやすい類型であるため,宥恕条項の獲得は非常に重要となります。

②業務上横領事件で特に設けやすい条項

【退職・解雇】

業務上横領事件の示談では,示談後の雇用関係に関する取り決めを設けることが多く見られます。一般的には,勤務先側が加害者との関係の継続を希望することはあまりないため,加害者の自主退職又は勤務先による解雇を行うことが多いでしょう。

加害者の立場としては,基本的に退職しない選択肢が考えにくいため,勤務先の求めに応じる形で合意するのが最も合理的なことがほとんどです。

業務上横領事件の示談で注意すべきこと

①被害者側の方針に大きく左右される

業務上横領事件は,被害者側と早期に示談をすることが非常に有益ですが,実際に早期の示談ができるかどうかは,被害者側の対応方針に大きく影響を受けます。

具体的には,警察への通報などを全くしないで当事者間で解決することが犯罪を不問にするという意味合いの行動にもなるため,コンプライアンス(=法令遵守)の観点から不適切と被害者側が考えた場合,早期合意は困難なことがあり得ます。
コンプライアンスを優先するか,早期解決による負担の軽減を優先するかは,完全に被害者側の方針の問題であるため,加害者側には致し方ないところです。

この点,被害者が示談だけで終了させることに難色を示せば,やむを得ず刑事手続の対象になりますが,その後でも示談が有益であることに変わりはありません。捜査を受けたとしても,その後に示談が成立すれば,逮捕や起訴の可能性が大きく低下することは間違いなく,一般的には不起訴処分で終了することになりやすいでしょう。

示談ができるか,できるとしてどのタイミングになるかは被害者側の方針によりますが,加害者としては,被害者がどのような方針であっても示談を目指すべきことに変わりはないと考えて差し支えありません。

②金額の争いが生じやすい

業務上横領事件では,被害額の正確な特定が困難であるため,支払うべき金額がいくらかという点に争いの生じることが少なくありません。
特に,勤務先で事業用の金銭を管理している立場で横領行為をしてしまった,という場合,他に収支を管理している人がいなければ,正確な金額計算をできる人は基本的に存在しないこととなります。また,加害者の横領行為とは別に会計上の不明な部分が存在することも珍しくないため,加害者と関係のない点も加害者のせいにされてしまう場合が一定数見られます。

この点,金額の争いがあった場合に具体的な対応をどうするかは,個別の内容によるところですが,金額の差があまり大きくない場合には,被害者側の言い分にできる限り沿った対応を行うのが望ましくなりやすいでしょう。若干の金額を調整できれば示談に至る,というのであれば,示談の成立を優先する方が加害者の利益も大きいためです。それだけ,業務上横領事件で被害者と示談できることの価値は高いものです。

ポイント
被害者側のコンプライアンスに対する方針に左右されやすい
横領行為と関係のない金額のズレも被害額と主張されやすい

業務上横領事件で不起訴を目指したい場合

業務上横領事件で不起訴を目指す方法

①被害者の宥恕

業務上横領事件は,被害者の所有する財産を預かっていた人が,その財産を自身の物にしてしまう(横領してしまう)という事件類型です。そのため,事件には個別具体的な被害者がおり,その被害者の財産に損害を与える犯罪となります。
そうすると,業務上横領事件で不起訴になるかどうかは,被害者が不起訴を希望するかどうか,という点に大きく左右されることになります。被害者が起訴を望むのであれば,それに沿って起訴し,被害者が不起訴を希望する場合には,その意思に反して無理矢理起訴するケースはあまり見られません。

そのため,不起訴を目指す最も端的な手段は,被害者の宥恕(ゆうじょ=許し)を獲得することと言えます。被害者が加害者を許し,加害者に対する刑罰を望まない意向となれば,不起訴の可能性は大きく上がることになるでしょう。

ポイント
起訴不起訴の判断は被害者の意向に左右されやすい
被害者の宥恕=許しがある場合,不起訴になりやすい

②損害の弁償

業務上横領事件は,被害者の財産に損害を与える事件であり,法的には「財産犯」と呼ばれます。そして,この財産犯の処分を決めるに当たっては,財産への損害がそのまま(マイナスが残ったまま)になっているか,埋め合わせされたか,という点が大きく影響します。財産をマイナスにさせたことが刑事責任の根拠となるため,そのマイナスがなくなれば刑事責任が大きく軽減すると理解されるのです。

そのため,業務上横領事件で不起訴を目指すためには,被害者に損害の弁償を行い,その損害を埋め合わせる試みが有効です。損害を補填した上で,これ以上の支払義務が加害者にないという合意(清算条項)の取り付けに至ることができれば,刑事責任はより大きく軽減することが見込まれます。

ポイント
財産への損害が補填されているかどうかは重要な判断基準

③否認事件の場合

否認事件のケースでは,否認の要点(争点)がどこにあるかを踏まえ,争点について犯罪の立証が困難である,との判断を促すことが適切です。

業務上横領事件の場合に生じやすい争点としては,財産がなくなっていることは事実だが自分が横領したものではない(犯人でない),というポイントが挙げられます。業務上横領事件が生じやすい環境では,財産の管理を正確にできていないことが多く,「財産は確実になくなっているものの誰が横領したか分からない」という事態が生じがちです。その場合,財産の管理をしていた人から順に疑いが生じやすく,犯人であるかどうかが大きな争点になりやすいところです。

