横領罪の成立要件や刑罰内容|会社としての対処法や予防策まで弁護士が解説

従業員が会社のお金を私的に使用していたことが発覚した場合、横領罪が成立する可能性があります。

しかし、横領罪が成立するためにはいくつかの重要な要件があり、単にお金を使っただけでは罪には問われません。

本記事では、横領罪の成立要件や刑罰内容をご紹介し、会社としての対処法まで解説します。

藤垣法律事務所は、500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が最良の解決をご案内することができます。

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目次

横領罪とは?成立要件を知る前に理解しておきたい知識

横領罪の成立要件を知る前に、以下のことを意識しておく必要があります。

  • 横領の定義
  • 着服と横領の違い
  • 横領罪の時効

詳しく解説します。

横領の定義

横領罪は、他人の財物を不正に自分のものとして使うことです。

特に定義付けがされていませんが、一般的に信頼を受けて他人の財物を管理している者が、その権限を越えて自分の利益のためにその財物を使用した場合に成立します。

例えば、会社の従業員が業務上の信頼に基づき会社のお金を管理していたにも関わらず、そのお金を私的に使ってしまった場合、これが横領とみなされることになります。

横領罪の成立には、ず財物が他人のものであることが前提です。

着服と横領の違い

「着服」と「横領」は、どちらも他人の財物を不正に使う行為として一般的に理解されていますが、法律的には明確な違いがあります。

まず、着服は、主に「金銭や物品を預かっていた者が、その預かったものを自己の利益のために使う」行為です。

例えば、会社の経理担当者が業務で扱うために預かっていた現金を私的に使った場合、これが着服に該当します。

着服は、その名の通り、預かっているものを「自分のものとして使ってしまう」ことがポイントです。

一方、横領は、他人の財物を不正に自分のものとして使う行為であり、単に「預かっていた」だけでなく、元々その財物を管理している立場にあることが求められます。

横領は、金銭や物品を管理する者がその権限を越えて、または権限がないにも関わらず、不正にその財物を自分のものとして使った場合に適用されます。

横領罪の時効

横領罪の時効については、一般的に横領罪が成立した時点から数え始め、その時効期間は犯行の重大さによって異なります。

主な時効の年数は、以下の通りです。

  • 単純横領罪:公訴時効は5年
  • 業務上横領罪:公訴時効は7年
  • 遺失物等横領罪:公訴時効は3年

また、横領の時効については、時効期間が経過するとその時点で完全に責任を免れることになるため、被害者がその後も被害回復を求めることができなくなります。したがって、横領が疑われる場合、早期に法的対応を検討することが重要です。

