商標法違反における逮捕の流れや予防策,呼び出し対応や自首のポイントなどを詳細解説

このページでは,商標法違反事件の逮捕に関して,刑事弁護士が徹底解説します。逮捕の可能性はどの程度あるか,逮捕を避ける方法はあるか,逮捕された場合に釈放を目指す方法はあるかなど,対応を検討する際の参考にしてみてください。

商標法違反事件で逮捕される可能性

商標法違反の事件は,逮捕をされるケースも十分に考えられる事件類型です。突然自宅や事業所に警察が訪れ,そのまま逮捕される可能性は否定できません。
一方で,逮捕されず在宅事件として取り扱われることも相当数あるため,逮捕の可能性が高いのはどのような場合か,把握しておくことは有益です。具体的には,以下のような場合に逮捕の可能性が高くなりやすいでしょう。

商標法違反で逮捕の可能性が高いケース

①組織的に行っている場合

一人で行った事件より,複数人が組織的に関与して行った事件の方が,逮捕の可能性が高い傾向にあります。その主な理由としては,以下の点が挙げられます。

・規模が大きい
→単独犯のケースと比べ,件数や規模が大きく,事件の重大性を踏まえた逮捕の可能性が高くなりやすいです。

・必要な証拠が多い
→複数人が関わっている場合,関係者間のやり取りが発生するため,事件の全容を把握するのに必要な証拠が多くなりやすいです。そのため,証拠収集を円滑に進める目的で逮捕される可能性が高くなります。

・証拠隠滅されやすい
→組織内・共犯者間の口裏合わせなどによって,証拠隠滅される可能性が高いと判断されやすいため,証拠隠滅を防止する目的で逮捕される可能性が高くなります。

②件数が非常に多い場合

商標法違反に該当する事件の数があまりに多い場合は,事件の重大性を踏まえ,逮捕される可能性が高くなります。また,事件ごとに証拠収集が必要となることから,事件が多いほど必要な証拠が多くなりやすく,証拠の散逸を防ぐ目的で逮捕される可能性が高くなります。

③商品の入手方法が悪質である場合

商品を入手する段階で,商標権侵害を把握していたことが明らかである場合,逮捕の可能性が高くなります。
例えば,明らかに商標を用いる権利のない製造者から直接購入していた,自身や近しい関係者が製造した商品であった,といったケースが挙げられるでしょう。これらの場合,意図的に商標権侵害の行為を助長している点で悪質であり,逮捕の必要性が高いと判断される傾向にあります。

逮捕の手続

逮捕の種類・方法

法律で定められた逮捕の種類としては,「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」が挙げられます。それぞれに具体的なルールが定められているため,そのルールに反する逮捕は違法ということになります。逮捕という強制的な手続を行うためには,それだけ適切な手順で進めなければなりません。

①現行犯逮捕

現行犯逮捕とは,犯罪が行われている最中,又は犯罪が行われた直後に,犯罪を行った者を逮捕することを言います。現行犯逮捕は,逮捕状がなくてもでき,警察などの捜査機関に限らず一般人も行うことができる,という点に特徴があります。

典型例としては,目撃者が犯人の身柄を取り押さえる場合などが挙げられます。犯罪の目撃者であっても,他人の身柄を強制的に取り押さえることは犯罪行為になりかねませんが,現行犯逮捕であるため,適法な逮捕行為となるのです。

ただし,現行犯逮捕は犯行と逮捕のタイミング,犯行と逮捕の場所それぞれに隔たりのないことが必要です。犯罪を目撃した場合でも,長時間が経った後に移動した先の場所で逮捕するのでは,現行犯逮捕とはなりません。

なお,現行犯逮捕の要件を満たさない場合でも,犯罪から間がなく,以下の要件を満たす場合には「準現行犯逮捕」が可能です。

準現行犯逮捕が可能な場合

1.犯人として追いかけられている

2.犯罪で得た物や犯罪の凶器を持っている

3.身体や衣服に犯罪の痕跡がある

4.身元を確認されて逃走しようとした

ポイント
現行犯逮捕は,犯罪直後にその場で行われる逮捕
捜査機関でなくても可能。逮捕状がなくても可能

②通常逮捕(後日逮捕)

