【暴行事件の逮捕】初犯でも逮捕されるか?逮捕されたらどうすべきか?

暴行事件は身近なトラブルから発展することも多く、「初犯でも逮捕されるのか」「逮捕後はどうなるのか」と不安に感じる方は少なくありません。暴行で逮捕されると、取調べや勾留といった刑事手続が進み、仕事や生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。本記事では、暴行で逮捕されるケースや逮捕後の流れを整理し、逮捕された際に取るべき適切な対応について分かりやすく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

目次

暴行とは

① 暴行の定義

「暴行」とは、人の身体に対して不法な有形力を行使する行為をいいます。これは刑法208条に定められており、実際に傷害の結果を生じていなくても成立します。たとえば、殴る・蹴る・突き飛ばすといった行為はもちろん、物を投げつける、至近距離で脅すように物を振りかざすなど、身体に対する力の行使と評価できる行為も暴行にあたる場合があります。

暴行罪の成立には、相手にけがを負わせる結果までは必要とされません。したがって、被害者が実際に痛みを感じなかったとしても、客観的に危険な有形力の行使があれば暴行が成立する可能性があります。

また、暴行罪は「公然わいせつ罪」や「脅迫罪」などと異なり、行為の結果ではなく行為そのものに重きを置く犯罪類型です。暴行の程度や態様によっては、傷害罪(刑法204条に発展することもあり、どの範囲までが「暴行」にあたるかは、事案ごとの判断が求められます。

② 暴行と傷害の違い

暴行罪と傷害罪は、基本的に「けが(傷害)の結果が生じたかどうか」で区別されます。

まず、暴行罪(刑法208条)は、相手の身体に対して不法に有形力を行使する行為そのものを処罰するものであり、けがなどの結果がなくても成立します。たとえば、相手を突き飛ばす、胸ぐらをつかんで揺さぶる、物を投げつけるといった行為がこれに当たる場合があります。

これに対して、傷害罪(刑法204条)は、暴行などの結果として身体の生理的機能に障害が生じた場合に成立します。出血・腫れ・打撲などの外傷はもちろん、強い精神的ショックによる不眠など、身体の正常な機能に支障をきたす状態も含まれます。

したがって、暴行の結果としてけがを負わせた場合は、暴行罪ではなく傷害罪が成立します。
ただし、実際の事件では「どの程度の被害をもって傷害といえるか」が問題となることがあり、結果の有無だけでなく、行為の危険性や被害の程度などを総合的に考慮して判断されます。

なお、現在の法定刑は次のとおりです。

・暴行罪(刑法208条):2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留または科料
・傷害罪(刑法204条):15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

このように、傷害の結果を伴うかどうかが両者を分ける基本的な基準であり、結果の重大性に応じて処罰の重さも異なります。

実際の運用としては、傷害結果の根拠があるかどうかによって暴行罪と傷害罪が区別されます。多くの場合は診断書が提出されるかどうかによりやすいでしょう。

③ 暴行の時効

刑事事件には、一定の期間が経過すると起訴できなくなる「公訴時効」が定められています。
これは、時間の経過によって証拠や記憶が薄れるなど、刑事責任の追及が適切でなくなることを考慮した制度です。

暴行罪の公訴時効期間は、刑の重さ(法定刑の上限)によって決まります。
刑事訴訟法第250条では、次のように規定されています。

刑事訴訟法第250条(抜粋)公訴時効期間
死刑に当たる罪30年
無期の拘禁刑に当たる罪20年
長期15年以上の拘禁刑に当たる罪15年
長期10年以上15年未満の拘禁刑に当たる罪10年
長期5年以上10年未満の拘禁刑に当たる罪7年
長期5年未満の拘禁刑、罰金、拘留または科料に当たる罪3年

暴行罪(刑法208条)の法定刑は「2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留または科料」であるため、
上表の「長期5年未満の拘禁刑等に当たる罪」に該当し、公訴時効は3年です。

