交通事故に遭ってしまったとき、加害者が任意保険に入っていなかった現実を知った瞬間、多くの被害者は強い不安を感じるでしょう。
任意保険に加入していれば保険会社が示談交渉を代行し、治療費や慰謝料の支払いもスムーズに進みます。
しかし、加害者が「無保険」だった場合、被害者自身が加害者と直接交渉しなければならず、十分な賠償を受けられないまま時間だけが過ぎてしまうケースも少なくありません。
そこで本記事では、交通事故の加害者側が無保険だった場合のリスクや対処法を詳しく解説します。
この記事の監修者
藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介
全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。
交通事故に伴う無保険状態とは
交通事故における「無保険」とは、任意保険に加入していない状態です。
法律で義務付けられている自賠責保険は対人賠償の最低限を保障しますが、物損や高額な慰謝料、後遺障害に対する補償は任意保険が担う部分が大きく、任意未加入だと被害者・加害者双方に大きなリスクが生じます。
無保険の背景には保険料節約の意図や加入手続きの未実施、あるいは保険切れなど複数の理由があり、事故発生時にはまず事実確認と適切な初動対応が重要です。
法律上の責任は加入有無で軽減されるものではなく、最終的な賠償責任は本人に帰属します。
交通事故の加害者が無保険だった場合のリスク
交通事故の加害者側が任意保険に加入していないと、被害を受けた側もいくつかリスクが生じます。
ここからは、交通事故の加害者が無保険だった場合のリスクについて詳しく解説します。
加害者と直接に示談交渉を進める必要がある
任意保険がない場合、保険会社が間に入って示談を調整することができないため、被害者は加害者本人と直接やり取りする必要があります。
直接交渉では、加害者の知識不足や資力不足、あるいは誠意の欠如により話がこじれることが多く、感情的対立や不当な低額提示で示談が決まらないリスクが生じるのです。
被害者は治療費の発生タイミングと金額見込みを説明し、証拠を残しつつ交渉を行う必要があります。
しかし、実務的には加害者の支払能力を確認しておかないと回収見込みが立たず、長期化や未回収の可能性が高まります。
示談書の作成や分割払いの合意といった法的文書の整備も重要です。
十分な賠償金や慰謝料を受けられない可能性がある
自賠責保険の限度額は傷害・後遺障害・死亡それぞれ限界があり、重度の人身事故では実害額が自賠責の範囲を超えることがよくあります。
任意保険に加入していない加害者からは、治療費・逸失利益・慰謝料・将来の介護費用などを満額で回収するのが困難です。
被害者は実際の損害との差額を負担せざるを得ない事態に直面してしまうでしょう。
さらに、加害者の資力が乏しい場合は、裁判で勝訴しても強制執行での回収に時間と費用がかかり、結果的に被害者が経済的・精神的に大きな負担を抱えるリスクが高まります。
自動車の損害額を払ってもらえない可能性がある
物損に関しても任意保険がないと修理費用や買替え費用の補償を加害者本人に請求するしかありません。
加害者に資金がない場合は被害者が自己負担で応急修理をしたり、修理を先延ばしにせざるを得ないでしょう。
特に全損や高額修理が必要なケースでは車両価値の評価や減価償却の交渉が必要になり、査定額を巡る争いも発生しやすいです。
被害者が自動車ローンを抱えている場合は残債と補償の差額問題も生じ、生活再建に与える影響が大きくなります。
早期に見積や証拠写真を確保し、支払不能リスクに備えた対応を検討することが重要です。
相手無保険時の対応策①相手本人への請求
交通事故の被害に遭った場合,多くは加害者が加入する自動車保険の担当者が対応し,その保険会社から金銭を受領する,という流れになります。
しかしながら,保険担当者の取り扱いが受けられるのは,加害者が任意保険に加入している場合のみです。加害者が任意保険に加入していない場合には,自動車保険の担当者が対応することもなければ,保険会社が賠償額を案内したり支払ってきたりすることもありません。
そのため,相手が任意保険に入っていない場合,被害者自身が積極的に金銭を請求し,獲得することが必要となります。
この点,最も直接的な手段は,加害者本人への請求です。
そもそも,任意保険は加害者本人の代わりに金額交渉や支払を行う立場です。そのため,代わりになる任意保険がない以上は,原則通り本人に請求する,という動きが一般的と言えるでしょう。
しかし,相手本人への請求には,回収リスクが付きまとう点に注意が必要となります。
加害者本人が任意保険に入っていないのは,保険料の負担が困難(又は避けたい)など,経済的な理由のある場合がほとんどです。そのため,相手本人に損害賠償を請求しても,支払う能力がないと開き直られてしまい,回収が十分にできない場合も少なくないのです。