通常逮捕は,裁判官が発付する逮捕状に基づいて行われる逮捕です。逮捕には,原則として逮捕状が必要であり,通常逮捕は逮捕の最も原則的な方法ということができます。

裁判官が逮捕状を発付するため,そして逮捕状を用いて通常逮捕するためには,以下の条件を備えていることが必要です。

通常逮捕の要件

1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。

2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。

通常逮捕の要件がある場合,検察官や警察官の請求に応じて裁判官が逮捕状を発付します。裁判官は,逮捕の理由がある場合,明らかに逮捕の必要がないのでない限りは逮捕状を発付しなければならないとされています。

ポイント
通常逮捕は,逮捕状に基づいて行う原則的な逮捕
逮捕の理由と逮捕の必要性が必要

③緊急逮捕

緊急逮捕は,犯罪の疑いが十分にあるものの,逮捕状を待っていられないほど急速を要する場合に,逮捕状がないまま行う逮捕手続を言います。

緊急逮捕は,逮捕状なく行うことのできる例外的な逮捕のため,可能な場合のルールがより厳格に定められています。具体的には以下の通りです。

緊急逮捕の要件

1.死刑・無期・長期3年以上の罪
2.犯罪を疑う充分な理由がある
3.急速を要するため逮捕状を請求できない
4.逮捕後直ちに逮捕状の請求を行う

緊急逮捕と現行犯逮捕は,いずれも無令状で行うことができますが,緊急逮捕は逮捕後に逮捕状を請求しなければなりません。また,現行犯逮捕は一般人にもできますが,緊急逮捕は警察や検察(捜査機関)にしか認められていません。

緊急逮捕と現行犯逮捕の違い

現行犯逮捕緊急逮捕
逮捕状不要逮捕後に請求が必要
一般人の逮捕可能不可能

逮捕後の流れ

逮捕されると,警察署での取り調べが行われた後,翌日又は翌々日に検察庁へ送致され,検察庁でも取り調べ(弁解録取)を受けます。この間,逮捕から最大72時間の身柄拘束が見込まれます。
その後,「勾留」となれば10日間,さらに「勾留延長」となれば追加で最大10日間の身柄拘束が引き続きます。この逮捕から勾留延長までの期間に,捜査を遂げて起訴不起訴を判断することになります。

逮捕から起訴までの流れ

ただし,逮捕後に勾留されるか,勾留後に勾留延長されるか,という点はいずれの可能性もあり得るところです。事件の内容や状況の変化によっては,逮捕後に勾留されず釈放されたり,勾留の後に勾留延長されず釈放されたりと,早期の釈放となる場合も考えられます。

逮捕をされてしまった事件では,少しでも速やかな釈放を目指すことが非常に重要になりやすいでしょう。

ポイント
逮捕後は最大72時間の拘束,その後10日間の勾留,最大10日間の勾留延長があり得る
勾留や勾留延長がなされなければ,その段階で釈放される

逮捕による不利益

逮捕をされてしまうと,以下のように多数の不利益が見込まれます。

①社会生活を継続できない

逮捕をされてしまうと,身柄が強制的に留置施設へ収容されてしまうため,日常の社会生活を続けることができません。スマートフォンの所持も許されないので,外部の人と連絡を取ることも不可能です。
そのため,周囲と連絡等ができないことによる様々な問題が生じやすくなります

また,逮捕後勾留されるまでの間は,原則として弁護士以外の面会ができません。面会によって最低限の連絡を図ろうと思っても,勾留前の逮捕段階では面会すら叶わないことが一般的です。
さらに,勾留後についても,接見禁止決定がなされた場合には弁護士以外の面会ができません。

②仕事への影響

逮捕された場合,仕事は無断欠勤となることが避けられません。その後,身柄拘束が長期化すると,それだけの間欠勤をし続けなければならないことにもなります。こうして仕事ができないでいると,仕事への悪影響を回避することも難しくなります。

また,逮捕によって勤務先に勤め続けることが事実上難しくなる場合も考えられます。
逮捕は罰則ではなく捜査手法の一つに過ぎないため,逮捕だけを理由に懲戒解雇されることは考え難いですが,一方で仕事の関係者に自分の逮捕が知れ渡ると,事実上仕事が続けられなくなるケースも珍しくはありません。