つまり、暴行の行為から3年が経過すれば、原則としてその行為について起訴されることはありません。
ただし、被疑者が国外に逃亡している場合などは時効が一時的に停止することがあります(刑事訴訟法255条)。

暴行の結果としてけがを負わせた場合は傷害罪(時効7年)、死亡させた場合は傷害致死罪(時効10年)が成立するため、結果の重大性に応じて時効期間も長期化することがあります。

暴行で逮捕されるケース

(1)暴行で逮捕される可能性

暴行事件の場合,逮捕の可能性は十分に考えられます

暴行は,結果的に被害者が怪我などの傷害を受けなかったという事件類型であり,その分事件の重大性は大きくないケースが少なくありません。そして,逮捕するかどうかは事件の重大性を大きな判断基準の一つとするため,暴行事件は逮捕の可能性が低くなり得る事件類型と言えるでしょう。

しかしながら,暴行事件では,むしろ逮捕されやすい条件が揃ってしまうケースも多い点に特徴があり,漫然と対応していると逮捕の恐れが大きくなりかねません。そのため,逮捕されやすい条件を踏まえておき,個別の対応に活かすことが重要となります。

暴行事件で逮捕されやすいケースとしては,以下のような場合が挙げられます。

暴行事件で逮捕されやすいケース

1.現行犯での対応を要する場合

2.当事者間の争いが深刻な場合

3.暴行の内容が悪質な場合

【1.現行犯での対応を要する場合】

暴行事件は,現行犯で問題になることが非常に多い事件類型です。そして,暴行事件が現行犯で取り扱われる場合,その場の紛争を収める目的も兼ねて,当事者の一方を逮捕することが非常に多く見られます。

逮捕は,逃亡また証拠隠滅の可能性が高い場合に用いられる捜査手続ですが,現行犯でトラブルになっている暴行事件だと,被害者(の話)という最も重要な証拠が,その後の暴行行為などによって押さえつけられ,捜査の妨げになる可能性があると判断される傾向にあります。

そのため,現行犯で捜査が開始され,当事者間に激しい感情対立が見られる場合には,逮捕されやすいと言えるでしょう。

現行犯の現場で不適切な対応を取ってしまうと、現行犯での逮捕リスクが飛躍的に上がります。まずは一度落ち着いて、弁護士への相談を含めた対応方針の検討を行うようにしましょう。

【2.当事者間の争いが深刻な場合】

当事者間に継続的な紛争があり,その紛争が根深く深刻なケースでは,当事者を引き離すために逮捕される可能性が高い傾向にあります。

継続的に争う関係にある当事者間では,一度暴行事件が起きると,その後さらにエスカレートした事態がいつ生じるか分からない,という不安が付きまとうことになります。現在起きているのは暴行事件だけであっても,継続的に積み重なった紛争の火種がいつより大きな事件に発展してもおかしくない,と評価されるわけです。

そのため,暴行事件の段階で捜査をより厳格に行い,その後のトラブルの深刻化を防ぐ目的で,逮捕を伴う強制的な捜査を行う可能性が高くなります。

【3.暴行の内容が悪質な場合】

暴行事件と一口に言っても,その具体的な暴行の内容は様々です。例えば,素手による暴行に限ったとしても,はたく,押すといったものから,握りこぶしで思い切り殴りつける行為まで,強度や危険性に大きな幅があり得ます。

この点,暴行の程度がより危険である場合には,事件の悪質性を踏まえて逮捕の判断がなされやすいと言えます。悪質な暴行がなされていると,その後の再発を防ぐ必要性が非常に高くなるため,強制的に再発や二次被害を避けるための手段として,逮捕が用いられやすくなるのです。

暴行の悪質さは、どれほど重大な結果を招く可能性があったか、という点が大きな判断基準になりやすいです。実際に結果が生じていなくても、極めて重大な結果を招き得る暴行があった場合、その悪質さは重く判断されるでしょう。