横領罪の種類と成立要件

横領罪と言っても種類が3つあり、それぞれで成立要件が異なります。

  • 単純横領罪
  • 業務上横領罪
  • 遺失物等横領罪

詳しく解説します。

単純横領罪

単純横領罪は、最も一般的な形態の横領罪です。刑法252条の内容がこれに該当します。

刑法

自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
引用:e-Gov法令検索「刑法」

具体的には、財物を預かっていた者がその財物を横領することによって成立します。

この罪は、例えば従業員が会社の金銭を不正に使ったり、預かり物を返さなかったりする場合に該当します。

単純横領罪の成立要件としては、まず「他人の財物を預かる立場にあること」が前提です。

つまり、被害者から預かっている、または管理を任されている財物を不正に取り扱うことが求められます。

次に、預かった財物を「自己のものとして処分する意思」が必要です。

これには、財物を使い込む、売却する、または他者に譲渡するなど、いずれの方法でも構いませんが、正当な理由なくその財物を支配する意図が必要です。

業務上横領罪

業務上横領罪は、単純横領罪と類似していますが、特に職務に関連する状況において発生する横領行為です。

つまり、業務において預かった他人の財物を、職務上の立場を悪用して不正に取得または処分する行為を指します。

刑法第253条の内容がこれに該当します。

刑法

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
引用:e-Gov法令検索「刑法」

具体的には、企業の社員や管理職、または公務員などが自分の業務として預かっていた財物を不正に利用した場合に成立します。

例えば、会計担当者が会社の資金を扱う場合や、商店の店員が売上金を管理する場合など、業務上、他人の財物を取り扱う立場にあることが必要です。

次に、その財物を「自己のものとして不正に使用または処分する意思」が必要です。

これは、業務上預かった財物を自己の利益のために利用したり、盗んだりする行為を意味します。

遺失物等横領罪

遺失物等横領罪は、他人が落としたり忘れたりした物品を故意に持ち去り、自己のものとして使用または処分する行為です。

これは、所有者が明確に不在の物品や、見つけた物品を意図的に他人のものとせずに保持し、不法に処分することを意味します。

刑法第254条の内容がこれに該当します。

刑法

遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
引用:e-Gov法令検索「刑法」

重要なのは、財物が「落とされたもの」や「他人が忘れてしまったもの」である点です。

物品が紛失されていた場合や他人が所有していた物が放置されていた場合、その物が「他人の財物である」という認識が必要です。

次に、その物を「自己の物として不法に使用または処分する意思」があることが求められます。

つまり、物品が遺失されていたことを認識し、その財物を所有者の許可なく自己のものとする意思がなければ、この罪は成立しません。

横領が発覚した際の会社としての対処法

横領が発覚した際、会社としてするべきことは、主に以下の通りです。

  • 資金の流れを確認する
  • 横領に関わった人から事情聴取を行う
  • 警察に被害届を提出する
  • 弁護士へ相談する

詳しく解説します。

資金の流れを確認する

横領が発覚した際、会社として最初に行うべき重要な対処法の1つは、資金の流れを徹底的に確認することです。

横領行為は、往々にして不正な金銭の移動を伴うため、どのようにして資金が流れたのかを詳細に追跡することが必要です。

具体的には、会計帳簿や取引記録、振込明細書などを一つひとつ調査し、不審な取引や資金の不明瞭な移動を洗い出す必要があります。

また、横領の証拠を確保するために、関連する電子メールや内部通信、社内システムのアクセス履歴も確認することが重要です。

これにより、加害者の動機や手口、または同様の事例が過去にもあったかどうかが明らかになることもあります。

どこに入ったお金がどこに行っているのか、流れを追えなくなったのはどこか、といった点を把握することが重要です。流れが追えなくなった段階でそのお金に手を出せたであろう候補者をできるだけ絞り、候補者の具体的な動きを確認することが有力でしょう。


横領に関わった人から事情聴取を行う

横領が発覚した際、横領に関わった疑いのある従業員から事情聴取を行うことが必要です。

まず、事情聴取を行う際には、十分な証拠を収集した上で実施することが重要です。

証拠が不十分な状態で聴取を行うと、逆に誤解を招いたり、法的に不適切な手続きと見なされたりする可能性があるため、慎重な対応が求められます。

そのため、事前に監査部門や法務部門の協力を得て、適切な証拠を整えることが必要です。

聴取の際には、加害者とされる従業員に対して非難的な態度を取らず、あくまで事実確認のために冷静かつ公正に行うことが求められます。

客観的な証拠をできるだけ事前に集めておく必要があります。その上で聴取すべき事項を明確にして行うことが適切です。証拠と整合しない発言があるかどうか、チェックすることが容易になります。また、複数人が関わっている場合には口裏合わせを防ぐため情報漏洩を回避する工夫もしたいところです。

警察に被害届を提出する

横領が発覚した際、警察に被害届を提出することも視野にいれておきましょう。

この手続きは、横領事件が犯罪であることを正式に認識し、法的措置を講じるための第一歩です。

警察への被害届提出は、企業の責任を果たすことにもつながり、また被害額の回収や加害者の刑事責任を追及するための重要な手段となります。

まず、被害届を提出する前に、横領の事実を十分に確認し、証拠を収集することが不可欠です。

証拠には、会計データや取引履歴、監視カメラの映像、関係者の証言などが含まれます。

これらの証拠がなければ、警察への届け出が十分に説得力を持たず、捜査が進まない可能性もあるため、慎重に準備を進める必要があります。

特に会社の経理部門や監査担当者、法務部門と連携し、事実確認と証拠集めを徹底することが重要です。

少なくとも法的な不利益はありませんが、事件が知られた場合の風評被害は生じる可能性も否定できません。重要な取引先等には事前に丁寧な説明を尽くすことも一つの予防策でしょう。