③家族への影響

逮捕されると,通常,同居の家族には捜査機関から逮捕の事実が告げられます。場合によっては,家族が逮捕に伴う各方面への対応を強いられることも考えられます。また,家族にとっては,被疑者が逮捕された,という事実による精神的苦痛も計り知れず,一家の支柱が逮捕された場合には経済的な問題も生じ得ます。

このように,逮捕は本人のみならず家族にも多大な影響を及ぼす出来事となりやすいものです。

④報道の恐れ

刑事事件は,一部報道されるものがありますが,報道されるケースの大半が逮捕された事件の場合です。通常,逮捕された事件の情報が警察から報道機関に通知され,報道機関はその情報を用いて刑事事件の報道を行うことになります。
そのため,逮捕された場合は,そうでない事件と比較して報道の恐れが大きくなるということができます。

万一実名報道の対象となり,氏名や写真とともに逮捕の事実が公になると,その記録が後々にまで残り,生活に重大な支障を及ぼす可能性も否定できません。
一般的には,重大事件や著名人の事件,社会的関心の高い事件など,報道の価値が高い事件が特に報道の対象となりやすいため,逮捕=報道ということはありませんが,逮捕によって報道のリスクを高める結果が回避できるに越したことはありません。

⑤前科が付く可能性

逮捕と前科に直接の関係はありませんが,逮捕されるケースは重大事件と評価されるものであることが多いため,事件の重大性から前科が付きやすいということが言えます。
逮捕をするのは逃亡や証拠隠滅を防ぐためですが,逃亡や証拠隠滅はまさに前科を避ける目的で行われる性質のものです。そのため,逮捕の必要が大きいということは前科が付く可能性の高い事件である,という関係が成り立ちやすいでしょう。

商標法違反事件で逮捕を避ける方法

①自首

商標法違反の事件では,事件が発覚する前に自ら自首を行う方法で,逮捕の回避を目指す動きが有力です。事件が捜査される前に自首を行った場合,基本的には逮捕されない方が通常と言えるでしょう。

なお,自首は,捜査機関が犯罪事実と犯人の両方を把握している状態で行っても,法的には自首と認められません。そのため,極力速やかに決断し,行動に移すことが有益でしょう。

②呼び出しへの対応

商標法違反の事件で呼び出しを受ける場合,呼び出しへの対応を適切に尽くすことで,逮捕を回避する可能性を高くする努力も可能です。具体的には,呼び出しに対して速やかに対応し,出頭を求められた際にはできる限り日程を確保するなどの捜査協力を尽くす,という動きが適切でしょう。

捜査機関が呼び出しを行う場合,呼び出しに応じてくれれば逮捕しなくてもよい,と判断していることが多く見られます。そのような捜査機関の期待に応えるような対応を尽くせれば,逮捕を避けられる可能性は非常に高くなるでしょう。

③早期の示談

商標法違反の事件は,商標権者や商品の購入者など,被害に遭った立場の人が警察に被害申告し,捜査を求めることで手続が始まる,というケースが大半です。裏を返せば,商標権者や商品の購入者が被害申告をしない場合,捜査が開始される可能性は低く,逮捕される可能性も低い,と言えます。

そのため,逮捕を防ぐためには,捜査開始前に早期の示談を図る試みが非常に有力です。捜査開始前に当事者間で解決ができれば,最も早期に心配が解消されるでしょう。
例えば,商品の購入者から「偽物でないか」とのクレームが入ったなど,当事者間での協議のきっかけが生じたケースでは,内容を踏まえて早期の示談を目指す動きが有力になります。

商標法違反事件の逮捕は弁護士に依頼すべきか

商標法違反の事件について逮捕に関する検討や逮捕の回避を試みる際には,弁護士に依頼し,弁護士の専門的な見解を仰ぐことをお勧めします。弁護士への依頼によって,以下のような利点が期待できます。

①逮捕リスクの高さが分かる

商標法違反の事件は,逮捕リスクの高さがケースによって様々に異なります。事件によっては逮捕を全く想定しない捜査手続が進むこともあれば,突然逮捕されることが強く懸念される場合もあります。
そして,逮捕がどれくらい懸念されるかは,その後の動き方や方針に大きな影響を及ぼすため,事前に把握しておくことが肝要なポイントでもあります。

この点,弁護士に依頼することで,弁護士の専門的な知識・経験を通じて個別の逮捕リスクを判断してもらうことが可能です。また,逮捕リスクの高さを踏まえ,どのような弁護活動の方針を取るべきか,という点についても適切な案内を受けることができるでしょう。