また,加害者本人が律儀に対応し続けるとの期待もできないことが多く,なかなか連絡がつかなかったり,急に連絡が取れなくなったりといったトラブルが生じることも多く見られます。
被害者としては,可能な限り加害者本人への請求という手段は避けて解決したいところです。
ポイント
任意保険は相手本人の代わり
無保険の場合は代わりがいないため,本人への請求が原則
もっとも,適切な対応が期待しづらく避けたいところ
相手無保険時の対応策②自賠責保険への請求
相手が任意保険に入っていなくても,自賠責保険に入っていれば,自賠責保険金の請求はできることが通常です。
前提として,自動車保険には自賠責保険と任意保険の2種類があります。そして,自賠責保険は被害者への最低補償を行う強制加入の保険,任意保険は自賠責保険で補償しきれない部分を補償する加入任意の保険という違いがあります。
自動車保険の種類
| 種類 | 役割 | 加入のルール |
| 自賠責保険 | 被害者への最低限の補償を行う | 法律上強制加入 |
| 任意保険 | 自賠責保険で補償できない範囲を補償 | 加入するかは任意 |
自賠責保険の場合,支払われる保険金の内容が明確に定められており,交渉の余地はありません。裏を返せば,請求さえすれば特段の交渉をしなくても定められた保険金を受領することが可能であるため,交通事故被害者の被害が全く補填できない,という問題を回避する役割を持つ保険でもあります。
そのため,加害者が任意保険に入っていない場合には,まず加害者の自賠責保険から自賠責保険金を回収することを目指すのが有力です。
ただし,自賠責保険金は,あくまで被害者を救済するための最低補償を内容とするものです。被害者が被った損害の規模とは関係なく,支払の金額は決まっているため,被害者の損害のすべてをカバーできるわけではない点に注意が必要です。
一般的に,自賠責保険金額は被害者の損害総額を下回ることになりやすいため,損害の一部を円滑に回収する手段,という理解が適切でしょう。
ポイント
任意保険がなくても自賠責保険からの回収が可能
自賠責保険金額はあらかじめ明確にルールが定められている
被害者の損害総額をカバーできるわけではない
相手無保険時の対応策③自分の保険の利用
相手やその保険に期待ができない場合,自分が入っている自動車保険のサービスを活用して損害の回復を図る手段が有力です。
自動車保険には,自分が加害者になってしまった場合の賠償保険(対人賠償,対物賠償)のほか,交通事故によって自分が被ってしまった損害に対する補償をしてくれるものも含まれていることが通常です。保険の内容により,定まった金額を給付するものから,加害者が支払うべき金額を代わりに支払ってくれるものまで様々ですが,その支払が確実に期待できる,という点が非常に大きな長所と言えます。
相手が無保険の場合,どうしても相手本人の対応や支払能力に依存してしまうことが多いため,自分の保険を活用して相手に依存してしまうというリスクを回避することは,非常に有益な方法と考えてよいでしょう。
もっとも,具体的にどのような保険がどのような役割を果たしてくれるかは,事故が発生する前にはあまり把握していないという場合が多いと思われます。そこで,以下では活用し得る自分の自動車保険について,代表的なものを解説します。
ポイント
自分の保険で被害を補償してくれるものもある
確実に支払を得られることが大きなメリット
活用し得る自分の保険①人身傷害保険
人身傷害保険は,事故によって身体に損害を受けた場合,その損害に対して保険金が支払われる,という内容の保険です。対人賠償保険が事故相手の人身損害への支払の保険とすれば,人身傷害保険は自分の人身損害への支払を行う保険,という区別ができるでしょう。
主な内容は以下の通りです。
人身傷害保険の主な内容
1.補償範囲
事故による怪我,死亡,後遺障害などに対して保険金が支払われます。保険金の額は契約内容に基づいて決まります。
2.補償内容
医療費
→怪我の治療にかかった医療費が補償されます。
休業損害
→怪我によって仕事を休む場合,その間の収入の一部を補償します。
死亡・後遺障害
→事故によって死亡した場合や後遺障害が残った場合に保険金が支払われます。
なお,人身傷害保険からの支払金額は,被害者の損害額とイコールというわけではありません。これは,人身傷害保険金額の計算方法が保険約款によって定められており,支払金額は約款に従うものとなるためです。
多くの場合,人身傷害保険金額は被害者の損害を裁判基準で計算した金額には及びませんが,例外的に裁判基準を上回る金額となるケースもあります。
ポイント
人身傷害保険は,自分の人身損害を補償してくれる保険
