信号待ちで停車中に後ろから追突された、あるいはセンターラインを越えてきた車にぶつけられた――。
こうした、あなたに全く非がない「もらい事故」は、突然の不運として大きな精神的・身体的苦痛をもたらします。
しかし、いざ解決に向けて動き出すと、「自分の保険会社が間に入ってくれない」「相手の保険会社の対応が不誠実でストレスが溜まる」といった、普通とは異なる壁にぶつかることが少なくありません。
そこで本記事では、もらい事故に伴う慰謝料の相場や請求する手順などを詳しく解説します。
この記事の監修者
藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介
全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。
もらい事故と普通の事故の違い

もらい事故と一般的な交通事故の違いは、過失割合が「0対100」であることです。
普通の事故であれば、お互いに過失があるため、被害者側の保険会社も「賠償金を支払う当事者」として示談交渉に介入します。
しかし、もらい事故ではあなたに過失がないため、あなたの保険会社が相手に支払うお金は1円も発生しません。
そのため、弁護士法第72条(非弁活動の禁止)という法律の制限により、保険会社があなたの代わりに相手方と交渉することはできなくなります。
| 第七十二条弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。引用:e-Gov法令検索|弁護士法 |
つまり、被害者であるあなたが一人で、専門知識を持つ加害者側の保険担当者と対等に渡り合わなければならないのが、もらい事故の厳しい現実です。
過失がないからこそ、自分を守ってくれるプロが不在になるという皮肉な構造を理解しておく必要があります。
もらい事故に伴う慰謝料の種類と相場

もらい事故で請求できる慰謝料には、大きく分けて以下3つがあります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
詳しく解説します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、怪我の治療のために病院へ通った期間や日数に基づいて算出される補償です。
精神的な苦痛を金銭に換算するもので、以下の表のように算出基準によって大きな差が生じます。
| 算定基準 | 計算の目安(例:通院3ヶ月/週3回) | 特徴 |
| 自賠責基準 | 約25.8万円 | 法定の最低限の補償。日額4,300円で計算。 |
| 任意保険基準 | 約37.8万円 | 各保険会社が独自に定める基準。自賠責よりは高い。 |
| 弁護士基準 | 約53万円 | 過去の裁判例に基づいた基準。最も高額。 |
このように、弁護士が介入して裁判所基準(弁護士基準)を適用するだけで、補償額は大幅に引き上げられます。
もらい事故では被害者に過失がないため、算定された金額から差し引かれる「過失相殺」がなく、基準の差がそのまま受取額の差に直結します。
後遺障害慰謝料
治療を尽くしても身体に症状が残った際、正式な「後遺障害等級」に認定されると支払われる慰謝料です。
等級は1級から14級まであり、認定されるかどうかで数百万単位の差が出ます。
| 等級(例) | 自賠責基準 | 弁護士基準 | 増額の差 |
| 14級(むち打ち等) | 32万円 | 110万円 | +78万円 |
| 12級(頑固な神経症状) | 94万円 | 290万円 | +196万円 |
後遺障害の認定を受けるには、医師による診断書の内容や、事故直後からの通院実績が厳密に審査されます。
加害者側の保険会社は認定を低く見積もる傾向があるため、適切な証拠を揃えて主張することが必要です。
死亡慰謝料
不幸にも事故で亡くなられた場合に、被害者本人および遺族の精神的苦痛を補償するものです。亡くなった方の家庭内での役割によって相場が変動します。
| 被害者の立場 | 自賠責基準(遺族3人の場合) | 弁護士基準 |
| 一家の支柱 | 1,350万円 | 2,800万円前後 |
| 母親・配偶者 | 1,350万円 | 2,500万円前後 |
| その他(独身・子供等) | 1,350万円 | 2,000万〜2,500万円 |
自賠責基準は遺族の人数などで一律に決まりますが、弁護士基準は個別の事情を考慮し、より高額な設定となっています。
葬儀費用や逸失利益と併せると、総額で数千万単位の差が生じるため、専門家による精査が重要です。
もらい事故で慰謝料を請求する手順