②手続や処分の見込みが分かる

商標法違反事件で想定される捜査手続の流れや最終的な処分には,数多くの選択肢があります。捜査手続としては,逮捕するかしないか,家宅や事業所の捜索差押えをするかしないか,取り調べはどの程度の期間,どの程度の回数行われるかなど,多くの局面で捜査機関の判断が生じるでしょう。また,最終的な刑事処分としては,どのような条件が整えば不起訴処分なのか,罰金になるのは,公判請求(公開の裁判)になるのはどのような場合か,といった点は,個別の事情によって細かく変わり得ます。

この点,弁護士に依頼することで,逮捕の有無はもちろん,その後の捜査や処分の見通しについて,ある程度のイメージを持つことが可能になるでしょう。また,現状で分かることと分からないことの区別ができれば,「何が分からないかが分からない」という不安が払拭でき,逮捕に関して必要な対応に注力することも容易になります。

③具体的な動きを主導してもらえる

逮捕を防ぐために,また逮捕された後にどんな対応を取るのか,という方針が立てられたとしても,それを実行することはまた別の困難な作業になりやすいところです。特に,刑事手続は法律でルールが厳格に定められている面が多いため,そのルールの中で,適切なタイミングに適切な動きを取る必要があります。

この点,弁護士に依頼することで,具体的な動きをするに際して弁護士が主導してくれるため,安心して進めることが可能です。また,弁護士が可能な限りの対応を代行してくれるため,肉体的・精神的な負担は大きく軽減されやすいでしょう。

商標法違反事件の逮捕に関する注意点

①逮捕前の動きが困難である可能性

商標法違反の事件では,予告なく逮捕や捜索といった強制的な捜査に踏み切られる場合も少なくありません。事件の性質上,物的な証拠が複数存在しており,事前に予告してしまうと簡単に処分されてしまう恐れがあるため,証拠収集の観点から突然の強制捜査を受ける可能性が高い傾向にあります。

この点,突然逮捕されてしまうケースだと,逮捕前に逮捕を防ぐ動きを取ることが現実的に難しい可能性も低くないため,注意が必要です。逮捕が防げない場合には,逮捕を前提に早期釈放や処分軽減を目指す動きに手早くシフトすることが有益でしょう。

②余罪がある場合の対応

商標法違反の場合,余罪が一定数あるケースも少なくありません。むしろ,余罪が全くない事件の方が少ないと言ってもよいでしょう。そのため,余罪に関する対応をどうするか,という点は悩ましいポイントの一つです。

この点,認め事件の場合であれば,捜査機関が特定し捜査することとした余罪に一つ一つ対応する,という方針を取るべきことが大多数です。どの事件を捜査・処分の対象とするかは捜査機関の判断となり,判断に必要な証拠も捜査機関の手中にあることから,証拠の精査や方針判断を待つことが必要になりやすいです。
例えば,複数の商品を複数の購入者に売却した,というケースであれば,捜査対象となった商品ごとに,それぞれの購入者と示談を目指す,という方針が有力な動き方の一例になるでしょう。

③捜査開始前に示談を試みる方法

商標法違反の事件は,捜査開始前に購入者と示談による解決ができていれば,少なくとも購入者がきっかけで捜査が始まる可能性はなくなるため,事実上の解決となるケースが多くなりやすいところです。そのため,捜査開始前に購入者との間で解決できるかは,重要な問題となるでしょう。

もっとも,捜査開始前の段階では,購入者が捜査機関への被害申告などに動いているかどうか,そもそも商標法違反の問題意識を持っているかどうか,などの点が,自分からは分からないことが通常です。そのため,購入者との解決を試みに行く際は,ある程度リスクを負って自発的に動く必要がある点に注意するのが望ましいでしょう。

なお,既に購入者からクレームなどが寄せられており,購入者が商標法違反について問題意識を持っていることが明らかであれば,捜査開始前の示談に可能な限り注力するのが合理的な行動になりやすいと言えます。

商標法違反で警察に呼び出された場合のポイント

商標法違反事件で呼び出された場合の対応法

①心当たりのある事件

心当たりのある商標法違反事件で呼び出しを受けた場合には,まずできるだけ速やかに心当たりのある旨を明らかにし,「全面的に捜査協力する意思がある」ということを把握してもらえるよう努めることが賢明です。