支払金額の計算方法は約款に定められている
活用し得る自分の保険②無保険車傷害保険
無保険車傷害保険は,交通事故の際に相手車両が保険に加入していない場合や、相手の保険金額が不足している場合に、自分の人身損害に対して補償を受けられる保険です。
文字通り,相手が無保険車の場合に効果を発揮する保険で,その支払金額は加害者が支払うべき金額となる,という点に大きな特徴があります。
ただし,無保険車傷害保険が利用できるのは,死亡事故又は後遺障害を伴う事故に限られます。後遺障害等級の認定がなされるような重大な事故のみを対象とする代わりに,補償範囲が非常に充実した保険ということができるでしょう。
無保険車傷害保険の主な内容
1.補償範囲
死亡事故又は後遺障害等級が認定された事故における人身損害が対象となります。後遺障害のない事故は補償範囲に含まれません。
2.補償内容
死亡保険金
→事故によって被保険者が死亡した場合に支払われる保険金です。
後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。
医療費等
→事故による治療費や通院交通費,休業損害等が補償されます。
死亡事故や後遺障害が残る重大な事故の場合には,この無保険車傷害保険の有無を確認することが重要になりやすいでしょう。最も金額が大きくなりやすく,被害者側の救済にとって重大な役割を果たしてくれるためです。
ポイント
無保険車傷害保険は,加害者の支払うべき金額を支払う被害者の保険
死亡事故又は後遺障害等級の認定される事故でのみ利用可能
活用し得る自分の保険③車両保険
車両保険は,事故によって損傷した自動車の損害を補償するための保険です。対物賠償保険が事故相手の物損を補償するための保険であるとすれば,車両保険は自分の物損を補償するための保険であると区別できるでしょう。
自動車事故が発生した場合,事故車両をどうするのか,という点は必ず生じることになります。特に重大な事故で車両が自走できない場合には,車両をどのように移動させるかという問題も生じかねませんが,車両保険にはレッカー費用の補償も含まれていることが一般的であるため,車両保険を利用することで車両の適切な処理も可能になります。
ポイント
車両保険は,自分の物損を補償する保険
活用し得る自分の保険④搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険とは,自動車に搭乗中に交通事故が発生し、その結果として乗車していた人が怪我をしたり死亡したりした場合に、補償金を支払う保険です。この保険は、運転者だけでなく同乗者も対象となることが特徴的です。
また,搭乗者傷害保険は,一定の条件を満たした場合に,これに応じた定額の保険金が支払われる,という内容になっていることが一般的であり,大きな特徴でもあります。
支払われる金額が決まっているため,早期に受領することが可能になりやすく,事故後の損害を早期に補填するための保険として活用されることが多いものです。
搭乗者傷害保険の主な内容
1.補償の対象
→契約車両に搭乗中の全ての乗車人(運転者および同乗者)
→車両の事故による怪我、死亡、後遺障害など
2.補償内容
死亡保険金
→事故によって死亡した場合に支払われる保険金です。
後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。
入院・通院保険金
→事故による怪我で入院や通院が必要となった場合の保険金です。日額で支払われることが一般的です。
手術保険金
→事故による怪我で手術を受けた場合の補償金です。
3.支払方法
→定額払いとされることが通常です。
4.メリット
→定額払いのため,迅速に支払われやすく,経済的負担の軽減につながります。
→同乗者も補償の対象となるため,補償の範囲が広い保険です。
搭乗者傷害保険は,迅速な支払いがなされる有益な保険ですが,一方でその金額には限りがあります。搭乗者傷害保険だけで損害のすべてをカバーするのは現実的でないため,とりあえず一定の支払を受ける,という動きに適した保険ということができます。
ポイント
搭乗者傷害保険は,車の搭乗者に定額の支払を行う保険
迅速な支払いが大きなメリットだが,金額には限りがある
被害事故で自分の保険を使うことは合理的か
加害者が保険に入っていない事故では,自分の自動車保険から補償を受けることが有力な手段ではありますが,一方で「なぜ被害を受けたのに自分の保険を使わなければならないのか」という疑問が生じることもあるかと思います。
確かに,一方的に被害を受けたのであれば,その損害に対する支払は加害者の責任で行われるべきであり,被害者が積極的に自分の保険を活用しなければならない,というのは不合理なように感じられるかもしれません。