暴行における逮捕の方法

法律で定められた逮捕の種類としては,「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」が挙げられます。それぞれに具体的なルールが定められているため,そのルールに反する逮捕は違法ということになります。逮捕という強制的な手続を行うためには,それだけ適切な手順で進めなければなりません。

①現行犯逮捕

現行犯逮捕とは,犯罪が行われている最中,又は犯罪が行われた直後に,犯罪を行った者を逮捕することを言います。現行犯逮捕は,逮捕状がなくてもでき,警察などの捜査機関に限らず一般人も行うことができる,という点に特徴があります。

典型例としては,目撃者が犯人の身柄を取り押さえる場合などが挙げられます。犯罪の目撃者であっても,他人の身柄を強制的に取り押さえることは犯罪行為になりかねませんが,現行犯逮捕であるため,適法な逮捕行為となるのです。

ただし,現行犯逮捕は犯行と逮捕のタイミング,犯行と逮捕の場所それぞれに隔たりのないことが必要です。犯罪を目撃した場合でも,長時間が経った後に移動した先の場所で逮捕するのでは,現行犯逮捕とはなりません。

なお,現行犯逮捕の要件を満たさない場合でも,犯罪から間がなく,以下の要件を満たす場合には「準現行犯逮捕」が可能です。

準現行犯逮捕が可能な場合

1.犯人として追いかけられている

2.犯罪で得た物や犯罪の凶器を持っている

3.身体や衣服に犯罪の痕跡がある

4.身元を確認されて逃走しようとした

ポイント
現行犯逮捕は,犯罪直後にその場で行われる逮捕
捜査機関でなくても可能。逮捕状がなくても可能

②通常逮捕(後日逮捕)

通常逮捕は,裁判官が発付する逮捕状に基づいて行われる逮捕です。逮捕には,原則として逮捕状が必要であり,通常逮捕は逮捕の最も原則的な方法ということができます。

裁判官が逮捕状を発付するため,そして逮捕状を用いて通常逮捕するためには,以下の条件を備えていることが必要です。

通常逮捕の要件

1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。

2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。

通常逮捕の要件がある場合,検察官や警察官の請求に応じて裁判官が逮捕状を発付します。裁判官は,逮捕の理由がある場合,明らかに逮捕の必要がないのでない限りは逮捕状を発付しなければならないとされています。

ポイント
通常逮捕は,逮捕状に基づいて行う原則的な逮捕
逮捕の理由と逮捕の必要性が必要

③緊急逮捕

緊急逮捕は,犯罪の疑いが十分にあるものの,逮捕状を待っていられないほど急速を要する場合に,逮捕状がないまま行う逮捕手続を言います。

緊急逮捕は,逮捕状なく行うことのできる例外的な逮捕のため,可能な場合のルールがより厳格に定められています。具体的には以下の通りです。

緊急逮捕の要件

1.死刑・無期・長期3年以上の罪
2.犯罪を疑う充分な理由がある
3.急速を要するため逮捕状を請求できない
4.逮捕後直ちに逮捕状の請求を行う

緊急逮捕と現行犯逮捕は,いずれも無令状で行うことができますが,緊急逮捕は逮捕後に逮捕状を請求しなければなりません。また,現行犯逮捕は一般人にもできますが,緊急逮捕は警察や検察(捜査機関)にしか認められていません。

緊急逮捕と現行犯逮捕の違い

現行犯逮捕緊急逮捕
逮捕状不要逮捕後に請求が必要
一般人の逮捕可能不可能

暴行で逮捕されたときの流れ

逮捕されると,警察署での取り調べが行われた後,翌日又は翌々日に検察庁へ送致され,検察庁でも取り調べ(弁解録取)を受けます。この間,逮捕から最大72時間の身柄拘束が見込まれます。
その後,「勾留」となれば10日間,さらに「勾留延長」となれば追加で最大10日間の身柄拘束が引き続きます。この逮捕から勾留延長までの期間に,捜査を遂げて起訴不起訴を判断することになります。