商標法違反の場合,自宅や事業所に捜査機関が訪れ,捜索・差押えという手続で証拠品を確保する流れが相当数見られます。捜索や差押えを受けた場合,実際に事件に関係するかはともかく,多くの物品が押収されやすいため,その後の生活に大きな影響を及ぼすケースが少なくありません。
この点,捜索・差押えなく呼び出しを受けているのであれば,今後捜索・差押えを受ける可能性をできる限り下げるのが合理的であり,その具体的な方法が捜査協力の姿勢を示すことと言えます。捜索や差押えをしなくても証拠品が確保できると判断してもらえれば,捜査に伴う不利益を最小限に抑えることもできるでしょう。

ポイント
心当たりがあること,全面的な捜査協力の意思があることを速やかに示す
自宅や事業所での捜索・差押えが行われると不利益が大きい

②心当たりのない事件

心当たりのない事件では,まず,なぜ自分が商標法違反をしたと疑われているのか,という理由を把握したいところです。具体的には,疑いの根拠となっている証拠が何かを特定することが最初の目標になるでしょう。

商標法違反の疑いで呼び出されている場合,何らかの証拠を踏まえて判断されているはずであり,その証拠に争点の原因がある,というケースが通常です。例えば,自分のアカウント情報を盗用されている,自分の名前を悪用されている,カード情報や連絡先を利用されているなど,他人が自分に成りすまして商標法違反の行為に及んでいる場合は,隠れ蓑にされた自分に疑いが向きやすいでしょう。

そのため,心当たりのない事件で呼び出しを受けた場合には,可能な範囲で冷静に受け答えをし,どのような内容で,何を根拠に自分が疑われているのか,という点の特定をできる限り目指すことをお勧めします。
なお,争点や証拠の特定は容易でないケースも多いため,具体的な動きを弁護士に委ねるのも有力な手段です。

ポイント
自分が疑われている根拠を把握する
容易ではないため弁護士に委ねることも有力

③商標法違反だと思っていなかったケース

商標法違反の疑いで呼び出しを受けたとき,起きた出来事自体には心当たりがあるものの,それが商標法違反に当たるとは全く思っていなかった,というケースはあり得るところです。例えば,ある商品を仕入れて売却したことは間違いないが,その商品が商標を無断利用したものであるとは全く知らなかった,という場合などが挙げられます。

このようなケースでは,当時の自分の認識やその根拠を,丁寧に整理し指摘できることが重要になります。どのような経緯で,どのような理由で商標法違反だとは思っていなかったか,という点は,最終的な刑事処分の判断に大きな影響を及ぼします。
また,「当時の」認識を述べる,という点にも留意しておくことが適切です。呼び出された現在,疑いを向けられた現在の認識ではなく,あくまで「当時の」認識が問題となる,という理解を正しくしておきましょう。

ポイント
当時の認識やその根拠を整理する
現在でなく当時の認識が問題であることを理解する

商標法違反事件の呼び出しに応じると逮捕されるか

商標法違反の事件では,呼び出しに応じた際に逮捕することは一般的に少ないと考えられます。逮捕が予定されているのであれば,逮捕前に呼び出すことはあまり得策でないと理解されるのが通常でしょう。

この点には,以下のような商標法違反事件の特徴が影響していると思われます。

商標法違反事件の特徴

1.証拠物が多数ある

2.捜査されているかが当事者から分かりにくい

3.捜査のきっかけが複数あり得る

【1.証拠物が多数ある】

商標法違反の場合,傷害事件や痴漢事件のようなジャンルとは異なり,証拠物がほぼ確実に存在し,しかもその内容が多数に渡ることも珍しくありません。

そのため,証拠隠滅の可能性を防ぐために逮捕した後で証拠収集を進める,という流れも多く見られますが,このとき逮捕前に呼び出して知らせてしまうと,証拠物が散逸してしまうリスクを招く原因になりかねません。これでは,逮捕の意味が大きくそがれてしまう結果になります。

【2.当事者に接触しなくても証拠収集が可能である】

商標法違反の事件では,証拠収集のために必ずしも当事者(被疑者)に接触をする必要があるとは限りません。問題となる商品が手元にある,入手経路が特定できているなど,被疑者に知られないままある程度の証拠を収集し,その上で被疑者から話を聞く,という流れになる場合も相当数見られます。