もらい事故では被害者が自ら主導して手続きを進める必要があります。本項では、後から「知らなかった」では済まされない重要なステップを解説します。
事故発生後、警察へ連絡し事故証明を取得する
事故が起きたら、まずは直ちに110番通報して警察を呼びましょう。警察の立ち会いがないと、後の賠償請求に必須となる「交通事故証明書」が発行されません。
加害者から「警察を入れずに示談したい」と持ちかけられても、絶対に応じてはいけません。
現場での実況見分によって「過失割合0」の根拠(停車中だった事実など)を公的に記録してもらうことが、後の紛争を防ぐ手段となります。
保険会社へ連絡し、もらい事故であることを報告する
自分の加入している任意保険会社に連絡を入れます。示談交渉の代行は断られますが、ここで重要なのは「弁護士費用特約」の有無を確認することです。
この特約があれば、弁護士への相談料や成功報酬を保険会社が上限(一般的に300万円)まで負担してくれます。
もらい事故の被害者は、この特約を使うことで自己負担なく「交渉のプロ」を雇い、加害者側の保険会社と対等以上に渡り合えるようになります。
通院・治療を行い、診断書や治療記録を残す
怪我をしている場合は、速やかに整形外科などの医療機関を受診してください。痛みがあるうちは自己判断で通院を中断せず、週2〜3回程度は継続しましょう。
通院間隔が空きすぎると、保険会社から「もう完治した」とみなされ、治療費の打ち切りや慰謝料の減額を宣告されるリスクが高まります。
初診時から医師に対し、痛みやしびれなどの自覚症状を漏れなく伝え、カルテに記録してもらうことが、後の後遺障害認定の強力な証拠となるでしょう。
通院頻度は、慰謝料額に直接の影響を及ぼすことが少なくありません。同種の一般的なお怪我と比較して通院頻度が低い場合、お怪我の程度が軽く精神的苦痛も小さい=慰謝料額が低いと評価される可能性があります。また、自己判断で通院を中断等してしまうと、通院が必要なくなったと理解され、その分慰謝料額が低くなる原因にもなり得ます。
慰謝料額を算定し、示談交渉・請求を行う
治療が終了または「症状固定」となった段階で、加害者側の保険会社から示談案(賠償額の提示)が届きます。
保険会社の提示は「任意保険基準」という低めの設定であることが多いため、すぐに署名してはいけません。
弁護士を通じて「裁判所基準(弁護士基準)」での再計算を求めます。
もらい事故では被害者に過失がないため、交渉が難航しても最終的には裁判所基準に近い金額まで増額できる可能性が極めて高いのが特徴です。
もらい事故で慰謝料請求をする際の注意点3選

加害者に100%の責任があるからといって、安心はできません。むしろ「過失0」だからこそ、被害者が一人で抱え込むリスクに注意が必要です。
自分の保険会社が示談交渉を代行できない
これがもらい事故における落とし穴です。過失がない以上、あなたの保険会社は相手に支払うお金がないため、法的に「交渉の当事者」になれません。
そのため、あなたは一人で、事故対応のプロである加害者側の保険担当者と電話や書類でやり取りしなければなりません。
この不平等な状況を解消するには、あなたの代理人として交渉できる弁護士の存在が必要なのです。
加害者側の保険会社が必要な知識や情報を教えてくれるわけではないので、自分で必要な知識を得るか、交通事故に精通した弁護士に代わって示談交渉をしてもらうことが有力な選択肢になります。自分で交渉を試みる場合は、金額計算の方法や根拠は正しく理解されておくことを強くお勧めします。
加害者の保険会社の提示額を鵜呑みにしない
保険会社は「これが最大限の提示です」という言葉を使いますが、それはあくまで「自社規定の上限」に過ぎません。
裁判を行えばさらに高額な「弁護士基準」が認められることを彼らは知っていますが、あえてそれを教えることはありません。
一度示談書にサインをしてしまうと、後から内容を覆すことは法的に極めて困難であるため、署名前に必ず専門家のチェックを受けてください。
物損事故として処理されないよう注意する
事故直後は痛みがないからと「物件事故(物損事故)」として処理していると、自賠責保険から慰謝料が支払われません。
数日後に痛みが出た場合は、すぐに病院で診断書をもらい、所轄の警察署へ提出して「人身事故」へ切り替えてください。
物件事故のままだと、保険会社から「軽い事故だった」とみなされ、通院費や慰謝料の支払いを拒否される強力な口実を与えてしまいます。
まとめ:もらい事故の慰謝料請求は弁護士へご相談を
もらい事故は、あなたが一切悪くないにもかかわらず、交渉の場では「孤立」という不利な立場に立たされる不条理な事故です。
自分側の保険会社が動けない中、相手方のプロと渡り合うのは、心身ともに疲弊している被害者にとって過酷な作業です。
弁護士に依頼することで、以下の大きなメリットが得られます。
- 交渉の窓口を弁護士に集約し、保険会社との煩わしい連絡から解放される。
- 裁判所基準(弁護士基準)を適用し、慰謝料を本来あるべき正当な金額まで増額できる。
- 弁護士費用特約があれば、実質的な自己負担なしでプロを味方にできる。
あなたが受けた不条理な損害に対し、正当な補償を受けるのは当然の権利です。
不慣れな交渉で損をすることのないよう、まずは交通事故に精通した弁護士へ相談し、納得のいく解決を目指してください。