しかし,被害事故で加害者に任意保険がない場合は,まさに自分の保険が役割を発揮するタイミングである,と理解する方がむしろ適切でしょう。保険は,自分が経済的に大きな損失を被ることがないよう,非常時の支えになってくれることを期待してつけるものです。その非常時は,加害者に保険がない場合も含まれています。
実際,自分の保険の中でも特に補償金額の大きい無保険車傷害保険は,文字通り相手が無保険車であることを前提とした保険です。相手に保険がない時こそ,自分の保険を活用することが望ましいともいえるでしょう。
一方で,加害者に請求しないで保険会社に支払ってもらうと,加害者は支払を免れることができてしまうのではないか,との疑問もあり得ます。しかし,自分の保険を利用しても,決して加害者が支払義務を免れるわけではありません。
保険会社が加害者の代わりに支払った場合,今度は保険会社が加害者に請求する権利を持つことになります。自分の代わりに保険会社が,加害者へ請求する負担を背負ってくれるというわけです。
被害者としては,自分でリスクを負って加害者に請求するのではなく,保険から適切な支払いを受けて,加害者との面倒なやり取りは保険会社にお願いしてしまう,という方針が合理的でしょう。
ポイント
被害者が自分の保険を活用することは不合理でない
むしろ,自分の保険が役割を発揮する重要なタイミングの一つ
加害者への請求は保険会社が代わりに行ってくれる
加害者に自賠責保険もない場合
ここまで,加害者に任意保険がない場合の救済方法を見てきましたが,ケースによっては加害者に自賠責保険すらない場合もあり得るところです。
自賠責保険に加入していない車を運行する行為は,事故が発生しなかったとしても犯罪行為であり,許されるものではありません。しかしながら,現実に加害者が自賠責保険未加入であった場合,犯罪だと糾弾しても金銭が受け取れるわけではありません。被害者が自賠責保険金を受領できないという不都合は残ってしまいます。
このような場合に活用するべき制度として,「政府保障事業」が挙げられます。政府保障事業は,被害者が受けた損害を,加害者に代わって国が填補する制度です。この場合,支払の金額はいわゆる自賠責基準に沿って計算されることとなります。
つまり,政府保障事業は,加害者に自賠責保険がない場合に自賠責保険の代わりをしてくれる制度ということができるでしょう。
政府保障事業の制度を活用したい場合は,各保険会社に問い合わせることで必要な書式を取得することも可能です。
ポイント
加害者が自賠責保険未加入の場合,自賠責保険金も受領できない
政府保障事業を利用することで,自賠責保険相当額を受け取ることが可能
加害者無保険の事故で弁護士依頼をすべき場合

無保険事故では支払能力や対応の誠実さが問題になるため、法的手段や交渉力が必要な場面が多くあります。
ここからは、加害者無保険の事故で弁護士依頼をすべき場合を詳しく解説します。
加害者が誠実に対応せず、示談が進まない場合
加害者が連絡を怠る、支払いを先延ばしにする、あるいは示談条件で揺さぶりをかけるなど誠実な対応をしない場合、被害者は時間的・金銭的に大きな損失を被ります。
弁護士は第三者として交渉窓口を統一し、法的根拠に基づいた請求を行うことで交渉の停滞を打破するのが役割です。
具体的には、損害の証拠整理、内容証明郵便による要求、示談書の法的整備、必要に応じて民事訴訟の提起や仮差押え・仮処分の申立てを行います。
これにより被害者は精神的負担を軽減し、現実的な回収計画を立てられるようになるでしょう。
治療費や慰謝料が自賠責保険の限度額を超える場合
重度の傷害や後遺症が残る場合、将来にわたる逸失利益や高額な介護費用が想定され、自賠責の限度額で全額賄えないことが想定されます。
弁護士は適正な損害額の立証を行い、逸失利益や将来の治療・介護費用を盛り込んだ請求を加害者に対して行います。
さらに、加害者の資力に応じた分割支払や保全措置の提案、加害者側の第三者(家族や勤務先)からの債権回収可能性の調査など、実効的な回収策を設計します。
被害者は専門家の介入で、経済的救済の現実的な道筋を作ることが期待できます。
交通事故に強い弁護士をお探しの方へ
交通事故被害に遭ったとき,加害者が無保険の場合は加害者本人から賠償金を受領することは現実的に難しい場合が多く見られます。その際には,相手の自賠責保険はもちろん,場合によってはご加入保険から補償を受けることが最も有益な結果になる場合が多いです。
もっとも,保険の確認や方法選択は容易でないため,交通事故に精通した弁護士へのご相談が有力でしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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