この場合,逮捕しなければ収集できなくなる,という性質の証拠が少ないため,証拠収集目的で逮捕を行う必要自体が小さいです。そのため,呼び出した段階では既に逮捕する必要がなくなっている,という可能性があるでしょう。

【3.捜査のきっかけが複数あり得る】

商標法違反で捜査が開始されるきっかけとしては,権利者からの被害申告,商品の購入者からの被害申告,いわゆるサイバーパトロールなど,複数の可能性があります。そして,呼び出しを受けた被疑者が,具体的な捜査のきっかけを知ることは難しいケースも多いところです。

逮捕は,加害者から被害者に圧力をかけるような動きを防ぐ目的でも行われますが,商標法違反の場合,そもそも圧力をかけるべき相手が誰か,加害者には分からないことが少なくありません。この点は,窃盗事件や暴行事件などの一般的な事件類型とは異なる特徴の一つです。
そのため,呼び出しをして被疑者への嫌疑が固まったとしても,被害者への圧力を防ぐ目的で逮捕する必要が決して大きくないと判断され得るでしょう。

商標法違反事件で警察が呼び出すタイミングや方法

①取調べのため

商標法違反事件での呼び出しは,基本的に取調べ目的であることが通常です。疑いの内容について被疑者の認識を確認するため,呼び出して話を聞く,という流れとなります。

このような呼び出しのタイミングは,被疑者に対する呼び出しの初期段階であることが通常です。必要な証拠物や被害者側の供述などを捜査した後,比較的速やかに行われることが想定されやすいでしょう。

②証拠品の提出を求めるため

商標法違反の場合,捜査のため必要な証拠品が少なくないため,未収集の証拠品を提出してもらう目的で呼び出しを行う場合も見られます。

このような呼び出しは,基本的に取調べの後であることが多いでしょう。取調べの内容を踏まえ,提出を求める必要がある,と考えた証拠品について,後日提出してもらうため呼び出すという流れを辿ります。
なお,取り調べ前に捜索・差押えが行われているなど,既に証拠収集のための手続が取られている場合は,証拠品の提出を求める呼び出しは行われないことが通常でしょう。

③証拠品を還付するため

商標法違反の事件捜査では,証拠品を捜査機関の手元に置いて捜査することになりやすいですが,最終的には還付(返却)しなければならないため,還付を目的に呼び出すことも考えられます。

還付目的での呼び出しは,捜査の終盤であることが通常です。証拠品の還付は,証拠品について必要な捜査を尽くした後でないと行われないため,少なくともその証拠品については捜査をする必要がなくなった,という段階に至っていなければなりません。
なお,商標権を侵害した商品の現物などは,場合により還付されないものもあり得るため,留意しておくのが望ましいでしょう。

商標法違反事件の呼び出しに応じたときの注意点

①認否の方針

商標法違反の事件では,違反していたことの確信はなかった,という場合に認否の方針が難しくなりやすいところです。商標法違反だと分かっていたわけではないが疑わしい事情はあった,というケースが代表例です。

この点,基本的には,客観的な事情から「商標法違反であってもいいと思っていた」と評価されるかどうかを基準とすることが合理的です。なぜなら,それが万一裁判所に判断されることとなった場合の判断方法であるためです。
例えば,製造者が明らかに権利者と無関係に見える,仕入れ金額が異様に安価であるなど,容易に商標法違反の可能性を想定できるケースでは,「違反を知らなかった」という一点のみで否認の方針を取るかべきかは慎重な判断が望ましいでしょう。

②証拠品を所持している場合

手元に証拠品を所持している場合,自ら自発的にその申出をし,提出を提案をすることは有力な行動の一つです。自分から証拠品を明らかにして提出する行為は,積極的な捜査協力の姿勢を示す行動であり,その後の捜査が被疑者側に配慮された形で行われる可能性を高める効果が期待できます。