逮捕から起訴までの流れ

ただし,逮捕後に勾留されるか,勾留後に勾留延長されるか,という点はいずれの可能性もあり得るところです。事件の内容や状況の変化によっては,逮捕後に勾留されず釈放されたり,勾留の後に勾留延長されず釈放されたりと,早期の釈放となる場合も考えられます。

逮捕をされてしまった事件では,少しでも速やかな釈放を目指すことが非常に重要になりやすいでしょう。

ポイント
逮捕後は最大72時間の拘束,その後10日間の勾留,最大10日間の勾留延長があり得る
勾留や勾留延長がなされなければ,その段階で釈放される

暴行で逮捕されたときのデメリット

逮捕をされてしまうと,以下のように多数の不利益が見込まれます。

①社会生活を継続できない

逮捕をされてしまうと,身柄が強制的に留置施設へ収容されてしまうため,日常の社会生活を続けることができません。スマートフォンの所持も許されないので,外部の人と連絡を取ることも不可能です。
そのため,周囲と連絡等ができないことによる様々な問題が生じやすくなります

また,逮捕後勾留されるまでの間は,原則として弁護士以外の面会ができません。面会によって最低限の連絡を図ろうと思っても,勾留前の逮捕段階では面会すら叶わないことが一般的です。
さらに,勾留後についても,接見禁止決定がなされた場合には弁護士以外の面会ができません。

②仕事への影響

逮捕された場合,仕事は無断欠勤となることが避けられません。その後,身柄拘束が長期化すると,それだけの間欠勤をし続けなければならないことにもなります。こうして仕事ができないでいると,仕事への悪影響を回避することも難しくなります。

また,逮捕によって勤務先に勤め続けることが事実上難しくなる場合も考えられます。
逮捕は罰則ではなく捜査手法の一つに過ぎないため,逮捕だけを理由に懲戒解雇されることは考え難いですが,一方で仕事の関係者に自分の逮捕が知れ渡ると,事実上仕事が続けられなくなるケースも珍しくはありません。

③家族への影響

逮捕されると,通常,同居の家族には捜査機関から逮捕の事実が告げられます。場合によっては,家族が逮捕に伴う各方面への対応を強いられることも考えられます。また,家族にとっては,被疑者が逮捕された,という事実による精神的苦痛も計り知れず,一家の支柱が逮捕された場合には経済的な問題も生じ得ます。

このように,逮捕は本人のみならず家族にも多大な影響を及ぼす出来事となりやすいものです。

④報道の恐れ

刑事事件は,一部報道されるものがありますが,報道されるケースの大半が逮捕された事件の場合です。通常,逮捕された事件の情報が警察から報道機関に通知され,報道機関はその情報を用いて刑事事件の報道を行うことになります。
そのため,逮捕された場合は,そうでない事件と比較して報道の恐れが大きくなるということができます。

万一実名報道の対象となり,氏名や写真とともに逮捕の事実が公になると,その記録が後々にまで残り,生活に重大な支障を及ぼす可能性も否定できません。
一般的には,重大事件や著名人の事件,社会的関心の高い事件など,報道の価値が高い事件が特に報道の対象となりやすいため,逮捕=報道ということはありませんが,逮捕によって報道のリスクを高める結果が回避できるに越したことはありません。

⑤前科が付く可能性

逮捕と前科に直接の関係はありませんが,逮捕されるケースは重大事件と評価されるものであることが多いため,事件の重大性から前科が付きやすいということが言えます。
逮捕をするのは逃亡や証拠隠滅を防ぐためですが,逃亡や証拠隠滅はまさに前科を避ける目的で行われる性質のものです。そのため,逮捕の必要が大きいということは前科が付く可能性の高い事件である,という関係が成り立ちやすいでしょう。