弁護士へ相談する

横領は刑事事件であり、法的に複雑な問題が絡むため、適切な法的助言を得ることが欠かせません。

弁護士に相談することで、企業は法的リスクを最小限に抑えつつ、事件に対する適切な対応を取ることが可能です。

まず、弁護士に相談することで、会社としての法的義務や対応策を明確にできます。

例えば、横領事件が発生した場合、被害届の提出や警察とのやり取り、さらには社員や関係者への対応方法について、専門的なアドバイスを受けられます。

弁護士は、企業が犯人の刑事責任を追及する手続きを進める上で、最適な方法を提案してくれるでしょう。

また、横領の被害額や事件の規模に応じて、民事訴訟を起こす可能性についても助言を行います。

弁護士に相談することで、考えられる対応策やそれぞれのメリットデメリットを明確にし、対応方針に関する具体的な判断材料を獲得することが可能です。また、具体的な対応を弁護士に依頼する方が望ましい場合にはそのまま弁護士に進めてもらうこともできるでしょう。

横領を事前に防ぐ方法

会社として横領を事前に防ぐ方法は、主に以下の通りです。

  • 出金履歴を逐一確認する
  • 会社資金の出金を複数承認制にする
  • 小口現金の帳簿と実額との照合を行う
  • 定期的に内部監査を実施する

詳しく解説します。

出金履歴を逐一確認する

企業の資金管理において、出金履歴は基本的かつ重要な情報源であり、その内容を定期的にチェックすることで、不正行為の兆候を早期に発見できます。

特に従業員が会社の資金を扱う場合、その使途が不明瞭な支出や不規則な取引がないかを慎重に確認する必要があります。

出金履歴の確認は、経理部門だけでなく、上層部や経営陣が関与することで、横領の予防につながるでしょう。

経理担当者が独自に決済権を持つ場合もありますが、その行動が監視されていないと不正が発生しやすくなります。

定期的に出金履歴をチェックし、不明瞭な取引や不審な動きがないかを監視することで、早期に問題を発見できる可能性が高くなるのです。

会社資金の出金を複数承認制にする

横領を事前に防ぐためには、会社資金の出金を複数承認制にするのがおすすめです。

この仕組みを導入することで、従業員が独断で不正な支出を行うことを防ぎ、資金の管理体制を強化できます。

複数承認制とは、出金や取引が行われる際に、一人の担当者だけでなく、複数の上司や関係者の承認を必要とするシステムです。

この方法を採用することで、出金に対するチェックが二重、三重となり、不正行為を事前に発見しやすくなります。

例えば、経理担当者が支払いを行おうとした場合、その金額や理由を別の部門の上司や経営陣が確認することで、透明性が保たれ、不正行為が隠蔽されるリスクを減らせます。

これにより、従業員が不正な目的で資金を流用することを抑制する効果が期待できるでしょう。

小口現金の帳簿と実額との照合を行う

小口現金は通常、現金の取り扱いが簡単で管理が緩くなりがちです。

例えば、日々の業務で現金が使われ、その都度帳簿に記入されますが、実際に手元にある現金が帳簿と一致しない場合、何らかの不正行為が行われている可能性があります。

そのため、帳簿と実際の現金残高を照合することによって、すぐに誤差や不正を把握でき、早期の対応が可能となります。

照合を行うタイミングとしては、定期的な月次や四半期ごとの確認が一般的ですが、予期せぬ不正を早期に発見するためには、予告なしに突発的に実施することも効果的です。

現金の使用に関して誰かが不正に手を加えた場合、通常は帳簿と実際の現金額に不一致が生じるため、この照合作業が重要になります。

定期的に内部監査を実施する

内部監査の主な目的は、企業内の不正行為や規則違反を早期に発見し、適切な対策を講じることです。

横領のリスクが高い部門や資金の流れが多い部署を重点的に監査することで、不正行為が行われていないかを確認できます。

例えば、財務部門や経理部門など、現金や資金を取り扱う部門に対して定期的な監査を行うことで、内部の不正を早期に発見できる可能性が高まります。

監査を行う際は、単に帳簿を確認するだけでなく、実際の取引や経費の使い道、証憑(証拠となる書類)の確認、さらには不審な取引がないかを精査する必要があります。

これにより、横領行為が行われていた場合でも、その兆候を早期に見つけ出し、適切な対応をすることが可能です。

従業員の横領が発覚した場合は弁護士への相談も検討しよう

従業員の横領が発覚した場合、会社は資金の流れを確認したり疑いのある人から事情聴取したりなどの対応が必要です。

横領が起きてしまうと、会社としての信用問題にも大きく関わってくるため、まずは弁護士に相談し、適切な対処を行いましょう。

藤垣法律事務所は、500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が最良の解決をご案内することができます。

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