呼び出しを受けた際には,その事件に関連していると思われる証拠品の提出を検討することも,重要なポイントの一つと言えるでしょう。

③出頭する警察署の場所

商標法違反の場合,呼び出され出頭する先の警察署が,自宅の最寄りなどでなく遠方になる可能性に注意することが適切です。

捜査を行う警察署は,捜査のきっかけが最初に生じた警察署であることが通常です。例えば,商品の購入者が自宅の近くにある警察署に相談した,というきっかけであれば,購入者の自宅近辺の警察署が捜査を行うことになりやすいでしょう。
そうすると,自分の生活圏と捜査をしている警察署が大きく離れている場合,遠方への呼び出しを受ける可能性は否定できません。無理な出頭を求められることまでは考えにくいですが,移動の負担が避けにくい可能性は踏まえておくことをお勧めします。

商標法違反における自首のコツ

商標法違反事件で自首をするべき場合

①購入者との間でトラブルが起きた場合

商標法違反の事件では,購入者がいわゆる偽物の商品だと気づき,購入者から警察に被害申告が行われる,という経緯で捜査が開始される場合も数多く見られます。そして,購入者の被害申告で捜査が行われる場合,その購入者に販売した立場の人物は,捜査の対象となることが通常です。
そうすると,購入者が警察に被害申告を行うと見込まれるのであれば,先に自首をしてしまう選択肢が有力になりやすいと言えます。

この点,購入者との間で偽物であるとの疑いや返金などに関するトラブルが起きた場合,そのトラブルが解決できない限り,購入者が警察に被害申告する可能性は高く見込まれます。そのため,当事者間でトラブルになった場合には,自首の検討が有益でしょう。
もちろん,当事者間で何らかの解決ができるのであればそれが最善ですが,どうしても当事者間で解決できず喧嘩別れのようになってしまう場合には,速やかに自首を進めることも一案です。

ポイント
購入者から警察への被害申告が見込まれる
当事者間で解決できないときは速やかな自首が有力

②商標権侵害の事実を後から知った場合

その商品を取り扱った当時は商標権侵害の事実を知らなかったものの,後からその事実を知ったという場合,知った段階で自首を検討することは有力です。

この場合,当時は商標法違反の故意がなかったとの主張になるため,厳密には自首には該当しませんが,商標権侵害に巻き込まれた事情を警察に伝えて捜査してもらうことで,後から不意打ち的に捜査される流れを防ぐ効果が見込まれます。
また,規範意識が高いことを行動に示す意味もあり,「当時は知らなかった」との主張がより説得的になる面も期待できるでしょう。

ポイント
事件に巻き込まれたことを伝えて捜査協力を求める
犯罪ではないとの主張であるため,厳密には自首ではない

③関係者が捜査を受けた場合

自分が関わる商標法違反の事件について,自分以外の関係者が捜査の対象になった場合,速やかな自首の検討は有力な選択肢の一つです。
一例としては,取引先の業者が捜索を受けた,警察に呼びされた,といった場合が挙げられるでしょう。

関係者が捜査を受けているということは,その事件が捜査の対象となっていることは明らかであり,自分の関与が特定されれば,必然的に自分も捜査対象となることが見込まれます。そうすると,自首をしてもしなくても捜査対象となる可能性が高く,自首のリスクが非常に低い状況と考えられるため,自首による処分の軽減を目指す動きは大いにあってよいでしょう。

ポイント
事件が捜査されていることは明らか
自首してもしなくても自分の関与が特定されやすい状況

④権利者に発覚したと分かった場合

商標法違反の事件では,商標権者に権利侵害が発覚したことをきっかけに捜査が開始される流れも多数見られます。そのため,権利者に侵害行為が発覚した,ということが分かった場合には,後の捜査を想定して速やかな自首を行うことが有力になります。

権利者に事件が発覚したかどうかは,権利者側の対外的な告知やプレスリリースによって把握できるケースがあり得ます。特に,規模が大きくコンプライアンス(法令遵守)の意識が高い企業が権利者である場合,企業ホームページなどで告知を行う場合も散見されるところです。
このような告知は,加害者の誠意ある行動を期待している面も含まれているのが通常であるため,早期の自首が被害者側への配慮につながる効果も期待できるでしょう。

ポイント
ホームページなどで告知されるケースもある

商標法違反事件の自首は弁護士に依頼すべきか

商標法違反の事件で自首の検討を行う場合には,弁護士への依頼が適切でしょう。また,実際に自首を行う場合にも,弁護士に依頼し,弁護士と協同して進めることが有益です。
弁護士への依頼によって,以下のようなメリットが期待できます。