暴行で逮捕されないようにする方法

①当事者間での解決を目指す

暴行事件の場合,当事者間で事件が解決していれば,その後に逮捕される可能性は現実的になくなります。暴行事件の捜査は,ほとんどが被害者の被害申告をきっかけに開始されるものであって,被害者が解決したと考える以上,捜査の始まるきっかけが生じないためです。
また,捜査の開始後であっても,被害者が解決したとの意向であれば,その後に逮捕の必要があるとは判断されず,逮捕には至らないことが通常です。

そのため,逮捕の回避を目指す場合には,まず当事者間での解決が目指せないか,検討することが有力でしょう。直接連絡を取り合う方法があったり,間に入ってくれる第三者がいたりすれば,直接の協議も一案です。一方,連絡を取りあう手段がない場合には,弁護士に依頼し,弁護士を窓口にする形で解決を試みることが望ましいでしょう。

暴行事件で逮捕を防ぎたい場合、当事者間で解決ができるのであれば最優先に目指すのが適切です。被害者のいる事件では、被害者の意向が非常に大きく反映されるためです。

②現行犯逮捕を防ぐ

逮捕の種類が複数ある中で,最も容易に行うことができるのは現行犯逮捕です。現行犯逮捕は,裁判所から逮捕状の発付を受けることなく実行できる逮捕手続であり,かつ捜査機関に限らず誰でもできることから,そのハードルは非常に低くなりやすい傾向にあります。

裏を返せば,逮捕を避けるためには,最も容易に行われ得る現行犯逮捕を防ぐことが重要な手段になります。特に,暴行事件を含むトラブルが現場で警察沙汰になったような場合,周囲の私人が現行犯逮捕し,そのまま警察に引き渡すことで法的に逮捕が正当化されてしまう場合が非常に多いため,そのような流れを一度断ち切り,現行犯逮捕が成立しない状態を作り出すことが有力でしょう。

具体的な手段としては,一度その場を離れて再度連絡を取り合うことにする,といったように,事件と逮捕が時間的・場所的に近い状態とならないように意識することが有力です。

③自首を検討する

現に捜査されていないため当事者間での解決手段がなく,現行犯逮捕される状態にもないという場合,積極的な逮捕回避策には限界がありますが,その際,逮捕を防ぐ手段として有力になってくるのが自首です。

自首は,自分に対する捜査が行われる前に,積極的に自身の犯罪行為を申告することで,自分に対する捜査や処罰を求める行動です。そして,自分から積極的に犯罪の情報を示していくことから,逃亡や罪証隠滅の可能性は低く,逮捕の回避につながりやすいという利点があります。

暴行事件が捜査されているかどうか分からず,逮捕の不安を払拭する手段がない場合には,自首を検討することをお勧めします。

自首は、逮捕を防ぐために有効な手段の一つですが、自ら捜査を招くというリスクもあります。
暴行事件の場合、被害者側が特に動いていない限り捜査されていない可能性が高いため、自首のリスクを踏まえた検討が望ましいでしょう。

暴行で警察に呼び出された場合の対処法

① 基本的な方針

暴行事件で呼び出しを受けた場合,まずは呼び出しに応じることを前提に対応するようにしましょう。内容や言い分によっては,呼び出しに応じることが割に合わない,または納得できないといった思いになることは十分に考えられると思います。しかしながら,呼び出し自体に一切応じないとのスタンスは,かえって自分に不利益をもたらす可能性があって適切とは言えません。

言い分がある場合には,呼び出しに応じた上で,出頭した際に述べることが最も適切です。もっとも,呼び出しに応じるタイミングを捜査機関の希望に合わせる必要まではありません。自身のスケジュールと調整できる範囲内で,まずは呼び出しに応じることを方針の第一歩としましょう。

ポイント
呼び出し自体には応じる方が賢明
言い分は出頭した際に述べる

② 内容に反論がない場合

疑いの内容に間違いがなく,反論すべき内容がない場合には,まず反省の意思を前面に示し,捜査協力のスタンスを明確にすることが適切です。

内容面に争いがないケースでは,反省状況等の情状面がその後の進行や結果を大きく左右します。その中でも,呼び出しを受けた段階で行うことのできる情状面の行動が,反省と捜査協力の意思表明です。呼び出しを受けたその時から反省の意思を示すとともに,取り調べなどの捜査を全面的に受け入れる姿勢を見せるのが,初期段階で可能な最善の対応と言えるでしょう。