なお,犯人性が争点である場合には,「犯人でないと合理的に説明できないことがあるか」という点が重要な判断基準となる場合が多いです。裏を返すと,「犯人でなくても矛盾しない(合理的に説明できる)」場合には,犯罪の立証が難しく,不起訴とせざるを得ない場合が多くなるでしょう。

ポイント
争点とその判断基準を踏まえた対応をする
業務上横領事件は犯人かどうかが争点となるケースも多い

業務上横領事件で不起訴になる可能性

①認め事件の場合

認め事件では,起訴されるかどうかが被害者の意向に大きく左右されます。その意味では,被害者次第と言っても過言ではないでしょう。
ただし,事件の悪質性が非常に小さいと判断される場合には,反省状況などの諸事情を踏まえて不起訴となることがないわけではありません。不起訴の可能性に影響し得る事件の悪質性は,以下のような事情を踏まえて判断されやすいでしょう。

不起訴の可能性に影響する事情

1.損害額
→損害の金額的な規模は,事件の悪質さに直結する事情です。当然ながら,金額が小さければ小さいほど,悪質性も小さいとの判断がなされます。

2.業務の内容や立場
→被害者の財産を管理するに当たって,どれだけ重要な立場にいたか,という点です。自分の判断一つで簡単に多くの財産を横領できるような立場なのか,財産管理のごく一部にしか関与していないのか,という事情は,事件の悪質さを左右することになります。
権限が大きく,責任の重い立場であるほど,悪質との評価になりやすいです。

3.横領行為の態様
→横領行為の方法が単純なものか複雑なものか,という点です。「魔が差した」と言ってもよいような単純な方法であれば,悪質さは限定的と理解されやすいでしょう。一方,計画的である,多くの隠ぺい工作がなされているなど,簡単にはできない複雑な態様である場合には,悪質であるとの評価につながりやすいです。

②否認事件の場合

否認事件で不起訴になるかどうかは,基本的に犯罪の立証ができるかどうかにかかっています。犯罪の立証ができるならば起訴され,できないならば起訴されない,という区別をしても概ね間違いないでしょう。

なお,否認事件の場合にも,被害者が起訴を希望しなければ起訴されづらいという点は同様です。そのため,否認事件であることを前提に,当事者間での解決を目指すという選択肢も考えられます。

業務上横領事件で不起訴を目指す場合の注意点

①全額の被害弁償が困難である場合

業務上横領事件では,被害総額が非常に大きくなっていて,その全額の被害弁償が困難であるケースも少なくありません。特に,長期間・複数回の横領行為があったケースで問題になりやすいポイントと言えます。

この点,認め事件である場合,基本的には被害全額の弁償が解決の前提になりやすく,全額の弁償ができない状態で示談などできるケースは例外的である,ということには十分な注意が必要です。被害全額が補填されていない段階で,被害者が加害者を許すとの判断をすることは難しいのが一般的でしょう。

被害全額の弁償が難しい場合の示談交渉は,被害者に例外的な判断を求めていることになります。その点を踏まえ,具体的な返済計画を示すなど可能な限りの誠意を見せる動きが望ましいところです。

②被害者の許しが得られない可能性

業務上横領事件の場合,被害者の許しが非常に得られにくいケースもあり得ます。代表例は,被害者(会社)が非常に規模の大きい企業である場合です。企業規模が大きいほど,一つ一つの横領事件に対して柔軟な判断をするのではなく,一律の取り扱いをする運用が多くなるため,「横領事件は一律許していない」という判断を受けやすいのです。

被害会社側のコンプライアンス意識次第で,許しが得られないことは十分に考えられます。加害者側としては,この点をあらかじめ留意した上で解決を目指すのが適切でしょう。

③被害額に争いが生じる場合

業務上横領事件で示談を試みる際に,最も言い分が食い違いやすいのが損害額です。これは,被害者側が損害を正確に判断するだけの情報を持ち合わせていないために生じやすいトラブルでもあります。
業務上横領事件が起きる間柄では,加害者側に財産の管理が広く委ねられており,その内容を加害者以外は十分に把握していない,という状況になりがちです。そうすると,被害者側が後から損害額を確認しようとしても,その全容を正しく把握するための情報や証拠がそもそもない,というケースが増えてしまうのです。

示談交渉時に被害額に争いが生じた際には,まず金額を特定する根拠があればそれを示し,最終的には被害者側が納得する解決内容を協議していくほかないところです。被害者の納得を得るために,ある程度金額面の譲歩をする判断も必要になり得ます。

④起訴不起訴が判断されるまでの期間

業務上横領事件は,その内容の性質上,捜査に長期間を要しやすい傾向にあります。特に,長期に渡って多数の横領行為があると疑われている事件では,それだけ証拠や資料の数も膨大になるため,円滑に捜査が進むことは期待しづらいでしょう。

捜査を受ける立場からすると,起訴不起訴の判断までには長期間が要しやすい,という点をあらかじめ踏まえておき,待機期間が長いことを悲観的に捉え過ぎないのが重要です。数か月の待機が生じることは決して珍しくないため,なかなか進展しないからといって一人で思い悩んでしまうことは避けたいところです。

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