無保険の相手にぶつけられたら?被害者が「泣き寝入りしない」ための全手順を徹底解説

交通事故の無保険の相手にぶつけられてしまうと、賠償金が本当に回収できるのか、加害者本人との交渉は精神的に耐えられるのかなど、さまざまな不安に直面します。

適切な対応を誤れば、解決までの負担が大きくなる可能性もあります。こうした事態を避けるためには、交通事故の賠償金回収に精通した弁護士へ早期に相談することが重要です。

本記事では、無保険車との事故で被害者が直面するリスク、賠償金回収を確実にするための法的手段、そして弁護士に依頼するメリットについて弁護士が分かりやすく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

目次

無保険の相手にぶつけられた被害者が直面する3つのリスク

無保険の相手との事故は、通常の事故とは異なり、被害者側が大きなリスクを背負うことになります。

ここからは、無保険の相手にぶつけられた被害者が直面する3つのリスクについて詳しく解説します。

加害者本人との交渉は困難で精神的な負担が大きい

無保険の相手は、当然ながら保険会社の担当者が間に入ってくれません。

そのため、治療費や休業損害、慰謝料などの請求について、被害者自身が加害者本人と直接交渉する必要があります。

これは被害者にとって大きな精神的負担です。なぜなら、加害者本人は賠償に関する知識が乏しいことが多く、交渉が非建設的になりがちだからです。

たとえば、「そんな高額な慰謝料は払えない」「治療はもう終わりにしてほしい」などと、感情的になったり、自身の経済状況を盾にして低額での示談を迫ってきたりするケースが頻繁に発生します。

被害者が適正な慰謝料を提示しても、「インターネットで調べたが、その額は高すぎる。生活が破綻する」などと拒否され、数ヶ月にわたって交渉が停滞することがあります。

被害者は体調が万全でないにもかかわらず、毎日のように加害者からの連絡に対応しなければならず、精神的に追い詰められてしまうのです。

賠償金が「支払い能力の壁」で回収できないリスク

適正な賠償額が法的に確定したとしても、加害者に支払い能力(資力)がなければ、その賠償金を実際に回収することは難しくなります。

これが、無保険事故における大きな「支払い能力の壁」リスクです。

自動車の任意保険に加入していない方は、経済的に余裕がない場合が多い傾向にあります。

数百万単位になることもある人身事故の賠償金を、一括で支払える資力を持っているケースは稀です。

交渉段階で「分割払いにしてほしい」と要求されることもありますが、分割払いが滞るリスクも無視できません。

さらに、そもそも加害者に目ぼしい財産がない場合は、強制執行(国が加害者の財産を差し押さえて賠償金に充てる手続き)を行っても、残念ながら十分な回収に至らない可能性もあります。

物損(車の修理費など)は自賠責保険で補償されない

人身事故の被害にあった場合でも、車の修理費や代車費用といった物損に関する損害は、自賠責保険では一切補償されません。

自賠責保険は、被害者の救済を目的とした「対人賠償」のみをカバーする最低限の保険だからです。

そのため、物損に関する損害については、全額を加害者本人に請求するしか方法がありません。

しかし、先述の通り、加害者に資力がない場合、高額な修理費用は回収が難しくなります。

たとえば、車両の修理費が100万円かかったとしても、自賠責保険からは一円も支払われません。

この100万円は、加害者本人に一括で支払ってもらうか、ご自身の車両保険を使って修理する(この場合、翌年の保険料が上がったり免責金額を負担したりするデメリットがあります)しかないのです。

無保険の相手から適正な賠償金を回収するための方法

無保険の相手から適正な賠償金を回収するためには、加害者本人との交渉に頼るのではなく、公的な制度を積極的に活用することが重要です。

ここからは、無保険の相手から適正な賠償金を回収するための方法を解説します。

自賠責保険への「被害者請求」で最低限の補償を得る

無保険車であっても、日本の公道を走る全ての車は自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)への加入が義務付けられています。

この自賠責保険は、加害者請求だけでなく、被害者が直接保険会社に請求できる「被害者請求」という制度があります。

被害者請求の大きなメリットは、加害者の意向や資力に関係なく、被害者が直接、治療費や慰謝料などの人身損害に関する最低限の補償を確実に受け取れる点です。

自賠責保険には以下のとおり限度額があります。

  • 傷害による損害:最大120万円
  • 後遺障害による損害:最大4,000万円(等級による)
  • 死亡による損害:最大3,000万円

これらの金額は、あくまで最低限の補償です。損害額がこの上限を超過した場合や、物損については、次に解説する「加害者本人への請求」が必要になります。

被害者請求では、支払われる金額が明確に定められており、特に上限額に注意することが重要です。傷害部分(後遺障害以外の部分)は合計で120万円が限度となっており、単純計算で120万円を超える場合であっても、120万円までしか支払が得られない点に注意しましょう。