また,呼び出しに応じて出頭した際には,事実をありのままに述べ,捜査機関の把握している事実関係とズレのない話を尽くすことも重要です。捜査機関の認識と整合する内容の話を一貫できれば,捜査が円滑に進行する上,反省の意思を表明する手段の一つにすることもできるでしょう。

ポイント
反省の意思と捜査協力のスタンスを示す
事実をありのまま述べ,捜査機関の認識と整合する話を尽くす

③ していない行為を疑われている場合

自分がしていない行為を疑われているケースでは,まずその事実を明確に表明することを優先しましょう。刑事事件は,認め事件であるか否認事件であるかによって,その後の捜査が大きく変わるため,本件は否認事件である,という事実を正しく把握してもらうことが第一歩となります。

認め事件とは異なり,否認事件の場合には,被疑者の自白なしで犯罪の立証をしなければなりません。被疑者の自白がある認め事件では,自白を裏付ける証拠や自白と整合する証拠が重要な位置づけとなりますが,否認事件ではそもそも自白がないため,自白以外の証拠のみで犯罪を立証するほかないのです。
また,被疑者が「実際はこうであった」と別の事実を主張している場合,被疑者の主張が真実でないとの確信に至らなければ,犯罪の立証には至りません。否認事件では,証拠の量及び質の両面で,犯罪の立証が容易でないと言えます。

してもいない行為を疑われて呼び出しを受けた場合には,否認の意思をはっきりさせることで,「本件の立証は容易ではない」と捜査機関に認識してもらうことが適切でしょう。

ポイント
否認事件は,犯罪の立証が容易でない
否認事件であることを早期に把握してもらうことが適切

④ 経緯に言い分がある場合

事件の内容そのものには争いがないが,事件の経緯に言い分がある,という場合,その言い分を伝える時期や方法・内容は慎重に検討することが望ましいでしょう。

経緯に言い分がある事件は,認め事件か否認事件かで言えば認め事件に該当します。認め事件である以上は,反省状況が重要なポイントとなることには変わりありません。
一方で,経緯に関する言い分は,表現を誤ると「反省がない」との評価につながってしまう恐れがあります。自分にとって有益と思う主張をしたにもかかわらず,その結果が自分にとって不利益となってしまうのは不合理と言わざるを得ないでしょう。

経緯に言い分がある事件で呼び出しを受けた場合には,まず認め事件であることを前提に反省の意思を示す方針を優先すべきです。経緯を伝える機会や方法はそれ以降にも複数あるため,呼び出しを受けた段階で強引に伝えようとする必要はありません。

ポイント
経緯の言い分を述べようとするあまり,反省がないとの評価を受けるのは不合理
まずは事件を認め,反省の意思を表明することを優先すべき

暴行の呼び出し後に逮捕されないための注意点

① 冷静な対処を心掛ける

暴行事件の場合,まずはとにかく冷静な対応に努めることが非常に大切な考え方となります。主張の内容が全く同じであっても,冷静に対処しているか感情的になってしまっているかによって,結果に大きな差が生じてしまう可能性は低くありません。

暴行事件では,互いに相手への悪感情を持っていることが一般的であるため,捜査機関が相手に肩入れをしているような態度を見せれば,それだけで冷静さを失ってしまうケースが散見されます。しかし,冷静さを失うことは損しか生まないと言い切ってもよいでしょう。
常に冷静な対処を心掛けることで,円滑な進行を促すことが賢明です。