①自首すべき状況か分かる

商標法違反の場合,事件が捜査されているかどうか,という状況自体が全く分からないというケースも少なくありません。商標権者や商品の購入者などと連絡を取り合う関係になければ,それらの人がどんな行動を取っているかも把握できないため,違反行為が誰かに疑われているのかすら判断できない可能性も低くありません。
そのため,商標法違反の事件は,捜査の進捗状況を確認しながら方針を練ることが難しい事件類型と言えるでしょう。

この点,弁護士に依頼することで,限られた情報の中から状況を推測し,自首を行うことのメリットとデメリットを可能な限り正確に整理することが可能です。これにより,自首すべき状況かどうかを適切に判断することも可能になるでしょう。

②適切な自首の方法が分かる

自首を試みることに決めたとしても,具体的にどのように進めるのかは知識や経験がなければ判断の困難なポイントです。商標法違反は警察のどこで取り扱ってくれるのか,誰に何と言って相談すればいいのかなど,具体的な動き方を考え始めると数多くの疑問にぶつかることになります。

この点,弁護士に依頼することで,自首の適切な進め方を判断してもらうことができ,正しい方法で進めることが可能になります。また,弁護士に必要な対応をしてもらうことで,進める際の負担軽減にもつながるでしょう。

③自首後の流れが分かる

自首は,刑事手続を始めて欲しい,という申出であるため,自首後には捜査が進むことになります。そうすると,自首を行うに当たって,その後の手続がどのように流れていくのか,把握しているのといないのとでは,手続への対応に大きな違いが生じるでしょう。

この点,弁護士に依頼して自首を進める場合には,弁護士から自首後の手続の流れを具体的に案内してもらうことができます。また,適切な対応方針についても判断してもらうことができるため,自首後の手続にも安心して応じることが可能になります。

④弁護活動を迅速に開始できる

自首後は,その状況に応じて弁護士に弁護活動を求めることがより有益です。逮捕されてしまうのであれば早期釈放を目指す,被害者側との接触が可能であれば示談を目指すなど,自首という決断を最大限の結果に結びつけるためには,自首後の弁護活動とセットで考えておくことが望ましいでしょう。

この点,自首の段階から弁護士に依頼しておくことで,自首後の弁護活動は直ちに始めてもらうことが可能です。弁護活動の内容によっては,早期の着手が結果に直結する場合もあり得るため,このメリットは非常に大きいと言えます。

商標法違反事件で自首をする場合の注意点

①捜査を誘発する結果になる可能性

商標法違反の場合,違反行為があったとしても,その違反行為を指摘する人がいなければ捜査は開始しないのが通常です。違反行為が見落とされたまま,時間だけが流れていくことも考えられます。

この場合,違反行為が発覚していない状況下で自首をするのは,自首が捜査を誘発する原因となり得ます。自首をしたばかりに捜査を受けることになってしまった,との結果になる可能性については,あらかじめ注意しておくことが必要でしょう。

②既に捜査が進んでいる場合

商標法違反に対する捜査がどこまで進んでいるかは,事前には把握することが非常に困難です。ケースによっては,自分の知らないところで犯罪事実が発覚しており,犯人の特定まで進んでいるかもしれません。

この点,犯罪事実と犯人の両方が捜査機関に発覚している場合,自ら出頭しても自首は成立しません。もちろん,自発的に出頭して反省の意思を示す行為は有益ですが,法的には自首とならず,自首のメリットが得られない可能性についても注意しておくのが望ましいでしょう。

③不起訴が約束されるわけではない

自首の大きな目的の一つが,不起訴処分の獲得でしょう。不起訴となれば,刑罰を受けることがなくなるため,前科(刑罰を受けた経歴)が付くこともありません。刑事手続の最終的な目標は,不起訴であることが多数と言えます。

もっとも,自首をしたことによって直ちに不起訴になる,というわけでない点には注意が必要です。自首をしたとしても,事件の内容や程度を踏まえ,その法的責任が重大であると評価されれば,自首による軽減の効果を踏まえてもなお起訴すべき,と判断されることはあり得ます。

不起訴を前提に自首するのでなく,不起訴を目指して自首をするという理解が望ましいでしょう。そのような理解は,反省の意思がより強く伝わる結果にもつながりやすいです。

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