加害者本人へ不足分の損害賠償請求を行う

自賠責保険の上限額(傷害で120万円など)を超過した損害、あるいは自賠責保険の対象外である物損については、加害者本人に対して直接、損害賠償請求を行う必要があります。

しかし、この段階で加害者が任意の支払いに応じない場合は、話し合いではなく、裁判や調停といった法的な手続きに進むことになります。

【弁護士による法的手続きの進め方】

  • 内容証明郵便の送付: 賠償金の支払いを改めて書面で請求し、支払期限を設定します。
  • 訴訟の提起: 裁判所に訴訟を提起し、裁判官に適正な賠償額を判断してもらいます。
  • 強制執行の準備: 判決で賠償額が確定(債務名義を取得)した後、なお加害者が支払わない場合は、加害者の給与や預貯金などの財産を差し押さえる強制執行を申し立てます。


弁護士は、これらの手続きを一貫して行うことで、加害者の資力を調査し、法的な圧力をかけながら賠償金の回収を目指します。

訴訟には時間と労力がかかりますが、無保険の相手から満額回収を追求するためには避けて通れないプロセスです。

加害者本人への請求は、加害者側の対応によって必要な動きが変わってきやすい点に注意が必要です。加害者が誠実に支払を行うのであれば協議で解決できますが、そうでない場合には訴訟等の法的手続を検討すべき場合も考えられます。

政府の自動車損害賠償保障事業の活用

加害者が自賠責保険にも加入していなかった(無保険かつ無登録)場合や、ひき逃げなどで加害者が特定できないケースでは、政府の自動車損害賠償保障事業を利用できます。

自動車損害賠償保障事業は、自賠責保険の目的である「被害者の救済」をより徹底するための公的制度です。

自賠責保険と同様の基準・限度額(傷害120万円など)で、治療費や休業損害、慰謝料などの人身損害について国から支払いを受けることができます。

保障事業はあくまで「最終手段」であり、他の手段(ご自身の任意保険の無保険車傷害特約など)で補償を受けられる場合は、そちらが優先されます。

また、支払われる損害額は自賠責基準(法定基準)に基づいているため、示談交渉で用いられる「弁護士基準」に比べると低額になる可能性があります。

そのため、まずは自賠責への被害者請求を検討し、それが不可能な場合に保障事業を利用するという順序で検討するのが適切です。

政府保障事業は、他の手続より必要書類が多く、支払われるまでの期間も長くなりやすい点に特徴があります。回収を急いでいる場合にはあまり適さないかもしれません。

弁護士に依頼することで回収を確実にし、負担を軽減できる理由

弁護士に依頼することは、単なる交渉の代行ではなく、賠償金回収の確実性を高め、最終的な手取り額を増額させ、精神的な負担をゼロにするために必要な投資です。

ここからは、弁護士に依頼することで回収できる理由を解説します。

賠償金を最大化する「弁護士基準」で回収額を増額できる

弁護士に依頼することで、賠償金を最大化する弁護士基準での請求が可能になります。 理由: 弁護士基準は、裁判になった場合に裁判所が認める基準であり、弁護士が介入しないと原則として適用されません。

むちうちで半年間通院した場合の入通院慰謝料は、自賠責基準で約64万円程度ですが、弁護士基準を用いると約90万円〜100万円程度まで増額できる可能性があります(事案による)

この増額分だけで弁護士費用を上回るケースも少なくありません。 賠償金回収の専門家である弁護士に任せることで、費用を払っても手元に残る金額が増える可能性が生まれます。

加害者の資力調査・強制執行まで含めた回収手続きを代行できる

無保険事故の難しい点は、単なる交渉ではなく、「いかに確実にお金を受け取るか」という回収の技術が必要になることです。

弁護士は、この回収プロセス全てを専門家として代行できます。

【回収手続きの代行内容】

  • 資力調査: 加害者の財産状況(預貯金、不動産、勤務先など)を法的に可能な範囲で調査し、強制執行の対象となる財産を特定します。
  • 法的手続き: 加害者が支払いを拒否した場合、裁判所に訴訟を提起し、債務名義(判決書など)を取得します。
  • 強制執行の実行: 債務名義に基づき、給与や預金口座などの差し押さえ手続き(強制執行)を申し立て、確実に賠償金を回収します。

被害者個人が裁判や強制執行の手続きを全て行うことは非常に困難ですが、弁護士は法律のプロとして、これらの手続きを正確かつ迅速に進められます。

加害者の「払えない」という主張に屈せず、回収の最終段階まで責任を持って対応できることが、弁護士に依頼する大きな価値です。

無保険車と事故にあったらすぐに弁護士へ相談を

交通事故の賠償問題には時効があります。人身事故の損害賠償請求権は原則として事故日から5年、自賠責保険への請求権は3年で時効が成立します(ただし、それぞれ起算点や運用に例外があります)。

交渉が長引くと時効が成立するリスクも生じます。

「相手が無保険だからどうせ払えない」と諦めてしまう前に、まずは交通事故・賠償金回収に強い弁護士に相談してください。

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