② 出頭拒否のリスク

呼び出しに応じて出頭するかどうかは,強制ではなく任意です。そのため,出頭を求められても拒否することが可能であり,出頭拒否自体に法的な問題はありません。

もっとも,出頭拒否は捜査機関への協力を一切しないという強いメッセージとなるため,そのやり方を誤ってしまうと大きなリスクが付きまとうことになります。中でも,出頭拒否によって逮捕を招いてしまうことは,最も避けるべき事態と言えるでしょう。

出頭拒否に対して直ちに逮捕することは法的に問題がありますが,出頭拒否を判断材料の一つにして,総合的な判断の結果逮捕する,ということは違法とは言い難いものです。そのため,出頭拒否を選択する場合には,それが逮捕のリスクをどれほど抱える対応なのか,という点を慎重に検討することをお勧めします。

呼び出しに対する出頭の義務がないことはその通りです。しかし、実際に出頭を拒むのが有益かどうかは別の検討が必要な問題です。
呼び出しを受けた場合に応じるかどうかは、専門知識を踏まえた比較検討が必要になるため、弁護士への相談も含め慎重に検討しましょう。

③ 弁護士への依頼時期

弁護士への依頼を検討する場合,その時期は早ければ早いほど有益であることが一般的です。どこかのタイミングまで弁護士への依頼を保留する方が効果的である,といった事情は通常ありません。
特に,被害者との示談を目指す事件では,被害者の感情面に配慮するためにも,できるだけ早期に行動に移し,被害者側にも極力早く謝罪の意思を知ってもらうことが有益です。

また,事件によっては,検察庁での呼び出しを受けた際に,担当検事から弁護士への依頼を勧められることもあり得ます。暴行事件は,当事者間で解決する方が望ましいトラブルと理解されやすいため,弁護士に依頼して当事者間での解決を目指すべきでないか,との助言もなされ得るのです。
その場合は,当事者間での解決が刑事処分の軽減につながる,とのメッセージでもあるため,できるだけ早期に,積極的に弁護士への依頼を検討することをお勧めします。

暴行の逮捕に関するよくある質問

① 暴行事件では逮捕を覚悟すべきか

暴行があっても、決して逮捕が想定される事件ばかりではありません。
暴行事件の逮捕は、行為の悪質性や被害の程度、被害者との関係、逃亡・証拠隠滅のおそれなどを総合的に考慮して判断されます。
たとえば、軽い接触や一時的な口論の延長など、社会的に軽微なケースでは、任意の事情聴取にとどまり、逮捕されないことも多いです。

② 被害者が「許す」と言えば逮捕されないか

被害者の意向は考慮されますが、それだけで逮捕が避けられるわけではありません。
被害者が示談や謝罪を受け入れている場合、逮捕や勾留の必要性が低いと判断されることはあります。
しかし、暴行の態様が悪質である場合や、複数回にわたる暴行、通報によって現行犯逮捕された場合などでは、被害者が許していても逮捕される可能性もあり得ます。

③ 逮捕された場合はどれくらい身柄が拘束されるか

原則として、警察による逮捕後は最大72時間(3日間)身柄が拘束されます。
その後、検察官が勾留を請求し、裁判官が認めると、さらに最大10日間、延長されると最長20日間の勾留が可能です。
ただし、弁護士が早期に介入し、逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを主張することで、勾留を回避できる場合もあります。

④ 暴行事件は示談をすれば不起訴になるか

被害者との示談成立は、不起訴処分を得るうえで非常に重要な要素です。
特に初犯で被害が軽微な場合、真摯な謝罪と示談が成立すれば、検察官が起訴を見送る(不起訴の判断をする)可能性が非常に高くなります。
一方で、再犯や計画的な暴行、社会的影響の大きい事件では、示談があっても起訴されることがあります。

⑤ 暴行していない場合でも弁護士は必要か

暴行を否認している場合こそ、弁護士の関与が重要です。
防犯カメラ映像や証言など、事実関係の確認には専門的な視点が必要であり、誤認逮捕や不当な供述調書を防ぐためにも、弁護士が早期に介入して捜査対応をサポートすることが望まれます。

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